IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭化成株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-蓄電デバイス用セパレータ 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-05
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用セパレータ
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/446 20210101AFI20230928BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20230928BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20230928BHJP
   H01M 50/491 20210101ALI20230928BHJP
   H01M 50/494 20210101ALI20230928BHJP
   H01M 50/451 20210101ALI20230928BHJP
   H01M 50/457 20210101ALI20230928BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20230928BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20230928BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20230928BHJP
【FI】
H01M50/446
H01M50/417
H01M50/489
H01M50/491
H01M50/494
H01M50/451
H01M50/457
H01M50/443 M
H01M50/434
H01G11/52
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022526920
(86)(22)【出願日】2021-05-18
(86)【国際出願番号】 JP2021018845
(87)【国際公開番号】W WO2021241335
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2020093528
(32)【優先日】2020-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100191444
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 尚久
(72)【発明者】
【氏名】内田 一徳
(72)【発明者】
【氏名】森 奨平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敏大
(72)【発明者】
【氏名】村上 将人
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 三都子
(72)【発明者】
【氏名】浜崎 真也
(72)【発明者】
【氏名】下山田 倫子
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-093128(JP,A)
【文献】特開2016-128532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/446
H01M 50/417
H01M 50/489
H01M 50/491
H01M 50/494
H01M 50/451
H01M 50/457
H01M 50/443
H01M 50/434
H01G 11/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粒子とポリオレフィン樹脂とを含む無機含有層を有する蓄電デバイス用セパレータであって、前記無機含有層の断面において、
前記無機粒子が占める面積の割合bが9%以上35%以下であり、かつ
空孔が占める面積の割合が20%以上60%以下であり、
前記蓄電デバイス用セパレータの150℃のTD方向熱収縮率aが4%以下であり、
MD方向の引張強度とTD方向の引張強度の比が1.5以上である、
蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項2】
前記無機粒子が占める面積の割合bが12%以上35%以下である、請求項1に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項3】
前記無機粒子が占める面積の割合bに対する前記TD方向熱収縮率aの割合(a/b)が、-10%以上10%以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項4】
前記無機含有層が、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、前記無機粒子を100質量部以上含む、請求項1~のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項5】
前記ポリオレフィン樹脂のMFRが0.2以上15以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項6】
前記無機粒子の粒子径が60nm以上2000nm以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項7】
前記無機含有層の厚みが1μm以上30μm以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項8】
前記無機含有層の平均孔径が10nm以上2000nm以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項9】
前記無機含有層の片面又は両面上に、ポリプロピレン樹脂を主成分とする微多孔層の外層を更に有する、請求項1~のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項10】
前記無機含有層の厚みが、前記蓄電デバイス用セパレータ全体の厚みの15%以上90%以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項11】
前記蓄電デバイス用セパレータ全体の厚みが5μm以上30μm以下である、請求項1~10のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項12】
前記蓄電デバイス用セパレータの厚み14μm当たりの突刺強度が100gf以上である、請求項1~11のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、蓄電デバイス用セパレータ等に関する。
【背景技術】
【0002】
微多孔膜、特にポリオレフィン系微多孔膜は、精密濾過膜、電池用セパレータ、コンデンサー用セパレータ、燃料電池用材料等の多くの技術分野で使用されており、特にリチウムイオン電池に代表される2次電池用セパレータとして使用されている。リチウムイオン電池は、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ等の小型電子機器用途のほか、ハイブリッド自動車、及びプラグインハイブリッド自動車を含む電気自動車等、様々な用途への応用が研究されている。
【0003】
近年、高エネルギー容量、高エネルギー密度、かつ高い出力特性を有するリチウムイオン電池が求められ、それに伴い、高強度(例えば、高突刺強度)、高い透過性(低い透気度)、及び高耐熱性を兼ね備えたセパレータへの需要が高まっている。
【0004】
特許文献1は、粘度平均分子量が60万以上のポリオレフィンと無機フィラーの混合体から製造された微多孔性ポリオレフィンフィルムを記載している(請求項11、実施例等)。しかしながら、当該微多孔性ポリオレフィンフィルムは、高強度、高い透過性、及び高い耐熱性を兼ね備えたセパレータには至っていない。上記3つの物性の内、特に耐熱性について十分な物性を有しているとは言えないからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2019/107119号
【非特許文献】
【0006】
【文献】PS.Liao, TS.Chen, 及びPC. Chung等, “A Fast Algorithm for Multilevel Thresholding”, Journal of Information Science and Engineering、vol.17, 2001年, pp.713-727
【文献】Michael Doube, Michal M Klosowski, Ignacio Arganda-Carreras, Fabrice P Cordelieres, Robert P Dougherty, Jonathan S Jackson, Benjamin Schmid, John R Hutchinson, and Sandra J Shefelbinea “BoneJ: Free and extensible bone image analysis in ImageJ”, Bone Volume 47, Issue 6, 2010年12月, pp.1076-1079
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明は、蓄電デバイスの用途に求められる高い透過性と、高温での電池安全性との両立を同時に達成することができる、蓄電デバイス用セパレータを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の実施形態の例を以下の項目[1]~[13]に列記する。
[1]
無機粒子とポリオレフィン樹脂とを含む無機含有層を有する蓄電デバイス用セパレータであって、上記無機含有層の断面において、
上記無機粒子が占める面積の割合bが9%以上35%以下であり、かつ
空孔が占める面積の割合が20%以上60%以下であり、
上記蓄電デバイス用セパレータの150℃のTD方向熱収縮率aが4%以下である、
蓄電デバイス用セパレータ。
[2]
上記無機粒子が占める面積の割合bが12%以上35%以下である、項目1に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[3]
上記無機粒子が占める面積の割合bに対する上記TD方向熱収縮率aの割合(a/b)が-10%以上10%以下である、項目1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[4]
MD方向の引張強度とTD方向の引張強度の比が1.5以上である、項目1~3のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[5]
上記無機含有層が、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、上記無機粒子を100質量部以上含む、項目1~4のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[6]
上記ポリオレフィン樹脂のMFRが0.2以上15以下である、項目1~5のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[7]
上記無機粒子の粒子径が60nm以上2000nm以下である、項目1~6のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[8]
上記無機含有層の厚みが1μm以上30μm以下である、項目1~7のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[9]
上記無機含有層の平均孔径が10nm以上2000nm以下である、項目1~8のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[10]
上記無機含有層の片面又は両面上に、ポリプロピレン樹脂を主成分とする微多孔層の外層を更に有する、項目1~9のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[11]
上記無機含有層の厚みが、上記蓄電デバイス用セパレータ全体の厚みの15%以上90%以下である、項目1~10のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[12]
上記蓄電デバイス用セパレータ全体の厚みが5μm以上30μm以下である、項目1~11のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[13]
上記蓄電デバイス用セパレータの厚み14μm当たりの突刺強度が100gf以上である、項目1~12のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、高い透過性と、高温での電池安全性とを兼ね備えた蓄電デバイス用セパレータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、画像処理領域の輝度ヒストグラム(横軸:輝度、縦軸:頻度)の例である。
【0011】
《蓄電デバイス用セパレータ》
一般に、微多孔膜を構成するポリオレフィンとして、分子量の高いポリオレフィンを使用することで、高強度の微多孔膜を提供できることが知られている。しかしながら、高分子量のポリオレフィンを用いると、溶融時の粘度が高くなるため、薄膜化が困難である。薄膜で高分子量のポリオレフィンを用いる方法として、ポリオレフィンを溶媒に溶かして微多孔膜を提供する、湿式法が知られている。湿式法では溶媒を用いるので、無機粒子の分散が容易であり、ポリオレフィンに対して無機粒子を高い割合で含む微多孔膜を容易に提供できる。しかしながら、湿式法を用いた微多孔膜は、抽出工程及び二軸延伸工程を経るため熱収縮量が高くなりやすく、TD方向の高寸法精度化が困難である。また、相分離により得られる孔に連通性を付与するためには高い延伸倍率が必要であり、空孔割合が大きくなる。その結果、相対的に無機粒子の割合が小さくなるため、高耐熱化が困難である。
【0012】
一方、ポリオレフィンを溶媒に溶かさずに微多孔膜を提供する方法として、フィラー開孔法が知られている。フィラー開孔法では、無機粒子を開孔起点とするため、無機粒子の含有量を多くすると空孔量が大きくなる。その結果、相対的に微多孔膜に占める無機粒子の割合が少なくなり、高耐熱化が困難である。また、フィラー開孔法は、フィラー開孔起点が独立孔として形成されやすいため、高い透過性を得る観点で連通孔を形成するためには、二軸方向に延伸する必要がある。二軸方向に延伸すると空孔量が大きくなり、相対的に微多孔膜に占める無機粒子割合が少なくなるため、高耐熱化が困難である。
【0013】
したがって、従来、湿式法、及び乾式法のフィラー開孔法のいずれの方法を用いても空孔量が増大することに起因して高耐熱化が困難であった。
【0014】
ポリオレフィンを溶媒に溶かさずに微多孔膜を提供する別の方法として、ラメラ開孔法が知られている。ラメラ開孔法では、無機粒子の含有量を多くするには、湿式のような溶媒成分がないために、樹脂温度を高くすることが必要である。しかしながら、樹脂温度を高くすると、ラメラ晶形成に必要な高配向化条件での成膜が困難となり、ラメラ晶が十分形成されず、開孔不良を起こして高透過性の膜が得られない傾向にある。したがって、従来、ラメラ開孔法においても、高透過性を維持しながら無機粒子の含有量を多くすることができず、高耐熱化が困難であった。
【0015】
これに対して、本開示の蓄電デバイス用セパレータは、無機粒子とポリオレフィン樹脂とを含む無機含有層を有する蓄電デバイス用セパレータであって、無機含有層の断面において、無機粒子の面積割合が9%以上35%以下であり、空孔の面積割合が20%以上60%以下である。そして、蓄電デバイス用セパレータのTD方向の熱収縮率(TD熱収縮率)が4%以下である。これらの特徴によって、蓄電デバイスの用途に求められる高い透過性と、高温での電池安全性との両立を同時に達成することができる。高温での電池安全性としては、例えば、高温でのセパレータ面積維持、絶縁膜の形成、及び短絡抑制が挙げられる。以下、各特徴について詳細に説明する。
【0016】
〈無機含有層〉
本開示の蓄電デバイス用セパレータは、無機粒子とポリオレフィンとを含む無機含有層を有する、蓄電デバイス用セパレータである。本開示において、無機含有層は、複数の空孔を有し、蓄電デバイス用セパレータを構成する微多孔膜である。無機含有層は、単層で用いても、二層以上を積層して多層で用いてもよい。
【0017】
〈ポリオレフィン〉
ポリオレフィンは、炭素-炭素二重結合を有するモノマーを繰り返し単位として含むポリマーである。ポリオレフィンを構成するモノマーとしては、限定されないが、炭素-炭素二重結合を有する炭素原子数1~10のモノマー、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、及び1-オクテン等が挙げられる。ポリオレフィンは、ホモポリマー、コポリマー、又は多段重合ポリマー等であることができ、好ましくはホモポリマーである。
【0018】
ポリオレフィンとしては、具体的には、シャットダウン特性等の観点から、ポリエチレン、ポリプロピレン、これらの共重合体、及びこれらの混合物が好ましい。
【0019】
ポリオレフィンの密度は、好ましくは0.85g/cm以上、例えば0.88g/cm以上、0.89g/cm以上、又は0.90g/cm以上であってよい。ポリオレフィンの密度は、好ましくは1.1g/cm以下、例えば1.0g/cm以下、0.98g/cm以下、0.97g/cm以下、0.96g/cm以下、0.95g/cm以下、0.94g/cm以下、0.93g/cm以下、又は0.92g/cm以下であってよい。ポリオレフィンの密度は、ポリオレフィンの結晶性に関連し、ポリオレフィンの密度が0.85g/cm以上であれば微多孔膜の生産性が向上し、特に乾式法において有利である。
【0020】
〈無機粒子〉
本開示のセパレータは、上記ポリオレフィンに加えて無機粒子(「無機フィラー」ともよばれる。)を含むことを特徴とする。無機粒子を含むことで、高耐熱性を有するセパレータを得ることができる。無機粒子を、本開示における特定の含有割合及び空孔割合でポリオレフィン樹脂と組み合わせることによって、高い強度に加えて、高い透過性(空孔割合が高い)、かつ、高耐熱性を有するポリオレフィン樹脂を得ることが可能となる。
【0021】
無機粒子としては、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、及び酸化鉄などの酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン、及び窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、及びケイ砂等のセラミックス;並びにガラス繊維などが挙げられる。電池内での安全性と耐熱性の観点から、硫酸バリウム、チタニア、アルミナ及びベーマイトからなる群から選択される少なくとも一つが好ましい。
【0022】
無機粒子の粒子径は、好ましくは60nm以上2000nm以下であり、より好ましくは100nm以上1000nm以下、更に好ましくは200nm以上800nm以下である。無機粒子の粒子径が60nm以上2000nm以下で高い効果が得られる理由としては、理論に限定されないが、以下のように推定している。すなわち、無機粒子の粒子径が60nm以上であると、セパレータの高温溶融時に電極間の空隙に無機粒子が移行しにくく、正極と負極との間に残ることによって、無機粒子が抵抗成分となり、電極間の抵抗を維持することができる。したがって、電池としての安全性が向上する傾向にある。また、60nm以上であると、無機粒子が無機含有層内に分散しやすく、セパレータ内に著しい無機粒子の低濃度部が生じにくい。そのため、セパレータの高温溶融時に抵抗成分が局所的に不足することを防止することができ、電極間の抵抗を維持しやすい。一方、無機粒子が2000nm以下であると、無機含有層の厚みに対して応力集中の起点となりにくく、セパレータの強度低下が生じにくい。また、無機粒子が2000nm以下であると、セパレータの厚みのバラつきが生じにくく、品位低下を抑えることが可能となる。
【0023】
本開示では、無機含有層中の無機粒子の含有割合は、無機含有層の断面のうち無機粒子が占める面積の割合(以下、単に「無機粒子の面積割合」ともいう。)として測定される。無機粒子の面積割合は、9%以上であり、より好ましくは12%、さらに好ましくは22%以上である。理論に限定されないが、無機粒子の面積割合が9%以上であることで、セパレータの高温溶融時に無機粒子が電極間の抵抗成分となる無機粒子層として存在し続け、電極間の抵抗を維持することができ、これによって電池としての安全性を向上させることができる。また、無機粒子を特定量以上含有させると、溶融した樹脂が電極間の空隙に移行し難く、無機粒子とともに抵抗成分として電極間に残るため、電極間抵抗を維持することができ、電池としての安全性が向上する。無機粒子の面積割合の上限は、特に限定されないが、高強度、破膜のリスク低減の観点から、例えば50%以下、40%以下、35%以下、又は30%以下であってよい。無機粒子の含有割合はより好ましくは24%以上である。無機含有層の断面は、実施例の欄で後述するように、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することができる。
【0024】
〈無機粒子の表面処理〉
無機粒子は、ポリオレフィン樹脂への分散性を高めるために、表面処理剤により表面処理されているものを用いることが好ましい。この表面処理剤としては、飽和脂肪酸及び/又はその塩(飽和脂肪酸塩)、不飽和脂肪酸及び/又はその塩(不飽和脂肪酸塩)、アルミニウム系カップリング剤、ポリシロキサン、シランカップリング剤などが挙げられる。ポリオレフィン樹脂への分散性の観点から、表面処理剤としては、飽和脂肪酸及びその塩、不飽和脂肪酸及びその塩であることが好ましく、炭素数8以上の飽和脂肪酸及びその塩、炭素数8以上の不飽和脂肪酸及びその塩がより好ましい。表面処理剤はポリオレフィン混錬前に処理しても、混錬時に表面処理剤を後添加してもよい。無機フィラー表面へ均一に表面処理剤を被覆するという観点から、混錬前に処理することが好ましい。これらの表面処理剤で処理することで、無機フィラーが高度に樹脂中に分散し、より高い耐熱性を達成することができる。
【0025】
無機フィラーの表面処理量は、無機フィラーの粒子径にもよるが、表面処理された無機フィラーの全質量を基準として0.1質量%以上、10質量%以下が好ましい。表面処理量が10質量%以下で余剰の表面処理剤を減らすことができ、表面処理量が0.1質量%以上で良好な分散性が得られる。
【0026】
〈無機粒子の目付量〉
無機粒子の目付量は、0.15mg/cm以上が好ましい。目付量が0.15mg/cm以上だと、セパレータの高温溶融時に樹脂と伴って無機粒子が電極間空隙に移行しにくく、無機粒子が電極間の抵抗成分となる無機粒子層として残るため、緻密な無機粒子層が形成される傾向がある。そして無機粒子が抵抗成分となり電極間抵抗を維持することができ、電池としての安全性が向上する傾向にある。
【0027】
〈メルトフローレイト(MFR)〉
荷重2.16kg、温度230℃で測定した際の無機粒子層に含まれるポリオレフィン樹脂のメルトフローレイト(MFR)(単層のMFR)は、0.2以上15以下であることが好ましい。その理由は、理論に限定されないが、MFRが高いポリオレフィン樹脂と無機フィラーを混錬すると均一な混錬ができ、無機フィラーが分散して均一なセパレータとなり、電極間抵抗抑制効果が高くなるからであると考えられる。一方、MFRが低すぎると無機粒子が分散せず、セパレータ内に著しい無機フィラーの低濃度部が生じ、高温溶融時に抵抗成分が局所的に不足するため電極間抵抗が維持できない傾向がある。また、押出時の成膜安定性の観点で、MFRが0.2以上であると、押出時の圧力が極端に上昇せず成膜しやすくなる。MFRが15以下であると、溶融した膜の自立性が高くなる傾向があり、巻き取りが容易で、成膜がしやすい傾向がある。また、MFRが15以下であると、配向度の低下を抑制でき、ラメラ開孔しやすくなり、透過性も高くできる。
【0028】
〈空孔〉
本開示において、無機含有層の平均孔径は、好ましくは10nm以上2000nm以下、より好ましくは10nm以上1500nm以下、更に好ましくは10nm以上1000nm以下である。その理由は、理論に限定されないが、無機含有層の平均孔径が10nm以上であると、空孔同士が連結した構造となり高い透過性が得られる傾向にある。また、平均孔径が2000nm以下であると、無機含有層の厚みに対して応力集中の起点となりにくく、セパレータの強度低下が生じにくいからであると考えられる。無機含有層の平均孔径は、実施例の欄で後述するように、無機含有層の断面をSEMで観察することにより測定することができる。
【0029】
無機含有層の長孔径は、一方向に配列していることが好ましい。本願明細書において、「長孔径」とは、空孔の輪郭上の任意の2点を結ぶ線分のうち、最も長い線分をいう。理論に限定されないが、長孔径が一方向に配列していると、セパレータに強い配向がかかり長孔径の方向の強度が大きくなり、電池巻き付け操作がしやすくなるため好ましい。長孔径の配列は、実施例の欄で後述するように、無機含有層の断面をSEMで観察することにより確認することができる。「一方向に配列」とは、セパレータ表面の上記電子顕微鏡像において、90%以上のフィブリルが、その延在方向±20度の角度範囲内に含まれることを意味する。すなわち、上記電子顕微鏡像において、90%以上の孔部の長軸が、互いに±20度の角度範囲内に含まれている場合、長孔径の配列が「一方向に配列」していると判断する。
【0030】
本開示において、無機含有層の断面に占める空孔の面積割合は、20%以上60%以下である。空孔の面積割合を60%以下とすることで樹脂と無機粒子の割合を高めることができ、固形分のネットワーク構造が形成されるため、突刺時の伸度が向上して高い突刺強度が得られやすい。また、気孔割合を増やすためにMD方向の延伸倍率を大きくして空孔割合を大きくしようとすると、気孔が厚み方向に潰れやすく、孔同士の連結構造が分断され透気度が悪化する傾向がある。空孔の面積割合が20%以上であると、樹脂と無機粒子の割合が低いことで、孔同士の連結構造が形成され易いため、高い透過性が得られる。
【0031】
〈エラストマー〉
本開示において、無機含有層は、ポリオレフィン樹脂及び無機粒子以外に、エラストマーを更に含有してもよい。無機含有層は、ポリオレフィン樹脂がポリプロピレンであり、かつ、ポリオレフィン樹脂及び無機粒子以外に、エラストマーを更に含有してもよい。無機含有層がエラストマーを含有することにより、強度及び透気度のバランスを損なうことなく溶融張力を低減することができるため、高い溶融張力を有する低いMFRのポリオレフィンであっても薄膜化することが可能となり、薄膜高強度なセパレータを得ることができる。
【0032】
〈多層構造〉
蓄電デバイス用セパレータは、上記で説明したポリオレフィン樹脂及び無機粒子を含む無機含有層を単層で有してもよいし、更なる微多孔膜を積層させた多層構造を有していてもよい。すなわち、蓄電デバイス用セパレータは、無機含有層の片面に基材が積層された二層構造でもよく、無機含有層の両面に基材が積層、または基材の両側に無機含有層が積層された三層の多層構造、または三層以上の多層構造を有してもよい。
【0033】
多層構造は、本開示の無機含有層を含む、二層以上の構造であることを意味し、三層以上の微多孔膜が積層された多層構造であることが好ましい。更なる微多孔膜としては、ポリプロピレン樹脂を主成分とする微多孔層が好ましく、無機含有層の片面又は両面上に、ポリプロピレン樹脂を主成分とする微多孔層の外層を更に有することがより好ましい。
【0034】
多層構造は、どのような順番に積層されていても本願発明の効果を発現することができるが、PP微多孔層/無機含有層/PP微多孔層の順に積層された三層構造であることが特に好ましい。PP微多孔層/無機含有層/PP微多孔層の三層構造を有することにより、無機含有層による耐熱特性を備えつつ、PP微多孔層により機械的強度、及び電極面接触時の耐酸化性を維持することができる。
【0035】
〈厚み〉
無機含有層の厚みは、好ましくは1μm以上30μm以下、より好ましくは1μm以上27μm以下である。厚みが1μm以上であると、蓄電デバイス用セパレータの耐熱性が向上する。厚みが30μm以下であると、蓄電デバイスのエネルギー密度を高めることができる。また、セパレータ全体の厚みに占める無機含有層の厚みの割合は、セパレータの耐熱性、イオン透過性、及び物理的強度を勘案すると好ましくは15%以上90以下、より好ましくは20以上80%以下、更に好ましくは20%以上60%以下である。
【0036】
蓄電デバイス用セパレータの厚みは、好ましくは5μm以上30μm以下、より好ましくは5μm以上27μm以下である。厚みが5μm以上であると、蓄電デバイス用セパレータの耐熱性が向上する。厚みが30μm以下であると、蓄電デバイスのエネルギー密度を高めることができる。
【0037】
〈透気度〉
蓄電デバイス用セパレータの透気度(「透気抵抗度」とも呼ばれる。)の上限値は、セパレータの厚みを14μmに換算した場合に、好ましくは2000秒/100ml・14μm以下、例えば1000秒/100ml・14μm以下、700秒/100ml・14μm以下であってよい。蓄電デバイス用セパレータの透気度の下限値は、限定されないが、セパレータの厚みを14μmに換算した場合に、例えば200秒/100ml・14μm以上、210秒/100ml・14μm以上、又は220秒/100ml・14μm以上であってよい。
【0038】
〈突刺強度〉
蓄電デバイス用セパレータの突刺強度の下限値は、セパレータの厚みを14μmに換算した場合に、好ましくは100gf/14μm以上、例えば130gf/14μm以上、160gf/14μm以上であってよい。多層構造の突刺強度の上限値は、限定されないが、多層構造全体の厚みを14μmに換算した場合に、好ましくは550gf/14μm以下、例えば500gf/14μm以下、又は480gf/14μm以下であってよい。
【0039】
〈MD/TD強度比〉
前記蓄電デバイス用セパレータのMD方向の引張強度とTD方向の引張強度の比(「MD/TD強度比」ともいう。)は、好ましくは1.5以上、より好ましくは6.0以上、更に好ましくは8.0以上である。MD/TD強度比が1.5以上であると、セパレータに強い配向がかることでMD方向の強度が大きくなり、電池巻き付け操作がしやすくなる。また、MD/TD強度比が1.5以上であると、TD方向の熱収縮率を低くすることができるため、電池巻き付け時にTD方向の熱収縮による短絡に対する耐性が高くなる。MD/TD強度比の上限は、特に限定されないが、30以下であることが好ましく、より好ましくは20以下、更に好ましくは15以下である。MD/TD強度比30以下であると、MD方向に亀裂が入りにくく、取り扱い時にセパレータが縦に(MD方向に)裂ける問題が起こりにくくなる。
【0040】
〈TD熱収縮率〉
蓄電デバイス用セパレータの、150℃におけるTD方向の熱収縮率(TD熱収縮率)は、4%以下であり、好ましくは3%以下、より好ましくは2%以下、更に好ましくは1%以下である。TD方向の熱収縮率が4%以下であると、セパレータ面積を維持した絶縁膜を形成でき、電極間の絶縁性が維持できるためラミネートセル短絡試験でTD方向の熱収縮による短絡に対する耐性が高くなる。熱収縮率の下限は、特に限定されないが、-4%以上であり、好ましくは-3%以上、より好ましくは-2%以上、更に好ましくは-1%以上である。TD方向の熱収縮率が-4%以上であると、電池の温度上昇時にシワが入りにくく、セパレータに均等な応力が加えられるため裂ける問題が起こりにくくなる。TD方向の熱収縮がマイナスの値を取るのは、セパレータ内部に含有する成分の加熱によって膨張することがあるからである。
【0041】
〈無機粒子の面積割合に対するTD熱収縮率の割合〉
蓄電デバイス用セパレータのTD熱収縮率をa、無機粒子の面積割合をbとすると、無機粒子の面積割合に対するTD熱収縮率の割合(a/b)は、好ましくは-10%以上10%以下である。a/bが10%以下であると、樹脂が流動する高温でも短絡を抑制できる。a/bがマイナスの値を取るのは、TD熱収縮率aがマイナスの値を取ることがあるからである。a/bは、好ましくは0%以上10%以下である。無機含有層の断面における無機粒子の面積割合bに対してTD熱収縮率aが小さいと、樹脂が流動する高温下においても無機粒子層を形成することが可能となり、微小領域の電極間の導通を抑制できるため、短絡耐性が高くなる。無機粒子の面積割合bが小さい場合には、TD熱収縮量aを小さくすることで無機粒子の緻密層を形成し、導通を抑制できる。TD熱収縮量aが大きい場合には、無機粒子の面積割合bを大きくすることで無機粒子の厚膜層を形成し、導通を抑制できる。TD熱収縮量は、ポリオレフィン樹脂と無機粒子の位置ずれ量に影響するため、セパレータ面内の無機粒子の存在率の不均一性を決める因子となる。不均一な存在状態であれば、短絡抑制に必要な無機粒子量は多く必要となり、均一な存在状態であれば短絡抑制に必要な無機粒子量は少なくて済むため、無機粒子の面積割合に対するTD熱収縮率の割合(a/b)が短絡防止の合否を決めるパラメータとなる。
【0042】
〈樹脂と無機材料の割合〉
本開示では、無機粒子の含有量は、ポリオレフィン樹脂100質量部を基準とした場合、好ましくは100重量部以上、より好ましくは200質量部以上、更に好ましくは300質量部以上である。ポリオレフィン等の結晶性樹脂に対して無機粒子の含有量が100質量部以上であれば、高いドローダウン比で溶融押出することで、無機粒子とラメラ結晶を有する層を形成できる。その後一軸延伸することで、低空孔率でありながら高い透過性のセパレータが得られる。その理由としては、理論に限定されないが、無機粒子の量が多い場合、延伸方向に対して垂直方向のラメラ開孔と、延伸方向に対して水平方向のフィラー開孔との両方が起こり、かつ、ラメラ結晶により形成された垂直方向の気孔によって、フィラー開孔により形成された水平方向の独立気孔同士が連結するため、僅かな延伸倍率においても、低空孔率と高透過性を両立していると推測している。一方、無機粒子含有量が少ないと、フィラー開孔により得られた気孔同士の距離が遠くなる。すると、ラメラ開孔によってフィラー開孔による気孔同士の連結が困難になり、高い透過性が得られないと推測される。
【0043】
無機含有層中の無機粒子の含有割合は、無機含有層の全質量を基準とした場合、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上である。無機粒子の含有量が無機含有層の全質量を基準として50質量%以上であれば、上記と同様の理由から、低空孔率でありながら高い透過性のセパレータが得られるため好ましい。
【0044】
《蓄電デバイス用セパレータの製造方法》
ポリオレフィン及び無機粒子を含む無機含有層の製造方法としては、一般に、ポリオレフィン樹脂組成物と無機粒子とを混合分散し、混合物を溶融押出して樹脂フィルムを得る溶融押出工程、及び得られた樹脂シートを開孔して多孔化する孔形成工程を含み、任意に延伸工程、及び熱処理工程等を更に含む。無機含有層の製造方法は、孔形成工程に溶剤を使用しない乾式法と、溶剤を使用する湿式法とに大別される。湿式法では溶媒を含むため、無機粒子が高含有量であっても分散させるのが容易である。しかしながら、乾式法では溶媒を含まないため、無機粒子を高含有量にすると分散不良となり、粗大孔を形成して十分な強度が得られない傾向にある。
【0045】
乾式法としては、ポリオレフィン樹脂組成物と無機粒子とをドライ状態で混合分散し、溶融混練して押出した後、熱処理と延伸によってポリオレフィン結晶界面を剥離させる方法;及び、ポリオレフィン樹脂組成物と無機充填材とを溶融混練してシート上に成形した後、延伸によってポリオレフィンと無機充填材との界面を剥離させる方法などが挙げられる。
【0046】
湿式法としては、ポリオレフィン樹脂組成物と無機粒子とを混合分散し、孔形成材を加えて溶融混練してシート状に成形し、必要に応じて延伸した後、孔形成材を抽出する方法;及び、ポリオレフィン樹脂組成物の溶解後、ポリオレフィンに対する貧溶媒に浸漬させてポリオレフィンを凝固させると同時に溶剤を除去する方法などが挙げられる。
【0047】
ポリオレフィン樹脂組成物の溶融混練には、単軸押出機、及び二軸押出機を使用することができ、これら以外にも、例えばニーダー、ラボプラストミル、混練ロール、及びバンバリーミキサー等を使用することもできる。
【0048】
ポリオレフィン樹脂組成物は、無機含有層の製造方法に応じて、又は目的の無機含有層の物性に応じて、任意に、ポリオレフィン以外の樹脂、及び添加剤等を含有してもよい。添加剤としては、例えば孔形成材、フッ素系流動改質材、ワックス、結晶核材、酸化防止剤、脂肪族カルボン酸金属塩等の金属石鹸類、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、及び着色顔料等が挙げられる。孔形成材としては、可塑剤、無機充填材又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0049】
可塑剤としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス等の炭化水素類;フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル等のエステル類;オレイルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール等が挙げられる。
【0050】
孔形成工程中、又は孔形成工程の前若しくは後に、延伸工程を行ってもよい。延伸処理としては、一軸延伸、又は二軸延伸のいずれも用いることができる。限定されないが、乾式法を使用する際の製造コスト等の観点では、一軸延伸が好ましい。一軸延伸によるラメラ開孔法を用いることによって、以下に説明するように高透過性、高強度及び耐熱性を有する蓄電デバイス用セパレータを提供することができる。以下、このことについて説明する。この開孔法は、一般的に、溶融押出によりラメラ結晶を配向させた前駆体(原反フィルム)を得て、これを冷延伸した後に熱延伸させてラメラ晶間を開孔させる方法である。好ましくは、ポリオレフィン樹脂に高い含有量の無機粒子を混合し、これを高いドローダウン比で溶融押出し、かつ冷却速度を早くすることで、高い配向のラメラ結晶を有する樹脂に高い含有量の無機粒子が密に配置された孔形成工程前の前駆体(原反フィルム)を得ることが可能となる。その為、一軸延伸による応力集中によって孔形成が促進されて、僅かな総延伸倍率であっても、高い透過性を有し、かつ、MD/TD強度比を1.5以上に調整することが容易である。その為、得られるセパレータは、高透過性を確保したうえで気孔量を無機含有層の断面のうち20%以上60%以下に低減させることができるので、結果的に、セパレータに含まれる無機粒子の割合を大きく、すなわち、無機含有層の断面に占める無機粒子の面積割合を9%以上に調整することが容易である。そして、無機粒子の割合が大きいことにより、高い耐熱性もまた得ることができる。このように、特定条件の一軸延伸によるラメラ開孔法によって本願発明の効果をより容易に得ることができる。その理由は定かではないが、本発明者らは、以下のように推定している。すなわち、無機粒子は樹脂よりも熱容量が大きいため冷却が遅く、一般的な冷却条件ではMD方向に結晶配向し難く、その後の一軸延伸において孔形成が阻害され、高い透過性が得られない傾向がある。そのため、本開示では、無機粒子を含む原反フィルムの冷却速度を早くすることで、より具体的には、冷却に用いるエアナイフ風量を多くし、無機粒子を含む原反フィルムの樹脂温度を早く冷却することで、ラメラ結晶をMD方向により強く配向させることが好ましい。これによって、高い含有量の無機粒子とラメラ結晶を有する樹脂とが密に配置された原反フィルムを得ることができ、僅かな延伸倍率であっても孔形成が促進されて、高い透過性と高温での電池安全性とを同時に達成することができる、蓄電デバイス用セパレータが得られると推察している。
【0051】
TD方向の熱収縮率を4%以下に調整するためには、TD延伸倍率を100%以下、より好ましくは50%以下、さらに好ましくは30%以下、より更に好ましくは20%以下、特に好ましくは10%以下にすることが好ましい。
【0052】
微多孔性フィルムの収縮を抑制するために、延伸工程後又は孔形成工程後に熱固定を目的として熱処理工程を行ってもよい。熱処理工程は、物性の調整を目的として、所定の温度雰囲気及び所定の延伸率で行う延伸操作、及び/又は、延伸応力低減を目的として、所定の温度雰囲気及び所定の緩和率で行う緩和操作を含んでもよい。延伸操作を行った後に緩和操作を行ってもよい。これらの熱処理工程は、テンター又はロール延伸機を用いて行うことができる。
【0053】
本開示の無機含有層を含む複数の微多孔膜が積層されている多層構造を有する蓄電デバイス用セパレータの製造方法としては、例えば、共押出法及びラミネート法が挙げられる。共押出法では、各層の樹脂組成物を同時に共押出で成膜し、得られた多層の原反フィルムを延伸開孔させて、多層の微多孔膜を作製することができる。ラミネート法では、各層を別々に押出成膜により成膜し原反フィルムを得る。得られた原反フィルムをラミネートすることにより、多層の原反フィルムを得て、得られた多層の原反フィルムを延伸開孔させて、多層の微多孔膜を作成することができる。共押出法では、無機フィラーを含有しない層で無機含有層をサポートできるため成膜安定性が向上し、無機粒子含有量を多くできる点で好ましい。
【0054】
《蓄電デバイス》
本開示の蓄電デバイスは、正極と、負極と、上記で説明された本開示の蓄電デバイス用セパレータを備える。蓄電デバイス用セパレータは、正極と負極との間に積層されている。
【0055】
蓄電デバイスとしては、限定されないが、例えばリチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、ナトリウム二次電池、ナトリウムイオン二次電池、マグネシウム二次電池、マグネシウムイオン二次電池、カルシウム二次電池、カルシウムイオン二次電池、アルミニウム二次電池、アルミニウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、レドックスフロー電池、リチウム硫黄電池、リチウム空気電池、及び亜鉛空気電池などが挙げられる。これらの中でも、実用性の観点から、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、又はリチウムイオンキャパシタが好ましく、より好ましくはリチウムイオン二次電池である。
【0056】
蓄電デバイスは、例えば、正極と負極とを、上記で説明されたセパレータを介して重ね合わせて、必要に応じて捲回して、積層電極体又は捲回電極体を形成した後、これを外装体に装填し、正負極と外装体の正負極端子とをリード体などを介して接続し、さらに、鎖状又は環状カーボネート等の非水溶媒とリチウム塩等の電解質を含む非水電解液を外装体内に注入した後に外装体を封止して作製することができる。
【実施例
【0057】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
《測定及び評価方法》
[メルトフローレート(MFR)の測定]
ポリオレフィンのメルトフローレート(MFR)は、JIS K 7210に準拠し、温度230℃及び荷重2.16kgの条件下で測定した(単位はg/10分である)。ポリプロピレンのMFRは、JIS K 7210に準拠し、温度230℃及び荷重2.16kgで測定した。ポリエチレンのメルトフローレート(MFR)は、JIS K 7210に準拠し、温度190℃及び荷重2.16kgで測定した。エラストマーのMFRは、JIS K 7210に準拠し、温度230℃及び荷重2.16kgで測定した
【0059】
[無機粒子、空孔及び樹脂の面積割合]
電子顕微鏡観察前処理
セパレータと四酸化ルテニウム(株式会社レアメタリック製)とを密封容器内で共存させ、蒸気による染色を4時間行い、ルテニウム染色されたセパレータを作製した。エポキシ樹脂(Quetol812、日新EM株式会社製)10.6mL、硬化剤(Methyl nadic anhydride(MNA)、日新EM株式会社製)9.4mLおよび反応促進剤(2,4,6-Tris(dimethyl amino methyl)phenol、日新EM株式会社製、DMP-30)0.34mLを混合し、十分に撹拌した混合液中に、上記ルテニウムで染色されたセパレータを浸漬し、減圧環境下に置き、上記ルテニウムで染色されたセパレータの細孔に混合液を十分に含浸させた。その後、60℃で12時間以上硬化させることによって、上記ルテニウムで染色されたセパレータをエポキシ樹脂で包埋した。エポキシ樹脂で包埋した後、カミソリ等で粗く断面加工し、その後、イオンミリング装置(E3500 Plus、株式会社日立ハイテク製)を用いて断面ミリング加工し、断面試料を作製した。断面はMD-ND面とする。上記断面試料を導電性接着剤(カーボン系)により断面観察用SEM試料台に固定、乾燥した後、導電処理としてオスミウムコーター(HPC-30W、株式会社真空デバイス製)を用いて、印加電圧調整つまみ設定4.5、放電時間0.5秒の条件でオスミウムコーティングを実施し、検鏡試料とした。
【0060】
電子顕微鏡像の取得
上記検鏡試料をSEM(S-4800、株式会社日立ハイテク製)で加速電圧1.0kV、エミッション電流10μA、プローブ電流High、検出器Upper+LA-BSE100、ピクセル分解能約10nm/pix、ワーキングディスタンス2.0mmの条件で、無機フィラーを含有する層の厚み方向全域を観察視野内に収めるように観察視野を決定し、輝度が飽和せず、かつ、可能な限りコントラストが高くなるように設定し、電子顕微鏡像を取得した。無機フィラーを含有する層の厚みが観察視野より大きい場合、観察視野全体に無機フィラーを含有する層を収めるように観察視野を決定し、輝度が飽和せず、かつ、可能な限りコントラストが高くなるように設定し、電子顕微鏡像を取得した。
【0061】
画像処理(空孔割合、無機フィラー割合の算出)
上記電子顕微鏡像において、無機フィラーを含有する層の厚みの8割以上を含み、かつ、無機フィラーを含有する層以外の領域を含まず、かつ、水平方向に20μm幅以上で可能な限り広い領域を選択し、画像処理領域とした。無機フィラーを含有する層の厚みが観察視野より大きい場合、観察視野全体を画像処理領域とした。画像処理にはフリーソフトImageJを使用した。上記画像処理領域の輝度ヒストグラムを表示し、図1のように、3つのピークのうち最も近接する2つのピークの極大値となる2点の輝度の差(図1中、矢印で示す。)を算出し、この数値をCDとした。Mean Shift Filter(FHTW-BerlinのKai Uwe Barthel氏が作成したオープンソースプラグイン)を用いて、平滑化処理した画像を作成した。このときMean Shift Filterの引数であるSpatial radiusは3とし、Color distanceは上記CDの値とした。上記平滑化処理した画像に対してMulti Otsu Threshold(非特許文献1のアルゴリズムを使用して作成されたオープンソースプラグイン)を用いて、0でない2つの閾値を決定した。2つの閾値のうち小さい方を閾値A、大きい方を閾値Bとした。上記平滑化処理した画像において輝度が閾値A未満であるピクセルを空孔と見做し、輝度が閾値A以上かつ閾値B未満のピクセルをポリオレフィンと見做し、輝度が閾値B以上のピクセルを無機フィラーと見做し、総ピクセル数に対する空孔のピクセル数を空孔の占有面積率とした。同様にしてポリオレフィンの占有面積率、無機フィラーの占有面積率を算出した。5視野以上の電子顕微鏡像を用いて上記空孔の占有面積率、上記ポリオレフィンの占有面積率、上記無機フィラーの占有面積率を算出し、それぞれの平均値を空孔割合、ポリオレフィン割合、及び無機フィラー割合とした。
【0062】
[空孔の平均孔径]
画像処理(空孔サイズの算出)
上記平滑化処理した画像に対して、輝度が閾値A未満のピクセルの輝度を0とし、輝度が閾値A以上のピクセルの輝度を255として画像を二値化した。BoneJ(非特許文献2に記載のオープンソースプラグイン)のThickness解析を実行し、Resultsウィンドウ内のTb. Th meanの数値を読み取り、実空間の長さに換算した数値を空孔の平均孔径とした。
【0063】
[セパレータ全体の厚み(μm)]
ミツトヨ社製のデジマチックインジケータIDC112を用いて、室温23±2℃で、セパレータの厚さ(μm)を測定した。
【0064】
[セパレータを構成する各層の厚み(μm)]
上記「無機粒子、空孔及び樹脂の面積割合」の測定と同様にして、セパレータ断面の電子顕微鏡像を取得した。得られた画像において、無機含有層と界面又は別層との凹と凸の面積が同じになるよう中心線を引き、その線の間の長さを測定し、各層の平均比率を算出した。上記「セパレータ全体の厚み(μm)」で測定したセパレータ全体の厚さ(μm)に、上記の各層の平均比率を乗じて、各層の厚み(μm)を算出した。
【0065】
[透気抵抗度(秒/100ml)]
JIS P-8117に準拠したガーレー式透気度計を用いて、セパレータの透気抵抗度(秒/100ml)を測定した。
【0066】
[突刺強度の評価]
先端が半径0.5mmの半球状である針を用意し、直径(dia.)11mmの開口部を有するプレート2つの間にセパレータを挟み、針、セパレータ及びプレートをセットした。株式会社イマダ製「MX2-50N」を用いて、針先端の曲率半径0.5mm、セパレータ保持プレートの開口部直径11mm及び突刺速度25mm/分の条件で突刺試験を行った。針とセパレータを接触させ、最大突刺荷重(すなわち、突刺強度(gf))を測定した。
【0067】
[MD/TD強度比]
セパレータの引張強度は、引張試験機(ミネベア(株)製TG―1kN型)を用いて、試験前の試料長さを35mmにし、速度100mm/minで試料を引張ることで測定した。試料が降伏したときの強度(引張荷重値)、又は降伏前に切断(破断)した場合は切断したときの強度(引張荷重値)を試験片の断面積で除した値を引張強度とした。セパレータのMD方向、TD方向のそれぞれについて引張強度を測定した。MD/TD強度比は、MD引張強度をTD引張強度で除して求めた。
【0068】
[F/S210℃抵抗、210℃抵抗上昇率]
正極シートの作製
正極活物質としてLiNi1/3Mn1/3Co1/3と、導電助剤としてカーボンブラックと、結着剤としてポリフッ化ビニリデン溶液とを、91:5:4の固形分質量比で混合し、分散溶媒としてN-メチル-2-ピロリドンを固形分68質量%となるように添加し、更に混合して、スラリー状の溶液を調製した。このスラリー状の溶液を、厚さ15μmのアルミニウム箔の片面に塗布した後、溶剤を乾燥除去し、塗布量が175g/mの正極とした。この正極をロールプレスで圧延して、正極合剤部分の密度が2.4g/cmの正極シートを得た。
【0069】
負極シートの作製
負極活物質として人造黒鉛、結着剤としてスチレンブタジエンゴム及びカルボキシメチルセルロース水溶液とを、96.4:1.9:1.7の固形分質量比で混合し、分散溶媒として水を固形分50質量%となるように添加し、更に混合して、スラリー状の溶液を調製した。このスラリー状の溶液を、厚さ10μmの銅箔の片面に塗布した後、溶剤を乾燥除去し、塗布量が86g/mの負極とした。この負極をロールプレスで圧延して、負極合剤部分の密度が1.25g/cmの負極シートを得た。
【0070】
非水電解液の調整
プロピレンカーボネート:エチレンカーボネート:γ-ブチルラクトン=1:1:2(
体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiBFを濃度1.0mol/Lとなるように溶解させ、更にトリオクチルホスフェートを0.5重量%となるように添加し、非水電解液を調製した。
【0071】
膜抵抗値(Ω・cm)の測定
セパレータから30mm×30mm角の試料を切り取り、試料1を準備した。また、前述した方法で作製された正極を55mm×20mm角に切り取り、塗布された電極活物質部分が20mm×20mm角になるように電極活物質を除去し集電箔が剥き出しになった正極2Aを作成した。また、前述した方法で作製された負極を55mm×25mm角に切り取り、塗布された電極活物質部分が25mm×25mm角になるように電極活物質を除去し集電箔が剥き出しになった負極2Aを作成した。その後、試料1、正極2A及び負極2Bの電極活物質が塗布されている部分に非水電解液を1分以上含浸した。そして、負極2B、試料1、正極2A、カプトンフィルム、厚さ4mmシリコンゴムの順で積層した。この時、負極2Bの電極活物質が塗工されている部分に試料1及び正極2Aの電極活物質が塗工されている部分が重ね合うように積層した。この積層体を熱電対が埋め込まれたセラミックプレート上に配置し、油圧プレス機で面圧2MPaを印加しながら、ヒーターを昇温し、正極2A及び負極2Bの集電体部分が接続された交流電気抵抗測定装置「AG-4311」(安藤電機株式会社)を用いて、連続的に温度と抵抗値を測定した。なお、温度は室温23℃から220℃まで15℃/分の速度にて昇温し、抵抗値は1V、1kHzの交流にて測定した。得られた210℃の抵抗値(Ω)に実効電極面積4cmを乗じて算出した値を210℃膜抵抗値(Ω・cm)とした。無機粒子を含まないセパレータで空孔面積割合20%~60%の範囲にあるセパレータの210℃膜抵抗値(Ω・cm)をあらかじめ測定し、その値を基準として各セパレータの210℃抵抗上昇率を評価した。
【0072】
[MD熱収縮及びTD熱収縮]
熱収縮率は、セパレータを5cm角に切り出し、2cm間隔で9か所にマーキングし、用紙で包んだ。マーキングされた試料を所定の温度下(130℃又は150℃)で1時間熱処理し、次いで室温まで冷却した後に、MD及びTD方向の長さを各3か所で測定し、収縮率を求めた。
【0073】
[ラミネートセル短絡試験]
正極の作製
正極活物質としてLiNi1/3Mn1/3Co1/3と、導電助剤としてカーボンブラックと、結着剤としてポリフッ化ビニリデン溶液とを、91:5:4の固形分質量比で混合し、分散溶媒としてN-メチル-2-ピロリドンを固形分68質量%となるように添加し、更に混合して、スラリー状の溶液を調製した。このスラリー状の溶液を、厚さ15μmのアルミニウム箔の片面にアルミニウム箔の一部が露出するように塗布した後、溶剤を乾燥除去し、塗布量を175g/mとした。更に正極合剤部分の密度が2.8g/cmとなるようにロールプレスで圧延した。その後、塗布部が30mm×50mmで、かつアルミニウム箔露出部を含むように裁断し、アルミニウム製リード片をアルミニウム箔の露出部に溶接して正極を得た。
【0074】
負極の作製
負極活物質として人造黒鉛、結着剤としてスチレンブタジエンゴム及びカルボキシメチルセルロース水溶液とを、96.4:1.9:1.7の固形分質量比で混合し、分散溶媒として水を固形分50質量%となるように添加し、更に混合して、スラリー状の溶液を調製した。このスラリー状の溶液を、厚さ10μmの銅箔の片面に銅箔の一部が露出するように塗布した後、溶剤を乾燥除去し、塗布量を86g/mとした。更に負極合剤部分の密度が1.45g/cmとなるようにロールプレスで圧延した。その後、塗布部が32mm×52mmで、かつ銅箔露出部を含むように裁断し、ニッケル製リード片を銅箔の露出部に溶接して負極を得た。
【0075】
非水電解液の調製
エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPF6を濃度1.0mol/Lとなるように溶解させ、更にビニレンカーボネートを1.0重量%となるように添加し、非水電解液を調製した。
【0076】
電池組立
正極のアルミニウム箔の露出部に、シーラント付きのアルミニウム製リード片を溶接した。負極の銅箔の露出部に、シーラント付きのニッケル製リード片を溶接した後、幅55mm長さ75mmのセパレータを負極の銅箔面側でセパレータが重なるように配置し、セパレータの重なった部分を絶縁テープで貼付け固定した。その後、正極と負極の活物質面が対向するように積層し、積層体を作成した。アルミニウムラミネート外装体内に積層体を挿入し、正・負極リード片が露出する辺とその他2辺との計3辺をラミネートシールした。次に上記非水系電解液を外装体内に注入し、その後開口部を封止して、単層のラミネート型電池を作製した。得られた電池を室温にて1日放置した後、25℃雰囲気下、12mA(0.3C)の定電流で電池電圧4.2Vまで充電し、到達後4.2Vを保持するように定電圧充電を行うという方法で、合計8時間、電池作製後の最初の充電を行った。続いて、12mA(0.3C)の電流値で電池電圧3.0Vまで電池を放電した。
【0077】
短絡試験
電池にかかる圧力が0.1MPa以下となるように耐熱性の板で電池を挟み、4.2Vまで充電した電池をオーブンで昇温し、正極と負極のリード片に接続されたデーターロガーを用いて、連続的に電池電圧と温度を測定した。オーブンは室温から150℃まで5℃/分の速度で昇温し、150℃で30分間放置した。または、オーブンは室温から210℃まで5℃/分の速度で昇温し、210℃で30分間放置した。以下の基準に基づいて短絡を評価した。
〇:試験後の電池電圧が3.5V以上であった。
×:試験後の電池電圧が3.5V未満であった。
【0078】
《実施例1》
[ポリプロピレン樹脂と無機粒子組成物の作製]
ポリプロピレン樹脂(PP、MFR=0.91)と、平均粒子径300nmの表面処理された硫酸バリウム(硫酸バリウム100質量部に対して、ステアリン酸ナトリウム1質量部を表面処理に用いた)をPP:BaSO=20:80(質量%)の質量比率でドライブレンドした後、二軸押出機HK-25D(パーカーコーポレーション社製、L/D=41)を使って溶融混練を行った。樹脂の分解・変性を極力抑制するために、樹脂投入ホッパー口から原料タンクまでを完全に密閉状態としてホッパー下部から連続的に窒素をフローして、原料投入口付近の酸素濃度を50ppm以下に制御した。また、ベント部はすべて完全に密閉してシリンダー内への空気漏れ込み部を無くした。この酸素濃度低減効果により、高温下でもポリマーの分解・変性が大幅に抑制された。硫酸バリウムは二軸フィーダで投入することで、更に、硫酸バリウムの微分散化が可能となった。溶融混練後、ダイス(2穴)からストランドを引いて水冷バスにて冷却後、ペレターザーを使ってカッティングしてペレットを得た。
【0079】
[微多孔膜の作製(三層)]
共押出法によって積層シートを形成した。ポリプロピレン樹脂(PP、MFR=0.91)を32mmφの二軸同方向スクリュー式押出機で溶融し、Tダイへとギアポンプを使って供給した。上記硫酸バリウムを含むペレットを32mmφの単軸スクリュー式押出機で溶融し、Tダイへとギアポンプを使って供給した。それぞれの押出機により溶融混錬された組成物を2種3層の共押出可能なTダイによりシート状に押出し、かつ溶融したポリマーを、吹込空気によって冷却した後、ロールに巻き取った。ポリプロピレン樹脂の混錬温度は210℃、押出量は2.4kg/hrで、210℃に温度設定されたTダイの外層(表面の二層)より押出した。硫酸バリウムを含むペレットの混錬温度は190℃、押出量はポリプロピレン樹脂換算1.2kg/hrで、210℃に温度設定されたTダイの内層(中間層)より押出した。押出された前駆体(原反フィルム)を、押出直後にエアナイフにより500mm幅あたり500L/minの風量で冷却した。冷却後の原反フィルムの厚さは15μmであった。次いで、原反フィルムを130℃で15分間アニールした。次いで、アニールされた原反フィルムを、室温で21%まで冷間延伸し、次いで120℃で156%まで熱間延伸し、125℃で130%まで緩和することにより、微多孔を形成した。上記延伸開孔の後、得られた微多孔膜の物性測定を行った。結果を表1に示す。
【0080】
《実施例2~3、5~6、9~12、14及び15、並びに比較例1~5》
表1及び2に示されるとおりに原料、成膜条件又はセパレータ物性を変更させたこと以外は実施例1と同様の方法に従って微多孔膜を得て、得られた微多孔膜を評価した。層構成は押出量の比を変えることで調整した。
【0081】
《実施例4》
無機粒子として、平均粒子径250nmの表面処理された酸化チタンを用いた。上記酸化チタン100質量部に対して、ステアリン酸ナトリウム1質量部とアルミニウム系化合物1質量部を表面処理した。上記以外は実施例1と同様の方法に従って微多孔膜を得た。
【0082】
《実施例7》
無機粒子として、平均粒子径100nmのベーマイトを使用した。上記ベーマイトと、味の素ファインテクノ社製アルミニウム系カップリング剤(プレンアクトAL-M)を、ベーマイト:プレンアクトAL-M=98:2(質量%)の質量比率でドライブレンドした。さらにポリプロピレン樹脂(PP、MFR=0.91):ベーマイト=20:80の質量比率になるよう調整してドライブレンドした後、HK-25D(パーカーコーポレーション社製、L/D=41)を使って溶融混練を行った。樹脂の分解及び変性を極力抑制するために、樹脂投入ホッパー口から原料タンクまでを完全に密閉状態としてホッパー下部から連続的に窒素をフローして、原料投入口付近の酸素濃度を50ppm以下に制御した。また、ベント部はすべて完全に密閉してシリンダー内への空気漏れ込み部を無くした。この酸素濃度低減効果により、高温下でもポリマーの分解及び変性が大幅に抑制された。ベーマイトは二軸フィーダで投入することで、更にベーマイトの微分散化が可能となった。溶融混練後、ダイス(2穴)からストランドを引いて水冷バスにて冷却後、ペレターザーを使ってカッティングしてペレットを得た。上記以外は実施例1と同様の方法に従って微多孔膜を得た。
【0083】
《実施例8》
無機粒子として、日本軽金属株式会社製の平均粒子径500nmのアルミナを使用したこと以外は実施例8と同様の方法で微多孔膜を得た。
【0084】
《実施例13》
MD延伸後に、120℃に保ち、微多孔膜が裂けないようにMD方向の応力を緩和するよう調整をしながらTD方向に20%延伸した。上記以外は実施例1と同様の方法に従って微多孔膜を得た。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0087】
本開示の蓄電デバイス用セパレータは、高い透過性を有しつつ、高い強度及び耐熱性を同時に達成することができ、蓄電デバイス、例えばリチウムイオン二次電池等のセパレータとして好適に利用することができる。
図1