IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アーキヤマデ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-自動誘導加熱溶着システム 図1
  • 特許-自動誘導加熱溶着システム 図2
  • 特許-自動誘導加熱溶着システム 図3
  • 特許-自動誘導加熱溶着システム 図4
  • 特許-自動誘導加熱溶着システム 図5
  • 特許-自動誘導加熱溶着システム 図6
  • 特許-自動誘導加熱溶着システム 図7
  • 特許-自動誘導加熱溶着システム 図8
  • 特許-自動誘導加熱溶着システム 図9
  • 特許-自動誘導加熱溶着システム 図10
  • 特許-自動誘導加熱溶着システム 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】自動誘導加熱溶着システム
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/06 20060101AFI20230929BHJP
   H05B 6/10 20060101ALN20230929BHJP
【FI】
H05B6/06 391
H05B6/10 331
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020123095
(22)【出願日】2020-07-17
(65)【公開番号】P2022024365
(43)【公開日】2022-02-09
【審査請求日】2023-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000178619
【氏名又は名称】アーキヤマデ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】庄司 博之
【審査官】土屋 正志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-110825(JP,A)
【文献】特開2008-255680(JP,A)
【文献】特開2007-298300(JP,A)
【文献】特開2015-140989(JP,A)
【文献】特開平03-150607(JP,A)
【文献】特開平10-260730(JP,A)
【文献】米国特許第6229127(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/06
H05B 6/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防水下地上に点在した固定部材を覆う防水シートを、前記固定部材を誘導加熱することで、前記防水シートを前記固定部材に溶着する自動誘導加熱溶着システムであって、
前記防水下地上を自動走行する探査機と前記防水下地上を自動走行する誘導加熱機とを備え、
前記探査機は、前記固定部材を探査する探査走行を制御する自動探査走行制御部と、探査された前記固定部材の前記防水下地上における位置座標を算出する位置座標算出ユニットとを備え、
前記誘導加熱機は、データ通信を通じて取得された前記位置座標に位置する前記固定部材を自動で加熱巡回する加熱走行を制御する自動加熱走行制御部と、前記固定部材を前記防水シートの上面から誘導加熱する加熱コイルとを備える自動誘導加熱溶着システム。
【請求項2】
前記探査機は、前記防水下地上における自機位置を算出する自機位置算出部と、前記固定部材を検出する検出コイルユニットとを備え、前記位置座標算出ユニットは前記検出コイルユニットの検出結果と前記自機位置とに基づいて前記位置座標を算出する請求項1に記載の自動誘導加熱溶着システム。
【請求項3】
前記探査機は、前記探査走行のための探査走行経路を管理する探査経路管理部が備えられ、前記自動探査走行制御部は、前記自機位置と前記探査走行経路に基づいて前記探査走行を制御する請求項2に記載の自動誘導加熱溶着システム。
【請求項4】
前記位置座標に基づいて点在する前記固定部材の位置を示す固定部材マップを作成するマップ作成ユニットが、前記探査機に備えられている請求項1から3のいずれか一項に記載の自動誘導加熱溶着システム。
【請求項5】
前記探査走行で前記固定部材が検出された場合に当該固定部材に近接するための近接走行制御部が、前記自動探査走行制御部に含まれている請求項1から4のいずれか一項に記載の自動誘導加熱溶着システム。
【請求項6】
前記探査機と前記誘導加熱機とが同時に前記防水下地上を自動走行した際の衝突を回避するための衝突回避制御部が、前記探査機と前記誘導加熱機との少なくともどちらかに備えられている請求項1から5のいずれか一項に記載の自動誘導加熱溶着システム。
【請求項7】
前記探査機が少なくとも1つ以上の前記固定部材を検出したことをトリガーとして、前記誘導加熱機の前記加熱走行が開始される請求項1から6のいずれか一項に記載の自動誘導加熱溶着システム。
【請求項8】
前記誘導加熱機は、前記加熱コイルと前記固定部材との位置ずれを検出する位置ずれ検出ユニットと、前記誘導加熱機の機体と前記加熱コイルとの相対的な位置関係を変更する位置変更機構と、前記位置ずれを小さくするように前記位置変更機構に第1制御信号を与える位置ずれ制御部とを備える請求項1から7のいずれか一項に記載の自動誘導加熱溶着システム。
【請求項9】
前記位置ずれ制御部は、前記位置ずれを小さくするよう前記自動加熱走行制御部に第2制御信号を与える請求項8に記載の自動誘導加熱溶着システム。
【請求項10】
前記誘導加熱機は、前記防水下地の表面に対する前記固定部材の傾きを算出する傾き算出部と、算出された前記傾きが許容値を超えた場合、当該固定部材に対する誘導加熱溶着を中止させる傾き判定部とを備える請求項1から9のいずれか一項に記載の自動誘導加熱溶着システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防水下地上に点在した固定部材に防水シートを被せた状態で、防水シートの上から固定部材を誘導加熱することで、防水シートを固定部材に溶着させる自動誘導加熱溶着システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、固定部材を覆っている防水シートに接当可能な押圧パッドを有する加熱コイルユニットと、この加熱コイルユニットに収納されている加熱コイルにケーブルを介して電流を供給する給電制御装置とを備えた誘導加熱溶着装置が開示されている。この誘導加熱溶着装置を用いた防水シートの接着固定施工では、作業者は誘導加熱溶着装置を持って、防水シートの固定部材の上となる箇所に移動し、この箇所に加熱コイルユニットの押圧面を接当させながら加熱コイルを励磁する。加熱コイルによる誘導加熱によって固定部材が加熱され、防水シートと固定部材とが溶着する。その後に押圧パッドで固定部材に防水シートを押しつけることにより、防水シートが固定部材に固定される。
【0003】
特許文献2には、車輪が設けられた走行機台の下方に加熱コイルを有する押圧具が搭載され、走行機台から上方に延びたポストを用いて、移動可能な移動式の誘導加熱溶着装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-200847号公報
【文献】米国特許公開公報2014/0345806号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されたような誘導加熱溶着装置を用いた防水シートの溶着作業では、作業者は、固定部材の付近に給電制御装置を移動させ、防水シートの上から加熱コイルユニットを固定部材に位置合わせさせなければならない。1平方メートルのシート面積に数か所の固定部材が設けられるので、大きなビルの屋上に防水シートを敷設する場合、作業者の肉体的かつ精神的負担が大きい。炎天下や寒冷下での作業では、さらに、その負担は大きくなる。
【0006】
特許文献2に開示されたような誘導加熱溶着装置では、溶着作業箇所から次の溶着作業箇所への移動は、車輪を用いているので、作業者の負担は低減されるが、加熱コイルと固定部材との位置合わせに必要な時間は変わらず、炎天下や寒冷下での作業では、作業者の負担は大きい。
【0007】
上記実情に鑑み、本発明の目的は、炎天下や寒冷下であっても、作業者に負担をかけずに、誘導加熱溶着作業が可能となる自動誘導加熱溶着システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による自動誘導加熱溶着システムは、防水下地上に点在した固定部材を覆う防水シートを、前記固定部材を誘導加熱することで、前記防水シートを前記固定部材に溶着するシステムであり、
前記防水下地上を自動走行する探査機と前記防水下地上を自動走行する誘導加熱機とを備え、
前記探査機は、前記固定部材を探査する探査走行を制御する自動探査走行制御部と、探査された前記固定部材の前記防水下地上における位置座標を算出する位置座標算出ユニットとを備え、
前記誘導加熱機は、データ通信を通じて取得された前記位置座標に位置する前記固定部材を自動で加熱巡回する加熱走行を制御する自動加熱走行制御部と、前記固定部材を前記防水シートの上面から誘導加熱する加熱コイルとを備える。
【0009】
この構成では、防水シートで覆われている固定部材を探し出し、その位置座標を算出する探査作業は、防水下地(例えば、ビルの屋上など)の上を自動走行する探査機によって行われる。その際、探査機は、防水下地上を直接走行してもよいし、防水下地に覆われた防水シートの上を走行してもよい。つまり、探査機の防水下地上の走行には、この2つの走行形態が含まれている。探査機は、固定部材の防水下地の表面を座標面とする位置座標を算出する。また、固定部材に対して防水シートを誘導加熱溶着する加熱溶着作業は、防水下地上を自動走行する誘導加熱機によって行われる。誘導加熱機は、探査機によって算出された固定部材の位置座標に基づいて、無駄なく誘導加熱すべき固定部材に到達することができる。作業者の主な作業は、探査機による探査作業と、誘導加熱機による加熱溶着作業とを監視することであり、炎天下や寒冷下であっても、作業者の肉体的な負担は小さい。
【0010】
一度探査した領域を繰り返して探査しないためには、探査機は走行中に自分の機体位置である自機位置を算出して、管理する機能が必要となる。その際に、用いられる自機位置算出機能は、探査走行中に検出された固定部材の位置座標を算出するためにも利用できる。このことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記探査機は、前記防水下地上における自機位置を算出する自機位置算出部と、前記固定部材を検出する検出コイルユニットとを備え、前記位置座標算出ユニットは前記検出コイルユニットの検出結果と前記自機位置とに基づいて前記位置座標を算出する。これにより、同じ領域を無駄に繰り返して探査することが回避され、検出された固定部材の位置座標の管理が確実に行われる。
【0011】
効率の良い自動走行を行うためには、予め、防水下地(作業現場)の形状や固定部材の配置パターンなどから走行目標となる適正な探査走行経路を作成しておき、この探査走行経路に沿って探査機を走行させることが好ましい。また、探査機が予め規定された経路に沿って走行すると、探査機の走行先を予測することができるので、走行障害物(人を含む)の取り除きなどが容易となる。このことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記探査機は、前記探査走行のための探査走行経路を管理する探査経路管理部が備えられ、前記自動探査走行制御部は、前記自機位置と前記探査走行経路に基づいて前記探査走行を制御する。
【0012】
固定部材は防水シートで覆われているので、探査機の探査走行で得られた固定部材の位置座標は、固定部材と防水シートとの誘導加熱作業における道標となる。防水シートで覆われて点在している固定部材の位置を示す固定部材マップがあれば、容易に次の誘導加熱作業位置に到達することができる。このことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記位置座標に基づいて点在する前記固定部材の位置を示す固定部材マップを作成するマップ作成ユニットが、前記探査機に備えられている。
【0013】
誘導加熱機は、探査機によって算出された固定部材の位置座標を目標位置として自動走行することができるが、加熱コイルで固定部材を効率よく誘導加熱するためには、加熱コイルと固定部材とが正確に位置合わせされる必要がある。この位置合わせの精度は、誘導加熱機の自動走行の精度より高い。このため、誘導加熱機が固定部材に到達するまでの自動走行制御と、加熱コイルと固定部材との位置合わせに利用される自動走行制御とが、異なることが好ましい。このことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記探査走行で前記固定部材が検出された場合に当該固定部材に近接するための近接走行制御部が、前記自動探査走行制御部に含まれている。
【0014】
探査機による探査走行と、誘導加熱機とによる加熱溶着走行とが同時に防水下地上で行われると、作業効率が向上する。その際には、探査機と誘導加熱機とが衝突しないように制御することが重要である。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記探査機と前記誘導加熱機とが同時に前記防水下地上を自動走行した際の衝突を回避するための衝突回避制御部が、前記探査機と前記誘導加熱機との少なくともどちらかに備えられている。探査機及び誘導加熱機の全てに衝突回避制御部が備えられていれば、複数台の探査機または複数台の誘導加熱機あるいは両機種が同時に防水下地上を自動走行した場合でも、互いの衝突が回避可能となる。
【0015】
作業対象となっている防水下地の上の全ての探査走行が終了してから、1台以上の誘導加熱機による過熱走行が開始されてもよいし、探査走行により検出された固定部材の位置座標が算出されるとすぐに、誘導加熱機による過熱走行が開始されてもよい。作業時間を短縮するためには、探査走行と加熱走行とが同時に行われるのが好ましい。このことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記探査機が少なくとも1つ以上の前記固定部材を検出したことをトリガーとして、前記誘導加熱機の前記加熱走行が開始される。
【0016】
誘導加熱機の走行だけで、加熱コイルと固定部材とを正確に位置合わせすることは難しい。特に、機体横方向の位置合わせは高い精度の操舵が必要となる。したがって、誘導加熱機は、その固定部材が正確に固定部材の上にくるように停止するのではなく、所定の許容範囲で停止し、その後は、機体に対して加熱コイルを横方向または前後方向に変位させることが、好適である。このことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記誘導加熱機は、前記加熱コイルと前記固定部材との位置ずれを検出する位置ずれ検出ユニットと、前記誘導加熱機の機体と前記加熱コイルとの相対的な位置関係を変更する位置変更機構と、前記位置ずれを小さくするように前記位置変更機構に第1制御信号を与える位置ずれ制御部とを備える。
【0017】
機体前後方向の位置合わせは走行制御によって高い精度で行うことができる。また、位置変更機構は機体横方向の変更だけが可能なように構成することで、その製作コストが低減される。このことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記位置変更機構は、前記加熱コイルを機体横方向に移動させるように構成され、前記位置ずれ制御部は、前記第1制御信号によって前記機体横方向の前記位置ずれを小さくするように前記位置変更機構を制御し、第2制御信号によって前記自動加熱走行制御部を介して前記機体前後方向の前記位置ずれを小さくする。
【0018】
防水下地上に防水シートを被せる作業において、まずは、コンクリートなどの防水下地上に固定部材が、アンカーボルトなどを用いて取り付けられる。その際、固定部材の溶着面となる上面が防水下地の表面に対して所定以上に傾斜していると、固定部材と防水シートとの溶着が不十分となる。このため、固定部材の傾斜を、誘導加熱溶着作業の前に検出して、その検出結果に基づいて、所定以上に傾斜している固定部材に対する誘導加熱溶着作業を中止することが好適である。このことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記誘導加熱機は、前記防水下地の表面に対する前記固定部材の傾きを算出する傾き算出部と、算出された前記傾きが許容値を超えた場合、当該固定部材に対する誘導加熱溶着を中止させる傾き判定部とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】誘導加熱溶着システムの基本的な構成と情報の流れを示す模式図である。
図2】探査機の側面図である。
図3】探査機の底面図である。
図4】管理機と走行機とに分離された誘導加熱機による誘導加熱溶着作業を示す斜視図である。
図5】走行機の側面図である。
図6】走行機の底面図である。
図7】誘導加熱溶着ユニットを示す縦断面図である。
図8】探査機と管理機と走行機とにおける制御機能部を示す機能ブロック図である。
図9】固定部材マップを示す模式図である。
図10】誘導加熱溶着作業の様子を模式的に示す模式図である。
図11】誘導加熱溶着作業における制御の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1には、本発明による誘導加熱溶着システムの基本的な構成と情報の流れが示されている。この誘導加熱溶着システムは、屋上などにおけるコンクリート製の防水下地上に点在している固定部材(金属導電体)FXに防水シートSHを被せた状態で、この防水シートSHの上から固定部材FXを誘導加熱することで、防水シートSHを固定部材FXに溶着させるシステムである(図4参照)。図1では、誘導加熱溶着システムは、探査システムとして機能する探査機SRと、誘導加熱システムとして機能する誘導加熱機IHとから構成されている(図10参照)。なお、固定部材FXの上面には、熱溶着層として、例えばポリエステル樹脂等の熱可塑性合成樹脂からなる面状のホットメルト接着層が形成されている(図4参照)。
【0021】
探査機SRは、金属探知器27aと、GNSSユニット29と、位置座標算出ユニット64と、マップ作成ユニット65と、通信ユニット28とを備えている。金属探知器27aは、防水シートSHに覆われた固定部材FXを防水シートSHの上から探知し、検出信号を出力する。GNSSユニット29は、衛星測位システムであり、探査機SRの位置座標を示す位置信号を出力する。位置座標算出ユニット64は、金属探知器27aからの検出信号とGNSSユニット29からの位置信号とから、固定部材FXの位置座標を算出する。この位置座標は、防水下地上における固定部材FXの位置を示すなら、世界座標であってもよいし、ローカル座標(防水下地平面における座標)であってもよい。位置座標算出ユニット64は、検出された固定部材FXを識別するための識別情報としての固定部材IDを各固定部材FXに付与するID付与部64aを備えている。探査を進めていくと、多数の固定部材FXの位置座標が算出されていくので、マップ作成ユニット65は、固定部材IDとリンクされた固定部材FXの位置情報に基づいて、点在する固定部材FXの位置を示す固定部材マップを作成する。作成された固定部材マップは、探査機SRに備えられた通信ユニット28を通じて、誘導加熱機IHに送られる。
【0022】
誘導加熱機IHは、通信部16を通じて受け取った固定部材マップに示されている固定部材FXを巡回しながら、誘導加熱溶着作業を行う。作業位置としての固定部材FXの上方に位置した誘導加熱機IHは、誘導加熱を発動させ、固定部材FXを防水シートSHの上面から誘導加熱することで防水シートSHを固定部材FXに溶着する。
【0023】
誘導加熱機IHは、誘導加熱により防水シートSHを溶着した固定部材FXを溶着済固定部材として、まだ防水シートSHを溶着していない固定部材FXである未溶着固定部材と識別するための識別情報を生成し、この識別情報に基づいて、固定部材マップを、未溶着固定部材と溶着済固定部材とに識別された識別固定部材マップに編集することが可能である。識別固定部材マップから、誘導加熱機IHは、次に誘導加熱溶着作業を行うべき近くの未溶着固定部材を容易に見つけ出すことができる。
【0024】
探査機SR及び誘導加熱機IHは、省力化目的では、防水下地上をコンピュータプログラムで自動走行する自動走行車として構成するのが最適である。しかしながら、探査機SRまたは誘導加熱機IHは、手押し車として構成してもよいし、作業者によって持ち運ばれる携帯装置として構成されてもよい。
【0025】
誘導加熱機IHが、手押し車または携帯装置として構成される場合には、誘導加熱機IHの現在位置の近くに位置する未溶着固定部材の位置情報を報知する機能が備えられいると好都合である。そのような報知機能として、表示装置を用いた視覚的な報知が行われてもよいし、スピーカを用いた聴覚的な報知が行われてもよい。
【0026】
手押し車タイプの誘導加熱機IHは、探査機SRによって算出された固定部材FXの位置座標に基づいて作成された固定部材マップを利用すれば、作業者は次に作業すべき固定部材FXを容易に見つけることができる。例えば、この誘導加熱機IHが、固定部材マップを取得するマップ取得機能と、自機位置を算出する自機位置算出機能と、固定部材マップ上に自機位置を表示する表示機能とを備えていれば、作業者は、表示された固定部材マップから容易に次に作業すべき固定部材FXを決定することができる。
【0027】
自動走行可能に構成された誘導加熱機IHでは、固定部材マップに基づいて固定部材FXを巡回する加熱走行経路を作成する加熱走行経路作成機能と、自機位置を算出する自機位置算出機能と、加熱走行経路と自機位置とに基づいて自動走行するための自動加熱走行制御機能とが備えられる。これにより、誘導加熱機IHは、探査機SRによって探査された固定部材FXに対して順次誘導加熱作業を自動で実施することができる。
【0028】
なお、自動走行タイプや手押し車タイプの誘導加熱機IHでは、固定部材マップ作成部は、探査機SRに設けてもよいし、手押し車タイプの誘導加熱機IHまたは、探査機SRと誘導加熱機IHと通信可能な管理ユニットに設けてもよい。
【0029】
探査機SRによって少なくとも1つの固定部材FXの位置座標が算出されたタイミングで、誘導加熱機IHはこの位置座標の固定部材FXに移動し、誘導加熱溶着作業を行うことができる。探査機SRと誘導加熱機IHとの相互干渉(衝突や一時停止)を回避するためには、所定領域の探査走行が完了したタイミングで、誘導加熱機IHの加熱走行が開始される。
【0030】
次に、図2から図6を用いて、探査機SR及び誘導加熱機IHの実施形態を説明する。探査機SRは自動走行車として構成されている。図2は探査機SRの側面図を示し、図3は、探査機SRの底面図を示す。誘導加熱機IHは、走行機能を有さない管理機IHaと自動走行機能を有する走行機IHbとに分割されている。図4は、誘導加熱機IHを構成する管理機IHaと走行機IHbとの斜視図であり、図5は、走行機IHbの側面図を示し、図6は走行機IHbの底面図を示す。
【0031】
探査機SRは、図2及び図3に示すように、機体20と、機体20を対地支持する駆動輪21と前補助輪22fと後補助輪22rとを備える。左右一対の駆動輪21は、それぞれ独立して駆動可能であり、信地旋回や超信地旋回が可能である。駆動輪21への動力は、バッテリ23を電源として駆動するモータやギヤ機構などからなる走行機構24から伝達される。
【0032】
探査機SRは、走行障害物との衝突を回避するための障害物検出センサ群26として、機体20の前部に設けられたライダ(Lidar:light detection and ranging)26a、機体20の前端と後端とに設けられた超音波センサ26b、前ダンパとしても機能する接触式の前方衝突検出センサ26c及び後ダンパとしても機能する後方衝突検出センサ26dを備えている。さらに、探査機SRの床面側には、固定部材FXを探査するための探査センサとして、金属探知器27aと位置検出コイルユニット27bとが備えられている。金属探知器27aは、比較的遠距離から固定部材FXを検出することができ、位置検出コイルユニット27bは近くに位置する固定部材FXだけを検出するが、高い精度で検出することができる。さらに、図3に示すように、位置検出コイルユニット27bは、4つの検出コイルを鉛直軸VLの周りに中心角90度のピッチで配置されているので、この鉛直軸VLに対する固定部材FXの機体左右方向及び機体前後方向の位置ずれが検出される。
【0033】
探査機SRは、自機の位置を算出するためのGNSSユニット29と、誘導加熱機IHなどの外部機器とデータ交換するために通信ユニット28とを備えている。このGNSSユニット29からの位置信号で自機位置(GNSSのアンテナ位置)が求められる。このアンテナ位置と位置検出コイルユニット27bの中心となる鉛直軸VLとの位置関係は既知であるので、この自機位置と位置検出コイルユニット27bによる固定部材FXの位置ずれとから、固定部材FXの位置座標が算出される。
【0034】
図4に示すように、誘導加熱機IHの管理機IHaは持ち運びタイプのコンソールボックスであり、走行機IHbは、所定の走行経路に沿って自動走行する。管理機IHaと走行機IHbとは、接続ケーブルCAによって接続している。接続ケーブルCAには、動力線と信号線とが含まれている。管理機IHaは、走行機IHbに電力を供給するとともに、走行機IHbによる加熱溶着作業を管理する機能を備えている。図4で示された誘導加熱溶着作業では、円盤状の固定部材FXはコンクリート製の防水下地にアンカー等によって固定されており、この固定部材FXを含め、防水下地が防水シートSHによって覆われている。
【0035】
管理機IHaには、データ処理部10、電源ユニット11、タッチパネル式ディスプレイ12、データロガーユニット13、環境温度センサ14、操作パネル15、通信ユニット48などが備えられている。データ処理部10は、タッチパネル式ディスプレイ12、環境温度センサ14、操作パネル15、通信ユニット48、などの制御や管理を行う。
【0036】
電源ユニット11は、商用電源または自家発電装置を入力として、走行機IHbに加熱電力(基本的な電力)を供給する。データロガーユニット13は、固定部材FXのIDとともに、そこで行われた加熱溶着作業のデータ(環境温度、作業日時、加熱強度、加熱時間、加熱溶着の位置ずれ、加熱対象箇所の温度など)を記録する。環境温度センサ14は、管理機IHaが置かれた周辺の温度を検出する。操作パネル15には、各種操作スイッチ群(スイッチだけでなくボタンやレバーなども含む)15a、さらには各種報知ランプ15bが配置されている。ディスプレイ12は、グラフィックインターフェースを通じて、作業者に対する情報を表示するとともに、作業者による指令(走行機IHbに対する指令も含まれる)を受け入れる。
【0037】
走行機IHbは、探査機SRに類似する構造を有する。走行機IHbは、図5及び図6に示すように、機体40と、機体40を対地支持する前輪41と後輪42とを備える。左右一対の前輪41は、操舵可能で、それぞれ独立して駆動可能である。左右一つの後輪42も、操舵可能で、それぞれ独立して駆動可能である。つまり、走行機IHbは、4WSかつ4WDの車両である。前輪41及び後輪42への動力は、管理機IHaから接続ケーブルCAを介して送られてくる電力によって駆動するモータやギヤ機構などからなる走行機構43から伝達される。この走行機構43には操舵機構も組み込まれている。
【0038】
走行機IHbも、探査機SRと同様に、障害物検出センサ群46として、機体20の前部に設けられたライダ26a、機体40の前端と後端とに設けられた超音波センサ46b、前ダンパとしても機能する接触式の前方衝突検出センサ46c及び後ダンパとしても機能する後方衝突検出センサ46dを備えている。もちろん、走行機IHbは、GNSSユニット49と、探査機SRなどの外部機器とデータ交換するために通信ユニット48とを備えている。このGNSSユニット49からの位置信号で自機位置(GNSSのアンテナ位置)が求められる。
【0039】
さらに、走行機IHbの前輪41と後輪42との間に、誘導加熱溶着ユニット5が、搭載されている。誘導加熱溶着ユニット5は、位置変更機構6によって、機体40に対して、対地高さ方向及び機体左右方向に変位可能である。
【0040】
図7に示すように、誘導加熱溶着ユニット5は、位置変更機構6を介して、機体40に支持されているハウジング50を備えている。ハウジング50は、円筒状の本体部51aと、本体部51aの下端に連結されている底付き円筒状のコイル収納部51bとからなる。本体部51aの上端は、位置変更機構6と連結している。本体部51aの側壁には、接続ケーブルCAが接続されている。コイル収納部51bには、加熱コイル51と、位置ずれ検出ユニット52と、押圧パッド53が収納されている。
【0041】
加熱コイル51は、薄く平坦状に巻かれたコイルであり、誘導加熱溶着ユニット5の中心軸CLに中心を合わせて、コイル収納部51bの底部に配置されている。加熱コイル51の下方には、中心軸CLを中心として90度の円周角で分布した4つのコイルからなる位置ずれ検出ユニット52が配置されている。この位置ずれ検出ユニット52におけるコイル配置は一例であり、3コイル配置やその他の配置を採用してもよいし、コイル以外の金属探知技術を採用してもよい。さらに、位置ずれ検出ユニット52下面には、誘導加熱溶着ユニット5の押圧面として機能するシリコンゴム製の押圧パッド53が配置されている。さらに、この誘導加熱溶着ユニット5には、防水シートSHの表面温度を検出する非接触式のシート温度センサ54(例えば、赤外線方式)がコイル収納部51bの上部に配置されている。
【0042】
誘導加熱溶着ユニット5の本体部51aには、制御機能部として、コイル駆動制御部81、位置ずれ制御部82、温度測定部83、傾き算出部84、傾き判定部85が備えられている。コイル駆動制御部81は、加熱コイル51に所定電流を流す。位置ずれ制御部82は、4つのコイルからなる位置ずれ検出ユニット52からの検出信号を用いて、誘導加熱溶着ユニット5の中心軸CLと固定部材FXの中心とが一致しているかどうか、つまり加熱コイル51の固定部材FXに対する水平方向の位置ずれである加熱コイル位置ずれを算出する。さらに、位置ずれ制御部82は、加熱コイル位置ずれに基づいて、加熱コイル位置ずれが所定範囲内に収まるように、位置変更機構6を制御する。
【0043】
温度測定部83は、シート温度センサ54の検出信号に基づいて表面温度を算出するシート温度センサ54及び温度測定部83は、加熱コイル51の励起による信号妨害をできるだけ受けないように、加熱コイル51からできるだけ離れた位置に配置されている。シート温度センサ54と防水シートSHとの間に赤外線通過路を形成するため、コイル収納部51bの底部や押圧パッド53には貫通孔が設けられている。
【0044】
次に、図8を用いて、探査機SRと走行機IHbとにおける、制御系の主な機能部(電子回路などのハードウエアあるいはコンピュータプログラムなどのソフトウェアによって構築される)を説明する。
【0045】
図9に示しているように、探査機SRは、防水下地などの防水下地上に点在している固定部材FXを覆っている防水シートSHの上面を走行しながら、固定部材FXを探査し、固定部材FXの位置座標を算出し、固定部材マップを作成する。図9に示された固定部材マップでは、各固定部材FXの位置は、ポイントPnm(nとmは、固定部材FXの数によって定まる自然数である)で識別可能に示されている。ポイントPnmは2次元行列で表現されており、その成分(Xnm、Ynm)が固定部材FXの位置座標(X座標値とY座標値)となっている。走行機IHbは、固定部材マップに基づいて、各固定部材FXを巡回しながら、誘導加熱溶着作業を行う。
【0046】
探査機SRには、自機位置算出部61、探査経路管理部62、自動探査走行制御部63、位置座標算出ユニット64、マップ作成ユニット65、衝突回避制御部66が備えられている。
【0047】
自機位置算出部61は、GNSSユニット29からの位置信号に基づいて自機位置、例えば、位置検出コイルユニット27bの鉛直軸VLの位置を算出する。探査経路管理部62は、探査すべき防水下地の表面形状に基づいて、この防水下地上をくまなく探査するための探査走行経路を探査機SRの走行制御の目標として設定する。この探査走行経路は、探査機SRで生成してもよいが、管理機IHaや遠隔地の管理コンピュータで生成して、データ通信で送られてきてもよい。
【0048】
自動探査走行制御部63は、探査経路管理部62で設定された探査走行経路と、自機位置算出部61によって算出された自機位置とに基づいて、探査機SRを探査走行経路に沿って自動走行させる。探査走行経路は、探査経路管理部62で作成することも可能であるが、管理機IHaで作成され、探査経路管理部62に送られる。その際、ディスプレイ12に、防水下地上の地図が表示されるので、作業者は、防水下地上の全てを探査領域として指定してもよいし、部分的に探査したい領域をドラッグで指定することも可能である。基本的には、探査経路は、直線状の経路(主探査経路)と方向転換用のターン経路とからなるが、作業者は、主探査経路の方向を指定することができる。また、探査不要の領域もドラッグなどにより指定することが可能である。
【0049】
自動探査走行制御部63は、より精密な操舵制御が可能な近接走行制御部63aを備えている。近接走行制御部63aは、金属探知器27aによる探知結果に基づき探査機SRが固定部材FXに近づいたことが検知されると、起動し、固定部材FXに近接する操舵が行われる。
【0050】
位置座標算出ユニット64は、位置検出コイルユニット27bによる鉛直軸VLと探査された固定部材FXとの位置ずれと、自機位置算出部61によって算出された自機位置とに基づいて、固定部材FXの位置座標を算出する。位置座標算出ユニット64はID付与部64aを備えており、位置座標が算出された固定部材FXには固定部材IDが付与される。なお、各固定部材FXにRFIDタグが取り付けられている場合、ID付与部64aは、RFIDタグリーダとして構成される。マップ作成ユニット65は、固定部材IDで識別される固定部材FXがその位置座標で分布している固定部材マップ(図9参照)を作成する。作成された固定部材マップは、通信ユニット28を介して、管理機IHaから走行機IHbへ、あるいは直接走行機IHbへ送られる。
【0051】
衝突回避制御部66は、上述した障害物検出センサ群26からの検出信号に基づき、障害物との衝突を回避するため、または衝突の衝撃を緩和するために、減速指令、停止指令、衝突回避操舵指令を自動探査走行制御部63に与える。
【0052】
走行機IHbには、マップ取得部70、自機位置算出部71、加熱走行経路作成部72、衝突回避制御部73、自動加熱走行制御部74、溶着識別情報生成部75、固定部材識別マップ作成部76、報知デバイス77を備えられている。さらに、走行機IHbに搭載されている誘導加熱溶着ユニット5には、コイル駆動制御部81、位置ずれ制御部82、温度測定部83が備えられている。
【0053】
マップ取得部70は、探査機SRのマップ作成ユニット65で作成された固定部材マップを通信ユニット48を介して取得する。自機位置算出部71は、GNSSユニット49からの位置信号に基づいて自機位置、例えば、誘導加熱溶着ユニット5の中心線SLの位置を算出する。加熱走行経路作成部72は、固定部材マップに基づいて、走行機IHbが固定部材FXを巡回して、誘導加熱溶着を行うための加熱走行経路、例えば、次の固定部材FXに最短で到達する経路を作成する。自動加熱走行制御部74は、算出された自機位置が作成された加熱走行経路に沿うように、機体40を自動走行させる。
【0054】
衝突回避制御部73は、上述した障害物検出センサ群46からの検出信号に基づき、障害物との衝突を回避するため、または衝突の衝撃を緩和するために、減速指令、停止指令、衝突回避操舵指令を自動加熱走行制御部74に与える。
【0055】
溶着識別情報生成部75は、防水シートSHが溶着された固定部材FXを溶着済固定部材として、また溶着されていない未溶着固定部材と区別するための識別情報を生成する。さらに、固定部材識別マップ作成部76は、固定部材マップに示された固定部材FXに対して識別情報を割り当てることで、マップ上の固定部材FXが溶着済固定部材であるか未溶着固定部材であるかを判断できる識別固定部材マップを作成する。
【0056】
なお、走行機IHbには、自動的に行われている種々の動作(走行中、停車、加熱中、押圧中など)が、走行機IHbから離れた位置からでも確認できるように、それらの動作をランプ表示する積層灯が報知デバイス77として備えられている。
【0057】
誘導加熱溶着ユニット5に関する機能部としてのコイル駆動制御部81はインバータ回路を有し、管理機IHaの電源ユニット11から供給される電力を所定の周波数の電力に変換して、加熱コイル51に流して、加熱コイル51を励磁する。これにより、固定部材FXが誘導加熱される。
【0058】
固定部材FXを効率よく誘導加熱するためには、加熱コイル51の中心と固定部材FXの中心とをできるだけ正確に合わせる必要がある。この中心合わせのために、自動加熱走行制御部74による機体40の移動、及び位置変更機構6による加熱コイル51の機体40に対する移動が用いられる。つまり、位置ずれ制御部82は、位置ずれ検出ユニット52からの検出結果に基づいて、加熱コイル51の中心と固定部材FXの中心との間の位置ずれを小さくするように位置変更機構6に第1制御信号を与える第1の機能と、加熱コイル51の中心と固定部材FXの中心との間の位置ずれを小さくするように自動加熱走行制御部74に第2制御信号を与える第2の機能とを備えている。位置変更機構6による加熱コイル51の機体40に対する移動は、高精度に行うことができるが、その移動範囲は小さい。このことから、最初に、自動加熱走行制御部74による機体40の移動を行った後に、位置変更機構6による加熱コイル51の移動が行われる。
【0059】
温度測定部83は、シート温度センサ54の検出信号に基づいて防水シートSHの表面温度を算出し、コイル駆動制御部81に与える。コイル駆動制御部81は、防水シートSHの表面温度に基づいて、加熱コイル51に流す電力の調整及び誘導加熱の終了タイミングを決定する。加熱コイル51による誘導加熱が終了すると、位置変更機構6に押圧制御信号を与える。押圧制御信号により、位置変更機構6は、押圧パッド53を介して防水シートSHと固定部材FXとに圧力を与えるように誘導加熱溶着ユニット5に圧力を与える。これにより、溶着した防水シートSHと固定部材FXとが固着する。この固着工程をより効率よく行うためには、押圧パッド53を強制的に冷却し、防水シートSHの熱を奪う構成が採用される。
【0060】
この実施形態では、位置ずれ検出ユニット52は、防水下地の表面に対する固定部材FXの傾きを検出するためにも用いられる。このため、誘導加熱溶着ユニット5には、傾き算出部84と傾き判定部85とが備えられている。傾き算出部84は、位置ずれ検出ユニット52からの検出信号に基づいて、防水下地の表面に対する固定部材FXの傾きを算出する。傾き判定部85は、算出された固定部材FXの傾きと、予め設定されている傾き許容値とを比較して、傾きが許容値を超えた場合、当該固定部材FXに対する誘導加熱溶着の中止指令を、コイル駆動制御部81に与える。誘導加熱溶着が中止された固定部材FXの情報(ID、位置座標、傾きデータ)は、管理機IHaに送られ、ディスプレイ12に表示される。作業者は、中止された固定部材FXの姿勢修正を行った後、手動で誘導加熱溶着を行うか、あるいは、誘導加熱溶着以外の方法(例えば、機械的な連結具を用いた固着)で、当該固定部材FXに防水シートSHを固着することも可能である。
【0061】
次に、図10図11とを用いて、誘導加熱溶着作業における探査機SRと走行機IHbとの動きの一例を説明する。
探査機SRでは、探査経路管理部62によって管理されている探査走行経路が、自動走行のための目標走行経路として設定される(#01)。自動探査走行制御部63は、目標走行経路のスタート点に機体20を移動させ(#02)、探査走行が開始する(#03)(図10(a)参照)。
【0062】
金属探知器27aによって固定部材FXが探知されると(#04Yes分岐)、探査機SRは近接走行制御部63aによって、位置検出コイルユニット27bが固定部材FXを検出する位置まで固定部材FXに近接する。さらに、近接走行制御部63aが位置検出コイルユニット27bの検出結果に基づいて駆動輪21を制御することで、位置検出コイルユニット27bの鉛直軸VLと固定部材FXの中心との位置ずれ修正が行われる(#05)。位置ずれ修正が完了すると、この時点での自機位置、つまり検出された固定部材FXの位置座標が算出される(#06)。当該固定部材FXに付与された固定部材IDとともにこの位置座標が記録される(#07)。
【0063】
この例では、探査機SRが所定領域の探査を行い、少なくとも1つ以上(一般には数十個以上)の固定部材FXを検出したことをトリガーとして、走行機IHbの加熱走行が開始されるので、所定領域の探査が終了したかどうかチェックされる(#08)。所定領域の探査が終了していない場合(#08No分岐)、ステップ#03に戻って、そのまま探査走行を続行する。
【0064】
所定領域の探査が終了した場合(#08Yes分岐)、記録されている固定部材FXの位置座標を用いて、検出された固定部材FXの位置を示す固定部材マップが作成される(#11)。作成された固定部材マップは、管理機IHaに送信され(#12)、さらに、管理機IHaから走行機IHbに転送される(#13)(図10(b)参照)。さらに、作業予定となっている防水下地上の探査が終了したかどうか、つまり探査走行が終了であるかどうかチェックされる(#14)。探査走行が終了していない場合(#14No分岐)、ステップ#03に戻って、そのまま探査走行を続行する。探査走行が終了した場合(#14Yes分岐)、探査機SRは停止、またはホームポジションに戻る。
【0065】
当初、走行機IHbは、ホームポジションに待機している。ステップ#13の処理ステップで、走行機IHbは固定部材マップ取得する(#21)。送られてきた固定部材マップが最初の初期マップであるか、あるいは初期マップ以降に作成された追加マップであるかがチェックされる(#22)。初期マップの場合、その新規の固定部材マップがメモリにマップ展開される(#24)。追加マップの場合、現状の固定部材マップが追加マップの内容で更新され(#23)、その更新された固定部材マップがメモリにマップ展開される(#24)。
【0066】
走行機IHbは、固定部材マップが展開されると、識別固定部材マップを参照して(#30)、次の加熱走行の目標点が存在するかどうかチェックする(#31)。固定部材マップ上に未溶着固定部材が存在すれば目標点ありとなり、未溶着固定部材が存在しなければ、目標点なしとなる。目標点がなければ(#31No分岐)、走行機IHbは停車するか、またはホームポジションに戻る。目標点があれば(#31Yes分岐)、自機位置に近い未溶着固定部材が加熱走行の目標点として設定される(#32)。加熱走行経路作成部72は、設定された目標点への走行経路を加熱走行経路として作成する(#33)。
【0067】
走行機IHbは、作成された加熱走行経路を目標走行経路として、目標点に達するまで加熱走行を行う(#34)。機体40が目標点(固定部材FX)に達すれば(#35Yes分岐)、走行機IHbは加熱走行を停止し、誘導加熱溶着ユニット5の加熱コイル51と固定部材FXとの位置合わせが位置ずれ制御部82によって行われる(#36)。加熱コイル51と固定部材FXとが適正な位置関係になれば(#37Yes分岐)、加熱コイル51が励磁され誘導加熱溶着が開始される(#38)。コイル駆動制御部81により、誘導加熱の終了が判定されると(#39Yes分岐)、加熱コイル51の励磁が停止され、押圧パッド53を防水シートSHに対して押し付ける押圧工程が所定時間行われる(#40)。押圧工程が終了すると、この誘導加熱溶着の対象となった固定部材FXに対して、溶着済み固定部材とみなす識別情報が生成され、当該固定部材FXを未溶着固定部材から溶着済み固定部材に変更するように識別マップが書き換えられる(#41)。当該固定部材FX対する誘導加熱溶着作業における作業データが生成され、管理機IHaに転送され、データロガーユニット13に記録される(#42)。その後、ステップ#30に戻り、加熱走行が続行される。図10(C)に示すように、この例では、探査機SRが先行し、その後探査機SRを追いかけるように、走行機IHbが加熱走行を行う。したがって、探査機SRの探査走行と走行機IHbの加熱走行とがともに行われる期間があり、高い作業効率が得られる。
【0068】
なお、図11のフローチャートでは省略されているが、加熱コイル51と固定部材FXとの位置合わせ工程時に、位置ずれ検出ユニット52と位置ずれ制御部82とによる固定部材FXの傾斜測定が行われると、その測定結果も作業データとして、管理機IHaに転送される。
【0069】
この実施形態では、探査機SR及び走行機IHbは、管理機IHaとデータ通信可能であり、それぞれの作業走行状況は管理機IHaで管理されている。作業者は、探査機SR及び走行機IHbの作業走行状況を管理機IHaのディスプレイ12を通じて、把握することができる。例えば、図10の(a)、(b)、(c)に類似する画面がディスプレイ12に表示される。また、固定部材FXを示すドットをクリックすると、当該固定部材の属性情報として、固定部材ID、位置座標、識別情報、作業データなどが表示される。なお、図10では、未探査固定部材は点線丸、探査済固定部材は白抜き丸、溶着済固定部材は黒丸で示されたが、色分け表示でもよい。また、目標走行経路としての未走行の探査走行経路は点線、探査済の探査走行経路は実線、溶融加熱のために巡回した加熱走行経路は太い実線で示されたが、これも色分け表示でもよいし、線ではなく領域で示されてもよい。
【0070】
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態では、1台の探査機SRと1台の走行機IHbと1台の管理機IHaとによる誘導加熱作業が説明されたが、複数台の探査機SRと複数台の走行機IHbとによって誘導加熱作業が行われてもよい。その場合、管理機IHaが管理センタとなり、各探査機SRが探査すべき領域を割り当てて、各探査機SRが走行すべき探査走行経路を作成し、各探査機SRに送る。管理機IHaは、各探査機SRから送られてくる固定部材マップを統合して統合マップを作成し、各走行機IHbが誘導加熱を行うべき固定部材FXを割り当てて、加熱走行経路を作成し、各走行機IHbに送る。さらに、管理機IHaは、各走行機IHbから送られてくる溶着識別情報を統合し、統合識別情報を作成し、次の加熱走行経路の作成のために利用する。
【0071】
(2)上述した実施形態では、誘導加熱機IHは、管理機IHaと走行機IHbとに分離されていたが、管理機IHaと走行機IHbとを一体化することも可能である。また、誘導加熱機IHは、自動走行機能を省略して、作業者によるリモコン操縦、または作業者によって移動される手押し車式、作業者によって持ち運ばれる携帯式で構成してもよい。その場合、固定部材マップを取得する機能と、自機位置算出機能と、次に作業する固定部材FXを固定部材マップ上で自機位置ともに示す表示装置とが備えられる。
【0072】
(3)上述した実施形態では、固定部材FXは円盤状の形状であったが、その他の形状、例えば多角形は矩形の固定部材FXが採用されてもよい。また、防水シートSHの定義は、広く解釈されるべきであり、建築用シートや防護シートであってもよい。
【0073】
(4)上述した実施形態では、加熱コイル51の固定部材FXに対する水平方向の位置ずれである加熱コイル位置ずれを算出するために用いられる位置ずれ検出ユニット52は、防水下地の表面に対する固定部材FXの傾きを検出するためにも用いられていた。これに代えて、それぞれの目的のために、別々の位置ずれ検出ユニット52が用いられてもよい。
【0074】
(5)図8で示された各機能部は、説明目的で便宜上区分けされたものであり、任意の複数の機能部を統合してもよいし、各機能部をさらに分割してもよい。さらに、探査機SR、管理機IHa、走行機IHbの機能部は、探査機SR、管理機IHa、走行機IHbに移管してもよい。
【0075】
(6)上述した実施形態では、防水下地として、コンクリート製の防水下地であったが、これ以外の下地、例えば、プレキャストのコンクリート下地であってもよい。また、その平面形状は、水平面以外に、縦壁などの垂直面や傾斜面であってもよい。
【0076】
(7)シート温度センサ54は非接触式ではなく、接触式のセンサ、例えば、バイメタルセンサやサーミスタセンサなどであってもよい。
【0077】
(8)上述した実施形態では、誘導加熱機IHは、マップ作成ユニット65によって作成された固定部材マップを用いて、固定部材FXを防水シートSHの上面から誘導加熱していた。これに代えて、マップ作成ユニット65を省略して、位置座標算出ユニット64によって算出された固定部材FXの位置座標を直接用いて、誘導加熱機IHが固定部材FXに接近して、固定部材FXを防水シートSHの上面から誘導加熱してもよい。
【0078】
(9)上述した実施形態では、コイル駆動制御部81は、走行機IHbの誘導加熱溶着ユニット5に組み込まれていた。これに代えて、コイル駆動制御部81は、管理機IHaに組み込まれてもよい。この場合、管理機IHaに組み込まれたコイル駆動制御部81は、電源ユニット11から供給される電力を所定の周波数の電力に変換し、接続ケーブルCAを介して、その変換された電力を走行機IHbの加熱コイル51に送る。その他の、管理機IHaと走行機IHbとに組み込まれた機器も、相互に置き換えて組み込んでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、防水下地上に点在した固定部材を防水シートの上から誘導加熱して、防水シートに溶着させる誘導加熱溶着システムに適用可能である。
【符号の説明】
【0080】
5 :誘導加熱溶着ユニット
6 :位置変更機構
16 :通信部
26 :障害物検出センサ群
27a :金属探知器
27b :位置検出コイルユニット
28 :通信ユニット
29 :GNSSユニット
46 :障害物検出センサ群
48 :通信ユニット
49 :GNSSユニット
51 :加熱コイル
52 :位置ずれ検出ユニット
53 :押圧パッド
61 :自機位置算出部
62 :探査経路管理部
63 :自動探査走行制御部
63a :近接走行制御部
64 :位置座標算出ユニット
64a :ID付与部
65 :マップ作成ユニット
70 :マップ取得部
71 :自機位置算出部
72 :加熱走行経路作成部
74 :自動加熱走行制御部
75 :溶着識別情報生成部
76 :固定部材識別マップ作成部
77 :報知デバイス
82 :位置ずれ制御部
84 :傾き算出部
85 :傾き判定部
SR :探査機
IH :誘導加熱機
IHa :管理機
IHb :走行機
FX :固定部材
SH :防水シート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11