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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】太陽電池
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/50 20230101AFI20230929BHJP
   H10K 30/40 20230101ALI20230929BHJP
   H10K 85/50 20230101ALI20230929BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/40
H10K85/50
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020558072
(86)(22)【出願日】2019-06-20
(86)【国際出願番号】 JP2019024408
(87)【国際公開番号】W WO2020105207
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2018217405
(32)【優先日】2018-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【弁理士】
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】横山 智康
(72)【発明者】
【氏名】松井 太佑
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/121700(WO,A1)
【文献】特開2018-056473(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170869(WO,A1)
【文献】米国特許第07189428(US,B1)
【文献】LING, Xufeng et al.,Room-Temperature Processed Nb2O5 as the Electron- Transporting Layer for Efficient Planar Perovskite,APPLIED MATERIALS & INTERFACES,2017年06月19日,Vol.9,pp.23181-23188
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00-99/00
ACS PUBLICATIONS
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池であって、
第1電極、
第2電極、
前記第1電極および第2電極の間に設けられた光電変換層、および
前記第1電極および前記光電変換層の間に設けられた電子輸送層
を具備し、
ここで、
前記第1電極および前記第2電極からなる群から選択される少なくとも1つの電極が透光性を有し、
前記光電変換層は、1価のカチオン、Snカチオン、およびハロゲンアニオンから構成されるペロブスカイト化合物を含有し、
前記電子輸送層は、酸化ニオブを含む電子輸送材料を含有し、
前記酸化ニオブはアモルファスであり、
前記酸化ニオブに含まれるニオブの酸素に対するモル比が、0.36以上0.41以下であり、かつ
前記電子輸送材料の伝導帯下端のエネルギー準位は、真空準位を基準として、-3.9eVを超え、かつ-3.1eV未満である、
太陽電池。
【請求項2】
請求項1に記載の太陽電池であって、
前記電子輸送層は、8ナノメートル以上350ナノメートル以下の厚みを有する、
太陽電池。
【請求項3】
請求項2に記載の太陽電池であって、
前記電子輸送層は、10ナノメートル以上350ナノメートル以下の厚みを有する、
太陽電池。
【請求項4】
請求項3に記載の太陽電池であって、
前記電子輸送層は、50ナノメートル以上350ナノメートル以下の厚みを有する、
太陽電池。
【請求項5】
請求項1からのいずれか一項に記載の太陽電池であって、
前記酸化ニオブは、化学式Nb25により表される、
太陽電池。
【請求項6】
請求項1からのいずれか一項に記載の太陽電池であって、
前記1価のカチオンは、ホルムアミジニウムカチオンを含む、
太陽電池。
【請求項7】
請求項1からのいずれか一項に記載の太陽電池であって、
前記ハロゲンアニオンは、ヨウ化物イオンを含む、
太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ペロブスカイト太陽電池が研究および開発されている。ペロブスカイト太陽電池では、化学式ABX(ここで、Aは1価のカチオンであり、Bは2価のカチオンであり、かつXはハロゲンアニオンである)で示されるペロブスカイト化合物が光電変換材料として用いられている。
【0003】
非特許文献1および特許文献1は、ペロブスカイト太陽電池の光電変換材料として、化学式CH3NH3SnI3(以下、「MASnI3」という)で表されるペロブスカイト化合物を用いることを開示している。非特許文献1および特許文献1は、化学式(NH22CHSnI3(以下、「FASnI3」という)で表されるペロブスカイト化合物も開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-17252号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Shuyan Shao et. Al. "Highly Reproducible Sn-Based Hybrid Perovskite Solar Cells with 9% Efficiency", Advanced Energy Materials, 2018, Vol. 8, 1702019
【文献】Atsushi Kogo et al., "Nb2O5Blocking Layer for High Open-circuit Voltage Perovskite Solar Cells", Chem. Lett., 2015, Vol. 44, 829 - 830
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の目的は、高い光電変換効率を有する太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示による太陽電池は、
第1電極、
第2電極、
前記第1電極および第2電極の間に設けられた光電変換層、および
前記第1電極および前記光電変換層の間に設けられた電子輸送層
を具備し、
前記第1電極および前記第2電極からなる群から選択される少なくとも1つの電極が透光性を有し、
前記光電変換層は、1価のカチオン、Snカチオン、およびハロゲンアニオンから構成されるペロブスカイト化合物を含有し、
前記電子輸送層は、酸化ニオブを含む電子輸送材料を含有し、かつ
前記酸化ニオブはアモルファスである。
【発明の効果】
【0008】
本開示は、高い光電変換効率を有する太陽電池を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明者によって作製された鉛系ペロブスカイト太陽電池およびスズ系ペロブスカイト太陽電池の光電変換効率の実測値を示すグラフである。
図2図2は、(i)太陽電池の光電変換層および電子輸送層の間のエネルギーオフセットの変化、(ii)太陽電池の電圧、および(iii)太陽電池の電流密度の関係を示すグラフである。
図3図3は、実施形態による太陽電池の断面図を示す。
図4図4は、実施例3および比較例7におけるサンプルのX線回析パターンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<用語の定義>
本明細書において用いられる用語「ペロブスカイト化合物」とは、化学式ABX(ここで、Aは1価のカチオン、Bは2価のカチオン、およびXはハロゲンアニオンである)で示されるペロブスカイト結晶構造体およびそれに類似する結晶を有する構造体を意味する。
本明細書において用いられる用語「スズ系ペロブスカイト化合物」とは、スズを含有するペロブスカイト化合物を意味する。
本明細書において用いられる用語「スズ系ペロブスカイト太陽電池」とは、スズ系ペロブスカイト化合物を光電変換材料として含む太陽電池を意味する。
本明細書において用いられる用語「鉛系ペロブスカイト化合物」とは、鉛を含有するペロブスカイト化合物を意味する。
本明細書において用いられる用語「鉛系ペロブスカイト太陽電池」とは、鉛系ペロブスカイト化合物を光電変換材料として含む太陽電池を意味する。
【0011】
以下、本開示の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
図3は、実施形態による太陽電池100の断面図を示す。
【0013】
図3に示されるように、本実施形態の太陽電池100は、第1電極2、第2電極6、第1電極2および第2電極6の間に設けられた光電変換層4、および第1電極2および光電変換層4の間に設けられた電子輸送層3を具備している。
【0014】
第1電極2は、第1電極2および第2電極6の間に電子輸送層3および光電変換層4が位置するように第2電極6と対向している。第1電極2および第2電極6からなる群より選ばれる少なくとも1つの電極は、透光性を有する。本明細書において、「電極が透光性を有する」の語は、200から2000ナノメートルの波長を有する光のうち、いずれかの波長において、10%以上の光が電極を透過することを意味する。
【0015】
(光電変換層4)
光電変換層4は、光電変換材料として、1価のカチオン、Snカチオン、およびハロゲンアニオンから構成されるペロブスカイト化合物を含有する。光電変換材料は、光吸収材料である。
【0016】
本実施形態において、ペロブスカイト化合物は、組成式ABX3(ここで、Aは1価のカチオンであり、BはSnカチオンを含む2価のカチオンであり、かつXはハロゲンアニオンである)で示される化合物であり得る。
【0017】
ペロブスカイト化合物のために慣用的に用いられている表現に従い、本明細書においては、A、B、およびXは、それぞれ、Aサイト、Bサイト、およびXサイトとも言う。
【0018】
本実施形態において、ペロブスカイト化合物は、組成式ABX3(ここで、Aが1価のカチオンであり、BがSnカチオンであり、かつXがハロゲンアニオンである)で示されるペロブスカイト型結晶構造を有し得る。一例として、Aサイトに1価のカチオンが位置し、BサイトにSn2+が位置し、かつXサイトにハロゲンアニオンが位置する。
【0019】
Aサイト、BサイトおよびXサイトは、それぞれ、複数種類のイオンによって占有されていてもよい。
【0020】
Bサイトは、Snカチオン、すなわち、Sn2+を含む。
【0021】
(Aサイト)
Aサイトに位置している1価のカチオンは、限定されない。1価のカチオンAの例は、有機カチオンまたはアルカリ金属カチオンである。有機カチオンの例は、メチルアンモニウムカチオン(すなわち、CH3NH3 +)、ホルムアミジニウムカチオン(すなわち、NH2CHNH2 +)、フェニルエチルアンモニウムカチオン(すなわち、C6524NH3 +)、またはグアニジニウムカチオン(すなわち、CH63 +)である。アルカリ金属カチオンの例は、セシウムカチオン(すなわち、Cs+)である。高い光電変換効率のために、1価のカチオンAは、ホルムアミジニウムカチオンを含むことが望ましい。
【0022】
Aサイトに位置している1価のカチオンは、2種以上のカチオンから構成されていてもよい。
【0023】
Aサイトは、ホルムアミジニウムカチオンを主として含んでいてもよい。文「Aサイトがホルムアミジニウムカチオンを主として含む」とは、1価のカチオンのモル総量に対するホルムアミジニウムカチオンのモル量の割合が最も高いことを意味する。Aサイトが実質的にホルムアミジニウムカチオンのみから構成されていてもよい。
【0024】
(Xサイト)
Xサイトに位置しているハロゲンアニオンの例は、ヨウ化物イオンである。Xサイトに位置しているハロゲンアニオンは、2種以上のハロゲンイオンから構成されていてもよい。高い光電変換効率のために、Xサイトに位置しているハロゲンアニオンは、例えば、ヨウ化物イオンを含むことが望ましい。
【0025】
Xサイトは、ヨウ化物イオンを主として含んでいてもよい。文「ハロゲンアニオンがヨウ化物イオンを主として含む」とは、ハロゲンアニオンのモル総量に対するヨウ化物イオンのモル量の割合が最も高いことを意味する。Xサイトが実質的にヨウ化物イオンのみから構成されていてもよい。
【0026】
(光電変換層4)
光電変換層4は、光電変換材料以外の材料を含んでいてもよい。例えば、光電変換層4は、ペロブスカイト化合物の欠陥密度を低減するためのクエンチャー物質をさらに含んでいてもよい。クエンチャー物質は、フッ化スズのようなフッ素化合物である。クエンチャー物質の光電変換材料に対するモル比は、5%以上20%以下であってもよい。
【0027】
光電変換層4は、1価のカチオン、Snカチオン、およびハロゲンアニオンから構成されるペロブスカイト化合物を主として含有していてもよい。
【0028】
文「光電変換層4は、1価のカチオン、Snカチオン、およびハロゲンアニオンから構成されるペロブスカイト化合物を主として含む」とは、光電変換層4が、1価のカチオン、Snカチオン、およびハロゲンアニオンから構成されるペロブスカイト化合物を70質量%以上(望ましくは80質量%以上)含有することを意味する。
【0029】
光電変換層4は、不純物を含有し得る。光電変換層4は、上記のペロブスカイト化合物以外の化合物をさらに含有していてもよい。
【0030】
光電変換層4は、100ナノメートル以上10マイクロメートル以下の厚み、望ましくは、100ナノメートル以上1000ナノメートル以下の厚み、を有し得る。光電変換層4の厚みは、その光吸収の大きさに依存する。
【0031】
(酸化ニオブを含む電子輸送層3)
電子輸送層3は、酸化ニオブを含む電子輸送材料を含有する。酸化ニオブを含む電子輸送材料の伝導帯下端のエネルギー準位およびスズ系ペロブスカイト化合物の伝導帯下端のエネルギー準位の差は小さい。一例として、当該差の絶対値は0.3eV未満である。この小さな差のため、酸化ニオブを含む電子輸送材料は優れている。
【0032】
後述される比較例2~比較例5において実証されているように、酸化ニオブまたは酸化チタン以外の酸化物(例えば、ZrO、Al、ZnO、またはTa)から形成される電子輸送材料を具備する太陽電池は、0%という著しく低い光電変換効率を有する。言い換えれば、酸化ニオブまたは酸化チタン以外の酸化物から形成される電子輸送材料を具備する太陽電池は、太陽電池として機能しない。
【0033】
電子輸送層3に含有される酸化ニオブはアモルファスである。後述される比較例7において実証されているように、万一、電子輸送層3に含有される酸化ニオブが結晶性である場合、光電変換効率は1%未満という低い値に低下する。
【0034】
言い換えれば、電子輸送材料として酸化ニオブが用いられるのであれば、1%以上の高い光電変換効率のために、酸化ニオブはアモルファスである必要がある。
【0035】
2%以上の光電変換効率のために、後述される実施例1~実施例4に実証されるように、電子輸送層3は、8ナノメートル以上350ナノメートル以下の厚みを有することが望ましい。後述される実施例5において実証されているように、電子輸送層3が8ナノメートル未満の厚みを有する場合、光電変換効率は1%以上2%未満である。一方、後述される実施例6において実証されているように、万一、電子輸送層が350ナノメートルを超える厚みを有する場合も、光電変換効率は1%以上2%未満である。
【0036】
8ナノメートル以上350ナノメートル以下の厚みを有し、かつアモルファス酸化ニオブから形成されている電子輸送層3を具備する太陽電池は、酸化チタンから形成されている電子輸送層を具備する太陽電池(後述される比較例1を参照せよ)と同じまたはそれ以上の光電変換効率を有する。
【0037】
光電変換効率を高めるために、電子輸送層3は、10ナノメートル以上350ナノメートル以下の厚みを有することが望ましく、50ナノメートル以上350ナノメートル以下の厚みを有することがより望ましい。
【0038】
酸化ニオブを含む電子輸送材料の伝導帯下端のエネルギー準位は、真空準位を基準として、-3.9eVを超え、かつ-3.1eV未満であってもよい。
【0039】
電子輸送材料に含まれる酸化ニオブは、組成式Nb2(1+x)5(1-x)で示されてもよい。xの値は-0.05以上+0.05以下であってもよい。xの値は、X線光電子分光法(以下、「XPS法」という)、エネルギー分散型X線分析法(以下、「EDX法」という)、誘導結合プラズマ発光分光分析法(以下、「ICP-OES法」という)、またはラザフォード後方散乱分析法(以下、「RBS法」という)により測定され得る。
【0040】
高い光電変換効率のために、電子輸送材料に含まれる酸化ニオブにおいて、酸素に対するニオブのモル比(すなわち、Nb/Oモル比)は、0.36以上0.41以下であってもよい。モル比もまた、XPS法、EDX法、ICP-OES法、またはRBS法により測定され得る。
【0041】
高い光電変換効率のために、電子輸送材料に含まれる酸化ニオブは、Nb25であってもよい。
【0042】
電子輸送層3は、酸化ニオブ以外の化合物を含有していてもよい。電子輸送層3は、酸化ニオブを主として含有していてもよい。電子輸送層3は、実質的に酸化ニオブから構成されていてもよい。電子輸送層3は、酸化ニオブのみから構成されていてもよい。
【0043】
文「電子輸送層3が酸化ニオブを主として含む」とは、電子輸送層3が酸化ニオブを50mol%以上(望ましくは、60mol%以上)含むことを意味する。
【0044】
文「電子輸送層3が実質的に酸化ニオブからなる」とは、電子輸送層3が酸化ニオブを90mol%以上(望ましくは、95mol%以上)含むことを意味する。
【0045】
酸化ニオブ以外の電子輸送材料は、太陽電池の電子輸送材料として公知の材料であってもよい。以下、区別のために、酸化ニオブを第1電子輸送材料と言い、かつ酸化ニオブ以外の電子輸送材料を第2電子輸送材料という。第2電子輸送材料もまた、電子輸送層3に含有される。
【0046】
第2電子輸送材料は、3.0eV以上のバンドギャップを有する半導体であってもよい。電子輸送層3が、3.0eV以上のバンドギャップを有する半導体を含有する場合には、可視光および赤外光が、基板1、第1電極2、および電子輸送層3を通って光電変換層4に到達することができる。3.0eV以上のバンドギャップを有する半導体の例は、有機または無機のn型半導体である。
【0047】
有機のn型半導体の例は、イミド化合物、キノン化合物、フラーレン、またはフラーレンの誘導体である。
【0048】
無機のn型半導体の例は、金属酸化物、金属窒化物、およびペロブスカイト酸化物である。
【0049】
金属酸化物の例は、Cd、Zn、In、Pb、Mo、W、Sb、Bi、Cu、Hg、Ti、Ag、Mn、Fe、V、Sn、Zr、Sr、Ga、Si、またはCrの酸化物である。TiO2が望ましい。
【0050】
金属窒化物の例は、GaNである。
【0051】
ペロブスカイト型酸化物の例は、SrTiO3またはCaTiO3である。
【0052】
電子輸送層3は、光電変換層4と接していてもよい。あるいは、電子輸送層3は光電変換層4と接していなくてもよい。電子輸送層3が光電変換層4と接している場合、酸化ニオブを含む電子輸送材料は、光電変換層4と接する電子輸送層3の表面に設けられていてもよい。
【0053】
電子輸送層3は、互いに異なる電子輸送材料から形成される複数の層から構成されていてもよい。電子輸送層3が複数の層から構成されている場合、光電変換層4と接する層が酸化ニオブを含む電子輸送材料を含み得る。
【0054】
図3に示されるように、太陽電池100では、基板1上に、第1電極2、電子輸送層3、光電変換層4、正孔輸送層5、および第2電極6がこの順に積層されている。太陽電池100は、基板1を有していなくてもよい。太陽電池100は、正孔輸送層5を有していなくてもよい。
【0055】
(基板1)
基板1は、第1電極2、光電変換層4、および第2電極6を保持する。基板1は、透明な材料から形成され得る。基板1の例は、ガラス基板またはプラスチック基板である。プラスチック基板の例は、プラスチックフィルムである。第1電極2が十分な強度を有している場合、第1電極2が、光電変換層4および第2電極6を保持するので、太陽電池100は、基板1を有しなくてもよい。
【0056】
(第1電極2および第2電極6)
第1電極2および第2電極6は、導電性を有する。第1電極2および第2電極6は、少なくとも一方が透光性を有する。透光性を有する電極を可視領域から近赤外領域の光が透過し得る。透光性を有する電極は、透明でありかつ導電性を有する材料から形成され得る。
【0057】
このような材料の例は、
(i) リチウム、マグネシウム、ニオブ、およびフッ素からなる群から選択される少なくとも1つをドープした酸化チタン、
(ii) 錫およびシリコンからなる群から選択される少なくとも1つをドープした酸化ガリウム、
(iii) シリコンおよび酸素からなる群から選択される少なくとも1つをドープした窒化ガリウム、
(iv) インジウム-錫複合酸化物、
(v) アンチモンおよびフッ素からなる群から選択される少なくとも1つをドープした酸化錫、
(vi) ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウムの少なくとも1種をドープした酸化亜鉛、または、
(vii) これらの複合物
である。
【0058】
透光性を有する電極は、透明でない材料を用いて、光が透過するパターンを設けて形成することができる。光が透過するパターンの例は、線状、波線状、格子状、または多数の微細な貫通孔が規則的または不規則に配列されたパンチングメタル状のパターンである。透光性を有する電極がこれらのパターンを有すると、電極材料が存在しない部分を光が透過することができる。透明でない材料の例は、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム、チタン、鉄、ニッケル、スズ、亜鉛、またはこれらのいずれかを含む合金である。導電性を有する炭素材料が透明でない材料として用いられてもよい。
【0059】
太陽電池100は、光電変換層4および第1電極2の間に電子輸送層3を具備しているため、第1電極2は、光電変換層4からの正孔に対するブロック性を有さなくてもよい。したがって、第1電極2の材料は、光電変換層4とオーミック接触可能な材料であってもよい。
【0060】
太陽電池100が正孔輸送層5を具備していない場合、第2電極6は、例えば光電変換層4からの電子に対するブロック性を有する材料で形成されている。この場合、第2電極6は、光電変換層4とオーミック接触しない。光電変換層4からの電子に対するブロック性とは、光電変換層4で発生した正孔のみを通過させ、電子を通過させない性質のことである。電子に対するブロック性を有する材料のフェルミエネルギーは、光電変換層4の伝導帯下端のエネルギー準位よりも低い。電子に対するブロック性を有する材料のフェルミエネルギーは、光電変換層4のフェルミエネルギー準位よりも低くてもよい。電子に対するブロック性を有する材料の例は、白金、金、またはグラフェンのような炭素材料である。
【0061】
太陽電池100は、光電変換層4および第2電極6の間に正孔輸送層5を有している場合、第2電極6は、光電変換層4からの電子に対するブロック性を有さなくてもよい。この場合、第2電極6は、光電変換層4とオーミック接触していてもよい。
【0062】
光電変換層4からの正孔に対するブロック性を有する材料は、透光性を有さないことがある。光電変換層4からの電子に対するブロック性を有する材料もまた、透光性を有さないことがある。そのため、これらの材料を用いて第1電極2または第2電極6が形成されているとき、第1電極2または第2電極6は、光が第1電極2または第2電極6を透過するような上記のパターンを有する。
【0063】
第1電極2および第2電極6のそれぞれの光の透過率は、50%以上であってもよく、80%以上であってもよい。電極を透過する光の波長は、光電変換層4の吸収波長に依存する。第1電極2および第2電極6のそれぞれの厚みは、例えば、1nm以上1000nm以下の範囲内にある。
【0064】
(正孔輸送層5)
正孔輸送層5は、有機物または無機半導体によって構成される。正孔輸送層5として用いられる代表的な有機物の例は、2,2′,7,7′-tetrakis-(N,N-di-p-methoxyphenylamine)9,9′-spirobifluorene(以下、「spiro-OMeTAD」という)、poly[bis(4-phenyl)(2,4,6-trimethylphenyl)amine](以下、「PTAA」という)、poly(3-hexylthiophene-2,5-diyl)(以下、「P3HT」という)、poly(3,4-ethylenedioxythiophene)(以下、「PEDOT」という)、または銅フタロシアニン(以下、「CuPC」という)である。
【0065】
無機半導体の例は、CuO、CuGaO、CuSCN、CuI、NiO、MoO、V、または酸化グラフェンのようなカーボン材料である。
【0066】
正孔輸送層5は、互いに異なる材料から形成される複数の層を含んでいてもよい。
【0067】
正孔輸送層5の厚みは、1nm以上1000nm以下であってもよく、10nm以上500nm以下であってもよく、または10nm以上50nm以下であってもよい。正孔輸送層5の厚みが1nm以上1000nm以下であれば、十分な正孔輸送性を発現できる。さらに、正孔輸送層5の厚みが1nm以上1000nm以下であれば、正孔輸送層5の抵抗が低いので、高効率に光が電気に変換される。
【0068】
正孔輸送層5は、支持電解質および溶媒を含有していてもよい。支持電解質および溶媒は、正孔輸送層5中の正孔を安定化させる。
【0069】
支持電解質の例は、アンモニウム塩またはアルカリ金属塩である。アンモニウム塩の例は、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、六フッ化リン酸テトラエチルアンモニウム、イミダゾリウム塩、またはピリジニウム塩である。アルカリ金属塩の例は、Lithium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide(以下、「LiTFSI」という)、LiPF、LiBF、過塩素酸リチウム、または四フッ化ホウ酸カリウムである。
【0070】
正孔輸送層5に含有される溶媒は、高いイオン伝導性を有していてもよい。当該溶媒は、水系溶媒または有機溶媒であり得る。溶質の安定化の観点から、有機溶媒であることが望ましい。有機溶媒の例は、tert-ブチルピリジン、ピリジン、またはn-メチルピロリドンのような複素環化合物である。
【0071】
正孔輸送層5に含有される溶媒は、イオン液体であってもよい。イオン液体は、単独でまたは他の溶媒と混合されて用いられ得る。イオン液体は、低い揮発性および高い難燃性の点で望ましい。
【0072】
イオン液体の例は、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラシアノボレートのようなイミダゾリウム化合物、ピリジン化合物、脂環式アミン化合物、脂肪族アミン化合物、またはアゾニウムアミン化合物である。
【0073】
(太陽電池の作用効果)
次に、太陽電池100の基本的な作用効果を説明する。太陽電池100に光が照射されると、光電変換層4が光を吸収し、励起された電子と、正孔とを光電変換層4の内部で発生させる。この励起された電子は、電子輸送層3に移動する。一方、光電変換層4で生じた正孔は、正孔輸送層5に移動する。電子輸送層3は第1電極2に接続され、かつ正孔輸送層5は第2電極6に接続されているので、負極として機能する第1電極2および正極として機能する第2電極6から電流が取り出される。
【0074】
(太陽電池100の製法)
太陽電池100は、例えば以下の方法によって作製することができる。
【0075】
まず、基板1の表面に第1電極2を、化学気相蒸着法(以下、「CVD法」という)またはスパッタ法により形成する。
【0076】
次に、第1電極2の上に、電子輸送層3が、スピンコート法のような塗布法、またはスパッタ法により形成される。
【0077】
スピンコート法では、Nb原料を溶媒に溶解させた溶液が準備される。Nb原料の例は、ニオブアルコキシド(例えば、ニオブエトキシド)、ハロゲン化ニオブ、シュウ酸ニオブアンモニウム、またはシュウ酸水素ニオブである。溶媒の例は、イソプロパノールまたはエタノールである。
【0078】
次いで、当該溶液が、第1電極2上にスピンコート法で塗布され、薄膜を形成する。薄膜は、空気中で摂氏30度以上摂氏1500度以下の温度で焼成される。
【0079】
電子輸送層3の上に光電変換層4が形成される。光電変換層4は、例えば、以下のように形成され得る。以下、一例として、(HC(NH221-y-z(C65CH2CH2NH3y(CH63zSnI3(ここで、0<y、0<z、および0<y+z<1、以下、「FA1-y-zPEAyGAzSnI3」という)で表されるペロブスカイト化合物を含有する光電変換層4を形成する方法が説明される。
【0080】
まず、有機溶媒に、SnI2、HC(NH22I(以下、「FAI」という)、C65CH2CH2NH3I(以下、「PEAI」という)、およびCH63I(以下、「GAI」という)が添加され、混合液を得る。有機溶媒の例は、ジメチルスルホキシド(以下、「DMSO」という)およびN,N-ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」という)の混合物(体積比=1:1)である。
【0081】
SnI2のモル濃度は、0.8mol/L以上2.0mol/L以下であってもよく、0.8mol/L以上1.5mol/L以下であってもよい。
【0082】
FAIのモル濃度は、0.8mol/L以上2.0mol/L以下であってもよく、0.8mol/L以上1.5mol/L以下であってもよい。
【0083】
PEAIのモル濃度は、0.1mol/L以上0.6mol/L以下であってもよく、0.3mol/L以上0.5mol/L以下であってもよい。
【0084】
GAIのモル濃度は、0.1mol/L以上0.6mol/L以下であってもよく、0.3mol/L以上0.5mol/L以下であってもよい。
【0085】
次に、混合液は、摂氏40度以上摂氏180度以下の温度に加熱される。このようにして、SnI2、FAI、PEAI、およびGAIが溶解している混合溶液を得る。続いて、混合溶液は室温で放置される。
【0086】
次に、混合溶液を電子輸送層3上にスピンコート法にて塗布し、塗布膜を形成する。次いで、塗布膜は、40℃以上100℃以下の温度で、15分以上1時間以下の間、加熱される。これにより、光電変換層4が形成される。スピンコート法にて混合溶液が塗布される場合には、スピンコート中に貧溶媒を滴下してもよい。貧溶媒の例は、トルエン、クロロベンゼン、またはジエチルエーテルである。
【0087】
混合溶液は、フッ化スズのようなクエンチャー物質を含んでいてもよい。クエンチャー物質の濃度は、0.05mol/L以上0.4mol/L以下であってもよい。クエンチャー物質により、光電変換層4内に欠陥が生成することが抑制される。光電変換層4内に欠陥が生成する原因は、例えば、Sn4+の量の増加によるSn空孔の増加である。
【0088】
光電変換層4の上に、正孔輸送層5が形成される。正孔輸送層5の形成方法の例は、塗布法または印刷法である。塗布法の例は、ドクターブレード法、バーコート法、スプレー法、ディップコーティング法、またはスピンコート法である。印刷法の例は、スクリーン印刷法である。複数の材料を混合して正孔輸送層5を得て、次いで正孔輸送層5を加圧または焼成してもよい。正孔輸送層5の材料が有機の低分子体または無機半導体である場合には、真空蒸着法によって正孔輸送層5を作製してもよい。
【0089】
最後に、正孔輸送層5の上に、第2電極6が形成される。このようにして、太陽電池100が得られる。第2電極6は、CVD法またはスパッタ法により形成され得る。
【0090】
<本開示の基礎となった知見>
本開示の基礎となった知見は以下のとおりである。
【0091】
スズ系ペロブスカイト化合物は、1.4eV付近のバンドギャップを有するので、スズ系ペロブスカイト化合物は、太陽電池の光電変換材料として好適である。従来のスズ系ペロブスカイト太陽電池は、高い理論光電変換効率を有するにもかかわらず、実際には、従来のスズ系ペロブスカイト太陽電池は、鉛系ペロブスカイト太陽電池よりも低い光電変換効率を有している。
【0092】
図1は、本発明者によって作製された鉛系ペロブスカイト太陽電池およびスズ系ペロブスカイト太陽電池の光電変換効率の実測値を示すグラフである。当該鉛系ペロブスカイト太陽電池およびスズ系ペロブスカイト太陽電池は、基板/第1電極/電子輸送層/多孔質層/光電変換層/正孔輸送層/第2電極、の積層構造を有していた。鉛系ペロブスカイト太陽電池およびスズ系ペロブスカイト太陽電池の詳細が、以下、説明される。
【0093】
(鉛系ペロブスカイト太陽電池)
基板:ガラス基板
第1電極:インジウム-錫複合酸化物(ITO)とアンチモンをドープした酸化錫(ATO)との混合物
電子輸送層:緻密TiO2(c-TiO2
多孔質層:メソポーラスTiO2(mp-TiO2
光電変換層:HC(NH22PbI3
正孔輸送層:spiro-OMeTAD(2,2′,7,7′-tetrakis-(N,N-di-p-methoxyphenylamine)9,9′-spirobifluorene)
第2電極:金
【0094】
(スズ系ペロブスカイト太陽電池)
基板:ガラス基板
第1電極:インジウム-錫複合酸化物(ITO)とアンチモンをドープした酸化錫(ATO)との混合物
電子輸送層:緻密TiO2(c-TiO2
多孔質層:メソポーラスTiO2(mp-TiO2
光電変換層:HC(NH22SnI3
正孔輸送層:PTAA(poly[bis(4-phenyl)(2,4,6-trimethylphenyl)amine])
第2電極:金
【0095】
図1より、鉛系ペロブスカイト太陽電池よりも、従来のスズ系ペロブスカイト太陽電池は低い開放電圧を有することがわかる。このことが、従来のスズ系ペロブスカイト太陽電池が、鉛系ペロブスカイト太陽電池よりも低い光電変換効率を有する要因だと考えられる。開放電圧が低い要因は、電子輸送材料およびスズ系ペロブスカイト化合物の伝導帯下端のエネルギー準位の間の差が大きく、電子輸送層および光電変換層の間の界面でキャリアが再結合することが考えられる。
【0096】
以下、「光電変換材料および電子輸送材料の伝導帯下端のエネルギー準位の間の差」が、「エネルギーオフセット」と定義される。すなわち、エネルギーオフセットは、「電子輸送材料の伝導帯下端のエネルギー準位」から「光電変換材料の伝導帯下端のエネルギー準位」を減算することによって得られる値である。本明細書における「伝導帯下端のエネルギー準位」の値は、真空準位を基準とした値である。
【0097】
スズ系ペロブスカイト化合物の伝導帯下端のエネルギー準位は、-3.5eVであり得る。一方、鉛系ペロブスカイト化合物の伝導帯下端のエネルギー準位は、-4.0eVであり得る。すなわち、スズ系ペロブスカイト化合物の伝導帯下端は、鉛系ペロブスカイト化合物の伝導帯下端よりも浅い位置に存在する。鉛系ペロブスカイト太陽電池で使用されている代表的な電子輸送材料は、TiO2である。TiO2の伝導帯下端のエネルギー準位は、-4.0eVである。それゆえ、スズ系ペロブスカイト太陽電池においてTiO2のような電子輸送材料から電子輸送層が構成された場合、電子輸送材料およびスズ系ペロブスカイト化合物の間の界面にエネルギー差(すなわち、エネルギーオフセット)が生じる。一例として、TiO2およびスズ系ペロブスカイト化合物の間の界面では、伝導帯下端のエネルギー準位の差が原因で-0.5eVのエネルギーオフセットが存在する。エネルギーオフセットが存在することにより、界面付近での電子の存在確率が増加する。その結果、界面でのキャリアの再結合確率が上がり、開放電圧のロスが生じる。すなわち、Pb系ペロブスカイト太陽電池と同じ電子輸送材料(すなわち、TiO)を用いてスズ系ペロブスカイト太陽電池が形成された場合、上記のように、開放電圧が低くなる。その結果、太陽電池の光電変換効率が低下する。
【0098】
図2は、(i)太陽電池の光電変換層および電子輸送層の間のエネルギーオフセットの変化、(ii)太陽電池の電圧、および(iii)太陽電池の電流密度の関係を示すグラフである。当該グラフは、デバイスシミュレーション(ソフト名:SCAPS)により算出された結果である。図2は、光電変換層および電子輸送層の間のエネルギーオフセットが、0.0eV、-0.1eV、-0.2eV、-0.3eV、-0.4eV、-0.5eV、-0.6eV、および-0.7eVである場合のシミュレーション結果を示す。図2から明らかなように、高効率(例えば、0.7ボルトの電圧で、27mA/cm2以上の電流密度)を得るためには、エネルギーオフセットの絶対値は0.3eV以下であることが必要とされる。このように、スズ系ペロブスカイト化合物に好適な新たな電子輸送材料が必要とされている。
【0099】
本発明者らは、スズ系ペロブスカイト太陽電池において、光電変換層および電子輸送層の間のエネルギーオフセットを低減させるために、以下の事項(i)および(ii)が充足されることが必要とされることを見出した。
(i) 電子輸送層は、酸化ニオブを含む電子輸送材料を含有すること。
(ii) 上記酸化ニオブがアモルファスであること。
【0100】
酸化ニオブは、スズ系ペロブスカイト化合物の電子親和力と近い電子親和力を有する。
【0101】
これらの知見に基づいて、本発明者らは、スズ系ペロブスカイト化合物を含有し、かつ低いエネルギーオフセットを有する太陽電池を提供する。
【0102】
(実施例)
以下、本開示が、以下の実施例を参照しながらより詳細に説明される。以下に説明されるように、実施例1~実施例6および比較例1~比較例7において、電子輸送層およびペロブスカイト化合物を含有する光電変換層を具備する太陽電池が作製された。さらに、各太陽電池の特性が評価された。実施例1~実施例6および比較例1~5および7による各太陽電池は、図3に示されるペロブスカイト太陽電池100と同じ構造を有するスズ系ペロブスカイト太陽電池であった。比較例6による太陽電池もまた、図3に示されるペロブスカイト太陽電池100と同じ構造を有していた。比較例6による太陽電池は、スズ系鉛ペロブスカイト太陽電池ではなく、系ペロブスカイト太陽電池であることに注意せよ。
【0103】
(実施例1)
インジウムによってドープされたSnO層を表面に有するガラス基板(日本板硝子製)が用意された。ガラス基板およびSnO層は、それぞれ、基板1および第1電極2として機能した。ガラス基板は、1ミリメートルの厚みを有していた。
【0104】
化学式Nb(OCH2CH35により表されるニオブエトキシド(シグマアルドリッチ製)を含有するエタノール溶液が調製された。このエタノール溶液に含有されるニオブエトキシドの濃度は、0.05mol/Lであった。このエタノール溶液(80マイクロリットル)は、第1電極2上にスピンコート法で塗布され、塗布膜を得た。この塗布膜は、摂氏120度の温度のホットプレート上で30分間仮焼成された後、摂氏700度の温度で30分間本焼成された。このようにして、アモルファスNb25膜から構成される電子輸送層3が形成された。電子輸送層3は、8ナノメートルの厚みを有していた。
【0105】
SnI2、SnF2、FAI、PEAI、およびGAI(いずれもシグマアルドリッチ製)を含有する溶液が調製された。当該溶液に含有されるSnI2、SnF2、FAI、PEAI、およびGAIの濃度は、それぞれ、1.5mol/L、0.15mol/L、1.5mol/L、0.41mol/L、および、0.47mol/Lであった。当該溶液の溶媒は、DMSO(すなわち、ジメチルスルホキシド)およびDMF(すなわち、N,N-ジメチルホルムアミド)の混合物(DMSO:DMF=7:3(体積比))であった。
【0106】
グローブボックス内で、電子輸送層3上にこの溶液(80マイクロリットル)がスピンコート法により塗布され、塗布膜を得た。塗布膜は、500ナノメートルの厚みを有していた。
【0107】
塗布膜は、ホットプレート上で摂氏120度の温度で30分間焼成され、光電変換層4を形成した。光電変換層4は、組成式FA0.63PEA0.17GA0.2SnI3により表されるペロブスカイト化合物を主として含有していた。組成式FA0.63PEA0.17GA0.2SnI3により表されるペロブスカイト化合物の伝導帯下端のエネルギー準位は、真空準位を基準として、-3.57eVであった。ペロブスカイト化合物の伝導帯下端のエネルギー準位は、後述される項目「エネルギーオフセットの測定」に記載された電子輸送材料の伝導帯下端のエネルギー準位の測定方法と同様の方法で測定された。
【0108】
グローブボックス内で、PTAA(すなわち、poly[bis(4-phenyl)(2,4,6-trimethylphenyl)amine]、シグマアルドリッチ製)を10mg/mLの濃度で含有するトルエン溶液(80マイクロリットル)が、光電変換層4上にスピンコート法により塗布され、正孔輸送層5を形成した。断面SEM分析装置(装置名:Helios G3、FEI製)を用いた観察の結果、正孔輸送層5は10ナノメートルの厚みを有していた。
【0109】
最後に、正孔輸送層5上に、100ナノメートルの厚みを有する金膜が蒸着され、第2電極6を形成した。このようにして、実施例1の太陽電池が得られた。
【0110】
[実施例2]
実施例2では、電子輸送層3の形成において、エタノール溶液に含有されるニオブエトキシドの濃度が0.3mol/Lであったことを除き、実施例1と同様の方法で実施例2の太陽電池が得られた。電子輸送層3は50ナノメートルの厚みを有していた。
【0111】
[実施例3]
実施例3では、電子輸送層3の形成において、エタノール溶液に含有されるニオブエトキシドの濃度が0.3mol/Lであったこと、および本焼成前にエタノール溶液の塗布が5回、繰り返されたことを除き、実施例1と同様の方法で実施例3の太陽電池が得られた。電子輸送層3は250ナノメートルの厚みを有していた。
【0112】
[実施例4]
実施例4では、電子輸送層3の形成において、エタノール溶液に含有されるニオブエトキシドの濃度が0.3mol/Lであったこと、および本焼成前にエタノール溶液の塗布が7回、繰り返されたことを除き、実施例1と同様の方法で実施例4の太陽電池が得られた。電子輸送層3は350ナノメートルの厚みを有していた。
【0113】
[実施例5]
実施例5では、電子輸送層3の形成において、エタノール溶液に含有されるニオブエトキシドの濃度が0.01mol/Lであったことを除き、実施例1と同様の方法で実施例5の太陽電池が得られた。電子輸送層3は2ナノメートルの厚みを有していた。
【0114】
[実施例6]
実施例6では、電子輸送層3の形成において、エタノール溶液に含有されるニオブエトキシドの濃度が0.3mol/Lであったこと、および本焼成前にエタノール溶液の塗布が11回、繰り返されたことを除き、実施例1と同様の方法で実施例6の太陽電池が得られた。電子輸送層3は550ナノメートルの厚みを有していた。
【0115】
[比較例1]
比較例1では、第1電極2上に酸化チタン膜(すなわち、TiO2膜)をスパッタ法により形成することによって電子輸送層3が形成されたことを除き、実施例1と同じ方法で比較例1の太陽電池が得られた。電子輸送層3は20ナノメートルの厚みを有していた。
【0116】
[比較例2]
比較例2では、ニオブエトキシドを含有するエタノール溶液に代えて、化学式Al(NO33により表される硝酸アルミニウム(富士フィルム和光純薬株式会社製)を0.3mol/Lの濃度で含有するエタノール溶液を用いて電子輸送層3が形成されたことを除き、実施例1と同じ方法によって比較例2の太陽電池が得られた。電子輸送層3は100ナノメートルの厚みを有していた。
【0117】
[比較例3]
比較例3では、ニオブエトキシドを含有するエタノール溶液に代えて、化学式ZrOCOCH3・2H2Oにより表されるジルコニウムアセテート2水和物(シグマアルドリッチ製)を0.3mol/Lの濃度で含有するエタノール溶液を用いて電子輸送層3が形成されたことを除き、実施例1と同じ方法によって比較例3の太陽電池が得られた。電子輸送層3は100ナノメートルの厚みを有していた。
【0118】
[比較例4]
比較例4では、ニオブエトキシドを含有するエタノール溶液に代えて、化学式ZnClにより表される塩化亜鉛(富士フィルム和光純薬株式会社製)を0.3mol/L濃度で含有するエタノール溶液を用いて電子輸送層3が形成されたことを除き、実施例1と同じ方法によって比較例4の太陽電池が得られた。電子輸送層3は50ナノメートルの厚みを有していた。
【0119】
[比較例5]
比較例5では、ニオブエトキシドを含有するエタノール溶液に代えて、化学式Ta(OCH2CH35により表されるタンタルエトキシド(シグマアルドリッチ製)を0.3mol/L濃度で含有するエタノール溶液を用いて電子輸送層3が形成されたことを除き、実施例1と同じ方法によって比較例5の太陽電池が得られた。電子輸送層3は50ナノメートルの厚みを有していた。
【0120】
[比較例6]
比較例6では、以下の3つの事項(i)~(iii)を除き、実施例1と同じ方法によって比較例6の太陽電池が得られた。
(i)電子輸送層3の形成において、エタノール溶液に含有されるニオブエトキシドの濃度が0.3mol/Lであったこと。
(ii)光電変換層4の形成においてSnIに代えてPbIが用いられたこと。
(iii)光電変換層4の形成においてSnFが添加されなかったこと。
電子輸送層3は50ナノメートルの厚みを有していた。
【0121】
[比較例7]
比較例7では、塗布膜を摂氏850度の温度で60分間本焼成することによって電子輸送層3が形成されたことを除き、実施例1と同じ方法によって比較例7の太陽電池が得られた。
比較例7では、電子輸送層3は250ナノメートルの厚みを有していた。
【0122】
[電子輸送層の厚みの測定]
実施例および比較例において、電子輸送層3の厚みは、表面形状測定装置(Dektak 150(ブルカー))を用いて以下のように測定された。
【0123】
各実施例および比較例において、基板1、第1電極2、および電子輸送層3から構成されるサンプル(mensurative sample)が用意された。サンプルは、光電変換層4、正孔輸送層5、および第2電極6を具備していなかった。すなわち、電子輸送層3の表面が露出していた。サンプルに含まれる電子輸送層3の厚みが、表面形状測定装置を用いて測定された。
【0124】
(酸化ニオブがアモルファスおよび結晶性であるかどうかの判定)
実施例3および比較例7におけるサンプルがX線回析装置(株式会社リガク製、装置名:SmartLab)を用いてX線回析に供された。X線回析では、0.15405ナノメートルの波長を有するCuKα線が用いられた。
【0125】
図4は、実施例3および比較例7におけるサンプルのX線回析パターンを示すグラフである。図4に示されるように、比較例7におけるサンプルは、およそ14°、28°、および32°の回析角2θにおいて3つのピークを有する。一方、実施例3におけるサンプルは、ピークを有しない。X線回析パターンの技術分野においてよく知られているように、ピークはサンプルが結晶性(より詳細にはサンプルの結晶構造の配向)を有することを意味している。実施例3におけるサンプルはピークを有しないので、実施例3におけるサンプルはアモルファスであると判定される。一方、比較例7におけるサンプルはピークを有するので、比較例7におけるサンプルは結晶性であると判定される。
【0126】
実施例3および比較例7のいずれにおいても、電子輸送層3が250ナノメートルの厚みを有していたことに留意せよ。
【0127】
[組成の測定]
各実施例および比較例において、サンプルに含まれる電子輸送層3に含有される電子輸送材料の組成は、X線光電子分光測定装置(アルバック・ファイ株式会社製、商品名:PHI 5000 VersaProbe)を用いて特定された。
【0128】
[エネルギーオフセットの測定]
各実施例および比較例において、サンプルに含まれる電子輸送層3に含まれる電子輸送材料の伝導帯下端のエネルギーオフセットは、紫外電子分光測定法および透過率測定法により測定された。太陽電池に含まれる光電変換層4に含まれる光電変換材料の伝導帯下端のエネルギーオフセットは、紫外電子分光測定法および透過率測定法により測定された。
【0129】
各サンプルは、紫外電子分光測定装置(アルバック・ファイ株式会社製、商品名:PHI 5000 VersaProbe)を用いる紫外電子分光測定に供され、各電子輸送材料の価電子帯上端のエネルギー準位の値が得られた。
【0130】
各サンプルは、透過率測定装置(株式会社島津製作所製、商品名:SlidSpec-3700))を用いる透過率測定に供され、次いで透過率測定の結果から各電子輸送材料のバンドギャップの値が得られた。
【0131】
このようにして得られた価電子帯上端のエネルギー準位およびバンドギャップの値に基づいて、電子輸送材料の伝導帯下端のエネルギー準位が算出された。
【0132】
算出された電子輸送材料の伝導帯下端のエネルギー準位から、光電変換材料として機能するFA0.63PEA0.17GA0.2SnI3ペロブスカイト化合物の伝導帯下端のエネルギー準位に等しい-3.57eVを減算することにより、エネルギーオフセットが算出された。
【0133】
[光電変換効率の評価]
実施例および比較例の各太陽電池に、ソーラーシミュレータを用いて100mW/cm2の照度を有する擬似太陽光が照射され、各太陽電池の光電変換効率が測定された。
【0134】
表1は、実施例および比較例において、電子輸送層に含まれる電子輸送材料、光電変換層に含まれる光電変換材料、および光電変換層および電子輸送層の間のエネルギーオフセットを示す。
【0135】
実施例1を比較例1、4、6、および7と比較すると明らかなように、FA0.63PEA0.17GA0.2SnI3スズ系ペロブスカイト化合物およびNb25の間のエネルギーオフセットは、FA0.63PEA0.17GA0.2SnI3スズ系ペロブスカイト化合物および他のいずれの酸化物の間のエネルギーオフセットよりも小さい。
【0136】
一方、実施例1を比較例6と比較すると明らかなように、FA0.63PEA0.17GA0.2PbI3鉛系ペロブスカイト化合物の伝導帯下端のエネルギー準位は、スズ系ペロブスカイト化合物の伝導帯下端のエネルギー準位よりも深いが、FA0.63PEA0.17GA0.2PbI3鉛系ペロブスカイト化合物およびNb25の間のエネルギーオフセットは、FA0.63PEA0.17GA0.2SnI3スズ系ペロブスカイト化合物およびNb25の間のエネルギーオフセットよりも大きい。
【0137】
表2は、各実施例および比較例の太陽電池において、電子輸送材料、光電変換材料、電子輸送層の厚み、電子輸送層におけるNb/O比(モル比)、および光電変換効率を示す。
【0138】
実施例1を比較例1~比較例5と比較すると明らかなように、電子輸送材料がNb25である場合に、太陽電池は高い光電変換効率を有する。これは、Nb25およびスズ系ペロブスカイト化合物の間のエネルギーオフセットが小さいためである。一方、電子輸送材料がNb以外の材料である場合には、太陽電池は低い光電変換効率を有する。
【0139】
実施例1を比較例6と比較すると明らかなように、光電変換材料がPb系ペロブスカイト化合物である場合には、たとえNbが電子輸送材料として用いられたとしても、太陽電池は低い光電変換効率を有する。これは、Nb25および鉛系ペロブスカイト化合物の間のエネルギーオフセットが大きいためである。
【0140】
比較例5に見られるように、エネルギーオフセットが+0.3eVという小さい値であるにもかかわらず、電子輸送材料としてTa25が用いられる場合には、光電変換効率が低い。その原因は、Ta25の低い導電率が原因で電子輸送層3が機能しないためと考えられる。
【0141】
【表1】
【0142】
【表2】
【0143】
表1および表2から明らかなように、以下の要件(i)~(iii)が充足される太陽電池は、1%以上の光電変換効率を有する。
要件(i) 光電変換材料は、鉛系ペロブスカイト化合物ではなく、スズ系ペロブスカイト化合物であること(実施例1~実施例6を比較例6と比較せよ)
要件(ii) 電子輸送層3は、酸化ニオブを含む電子輸送材料を含有すること(実施例1~実施例6を比較例1~比較例5と比較せよ)、
要件(iii) 上記酸化ニオブがアモルファスであること(実施例1~実施例6を比較例7と比較せよ)
さらに、表1および表2から明らかなように、上記の要件(i)~(iii)だけで3なく、以下の要件(iv)もがさらに充足される太陽電池は、2%以上の光電変換効率を有する。
要件(iv) 電子輸送層3は、8ナノメートル以上350ナノメートル以下の厚みを有すること(実施例1~実施例4を実施例5~実施例6と比較せよ)。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本開示の太陽電池は、高い光電変換効率を実現できる。さらに、本開示の太陽電池は、環境面でも優れているため、本開示の太陽電池は、例えば、屋根、壁面、または車に設けられる。
【符号の説明】
【0145】
1 基板
2 第1電極
3 電子輸送層
4 光電変換層
5 正孔輸送層
6 第2電極
100 太陽電池
図1
図2
図3
図4