(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/36 20100101AFI20230929BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20230929BHJP
【FI】
H01M10/36 A
H01M4/587
(21)【出願番号】P 2021508138
(86)(22)【出願日】2020-01-27
(86)【国際出願番号】 JP2020002666
(87)【国際公開番号】W WO2020195092
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2019061485
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 健二
(72)【発明者】
【氏名】飯田 一博
(72)【発明者】
【氏名】竹内 正信
(72)【発明者】
【氏名】福井 厚史
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-046687(JP,A)
【文献】特開2007-109549(JP,A)
【文献】国際公開第2009/008280(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/122597(WO,A1)
【文献】特開2013-131374(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/36
H01M 4/587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、電解液とを備える二次電池であって、
前記電解液は、水、リチウム塩、及び添加剤を含み、前記添加剤は、アルカリ土類金属塩、ジカルボン酸、カルボン酸無水物、有機カーボネートのうちの少なくともいずれか1つを含み、
前記負極は、負極活物質を含み、前記負極活物質の表面には、シランカップリング剤が付着してい
て、
前記アルカリ土類金属塩、前記ジカルボン酸、前記カルボン酸無水物、前記有機カーボネートは、前記負極活物質の表面に、還元分解による皮膜を形成する皮膜形成剤である、二次電池。
【請求項2】
前記負極活物質は、主成分としての炭素材料を含む、請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記シランカップリング剤は、フッ素を構成元素として含む、請求項1又は2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記シランカップリング剤は、水の還元分解電位より貴な電位で還元分解する、請求項1~3のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項5】
前記シランカップリング剤の還元分解電位は、Li基準で2.1V以上である、請求項4に記載の二次電池。
【請求項6】
前記シランカップリング剤は、フルオロアルキルシランである、請求項1~5のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項7】
前記フルオロアルキルシランは、
【化1】
(式中、Y1は、炭素数3~10、フッ素数7~21のフルオロアルキル基であり、直鎖でも分岐状でもよく、また、エーテル結合、エステル結合、ペプチド結合、ビニル結合、スルホンアミド結合、水素原子のうちの少なくとも1種を含んでいてもよく、Y2は、(CH
2)
nで表され、nは0~6の整数であり、直鎖でも分岐状でもよく、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して、アルコキシ基、アルキル基、アミノ基、ハロゲン原子、又は水素原子である)で表される、請求項
6に記載の二次電池。
【請求項8】
前記フルオロアルキルシランは、C
5F
11CH
2CH
2-Si(OCH
3)
3、C
6F
13CH
2CH
2-Si(OCH
3)
3、C
8F
17CH
2CH
2-Si(OCH
3)
3のうちの少なくともいずれか1つを含む、請求項6~7のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項9】
前記シランカップリング剤の含有量は、前記負極活物質の質量に対して0.01質量%~10質量%の範囲である、請求項1~8のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項10】
正極と、負極と、電解液とを備える二次電池であって、
前記電解液は、水、リチウム塩、及び添加剤を含み、前記添加剤は、アルカリ土類金属塩、ジカルボン酸、カルボン酸無水物、有機カーボネートのうちの少なくともいずれか1つを含み、
前記負極は、負極活物質を含み、前記負極活物質の表面には、シランカップリング剤の還元分解による皮膜が形成されてい
て、
前記アルカリ土類金属塩、前記ジカルボン酸、前記カルボン酸無水物、前記有機カーボネートは、前記負極活物質の表面に、還元分解による皮膜を形成する皮膜形成剤である、二次電池。
【請求項11】
前記皮膜は、LiF及びSiOx(0<x<2)を含む、請求項10に記載の二次電池。
【請求項12】
前記添加剤がアルカリ土類金属塩を含み、
前記皮膜はCaF
2,MgF
2,SrF
2またはBaF
2のうちの少なくともいずれか1つを含む、請求項11に記載の二次電池。
【請求項13】
前記皮膜は、フルオロアルカン基を含むシランカップリング剤を含む、請求項10~12のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項14】
前記皮膜は、シランカップリング剤およびフルオロアルカン基を含むシランカップリング
剤のうち少なくとも一方を含み、
前記シランカップリング剤および前記フルオロアルカン基を含むシランカップリング剤は、前記皮膜の最深側よりも前記皮膜の電解液側の表層側に偏在する、請求項10~13のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項15】
前記皮膜は、LiF
及び前記フルオロアルカン基を含むシランカップリング剤が含まれ、
XPSのF1sスペクトルにおける前記LiF由来の結合エネルギー(686eV)におけるピーク強度をI
Aとし、前記フルオロアルカン基由来の結合エネルギー(688.8eV)におけるピーク強度をI
Bとした場合、前記皮膜の最深側から前記電解液側の表層にかけて、ピーク強度がI
A>I
BからI
A<I
Bに変化する、請求項14に記載の二次電池。
【請求項16】
前記添加剤は、有機カーボネートを含み、
前記有機カーボネートの還元分解による皮膜が前記シランカップリング剤の還元分解による皮膜の上に堆積している、請求項10から15のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項17】
前記添加剤は、有機カーボネートを含み、
前記皮膜は、LiFが含まれ、
XPSのF1sスペクトルにおける前記LiF由来の結合エネルギー(686eV)におけるピーク強度をI
Cとし、前記フルオロアルカン基由来の結合エネルギー(688.8eV)におけるピーク強度をI
Dとした場合、前記皮膜の前記電解液側の表層におけるピーク強度がI
C>I
Dである、請求項13に記載の二次電池。
【請求項18】
前記リチウム塩は、リチウムイオンとイミドアニオンとを有する塩を含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項19】
前記リチウム塩は、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを含む、請求項1~18のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項20】
前記有機カーボネートは、前記リチウム塩に対して、1:0.01~1:5の範囲である第1のモル比で存在し、前記水は、前記リチウム塩に対して1:0.5~1:4の範囲である第2のモル比で存在している、請求項1~19のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項21】
前記第1のモル比が、1:0.05~1:1の範囲である、請求項20に記載の二次電池。
【請求項22】
前記第2のモル比が、1:1~1:2.5の範囲である、請求項20又は21に記載の二次電池。
【請求項23】
前記有機カーボネートは、前記シランカップリング剤の還元分解電位より卑な電位で還元分解する、請求項1~22のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項24】
前記有機カーボネートの還元分解電位は、Li基準で2.2V以下である、請求項23に記載の二次電池。
【請求項25】
前記有機カーボネートは環状カーボネートを含む、請求項1~24のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項26】
前記有機カーボネートは、フッ素を構成元素として含む、請求項1~25のいずれか1項に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
高出力、高エネルギー密度の二次電池として、正極、負極、及び電解液を備え、正極と負極との間でリチウムイオンを移動させて充放電を行うリチウムイオン二次電池が広く利用されている。従来の二次電池では、高エネルギー密度を達成するために、有機溶媒系の電解液が使用されている。
【0003】
しかし、有機溶媒は一般に可燃性であり、安全性の確保が重要な課題となっている。また、有機溶媒のイオン伝導度は水溶液と比べて低く、急速な充放電特性が十分でない点も問題となっている。
【0004】
このような問題に鑑みて、水を含有する電解液を用いた二次電池の研究が行われているが、水を含有する電解液を用いた二次電池は、電位窓が狭く、高電圧で安定して作動することが困難となる。
【0005】
このような電位窓が狭いという課題を解決する方法の一つとして、例えば、特許文献1及び2には、二次電池の水系電解液として、高濃度のアルカリ塩を含む水溶液を用いることが開示され、また、特許文献3には、高濃度のアルカリ塩を含む水溶液に有機カーボネートを添加した電解液を用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6423453号公報
【文献】国際公開第2017/122597号
【文献】特開2018-73819号公報
【発明の概要】
【0007】
ところで、水系電解液を用いた二次電池においては、更なる高電圧化のために、電位窓の拡大と共に、自己放電特性の改善が求められている。
【0008】
そこで、本開示は、水系電解液を用いた二次電池において、自己放電を抑制することを目的とする。
【0009】
本開示の第1態様である二次電池は、正極と、負極と、電解液とを備え、前記電解液は、水、リチウム塩、及び添加剤を含み、前記添加剤は、アルカリ土類金属塩、ジカルボン酸、カルボン酸無水物、有機カーボネートのうちの少なくともいずれか1つを含み、前記負極は、負極活物質を含み、前記負極活物質の表面には、シランカップリング剤が付着していて、前記アルカリ土類金属塩、前記ジカルボン酸、前記カルボン酸無水物、前記有機カーボネートは、前記負極活物質の表面に、還元分解による皮膜を形成する皮膜形成剤である。
【0010】
また、本開示の第2態様である二次電池は、正極と、負極と、電解液とを備え、前記電解液は、水、リチウム塩、及び添加剤を含み、前記添加剤は、アルカリ土類金属塩、ジカルボン酸、カルボン酸無水物、有機カーボネートのうちの少なくともいずれか1つを含み、前記負極は、負極活物質を含み、前記負極活物質の表面には、シランカップリング剤の還元分解による皮膜が形成されていて、前記アルカリ土類金属塩、前記ジカルボン酸、前記カルボン酸無水物、前記有機カーボネートは、前記負極活物質の表面に、還元分解による皮膜を形成する皮膜形成剤である。
【0011】
本開示に係る二次電池によれば、自己放電を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態の二次電池の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
一般的に、水系電解液の還元分解(実質的には水の還元分解)は、Li基準でおよそ2V付近から当該電位より卑な電位の間で起こり、また、炭素材料等の負極活物質の充放電反応は、水の還元分解電位より更に卑な電位で起こる。したがって、充電過程では、負極活物質の充電反応の前に、水の還元分解が起こり、その反応に充電電流が消費されるため、負極活物質の充電反応の進行が阻害される。そこで、本発明者らは鋭意検討した結果、シランカップリング剤及び特定の添加剤(アルカリ土類金属塩、ジカルボン酸、カルボン酸無水物、有機カーボネート)の組合せによって、水の還元分解を抑えることができ、自己放電を抑制することができることを見出し、以下に示す態様の二次電池を想到するに至った。
【0014】
本開示の第1態様である二次電池は、正極と、負極と、電解液とを備え、前記電解液は、水、リチウム塩、及び添加剤を含み、前記添加剤は、アルカリ土類金属塩、ジカルボン酸、カルボン酸無水物、有機カーボネートのうちの少なくともいずれか1つを含み、前記負極は、負極活物質を含み、前記負極活物質の表面には、シランカップリング剤が付着している。本開示の第1態様である二次電池によれば、充電過程における水の還元分解が抑制され、負極活物質の充電反応が進行し、ひいては負極活物質と電解液との反応が抑制されるため、負極活物質に吸蔵されたリチウムイオンが自然に負極活物質から放出される自己放電が抑制される。
【0015】
本開示の第2態様である二次電池は、正極と、負極と、電解液とを備え、前記電解液は、水、リチウム塩、及び添加剤を含み、前記添加剤は、アルカリ土類金属塩、ジカルボン酸、カルボン酸無水物、有機カーボネートのうちの少なくともいずれか1つを含み、前記負極は、負極活物質を含み、前記負極活物質の表面には、シランカップリング剤の還元分解による皮膜が形成されている。本開示の第2態様である二次電池は、本開示の第1態様である二次電池の充電後或いは充放電後における態様の二次電池である。すなわち、本開示の第2態様である二次電池によっても、充電過程における水の還元分解が抑制され、負極活物質の充電反応が進行し、ひいては負極活物質と電解液との反応が抑制されるため、負極活物質に吸蔵されたリチウムイオンが自然に負極活物質から放出される自己放電が抑制される。
【0016】
本開示の第1態様および第2態様にかかる効果のメカニズムは、シランカップリング剤と組み合わせる添加剤の種類によって異なるが、添加剤の種類ごとに以下のことが考えられる。複数の種類の添加剤を添加する場合は、添加剤の各々の効果を組み合わせたメカニズムとなる。ここでいう添加剤の種類とは、アルカリ土類金属塩、ジカルボン酸、カルボン酸無水物、有機カーボネートのこと、即ち、添加剤の分類のことである。
【0017】
<アルカリ土類金属塩>
シランカップリング剤とアルカリ土類金属塩を組み合わせる場合、用いるシランカップリング剤の種類によっても異なるが、初回充電時に、シランカップリング剤の還元分解と並行して、アルカリ土類金属塩の還元分解が進行し、シランカップリング剤由来の皮膜とアルカリ土類金属塩由来の皮膜の複合皮膜が形成される。アルカリ土類金属塩由来の皮膜成分としてはCaF2,MgF2,SrF2およびBaF2のうちの少なくともいずれか1つを含むフッ化物が挙げられ、シランカップリング剤由来の皮膜成分としては、主にLiFとSiOxが挙げられる。CaF2,MgF2,SrF2,BaF2は、LiFに比べ、水に対する溶解度が低いため、アルカリ土類金属塩と組み合わせることによりシランカップリング剤由来の皮膜の水系電解液に対するロバスト性が向上する。また、比較的高電位で還元分解するアルカリ土類金属塩が存在する場合、水系電解液中に溶存する溶存CO2、溶存O2の電気化学的還元反応を大きく抑制することができ、溶解度の比較的高い皮膜成分であるLi2CO3,Li2Oの形成を大幅に抑制することができる。その結果、前記複合皮膜中における水に対する溶解度の低い成分比率(例えば、フッ化物)を増加させることができ、水系電解液に対するロバスト性を向上させることができる。また、シランカップリング剤の還元分解電位領域以上の電位領域において還元分解するアルカリ土類金属塩と組み合わせる場合、シランカップリング剤の還元反応が抑制され、皮膜中に未反応、あるいは還元度の低いシランカップリング剤が残存するようになる。その結果、残存したシランカップリング剤の撥水効果により負極活物質表面への水の浸透を抑制することができるようになる。以上の効果により、シランカップリング剤とアルカリ土類金属塩を組み合わせることにより、水に対する溶解度の低い成分比率を皮膜中に増大させることができ、皮膜の水系電解液に対するロバスト性を向上させることができ、電気化学的に安定な皮膜を形成することが可能となる。そのため、負極活物質と電解液との反応が抑制され、負極活物質に吸蔵されたリチウムイオンが自然に負極活物質から放出される自己放電を抑えることが可能となる。なお、シランカップリング剤由来の皮膜とアルカリ土類金属塩由来の皮膜の複合皮膜は、リチウムイオン導電性を有しているため、充電過程では負極活物質は皮膜を介してリチウムイオンを吸蔵することが可能である。なお、皮膜中における還元度の低いシランカップリング剤は、フルオロアルカン基(F1s, 688.8eV(XPS)), C-Si-O基(Si2p, 102.6eV(XPS)),O-Si-C基(Si2p, 103.5eV(XPS))等が観察できる。
【0018】
<ジカルボン酸、カルボン酸無水>
シランカップリング剤とジカルボン酸、あるいはカルボン酸無水物との組み合わせの場合、ジカルボン酸、カルボン酸無水物は、比較的高電位で還元分解するため、水系電解液中に溶存する溶存CO2、溶存O2の電気化学的還元反応を大きく抑制することができ、溶解度の比較的高い皮膜成分であるLi2CO3,Li2Oの形成を大幅に抑制することができる。また、シランカップリング剤の還元分解電位領域以上の電位領域において還元分解するジカルボン酸、あるいはカルボン酸無水物と組み合わせる場合、シランカップリング剤の還元反応が抑制され、皮膜中に未反応、あるいは還元度の低いシランカップリング剤が残存するようになる。その結果、残存したシランカップリング剤の撥水効果により負極活物質表面への水の浸透を抑制することができるようになる。以上の効果により、シランカップリング剤とジカルボン酸、あるいはカルボン酸無水物を組み合わせることにより、水に対する溶解度の低い成分比率を皮膜中に増大させることができること、また、負極活物質表面への水の浸透性を抑制できることにより、皮膜の水系電解液に対するロバスト性を向上させることができ、電気化学的に安定な皮膜を形成することが可能となる。そのため、負極活物質と電解液との反応が抑制され、負極活物質に吸蔵されたリチウムイオンが自然に負極活物質から放出される自己放電が抑えられる。なお、シランカップリング剤由来の皮膜とジカルボン酸、あるいはカルボン酸無水物由来の皮膜の複合皮膜は、リチウムイオン導電性を有しているため、充電過程では負極活物質は皮膜を介してリチウムイオンを吸蔵することが可能である。
【0019】
<有機カーボネート>
シランカップリング剤と有機カーボネートを組み合わせる場合、特に高濃度のアルカリ塩を含む水系電解液系を用いる場合、水とリチウム塩に加え、有機カーボネートが溶媒和構造に参加するようになるため、水系電解液中における水の活量を低下させることができ、電解液中の水の電気化学安定性を向上させることができる。また、有機カーボネートが存在することにより、水系電解液中に溶存する溶存CO2、溶存O2の電気化学的還元反応を大きく抑制することができ、溶解度の比較的高い皮膜成分であるLi2CO3,Li2Oの形成を大幅に抑制することができる。さらにまた、用いるシランカップリング剤の種類にもよるが、シランカップリング剤よりも卑な電位で還元分解する有機カーボネートと組み合わせることで、比較的分子量が大きく、還元分解後の皮膜の緻密性に課題のあるシランカップリング剤由来の皮膜の欠陥を有機カーボネート由来の皮膜で補うことができ、シランカップリング剤由来の皮膜の緻密性を向上させることができる。以上の効果により、シランカップリング剤と有機カーボネートを組み合わせることで、有機カーボネート添加による水の電気化学安定性の向上効果、そして、シランカップリング剤由来の皮膜と有機カーボネート由来の皮膜の複合皮膜形成による効果により、皮膜の水系電解液に対するロバスト性を向上させることができ、電気化学的に安定な皮膜を形成することが可能となる。そのため、負極活物質と電解液との反応が抑制され、負極活物質に吸蔵されたリチウムイオンが自然に負極活物質から放出される自己放電が抑えられる。なお、シランカップリング剤由来の皮膜と有機カーボネート由来の皮膜の複合皮膜は、リチウムイオン導電性を有しているため、充電過程では負極活物質は皮膜を介してリチウムイオンを吸蔵することが可能である。また、放電過程では、負極活物質に吸蔵されたリチウムイオンが放出されることが可能である。
【0020】
以下、本開示に係る二次電池の実施形態について詳説する。
【0021】
本実施形態の二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。
図1は、本実施形態の二次電池の一例を示す模式断面図である。
図1に示す二次電池20は、カップ形状の電池ケース21と、電池ケース21の上部に設けられた正極22と、正極22に対してセパレータ24を介して対向する位置に設けられた負極23と、絶縁材により形成されたガスケット25と、電池ケース21の開口部に配設されガスケット25を介して電池ケース21を密封する封口板26と、を備えている。
図1に示す二次電池20は、正極22と負極23との空間に電解液27が満たされている。以下、電解液27、正極22、負極23、セパレータ24、について詳述する。
【0022】
電解液27は、水、リチウム塩及び添加剤を含む(以下、水系電解液と称する場合がある)。水系電解液は可燃性を有さない水を含むため、水系電解液を用いた二次電池の安全性を高めることができる。この観点で、電解液27中の水の含有量は、電解液27の全量に対して6質量%以上であることが好ましく、8質量%~50質量%の範囲であることがより好ましく、8.5質量%~21質量%の範囲であることがより好ましい。電解液27は、水以外の溶媒を含んでいてもよい。水以外の溶媒としては、例えば、エーテル類、ニトリル類、アルコール類、ケトン類、アミン類、アミド類、硫黄化合物類及び炭化水素類等が挙げられる。水以外の溶媒の含有量は、電解液27の全量に対して50質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましい。
【0023】
リチウム塩は、水を含有する溶媒に溶解して解離し、リチウムイオンを水系電解液中に存在させることができる化合物であれば、いずれも使用できる。リチウム塩は、正極及び負極を構成する材料との反応により電池特性の劣化を引き起こさないことが好ましい。このようなリチウム塩としては、例えば、過塩素酸、硫酸、硝酸等の無機酸との塩、塩化物イオン及び臭化物イオン等のハロゲン化物イオンとの塩、炭素原子を構造内に含む有機アニオンとの塩等が挙げられる。
【0024】
リチウム塩を構成する有機アニオンとしては、例えば、下記一般式(i)~(vi)で表されるアニオンが挙げられる。
【0025】
(R1SO2)(R2SO2)N- (i)
(R1、R2は、それぞれ独立に、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。R1及びR2は互いに結合して環を形成してもよい。)
R3SO3
- (ii)
(R3は、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。)
R4CO2
- (iii)
(R4は、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。)
(R5SO2)3C- (iV)
(R5は、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。)
[(R6SO2)N(SO2)N(R7SO2)]2- (v)
(R6、R7は、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。)
[(R8SO2)N(CO)N(R9SO2)]2- (vi)
(R8、R9は、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。)
上記一般式(i)~(vi)において、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基の炭素数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1~2がさらに好ましい。ハロゲン置換アルキル基のハロゲンとしてはフッ素が好ましい。ハロゲン置換アルキル基におけるハロゲン置換数は、もとのアルキル基の水素の数以下である。
【0026】
R1~R9のそれぞれは、例えば、以下の一般式(vii)で表される基である。
【0027】
CnHaFbClcBrdIe (vii)
(nは1以上の整数であり、a、b、c、d、eは0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+eを満足する。)
上記一般式(i)で表される有機アニオンの具体例としては、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TFSI;[N(CF3SO2)2]-)、ビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド(BETI;[N(C2F5SO2)2]-)、(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([N(C2F5SO2)(CF3SO2)]-)等が挙げられる。上記一般式(ii)で表される有機アニオンの具体例としては、例えばCF3SO3
-、C2F5SO3
-等が挙げられる。上記一般式(iii)で表される有機アニオンの具体例としては、例えばCF3CO2
-、C2F5CO2
-等が挙げられる。上記一般式(iv)で表される有機アニオンの具体例としては、例えば、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)炭素酸([(CF3SO2)3C]-)、トリス(パーフルオロエタンスルホニル)炭素酸([(C2F5SO2)3C]-)等が挙げられる。上記一般式(v)で表される有機アニオンの具体例としては、例えば、スルホニルビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([(CF3SO2)N(SO2)N(CF3SO2)]2-)、スルホニルビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド([(C2F5SO2)N(SO2)N(C2F5SO2)]2-)、スルホニル(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([(C2F5SO2)N(SO2)N(CF3SO2)]2-)等があげられる。上記一般式(vi)で表される有機アニオンの具体例としては、例えば、カルボニルビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([(CF3SO2)N(CO)N(CF3SO2)]2-)、カルボニルビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド([(C2F5SO2)N(CO)N(C2F5SO2)]2-)、カルボニル(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([(C2F5SO2)N(CO)N(CF3SO2)]2-)等があげられる。
【0028】
上記一般式(i)から(vi)以外の有機アニオンとしては、例えば、ビス(1,2-ベンゼンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸、ビス(2,3-ナフタレンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸、ビス(2,2’-ビフェニルジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸、ビス(5-フルオロ-2-オレート-1-ベンゼンスルホン酸-O,O’)ホウ酸等のアニオンが挙げられる。
【0029】
リチウム塩を構成するアニオンとしては、電池の自己放電を効果的に抑制できる等の点で、イミドアニオンとを有する塩を含むことが好ましい。イミドアニオンの好適な具体例としては、例えば、上記一般式(i)で表される有機アニオンとして例示したイミドアニオンのほか、ビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI;[N(FSO2)2]-)、(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(FTI;[N(FSO2)(CF3SO2)]-)等が挙げられる。
【0030】
リチウムイオンとイミドアニオンとを有するリチウム塩は、電池の自己放電を効果的に抑制できる等の点で、例えば、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド(LiBETI)、リチウム(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiFTI)等が挙げられる。これらは単独でもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
他のリチウム塩の具体例としては、CF3SO3Li、C2F5SO3Li、CF3CO2Li、C2F5CO2Li、(CF3SO2)3CLi、(C2F5SO2)3CLi、(C2F5SO2)2(CF3SO2)CLi、(C2F5SO2)(CF3SO2)2CLi、[(CF3SO2)N(SO2)N(CF3SO2)]Li2、[(C2F5SO2)N(SO2)N(C2F5SO2)]Li2、[(C2F5SO2)N(SO2)N(CF3SO2)]Li2、[(CF3SO2)N(CO)N(CF3SO2)]Li2、[(C2F5SO2)N(CO)N(C2F5SO2)]Li2、[(C2F5SO2)N(CO)N(CF3SO2)]Li2、ビス(1,2-ベンゼンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,3-ナフタレンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,2’-ビフェニルジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(5-フルオロ-2-オレート-1-ベンゼンスルホン酸-O,O’)ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム(LiClO4)、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、水酸化リチウム(LiOH)、硝酸リチウム(LiNO3)、硫酸リチウム(Li2SO4)、硫化リチウム(Li2S)、水酸化リチウム(LiOH)等が挙げられる。これらは単独でもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
添加剤は、アルカリ土類金属塩、ジカルボン酸、カルボン酸無水物、有機カーボネートのうちの少なくともいずれか1つを含む。
【0033】
アルカリ土類金属塩は、水を含有する溶媒に溶解して解離し、アルカリ土類金属カチオンを水系電解液中に存在させることができる化合物であれば、いずれも使用できる。アルカリ土類金属塩は、正極及び負極を構成する材料との反応により電池特性の劣化を引き起こさないことが好ましい。アルカリ土類金属塩は、アルカリ土類金属とアニオンとの塩が挙げられる。アルカリ土類金属としてはカルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウムが挙げられる。中でも、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウムが好まく、カルシウムが最も好ましい。これは、初回充電時に形成されるアルカリ土類金属塩由来の主な皮膜成分である、フッ化物(CaF2、MgF2、SrF2、BaF2)の水に対する溶解度がCaF2、MgF2,SrF2で低く、CaF2で最も低いためである。水に対する溶解度が低いということは、水系電解液に対する皮膜のロバスト性を向上させることができ、電気化学的に安定な皮膜を形成できることを示している。電気化学的に安定な皮膜を形成することができるため、負極活物質と電解液との反応を抑制することができ、負極活物質に吸蔵されたリチウムイオンが自然に負極活物質から放出される自己放電を抑えることが可能となる。アルカリ土類金属塩としては、水の還元分解電位より貴な電位で還元分解するものがより好適である。アルカリ土類金属塩は単独でも2種以上を混合して用いてもよい。アニオン成分は、例えば、下記一般式(viii)~(xi)で表されるアニオンが挙げられる。
【0034】
(R10SO2)(R11SO2)N- (viii)
(R10、R11は、それぞれ独立に、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。R10及びR11は互いに結合して環を形成してもよい。)
R12SO3
- (ix)
(R12は、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。)
R13CO2
- (x)
(R13は、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。)
(R14SO2)3C- (xi)
(R14は、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。)
上記一般式(viii)~(xi)において、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基の炭素数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1~2がさらに好ましい。ハロゲン置換アルキル基のハロゲンとしてはフッ素が好ましい。ハロゲン置換アルキル基におけるハロゲン置換数は、もとのアルキル基の水素の数以下である。
【0035】
R10~R14のそれぞれは、例えば、以下の一般式(xii)で表される基である。
【0036】
CnHaFbClcBrdIe (xii)
(nは1以上の整数であり、a、b、c、d、eは0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+eを満足する。)
上記一般式(viii)で表される有機アニオンの具体例としては、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TFSI;[N(CF3SO2)2]-)、ビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド(BETI;[N(C2F5SO2)2]-)、(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([N(C2F5SO2)(CF3SO2)]-)等が挙げられる。上記一般式(ix)で表される有機アニオンの具体例としては、例えば、CF3SO3
-、C2F5SO3
-等が挙げられる。上記一般式(x)で表される有機アニオンの具体例としては、例えば、CF3CO2
-、C2F5CO2
-等が挙げられる。上記一般式(xi)で表される有機アニオンの具体例としては、例えば、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)炭素酸([(CF3SO2)3C]-)、トリス(パーフルオロエタンスルホニル)炭素酸([(C2F5SO2)3C]-)、ビス(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)炭素酸([(C2F5SO2)2(CF3SO2)C]-)、(パーフルオロエタンスルホニル)ビス(トリフルオロメタンスルホニル)炭素酸([(C2F5SO2)(CF3SO2)2C]-)等があげられる。
【0037】
上記一般式(viii)から(xi)以外の有機アニオンとしては、例えば、ビス(1,2-ベンゼンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸、ビス(2,3-ナフタレンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸、ビス(2,2’-ビフェニルジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸、ビス(5-フルオロ-2-オレート-1-ベンゼンスルホン酸-O,O’)ホウ酸等のアニオンが挙げられる。
【0038】
アルカリ土類金属塩を構成するアニオンとしては、電池の自己放電を効果的に抑制できる等の点で、イミドアニオンとを有する塩を含むことが好ましい。イミドアニオンの好適な具体例としては、例えば、上記一般式(viii)で表される有機アニオンとして例示したイミドアニオンのほか、ビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI;[N(FSO2)2]-)、(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(FTI;[N(FSO2)(CF3SO2)]-)等が挙げられる。
【0039】
アルカリ土類金属とイミドアニオンとを有するアルカリ土類金属塩は、電池の自己放電を効果的に抑制できる等の点で、カルシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(CaTFSI)、カルシウムビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド(CaBETI)、カルシウム(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、カルシウムビス(フルオロスルホニル)イミド(CaFSI)、カルシウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(CaFTI)、マグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(MgTFSI)、マグネシウムビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド(MgBETI)、マグネシウム(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、マグネシウムビス(フルオロスルホニル)イミド(MgFSI)、マグネシウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(MgFTI)、ストロンチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(SrTFSI)、ストロンチウムビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド(SrBETI)、ストロンチウム(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ストロンチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(SrFSI)、ストロンチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(SrFTI)等が挙げられる。これらは単独でもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、特にカルシウム塩が好ましい。これは、還元分解により形成される主な皮膜成分、CaF2の水に対する溶解度が最も低いため、水系電解液に対する皮膜の電気化学的安定性を向上させることができるためである。アルカリ土類金属塩としては、水の還元分解電位より貴な電位で還元分解するものがより好適である。
【0040】
他のアルカリ土類金属塩の具体例としては、Ca[CF3SO3]2、Ca[C2F5SO3]2、Ca[CF3CO2]2、Ca[C2F5CO2]2、Ca[(CF3SO2)3C]2、Ca[(C2F5SO2)3C]2、Ca[(C2F5SO2)2(CF3SO2)C]2、Ca[(C2F5SO2)(CF3SO2)2C]2、ビス(1,2-ベンゼンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸カルシウム、ビス(2,3-ナフタレンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸カルシウム、ビス(2,2’-ビフェニルジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸カルシウム、ビス(5-フルオロ-2-オレート-1-ベンゼンスルホン酸-O,O’)ホウ酸カルシウム、過塩素酸カルシウム(Ca(ClO4)2)、塩化カルシウム(CaCl2)、臭化カルシウム(CaBr2)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、硝酸カルシウム(Ca(NO3)2)、硫酸カルシウム(CaSO4)、硫化カルシウム(CaS)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、Mg[CF3SO3]2、Mg[C2F5SO3]2、Mg[CF3CO2]2、Mg[C2F5CO2]2、Mg[(CF3SO2)3C]2、Mg[(C2F5SO2)3C]2、Mg[(C2F5SO2)2(CF3SO2)C]2、Mg[(C2F5SO2)(CF3SO2)2C]2、ビス(1,2-ベンゼンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸マグネシウム、ビス(2,3-ナフタレンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸マグネシウム、ビス(2,2’-ビフェニルジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸マグネシウム、ビス(5-フルオロ-2-オレート-1-ベンゼンスルホン酸-O,O’)ホウ酸マグネシウム、過塩素酸マグネシウム(Mg(ClO4)2)、塩化マグネシウム(MgCl2)、臭化マグネシウム(MgBr2)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、硝酸マグネシウム(Mg(NO3)2)、硫酸マグネシウム(MgSO4)、硫化マグネシウム(MgS)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、Sr[CF3SO3]2、Sr[C2F5SO3]2、Sr[CF3CO2]2、Sr[C2F5CO2]2、Sr[(CF3SO2)3C]2、Sr[(C2F5SO2)3C]2、Sr[(C2F5SO2)2(CF3SO2)C]2、Sr[(C2F5SO2)(CF3SO2)2C]2、ビス(1,2-ベンゼンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸ストロンチウム、ビス(2,3-ナフタレンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸ストロンチウム、ビス(2,2’-ビフェニルジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸ストロンチウム、ビス(5-フルオロ-2-オレート-1-ベンゼンスルホン酸-O,O’)ホウ酸ストロンチウム、過塩素酸ストロンチウム(Sr(ClO4)2)、塩化ストロンチウム(SrCl2)、臭化ストロンチウム(SrBr2)、水酸化ストロンチウム(Sr(OH)2)、硝酸ストロンチウム(Sr(NO3)2)、硫酸ストロンチウム(SrSO4)、硫化ストロンチウム(SrS)、水酸化ストロンチウム(Sr(OH)2)等が挙げられる。これらは単独でもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、特にカルシウム塩が好ましい。これは、還元分解により形成される主な皮膜成分、CaF2の水に対する溶解度が最も低く、水系電解液に対する皮膜の電気化学的安定性を向上させることができるためである。アルカリ土類金属塩としては、水の還元分解電位より貴な電位で還元分解するものがより好適である。
【0041】
上記のうち、電池の自己放電を効果的に抑制できる点で、カルシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、マグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ストロンチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド等が好ましい。中でも、カルシウム塩であるカルシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド等が最も好ましい。これは、還元分解により形成される皮膜成分であるフッ化物の水に対する溶解度がCaF2,MgF2,SrF2で低く、CaF2で最も低いためである。また、水分解電位より貴な電位で還元分解するためである。ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンが好ましい理由としては、高濃度の水系電解液を調整するに際し、好適であるためである。また、水分解より貴な電位でフッ化物を形成させるという観点で好適であるためである。
【0042】
アルカリ土類金属塩は、例えば水系電解液の総量に対して0.1質量%以上5.0質量%以下であればよく、0.5質量%以上3.0質量%以下が好ましい。上記範囲とすることで、水系電解液のリチウムイオン伝導性を損なうことなく、電池の自己放電を効果的に抑制できる場合がある。添加量が5.0wt.%を超えると、リチウムイオン導電性が低下する場合がある。一方で、0.1wt.%を下回ると、十分に効果が得られない場合がある。
【0043】
ジカルボン酸は、例えば、コハク酸、グルタル酸、フタル酸、マレイン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、イタコン酸、ジグリコール酸等が挙げられる。カルボン酸無水物としては、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、無水ジグリコール酸等が挙げられる。上記のうち、電池の自己放電を効果的に抑制できる点で、コハク酸、無水コハク酸、マレイン酸、無水マレイン酸、ジグリコール酸、グルタル酸等が好ましい。中でも、コハク酸、無水コハク酸、マレイン酸、無水マレイン酸、ジグリコール酸が好ましい。これは、用いるシランカップリング剤の種類によっても異なるが、水の還元分解電位以上であり、かつ、シランカップリング剤の還元分解電位領域以上で還元分解できるという観点で好ましいためである。グルタル酸の還元分解は、水の還元分解と競争的に進行するため、効果が低くなる。
【0044】
ジカルボン酸又はカルボン酸無水物は、例えば水系電解液の総量に対して0.1質量%以上5.0質量%以下であればよく、0.5質量%以上3.0質量%以下が好ましい。上記範囲とすることで、水系電解液のリチウムイオン伝導性を損なうことなく、電池の自己放電特性を効果的に抑制できる場合がある。添加量が5.0wt.%を超えると、リチウムイオン導電性が低下する場合がある。また、皮膜中におけるシランカップリング剤由来皮膜の成分比率が低下し、皮膜抵抗が増大する恐れがある。一方で、0.1wt.%を下回ると、十分に効果が得られない場合がある。
【0045】
有機カーボネートは、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニリデンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート、フルオロエチレンカーボネート、フルオロジメチルカーボネート、フルオロプロピオン酸メチル(FMP)等のフッ素を構成元素として含むフッ素化カーボネート等が挙げられる。
【0046】
添加剤の中で有機カーボネートは、電池の自己放電を抑制する点、電池の充放電効率を向上させる点等で好ましく、特に上記例示した有機カーボネートの中では、環状カーボネートやフッ素を構成元素として含むフッ素化カーボネートが好ましい。また、有機カーボネートは、電池の自己放電の低下を抑制する点、電池の充放電効率を向上させる点等で、後述するシランカップリング剤の還元分解電位より卑な電位で還元分解することが好ましい。有機カーボネートの還元分解電位は、シランカップリング剤の種類にもよるが、Li基準で2.2V以下であることが好ましい。Li基準で2.2V以下で還元分解する有機カーボネートとしては、例えば、ジメチルカーボネート、フルオロエチレンカーボネート等が挙げられる。有機カーボネートがシランカップリング剤より卑な電位で還元分解することにより、シランカップリング剤由来の皮膜の欠陥を有機カーボネート由来の皮膜で補うことができ、皮膜の緻密性を向上させることができる。すなわち、有機カーボネートの還元分解による皮膜がシランカップリング剤の還元分解による皮膜の上に堆積している。この結果、XPSのF1sスペクトルにおけるLiF由来の結合エネルギー(686eV)におけるピーク強度をICとし、未反応のシランカップリング剤C-F種(フルオロアルカン基)由来の結合エネルギー(688.8eV)におけるピーク強度をIDとした場合、皮膜の前記電解液側の表層におけるピーク強度はIC>IDである。これにより、負極活物質と電解液との反応が抑制されるため、負極活物質に吸蔵されたリチウムイオンが自然に負極活物質から放出される自己放電が抑制され、電池の充放電効率を向上させることができる。有機カーボネートとしてフッ素を構成元素として含む有機カーボネートを添加することにより、フッ素を含む水に対する溶解度の低い成分(例えばLiF)の比率を増大させることができ、水系電解液に対するロバスト性をさらに向上させることができ、さらに、電気化学的に安定な皮膜を形成することが可能となる傾向にある。
【0047】
有機カーボネートは、リチウム塩に対して、1:0.01~1:5の範囲であるモル比で存在することが好ましく、1:0.05~1:1の範囲であるモル比で存在することがより好ましく、水は、リチウム塩に対して、1:0.5~1:4の範囲であるモル比で存在することが好ましく、1:1~1:2.5の範囲であるモル比で存在することがより好ましい。上記範囲とすることで、電池の自己放電の低下を効果的に抑制できたり、電池の充放電効率をより向上できたりする場合がある。
【0048】
正極22は、例えば、正極集電体と、正極集電体上に形成された正極合材層とを備える。正極集電体としては、正極の電位範囲で電気化学的、化学的に安定な金属の箔、及び、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極集電体の形態は特に限定されるものではなく、例えば、当該金属のメッシュ体、パンチングシート、エキスパンドメタル等の多孔体を使用してもよい。正極集電体の材料としては、水系電解液を用いた二次電池に使用可能な公知の金属等を使用することができる。そのような金属としては、例えば、ステンレス鋼、Al、アルミニウム合金、Ti等が挙げられる。正極集電体の厚さは、集電性、機械的強度等の観点から、例えば3μm以上50μm以下が好ましい。
【0049】
正極合材層は、正極活物質を含む。また、正極合材層は、結着材、導電材等を含んでいてもよい。
【0050】
正極活物質としては、例えば、リチウム(Li)、並びに、コバルト(Co)、マンガン(Mn)及びニッケル(Ni)等の遷移金属元素を含有するリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。正極活物質としては、そのほか、遷移金属硫化物、金属酸化物、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)やピロリン酸鉄リチウム(Li2FeP2O7)などの1種類以上の遷移金属を含むリチウム含有ポリアニオン系化合物、硫黄系化合物(Li2S)、酸素や酸化リチウムなどの酸素含有金属塩等が挙げられる。正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物が好ましく、遷移金属元素としてCo、Mn及びNiの少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0051】
リチウム遷移金属酸化物は、Co、Mn及びNi以外の他の添加元素を含んでいてもよく、例えば、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、ホウ素(B)、マグネシウム(Mg)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、鉛(Pb)、錫(Sn)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)及びケイ素(Si)等を含んでいてもよい。
【0052】
リチウム遷移金属酸化物の具体例としては、例えばLixCoO2、LixNiO2、LixMnO2、LixCoyNi1-yO2、LixCoyM1-yOz、LixNi1-yMyOz、LixMn2O4、LixMn2-yMyO4、LiMPO4、Li2MPO4F(各化学式において、Mは、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb及びBのうち少なくとも1種であり、0<x≦1.2、0<y≦0.9、2.0≦z≦2.3である)が挙げられる。リチウム遷移金属酸化物は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。高容量化の観点からは、リチウム遷移金属酸化物がリチウム以外の遷移金属の総量に対して80モル%以上のNiを含有することが好ましい。また、結晶構造の安定性の観点からは、リチウム遷移金属酸化物が、LiaNibCocAldO2(0<a≦1.2、0.8≦b<1、0<c<0.2、0<d≦0.1、b+c+d=1)であることがより好ましい。
【0053】
導電材としては、正極合材層の電気伝導性を高める公知の導電材が使用でき、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン等の炭素材料が挙げられる。結着材としては、正極活物質や導電材の良好な接触状態を維持し、また、正極集電体表面に対する正極活物質等の結着性を高める公知の結着材が使用でき、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィン、カルボキシメチルセルロース(CMC)またはその塩、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)等が挙げられる。
【0054】
正極22は、例えば正極活物質、結着材、導電材等を含む正極合材スラリーを正極集電体上に塗布し、塗膜を乾燥、圧延して、正極合材層を正極集電体上に形成することにより製造できる。
【0055】
負極23は、例えば、負極集電体と、負極集電体上に形成された負極合材層とを備える。負極集電体としては、負極の電位範囲で電気化学的、化学的に安定な金属の箔、及び、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極集電体の形態は特に限定されるものではなく、例えば、当該金属のメッシュ体、パンチングシート、エキスパンドメタル等の多孔体を使用してもよい。負極集電体の材料としては、水系電解液を用いた二次電池に使用可能な公知の金属等を使用することができる。そのような金属としては、例えば、Al、Ti、Mg、Zn、Pb、Sn、Zr、In等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上の合金等でもよく、少なくとも1つを主成分とする材料から構成されていればよい。また、2つ以上の元素を含む場合において、必ずしも合金化されている必要性はない。負極集電体の厚さは、集電性、機械的強度等の観点から、例えば3μm以上50μm以下が好ましい。
【0056】
負極合材層は、負極活物質を含む。負極活物質の表面には、後述するシランカップリング剤が付着している。また、負極合材層は、結着材、導電材等を含んでいてもよい。導電材や結着材は、正極側と同様のものを使用できる。
【0057】
負極活物質は、従来の非水系電解液を用いた二次電池に使用可能な公知の負極活物質を使用することができる。そのような負極活物質としては、例えば、天然グラファイト(黒鉛)、人造グラファイト(黒鉛)、ソフトカーボンやハードカーボン等の非晶質炭素等の炭素質材料が挙げられる。さらに他の例として、リチウム元素を含む合金や金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物のような金属化合物、シリコン等が挙げられる。例えば、リチウム元素を有する合金としては、例えばリチウムアルミニウム合金、リチウムスズ合金、リチウム鉛合金、リチウムケイ素合金等を挙げることができる。また、リチウム元素を有する金属酸化物としては、例えばチタン酸リチウム(Li4Ti5O12等)等を挙げることができる。また、リチウム元素を含有する金属窒化物としては、例えばリチウムコバルト窒化物、リチウム鉄窒化物、リチウムマンガン窒化物等を挙げることができる。さらに、硫黄系化合物を例示することもできる。これら負極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本実施形態の二次電池20によれば、水の還元反応が抑制されるため、従来では困難であった炭素材料、リチウムスズ合金材料およびリチウムケイ素合金材料等を、水系電解液を用いた電池の負極活物質として適用することが可能となる。また、炭素材料を主成分とすることが可能となる。なお、主成分とは、負極活物質の中で最も含有量が多い成分を指す。
【0058】
負極23は、例えば負極活物質、結着材等を含む負極合材スラリーを負極集電体上に塗布し、塗膜を乾燥、圧延して、負極合材層を負極集電体上に形成することにより製造できる。
【0059】
負極活物質の表面に付着するシランカップリング剤は、二次電池の初期の充電過程で、還元分解される。そして、シランカップリング剤の還元分解により、負極活物質の表面に電気化学的に安定な皮膜が形成される。当該皮膜は電気化学的に安定な皮膜であるため、皮膜を活性点として水の還元分解はほとんど起こらない。また、水系電解液に対し、化学的に安定な皮膜であるため、水系電解液による侵食が抑制され、水系電解液の負極活物質表面への接触を抑制することができる。なお、当該シランカップリング剤由来の皮膜は、リチウムイオン導電性を有しているため、充放電過程ではリチウムイオンは当該皮膜を介して負極活物質に吸蔵および放出される。
【0060】
シランカップリング剤は、水の還元分解の抑制、電池の自己放電の抑制等の点で、フッ素を構成元素として含むことが好ましく、また、水の還元分解電位より貴な電位で還元分解することが好ましい。シランカップリング剤の還元分解電位は、水の還元分解を抑制し易い等の点で、Li基準(vs.Li/Li+)で2.1V以上であることが好ましく、2.2V以上であることがより好ましく、2.4V以上であることがより好ましい。これは、競争的に進行する水の還元分解を避け、水の還元分解電位に到達する前に緻密な皮膜で完全に覆っておくという観点で好ましいためである。上限値は特に限定されないが、例えば、Li基準で3V以下であることが好ましい。これは、負極集電体が酸化溶解しないような電位が望ましいためである。
【0061】
また、フッ素を構成元素として含むシランカップリング剤は、水の還元分解の抑制、電池の自己放電の抑制等の点で、フルオロアルキルシランであることが好ましく、水の還元分解電位より貴な電位で還元分解するフルオロアルキルシランであることがより好ましい。具体的には、以下の式で表されるフルオロアルキルシランであることが好ましい。
【0062】
【0063】
(式中、Y1は、炭素数3~10、フッ素数7~21のフルオロアルキル基であり、直鎖でも分岐状でもよく、また、エーテル結合、エステル結合、ペプチド結合、ビニル結合、スルホンアミド結合、水素原子のうちの少なくとも1種を含んでいてもよく、Y2は、(CH2)nで表され、nは0~6の整数であり、直鎖でも分岐状でもよく、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して、アルコキシ基、アルキル基、アミノ基、ハロゲン原子、又は水素原子である)。
【0064】
Y1の炭素数及びフッ素数においては、水の還元分解電位より貴な電位で還元分解し、水の還元分解を抑制し易い等の点で、炭素数は5~8であり、且つフッ素数は11~17であることが好ましい。
【0065】
Y1がペプチド結合を有するフルオロアルキル基であるフルオロアルキルシランとしては、例えば、N-(3-trimethoxysilylpropyl)perfluorohexanamideが挙げられる。
【0066】
【0067】
Y1がビニル結合を有するフルオロアルキル基であるフルオロアルキルシランとしては、例えば、hexadecafluorododec-11-en-1-yltrimethoxysilaneが挙げられる。
【0068】
【0069】
Y1がスルホンアミド結合を有するフルオロアルキル基であるフルオロアルキルシランとしては、例えば、3-perfluorooctylsulfonylaminopropyltriethoxysilaneが挙げられる。
【0070】
【0071】
Y1が水素原子を有するフルオロアルキル基であるフルオロアルキルシランとしては、例えば、dedecylfluoro-heptyl-propyltrimethoxysilane、dedecylfluoro-heptyl-propylmethyldimethoxysilaneが挙げられる。
【0072】
【0073】
【0074】
Y1が分岐状のフルオロアルキル基であるフルオロアルキルシランとしては、例えば、Triethoxy[5,5,6,6,7,7,7-heptafluoro-4,4-bis(trifluoro-methyl)heptyl]silaneが挙げられる。
【0075】
【0076】
Y2が分岐状であるフルオロアルキルシランとしては、例えば、4-methyl-(perfluorohexylethyl)propyltrimethoxysilaneが挙げられる。
【0077】
【0078】
フルオロアルキルシランとしては、電池の自己放電を効果的に抑制することができる等の点で、Y1はCnF2n+1(5≦n≦10)で表されることがより好ましく、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して、OCnH2n+1(1≦n≦5)又はCnH2n+1(1≦n≦5)で表されることがより好ましい。Y1は、アルキル鎖長が長いほど好ましい。これは、シランカップリング剤中におけるフッ素化率を高めることができ、皮膜中におけるフッ素量を増大させることができるためである。R1,R2,及びR3は、メトキシ基を含有するフルオロアルキルシランがより好ましい。これは、上記負極活物質の表面の親水基、例えば、水酸基との反応性をより高めることができるためである。具体的には、フルオロアルキルシランは、C5F11CH2CH2-Si(OCH3)3、C6F13CH2CH2-Si(OCH3)3、C8F17CH2CH2-Si(OCH3)3のうちの少なくともいずれか1つを含むことがより好ましい。
【0079】
シランカップリング剤の含有量は、負極活物質の質量に対して0.01質量%~10質量%の範囲であることが好ましい。シランカップリング剤の含有量を上記範囲とすることで、電池の自己放電をより抑制できる。シランカップリング剤の量が、0.01質量%未満の場合には、負極活物質表面を、シランカップリング剤由来皮膜により完全に被覆することが難しく、その結果、シランカップリング剤由来皮膜により水系電解液の分解を遮断することができず、還元側の電位窓を拡大することができなくなる恐れがある。また、添加量が10wt.%を超過すると、シランカップリング剤由来の皮膜で負極活物質表面を覆うという観点では良いが、皮膜中のリチウムイオン伝導性を阻害する、即ち、抵抗を増大する恐れがある。シランカップリング剤の量は、Stuart-Brieglebの分子モデルを用いることで、負極活物質のBET比表面積(m2/g)、シランカップリング剤の分子量(g/mol)により、下記式を用いて、必要最小目安量を算出することができる。負極活物質表面をシランカップリング剤由来皮膜で完全に覆うという観点で、下記式で算出される以上のシランカップリング剤を用いることが望ましい。
・シランカップリング剤の量(g)
= 負極活物質の重量(g)× 負極活物質の比表面積(m2/g)÷ シランカップリング剤の最小被覆面積(m2/g)
・シランカップリング剤の最小被覆面積(m2/g)
=6.02×1023×13×10-20 ÷ シランカップリング剤の分子量 (g/mol)
シランカップリング剤を負極活物質の表面に付着させる方法は、例えば、負極23の負極合材層に、シランカップリング剤の溶液を直接噴霧して乾燥する方法、シランカップリング剤の溶液を気化させて、気化したシランカップリング剤を負極23の負極合材層に接触させる方法等が挙げられる。シランカップリング剤を負極活物質の表面に付着させる前に、負極活物質を含む負極合材層をオゾン処理することが好ましい。オゾン処理の方法としては、例えば、UVオゾン処理、大気プラズマ処理等があげられる。中でもUVオゾン処理が好ましい。UVオゾン処理は、例えば、UV洗浄表面改質装置(ASM1101N)((株)あすみ技研)を用いて行う。なお、負極23を作製する前の負極活物質の粉末に、シランカップリング剤を付着させてもよいし、負極合材スラリーにシランカップリング剤を添加し、負極活物質の表面に付着させても良い。
【0080】
本実施形態の二次電池20の充電後において、負極活物質の表面に形成されるシランカップリング剤由来の皮膜は、例えば、LiF、SiOx(0<x<2)、Li2CO3、Li2O等の成分から構成される。皮膜にLiFやSiOx(0<x<2)が含まれることで、電気化学的に安定である一方でリチウムイオン導電性を示す皮膜になると考えられる。なお、前述したフルオロアルキルシランをシランカップリング剤として用いることで、皮膜中のLiF、SiOx(0<x<2)の割合が増加する傾向にある。
【0081】
上記SiOxは、皮膜の表面側から最深側に向かって、Siの価数が低価数となっていることが好ましい。また、上記LiFは、皮膜の最深側に偏在していることが好ましい。皮膜の最深側とは、負極活物質の表面との接触面側である。つまり、XPSのF1sスペクトルにおけるLiF由来の結合エネルギー(686eV)におけるピーク強度をIAとし、未反応のシランカップリング剤(フルオロアルカン基)由来の結合エネルギー(688.8eV)におけるピーク強度をIBとした場合、皮膜の最深側から前記電解液側の表層にかけて、ピーク強度がIA>IBからIA<IBに変化する。これらの特徴は、例えば、前述したフルオロアルキルシランをシランカップリング剤として用いることで達成される。また、これらの特徴を備える皮膜は、電解液側表面に、未反応、あるいは還元度の低いシランカップリング剤が残存することを示しており、この残存する未反応、あるいは還元度の低いシランカップリング剤の効果により、電解液側の皮膜表層が、撥水化される。その結果、皮膜中、負極活物質表面への水の浸透を抑制することができ、電気化学的に安定な皮膜となる。シランカップリング剤の還元分解電位領域以上の電位で還元分解し、皮膜形成を行う添加剤を加えることで、未反応、あるいは還元度の低いシランカップリング剤の残存量を大きく増大させることが可能となる。このような添加剤として例えば、アルカリ土類金属塩、ジカルボン酸、カルボン酸無水物等が挙げられる。アルカリ土類金属塩、ジカルボン酸、カルボン酸無水物を単に電解液中に添加しただけでは、水分解電位前にCaTFSI由来のCaF2,LiTFSIアニオン由来のLiFは、ほとんど形成されず、皮膜成分の大部分は、水に対する溶解性の比較的高いLi2CO3,Li2Oとなる。
【0082】
本実施形態の二次電池20の充電後において、負極活物質の表面に形成されるシランカップリング剤由来の皮膜は、前記添加剤がアルカリ土類金属塩を含む場合、アルカリ土類金属種に対応し、さらにフッ化物(CaF2,MgF2,SrF2、BaF2)を含むようになる。アルカリ土類金属塩由来の皮膜成分であるフッ化物(CaF2,MgF2,SrF2,BaF2)は、シランカップリング剤由来のフッ化物であるLiFに比べ、水に対する溶解度が低い。そのため、アルカリ土類金属塩と組み合わせることによりシランカップリング剤由来の皮膜の水系電解液に対するロバスト性を向上させることができる。また、比較的高電位で還元分解するアルカリ土類金属塩が存在することにより、水系電解液中に溶存する溶存CO2、溶存O2の電気化学的還元反応を抑制することができ、溶解度の比較的高い皮膜成分であるLi2CO3,Li2Oの形成を抑制することができるようになる。また、シランカップリング剤の還元分解電位領域以上の電位で還元分解するアルカリ土類金属塩を用いる場合、シランカップリング剤の還元反応の進行が抑制され、皮膜中に、シランカップリング剤の未反応、あるいは還元度の低い部位(フルオロアルカン基(F1s, 688.8eV(XPS)), C-Si-O基(Si2p, 102.6eV(XPS)),O-Si-C基(Si2p, 103.5eV(XPS))等)を意図的に多量に残存させることができるようになる。皮膜中にシランカップリング剤の未反応、あるいは還元度の低い部位が残存するようになった結果、負極活物質表面への水の浸透を抑制することができるようになる。以上の効果により、水系電解液に対するロバスト性をさらに向上させることができるようになり、電気化学的に安定な皮膜となる。これは、アルカリ土類金属塩を単に電解液中に添加しただけでは、皮膜形成時に、負極活物質表面への水の接触を回避できず、溶存CO2,溶存O2の電気化学還元反応を抑制できず、水に対する溶解性の比較的高いLi2CO3,Li2O成分比率の高い皮膜となる。そのため、水の還元分解が開始される前に十分に水系電解液に対してロバスト性のある電気化学的に安定な皮膜を形成させることはできない。あらかじめ負極活物質表面にシランカップリング剤を付着させ、負極活物質表面への水の接触を回避した状態で、初充電時に、負極活物質表面全体に均一な皮膜を形成させることができるシランカップリグ剤と組み合わせることがLi2CO3,Li2O成分比率を低下させるために必要である。また、負極活物質表面への水の接触回避のためには、シランカップリング剤の還元分解電位領域以上で還元分解するアルカリ土類金属塩と組み合わせることが必要である。
【0083】
本実施形態の二次電池20の充電後において、負極活物質の表面に形成されるシランカップリング剤由来の皮膜は、前記添加剤がジカルボン酸、あるいは、カルボン酸無水物を含む場合、水系電解液中に溶存する溶存CO2、溶存O2の電気化学的還元反応を抑制することができ、溶解度の比較的高い皮膜成分であるLi2CO3,Li2Oの形成を大幅に抑制することができるようになる。また、シランカップリング剤の還元分解電位領域以上の電位において還元分解するジカルボン酸、あるいはカルボン酸無水物が存在する場合、シランカップリング剤の還元反応の進行が抑制され、皮膜中に、シランカップリング剤の未反応、あるいは還元度の低い部位(フルオロアルカン基(F1s, 688.8eV(XPS)), C-Si-O基(Si2p, 102.6eV(XPS)),O-Si-C基(Si2p, 103.5eV(XPS))等)を意図的に多量に残存させることができるようになる。皮膜中にシランカップリング剤の未反応、あるいは還元度の低い部位が残存するようになった結果、負極活物質表面への水の浸透を抑制することができるようになる。以上の効果により、水系電解液に対するロバスト性をさらに向上させることができるようになり、電気化学的に安定な皮膜となる。これは、ジカルボン酸、カルボン酸無水物を単に電解液中に添加しただけでは、水の還元分解前にLiTFSIアニオン由来のLiFをほとんど形成させることができず、皮膜成分の大部分が水に対する溶解性の比較的高いLi2CO3,Li2Oとなり、負極活物質表面で水の還元分解が開始される前に十分に水系電解液に対してロバスト性のある電気化学的に安定な皮膜を形成させることはできない。あらかじめ負極活物質表面にシランカップリング剤を付着させ、負極活物質表面への水のアクセスを回避した状態で、初充電時に、負極活物質表面全体に均一な皮膜を形成させておくことが必要である。また、シランカップリング剤の還元分解電位領域以上で還元分解するジカルボン酸、カルボン酸無水物を選択することが重要である。
【0084】
セパレータ24は、リチウムイオンを透過し、且つ、正極と負極とを電気的に分離する機能を有するものであれば特に限定されず、例えば、樹脂や無機材料等で構成される多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリアミド、ポリアミドイミド、セルロース等が挙げられる。セパレータを構成する無機材料としては、ホウ珪酸ガラス、シリカ、アルミナ、チタニア等のガラス及びセラミックスが挙げられる。セパレータは、セルロース繊維層及びオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂繊維層を有する積層体であってもよい。また、ポリエチレン層及びポリプロピレン層を含む多層セパレータであってもよく、セパレータの表面にアラミド系樹脂、セラミック等の材料が塗布されたものを用いてもよい。
【実施例】
【0085】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0086】
<実施例1>
[負極]
負極活物質としてのハードカーボンと、結着材としてのPVDFとを、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中で96:4の固形分質量比で混合して、負極合材スラリーを調製した。次に、当該負極合材スラリーを銅箔からなる負極集電体上に塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延ローラーにより圧延することにより、電極を作製した。
【0087】
シランカップリング剤であるフルオロアルキルシラン溶液(組成:CF3(CF2)7CH2CH2-Si-(OCH3)3)を入れたガラス瓶と当該電極を、蓋つき金属容器に入れ、当該金属容器を恒温槽に投入して、ドライルーム内(露点:-40℃以下)、120℃で12時間加熱した。当該処理により、フルオロアルキルシランを揮発させ、電極を構成する負極活物質表面にフルオロアルキルシランを付着させた。上記処理後の電極を所定のサイズに切断して、負極を得た。負極の塗布量、及び充填密度は32.3g/m2、1.0gcm-3であった。
【0088】
[正極]
正極活物質としてのLiCoO2と、導電材としてのカーボンブラックと、結着剤としてのPVdFとを、NMP中で94:3:3の質量比で混合して、正極合材スラリーを調製した。次に、当該正極合材スラリーを、Ti箔からなる正極集電体上に塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延ローラーにより圧延した。そして、所定の電極サイズに切断して、正極を得た。正極の塗布量、及び充填密度は、それぞれ65.0g/cm2、2.8gcm-3であった。
【0089】
[電解液]
リチウム塩(LITFSI:LIBETI=0.7:0.3(モル比))と水とを、モル比で1:2となるように混合した溶液に、カルシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(CaTFSI)を1質量%添加して、電解液を調製した。
【0090】
[三電極式セル]
上記負極を作用極、上記正極を対極、Ag/AgCl(3M NaCl)を参照極として、上記電解液を入れた三電極式セルを構築した。
【0091】
<実施例2>
電解液の調製において、カルシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに代えてマレイン酸を1質量%添加したこと以外は、実施例1と同様にして、三電極式セルを構築した。
【0092】
<実施例3>
電解液の調製において、カルシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに代えてジグリコール酸を1質量%添加したこと以外は、実施例1と同様にして、三電極式セルを構築した。
【0093】
<実施例4>
電解液の調製において、カルシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに代えてグルタル酸を1質量%添加したこと以外は、実施例1と同様にして、三電極式セルを構築した。
【0094】
<実施例5>
電解液の調製において、カルシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに代えて無水コハク酸を1質量%添加したこと以外は、実施例1と同様にして、三電極式セルを構築した。
【0095】
<実施例6>
電解液の調製において、カルシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに代えてコハク酸を0.5質量%及び無水マレイン酸を0.5質量%添加したこと以外は、実施例1と同様にして、三電極式セルを構築した。
【0096】
<比較例1>
負極(作用極)の作製において、負極活物質表面にフルオロアルキルシランを付着させる処理を行わなかったこと、電解液の調製において、カルシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、三電極式セルを構築した。
【0097】
<比較例2~7>
比較例2~7は、負極(作用極)の作製において、負極活物質表面にフルオロアルキルシランを付着させる処理を行わなかったこと以外は、実施例1~6と同様である。
【0098】
<比較例8>
電解液の調製において、カルシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、三電極式セルを構築した。
【0099】
実施例1~6及び比較例1~8の三電極式セルを用いてリニアスイープボルタンメトリー測定を行い、負極のOCPを測定した。測定条件を、以下に示した。
【0100】
開始電位:OCV
電位走査範囲:-3.238V~OCV vs.Ag/AgCl(3M NaCl)
OCP測定時間:-3.238Vvs.Ag/AgCl(3M NaCl)へ電位掃引
後から30分
掃引速度:0.1mV/sec
測定温度:25℃
実施例1~6及び比較例1~8における0分後の負極のOCP(-3.238Vへ電位掃引後のOCP)、1分後の負極のOCP(-3.238Vへ電位掃引後から1分後のOCP)、10分後の負極のOCP(-3.238Vへ電位掃引後から10分後のOCP)、20分後の負極のOCP(-3.238Vへ電位掃引後から20分後のOCP)の結果を表1に示す。表1に示す負極のOCPはリチウム基準(vs.Li/Li+)に換算した値である。
【0101】
【0102】
表1において、水系電解液の組成が同じである実施例1と比較例2、実施例2と比較例3、実施例3と比較例4、実施例4と比較例5、実施例5と比較例6、実施例6と比較例7をそれぞれ比較すると、0分後~20分後までの負極のOCPは、いずれも実施例の方が低い値を示した。
【0103】
実施例では、負極活物質表面へフルオロアルキルシランを付着させることに加え、水系電解液にアルカリ土類金属塩やジカルボン酸やカルボン酸無水物を添加することにより、負極活物質へのリチウムイオンの吸蔵性が向上しさらに吸蔵したリチウムイオンが負極活物質内に蓄えられやすくなっていることを示している。一方、比較例1~7の0分後から20分後までの負極のOCPの変化は急激であった。これは、リチウムイオンの吸蔵はほとんど起こっていない、或いは起こっているとしても、吸蔵したリチウムイオンが負極活物質内に蓄えられず、瞬時に放出されていることを示している。したがって、負極活物質表面にシランカップリング剤を付着させたことに加え、水系電解液にアルカリ土類金属塩やジカルボン酸やカルボン酸無水物を添加した実施例1~6は、負極活物質表面にシランカップリング剤を付着させていない比較例1~7に比べて、自己放電が抑制されていると言える。さらに、実施例1~6は、負極活物質表面にシランカップリング剤を付着させているが、水系電解液にアルカリ土類金属塩やジカルボン酸やカルボン酸無水物を添加していない比較例8と比べて、10分後及び20分後の負極のOCPが低い値であった。すなわち、実施例1~6の方が、20分経過してもより多くのリチウムイオンが負極活物質内に蓄えられていたことを示している。したがって、水系電解液にアルカリ土類金属塩やジカルボン酸やカルボン酸無水物を添加した実施例1~6の方が、水系電解液に上記化合物を添加していない比較例8より、自己放電がより抑制されると言える。これは、フルオロアルキルシランを付着させたことに加え、CaTFSI,マレイン酸、ジグリコール酸、グルタル酸、無水コハク酸、そして、コハク酸と無水マレイン酸のみを添加した実施例1~6は、比較的高電位で還元分解する添加剤が存在することで、溶存O2,溶存CO2の電気化学還元反応が抑制され、Li2CO3,Li2Oの成分比率を大幅に削減することができるようになり、水系電解液に対する皮膜のロバスト性が高めることができ、電気化学的に安定な皮膜を形成することができるためである。一方で、CaTFSI,マレイン酸、ジグリコール酸、グルタル酸、無水コハク酸、そして、コハク酸と無水マレイン酸のみを添加した比較例2~7は、水の還元分解前にCaTFSI由来のCaF2、LiTFSI由来のLiFをほとんど形成させることができず、皮膜成分の大部分は、水に対する溶解性の比較的高いLi2CO3,Li2Oとなる。また、フルオロアルキルシランのみを付着させた比較例8は、フルオロアルキルシラン由来の皮膜で水の還元分解前に、CaTFSI,マレイン酸、ジグリコール酸、グルタル酸、無水コハク酸、そして、コハク酸と無水マレイン酸のみを添加した場合に比べ、多くのLiFで負極活物質表面を覆うことができるが、フルオロアルキルシランが還元分解されると同時に負極活物質表面の撥水性が低下し、溶存O2、溶存CO2の電気化学還元反応が進行し、比較的溶解度の高いLi2CO3,Li2O成分比率の高い皮膜となる。そのため、CaTFSI,マレイン酸、ジグリコール酸、グルタル酸、無水コハク酸、そして、コハク酸と無水マレイン酸のみを添加した比較例2~7,フルオロアルキルシランを付着させたのみの比較例8は、水系電解液に対する皮膜のロバスト性が低く、電気化学的に不安定な皮膜となる。そのため、自己放電を大きく抑制することが難しい。
【0104】
<実施例7>
下記電解液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、三電極式セルを構築した。リチウム塩(LITFSI)と水とを、モル比で1:1.8となるように混合した溶液に、ジメチルカーボネート(DMC)を3.34質量%及びフルオロエチレンカーボネート(FEC)を3.34質量%添加して、電解液を調製した。なお、有機カーボネート(DMC及びFEC)と水との割合は、モル比で、0.22:1.8である。
【0105】
<実施例8>
下記電解液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、三電極式セルを構築した。リチウム塩(LITFSI)と水とを、モル比で1:2となるように混合した溶液に、ジメチルカーボネート(DMC)を1.65質量%及びフルオロエチレンカーボネート(FEC)を1.65質量%添加して、電解液を調製した。なお、有機カーボネート(DMC及びFEC)と水との割合は、モル比で、0.11:2.0である。
【0106】
<実施例9>
下記電解液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、三電極式セルを構築した。リチウム塩(LITFSI:LIBETI=0.7:0.3)と水とを、モル比で1:2となるように混合した溶液に、ジメチルカーボネート(DMC)を1.0質量%及びフルオロエチレンカーボネート(FEC)を1.0質量%添加して、電解液を調製した。なお、有機カーボネート(DMC及びFEC)と水との割合は、モル比で、0.07:2.0である。
【0107】
<実施例10>
下記電解液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、三電極式セルを構築した。リチウム塩(LITFSI:LIBETI=0.7:0.3)と水とを、モル比で1:2となるように混合した溶液に、ジメチルカーボネート(DMC)を1.65質量%及びフルオロエチレンカーボネート(FEC)を1.65質量%添加して、電解液を調製した。なお、有機カーボネート(DMC及びFEC)と水との割合は、モル比で、0.11:2.0である。
【0108】
<実施例11>
下記電解液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、三電極式セルを構築した。リチウム塩(LITFSI:LIBETI=0.7:0.3)と水とを、モル比で1:2となるように混合した溶液に、フルオロエチレンカーボネート(FEC)を1.0質量%添加して、電解液を調製した。なお、有機カーボネート(FEC)と水との割合は、モル比で、0.03:2.0である。
【0109】
<実施例12>
下記電解液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、三電極式セルを構築した。リチウム塩(LITFSI:LIBETI=0.7:0.3)と水とを、モル比で1:2となるように混合した溶液に、フルオロエチレンカーボネート(FEC)を2.0質量%添加して、電解液を調製した。なお、有機カーボネート(FEC)と水との割合は、モル比で、0.07:2.0である。
【0110】
<実施例13>
下記電解液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、三電極式セルを構築した。リチウム塩(LITFSI:LIBETI=0.7:0.3)と水とを、モル比で1:2となるように混合した溶液に、ビニリデンカーボネート(VC)を2.0質量%添加して、電解液を調製した。なお、有機カーボネート(VC)と水との割合は、モル比で、0.08:2である。
【0111】
<比較例9~15>
比較例8~13は、負極(作用極)の作製において、負極活物質表面にフルオロアルキルシランを付着させる処理を行わなかったこと以外は、実施例7~13と同様である。
【0112】
実施例7~13、比較例9~15の三電極式セルを用いてサイクリックボルタンメトリー測定を行い、1サイクル目の充放電効率を評価した。測定条件を、以下に示した。
【0113】
開始電位:OCV
第一折り返し電位:-2.950V vs.Ag/AgCl(3M NaCl)
(Li基準で0.288V)
第二折り返し電位:-0.238V vs.Ag/AgCl(3M NaCl)
(Li基準で3V)
サイクル数:2サイクル
掃引速度:0.5mV/sec
測定温度:25℃
充放電効率:(酸化電気量(C)/還元電気量(C))×100
(還元電気量には、シランカップリング剤および添加剤由来の還元電気量を含む。)
また、別途、実施例7~10及び比較例9~12の三電極式セルを用いて、リニアスイープボルタンメトリー測定を行い、負極のOCPを測定した。測定条件を、以下に示した。
【0114】
開始電位:OCV
電位走査範囲:-3.238V~OCV vs.Ag/AgCl(3M NaCl)
OCP測定時間:-3.238Vvs.Ag/AgCl(3M NaCl)へ電位掃引
後から30分
掃引速度:0.1mV/sec
測定温度:25℃
実施例7~10及び比較例9~12における0分後の負極のOCP(-3.238Vへ電位掃引後のOCP)、1分後の負極のOCP(-3.238Vへ電位掃引後から1分後のOCP)、10分後の負極のOCP(-3.238Vへ電位掃引後から10分後のOCP)、20分後の負極のOCP(-3.238Vへ電位掃引後から20分後のOCP)、30分後の負極のOCP(-3.238Vへ電位掃引後から30分後のOCP)の結果を表2に示す。表2に示す負極のOCPはリチウム基準(vs.Li/Li+)に換算した値である。
【0115】
【0116】
また、実施例7~13及び比較例9~15における1サイクル目の充放電効率の結果を表3に示す。
【0117】
【0118】
表2において、水系電解液の組成が同じである実施例7と比較例9、実施例8と比較例10、実施例9と比較例11、実施例10と比較例12をそれぞれ比較すると、0分後~30分後の負極のOCPは、いずれも実施例の方が低い値を示した。したがって、単に水系電解液に有機カーボネートを添加するより、負極活物質の表面にシランカップリング剤を付着させることと、水系電解液に有機カーボネートを添加することとを組合せることで、二次電池の自己放電がより抑制されると言える。
【0119】
また、表3から分かるように、負極活物質の表面にシランカップリング剤を付着させることと、水系電解液に有機カーボネートを添加することとを組み合わせた実施例7~13は、炭素系材料を負極活物質とする場合でも、リチウム吸蔵および放出が行われ、充放電効率が算出された。一方、単に、水系電解液に有機カーボネートを添加した比較例9~15では、炭素系材料を負極活物質とする場合、リチウム吸蔵は行われるが、リチウム放出は行われず、充放電効率が0となった。
【符号の説明】
【0120】
20 二次電池
21 電池ケース
22 正極
23 負極
24 セパレータ
25 ガスケット
26 封口板
27 電解液