(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】ガスバリア性積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/18 20060101AFI20230929BHJP
B29C 55/14 20060101ALI20230929BHJP
B29C 55/16 20060101ALI20230929BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230929BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20230929BHJP
C08J 7/048 20200101ALI20230929BHJP
【FI】
B32B27/18 Z
B29C55/14
B29C55/16
B32B27/30 Z
B65D65/40 D
C08J7/048 CFD
C08J7/048 CFG
(21)【出願番号】P 2023547501
(86)(22)【出願日】2023-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2023012060
【審査請求日】2023-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2022053747
(32)【優先日】2022-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022135453
(32)【優先日】2022-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023018289
(32)【優先日】2023-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】芦原 宏
(72)【発明者】
【氏名】荒木 悟郎
(72)【発明者】
【氏名】前原 淳
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-185652(JP,A)
【文献】国際公開第2014/042133(WO,A1)
【文献】特開2018-058280(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/18
B29C 55/14 - 55/16
B32B 27/30
B65D 65/40
C08J 7/048
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック基材(I)及び前記プラスチック基材上に積層されたガスバリア層(II)を含む、合計厚みが100μm以下のガスバリア性積層体であって、
(1)前記プラスチック基材(I)が、金属及び金属化合物の少なくとも1種と樹脂成分とを含む金属含有層を含み、
(2)前記金属含有層中の金属及び金属化合物の合計含有量が
0.2~5質量%であり、
(3)前記ガスバリア層(II)がポリカルボン酸を含有し、
(4)前記金属含有層とガスバリア層とが直に接するように積層されており、
(5)当該ガスバリア性積層体が、温度95℃で30分の熱水処理後において、温度40℃及び湿度90%RH環境下での酸素透過度が
100ml/(m
2
・day・MPa)以下である、
ことを特徴とするガスバリア性積層体。
【請求項2】
プラスチック基材(I)が、複層フィルムから構成されている、請求項1に記載のガスバリア性積層体。
【請求項3】
前記金属含有層の樹脂成分としてポリアミド樹脂又はポリエステル樹脂を含む、請求項1に記載のガスバリア性積層体。
【請求項4】
ガスバリア層(II)がポリアルコールを含有する、請求項1に記載のガスバリア性積層体。
【請求項5】
金属又は金属化合物として、マグネシウム、カルシウム及び亜鉛の少なくとも1種を含む、請求項1に記載のガスバリア性積層体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体を含有する包装用袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性積層体及びその製造方法に関する。特に、本発明は、高温・高湿度下においても優れたガスバリア性を有するガスバリア性積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドフィルム等のプラスチックフィルムは、強度、透明性、成形性に優れていることから、包装材料として幅広い用途に使用されている。これらのプラスチックフィルムは、酸素等のガス透過性が大きいので、一般食品、レトルト処理食品、化粧品、医療用品、農薬等の包装に使用した場合、長期間保存するうちにフィルムを透過した酸素等のガスにより、内容物の変質が生じることがある。
【0003】
このため、これらの包装用途に使用するプラスチックフィルムは、ガスバリア性を有することが必要とされ、また水分を含む食品等の包装においては、高湿度下でのガスバリア性も必要とされている。
【0004】
これに対し、プラスチックフィルムにガスバリア性を付与する方法として、フィルムにガスバリア層を積層する方法が提案されている。具体的には、ガスバリア層として、ポリカルボン酸系ポリマーとポリアルコール系ポリマーと金属化合物とから構成されるものを使用することが知られている。
【0005】
例えば、特許文献1~3には、高湿度下においてもガスバリア性を有するガスバリア性積層体の製造方法として、金属化合物を含有したプラスチック基材(I)に、ポリカルボン酸を含有するガスバリア層(II)を積層するガスバリア性積層体について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-276421号公報
【文献】国際公開第WO2014/042133
【文献】特開2019-151025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~3で開示されたガスバリア性積層体では、室温に近い環境下(例えば温度20℃及び湿度60%RH、温度20℃及び湿度90%RH、温度30℃及び80%RH等)におけるガスバリア性には優れているものの、例えば温度40℃及び湿度90%RHという高温・高湿度環境下におけるガスバリア性能についてはなお改善の余地が残されている。地球温暖化が進む近年の夏場の貨物輸送中における周辺環境は、非常に高温・高湿度であり、包装袋内容物の酸化劣化を抑制する観点から、高温・高湿度環境下においても優れたガスバリア性を発現できる材料が切望されており、特に温度40℃を超える高温領域でのガスバリア性発現が重要視されてきている。
【0008】
一般に、高温・高湿度環境下でのガスバリア性を高めるためには、フィルムを厚くする方法が考えられるが、特にフィルムの製袋性、フィルム製品の軽量化等の観点に加え、昨今の環境問題における原料の減容化の観点から、より薄いフィルムの開発が求められている。
【0009】
このように、より薄いフィルム(特に合計厚み100μm以下のフィルム)でありながら、高温・高湿度環境下で高いガスバリア性を発揮できる材料の開発が切望されているが、そのような材料は未だ開発されるに至っていない。
【0010】
従って、本発明の主な目的は、より薄いフィルムでありながら、高温・高湿度環境下でも優れたガスバリア性を発揮できるガスバリア性積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の製造方法により得られるフィルムが特異な構成を有するがゆえに優れたガスバリア性を発現する積層体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、下記のガスバリア性積層体及びその製造方法に係るものである。1. プラスチック基材(I)及び前記プラスチック基材上に積層されたガスバリア層(II)を含む、合計厚みが100μm以下のガスバリア性積層体であって、
(1)前記プラスチック基材(I)が、金属及び金属化合物の少なくとも1種と樹脂成分とを含む金属含有層を含み、
(2)前記金属含有層中の金属及び金属化合物の合計含有量が0.1~70質量%であり、
(3)前記ガスバリア層(II)がポリカルボン酸を含有し、
(4)前記金属含有層とガスバリア層とが直に接するように積層されており、
(5)当該ガスバリア性積層体が、温度95℃で30分の熱水処理後において、温度40℃及び湿度90%RH環境下での酸素透過度が300ml/(m2・day・MPa)以下である、
ことを特徴とするガスバリア性積層体。
2. プラスチック基材(I)が、複層フィルムから構成されている、前記項1に記載のガスバリア性積層体。
3. 前記金属含有層の樹脂成分としてポリアミド樹脂又はポリエステル樹脂を含む、前記項1又は項2に記載のガスバリア性積層体。
4. ガスバリア層(II)がポリアルコールを含有する、前記項1~3のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体。
5. 金属又は金属化合物として、マグネシウム、カルシウム及び亜鉛の少なくとも1種を含む、前記項1~4のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体。
6.ガスバリア性積層体を製造する方法であって、
(1)ポリカルボン酸を含む原料液を濾過精度1.0~10.0μmのフィルターに通過させることによってガスバリア層形成用塗工液を調製する工程、及び
(2)金属及び金属化合物の少なくとも1種と樹脂成分とを含む金属含有層を含むプラスチック基材(I)の少なくとも前記金属含有層の面上に前記塗工液を塗布する工程
を含むことを特徴とするガスバリア性積層体の製造方法。
7. ガスバリア層形成用塗工液が、平均粒子径0.1~5.0μmの消泡剤を含有する、前記項6に記載の製造方法。
8. 原料液中に消泡剤が含まれる、前記項6又は項7に記載の製造方法。
9. ガスバリア層形成用塗工液が塗工された積層体を、同時二軸延伸又は逐次二軸延伸に供する工程をさらに含む、前記項6~8のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体の製造方法。
10. 前記項1~5のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体を含有する包装用袋。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、本発明の主な目的は、より薄いフィルムでありながら、高温・高湿度環境下でも優れたガスバリア性を発揮できるガスバリア性積層体を提供することができる。特に、本発明のガスバリア性積層体は、特定の濾過プロセスを経た塗工液によってガスバリア層が形成されているので、特に合計厚みが100μm以下という厚みであっても、高温・高湿度という過酷な条件下でも高いガスバリア性を発揮することができる。
【0014】
上記のように、合計厚み100μm以下(さらには50μm以下)という比較的薄い積層体であっても、高いガスバリア性を発揮することができる理由は、定かではないが、特定の濾過プロセスによって塗工液の不要な微細固形分が除去されるとともに、塗工液がより均質化されることによって、ガス漏れの原因となる欠陥が少なく、薄くてもより均質な塗膜を形成できることによるものと推察される。このように、高温・高湿度環境下でのガスバリア性に優れていることから、例えば季節、保管環境、輸送環境等の影響をほとんど受けることなく、内容物の酸化、腐食等の劣化を抑制することが可能である。
【0015】
このように、本発明のガスバリア性積層体は、合計厚みを100μm以下という薄い材料で構成されていることから、袋体を作製する際に優れた製袋性(熱接着性等)が発揮されるほか、製品の軽量化、材料の減容化、生産コストの低減化等にも貢献することができる。
【0016】
また、本発明のガスバリア性積層体は、金属含有層を含むプラスチック基材をプラスチック基材の原料に金属又は金属化合物を添加するだけで製造することができることので、生産性、コスト等の観点からも工業的なメリットが大きい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明のガスバリア性積層の層構成例を示す図です。
【
図2】本発明のガスバリア性積層の別の層構成例を示す図です。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.ガスバリア性積層体
本発明のガスバリア性積層体(本発明積層体)は、プラスチック基材(I)及び前記プラスチック基材上に積層されたガスバリア層(II)を含む、合計厚みが100μm以下のガスバリア性積層体であって、
(1)前記プラスチック基材(I)が、金属及び金属化合物の少なくとも1種と樹脂成分とを含む金属含有層を含み、
(2)前記金属含有層中の金属及び金属化合物の合計含有量が0.1~70質量%であり、
(3)前記ガスバリア層(II)がポリカルボン酸を含有し、
(4)前記金属含有層とガスバリア層とが直に接するように積層されており、
(5)当該ガスバリア性積層体が、温度95℃で30分の熱水処理後において、温度40℃及び湿度90%RH環境下での酸素透過度が300ml/(m2・day・MPa)以下である、
ことを特徴とする。
【0019】
図1に本発明積層体の層構成例を示す。
図1Aの積層体10では、プラスチック基材11が金属又は金属化合物(以下、特にことわりのない限り、両者を総称して「金属成分」という。)を含む金属含有層11aの単層から構成されており、その金属含有層11a表面上にガスバリア層12が積層されている。このように、金属含有層11aとガスバリア層12とが直接触れることによって、金属含有層11a中に含まれる金属成分と、ガスバリア層12中に含まれるポリカルボン酸とが反応することによって、より優れたガスバリア性を発揮することができる。
【0020】
図1Bの積層体10’では、プラスチック基材11が、樹脂成分と金属成分とを含む金属含有層11aと、金属成分を含まない樹脂含有層(以下「他の樹脂含有層」ともいう。)11b,11cとの複層から構成されており、そのうち金属含有層11a表面上にガスバリア層12が積層されている。この場合も、金属含有層11aとガスバリア層12とが直接触れることによって、金属含有層11a中に含まれる金属成分と、ガスバリア層12中に含まれるポリカルボン酸とが反応することによって、より優れたガスバリア性を発揮することができる。他の樹脂層は、
図1Aは2層となっているが、1層又はそれ以上であれば良い。
【0021】
図1Cの積層体10’’では、プラスチック基材11が、金属成分と含む金属含有層11aの単層から構成されており、金属含有層11aの両面の表面上にガスバリア層12がそれぞれ積層されている。この場合も、金属含有層11aとガスバリア層12とが直接触れることによって、金属含有層11a中に含まれる金属成分と、ガスバリア層12中に含まれるポリカルボン酸とが反応することによって、より優れたガスバリア性を発揮することができる。
【0022】
図1では、いずれも金属含有層は1層のみとなっているが、2層以上が形成されていても良い。
図2に示すように、プラスチック基材11が、他の樹脂含有層11bの両面にそれぞれ金属成分と含む金属含有層11aが積層された複層から構成されており、各金属含有層11a表面上にそれぞれガスバリア層12が積層されている。すなわち、2つの金属含有層で他の樹脂含有層11bをサンドイッチしたような層構成も、本発明に包含される。このように、プラスチック基材(I)に対して、少なくとも片面にガスバリア層(II)が積層されている一方、その反対面にもガスバリア層(II)又は他のバリア層を設けても良い。両面コートとすることで、高温・高湿度環境下におけるガスバリア性をより高めることが可能となる。なお、ブラスチック基材の片面又は両面に金属含有層を3層以上有する積層体も本発明に含まれる。
【0023】
(1)各層について
プラスチック基材
プラスチック基材は、本発明積層体の支持部材として機能することに加え、金属成分をガスバリア層に供給する供給源となるものである。
【0024】
プラスチック基材は、金属及び金属化合物の少なくとも1種と樹脂成分とを含有する金属含有層(金属元素を含有する層)を含む。従って、プラスチック基材は、金属含有層1層から構成される単層である場合のほか、金属含有層と他の層とを含む複層であっても良い。金属含有層は、2層以上有していても良い。
【0025】
金属(金属単体)としては、限定的ではないが、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等の1価の金属、マグネシウム、カルシウム、ジルコニウム、亜鉛、銅、コバルト、鉄、ニッケル、アルミニウム等の2価以上の金属がガスバリア性の観点から好ましい。その中でも、カルボン酸と反応しやすいという観点から、イオン化傾向の高い金属が好ましい。具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム及び亜鉛の少なくとも1種であることが好ましく、特にマグネシウム、カルシウム及び亜鉛の少なくとも1種であることがより好ましい。
【0026】
金属化合物を構成する金属としては、特に限定されないが、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等の1価の金属、マグネシウム、カルシウム、ジルコニウム、亜鉛、銅、コバルト、鉄、ニッケル、アルミニウム等の2価以上の金属がガスバリア性の観点から好ましい。その中でも、カルボン酸と反応しやすいという観点から、イオン化傾向の高い金属が好ましい。具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム及び亜鉛の少なくとも1種であることが好ましく、特にマグネシウム、カルシウム及び亜鉛の少なくとも1種であることがより好ましい。金属の種類は、1種に限定されず、2種以上でも良い。
【0027】
金属化合物は、上記金属を含有する化合物であれば良く、例えば酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、硫酸塩等の無機塩、酢酸塩、ギ酸塩、ステアリン酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩等のカルボン酸塩、スルホン酸塩の有機酸塩が挙げられる。
【0028】
上記の金属化合物としては、例えば炭酸リチウム、炭酸水素ナトリウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、酢酸カルシウム、酢酸亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛等の少なくとも1種を好適に用いることができる。本発明では、特に酸化物、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、酢酸塩等の少なくとも1種が好ましい。特に、ガスバリア性の観点からは、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム等のマグネシウム塩;炭酸カルシウム、酢酸カルシウム等のカルシウム塩;酸化亜鉛、酢酸亜鉛等の亜鉛塩等の2価金属化合物が好ましい。また、特に、プラスチック基材(I)の透明性を確保するという観点からは、炭酸リチウム、炭酸水素ナトリウム等の1価の金属化合物、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等のマグネシウム化合物が好ましい。これらは1種又は2種以上で使用することができる。これらの中でも、特に酸化物及び炭酸塩の少なくとも1種がより好ましい。
【0029】
金属成分の形態は、限定的ではないが、通常は粉末状であることが好ましく、その平均粒子径は、特に限定されないが、通常は0.001~10.0μm程度の範囲内であれば良く、特に0.005~5.0μmであることがより好ましく、さらに0.01~2.0μmであることがより好ましく、その中でも0.05~1.0μmであることが最も好ましい。プラスチック基材(I)の透明性を向上させることができるという点では、金属成分は、平均粒子径が小さい方が好ましい。他方、平均粒子径が0.001μm未満の金属成分は、表面積が大きいために凝集しやすく、粗大凝集物がフィルム中に散在し、基材の機械的物性を低下させることがある。一方、平均粒子径が10.0μmを超える金属成分を含有するプラスチック基材(I)は、製膜する時に破断する頻度が高くなり、生産性が低下する傾向がある。加えて、平均粒子径が10.0μmを超えると、プラスチック基材(I)の厚みが薄い場合に不適となることがある。
【0030】
金属成分の粒子は、無機処理、有機処理等の表面処理を施すことで分散性、耐候性、熱可塑性樹脂との濡れ性、耐熱性、透明性等を改善又は向上させることができる。無機処理としては、例えばアルミナ処理、シリカ処理、チタニア処理、ジルコニア処理、酸化錫処理、酸化アンチモン処理、酸化亜鉛処理等が挙げられる。有機処理としては、例えば脂肪酸化合物、ペンタエリトリット、トリメチロールプロパン等のポリオール系化合物、トリエタノールアミン、トリメチロールアミン等のアミン系化合物、シリコーン樹脂、アルキルクロロシラン等のシリコーン系化合物を用いた処理が挙げられる。これらは1種又は2種以上を採用することができる。
【0031】
金属含有層中の金属成分の含有量(金属及び金属化合物の合計含有量)は、通常は0.1~70質量%とし、特に0.1~50質量%とすることが好ましく、さらに0.2~20質量%とすることがより好ましく、その中でも0.2~5質量%とすることが最も好ましい。ヘイズ(透明性)の観点からは5質量%未満であることが好ましい。金属含有層中の金属成分の含有量を0.1~70質量%とすることにより、優れたガスバリア性を得ることができる。金属含有層中の金属成分の含有量が0.1質量%未満であると、ガスバリア層(II)のポリカルボン酸と反応して形成される架橋構造が少なくなり、得られるガスバリア性積層体は、ガスバリア性が低下する。一方、金属成分の含有量が70質量%を超える金属含有層は、製膜時の延伸において破断する頻度が高くなり、生産性が低下しやすくなり、機械的物性も低下しやすい。
【0032】
金属含有層に金属成分を含有させる方法は、特に限定されず、その製造工程の任意の時点で、配合することができる。例えば、金属含有層を構成する熱可塑性樹脂を重合するときに金属成分を添加する方法、熱可塑性樹脂と金属成分とを押出機にて混練する方法、金属成分を高濃度に練り込んで配合したマスターバッチを製造し、これを熱可塑性樹脂に添加して希釈する方法(マスターバッチ法)等が挙げられる。本発明においては、作業効率の観点より、マスターバッチ法が好ましく採用される。
【0033】
本発明において、金属含有層を構成する樹脂成分としては、特に限定されないが、通常は熱可塑性樹脂の1種又は2種以上を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、アイオノマー等のポリオレフィン樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロンMXD6、ナイロン9T等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル樹脂、塩化ビニル、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体等の少なくとも1種が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂のうち、ポリアミド樹脂及びポリエステル樹脂の少なくとも1種が好ましい。特に、包装用袋を構成したときに、突刺し強力、耐衝撃性等に優れるという点ではポリアミド樹脂(特にナイロン6)がより好ましい。また、耐熱性と経済性に優れるという点では、ポリエステル樹脂(特にポリエチレンテレフタレート)がより好ましい。従って、これら樹脂成分は、本発明積層体の用途等に応じて適宜選択することができる。
【0034】
なお、金属含有層を構成する熱可塑性樹脂は、バイオマス由来成分、樹脂廃材等を解重合して得られた再生モノマー又は再生オリゴマーを出発材料として重合されたケミカルリサイクル樹脂成分のほか、フィルム製造時に発生する、耳部トリミング屑、スリット屑等を粉砕したり、前記廃屑又は不良品となったフィルムを再度溶融ペレット化したマテリアルリサイクル樹脂成分等のいずれかの成分、あるいはこれらの成分の複数を含有しても良い。
【0035】
金属含有層中の樹脂成分の含有量は、通常は、金属成分及び必要に応じて添加される添加剤を除く残部とすれば良い。従って、例えば99.9~30質量%と設定できるほか、99.9~50質量%と設定することもでき、また99.8~80質量%とすることもでき、さらには99.8~95質量%と設定することも可能である。
【0036】
金属含有層には、本発明の効果を妨げない範囲内において、必要に応じて、プラスチック基材(I)の性能に悪影響を与えない範囲で、熱安定剤、酸化防止剤、強化材、顔料、劣化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、防腐剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤等の各種の添加剤の少なくとも1種が含まれていても良い。また、金属含有層には、プラスチック基材(I)のスリップ性を向上させる等の目的で、金属成分以外の無機系滑剤又は有機系滑剤を添加しても良く、特にシリカを添加することが好ましい。
【0037】
これら添加剤の合計含有量は、通常は金属含有層中5質量%以下程度とすれば良いが、これに限定されない。なお、これらの添加剤が、金属含有層の「金属及び金属化合物の少なくとも1種」にも該当する場合は、その添加剤の含有量は当該「金属及び金属化合物の少なくとも1種」の含有量としてカウントするものとする。
【0038】
金属含有層の厚みは、限定的ではないが、厚みの制御、ガスバリア層との反応性等の見地より、通常は5~95μm程度の範囲内で適宜設定できるが、特に10~30μmとすることが好ましい。従って、例えば12~25μmと設定することもできる。
【0039】
プラスチック基材(I)は、前記の通り、金属含有層の単層から構成される場合のほか、金属含有層と他の樹脂含有層の1層又は2層以上との複層から構成されていても良い。
【0040】
この場合の他の樹脂含有層としては、熱可塑性樹脂を含む層があれば良い。熱可塑性樹脂としては、金属含有層で採用できる前記熱可塑性樹脂の少なくとも1種が挙げられる。この場合、金属含有層に含まれる熱可塑性樹脂と、他の樹脂含有層に含まれる熱可塑性樹脂とは、互いに同じであっても良いし、異なっていても良い。
【0041】
また、他の樹脂含有層では、本発明の効果を妨げない範囲内において、金属含有層で採用できる前記添加剤の少なくとも1種が含まれていても良い。この場合、添加剤の合計含有量は、通常は他の樹脂含有層(他の樹脂含有層が1層以上の場合は各層)中5質量%以下程度とすれば良いが、これに限定されない。他の樹脂含有層は、金属成分を含む層あるいは金属成分を含まない層のいずれであっても良いが、特に金属成分を含まない層を好適に採用することもできる。また、他の樹脂含有層中における樹脂成分の含有量は、通常は上記添加剤を除く残部とすれば良い。従って、例えば95~100質量%程度に設定することができるが、これに限定されない。
【0042】
プラスチック基材(I)の構成としては、前記の通り、金属含有層のみから構成される場合のほか、他の樹脂含有層とを含む複層となっている場合であっても良い。すなわち、本発明積層体におけるプラスチック基材としては、(a)1層又は2層以上の金属含有層から構成される場合と、(b)1層又は2層以上の金属含有層と、1層又は2層以上の他の樹脂含有層とから構成される場合のいずれであっても良い。
【0043】
前記(b)の場合の金属含有層(M)と他の樹脂含有層(R)の厚み構成比率は、特に制限されず、金属含有層(M)の合計厚み(Mt)と、他の樹脂含有層(R)の合計厚み(Rt)の比率[(Rt)/(Mt)]は、1/1000~1000/1であることが好ましく、それぞれの層の厚み制御が容易であるため、1/100~100/1であることがより好ましく、1/10~10/1であることがさらに好ましい。なお、他の樹脂含有層(R)は、以下においては、単に「樹脂層(R)」と表記することもある。
【0044】
プラスチック基材(I)の厚みは、得られるガスバリア性積層体が必要とする機械的強度に応じて適宜選択できる。特に、機械的強度、ハンドリングのしやすさの理由から、プラスチック基材(I)の厚みは、通常5~99.95μm程度の範囲内で適宜設定することができるが、特に5~50μmであることが好ましく、さらに5~40μmであることがより好ましく、その中でも10~30μmであることが最も好ましい。プラスチック基材(I)は、厚みが5μm未満であると十分な機械的強度が得られず、突刺し強力が低下する傾向がある。
【0045】
ガスバリア層(II)
本発明積層体を構成するガスバリア層(II)は、ポリカルボン酸を含む。ガスバリア層(II)中のポリカルボン酸は、プラスチック基材(I)中の金属成分と反応することによって、所望のガスバリア性を発現することができる。
【0046】
ポリカルボン酸としては、分子中にカルボキシル基を2個以上有する化合物(重合体も含む。)であれば良い。また、これらのカルボキシル基は、無水物の構造を形成していても良い。
【0047】
ポリカルボン酸の具体例としては、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸-メタクリル酸共重合体、アクリル酸-マレイン酸共重合体、ポリマレイン酸、エチレン-マレイン酸共重合体等のオレフィン-マレイン酸共重合体、アルギン酸のように側鎖にカルボキシル基を有する多糖類、カルボキシル基含有のポリアミド、ポリエステル等を例示することができる。上記ポリカルボン酸は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0048】
ポリカルボン酸が重合体である場合、その重量平均分子量は限定的ではないが、通常は1,000~1,000,000程度とし、特に10,000~150,000とすることがより好ましく、その中でも15,000~110,000とすることが最も好ましい。ポリカルボン酸の重量平均分子量が低すぎる場合は、得られるガスバリア層(II)は脆弱になる。一方、ポリカルボン酸の重量平均分子量が高すぎる場合は、ハンドリング性が損なわれ、場合によっては、後述するガスバリア層(II)を形成するための塗工液中で凝集し、得られるガスバリア層(II)は、ガスバリア性が損なわれるおそれがある。
【0049】
本発明において、上記ポリカルボン酸のうち、ポリアクリル酸、アクリル酸-マレイン酸共重合体及びオレフィン-マレイン酸共重合体の少なくとも1種を用いることが好ましい。その中でも、オレフィン-マレイン酸共重合体が好ましい。特に、エチレン-マレイン酸共重合体(以下、「EMA」と略記することがある。)が、ガスバリア性の点から好適に用いることができる。
【0050】
EMAは、例えば無水マレイン酸とエチレンとを溶液ラジカル重合等の公知の方法で重合することにより得られる。オレフィン-マレイン酸共重合体中のマレイン酸単位は、乾燥状態では隣接カルボキシル基が脱水環化した無水マレイン酸構造となりやすく、湿潤時又は水溶液中では開環してマレイン酸構造となる。従って、本発明においては、特記しない限り、マレイン酸単位と無水マレイン単位とを総称して「マレイン酸単位」という。
【0051】
EMA中のマレイン酸単位は、限定的ではないが、通常は5モル%以上であることが好ましく、特に20モル%以上であることがより好ましく、さらには30モル%以上であることがより好ましく、その中でも35モル%以上であることが最も好ましい。上記マレイン酸単位の上限値は、特に限定されないが、通常は90モル%以下であり、特に80モル%以下であることが好ましい。また、EMAの重量平均分子量は、限定的ではないが、通常は1,000~1,000,000程度であることが好ましく、特に3,000~500,000であることがより好ましく、特に7,000~300,000であることがさらに好ましく、その中でも10,000~200,000であることが最も好ましい。
【0052】
ガスバリア層(II)は、ポリカルボン酸が100質量%又はそれ以下(例えば50~80質量%、また例えば60~75質量%)であっても良いが、他の成分を含んでいても良い。本発明では、特に、ポリアルコールを含有することが好ましい。ポリアルコールを含有することによって、ガスバリア層(II)中のポリカルボン酸は、プラスチック基材(I)中の金属成分と反応することに加え、ポリアルコールとも反応するので、ガスバリア性をより高めることができる。従って、ガスバリア層中において、ポリアルコールは、例えば20~50質量%程度含むことができ、好ましくは25~40質量%含むことができる
【0053】
ポリアルコールとしては、限定的ではなく、例えば分子内に2個以上の水酸基を有する化合物が挙げられる。これらの化合物は、低分子化合物又は高分子化合物のいずれであっても良い。
【0054】
上記低分子化合物としては、例えばグリセリン、ペンタエリスリトール等の糖アルコール、グルコース等の単糖類、マルトース等の二糖類、ガラクトオリゴ糖等のオリゴ糖が挙げられる。これらは少なくとも1種を用いることができる。
【0055】
上記高分子化合物としては、例えばポリビニルアルコール(PVA)、エチレン-ビニルアルコール共重合体、でんぷん等の多糖類が挙げられる。これらは少なくとも1種を用いることができる。また、前記ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等のケン化度は、限定的ではないが、95モル%以上であることが好ましく、特に98モル%以上であることがより好ましい。さらに、前記ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等の平均重合度は、特に限定されないものの、通常は50~2,000程度であることが好ましく、特に200~1,000であることがより好ましい。
【0056】
本発明では、これらのポリアルコールは、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。本発明では、特に、ポリビニルアルコールを好適に用いることができる。
【0057】
ガスバリア層(II)におけるポリカルボン酸とポリアルコールとの比率は、所望の効果が得られる限りは限定されないが、OH基とCOOH基のモル比(OH基/COOH基)として通常0.01~20とすることが好ましく、さらに0.01~10とすることがより好ましく、特に0.02~5とすることがさらに好ましく、その中でも0.04~2とすることが最も好ましい。
【0058】
また、ガスバリア層(II)は、ポリアクリルアミド、ポリメタアクリルアミド又はポリアミンを含有することできる。これらの化合物を含有させることによって、ガスバリア層(II)中のポリカルボン酸は、プラスチック基材(I)中の金属成分と反応することに加え、これらの化合物とも反応するので、ガスバリア性をより向上させることができる。
【0059】
前記のポリアクリルアミド、ポリメタアクリルアミド又はポリアミンは、公知又は市販のものを使用することができる。特に、ポリアミンは、分子中にアミノ基として第一級、第二級から選ばれる少なくとも1種のアミノ基を2個以上有するものを用いることができる。その具体例としては、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、分岐状ポリエチレンイミン、線状ポリエチレンイミン、ポリリジン、キトサンのように側鎖にアミノ基を有する多糖類、ポリアルギニンのように側鎖にアミノ基を有するポリアミド類等が挙げられる。ポリアミンの重量平均分子量は、特に限定されないが、通常5,000~150,000程度であることが好ましい。ポリアミンの重量平均分子量が低すぎると、得られるガスバリア層(II)は脆弱になることがある。一方、ポリアミンの重量平均分子量が高すぎると、ハンドリング性が損なわれるおそれがあり、場合によっては、後述するガスバリア層(II)を形成するための塗工液中で凝集し、得られるガスバリア層(II)は、ガスバリア性が損なわれる場合がある。
【0060】
ガスバリア層(II)における、ポリアミンとポリカルボン酸との質量比(ポリアミン/ポリカルボン酸)は、特に制限されないが、通常は12.5/87.5~27.5/72.5程度とすることが好ましい。ポリアミンの含有割合が低すぎると、ポリカルボン酸のカルボキシル基の架橋が不十分となるおそれがある。ポリアミンの含有割合が高すぎると、ポリアミンのアミノ基の架橋が不十分となるおそれがある。このため、いずれの場合も、得られるガスバリア性積層体は、ガスバリア性に劣る場合がある。
【0061】
ガスバリア層(II)は、架橋剤を含有しても良い。架橋剤を含有することによって、ガスバリア性をより高めることができる。ガスバリア層(II)における架橋剤の含有量は、ポリカルボン酸100質量部に対して0.1~30質量部とすることが好ましく、特に1~20質量部とすることがより好ましい。架橋剤としては、a)自己架橋性を有する化合物、b)カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物等が挙げられる。ガスバリア層(II)がポリアルコールを含有する場合は、水酸基と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物でも良い。好ましい架橋剤としては、例えばイソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、炭酸ジルコニウムアンモニウム等のジルコニウム塩化合物、金属アルコキシド等の少なくとも1種が挙げられる。
【0062】
金属アルコキシドは、アルコキシ基が結合した金属を含む化合物であり、一部のアルコキシ基の代わりにハロゲン又はカルボキシル基との反応性を有する官能基で置換されたアルキル基が結合していても良い。
【0063】
ここで、金属アルコキシドにおける当該金属としては、例えばSi、Al、Ti、Zr等の少なくとも1種の原子が挙げられる。なお、本発明における金属は、Si等の半金属も包含する。
【0064】
前記ハロゲンとしては、例えば塩素、ヨウ素、臭素等の少なくとも1種が挙げられる。前記のカルボキシル基との反応性を有する官能基としては、例えばエポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、ウレイド基等の少なくとも1種が挙げられる。さらに、前記アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基等の少なくとも1種が挙げられる。
【0065】
このような金属アルコキシドの具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、クロロトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のアルコキシシラン化合物、テトライソプロポキシチタン、テトラエトキシチタン等のアルコキシチタン化合物、トリイソプロポキシアルミニウム等のアルコキシアルミニウム化合物、テトライソプロポキシジルコニウム等のアルコキシジルコニウム化合物等の少なくとも1種が挙げられる。
【0066】
これらの金属アルコキシドは、その一部又は全部が加水分解したもの、部分的に加水分解、縮合したもの、完全に加水分解しその一部が縮合したもの、あるいは、これらを組み合わせたものを用いることもできる。
【0067】
上記の金属アルコキシドとポリカルボン酸とを混合すると、両者が反応して塗工することが困難になる場合があるので、予め、加水分解縮合物を形成させてから混合することが好ましい。加水分解縮合物を形成させる方法としては、公知のゾルゲル法で用いられている手法をいずれも適用することができる。
【0068】
ガスバリア層(II)には、ガスバリア性、プラスチック基材(I)との接着性を大きく損なわない限りにおいて、例えば熱安定剤、酸化防止剤、強化材、顔料、劣化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、離型剤、滑剤、防腐剤、濡れ剤、粘度調整剤、消泡剤等の添加剤が含まれていても良い。熱安定剤、酸化防止剤又は劣化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン類、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を使用することができる。
【0069】
特に、強化材としては、例えばクレー、タルク、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、珪酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、ゼオライト、モンモリロナイト、ハイドロタルサイト、フッ素雲母、金属繊維、金属ウィスカー、セラミックウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー、窒化ホウ素、グラファイト、ガラス繊維、炭素繊維、フラーレン(C60、C70等)、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0070】
これらの添加剤の合計含有量は、通常は金属含有層中5質量%以下程度とすれば良いが、これに限定されない。特に、添加剤として消泡剤を使用した場合、その含有量はガスバリア層(II)中0.01~1.00質量%程度とし、特に0.10~0.50質量%とすることが好ましい。
【0071】
本発明において、プラスチック基材(I)上に積層される上記ガスバリア層(II)の厚みは、限定的ではないが、特にガスバリア性積層体のガスバリア性を十分高めるという見地からは0.05μmより厚いことが好ましく、特に0.10μm以上であることがより好ましく、その中でも0.15μm以上であることが最も好ましい。また、経済性の点からは5.00μmより薄いことが好ましく、特に1.00μm以下がより好ましく、その中でも0.50μm以下が最も好ましい。従って、例えば0.06~4.50μmの範囲で厚みを設定したり、また例えば0.20~0.40μmの範囲で厚みを設定することもできる。
【0072】
(2)本発明積層体の層構成及び特性
本発明積層体の基本構成は、金属含有層を含むプラスチック基材(I)と、ガスバリア層(II)とを含むものであるが、金属含有層(M)とガスバリア層(II)とが接触していれば、上記のようにそれぞれ1層又は2層以上から構成されていても良い。
【0073】
本発明では、特にプラスチック基材(I)が複層フィルムである場合、本発明積層体の構成例としては、例えば「(R)/(M)/(II)」、「(M)/(R)/(M)/(II)」、「(II)/(M)/(R)/(II)」、「(II)/(M)/(R)/(M)/(II)」等が挙げられる。これらの構成は、ガスバリア層(II)と金属含有層(M)とが接触し、ガスバリア層(II)中のポリカルボン酸と金属含有層(M)中の金属成分とが反応しやすいため、効率的にガスバリア性を得ることができる。その中でも、製造するための設備、操業性等を考慮すると、前記「(R)/(M)/(II)」の構成等が好ましい。
【0074】
本発明積層体は、当該積層体を温度95℃で30分の熱水処理した後において、温度40℃及び湿度90%RH環境下で測定した酸素透過度が300ml/(m2・day・MPa)以下という特性を発揮することができる。これにより、本発明積層体は、優れたガスバリア性を発揮することができる。
【0075】
特に、上記の熱水処理した後の積層体は、(a)温度20℃及び湿度65%RH、(b)温度20℃及び湿度90%RH、(c)温度30℃及び湿度80%RHならびに(d)温度40℃及び湿度90%RH環境下で測定した酸素透過度が、いずれも300ml/(m2・day・MPa)以下であることが好ましい。熱水処理後の酸素透過度は、内容物の腐食防止の観点から、前記(a)~(d)のいずれの条件下でも、特に200ml/(m2・day・MPa)以下であることがより好ましく、その中でも100ml/(m2・day・MPa)以下であることが最も好ましい。上記(a)の酸素透過度の下限値は0ml/(m2・day・MPa)に近いほど好ましく、例えば1ml/(m2・day・MPa)と設定できるが、これに限定されない。上記(b)の酸素透過度の下限値は0ml/(m2・day・MPa)に近いほど好ましく、例えば1ml/(m2・day・MPa)と設定できるが、これに限定されない。上記(c)の酸素透過度の下限値は0ml/(m2・day・MPa)に近いほど好ましく、例えば1ml/(m2・day・MPa)と設定できるが、これに限定されない。上記(d)の酸素透過度の下限値は0ml/(m2・day・MPa)に近いほど好ましく、例えば20ml/(m2・day・MPa)と設定できるが、これに限定されない。
【0076】
本発明積層体は、日本産業規格JIS K7127に準じて温度23℃及び湿度50%RH環境下で測定した引張試験における引張強度が150MPa以上であることが好ましく、特に180MPa以上であることがより好ましい。引張強度が150MPa未満であると、機械強度が十分ではなく、突刺し強力が低下する傾向がある。従って、例えば150~300MPa程度に設定できるが、これに限定されない。また、JIS K7127に準じて温度23℃及び湿度50%RH環境下で測定した引張試験における引張伸度は、引張強度と同様の観点から、60%以上が好ましく、80%以上であることがより好ましい。従って、例えば60~95%程度に設定できるが、これに限定されない。
【0077】
本発明積層体の耐ピンホール性は、5℃雰囲気下での500回繰り返し屈曲疲労テストにおけるピンホールの発生個数が100個以下であることが好ましく、特に20個以下であることがより好ましい。上記耐ピンホール性は、ASTM F392に準じて、ゲルボフレックステスター(例えば、テスター産業社製)で5℃の条件下で500回屈曲を与えた後のピンホール数の発生数を測定し、評価したものである。ピンホールの発生個数の下限値は0個に近いほど好ましく、例えば0個に設定できるが、これに限定されない。
【0078】
本発明積層体の透明性は、日本産業規格JIS K7136に準じて温度23℃及び湿度50%RH環境下で測定したヘーズが70%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、30%以下であることがさらに好ましく、15%以下であることが特に好ましく、10%以下であることが最も好ましい。ただし、用途によっては、透明性を必要としない場合があるため、この限りではない。
【0079】
本発明積層体の総厚みは、100μm以下であることが必要であり、その範囲内において用途等に応じて適宜設定することができる。材料の使用量の低減化、製袋性等の観点から、積層体の総厚みは薄い方が良く、特に50μm以下が好ましく、その中でも30μm以下が最も好ましい。また、バリア性の観点から、積層体の層厚みは、厚い方が良く、特に5μm以上が好ましく、その中でも10μm以上がより好ましい。従って、例えば6~40μmの範囲で厚みを設定したり、また例えば12~25μmの範囲で厚みを設定することもできる。
【0080】
2.ガスバリア性積層体の製造方法
本発明のガスバリア性積層体は、上記のような特徴を備える限りは、いずれの方法によっても製造することができるが、特に下記の方法:
ガスバリア性積層体を製造する方法であって、
(1)ポリカルボン酸を含む原料液を濾過精度1.0~10.0μmのフィルターに通過させることによってガスバリア層形成用塗工液を調製する工程(塗工液調製工程)、及び(2)金属及び金属化合物の少なくとも1種と樹脂成分とを含む金属含有層を含むプラスチック基材(I)の少なくとも前記金属含有層の面上に前記塗工液を塗布する工程(塗工液塗布工程)
を含むことを特徴とする製造方法によって好適に製造することができる。
【0081】
塗工液調製工程
塗工液調製工程では、ポリカルボン酸を含む原料液を濾過精度1.0~10.0μmのフィルターに通過させることによってガスバリア層形成用塗工液を調製する。
【0082】
ポリカルボン酸を含む原料液は、作業性の面から水性であることが好ましい。従って、ポリカルボン酸、さらには任意成分であるポリアルコール、ポリアミン等は、水溶性又は水分散性であることが好ましく、特に水溶性であることがより好ましい。
【0083】
ポリカルボン酸としては、前記「1.ガスバリア性積層体」で挙げた各種のポリカルボン酸を用いることができる。
【0084】
原料液は、ポリカルボン酸と水とを混合することによって得られたポリカルボン酸の水溶液又は水分散液を用いることができる。この場合のポリカルボン酸の濃度は、限定的ではなく、例えば5~30質量%程度の範囲内と設定することができる。
【0085】
また、ポリアルコールを併用して水性の原料液を調製する場合、用いるポリアルコールの種類、ポリカルボン酸とポリアルコールとの比率、添加剤等は、前記「1.ガスバリア性積層体」の記載内容に従えば良い。この場合、ポリカルボン酸のカルボキシル基に対して0.1~20当量%のアルカリ化合物を加えることが好ましい。ポリカルボン酸は、カルボキシル基の含有量が多いと親水性が高くなるので、アルカリ化合物を添加しなくても水溶液にすることができる。この場合、アルカリ化合物を適正量添加することにより、得られるガスバリア性積層体のガスバリア性を格段に向上させることができる。
【0086】
上記アルカリ化合物としては、ポリカルボン酸のカルボキシル基を中和できるものであれば良く、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、アンモニア水、炭酸水素ナトリウム等の少なくとも1種を挙げることができる。アルカリ化合物の添加量は、通常はポリカルボン酸のカルボキシル基に対して0.1~20モル%であることが好ましい。
【0087】
本発明において、ポリカルボン酸とポリアミンとを混合して水性の塗工液を調製する場合、ゲル化を抑制するために、ポリカルボン酸に塩基を添加しておくことが好ましい。
【0088】
上記塩基としては、得られるガスバリア性積層体のガスバリア性を阻害しないものであれば良く、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等の無機化合物、アンモニア、メチルアミン、ジエタノールアミン等の有機化合物が挙げられる。これらは1種又は2種以上で使用することができる。その中でも、乾燥、熱処理で揮発しやすいことから、アンモニアであることが好ましい。塩基の添加量は、ポリカルボン酸のカルボキシル基に対して、通常0.6当量以上であることが好ましく、特に0.7当量以上であることがより好ましく、その中でも0.8当量以上であることが最も好ましい。塩基の添加量が少ない場合には、塗工液が塗工中にゲル化し、プラスチック基材(I)上にガスバリア層(II)を形成することが困難となることがある。
【0089】
これらの各成分を混合することによって原料液を調製することができる。この場合、撹拌機を備えた溶解釜等を用いて混合を実施することができる。混合手順は、限定的ではないが、特にポリカルボン酸とポリアルコールとを別々に水溶液とし、塗工前に混合する方法が好ましい。この時、上記アルカリ化合物をポリカルボン酸の水溶液に加えておくと、その水溶液の安定性を向上させることができる。
【0090】
また、原料液中には、本発明の効果を妨げない範囲内で他の添加剤が含まれていても良い。添加剤としては、前記「1.ガスバリア性積層体」で挙げた各種の添加剤を挙げることができる。特に、本発明の製造方法においては、上記原料液の泡立ちの抑制、あるいは既に発生した泡の破泡促進の観点から消泡剤を配合することが好ましい。
【0091】
消泡剤の種類は、特に限定されないが、鉱物油タイプ、植物油タイプ、水系エマルションタイプ、シリコンタイプ等のいずれも用いることができ、用途等に応じて適宜選択することができる。これらは、公知又は市販のものを使用することもできる。また、消泡剤は、固体又は液体のいずれの性状であっても良い。
【0092】
消泡剤の平均粒子径は、特に限定されないが、消泡効果向上、コート抜け抑制等の観点から0.10~5.00μmであることが好ましく、特に0.15~3.00μmであることがより好ましく、その中でも0.20~1.00μmであることが最も好ましい。平均粒子径を0.10μm以上とすることで消泡効果が得られ、さらに5.00μm以下とすることでコート抜けを抑制できる結果、特に高温・高湿度環境下におけるガスバリア性の低下をより効果的に抑制することができる。なお、上記の平均粒子径は、消泡剤が液体である場合又は液体として使用する場合は、液滴径を示す。
【0093】
消泡剤の平均粒子径を上記のような好ましい範囲に調整する方法としては、特に限定されず、例えばディスパーで回転攪拌する方法、ホモジナイザーで超音波攪拌する方法、ポンプで加圧して適正な濾過精度のフィルターを通過させる方法等のほか、これらの方法を2種以上で組み合わせる方法等が挙げられる。
【0094】
消泡剤の含有量は、消泡効果向上又はコート抜け抑制の観点から、水を含む原料液全量中0.001質量%~0.100質量%とすることが好ましく、特に0.010~0.050質量%とすることがより好ましい。消泡剤の含有量が0.001質量%以上とすることで消泡効果が発現し、0.100質量%以下とすることでコート抜けを抑制でき、特に高温・高湿度環境下におけるガスバリア性低下を抑制することができる。
【0095】
このようにして得られた原料液を濾過精度(絶対濾過精度)1.0~10.0μmのフィルターに通過させることによってガスバリア層形成用塗工液を調製する。驚異なことに、前述した塗工液調整工程によって、特に温度40℃及び湿度90%RHという高温高湿度環境下でも高いガスバリア性を発揮できるフィルムを得ることができる。その原因は未だに明らかにされていないが、事後推測によると、以下のように考えられる。フィルターに通過させることによって、原料液中に含まれる気泡の除去又は細分化を行うことができるほか、原料液中の粗大粒子を取り除くこともできる。また、原料液中のポリカルボン酸及び又は、ポリアルコールの凝集物が細分化され、ガスバリア層形成時にポリカルボン酸とポリアルコール及び、ポリカルボン酸と金属成分との反応がより密に起こりやすくなる。その結果として、全体的に均質であって、実質的に気孔、亀裂等の欠陥のないフィルムが形成できる。
【0096】
フィルターとしては、濾過精度が1.0~10.0μmであるフィルターを用いるが、特に濾過精度2.0~5.0μmのフィルターがより好ましい。濾過精度が1.0μm未満のフィルターを用いると、後記に示す消泡剤を用いた場合にフィルター通過後の消泡剤粒子径が小さくなりすぎて十分な消泡効果が得られず、泡によるコート抜けの原因となるおそれがある。また、濾過精度が10.0μmより大きいフィルターを使用すると、所望のフィルタリング効果が得られないほか、消泡剤を用いた場合にはフィルター通過後の消泡剤粒子径が大きくなりすぎ、消泡剤起因のはじきによるいわゆるコート抜けが発生する。加えて、原料液中のポリカルボン酸及び又はポリアルコールの凝集物が細分化されきれず、ガスバリア層形成時のポリカルボン酸とポリアルコール及び、ポリカルボン酸と金属成分との反応が不均一になる場合がある。いずれかのパターンによりコート抜けが発生した場合又は凝集物起因でポリカルボン酸、ポリアルコール、金属成分の反応が不均一となった場合には、温度40℃及び湿度90%RHという高温・高湿度環境下でのガスバリア性が低下することがある。
【0097】
また、本発明では、濾過効率及び濾過性能を向上させるために、原料液を加圧しながらフィルターを通過させることが好ましい。圧力は、通常は0.1~0.3MPaの範囲とすれば良く、特に0.15~0.25MPaとすることが好ましい。圧力が0.1MPa未満では、濾過効率が低いうえ、フィルターによる消泡剤微粒子化の効果が小さい。他方、0.3MPaより大きい場合には、フィルター破壊の懸念がある。本発明において、加圧手段としては、通常の加圧装置(ポンプ等)を使用することができる。
【0098】
フィルター装置は、濾過精度が1.0~10.0μmの範囲内にあるものであれば特に限定されず、例えば(a)フィルターハウジングと、(b)そのフィルターハウジング内に設置されるフィルターと、(c)原料液をフィルターに加圧注入するためのポンプとを含むフィルター装置を用いることができる。
【0099】
フィルター(カートリッジフィルター)としては、例えば金属メッシュ、ろ布、不織布積層体、樹脂成形体、セラミックス成形体等のいずれのタイプのフィルターも好適に用いることができる。また、その形状も、限定的でなく、例えば円筒形状(ちくわ形状)のフィルター等を用いることができる。大きさは、例えば円筒形状であれば、外径50~100mm程度、内径10~30mm程度、長さ200~1000mm程度とすることができるが、これに限定されない。これらの装置等は、公知又は市販のものを使用することもできる。
【0100】
フィルターによる処理方法は、連続式又は循環式のいずれでも良い。また、フィルターを通過させる回数は、1回でも良いし、2回以上(多段式)であっても良い。従って、例えば濾過精度が1.0~10.0μmの範囲内にある第1フィルターを通過させた後、濾過精度が1.0~10.0μmの範囲内にあって第1フィルターよりも小さな濾過精度をもつ第2フィルターを通過させる方法等も採用することができる。
【0101】
本発明では、フィルターを通過させる際の原料液の粘度は、特に限定されないが、B型粘度計を用いて液温25℃で測定したときの粘度が5.0~50.0mPa・s程度の範囲内であることが好ましい。従って、例えば10.0~40.0mPa・sの範囲内に設定することもできる。フィルター通過前の液粘度を上記範囲内とすることによって、気泡の細分化をより促進できるほか、消泡剤粒子径制御の精度をより高めることができる。また、ポリカルボン酸及び又はポリアルコールの凝集物の細分化を促進する効果も期待できる。従って、フィルターを通過させる前の塗工液の粘度が上記範囲外である場合は、必要に応じて、塗工液の粘度を調整することもできる。
【0102】
塗工液塗布工程
塗工液塗布工程では、金属及び金属化合物の少なくとも1種と樹脂成分とを含む金属含有層を含むプラスチック基材(I)の少なくとも前記金属含有層の面上に前記ガスバリア層形成用塗工液を塗布する。
【0103】
プラスチック基材(I)は、前記「1.ガスバリア性積層体」で述べた構成を採用することができ、例えば樹脂含有原料から予め形成されたフィルムを用いることができる。また、プラスチック基材(I)の製造方法も、特に限定されず、例えば以下のようにして製造されたプラスチック基材(I)を用いることもできる。
【0104】
単層構成のフィルムからなるプラスチック基材(I)の場合は、例えば金属成分を混合した熱可塑性樹脂を押出機で加熱溶融してTダイよりフィルム状に押出し、エアーナイフキャスト法、静電印加キャスト法等公知のキャスティング法により回転する冷却ドラム上で冷却固化し、未延伸状態のフィルムが得られる。これをプラスチック基材(I)として用いることができる。
【0105】
また、複層構成のフィルムからなるプラスチック基材(I)の場合は、例えば金属成分を混合した熱可塑性樹脂を押出機Aで加熱溶融し、また熱可塑性樹脂を押出機Bで加熱溶融し、それぞれ溶融した2種の樹脂をダイス中で重ね合わせ、例えば金属含有層(M)/樹脂層(R)の2層構成となり得るフィルムをTダイから押出し、上記同様、冷却固化することによって、未延伸状態のフィルムで得ることができる。このようにして得られたフィルムをプラスチック基材(I)として用いることができる。このような各方法で、プラスチック基材(I)に金属を含有させることにより、金属成分を含む層を基材に積層する工程を省略することもできる。
【0106】
ガスバリア層(II)形成用塗工液をプラスチック基材(I)に塗布する方法は、特に限定されず、例えばエアーナイフコーター、キスロールコーター、メタリングバーコーター、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、ディップコーター、ダイコーター等の1種又は2種以上を組み合わせた方法を採用することができる。
【0107】
ガスバリア層(II)形成用塗工液をプラスチック基材(I)に塗布した後は、必要に応じてその塗膜を乾燥させる乾燥工程を実施することができる。
【0108】
乾燥方法は、特に限定されず、例えばa)塗布後に直ちに加熱処理を行い、乾燥皮膜の形成と加熱処理を同時に行う方法、b)塗布後、ドライヤー等による熱風の吹き付け、赤外線照射等により水分等を蒸発させて乾燥皮膜を形成させた後に、加熱処理を行う方法等が挙げられる。
【0109】
本発明では、ガスバリア層(II)の状態、ガスバリア性等の物性に特に障害が生じない限り、塗布後に直ちに加熱処理を行うことが好ましい。
【0110】
加熱処理方法は、特に限定されず、オーブン等の乾燥雰囲気下で加熱処理を行う方法が挙げられる。工程の短縮化等を考慮すると、ガスバリア層(II)形成用塗工液を塗布した後でプラスチック基材(I)の延伸を行うのが好ましい。上記のいずれの場合においても、ガスバリア層(II)を形成したプラスチック基材(I)を、100℃以上の加熱雰囲気中で5分間以下の熱処理を施すことが好ましい。
【0111】
また、ガスバリア層(II)が、ポリカルボン酸とポリアルコールとを含有する場合においては、それらの比率、添加成分の有無、添加剤の含有量等によっても影響を受け得るので、塗工液を塗布後の加熱処理温度は、限定的できないが、通常は100~300℃程度とすることが好ましく、特に120~250℃とすることがより好ましく、140~240℃とすることがさらに好ましく、その中でも160~220℃とすることが最も好ましい。熱処理温度が100℃未満であると、ポリカルボン酸とポリアルコールとの架橋反応を十分に進行させることができず、十分なガスバリア性を有する積層体を得ることが困難になることがあり、一方、熱処理温度が300℃を超えると、ガスバリア層(II)等が脆化するおそれ等がある。
【0112】
熱処理時間は、通常は5分間以下とすることが好ましく、1秒間~5分間とすることがより好ましく、3秒間~2分間とすることがさらに好ましく、その中でも5秒間~1分間とすることが最も好ましい。熱処理時間が短すぎると、上記架橋反応を十分に進行させることができず、ガスバリア性を有する積層体を得ることが困難になり、一方、長すぎると生産性が低下する。
【0113】
プラスチック基材(I)に塗布されたガスバリア層(II)形成用塗工液(塗膜)は、上記の乾燥前及び/又は乾燥後に、必要に応じて、例えば紫外線、X線、電子線等の高エネルギー線照射処理が施されても良い。このような場合には、高エネルギー線照射により架橋又は重合する成分が配合されていても良い。
【0114】
延伸工程
本発明では、延伸工程として、ガスバリア層形成用塗工液が塗工された積層体を、同時二軸延伸又は逐次二軸延伸に供する工程をさらに含むことが好ましい。
【0115】
延伸方法は、同時二軸延伸又は逐次二軸延伸のいずれであっても良いが、特に同時二軸延伸方法を用いる方が好ましい。同時二軸延伸方法は、一般に、機械的特性、光学特性、熱寸法安定性、耐ピンホール性等の実用特性を兼備させることができる。このほか、縦延伸の後に横延伸を行う逐次二軸延伸方法では、縦延伸時にフィルムの配向結晶化が進行して横延伸時の熱可塑性樹脂の延伸性が低下することにより、金属成分の配合量が多い場合にフィルムの破断頻度が高くなる傾向がある。このため、本発明においては、吸水処理を施し、同時二軸延伸方法を採ることが好ましい。
【0116】
同時二軸延伸する場合は、例えばプラスチック基材(I)にガスバリア層(II)形成用塗工液を塗布してガスバリア層(II)を形成した後、テンター式同時二軸延伸機にて、縦方向(MD)及び横方向(TD)に同時二軸延伸を施すことによって、同時二軸延伸されたガスバリア性積層体を得ることができる。
【0117】
逐次二軸延伸する場合は、例えば得られた未延伸フィルムを縦方向(MD)に延伸した後、前述の方法でガスバリア層(II)形成用塗工液を塗布してガスバリア層(II)を形成し、次いで横方向(TD)に延伸を施すことによって、逐次二軸延伸されたガスバリア性積層体を得ることができる。
【0118】
なお、未延伸フィルムが配向していると、後工程で延伸性が低下することがあるため、未延伸フィルムは、実質的に無定形・無配向の状態であることが好ましい。
【0119】
プラスチック基材(I)としてポリアミド樹脂を用いる場合は、80℃を超えないように温調した水槽に未延伸フィルムを移送し、5分間以内で浸水処理を施し、0.5~15%吸湿処理することが好ましい。また、フィルムの延伸倍率は、一軸延伸の場合は1.5倍以上とすることが好ましく、縦横二軸延伸の場合も、縦横に各々1.5倍以上とすることが好ましい。また、面積倍率としては、通常3倍以上とすることが好ましく、特に6~20倍とすることがより好ましく、その中でも6.5~13倍とすることが最も好ましい。延伸倍率がこの範囲であると、より優れた機械的物性のガスバリア性積層体を得ることが可能となる。延伸温度も限定的ではなく、例えば40~220℃の範囲内で実施することができる。特に、逐次延伸の場合、MD方向の延伸は40~80℃とし、TD方向の延伸は80~150℃とすることが好ましい。また、同時二軸延伸の場合は160~220℃とすることが好ましい。
【0120】
延伸処理工程を経たフィルムは、必要に応じて、熱固定工程、弛緩工程等を実施することもできる。この場合、熱固定工程における温度は、通常は150~300℃程度の範囲内で適宜設定することができ、例えば200~230℃と設定することもできる。熱固定工程の時間は、通常は1~30秒程度の範囲内で温度等に応じて変更することが可能であり、例えば1~5秒と設定することができるが、これに限定されない。また、弛緩工程は、通常は弛緩率0~10%程度(好ましくは2~6%)の範囲内で縦方向及び/又は横方向に弛緩すれば良い。弛緩工程での温度は、熱固定工程と同様に150~300℃程度の範囲内で適宜設定することができるが、熱収縮率の低減化をより確実に図るために熱固定処理の最高温度より低い温度で行うことが望ましい。熱固定工程及び弛緩工程は、例えば延伸処理が行われたテンター内において熱固定した後、連続して弛緩工程を実施することが好ましい。
【0121】
本発明のガスバリア性積層体は、特にガスバリア性を高める目的で積層体を製造した後に加湿された雰囲気下で処理することもできる。加湿処理により、プラスチック基材(I)の金属成分とガスバリア層(II)のポリカルボン酸との作用をより促進することができる。このような加湿処理は、高温・高湿度下の雰囲気において積層体を放置しても良いし、高温の水に直接積層体を接触させても良い。加湿処理条件は、目的等により異なるが、高温高湿の雰囲気下で放置する場合は、温度30~130℃及び湿度50~100%RHが好ましい。高温の水に接触させる場合も、温度30~130℃程度(100℃以上は加圧下)が好ましい。加湿処理時間は、処理条件等により異なるが、一般に数秒から数百時間の範囲で適宜設定することができる。
【0122】
本発明のガスバリア性積層体には、必要に応じて、コロナ放電処理等の表面処理を施しても良い。これらの処理方法自体は、公知の方法に従って実施することができる。
【0123】
3.ガスバリア性積層体の使用
本発明積層体は、そのままの形態で使用することができるほか、本発明の効果を妨げなければ、さらに他の層を積層して使用しても良い。他の層としては、特に限定されず、例えばポリエステル、ポリアミド等の基材層、シーラント層、バリア層、帯電防止層、離型層、印刷層等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を使用することができる。
【0124】
シーラント層として用いる樹脂は、例えば低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン/ポリプロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン-アクリル酸/メタクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸/メタクリル酸エステル共重合体、ポリ酢酸ビニル系樹脂等の少なくとも1種が挙げられる。これらの中でも、ヒートシール強度又は材質そのものの強度が高いポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン/ポリプロピレン共重合体等のポリオレフィン樹脂の少なくとも1種が好ましい。
【0125】
これらの樹脂は、単独で用いても、また他の樹脂と共重合又は溶融混合させて用いても良く、さらには酸変性等が施されていても良い。シーラント層をガスバリア性積層体に形成方法する方法としては、限定的でなく、例えばシーラント樹脂からなるフィルム又はシートを、接着剤を介して、ガスバリア性積層体にラミネートする方法、シーラント樹脂をガスバリア性積層体に押出ラミネートする方法等が挙げられる。前者の方法においては、シーラント樹脂からなるフィルム又はシートは、未延伸状態であっても低倍率の延伸状態でも良いが、実用的には、未延伸状態であることが好ましい。
【0126】
シーラント層の厚みは、特に限定されず、通常は20~95μm程度の範囲内で適宜設定することができるが、特に40~70μmとすることがより好ましい。
【0127】
バリア層としては、公知のフィルムで採用されているバリア層等を用いることができる。例えば、ポリ塩化ビニリデン共重合体層等をバリア層として用いることができる。
【0128】
本発明積層体は、その特性を活かせる各種の用途に用いることができるが、特に、食品包装用のボイル処理、レトルト処理等のように、熱水又は水蒸気を用いて加熱殺菌処理を行う包装材料として好適に用いることができる。とりわけ、本発明積層体は、包装用袋としてより好ましく使用することができ、さらには内容物を包装袋内に密封するための包装袋として好ましく用いることができる。
【0129】
このような包装用袋は、例えば飲食品、果物、ジュ-ス、飲料水、酒、調理食品、水産練り製品、冷凍食品、肉製品、煮物、たけのこ、トウモロコシ、ピクルス、漬物、餅、液体ス-プ、調味料、その他等の各種の飲食料品、液体洗剤、化粧品、化成品等の各種の液体及び/又は固体の内容物を充填包装することができる。
【0130】
包装袋として用いる場合、その形態は限定的でなく、例えば二方袋、三方袋、チャック付三方袋、合掌袋、ガゼット袋、底ガゼット袋、スタンド袋、スタンドチャック袋、二方袋、四方柱平底ガゼット袋、サイドシール袋、ボトムシール袋等のいずれにも適用することができる。
【0131】
また、本発明の積層体は、上記のような食品等の内容物を包装するための包装材料のほか、例えばゼリー、プリン等のようなカップ容器(カップ製品)の蓋材、絞り包装等にも好適に使用することができる。
【実施例】
【0132】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0133】
1.使用原料について
実施例・比較例において使用した原料は、以下のとおりである。
(1)プラスチック基材(I)構成用の熱可塑性樹脂
・PA6:ナイロン6樹脂(ユニチカ社製 A1030BRF、相対粘度3.0)
・PET:ポリエチレンテレフタレート樹脂(ユニチカ社製 UT-CBR 極限粘度0.62)
(2)プラスチック基材(I)構成用の金属又は金属化合物
・MgO:酸化マグネシウム(タテホ化学工業社製 PUREMAG FNM-G 平均粒子径0.5μm)
・MgO-2:酸化マグネシウム(タテホ化学工業社製 TATEHOMAG #H-10 平均粒子径4.9μm)
・MgCO3:炭酸マグネシウム(神島化学工業社製 MSS 平均粒子径1.2μm)・CaCO3:炭酸カルシウム(白石工業社製 Vigot15 平均粒子径0.5μm)
・ZnO:酸化亜鉛(堺化学工業社製 FINEX-50 平均粒子径0.02μm)
(3)ガスバリア層(II)形成用塗工液のポリカルボン酸成分
・EMA水溶液:
EMA(重量平均分子量60,000)と水酸化ナトリウムとを水に加え、加熱溶解後、室温に冷却して調製した、EMAのカルボキシル基の10モル%が水酸化ナトリウムにより中和された、固形分15質量%のEMA水溶液。
・PAA水溶液:
ポリアクリル酸(東亞合成社製 A10H、数平均分子量200,000、固形分25質量%水溶液)と、水酸化ナトリウムとを用いて調製した、ポリアクリル酸のカルボキシル基の10モル%が水酸化ナトリウムにより中和された、固形分15質量%のポリアクリル酸(PAA)水溶液。
・P(AA-MA):
アクリル酸-無水マレイン酸共重合体水溶液(ALDRICH社製、重量平均分子量3,000、固形分50質量%)
(4)ガスバリア層(II)形成用塗工液の他の樹脂成分
・PVA水溶液:
ポリビニルアルコール(クラレ社製 5-98、ケン化度98~99%、平均重合度約500)を水に加え、加熱溶解後、室温に冷却することにより調製した、固形分15質量%のポリビニルアルコール(PVA)水溶液。
・EVOH水溶液:
エチレン-ビニルアルコール共重合体(クラレ社製 エクセバールAQ-4105)を溶解した、固形分10質量%のエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)水溶液。
・澱粉:可溶性でんぷん(和光純薬工業社製)
・PAM:ポリアクリルアミド(キシダ化学社製、試薬、重量平均分子量900万~1000万、重合度12.7万~14.1万)。
(5)消泡剤
ガスバリア層(II)形成用塗工液に対し、以下の消泡剤を使用した。
・鉱物油系消泡剤1:MUNZING CHEMIE GmbH 社製 AGITAN282
・鉱物油系消泡剤2:サンノプコ社製 SNデフォーマー154S
・ポリエーテル系消泡剤:サンノプコ社製 SNデフォーマー180
・アセチレングリコール系消泡剤:日清化学工業社製 オルフィンAF-103
・植物油系消泡剤:MUNZING CHEMIE GmbH 社製 AGITAN271
・水系エマルション系消泡剤:MUNZING CHEMIE GmbH 社製 AGITAN170
・シリコーン系消泡剤1:東レ・ダウコーニング社製 95 ANTIFOAM EMULSION
・シリコーン系消泡剤2:旭化成ワッカーシリコーン社製 AK350
【0134】
2.実施例及び比較例について
実施例1
PA6とMgOとを、MgO含有量が0.5質量%となるように混合した。この混合物を押出機に投入し、270℃のシリンダー内で溶融した。溶融物をTダイオリフィスよりシート状に押出し、10℃に冷却した回転ドラムに密着させて急冷することで、厚さ150μmの未延伸プラスチック基材(I)フィルムを得た。得られた未延伸フィルムを50℃の温水槽に送り、2分間の浸水処理を施した。このプラスチック基材(I)フィルムは、金属含有層(M)の単層から構成されるものである。
次に、PVAとEMAの質量比(固形分)が30/70になるように、PVA水溶液とのEMA水溶液とを混合して、鉱物油を主成分とする消泡剤(鉱物油系消泡剤1)を0.020質量%添加することによって原料液を調製した。この原料液の粘度は、液温25℃条件におけるB型粘度計での測定値で15mPa・sであった。次いで、この原料液をポンプで0.10MPaの圧力をかけながら、濾過精度1.0μmのカートリッジフィルターを通過させ、固形分10質量%のガスバリア層(II)形成用塗工液を得た。
得られた塗工液を用い、浸水処理を施した未延伸フィルムの片面に塗布した後、乾燥した。この未延伸フィルムの端部を、テンター式同時二軸延伸機のクリップに保持させ、180℃でMD及びTDにそれぞれ3.3倍に延伸した。その後、210℃で4秒間の熱固定処理し、次いでTD方向に5%の熱弛緩処理を施し、室温まで徐冷した。このようにして、厚みが15μmのプラスチック基材(I)(すなわち、金属含有層(M)の単層)に、厚みが0.3μmのガスバリア層(II)が積層された(M)/(II)構成のガスバリア性積層体(合計厚み15.3μm)を得た。
【0135】
実施例2~7、10~26、31~35、比較例1~7、9
基材層の構成、ポリアルコール及びポリカルボン酸の種類と質量比、金属成分含有量、塗工液における消泡剤の主成分、フィルターの濾過精度とポンプ圧を表1~表3に記載のように変更した以外は、実施例1と同様の方法で(M)/(II)構成のガスバリア性積層体を得た。フィルター通過前の原料液の液粘度は、液温25℃条件におけるB型粘度計での測定値で15mPa・sであった。
【0136】
実施例8
PA6とMgOとを、MgO含有量が50質量%となるように混合した。この混合物を押出機Aに投入し、260℃で溶融押出した。一方、PA6を押出機Bに投入し、260℃で溶融押出した。押出機A、押出機Bでそれぞれ溶融した2種の樹脂をダイス中で重ね合わせ、金属含有層(M)/樹脂層(R)の2層構成のシートをTダイから押し出し、表面温度10℃の冷却ロールに密着させて、(M)/(R)=5/145μmとなる厚み150μmの未延伸の複層フィルムを得た。得られた未延伸の複層フィルムを50℃の温水槽に送り、2分間の浸水処理を施した。
次に、ポンプ圧、フィルター濾過精度、PVAとEMAの質量比を表1の通りに変更したほかは、実施例1と同様にして調製した塗工液を、未延伸複層フィルムの金属含有層(M)面に塗布した後、乾燥した。フィルター通過前の原料液の液粘度は、液温25℃条件におけるB型粘度計での測定値で35mPa・sであった。
さらに、実施例1と同様の方法で、同時二軸延伸し、熱処理を施し、厚みが0.5μmの金属含有層(M)と厚みが14.5μmの樹脂層(R)とからなる、厚みが15μmのプラスチック基材(I)の金属含有層(M)面に、厚みが0.3μmのガスバリア層(II)を積層した(R)/(M)/(II)構成のガスバリア性積層体を得た。
【0137】
実施例9
PETとMgOとを、MgO含有量が0.5質量%となるように混合した。この混合物を押出機に投入し、280℃のシリンダー内で溶融した。溶融物をTダイオリフィスよりシート状に押出し、20℃に冷却した回転ドラムに密着させて急冷することにより、厚さ150μmの未延伸プラスチック基材(I)フィルムを得た。
次に、ポンプ圧、フィルター濾過精度を表1の通りに変更した以外は、実施例1と同様にして調製した塗工液を、未延伸フィルムの片面に塗布した後、乾燥した。フィルター通過前の原料液の液粘度は、液温25℃条件におけるB型粘度計での測定値で15mPa・sであった。フィルムの端部を、テンター式同時二軸延伸機のクリップに保持させ、100℃でMD及びTDにそれぞれ3.3倍に延伸した。その後、220℃で4秒間の熱固定処理を実施し、次いでTD方向に5%の熱弛緩処理を施し、室温まで徐冷し、厚みが15μmのプラスチック基材(I)に、厚みが0.3μmのガスバリア層(II)を積層した(M)/(II)構成のガスバリア性積層体を得た。
【0138】
実施例27
Tダイよりシート状に溶融押出し、冷却ドラムで急冷固化して、未延伸シートを得た後、浸水処理を実施せず、60℃のロール延伸機により3.3倍にMD延伸した後、ポンプ圧、フィルター濾過精度を表2の通りに変更した以外は、実施例1と同様にして調製した塗工液をMD延伸フィルムの片面に塗布し、乾燥した。フィルター通過前の原料液の液粘度は、液温25℃条件におけるB型粘度計での測定値で15mPa・sであった。次いで、テンター式延伸機により100℃で3.3倍にTD延伸し、205℃で熱固定処理を行い、次いで5%の熱弛緩処理を実施した以外 は、実施例1と同様の方法で、(M)/(II)構成のガスバリア性積層体を得た。
【0139】
実施例28、比較例10
ガスバリア層(II)形成用塗工液を塗布し、乾燥させた未延伸フィルムにおいて、そのガスバリア層(II)形成用塗工液が塗布された反対面に対して、同様の塗工液を塗布、乾燥させ、厚み0.5μmの樹脂層(R)を得たこと、ポンプ圧、フィルター濾過精度を表2~表3の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、(II)/(M)/(II)構成のガスバリア性積層体を得た。フィルター通過前の原料液の液粘度は、液温25℃条件におけるB型粘度計での測定値で15mPa・sであった。
【0140】
実施例29、比較例11
ガスバリア層(II)形成用塗工液を塗布し、乾燥させた未延伸フィルムにおいて、そのガスバリア層(II)形成用塗工液が塗布された反対面に対して、ポリ塩化ビニリデン共重合体樹脂からなる塗工液(旭化成社製「サランラテックスL536B」、固形分濃度49質量%)を塗布し、乾燥させ、厚み1.5μmのPVDC層が積層されたこと、ポンプ圧、フィルター濾過精度を表2~表3の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法でPVDC/(M)/(II)構成のガスバリア性積層体を得た。フィルター通過前の原料液の液粘度は、液温25℃条件におけるB型粘度計での測定値で15mPa・sであった。
【0141】
実施例30
消泡剤を添加しなかったこと、フィルター濾過精度とポンプ圧を表2に記載のように変更した以外は、実施例1と同様の方法で(M)/(II)構成のガスバリア性積層体を得た。フィルター通過前の原料液の液粘度は、液温25℃条件におけるB型粘度計での測定値で15mPa・sであった。
【0142】
比較例8
塗工液におけるPVAとEMAの質量比、フィルターの濾過精度とポンプ圧を表3に記載のように変更した以外は、実施例1と同様の方法で(M)/(II)構成のガスバリア性積層体を得た。フィルター通過前の原料液の液粘度は、液温25℃条件におけるB型粘度計での測定値で95mPa・sであった。
【0143】
比較例12~13、22~24
消泡剤添加、フィルター濾過を実施しなかったこと、金属成分の含有量を表3に記載のように変更した以外は、実施例1と同様の方法で(M)/(II)構成のガスバリア性積層体を得た。原料液の液粘度は、液温25℃条件におけるB型粘度計での測定値で15mPa・sであった。
【0144】
比較例14~16
消泡剤添加、フィルター濾過を実施しなかったこと、金属成分の含有量、金属含有層(M)の厚み、ガスバリア層(II)の厚みを表3に記載のように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で(M)/(II)構成のガスバリア性積層体を得た。原料液の液粘度は、液温25℃条件におけるB型粘度計での測定値で15mPa・sであった。
【0145】
比較例17~18
フィルター濾過を実施しなかったこと、金属成分の含有量を表3に記載のように変更した以外は、実施例1と同様の方法に従って(M)/(II)構成のガスバリア性積層体を得た。原料液の液粘度は、液温25℃条件におけるB型粘度計での測定値で15mPa・sであった。
【0146】
比較例19~21
フィルター濾過を実施しなかったこと、金属成分の含有量、金属含有層(M)の厚み、ガスバリア層(II)の厚みを表3に記載のように変更した以外は、実施例1と同様の方法で(M)/(II)構成のガスバリア性積層体を得た。原料液の液粘度は、液温25℃条件におけるB型粘度計での測定値で15mPa・sであった。
【0147】
比較例25
基材層の構成、金属成分含有量、PVAとEMAの質量比を表3に記載のように変更したこと、消泡剤の添加、フィルター濾過を実施しなかったこと以外は、実施例8と同様の方法で(R)/(M)/(II)構成のガスバリア性積層体を得た。原料液の液粘度は、液温25℃条件におけるB型粘度計での測定値で15mPa・sであった。
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
試験例1
各実施例及び比較例で得られたガスバリア性積層体について、以下の特性についての評価を行った。その結果を表4~表6に示す。
【0152】
(1)金属又は金属化合物の平均粒子径
レーザー式粒度分析計「マイクロトラック HRA」(日機装社製)にて測定した粒子径分布(体積分布)カーブにおける50%の累積パーセントの値を求めた。平均粒子径測定用の試料は、金属又は金属化合物0.5gに対して50gのイソプロピルアルコール(IPA)を加え、超音波分散処理を3分間行って調製した。
【0153】
(2)消泡剤の粒子径
消泡剤の粒子径は、浸水処理を施した未延伸フィルムに塗布する直前のガスバリア層(II)形成用塗工液を測定試料とし、島津製作所社製レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-2300)を用いて測定し、メディアン径(D50)の値を平均粒子径とした。
【0154】
(3)各層の厚み
得られたガスバリア性積層体を温度23℃及び湿度50%RHの環境下に2時間以上放置してから、走査型電子顕微鏡(SEM)によりフィルム断面観察を行い、各層の厚みを測定した。
【0155】
(4)酸素透過度
得られたガスバリア性積層体を、熱水処理前に温度23℃及び湿度50%RHの環境下に2時間以上放置してから、モコン社製酸素透過率測定装置(OX-TRAN 2/22L)を用いて温度40℃及び湿度90%RHの環境下における酸素透過度を測定した。
上記に加え、得られたガスバリア積層体を温度95℃の条件で30分熱水処理した後、温度23℃及び湿度50%RHの環境下に2時間以上放置してから、モコン社製酸素透過率測定装置(OX-TRAN 2/22L)を用い、(a)温度20℃及び湿度65%RH、(b)温度20℃及び湿度90%RH 、(c)温度30℃及び湿度80%RH、及
び(d)温度40℃及び湿度90%RHの環境下における酸素透過度をそれぞれ測定した。酸素透過度の単位はml/(m2・day・MPa)である。なお、上記(c)の条件下での試験は、参考のための試験であるので、実施例及び比較例の一部のみの結果を示す。
【0156】
(5)液粘度
フィルター濾過する直前のガスバリア層(II)形成用塗工液の原料液を測定試料として、BROOKFIELD社製Viscometer DV2T(デジタル回転粘度計(B型粘度計))を用いて、液温25℃での液粘度を測定した。液温の温調には、HUBER社製MPCコントローラー搭載モデル循環恒温槽を使用した。
【0157】
【0158】
【0159】
【0160】
実施例1~35のガスバリア性積層体は、いずれも熱水処理することによって、高温・高湿度環境下において優れたガスバリア性が得られることがわかる。
【0161】
一方、比較例1、2、10~21に記載のガスバリア性積層体は、フィルター濾過工程を実施していないガスバリア層形成用塗工液を用いてガスバリア層が形成されたため、高温・高湿度環境下でのガスバリア性が発現しなかった。特に、比較例16及び比較例21では、総厚みが100μmを超えた積層体であるが、温度40℃及び湿度90%RHでの酸素透過度はそれぞれ549及び328ml/(m2・day・MPa)となっている。すなわち、フィルター濾過工程で経ずに調製されたガスバリア層形成用塗工液を用いてガスバリア層が形成された積層体では、総厚みが100μmを超えていても、所望のガスバリア性が得られないことがわかる。
【0162】
また、比較例3~7に記載のガスバリア性積層体は、ガスバリア層形成用塗工液の濾過工程で使用したフィルターの濾過精度が1.0~10.0μmの範囲外であるため、高温・高湿度環境下において所望のガスバリア性は発現しなかった。
【0163】
比較例8は、ガスバリア層(II)にポリカルボン酸成分が含まれないため、温湿度条件によらず、ガスバリア性が発現しなかった。
【0164】
比較例9は、プラスチック基材(I)中の金属化合物の含有量が本発明で規定する範囲外であるため、延伸不可となった。
【0165】
比較例22~25は、特許文献2に相当する積層体である。これらは、20℃×65%RHでのガスバリア性は良好であるものの、高温・高湿度環境である40℃×95%RHでの酸素透過度が500ml/(m2・day・MPa)を超えており、所望のガスバリア性が得られないことがわかる。
【0166】
参考のために行った上記(c)の条件下での試験結果(実施例1,実施例4、比較例15、比較例25)によれば、40℃×95%RHでの試験結果との対比において、いずれも酸素透過度が増加している。この場合、比較例15,25では、20℃×65%RHから30℃×80%RHにおける増加度合いに比して30℃×80%RHから40℃×95%RHにおける増加度合いが100倍以上になっており、40℃×95%RHという条件がかなり過酷な条件であることがわかる。これに対し、実施例1,4は、30℃×80%RHから40℃×95%RHにおける増加度合いが10倍にも達していない。この点からみても、実施例1,4の積層体が、極めて高いガスバリア性を発揮していることが理解できる。
【要約】
より薄いフィルムでありながら、高温・高湿度環境下でも優れたガスバリア性を発揮できるガスバリア性積層体を提供する。
プラスチック基材(I)及び前記プラスチック基材上に積層されたガスバリア層(II)を含む、合計厚みが100μm以下のガスバリア性積層体であって、(1)前記プラスチック基材(I)が、金属及び金属化合物の少なくとも1種と樹脂成分とを含む金属含有層を含み、(2)前記金属含有層中の金属及び金属化合物の合計含有量が0.1~70質量%であり、(3)前記ガスバリア層(II)がポリカルボン酸を含有し、(4)前記金属含有層とガスバリア層とが直に接するように積層されており、(5)当該ガスバリア性積層体が、温度95℃で30分の熱水処理後において、温度40℃及び湿度90%RH環境下での酸素透過度が300ml/(m2・day・MPa)以下であることを特徴とするガスバリア性積層体。