(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-05
(54)【発明の名称】液化ガス燃料用タンクを備えた船舶
(51)【国際特許分類】
B63B 11/04 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
B63B11/04 B
(21)【出願番号】P 2023082633
(22)【出願日】2023-05-18
【審査請求日】2023-05-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391058082
【氏名又は名称】株式会社名村造船所
(74)【代理人】
【識別番号】110004059
【氏名又は名称】弁理士法人西浦特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100091443
【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
(74)【代理人】
【識別番号】100130432
【氏名又は名称】出山 匡
(74)【代理人】
【識別番号】100091649
【氏名又は名称】初瀬 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】武藤 博之
(72)【発明者】
【氏名】古賀 大地
(72)【発明者】
【氏名】原田 英光
(72)【発明者】
【氏名】小▲柳▼ 佑介
(72)【発明者】
【氏名】豊田 裕樹
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-170560(JP,A)
【文献】特開2020-050135(JP,A)
【文献】特開2022-156543(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0014247(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船尾側の上甲板の上に設けられた船橋構造物と、
前記船橋構造物の後方の前記上甲板上に設けられたファウンデーションデッキの上に複数のサドルを介して配置された液化ガス燃料用タンクを備えた船舶であって、
前記ファウンデーションデッキは前記上甲板に固定された支持構造物によって支持されており、
前記船橋構造物の主要部分が前記ファウンデーションデッキの船長方向の前方
の前記上甲板上に位置しており、当該主要部分に連続する前記船橋構造物の残部が前記ファウンデーションデッキの下部
の前記上甲板上に位置していることを特徴とする液化ガス燃料用タンクを備えた船舶。
【請求項2】
前記船橋構造物の船幅方向寸法及び前記上甲板からの上方向寸法には設計上限寸法が予め定められおり、
前記ファウンデーションデッキの船長方向の前方に船橋構造物全体を作ったと仮想したときの仮想船橋構造物の船長方向寸法よりも、前記主要部分の前記船長方向の寸法が、前記船橋構造物の残部の体積相当分だけ短いことを特徴とする請求項1に記載の液化ガス燃料用タンクを備えた船舶。
【請求項3】
前記船橋構造物の前記残部には、振動または騒音を発生する機器が収納されている請求項2に記載の液化ガス燃料用タンクを備えた船舶。
【請求項4】
前記ファウンデーションデッキが、前記船橋構造物の残部の天井を兼ねている請求項1に記載の液化ガス燃料用タンクを備えた船舶。
【請求項5】
前記ファウンデーションデッキの下の前記船橋構造物に含まれる隔壁の上に1つの前記サドルが位置しており、前記隔壁が前記サドルに対する
補強用支持構造物を兼ねている請求項1に記載の液化ガス燃料用タンクを備えた船舶。
【請求項6】
前記ファウンデーションデッキの下には他の前記サドルの支持を補強する補強用支持構造物が配置されている請求項5に記載の液化ガス燃料用タンクを備えた船舶。
【請求項7】
前記ファウンデーションデッキに向かって前記液化ガス燃料用タンクを投影して得られる投影画像の下に前記船橋構造物の残部の一部が位置している請求項1に記載の液化ガス燃料用タンクを備えた船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船尾側の上甲板上に船橋構造物と液化ガス燃料用タンクを備えた船舶に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許第6704026号公報(特許文献1)の
図5及び
図6には、船尾側の上甲板上に設けられた船橋構造物と、船橋構造物の後方の上甲板上に設けられたファウンデーションデッキの上に配置された液化ガス燃料用タンクを備えた船舶の従来例が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示されるような上甲板上に船橋構造物と液化ガス燃料用タンクを備えた船舶においては、従来の重油等を航行用の主燃料とする船舶とは異なり、本船上という限られた空間で従来の重油等を航行用の主燃料とする船舶と同等の居住区画容積、貨物区画容積と燃料保有量を確保することは難しいという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、船橋構造物とファウンデーションデッキの上甲板上の占有面積を小さくできる、液化ガス燃料用タンクを備えた船舶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、船尾側の上甲板上に設けられた船橋構造物と、船橋構造物の後方の上甲板上方に設けられたファウンデーションデッキの上に複数のサドルを介して配置された液化ガス燃料用タンクを備えた船舶を改良の対象とする。本発明では、ファウンデーションデッキは上甲板に固定された支持構造物によって支持されている。そして船橋構造物の主要部分がファウンデーションデッキの船長方向の前方の上甲板上に位置しており、当該主要部分に連続する船橋構造物の残部がファウンデーションデッキの下部の前記上甲板上に位置している。船橋構造物は、船舶が航行するうえで考慮しなければならない船舶の上下方向の寸法制限と、上甲板上に船橋構造物とは別に設置される他の構造物の存在による制限の関係から、船橋構造物の船幅方向と上下方向の寸法を拡張することには制限がある。本発明では、船橋構造物の一部が、ファウンデーションデッキの下部に位置している分、船橋構造物の主要部分の船幅方向の寸法及び上下方向の寸法を変えなくても、ファウンデーションデッキよりも船長方向前方に出る船橋構造物の寸法を小さくすることができる。その結果、ファウンデーションデッキと船橋構造物を含めた設備の上甲板上の占有面積を小さくできる。その結果、従来の重油等を航行用の主燃料とする船舶と同等の居住区画容積、貨物区画容積と燃料保有量を確保することができる。
【0007】
船橋構造物の船幅方向寸法及び上甲板からの上方向寸法には設計上限寸法が予め定められている場合には、ファウンデーションデッキの船長方向の前方に船橋構造物全体を作ったと仮想したときの仮想船橋構造物の船長方向寸法よりも、主要部分の船長方向の寸法が、船橋構造物の残部の体積相当分だけ短くなる。このようにすれば、ファウンデーションデッキと船橋構造物を含めた設備の上甲板上の占有面積を従来よりも小さくすることができる。その結果、従来の重油等を航行用の主燃料とする船舶と同等の居住区画容積、貨物区画容積と燃料保有量を確保することができる。
【0008】
船橋構造物の前記残部には、振動または騒音を発生する機器が収納されていることが多い。このようにすると船橋構造物の主要部分には、振動または騒音を発生する機器が存在しない状態になるので、主要部分を居住区として利用するときの居住区の環境を改善できる。
【0009】
ファウンデーションデッキが、船橋構造物の残部の天井を兼ねていてもよい。このようにするとファウンデーションデッキと船橋構造物の建造が容易になる上、建造材料費を低減できる利点がある。
【0010】
ファウンデーションデッキ下の船橋構造物に含まれる隔壁の上に1つのサドルが位置していて、隔壁がサドルに対する補強用支持構造物を兼ねていてもよい。このようにするとファウンデーションデッキ下に設けるサドルの支持構造物を特別に設ける必要がないので、支持構造部の建造材料費を低減できる。
【0011】
さらにファウンデーションデッキの下には他のサドルの支持を補強する補強用支持構造物が配置されていてもよい。このような補強用支持構造物を設ければ、ファウンデーションデッキ全体の構造を強固な構成とする必要がないので、ファウンデーションデッキの建造材料費を低減できる。
【0012】
ファウンデーションデッキに向かって投影して得られる投影画像の下に前記船橋構造物の残部の一部が位置している状態となるように、液化ガス燃料用タンクと船橋構造物の主要部分との位置関係を定めれば、ファウンデーションデッキと船橋構造物を含めた設備の上甲板上の占有面積を大幅に小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の液化ガス燃料用タンクを備えた船舶の本実施の形態の船舶の船尾側の構成を上から見た概略構成図である。
【
図2】本発明の液化ガス燃料用タンクを備えた船舶の本実施の形態の船舶の船尾側の構成を側方から見た概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下図面を参照して、本発明の液化ガス燃料用タンクを備えた船舶の実施の形態の一例を詳細に説明する。
【0015】
図1及び
図2は、本発明の液化ガス燃料用タンクを備えた船舶の本実施の形態の船舶1の船尾側の構成を上から見た概略構成図及び側方から見た概略構成図である。この船舶1は、重油等の燃料油の他、LNG(液化天然ガス)やLPG(液化石油ガス)等の液化ガスを航行の燃料とする船舶である。以下、本実施の形態では、船舶1を大型のばら積み貨物船に適用した例について説明する。なお本願明細書では、船舶1における船体3の船首側を船長方向の「前方」、船尾側を船長方向の「後方」と称し、船長方向及び船幅方向と直交する方向を「上下方向」と称する。
【0016】
図1及び
図2に示すように、船舶1は、船体3の上甲板5上に船橋構造物7が設置され、上甲板5上における船橋構造物7の後方の上甲板5上にはファウンデーションデッキ9が設けられている。ファウンデーションデッキ9の上には2つのサドル11及び13を介して配置された液化ガス燃料用タンク15が設けられている。本実施の形態では、後に詳しく説明するように、船橋構造物7の主要部分71がファウンデーションデッキ9の船長方向の前方
の上甲板5上に位置しており、当該主要部分71に連続する船橋構造物7の残部72がファウンデーションデッキ9の下部
の上甲板5上に位置している。船橋構造物7の主要部分71内には、船員の居住設備や操舵設備等が配置されており、船橋構造物7の残部72には、振動または騒音を発生する機器(空調設備、洗濯設備、冷蔵設備のコンプレッサ等)が収納されている。このようにすると船橋構造物7の主要部分71には、振動または騒音を発生する機器が存在しない状態になるので、主要部分71に設ける居住区の騒音環境を大幅に改善できる。
【0017】
船橋構造物7の後方に設置された液化ガス燃料用タンク15は、後述する主推進機関や発電用機関で使用されるLNG(液化天然ガス)やLPG(液化石油ガス)等の液化ガス燃料を貯蔵するものである。ここでLNG(液化天然ガス)は、メタンを主成分とした天然ガスを冷却し液化したものである。LPG(液化石油ガス)は、石油系炭化水素のうち炭素原子の数が3または4のもの(例えばプロパン等)やこれらを主成分とする混合物を液化したものである。特にLNGは、従来の燃料油に比べて燃焼時の二酸化炭素の排出量が少なくなり、燃焼しても窒素酸化物や硫黄酸化物は殆ど排出されないため、環境保全に適した燃料である。
【0018】
液化ガス燃料用タンク15は、燃料ガスを主に液体状態で貯蔵するが、貯蔵する燃料ガスの種類に応じた断熱構造や密封構造を備えるように構成されている。例えば、天然ガスの場合は、液化温度は常圧で約-162℃の極低温であるため、極低温に維持できる断熱構造で高圧にも耐える圧力タンクとして構成される。液化ガス燃料用タンク15の具体的な形状は、本実施の形態の場合には、中央部分が船長方向に延びる円筒形状であり、前後両端は半球形状に形成されている。ただし、液化ガス燃料用タンク15の具体的な形状や大きさは設計事項であり、図示した形状以外の立方体形状としても良いのは勿論である。また、液化ガス燃料用タンク15は、例えば、複数本を上下に積み重ねるように配置しても良いのは勿論である。 また、液化ガス燃料用タンク15は、外部に露出しないようにカバーや囲いで覆うことにより、密閉性や安全性を高めてもよいのは勿論である。なお
図2において、符号17で示す部分は機関室であり、符号19で示す部分は貨物区画である。
【0019】
本実施の形態の場合、液化ガス燃料用タンク15は、上甲板5上に設けたファウンデーションデッキ9に設けた一対のサドル11及び13によって支持されている。一対のサドル11及び13は、船長方向に沿って並んで配置されており、液化ガス燃料用タンク15と2つのサドル11及び13との間には、断熱材が配置されている。液化ガス燃料用タンク15は、2つのサドル11及び13の一方に固定されているが、他方には支持されているだけで固定されていない。その結果、液化ガス燃料用タンク15の熱膨張に伴う液化ガス燃料用タンク15の船長方向への変位が許容される。
【0020】
サドル11及び13の下に位置するファウンデーションデッキ9内には、それぞれ上甲板5に固定された支持構造物12及び14が配置されている。本実施の形態では、ファウンデーションデッキ9の一部が、船橋構造物7の残部72の天井を兼ねている。その結果、ファウンデーションデッキ9と船橋構造物7の建造が容易になる上、建造材料費を低減できる。また本実施の形態では、船橋構造物7の残部72に含まれる隔壁が、サドル13の下に位置する支持構造物14を兼ねている。その結果、ファウンデーションデッキ9の下に設けるサドル13の支持構造物を、特別に設ける必要がないので、ファウンデーションデッキ9を支えるための支持構造部の建造材料費を低減できる。またサドル11の下に位置するファウンデーションデッキ9の支持構造物12は、サドル11の支持を補強する補強用支持構造物を兼ねている。なおファウンデーションデッキ9の下の空間10には、係船設備等が配置される。またファウンデーションデッキ9の側方には、燃料準備室23と煙突25等が配置されている。
【0021】
また本実施の形態では、ファウンデーションデッキ9に向かってを投影して得られる投影画像の下に船橋構造物7の残部72の一部が位置している状態になるように、液化ガス燃料用タンク15と船橋構造物7の主要部分71との位置関係を定めているので、ファウンデーションデッキ9と船橋構造物7を含めた設備の上甲板5上の占有面積を大幅に小さくすることができる。
【0022】
前述のように、本実施の形態では、船橋構造物7の主要部分71がファウンデーションデッキ9の船長方向の前方に位置しており、当該主要部分71に連続する船橋構造物7の残部72がファウンデーションデッキ9の下部に位置している。船橋構造物7には、船舶が航行するうえで考慮しなければならない船舶1の上下方向の寸法制限と上甲板5上に設ける他の構造物の存在による制限との関係から、本来的に、船幅方向と上下方向の寸法を広げることに制限がある。本実施の形態では、
図1に示すように、主要部分71の船幅方向の両側に図示しないブリッジウイングの支柱21が配置されるため、船橋構造物7の主要部分71を船幅方向に拡張することが制限されている。
【0023】
しかしながら本実施の形態では、船橋構造物7の一部である残部72が、ファウンデーションデッキ9の下部に位置している分、船橋構造物7の主要部分71の船幅方向の寸法及び上下方向の寸法を変えなくても、ファウンデーションデッキ9よりも船長方向前方に出る船橋構造物7の寸法L1を小さくすることができる。
図1には、船橋構造物7の船幅方向寸法及び上甲板5からの上方向寸法に設計上限寸法が予め定められている場合に、ファウンデーションデッキ9の船長方向の前方に船橋構造物7全体を作ったと仮想したときの仮想船橋構造物の船長方向寸法L0を示してある。L0>L1の関係から判るように、本実施の形態によれば、主要部分71の船長方向の寸法が、船橋構造物7の残部72の体積相当分だけ短くなる。このようにすれば、ファウンデーションデッキ9と船橋構造物7を含めた設備の上甲板5上の占有面積を従来よりも小さくすることができる。その結果、貨物区画19を従来の重油等を航行用の主燃料とする船舶と同等の貨物区画容積を確保することができる。
【0024】
以上、本発明の実施の形態を図面によって説明してきたが、具体的な構成は前述した実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。例えば、船舶1を大型のばら積み貨物船に適用した例を説明したが、コンテナ船、タンカー等の各種船舶に適用しても良いのは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明によれば、船橋構造物の一部が、ファウンデーションデッキの下部に位置している分、船橋構造物の主要部分の船幅方向の寸法及び上下方向の寸法を変えなくても、ファウンデーションデッキよりも船長方向前方に出る船橋構造物の寸法を小さくすることができるので、ファウンデーションデッキと船橋構造物を含めた設備の上甲板上の占有面積を従来よりも小さくすることができる。
【符号の説明】
【0026】
1 船舶
3 船体
5 上甲板
7 船橋構造物
71 主要部分
72 残部
9 ファウンデーションデッキ
11,13 サドル
12,14 支持構造物
15 液化ガス燃料用タンク
17 機関室
19 貨物区画
【要約】
【課題】船橋構造物とファウンデーションデッキの上甲板上の占有面積を小さくできる液化ガス燃料用タンクを備えた船舶を提供する。
【解決手段】船尾側の上甲板5上に設けられた船橋構造物7と、船橋構造物7の後方の上甲板5上に設けられたファウンデーションデッキ9の上にサドル11,13を介して液化ガス燃料用タンク15を配置する。船橋構造物7の主要部分71がファウンデーションデッキ9の船長方向の前方に位置しており、当該係る分に連続する船橋構造物7の残部72がファウンデーションデッキ9の下部に位置している。
【選択図】
図2