(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】レーヨン練り込み用液晶乳化型エマルションの作製方法及びレーヨン繊維
(51)【国際特許分類】
D01F 2/10 20060101AFI20230929BHJP
B01J 13/00 20060101ALI20230929BHJP
【FI】
D01F2/10
B01J13/00 A
(21)【出願番号】P 2020004349
(22)【出願日】2020-01-15
【審査請求日】2022-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000103622
【氏名又は名称】オーミケンシ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】徳田 宏
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-116656(JP,A)
【文献】特開2010-121229(JP,A)
【文献】特開2010-037683(JP,A)
【文献】特開昭56-089832(JP,A)
【文献】特開昭51-055783(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105381766(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F
B01J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性機能性物質及び非イオン系界面活性剤を含む液晶乳化用混合物を作製し、該液晶乳化用混合物に有極性シリコンオイルを滴下し、液晶乳化原体を作製し、該液晶乳化原体に水を滴下してレーヨン練り込み用O/W型液晶乳化型エマルションを作製することを特徴とする水溶性機能性物質を含有するレーヨン練り込み用液晶乳化型エマルションの作製方法。
【請求項2】
前記水溶性機能性物質が、生薬成分であることを特徴とする請求項1に記載の水溶性機能性物質を含有するレーヨン練り込み用液晶乳化型エマルションの作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーヨン練り込み用液晶乳化型エマルションの作製方法及びレーヨン繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロースは周知のとおり、地球上に最も多く存在するバイオマス資源であり、環境配慮型素材として注目されている。
【0003】
このセルロースを用いて製造されるレーヨン繊維は、古くから、衣料等の用途に用いられており、さらに、スクワラン、椿油等の油成分(非水溶性機能性物質)を練り込んだ機能性物質を含有するレーヨン繊維も提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
一方、油成分(非水溶性機能性物質)以外の機能性物質、特に、水溶性機能性物質は、従来の油成分(非水溶性機能性物質)を含有するレーヨン繊維の製造方法では、レーヨン繊維の製造工程中でその成分が繊維系外に流出してしまい、レーヨン繊維中に水溶性機能性物質が残存させることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の油成分(非水溶性機能性物質)を含有するレーヨン繊維の製造方法では製造することができなかった、水溶性機能性物質を含有するレーヨン繊維を製造するためのレーヨン練り込み用液晶乳化型エマルションの作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のレーヨン練り込み用液晶乳化型エマルションの作製方法は、水溶性機能性物質及び非イオン系界面活性剤を含む液晶乳化用混合物を作製し、該液晶乳化用混合物に有極性シリコンオイルを滴下し、液晶乳化原体を作製し、該液晶乳化原体に水を滴下してレーヨン練り込み用O/W型液晶乳化型エマルションを作製することを特徴とする。
【0008】
この場合において、前記水溶性機能性物質に、生薬成分を用いることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水溶性機能性物質を含有するレーヨン練り込み用液晶乳化型エマルションの製造方法によって作製されるレーヨン練り込み用液晶乳化型エマルションを用いることによって、従来の油成分(非水溶性機能性物質)を含有するレーヨン繊維の製造方法では製造することができなかった、水溶性機能性物質を含有するレーヨン繊維を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のセルロース溶液の作製方法の実施の形態を説明する。
【0011】
本発明の水溶性機能性物質を含有するレーヨン練り込み用液晶乳化型エマルションの作製方法は、従来の油成分(非水溶性機能性物質)を含有するレーヨン繊維の製造方法では製造することができなかった、水溶性機能性物質を含有するレーヨン繊維を製造するために用いる、レーヨン練り込み用O/W型(水を連続相とする水中油滴型)液晶乳化型エマルションを作製するものである。
【0012】
ここで、従来、例えば、繊維加工剤において、W/O型(油を連続相とする油中水滴型)のエマルション加工剤は、加工剤の作りやすさから汎用されているが、水溶性機能性物質を担持するO/W型エマルションは、作製に技術的な難易度が高いため、作製が試みられていなかった。
【0013】
本発明の水溶性機能性物質を含有するレーヨン練り込み用液晶乳化型エマルションの作製方法は、水溶性機能性物質及び非イオン系界面活性剤を含む液晶乳化用混合物を作製し、該液晶乳化用混合物に有極性シリコンオイルを滴下し、液晶乳化原体を作製し、該液晶乳化原体に水を滴下してレーヨン練り込み用O/W型液晶乳化型エマルションを作製するものである。
【0014】
ここで、水溶性機能物質(A)としては、生薬成分の高麗人参エキス、甘草エキス、ウコンエキス、アロエエキス等、水溶性アミノ酸のアスパラギン、アスパラギン酸、システィン、グルタミン、グリシン、リシン、ヒスチジン、アルギニン、トレオニン、セリン、チロシン等、水溶性ビタミンのアスコルビン酸、ナイアシン、パントテン酸、葉酸等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0015】
また、非イオン系界面活性剤(B)としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンセカンダリーアルコールエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシアルキレントリデシルエーテル等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
また、有極性シリコンオイル(C)としては、アミノ変性シリコンオイル、カルボニル変性シリコンオイル、カルビノール変性シリコンオイル、ポリエーテル変性シリコンオイル、メチルハイドロジェンポリシロキサン、アミノ/アルコキシ変性シリコンオイルエポキシ/ポリエーテルシリコンオイル、アミノ/ポリエーテルシリコンオイル等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
ここで、有極性シリコンオイルを用いると、レーヨン練り込み用O/W型液晶乳化型エマルションを作製することができるが、例えば、無極性シリコンオイルを用いても、安定したO/W型液晶乳化型エマルションを作製することができない。
【0017】
また、水溶性機能物質(A)及び非イオン系界面活性剤(B)並びに有極性シリコンオイル(C)の配合割合は、(A)を5~30重量部、好ましくは10~20重量部、(B)を5~15重量部、好ましくは8~12重量部、(C)を20~40重量部、好ましくは、20~35重量部で、水(「湯」を含む。以下、同じ。)を加え100重量部とする配合割合がよい。この配合割合を外れると安定したO/W型液晶乳化型エマルションを作製することができないか、あるいは、粘度が高まりレーヨン練り込みの用途に使用することが困難となる。
【0018】
ここで、水溶性機能性物質(A)及び非イオン系界面活性剤(B)を含む液晶乳化用混合物を作製するに当たっては、必要に応じて、少量(0.05~1.0重量部、好ましくは0.1~0.5重量部)の酢酸、コハク酸、カルボン酸、乳酸、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等の酸を加えることで、錯体物質を形成させ、乳化を行いやすくすることができる。
【0019】
水溶性機能性物質及び非イオン系界面活性剤を含む液晶乳化用混合物は、水溶性機能性物質及び非イオン系界面活性剤の混合物に水を滴下することで作製することができる。
【0020】
また、液晶乳化用混合物、液晶乳化原体及び液晶乳化型エマルションの作製には、ホモジナイザ等の従来汎用されている各種の混合撹拌機を用いることができる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の水溶性機能性物質を含有するレーヨン練り込み用液晶乳化型エマルションの作製方法を実施例によって詳細に説明する。
【0022】
<O/W型液晶乳化型エマルションを作製方法>
水溶性機能物質(A)として高麗人参エキスを15重量部、非イオン系界面活性剤(B)としてポリオキシエチレンセカンダリーアルコールエーテルを10重量部、90%酢酸0.2重量部に、同量程度の水を加えて液晶乳化用混合物を作製し、その中に有極性シリコンオイル(C)としてアミノ変性シリコンオイル30重量部を少量ずつ加え、W/O型液晶乳化原体を作製し、その中に水を滴下して、固形分濃度48%の高麗人参エキスを含有するレーヨン練り込み用O/W型液晶乳化型エマルションを作製した。
【0023】
<実施例1:高麗人参エキス練り込みレーヨン繊維の製造方法>
原料パルプを約18%の苛性ソーダ水溶液に浸漬し、圧搾・粉砕によりアルカリセルロースを得た。
これを老成し、その後、二硫化炭素を反応させセルロースザンテートとし、これを希苛性ソーダ溶液に溶解させてビスコースを調製した。このビスコースは、セルロース含有率8.6%、アルカリ含有率4.8%で、粘度が50秒(落球粘度)である。
このビスコース溶液に、作製した高麗人参エキスを含有するレーヨン練り込み用O/W型液晶乳化型エマルションを、セルロース重量に対して5.0重量%添加し、均一に混合して紡糸原液を調製した。
得られた紡糸原液をノズル径0.06mm、孔数13000ホールのノズルから、紡糸速度60m/分にて凝固浴中へ紡糸し、次いで、延伸、切断を行い、繊度1.4デシテックス、繊維長38mmのレーヨン繊維を得た。凝固浴は、硫酸95g/L、硫酸ナトリウム350g/L、硫酸亜鉛12.5g/L含有したもので、温度は47℃にしたものである。
【0024】
<実施例2:高麗人参エキス練り込みレーヨン繊維の製造方法>
上記ビスコース溶液に、作製した高麗人参エキスを含有するレーヨン練り込み用O/W型液晶乳化型エマルションを、セルロース重量に対して10.0重量%添加し、均一に混合して紡糸原液を調製した。
得られた紡糸原液をノズル径0.06mm、孔数13000ホールのノズルから、紡糸速度60m/分にて凝固浴中へ紡糸し、次いで、延伸、切断を行い、繊度1.4デシテックス、繊維長38mmのレーヨン繊維を得た。凝固浴は、硫酸95g/L、硫酸ナトリウム350g/L、硫酸亜鉛12.5g/L含有したもので、温度は47℃にしたものである。
【0025】
<レーヨン繊維中の高麗人参エキスの定性試験>
実施例1及び2で得たレーヨン繊維が、水溶性機能性物質の高麗人参エキスを含有するレーヨン繊維であることを、以下の試験方法によって確認した。
実施例1及び2で得たレーヨン繊維を、50%メタノール水溶液で1時間リフラックス抽出を実施した。その上澄み液を採取し、エバポレーションにより約2mlに濃縮し、不溶物をメンブレンフィルタでろ過して、そのろ液を液体クロマトグラフィー質量分析機(島津製作所社製LC20シリーズ)にて分析を行った。
その結果、65.2分付近に高麗人参エキス特有のピークがみられ、レーヨン繊維中に高麗人参エキスが含有されていることを確認した。
【0026】
以上、本発明の水溶性機能性物質を含有するレーヨン練り込み用液晶乳化型エマルションの作製方法について、その実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施の形態に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の水溶性機能性物質を含有するレーヨン練り込み用液晶乳化型エマルションの作製方法によれば、レーヨン練り込み用液晶乳化型エマルションの作製方法を提供するもので、油成分(非水溶性機能性物質)を含有するレーヨン繊維の製造方法では製造することができなかった、水溶性機能性物質を含有するレーヨン繊維を製造するために好適に用いることができる。