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  • 特許-生体用電極およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】生体用電極およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/263 20210101AFI20230929BHJP
【FI】
A61B5/263
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020037169
(22)【出願日】2020-03-04
(65)【公開番号】P2021137296
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】豊田 慶
【審査官】▲高▼木 尚哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-026552(JP,A)
【文献】特開2020-000851(JP,A)
【文献】特開2002-279826(JP,A)
【文献】特開2010-168454(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0121619(US,A1)
【文献】特開平04-091169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05-5/0538
A61B 5/24-5/398
A61N 1/00-1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機材料基材と、前記無機材料基材を被覆する導電性層とを含む生体用電極であって、
前記導電性層が、エポキシ基およびアルコキシシリル基を有する第1化合物に由来する部分を含む重合体と、前記重合体に担持されたアルカリ金属イオンおよび第2族元素イオンの少なくとも一方とを含み、
前記重合体において、前記エポキシ基に由来する部分が開環重合し、かつ、前記アルコキシシリル基に由来する部分がシロキサン結合を形成している、生体用電極。
【請求項2】
前記エポキシ基がグリシドキシ基を構成している、請求項1に記載の生体用電極。
【請求項3】
前記シロキサン結合は、前記第1化合物のアルコキシシリル基に由来する部分と、
炭化水素基およびアルコキシシリル基を有する第2化合物のアルコキシシリル基に由来する部分とにより形成されている、請求項1または2に記載の生体用電極。
【請求項4】
前記無機材料基材は、円相当直径100μm以上5mm以下の繊維状である、請求項1~3のいずれか一項に記載の生体用電極。
【請求項5】
前記無機材料基材は尖端構造部分を有する、請求項4に記載の生体用電極。
【請求項6】
前記無機材料基材はガラスまたは金属を含む、請求項4または5に記載の生体用電極。
【請求項7】
前記重合体において、さらに環状ポリエーテル構造が形成されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の生体用電極。
【請求項8】
前記導電性層は導電性粒子をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の生体用電極。
【請求項9】
前記導電性粒子は、炭素、銀および銅からなる群から選択される少なくとも一種以上を含み、且つ0.5nm以上100μm以下の平均粒径を有する、請求項8に記載の生体用電極。
【請求項10】
前記導電性粒子は、カーボンナノチューブおよび/またはグラファイトパウダーである、請求項8または9に記載の生体用電極。
【請求項11】
エポキシ基およびアルコキシシリル基を有する第1化合物を含む液体に、アルカリ金属塩および第2族元素の塩の少なくとも一方を溶解させた溶解液を用意する工程と、
前記溶解液を無機材料基材に塗布する工程と、
塗布された前記溶解液を硬化させる工程と、を含む生体用電極の製造方法。
【請求項12】
前記溶解液を用意する工程後、前記溶解液を前記無機材料基材に塗布する工程前に、導電性粒子を前記溶解液に混合する工程をさらに含む、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記液体は、炭化水素基およびアルコキシシリル基を有する第2化合物をさらに含む、請求項11または12に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体用電極およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体用電極は、主に人体の神経系統を伝達する電位信号を検出するために必要とされ、身近なところでは心電図または脳波計測などに用いられる。
【0003】
今後、機械類および/またはロボットを意のままに操作できる、人体および機械が融合した社会を実現していくためには、電位信号を高精度に測定、解析および変換し、電気機器などに伝達する必要がある。そのためには、より高精度に生体から電位信号を検出できる生体用電極が必要となる。
【0004】
生体用電極として、特許文献1には、ゴムにカーボンナノチューブなどの炭素材料粉末を配合した電極が開示され、特許文献2には、シリコーンゴムシートに銀粒子が配合されたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開第2015-41419号公報
【文献】国際公開第2019/139165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および2の生体用電極は、人体表面(皮膚)からの電位変化計測を意図しており、ゴム製で柔軟である。このような形状変化しやすい電極は、人体の深部および/または神経細胞などの微細部から高精度に信号を得ることには適しているとはいえない。一方、単に硬い金属電極を生体用電極として長期的に使用すると、電気分解などにより測定精度が低下し、また、場合によっては金属が人体に対してアレルギー症状を引き起こし得る。
【0007】
本発明の実施形態は、このような状況を鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、剛性が高く、且つ生体と接触させるための表面が主に非金属材料で構成された生体用電極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様1は、
無機材料基材と、前記無機材料基材を被覆する導電性層とを含む生体用電極であって、
前記導電性層が、エポキシ基およびアルコキシシリル基を有する第1化合物に由来する部分を含む重合体と、前記重合体に担持されたアルカリ金属イオンおよび第2族元素イオンの少なくとも一方とを含み、
前記重合体において、前記エポキシ基に由来する部分が開環重合し、かつ、前記アルコキシシリル基に由来する部分がシロキサン結合を形成している、生体用電極である。
【0009】
本発明の態様2は、前記エポキシ基がグリシドキシ基を構成している、請求項1に記載の生体用電極である。
【0010】
本発明の態様3は、前記シロキサン結合が、前記第1化合物のアルコキシシリル基に由来する部分と、
炭化水素基およびアルコキシシリル基を有する第2化合物のアルコキシシリル基に由来する部分とにより形成されている、態様1または2に記載の生体用電極である。
【0011】
本発明の態様4は、前記無機材料基材が、円相当直径100μm以上5mm以下の繊維状である、態様1~3のいずれか1つに記載の生体用電極である。
【0012】
本発明の態様5は、前記無機材料基材が尖端構造部分を有する、態様4に記載の生体用電極である。
【0013】
本発明の態様6は、前記無機材料基材がガラスまたは金属を含む、態様4または5に記載の生体用電極である。
【0014】
本発明の態様7は、前記重合体において、さらに環状ポリエーテル構造が形成されている、態様1~6のいずれか1つに記載の生体用電極である。
【0015】
本発明の態様8は、前記導電性層が導電性粒子をさらに含む、態様1~7のいずれか1つに記載の生体用電極である。
【0016】
本発明の態様9は、前記導電性粒子が、炭素、銀および銅からなる群から選択される少なくとも一種以上を含み、且つ0.5nm以上100μm以下の平均粒径を有する、態様8に記載の生体用電極である。
【0017】
本発明の態様10は、前記導電性粒子が、カーボンナノチューブおよび/またはグラファイトパウダーである、態様8または9に記載の生体用電極である。
【0018】
本発明の態様11は、エポキシ基およびアルコキシシリル基を有する第1化合物を含む液体に、アルカリ金属塩および第2族元素の塩の少なくとも一方を溶解させた溶解液を用意する工程と、
前記溶解液を無機材料基材に塗布する工程と、
塗布された前記溶解液を硬化させる工程と、を含む生体用電極の製造方法である。
【0019】
本発明の態様12は、前記溶解液を用意する工程後、前記溶解液を前記無機材料基材に塗布する工程前に、導電性粒子を前記溶解液に混合する工程をさらに含む、態様11に記載の製造方法である。
【0020】
本発明の態様13は、前記液体が、炭化水素基およびアルコキシシリル基を有する第2化合物をさらに含む、態様11または12に記載の製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の実施形態によれば、剛性が高く、且つ生体と接触させるための表面が主に非金属材料で構成された生体用電極を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、第1化合物としてγ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランを用い、アルカリ金属イオンとしてリチウムイオン(Li)を用いた場合の、本発明の実施形態に係る生体用電極の構造を説明する概念図である。
図2A図2Aは、実施例1の溶解液の全反射FTIRスペクトルである。
図2B図2Bは、実施例1の導電性層の全反射FTIRスペクトルである。
図3図3は、実施例1の導電性層の紫外可視吸収スペクトルである。
図4図4は、実施例5のGPC測定結果である。
図5図5は、実施例5の導電性層の紫外可視吸収スペクトルである。
図6図6は、実施例1~13および比較例1~3の評価結果をまとめた表である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本願発明者らは、剛性が高く、且つ生体と接触させるための表面が主に非金属材料で構成された生体用電極を実現するべく、様々な角度から検討した。
【0024】
その結果、無機材料基材と、前記無機材料基材を被覆する導電性層とを含む生体用電極であって、前記導電性層が、エポキシ基およびアルコキシシリル基を有する第1化合物に由来する部分を含む重合体と、前記重合体に担持されたアルカリ金属イオンおよび第2族元素イオンの少なくとも一方とを含む、生体用電極およびその製造方法を見出した。
【0025】
図1に、第1化合物としてγ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランを用い、アルカリ金属イオンとしてリチウムイオン(Li)を用いた場合の、本発明の実施形態に係る生体用電極の構造を示す概念図を示す。
図1に示すように、本発明の実施形態に係る生体用電極1では、無機材料基材100を導電性層が被覆している。導電性層中には、第1化合物に由来する部分を含む重合体201を含み、重合体201はアルカリ金属イオンおよび/または第2族元素イオン202(図1においてはリチウムイオン(Li))を担持している。重合体201は、エポキシ基に由来する部分が開環重合した部分201A(以下「ポリエチレンオキサイド構造201A」と称することがある)と、アルコキシシリル基に由来する部分が加水分解縮合することによりシロキサン結合を形成した部分201B(以下、「シロキサン結合構造201B」と称することがある)とを含み、シロキサン結合構造201Bは、無機材料基材100と結合した部分201C(以下、「基材/導電性層結合部分201C」と称することがある)を有し得る。
【0026】
図1に示すような構造では、(1)無機材料基材100により剛性を高くすることができ、(2)生体と接触させるための表面である導電性層が、主に非金属材料で構成されており、(3)シロキサン結合構造201Bにより、導電性層と無機材料基材100との密着性を確保でき、(4)ポリエチレンオキサイド構造201Aと、アルカリ金属イオンおよび/または第2族元素イオン202とにより、イオン伝導性を確保できる。
【0027】
以下に、本発明の実施形態に係る生体用電極について説明する。
【0028】
<無機材料基材>
本発明の実施形態に係る無機材料基材100は、主成分が(すなわち、基材の全体質量に対し50質量%超が)金属、ガラスおよびセラミクス、ならびにそれらの混合物であるものをいう。このような無機材料基材を用いることで、剛性が高い生体用電極とすることができる。
【0029】
上記無機材料基材100は、無機酸化物を含むことが好ましい。無機酸化物を含む基材は、表面に水酸基が形成され得る。水酸基は、第1化合物のアルコキシシリル基が加水分解したもの(すなわちシラノール基)と脱水縮合反応して、基材/導電性層結合部分201Cを形成し得る。そのため、無機酸化物を含む無機材料基材100は、導電性層との密着性を向上させ得る。
【0030】
無機材料基材100に好適に用いられる無機酸化物としては、ガラスが挙げられる。ガラスとしては、二酸化ケイ素を主原料とする珪ホウ酸ガラス、BK7、合成石英、無水合成石英、ソーダ石灰ガラス、結晶ガラスなどが挙げられる。また、それらのガラスにアルミナ、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、ホウ酸、酸化ナトリウム、酸化カリウムなどが含有されていてもよい。
【0031】
また、無機材料基材100は、金属を含んでいても好ましい。金属を含む基材の場合、金属表面に薄い酸化物が形成され、さらにその最表面には水酸基が形成され得るためである。
【0032】
無機材料基材100に好適に用いられる金属としては、例えば、白金、金、銀、銅、ステンレス、アルミニウムなどが挙げられる。
【0033】
無機材料基材100の形状は、特に限定されないが、断面方向における円相当直径が100μm以上5mm以下の繊維状であることが好ましい。このような形状にすることにより、人体の深部および/または神経細胞などの微細部との接触面積を小さくすることができ、当該微細部からの電気信号をより高精度に計測することができる。一方、人体表面に貼り付けて電気信号を計測することを想定して、無機材料基材100の形状を板状にしてもよい。
なお、本明細書でいう「繊維状」とは、繊維のような細長い形状であって、断面方向と長さ方向とを有し、断面方向の最大長さよりも、長さ方向の長さの方が大きい形状を指す。繊維状としたときの断面形状は特に限定されず、例えば、円、楕円、四角、三角などにすることができる。長さ方向において断面形状が異なっている場合、長さ方向の両端部の断面方向における円相当直径のうち、小さい方の円相当直径が100μm以上5mm以下であればよい。繊維状のものとして、例えば、円柱状のもの、角柱状のもの、ファイバ状のもの、針状のもの、錐状のものなどが挙げられる。円柱状またはファイバ状のものの場合(すなわち断面形状が円の場合)、外径が100μm以上5mm以下であることが好ましい。
【0034】
微細部からの電気信号をより高精度に計測するために、無機材料基材100は尖端構造部分を有することがより好ましい。これにより、人体の深部および/または神経細胞などの微細部との接触面積をより小さくすることができる。
【0035】
<導電性層>
本発明の実施形態に係る導電層は、エポキシ基およびアルコキシシリル基を有する第1化合物に由来する部分を含む重合体201と、前記重合体201に担持されたアルカリ金属イオンおよび/または第2族元素イオン202とを含んでいる。前記重合体201において、エポキシ基に由来する部分が開環重合し、ポリエチレンオキサイド構造201Aを形成すると共に、アルコキシシリル基に由来する部分がシロキサン結合構造201Bを形成する。さらに、シロキサン結合構造201Bは、基材/導電性層結合部分201Cを有し得る。すなわち、アルコキシシリル基に由来する部分は、シロキサン結合を形成すると共に無機材料基材の表面とも結合し得る。
また、導電性層は、無機材料基材との上記の界面構造に加えて、重合鎖が3次元的に成長する。具体的には、エポキシ基に由来する部分の開環重合部分が無機材料基材の表面から遠ざかる形で重合鎖を形成し、無機材料基材の表面から遠ざかった箇所においても、アルコキシシリル基に由来する部分がシロキサン結合を形成することとなる。導電性層の厚みとしては特に制限されず、適宜調整し得る。
【0036】
本発明の実施形態に係る第1化合物は、エポキシ基およびアルコキシシリル基を有し、下記一般式(1)で表すことができる。

GC2n-2m-4fSiR 3-g(OR ・・・(1)
【0037】
ここで、Gはエポキシ基を有する官能基であり得、エポキシ基を有する官能基の例としては、グリシドキシ基、エポキシシクロヘキシル基などが挙げられるが、反応性が高く重合物を得やすいという観点から、グリシドキシ基が好適に使用される。すなわち、本発明の実施形態において、エポキシ基がグリシドキシ基を構成していることが好ましい。
【0038】
およびRは、各出現において独立して、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、ペンチル基、イソブチル基、ヘキシル基、フェニル基、シクロヘキシル基のいずれかであり得、RとRが同一であっても異なっていてもよい。加水分解しやすく、且つ無機材料基材100表面、特にガラス基材表面への吸着性が高いという観点で、メチル基およびエチル基を好適に使用できる。
【0039】
nは、0以上8以下の整数であり得る。nを8以下にしておくことで、第1化合物の疎水性が過度に高まることを抑制し、第1化合物の液体への、アルカリ金属塩および/または第2族元素の塩の溶解性を確保でき好ましい。また、エポキシ基同士の開環重合の際、Si(シリコン)原子との距離を確保することにより、Si原子に結合しているアルコキシ基(OR)による立体障害を抑制できるという観点で、nは3以上であることが好ましい。C2n-2m-4fで表される炭化水素において、mは、当該炭化水素中の、2重結合の数と環構造の数の合計であり、fは、当該炭化水素中の3重結合の数である。
【0040】
gは、1以上3以下の整数である。gが小さい程、アルコキシ基同士の結合の割合が少なくなり、重合時の体積収縮を抑制でき、重合体の体積収縮に起因した、導電性層中の内部クラックの発生を抑制できる。一方、gが大きい程、基材/導電性層結合部分201Cの形成に寄与するアルコキシ基数が増えるため、導電性層と無機材料基材100との密着性が増大する。内部クラックの抑制および密着性を両立できるという観点から、gは2であることが好ましい。
【0041】
上記のような第1化合物として、γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ―グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ―グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ―グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)トリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルジエトキシシランなどが挙げられる。
【0042】
本発明の実施形態に係る第1化合物に由来する部分を含む重合体201は、アルカリ金属イオンおよび/または第2族元素イオン202を担持しており、エポキシ基に由来する部分が開環重合し、かつ、アルコキシシリル基に由来する部分がシロキサン結合を形成している。
【0043】
第1化合物のエポキシ基に由来する部分が、例えば、アルカリ金属塩および/または第2族元素の塩により開環重合すると、主としてポリエチレンオキサイド構造201Aが形成され得る。ポリエチレンオキサイド構造201Aが形成され、さらにアルカリ金属イオンおよび/または第2族元素イオン202を担持していると、重合体201を含む導電性層は、イオン伝導性を有するようになる。
【0044】
導電性層中において、さらに第1化合物のエポキシ基が環状に重合することにより、環状ポリエーテル構造を含む重合物が形成されていることが好ましい。これにより、アルカリ金属イオンおよび/または第2族元素イオン202を安定的に担持することができ、イオン伝導性を向上させることができる。リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンなどのアルカリ金属イオンが担持しやすいという観点から、エポキシ基が4以上6以下の個数で環状に重合したものであることが好ましい。
【0045】
環状ポリエーテル構造を含む重合物は、紫外線を吸収するため、その含有量は紫外可視吸収スペクトルにおける紫外部、例えば450nmの吸光度で規定できる。ここで、導電性層の450nmの吸光度は、0.200以上であることが好ましい。この範囲にしておくことで、十分な環状ポリエーテル構造を含む重合物量を確保でき、イオン伝導性がより向上する。一方、環状ポリエーテル構造が形成されるには時間がかかるため、生産性の観点から、導電性層の450nmの吸光度は2.50以下とすることが好ましい。
【0046】
重合体201中に担持されるアルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどが挙げられる。重合体201中に担持される第2族元素イオンとしては、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオンなどが挙げられる。
【0047】
第1化合物のアルコキシシリル基は、主として、加水分解してシラノール基となり、シラノール基同士が脱水縮合してシロキサン結合構造201Bを形成し得る。シロキサン結合構造201Bを含む導電性層は、基材/導電性層結合部分201Cを有し得るため、無機材料基材との密着性を確保するのに適している。
【0048】
シロキサン結合構造201Bは、第1化合物のアルコキシシリル基に由来する部分と、炭化水素基およびアルコキシシリル基を有する第2化合物の、アルコキシシリル基に由来する部分とにより形成されていてもよい。第1化合物および第2化合物によりシロキサン結合構造201Bを形成する場合、第1化合物のみでシロキサン結合構造201Bを形成するよりも架橋密度が低下し、導電性層中のクラック発生を抑制できる。また、架橋密度が低下すると、イオン伝導パスがより多く形成され、生体用電極1のイオン伝導性が向上するため好ましい。
【0049】
第2化合物は、下記一般式(2)で表すことができる。

Si(OR(OR(OR ・・・(2)
【0050】
X、YおよびZは特に限定されないが、例えば一般式C2s+1-2t-4uで表される炭素水素基とすることができ、sは1以上20以下とすることができる。sを20以下とすることにより、過度に立体障害が大きくなることを防ぎ、重合体の形成を比較的容易にできる。tは炭化水素基中の2重結合と環構造の数の合計であり、uは3重結合の数である。X、YおよびZは、全て同一でも異なっていてもよい。
【0051】
X、YおよびZの具体例として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、フェニル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基、アリル基などが挙げられる。
【0052】
、RおよびRは炭化水素基であり得、炭素数1以上5以下のアルキル基であることが好ましい。
【0053】
p、q、r、a、bおよびcは、1≦p+q+r≦3、1≦a+b+c≦3およびp+q+r+a+b+c=4を満たすような0以上の整数である。
【0054】
第2化合物は、上記式(2)で表される化合物の混合物であってもよい。第2化合物が混合物である場合、アルコキシシリル基の数(すなわちa+b+c)を2個とした化合物および3個とした化合物の混合物とすることで、シロキサン結合構造201Bの架橋密度を制御し、さらに内部クラックの抑制および密着性を両立した導電性層とすることができる。
【0055】
第2化合物の添加量としては、第1化合物と第2化合物のモル数の合計に対する第2化合物のモル数の比が0.1以上0.5以下とすることができる。0.1以上とすることにより、架橋密度低下の効果を得やすく、0.5以上とすることにより、ポリエチレンオキサイド構造201Aの濃度を高めることができ、十分な導電性を得やすくなる。
【0056】
上記導電性層には、導電性粒子が含まれていてもよい。これにより、生体用電極としての電気抵抗を低下させることができ好ましい。導電性粒子としては、限定されるものではないが、例えば、グラファイトパウダーおよびカーボンナノチューブなどの炭素材料、銀および銅などの金属材料を含む粒子が挙げられる。なお、導電性層中において、導電性粒子は重合体201に覆われる。
【0057】
導電性粒子の平均粒径としては、0.5nm以上とすることが好ましい。0.5nm以上とすることで、粒子同士が凝集することを抑制し、より均一に分散させることができる。また大きすぎても、沈降などの影響により、導電性層中で均一に分散させることが難しくなるため、導電性粒子の平均粒径は100μm以下とすることが好ましい。さらには、100nm以上50μm以下とすることが、分散性と導電性を両立しやすく、より好ましい。
なお、ここでいう「平均粒径」とは、体積標準のメジアン径(D50)のことをいう。
【0058】
導電性層中の導電性粒子の添加量としては、体積比率で10%以上とすることが好ましい。10%以上とすることで、粒子同士の距離を一定距離以内に保つことができ、導電性を向上させることができる。より好ましくは30%以上である。一方で、空気の噛み込みおよび表面への露出を抑制して均一な重合物を得るため、導電性粒子の添加量は、体積比率で60%以下とすることが好ましい。より好ましくは、50%以下である。
【0059】
導電性粒子の形状は、限定されるものではなく、粒子形状の他、繊維状であってもよい。繊維状の場合、隣り合う粒子の接触が起こりやすく、イオン伝導性を向上させる上で好ましい。
【0060】
本発明の実施形態の目的が達成される範囲内で、本発明の実施形態に係る生体用電極には他の成分が含まれていてもよい。
【0061】
以下、本発明の実施形態に係る生体用電極の製造方法について説明する。
【0062】
本発明の実施形態に係る生体用電極の製造方法は、
(a)溶解液を用意する工程と、
(b)上記溶解液を無機材料基材に塗布する工程と、
(c)塗布された上記溶解液を硬化させる工程と、を含む。
【0063】
[(a)溶解液を用意する工程]
エポキシ基およびアルコキシシリル基を有する第1化合物を含む液体に、アルカリ金属塩および第2族元素の塩の少なくとも一方を溶解させた溶解液を用意する。溶解方法は特に限定されないが、30℃以上60℃以下の温度で1分以上加熱攪拌することが好ましい。30℃以上とすることにより溶解を容易にでき、60℃以下とすることにより、溶解液作成段階で重合およびそれによる高粘度化を抑制し、無機材料基材上に塗布する際に厚みバラつき発生を抑制し得る。加熱攪拌時間としてより好ましくは10分以上である。攪拌には、例えばスターラーなどを用いることができる。
【0064】
工程(a)におけるアルカリ金属塩および/または第2族元素の塩は、特に限定されないが、アルカリ金属および/または第2族元素の陽イオンと、陰イオンとの組み合わせからなる。上記陽イオンとしては、例えばリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンおよびストロンチウムイオンなどが挙げられる。陰イオンとしては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、ヘキサフルオロヒ酸イオン(AsF )およびヘキサフルオロリン酸イオン(PF )などが挙げられる。アルカリ金属塩および/または第2族元素の塩としてアルコキシシリル基を有する第1化合物への溶解性が高いという観点から、過塩素酸リチウム、ヨウ化ナトリウムが好ましい。
【0065】
工程(a)におけるアルカリ金属塩および/または第2族元素の塩の添加量は、第1化合物のモル数に対して5%以上30%以下のモル数とすることが好ましい。5%以上とすることにより、ポリエチレンオキサイド構造を十分に形成させることができ、30%以下とすることにより、溶解液において当該塩の沈殿物の発生を抑制することができる。
【0066】
工程(a)において、上記液体に炭化水素基および加水分解性シリル基を有する第2化合物が含まれていてもよい。これにより、シロキサン結合構造201Bを、第1化合物のアルコキシシリル基に由来する部分と、炭化水素基およびアルコキシシリル基を有する第2化合物の、アルコキシシリル基に由来する部分とにより形成することができる。
【0067】
工程(a)後、工程(b)前に、導電性粒子を溶解液に混合する工程をさらに含んでもよい。これにより、さらに導電性粒子を含む導電性層とすることができる。混合させる方法としては、特に限定されないが、例えば、溶解液に導電性粒子を入れた後、手作業で振とうさせてもよいし、スターラーなどで攪拌させてもよい。
【0068】
[(b)塗布する工程]
工程(a)で得られた溶解液を、無機材料基材上に塗布する。塗布方法としては、特に限定されないが、例えば、無機材料基材を溶解液に浸漬させることにより塗布してもよい。無機材料基材が板状であればスピンコーターなどにより塗布してもよい。
【0069】
[(c)硬化させる工程]
工程(b)で塗布された溶解液を硬化させる。この工程では、アルカリ金属塩および/または第2族元素の塩の金属陽イオンによるエポキシ基の開環重合が進行し、ポリエチレンオキサイド構造201Aが形成され得る。また、ポリエチレンオキサイド構造201A中に含まれる酸素原子からの配位結合により、アルカリ金属イオンおよび/または第2族元素イオン202が担持され得る。
また、大気中の水分によりアルコキシシリル基の加水分解が進行し、シラノール基が同時に生成し得る。さらに生成したシラノール基同士の脱水縮合によりシロキサン結合構造201Bが形成され、溶解液は硬化し、第1化合物(および第2化合物)の重合体201およびそれを含む導電性層が形成される。生成したシラノール基は、無機材料基材100表面の水酸基とも脱水縮合反応し、基材/導電性層結合部分201Cを形成し得る。すなわち、アルコキシシリル基に由来する部分はシロキサン結合を形成すると共に無機材料基材の表面とも結合し得る。結果として、導電性層と無機材料基材100とが良く結合し、密着性に優れた生体用電極1が得られる。
【0070】
工程(c)の硬化させる時間としては、20分以上とするのが好ましい。より好ましくは30分以上、1時間以上、24時間以上、100時間以上、500時間以上、および720時間以上である。これにより、第1化合物(および第2化合物)の重合反応を十分に進めることができる。
【0071】
工程(c)の硬化させる温度は、20℃以上とするのが好ましい。また、高温とすることで第1化合物(および第2化合物)の重合反応をより短時間で進めることができ、より好ましくは23℃以上、40℃以上、60℃以上、80℃以上および100℃以上である。さらに好ましくは150℃以上である。150℃以上とすることで、より短時間で重合反応を進めることができるとともに、環状ポリエーテル構造を生成することができる。工程(c)の硬化させるときの湿度は特に限定されず、加水分解を進行させるために、大気雰囲気中など水分がある環境下(すなわち0%RH超)であることが好ましい。
【0072】
本発明の実施形態の目的が達成される範囲内で、本発明の実施形態に係る生体用電極の製造方法には他の工程が含まれていてもよい。
【実施例
【0073】
以下、実施例を挙げて本発明の実施形態をより具体的に説明する。本発明の実施形態は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前述および後述する趣旨に合致し得る範囲で、適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の実施形態の技術的範囲に包含される。
【実施例1】
【0074】
(a)溶解液を用意する工程
エポキシ基およびアルコキシシリル基を有する第1化合物の液体としてγ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学工業製、KBM402)53.5質量部を用意した。アルカリ金属塩として過塩素酸リチウム(関東化学製、鹿1級)2.25質量部を、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランに添加し、マグネチックホットスターラーにより60℃に加熱しながら約10分攪拌させることで溶解液を用意した。
【0075】
(b)塗布する工程
上記溶解液に、無機材料基材としてホウケイ酸ガラスファイバ(パイレックス(登録商標)加工品、外径100μm、長さ60cmを浸漬させることにより、無機材料基体上に溶解液を塗布した。
【0076】
(c)硬化させる工程
上記溶解液が塗布された無機材料基材を、23℃60%RHの環境において720時間保持することにより、上記溶解液を硬化させ、無機材料基材と、それを被覆する導電性層とを含む生体用電極を製造した。
実施例1の溶解液および導電性層の構造を解析するために、全反射FTIRスペクトルを測定した(島津製作所、IRPrestige-21)。導電性層については、別途ホウケイ酸ガラス製のガラス板(パイレックス(登録商標)加工品)に溶解液を塗布し、同様の硬化条件で溶解液を硬化させた生体用電極を製造し、その表面、すなわち導電性層の全反射FTIRスペクトルを測定した。
【0077】
図2Aは実施例1の溶解液の全反射FTIRスペクトルであり、図2Bは実施例1の導電性層のFTIRスペクトルである。図2Aでは、グリシドキシ基に特徴的な908.5cm-1のピークおよびメトキシ基に特徴的な2835.4cm-1のピークが観察されるのに対し、図2Bではそれらのピークが確認されない。このことから、23℃60%RH720時間保持した後の導電性層では、グリシドキシ基の開環反応と、メトキシ基の少なくとも加水分解が完了していることがわかり、図1に示すような構造を形成していると考えられる。
【0078】
実施例1の導電性層中の環状ポリエーテル構造の含有量を調査するために、紫外可視吸収スペクトルを測定した(HITACHI U-4000)。なお、測定用試料には、実施例1の溶解液を、光路長5mmの石英セルに移し、23℃60%RHで720時間保持したものを用いた。
【0079】
図3は、実施例1の導電性層の吸収スペクトル測定結果である。450nmにおける吸光度は0.199であり、環状ポリエーテル構造が比較的少ないことが分かった。
【実施例2】
【0080】
実施例1の工程(a)を以下のように変更し、その他は実施例1と同様にして、生体用電極を製造した。
第1化合物としてγ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学工業製、KBM402)37.5質量部を用意し、その第1化合物に、炭化水素基およびアルコキシシリルを有する第2化合物の液体としてジメチルジメトキシシラン(信越化学工業 KBM22)7.90質量部を混合し、その混合物に過塩素酸リチウム2.25質量部を添加し、マグネチックホットスターラーにより60℃に加熱しながら約10分攪拌させ溶解液を用意した。
【実施例3】
【0081】
実施例1の工程(a)において、アルカリ金属塩をヨウ化カリウム(関東化学製)3.51質量部に変更し、工程(b)において、無機材料基材をBK7製の板状ガラス(パイレックス(登録商標)加工品、面積:50mm×50mm、厚み:5mm)に変更し、且つ溶解液を塗布する際、スピンコーターを使用し500rpm、10秒間の条件で無機材料基材上に塗布し、その他は実施例1と同様にして、生体用電極を製造した。
【実施例4】
【0082】
実施例1の工程(a)において、無機材料基材を石英製円柱部材(外径5mm、長さ10mm)に変更し、その他は実施例1と同様にして、生体用電極を製造した。
【実施例5】
【0083】
実施例1の工程(c)において、硬化条件を大気雰囲気下150℃で1.5時間保持することに変更し、その他は実施例1と同様にして生体用電極を製造した。保持条件の詳細として、150℃の恒温槽内につるされた金属製ワイヤに、溶解液を浸漬塗布した珪ホウ酸ガラスファイバをクリップで固定した状態で、1.5時間保持した。
【0084】
実施例5の大気雰囲気下150℃1.5時間保持後の導電性層の構造を解析するために、GPC測定を行った。なお、測定用試料には、実施例5の溶解液をビーカーに移し、実施例5で用いた恒温槽内で150℃1.5時間保持したものを用いた。GPC測定の前処理として、測定用試料100mgに、溶媒としてTHF5ml(0.02%モノエタノールアミン含有)を加え、約90℃で2時間攪拌した後、0.45μmフィルターを用いて濾過して金属イオンを除去した。前処理後、GPC多角度光散乱光度計によりGPC測定を行った。
【0085】
図4は、実施例5のGPC測定結果である。図4において、840付近に分子量ピークが確認された。これは下記化学式1に示す環状ポリエーテル構造を含む重合物が形成されていると考えられる。
【0086】
【化1】
【0087】
上記化学式1の化合物は、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランのグリシドキシ基が環状に4個重合したものである。
なお、実際の導電性層においては、GPC測定用試料とは異なり、下記化学式2で示す、リチウムイオンが配位された構造を示すと考えられるが、GPC測定の前処理においてリチウムイオンが脱落した結果、GPC測定用試料においては上記化学式1の化合物が検出されたと考えられる。
【0088】
【化2】
【0089】
また、より詳細には、上記化学式1の化合物の分子量は880であり、GPC測定結果(840)よりも大きい。よって、より正確にはGPC測定で検出された化合物は、下記化学式3のような構造であると考えられる。
【0090】
【化3】
【0091】
上記化学式1と3の違いは、8個のメトキシ基のうち3個が加水分解されて水酸基となっていることである。すなわち、環状ポリエーテル構造を有する重合物においても、アルコキシシリル基に由来する部分が加水分解されており、無機材料基材と結合する上で好ましいことがわかる。
【0092】
またGPC測定結果では、分子量840付近のピークは分布を持っている(すなわちブロードである)ことから、GPC測定用試料において、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランのグリシドキシ基が3~5個および/またはそれ以上が環状に重合したもの、ならびにこれらの環状ポリエーテル構造を含む化合物において、3個以上および/または3個以下のメトキシ基が水酸基に加水分解されたもの、の混合物が生成されていると考えられる。
【0093】
図4ではまた、1949付近に分子量ピークが確認された。このピークは、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランのグリシドキシ基が約9個環状に重合したもの、または3~5個の環状に重合したものが、シラノール基の脱水縮合により結合したものなどに起因すると考えられる。これらもそれぞれ、イオンを安定的に担持できるという点でイオン伝導性向上に寄与し得る。
【0094】
図4ではまた、9182付近に分子量ピークが確認された。このピークは、約40個のγ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランのグリシドキシ基が重合したものに起因すると考えられる。
【0095】
実施例5の大気雰囲気下150℃1.5時間保持後の導電性層の環状ポリエーテルの含有量を調査するために、紫外可視吸収スペクトルを測定した(HITACHI U-4000)。なお、測定用試料には、実施例5の溶解液を、光路長5mmの石英セルに移し、実施例5で用いた恒温槽内で150℃1.5時間保持したものを用いた。
【0096】
図5は、実施例5の導電性層の吸収スペクトル測定結果である。450nmにおける吸光度は1.23であり、実施例1(図3)と比較して、環状ポリエーテル構造が多く形成されていることがわかった。
【実施例6】
【0097】
実施例1の工程(a)において、第1化合物を2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシランに変更し、その他は実施例1と同様にして、生体用電極を製造した。
【実施例7】
【0098】
実施例1の工程(a)を以下のように変更し、その他は実施例1と同様にして、生体用電極を製造した。
第1化合物の液体としてγ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学工業製、KBM402)5.35質量部を用意し、アルカリ金属塩として過塩素酸リチウム(関東化学製、鹿1級)0.23質量部を、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランに添加し、マグネチックホットスターラーにより60℃に加熱しながら約10分攪拌させた。この溶解液に、銅ナノ粒子(平均粒径300nm)31.4質量部を添加して手作業で振とうし、銅ナノ粒子を混合させて、分散液を用意した。この場合、導電性層中の、銅ナノ粒子の体積比率は40%であった。
【実施例8】
【0099】
実施例1の工程(a)において、第1化合物をγ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業製、KBE403)57.4質量部に変更し、その他は実施例1と同様にして、生体用電極を製造した。
【実施例9】
【0100】
実施例5の工程(c)において、硬化時間を0.5時間に変更し、その他は実施例1と同様にして生体用電極を製造した。また、実施例5と同様に紫外可視吸収スペクトルを測定した結果、450nmにおける吸光度は0.250であった。
【実施例10】
【0101】
実施例5の工程(c)において、硬化時間を720時間に変更し、その他は実施例1と同様にして生体用電極を製造した。また、実施例5と同様に紫外可視吸収スペクトルを測定した結果、450nmにおける吸光度は2.50であった。
【実施例11】
【0102】
実施例1の工程(b)において、無機材料基材を銅製のワイヤ(外径500μm、長さ30cm)に変更し、その他は実施例1と同様にして生体用電極を製造した。
【実施例12】
【0103】
実施例4の工程(b)において、無機材料基材である石英製円柱部材を、端部が円錐状となっている(すなわち尖端構造部分を有している)ものに変更し、その他は実施例4と同様にして生体用電極を製造した。円錐部分の、底面の直径は5mm、側線は5mmであった。
【実施例13】
【0104】
実施例2の工程(a)において、第2化合物をシクロヘキシルメチルジメトキシシラン12.4質量部に変更し、その他は実施例2と同様にして、生体用電極を製造した。
【0105】
[比較例1]
実施例1の工程(a)および(c)を以下のように変更し、その他は実施例1と同様にして、生体用電極を製造した。
比較例1では、ビニル基含有オルガノポリシロキサンの白金触媒によるヒドロシリル化反応によりシリコーンゴムを形成する、シリコーンゴムのモノマー液体(信越化学工業製、付加反応型RTVシリコーンゴム)53.5質量部に、過塩素酸リチウム2.25質量部を添加し、マグネチックホットスターラーにより60℃に加熱しながら約10分攪拌させ溶解液を用意した。また、上記溶解液を浸漬塗布した後、150℃2時間保持することにより、生体用電極を製造した。
【0106】
[比較例2]
実施例1の工程(a)において、過塩素酸リチウムを添加しなかった。その他は実施例1と同様にして、生体用電極を製造した。
【0107】
[比較例3]
比較例1の工程(b)において、無機材料基材を実施例12のものに変更し、その他は比較例1と同様にして、生体用電極を製造した。
【0108】
各実施例および各比較例により得られた生体用電極のイオン伝導率および密着性を評価した。
【0109】
(イオン伝導率測定)
イオン伝導率測定は、各実施例および各比較例における溶解液(または分散液)を直径9.5cm、深さ500μmのポリテトラフルオロエチレン性の型に満たし、各実施例および各比較例の硬化させる工程と同様の硬化条件で、溶解液(または分散液)を硬化させた。その後型から取り外し、ニッケル製プレートに重合物を挟むことで、スウェージロック型セルを構成し、測定用試料とした。測定は、室温において1kHz-1000kHzの周波数範囲で行った。
【0110】
イオン伝導性が1.0×10-4S/cm以上のものを◎(特に優れている)とした。
イオン伝導性が1.0×10-5S/cm以上1.0×10-4S/cm未満のものを〇(優れている)とした。
イオン伝導性が1.0×10-5S/cm未満のものを△(不十分)とした。
【0111】
(密着性)
無機材料基材がガラス板および円柱状の場合、ポリエチレン製の厚み1mmの板のエッジ部分を各生体用電極の塗布面かつ平坦面に押し当てて、軽くこすることで、密着性を評価した。無機材料基材がガラスファイバのものについては、スライドガラス上に生体用電極を置き、上記ポリエチレン製板のエッジ部分で軽くこすることで、密着性を評価した。無機材料基材が円錐部分を有するものについては、円錐の尖っている部分に対して上記ポリエチレン製板のエッジ部分で軽くこすることで、密着性を評価した。
【0112】
導電性層が剥離せず、また導電性層が破壊された場合でも無機材料基材への吸着残存物が認められたものを◎(特に優れている)とし、導電性層が剥離し、無機材料基材への吸着残存物が認められなかったものは△(不十分)とした。
【0113】
以上の結果を図6に示す。なお、図6の表中において、実施例4、11、12は導電性層が実施例1と同じであるため、イオン伝導率の欄には実施例1の測定値を記載した。比較例3は導電性層が比較例1と同じであるため、イオン伝導率の欄には比較例1の測定値を記載した。
また総合判定については、イオン伝導率および密着性評価において全て◎の場合は、◎(特に優れている)とし、◎と○が混在する場合は、○(優れている)とし、△が1つでも混在するときは、△(不十分)とした。
【0114】
図6の結果より、次のように考察できる。実施例1~13は、いずれも本発明の実施形態で規定する要件の全てを満足する例であり、イオン伝導率および密着性が優れていた。特に実施例5、9および10は、実施例1~4、6、8および11~13とは異なり、硬化させる工程が好ましい範囲(硬化温度150℃以上)にあり、環状ポリエーテル構造に起因する450nmの吸光度が0.200~2.50の好ましい範囲にあったため、イオン伝導率が特に優れたものとなり、総合判定において◎となった。また実施例7は、実施例1~4、6、8および11~13とは異なり、導電性粒子を含むことにより、イオン伝導率が特に優れたものとなり、総合判定において◎となった。
一方、比較例1~3は、本発明の実施形態で規定する要件を満たしていない例であり、イオン伝導率または密着性が不十分であった。
【0115】
比較例1および3は、エポキシ基およびアルコキシシリル基を有する第1化合物に由来する部分を含む重合体を含んでいないため、イオン伝導率および密着性が不十分であった。
【0116】
比較例2は、アルカリ金属イオンおよび第2族元素イオンを含んでいないため、イオン伝導率が不十分であった。
【0117】
なお、実施例1と2の比較から、第2化合物を含むことにより、イオン伝導率が向上することが分かった。これは第2化合物を含むことにより、導電性層中の重合体の架橋密度が低下し、イオン伝導しやすくなったためと考えられる。
【0118】
また、実施例2と13の比較から、第2化合物の炭化水素基の炭素数が2から6になると、イオン伝導率が向上することが分かった。これは炭素数が2から6になることにより、導電性層中の重合体の架橋密度が低下し、イオン伝導しやすくなったためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明の実施形態に係る生体用電極は、剛性が高く、且つ生体と接触させるための表面が主に非金属材料で構成されており、イオン伝導率が高く密着性に優れるため、生体の深部および/または神経細胞などの微細部から信号を得ることができる生体用電極として有用であり、産業上の利用価値は高い。
【符号の説明】
【0120】
1 生体用電極
100 無機材料基材
201 第1化合物に由来する部分を含む重合物
201A ポリエチレンオキサイド構造
201B シロキサン結合構造
201C 基材/導電性層結合部分
202 リチウムイオン
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6