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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-05
(54)【発明の名称】圧縮機および空気調和装置
(51)【国際特許分類】
   F04C 15/00 20060101AFI20230928BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
F04C15/00 G
F04C29/00 H
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023085880
(22)【出願日】2023-05-25
【審査請求日】2023-05-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】316011466
【氏名又は名称】日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】弁理士法人MIP
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏介
【審査官】丹治 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-169827(JP,A)
【文献】特開2023-071508(JP,A)
【文献】米国特許第05701668(US,A)
【文献】特開2014-034898(JP,A)
【文献】特開昭61-053474(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111287971(CN,A)
【文献】特開2009-264134(JP,A)
【文献】特開平11-125189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/00-39/16
F04C 23/00-29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機と、
前記電動機により回転し、偏心部を備えた回転軸と、
前記回転軸を回転可能に支持する第1および第2の軸受と、前記第1および第2の軸受とともに圧縮室を構成し、前記圧縮室内で回転する前記偏心部により流体を圧縮する中空の筒状体とを含み、前記電動機の一方の側に配置される圧縮機構と、
前記回転軸の電動機側に設けられ、電動機側に配置される前記第1の軸受との間で前記回転軸の軸方向の荷重を受ける円筒形部材と
を含み、
前記円筒形部材が、前記回転軸の断面の中心に対し、前記一方の側にある圧縮室内で回転する前記偏心部の重心がずれている方向と同一方向に重心がずれていることを特徴とする、圧縮機。
【請求項2】
電動機と、
前記電動機により回転し、偏心部を備えた回転軸と、
前記回転軸を回転可能に支持する第1および第2の軸受と、前記第1および第2の軸受とともに圧縮室を構成し、前記圧縮室内で回転する前記偏心部により流体を圧縮する中空の筒状体とを含み、前記電動機の一方の側に配置される圧縮機構と、
前記回転軸の電動機側に設けられ、電動機側に配置される前記第1の軸受との間で前記回転軸の軸方向の荷重を受ける円筒形部材と
を含み、
前記圧縮機構は、複数の圧縮室を有し、
前記円筒形部材が、前記回転軸の断面の中心に対し、前記複数の圧縮室のうち前記一方の側にある圧縮室内で回転する前記偏心部の重心がずれている方向と同一方向に重心がずれていることを特徴とする、圧縮機。
【請求項3】
前記第1の軸受の一端の端面と前記円筒形部材との間に、回転自在で、中央に前記回転軸が挿通可能な穴を有する平板を備える、請求項1または2に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記第1の軸受の一端の端面と前記円筒形部材との間に、前記円筒形部材を滑動可能にする滑動手段を備える、請求項1または2に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記電動機が、前記円筒形部材に対向する面を有し、前記面が、前記円筒形部材に隣接する、請求項1または2に記載の圧縮機。
【請求項6】
前記回転軸は、該回転軸の軸方向に延び、一端から吸い込んだ潤滑油が流れる空洞を有し、前記空洞に対して垂直方向に延び、前記第1の軸受の一端の端面と前記円筒形部材との間に前記潤滑油を供給するための穴を有する、請求項1または2に記載の圧縮機。
【請求項7】
前記電動機は、前記一方の側に切欠部を有し、前記第1の軸受の一端が前記切欠部内に挿入され、前記円筒形部材が前記第1の軸受の一端の端面に隣接して配置される、請求項1または2に記載の圧縮機。
【請求項8】
圧縮機を備える空気調和装置であって、
前記圧縮機が、
電動機と、
前記電動機により回転し、偏心部を備えた回転軸と、
前記回転軸を回転可能に支持する第1および第2の軸受と、前記第1および第2の軸受とともに圧縮室を構成し、前記圧縮室内で回転する前記偏心部により流体を圧縮する中空の筒状体とを含み、前記電動機の一方の側に配置される圧縮機構と、
前記回転軸の電動機側に設けられ、電動機側に配置される前記第1の軸受との間で前記回転軸の軸方向の荷重を受ける円筒形部材と
を含み、
前記円筒形部材が、前記回転軸の断面の中心に対し、前記一方の側にある圧縮室内で回転する前記偏心部の重心がずれている方向と同一方向に重心がずれていることを特徴とする、空気調和装置。
【請求項9】
圧縮機を備える空気調和装置であって、
前記圧縮機が、
電動機と、
前記電動機により回転し、偏心部を備えた回転軸と、
前記回転軸を回転可能に支持する第1および第2の軸受と、前記第1および第2の軸受とともに圧縮室を構成し、前記圧縮室内で回転する前記偏心部により流体を圧縮する中空の筒状体とを含み、前記電動機の一方の側に配置される圧縮機構と、
前記回転軸の電動機側に設けられ、電動機側に配置される前記第1の軸受との間で前記回転軸の軸方向の荷重を受ける円筒形部材と
を含み、
前記圧縮機構は、複数の圧縮室を有し、
前記円筒形部材が、前記回転軸の断面の中心に対し、前記複数の圧縮室のうち前記一方の側にある圧縮室内で回転する前記偏心部の重心がずれている方向と同一方向に重心がずれていることを特徴とする、空気調和装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機および空気調和装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気調和装置には、1段もしくは多段の圧縮機が用いられる。例えば、2段圧縮機は、2つの圧縮機構を有し、2つの圧縮機構は、電動機(モータ)の一方の側で上下に積み重ねられるか、モータの両側に1つずつ配置される。
【0003】
圧縮機としてロータリ圧縮機を用いる場合、モータを構成するロータおよび回転軸(シャフト)の自重、磁気吸引力によるシャフトの軸方向への荷重、圧縮荷重を支え、ロータの振れ回りによるシャフトの倒れ込みを防止するための機構が必要となる。従来においては、圧縮機構を構成する副軸受の端面と、シャフトに設けられる偏心部(ピン部)の副軸受側の端面との摺動面(スラスト面)でシャフトを支持している。
【0004】
ロータリ圧縮機が大型化すると、上記荷重等が増大し、スラスト面に加わる荷重と応力が増大していく。この応力を低減するため、ピン部の下側の端面の面積を拡大する対策を取ることができるが、圧縮室内であり、拡大できる寸法に制限がある。
【0005】
ロータの振れ回りによる影響を抑制する目的で、モータの上下に軸受を有し、上下の軸受によりシャフトの軸方向の両端を支持する構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-132353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の従来の技術では、モータの上下に軸受を設ける必要があり、部品点数が多くなることから、部品点数の増加を抑えつつ、電動機の振れ回りによる影響を抑制することはできないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み、電動機と、
電動機により回転し、偏心部を備えた回転軸と、
回転軸を回転可能に支持する第1および第2の軸受と、第1および第2の軸受とともに圧縮室を構成し、圧縮室内で回転する偏心部により流体を圧縮する中空の筒状体とを含み、電動機の一方の側に配置される圧縮機構と、
回転軸の電動機側に設けられ、電動機側に配置される第1の軸受との間で回転軸の軸方向の荷重を受ける円筒形部材と
を含む、圧縮機が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コストの増大を抑えつつ、電動機の振れ回りによる影響を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係る空気調和装置の構成例を示した図。
図2】空気調和装置に用いられる圧縮機にかかる荷重およびスラスト面について説明する図。
図3】本実施形態に係る圧縮機の第1の構成例を示した図。
図4】本実施形態に係る圧縮機の第2の構成例を示した図。
図5】本実施形態に係る圧縮機の第3の構成例を示した図。
図6】本実施形態に係る圧縮機の第4の構成例を示した図。
図7】本実施形態に係る圧縮機の第5の構成例を示した図。
図8】本実施形態に係る圧縮機の第6の構成例を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本実施形態に係る空気調和装置の構成例を示した図である。空気調和装置10は、空気調和を行う空間内(室内)に設置される室内機11と、室外に設置される室外機20とを含み、流体として冷媒を室内機11と室外機20との間を循環させ、室内の空気と熱交換させることにより空気調和を行う。
【0012】
室内機11と室外機20は、それぞれ2台以上で構成されていてもよく、室内機11は、1台の室外機20に対し、2台以上接続されていてもよい。冷媒は、ハイドロフルオロカーボン(HFC)やハイドロフルオロオレフィン(HFO)等を用いることができる。HFCとしては、R32(CH)、R410A(CH+CHF)等を用いることができ、HFOとしては、R1234yf(CFCF=CH)等を用いることができる。
【0013】
室内機11は、室内熱交換器12と、室内ファン13と、室内ファン用駆動モータ14とを備える。室内ファン13は、室内ファン用駆動モータ14により駆動し、室内の空気を取り込み、室内熱交換器12へ送り込む。室内熱交換器12は、内部に冷媒が流通する複数本の伝熱管を有し、送り込まれた空気が複数本の伝熱管の表面に接触して冷媒との間で熱交換を行うように構成されている。室内熱交換器12により熱交換された空気は、室内へ送出される。
【0014】
室内機11は、そのほか、室内温度等を計測するための各種センサや、冷媒を減圧し、膨張させる弁であって、冷媒の流量を制御することが可能な室内膨張弁等を備えることができる。
【0015】
室外機20は、圧縮機21と、四方弁22と、室外膨張弁23と、室外熱交換器24と、室外ファン25と、室外ファン用駆動モータ26とを備える。圧縮機21は、アキュームレータ27を含み、圧縮機用駆動モータにより駆動し、アキュームレータ27から低圧のガス冷媒を吸引し、昇圧して高圧のガス冷媒として吐出する。アキュームレータ27は、過渡時の圧縮機21への液戻りを防ぎ、液を分離するための容器であり、冷媒を適度な乾き度に調整する。乾き度は、蒸気と微小液滴との混合状態を示す湿り蒸気中における蒸気の占める割合である。
【0016】
四方弁22は、空気調和装置10の運転状態(運転モード)に応じて、冷媒が流れる方向を切り替える弁である。運転モードは、冷房モード、暖房モード、送風モード等である。室外膨張弁23は、高圧の冷媒を減圧し、膨張させる弁であって、冷媒の流量を制御することが可能な弁である。室外ファン25は、室外ファン用駆動モータ26により駆動し、室外の空気を取り込み、室外熱交換器24へ送り込む。室外熱交換器24も、室内熱交換器12と同様、内部に冷媒が流通する複数本の伝熱管を有し、送り込まれた空気が複数本の伝熱管の表面に接触して冷媒との間で熱交換を行うように構成されている。室外熱交換器24により熱交換された空気は、室外へ送出される。
【0017】
室外機20は、制御装置28をさらに備える。制御装置28は、圧縮機21、四方弁22、室外膨張弁23、室内ファン用駆動モータ14、室外ファン用駆動モータ26と接続され、これらの制御を行う。制御装置28は、圧縮機21の回転数、室外膨張弁23の開度、室内ファン用駆動モータ14の回転数、室外ファン用駆動モータ26の回転数等を制御する。制御装置28は、各種センサにより検出された情報に基づき、これらの制御を行うことができる。
【0018】
冷房モードでは、室内熱交換器12を蒸発器とし、室外熱交換器24を凝縮器として利用し、圧縮機21、四方弁22、室外熱交換器24、室外膨張弁23、室内熱交換器12、四方弁22、アキュームレータ27、圧縮機21の順に系内に封入された冷媒を循環させる。暖房モードでは、その反対に、室内熱交換器12を凝縮器とし、室外熱交換器24を蒸発器として利用し、圧縮機21、四方弁22、室内熱交換器12、室外膨張弁23、室外熱交換器24、四方弁22、アキュームレータ27、圧縮機21の順に系内に封入された冷媒を循環させる。
【0019】
ここでは、圧縮機21を備える装置として、空気調和装置10を例に挙げたが、これに限定されるものではなく、冷凍機やチラーユニット等であってもよい。
【0020】
図2は、空気調和装置10に用いられる圧縮機21にかかる荷重およびスラスト面について説明する図である。圧縮機21は、ロータリ圧縮機であり、電動機としてモータ30と、モータ30により回転し、偏心部(ピン部)31を備えた回転軸としてシャフト32と、圧縮機構とを含む。圧縮機21は、密閉された容器33内に、モータ30、シャフト32、圧縮機構が収納される。
【0021】
圧縮機構は、シャフト32を回転可能に支持する第1の軸受として主軸受34および第2の軸受として副軸受35と、主軸受34および副軸受35とともに圧縮室36を構成し、圧縮室36内で回転するピン部31により流体を圧縮する中空の筒状体としてシリンダ37とを含む。圧縮機構は、モータ30の一方の側に配置される。
【0022】
モータ30は、中空円筒状の固定子(ステータ)30aと、ステータ30a内に回転可能に配設され、磁石として永久磁石を備える回転子(ロータ)30bとを含む。シャフト32は、シャフト32の長手方向(軸方向)の一方の側から見て、ロータ30bの中心に配設され、ロータ30bの回転に伴って回転する。
【0023】
容器33は、断面が円形で一方に長い形状の中空の容器であり、その断面の中心の位置にシャフト32が配設される。シャフト32は、容器33の長手方向に沿ってモータ30の一方の側へ延び、モータ30の一方の側に配設された圧縮機構と連結される。
【0024】
圧縮機構は、圧縮室36を、ピン部31が挿入されるローラとベーン38とにより2つの空間に仕切り、圧縮室36内の一方の空間に流体としての冷媒を取り込み、シャフト32を中心としてローラがシリンダ37の内壁に接しながら偏心して回転することにより、その一方の空間の体積が縮小し、その一方の空間に取り込んだ冷媒を圧縮する。ベーン38は、先端がローラに常に当接した状態で維持されるように、末端にはバネ等の弾性部材39が設けられ、ローラへ向けて常に押圧した状態に維持される。
【0025】
圧縮機構は、吸込ノズル40を介して冷媒を取り込み、圧縮室36内で圧縮した冷媒を吐出弁を介してモータ30と主軸受34との間の空間41に吐出する。冷媒は、モータ30を構成するステータ30aとロータ30bとの間の隙間等を介してロータ30b上の空間42へ送られ、容器33の頂部に設けられる吐出ノズル43から吐出される。
【0026】
モータ30は、容器33内の長手方向の略中央位置に配置され、圧縮機構は、モータ30の一方の側、例えば容器33を吐出ノズル43がある方を上側に向けて配置した場合、モータ30の下側に配置される。圧縮機21は、圧縮機構が主軸受34と副軸受35と1つのシリンダ37とから構成され、圧縮室36が1つのみである1段圧縮機であってもよいし、主軸受34と副軸受35と複数のシリンダ37と各シリンダ37間に挟持される隔壁板44とから構成され、複数の圧縮室36を有する多段圧縮機であってもよい。図2に示す例では、圧縮機21は、隔壁板44を挟んで上下に2つの圧縮室36を有する2段圧縮機とされている。
【0027】
シャフト32の上側には、モータ30のロータ30bが配設され、シャフト32の下側には、上下に並んで各圧縮室36内に1つずつで、計2つのピン部31が設けられる。シャフト32およびロータ30bの自重等の軸方向に作用する力(スラスト)は、副軸受35の上側端面と、下側のピン部31の下側端面との摺動面をスラスト面45とし、スラスト面45で支持している。図2には、スラスト面45を、色を付して拡大して示している。
【0028】
ロータ30bには、その内側で回転するシャフト32に対し、シャフト32から離れる方向である外向きの力(ロータ遠心力)が作用する。一方、シャフト32が備えるピン部31には、ベーン38によりロータ遠心力とは反対の内向きの力(圧縮荷重)が作用する。
【0029】
このため、シャフト32の下側部分は、ベーン38により一定の位置で回転(自転)するが、シャフト32の上側部分は、ベーン38のような位置を固定する部材が存在しないため、自転に加え、シャフト32の軸中心線の周りを、円を描くように旋回(公転)する。このような自転に加えて、公転を行うような運動は、振れ回りと呼ばれる。シャフト32の上側部分には、重量物であるロータ30bが取り付けられるため、その振れ回り(ロータ振れ回り)が大きくなる。ロータ振れ回りのよる影響でシャフト32が傾くと、シャフト32の倒れ込みが発生するおそれがあるが、上記のスラスト面45により、その倒れ込みを防止している。
【0030】
ところで、ロータリ圧縮機は、構造がシンプルで安価であることから、適用を拡大するべく、室内機と室外機がセットになったパッケージエアコン(PAC)等への搭載に向けて大型化が検討されている。ロータリ圧縮機を大型化するに際して、以下の問題がある。
【0031】
(1)ロータ30bおよびシャフト32の重量、ロータ軸方向の磁気吸引力が増加し、軸方向の荷重が増大する。
(2)スラスト面45である副軸受35の上側端面と各圧縮室36との距離が増加する。
(3)スラスト面45である副軸受35の上側端面とロータ30bとの距離が増加する。
(4)ロータ30bの重量や径方向への磁気吸引力が増大し、ロータ振れ回りが増大する。
【0032】
従来においては、副軸受35の上側端面と摺動するピン部31の下側端面の面積を拡大する対策が行われてきたが、圧縮室36内のことであって、その寸法にも制限があるため、それだけでは対策が不十分になる可能性がある。
【0033】
図2を参照してみると、副軸受35の上側端面と、ピン部31の下側端面とのスラスト面45だけで支持する構造であるため、荷重が1つのスラスト面45に集中し、スラスト面45がロータ30bから離れた位置にあるため、ロータ振れ回りによる影響を受けやすい構造であることがわかる。したがって、スラスト面を増やして荷重を分散させ、増やすスラスト面が圧縮室36外のロータ30bに近い位置にあれば、ロータ振れ回りによる影響を受けにくくなり、上記(1)~(4)の問題を解決することができるものと考えられる。また、モータ30の一方の側にのみで支持する構造とすれば、他方の側にも副軸受やピン部を設けて支持する必要がなくなり、部品点数の増加を抑えることができ、コストの増大を抑えることができる。
【0034】
図3は、本実施形態に係る圧縮機の第1の構成例を示した図である。圧縮機21は、ロータリ圧縮機であり、図2に示した構成とほぼ同じ2段圧縮機であるため、同じ構成であるモータ30等の説明については省略する。これは、以降の構成例の説明においても同様である。
【0035】
ロータ30bは、ステータ30aの内側に離間して配置され、その中心にシャフト32が挿入され、シャフト32の一方の側(図3に向かってシャフト32の上側)に連結される。ロータ30bの下側には、圧縮機構が離間して配置され、シャフト32の下側に連結される。圧縮機構を構成する主軸受34の上端は、シャフト32の軸方向に沿って上側に延び、ロータ30bの下部に形成された、シャフト32が挿入される挿入孔46の径より拡径して切り欠いた切欠部47に挿入されている。
【0036】
切欠部47は、その内径が、切欠部47に挿入される主軸受34の上端の外径より大きく形成されている。これは、容器33に固定される主軸受34に対し、ロータ30bが自由に回転できるようにするためである。ここでは、ロータ30bの下部に切欠部47が形成され、主軸受34の上端が切欠部47に挿入される構造となっているが、この構造に限定されるものではなく、ロータ30bに切欠部47が形成されていなくてもよい。また、切欠部47は、ロータ30bに内蔵される磁石が露出しない範囲で、その大きさを変更することができる。
【0037】
圧縮機21は、シャフト32のモータ30側に設けられ、モータ30側に配置される主軸受34の上端端面上で摺動し、シャフト32の軸方向の荷重を受ける円筒形部材50を備える。円筒形部材50は、リング状の部材で、中央の穴にシャフト32を圧入することによりシャフト32の軸方向の所定位置に固定される。ここでは、円筒形部材50を圧入によりシャフト32に固定しているが、固定方法は、この方法に限定されるものではない。
【0038】
円筒形部材50は、図3に示すように、主軸受34の平坦な上端端面に隣接する平坦な底面を有し、シャフト32とともに回転する。図3に示す例では、主軸受34の上端端面と円筒形部材50の底面とのスラスト面51と、下方の副軸受35の上側の端面とピン部31の下側の端面とで形成されるスラスト面45との2つの面で、シャフト32を支持している。
【0039】
スラスト面51は、モータ30の近くに形成されるため、ロータ振れ回りによるモーメントを縮小することができる。図3に示す例では、スラスト面51が、モータ30の近くではなく、モータ30内、すなわちロータ30bの切欠部47内に形成されるため、さらにロータ振れ回りを抑制することができる。
【0040】
また、スラスト面51は、圧縮室36の外に形成されるため、ピン部31の寸法制限を緩和することができる。
【0041】
このように、スラスト面45、51で支持することで、ロータ振れ回しによる荷重を抑制しつつ、スラスト面の面積を拡大して面圧を低減し、信頼性の高い圧縮機を提供することが可能となる。
【0042】
なお、主軸受34は、回転せずに固定されるため、円筒形部材50が摺動することになる。このような摺動部分は、摩擦による発熱や摩耗が発生し、圧縮機21の故障の原因となる。このため、シリンダ37とベーン38、シリンダ37とローラ、シャフト32と主軸受34、シャフト32と副軸受35との間等と同様に、発熱や摩耗を低減させるべく、容器33の底、すなわち圧縮機構のさらに下側に貯留される潤滑油(冷凍機油)が、主軸受34の上端端面と円筒形部材50の底面との間に供給される。主軸受34の上端端面と円筒形部材50の底面との間への潤滑油の供給は、主軸受34の上端端面と円筒形部材50の底面との間の隙間と、シャフト32と主軸受34との間の隙間とが連続していることから、シャフト32と主軸受34との間を介して行うことができる。
【0043】
円筒形部材50は、ロータ30bの切欠部47の側壁に、円筒形部材50の外周面が摺動しないように、円筒形部材50の外径が、切欠部47の内径より小さくなっている。
【0044】
図4は、本実施形態に係る圧縮機の第2の構成例を示した図である。図4に示す圧縮機21は、図3に示した圧縮機21とほぼ同様の構成であるが、円筒形部材50と主軸受34の上端端面との間に、回転自在な平板52を備えている。
【0045】
平板52は、ワッシャーのような、円形で一定の厚さを有する平板で、中央にシャフト32が挿通可能な穴を有している。平板52の外径は、主軸受34の上端端面の外径とほぼ同じで、中央の穴は、シャフト32の外径より大きい。このため、平板52は、円筒形部材50の回転に伴って自在に回転する。
【0046】
円筒形部材50は、シャフト32に固定されるため、シャフト32の回転に伴って回転する。一方で、主軸受34は固定された状態である。平板52を設けない場合、スラスト面51の潤滑不足等により円筒形部材50が回転しにくくなると、円筒形部材50を強制的に回転させようとしてシャフト32が傾きやすくなる。円筒形部材50は、シャフト32のわずかな傾きでも、主軸受34の上端端面に円筒形部材50の一部しか接触しなくなり、主軸受34の上端端面に荷重をかける面積が小さくなる。すると、下側のスラスト面45で荷重を受けることになり、面圧が大きくなる。
【0047】
平板52を設けた場合、平板52が回転自在であるため、円筒形部材50が回転しにくくなるのを緩和することができる。このため、シャフト32の傾きを抑制することができ、その結果、円筒形部材50の底面全体で、平板52を介して主軸受34の上端端面に荷重をかけることができ、面圧を低減することができる。
【0048】
図5は、本実施形態に係る圧縮機21の第3の構成例を示した図である。図5に示す圧縮機21は、図4に示した圧縮機21とほぼ同様の構成であるが、円筒形部材50と主軸受34の上端端面との間に、回転自在な平板52に代えて、円筒形部材50を滑動可能にする滑動手段として玉軸受53を備えている。ここでは、滑動手段として軸受を使用する例について説明するが、円筒形部材50を滑らかに回転させることができれば、滑動手段は、軸受に限定されるものではなく、円形に繋がるスライドレールのようなものであってもよい。
【0049】
回転自在な平板52でも、円筒形部材50が回転しにくくなるのを緩和することができるが、緩和することができるのみで、円筒形部材50の滑らかな回転を保証し得ない。すると、シャフト32に傾きが生じ、主軸受34の上端端面に荷重をかける面積が小さくなって、下側のスラスト面45で荷重を受けることになり、面圧が大きくなることが想定される。
【0050】
図5に示す例のように、平板52に代えて玉軸受53を設けることで、円筒形部材50の滑らかな回転が保証され、より確実に、シャフト32の傾きを抑制し、円筒形部材50の底面全体で、玉軸受53を介して主軸受34の上端端面に荷重をかけることができ、面圧を低減することができる。
【0051】
図6は、本実施形態に係る圧縮機21の第4の構成例を示した図である。図5に示す圧縮機21は、図3に示した圧縮機21とほぼ同様の構成であるが、円筒形部材50の上端が、ロータ30bの下端、この例では切欠部47の底面に接している。なお、切欠部47の底面とは、図6の下側から上側に向けて形成されている切欠部47の上側にある平坦な面であって、主軸受34の上端端面に対向する面である。
【0052】
図3に示した例のように、円筒形部材50の上端が、切欠部47の底面から離間している場合、円筒形部材50を、ロータ30bの位置決めに使用することはできない。また、ロータ30bを、円筒形部材50の固定に使用することはできない。
【0053】
図6に示す構造の場合、円筒形部材50の上端がロータ30bの下端、すなわち切欠部47の底面に接するまで押し込み、その位置がロータ30bの位置となることから、簡単にロータ30bの位置決めに使用することができる。また、円筒形部材50の上端が、切欠部47の底面に接するまで押し込むことで、ロータ30bを固定することができるため、ロータ30bを円筒形部材50の固定に使用することができる。
【0054】
図7は、本実施形態に係る圧縮機21の第5の実施例を示した図である。図7に示す圧縮機21は、図3に示した圧縮機21とほぼ同様の構成である。図3に示した構造の圧縮機21においても、シャフト32と主軸受34との間に供給した潤滑油が、シャフト32の外側面に沿って上昇して流れ、主軸受34の上端端面と円筒形部材50との間に流れ込み、スラスト面51を潤滑することが可能である。
【0055】
しかしながら、シャフト32と主軸受34との間の狭い通路を通して、しかも、鉛直方向の上側へ向けて十分な量の潤滑油を供給することは難しい。
【0056】
潤滑油は、容器33の副軸受35の下側の底部に貯留され、シャフト32の下端が潤滑油に浸積されていて、シャフト32の回転により空洞のシャフト32内を吸い上げられる。シャフト32の空洞内には、螺旋状の溝が形成され、シャフト32の回転に伴って螺旋状の溝に沿って、シャフト32の下端から上端へ向けて潤滑油が吸い上げられる。シャフト32の軸方向の所定位置には、軸方向に対して垂直な方向である水平方向に向けて形成された横穴が設けられ、横穴を通して各摺動部へ供給される。各摺動部は、上記のシリンダ37とベーン38、シリンダ37とローラ、シャフト32と主軸受34、シャフト32と副軸受35との間であって、2つの部材が摺動する部分である。
【0057】
主軸受34の上端端面と円筒形部材50との間も、主軸受34の上端端面と円筒形部材50とが摺動する部分であるため、シャフト32の一端から他端、すなわち下端から上端へ軸方向に延びる空洞に対し、主軸受34の上端端面と円筒形部材50との間へ向けて延びる横穴54を設け、横穴54を通して十分な量の潤滑油を供給することができる。
【0058】
横穴54の径は、主軸受34の上端端面と円筒形部材50との間へ十分な量の潤滑油を供給することができる径として決定することができる。
【0059】
図8は、本実施形態に係る圧縮機21の第6の実施例を示した図である。図8に示す圧縮機21は、図7に示した圧縮機21とほぼ同様の構成であるが、円筒形部材50が回転対称ではなく、シャフト32の下側のピン部31の重心位置に応じて、円筒形部材50の重心がずれるような円筒形部材50の形状等とされる。
【0060】
図8に示す例では、下側のピン部31は、向かって左側が突出し、シャフト32の中心軸に対して重心が左側にずれている。このため、円筒形部材50は、円筒形部材50の重心が同じ左側にずれるような形状等とされる。例えば、円筒形部材50の、シャフト32の軸方向の長さである厚さが、右側より左側が厚い形状等とされる。
【0061】
円筒形部材50から上側のピン部31までの距離をLとし、円筒形部材50から下側のピン部31までの距離をLとして、上側と下側のピン部31に作用するモーメントを考える。上側のピン部31は、向かって右側が突出しているため、右側へ重心がずれ、右側へ向けて回転するようにモーメントが働く。一方、下側のピン部31には、向かって左側が突出しているため、左側へ重心がずれ、左側へ向けて回転するようにモーメントが働く。モーメントとしては、距離が長いほど大きくなることから、L<Lで下側のピン部31の方が大きくなる。したがって、全体として考えれば、2つのピン部31は、左側へ向けて回転するようにモーメントが働くことになる。
【0062】
2つのピン部31の回転を抑止するには、円筒形部材50を同じく左側へ向けて回転するモーメントを働かせる必要がある。円筒形部材50の左側の厚さを右側より厚くする等して、左側へ重心をずらすことで、円筒形部材50を左側へ向けて回転するモーメントを働かせることができる。なお、ピン部31が1つの1段圧縮機では、当該ピン部31の重心がずれている方向と同一方向に、円筒形部材50の重心がずれるような円筒形部材50の形状等とすればよい。
【0063】
このようにして、円筒形部材50にバランスウェイトの働きをもたせることができ、ロータ30bにもたせるべき、ロータバランスウェイトを縮小することができる。
【0064】
円筒形部材50の形状は、下側のピン部31の重心位置等によって適宜決定することができる。なお、円筒形部材50の形状は、下側のピン部31の重心がある方向と同じ方向に重心をずらすことができれば、いかなる形状であってもよい。また、重心をずらすことができれば、図8に示すように左側を厚く、右側を薄くした形状に限らず、円筒形部材50の材質を左側と右側とで変える等してもよい。
【0065】
以上に説明してきたように、本発明の圧縮機および空気調和装置を提供することにより、コストの増大を抑えつつ、電動機の振れ回りの影響を抑制することが可能となる。これにより、圧縮機の大型化が可能となり、空気調和装置の大型化も容易になる。
【0066】
これまで本発明の圧縮機および空気調和装置について上述した実施形態をもって詳細に説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態や、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0067】
したがって、本発明によれば、(1)電動機と、電動機により回転し、偏心部を備えた回転軸と、回転軸を回転可能に支持する第1および第2の軸受と、第1および第2の軸受とともに圧縮室を構成し、圧縮室内で回転する偏心部により流体を圧縮するシリンダとを含み、電動機の一方の側に配置される圧縮機構と、回転軸の電動機側に設けられ、電動機側に配置される第1の軸受との間で回転軸の軸方向の荷重を受ける円筒形部材とを含む、圧縮機を提供することができる。
【0068】
本発明によれば、(2)第1の軸受の一端の端面と円筒形部材との間に、回転自在で、中央に回転軸が挿通可能な穴を有する平板を備える、上記(1)に記載の圧縮機を提供することができる。
【0069】
本発明によれば、(3)第1の軸受の一端の端面と円筒形部材との間に、円筒形部材を滑動可能にする滑動手段を備える、上記(1)に記載の圧縮機を提供することができる。
【0070】
本発明によれば、(4)電動機が、円筒形部材に対向する面を有し、該面が、円筒形部材に隣接する、上記(1)~(3)のいずれかに記載の圧縮機を提供することができる。
【0071】
本発明によれば、(5)回転軸は、該回転軸の軸方向に延び、一端から吸い込んだ潤滑油が流れる空洞を有し、空洞に対して垂直方向に延び、第1の軸受の一端の端面と円筒形部材との間に潤滑油を供給するための穴を有する、上記(1)~(4)のいずれかに記載の圧縮機を提供することができる。
【0072】
本発明によれば、(6)電動機は、一方の側に切欠部を有し、第1の軸受の一端が切欠部内に挿入され、円筒形部材が第1の軸受の一端の端面に隣接して配置される、上記(1)~(5)のいずれかに記載の圧縮機を提供することができる。
【0073】
本発明によれば、(7)円筒形部材が、回転軸の断面の中心に対し、一方の側にある圧縮室内で回転する偏心部の重心がずれている方向と同一方向に重心がずれていることを特徴とする、上記(1)~(6)のいずれかに記載の圧縮機を提供することができる。
【0074】
本発明によれば、(8)圧縮機構が、複数の圧縮室を有し、円筒形部材が、回転軸の断面の中心に対し、複数の圧縮室のうち一方の側にある圧縮室内で回転する偏心部の重心がずれている方向と同一方向に重心がずれていることを特徴とする、上記(1)~(6)のいずれかに記載の圧縮機を提供することができる。
【0075】
本発明によれば、上記(1)~(8)のいずれかに記載の圧縮機を備える空気調和装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0076】
10…空気調和装置
11…室内機
12…室内熱交換器
13…室内ファン
14…室内ファン用駆動モータ
20…室外機
21…圧縮機
22…四方弁
23…室外膨張弁
24…室外熱交換器
25…室外ファン
26…室外ファン用駆動モータ
27…アキュームレータ
28…制御装置
30…モータ
30a…ステータ
30b…ロータ
31…ピン部
32…シャフト
33…容器
34…主軸受
35…副軸受
36…圧縮室
37…シリンダ
38…ベーン
39…弾性部材
40…吸込ノズル
41、42…空間
43…吐出ノズル
44…隔壁板
45…スラスト面
46…挿入孔
47…切欠部
50…円筒形部材
51…スラスト面
52…平板
53…玉軸受
54…横穴
【要約】
【課題】 コストの増大を抑えつつ、電動機の振れ回りによる影響を抑制できる圧縮機および空気調和装置を提供すること。
【解決手段】 圧縮機21は、モータ30と、モータ30により回転し、ピン部31を備えたシャフト32と、シャフト32を回転可能に支持する主軸受34および副軸受35と、主軸受34および副軸受35とともに圧縮室36を構成し、圧縮室36内で回転するピン部31により流体を圧縮するシリンダ37とを含み、モータ30の一方の側に配置される圧縮機構と、シャフト32のモータ側に設けられ、モータ側に配置される主軸受34との間でシャフト32の軸方向の荷重を受ける円筒形部材50とを含む。
【選択図】 図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8