(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】山岳トンネル工法における鋼製支保工の密着構造及び密着方法
(51)【国際特許分類】
E21D 11/18 20060101AFI20230929BHJP
E21D 11/00 20060101ALI20230929BHJP
【FI】
E21D11/18
E21D11/00 A
(21)【出願番号】P 2020140446
(22)【出願日】2020-08-21
【審査請求日】2022-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(73)【特許権者】
【識別番号】520321100
【氏名又は名称】株式会社エムビーシー
(73)【特許権者】
【識別番号】000204620
【氏名又は名称】大嘉産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島津 裕介
(72)【発明者】
【氏名】三浦 良平
(72)【発明者】
【氏名】黒木 孝洋
(72)【発明者】
【氏名】浜田 元
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 亨
(72)【発明者】
【氏名】山口 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 敦史
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-131800(JP,A)
【文献】特開2020-084667(JP,A)
【文献】特開平09-195685(JP,A)
【文献】特開2005-299270(JP,A)
【文献】特開2007-205055(JP,A)
【文献】実開平06-082199(JP,U)
【文献】特開2001-295598(JP,A)
【文献】特開昭60-126499(JP,A)
【文献】特開2001-012198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/18
E21D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
山岳トンネル工法において、上部にアーチ形状部分を含む断面形状を有するトンネルの掘削内壁面と、該掘削内壁面に沿って設置される鋼製支保工の外周面との間に設置される充填袋体を介して、前記掘削内壁面における他の領域よりも余堀量が大きくなった部分で前記鋼製支保工の外周面と前記掘削内壁面とを密着させる鋼製支保工の密着構造であって、
前記鋼製支保工の外周面に周方向に延設して取り付けられた前記充填袋体の外側部分における、前記余堀量が大きくなった部分と対応する位置に、二重膨張部形成用シート部材が一体として設けられており、
該二重膨張部形成用シート部材は、筒状に形成された筒状袋材を取り付けることによって、前記充填袋体の外側部分に一体として設けられていると共に、該二重膨張部形成用シート部材が、クリップ留めを介して、又は伸縮性を有する結束帯を介して、或いは面状ファスナーを介して、前記充填袋体の外側部分に位置調整可能に取り付けられており、
前記充填袋体に流動性を有する硬化性充填材を供給することで前記充填袋体を膨張させると共に、前記二重膨張部形成用シート部材の内側に硬化性充填材を供給することで前記二重膨張部形成用シート部材を膨張させて、これらに供給された硬化性充填材が硬化したことにより、膨張した前記二重膨張部形成用シート部材の外側部分が、前記余堀量が大きくなった部分のトンネルの掘削内壁面に密着して、前記余堀量が大きくなった部分において、前記掘削内壁面からの荷重を前記鋼製支保工に支持させている山岳トンネル工法における鋼製支保工の密着構造。
【請求項2】
前記充填袋体は、面状ファスナーを形成する外側ファスナー面材の外側に一体として取り付けられていると共に、前記鋼製支保工の外周面には、面状ファスナーを形成する内側ファスナー面材が一体として取り付けられており、前記内側ファスナー面材に前記外側ファスナー面材が係合されることで、前記充填袋体が、前記鋼製支保工の周方向における所定の位置に取り付けられている請求項1記載の山岳トンネル工法における鋼製支保工の密着構造。
【請求項3】
前記二重膨張部形成用シート部材は、縦長帯状の平面形状を備えており、縦長方向を前記充填袋体の延設方向に沿わせて、前記充填袋体の外側部分に一体として設けられている
請求項1又は2記載の山岳トンネル工法における鋼製支保工の密着構造。
【請求項4】
前記二重膨張部形成用シート部材は、縦長帯状の平面形状を備えており、縦長方向を前記充填袋体の延設方向と交差する方向に沿わせて、前記充填袋体の外側部分に一体として設けられている
請求項1又は2記載の山岳トンネル工法における鋼製支保工の密着構造。
【請求項5】
前記二重膨張部形成用シート部材が、前記充填袋体の延設方向に沿わせて、複数連設して取り付けられており、これらの複数の前記二重膨張部形成用シート部材から選択された、前記余堀量が大きくなった部分と対応する部分に配置された前記二重膨張部形成用シート部材の内側に、硬化性充填材が供給されていて、これの外側部分が、前記余堀量が大きくなった部分のトンネルの掘削内壁面に密着している
請求項1~4のいずれか1項記載の山岳トンネル工法における鋼製支保工の密着構造。
【請求項6】
山岳トンネル工法において、上部にアーチ形状部分を含む断面形状を有するトンネルの掘削内壁面と、該掘削内壁面に沿って設置される鋼製支保工の外周面との間に設置される充填袋体を介して、前記掘削内壁面における他の領域よりも余堀量が大きくなった部分で前記鋼製支保工の外周面と前記掘削内壁面とを密着させる鋼製支保工の密着方法であって、
トンネルの掘削内壁面に沿って設置される前記鋼製支保工の外周面に、周方向に延設させて前記充填袋体を取り付けると共に、取り付けられた前記充填袋体の外側部分における、前記余堀量が大きくなった部分と対応する位置に、二重膨張部形成用シート部材を一体として設けておき、
前記鋼製支保工がトンネルの掘削内壁面に沿って設置された状態で、前記充填袋体に流動性を有する硬化性充填材を供給することで前記充填袋体を膨張させると共に、前記二重膨張部形成用シート部材の内側に硬化性充填材を供給することで前記二重膨張部形成用シート部材を膨張させ、これらに供給された硬化性充填材を硬化させることにより、膨張した前記二重膨張部形成用シート部材の外側部分を、前記余堀量が大きくなった部分のトンネルの掘削内壁面に密着させて、前記余堀量が大きくなった部分において、前記掘削内壁面からの荷重を前記鋼製支保工に支持させ
るようになっており、
且つ前記二重膨張部形成用シート部材が、前記充填袋体の外側部分に位置調整可能に取り付けられており、前記鋼製支保工をトンネルの掘削内壁面に沿って設置した後に、前記充填袋体の外側部分における前記二重膨張部形成用シート部材の位置を調整して、内側に硬化性充填材を供給することにより、これの外側部分を、前記余堀量が大きくなった部分のトンネルの掘削内壁面に密着させる山岳トンネル工法における鋼製支保工の密着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山岳トンネル工法における鋼製支保工の密着構造及び密着方法に関し、特に、トンネルの掘削内壁面と、鋼製支保工の外周面との間に設置される充填袋体を介して、余堀量が大きくなった部分において、鋼製支保工の外周面と掘削内壁面とを密着させる山岳トンネル工法における鋼製支保工の密着構造及び密着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネル工法では、例えばトンネル覆工型枠(セントル)を用いて二次覆工を施工するのに先立って、吹付けコンクリートや吹付モルタルによる一次覆工が、トンネルの掘削内壁面に施工されるようになっており、一次覆工は、掘削直後のトンネルの掘削内壁面からの荷重を、トンネルの軸方向に間隔をおいて周方向に延設させて設置された複数本の鋼製支保工により支持させた状態で、これらの鋼製支保工の間隔部分に吹付けコンクリートや吹付モルタルを所定の厚さで吹き付けることによって形成されることになる。
【0003】
このため、鋼製支保工は、トンネルの掘削内壁面に沿って周方向に延設させた状態で、当該掘削内壁面に強固に密着させて、効率良く掘削内壁面からの荷重を支持できるようにすることが望ましことから、特にトンネルの上部のアーチ形状部分においては、建て込まれた鋼製支保工の外周面と掘削内壁面との間に生じた間隔部分に、モルタル等の硬化性充填材を注入充填して硬化させることにより、これらを密着させるようにしている。
【0004】
また、建て込まれた鋼製支保工の外周面と掘削内壁面とを密着させる工法として、好ましくはコンタクトバック工法が知られており、このコンタクトバック工法では、建て込まれた鋼製支保工の外周面と掘削内壁面との間の間隔部分に、モルタル等の硬化性充填材が注入充填される例えば布製の充填袋体を配設し、配設した充填袋体に、好ましくはノンブリージング性を備える速硬性のモルタルを充填することにより膨張させて、膨張した充填袋体を、鋼製支保工の外周面及び掘削内壁面の双方に密着させることで、これらの一体化を図るようになっている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-12198号公報
【文献】特開2004-27495号公報
【文献】特開2001-295598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、掘削されたトンネルの掘削内壁面は、吹付けコンクリートや吹付モルタルによる一次覆工が所定の十分な厚さを保持できるように、設計上の掘削断面に僅かな余堀部を加えた大きさで形成されることになっているが、余堀部は必ずしも精度良く掘削されないことから、掘削内壁面に凹凸を生じて、他の領域よりも余堀量が大きく、相当程度の深さとなった凹部が生じている場合がある。このような相当程度の深さとなった凹部が生じた部分では、建て込まれた鋼製支保工の外周面と掘削内壁面との間には、他の領域よりも大きな間隔部分が残置されるため、このような大きな間隔部分においては、鋼製支保工の外周面と掘削内壁面との間の間隔部分に配設された充填袋体に、硬化性充填材を注入充填して膨張させるだけでは、充填袋体を掘削内壁面に届かせて十分に密着させることが困難になる。
【0007】
このようなことから、例えば特許文献3には、鋼製支保工の外周面と掘削内壁面との間の間隔が大きくなっている部分に、モルタル等の硬化性充填材が圧入される繊維製袋体を、2重に重ねて挿入配置することで、膨張した繊維製袋体を、トンネルの掘削内壁面に密着させるようにしているが、特許文献3の方法によれば、鋼製支保工を建て込んだ後に、鋼製支保工の外周面と掘削内壁面との間の間隔が大きくなった部分に、繊維製袋体を、作業員の手作業よって2重に重ねて挿入しながら設置する作業は行い難く、多くの手間を要することになるばかりか、2重に重ねた繊維製袋体を膨張させる際に、これらの繊維製袋体を安定した状態でトンネルの掘削内壁面に密着させることは困難である。
【0008】
本発明は、多くの手間を要することなく、トンネルの掘削内壁面における他の領域よりも余堀量が大きくなった部分において、充填袋体を介して、鋼製支保工の外周面と掘削内壁面とを簡易に且つ安定した状態で密着させることのできる山岳トンネル工法における鋼製支保工の密着構造及び密着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、山岳トンネル工法において、上部にアーチ形状部分を含む断面形状を有するトンネルの掘削内壁面と、該掘削内壁面に沿って設置される鋼製支保工の外周面との間に設置される充填袋体を介して、前記掘削内壁面における他の領域よりも余堀量が大きくなった部分で前記鋼製支保工の外周面と前記掘削内壁面とを密着させる鋼製支保工の密着構造であって、前記鋼製支保工の外周面に周方向に延設して取り付けられた前記充填袋体の外側部分における、前記余堀量が大きくなった部分と対応する位置に、二重膨張部形成用シート部材が一体として設けられており、該二重膨張部形成用シート部材は、筒状に形成された筒状袋材を取り付けることによって、前記充填袋体の外側部分に一体として設けられていると共に、該二重膨張部形成用シート部材が、クリップ留めを介して、又は伸縮性を有する結束帯を介して、或いは面状ファスナーを介して、前記充填袋体の外側部分に位置調整可能に取り付けられており、前記充填袋体に流動性を有する硬化性充填材を供給することで前記充填袋体を膨張させると共に、前記二重膨張部形成用シート部材の内側に硬化性充填材を供給することで前記二重膨張部形成用シート部材を膨張させて、これらに供給された硬化性充填材が硬化したことにより、膨張した前記二重膨張部形成用シート部材の外側部分が、前記余堀量が大きくなった部分のトンネルの掘削内壁面に密着して、前記余堀量が大きくなった部分において、前記掘削内壁面からの荷重を前記鋼製支保工に支持させている山岳トンネル工法における鋼製支保工の密着構造を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0010】
そして、本発明の山岳トンネル工法における鋼製支保工の密着構造は、前記充填袋体が、面状ファスナーを形成する外側ファスナー面材の外側に一体として取り付けられていると共に、前記鋼製支保工の外周面には、面状ファスナーを形成する内側ファスナー面材が一体として取り付けられており、前記内側ファスナー面材に前記外側ファスナー面材が係合されることで、前記充填袋体が、前記鋼製支保工の周方向における所定の位置に取り付けられていることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明の山岳トンネル工法における鋼製支保工の密着構造は、前記二重膨張部形成用シート部材が、縦長帯状の平面形状を備えており、縦長方向を前記充填袋体の延設方向に沿わせて、前記充填袋体の外側部分に一体として設けられていることが好ましい。
【0013】
さらにまた、本発明の山岳トンネル工法における鋼製支保工の密着構造は、前記二重膨張部形成用シート部材は、縦長帯状の平面形状を備えており、縦長方向を前記充填袋体の延設方向と交差する方向に沿わせて、前記充填袋体の外側部分に一体として設けられていることが好ましい。
【0014】
また、本発明の山岳トンネル工法における鋼製支保工の密着構造は、前記二重膨張部形成用シート部材が、前記充填袋体の延設方向に沿わせて、複数連設して取り付けられており、これらの複数の前記二重膨張部形成用シート部材から選択された、前記余堀量が大きくなった部分と対応する部分に配置された前記二重膨張部形成用シート部材の内側に、硬化性充填材が供給されていて、これの外側部分が、前記余堀量が大きくなった部分のトンネルの掘削内壁面に密着していることが好ましい。
【0018】
また、本発明は、山岳トンネル工法において、上部にアーチ形状部分を含む断面形状を有するトンネルの掘削内壁面と、該掘削内壁面に沿って設置される鋼製支保工の外周面との間に設置される充填袋体を介して、前記掘削内壁面における他の領域よりも余堀量が大きくなった部分で前記鋼製支保工の外周面と前記掘削内壁面とを密着させる鋼製支保工の密着方法であって、トンネルの掘削内壁面に沿って設置される前記鋼製支保工の外周面に、周方向に延設させて前記充填袋体を取り付けると共に、取り付けられた前記充填袋体の外側部分における、前記余堀量が大きくなった部分と対応する位置に、二重膨張部形成用シート部材を一体として設けておき、前記鋼製支保工がトンネルの掘削内壁面に沿って設置された状態で、前記充填袋体に流動性を有する硬化性充填材を供給することで前記充填袋体を膨張させると共に、前記二重膨張部形成用シート部材の内側に硬化性充填材を供給することで前記二重膨張部形成用シート部材を膨張させ、これらに供給された硬化性充填材を硬化させることにより、膨張した前記二重膨張部形成用シート部材の外側部分を、前記余堀量が大きくなった部分のトンネルの掘削内壁面に密着させて、前記余堀量が大きくなった部分において、前記掘削内壁面からの荷重を前記鋼製支保工に支持させるようになっており、且つ前記二重膨張部形成用シート部材が、前記充填袋体の外側部分に位置調整可能に取り付けられており、前記鋼製支保工をトンネルの掘削内壁面に沿って設置した後に、前記充填袋体の外側部分における前記二重膨張部形成用シート部材の位置を調整して、内側に硬化性充填材を供給することにより、これの外側部分を、前記余堀量が大きくなった部分のトンネルの掘削内壁面に密着させる山岳トンネル工法における鋼製支保工の密着方法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の山岳トンネル工法における鋼製支保工の密着構造及び密着方法によれば、多くの手間を要することなく、トンネルの掘削内壁面における他の領域よりも余堀量が大きくなった部分において、充填袋体を介して、鋼製支保工の外周面と掘削内壁面とを簡易に且つ安定した状態で密着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の山岳トンネル工法における鋼製支保工の密着方法を説明する山岳トンネルの横断面図である。
【
図3】
図3(a)、(b)は、充填袋体を鋼製支保工に取り付ける状況を説明する拡大断面図である。
【
図4】
図4は、注入口部材が取り付けられた充填袋体及び二重膨張部形成用シート部材を説明する斜視図である。
【
図5】
図5(a)は、硬化性充填材が充填される前の状態の充填袋体の平面図、
図5(b)は、
図5(a)のC-Cに沿った断面図である。
【
図6】鋼製支保工の密着方法の他の形態を説明する断面図である。
【
図7】二重膨張部形成用シート部材の充填袋体への取付け方法を例示する、(a)は平面図、(b)及は(a)のD-Dに沿った断面図である。
【
図8】二重膨張部形成用シート部材の充填袋体への取付け方法を例示する、(a)は平面図、(b)及は(a)のE-Eに沿った断面図である。
【
図9】二重膨張部形成用シート部材の充填袋体への取付け方法を例示する、(a)は平面図、(b)及は(a)のF-Fに沿った断面図である。
【
図10】二重膨張部形成用シート部材の充填袋体への取付け方法を例示する断面図である。
【
図11】二重膨張部形成用シート部材を充填袋体の延設方向に沿わせて複数連設させた状態を説明する略示平面図である。
【
図12】二重膨張部形成用シート部材を、縦長方向を充填袋体の延設方向と交差する方向沿わせて取り付けた状態を説明する略示平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の好ましい一実施形態に係る山岳トンネル工法における鋼製支保工の密着構造10及び密着方法は、
図1に示すように、例えばNATM工法等の公知の山岳トンネル工法によって掘削された、上部にアーチ形状部分を含む断面形状を有するトンネルとして、好ましくは馬蹄形の断面形状を有するトンネル30における、天頂部31を中心とした上部の例えば周方向120°の領域Rにおいて、鋼製支保工20の外周面をトンネル30の掘削内壁面32に密着させて、これらの一体化を図ることができるようにすると共に、特に、掘削内壁面32における他の領域よりも余堀量が大きくなった部分33において、鋼製支保工20の外周面と掘削内壁面32とを密着できるようにするための構造及び方法として採用されたものである。本実施形態の鋼製支保工の密着構造10及び密着方法は、多くの手間を要することなく、トンネル30の掘削内壁面32における他の領域よりも余堀量が大きくなった部分33において、充填袋体11を介して、鋼製支保工20の外周面と掘削内壁面32とを、簡易に且つ安定した状態で密着できようにする機能を備えている。
【0024】
そして、本実施形態の鋼製支保工の密着構造10は、山岳トンネル工法において、上部にアーチ形状部分を含む断面形状を有するトンネル30の掘削内壁面32と、掘削内壁面32に沿って設置される鋼製支保工20の外周面との間に設置される充填袋体11を介して、掘削内壁面32における他の領域よりも余堀量が大きくなった部分33で鋼製支保工20の外周面と掘削内壁面32とを密着させる密着構造であって、
図2(a)、(b)にも示すように、鋼製支保工20の外周面に周方向に延設して取り付けられた充填袋体11の外側部分における、余堀量が大きくなった部分33と対応する位置に、二重膨張部形成用シート部材18が一体として設けられており、充填袋体11に流動性を有する硬化性充填材15を供給することで充填袋体11を膨張させると共に、二重膨張部形成用シート部材18の内側に硬化性充填材15を供給することで二重膨張部形成用シート部材18を膨張させて、これらに供給された硬化性充填材15が硬化したことにより、膨張した二重膨張部形成用シート部材18の外側部分が、余堀量が大きくなった部分33のトンネル30の掘削内壁面32に密着して、余堀量が大きくなった部分33において、掘削内壁面32からの荷重を鋼製支保工20に支持させている。
【0025】
また、本実施形態では、充填袋体11は、面状ファスナー12を形成する外側ファスナー面材14の外側に一体として取り付けられていると共に、鋼製支保工20の外周面には、面状ファスナー12を形成する内側ファスナー面材13が一体として取り付けられており、内側ファスナー面材13に外側ファスナー面材14が係合されることで、充填袋体11が、鋼製支保工20の周方向Yにおける所定の位置に取り付けられるようになっている。
【0026】
さらに、本実施形態では、充填袋体11は、各々の鋼製支保工20において、好ましく鋼製支保工20の周方向Yに連設して、複数体取り付けられている。本実施形態では、好ましくは馬蹄形の断面形状を有するトンネル30における、天頂部31を中心とした周方向Yの例えば上部120°の領域Rにおいて、鋼製支保工20の周方向Yに連設して、4体の充填袋体11が取り付けられている。
【0027】
さらにまた、本実施形態では、充填袋体11は、好ましくは外側ファスナー面材14とは別体として、筒状に形成した筒状袋材16を、外側ファスナー面材14に重ね合わせて接合することによって、外側ファスナー面材14に一体として取り付けられている。
【0028】
本実施形態では、トンネル30の掘削内壁面32に沿って設置される鋼製支保工20は、例えばH型鋼を、トンネル30の掘削内壁面32に沿った形状となるように曲折加工することによって形成することができる。鋼製支保工20は、トンネル30の切羽面に近接する領域において、トンネル30の掘削作業の進行に伴って、公知の施工方法によりトンネル30の掘削内壁面32に沿うように配設されて、トンネル30の掘進方向X(
図2参照)に、例えば100cm程度の間隔をおいて、外周面となる外側フランジ20aを、トンネル30の掘削内壁面32に対向させた状態で、順次設置されることになる。設置された各々の鋼製支保工20における、外側フランジ20aによる外周面と、トンネル30の掘削内壁面32との間には、間隔が生じているので、これらの間隔部分を間詰めするようにして、充填袋体11が設けられることになる。
【0029】
また、本実施形態では、鋼製支保工20の外側フランジ20aによる外周面に充填袋体11を取り付けるための面状ファスナー12は、例えばマジックテープ(登録商標)として知られる公知のメカニカルファスナーを用いることができる。面状ファスナー12は、基材シート13aに多数のフックを立設させた状態で固着した雄側ファスナー材13と、基材シート14aに多数のループを立設させた状態で固着した雌側ファスナー材14とからなり、例えば雄側ファスナー材を内側ファスナー面材13として、例えば基材シート13aを接着剤を介して鋼製支保工20に固着することによって、鋼製支保工20の外側フランジ20aによる外周面を覆うようにして、当該外周面20aに一体として強固に固着して取り付けることができる。また、例えば雌側ファスナー材を外側ファスナー面材14として、これの外周面に、後述する充填袋体11を、例えば接着剤を介して一体として強固に固着して取り付けることができる。雌側ファスナー材14は、多数のループ体を立設させた不織布等からなるものであっても良い。内側ファスナー面材13は、鋼製支保工20の外側フランジ20aによる外周面における、トンネル30の掘進方向Xの幅の全体を覆って固着されている必要は必ずしも無く、例えば掘進方向Xの幅の半分程度を覆って固着されている場合でも、外側ファスナー面材14を係着させることで、後述する充填袋体11を、鋼製支保工20の外周面20aに安定した状態で取り付けることが可能になる。
【0030】
本実施形態では、鋼製支保工の密着構造10を構成する充填袋体11は、例えば外側ファスナー面材14とは別体として筒状に形成された筒状袋材16からなり、筒状袋材16は、好ましくは伸縮性を備える布地を用いて形成されている。また筒状袋材16は、これの底面部分16aを、外側ファスナー面材14の基材シート14aに重ね合わせて、例えば接着剤を介して接合することによって、外側ファスナー面材14に一体として強固に固着して取り付けることができる。筒状袋材16の底面部分16aが接合された外側ファスナー面材14もまた、鋼製支保工20の外側フランジ20aによる外周面における、トンネル30の掘進方向Xの幅の全体を覆うものである必要は必ずしも無く、例えば半分程度の幅の部分を覆うものてある場合でも、内側ファスナー面材13に係着されることで、当該外側ファスナー面材14と一体となった充填袋体11を、鋼製支保工20の外周面20aに安定した状態で取り付けることが可能になる。
【0031】
充填袋体11となる筒状袋材16は、好ましくは止水性を備え、フレキシブルで充填性に優れると共に、作業性に優れた布地として、例えばテトロン糸等のポリエステル糸を用いた布地による、布製袋として形成することができる。筒状袋材16を、ポリエステル糸を用いた布地による布製袋とすることにより、強度が大きく、軽量で、且つ屈強性に優れた筒状袋材16による充填袋体11を形成することが可能になる。
【0032】
また、筒状袋材16は、
図5(a)に示すように、鋼製支保工20の外側フランジ20aの長さ方向に沿った縦長方向の長さが例えば2000~2500mm、横幅が例えば190mmとなっている、縦長帯状の平面形状を備えるように形成することができる。筒状袋材16は、好ましくは
図5(b)に示すように、外側ファスナー面材14の基材シート14aに重ね合わせて接合される底面部分16aのシート材と、これよりも横幅が大きな上方の伸縮部分16bのシート材とが、これらのシート材の側縁部及び端縁部を互いに縫製することによって接合されて、これらの内側に、硬化性充填材15を供給して充填するための空間を保持している。
【0033】
さらに、本実施形態では、筒状袋材16の外側部分には、当該筒状袋材16が鋼製支保工20の外側フランジ20aによる外周面の周方向Yにおける所定の位置に取り付けられた際に、掘削内壁面32の余堀量が大きくなった部分33と対応する位置に、二重膨張部形成用シート部材18が、これの周縁部分を例えば縫製により接合することによって取り付けられている。二重膨張部形成用シート部材18は、好ましくは筒状袋材16と同様に、止水性を備え、フレキシブルで充填性に優れると共に、作業性に優れた布地として、例えばテトロン糸等のポリエステル糸を用いた布地によるシート部材として形成することができる。二重膨張部形成用シート部材18は、余堀量が大きくなった部分33の形状や大きさに対応させた、矩形状、円形状、楕円形状等の平面形状を備えるように形成されると共に、周縁部分を、当該二重膨張部形成用シート部材18の縦幅や横幅よりも狭い間隔をおいて筒状袋材16の外周部分に接合することによって、筒状袋材16の外周面との間に、硬化性充填材を供給して充填することが可能な、空間が保持されるようになっている(
図5(b)参照)。本実施形態では、二重膨張部形成用シート部材18は、縦長帯状の平面形状を備えており、縦長方向を充填袋体11の延設方向に沿わせて、充填袋体11の外側部分に一体として設けられている。
【0034】
ここで、本実施形態では、充填袋体11となる筒状袋材16や二重膨張部形成用シート部材18は、伸縮性を備える布地として、充填袋体11が取り付けられる鋼製支保工20の外周面20aに沿った、周方向Yの伸縮性が小さく、周方向Yと垂直な方向(掘進方向X)の伸縮性が大きくなっている布地を用いて形成されていることが好ましい。これによって、筒状袋材16による充填袋体11や、これと二重膨張部形成用シート部材18との間の、二重膨張部形成用シート部材18の内側の空間に供給されて充填された流動状態の硬化性充填材15が、その重量によりこれらの下部に溜まり易くなって偏ることでバランスが崩れて、膨張した充填袋体11や二重膨張部形成用シート部材18が、トンネル30の掘削内壁面32やこれの余堀量が大きくなった部分33に密着し難くなるのを、効果的に回避することが可能になる。筒状袋材16における鋼製支保工20の外周面20aに沿った周方向Yの伸縮性を小さくすると共に、周方向Yと垂直な掘進方向Xの伸縮性を大きくすることを可能にする布地としては、例えば、ポリエステル糸を使用している縦方向が、強度が大きく伸縮性が小さいため寸法安定性が高くなっており、ナイロン特殊加工糸を使用している横方向が、伸縮性が大きくなっている布地として知られる、例えば商品名「グラウトジャケット」(大嘉産業株式会社製)を用いることができる。
【0035】
また、本実施形態では、充填袋体11となる筒状袋材16の長手方向の一方の端縁部には、
図4に示すように、縫製部分を貫通するようにして、筒状袋材16よりも小径の、筒状袋材16と同様の布地からなる筒状の注入口部材17が取り付けられている。さらに、充填袋体11となる筒状袋材16の外側部分に取り付けられた、二重膨張部形成用シート部材18の周縁部分にも、これの縫製による接合部分を貫通するようにして、同様の布地からなる筒状の二重膨張部注入口部材19が取り付けられている。注入口部材17は、注入口17aを筒状袋材16の外側に突出させると共に、挿入側部分を好ましくは300mm程度以上、筒状袋材16の内側に挿入した状態で取り付けられている。二重膨張部注入口部材19は、注入口19aを二重膨張部形成用シート部材18の外側に突出させると共に、挿入側部分を好ましくは150mm程度以上、二重膨張部形成用シート部材18の内側に挿入した状態で取り付けられている。これらによって、流動状態の硬化性充填材15が筒状袋材16や二重膨張部形成用シート部材18の内側に供給充填される際に、注入口部材17や二重膨張部注入口部材19における、充填袋体11や二重膨張部形成用シート部材18の内側に挿入された部分を、逆止弁として機能させることが可能になる。注入口部材17や二重膨張部注入口部材19には、筒状袋材16による充填袋体11が、面状ファスナー12を介して鋼製支保工20の外周面20aに取り付けられた後に、例えば硬化性充填材15の圧送ポンプから延設する、圧送配管の先端の供給ノズル(図示せず)が接続されて、流動状態の硬化性充填材15を、筒状袋材16による充填袋体11の内側や二重膨張部形成用シート部材18の内側に、圧送供給することが可能になる。
【0036】
本実施形態では、筒状袋材16による充填袋体11や二重膨張部形成用シート部材18の内側に供給されて充填される、流動性を有する硬化性充填材15として、例えば公知のコンタクトバック工法に用いる硬化性充填材と同様の、高流動で超速硬性のモルタル充填材を用いることができる。モルタル充填材は、ブリージングがなく、短時間での強度発現性に優れると共に、長期間にわたって強度が増進するものを用いることが好ましい。
【0037】
そして、本実施形態では、例えばトンネル30の切羽面に近接する領域において、トンネル30の掘削内壁面32に沿うようにして建て込まれた、H型鋼による鋼製支保工20に対して、例えば
図3(a)、(b)に示すように、面状ファスナー12を形成する内側ファスナー面材13が取り付けられた外側フランジ20aによる外周面に、外側ファスナー面材14を内側ファスナー面材13に着脱可能に係着させるだけの簡易な作業によって、充填袋体11を鋼製支保工20に取り付けることが可能になる。またこれによって、当該外側ファスナー面材14と一体となった筒状袋材16による、掘削内壁面32の余堀量が大きくなった部分33と対応する部分に二重膨張部形成用シート部材18が取り付けられた充填袋体11や、二重膨張部形成用シート部材18を取り付けることを必要としない充填袋体11を、鋼製支保工20の外周面20aに、これの周方向に沿った所定の位置に延設させてスムーズに取り付けることが可能になる。
【0038】
また、外側ファスナー面材14を内側ファスナー面材13に係着させたり、係着を開放したりしながら、充填袋体11の位置を容易に調整して、二重膨張部形成用シート部材18が取り付けられた充填袋体11や、二重膨張部形成用シート部材18が取り付けられていない充填袋体11を、鋼製支保工20の外周面20aに沿った所定の位置に延設させて、スムーズに取り付けることが可能になる。これによって、本実施形態では、例えば
図1に示すように、4体の充填袋体11を、トンネル30の上部の周方向120°の領域Rにおいて、注入口部材17を上端側に配置すると共に、注入口部材17が配置された部分に間隔をおいた状態で、左右に2体ずつ、対称に配置して取り付けることが可能になる。
【0039】
4体の充填袋体11を、内側ファスナー面材13及び外側ファスナー面材14による面状ファスナー12を介して、鋼製支保工20の外周面20aの所定の位置に取り付けたら、各々の充填袋体11に、圧送ポンプから注入口部材17を介して硬化性充填材15を供給して充填することにより、充填袋体11を膨張させて、充填袋体11の外周部分をトンネル30の掘削内壁面32に密着させる。さらに、掘削内壁面32の余堀量が大きくなった部分33と対応する位置に二重膨張部形成用シート部材18が取り付けられた充填袋体11については、二重膨張部形成用シート部材18の内側に、圧送ポンプから二重膨張部注入口部材19を介して硬化性充填材15を供給して充填することにより、二重膨張部形成用シート部材18を膨張させて、掘削内壁面32の余堀量が大きくなった部分33において、二重膨張部形成用シート部材18の外周部分をトンネル30の掘削内壁面32に密着させることができる。
【0040】
したがって、本実施形態の鋼製支保工の密着方法は、山岳トンネル工法において、上部にアーチ形状部分を含む断面形状を有するトンネル30の掘削内壁面32と、掘削内壁面32に沿って設置される鋼製支保工20の外周面との間に設置される充填袋体11を介して、掘削内壁面32における他の領域よりも余堀量が大きくなった部分33で鋼製支保工20の外周面と掘削内壁面32とを密着させる方法であって、トンネル30の掘削内壁面32に沿って設置される鋼製支保工20の外周面に、周方向に延設させて充填袋体11を取り付けると共に、取り付けられた充填袋体11の外側部分における、余堀量が大きくなった部分33と対応する位置に、二重膨張部形成用シート部材18を一体として設けておき、鋼製支保工20がトンネルの掘削内壁面32に沿って設置された状態で、充填袋体11に流動性を有する硬化性充填材15を供給することで充填袋体11を膨張させると共に、二重膨張部形成用シート部材18の内側に硬化性充填材15を供給することで二重膨張部形成用シート部材18を膨張させ、これらに供給された硬化性充填材15を硬化させることにより、膨張した二重膨張部形成用シート部材18の外側部分を、余堀量が大きくなった部分33のトンネル30の掘削内壁面32に密着させて、余堀量が大きくなった部分33において、掘削内壁面32からの荷重を鋼製支保工20に支持させるようになっている。
【0041】
これらによって、本実施形態の山岳トンネル工法における鋼製支保工の密着構造10及び密着方法によれば、多くの手間を要することなく、充填袋体11を鋼製支保工20の外周面20aに簡易に取り付けることが可能になると共に、硬化性充填材15が注入充填されて膨張する充填袋体11を、安定した状態で掘削内壁面32に密着させて、掘削内壁面32と鋼製支保工20との一体化を図ることが可能になる。また特に、多くの手間を要することなく、トンネル30の掘削内壁面32における他の領域よりも余堀量が大きくなった部分33において、充填袋体11及び二重膨張部形成用シート部材18を介して、鋼製支保工20の外周面20aと掘削内壁面32とを、簡易に且つ安定した状態で密着させることが可能になる。
【0042】
また、本実施形態によれば、充填袋体11は、内側ファスナー面材13及び外側ファスナー面材14による面状ファスナー12を介して、広い面積で面状に係着して鋼製支保工20の外周面20aに取り付けられるので、当該充填袋体11や二重膨張部形成用シート部材18を掘削内壁面32に密着させるまで、位置ずれ等を生じさせることなく、安定した状態で膨張変形させることが可能になる。またこれによって、本実施形態によれば、充填袋体11や二重膨張部形成用シート部材18の内側に充填された硬化性充填材15が硬化することで、鋼製支保工20とトンネル30の掘削内壁面32とを強固に一体化させて、掘削内壁面32からの荷重を、鋼製支保工20に、効率良く支持させることが可能になる。
【0043】
図6は、本発明の鋼製支保工の密着構造10’の他の形態を例示するものである。
図6に示す他の実施形態の密着構造10’では、二重膨張部形成用シート部材18’は、筒状に形成された筒状袋材18aを取り付けることによって、充填袋体11の外側部分に一体として設けられている。
図6に示す他の形態の密着構造によっても、充填袋体11の外側部分に、二重膨張部形成用シート部材18’が取り付けられているので、これの内側に硬化性充填材15を充填して硬化させることにより、上述の形態の鋼製支保工の密着構造10と同様の作用効果が奏される。
【0044】
また、本実施形態では、例えば筒状袋材18aによる二重膨張部形成用シート部材18’を、充填袋体11の外側部分に位置調整可能に取り付けておき、鋼製支保工20をトンネル30の掘削内壁面32に沿って設置した後に、充填袋体11の外側部分における二重膨張部形成用シート部材18’の位置を調整して、硬化性充填材15を供給することにより、これの外側部分を、余堀量が大きくなった部分33のトンネル30の掘削内壁面32に密着させるようにすることもできる。
【0045】
ここで、例えば筒状袋材18aによる二重膨張部形成用シート部材18’は、
図7(a)、(b)に示すように、クリップ留め21を介して、充填袋体11の外側部分に位置調整可能に取り付けておくことがきる。また筒状袋材18aによる二重膨張部形成用シート部材18’は、
図8(a)、(b)及び
図9(a)、(b)に示すように、伸縮性を有する結束帯22、23を介して、充填袋体11の外側部分に位置調整可能に取り付けておくことができる。
【0046】
例えば筒状袋材18aによる二重膨張部形成用シート部材18’を、クリップ留め21や結束帯22、23を介して、充填袋体11の外側部分に位置調整可能に取り付けておくことにより、接着剤等を介して二重膨張部形成用シート部材18’を取り付ける場合と比較して、例えば筒状袋材18aに充填された硬化性充填材15によるブリージング水が、筒状袋材18aの外側に滲出した場合でも、筒状袋材18aによる二重膨張部形成用シート部材18’を、充填袋体11の外側部分により強固に一体化しておくことが可能になる。
【0047】
さらに、本実施形態では、例えば筒状袋材18aによる二重膨張部形成用シート部材18’は、
図10に示すように、面状ファスナー24を介して、充填袋体11の外側部分に位置調整可能に取り付けておくこともできる。例えば、上述の内側ファスナー面材13及び外側ファスナー面材14による面状ファスナー12介して、鋼製支保工20の外周面に取り付けられた充填袋体11の外側部分に対して、好ましくは多数のループ体を立設させた不織布による、縦長帯状の平面形状を備える内側ファスナー面材25を、充填袋体11の略全長に亘って取り付けておくと共に、筒状袋材18aによる二重膨張部形成用シート部材18’の底面部分に、好ましくは多数のループ体を立設させた不織布による、縦長帯状の平面形状を備える外側ファスナー面材26を、筒状袋材18aの略全長に亘って取り付けておく。これらの内側ファスナー面材25と外側ファスナー面材26とを、両側の面に多数のループを立設させた中間ファスナー面材27を介在させた状態で、互いに係着させることによって、筒状袋材18aによる二重膨張部形成用シート部材18’を、内側ファスナー面材25、外側ファスナー面材26、及び中間ファスナー面材27による面状ファスナー24を介して、充填袋体11の外側部分に位置調整可能なように固着して、取り付けておくことが可能になる。好ましくは不織布による内側ファスナー面材25は、充填袋体11の外側部分のシート材が膨らんで伸長するのを見越して、幅に余裕を持させて周縁部分を縫い付けておくことで、充填袋体11の外側部分に取り付けておくことができる。
【0048】
さらにまた、実施形態では、
図11に示すように、二重膨張部形成用シート部材18”を、充填袋体11の延設方向に沿わせて、複数連設して取り付けておき、鋼製支保工20をトンネル30の掘削内壁面32に沿って設置した後に、これらの複数の二重膨張部形成用シート部材18”から選択された、余堀量が大きくなった部分33と対応する位置に配置された二重膨張部形成用シート部材18”の内側に、硬化性充填材15を供給して、これの外側部分を、余堀量が大きくなった部分33のトンネル30の掘削内壁面32に密着させるようにすることもできる。これによって、より効率良く、二重膨張部形成用シート部材18”の外側部分を、余堀量が大きくなった部分33のトンネル30の掘削内壁面32に密着させることが可能になる。
【0049】
図11では、連設する複数の二重膨張部形成用シート部材18”は、例えば縦長方向を充填袋体11の延設方向に沿わせて、相当の長さ領域に亘って充填袋体11の外側部分に一体として設けられた、縦長帯状の平面形状を備える二重膨張部形成用シート部材18に内部を、縫製等によって、縦長方向に複数の領域に区画することで、容易に形成することができる。これによって、当該二重膨張部形成用シート部材18”の外側部分を、余堀量が大きくなった部分33のトンネル30の掘削内壁面32に密着させるまでの、二重膨張部形成用シート部材18”の安定性を、効果的に向上させることが可能になる。連設する複数の二重膨張部形成用シート部材18”は、延設方向の長さを小さく留めた個々の二重膨張部形成用シート部材18を、延設方向に沿って連設させて取り付けることによって、充填袋体11の外側部分に一体として設けることも可能である。
【0050】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、二重膨張部形成用シート部材は、縦長方向を充填袋体の延設方向に沿わせて、充填袋体の外側部分に一体として設けられている必要は必ずしも無く、
図12に示すように、縦長方向を、充填袋体11の延設方向と交差する方向として、好ましくは充填袋体の延設方向と垂直に交差する方向に沿わせて、充填袋体の外側部分に一体として設けられていても良い。
【符号の説明】
【0051】
10,10’ 鋼製支保工の密着構造(密着構造)
11,11’ 充填袋体
12 面状ファスナー
13 内側ファスナー面材(雄側ファスナー材)
13a 基材シート
14 外側ファスナー面材(雌側ファスナー材)
14a 基材シート
15 硬化性充填材
16 筒状袋材
16a 底面部分
16b 伸縮部分
17 注入口部材
17a 注入口
18,18’,18” 二重膨張部形成用シート部材
19 二重膨張部注入口部材
19a 注入口
20 鋼製支保工
20a 外側フランジ(外周面)
21 クリップ留め
22,23 結束帯
24 面状ファスナー
25 内側ファスナー面材
26 外側ファスナー面材
27 中間ファスナー面材
30 トンネル
31 天頂部
32 掘削内壁面
X トンネルの掘進方向(掘進方向)
Y 鋼製支保工の周方向(周方向)
R トンネルの上部の周方向120°の領域