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▶ サステインドナノシステムズエルエルシーの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】超圧縮ポリマー剤形の放射線殺菌
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/34 20170101AFI20230929BHJP
   A61K 9/22 20060101ALI20230929BHJP
   A61K 9/52 20060101ALI20230929BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20230929BHJP
   A61K 31/56 20060101ALI20230929BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230929BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20230929BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230929BHJP
【FI】
A61K47/34
A61K9/22
A61K9/52
A61K31/573
A61K31/56
A61K45/00
A61K38/00
A61P29/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020523679
(86)(22)【出願日】2018-07-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 US2018041511
(87)【国際公開番号】W WO2019014269
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-07-08
(31)【優先権主張番号】62/531,239
(32)【優先日】2017-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520011164
【氏名又は名称】サステインドナノシステムズエルエルシー
【氏名又は名称原語表記】SUSTAINED NANO SYSTEMS LLC
【住所又は居所原語表記】4 Howell Lane, Westhampton Beach, NY 11978 United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(72)【発明者】
【氏名】リビン バリー エム
(72)【発明者】
【氏名】リーブマン ジェフリー エム
(72)【発明者】
【氏名】チェン ワイリアム
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-540447(JP,A)
【文献】特表2012-524779(JP,A)
【文献】国際公開第2017/066626(WO,A1)
【文献】特表2007-535536(JP,A)
【文献】特表2001-506144(JP,A)
【文献】国際公開第2016/004231(WO,A1)
【文献】AAPS Pharm. Sci. Tech.,2003年,4(3), Article 34,pp.1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00-9/72
A61K31/00-31/80
A61K33/00-33/44
A61K47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬品有効成分とともに50,000~350,000 psiの圧力で超圧縮されたエステル封鎖ラクチドポリマー、エステル封鎖グリコリドポリマー、またはエステル封鎖ラクチド-グリコリドコポリマーを含有する殺菌医薬製剤であって、電子ビームで殺菌されている殺菌医薬製剤
【請求項2】
請求項1に記載された殺菌医薬製剤であって、
医薬品有効成分は、ステロイド、非ステロイド抗炎症剤、抗ヒスタミン、抗生剤、散瞳剤、β-アドレナリン遮断薬、麻酔薬、α-2-β-アドレナリン作用薬、マスト細胞安定化薬、プロスタグランジン製剤、交感神経作動薬、副交感神経作動薬、抗増殖剤、眼科血管新生および新血管新生を減少させる薬剤、血管収縮剤、抗悪性腫瘍薬、ポリヌクレオチド、組換えプロテイン類似物、血管新生阻害剤およびそれらの組み合わせ、からなるグループから選択されている殺菌医薬製剤
【請求項3】
請求項1に記載された殺菌医薬製剤であって、
医薬品有効成分は、ペプチドおよびプロテインからなるグループから選択されている殺菌医薬製剤
【請求項4】
請求項に記載された殺菌医薬製剤であって、
100K psiから300K psiが付与されて圧縮されている殺菌医薬製剤
【請求項5】
請求項4に記載された殺菌医薬製剤であって、
200K psiから300K psiが付与されて圧縮されている殺菌医薬製剤
【請求項6】
請求項に記載された殺菌医薬製剤であって、
医薬品有効成分は、ステロイドである殺菌医薬製剤
【請求項7】
エステル封鎖ラクチドポリマー、エステル封鎖グリコリドポリマー、またはエステル封鎖ラクチドーグリコリドコポリマーの殺菌超圧縮医薬製剤の製造方法であって、
(a)医薬品有効成分とエステル封鎖ラクチドポリマー、エステル封鎖グリコリドポリマー、またはエステル封鎖ラクチドーグリコリドコポリマーを化合させて、粉末状製品を形成し、
(b)工程(a)の粉末状製品を50,000~350,000 psiの圧力で圧縮して、超圧縮製剤を形成し、
(c)工程(b)の超圧縮製剤を殺菌量の電子ビーム照射源に曝して、殺菌製品を形成することを含む、殺菌超圧縮医薬製剤の製造方法
【請求項8】
請求項に記載された殺菌超圧縮医薬製剤の製造方法であって、
医薬品有効成分は、ステロイド、非ステロイド抗炎症剤、抗ヒスタミン、抗生剤、散瞳剤、β-アドレナリン遮断薬、麻酔薬、α-2-β-アドレナリン作用薬、マスト細胞安定化薬、プロスタグランジン製剤、交感神経作動薬、副交感神経作動薬、抗増殖剤、眼科血管新生および新血管新生を減少させる薬剤、血管収縮剤、抗悪性腫瘍薬、ポリヌクレオチド、組換えプロテイン類似物、血管新生阻害剤およびそれらの組み合わせからなるグループから選択されている殺菌超圧縮医薬製剤の製造方法
【請求項9】
請求項に記載された殺菌超圧縮医薬製剤の製造方法であって、
100K psiから300K psiが付与されて圧縮されている殺菌超圧縮医薬製剤の製造方法
【請求項10】
請求項に記載された殺菌超圧縮医薬製剤の製造方法であって、
200K psiから300K psiが付与されて圧縮されている殺菌超圧縮医薬製剤の製造方法
【請求項11】
請求項7に記載された殺菌超圧縮医薬製剤の製造方法であって、
医薬品有効成分は、ペプチドおよびプロテインからなるグループから選択されている殺菌超圧縮医薬製剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超圧縮(高密度化)されて制御放出製剤を形成する生体適合ポリマー材料に分散された医薬品有効成分(API)の殺菌分野に関する。
【背景技術】
【0002】
APIを含んだ超圧縮(高密度化)された生体適合ラクチドポリマー、グリコラクチドまたはラクチド-グリコラクチドコポリマーが知られている。これらの製品の多くの用途のために、これらの製品を投与または患者への埋め込みに先立って、殺菌するべく放射線を使用することが好ましい。しかしながら、これらの超圧縮ポリマーまたはコポリマーはもろく、放射線で殺菌されると分解しやすい。APIがポリペプチドやプロテインのように熱的に不安定な材料であるとき、これらの固形製剤は放射線によってのみ殺菌され、処理による殺菌方法でその製品の製造は実行できないため、放射線を殺菌するために使うことが必須である。出願人は、ラクチドポリマー、グリコラクチドまたはラクチド-グリコラクチドポリマーを含有するポリマー材料に基づく殺菌製品を形成するためにガンマ線が適用される場合、これらのポリマー材料および存在する任意のポリペプチドまたはプロテインは分解または変性されることに気付いた。これによりAPIが効能の規則基準を満たさない製品を生じ得る。
【0003】
電離放射線は、イオンを形成し二次電子を放出するエネルギーの移動によりポリマー分子の電子と互いに影響し合うことが知られている。二次電子の運動エネルギーレベルに応じて、それらはさらにイオン化し、近くに存在する他の分子を励起する。ガンマ線のような電離放射線に曝されることで捕捉ラジカル、電子、イオンなどの様々なエネルギー種を即座に生じ、これらのエネルギー種の崩壊により分裂し、フリーラジカルを生じる。そのような事象は、ポリマー材料およびまたはAPIを不安定化(分子鎖切断)し、安定化(架橋)する。
【0004】
分解されたペプチドとプロテインの反応種の間の相互作用に影響を及ぼす重要な要素は、両者の近接性である。超圧縮は反応種を互いに近接配置するため、超圧縮は実際にさらなる分解を促進し、貯蔵寿命が短い安定性が低い製品が生じるとともに、製品の効能を低下させる。
【0005】
一日の最大投与量が1.0 mgに対して、医薬品有効成分に関する医薬品中の物質の量が、1.0重量%または5 μg TDI(一日の合計摂取量)のいずれか低い値以下に制限されるという現在の医薬の規定が米国と欧州で存在する。関連する物質は、治療目的に適さない製品となるレベルの製剤を含有する、放射線で殺菌されたポリマーまたはコポリマーにおいて検出される。
【0006】
超圧縮されたデキサメタゾン/PLGA製品は、ガンマ線照射によって殺菌された場合に、放射線による劣化副産物のレベルが高い(酸末端PLGAが用いられた場合に2.35%、エステル封鎖PLGAが用いられた場合に2.16%)ことが分かった。殺菌のための電子ビーム照射がエステル封鎖PLGAで使用される場合、放射線による劣化副産物は実質的に減少する(0.89%~1.03%)。
【0007】
本発明は、電子ビーム殺菌技術の使用が、エステル封鎖ラクチドポリマー、エステル封鎖グリコラクチドポリマー、またはエステル封鎖ラクチド-グリコラクチドコポリマーで作られる超圧縮医薬制御放出製品のガンマ線照射殺菌によって生じる分解問題を回避するという発見に基づく。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、医薬品有効成分と超圧縮されるエステル封鎖ラクチドポリマー、エステル封鎖グリコリドポリマー、またはエステル封鎖ラクチド-グリコリドコポリマーを含有する殺菌医薬剤形であって、電子ビームで殺菌された殺菌医薬剤形を提供する。
【0009】
本発明はまた、エステル封鎖ラクチドポリマー、エステル封鎖グリコリドポリマー、またはエステル封鎖ラクチド-グリコリドコポリマーの殺菌超圧縮医薬剤形の製造方法であって、
(a)医薬品有効成分をエステル封鎖ラクチドポリマー、エステル封鎖グリコリドポリマー、またはエステル封鎖ラクチド-グリコリドコポリマーと結合して、粉末状製品を形成し、
(b)工程(a)の粉末状製品を圧縮して、超圧縮剤形を形成し、
(c)工程(b)の超圧縮剤形を殺菌量の電子ビーム照射源に曝して、殺菌製品を形成することを含む。
【0010】
本発明の方法は、電子ビーム殺菌の使用により、超圧縮制御放出エステル封鎖ラクチドポリマー、エステル封鎖グリコリドポリマー、またはエステル封鎖ラクチド-グリコリドコポリマー医薬製剤中のポリペプチドまたはプロテインAPIの殺菌中に室温の使用を可能にする。
【0011】
したがって、本発明の目的は、殺菌超圧縮制御放出エステル封鎖ラクチドポリマーまたはエステル封鎖グリコリドポリマーまたはエステル封鎖ラクチド-グリコリドコポリマー医療製剤中にポリペプチドまたはプロテインAPIを含有する、新規な殺菌医薬製剤を提供することである。
【0012】
また、本発明の目的は、超圧縮制御放出ラクチドポリマー、グリコリドポリマーまたはラクチドーグリコリドコポリマー医薬製剤中にエステル封鎖ラクチドポリマー、エステル封鎖グリコラクチド、またはエステル封鎖ラクチド-グリコラクチドコポリマーおよび/またはポリペプチドまたはプロテインAPIを含有するポリマー材料を殺菌する方法を提供することである。
【0013】
本発明のさらなる目的は、眼科治療薬がマイクロ粒子またはナノ粒子の形状で含まれるエステル封鎖ラクチドポリマー、エステル封鎖グリコリドポリマーまたはエステル封鎖ラクチド-グリコラクチドコポリマーの超圧縮眼科インサート中にポリペプチドまたはプロテインAPIを含有する殺菌眼科治療薬を投与する方法を提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ポリ(L-ラクチド)(PLLA)やポリ(ラクチド-CO-グリコリド)(PLGA)のような生分解性ポリマーが生物医学用途および医薬用途に用いられている。それらは、その優れた毒性プロファイルおよび調製可能な生分解性のため、ナノ粒子、マイクロ粒子、注射用デポ、フィルム、足場材、および薬物送達用のバルクインプラントとして処方される。これらの制御薬物送達システムは、治療および患者コンプライアンスを改良することで実用的な重要性をもたらし、現場において長期にわたり最適な薬物濃度を提供し、薬物の好ましくない副作用を低減する。
【0015】
PLGA、PLAおよび他のポリマーから形成される薬物送達デバイスは、眼や他の部位の疾患を治療するために研究されており、その加水分解性、薬物放出性、および機械的健全性は様々なものに適用するべく最適化されている。
【0016】
本発明は、エステル封鎖ラクチドポリマー、エステル封鎖グリコリドポリマーまたはエステル封鎖ラクチド-グリコラクチドコポリマーを利用する。
【0017】
PLGA合成は(i)低分子量のコポリマーをもたらす乳酸モノマーとグリコール酸モノマーの直接重縮合1, 2、または(ii)高分子量のコポリマーをもたらす乳酸とグリコール酸の環状二量体の開重合3, 4, 5, 6によって行われる。このタイプのバルク重合の典型的な反応条件は、温度175℃においてラウリルアルコールなどのイニシエーター存在下で2時間から6時間の範囲である。エステル封鎖PLGAは、優れた抗分解性にみられるように酸封鎖PLGAより安定的である8, 9。
【0018】
エステル封鎖ポリマーはPLA(ポリ乳酸)、PGY(ポリグリコール酸)、PGLAポリマーまたはコポリマーのポリカプロラクトンを使ったエステル化反応またはエステル交換反応によって形成されてもよい。エステル封鎖ポリマーは市販されているが、周知の方法で形成されてもよい。ガンマ線および電子ビーム照射は、ポリマー系医療デバイスを殺菌するために最も普及され確立されたプロセスである。しかしながら、それらの技術は取り扱われる材料における重要な改変もたらすことが長く知られている。高エネルギー放射線は、ポリマー分子中に電離とフリーラジカルを生じる。この高エネルギー種は、解離反応、引抜反応、付加反応を順に経て化学的不安定性を生じる。照射直後または照射から数日、数週、数か月後の間に生じる不安定化プロセスは、物理的および化学的な架橋または分子鎖切断を生じる。結果として生じる物理的変化は、脆化、変色、臭気発生、硬化、軟化、耐薬品性の改善または悪化、および融点の上昇または低下である。
【0019】
ガンマ線照射は、ポリペプチドまたはプロテインを含むAPIの放射線劣化を生じる。これにより、ペプチドまたはプロテインの分子構成の改変または破壊によるこれらの材料の生物学的性質の変化を起こす。材料が影響を受ける程度は、供給された表面線量に依る。電子ビームエネルギーの制御により、超圧縮剤形における電子ビームの浸透深さを操ることができる。低エネルギーは浅い浸透深さを生じ、それゆえペプチドまたはプロテインの分子構成の改変または破壊を回避する。
【0020】
電子ビーム(E-beam)処理または電子は、様々な目的で対象物を処理するために高エネルギー電子を使うことを必要とする。これは、高温および窒素雰囲気下で行われる。電子ビーム処理の用途には、殺菌およびポリマーの架橋がある。
【0021】
電子ビーム技術の原理は、テレビのブラウン管の原理と同様である。電子ビーム加速器は、直径が約4インチの電子のビームを生成し、光の速度近くまでビームを励起する。ビームは、強力な電磁システムがビームを200 Hzで前後に走査し、4フィートの高さの電子のカーテンを形成する走査室を通過する。高速コンベアーは、電子ビームで殺菌される製品を積載したトートやカートンを運び、放射線の正確な所定線量が製品に供給される。
【0022】
電子エネルギーは、要求される浸透深さに応じて、典型的にはkeVからMeVの範囲で変化する。照射線量は、通常キログレイ(kGy)の単位で測定される。NUTEKコーポレーションは、コンベアーの対向する位置において製品が2つの電子ビーム(10 Mev,8 KW)加速器に曝され、サンプルがトートキャリア上で電子ビームバンカーを通過するように構成されたデュアルビームシステム(以下を参照)を有する。
【0023】
典型的な電子ビーム処理装置の基本的な要素として、電子ガン(カソード、グリッド、アノードを含む)が一次ビームを生成し加速するために用いられる。磁性光学(焦点および偏向)システムが、処理される材料(被加工物)に電子ビームが入射する方向を制御するために用いられる。動作において、ガンカソードは、熱的に放出された電子であって、加速されるとともに、用いられたガン電極(グリッドおよびアノード)構成によって形成された静電界形状によって平行ビームとされた電子の放出源である。そして、電子ビームは、カソードに付与される負の高電圧(ガン駆動電圧)の値と同じエネルギーで、ガンアセンブリから接地アノードの出口孔を通じて現れる。高エネルギー電子線を形成する直接高電圧のこの用途は、入力される交流電力を95%以上の効率でビーム出力に変換することを可能にし、高エネルギー効率技術を処理する電子ビーム材料を形成する。ガンを出た後、ビームは電磁レンズおよび偏向コイルシステムを通過する。レンズは、被加工物上の集束ビームスポットまたは非集束ビームスポットのいずれかを形成するために用いられるが、偏向コイルは、ビームスポットを静止位置に設けるため、または揺動運動のある形状を設けるために用いられる。
【0024】
電子ビーム処理は、高エネルギー電子ビーム加速器を使った製品の照射(処理)を必要とする。電子ビーム加速器は、ブラウン管テレビと同様の共通デザインとともに、オン-オフ技術を使用する。
【0025】
電子ビーム放射は、エステル封鎖ラクチドポリマー、エステル封鎖グリコラクチドポリマー、またはエステル封鎖ラクチド-グリコラクチドコポリマーを、許容できないレベルの分解物の生成により医薬製剤に使用できなくなる程度に分解することなく、超圧縮医薬組成物を殺菌するために使用できることが予期せず分かった。
【0026】
しかしながら、PLGAおよびPLLAからの一定の薬物放出率に対して働く一つの要因は、それらがバルク分解を経ることである。それらのポリマーのバルク分解は、予測不能な現象である。
【0027】
本発明の超圧縮デバイスは、APIと化合され、超圧縮されて制御放出投与ユニットを形成するエステル封鎖ラクチドポリマー、エステル封鎖グリコリドポリマー、またはエステル封鎖ラクチド-グリコリドコポリマーを含有する。ポリマーと混合されるAPIは、親水性、または好ましくは、例えば抗真菌剤、抗菌剤、抗生剤、抗炎症剤、免疫抑制剤、組織増殖因子、象牙質知覚過敏抑剤、抗酸化剤、栄養剤、ビタミン剤、臭気マスキングなどの疎水性薬物である。具体的には例えば、ステロイド、非ステロイド抗炎症剤、抗ヒスタミン、抗生剤、散瞳剤、β-アドレナリン遮断薬、麻酔薬、α-2-β-アドレナリン作用薬、マスト細胞安定化薬、プロスタグランジン製剤、交感神経作動薬、副交感神経作動薬、抗増殖剤、血管新生および新血管新生を減少させる薬剤、血管収縮剤、およびそれらの組み合わせおよび、ベバシズマブ、ラニシズマブ、ポリヌクレオチド、組換えプロテイン類似物を含むペプチドまたはプロテイン、エンドスタチンなどの血管新生阻害剤、サリドマイド、5-フルオロウラシル、パクリタキセル、ミノサイクリン、チモロール半水和物、rhHGH、ブレオマイシン、ガンシクロビル、フペルジン、タモキシフェン、ピロキシカム、レボノルゲストレル、シクロスポリンなどの抗悪性腫瘍薬のような疾患を治療するための他の任意の薬剤が含まれる。
【0028】
他の薬剤は、特別なステロイドには限定されないものの、プレドニゾン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾンなどのステロイド;ネオマイシン、トブラマイシン、アミノグリコシド、フルオロキノロン、ポリマイシン、スルファセタミド、および、ピロカルピン、イソピロカルピン、フィゾスチグミン、デメカリウム、エコチオパート、アセチルコリン、およびそれらの塩などの薬剤などの抗生剤;アトロピン、フェニレフリン、ヒドロキシアンフェタミン、シクロペントレート、ホマトロピン、スコポラミン、トロピカミド、およびそれらの塩などの薬剤などの散瞳薬および調節麻痺剤;リドカイン、プロパラカイン、テトラカイン、フェナカインなどの麻酔剤;チモロール、カルテオロール、ベタキソロール、ナドロール、レボブノロール、および、ドルゾラミド、アセタゾラミド、およびラタノプロスト、ウノプロストン、ビマトプロスト、またはトラボプロストなどのプロスタグランジン類似体などの炭酸脱水酵素阻害薬などのβ-遮断薬;第VIII因子、インシュリン、エリスロポエチン、血管内皮増殖因子、線維芽細胞増殖因子、グルコセレブロシダーゼなどの組換えプロテイン;アブシキシマブ、ベバシズマブ、プリツムバブ、オクレリズマブ、インフリキシマブ、サリルマブなどの治療のための抗体;デニロイキン・ディフティトクス、モキセツモマブパスードトクス、LMB-2、オポルツズマブモナトクス、HuM195-ゲロニン、A-dmDT390-bisFv(UCHT1)などの免疫毒素;顆粒球コロニー刺激因子、インターフェロン、腫瘍壊死因子、インターロイキン、およびトランスフォーミング増殖因子-βなどのサイトカイン;エラスチン、コラーゲン、フィブロネクチン、およびピカチュリンなどのECMプロテインである。
【0029】
一般に、ペプチドまたはプロテインは重量平均分子量が5,000~250,000である。
【0030】
超圧縮に先立って、ラクチドポリマー、グリコリドポリマー、またはラクチド-グリコラクチドポリマーまたはコポリマーおよび医薬品有効成分は、典型的には直径が約2 μm~約50 μm、好ましくは約2 μm~約25 μm、より好ましくは約5 μm~約20 μmのマイクロスフェア、またはマイクロカプセルとして知られているマイクロ粒子に形成されてもよい。マイクロスフェアという用語は、最終製品がマイクロスフェアとして形作られたポリマーマトリクス内に均等に分散した薬物を備えるように、活性薬物と適切な溶剤およびポリマーを混合させて得られる実質的均質構造を説明するために用いられる。マイクロ粒子の選択されたサイズ範囲によって、ナノ粒子という用語は、1~1000ナノメータのサイズの構造を説明するために用いられる。ナノメータ(nm)は、1メータの百万分の一もしくは、およそ水素分子10個分の大きさである。
【0031】
一般に、ナノ粒子薬物キャリア、例えばポリマー材料は、主として50~500 nmの大きさの生分解性固体粒子で構成される。一般に、粒子サイズは、粒子が容易に測定され、必要に応じて圧縮剤形を形成するための超圧縮力の適用に最適な圧縮機に粒子を配置するための目的で運ばれるように、選択される。
【0032】
ナノ粒子は例えば、ポリラクチドポリマー溶液を、眼科治療薬などの治療薬の存在下で2重量%のポリビニルアルコール溶液を含むクロロホルム中で最長10分間、超音波処理機(Misonix XL-2020)を用いて超音波処理(50~55Wのパワー出力)して得られる。その後、エマルションは4℃で一晩中撹拌され、クロロホルムを蒸発させて、ポリマーと治療薬のナノ粒子を得る。薬用ナノ粒子は、生細胞の内部に容易にアクセス可能であり、局所的薬物療法を高める並外れた機会を与える。
【0033】
マイクロカプセルはまた、本発明の圧縮剤形を形成するために用いられてもよい。マイクロカプセルという用語は、好ましくは非球形の剤形であり、活性薬物および添加された上記のサイズ範囲の賦形剤を有するコアの周りに配置されるポリマーシェルを有する剤形を説明するために用いられる。一般に、マイクロカプセルは、以下の手法のいずれかを用いて形成される。
(1)水相および有機相分離プロセス、溶融分散および噴霧乾燥を含む相分離法
(2)界面重合、本来の場所での重合および化学蒸着を含む界面反応
(3)流動層スプレーコーティング、静電コーティング、および物理蒸着を含む物理的方法
(4)溶媒蒸発法またはアンチソルベントとともにエマルションを用いる
【0034】
一般に、マイクロ粒子は、治療薬およびポリマーの合計重量の100重量部に対して、約0.00001~約50重量部の治療薬とされ、さらに約50~約99.9重量部のポリマーとされる。好ましい範囲は、治療薬が1~50重量部、5~40重量部、および20~30重量部であり、その残りはポリマーとされる。所望により、1~5重量%のポリビニルピロリドンなどのバインダが、圧縮工程に先立って、マイクロ粒子に均一に混合されてもよい。
【0035】
埋め込み超圧縮剤形に存在する薬物の量は変わるが、一般的には薬物の通常の経口投与量または静注投与量の0.5~20%とされ、溶解性、埋め込み領域、患者、および治療される状況によって変化する。マイクロスフェアは、ここに記載された典型的なエマルション溶媒蒸発技術によって形成される。
【0036】
病理の治療のために治療薬が放出される場所に配置するために適切な制御放出剤形用の生分解性ポリマーマトリクスを形成するために、エステル封鎖ポリ(l-ラクチド)、ポリ(dl-ラクチド)、ポリグリコリド,ポリ(グリコリド-co-ラクチド)、ポリ(グリコリド-co-dl-ラクチド)、ポリグリコリドとトリメチレンカーボネイトおよびポリエチレンオキサイドのブロックポリマー、またはそれらの混合物のいずれかのポリマーが選択される。合成ポリマーは、任意の分子量(重量平均)または任意の分子量多分散度,乳酸(LA)とグリコール酸(GA)の間の全ての比率および、全ての結晶化度を備えたポリラクチドまたはポリ(ラクチドcoグリコリド)とされる。一般に、分子量範囲は、約500~約10,000,000 Da、好ましくは約2,000~約1,000,000 Da、より好ましくは約500~約5,000 Daとされる。LA:GAの比率が約75:25~約85:15(mol:mol)であり分子量が約5,000~約500,000のp(LGA)が用いられる。ラクチド/グリコリドポリマーはバルク浸食性ポリマー(表面浸食性ポリマーではない)であり、ポリマーはマイクロ粒子マトリクスになったときに水がマトリクスに侵入しポリマーは分子量が減少するため、加水分解する。ポリマー分子量を増加させ、L-ポリマーを使用し、マイクロ粒子のサイズまたは剤形のサイズを増加することで表面積を減少させることで、再吸収曲線を長時間にシフトすることができる。ラクチド/グリコリドコポリマーは、固有粘度が最大で6.5 dl/g、最小で0.15 dl/gとして利用される。低分子量コポリマーは、本発明に好ましい。グリコリドのラクチドに対するモル比が50:50であれば、最も早い分解と薬物の対応する放出を生じることが分かっている。ポリマー骨格中のラクチドの比率を50モル%から100モル%に増加させることで、一回あたりの投薬量から治療効果を延伸させるために放出率を減少させることができる。
【0037】
好ましいカプセル化ポリマーは、直鎖および分岐の脂肪族アルコールまたは他の手段で形成されるエステル封鎖ポリ(グリコリド-co-dl-ラクチド)である。投与デバイス用の好ましい制御放出送達システムとしてのエステル封鎖ポリマー材料は、吸収性のポリグリコール酸およびポリグリコール酸/ポリ乳酸縫合材料と構造が同様である。ポリマーキャリアは、治療薬の持続性放出送達システムとされる。ポリマーは、そのエステル結合が通常の代謝化合物、乳酸、およびグリコール酸を形成し治療薬を放出するために加水分解されるプロセスを通じて生分解される。
【0038】
様々な比率の乳酸とグリコール酸からなるコポリマーは、分解率における違いについて研究されている。生分解率はコポリマー中のグリコール酸に対する乳酸の比率に依存し、比率が50:50のコポリマーが最も早く分解することが知られている。生分解性ポリマーシステムの選択は、排出された非生分解性構造を、外傷を伴う眼や他の組織から除去することを必要としない。
【0039】
エステル封鎖されていない乳酸およびグリコール酸コポリマーと比べて、乳酸およびグリコール酸ポリマーまたはラクチド-グリコリドコポリマーのエステル封鎖は、これらのコポリマーに調合される薬物の放出率に実質的には影響を及ぼさない。
【0040】
マイクロスフェアを形成した後、それらは非常に大きい力で圧縮され、本発明の投与デバイスを形成する。超圧縮は50,000~350,000 psi(以降、1,000の代わりにKが用いられる)の圧力、または100K psi~300K psi、または200K psi~300K psi、または50または60K psi~160または170K psi、または特に60K psi~170K psiの圧力をマイクロ粒子またはナノ粒子に付与することができる装置で実施される。psi(ポンド毎平方インチ)という用語は、粒子剤形に付与されるポンド単位の力を用いるとともに、剤形または型の上面の面積を平方インチにて測定または計算することで決定され、剤形へpsi単位で付与される圧力を表わすために変換される。
【0041】
超圧縮投与デバイスは完全回転楕円体でもよいが、平円板、ロッド、丸み付きまたはスムーズな縁部を備えたペレットであって、皮膚下の膝、踵、肘、臀部、肩などの骨や関節;脳下垂体、甲状腺、前立腺、卵巣、膵臓などの腺;または肝臓、脳、心臓、腎臓などの臓器に置かれるために十分に小さいペレットなど、の歪んだ回転楕円体が好ましい。より具体的には、本発明の投与デバイスは病理を治療するためにデバイスを病理の場所またはその近くに埋め込むように使用されるか、または人間、動物、魚または他の生物の体などの部位の病理に影響を及ぼす方法で使用される。そのような部位は、細胞の内容物、頭部、首、背中、胸部、腹部、会陰部、上肢または下肢の任意の部位、を含む。骨学の任意の部位は、特に限られないが、脊柱、頭蓋骨、胸骨または肋骨を含む胸部、顔面骨、鎖骨や肩甲骨や上腕骨などの上肢骨;手首の骨などの手骨;腸骨や大腿骨などの下肢骨;足根骨などの足部;関節または靱帯;筋肉および筋膜;心臓、動脈、静脈、毛細血管または血液などの心血管系;胸管、胸腺または脾臓などのリンパ系;中枢神経系または末梢神経系;眼、耳、鼻などの感覚器官;皮膚;肺、喉頭、気管および気管支などの呼吸系;食道、胃または肝臓などの消化器系;膀胱、前立腺または卵巣などの泌尿生殖器系;甲状腺、副甲状腺または副腎などの内分泌腺である。
【0042】
ヒト血管内皮増殖因子(VEGF)に結合し、ヒト血管内皮増殖因子の生理活性を抑制する組換えヒト化モノクローナルIgG1抗体は、加齢黄斑変性(AMD)の認められた治療薬である。ベバシズマブは、ヒトフレームワーク領域およびVEGFに結合したマウス抗体の相補性決定領域を有する。ベバシズマブは、ゲンタマイシン抗生物質を含有する培養液中のチャイニーズハムスター卵巣哺乳類細胞発現系にて生産され、約149キロドルトンの分子量を有する。
実施例1
【0043】
超圧縮PLGA/デキサメタゾン粒子の調剤薬は、酸末端PLGA(Purasorb PDLG5002、25℃における0.1 dl/gのクロロホルム中の固有粘度が0.16~0.24 dl/g、グリコライドに対するラクチドの重量比率が50:50)を塩化メチレン中に溶解させて、0.23重量%のデキサメタゾンを含有する5 mlのPLGA/MeCl2溶液を形成することで形成される。溶液が蒸発され、250.12 mgの粒子が直径7.87 mmの型で200K psiの圧力で圧縮され、重さ242.14 mg、厚さ3.76 mmのペレットを形成する。そこで得られたペレットは、γ線(1回の線量の合計が25 kGy)に照射され、製剤はHPLCで分析され、その結果は表に示されたように、最大2.35重量%のデキサメタゾンRSと0.37重量%の放射線を含有しないRSの存在を示す。
【0044】
0.23重量%のデキサメタゾン粒子を含有する超圧縮PLGAの調剤薬は、エステル封鎖PLGA(Resomer RG755S、25℃における0.1重量%のクロロホルム中の固有粘度が0.5~0.7 dl/g、グリコライドに対するラクチドの重量比率が75:25)から、PLGA酸末端(Purasorb 5022)製剤が形成された方法と同様に形成される。この調剤薬は、電子ビーム放射線で照射され(12 1/2 kGyの2回の線量の合計が25 kGy)、製剤はHPLCによって分析される。その結果は、2つの主要なデキサメタゾンRS材料(それぞれ0.33%、0.56%)の存在を示す。同様に、同じ調剤薬が電子ビーム(1回の線量の合計が25 kGy)で照射され、製剤はHPLCで分析され、その結果は、3つの主要なデキサメタゾンRS(それぞれ0.1%、0.36%、および0.57%)の存在を示す。同じエステル封鎖PLGA(Resomer RG755S)から形成される同じ超圧縮PLGA/デキサメタゾン粒子は、表に示されるように、γ線照射後に2.16%のデキサメタゾンRSの存在および0.4重量%の放射線を含有しないRSの存在を示す。
【0045】
超圧縮粒子はγ線照射または電子ビームのいずれかによって殺菌され、APIのデキサメタゾンは制御手段として使われる。その結果は、以下の表に要約される。
【0046】
【表1】
-FDAガイダンス Q3B(R2) 新医薬品製剤中の不純物、および欧州医薬品庁の新医薬品製剤中の不純物に関するガイダンス(CPMP/ICH/2738/99)は、新医薬品製剤における分解物(すなわち、RS)の基準閾値は、「一日の最大服用量に対して、1.0%または5 μg TDI(一日の合計摂取量)のいずれか低い値が1 mg以下である」と述べている。超圧縮マイクロ粒子は、特に高度な病巣および薬物の非常に少ない投与量での長期放出のために設計された制御放出システムであり、一日の薬物放出量は100 μg以下の範囲に収まることが要求される(実質的に、公式ガイダンスで述べられた最大許容服用量である一日あたり1 mg以下の範囲であり、それゆえ上記のデータは、同一視可能なRS(および未確認のRS)のレベルが実質的に最大耐用TDI服用量である5 μg以下であることを示す。さらなるRSの基準は、不要であるとみなされる。
【0047】
ガンマ線殺菌におけるパラメーターは以下の通りである。
-仕様の線量:22.5 kGy ~ 27.5 kGy(たとえば、25 kGy±10%)
-供給線量:24.2 kGy ~ 25.8kGy
-露出時間:299分
【0048】
電子ビーム照射は、12.5 KGy および25 KGyの線量にて電子ビーム加速器でkV単位の加速電圧、室温、湿度および窒素雰囲気における酸素不存在の下で行われる。これらの放射線量は、先の研究がこれらの線量で照射されたポリマーが、20 05 Mradから0 Mradの多層フィルム構造物の擬似表面分解を生じさせるであろう分解率において適度(5 Mrad)から良好(20 Mrad)な増加を示すために選ばれている。