(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】ソレノイドコイルユニット及び非接触給電装置
(51)【国際特許分類】
H01F 38/14 20060101AFI20230929BHJP
H02J 50/10 20160101ALI20230929BHJP
B60M 7/00 20060101ALI20230929BHJP
【FI】
H01F38/14
H02J50/10
B60M7/00 X
(21)【出願番号】P 2021118348
(22)【出願日】2021-07-16
【審査請求日】2022-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2020185892
(32)【優先日】2020-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021043014
(32)【優先日】2021-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522355547
【氏名又は名称】Wireless Power Transfer 株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165331
【氏名又は名称】森岡 智昭
(72)【発明者】
【氏名】木村 孝
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 幹根
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-050127(JP,A)
【文献】特開2004-120915(JP,A)
【文献】特開平07-037737(JP,A)
【文献】国際公開第2017/195443(WO,A1)
【文献】特開2014-166070(JP,A)
【文献】特開2012-231603(JP,A)
【文献】特開2014-197663(JP,A)
【文献】国際公開第2013/176152(WO,A1)
【文献】特開2012-099644(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0114771(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 38/14
H02J 50/10、50/90
B60L 5/00、53/12
B60M 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
他のソレノイドコイルユニットと非接触で電力の授受を行うソレノイドコイルユニットであって、
前記他のソレノイドコイルユニットが備える他のソレノイドコイルに対して、中心軸方向に直交する離間方向に所定の離間距離を隔てて並列に設置されるソレノイドコイルと、
前記ソレノイドコイルが巻回され、前記ソレノイドコイルの前記中心軸方向の長さより長い棒状コアと、
を備え、
前記棒状コアは、前記ソレノイドコイルが巻回された中央部と、前記ソレノイドコイルの両端から延び出ている端部と、を有し、
前記中央部の幅に対する長さの比率は2以上であり、
前記ソレノイドコイルの前記中心軸方向の長さは、前記離間距離の1.8以上2.2以下であり、
前記端部には、前記中央部よりも厚みが小さく、当該端部から張り出している板状の追加磁極部が設けら
れ、
前記追加磁極部の長さと幅は等しい、
ことを特徴とする、ソレノイドコイルユニット。
【請求項2】
前記追加磁極部の幅は、前記中央部の幅より大きい、請求項1に記載のソレノイドコイルユニット。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のソレノイドコイルユニットである第1のソレノイドコイルユニットと、
前記他のソレノイドコイルユニットである第2のソレノイドコイルユニットと、
を備え、
前記第1と第2のソレノイドコイルユニットの間において相互誘導を生じさせて電力を授受する、非接触給電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁界結合によって給電側から受電側に非接触で電力を伝送する非接触給電装置及び、非接触給電装置に用いるソレノイドコイルユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子デバイスや電動モビリティ等に対し、ケーブルを用いることなく電力を伝送する、非接触給電装置が注目されている。具体的には、受電側ユニットを搭載した電気自動車などに対し、駐車場に設置された給電側ユニットを用いて非接触で充電したり、或いは走行中に道路側に設置された給電側ユニットを用いて非接触で充電したりすることが可能となる技術である。
【0003】
非接触給電装置に用いられるコイルユニットの方式は、大きく、
図16(A)に示すサーキュラー型と、
図16(B)に示すソレノイド型に分けることができる。
図16(A)に示すように、サーキュラーコイルユニット100Aは円盤状のフェライトコア102Aの片面に同心円上にコイル101Aを巻いた構成を有しており、片側巻方式とも呼ばれる。
図16(B)に示すように、ソレノイドコイルユニット100Bは平板状のフェライトコア102Bにコイル101Bを巻回した構成を有しており、両側巻方式とも呼ばれる。
【0004】
いずれの方式においても、電力を伝送する効率の低下は損失が増えるのみでなく発熱の原因となることから、非接触給電装置としての伝送効率を上げることは極めて重要な課題となる。伝送効率を上げるためには、給電側ユニットと受電側ユニットの間の結合係数kを高くし、コイルのQ値を大きくすることが重要な事項であることが知られている。
【0005】
一般的には、サーキュラーコイルユニットは結合係数kが高い反面、給電側ユニットと受電側ユニットの位置ずれに対する許容量が小さい特性がある。一方、ソレノイドコイルユニットは背面に漏れ磁束があり結合係数が若干低くなるものの、位置ずれに対する許容量が大きい特性があるといわれている(特許文献1)。給電側ユニットと受電側ユニットの位置ずれに対する許容量は「ロバスト性」と呼ばれ、非接触給電の社会実装に向けた大きな課題となっている。
【0006】
ハイブリッドカーや電気自動車などの電動モビリティへの非接触給電技術に関しては、将来的には走行中の給電を可能とする技術が必要になると考えられている。走行中給電を想定した場合は、モビリティの前後の移動方向の位置ずれと前後の移動方向に直交する移動方向である横方向への位置ずれの両方に対して、ロバスト性を高く確保することが求められる。
【0007】
図17に、非特許文献1の
図4.2に基づく、H型コアを用いたソレノイド型とサーキュラー型の各コイルユニットにおけるロバスト性を示すグラフを示す。グラフHx,Hyはそれぞれ、ソレノイド型のコイルユニットについてのx方向およびy方向への位置ずれによる結合係数の変化を示しており、グラフCrは、サーキュラー型のコイルユニットの位置ずれによる結合係数の変化を示している。横軸に示す位置ずれ量が大きくなると、サーキュラーコイルユニットは急激に結合係数が減少して電力伝送ができない状態になる。H型コアを用いたソレノイドコイルユニットの場合は、ソレノイドコイルの特性により、サーキュラーコイルユニットよりも位置ずれに対するロバスト性は高い。しかしながら、H型コアの形状の特性上、位置ずれの方向や位置ずれ量によっては、結合係数が著しく低下する場合があり、依然として改良の余地があると言える。
【0008】
また、電動モビリティへの非接触給電を考えた場合、給電側コイルユニットと受電側コイルユニットとの間には車種に応じて100mm~250mm程度のギャップが存在することになる。このギャップに対応できるコイルユニットを具体的に設計すると、従来のサーキュラー型やソレノイド型のコイルユニットでは重くなりすぎる問題がある。この点、特許文献1には、コイルユニットの軽量化を目的として、平板状コアのうちコイルが巻回されている被コイル部の幅を、コイルが巻回されていない磁極部の幅より細くしたH型コアを採用したソレノイドコイルユニットが開示されている。
【0009】
特許文献1に開示されているH型コアを用いると、ソレノイドコイルユニットは、従来の平板状のものよりは軽量化することが可能である。しかしながら、非特許文献2に開示されている実験条件の詳細によると、コイル間のギャップは70mm~100mm程度で設計されている。これを、給電性能を維持したまま200mm程度のギャップに対応させるためには、ソレノイドコイルユニットが大型化する可能性があり、結果として、H型コアの実用化にはさらなる軽量化が必要となる可能性がある。実際、これまでの実証実験で用いられたコイルユニットの重量は、出力に応じて数十kgから100kgの重さになっており、モビリティに搭載することは現実的ではないことがわかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献】
【0011】
【文献】山田潤 学位論文「電気自動車用走行中非接触給電に適したコイル形状と共振回路方式の基礎的検討」2018年3月 埼玉大学大学院理工学研究科
【文献】千明、長塚、金子、阿部、保田、鈴木 「新コア構造による電気自動車用非接触給電トランスの小型軽量化」(SPC-11-048)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上のように、特許文献1に開示されているH型コアを採用したソレノイドコイルユニットを用いることで、一定の軽量化とロバスト性を実現することができる。しかしながら、これから始まる非接触給電の本格的な社会実装と、走行中給電を見据えたコイル方式の選択を考慮すると、結合係数、ロバスト性、軽量化の全てを満たす状態には達しているとは言ない。
【0013】
本開示の目的は、非接触給電の本格的な社会実装に向けて、「結合係数」、「ロバスト性」、「軽量化」の全てを高い次元で成立させるソレノイドコイルユニットと当該ソレノイドコイルユニットを用いた非接触給電装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決するための第1の形態は、他のソレノイドコイルユニットと非接触で電力の授受を行うソレノイドコイルユニットとして提供される。この形態のソレノイドコイルユニットは、前記他のソレノイドコイルユニットが備える他のソレノイドコイルに対して、中心軸方向に直交する離間方向に所定の離間距離を隔てて並列に設置されるソレノイドコイルと、前記ソレノイドコイルが巻回され、前記ソレノイドコイルの前記中心軸方向の長さより長い棒状コアと、を備える。前記棒状コアは、前記ソレノイドコイルが巻回された中央部と、前記ソレノイドコイルの両端から延び出ている端部と、を有し、前記中央部の幅に対する長さの比率は2以上であり、前記ソレノイドコイルの前記中心軸方向の長さは、前記離間距離の略2倍である。
【0015】
第2の形態においては、前記中央部の幅に対する長さの比率が8以上でよい。
【0016】
第3の形態においては、前記中央部の長さをLとし、前記中央部の幅をwとするとき、2≦L/w≦16の関係が満たされてよい。
【0017】
第4の形態においては、前記ソレノイドコイルと同じ構成の前記他のソレノイドコイルと、前記棒状コアと同じ構成の他の棒状コアと、を備える他のソレノイドコイルユニットに対して、200mmの前記離間距離を隔てて位置ずれなく設置したときの結合係数kが、0.17以上0.2未満でよい。
【0018】
第5の形態においては、前記端部には、前記中央部よりも厚みが小さく、当該端部から張り出している板状の追加磁極部が設けられていてよい。
【0019】
第6の形態においては、前記追加磁極部の長さは、前記中央部の幅より大きくてよい。
【0020】
第7の形態においては、前記追加磁極部の長さと幅がほぼ等しくてよい。
【0021】
第8の形態は、非接触給電装置として提供される。この形態の非接触給電装置は、上記のいずれかの形態のソレノイドコイルユニットである第1のソレノイドコイルユニットと、前記他のソレノイドコイルユニットである第2のソレノイドコイルユニットと、を備え、前記第1と第2のソレノイドコイルユニットの間において相互誘導を生じさせて電力を授受する。
【発明の効果】
【0022】
上記第1の形態のソレノイドコイルユニットによれば、他のソレノイドコイルユニットとの間の離間距離が増大しても、棒状コアを離間距離に応じた長さで細長く構成できるため、重量の増大を抑制しながら高い結合係数を得ることができる。また、そのような細長い棒状コアを備えているソレノイドコイルユニットであれば、従来の円盤状コア、平板状コア、H型コア等を用いた場合よりも位置ずれによる結合係数の低下を抑制でき、高いロバスト性を実現することができる。よって、上記第1の形態のソレノイドコイルユニットによれば、結合係数、ロバスト性、軽量化の全てを高い次元で成立させることが可能である。
【0023】
上記第2の形態のソレノイドコイルユニットによれば、棒状コアが、より細長く構成されるため、ソレノイドコイルユニットの重量の増大を抑制しながら、結合係数をさらに高めることができる。また、同時に、高いロバスト性を実現することもできる。
【0024】
上記第3の形態のソレノイドコイルユニットによれば、重量が著しく大きくなることを抑制しつつ、他のソレノイドコイルユニットとの間の結合係数が著しく低い値となることを抑制できる。よって、結合係数、ロバスト性、軽量化の全てを、さらに高い次元で成立させることが可能である。
【0025】
上記第4の形態のソレノイドコイルユニットによれば、ソレノイドコイルユニットの重量増加の抑制と結合係数の向上の両方を、より一層、高い次元で両立させることができる。よって、結合係数、ロバスト性、軽量化の全てを、より一層、高い次元で成立させることが可能である。
【0026】
上記第5の形態のソレノイドコイルによれば、追加磁極部を設けることにより、棒状コアの中央部を小型化した場合でも、結合係数を高めることができる。また、追加磁極部は厚みを小さくすることにより軽量化が可能であるため、ソレノイドコイルの重量の増加を抑制しながら結合係数を効果的に高めることが可能である。また、追加磁極部が設けられていれば、他のソレノイドコイルユニットに対する位置ずれによる結合係数の低下を、さらに抑制することができる。よって、結合係数、ロバスト性、軽量化の全てを、より高い次元で成立させることが可能である。
【0027】
上記第6の形態のソレノイドコイルによれば、追加磁極部が幅方向に拡大されるため、より一層、高い結合係数とロバスト性とを得ることができる。
【0028】
上記第7の形態のソレノイドコイルユニットによれば、中心軸方向および幅方向の両方向に追加磁極部が拡大される。そのため、結合係数を高めながら、他のソレノイドコイルユニットに対する中心軸方向および幅方向の両方向への位置ずれに対するロバスト性を、さらに高めることができる。
【0029】
上記第8の形態の非接触給電装置によれば、上記形態のソレノイドコイルユニットを備えているため、結合係数、ロバスト性、軽量化の全てを高い次元で成立させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】第1実施形態に係るソレノイドコイルユニットの概略正面図、概略平面図、および、概略側面図。
【
図2】第1実施形態に係るソレノイドコイルユニットを用いた非接触給電装置の構成を示す模式図。
【
図3】一対のソレノイドコイルユニットで生じる磁束を説明するための模式図。
【
図4】ソレノイドコイルの長さと結合係数に関するグラフを示す説明図。
【
図5】透磁率と結合係数との関係を表すグラフを示す説明図。
【
図6】棒状コアの断面積と結合係数との関係を表すグラフを示す説明図。
【
図7】棒状コアの断面積に対する結合係数の割合と棒状コアの断面積との関係を表すグラフを示す説明図。
【
図8】第2実施形態に係るソレノイドコイルユニットの概略正面図、概略平面図、および、概略側面図。
【
図9】第2実施形態に係るソレノイドコイルユニットを用いた非接触給電装置の構成を示す模式図。
【
図10】追加磁極部の寸法と結合係数との関係を表すグラフを示す説明図。
【
図11】追加磁極部の面積と結合係数との関係を表すグラフを示す説明図。
【
図12】離間距離と結合係数の関係を表すグラフを示す説明図。
【
図13】一対のソレノイドコイルユニットが幅方向に位置ずれしている状態を示す模式図。
【
図14】一対のソレノイドコイルユニットが中心軸方向に位置ずれしている状態を示す模式図。
【
図15】位置ずれ量と結合係数との関係を表すグラフを示す説明図。
【
図16】従来の非接触給電装置に用いられるサーキュラー型とソレノイド型のコイルユニットの概略正面図と概略平面図。
【
図17】従来のコイルユニットにおけるロバスト性を表すグラフを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本開示のソレノイドコイルユニット及び非接触給電装置の実施形態を、図を参照して詳細に説明する。
【0032】
1.第1実施形態:
図1に第1実施形態に係るソレノイドコイルユニット50の概略正面図、概略平面図、および、概略側面図を示す。ソレノイドコイルユニット50は、ソレノイドコイル10を備える。
【0033】
図1には、ソレノイドコイル10の中心軸CXを一点鎖線で図示してある。以下、中心軸CXに沿った方向を単に「中心軸方向」とも呼ぶ。
図1には、中心軸方向に相当するy方向を示す矢印と、y方向に直交するx方向を示す矢印と、を図示してある。x方向は、中心軸方向と後述する離間方向とに直交する「幅方向」に相当する。以下において、ソレノイドコイルユニットの寸法に関して、「長さ」と言うときは、y方向における寸法を意味し、「幅」と言うときは、x方向における寸法を意味し、「厚み」というときは、x方向とy方向とに直交する離間方向における寸法を意味する。
【0034】
ソレノイドコイル10は絶縁被覆された電線を螺旋状に密に巻いたもので、電線に電流を流すことによって中心軸方向に磁場を発生させる。磁束の乱れや漏れを極力低減するため、電線は均一かつ規則的に巻回されていることが望ましい。ソレノイドコイル10の長さはLである。なお、図では、電線一本一本の表現は省略している。ソレノイドコイル10における電線の巻回方向は、x方向に沿った方向である。
【0035】
ソレノイドコイルユニット50は、さらに、ソレノイドコイル10が巻回されている棒状コア20を備える。棒状コア20の中心軸は、ソレノイドコイル10の中心軸CXに一致し、y方向は、棒状コア20の長手方向に相当する。棒状コア20は、例えば、フェライトなどの強磁性体によって構成される。棒状コア20の長手方向に垂直な断面における断面形状は、特に限定されることはなく、図示されているように略四角形状であってもよいし、正円形状や、楕円形状であってもよい。
【0036】
棒状コア20はソレノイドコイルの長さLより長く作られている。棒状コア20は、ソレノイドコイル10に巻回されている中央部21と、棒状コア20の両端に位置し、ソレノイドコイル10の両端から延び出ている端部22と、を有する。ソレノイドコイル10の長さはソレノイドコイルの長さLと一致する。以下、中央部21の長さについても「L」と表記する。棒状コア20の一対の端部22は、ソレノイドコイルユニット50の磁極として機能する。
【0037】
なお、
図1に示すように、棒状コア20の厚みtは、中央部21の長さL、および、棒状コア20の幅wよりも小さい。棒状コア20の厚みは、特に限定されることはなく、例えば、中央部21の幅以上であってもよい。
【0038】
図2および
図3は、一対のソレノイドコイルユニット50,50aを所定の離間距離Gの間隔を設けて並列に配置した状態を示す模式図である。
図3には、磁束MFを一点鎖線で図示してある。また、
図3では、ソレノイドコイル10を構成する電線を模式的に図示してある。
【0039】
一対のソレノイドコイルユニット50,50aは、非接触給電装置55を構成しており、ソレノイドコイルユニット50は、離間して配置されている他のソレノイドコイルユニット50aと非接触で電力の授受を行う。以下、本実施形態のソレノイドコイルユニット50を「第1のソレノイドコイルユニット50」とも呼び、他のソレノイドコイルユニット50aを「第2のソレノイドコイルユニット50a」とも呼ぶ。
【0040】
本実施形態では、第2のソレノイドコイルユニット50aは、第1のソレノイドコイルユニット50と同じ構成を有している。第2のソレノイドコイルユニット50aは、第1のソレノイドコイルユニット50が備えているのと同じ構成のソレノイドコイル10、および、棒状コア20を備え、第1のソレノイドコイルユニット50と自己インダクタンスが同じである。
【0041】
非接触給電装置55では、2つのソレノイドコイルユニット50,50aは、離間方向に離間して並列に設置されている。ここでの「離間方向」は、x方向とy方向とに直交するz方向に相当し、棒状コア20の厚み方向に相当する。また、本明細書において「並列」とは、一の直線が他の直線に沿っている状態を意味しており、2つの直線が数学的に厳密に「平行」に配置されている状態と、一の直線が他の直線に対して数°程度の傾斜角を有している状態と、を含む概念である。
【0042】
非接触給電装置55では、第2のソレノイドコイルユニット50aは、離間距離Gを隔てて位置ずれなく設置される。つまり、非接触給電装置55では、離間方向に見たときに、第1のソレノイドコイルユニット50は、第2のソレノイドコイルユニット50aと重なり合う位置に設置される。このような配置にすることで、
図3に示すように、一対のソレノイドコイルユニット50,50aのうち、電流が流された一方のソレノイドコイルユニットで生じた磁束MFの一部が、他方のソレノイドコイルユニットを構成するソレノイドコイル10の棒状コア20を通り、前記一方のソレノイドコイルユニットに戻ることで、相互誘導を生じさせて電力を授受することが可能となる。なお、本明細書において、「結合係数」と言うときは、特に断らない限り、
図2および
図3に示すように、離間方向に離間して並列に配置されている同じ構成の2つのコイルを位置ずれなく設置したときの値である。
【0043】
図4は、2つの同じ構成のソレノイドコイルを、離間距離Gを隔てて並列に配置したときの、離間距離Gに対するソレノイドコイルの長さLと、当該長さLに対する結合係数kと、の関係を示すグラフである。本願発明の発明者は最も効率よく高い結合係数kを得るため、一対のソレノイドコイル間の離間距離Gとソレノイドコイルの長さLとの関係を実験とシミュレーションを用いて精査した。離間距離Gは、非接触給電装置55の用途に応じて決まってくるものであり、ここでは電動モビリティへの非接触給電を想定して200mmを一例として採用している。この場合、
図4に示すように、最も効率よく高い結合係数kを得ることができるソレノイドコイルの長さLは、離間距離Gの略2倍、つまり、L≒2Gであることが明らかとなった。本願発明の発明者の実験例では、G=200mmで、L=400mmとしたときの結合係数kの値は0.088となった。
【0044】
ソレノイドコイルユニットをL<2Gの範囲で設計すると、十分な結合係数kを得ることが難しくなり、L>2Gの範囲で設計すると、ソレノイドコイルユニットが必要以上に大型化して軽量化することが困難となる。なお、
図4に示された関係は、離間距離Gが200mmであるときには限定されない。離間距離Gを、例えば、150mm以上250mm以下の範囲内の任意の値で設定した場合や、180mm以上220mm以下の範囲内の任意の値で設定した場合でも同様の関係が得られる。また、Lの値は2Gの一点に限定されるものではなく、用途や設計に応じた所定の幅が許容されるものであり、一例として10%程度の誤差を許容する。よって、離間距離Gの略2倍であるソレノイドコイルの長さLは、1.8G以上2.2G以下の範囲内で設定されることが許容される。本明細書において、「L≒2G」との表記は、Lが1.8G以上2.2G以下の範囲内の任意の値であることを意味している。
【0045】
本実施形態では、ソレノイドコイル10の長さLがL≒2Gの条件を満たすように構成されている。これにより、結合係数kを高く維持しながら、棒状コア20を、軽量化が可能な形状に設計することが可能となる。また、本実施形態のソレノイドコイルユニット50は、棒状コア20の中央部21の長さLは、幅wの2倍以上、つまり、L≧2wに設計される。このようにすれば、棒状コア20を、幅wが小さい細長い形状とできるため、ソレノイドコイルユニット50の重量の増大を抑制しながら結合係数kが所望の高い値になるように、ソレノイドコイル10の長さLを大きくすることができる。
【0046】
ソレノイドコイルユニット50では、棒状コア20の中心軸方向における中央部21の長さLは、中央部21の幅wに対する比率が3倍以上であることが好ましく、4倍以上であることがさらに好ましい。また、中央部21の長さLは、中央部21の幅wに対する比率が8以上、つまり、L≧8wとすることも可能である。このようにすれば、ソレノイドコイルユニット10をより細長い棒状の形状とすることができ、ソレノイドコイルユニット10の重量の増大を抑制しながら、その結合係数kをさらに高めることができる。
【0047】
なお、軽量化のみの観点では棒状コアは細いほど効果があるが、実際には、機械的強度や巻回する絶縁電線の仕様、磁束密度の飽和を回避できる程度の断面積の確保などを踏まえてL/wの最大値が決定されることが好ましい。
【0048】
図5に、非接触給電装置55において棒状コア20の透磁率を変更したときの結合係数kを示すグラフを示す。高い結合係数kを得るためには、棒状コア20は、透磁率が1500H/m以上の材料で構成されることが好ましく、透磁率が2000H/m以上の材料で構成されることがより好ましい。棒状コア20は、透磁率が2500H/m以上の材料で構成されることがさらに好ましい。また、棒状コア20は、透磁率が3000H/mより大きい材料で構成されたとしても結合係数kが著しく高くなることは期待できない。よって、棒状コア20は、透磁率が、3000H/m以下の材料で構成されていることが好ましい。
【0049】
図6に、非接触給電装置55における棒状コア20の断面積Sと結合係数kとの関係を表すグラフを示す。
図7に、棒状コア20の断面積Sに対する結合係数kの割合k/Sと断面積Sとの関係を表すグラフを示す。
図6および
図7のグラフは、本願発明者が研究を重ねて独自に得たものである。
図6および
図7のグラフでの結合係数kは、2つのソレノイドコイルユニット10,10aの間の離間距離Gを200mmとしたときの値である。また、
図6および
図7のグラフにおいて、断面積Sがs1以上s2未満の領域は、結合係数kが1.7以上2.0未満の領域に相当する。
【0050】
棒状コア20の断面積Sは、中心軸方向に直交する断面における中央部21の断面積に相当する。
図6に示すように、棒状コア20の断面積Sが大きいほど結合係数kを高めることができる。ただし、断面積Sを大きくすることは、棒状コア20の大型化につながり、ソレノイドコイルユニット50の重量増加につながる。
【0051】
ここで、
図6および
図7に示すように、結合係数kが0.2以上の領域では、断面積Sを増加させても、結合係数kがあまり増加しない。結合係数kが0.2より大きくなるように断面積Sを大きくすると、棒状コア20の重量が著しく大きくなってしまう可能性があり、好ましくない。よって、ソレノイドコイルユニット50では、結合係数kが0.2未満となる断面積Sで棒状コア20を設計した方が、ソレノイドコイルユニット50の重量あたりの結合係数kの値を高くすることができ、より軽量で高い給電性能を得ることが可能となる。
【0052】
また、
図6および
図7に示すように、結合係数kが0.17未満となる領域では、断面積Sの減少量に対する結合係数kの低下量が著しく大きくなる。そのため、結合係数kが0.17未満となるような断面積Sでは、ソレノイドコイルユニット50を軽量化できたとしても、給電性能が著しく低下してしまう可能性が高い。よって、ソレノイドコイルユニット50では、結合係数kが0.17以上となる断面積Sで棒状コア20を設計することが好ましい。
【0053】
このように、ソレノイドコイルユニット50では、結合係数kが0.17以上0.2未満となるように棒状コア20を設計することが好ましい。結合係数kは高いほど好ましいため、ソレノイドコイルユニット50では、結合係数kが0.175以上となるように棒状コア20を設計することがより好ましく、結合係数kが0.18以上となるように棒状コア20を設計することが、さらに好ましい。ソレノイドコイルユニット50では、結合係数kが0.19以上となるように設計することが、より一層、好ましい。
【0054】
また、本願発明の発明者は、
図6および
図7のグラフから、棒状コア20では、中央部21の幅wに対する長さLの割合L/wが、2≦L/w≦16の関係を満たしていることが好ましいとの知見を導き出した。この関係が満たされていれば、棒状コア20の断面積Sが小さくなりすぎて、結合係数kが著しく低い値となることを抑制できる。また、棒状コア20の断面積Sが大きくなりすぎて、ソレノイドコイルユニット50の重量が著しく大きい値となることを抑制できる。
【0055】
本実施形態では、ソレノイドコイルユニット50のソレノイドコイル10は、ソレノイド型であるため、
図16(A)に示されているような従来のサーキュラー型のコイルユニットよりも、非接触給電の際のロバスト性が高い。また、ソレノイドコイルユニット50は、従来のソレノイド型のコイルユニットよりも、中心軸方向の長さが大きいため、従来のソレノイド型のコイルユニットよりも、非接触給電の際の中心軸方向への位置ずれに対するロバスト性が高められている。
【0056】
以上のように、本実施形態のソレノイドコイルユニット50、および、ソレノイドコイルユニット50を備える非接触給電装置55によれば、結合係数、ロバスト性、軽量化の全てを高い次元で成立させることが可能である。
【0057】
2.第2実施形態:
図8に第2実施形態にかかるソレノイドコイルユニット50Aの概略正面図、概略平面図、および、概略側面図を示す。第2実施形態のソレノイドコイルユニット50Aの構成は、棒状コア20の2つの端部22のそれぞれに追加磁極部30が設けられている点以外は、第1実施形態で説明したソレノイドコイルユニット50とほぼ同じである。
【0058】
追加磁極部30は、棒状コア20の端部22から張り出し、中央部21よりも厚みが小さい板状の部位として構成されている。第2実施形態では、各端部22の追加磁極部30は同じ形状を有している。第2実施形態では、追加磁極部30は、厚み方向に見たときに略四角形状を有しており、端部22からx方向およびy方向に沿って張り出している。
図8に示すように、第2実施形態では、端部22は、追加磁極部22のx方向における中央に位置しており、中央部21から離れるほどその厚みが小さくなるように構成されている。
【0059】
追加磁極部30の厚みcは一定である。ソレノイドコイルユニット50Aをより軽量に構成する軽量化の観点からは、追加磁極部30の厚みcは、小さいほど好ましい。追加磁極部30の厚みcは、中央部21の厚みtの1/2以下であることが好ましく、1/3以下であることが、より好ましい。追加磁極部30の厚みcは、中央部21の厚みtの1/5以下であることが、さらに好ましい。なお、他の実施形態では、追加磁極部30の厚みcは一定でなくてもよい。追加磁極部30は、例えば、幅方向や長さ方向に連続的に厚みが変化する構成を有していてもよい。この場合には、前述の厚みcは、追加磁極部30の厚みの最大値であるとしてもよい。
【0060】
第2実施形態では、追加磁極部30は、棒状コア20と同じ磁性体材料によって構成され、棒状コア20と一体的に作製される。他の実施形態では、追加磁極部30は、棒状コア20とは別体として構成され、端部22に接合により後付けされてもよい。また、追加磁極部30は、棒状コア20とは異なる種類の磁性体によって構成されてもよい。
【0061】
後述するように、ソレノイドコイルユニット50Aは、追加磁極部30を有していることによって、重量の増加を抑制しながら結合係数kを高め、且つ、位置ずれに対するロバスト性を高める効果を得ることが可能となっている。
【0062】
なお、追加磁極部30の板面の形状は、略四角形状に限定されることはない。他の実施形態では、追加磁極部30の板面の形状は、例えば、三角形形状や、多角形形状、正円形状、楕円形状であってもよい。また、追加磁極部30の板面の形状は、一方の端部22と他方の端部22とで異なっていてもよい。第2実施形態では、追加磁極部30は、端部22から幅方向に張り出しており、追加磁極部30の幅bは、棒状コア20の端部22の幅wより大きい。これに対して、他の実施形態では、追加磁極部30は、端部22から幅方向に張り出すことなく、中心軸方向にのみ張り出していてもよい。また、追加磁極部30は、端部22から中心軸方向に張り出していなくてもよく、幅方向にのみ張り出していてもよい。
【0063】
図9は、第2実施形態のソレノイドコイルユニット50Aを用いた非接触給電装置55Aを示す模式図である。非接触給電装置55Aは、第1のソレノイドコイルユニット50Aと、第2のソレノイドコイルユニット50Aaと、を備える。第2のソレノイドコイルユニット50Aaは、第1のソレノイドコイルユニット50Aと同じ構成を有しており、ソレノイドコイル10と、追加磁極部30が設けられた棒状コア20とを備える。第2のソレノイドコイルユニット50Aaは、第1のソレノイドコイルユニット50Aと自己インダクタンスが同じである。また、追加磁極部30の寸法も同じである。
【0064】
非接触給電装置55Aでは、第1のソレノイドコイルユニット50Aは、相互誘導による非接触給電を行う他のソレノイドコイルユニットである第2のソレノイドコイルユニット50Aaに対して、離間方向に所定の離間距離Gを隔てて並列に設置される。離間方向は、第1実施形態と同様に、z方向に沿った方向である。非接触給電装置55Aでは、第1実施形態の非接触給電装置55と同様に、一対のソレノイドコイルユニット50A,50Aaは、互いに位置ずれすることなく設置されている。この配置では、第1のソレノイドコイルユニット50Aの追加磁極部30と、第2のソレノイドコイルユニット50Aaの追加磁極部30とは、互いの板面が離間方向に面し合うように並列に配置される。
【0065】
図10に、追加磁極部30の寸法と結合係数kとの関係を表すグラフを示す。
図11に、追加磁極部30の面積PSと結合係数kとの関係を表すグラフを示す。
図10および
図11は、本願発明の発明者の実験により得られたものである。
【0066】
この実験での結合係数kは、
図9に示す同じ構成を有する一対のソレノイドコイルユニット50A,50Aaの間において得られた値である。この実験では、追加磁極部30は、長さaと幅bとが等しい略正方形形状の板面を有する構成とした。
図10における追加磁極部30の寸法は、追加磁極部30の幅bに相当する。
図11における追加磁極部30の面積PSは、端部22の側面の面積も含む値であり、追加磁極部30の長さaと幅bとを乗じた値に相当する。つまり、PS=a×bである。
【0067】
図10のグラフは、実線部分が示すように、追加磁極部30が、端部22から張り出しているほど、結合係数kが大きくなることを示している。また、
図11のグラフは、追加磁極部30の面積が大きいほど、結合係数kが大きくなることを示している。
【0068】
ここで、2つのソレノイドコイルユニット50A,50Aaからなる磁気回路における磁気抵抗Rは下記の数式1で表される。数式1が示すように、追加磁極部30の面積PSが大きいほど、磁気抵抗Rは小さくなり、それだけ磁束が大きくなる。これより、追加磁極部30の寸法a,bを大きくし、その面積PSを大きくすれば、結合係数kが大きくなることは明らかである。
【0069】
【0070】
追加磁極部30であれば、その寸法を大きくすることにより、棒状コア20の中央部21の長さLや断面積Sを大きくする場合よりも、結合係数kを高めやすい。また、追加磁極部30は、板状であるため、厚みcを調整することにより軽量に構成することが容易である。よって、第2実施形態のソレノイドコイルユニット50Aであれば、棒状コア20の中央部21の長さLや断面積Sを小さくして軽量化した場合でも、追加磁極部30を設けることにより、結合係数kを高めることが可能になる。つまり、第2実施形態のソレノイドコイルユニット50Aであれば、重量の増大を抑制しながら結合係数kを高めることが、より一層容易にできる。
【0071】
図12に、従来のコイルユニットを用いた非接触給電装置におけるコイルユニット間の離間距離Gと結合係数kとの関係の一例を示すグラフを示す。一点鎖線で示す第1のグラフGPは、
図16(A)に示す従来のサーキュラーコイルユニット100Aにおいて得られる離間距離Gと結合係数kとの関係の一例を示している。二点点鎖線で示す第2のグラフGSは、
図16(B)に示す平板状のフェライトコア102Bを有する従来のソレノイドコイルユニット100Bにおいて得られる離間距離Gと結合係数kとの関係の一例を示している。従来のコイルユニット100A,100Bを用いて非接触給電を行う場合、離間距離Gと結合係数kとは、一般的に、いわゆるトレードオフの関係にあり、離間距離Gを大きくすると、結合係数kが低下する関係にある。
【0072】
ここで、2つのグラフGP,GSの周辺における網点のハッチングが付された領域RAは、従来技術で達成されている給電性能のおおよその範囲を示している。以下、領域RAを「基準領域RA」とも呼ぶ。
図12において、基準領域RAより右上の領域に結合係数kがプロットされる場合には、その非接触給電装置は、従来よりも高い高効率の給電性能を示す構成を有していると言える。逆に、基準領域RAより左下の領域に結合係数kがプロットされる場合には、その非接触給電装置は、従来よりも低効率の給電性能を示す構成を有していると言える。
【0073】
下記の表1を参照する。本願発明の発明者は、第2実施形態の実施例として、
図8のソレノイドコイルユニット50Aの構成において、L=420mm、w=50mm、t=15mm、a=150mm、b=150mm、c=3mmとした、ソレノイドコイルユニット50Aの製造例Eを作製した。
【0074】
【0075】
本願発明の発明者は、その製造例Eを用いて、
図9に示す非接触給電装置55Aを構成し、離間距離G=200mmとしたときの結合係数kを求めた。その結果を、
図12において点PIとしてプロットしてある。この実施例では、結合係数kの値は0.175であり、従来よりも高効率の高い給電性能を有していることがわかる。
【0076】
このように、第2実施形態のソレノイドコイルユニット50Aの構成であれば、追加磁極部30を設けることにより、重量の増加を抑制しながら結合係数kをさらに高くすることが可能である。第2実施形態のソレノイドコイルユニット50Aによれば、離間距離Gが200mmであるときに限らず、離間距離Gを、例えば、150mm以上250mm以下の範囲内の任意の値で設定した場合や、180mm以上220mm以下の範囲内の任意の値で設定した場合でも、結合係数kを0.18以上や、0.2以上にすることができる。
【0077】
次に、上記の製造例Eの重量を、従来の平板状コアとH型コアを用いたソレノイドコイルユニットと比較した。その結果を下記の表2に示す。比較例のソレノイドコイルユニットは、離間距離Gが70mm~100mmと短いときに、製造例Eと同等の結合係数kを示した。つまり、製造例Eは、比較例よりも軽量であり、かつ、比較例よりも高い給電性能を示した。なお、比較例のソレノイドコイルユニットにおいて、離間距離Gを200mmとして同等の結合係数kを実現しようとすると、コイルやコアの長さは2倍、面積としては4倍程度が必要になる可能性があり、その分だけ重量が増加することになる。
【0078】
【0079】
表2から読み取れるように、従来の平板状コアやH型コアを用いたソレノイドコイルユニットに比べ、第2実施形態のソレノイドコイルユニット50Aによれば、給電性能を高めながら、大幅に軽量化することが可能であり、これにより電動モビリティ等への搭載を現実的なものとすることができる。
【0080】
図13および
図14を参照して、ソレノイドコイルユニット50Aのロバスト性について説明する。
図13は、非接触給電装置55Aを構成する一対のソレノイドコイルユニット50A,50Aaがx方向に距離Dxだけ位置ずれした配置状態を模式的に示している。
図14は、一対のソレノイドコイルユニット50A,50Aaがy方向に距離Dyだけ位置ずれした配置状態を模式的に示している。
【0081】
第2実施形態のソレノイドコイルユニット50Aを用いた非接触給電装置55Aであれば、位置ずれが生じた場合であっても、追加磁極部30を有している分だけ、位置ずれによる結合係数kの低下が抑制される。よって、一対のソレノイドコイルユニット50A,50Aaの間の位置ずれに対する高いロバスト性を得ることができる。
【0082】
なお、ソレノイドコイルユニット50Aでは、追加磁極部30の幅bは、中央部21の幅wよりも大きいことが好ましい。これによって、追加磁極部30が幅方向に張り出している分だけ、幅方向の位置ずれに対するロバスト性を高めることができる。また、ソレノイドコイルユニット50Aでは、追加磁極部30は、長さaと幅bとが等しいことが望ましい。これによって、中心軸方向と幅方向の両方の位置ずれに対するロバスト性を高めることができる。
【0083】
以下に、本願発明の発明者が行った、非接触給電装置55Aの位置ずれに対するロバスト性についての実験結果を説明する。この実験では、上述した製造例Eを用いて、離間距離Gを200mmとした非接触給電装置55Aを構成し、x方向およびy方向のそれぞれに、150mmずらして非接触給電を行った。
【0084】
ここで、一般に、インダクタンスLは数式2によって表現される。
図13や
図14のように位置ずれが生じた場合は、磁極同士が離間方向に重なる面積Sの減少と磁路長lの増加により、インダクタンスLは減少することになる。この実験例では電気回路に用いたコンデンサの静電容量Cは一定であることから、数式3に基づいてインダクタンスLが減少した分、共振周波数fを増加させることで共振が維持されることになる。
【0085】
【0086】
表3に実験の結果を示す。幅方向へ150mmの位置ずれが生じた場合は、92.5%の効率が85.0%にまで低下するが、上述の通り供給周波数を調整することによって91.6%まで効率を上げることが可能であることがわかった。また、中心軸方向へ150mmの位置ずれが生じた場合は、92.2%の効率が81.9%まで低下するが、同様に供給周波数を調整することで91.0%まで効率を上げることが可能であることがわかった。
【0087】
【0088】
図15に、幅方向であるx方向と中心軸方向であるy方向のそれぞれに位置ずれさせた場合の結合係数kの変化を示すグラフを図示してある。
図15の横軸は位置ずれ量[mm]を示し、縦軸は位置ずれがない状態で1.0となるように正規化した結合係数k/k
0を示している。
【0089】
グラフGx,Gyは、上記の製造例Eを用いた非接触給電装置55Aにおいて得られたものである。グラフGxは、x方向に位置ずれさせたときのものであり、グラフGyは、y方向に位置ずれさせたときのものである。
【0090】
比較例のグラフC1~C3は非特許文献1に開示されている結合係数を基にグラフ化したものである。比較例のグラフC1はH型コアを用いた構成においてx方向の位置ずれを生じさせたときのものである。比較例のグラフC2はH型コアを用いた構成においてy方向の位置ずれを生じさせたときのものである。比較例のグラフC3は、サーキュラー型のコイルユニットを用いた構成において位置ずれを生じさせたときのものである。なお、サーキュラー型の位置ずれについては、x方向、および、y方向の方向依存性は無い。
【0091】
図15によると、ソレノイドコイルユニット50Aの製造例Eを用いた場合、位置ずれ量が300mmに達した場合であっても、x方向の位置ずれに対しては45%以上、y方向の位置ずれに対しては20%以上、結合係数kが維持された状態で電力の授受が可能であることを示している。一方、比較例のグラフC1~C3ではいずれも、結合係数kは、位置ずれ量が大きくなるにつれ、急激に低下していることが読み取れる。比較例のグラフC1では、位置ずれ量300mmでは結合係数kはほぼゼロとなり、比較例のグラフC2およびC3では、位置ずれ量が100mmに達した段階で既に、結合係数kがゼロより小さくなり、電力の授受ができないデッドスポットが存在している。
【0092】
このように電力の伝送効率におよぼす位置ずれの影響を評価した結果、x方向、y方向共に高いロバスト性を有していることが確認された。これにより非接触給電技術のアプリケーションはより広がることとなり、電動モビリティへの走行中給電もより現実的なものとなる。
【0093】
以上のように、第2実施形態のソレノイドコイルユニット50Aおよびそれを用いた非接触給電装置55Aによれば、追加磁極部30が設けられていることにより、より一層、高い次元で、結合係数、ロバスト性、軽量化の全てを成立させることができる。
【0094】
3.まとめ:
表4に示すように、従来のサーキュラー型のコイルユニットや、平板状コアを有するソレノイド型のコイルユニット、H型コアを有するソレノイド型のコイルユニットでは、結合係数、ロバスト性、軽量化のいずれの基準をも満たす状態ではない。これに対して、第1実施形態や第2実施形態のソレノイドコイルユニット50,50Aによれば、上述したように、結合係数、ロバスト性、軽量化の全てを高い次元で成立させることができる。また、従来のサーキュラー型のコイルユニットや、平板状コアを有するソレノイド型のコイルユニットでは、位置ずれが大きくなったときにデッドスポットが生じてしまう。H型コアを有するソレノイド型のコイルユニットでは、位置ずれの方向によってはデッドスポットが生じてしまう場合がある。これに対して、第1実施形態や第2実施形態のソレノイドコイルユニット50,50Aによれば、そうした従来のソレノイドコイルユニットよりも、位置ずれによるデッドスポットの発生を抑制することができる。
【0095】
【0096】
以上、本願発明の好ましい実施形態および実施例について説明したが、本願発明はかかる実施形態や実施例に限定されるものではない。本願で開示した構成は、本願発明の技術的思想の範囲において、様々な変更や修正を加えることができる。例えば、上記の第1実施形態や第2実施形態のソレノイドコイルユニット50,50Aを、構成の異なる他のコイルユニットとの間の非接触給電に用いてもよい。
【符号の説明】
【0097】
10 ソレノイドコイル
20 棒状コア
21 中央部
22 端部
30 追加磁極部
50,50a,50A,50Aa ソレノイドコイルユニット
55,55A 非接触給電装置
100A,100B コイルユニット
101A サーキュラー型コイル
101B ソレノイド型コイル
102A 円盤状のフェライトコア
102B 平板状のフェライトコア
CX 中心軸
MF 磁束