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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】電動工具、制御方法、プログラム
(51)【国際特許分類】
   B25F 5/00 20060101AFI20230929BHJP
【FI】
B25F5/00 C
B25F5/00 H
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020530940
(86)(22)【出願日】2019-06-14
(86)【国際出願番号】 JP2019023591
(87)【国際公開番号】W WO2020017202
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-01-14
(31)【優先権主張番号】P 2018135365
(32)【優先日】2018-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米田 文生
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-232498(JP,A)
【文献】特開2016-093854(JP,A)
【文献】特開2015-213400(JP,A)
【文献】特開2006-204050(JP,A)
【文献】特開2003-348885(JP,A)
【文献】特開2005-210793(JP,A)
【文献】特開2013-198374(JP,A)
【文献】特開2015-226331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25F 5/00 - 5/02
H02P 1/00 - 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
モータ制御装置と、
ユーザインタフェースである入出力部と、
駆動電圧を生成して前記モータに出力するインバータ回路部と、
を備え、
前記入出力部は、ユーザの操作に応じて前記モータの速度目標値を決定し、決定した前記速度目標値を前記モータ制御装置に与え、
前記モータ制御装置は、
前記速度目標値に基づいて前記モータの速度の指令値を決定又は更新する設定部を備えており、
前記モータの速度が、前記設定部で設定された前記指令値に一致するように、前記駆動電圧の目標値を決定して前記インバータ回路部に与え、
前記設定部は、前記モータの回転中における前記モータにかかる負荷の大きさ及び前記モータ用の直流電源の電圧の少なくとも一方に関連するパラメータと閾値との比較結果に基づいて前記指令値を更新し、
前記パラメータは、前記モータに流れる電流のトルク成分の大きさを示すトルク電流値を含み、
前記設定部は、
前記比較結果において前記パラメータが所定の切替条件を満たしていない場合、前記指令値が前記速度目標値に一致していなければ、前記指令値を前記速度目標値に近付け、前記指令値が前記速度目標値に一致していれば、前記指令値を維持し、
前記比較結果において前記パラメータが前記切替条件を満たす場合、前記速度目標値に関係なく前記指令値を低下させ、
前記設定部は、
予め定められた値で減じることで前記指令値を低下させる、又は、
前記モータの速度の推定値と一致するように、前記指令値を低下させる、
電動工具。
【請求項2】
前記閾値は、電流閾値を含み、
前記切替条件は、前記トルク電流値が前記電流閾値を超えることを含み、
前記設定部は、前記トルク電流値が前記電流閾値を超えていれば、前記指令値を低下させる、
請求項1の電動工具。
【請求項3】
前記設定部は、前記トルク電流値が前記電流閾値以下の場合、前記指令値が前記速度目標値に一致していなければ、前記指令値を前記速度目標値に近付け、前記指令値が前記速度目標値に一致していれば、前記指令値を維持する、
請求項2の電動工具。
【請求項4】
前記パラメータは、変調度を更に含む、
請求項1~3のいずれか一つの電動工具。
【請求項5】
前記閾値は、変調度閾値を含み、
前記切替条件は、前記変調度が前記変調度閾値を超えることを含み、
前記設定部は、前記変調度が前記変調度閾値を超えていれば、前記指令値を低下させる、
請求項4の電動工具。
【請求項6】
前記設定部は、前記変調度が前記変調度閾値以下の場合、前記指令値が前記速度目標値に一致していなければ、前記指令値を前記速度目標値に近付け、前記指令値が前記速度目標値に一致していれば、前記指令値を維持する、
請求項5の電動工具。
【請求項7】
前記パラメータは、前記直流電源の電圧の大きさを示す電源電圧値を更に含む、
請求項1~6のいずれか一つの電動工具。
【請求項8】
前記閾値は、電圧閾値を含み、
前記切替条件は、前記電源電圧値が前記電圧閾値未満であることを含み、
前記設定部は、前記電源電圧値が前記電圧閾値未満であれば、前記指令値を低下させる、
請求項7の電動工具。
【請求項9】
前記設定部は、前記電源電圧値が前記電圧閾値以上の場合、前記指令値が前記速度目標値に一致していなければ、前記指令値を前記速度目標値に近付け、前記指令値が前記速度目標値に一致していれば、前記指令値を維持する、
請求項8の電動工具。
【請求項10】
前記モータは、ブラシレスモータである、
請求項1~9のいずれか一つの電動工具。
【請求項11】
前記インバータ回路部は、前記直流電源から前記駆動電圧を生成して前記モータに出力する、
請求項10の電動工具。
【請求項12】
モータの制御方法であって、
ユーザインタフェースである入出力部によりユーザの操作に応じて決定されて前記入出力部から与えられる速度目標値に基づいて、前記モータの速度の指令値を決定又は更新することと、
決定又は更新された前記指令値に前記モータの速度が一致するように駆動電圧の目標値を決定して、前記駆動電圧を生成して前記モータに出力するインバータ回路部に与えることと、
前記モータの回転中における前記モータにかかる負荷の大きさ及び前記モータ用の直流電源の電圧の少なくとも一方に関連するパラメータと閾値との比較結果に基づいて前記指令値を更新することと、
を含み、
前記パラメータは、前記モータに流れる電流のトルク成分の大きさを示すトルク電流値を含み、
前記比較結果において前記パラメータが所定の切替条件を満たしていない場合、
前記指令値が前記速度目標値に一致していなければ、前記指令値を前記速度目標値に近付け、
前記指令値が前記速度目標値に一致していれば、前記指令値を維持し、
前記比較結果において前記パラメータが前記切替条件を満たす場合、前記速度目標値に関係なく前記指令値を低下させ、
前記指令値を低下させる場合、
予め定められた値で減じることで前記指令値を低下させる、又は、
前記モータの速度の推定値と一致するように、前記指令値を低下させる、
制御方法。
【請求項13】
コンピュータシステムに、請求項12の制御方法を実行させるための、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、電動工具、制御方法、及びプログラムに関する。本開示は、より詳細には、直流電源によりモータを制御する電動工具、直流電源によりモータを制御する制御方法、及び当該制御方法を実行するためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、電動工具を開示する。特許文献1の電動工具は、モータと、電源からの電力をモータに供給する駆動回路と、複数モードの目標回転数を設け、設定されたモードの目標回転数にてモータを回転させる制御部を有する。更に、電動工具は、モータが停止しているときの電源の電圧値を検出する電圧検出回路を備え、検出された電圧値をもとに目標回転数を可変に設定する。
【0003】
特許文献1では、モータが停止しているときの電源の電圧値をもとに目標回転数(モータの速度)を設定する。しかしながら、モータの回転時には、モータにかかる負荷の大きさや電源の電圧値は変動し得る。したがって、特許文献1では、モータの動作効率が低下したままで、モータの回転が継続され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5408535号公報
【発明の概要】
【0005】
課題は、モータの動作効率を改善できる電動工具、制御方法、プログラムを提供することである。
【0006】
本開示の一態様の電動工具は、モータと、モータ制御装置と、入出力部と、インバータ回路部と、を備える。前記入出力部は、ユーザインタフェースである。前記インバータ回路部は、駆動電圧を生成して前記モータに出力する。前記入出力部は、ユーザの操作に応じて前記モータの速度目標値を決定し、決定した前記速度目標値を前記モータ制御装置に与える。前記モータ制御装置は、前記速度目標値に基づいて前記モータの速度の指令値を決定又は更新する設定部を備えている。前記モータ制御装置は、前記モータの速度が、前記設定部で設定された前記指令値に一致するように、前記駆動電圧の目標値を決定して前記インバータ回路部に与える。前記設定部は、パラメータと閾値との比較結果に基づいて前記指令値を更新する。前記パラメータは、前記モータの回転中における前記モータにかかる負荷の大きさ及び前記モータ用の直流電源の電圧の少なくとも一方に関連する。前記パラメータは、前記モータに流れる電流のトルク成分の大きさを示すトルク電流値を含む。前記設定部は、前記比較結果において前記パラメータが所定の切替条件を満たしていない場合、前記指令値が前記速度目標値に一致していなければ、前記指令値を前記速度目標値に近付け、前記指令値が前記速度目標値に一致していれば、前記指令値を維持する。前記設定部は、前記比較結果において前記パラメータが前記切替条件を満たす場合、前記速度目標値に関係なく前記指令値を低下させる。前記設定部は、予め定められた値で減じることで前記指令値を低下させる、又は、前記モータの速度の推定値と一致するように、前記指令値を低下させる。
【0007】
本開示の一態様の制御方法は、モータの制御方法であって、ユーザインタフェースである入出力部によりユーザの操作に応じて決定されて前記入出力部から与えられる速度目標値に基づいて、前記モータの速度の指令値を決定又は更新することと、決定又は更新された前記指令値に前記モータの速度が一致するように駆動電圧の目標値を決定して、前記駆動電圧を生成して前記モータに出力するインバータ回路部に与えることと、前記モータの回転中における前記モータにかかる負荷の大きさ及び前記モータ用の直流電源の電圧の少なくとも一方に関連するパラメータと閾値との比較結果に基づいて前記指令値を更新することと、を含む。前記パラメータは、前記モータに流れる電流のトルク成分の大きさを示すトルク電流値を含む。前記比較結果において前記パラメータが所定の切替条件を満たしていない場合、前記指令値が前記速度目標値に一致していなければ、前記指令値を前記速度目標値に近付け、前記指令値が前記速度目標値に一致していれば、前記指令値を維持する。前記比較結果において前記パラメータが前記切替条件を満たす場合、前記速度目標値に関係なく前記指令値を低下させる。前記指令値を低下させる場合、予め定められた値で減じることで前記指令値を低下させる、又は、前記モータの速度の推定値と一致するように、前記指令値を低下させる。
【0008】
本開示の一態様のプログラムは、コンピュータシステムに、前記制御方法を実行させるための、プログラムである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、一実施形態の電動工具のブロック図である。
図2図2は、上記電動工具のモータ制御装置による制御の説明図である。
図3図3は、上記モータ制御装置の動作のフローチャートである。
図4図4は、モータの速度の指令値の時間的変化のグラフである。
図5図5は、モータの速度の指令値の時間的変化の別のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.実施形態
1.1 概要
図1は、一実施形態の電動工具100のブロック図を示す。電動工具100は、モータ1と、モータ制御装置3と、を備える。モータ制御装置3は、モータ1の回転中におけるモータ1にかかる負荷の大きさ及びモータ1用の直流電源8の電圧Vdcの少なくとも一方に関連するパラメータに基づいてモータ1の速度の指令値ω を更新する。
【0011】
電動工具100では、モータ1の回転中の状態を指令値ω に反映させることができる。つまり、モータ制御装置3は、モータ1の速度の指令値ω を一定に維持するのではなく、動的に(適応的に)制御することが可能となる。特に、モータ1の回転中の状態は、モータ1にかかる負荷の大きさ及びモータ1用の直流電源8の電圧Vdcの少なくとも一方を含んでおり、これらは、モータ1の動作効率の改善に寄与し得る。上記より、電動工具100によれば、モータ1の動作効率を改善できる、という効果を奏し得る。
【0012】
1.2 構成
以下、本実施形態の電動工具100について更に詳細に説明する。電動工具100は、回転打撃工具(インパクトドライバ)である。電動工具100は、図1に示すように、モータ1と、インバータ回路部2と、モータ制御装置3と、スピンドル4と、ハンマ5と、アンビル6と、入出力部7と、直流電源8と、を備える。また、電動工具100は、2つの相電流センサ11を備える。
【0013】
スピンドル4と、ハンマ5と、アンビル6とは、電動工具100において、所定の作業を実現するための装置である。スピンドル4は、モータ1の出力軸(回転子)に連結されている。スピンドル4は、モータ1の回転により回転する。ハンマ5は、スピンドル4に連結されている。ハンマ5は、スピンドル4とともに回転する。また、ハンマ5は、ばね等によりアンビル6に付勢され、ハンマ5とアンビル6とが係合し、ハンマ5の回転がアンビル6に伝達される。
【0014】
モータ1は、スピンドル4に連結される。モータ1は、ブラシ付きDCモータもしくは、DCブラシレスモータである。本実施形態では、モータ1はDCブラシレスモータ(三相永久磁石同期モータ)であり、モータ1は、永久磁石を備えた回転子と3相(U相、V相、W相)分の電機子巻線を備えた固定子とを備える。
【0015】
直流電源8は、モータ1の駆動に用いられる電源である。直流電源8は、本実施形態では、二次電池である。直流電源8は、いわゆる、電池パックである。直流電源8は、インバータ回路部2及びモータ制御装置3の電源としても利用される。
【0016】
インバータ回路部2は、モータ1を駆動するための回路である。インバータ回路部2は、直流電源8からの電圧Vdcを、モータ1用の駆動電圧Vに変換する。本実施形態では、駆動電圧Vは、U相電圧、V相電圧及びW相電圧を含む三相交流電圧である。以下では、必要に応じて、U相電圧をv、V相電圧をv、W相電圧をvで表す。また、各電圧v,v,vは、正弦波電圧である。インバータ回路部2は、PWMインバータとPWM変換器とを利用して実現できる。PWM変換器は、駆動電圧V(U相電圧v、V相電圧v、W相電圧v)の目標値(電圧指令値)v ,v ,v に従って、パルス幅変調されたPWM信号を生成する。PWMインバータは、このPWM信号に応じた駆動電圧V(v,v,v)をモータ1に与えてモータ1を駆動する。より具体的には、PWMインバータは、3相分のハーフブリッジ回路とドライバとを備える。PWMインバータでは、ドライバがPWM信号に従って各ハーフブリッジ回路におけるスイッチング素子をオン/オフすることにより、電圧指令値v ,v ,v に従った駆動電圧V(v,v,v)がモータ1に与えられる。これによって、モータ1には、駆動電圧V(v,v,v)に応じた駆動電流が供給される。駆動電流は、U相電流i、V相電流i、及びW相電流iを含む。より詳細には、U相電流i、V相電流i、及びW相電流iは、モータ1の固定子における、U相の電機子巻線の電流、V相の電機子巻線の電流及びW相の電機子巻線の電流である。
【0017】
2つの相電流センサ11は、インバータ回路部2からモータ1に供給される駆動電流のうちU相電流i及びV相電流iを測定する。なお、W相電流iは、U相電流i及びV相電流iから求めることができる。なお、電動工具10は、相電流センサ11の代わりに、シャント抵抗等を利用した電流検出器を備えていてもよい。
【0018】
入出力部7は、ユーザインタフェースである。入出力部7は、電動工具100の動作に関する表示、電動工具100の動作の設定、及び、電動工具100の操作に利用される装置(例えば、表示器、入力器、操作器)を備える。本実施形態では、入出力部7は、モータ1の速度の目標値ω を設定する機能を有している。例えば、入出力部7は、ユーザの操作に応じて、目標値ω を決定し、モータ制御装置3に与える。
【0019】
モータ制御装置3は、モータ1の速度の指令値ω を決定し、更新する。特に、モータ制御装置3は、入出力部7から与えられるモータ1の速度の目標値ω に基づいて、モータ1の速度の指令値ω を決定し、更新する。また、モータ制御装置3は、モータ1の速度が指令値ω に一致するように駆動電圧Vの目標値(電圧指令値)v ,v ,v を決定してインバータ回路部2に与える。
【0020】
以下、モータ制御装置3について更に詳細に説明する。モータ制御装置3は、本実施形態では、ベクトル制御を利用して、モータ1の制御を行う。ベクトル制御は、モータ電流を、トルク(回転力)を発生する電流成分と磁束を発生する電流成分とに分解し、それぞれの電流成分を独立に制御するモータ制御方式の一種である。
【0021】
図2は、ベクトル制御におけるモータ1の解析モデル図である。図2には、U相、V相、W相の電機子巻線固定軸が示されている。ベクトル制御では、モータ1の回転子に設けられた永久磁石が作る磁束の回転速度と同じ速度で回転する回転座標系が考慮される。回転座標系において、永久磁石が作る磁束の方向をd軸にとり、d軸に対応する制御上の回転軸をγ軸とする。また、d軸から電気角で90度進んだ位相にq軸をとり、γ軸から電気角で90度進んだ位相にδ軸をとる。実軸に対応する回転座標系はd軸とq軸を座標軸に選んだ座標系であり、その座標軸をdq軸と呼ぶ。制御上の回転座標系はγ軸とδ軸を座標軸に選んだ座標系であり、その座標軸をγδ軸と呼ぶ。
【0022】
dq軸は回転しており、その回転速度をωで表す。γδ軸も回転しており、その回転速度をωで表す。また、dq軸において、U相の電機子巻線固定軸から見たd軸の角度(位相)をθで表す。同様に、γδ軸において、U相の電機子巻線固定軸から見たγ軸の角度(位相)をθで表す。θ及びθにて表される角度は、電気角における角度であり、それらは一般的に回転子位置又は磁極位置とも呼ばれる。ω及びωにて表される回転速度は、電気角における角速度である。以下、必要に応じて、θ又はθを、回転子位置と呼び、ω又はωを単に速度と呼ぶことがある。回転子位置及びモータの速度を推定によって導出する場合、γ軸及びδ軸を制御上の推定軸と呼ぶことがある。
【0023】
モータ制御装置3は、基本的に、θとθとが一致するようにベクトル制御を行う。θとθとが一致しているとき、d軸及びq軸は夫々γ軸及びδ軸と一致することになる。なお、以下の説明では、必要に応じて、駆動電圧Vのγ軸成分及びδ軸成分を、それぞれγ軸電圧vγ及びδ軸電圧vδで表し、駆動電流のγ軸成分及びδ軸成分を、それぞれγ軸電流iγ及びδ軸電流iδで表す。
【0024】
また、γ軸電圧vγ及びδ軸電圧vδの目標値を表す電圧指令値を、それぞれγ軸電圧指令値vγ 及びδ軸電圧指令値vδ により表す。γ軸電流iγ及びδ軸電流iδの目標値を表す電流指令値を、それぞれγ軸電流指令値iγ 及びδ軸電流指令値iδ により表す。
【0025】
モータ制御装置3は、γ軸電圧vγ及びδ軸電圧vδの値がそれぞれγ軸電圧指令値vγ 及びδ軸電圧指令値vδ に追従しかつγ軸電流iγ及びδ軸電流iδの値がそれぞれγ軸電流指令値iγ 及びδ軸電流指令値iδ に追従するようにベクトル制御を行う。
【0026】
モータ制御装置3は、所定の更新周期にて自身が算出(又は検出)して出力する指令値(iγ 、iδ 、vγ 、vδ 、v 、v 及びv )、状態量(i、i、iγ、iδ、θ及びω)を更新する。
【0027】
モータ制御装置3は、例えば、1以上のプロセッサ(一例としてはマイクロプロセッサ)と1以上のメモリとを含むコンピュータシステムにより実現され得る。つまり、1以上のプロセッサが1以上のメモリに記憶された1以上のプログラムを実行することで、モータ制御装置3として機能する。1以上のプログラムは、メモリに予め記録されていてもよいし、インターネット等の電気通信回線を通じて、又はメモリカード等の非一時的な記録媒体に記録されて提供されてもよい。
【0028】
モータ制御装置3は、図1に示すように、座標変換器12と、減算器13と、減算器14と、電流制御部15と、磁束制御部16と、速度制御部17と、座標変換器18と、減算器19と、位置・速度推定部20と、脱調検出部21と、設定部22と、を備える。なお、座標変換器12、減算器13,14,19、電流制御部15、磁束制御部16、速度制御部17、座標変換器18、位置・速度推定部20、脱調検出部21、及び設定部22は、必ずしも実体のある構成を示しているわけではない。これらは、モータ制御装置3によって実現される機能を示している。よって、モータ制御装置3の各要素は、モータ制御装置3内で生成された各値を自由に利用可能となっている。
【0029】
座標変換器12は、回転子位置θに基づいてU相電流i及びV相電流iをγδ軸上に座標変換することにより、γ軸電流iγ及びδ軸電流iδを算出して出力する。ここで、γ軸電流iγは、d軸電流に対応し、励磁的な電流であり、トルクには殆ど寄与しない電流である。δ軸電流iδは、q軸電流に対応し、トルクに大きく寄与する電流である。回転子位置θは、位置・速度推定部20から算出される。
【0030】
減算器19は、速度ωと指令値ω とを参照し、両者間の速度偏差(ω -ω)を算出する。速度ωは、位置・速度推定部20にて算出される。
【0031】
速度制御部17は、比例積分制御などを用いることによって、速度偏差(ω -ω)がゼロに収束するようにδ軸電流指令値iδ を算出して出力する。
【0032】
磁束制御部16は、γ軸電流指令値iγ を決定して減算器14に出力する。γ軸電流指令値iγ は、モータ制御装置3にて実行されるベクトル制御の種類やモータ1の速度ωに応じて、様々な値をとりうる。例えば、d軸電流をゼロとして最大トルク制御を行う場合は、γ軸電流指令値iγ が0とされる。また、d軸電流を流して弱め磁束制御を行う場合は、γ軸電流指令値iγ が速度ωに応じた負の値とされる。以下の説明では、γ軸電流指令値iγ が0である場合を取り扱う。
【0033】
減算器13は、磁束制御部16から出力されるγ軸電流指令値iγ より座標変換器12から出力されるγ軸電流iγを減算し、電流誤差(iγ -iγ)を算出する。減算器14は、速度制御部17から出力される値iδ より座標変換器12から出力されるδ軸電流iδを減算し、電流誤差(iδ -iδ)を算出する。
【0034】
電流制御部15は、電流誤差(iγ -iγ)及び(iδ -iδ)が共にゼロに収束するように、比例積分制御などを用いた電流フィードバック制御を行う。この際、γ軸とδ軸との間の干渉を排除するための非干渉制御を利用し、(iγ -iγ)及び(iδ -iδ)が共にゼロに収束するようにγ軸電圧指令値vγ 及びδ軸電圧指令値vδ を算出する。
【0035】
座標変換器18は、位置・速度推定部20から出力される回転子位置θに基づいて電流制御部15から与えられたvγ 及びvδ を三相の固定座標軸上に座標変換することにより、電圧指令値(v 、v 及びv )を算出して出力する。
【0036】
位置・速度推定部20は、回転子位置θ及び速度ωを推定する。より詳細には、位置・速度推定部20は、座標変換器12からのiγ及びiδ並びに電流制御部15からのvγ 及びvδ の内の全部又は一部を用いて、比例積分制御等を行う。位置・速度推定部20は、d軸とγ軸との間の軸誤差(θ-θ)がゼロに収束するように回転子位置θ及び速度ωを推定する。なお、回転子位置θ及び速度ωの推定手法として従来から様々な手法が提案されており、位置・速度推定部20は公知の何れの手法をも採用可能である。
【0037】
脱調検出部21は、モータ1が脱調しているか否かを判定する。より詳細には、脱調検出部21は、モータ1の磁束に基づいて、モータ1が脱調しているか否かを判定する。モータ1の磁束は、d軸電流及びq軸電流及びγ軸電圧指令値vγ 及びδ軸電圧指令値vδ から求められる。脱調検出部21は、モータ1の磁束の振幅が閾値未満であれば、モータ1が脱調していると判断してよい。なお、閾値は、モータ1の永久磁石が作る磁束の振幅に基づいて適宜定められる。なお、脱調検出手法として従来から様々な手法が提案されており、脱調検出部154は公知の何れの手法をも採用可能である。
【0038】
設定部22は、モータ制御装置3において、指令値ω の決定及び更新を行う。なお、設定部22が、入出力部7から目標値ω を受け取った際に、指令値ω を定めることを、「指令値ω の決定」ということがある。一方、設定部22が、「指令値ω の決定」を行った後に、何らかのタイミングで、指令値ω を定めることを、「指令値ω の更新」ということがある。
【0039】
より詳細には、設定部22は、入出力部7から受け取った目標値ω に基づいて、指令値ω の決定及び更新を行う。設定部22は、指令値ω の決定及び更新を行うにあたって、パラメータを参照する。パラメータは、モータ1の回転中におけるモータ1にかかる負荷の大きさ及びモータ1用の直流電源8の電圧Vdcの少なくとも一方に関連する値で定義される。本実施形態では、パラメータは、変調度と、トルク電流値と、を含む。
【0040】
変調度は、直流電圧から交流電圧への変換に関する値である。変調度は、変調率ともいわれることがある。本実施形態では、変調度は、インバータ回路部2における直流電源8の電圧Vdcとインバータ回路部2に与える駆動電圧Vの目標値(電圧指令値v ,v ,v )とで定義される。具体的には、変調度は、2*Vout/Vinで与えられる。Vinは、直流電源8の電圧Vdcの値である。Voutは、駆動電圧Vの目標値の波高値である。駆動電圧Vの目標値の波高値は、電圧指令値v ,v ,v に対応するU相電圧v、V相電圧v、及びW相電圧vの波高値である。なお、U相電圧v、V相電圧v、及びW相電圧vの波高値は一致するから、駆動電圧Vの目標値の波高値は、電圧指令値v ,v ,v に対応するU相電圧v、V相電圧v、及びW相電圧vの波高値のいずれかと等しい。
【0041】
トルク電流値は、モータ1に流れる電流(相電流i、i、i)のトルク成分の大きさを示す。本実施形態では、q軸電流の値に対応するδ軸電流iδの値がトルク電流値として用いられる。
【0042】
設定部22は、パラメータと閾値との比較結果に基づいて指令値ω を決定(更新)する。より詳細には、設定部22は、パラメータと閾値との比較結果に基づいて、パラメータが条件をみたすかどうかを判定する。この条件は、指令値ω の決定・更新の仕方を切り替えるための条件であり、以下では、切替条件ともいわれることがある。設定部22は、パラメータが切替条件を満たさない場合には、指令値ω をモータ1の速度の目標値ω に近付ける。一方、設定部22は、パラメータが切替条件を満たす場合には、指令値ω を低下させる。例えば、設定部22は、指令値ω を、予め定められた値で減じてもよい。あるいは、設定部22は、指令値ω を、位置・速度推定部20で求められた速度ωに設定することで、低下させてよい。ただし、指令値ω を変化させる際には、速度制御部17が追従できる範囲で、指令値ω を変化させる。
【0043】
本実施形態では、パラメータが変調度とトルク電流値(q軸電流の値)とを含んでいるから、閾値は、変調度に対応する変調度閾値と、トルク電流値に対応する電流閾値とを含む。
【0044】
変調度閾値は、一例としては、インバータ回路部2の動作が許容範囲内かどうかを判断するための値である。変調度閾値は、変調度に対してインバータ回路部2の出力(駆動電圧V)を線形に変化させることができる変調度の範囲(変調度許容範囲)から選択され得る。変調度閾値は、変調度許容範囲の上限値であってもよいし、変調度許容範囲内であれば適宜の値であってもよい。変調度許容範囲の上限値は、インバータ回路部2の構成にも依存するが、一例としては、75~125%の範囲、85~115%の範囲であることが多く、本実施形態では100%である。もちろん、変調度閾値は、変調度許容範囲の上限値に近いほうが効率的である。
【0045】
電流閾値は、一例としては、モータ1の回転中にモータ1にかかる負荷が許容範囲内かどうかを判断するための値である。電流閾値は、モータ1の回転中にモータ1にかかる負荷が許容範囲内にあるときのトルク電流値の範囲(負荷トルク許容範囲)から選択され得る。電流閾値は、負荷トルク許容範囲の上限値であってもよいし、負荷トルク許容範囲内であれば適宜の値であってもよい。もちろん、電流閾値は、負荷トルク許容範囲の上限値に近いほうが効率的であるが、インバータ回路部2の電流定格やモータ1の電流定格で制限される場合が多く、本実施形態ではインバータ回路部2の電流定格である。
【0046】
設定部22は、変調度が変調度閾値を超えるという第1条件とトルク電流値(q軸電流の値)が電流閾値を超えるという第2条件との少なくとも一方が満たされれば、パラメータが切替条件を満たすと判断する。換言すれば、設定部22は、第1条件と第2条件との両方が満たされていないときに、パラメータが切替条件を満たさないと判断する。
【0047】
1.3 動作
次に、電動工具100の動作、特に、モータ制御装置3の設定部22の動作について、図3のフローチャート及び図4及び図5のグラフを参照して説明する。図4は、電動工具100により木ねじのねじ締め作業を行った場合の、指令値ω の時間的変化を示す。図5は、電動工具100によりボルトのねじ締め作業を行った場合の、指令値ω の時間的変化を示す。
【0048】
設定部22は、入出力部7から目標値ω を受け取った際、又は、その後の任意のタイミングで、指令値ω の決定・更新の処理を開始する。まず、設定部22は、パラメータを取得する(S11)。ここでは、設定部22は、変調度と、トルク電流値とを取得する。次に、設定部22は、パラメータ(変調度及びトルク電流値)が条件(切替条件)を満たすかどうかを判定する(S12)。ここでは、設定部22は、変調度が変調度閾値を超えるという第1条件、及び、トルク電流値が電流閾値を超えるという第2条件がそれぞれ成立するかどうかをそれぞれ判定する。
【0049】
第1条件と第2条件とがいずれも成立しなければ、設定部22は、パラメータが切替条件を満たしていないと判断する(S12;No)。この場合、設定部22は、指令値ω が目標値ω に一致しているかどうかを判断する(S13)。指令値ω が目標値ω に一致していなければ(S13;No)、設定部22は、指令値ω を目標値ω に近付ける(S14)。つまり、設定部22は、指令値ω が目標値ω 未満であれば指令値ω を増加させ、指令値ω が目標値ω を超えていれば指令値ω を低下させる。指令値ω が目標値ω に一致していれば(S13;Yes)、設定部22は、指令値ω を維持する。例えば、図4では、時間t10までは、パラメータが切替条件を満たしていない状態であり、設定部22は、指令値ω が目標値ω に一致するように指令値ω を徐々に変化させる。同様に、図5では、時間t20までは、パラメータが切替条件を満たしていない状態であり、設定部22は、指令値ω が目標値ω に一致するように指令値ω を徐々に変化させる。
【0050】
一方、第1条件と第2条件との少なくとも一方が成立すれば、設定部22は、パラメータが切替条件を満たしていると判断する(S12;Yes)。この場合、設定部22は、指令値ω を低下させる(S15)。例えば、図4では、時間t10でパラメータが切替条件を満たし、これ以後、設定部22は、指令値ω を目標値ω に関係なく徐々に低下させる。同様に、図5では、時間t20ではパラメータが切替条件を満たし、設定部22は、指令値ω を目標値ω に関係なく徐々に低下させる。これによって、モータ制御装置3は、モータ1の速度を無理に維持しようとしなくなるから、モータ1の脱調が防止され、モータ1の駆動を継続することができる。特に、変調度閾値が、変調度許容範囲の上限値である場合には、直流電源8の電圧Vdcが変動してもそれに見合う最高速度(最大回転数)でモータ1を駆動させ続けることができる。
【0051】
以上より、モータ制御装置3は、パラメータが切替条件を満たしていないとき(通常運転時)は、モータ1の速度ωが入出力部7から与えられた目標値ω (目標回転数)になるよう、指令値ω を設定する。つまり、モータ制御装置3は、指令値ω を目標値ω に設定する制御(通常目標値制御)を行う。一方、モータ制御装置3は、パラメータが切替条件を満たしたときは、入出力部7から与えられた目標値ω に関係なく、指令値ω を低下させる。つまり、モータ制御装置3は、モータ1の回転中にパラメータに応じて目標値ω を更新する制御(動的速度目標値制御)を行う。
【0052】
このように、電動工具100によれば、モータ1の回転時にかかる負荷(例えば負荷トルク)の変動や直流電源8の電圧Vdcの変動に動的に対応できる。そのため、負荷トルクの変動や直流電源8の電圧Vdcの変動に応じて、常に、モータ1を脱調させない最大回転数で回転させることができる。
【0053】
これにより、電圧Vdcの低下や負荷トルクの増加に備えて、モータ1の回転数を予め低めの値に設定してモータ1を動作させる必要がない。更に、直流電源8の種類や充放電状況に応じて、モータ1の最適な運転が可能となる。そのため、直流電源8の種類や充放電状況に応じて、モータ1の速度の目標値ω の設定をやり直す必要がない。
【0054】
また、作業対象物(木ネジ、ボルト等)や対象作業(ネジ締め、穴あけ、増し締め等)が変化しても、その作業物や対象作業に応じて、動的にモータ1を脱調させない最高速度(最大回転数)で運転できる。そのため、作業モードに応じた複雑な速度目標値の制御や設定が不要になる。その結果、作業が完了するまでにかかる時間を短縮でき、作業効率を高めることができる。また、直流電源8の消費電力量の低減を図ることができる。
【0055】
このように、本実施形態の電動工具100によれば、作業効率を改善できる。また、電動工具100によれば、消費電力量の低減を図ることができる。更に、電動工具100によれば、作業の安定性の向上を図ることができる。
【0056】
1.4 まとめ
以上述べたように、電動工具100は、モータ1と、モータ制御装置3と、を備える。モータ制御装置3は、モータ1の回転中におけるモータ1にかかる負荷の大きさ及びモータ1用の直流電源8の電圧Vdcの少なくとも一方に関連するパラメータに基づいてモータ1の速度の指令値ω を更新する。したがって、この電動工具100によれば、モータ1の動作効率を改善できる。
【0057】
換言すれば、モータ制御装置3は、下記の制御方法(モータ制御方法)を実行しているといえる。当該制御方法は、モータ1の制御方法であって、モータ1の回転中におけるモータ1にかかる負荷の大きさ及びモータ1用の直流電源8の電圧Vdcの少なくとも一方に関連するパラメータに基づいてモータ1の速度の指令値ω を更新する。この制御方法によれば、モータ1の動作効率を改善できる。
【0058】
モータ制御装置3は、コンピュータシステムにより実現されている。つまり、モータ制御装置3は、コンピュータシステムがプログラム(モータ制御プログラム)を実行することにより実現される。このプログラムは、コンピュータシステムに上記の制御方法(モータ制御方法)を実行させるためのプログラムである。このようなプログラムによれば、上記の制御方法と同様に、モータ1の動作効率を改善できる。
【0059】
2.変形例
本開示の実施形態は、上記実施形態に限定されない。上記実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。以下に、上記実施形態の変形例を列挙する。
【0060】
上記実施形態では、パラメータは、変調度と、トルク電流値との2つを含んでいたが、パラメータは、変調度だけであってもよい。この場合、モータ制御装置3(設定部22)は、変調度が変調度閾値以下であれば、指令値ω をモータ1の速度の目標値ω に近付けてよい。一方、モータ制御装置3(設定部22)は、変調度が変調度閾値を超えていれば、指令値ω を低下させてよい。また、パラメータは、トルク電流値だけであってもよい。この場合、モータ制御装置3(設定部22)は、トルク電流値(q軸電流の値)が電流閾値以下であれば、指令値ω をモータ1の速度の目標値ω に近付けてよい。一方、モータ制御装置3(設定部22)は、トルク電流値(q軸電流の値)が電流閾値を超えていれば、指令値ω を低下させてよい。
【0061】
パラメータは、変調度と、トルク電流値とに限定されない。パラメータとしては、直流電源8の電圧Vdcの大きさを示す電源電圧値を利用可能である。この場合、閾値としては、電源電圧値に対応する電圧閾値が利用される。電圧閾値は、一例としては、直流電源8の電圧Vdcの値が許容範囲内かどうかを判断するための値である。電圧閾値は、直流電源8から駆動電圧Vの目標値(電圧指令値v ,v ,v )を満足する駆動電圧Vを生成できる範囲(電圧許容範囲)から選択され得る。電圧閾値は、電圧許容範囲の下限値であってよいし、電圧許容範囲内であれば適宜の値であってよい。もちろん、電圧閾値は、電圧許容範囲の上限値に近いほうが効率的である。モータ制御装置3(設定部22)は、電源電圧値が電圧閾値以上であれば、指令値ω をモータ1の速度の目標値ω に近付けてよい。一方、モータ制御装置3(設定部22)は、電源電圧値が電圧閾値未満であれば、指令値ω を低下させても変調度をパラメータとするのと同じ効果が得られる。
【0062】
このように、パラメータは、変調度とトルク電流値と電源電圧値とから選択される1以上の値を含み得る。パラメータが変調度とトルク電流値と電源電圧値とから選択される2以上の値を含む場合には、いずれかの値で、指令値ω を低下させるという判定が得られた場合に、パラメータが条件を満たすと判断してよい。あるいは、パラメータが含む2以上の値に優先順位をつけて、優先順位が高い値について指令値ω を低下させるという判定が得られた場合に、他とは関係なくパラメータが条件を満たすと判断してよい。
【0063】
上記実施形態では、駆動電圧VのU相、V相、及びW相の電圧v,v,vは、正弦波電圧である。しかしながら、駆動電圧VのU相、V相、及びW相の電圧v,v,vは、矩形波電圧であってもよい。つまり、インバータ回路部2は、モータ1を正弦波駆動してもよいし、矩形波駆動してもよい。
【0064】
上記実施形態では、モータ制御装置3は、ベクトル制御により、センサレスでモータ1の制御を実行する。モータ制御装置3の制御方式は、ベクトル制御に限定されず、120度通電制御等のその他の方式であってもよい。また、電動工具100は、モータ1の位置(ロータ回転位置)を検出する位置センサを備えていてもよい。またさらに、モータ1の電流を検出するセンサ(例えば、相電流センサ11)は、120度通電制御等のその他の方式の場合、無くても構わない。ベクトル制御の場合は、相電流センサ11以外に、インバータ回路部2に設置しているシャント抵抗等を利用してもよい。つまり、相電流センサ11の代わりにシャント抵抗等を利用した電流測定器を利用してよい。これらの場合、モータ制御装置3の制御方式としてより単純な方式を利用でき、回路や制御の簡素化に繋がる。
【0065】
上記実施形態では、電動工具100は、所定の作業を実現するための装置として、スピンドル4、ハンマ5、及びアンビル6を備えている。しかしながら、このような装置は、スピンドル4、ハンマ5、及びアンビル6に限定されず、ドリルや、ソーであってもよい。つまり、電動工具100は、インパクトドライバに限定されず、ドリルドライバ、ジグソーであってもよい。
【0066】
以上述べたモータ制御装置3の実行主体は、コンピュータシステムを含んでいる。コンピュータシステムは、ハードウェアとしてのプロセッサ及びメモリを有する。コンピュータシステムのメモリに記録されたプログラムをプロセッサが実行することによって、本開示におけるモータ制御装置3の実行主体としての機能が実現される。プログラムは、コンピュータシステムのメモリに予め記録されていてもよいが、電気通信回線を通じて提供されてもよい。また、プログラムは、コンピュータシステムで読み取り可能なメモリカード、光学ディスク、ハードディスクドライブ等の非一時的な記録媒体に記録されて提供されてもよい。コンピュータシステムのプロセッサは、半導体集積回路(IC)又は大規模集積回路(LSI)を含む1乃至複数の電子回路で構成される。ここでは、ICやLSIと呼んでいるが、集積の度合いによって呼び方が変わる。例えば、システムLSI、VLSI(very large scale integration)、若しくはULSI(ultralarge scale integration)と呼ばれるものであってもよい。LSIの製造後にプログラムされる、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FGPA)、又はLSI内部の接合関係の再構成又はLSI内部の回路区画のセットアップができる再構成可能な論理デバイスも同じ目的で使うことができる。複数の電子回路は、1つのチップに集約されていてもよいし、複数のチップに分散して設けられていてもよい。複数のチップは、1つの装置に集約されていてもよいし、複数の装置に分散して設けられていてもよい。
【0067】
3.態様
上記実施形態及び変形例から明らかなように、本開示は、下記の態様を含む。以下では、実施形態との対応関係を明示するためだけに、符号を括弧付きで付している。
【0068】
第1の態様の電動工具(100)は、モータ(1)と、モータ制御装置(3)と、を備える。前記モータ制御装置(3)は、パラメータに基づいて前記モータ(1)の速度の指令値(ω )を更新する。前記パラメータは、前記モータ(1)の回転中における前記モータ(1)にかかる負荷の大きさ及び前記モータ(1)用の直流電源(8)の電圧(Vdc)の少なくとも一方に関連する。第1の態様によれば、モータ(1)の動作効率を改善できる。
【0069】
第2の態様の電動工具(100)は、第1の態様との組み合わせにより実現され得る。第2の態様では、前記モータ制御装置(3)は、前記パラメータと閾値との比較結果に基づいて前記指令値(ω )を更新する。第2の態様によれば、モータ(1)の動作効率を改善できる。
【0070】
第3の態様の電動工具(100)は、第2の態様との組み合わせにより実現され得る。第3の態様では、前記パラメータは、変調度を含む。第3の態様によれば、モータ(1)の動作効率を改善できる。
【0071】
第4の態様の電動工具(100)は、第3の態様との組み合わせにより実現され得る。第4の態様では、前記閾値は、変調度閾値を含む。前記モータ制御装置(3)は、前記変調度が前記変調度閾値を超えていれば、前記指令値(ω )を低下させる。第4の態様によれば、モータ(1)の脱調の可能性を低減できる。
【0072】
第5の態様の電動工具(100)は、第4の態様との組み合わせにより実現され得る。第5の態様では、前記モータ制御装置(3)は、前記変調度が前記変調度閾値以下であれば、前記指令値(ω )を前記モータ(1)の速度の目標値(ω )に近付ける。第5の態様によれば、モータ(1)の速度を所望の目標値(ω )に設定できる。
【0073】
第6の態様の電動工具(100)は、第2~第5の態様のいずれか一つとの組み合わせにより実現され得る。第6の態様では、前記パラメータは、前記モータ(1)に流れる電流のトルク成分の大きさを示すトルク電流値を含む。第6の態様によれば、モータ(1)の動作効率を改善できる。
【0074】
第7の態様の電動工具(100)は、第6の態様との組み合わせにより実現され得る。第7の態様では、前記閾値は、電流閾値を含む。前記モータ制御装置(3)は、前記トルク電流値が前記電流閾値を超えていれば、前記指令値(ω )を低下させる。第7の態様によれば、モータ(1)の脱調の可能性を低減できる。
【0075】
第8の態様の電動工具(100)は、第7の態様との組み合わせにより実現され得る。第8の態様では、前記モータ制御装置(3)は、前記トルク電流値が前記電流閾値以下であれば、前記指令値(ω )を前記モータ(1)の速度の目標値(ω )に近付ける。第8の態様によれば、モータ(1)の速度を所望の目標値(ω )に設定できる。
【0076】
第9の態様の電動工具(100)は、第2~第8の態様のいずれか一つとの組み合わせにより実現され得る。第9の態様では、前記パラメータは、前記直流電源(8)の電圧(Vdc)の大きさを示す電源電圧値を含む。第9の態様によれば、モータ(1)の動作効率を改善できる。
【0077】
第10の態様の電動工具(100)は、第9の態様との組み合わせにより実現され得る。第10の態様では、前記閾値は、電圧閾値を含む。前記モータ制御装置(3)は、前記電源電圧値が前記電圧閾値未満であれば、前記指令値(ω )を低下させる。第10の態様によれば、モータ(1)の脱調の可能性を低減できる。
【0078】
第11の態様の電動工具(100)は、第10の態様との組み合わせにより実現され得る。第11の態様では、前記モータ制御装置(3)は、前記電源電圧値が前記電圧閾値以上であれば、前記指令値(ω )を前記モータ(1)の速度の目標値(ω )に近付ける。第11の態様によれば、モータ(1)の速度を所望の目標値(ω )に設定できる。
【0079】
第12の態様の電動工具(100)は、第1~第11の態様のいずれか一つとの組み合わせにより実現され得る。第12の態様では、前記モータ(1)は、ブラシレスモータである。第12の態様によれば、モータ(1)の動作効率を改善できる。
【0080】
第13の態様の電動工具(100)は、第12の態様との組み合わせにより実現され得る。第13の態様では、前記電動工具(100)は、前記直流電源(8)から駆動電圧(V)を生成してモータ(1)に出力するインバータ回路部(2)を更に備える。前記モータ制御装置(3)は、前記モータ(1)の速度が前記指令値(ω )に一致するように前記駆動電圧(V)の目標値(v ,v ,v )を決定して前記インバータ回路部(2)に与える。第13の態様によれば、モータ(1)の動作効率を改善できる。
【0081】
第14の態様の制御方法は、モータ(1)の制御方法である。前記制御方法は、前記モータ(1)の回転中における前記モータ(1)にかかる負荷の大きさ及び前記モータ(1)用の直流電源(8)の電圧(Vdc)の少なくとも一方に関連するパラメータに基づいて前記モータ(1)の速度の指令値(ω )を更新する。第14の態様によれば、モータ(1)の動作効率を改善できる、という効果を奏する。
【0082】
第15の態様のプログラムは、コンピュータシステムに、第14の態様の制御方法を実行させるための、プログラムである。第15の態様によれば、モータ(1)の動作効率を改善できる、という効果を奏する。
【符号の説明】
【0083】
100 電動工具
1 モータ
2 インバータ回路部
3 モータ制御装置
8 直流電源
ω 目標値
ω 指令値
駆動電圧
,v ,v 目標値
dc 電圧
図1
図2
図3
図4
図5