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特許7357331スクラバ装置、及びスクラバ装置を搭載した船舶
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】スクラバ装置、及びスクラバ装置を搭載した船舶
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/50 20060101AFI20230929BHJP
   B63H 21/32 20060101ALI20230929BHJP
   B01D 53/78 20060101ALI20230929BHJP
   B01D 47/06 20060101ALI20230929BHJP
【FI】
B01D53/50 270
B63H21/32 Z
B01D53/78 ZAB
B01D47/06 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019068917
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020163337
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】平田 宏一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 千織
(72)【発明者】
【氏名】益田 晶子
(72)【発明者】
【氏名】市川 泰久
(72)【発明者】
【氏名】市川 真由子
(72)【発明者】
【氏名】馬 驍
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-197624(JP,A)
【文献】特開2007-051555(JP,A)
【文献】特開2002-332919(JP,A)
【文献】国際公開第2014/196575(WO,A1)
【文献】特開平10-339129(JP,A)
【文献】特開2000-296307(JP,A)
【文献】特開昭52-016481(JP,A)
【文献】国際公開第2016/009549(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/34-53/73,53/74-53/85,53/92,53/96
B63H 1/00-25/52
B01D 47/00-47/18
F01N 3/00,3/02,3/04-3/38,9/00-11/00
F01N 3/01,3/02-3/038
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼機関からの排ガスを処理するスクラバ装置であって、前記排ガスの流れる第1排ガス経路と、前記第1排ガス経路の前記排ガスに対して処理用の液体を前記排ガスの流れと並行に噴射する液体噴射手段と、前記第1排ガス経路に接続された第2排ガス経路と、前記第1排ガス経路と前記第2排ガス経路の接続部に設けた前記液体を回収する液体回収手段と、前記液体噴射手段から噴射される前記液体の流量を前記燃焼機関の負荷に応じて変更する液体流量変更手段とを備え、前記液体噴射手段を複数個設けるとともに、それぞれの噴射ノズルの口径を異ならせ、処理用の前記液体を前記第1排ガス経路のみにおいて噴射し、前記液体流量変更手段は、前記燃焼機関の前記負荷に応じ使用する前記複数個の前記液体噴射手段を選択することにより、前記変更を行うことを特徴とするスクラバ装置。
【請求項2】
前記液体噴射手段から噴射する前記液体の流量と前記第1排ガス経路を流れる前記排ガスの流量の比である液・ガス比を4L/Nm3以上とすることを特徴とする請求項1に記載のスクラバ装置。
【請求項3】
前記液体流量変更手段は、前記液体噴射手段から噴射される前記液体の流量を前記燃焼機関の前記負荷により変化する前記排ガスの流量に応じて変更することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスクラバ装置。
【請求項4】
記液体流量変更手段は、使用する前記複数個の前記液体噴射手段の組み合わせを選択することにより、前記変更を行うことを特徴とする請求項3に記載のスクラバ装置。
【請求項5】
前記第1排ガス経路に前記液体噴射手段を複数段設け、前記複数段の前記液体噴射手段のうちの上流側に位置する前記液体噴射手段から噴射する前記液体の噴射圧を下流側に位置する前記液体噴射手段から噴射する前記液体の噴射圧よりも低くしたことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載のスクラバ装置。
【請求項6】
前記液体噴射手段は、前記第1排ガス経路の内径の中心点よりも上側の位置から前記液体を噴射することを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載のスクラバ装置。
【請求項7】
前記第1排ガス経路は下方に向かい、前記第2排ガス経路は上方に向かうように構成したことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載のスクラバ装置。
【請求項8】
前記第2排ガス経路は略鉛直方向に設けられ、前記第1排ガス経路は斜めに前記第2排ガス経路に接続されることを特徴とする請求項に記載のスクラバ装置。
【請求項9】
前記液体回収手段に、前記第1排ガス経路に噴射された前記液体を捕捉し前記排ガスと分離する気液セパレータを備えたことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載のスクラバ装置。
【請求項10】
前記第2排ガス経路に、前記液体回収手段で回収ができなかった前記液体の飛沫を回収するミストキャッチャーを備えたことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載のスクラバ装置。
【請求項11】
前記燃焼機関からの前記排ガスの中に含まれる硫黄酸化物を処理することを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか1項に記載のスクラバ装置。
【請求項12】
前記液体として海水を用いることを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか1項に記載のスクラバ装置。
【請求項13】
請求項1から請求項12のいずれか1項に記載のスクラバ装置を船舶に搭載し、前記燃焼機関としてのディーゼルエンジンからの前記排ガスを処理することを特徴とするスクラバ装置を搭載した船舶。
【請求項14】
前記スクラバ装置の作動を海域ごとに異なる前記船舶からの排ガス規制に応じて制御することを特徴とする請求項13に記載のスクラバ装置を搭載した船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼機関からの排ガスを処理するスクラバ装置、及びスクラバ装置を搭載した船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
スクラバ装置は、排ガス中のSOx(硫黄酸化物)を除去する。またスクラバ装置は、SOx削減だけでなく、ブラックカーボンも除去する可能性のある技術として知られている。
図22は燃料油の硫黄分濃度の上限値に関する規制の強化年表である。船舶関係においては、2020年の燃料油硫黄分濃度規制(SOx規制)に伴い、低硫黄燃料の使用、又はスクラバ装置が多くの船舶に搭載される見込みである。
【0003】
図23は従来のスクラバ装置の型式の例を示す図であり、図23(a)は充填塔式、図23(b)は対向流式である。
充填塔式の場合は充填材が目詰まりを起こす場合がある。また、複数の経路に液体噴射手段が必要であり大量に液体を流すところ小型化が困難である。対向流式の場合は小型化が可能であるが、圧力損失が大きく燃焼機関に逆圧がかかるおそれがある。
【0004】
ここで、特許文献1には、被処理排ガスと塩水とを気液接触させるスクラバを用いて被処理排ガス中の有害成分を除去するに当たり、スクラバ内での塩水の流動方向に関して上流側と下流側との間に少なくとも一対の電極を介して直流電圧を印加し、上流側から下流側へ流動する塩水を介して両電極間を導通させて被処理排ガスとスクラバ内及び電極の表面を流動する塩水とを気液接触処理及び電解酸化・還元処理する排ガス浄化方法が開示されている。
また、特許文献2には、酸性廃液を生成させる海水利用設備用水中の海洋生物殺菌方法において、燃焼排ガスを海水と気液接触反応させて酸性廃液を生成させる手段として、ガス拡散電極を備えた気液接触部を有するスクラバからなる燃焼排ガス浄化処理装置を用い、気液接触部に海水と燃焼排ガスを供給することにより気液接触反応させて排ガス浄化処理を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-89770号公報
【文献】特開2009-112996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2は、充填塔式と同様に装置構成が複雑であり、小型化が困難である。
そこで本発明は、燃焼機関からの排ガスを処理する能力を十分にもち、かつ小型であるスクラバ装置、及びスクラバ装置を搭載した船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載に対応したスクラバ装置においては、燃焼機関からの排ガスを処理するスクラバ装置であって、排ガスの流れる第1排ガス経路と、第1排ガス経路の排ガスに対して処理用の液体を排ガスの流れと並行に噴射する液体噴射手段と、第1排ガス経路に接続された第2排ガス経路と、第1排ガス経路と第2排ガス経路の接続部に設けた液体を回収する液体回収手段と、液体噴射手段から噴射される液体の流量を燃焼機関の負荷に応じて変更する液体流量変更手段とを備え、液体噴射手段を複数個設けるとともに、それぞれの噴射ノズルの口径を異ならせ、処理用の液体を第1排ガス経路のみにおいて噴射し、液体流量変更手段は、燃焼機関の負荷に応じ使用する複数個の液体噴射手段を選択することにより、変更を行うことを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、第1排ガス経路と第2排ガス経路の接続部に液体回収手段を設けているため噴射した液体が回収しやすく、処理用の液体を排ガスの流れと並行に噴射するため、燃焼機関に逆圧がかかって燃焼に支障を来たすことがなく、高い排ガス処理能力を有する小型のスクラバ装置とすることができる。また、処理用の液体を第1排ガス経路のみにおいて噴射することにより、液体の噴射量が少なくてすみ、スクラバ装置の簡素化も図れる。また、負荷に応じて適正な液量を確保し、より適切に排ガスの処理を行うことができる。
【0008】
請求項2記載の本発明は、液体噴射手段から噴射する液体の流量と第1排ガス経路を流れる排ガスの流量の比である液・ガス比を4L/Nm3以上とすることを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、液・ガス比を確保し、排ガス処理の規制値をより確実にクリアすることができる。
【0009】
請求項3記載の本発明は、液体流量変更手段は、液体噴射手段から噴射される液体の流量を燃焼機関の負荷により変化する排ガスの流量に応じて変更することを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、適正な液・ガス比を保ち、より適切に排ガスの処理を行うことができる
【0010】
求項記載の本発明は、液体流量変更手段は、使用する複数個の液体噴射手段の組み合わせを選択することにより、変更を行うことを特徴とする。
請求項に記載の本発明によれば、液体噴射手段の組み合わせを選択して、より簡便かつ適切に液体の流量を変更することができる。
【0011】
請求項記載の本発明は、第1排ガス経路に液体噴射手段を複数段設け、複数段の液体噴射手段のうちの上流側に位置する液体噴射手段から噴射する液体の噴射圧を下流側に位置する液体噴射手段から噴射する液体の噴射圧よりも低くしたことを特徴とする。
請求項に記載の本発明によれば、高い排ガス処理能力を維持しながら液体の噴射量を低く抑えて、消費エネルギーを節約することができる。
【0012】
請求項記載の本発明は、液体噴射手段は、第1排ガス経路の内径の中心点よりも上側の位置から液体を噴射することを特徴とする。
請求項に記載の本発明によれば、噴射した液体が第1排ガス経路の下壁面と接しにくくなり、排ガス全体に行き渡りより少ない流量で排ガス処理性能を高めることができる。
【0013】
請求項記載の本発明は、第1排ガス経路は下方に向かい、第2排ガス経路は上方に向かうように構成したことを特徴とする。
請求項に記載の本発明によれば、液体回収手段の液体が液体噴射手段側に逆流することを防止しつつ、液体回収手段における液体の回収を容易にすることができる。
【0014】
請求項記載の本発明は、第2排ガス経路は略鉛直方向に設けられ、第1排ガス経路は斜めに第2排ガス経路に接続されることを特徴とする。
請求項に記載の本発明によれば、より一層効果的に排ガスの処理と、例えばスクラバ装置が揺動しても液体回収手段の液体の逆流防止を行うことができる。
【0015】
請求項記載の本発明は、液体回収手段に、第1排ガス経路に噴射された液体を捕捉し排ガスと分離する気液セパレータを備えたことを特徴とする。
請求項に記載の本発明によれば、噴射された液体を効果的に回収することができる。
【0016】
請求項10記載の本発明は、第2排ガス経路に、液体回収手段で回収ができなかった液体の飛沫を回収するミストキャッチャーを備えたことを特徴とする。
請求項10に記載の本発明によれば、液体回収手段で回収しきれなかった液体のミストや噴射された液体により生じたミスト等の飛沫がスクラバ装置の外部に放出されることを防止できる。
【0017】
請求項11記載の本発明は、燃焼機関からの排ガスの中に含まれる硫黄酸化物を処理することを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、排ガスの中に含まれるSOx(硫黄酸化物)の削減を行うことができる。
【0018】
請求項12記載の本発明は、液体として海水を用いることを特徴とする。
請求項12に記載の本発明によれば、清水や工業用水の場合と比べて脱硫性能を高め、安価に提供することができる。
【0019】
請求項13記載に対応したスクラバ装置を搭載した船舶においては、スクラバ装置を船舶に搭載し、燃焼機関としてのディーゼルエンジンからの排ガスを処理することを特徴とする。
請求項13に記載の本発明によれば、船舶を燃料油硫黄分濃度規制(SOx規制)や排ガス規制等に対応させることができ、例えば、ブラックカーボンの除去を行なうこともできる。
【0020】
請求項14記載の本発明は、スクラバ装置の作動を海域ごとに異なる船舶からの排ガス規制に応じて制御することを特徴とする。
請求項14に記載の本発明によれば、海域ごとの排ガス規制に応じてスクラバ装置の効率的な運用を行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のスクラバ装置によれば、第1排ガス経路と第2排ガス経路の接続部に液体回収手段を設けているため噴射した液体が回収しやすく、処理用の液体を排ガスの流れと並行に噴射するため、燃焼機関に逆圧がかかって燃焼に支障を来たすことがなく、高い排ガス処理能力を有する小型のスクラバ装置とすることができる。また、処理用の液体を第1排ガス経路のみにおいて噴射することにより、液体の噴射量が少なくてすみ、スクラバ装置の簡素化も図れる。また、負荷に応じて適正な液量を確保し、より適切に排ガスの処理を行うことができる。
【0022】
また、液体噴射手段から噴射する液体の流量と第1排ガス経路を流れる排ガスの流量の比である液・ガス比を4L/Nm3以上とする場合には、液・ガス比を確保し、排ガス処理の規制値をより確実にクリアすることができる。
【0023】
また、液体流量変更手段は、液体噴射手段から噴射される液体の流量を燃焼機関の負荷により変化する排ガスの流量に応じて変更する場合には、適正な液・ガス比を保ち、より適切に排ガスの処理を行うことができる
【0024】
、液体流量変更手段は、使用する複数個の液体噴射手段の組み合わせを選択することにより、変更を行う場合には、液体噴射手段の組み合わせを選択して、より簡便かつ適切に液体の流量を変更することができる。
【0025】
また、第1排ガス経路に液体噴射手段を複数段設け、複数段の液体噴射手段のうちの上流側に位置する液体噴射手段から噴射する液体の噴射圧を下流側に位置する液体噴射手段から噴射する液体の噴射圧よりも低くした場合には、高い排ガス処理能力を維持しながら液体の噴射量を低く抑えて消費エネルギーを節約することができる。
【0026】
また、液体噴射手段は、第1排ガス経路の内径の中心点よりも上側の位置から液体を噴射する場合には、噴射した液体が第1排ガス経路の下壁面と接しにくくなり、排ガス全体に行き渡りより少ない流量で排ガス処理性能を高めることができる。
【0027】
また、第1排ガス経路は下方に向かい、第2排ガス経路は上方に向かうように構成した場合には、液体回収手段の液体が液体噴射手段側に逆流することを防止しつつ、液体回収手段における液体の回収を容易にすることができる。
【0028】
また、第2排ガス経路は略鉛直方向に設けられ、第1排ガス経路は斜めに第2排ガス経路に接続される場合には、より一層効果的に排ガスの処理と、例えばスクラバ装置が揺動しても液体回収手段の液体の逆流防止を行うことができる。
【0029】
また、液体回収手段に、第1排ガス経路に噴射された液体を捕捉し排ガスと分離する気液セパレータを備えた場合には、噴射された液体を効果的に回収することができる。
【0030】
また、第2排ガス経路に、液体回収手段で回収ができなかった液体の飛沫を回収するミストキャッチャーを備えた場合には、液体回収手段で回収しきれなかった液体のミストや噴射された液体により生じたミスト等の飛沫がスクラバ装置の外部に放出されることを防止できる。
【0031】
また、燃焼機関からの排ガスの中に含まれる硫黄酸化物を処理する場合には、排ガスの中に含まれるSOx(硫黄酸化物)の削減を行うことができる。
【0032】
また、液体として海水を用いる場合には、清水や工業用水の場合と比べて脱硫性能を高め、安価に提供することができる。
【0033】
また、本発明のスクラバ装置を搭載した船舶によれば、船舶を燃料油硫黄分濃度規制(SOx規制)や排ガス規制等に対応させることができ、例えば、ブラックカーボンの除去を行なうこともできる。
【0034】
また、スクラバ装置の作動を海域ごとに異なる船舶からの排ガス規制に応じて制御する場合には、海域ごとの排ガス規制に応じてスクラバ装置の効率的な運用を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の実施形態によるスクラバ装置の設置概要図
図2】同スクラバ装置の主要部概要図
図3】同液体噴射手段の外観写真
図4】同他の実施形態によるスクラバ装置の概要図
図5】同更に他の実施形態によるスクラバ装置の概要図
図6】同更に他の実施形態によるスクラバ装置の概要図
図7】試験装置の構成図
図8】試験装置におけるスクラバ装置の一部の外観写真
図9】各噴射ノズルの液体圧力に対する流量の推定値を示すグラフ
図10】同じ口径の噴射ノズルを有する2つの液体噴射手段を用いたスクラバ装置によるブラックカーボンの計測結果を示すグラフ
図11】口径が異なる噴射ノズルを有する3つの液体噴射手段を用いたスクラバ装置によるブラックカーボン削減率の試験結果を示すグラフ(負荷率37.5%)
図12】同じ口径の噴射ノズルを有する2つの液体噴射手段を用いたスクラバ装置による脱硫性能の評価結果を示すグラフ(負荷率を50%)
図13】同じ口径の噴射ノズルを有する2つの液体噴射手段を用いたスクラバ装置において排ガス計測位置を変化させたときの排ガス性状の試験結果を示すグラフ
図14】同じ口径の噴射ノズルを有する2つの液体噴射手段を用いたスクラバ装置において液体の性質を変化させたときの排ガス性状の試験結果を示すグラフ(負荷率50%、計測位置0.9m)
図15】同じ口径の噴射ノズルを有する2つの液体噴射手段を用いたスクラバ装置における液体水流量が脱硫性能に及ぼす影響に関する試験結果を示すグラフ(負荷率25~100%)
図16】口径が異なる噴射ノズルを有する3つの液体噴射手段を用いたスクラバ装置において噴射ノズル及び液体流量を変化させて排ガス性状を計測した結果を示すグラフ
図17図16のグラフを整理した各エンジン負荷率における液体流量に対する脱硫性能を示すグラフ
図18図17のグラフの横軸を液・ガス比とした各エンジン負荷率における液体流量に対する脱硫性能を示すグラフ
図19】同じ口径の噴射ノズルを有する2つの液体噴射手段を用いたスクラバ装置において噴射ノズルが脱硫性能に及ぼす影響に関する試験結果を示すグラフ
図20】同じ口径の噴射ノズルを有する2つの液体噴射手段を用いたスクラバ装置における排ガス流量(負荷率)の影響に関する試験結果を示すグラフ
図21】同じ口径の噴射ノズルを有する2つの液体噴射手段を用いたスクラバ装置における排ガス流量(負荷率)の影響に関する試験結果を示すグラフ
図22】燃料油の硫黄分濃度の上限値に関する規制の強化年表
図23】従来のスクラバ装置の型式の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に、本発明の実施形態によるスクラバ装置、及びスクラバ装置を搭載した船舶について説明する。
【0037】
図1は本実施形態によるスクラバ装置の設置概要図である。
ディーゼルエンジン等の燃焼機関100からの排気ガスは、選択触媒還元脱硝装置(SCR)200を通って、又は選択触媒還元脱硝装置(SCR)200をバイパスしてスクラバ装置1に流入する。
【0038】
図2は本実施形態によるスクラバ装置の主要部概要図であり、図2(a)は全体図、図2(b)は液体噴射手段の図である。また、図3は液体噴射手段の外観写真である。
スクラバ装置1は、燃焼機関100からの排ガスを処理する。図2においては排ガスの流れ方向を矢印で示している。スクラバ装置1は、排ガスの流れる第1排ガス経路10と、第1排ガス経路10の排ガスに対して処理用の液体を排ガスの流れと並行に噴射する液体噴射手段20と、第1排ガス経路に接続された第2排ガス経路30と、第1排ガス経路10と第2排ガス経路30の接続部に設けた液体を回収する液体回収手段40とを備える。スクラバ装置1において、排ガス処理用の液体は、第1排ガス経路10のみにおいて噴射される。
第1排ガス経路10と第2排ガス経路30の接続部に液体回収手段40を設けているため噴射した液体が回収しやすく、処理用の液体を排ガスの流れと並行に噴射するため、燃焼機関100に逆圧がかかって燃焼に支障を来たすことがなく、高い排ガス処理能力を有する小型のスクラバ装置1とすることができる。
また、排ガス処理用の液体を排ガス流れと並行に第1排ガス経路10のみにおいて噴射することで、液体の噴射量が少なくてすみ、スクラバ装置1の簡素化も図れる。
また、スクラバ装置1は、燃焼機関100からの排ガスの中に含まれるSOx(硫黄酸化物)の削減を行うことができる。
【0039】
液体噴射手段20は複数個設けられており、それぞれ噴射ノズルを備えている。第1の液体噴射手段20Aの噴射ノズルの口径は第2の液体噴射手段20Bの噴射ノズルの口径よりも大きく、第2の液体噴射手段20Bの噴射ノズルの口径は、第3の液体噴射手段20Cの噴射ノズルの口径よりも大きい。噴射ノズルの口径比は、第1の液体噴射手段20A:第2の液体噴射手段20B:第3の液体噴射手段20C≒4:2:1である。これにより、各噴射ノズルから噴射される液体の流量[L/min]を異ならせている。
図2に示すように、第1の液体噴射手段20Aの噴射ノズルの噴射口を第1排ガス経路10の内径の中心点Cよりも上側の位置に配置し、第2の液体噴射手段20Bの噴射ノズルの噴射口を第1排ガス経路10の内径の中心点Cに配置し、第3の液体噴射手段20Cの噴射ノズルの噴射口を第1排ガス経路10の内径の中心点Cよりも下側の位置に配置している。第1排ガス経路10の内径の中心点Cよりも上側の位置から液体を噴射することで、噴射した液体が第1排ガス経路10の内径の中心点Cよりも下側の位置から液体を噴射する場合と比べて第1排ガス経路10の下壁面と接しにくくなり、排ガス全体に行き渡りより少ない流量で排ガス処理性能を高めることができる。
【0040】
液体噴射手段20には、液体噴射手段20から噴射される液体の流量を排ガスの流量に応じて変更する液体流量変更手段50を備えている。液体流量変更手段50は、バルブと制御部から成り、別途計測した排ガス流量に応じて噴射する液体の流量を制御する。
噴射される液体の流量が排ガスの流量に応じて変更されることで、適正な液・ガス比を保ち、より適切に排ガスの処理を行うことができる。
また、液体流量変更手段50は、燃焼機関100の負荷に応じて、噴射される液体の流量を変更することもできる。燃焼機関100の負荷は回転検出器等のセンサ情報から判断する。これにより、負荷に応じて適正な液量を確保し、より適切に排ガスの処理を行うことができる。
また、本実施形態のように液体噴射手段20を複数個設けた場合には、液体流量変更手段50は、液体噴射手段20の使用個数を選択することにより、液体の流量の変更を行うことができる。これにより、液体噴射手段20の使用個数を選択して、より簡便かつ適切に液体の流量を変更することができる。
【0041】
スクラバ装置1において、第1排ガス経路10は下方に向かい、第2排ガス経路30は上方に向かうように構成されている。これにより、排ガスを効果的に処理することができる。また、第1排ガス経路10と第2排ガス経路30の接続部が、第1排ガス経路10への排ガス入口側に配置されている液体噴射手段20よりも下方に位置することになり、接続部に設けられている液体回収手段40に溜まった液体が液体噴射手段20側に逆流することを防止しつつ、液体回収手段40における液体の回収を容易にすることができる。これは、船体が動揺する船舶にスクラバ装置1を適用する場合に特に有効である。
さらに、第2排ガス経路30は略鉛直方向に起立するように設けられ、第1排ガス経路10は第2排ガス経路30に対して斜めに接続されている。これにより、より一層効果的に排ガスの処理と、例えばスクラバ装置1が揺動しても液体回収手段40の液体の逆流防止を行うことができる。
なお、図2において、第1排ガス経路10は第2排ガス経路30に対して約45度に斜めに接続されているが、船舶に適用する場合、他の構造物とのスペースの取り合いからこれ以下の角度であることが望ましい。
【0042】
液体回収手段40には、第1排ガス経路10に噴射された液体を捕捉し排ガスと分離する気液セパレータ41を構造として備えている。これにより、噴射された液体を効果的に回収することができる。
本実施形態では、第1排ガス経路10と第2排ガス経路30の接続部を装置下面から所定距離上方に設けることで、接続部と装置下面との間を気液セパレータ41としている。気液セパレータ41に溜まった液体は、装置下面に接続されているドレイン配管42を介してドレインタンク(図示無し)に送出される。
【0043】
また、スクラバ装置1は、液体回収手段40で回収ができなかった液体の飛沫を回収するミストキャッチャー60を、第2排ガス経路30の上部に備えている。これにより、液体回収手段40で回収しきれなかった液体のミストや噴射された液体により生じたミスト等の飛沫がスクラバ装置1の外部に放出されることを防止できる。なお、液体回収手段40で回収ができなかった液体の飛沫には、排ガスが急速に冷却されたことで生じる硫酸ミストを含むものであり、スクラバ装置1によっては、硫酸ミストの割合が大部分を占める場合もある。
【0044】
また、スクラバ装置1は、液体として海水を用いることもできる。排ガス処理用の液体として海水を用いることで、清水や工業用水の場合と比べて脱硫性能を高め、安価に提供することができる。
【0045】
また、スクラバ装置1を船舶に搭載し、燃焼機関100としてのディーゼルエンジンからの排ガスを処理することで、船舶を燃料油硫黄分濃度規制(SOx規制)や排ガス規制等に対応させることができ、例えば、ブラックカーボンの除去を行なうこともできる。
また、スクラバ装置1を船舶に搭載した場合は、スクラバ装置1の作動を海域ごとに異なる船舶からの排ガス規制に応じて制御することで、海域ごとの排ガス規制に応じてスクラバ装置1の効率的な運用を行うことができる。
【0046】
次に、本発明の他の実施形態によるスクラバ装置、及びスクラバ装置を搭載した船舶について説明する。なお、上記した実施形態と同一機能部材については同じ符号を付して説明を省略する。
図4は本発明の他の実施形態によるスクラバ装置の概要図である。
本実施形態によるスクラバ装置1は、第1排ガス経路10において液体噴射手段20を上流側と下流側の2段に設け、2段の液体噴射手段20のうちの上流側に位置する液体噴射手段20から噴射する液体の噴射圧を下流側に位置する液体噴射手段20から噴射する液体の噴射圧よりも低くしている。
液体噴射手段20を多段に設けることで、より一層効果的に排ガスの処理を行うことができる。また、上流側の液体噴射手段20からの液体の噴射は排ガス温度の低下を主目的とすることができるため、高い排ガス処理能力を維持しながら液体の噴射量を低く抑えて消費エネルギーを節約することができる。
なお、液体噴射手段20を3段以上設けることもできる。
【0047】
次に、本発明の更に他の実施形態によるスクラバ装置、及びスクラバ装置を搭載した船舶について説明する。なお、上記した実施形態と同一機能部材については同じ符号を付して説明を省略する。
図5は本発明の更に他の実施形態によるスクラバ装置の概要図である。
図5(a)は、第1排ガス経路10を第2排ガス経路30に対して垂直に設けたものである。
図5(b)は、第1排ガス経路10を第2排ガス経路30と平行に設けたものである。この場合は、接続部に設けられている液体回収手段40に溜まった液体が液体噴射手段20側に逆流することをより一層防止できる。
【0048】
次に、本発明の更に他の実施形態によるスクラバ装置、及びスクラバ装置を搭載した船舶について説明する。なお、上記した実施形態と同一機能部材については同じ符号を付して説明を省略する。
図6は本発明の更に他の実施形態によるスクラバ装置の概要図である。
本実施形態では、液体回収手段40に、第1排ガス経路10の出口と向かい合わせに配置した多孔材から成る分離部43(気液セパレータ)を設けたものである。これにより、第1排ガス経路10に噴射された液体をより確実に捕捉し排ガスと分離することができる。
図6において、第1排ガス経路10は第2排ガス経路30に対して約10度に斜めに接続されている。これは、実際の船舶の他の構造物とのスペースの取り合いから定めたものであり、これ以下の角度になると、船舶が揺動した場合に液体が逆流する場合があるため、接続角度は10度以上であることが好ましく、15度以上であることがより好ましい。但し、第1排ガス経路10に逆流防止手段を備えた場合は、この限りではない。
【0049】
次に、本発明の実施形態によるスクラバ装置を用いた試験結果について説明する。
図7は試験装置の構成図である。また、図8は試験装置におけるスクラバ装置の一部の外観写真である。
試験装置は、SO計及びCO計71、排ガス出口温度計測器72、排ガス経路温度計測器73、O計74、排ガス入口温度計測器75、ブースターポンプ76、サンプル採取口77、循環タンク78、濁度計79、PAH計80、pH計81、スクラバ水温度計測器82、pH制御器83、循環ポンプ84、循環水冷却器85を備える。
【0050】
本試験においては、C重油(硫黄分濃度2.0~3.5%程度)を使用した。また、燃焼機関100として257kW中速ディーゼルエンジンを用いた。下表1は、ディーゼルエンジンの主要目である。
【表1】
【0051】
試験に用いたスクラバ装置1は、ディーゼルエンジンからの排ガス中のSOを脱硫するために設計されており、SO濃度が約800ppm、最大流量約1200Nm3 /hの排ガスを処理することが可能である。
スクラバ装置1では、排ガス中にSOを吸収するための液体(洗浄水)を噴射する。なお、第2排ガス経路30には、下方に向けて処理用の液体を噴射する第2の液体噴射手段86が設けられているが、本試験では使用していない。
スクラバ装置1をクローズループで運転する場合、噴射された液体は、下部の循環水出口より循環水タンク78に貯められ、再び排ガス処理用の液体として排ガス中に噴射される。循環水タンク78内では、pHを7に保つように、25%濃度の水酸化ナトリウムが自動で注入される。
また、試験においては、燃料として硫黄分濃度約2.2%のC重油(当初は硫黄分濃度2.24%、以降は燃料補給のため硫黄分濃度2.16%)を使用した。
【0052】
試験には図3に示す液体噴射手段20を用いた。上述の通り、第1の液体噴射手段20A、第2の液体噴射手段20B、第3の液体噴射手段20Cで噴射ノズルの口径は異なっており、これらの噴射ノズルを組み合わせて使用することができる。すなわち、液体流量に応じて、任意の組み合わせで噴射ノズルを使用することで液体噴射の状態を変化させることができる。下表2は3種類の噴射ノズルの仕様詳細である。また、図9はそれぞれの噴射ノズルの液体圧力に対する流量の推定値である。なお、図9では、第1の液体噴射手段20Aの噴射ノズルがNo.3、第2の液体噴射手段20Bの噴射ノズルがNo.2、第3の液体噴射手段20Cの噴射ノズルがNo.3に対応する。
【表2】
【0053】
液体噴射の状態や液体流量がSOx及びブラックカーボンの処理能力に及ぼす影響を調べるため、以下(I)及び(II)の試験を実施した。
(I)同口径の噴射ノズルを有する2つの液体噴射手段20を用いたスクラバ装置1によるブラックカーボンの計測
予備試験として、ミストキャッチャー60の下流において、同口径の噴射ノズルを有する2つの液体噴射手段20を用いたスクラバ装置1によるブラックカーボン処理能力を実機により計測する。
(II)口径が異なる噴射ノズルを有する3つの液体噴射手段20を用いたスクラバ装置1による液体噴射の影響を調べる試験
図3に示す液体噴射の状態を変化させることができる液体噴射手段20を用いて、噴射ノズル及び液体流量を変化させてブラックカーボン処理能力を計測する。液体噴射の影響を調べるため、ブラックカーボンの計測位置は噴射ノズルから0.9m離れた配管とした(図8参照)。
【0054】
スクラバ装置1によるブラックカーボン処理能力を検証するため、ディーゼルエンジンをC重油(硫黄分濃度2.2%)で運転し、同口径の噴射ノズルを有する2つの液体噴射手段20を用いたスクラバ装置1を用いてブラックカーボン削減率を計測した。ブラックカーボン削減率は、エンジン直後のBC濃度(スクラバ装置1前)と、ミストキャッチャー60の下流の配管でサンプリングしたBC濃度(スクラバ装置1後)から算出した。図10に試験結果を示す。図10は、同じ口径の噴射ノズルを有する2つの液体噴射手段を用いたスクラバ装置(充填塔式)によるブラックカーボンの計測結果を示すグラフである。
これより、エンジン負荷率25~100%の範囲において、ブラックカーボン削減率は60~80%程度であることがわかる。
【0055】
口径が異なる噴射ノズルを有する3つの液体噴射手段20を用いたスクラバ装置1を用いて、噴射ノズル及び液体流量を変化させてブラックカーボン処理能力を計測した。液体噴射の影響を調べるため、ブラックカーボンの計測位置は噴射ノズルから0.9m離れた配管とした(図8参照)。
【0056】
図11はエンジン負荷率を37.5%とした場合、口径が異なる噴射ノズルを有する3つの液体噴射手段20を用いたスクラバ装置1を使用した際のブラックカーボン削減率の試験結果である。これより、ブラックカーボン削減率は液体流量が多くなるに従って高まり、同一の液体流量において、噴射ノズルが小さくなるほど上昇していることがわかる。このことは、スクラバ装置1によるブラックカーボンの削減能力は噴射ノズルの影響を強く受けており、液体流量に適した適切な噴射ノズルを用いることによって、少量の液体であっても高いブラックカーボン削減率が得られることを示している。
【0057】
図12は別途実施した試験結果の一例であり、エンジン負荷率を50%とした場合、SO濃度(ppm)とCO濃度(% v/v)から、脱硫性能を評価した結果である。
本試験は、同口径の噴射ノズルを有する2つの液体噴射手段20を用いたスクラバ装置1を用いて実施しており、同じ型式の2本の噴射ノズルが取り付けられた状態で、使用する噴射ノズルの本数を変えて計測している。これより、脱硫性能は液体流量だけではなく、液体噴射の状態の影響を強く受けていることがわかる。なお、図12に示す破線は規制値(SO/CO=21.7以下で0.5%S相当)を表している。
【0058】
これらの試験から以下の事項が確認できた。
1)同口径の噴射ノズルを有する2つの液体噴射手段20を用いたスクラバ装置1によるブラックカーボン処理能力の実機試験を行い、エンジン負荷率25~100%の範囲において、ブラックカーボン削減率は60~80%程度であることを確認した。
2)ブラックカーボン処理能力は液体噴射の状態の影響を強く受け、液体流量に適した適切な噴射ノズルを用いることによって、少量の液体であっても高いブラックカーボン削減率が得られることを確認した。
3)噴射ノズルから0.9m離れた位置で、ブラックカーボン削減率は最大55%程度であることを確認した。
以上のことから、スクラバ装置1は、SOx削減だけでなく、ブラックカーボン削減の効果があることを確認した。
【0059】
上述した実機によるスクラバ装置1の確認試験の結果より、長さ0.9m程度の配管において、最大55%程度のブラックカーボン削減ができることを確認するとともに、SOx規制をクリアするための脱硫性能が得られることを確認した。一方、スクラバ装置1を数百~数千トン程度の比較的小さい船舶に搭載する場合、スクラバ装置1の小型化が必要となる。そこで、比較的小さい船舶にスクラバ装置1を搭載することを想定してスクラバ装置1の小型化に着目し、脱硫性能を詳細に調査した結果及び小型のスクラバ装置1の試設計を行った結果について述べるとともに、小型のスクラバ装置1によるブラックカーボン削減効果を評価する。
【0060】
実船搭載時に必要となる液体水量(噴射圧力を含めたポンプの仕様)を推定するための試験を行った。
以下の(I)~(III)の実機試験を実施した。
(I)排ガス計測位置を変化させたときの排ガス性状の計測
同口径の噴射ノズルを有する2つの液体噴射手段20を用いたスクラバ装置1において、噴射ノズルから計測位置までの距離を0.3~1.5mの範囲で変化させたときの排ガス性状を計測する(図8参照)。
(II)海水使用時の脱硫性能
オープンループスクラバによる使用を想定した海水使用時の排ガス性状を計測する。排ガス性状の計測位置は、噴射ノズルから計測位置までの距離を0.9mとする。
(III)口径が異なる噴射ノズルを有する3つの液体噴射手段20を用いたスクラバ装置1による試験
3つの液体噴射手段20の各噴射ノズルから計測位置までの距離を0.9mとし、エンジン負荷率及び液体流量を変化させて排ガス性状を計測する。さらに、同口径の噴射ノズルを有する2つの液体噴射手段20を用いたスクラバ装置1の試験結果と比較する。
【0061】
図13は同口径の噴射ノズルを有する2つの液体噴射手段20を用いたスクラバ装置1において、噴射ノズルから計測位置までの距離を0.3~1.5mの範囲で変化させたときの脱硫性能を求めた結果である。本試験において、排ガス中のSO濃度とCO濃度を計測し、その比によって脱硫性能を評価している。これより、計測位置が長く、液体流量が多くなるほど脱硫性能は高まり、液体流量が120L/minの場合、噴射ノズルから計測位置までの距離が0.6m以上、液体流量が90L/minの場合、噴射ノズルから計測位置までの距離が0.9m以上で規制値(SO/CO=21.7以下で0.5%S相当)をクリアできることがわかる。すなわち、規制値をクリアするためのスクラバ装置1の寸法及び液体流量の目安をつけることができた。
【0062】
スクラバ装置1の小型化を目指して機器設計を行う場合、液体を海水としたオープンループスクラバが有望である。オープンループスクラバは関連設備を少なくできるばかりでなく、清水よりも海水の方が高い脱硫性能が見込まれるためである。
図14は、エンジン負荷率を50%とした状態で、液体流量を変化させ、液体(清水、海水)の影響を調べた結果である。これより、清水よりも海水の方が高い脱硫性能が得られていることがわかる。
【0063】
図15は同口径の噴射ノズルを有する2つの液体噴射手段20を用いたスクラバ装置1において、エンジン負荷率を25~100%とした場合の試験結果である。本試験の際に計測したSO濃度とCO濃度から、脱硫性能を評価した。図15に示す破線は規制値(SO/CO=21.7以下で0.5%S相当)を表しており、これより、負荷率25%において液体流量が70L/min程度、負荷率が100%において液体流量が130L/min程度で規制値をクリアしていることがわかる。このことは、図8に示した長さ0.9m程度の配管において、規制値をクリアするための脱硫性能が得られることを意味している。
【0064】
図16は口径が異なる噴射ノズルを有する3つの液体噴射手段20を用いたスクラバ装置1において、噴射ノズル及び液体流量を変化させて排ガス性状を計測した結果である。
図16(a)はエンジン負荷率を25%としたときの結果であり、同口径の噴射ノズルを有する2つの液体噴射手段20を用いたスクラバ装置1においては、規制値をクリアするために70L/min程度の液体流量が必要であったのに対して、噴射ノズルNo.1(最も小さいノズル)を使うことにより15L/min程度の液体流量で十分な脱硫性能が得られていることがわかる。
図16(b)はエンジン負荷率を50%としたときの結果であり、噴射ノズルNo.1又はNo.2を使うことにより、同口径の噴射ノズルを有する2つの液体噴射手段20を用いたスクラバ装置1の液体流量と比べて1/3程度での液体流量で十分な脱硫性能が得られていることがわかる。
図16(c)及び(d)はそれぞれエンジン負荷率を75%、100%としたときの結果であり、噴射ノズルNo.3(最も大きいノズル)又は複数の噴射ノズルの組み合わせによってSOx規制をクリアするための脱硫性能が得られていることがわかる。
【0065】
これより、エンジン負荷率25~100%の範囲で、SOx規制をクリアするための脱硫性能が得られることを確認できた。また、スクラバ装置1の脱硫性能は噴射ノズルの影響を強く受け、口径が異なる噴射ノズルを有する3つの液体噴射手段20を用いたスクラバ装置1によって液体流量に適した適切な噴射ノズルを用いることによって、少量の液体であっても高い脱硫性能が得られることが確認された。すなわち、液体噴射ポンプの電動機にインバータなどを取り付け、適切な制御をすることによって、ポンプ動力の小出力化が可能になる。
【0066】
図17図16の試験結果を整理し、それぞれのエンジン負荷率において適切な噴射ノズルを使用したときの結果を抜き出してプロットしたグラフである。スクラバ装置1の塔内温度の制限があり、エンジン負荷率75%の際に噴射ノズルNo.1とNo.2を組み合わせた状態で運転できなかったため、エンジン負荷率50%と75%の液体流量の違いが大きい。耐熱性の高いスクラバ装置1であればエンジン負荷率50~75%の間もより少量の液体流量で適切な脱硫性能が得られると考えられる。
【0067】
図18図17の横軸を液・ガス比(液体流量[L/h]と排ガス流量[Nm3/h]との比)としたグラフである。液・ガス比はスクラバ装置1の性能を表す指標であり、スクラバ装置1の設計や液体流量の制御などに用いることができる数値である。本試験結果においては、液・ガス比が7L/Nm3以下で規制値をクリアしていることがわかる。
【0068】
本試験で試作したスクラバ装置1は、従来のスクラバ装置と比べて、高さを約1/2程度とすることができ、大幅な小型化を実現するとともに、エンジン負荷率25~100%の範囲で、SOx規制をクリアするための脱硫性能が得られる。また、ブラックカーボン削減率は40~60%程度である。さらに、本試験で試作したそれぞれ異なる口径の噴射ノズルを備えた複数個の液体噴射手段20を用いることによって、液体流量を適切に制御できるため、ポンプ出力を最小限に抑えることができる。このことは、排ガス中のSOxを除去するスクラバ装置1の各種船舶への適用範囲を拡げられるばかりでなく、それに伴うブラックカーボン削減にも寄与できることを示している。
【0069】
また、本試験のスクラバ装置1は、材料の腐食防止を目的とした樹脂コーティングを行わず、金属製とすることで耐熱性を維持している。また、金属製とすることで、液体を噴射しない場合にも排ガスをスクラバ装置1に通すことができるので、バイパス経路を略してより一層小型化できる。
【0070】
図19は同口径の噴射ノズルを有する2つの液体噴射手段20を用いたスクラバ装置1を用いた試験のその他の結果を示す図である。
図19(a)は液・ガス比に対するSO/COを示す図、図19(b)は液・ガス比に対するSO濃度を示す図である。なお、図19(a)に示す破線は規制値を示している。
図19より、スクラバ装置1は液体噴射手段20の適切な選定が重要であることがわかる。
また、図19(a)より、燃料の硫黄分濃度にもよるが、液・ガス比を確保し、排ガス処理の規制値をクリアするためには、液体噴射手段20から噴射する液体の流量と第1排ガス経路10を流れる排ガスの流量の比である液・ガス比を4L/Nm3以上とすることが好ましく、液・ガス比を6L/Nm3以上とすることが更に好ましいといえる。また、液体の噴射量の節約やポンプ能力を過大にしない観点から、液・ガス比を14L/Nm3以下とすることが好ましく、12L/Nm3以下がより好ましく、10L/Nm3以下が更に好ましい。
【0071】
図20は同口径の噴射ノズルを有する2つの液体噴射手段20を用いたスクラバ装置1を用いた試験のその他の結果を示す図である。
図20(a)はエンジン負荷率による液体流量に対するSO/COを示す図、図20(b)はエンジン負荷率による液・ガス比に対するSO/COを示す図である。なお、図20に示す破線は規制値を示している。
図20は排ガス流量(流速)の影響を調べるため、エンジン負荷率を変化させた状態で脱硫性能を計測したものである。負荷率100%の状態であっても、液・ガス比6.7[L/Nm3]程度で規制値をクリアしていることがわかる。
【0072】
図21は同口径の噴射ノズルを有する2つの液体噴射手段20を用いたスクラバ装置1を用いた試験のその他の結果を示す図である。
図21(a)は液・ガス比に対するSO濃度を示す図、図21(b)は液・ガス比に対するCO濃度を示す図、図21(c)は負荷率に対する排ガス流量と温度を示す図である。
これらのデータに基づくことで、適切なスクラバ装置1を開発することができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、船舶や陸上施設における排ガス処理に活用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 スクラバ装置
10 第1排ガス経路
20 液体噴射手段
30 第2排ガス経路
40 液体回収手段
41、43 気液セパレータ
50 液体流量変更手段
60 ミストキャッチャー
100 燃焼機関
C 中心点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23