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特許7357200酸化チタン系材料、蓄放熱デバイス、及び酸化チタン系材料の製造方法
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  • 特許-酸化チタン系材料、蓄放熱デバイス、及び酸化チタン系材料の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】酸化チタン系材料、蓄放熱デバイス、及び酸化チタン系材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/04 20060101AFI20230929BHJP
   C09K 5/02 20060101ALI20230929BHJP
【FI】
C01G23/04 Z
C09K5/02
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019124065
(22)【出願日】2019-07-02
(65)【公開番号】P2021008390
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 嘉孝
(72)【発明者】
【氏名】椎 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】仲村 達也
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/054259(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/180759(WO,A1)
【文献】特開2004-156130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/04
C09K 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
五酸化三チタン粒子を含有する酸化チタン系材料であって、
前記五酸化三チタン粒子は、固相-固相間で相転移する相転移温度を有し、かつメジアン径D50が3μm以上であり、
前記五酸化三チタン粒子は、β相を含み、
前記β相は、加熱されることで第一の吸熱相転移温度でα相へ相転移し、かつ第一の吸熱量を吸熱し、
前記α相は、冷却されてβ相に相転移した後、再度加熱されると第二の吸熱相転移温度でα相へ相転移し、かつ第二の吸熱量を吸熱し、
前記第一の吸熱量よりも前記第二の吸熱量の方が大きい、
酸化チタン系材料。
【請求項2】
前記第二の吸熱量が20J/g以上である、
請求項に記載の酸化チタン系材料。
【請求項3】
前記第一の吸熱相転移温度よりも前記第二の吸熱相転移温度の方が低い、
請求項1又は2に記載の酸化チタン系材料。
【請求項4】
前記第二の吸熱相転移温度は、191℃以下である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の酸化チタン系材料。
【請求項5】
前記第一の吸熱量が20J/g以上である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の酸化チタン系材料。
【請求項6】
前記五酸化三チタン粒子のメジアン径D50が15μm以上である、
請求項1からのいずれか一項に記載の酸化チタン系材料。
【請求項7】
前記五酸化三チタン粒子のメジアン径D50が3μm以上15μm未満である、
請求項1からのいずれか一項に記載の酸化チタン系材料。
【請求項8】
請求項1からのいずれか一項に記載の酸化チタン系材料を備える、
蓄放熱デバイス。
【請求項9】
前記酸化チタン系材料の相転移温度で吸熱又は放熱する、
請求項に記載の蓄放熱デバイス。
【請求項10】
加熱又は冷却により生じる電気伝導率と熱伝導率とのうちいずれか一方又は両方の物性を検出する、
請求項8又は9に記載の蓄放熱デバイス。
【請求項11】
請求項1から7のいずれか一項に記載の五酸化三チタン粒子を含有する酸化チタン系材料の製造方法であり、
塊状の五酸化三チタンを粉砕する工程を含む、
酸化チタン系材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化チタン系材料、蓄放熱デバイス、及び酸化チタン系材料の製造方法に関する。より詳細には、酸化チタン系材料、この酸化チタン系材料を備える蓄放熱デバイス、及び酸化チタン系材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
五酸化三チタンは、加熱されることで固相-固相間の相転移を生じ、それに伴い吸熱する。五酸化三チタンは、この固相-固相間の相転移による吸熱の特性を利用して、蓄放熱材として用いることができる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2015/050269号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らは、種々の形態の五酸化三チタンの利用を検討し、粒子状の五酸化三チタンの吸熱特性を利用したデバイスの開発を試みた。
【0005】
しかし、発明者らが開発を進めたところ、粒子状の五酸化三チタンの相転移に伴う吸熱量は低く、安定した蓄放熱機能を有するデバイスを得られにくいことが判明した。
【0006】
本発明の課題は、五酸化三チタン粒子を含み、良好な吸熱特性を発揮しやすい酸化チタン系材料、及びこの酸化チタン系材料を備える蓄放熱デバイス、及び酸化チタン系材料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る酸化チタン系材料は、五酸化三チタン粒子を含有する。前記五酸化三チタン粒子は、固相-固相間で相転移する相転移温度を有し、かつメジアン径D50が3μm以上である。
【0008】
本開示の一態様に係る蓄放熱デバイスは、前記酸化チタン系材料を備える。
【0009】
本開示の一態様に係る酸化チタン系材料の製造方法は、五酸化三チタン粒子を含有する酸化チタン系材料の製造方法であり、塊状の五酸化三チタンを粉砕する工程を含む。
【発明の効果】
【0010】
本開示の酸化チタン系材料、及び蓄放熱デバイスによれば、五酸化三チタン粒子を含み、良好な吸熱特性を発揮しやすい。
【0011】
本開示の酸化チタン系材料の製造方法によれば、五酸化三チタン粒子を含み、良好な吸熱特性を発揮しやすい酸化チタン系材料が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本実施形態に係る酸化チタン系材料を加熱及び冷却した場合の温度と吸熱量との関係の一例を示すグラフである。
図2図2は、実施例1~6の酸化チタン系材料における五酸化三チタン粒子の各平均粒径(メジアン径D50)における吸熱量をプロットしたグラフである。
図3図3A~Cは、実施例1,2及び実施例4の五酸化三チタン粒子の粉砕後の状態の例を示すSEM画像である。図3Dは、実施例6の五酸化三チタン粒子の状態の例を示すSEM画像である。
図4図4A~Fは、実施例1~5及び比較例1の五酸化三チタン粒子の粒度分布の例を示すグラフである。
図5図5は、本実施の一態様の蓄放熱デバイスの例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施の一態様に係る酸化チタン系材料は、五酸化三チタン粒子を含有する。五酸化三チタン粒子は、固相-固相間で相転移する相転移温度を有し、かつメジアン径D50が3μm以上である。五酸化三チタン粒子のメジアン径が3μm以上であると、加熱による相転移に伴って吸熱し、更に吸熱状態の五酸化三チタンが放熱した後、再度加熱されると吸熱するという吸熱特性を有する。このため、本実施形態の酸化チタン系材料は、五酸化三チタンの粒子を含有していても、良好な吸熱特性を発揮しやすい。このため、酸化チタン系材料は、安定した蓄放熱機能を有する蓄放熱デバイス等に用いても、蓄放熱材料として安定して利用可能である。
【0014】
本実施形態の酸化チタン系材料について、具体的に説明する。
【0015】
五酸化三チタンには、結晶構造の違いにより、β型の単斜晶の結晶構造を有するβ-五酸化三チタン(以下、β相ともいう)、α型の直方晶の結晶構造を有するα-五酸化三チタン(以下、α相ともいう)、及びλ型の単斜晶の結晶構造を有するλ-五酸化三チタン(以下、λ相ともいう)がある。五酸化三チタン粒子は、β相が加熱されるとα相に相転移し、α相が冷却されるとβ相に相転移する。さらに、五酸化三チタン粒子は、再度β相が加熱されてから冷却されると、同様に相転移する。つまり、五酸化三チタン粒子を含有する酸化チタン系材料は熱可逆性を有する。
【0016】
本実施形態の五酸化三チタン粒子は、β相を含み、例えば図1に示される破線の熱的挙動のように、β相は、加熱されることで第一の吸熱相転移温度でα相へ相転移し、かつ第一の吸熱量を吸熱する。五酸化三チタン粒子は、更に第一の吸熱相転移温度で相転移したα相が冷却されてβ相に相転移した後、再度加熱されると、例えば図1に示される実線の熱的挙動のように、β相が第二の吸熱相転移温度でα相へ相転移し、かつ第二の吸熱量を吸熱する。そして、五酸化三チタン粒子の第一の吸熱量よりも第二の吸熱量の方が大きいことが好ましい。この場合、酸化チタン系材料は、五酸化三チタン粒子を含有していても、高い吸熱量を維持しうるため、良好な吸熱特性を発揮しやすい。
【0017】
ここで、「第一の吸熱相転移温度」とは、五酸化三チタン粒子のβ相が加熱により初めてα相に相転移する際の温度である。「第二の吸熱相転移温度」とは、五酸化三チタン粒子のβ相が加熱により少なくとも一度、α相に相転移し、かつ冷却されてα相からβ相に相転移した後、再度加熱されることでβ相からα相に相転移する際の温度である。また、「第一の吸熱量」とは、五酸化三チタン粒子のβ相が、五酸化三チタンのDSC(Differential scannning calorimetry)測定に基づく熱的挙動を示すグラフにおいて任意のベースラインを引いたときに第一の相転移温度で吸熱するときの吸熱カーブから計算される吸熱量のことをいい、「第二の吸熱量」とは、五酸化三チタン粒子のβ相が、DSC測定に基づく熱的挙動を示すグラフにおいて任意のベースラインを引いたときに第二の相転移温度で吸熱するときの吸熱カーブから計算される吸熱量のことをいう。第一の吸熱相転移温度と第二の吸熱相転移温度とを特に区別しない場合は、単に「吸熱相転移温度」ともいい、第一の吸熱量と第二の吸熱量とを特に区別しない場合は、単に「吸熱量」ともいう。なお、DSC測定は、適宜の測定装置を用いて測定することが可能であり、測定条件は、例えば後掲の実施例で提示する条件であってよい。
【0018】
本実施形態では、第一の吸熱相転移温度で吸熱する前の五酸化三チタン粒子のβ相と、第一の吸熱相転移温度で吸熱しα相を経た後に放熱して相転移した五酸化三チタン粒子のβ相とは、吸熱特性が異なる。本実施形態の五酸化三チタン粒子において、β相が第二の吸熱相転移温度で相転移してからα相に相転移し、更にα相が冷却されてβ相に相転移した後、再度加熱された場合、例えば加熱及び冷却による相転移を2回以上経た場合の吸熱相転移温度及び吸熱量は、第二の吸熱相転移温度及び第二の吸熱量とほぼ同等である。
【0019】
本実施形態において、五酸化三チタン粒子の第二の吸熱相転移温度は、第一の吸熱相転移温度よりも低い。第二の吸熱相転移温度は、例えば191℃以下である。この場合、酸化チタン系材料に、例えば200℃以上といった比較的高い温度に達する熱を与えたときに、第二の吸熱相転移温度を有する五酸化三チタン粒子は、より低い温度から熱を吸収することができる。
【0020】
本実施形態の酸化チタン系材料における五酸化三チタン粒子の第二の吸熱量は、20J/g以上である。このため、酸化チタン系材料は、良好な吸熱特性を発揮しうる。
【0021】
五酸化三チタン粒子の第一の吸熱量が20J/g以上であることも好ましい。この場合、酸化チタン系材料は、特に優れた吸熱特性を有することができる。そのため、酸化チタン系材料を第一の吸熱相転移温度を超える温度での加熱によって吸熱特性を制御しなくても、蓄放熱材料として利用しやすい。
【0022】
五酸化三チタン粒子の第二の吸熱量は、第一の吸熱量よりも多いことが好ましい。この場合、酸化チタン系材料は、優れた吸熱量を有する蓄放熱材料として好適に用いることができる。
【0023】
上記のような、酸化チタン系材料における五酸化三チタン粒子の吸熱特性は、五酸化チタン粒子の粒径を調整することにより実現可能である。
【0024】
本実施形態に係る酸化チタン系材料は、既に述べたとおり、五酸化三チタン粒子を含有する。五酸化三チタン粒子のメジアン径D50は3μm以上である。メジアン径D50とは、レーザー回折・散乱法により、体積基準で測定された粒度分布から算出され、その粒度分布における頻度の累計が50%となる平均粒子径である。メジアン径D50は、例えば日機装株式会社製のマイクロトラック粒度分布測定装置(型番 MT3000II)等の測定装置を用いて測定可能である。
【0025】
五酸化三チタン粒子のメジアン径D50は、15μm以上であることが好ましい。五酸化三チタン粒子のメジアン径D50が15μm以上であると、五酸化三チタン粒子の第一の吸熱量が、メジアン径15μm未満である場合に比較して、大きい。このため、酸化チタン系材料は、五酸化三チタン粒子が第一の吸熱相転移温度でのβ相からα相への相転移を経ていなくても、より高い吸熱量を達成でき、良好な吸熱特性を有する。このため、酸化チタン系材料は、蓄放熱材料として利用しやすい。また、この場合、例えば酸化チタン系材料を蓄放熱デバイスなどに適用するにあたって、熱履歴にばらつきを生じにくくすることができる。なお、五酸化三チタン粒子のメジアン径D50の上限は、500μm以下であれば好ましく、100μm以下であればより好ましい。
【0026】
また、五酸化三チタン粒子のメジアン径D50は3μm以上15μm未満である場合、第一の吸熱量が第二の吸熱量に比較して非常に小さい。このため、メジアン径D50は3μm以上15μm未満である五酸化三チタン粒子を含有する酸化チタン系材料は、放熱を経ることで、第二の吸熱相転移温度を超えて加熱されることにより、高い吸熱量を有しうる。このため、酸化チタン系材料は、上記吸熱特性に応じた応用が可能である。例えば、上記特性をもつ酸化チタン系材料を用いれば、2回以上の吸熱相転移温度を超える温度での加熱処理が必要な、例えばエポキシ樹脂及びシリコーン樹脂等といった熱硬化性樹脂の成分を含む樹脂材料において、1回目の加熱と2回目の加熱とで材料に与える熱量の制御ができうる。また、上記酸化チタン系材料を用いる場合、1回目と2回目の吸熱量(すなわち、第一の吸熱量及び第二の吸熱量)を評価することで、光学的な分析装置等によらなくても、酸化チタン系材料又は酸化チタン系材料を成分として含有する組成物の熱量を測定するだけで五酸化三チタン粒子のサイズを評価できる測定系としての利用も可能である。また、五酸化三チタン粒子のメジアン径D50が、3μm以上15μm未満であると、酸化チタン系材料を成形する際の加工性を向上させることも可能である。メジアン径D50が3μm以上15μm未満である場合に上記のような吸熱特性を示す理由は、例えば次のように考えられる。例えば、後述の製造方法について説明する粉砕工程等により、五酸化三チタン粒子の粒径が小さくなる過程で五酸化三チタン粒子が周囲から機械的エネルギーや熱エネルギーを受けることで、結晶格子が乱れ、熱的振動を起こすβ相の割合が低減し、相対的に吸熱可能な量が低下する。しかし、第一の吸熱相転移温度を経ると、α相となり、続いて放熱されると、結晶格子の乱れが回復したβ相となり、すなわち再び吸熱可能な状態に戻る。これにより、β相が第二の吸熱相転移温度を超える温度まで加熱されると、第二の吸熱量が増大しうる、と考えられる。五酸化三チタン粒子のメジアン径D50は3μm以上11μm以下であることもより好ましい。なお、五酸化三チタン粒子を含有する酸化チタン系材料について、粒径(メジアン径D50)と、吸熱特性との関係を確認した結果を、後掲の実施例で提示する。
【0027】
このように、本実施形態に係る酸化チタン系材料は、五酸化三チタン粒子の粒径によって、吸熱特性を異ならせることが可能であり、加熱及び冷却によって吸放熱を伴う相転移を繰り返し行わせることも可能である。このため、繰り返し吸放熱機能を有する蓄放熱材料として好適に用いることができる。また、酸化チタン系材料は、加熱及び冷却による熱を授受した温度及び熱量を含む熱履歴を記憶することができる。
【0028】
本実施形態に係る酸化チタン系材料は、本開示の効果を阻害しない限りにおいて、上記で説明したメジアン径D50が3μm以上の五酸化三チタン粒子以外の成分を含有してもよい。例えば、酸化チタン系材料は、加熱によりλ-五酸化三チタンに相転移する五酸化三チタン粒子を含有してもよい。また、例えば酸化チタン系材料は、他のチタンを含む酸化物を含んでもよく、チタンを含む酸化物以外の成分を含んでもよい。
【0029】
上記では、酸化チタン系材料を蓄放熱材料に適用する場合を例に挙げて説明したが、これに限らず、目的に応じて適宜の材料として適用することができ、例えば光学材料、半導体材料、及び電子材料等に用いてもよい。
【0030】
[酸化チタン系材料の製造方法]
本実施形態の酸化チタン系材料の製造方法について説明する。
【0031】
五酸化三チタン粒子を含有する酸化チタン系材料の製造方法であり、酸化チタン系材料の製造方法は、塊状の五酸化三チタンを粉砕する工程を含む。このため、酸化チタン系材料は、五酸化三チタン粒子の粒径に応じた吸放熱特性を有することができる。
【0032】
塊状の五酸化三チタンを粉砕する方法は、特に制限されないが、例えば遊星ボールミル、アトライターミル、ビーズミル、及びハンマーミル等が挙げられる。粉砕するにあたっては、乾式であってもよいし、湿式であってもよい。なお、「塊状」とは、粒子状ではない形状のことを意味し、塊状とは、例えば最大粒径が0.5mm以上であるものが挙げられる。
【0033】
以下、塊状の五酸化三チタンを湿式のボールミルで粉砕する場合を例に挙げて説明する。ただし、酸化チタン系材料の製造方法はこれに限られない。
【0034】
まず、適宜の寸法を有する、原料となる塊状の五酸化三チタンを用意する。原料となる塊状の五酸化三チタンは、化学反応等によって合成することで得られたものであってもよいし、市販されているものであってもよい。塊状の五酸化三チタンの形状及び寸法は特に制限されないが、例えば塊状の五酸化三チタンの各々の粒径が0.8mm以上4.0mm以下であってよい。原料を、例えばジルコニア製の容器の中に入れてから、水を添加する。
【0035】
続いて、容器内に、粉砕用のジルコニア製のボールを投入してから、容器に蓋をして、粉砕装置(例えば遊星型ボールミル)に配置する。ボールの個数、材質、寸法も適宜調整すればよい。粉砕装置としては、例えばフリッチュ製(型番P-5)の遊星ボールミル等を挙げることができる。粉砕装置の回転数及び処理時間を適宜調整することで、原料の五酸化三チタンを粉砕することができる。粉砕にあたっての条件は、例えば回転数150rpm以上200rpm以下とすることができる。回転数が150rpm以上であれば、塊状の五酸化三チタン粒子を効率よく粉砕することができる。また、粉砕の処理時間は、5分以上120分以下とすることができる。
【0036】
これにより、酸化チタン系材料における適宜の粒径を有する五酸化三チタン粒子が得られる。得られた五酸化三チタン粒子の平均粒径(メジアン径D50)は、既に説明したとおり、粒度分布測定によって得られた結果から算出される。本実施形態の酸化チタン系材料の製造方法で得られる五酸化三チタン粒子は、粉砕されることで適宜の平均粒径(メジアン径D50)を有することができる。
【0037】
[蓄放熱デバイス]
本実施形態に係る蓄放熱デバイス1の概要について説明する。
【0038】
蓄放熱デバイス1は、上記で説明した酸化チタン系材料を備える。蓄放熱デバイス1は、蓄放熱デバイス1の周囲にある熱を吸熱する機能を有する。すなわち、本実施形態の蓄放熱デバイス1は、吸熱可能であり、それにより吸収した熱を蓄えることができるため、熱を蓄える蓄熱装置、及び蓄放熱装置等の装置に適用可能である。この場合、蓄放熱デバイス1は、吸熱デバイスとして機能しうる。具体的には、蓄放熱デバイス1は、例えば周囲の熱が伝達されることにより、蓄放熱デバイス1の温度が上昇し、蓄放熱デバイス1における酸化チタン系材料がその相転移温度を超える温度に達すると、熱を吸収する。そして、蓄放熱デバイス1は、吸収した熱を蓄えうる。これにより、蓄放熱デバイス1は、蓄放熱デバイス1の周囲にある、例えば電子部品、電子デバイス、及び電子機器などの発熱部分から生じた熱により、電子部品、電子デバイス、及び電子機器等の温度が上昇した場合であっても、蓄放熱デバイス1が蓄熱することで、周囲の温度を高温にまで上昇することを抑制しうる。したがって、蓄放熱デバイス1は、周囲の発熱部品等の温度が上昇しすぎること(発熱による暴走など)を抑制可能である。
【0039】
蓄放熱デバイス1は、酸化チタン系材料が蓄熱した熱を放熱する機能を有することも好ましい。この場合、蓄放熱デバイス1は、放熱(発熱)デバイスとして機能しうる。このため、蓄放熱デバイス1は、例えば熱の供給を必要とする熱供給装置等に適用可能である。熱供給装置としては、例えば車両等に搭載される空調装置内の流体を加熱する流体加熱装置、内燃機関内を流動する作動流体を加熱する流体加熱装置、及び半導体装置等の流体流路における流体加熱装置等が挙げられる。蓄放熱デバイス1の放熱は、酸化チタン系材料に熱を与えることで蓄熱状態としたα相の五酸化三チタン粒子を冷却し、五酸化三チタン粒子が相転移する温度以上に冷却されることで達成しうる。なお、蓄熱状態のα相の五酸化三チタンは、上記のとおり、冷却されることで吸熱した熱を放熱しうるが、急冷されない限り、加熱時に相転移温度で吸熱した熱量をそのまま一気に放出するものではない。ここでいう、急冷とは、例えば冷却速度100℃/min以上で冷却する場合をいう。
【0040】
蓄放熱デバイス1における酸化チタン系材料の五酸化三チタン粒子は、吸熱して相転移する際に、物性変化が生じうる。このため、蓄放熱デバイス1は、五酸化三チタン粒子の物性変化を検出することで蓄放熱デバイス1の周囲の温度が相転移温度に達しているか否かを検知できる。このため、蓄放熱デバイス1を温度センサとしても利用可能であり、この場合、例えば蓄放熱デバイス1を、蓄放熱デバイス1を用いた検出結果に基づく制御動作を行う電子デバイス等の電子機器にも適用可能である。また、蓄放熱デバイス1は、相転移温度で熱を吸収するため、吸収する熱量を検知する対象としてもよい。この場合、酸化チタン系材料が蓄熱可能な熱エネルギーの総量(吸熱量)に対して、温度変化が生じた際の吸収・放出可能な熱エネルギーの量を検知することができる。すなわち、蓄放熱デバイス1は、熱量センサとしても利用可能である。なお、蓄放熱デバイス1の用途は前記のみに限られず、例えば蓄放熱デバイス1は、蓄放熱機能を有するシートとして使用されてもよい。
【0041】
蓄放熱デバイス1が例えばセンサとして機能する場合について、具体的に説明する。
【0042】
蓄放熱デバイス1は、既に説明したとおり、酸化チタン系材料を備えるため、五酸化三チタン粒子の固相-固相間の相転移に伴う物性の変化に基づいて、温度変化又は吸熱量の変化を検知することができる。このため、蓄放熱デバイス1は、例えば温度又は吸熱量を検知するためのセンサとして機能するセンサ素子として用いることができる。この場合、センサ素子は、例えば五酸化三チタン粒子の温度が相転移温度を超えた場合に、相転移に伴う五酸化三チタン粒子の物性の不連続な変化又はこの変化に起因して生じる現象を出力しうる。
【0043】
蓄放熱デバイス1がセンサ素子として機能する場合、センサ素子の出力としては、相転移に伴って変化する物性である電気伝導度(電気伝導率)、色、磁性(磁化率)、体積変化(比重変化)、又は熱伝導度(熱伝導率)等が挙げられる。
【0044】
電気伝導度に関しては、酸化チタン系材料の五酸化三チタンにおいて、β相は半導体であり、λ相、及びα相は導電体である。そのため、センサ素子は電気伝導度の変化を出力することができる。なお、センサ素子は、一定電流が流されている場合の電気伝導度の変化に伴う電圧の変化、一定電圧が印加されている場合の電気伝導度の変化に伴う電流の変化といった、電気伝導度の変化に伴って生じる現象を出力してもよい。
【0045】
色に関しては、例えばβ-五酸化三チタンは赤色又は赤褐色、λ-五酸化三チタンは黒青色又は青色である。このため、センサ素子は、酸化チタン系材料の五酸化三チタン粒子相転移による色の変化を出力することができる。
【0046】
磁性に関しては、β-五酸化三チタンは非磁性であり、α-五酸化三チタン及びλ-五酸化三チタンは常磁性である。このため、センサ素子は、酸化チタン系材料の五酸化三チタン粒子の相転移による磁性の変化を出力できる。
【0047】
熱伝導率に関しては、酸化チタン系材料の五酸化三チタン粒子は、相転移に伴い比熱が変化するため、例えばその比熱の変化に基づく、熱伝導率及び熱拡散率等の変化を出力してもよい。
【0048】
また、体積に関しては、酸化チタン系材料の五酸化三チタン粒子の相転移に際しては体積変化が生じうるため、その体積変化又は比重変化に基づく物性の変化を出力してもよい。
【0049】
なお、センサ素子の出力は上記に制限されない。また、上記で説明した出力は、蓄放熱デバイス1がセンサ素子として機能する場合に限らず、蓄放熱デバイス1自体の出力であってもよい。
【0050】
センサ素子は、例えば酸化チタン系材料を含有する成形体を備える。成形体は、上記で説明した五酸化三チタン粒子を含有していればよく、センサ素子の使用目的を阻害しない限り、成形体は、必要により五酸化三チタン以外の成分を含有してもよい。五酸化三チタン以外の成分としては、例えばバインダとして機能する樹脂成分が挙げられる。そのため、成形体は、酸化チタン系材料を樹脂成分などに配合して調製した組成物から作製されてもよい。成形体は適宜の形状を有することができる。例えば、酸化チタン系材料を成形機で成形して、円柱形状の成形体を得ることができるが、これに限定されない。センサ素子の寸法は用途などに応じて適宜調整すればよい。成形体の形状は、シート状であることも好ましい。すなわち、蓄放熱デバイス1がシート状であることも好ましい。なお、蓄放熱デバイス1がシート状である場合については、後に詳述する。
【0051】
センサ素子は、成形体に電気的に接続されている電極を備えてもよい。センサ素子は、例えば二つ電極を備え、二つの電極の間に成形体が介在するように電極と成形体とが積層されている。センサ素子が電極を備えると、センサ素子は、電極を通じて出力を発することができる。なお、センサ素子自体は電極を備えず、センサ素子から出力を得る場合にセンサ素子に電極を電気的に接続してもよい。
【0052】
電極は、例えば金属、導電性酸化物、カーボン材料、又は導電性高分子などから作製される。金属としては、例えば、Al、Ag、Au、Cu、又はPtなどが挙げられる。導電性酸化物としては、例えば、酸化インジウムスズ(ITO:Indium Tin Oxide)などが挙げられる。カーボン材料としては、例えば、グラファイトなどが挙げられる。導電性高分子としては、例えば、ポリチオフェン系ポリマー、ポリアニリン系ポリマー、又はポリアセチレン系ポリマーなどが挙げられる。
【0053】
センサ素子の出力を検出する装置は、例えば電気抵抗値変化を検出する装置を例に挙げたが、これには限られない。例えば、センサ素子の出力を検出する装置は、比熱変化を適宜の方法で検出可能に構成された比熱測定装置、色変化を検出するように構成されたスペクトル測定装置、磁性変化を検出する磁性測定器、又は比重の変化を測定する比重測定器などであってもよい。
【0054】
このように、本実施形態に係る蓄放熱デバイス1は、周囲の外的刺激に応答可能な種々の用途のセンサとして用いることができる。すなわち、蓄放熱デバイス1は、温度を検知するセンサとしての機能を有することができる。例えば、蓄放熱デバイス1は、センサ素子単体であってもよいし、センサ機能とそれ以外の機能を備えるデバイスであってよい。
【0055】
蓄放熱デバイス1の用途について、図5を参照し、具体的な例を挙げて説明する。
【0056】
図5では、蓄放熱デバイス1は、シート状に形成されている。具体的には、蓄放熱デバイス1は、シート材11と、第一電極12と、第二電極13と、検出部16とを備える。シート材11は、メジアン径D50が3μm以上である五酸化三チタン粒子を含有する酸化チタン系材料を含む。シート材11は、吸熱と放熱とのいずれか一方又は両方の機能を有しうる。第一電極12は、シート材11の第一面11a上に配置されている。第二電極13は、シート材11の第一面11aとは反対側の第二面11b上に配置されている。第一電極12と第二電極13とは、シート材11を介して電気的に接続されており、図5では、シート材11の反対側に各々位置する一対の電極である。検出部16は、第一電極12と第二電極13とを介してシート材11と電気的に接続されている。このため、蓄放熱デバイス1は、シート材11で、蓄放熱デバイス1の外部又は内部にある、例えば発熱体4からの熱を検知することができる。
【0057】
一対の電極である第一電極12及び第二電極13の位置、形状、及び寸法は特に制限されない。例えば、第一電極12及び第二電極13はいずれも、シート材11の同一面上(例えば第一面11a上)に配置されていてもよい。第一電極12及び第二電極13の各々は、上記のセンサ素子における電極について説明したものと同じであってよい。
【0058】
検出部16は、第一電極12及び第二電極13を使用してシート材11の電気特性を検出できる。これにより、例えば蓄放熱デバイス1と、熱を発生しうる発熱体4とが熱的に接続されていると、蓄放熱デバイス1は、検出部16でシート材11における酸化チタン系材料の電気特性の変化を検出することで、相転移温度に達する温度に到達したことを検出可能である。
【0059】
検出部16は、例えば電気抵抗を検出する機能を有する電気抵抗検出器であってもよい。この場合、蓄放熱デバイス1は、検出部16によって、例えばシート材11における五酸化三チタンが、例えば発熱体4が発した熱を受けて相転移温度に到達したことを検出できる。
【0060】
発熱体4は、特に制限されず、蓄放熱デバイス1の周囲又は内部に設けられるものであってよい。発熱体4は、例えば外部電源等からの給電により発熱する発熱部品等であってよい。発熱部品とは、例えば駆動するために与えられたエネルギーの一部を熱に変換して放出する電子部品をいう。発熱部品は、特に制限されないが、発熱部品の具体的な例は、中央処理装置(CPU)、パワーマネージメントIC(PMIC)、パワーアンプ(PA)、トランシーバーIC、ボルテージレギュレータ(VR)などの集積回路(IC);発光ダイオード(LED)、白熱電球、半導体レーザーなどの発光素子;電界効果トランジスタ(FET)などの能動素子;コイル、コンデンサ、抵抗などの受動素子等からなる群から選択される少なくとも一種を含む。発熱体4の他の例として、具体的には、家電製品、照明器具、医療機器、電気炉、配電盤、湯沸かし器、防曇器具、凍結防止器具等を挙げることができる。
【0061】
検出部16は、例えばシート材11における酸化チタン系材料における五酸化三チタンが相転移の際に変化しうる、熱伝導率、磁性、比重、及び波長特性等の物性の変化を検出するものであってもよい。特に、蓄放熱デバイス1は、酸化チタン系材料の電気伝導率と熱伝導率とのうちのいずれか一方又は両方の物性の変化を検出することが好ましい。蓄放熱デバイス1における検出部16の数に特に制限はなく、検出部16の数は1つであってもよいし、複数であってもよい。
【0062】
蓄放熱デバイス1は、上記の構成に限られず、適宜の機能を有する部材を備えていてもよい。例えば、蓄放熱デバイス1は、検出部16で検出した結果に基づいて蓄放熱デバイス1又は発熱体4の動作を制御する制御部17を備えてもよい。蓄放熱デバイス1が制御部17を備えると、例えば蓄放熱デバイス1が発熱体4から過剰な熱を受けた場合であっても、蓄放熱デバイス1の動作を緩和、又は停止することができる。また、蓄放熱デバイス1は、例えばシート材11、第一電極12、及び第二電極13を支持する支持部材(不図示)を備えてもよい。支持部材の材質、寸法、及び形状は、特に制限されない。
【実施例
【0063】
以下、本発明の具体的な実施例を提示する。ただし、本発明は実施例のみに制限されない。
【0064】
(1)酸化チタン系材料の作製
原料として、株式会社メルク製の五酸化三チタン(品番100097、最小粒径0.8mm、最大粒径4.0mm)を用意し、ジルコニア製の容器に、五酸化三チタンを(10~20g)、水150gを投入した。容器に、ジルコニア製のボール(ボール径φ10mm)を450g投入して、粉砕装置に上記の容器を載置し、回転数150~200rpmで粉砕処理を行った。粉砕装置としては、遊星ボールミル(フリッチュ製:型番P-5)を使用した。各実施例における具体的な粉砕処理の条件は下記のとおりである。
【0065】
実施例1では、10gの五酸化三チタンを、150rpmの回転数で、120分間処理を行うことで、図4Aに示す粒度分布を有する五酸化三チタン粒子を得た。なお、図3Aは、実施例1で得られた五酸化三チタン粒子のSEM(走査電子顕微鏡)により測定して得られたSEM画像である。メジアン径D50は、3.164μmであった。
【0066】
実施例2では、20gの五酸化三チタンを、150rpmの回転数で、120分間処理を行うことで、図4Bに示す粒度分布を有する五酸化三チタン粒子を得た。なお、図3Bは、実施例2で得られた五酸化三チタン粒子のSEM(走査電子顕微鏡)により測定して得られたSEM画像である。メジアン径D50は、5.713μmであった。
【0067】
実施例3では、20gの五酸化三チタンを、150rpmの回転数で、30分間処理を行うことで、図4Cに示す粒度分布を有する五酸化三チタン粒子を得た。メジアン径D50は、10.21μmであった。
【0068】
実施例4では、20gの五酸化三チタンを、150rpmの回転数で、15分間処理を行うことで、図4Dに示す粒度分布を有する五酸化三チタン粒子を得た。なお、図3Cは、実施例3で得られた五酸化三チタン粒子のSEM(走査電子顕微鏡)により測定して得られたSEM画像である。メジアン径D50は、16.49μmであった。
【0069】
実施例5では、20gの五酸化三チタンを、200rpmの回転数で、5分間処理を行うことで、図4Eに示す粒度分布を有する五酸化三チタン粒子を得た。メジアン径D50は、21.39μmであった。
【0070】
なお、比較例1の五酸化三チタン粒子は、実施例1の五酸化三チタン(3g)を、200rpmの回転数で、120分間処理を行うことにより得た。比較例1の五酸化三チタン粒子は、図4Fに示す粒度分布を有し、メジアン径D50は、1.572μmであった。
【0071】
また、実施例6は、上記実施例1~5の粉砕処理を行わず、DSC装置による測定に用いるサンプルとしての粒子のサイズを測定した(表1参照)。なお、図3Dは、実施例6の五酸化三チタン粒子のSEM(走査電子顕微鏡)により測定して得られたSEM画像である。
【0072】
(2)酸化チタン系材料の評価
(1)で得られた各実施例及び参考例の五酸化三チタン粒子の相転移温度と相転移時の吸熱量を、示差走査熱量測定法で測定した。測定に当たってはDSC装置(セイコー電子工業製 型番DSC 220c)を用い、Airガスを100mL/min流し、昇温速度を10℃/minで室温から300℃まで昇温した。300℃に到達した後、降温(冷却)速度を10℃/minで室温まで冷却した。室温に到達した後、再度昇温速度を10℃/minで室温から300℃まで昇温した。その結果から得られた相転移温度、及び吸熱量を下記表1に示す。
【0073】
図1は、実施例4の五酸化三チタン粒子のDSC測定を行った結果を示すグラフであり、破線は1回目の昇温及び降温による熱的挙動を示し、実線は2回目の昇温及び降温による熱的挙動を示している。
【0074】
図2は、各実施例及び参考例の五酸化三チタン粒子のメジアン径D50に対する、DSC測定により得られた結果から算出した吸熱量をプロットしたグラフである。白丸で示すプロットが1回目の昇温時における吸熱量であり、黒四角で示すプロットが2回目の昇温時における吸熱量である。
【0075】
表1には、各実施例及び参考例の五酸化三チタン粒子のメジアン径D50と、吸熱量及び相転移温度の関係を示す。
【0076】
【表1】
【0077】
実施例1~3の五酸化三チタン粒子は、1回目の昇温による吸熱量は僅かであったが、2回目の昇温による吸熱量は1回目の昇温時に比べて大きく増加した。実施例4及び5では、1回目の昇温による吸熱量は20J/g以上であり、2回目の昇温による吸熱量は更に増加した。また、実施例5は、図1に示す実施例4の熱的挙動と同様の挙動を示した。
【0078】
比較例1では、1回目の昇温による吸熱は見られなかった。また、2回目の昇温によって吸熱は見られたが、いずれの実施例よりも低い吸熱量であった。
【0079】
これにより、五酸化三チタン粒子のメジアン径D50が10μm以下である場合(実施例1~3)、1回目の吸熱量がごく僅か(約0J/g)であるのに対し、2回目の吸熱量が20J/g以上となることが示唆された。また、実施例1~5において、メジアン径D50が大きくなるにつれて、2回目の相転移温度が1回目の相転移温度よりも増加することが示唆された。また、実施例6においては、昇温により相転移温度及び吸熱量は、1回目と2回目とで変化がなかったが、1回目及び2回目ともに吸熱量は20J/g以上であった。また、比較例1においては、1回目の昇温において吸熱量が0J/gであったため、相転移温度は得られなかった。
【0080】
[まとめ]
以上から明らかなように、本開示の第1の態様の酸化チタン系材料は、五酸化三チタン粒子を含有する。五酸化三チタンは、固相-固相間で相転移する相転移温度を有し、かつメジアン径D50が3μm以上である。
【0081】
第1の態様によれば、酸化チタン系材料は、加熱及び冷却によって可逆的に相転移可能であり、かつ優れた吸熱量を有することができる。これにより、酸化チタン系材料は、五酸化酸三チタン粒子を含み、良好な吸熱特性を発揮しやすい。
【0082】
第2の態様の酸化チタン系材料は、第1の態様において、五酸化三チタン粒子は、β相を含み、β相は、加熱されることで第一の吸熱相転移温度でα相へ相転移し、かつ第一の吸熱量を吸熱する。α相は、冷却されてβ相に相転移した後、再度加熱されると第二の吸熱相転移温度でα相へ相転移し、かつ第二の吸熱量を吸熱する。五酸化三チタン粒子は、第一の吸熱量よりも第二の吸熱量の方が大きい。
【0083】
第2の態様によれば、酸化チタン系材料は、加熱及び冷却によって可逆的に相転移可能であり、かつ優れた吸熱量を有することができる。
【0084】
第3の態様の酸化チタン系材料は、第2の態様において、第二の吸熱量が20J/g以上である。
【0085】
第3の態様によれば、酸化チタン系材料は、加熱及び冷却によって可逆的に相転移可能であり、かつ優れた吸熱量を有する蓄放熱材料として好適に用いることができる。
【0086】
第4の態様の酸化チタン系材料は、第2又は3の態様において、第一の吸熱相転移温度よりも前記第二の吸熱相転移温度の方が低い。
【0087】
第4の態様によれば、酸化チタン系材料は、従来の五酸化三チタンよりも低い温度であっても、吸熱することができ、加熱及び冷却によっても可逆的に相転移可能である。
できる。
【0088】
第5の態様の酸化チタン系材料は、第2から第4の態様のいずれか一つにおいて、第二の吸熱相転移温度は、191℃以下である。
【0089】
第5の態様によれば、例えば200℃以上等の比較的高温に達する熱を、より低温から吸収することができる。
【0090】
第6の態様の酸化チタン系材料は、第2から第5の態様のいずれか一つにおいて、第一の吸熱量が20J/g以上である。
【0091】
第6の態様によれば、酸化チタン系材料は、特に優れた吸熱特性を有することができる。
【0092】
第7の態様の酸化チタン系材料は、第1から第6の態様のいずれか一つにおいて、五酸化三チタン粒子メジアン径D50が15μm以上である。
【0093】
第7の態様によれば、五酸化三チタン粒子のメジアン径D50が15μm以上であると、第一の相転移温度を超える温度での加熱を経なくても、酸化チタン系材料は、より高い吸熱量を達成できる。
【0094】
第8の態様に係る酸化チタン系材料は、第1から第6の態様のいずれか一つにおいて、五酸化三チタン粒子メジアン径D50が3μm以上15μm未満である。
【0095】
第8の態様によれば、五酸化三チタン粒子メジアン径D50が3μm以上であると、上記のとおり、五酸化三チタンは吸放熱特性を有することができる。特に五酸化三チタン粒子のメジアン径D50が15μm未満であると、第一の相転移温度を超える温度での加熱では、相転移温度の熱履歴を記憶することができる。一方、この場合、五酸化三チタンは、放熱を経ることで、2回目以降の加熱において、高い吸熱量を有しうる。
【0096】
第9の態様の蓄放熱デバイス(1)は、第1から第8の態様のいずれか一つの酸化チタン系材料を備える。
【0097】
第9の態様では、相転移に伴う酸化チタン系材料の五酸化三チタン粒子の物性の不連続な変化又はこの変化に起因して生じる現象を出力することができる。
【0098】
第10の態様の蓄放熱デバイス(1)は、第9の態様において、酸化チタン系材料の相転移温度で吸熱又は放熱する。
【0099】
第10の態様によれば、蓄放熱デバイス(1)では、検知対象の温度が相転移温度を超えたことを検知でき、かつ相転移温度を超えたという熱履歴を記憶させることができる。
【0100】
第11の態様の蓄放熱デバイス(1)は、第9又は第10の態様において、酸化チタン系材料の電気伝導率と熱伝導率とのうちいずれか一方又は両方の物性の変化を検出する。
【0101】
第11の態様では、相転移に伴う酸化チタン系材料における五酸化三チタン粒子の物性の不連続な変化又はこの変化に起因して生じる現象を出力することができる。また、周囲の外的刺激に応答可能な種々の用途のセンサとして用いることができる。
【0102】
第12の態様の五酸化三チタン粒子を含有する酸化チタン系材料の製造方法は、五酸化三チタンを粉砕する工程を含む。
【0103】
第12の態様によれば、粒径が制御された五酸化三チタン粒子が得られる。
【符号の説明】
【0104】
1 蓄放熱デバイス
図1
図2
図3
図4
図5