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特許7357238電解コンデンサおよび電解コンデンサの製造方法
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  • 特許-電解コンデンサおよび電解コンデンサの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】電解コンデンサおよび電解コンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/028 20060101AFI20230929BHJP
   H01G 9/00 20060101ALI20230929BHJP
   H01G 9/035 20060101ALI20230929BHJP
   H01G 9/15 20060101ALI20230929BHJP
   H01G 9/145 20060101ALI20230929BHJP
【FI】
H01G9/028 G
H01G9/00 290H
H01G9/035
H01G9/15
H01G9/145
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019122225
(22)【出願日】2019-06-28
(65)【公開番号】P2021009901
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高谷 和宏
(72)【発明者】
【氏名】中村 彬人
【審査官】清水 稔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/131011(WO,A1)
【文献】特開2000-012394(JP,A)
【文献】国際公開第2017/094242(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/174056(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/028
H01G 9/00
H01G 9/035
H01G 9/15
H01G 9/145
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に誘電体層を有する陽極体と、固体電解質層と、を備え、
前記固体電解質層は、導電性材料と、添加剤と、を含み、
前記導電性材料は、π共役系高分子と、前記π共役系高分子にドープされた、アニオン性基を有する高分子ドーパントと、を含み、
前記添加剤は、アニオン性基を有するキノン化合物を含み、
さらに、液状成分を含み、
前記液状成分は、グリコール化合物およびグリセリン化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む、電解コンデンサ。
【請求項2】
前記固体電解質層は、前記キノン化合物を、前記導電性材料100質量部あたり、1質量部以上、30質量部以下含む、請求項1に記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
前記キノン化合物は、アントラキノン化合物、ナフトキノン化合物およびベンゾキノン化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む、請求項1または2に記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
前記キノン化合物は、アントラキノン-1-スルホン酸、アントラキノン-2-スルホン酸、アントラキノン-2,6-ジスルホン酸、アントラキノン-2,7-ジスルホン酸、アントラキノン-1,5-ジスルホン酸、1,2-ナフトキノン-4-スルホン酸、1,4-ベンゾキノン-2-スルホン酸および1,2-ベンゾキノン-4-スルホン酸よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1または2に記載の電解コンデンサ。
【請求項5】
前記固体電解質層は、前記導電性材料と前記添加剤とを含む処理液を、前記誘電体層の少なくとも一部に含浸させて形成されている、請求項1~のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質層を備える電解コンデンサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサは、表面に誘電体層を形成した陽極体と、誘電体層の少なくとも一部を覆うように形成された固体電解質層と、を備える。固体電解質層は、π共役系高分子と、π共役系高分子にドープされたドーパントとを含む。ドーパントとしては、高い導電性および低い等価直列抵抗(ESR)を発現し得るポリスチレンスルホン酸などの高分子有機酸が多く用いられている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-17230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電解コンデンサは、例えばリプル電流印加時の発熱やリフロー方式での半田付けの際の加熱により高温に曝され得る。電解コンデンサが高温に曝されると、固体電解質層が劣化し、ESRが上昇することがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面は、表面に誘電体層を有する陽極体と、固体電解質層と、を備え、前記固体電解質層は、導電性材料と、添加剤と、を含み、前記導電性材料は、π共役系高分子と、前記π共役系高分子にドープされた、アニオン性基を有する高分子ドーパントと、を含み、前記添加剤は、アニオン性基を有するキノン化合物を含む、電解コンデンサに関する。
【0006】
本発明の他の一側面は、π共役系高分子と、前記π共役系高分子にドープされた、アニオン性基を有する高分子ドーパントと、を含む導電性材料を準備する第1工程と、前記導電性材料と、添加剤としてアニオン性基を有するキノン化合物と、を含む処理液を得る第2工程と、表面に誘電体層を有する陽極体の前記誘電体層の少なくとも一部に前記処理液を含浸させて、固体電解質層を形成する第3工程と、を含む、電解コンデンサの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐熱性に優れた電解コンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る電解コンデンサの断面模式図である。
図2】同実施形態に係るコンデンサ素子の構成を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[電解コンデンサ]
本発明の実施形態に係る電解コンデンサは、表面に誘電体層を有する陽極体と、固体電解質層とを備える。固体電解質層は、誘電体層上に形成されている。導電性材料と、添加剤とを含む。導電性材料は、π共役系高分子と、アニオン性基を有する高分子ドーパントとを含む。高分子ドーパントはπ共役系高分子にドープされている。添加剤は、アニオン性基を有するキノン化合物(以下、単に、キノン化合物とも称する。)を含む。キノン化合物は、π共役系高分子にドープされている必要はない。通常、π共役系高分子にドープされ得るドーパント量には限界がある。π共役系高分子のドーパントと相互作用し得るサイトは、アニオン性基を有する高分子ドーパントによって飽和している状態であってもよい。
【0010】
固体電解質層にキノン化合物を含ませることにより、電解コンデンサが高温に曝された場合の固体電解質層の劣化およびそれに伴うESRの上昇が抑制される。その詳細な理由は明らかではないが、固体電解質層中の導電性材料の近傍にキノン化合物が存在することにより、高分子ドーパントのπ共役系高分子からの脱ドープが抑制されることによるものと推測される。
【0011】
高分子ドーパントを含む導電性材料は、高導電性および低ESRを有する面で有利である。固体電解質層内に十分量の導電性材料を確保する観点から、固体電解質層に含ませるキノン化合物の量は、高分子ドーパントの脱ドープを抑制し得る少量であることが望ましい。すなわち、固体電解質層において、キノン化合物の量は、高分子ドーパントの量より少ないことが望ましい。高導電性および低ESRを維持する観点から、固体電解質層において、高分子ドーパント100質量部に対するキノン化合物の量は、例えば1質量部以上、40質量部以下が好ましい。
【0012】
固体電解質層中のキノン化合物の含有量は、導電性材料100質量部あたり、例えば0.1質量部以上、35質量部以下であり、好ましくは1質量部以上、30質量部以下であり、より好ましくは5質量部以上、25質量部以下である。固体電解質層中のキノン化合物の含有量が導電性材料100質量部あたり1質量部以上である場合、ESR上昇の抑制効果が大きくなる。固体電解質層中のキノン化合物の含有量が導電性材料100質量部あたり30質量部以下である場合、固体電解質層のより高導電性を維持しやすい。
【0013】
(キノン化合物)
キノン化合物は、キノン構造(少なくとも2つのカルボニル基を含む環構造)を有する芳香族化合物である。
【0014】
キノン化合物のアニオン性基としては、スルホン酸基、カルボキシ基、リン酸基、ホスホン酸基などが挙げられる。キノン化合物は、アニオン性基を1種有してもよく、2種以上有してもよい。アニオン性基としては、スルホン酸基が好ましく、スルホン酸基とスルホン酸基以外のアニオン性基との組み合わせでもよい。例えば、キノン化合物は、モノスルホン酸でもよく、ジスルホン酸でもよく、トリスルホン酸でもよい。
【0015】
キノン化合物としては、アントラキノン化合物、ナフトキノン化合物、ベンゾキノン化合物などが挙げられる。中でも、キノン化合物はアントラキノン化合物が好ましい。キノン化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
アントラキノン化合物としては、スルホン酸基を有するアントラキノン化合物が好ましく、例えば、下記の一般式(1)で表される構造を有する化合物が挙げられる。
【0017】
【化1】
【0018】
式(1)中のR~Rのいずれか1つまたはR~Rのいずれか1つおよびR~Rのいずれか1つは、スルホン酸基である。R~Rにおいて、スルホン酸基以外の残りの基は、それぞれ独立して、水素原子または水素原子以外の置換基である。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、アルキル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基などが挙げられる。アルキル基(アルコキシ基およびアルキルアミノ基に含まれるアルキル基を含む。)の炭素原子数は、例えば、1~5である。アルキルアミノ基は、モノアルキルアミノ基でもよく、ジアルキルアミノ基でもよい。アルキル基の水素原子の一部は、ハロゲン原子などに置換されていてもよい。
【0019】
スルホン酸基を有するアントラキノン化合物としては、より具体的には、アントラキノン-1-スルホン酸、アントラキノン-2-スルホン酸、アントラキノン-2,6-ジスルホン酸、アントラキノン-2,7-ジスルホン酸、アントラキノン-1,5-ジスルホン酸、2-メチルアントラキノン-6-スルホン酸が挙げられる。中でも、アントラキノン-1-スルホン酸、アントラキノン-2-スルホン酸、アントラキノン-2,6-ジスルホン酸、アントラキノン-2,7-ジスルホン酸、アントラキノン-1,5-ジスルホン酸が好ましい。
【0020】
ナフトキノン化合物としては、スルホン酸基を有するナフトキノン化合物が好ましく、例えば、下記の一般式(2)で表される構造を有する化合物が挙げられる。
【0021】
【化2】
【0022】
式(2)中のR11~R16のいずれか1つは、スルホン酸基である。R11~R16において、スルホン酸基以外の残りの基は、それぞれ独立して、水素原子または水素原子以外の置換基である。置換基としては、例えば、式(1)のR~Rの置換基で例示するものが挙げられる。
【0023】
スルホン酸基を有するナフトキノン化合物としては、より具体的には、1,4-ナフトキノン-2-スルホン酸、1,2-ナフトキノン-4-スルホン酸が挙げられる。中でも、1,2-ナフトキノン-4-スルホン酸が好ましい。
【0024】
ベンゾキノン化合物は、スルホン酸基を有するベンゾキノン化合物が好ましく、例えば、下記の一般式(3)および一般式(4)で表される構造を有する化合物が挙げられる。
【0025】
【化3】
【0026】
【化4】
【0027】
式(3)中のR21~R24のいずれか1つおよび式(4)中のR31~R34のいずれか1つは、スルホン酸基である。R21~R24およびR31~R34において、スルホン酸基以外の残りの基は、それぞれ独立して、水素原子または水素原子以外の置換基である。置換基としては、例えば、式(1)のR~Rの置換基で例示するものが挙げられる。
【0028】
スルホン酸基を有するベンゾキノン化合物としては、より具体的には、1,4-ベンゾキノン-2-スルホン酸、1,2-ベンゾキノン-4-スルホン酸が好ましい。
【0029】
(π共役系高分子)
π共役系高分子としては、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンなどが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよく、2種以上のモノマーの共重合体でもよい。このようなπ共役系高分子を含む固体電解質層にキノン化合物を添加することにより、ESRの上昇を抑制することができる。
【0030】
なお、本明細書では、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンなどは、それぞれ、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンなどを基本骨格とする高分子を意味する。したがって、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンなどには、それぞれの誘導体も含まれ得る。例えば、ポリチオフェンには、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)などが含まれる。
【0031】
π共役系高分子の重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば1000~100000である。
【0032】
(高分子ドーパント)
高分子ドーパントのアニオン性基としては、キノン化合物で例示したものを用いることができる。
【0033】
高分子ドーパントとしては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリメタリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸などのアニオンが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらは単独重合体であってもよく、2種以上のモノマーの共重合体であってもよい。なかでも、ポリスチレンスルホン酸(PSS)が好ましい。
【0034】
高分子ドーパントの重量平均分子量は、特に限定されないが、均質な固体電解質層を形成しやすい点で、例えば1000~100000であることが好ましい。
【0035】
(液状成分a)
電解コンデンサは、液状成分aを含んでもよい。液状成分aは、後述の電解液の溶媒に用いてもよい。液状成分aは、グリコール化合物および/またはグリセリン化合物(以下、グリコール化合物などとも称する。)を含むことが好ましい。液状成分aがグリコール化合物などを含むことで、固体電解質層に含まれるπ共役系高分子の配向性もしくは結晶性が高められる。これにより、固体電解質層の導電性が向上し、電解コンデンサのESRが低くなる。また、固体電解質層と誘電体層とのコンタクト性が向上し、耐電圧特性も向上する。
【0036】
電解コンデンサが高温に曝されると、グリコール化合物などの液状成分が減少し、π共役系高分子の配向性向上の効果が小さくなることがある。一方、固体電解質層にキノン化合物を含ませる場合、グリコール化合物などが減少しても、π共役系高分子の配向性向上の効果が維持される。その詳細な理由は明らかでないが、高温雰囲気においてもπ共役系高分子および高分子ドーパントの近傍にキノン化合物が存在することにより、グリコール化合物などの液状成分が減少しても、π共役系高分子の配向性が維持される。その結果、固体電解質層の導電性が低下せずに、ESRの上昇が抑制されると推測される。
【0037】
液状成分aに含まれるグリコール化合物およびグリセリン化合物を合計した割合は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、更に好ましくは70質量%以上である。
【0038】
グリコール化合物は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、分子量190~400程度のポリアルキレングリコールなどを含む。グリセリン化合物は、グリセリン、ポリグリセリンなどを含む。ポリグリセリンの重合度は、好ましくは2以上、20以下である。
【0039】
グリコール化合物は、エチレングリコールを含むこと好ましい。また、液状成分aが複数種のグリコール化合物を含む場合、エチレングリコールがグリコール化合物の主成分であることが望ましい。エチレングリコールは、グリコール化合物の中でも粘度が低いため、電解液の溶質を溶解しやすい。また、エチレングリコールは、熱伝導性が高く、リップル電流が発生したときの放熱性にも優れているため、耐熱性を向上させる効果も大きい。
【0040】
グリコール化合物に占めるエチレングリコールの割合は、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、更に好ましくは70質量%以上である。グリコール化合物は100質量%がエチレングリコールであってもよい。
【0041】
(電解液)
電解コンデンサは、電解液を含んでもよい。電解液を用いることにより、誘電体層の修復機能に優れた電解コンデンサが得られる。電解液は、溶媒および溶質を含み、溶媒は、液状成分aを含んでもよい。溶質は、酸成分と、塩基成分とを含むことができる。固体電解質層の劣化抑制の観点から、塩基成分よりも酸成分を多く含んでもよい。塩基成分に対する酸成分のモル比:(酸成分/塩基成分)は、例えば、1.0~10.0でもよい。
【0042】
酸成分としては、有機酸、無機酸、有機酸と無機酸との複合化合物などを用いることができる。有機酸としては、カルボン酸化合物などを用いることができる。カルボン酸化合物としては、フタル酸(オルト体)、イソフタル酸(メタ体)、テレフタル酸(パラ体)、マレイン酸、安息香酸、サリチル酸、トルイル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、アジピン酸、エナント酸、マロン酸、1,6-デカンジカルボン酸、1,7-オクタンジカルボン酸、アゼライン酸、シュウ酸、グリコール酸などが挙げられる。中でも、電解液の誘電体層の修復機能および熱的安定性の観点から、フタル酸が好ましい。無機酸としては、ホウ酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、リン酸エステル、炭酸、ケイ酸などが挙げられる。複合化合物としては、ボロジサリチル酸、ボロジグリコール酸、ボロジシュウ酸などが挙げられる。
【0043】
塩基成分としては、アミン化合物などを用いることができる。アミン化合物としては、第1級~第3級のアミン化合物などが挙げられる。具体的には、アミン化合物としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、スペルミジン、スペルミン、アマンタジン、アニリン、フェネチルアミン、トルイジン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、イミダゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、4-ジメチルアミノピリジンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、トリエチルアミン、モノエチルジメチルアミンなどの第3級アミンが好ましい。
【0044】
溶媒は、上記のグリコール化合物、上記のグリセリン化合物、スルホン化合物、ラクトン化合物、カーボネート化合物などを含むことができる。スルホン化合物としては、スルホラン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどを用いることができる。ラクトン化合物としては、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトンなどを用いることができる。カーボネート化合物としては、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)などを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
[電解コンデンサの製造方法]
本発明の実施形態に係る電解コンデンサの製造方法は、以下の第1工程~第3工程を含む。第1工程は、π共役系高分子と、π共役系高分子にドープされた、アニオン性基を有する高分子ドーパントと、を含む導電性材料を準備する工程である。第2工程は、導電性材料と、添加剤としてアニオン性基を有するキノン化合物と、を含む処理液を得る工程である。第3工程は、表面に誘電体層を有する陽極体の誘電体層の少なくとも一部に処理液を含浸させて、固体電解質層を形成する工程である。
【0046】
上記の製造方法により、導電性材料と、未ドープ状態のキノン化合物と、を含む固体電解質層を形成することができる。π共役系高分子に高分子ドーパントをドープした後、キノン化合物を加えるため、キノン化合物を未ドープ状態で固体電解質層に含ませることができる。
【0047】
(第1工程)
第1工程では、導電性材料をその高分子分散体として調製してもよい。高分子分散体は、液状成分bと、液状成分bに分散する導電性材料と、を含む。高分子分散体は、液状成分bに導電性材料が溶解した溶液でもよく、液状成分bに導電性材料の粒子が分散した分散液でもよい。
【0048】
高分子分散体は、例えば、液状成分bに導電性材料を分散させて調製してもよい。また、高分子分散体は、以下の手順で調製してもよい。高分子ドーパントおよび酸化剤を含む液状成分b中で前駆体モノマーを重合させる。前駆体モノマーからπ共役系高分子を合成するとともにπ共役系高分子に高分子ドーパントをドープさせ、導電性材料の粒子を生成させる。反応液を透析し、未反応モノマーおよび過剰な酸化剤を除去する。導電性材料としては、例えば、ポリスチレンスルホン酸(PSS)がドープされたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、すなわちPEDOT/PSSが挙げられる。
【0049】
液状成分bは、水でもよく、非水溶媒でもよく、水と非水溶媒との混合物でもよい。非水溶媒は、特に限定されないが、例えば、プロトン性溶媒、非プロトン性溶媒を用いることができる。プロトン性溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール類、ホルムアルデヒド、1,4-ジオキサンなどのエーテル類などが例示できる。非プロトン性溶媒としては、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド類や、酢酸メチルなどのエステル類、メチルエチルケトンなどのケトン類などが例示できる。
【0050】
(第2工程)
第2工程で得られる処理液は、例えば、液状成分bと、導電性材料およびキノン化合物とを含む。第2工程では、第1工程で調製した高分子分散体(導電性材料を含む液状成分b)にキノン化合物を加えて処理液を得てもよい。また、第1工程で調製した高分子分散体にキノン化合物を含む液状成分bを加えて処理液を得てもよい。
【0051】
処理液中の導電性材料の濃度は、例えば0.5~10質量%であることが好ましい。また、導電性材料の平均粒径D50は、例えば0.01~0.5μmであることが好ましい。ここで、平均粒径D50は、動的光散乱法による粒度分布測定装置により求められる体積粒度分布におけるメディアン径である。このような濃度の処理液は、適度な厚みの固体電解質層を形成するのに適するとともに、誘電体層に含浸されやすい。
【0052】
(第3工程)
第3工程では、導電性材料と添加剤とを含む処理液を、誘電体層の少なくとも一部に含浸させて、固体電解質層を形成する。固体電解質層は、誘電体層の少なくとも一部を覆うように形成される。第3工程では、誘電体層の表面に導電性材料と添加剤とを含む液状成分bを付着させて膜を形成し、乾燥により、形成された膜から液状成分bの少なくとも一部を揮発させてもよい。このようにして、誘電体層の少なくとも一部を覆う緻密な固体電解質層が形成される。
【0053】
以下、本発明を実施形態に基づいて、より具体的に説明する。ただし、以下の実施形態は本発明を限定するものではない。
【0054】
図1は、本実施形態に係る電解コンデンサの断面模式図であり、図2は、同電解コンデンサに係るコンデンサ素子の一部を展開した概略図である。
【0055】
電解コンデンサは、例えば、コンデンサ素子10と、コンデンサ素子10を収容する有底ケース11と、有底ケース11の開口を塞ぐ封止部材12と、封止部材12を覆う座板13と、封止部材12から導出され、座板13を貫通するリード線14A、14Bと、リード線とコンデンサ素子10の電極とを接続するリードタブ15A、15Bと、電解液(図示しない)とを備える。有底ケース11の開口端近傍は、内側に絞り加工されており、開口端は封止部材12にかしめるようにカール加工されている。
【0056】
封止部材12は、ゴム成分を含む弾性材料で形成されている。ゴム成分としては、ブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、イソプレンゴム(IR)、ハイパロンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどを用いることができる。封止部材12は、カーボンブラック、シリカなどのフィラーを含んでもよい。
【0057】
コンデンサ素子10は、図2に示すような巻回体から作製される。巻回体とは、コンデンサ素子10の半製品であり、表面に誘電体層を有する陽極体21と陰極体22との間に、固体電解質層が形成されていないものをいう。巻回体は、リードタブ15Aと接続された陽極体21と、リードタブ15Bと接続された陰極体22と、セパレータ23とを備える。
【0058】
陽極体21および陰極体22は、セパレータ23を介して巻回されている。巻回体の最外周は、巻止めテープ24により固定される。なお、図2は、巻回体の最外周を止める前の、一部が展開された状態を示している。
【0059】
陽極体21は、表面が凹凸を有するように粗面化された金属箔を具備し、凹凸を有する金属箔上に誘電体層が形成されている。誘電体層の表面の少なくとも一部に、導電性材料を付着させることにより、固体電解質層が形成される。固体電解質層は、陰極体22の表面および/またはセパレータ23の表面の少なくとも一部を被覆していてもよい。固体電解質層が形成されたコンデンサ素子10は、電解液とともに、外装ケースに収容される。
【0060】
以下、本実施形態に係る電解コンデンサの製造方法の一例について、工程ごとに説明する。
(i)誘電体層を有する陽極体21を準備する工程
まず、陽極体21の原料である金属箔を準備する。金属の種類は特に限定されないが、誘電体層の形成が容易である点から、アルミニウム、タンタル、ニオブなどの弁作用金属または弁作用金属を含む合金を用いることが好ましい。
【0061】
次に、金属箔の表面を粗面化する。粗面化により、金属箔の表面に、複数の凹凸が形成される。粗面化は、金属箔をエッチング処理することにより行うことが好ましい。エッチング処理は、例えば直流電解法や交流電解法により行えばよい。
【0062】
次に、粗面化された金属箔の表面に誘電体層を形成する。形成方法は特に限定されないが、金属箔を化成処理することにより形成することができる。化成処理では、例えば、金属箔をアジピン酸アンモニウム溶液などの化成液に浸漬し、熱処理する。また、金属箔を化成液に浸漬し、電圧を印加してもよい。
【0063】
通常、量産性の観点から、大判の弁作用金属などの箔(金属箔)に対して、粗面化処理および化成処理が行われる。その場合、処理後の箔を所望の大きさに裁断することによって、陽極体21が準備される。
【0064】
(ii)陰極体22を準備する工程
陰極体22には、陽極体と同様、金属箔を用いることができる。金属の種類は特に限定されないが、アルミニウム、タンタル、ニオブなどの弁作用金属または弁作用金属を含む合金を用いることが好ましい。必要に応じて、陰極体22の表面を粗面化してもよい。また、陰極体22の表面に、カーボン層、チタン、ニッケルなどの金属層、酸化アルミニウム、酸化チタンなどの金属酸化物層を形成してもよい。
【0065】
(iii)巻回体の作製
次に、陽極体21および陰極体22を用いて巻回体を作製する。
まず、陽極体21と陰極体22とを、セパレータ23を介して巻回する。このとき、リードタブ15A、15Bを巻き込みながら巻回することにより、図2に示すように、リードタブ15A、15Bを巻回体から植立させることができる。
【0066】
セパレータ23の材料は、例えば、合成セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ビニロン、アラミド繊維などを主成分とする不織布を用いることができる。
【0067】
次に、巻回された陽極体21、陰極体22およびセパレータ23のうち、最外層に位置する陰極体22の外側表面に、巻止めテープ24を配置し、陰極体22の端部を巻止めテープ24で固定する。なお、陽極体21を大判の金属箔を裁断することによって準備した場合には、陽極体21の裁断面に誘電体層を設けるために、巻回体に対し、さらに化成処理を行ってもよい。
【0068】
(iv)コンデンサ素子10を形成する工程
次に、導電性材料およびキノン化合物を含む処理液を準備し、処理液を、誘電体層に含浸させ、誘電体層の少なくとも一部を覆う膜を形成する。処理液を誘電体層の表面に付与する方法としては、例えば、容器に収容された処理液に巻回体を浸漬させる方法が簡易で好ましい。浸漬時間は、巻回体のサイズにもよるが、例えば1秒~5時間、好ましくは1分~30分である。また、含浸は、減圧下、例えば10~100kPa、好ましくは40~100kPaの雰囲気で行うことが好ましい。また、処理液に浸漬させながら、巻回体または処理液に超音波振動を付与してもよい。処理液から巻回体を引上げた後の乾燥は、例えば50~300℃で行うことが好ましく、100~200℃で行うことがより好ましい。
【0069】
処理液を誘電体層の表面に付与する工程と、巻回体を乾燥させる工程とは、2回以上繰り返してもよい。これらの工程を複数回行うことにより、誘電体層に対する固体電解質層の被覆率を高めることができる。このとき、誘電体層の表面だけでなく、陰極体22セパレータ23の表面にも固体電解質層が形成されてもよい。
【0070】
以上により、陽極体21と陰極体22との間に固体電解質層が形成され、コンデンサ素子10が作製される。なお、誘電体層の表面に形成された固体電解質層は、事実上の陰極材料として機能する。
【0071】
(v)コンデンサ素子10に電解液を含浸させる工程
次に、コンデンサ素子10に、電解液を含浸させる。これにより、誘電体層の修復機能に優れた電解コンデンサが得られる。コンデンサ素子10に電解液を含浸させる方法は特に限定されない。例えば、容器に収容された電解液にコンデンサ素子10を浸漬させる方法が簡易で好ましい。浸漬時間は、コンデンサ素子10のサイズにもよるが、例えば1秒~5分である。含浸は、減圧下、例えば10~100kPa、好ましくは40~100kPaの雰囲気で行うことが好ましい。
【0072】
(vi)コンデンサ素子を封止する工程
次に、コンデンサ素子10を封止する。具体的には、まず、リード線14A、14Bが有底ケース11の開口する上面に位置するように、コンデンサ素子10を有底ケース11に収納する。有底ケース11の材料としては、アルミニウム、ステンレス鋼、銅、鉄、真鍮などの金属あるいはこれらの合金を用いることができる。
【0073】
次に、リード線14A、14Bが貫通するように形成された封止部材12を、コンデンサ素子10の上方に配置し、コンデンサ素子10を有底ケース11内に封止する。次に、有底ケース11の開口端近傍に、横絞り加工を施し、開口端を封止部材12に加締めてカール加工する。そして、カール部分に座板13を配置することによって、図1に示すような電解コンデンサが完成する。その後、定格電圧を印加しながら、エージング処理を行ってもよい。
【0074】
上記の実施形態では、巻回型の電解コンデンサについて説明したが、本発明の適用範囲は上記に限定されず、他の電解コンデンサ、例えば、陽極体として金属の焼結体を用いるチップ型の電解コンデンサや、金属板を陽極体として用いる積層型の電解コンデンサにも適用することができる。
【0075】
[実施例]
以下、実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0076】
《実施例1》
本実施例では、定格電圧25V、定格静電容量330μFの巻回型の電解コンデンサ(Φ10.0mm×L(長さ)10.0mm)を作製した。以下に、電解コンデンサの具体的な製造方法について説明する。
【0077】
(陽極体の準備)
厚さ100μmのアルミニウム箔にエッチング処理を行い、アルミニウム箔の表面を粗面化した。その後、アルミニウム箔の表面に、化成処理により、誘電体層を形成した。化成処理は、アジピン酸アンモニウム溶液にアルミニウム箔を浸漬し、これに45Vの電圧を印加することにより行った。その後、アルミニウム箔を、縦×横が8mm×120mmとなるように裁断して、陽極体を準備した。
【0078】
(陰極体の準備)
厚さ50μmのアルミニウム箔にエッチング処理を行い、アルミニウム箔の表面を粗面化した。その後、アルミニウム箔を、縦×横が8mm×120mmとなるように裁断して、陰極体を準備した。
【0079】
(巻回体の作製)
陽極体および陰極体に陽極リードタブおよび陰極リードタブを接続し、陽極体と陰極体とを、リードタブを巻き込みながら、セパレータを介して巻回した。巻回体から突出する各リードタブの端部には、陽極リード線および陰極リード線をそれぞれ接続した。そして、作製された巻回体に対して、再度化成処理を行い、陽極体の切断された端部に誘電体層を形成した。次に、巻回体の外側表面の端部を巻止めテープで固定して巻回体を作製した。
【0080】
(導電性材料を含む高分子分散体の調製)
3,4-エチレンジオキシチオフェンと、高分子ドーパントであるポリ(4-スチレンスルホン酸)(PSS、重量平均分子量10万)とを、イオン交換水(液状成分b)に溶かし、混合溶液を調製した。混合溶液を撹拌しながら、イオン交換水に溶かした硫酸鉄(III)(酸化剤)を添加し、重合反応を行った。反応後、得られた反応液を透析し、未反応モノマーおよび過剰な酸化剤を除去し、PSSがドープされたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT/PSS)を導電性材料として含む高分子分散体を得た。
【0081】
(導電性材料および添加剤を含む処理液の調製)
上記で得られた導電性材料(PEDOT/PSS)を含む高分子分散体に、添加剤としてアントラキノン-2-スルホン酸(AQS)を、導電性材料100質量部あたり20質量部加え、導電性材料および添加剤を含む処理液を得た。なお、AQSの添加量は、PSS100質量部あたり30質量部であった。
【0082】
(固体電解質層の形成)
減圧雰囲気(40kPa)中で、所定容器に収容された処理液に巻回体を5分間浸漬し、その後、処理液から巻回体を引き上げた。次に、処理液を含浸した巻回体を、150℃の乾燥炉内で20分間乾燥させ、誘電体層の少なくとも一部を被覆する固体電解質層を形成した。
【0083】
(電解液の含浸)
電解液の溶媒には、グリコール化合物(液状成分a)としてエチレングリコール(EG)と、ラクトン化合物としてγ-ブチロラクトン(GBL)とを、50:50の体積比で含む混合溶媒を用いた。
溶質の酸成分には、有機カルボン酸化合物としてフタル酸(オルト体)を用いた。溶質の塩基成分には、アミン化合物としてトリエチルアミンを用いた。上記の溶媒および溶質を用いて、電解液を調製した。
【0084】
電解液全体に対する溶質の含有量は、10質量%とした。塩基成分に対する酸成分のモル比:(酸成分/塩基成分)は、1/1とした。なお、酸成分(フタル酸)の少なくとも一部は、塩基成分(トリエチルアミン)との塩(フタル酸トリエチルアミン)として添加した。
減圧雰囲気(40kPa)中で、電解液にコンデンサ素子を5分間浸漬した。
【0085】
(コンデンサ素子の封止)
電解液を含浸させたコンデンサ素子を封止して、電解コンデンサを完成させた。具体的には、有底ケースの開口側にリード線が位置するようにコンデンサ素子を有底ケースに収納し、リード線が貫通するように形成された封止部材(ゴム成分としてブチルゴムを含む弾性材料)をコンデンサ素子の上方に配置して、コンデンサ素子を有底ケース内に封止した。そして、有底ケースの開口端近傍に絞り加工を施し、更に開口端をカール加工し、カール部分に座板を配置することによって、図1に示すような電解コンデンサA1を完成させた。その後、定格電圧を印加しながら、130℃で2時間エージング処理を行った。
【0086】
[評価]
上記で作製した電解コンデンサA1について、以下の評価を行った。
エージング処理後の電解コンデンサについて、ピーク温度260±5℃で10秒間のリフロー処理を2回行った。20℃の環境下で、LCRメータを用いて、リフロー処理後の電解コンデンサについて、周波数100kHzにおけるESR値(初期ESR値:X0)(Ω)を測定した。
【0087】
X0の測定後、高温負荷試験を行った。すなわち、145℃の温度にて、電解コンデンサに定格電圧を1000時間印加した。高温負荷試験後の電解コンデンサについて、上記と同様の方法でESR値(X1)(Ω)を測定した。
得られたX0およびX1を用いて、下記式よりESRの増加率(ΔESR)を求めた。
ΔESR(%)=(X1/X0)×100
【0088】
《比較例1》
導電性材料(PEDOT/PSS)を含む高分子分散体に添加剤(AQS)を加えなかった以外、実施例1と同様に電解コンデンサB1を作製し、評価した。
【0089】
《比較例2》
3,4-エチレンジオキシチオフェンと、低分子ドーパントであるAQSとを、イオン交換水(液状成分)に溶かし、混合溶液を調製した。混合溶液を撹拌しながら、イオン交換水に溶かした硫酸鉄(III)(酸化剤)を添加し、重合反応を行った。反応後、得られた反応液を透析し、未反応モノマーおよび過剰な酸化剤を除去し、AQSがドープされたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT/AQS)を導電性材料として含む高分子分散体を得た。
【0090】
導電性材料(PEDOT/PSS)および添加剤(AQS)を含む処理液の代わりに、導電性材料(PEDOT/AQS)を含む高分子分散体を用いた以外、実施例1と同様に電解コンデンサB2を作製し、評価した。
【0091】
《比較例3》
3,4-エチレンジオキシチオフェンと、低分子ドーパントであるAQSとを、イオン交換水(液状成分)に溶かし、混合溶液を調製した。混合溶液を撹拌しながら、イオン交換水に溶かした硫酸鉄(III)(酸化剤)を添加し、重合反応を行った。反応後、得られた反応液を透析し、未反応モノマーおよび過剰な酸化剤を除去し、AQSがドープされたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT/AQS)を第2導電性材料として含む高分子分散体を得た。
【0092】
第1導電性材料(PEDOT/PSS)を含む高分子分散体に、添加剤(AQS)の代わりに第2導電性材料(PEDOT/AQS)を加えた。第2導電性材料に含まれるAQSの量が第1導電性材料100質量部あたり20質量部となるように、第1導電性材料および第2導電性材料の配合比を調整した。上記以外、実施例1と同様に電解コンデンサB3を作製し、評価した。
【0093】
各電解コンデンサの評価結果を表1に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
電解コンデンサA1では、リフロー処理後の初期のESR値(X0)が小さく、高温負荷試験後のESR値(X1)も小さく、ΔESRの増大が抑制された。固体電解質層にAQSを含ませた電解コンデンサA1では、PEDOTからのPSSの脱ドープが抑制されたため、固体電解質層の劣化が抑制され、ESRの上昇が抑制された。
【0096】
固体電解質層にAQSを含ませなかった電解コンデンサB1では、PEDOTからのPSSの脱ドープにより固体電解質層が劣化したため、X0およびΔESRが増大した。
電解コンデンサB2では、導電性材料としてPEDOT/AQSを用いたため、固体電解質層の導電性が低く、電解コンデンサA1、B1、B3よりもX0およびΔESRが増大した。
電解コンデンサB3では、固体電解質層にAQSをPEDOTにドープさせた状態で含ませたため、AQSがPSSのPEDOTからの脱ドープを抑制できず、X0およびΔESRが増大した。
【0097】
《実施例2~8》
導電性材料(PEDOT/PSS)を含む高分子分散体への添加剤(AQS)の添加量を表2に示す値とした以外、実施例1と同様に電解コンデンサA2~A8を作製し、評価した。評価結果を表2に示す。なお、表2中のAQSの添加量は、導電性材料100質量部あたりの量(質量部)を示す。また、表2では、電解コンデンサA1およびB1の評価結果も示す。
【0098】
【表2】
【0099】
電解コンデンサA1~A8は、いずれも、電解コンデンサB1に比べて、リフロー処理後のX0が小さく、高温負荷試験後のX1も小さく、ΔESRの増大が抑制された。AQSの添加量が導電性材料100質量部あたり1~30質量部である電解コンデンサA3~A7では、X0がより小さく、ΔESRの増大も抑制された。
【0100】
《実施例9~15》
添加剤としてアントラキノン-2-スルホン酸の代わりに表3に示す化合物を用いた以外、実施例1と同様に電解コンデンサA9~A15を作製し、評価した。評価結果を表3に示す。表3では、電解コンデンサA1の評価結果も示す。
【0101】
【表3】
【0102】
電解コンデンサA9~A15は、電解コンデンサA1と同様に、リフロー処理後のX0が小さく、高温負荷試験後のX1も小さく、ΔESRの増大が抑制された。中でも、電解コンデンサA1、A9、A10、A13では、X0がより小さく、ΔESRの増大も抑制された。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、誘電体層の少なくとも一部を被覆する固体電解質層を備える電解コンデンサに利用することができる。
【符号の説明】
【0104】
10:コンデンサ素子、11:有底ケース、12:封止部材、13:座板、14A,14B:リード線、15A,15B:リードタブ、21:陽極体、22:陰極体、23:セパレータ、24:巻止めテープ
図1
図2