(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】植物の免疫誘導方法及び植物用免疫誘導剤
(51)【国際特許分類】
A01N 35/02 20060101AFI20230929BHJP
A01P 21/00 20060101ALI20230929BHJP
A01N 25/02 20060101ALI20230929BHJP
A01N 25/16 20060101ALI20230929BHJP
A01G 7/06 20060101ALI20230929BHJP
【FI】
A01N35/02
A01P21/00
A01N25/02
A01N25/16
A01G7/06 A
(21)【出願番号】P 2020521074
(86)(22)【出願日】2019-04-05
(86)【国際出願番号】 JP2019015051
(87)【国際公開番号】W WO2019225173
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2018097654
(32)【優先日】2018-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】河合 志希保
(72)【発明者】
【氏名】村岡 純子
(72)【発明者】
【氏名】中島 剛助
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-041782(JP,A)
【文献】特開2014-171463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
A01G
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
短鎖アルデヒドと、油性物質とを含むウルトラファインバブル水に植物を暴露することを備
え、
前記短鎖アルデヒドは、(E)-2-ヘキセナールである、
植物の免疫誘導方法。
【請求項2】
前記油性物質は、天然由来である、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記油性物質は、スクワレンを含む、請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
前記油性物質は、オレイン酸を含む、請求項
2に記載の方法。
【請求項5】
前記ウルトラファインバブル水における前記短鎖アルデヒドの濃度は、1μmol/リットル以上1000μmol/リットル以下である、
請求項1から
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記植物の少なくとも一部を、前記ウルトラファインバブル水に浸す、
請求項1から
5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記植物の根を、前記ウルトラファインバブル水に浸す、
請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
ウルトラファインバブル水と、
前記ウルトラファインバブル水に含まれる短鎖アルデヒドと、
前記ウルトラファインバブル水に含まれる油性物質と、を備
え、
前記短鎖アルデヒドは、(E)-2-ヘキセナールである、
植物用免疫誘導剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、植物の免疫誘導方法及び植物用免疫誘導剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、植物の生育を助けるための方法又は植物に付加価値を付与するための方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、所定の植物用抵抗性誘導剤に植物を曝露する植物の抵抗性誘導方法が記載されている。植物用抵抗性誘導剤は、植物が外的刺激を受けたときに合成され、その外的刺激に関する情報伝達を担う植物由来情報伝達物質を含む。植物由来情報伝達物質は、例えば、短鎖アルデヒド、イソプレノイド、又は植物ホルモンである。直接噴霧、対象植物の近隣への設置、又はビニルハウス若しくは温室における空調の利用等の方法によって植物が植物用抵抗性誘導剤に曝露されている。
【0004】
特許文献2には、所定の物質を含むウルトラファインバブル液を植物に吸収させる植物処理方法が記載されている。所定の物質は、山椒、和山椒、トリュフ、柚子、レモン水、及びブラックペッパー等の香り物質である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-41782号公報
【文献】特開2014-171463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2には、短鎖アルデヒドを含むウルトラファインバブル水を用いて植物の免疫を誘導することは記載されていない。そこで、本開示は、短鎖アルデヒドを含むウルトラファインバブル水を用いて植物の免疫を誘導する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、
短鎖アルデヒドと、油性物質とを含むウルトラファインバブル水に植物を暴露することを備えた、
植物の免疫誘導方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
上記の方法によれば、短鎖アルデヒドを含むウルトラファインバブル水を用いて植物の免疫を誘導できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施例及び比較例に係るサンプルにおけるSIPR1遺伝子の発現量を示すグラフである。
【
図2】
図2は、実施例及び比較例に係るサンプルにおけるTPP3遺伝子の発現量を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例及び比較例に係るサンプルにおけるNP24遺伝子の発現量を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例及び比較例に係るサンプルにおけるSIOSM遺伝子の発現量を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例及び比較例に係るサンプルにおけるSITSRF1遺伝子の発現量を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例及び比較例に係るサンプルにおけるPR5L遺伝子の発現量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の基礎となった知見)
例えば、食害を被った植物は、所定の情報伝達物質を放出する。周辺の植物が、この情報伝達物質を受容するとその植物の免疫が誘導される。このように、植物が所定の物質を用いて情報伝達を行う仕組みは、植物間コミュニケーションと呼ばれている。この仕組みを応用して、短鎖アルデヒド等の情報伝達物質に植物を暴露すれば、植物の免疫を誘導できると考えられる。例えば、特許文献1に記載の方法によれば、短鎖アルデヒド等の植物由来情報伝達物質に植物が曝露されている。一方、本発明者らは、ウルトラファインバブル水を用いて植物の周辺に短鎖アルデヒドを安定的に存在させることができる技術を開発すべく多大な試行錯誤を重ねた。その結果、本発明者らは、ウルトラファインバブル水に短鎖アルデヒドとともに油性物質を含ませることによって、植物の周辺に短鎖アルデヒドが安定的に存在し、植物の免疫が誘導されやすいことを新たに見出した。本発明者らは、この新たな知見に基づいて本開示の方法を案出した。
【0011】
(本開示に係る態様の概要)
本開示の第1態様に係る植物の免疫誘導方法は、短鎖アルデヒドと、油性物質とを含むウルトラファインバブル水に植物を暴露することを備える。
【0012】
第1態様によれば、油性物質の働きによってウルトラファインバブル水におけるウルトラファインバブルの寿命が長くなりやすい。このため、植物の周辺に短鎖アルデヒドを安定的に存在させることができ、植物の免疫が誘導されやすい。
【0013】
本開示の第2態様において、第1態様に係る方法では、前記短鎖アルデヒドは、(E)-2-ヘキセナール及び(Z)-3-ヘキセナールから選ばれる少なくとも1つを含んでいてもよい。第2態様によれば、より確実に植物の免疫が誘導されやすい。
【0014】
本開示の第3態様において、第1態様又は第2態様に係る方法では、前記油性物質は、天然由来であってもよい。第3態様によれば、ウルトラファインバブル水に含まれる油性物質が天然由来であるので、ウルトラファインバブル水に含まれる油性物質に植物が触れても、植物がダメージを受けにくい。
【0015】
本開示の第4態様において、第3態様に係る方法では、前記油性物質は、スクワレンを含んでいてもよい。第4態様によれば、スクワレンの働きにより、より確実に、植物の周辺に短鎖アルデヒドを安定的に存在させることができる。
【0016】
本開示の第5態様において、第3態様に係る方法では、前記油性物質は、オレイン酸を含んでいてもよい。第5態様によれば、オレイン酸の働きにより、より確実に、植物の周辺に短鎖アルデヒドを安定的に存在させることができる。
【0017】
本開示の第6態様において、第1態様から第5態様のいずれか1つの態様に係る方法では、前記ウルトラファインバブル水における前記短鎖アルデヒドの濃度は、1μmol/リットル以上1000μmol/リットル以下であってもよい。第6態様によれば、植物の周辺に所望の量の短鎖アルデヒドを安定的に存在させることができる。
【0018】
本開示の第7態様において、第1態様から第6態様のいずれか1つの態様に係る方法では、前記植物の少なくとも一部を、前記ウルトラファインバブル水に浸してもよい。第6態様によれば、植物の周辺において高い濃度で短鎖アルデヒドを安定的に存在させることができる。
【0019】
本開示の第8態様によれば、第7態様に係る方法では、前記植物の根を、前記ウルトラファインバブル水に浸してもよい。第8態様によれば、短鎖アルデヒドが植物の根から吸収されることによって植物全体に短鎖アルデヒドが運ばれやすい。このため、植物全体において免疫が誘導されやすい。
【0020】
本開示の第9態様に係る植物用免疫誘導剤は、ウルトラファインバブル水と、前記ウルトラファインバブル水に含まれる短鎖アルデヒドと、前記ウルトラファインバブル水に含まれる油性物質と、を備えている。植物用免疫誘導剤を用いて、第1態様に係る植物の免疫誘導方法を実施できる。
【0021】
(実施形態)
以下、本開示の実施形態について説明する。なお、以下の実施形態は例示に過ぎず、本開示の植物の免疫誘導方法及び植物用免疫誘導剤は、以下の実施形態に限定されない。
【0022】
本開示の植物の免疫誘導方法において、植物用免疫誘導剤が用いられる。植物用免疫誘導剤は、ウルトラファインバブル水と、短鎖アルデヒドと、油性物質とを備えている。短鎖アルデヒドは、ウルトラファインバブル水に含まれている。油性物質は、ウルトラファインバブル水に含まれている。植物用免疫誘導剤を用いて、短鎖アルデヒドと、油性物質とを含むウルトラファインバブル水に植物を暴露する。本明細書において、油性物質は、典型的には、常温(20℃±15℃:日本工業規格JIS Z 8703)において流動性を示し、かつ、水に不溶な物質であり、スクワレン及び脂肪酸などを含む物質である。
【0023】
油性物質の働きによってウルトラファインバブル水におけるウルトラファインバブルの寿命が長くなりやすい。このため、植物の周辺に短鎖アルデヒドを安定的に存在させることができ、植物の免疫が誘導されやすい。
【0024】
ウルトラファインバブル水において、ウルトラファインバブルが水中に分散している。本明細書において、「ウルトラファインバブル」は、ISO 20480-1:2017に従い、1μm未満の気泡径を有する気泡である。ウルトラファインバブル水における最頻気泡径は、例えば1000nm未満であり、500nm以下であってもよく、300nm以下であってもよく、200nm以下であってもよく、50nm以上150nm以下でありうる。ウルトラファインバブル水におけるウルトラファインバブルの最頻気泡径は、例えば、ナノ粒子トラッキング解析法によって決定できる。
【0025】
ウルトラファインバブル中の気体は、ウルトラファインバブルを形成できる限り特定の気体に限定されない。ウルトラファインバブル中の気体は、例えば、空気、酸素ガス、窒素ガス、炭酸ガス、オゾンガス、ネオンガス、及びアルゴンガスからなる群より選ばれる少なくとも1つである。ウルトラファインバブル中の気体は、空気、酸素ガス、又は窒素ガスであってもよい。ウルトラファインバブル中の気体は、酸素ガスであってもよい。
【0026】
ウルトラファインバブル水における分散媒としての水は、例えば、水道水、精製水、イオン交換水、純水、超純水、脱イオン水、又は蒸留水である。
【0027】
ウルトラファインバブル水におけるウルトラファインバブルの濃度は、植物の免疫を誘導できる限り、特定の濃度に限定されない。ウルトラファインバブル水におけるウルトラ
ファインバブルの濃度は、例えば1×105個/mL(ミリリットル)以上であり、1×
106個/mL以上であってもよく、1×107個/mL以上であってもよく、1×108
個/mL以上であってもよく、1×108個/mL以上1×109個/mL以下であってもよい。ウルトラファインバブル水におけるウルトラファインバブルの濃度は、例えば、ナノ粒子トラッキング解析法によって決定できる。
【0028】
ウルトラファインバブル水は、例えば、気液混合せん断方式、スタティックミキサー式、ベンチュリ式、キャビテーション式、蒸気凝縮式、超音波方式、旋回流方式、加圧溶解方式、又は微細孔方式などの公知の方法によって調製できる。
【0029】
短鎖アルデヒドは、典型的には、10個以下の炭素原子を有する。短鎖アルデヒドは、植物の免疫を誘導できる限り特に制限されない。短鎖アルデヒドは、6個の炭素原子を有するアルデヒドを含んでいてもよい。短鎖アルデヒドは、(E)-2-ヘキセナール及び(Z)-3-ヘキセナールから選ばれる少なくとも1つを含んでいてもよい。これらの短鎖アルデヒドは、植物が放つ匂いに含まれることが多く、植物の免疫を活性化しやすい。
【0030】
ウルトラファインバブル水における短鎖アルデヒドの濃度は、植物の免疫を誘導できる限り特定の濃度に制限されない。ウルトラファインバブル水における短鎖アルデヒドの濃度は、例えば1μmol/L以上1000μmol/L以下である。これにより、植物の免疫が誘導されやすい。
【0031】
ウルトラファインバブル水に含まれる油性物質は、例えば、天然由来である。油性物質は、動物又は植物から抽出又は精製されたものでありうる。この場合、ウルトラファインバブル水に含まれる油性物質に植物が触れても、植物がダメージを受けにくい。
【0032】
油性物質としての脂肪酸は、例えば、5以上12以下の炭素原子を有する飽和脂肪酸、又は、12以上の炭素原子を有する不飽和脂肪酸である。油性物質は、12以上の炭素原子を有していてもよい。油性物質としての脂肪酸は、オレイン酸、オクタン酸、ノナン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、及びアラキドン酸からなる群より選択される少なくとも1つでありうる。油性物質としての脂肪酸は、オレイン酸を含んでいてもよい。油性物質は、スクワレンを含んでいてもよい。これらの油性物質は、ウルトラファインバブルに吸着し、ウルトラファインバブル水中にて凝集することなく安定して分散できる。これにより、ウルトラファインバブル水におけるウルトラファインバブルの濃度を高く保つことができる。加えて、ウルトラファインバブルの長寿命化が可能になる。
【0033】
ウルトラファインバブル水に含まれる油性物質の濃度は、植物の免疫を誘導できる限り特定の濃度に制限されない。ウルトラファインバブル水における油性物質の濃度は、例えば、質量基準で1×10-3ppm(parts per million)以上である。これにより、ウル
トラファインバブル水におけるウルトラファインバブルの濃度が高く保たれやすい。ウルトラファインバブル水における油性物質の濃度は、例えば、50ppm以下である。
【0034】
ウルトラファインバブル水に植物を暴露する方法は、植物の免疫を誘導できる限り、特定の方法に限定されない。例えば、植物の少なくとも一部がウルトラファインバブル水に浸される。この場合、植物がウルトラファインバブル水に浸されているときに、植物の周辺において高い濃度で短鎖アルデヒドが安定的に存在する。これにより、より確実に、植物の免疫が誘導されやすい。
【0035】
植物の根がウルトラファインバブル水に浸されてもよい。この場合、短鎖アルデヒドが植物の根から吸収されることによって植物全体に短鎖アルデヒドが運ばれやすい。このため、植物全体において免疫が誘導されやすい。
【0036】
ウルトラファインバブル水に浸される植物の部位は、根以外の部位であってもよい。例えば、植物の茎、枝、葉、花、又は果実がウルトラファインバブル水に浸されてもよい。
【0037】
ウルトラファインバブル水を植物に対して散布することによってウルトラファインバブル水に植物を暴露してもよい。
【0038】
本開示の免疫誘導方法が適用される植物は、特定の植物に限定されない。例えば、食用植物、観賞植物、飼料用植物、又は工業原料を得るために栽培される植物に本開示の免疫誘導方法を適用できる。
【実施例】
【0039】
実施例により、本開示の植物の免疫誘導方法及び植物用免疫誘導剤をより詳細に説明する。なお、本開示の植物の免疫誘導方法及び植物用免疫誘導剤は、以下の実施例に限定されない。
【0040】
(実施例)
加圧溶解方式のマイクロバブル発生装置を用いて、(E)-2-ヘキセナール及びスクワレンが添加された水を処理して、(E)-2-ヘキセナール及びスクワレンを含むウルトラファインバブル水を調製した。25℃及び1気圧の条件において、ナノ粒子解析システム(Nanosight社製、製品名:LM10)を用いて、ナノ粒子トラッキング解析法に従
って、上記のウルトラファインバブル水における微細気泡の気泡径及び濃度を測定した。ナノ粒子トラッキング解析法によれば、レーザー散乱光で確認されたブラウン運動をしている微細気泡の移動速度から、ストークス・アインシュタインの式に基づいて、気泡径及びウルトラファインバブルの数(濃度)が算出される。測定の結果、上記のウルトラファインバブル水における最頻気泡径は、70.3nmであった。
【0041】
(E)-2-ヘキセナールの添加量で換算して、(E)-2-ヘキセナールの濃度が1μM、10μM、及び1mM(ミリモーラー:10-3mol/dm3)となるように上記
のウルトラファインバブル水をMilli-Q水で希釈して、それぞれ、免疫誘導剤A、免疫誘導剤B、及び免疫誘導剤Cを調製した。免疫誘導剤Aにおけるウルトラファインバブルの濃度は、4.5×105個/mLであった。免疫誘導剤Aにおけるスクワレンの濃度は、
質量基準で2.9×10-2ppmであった。
【0042】
水で湿潤したスポンジ上にマイクロトムの種子をまき、発芽まで室温暗所で静置した。発芽後は栽培養液としてハイポニカ液体肥料を用いて水耕栽培により栽培した。栽培養液はA剤とB剤を水道水で500倍に希釈したものを使用し、20℃の温度、明期12時間、及び暗期12時間の条件下で2週間栽培した。2週齢のマイクロトムの根部分を水道水ですすぎ洗浄した後、30mLの免疫誘導剤A、免疫誘導剤B、又は免疫誘導剤Cに3時間浸漬させた。このようにして、免疫誘導剤A、免疫誘導剤B、及び免疫誘導剤Cにマイクロトムを暴露し、それぞれ、マイクロトムのサンプルA、サンプルB、及びサンプルCを得た。
【0043】
(比較例1)
加圧溶解方式のマイクロバブル発生装置を用いて、スクワレンが添加された水を処理して、スクワレンを含むウルトラファインバブル水を調製した。25℃及び1気圧の条件において、ナノ粒子解析システム(Nanosight社製、製品名:LM10)を用いて、ナノ粒
子トラッキング解析法に従って、上記のウルトラファインバブル水における微細気泡の気泡径及び濃度を測定した。上記のウルトラファインバブル水における最頻気泡径は、98nmであった。
【0044】
上記のウルトラファインバブル水をMilli-Q水で希釈して、比較例1に係る浸漬液を調製した。比較例1に係る浸漬液におけるウルトラファインバブルの濃度は、2.9×108個/mLであり、比較例1に係る浸漬液におけるスクワレンの濃度は、質量基準で5p
pmであった。
【0045】
免疫誘導剤A、免疫誘導剤B、又は免疫誘導剤Cの代わりに、比較例1に係る浸漬液を用いた以外は、実施例と同様にして、比較例1に係る浸漬液にマイクロトムを暴露し、比較例1に係るマイクロトムのサンプルを得た。
【0046】
(比較例2)
免疫誘導剤A、免疫誘導剤B、又は免疫誘導剤Cの代わりに、Milli-Q水を用いた以外は、実施例と同様にして、Milli-Q水にマイクロトムを暴露し、比較例2に係るマイクロトムのサンプルを得た。
【0047】
(比較例3)
スクワレンを添加せずに(E)-2-ヘキセナールのみを添加したこと以外は実施例と同様にして(E)-2-ヘキセナールを含むウルトラファインバブル水を調製しようと試みた。しかし、十分なウルトラファインバブルの濃度を有するウルトラファインバブル水を調製できなかった。
【0048】
<遺伝子発現解析>
マイクロトムのサンプルA、サンプルB、及びサンプルC並びに比較例1及び2に係るマイクロトムのサンプルのそれぞれに対し、以下の処理を行った。マイクロトムの葉を切断し、RNA extraction kit; ISOSPIN Plant RNA(ニッポンジーン社製)を用いて、total RNAを抽出した。次に、このtotal RNA からTranscriptor 1st strand cDNA synthesis kit(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を用いてcDNAを合成した。操作はキットプロトコルに従って実施した。このcDNAを用いて遺伝子発現解析を行った。対象とした遺伝子及び遺伝子特異的プライマー配列を表1に示す。プライマー配列は、Journal of Plant Physiology 2016 v.202 pp.107-120を参照した。一部のプライマー配列は、PCRプライマー設計ツール(Primer 3)を用いて設計した。合成したcDNAとプライマーをMaxima SYBR Green qPCR Master Mix (2X), with separate ROX vial(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用い、標準プロトコルにて発現解析を行った。装置はQuantStudio3 System(Applied Biosystems 社製)を用い、解析にはQuantStudio Design & Analysisソフトウェア(Applied Biosystems 社製)を用いた。EF1aを内部標準として遺伝子発現量の相対値を求めた。結果を
図1から
図6に示す。
【0049】
図1から
図6に示す通り、それぞれ免疫誘導剤A、免疫誘導剤B、及び免疫誘導剤Cに浸漬されたサンプルA、サンプルB、及びサンプルCにおいて、SIPR1、TPP3、NP24、SIOSM、SITSRF1、及びPR5L遺伝子の発現亢進が確認された。このように、スクワレン及び(E)-2-ヘキセナールを含むウルトラファインバブル水に植物の根を暴露させたサンプルにおいて、6種類の感染関連遺伝子の発現亢進が確認された。このことから、スクワレンの含有によりウルトラファインバブルが長時間保たれ、(E)-2-ヘキセナールにマイクロトムを適切に暴露でき、マイクロトムの免疫活性が向上することが示唆された。
【0050】
【配列表】