(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】ボトル缶及びキャップ付きボトル缶
(51)【国際特許分類】
B65D 1/16 20060101AFI20230929BHJP
B21D 51/46 20060101ALI20230929BHJP
【FI】
B65D1/16 111
B21D51/46 E
(21)【出願番号】P 2017128966
(22)【出願日】2017-06-30
【審査請求日】2020-03-11
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】305060154
【氏名又は名称】アルテミラ製缶株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 元彦
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 貴志
【合議体】
【審判長】山崎 勝司
【審判官】武市 匡紘
【審判官】久保 克彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-514756(JP,A)
【文献】特許第4372459(JP,B2)
【文献】特開2005-96843(JP,A)
【文献】特開2006-96387(JP,A)
【文献】特許第7033857(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D1/00-1/48
B21D47/00-55/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
缶胴と缶底とを備えた有底筒状のボトル缶であって、
前記缶胴の口金部は、
ねじ部と、
前記ねじ部の下方に隣接配置され、径方向外側へ向けて膨出するとともに缶軸回りの全周にわたって延び、前記口金部に装着される有頂筒状のキャップの周壁下端が裾巻きされる膨出部と、
前記膨出部の下方に隣接配置され、下方へ向かうに従い径方向内側へ向けて傾斜する傾斜部と、
前記傾斜部の下方に配置されて前記傾斜部よりも小径とされた首部と、を備え、
前記膨出部の最大外径と、前記首部の最小外径との差が、2.5~10.0mmであ
り、
前記首部の最小外径は、28~35.5mmであるボトル缶。
【請求項2】
請求項1に記載のボトル缶であって、
ボトル口径が、38mm口径であるボトル缶。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のボトル缶であって、
前記缶軸を含む縦断面視で、前記缶軸に対して前記傾斜部が傾斜する角度が、20~40°であるボトル缶。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のボトル缶であって、
前記缶軸を含む縦断面視で、前記傾斜部が、直線状をな
し、
前記傾斜部の缶軸方向に沿う単位長さあたりの径方向への変位量は、前記膨出部の下部の前記変位量よりも小さいボトル缶。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載のボトル缶であって、
前記缶軸を含む縦断面視で、前記傾斜部が、凹曲線状をなすボトル缶。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のボトル缶であって、
前記缶軸を含む縦断面視で、前記膨出部と前記傾斜部とが、互いの接続部分において接するように繋がっているボトル缶。
【請求項7】
缶胴と缶底とを備えた有底筒状のボトル缶と、
前記缶胴の口金部に装着された有頂筒状のキャップと、を備えたキャップ付きボトル缶であって、
前記口金部は、
ねじ部と、
前記ねじ部の下方に隣接配置され、径方向外側へ向けて膨出するとともに缶軸回りの全周にわたって延び、前記キャップの周壁下端が裾巻きされる膨出部と、
前記キャップの周壁下端の下方に隣接配置され、下方へ向かうに従い径方向内側へ向けて傾斜する傾斜部と、
前記傾斜部の下方に配置されて前記傾斜部よりも小径とされた首部と、を備え、
前記膨出部の最大外径と、前記首部の最小外径との差が、2.5~10.0mmであ
り、
前記首部の最小外径は、28~35.5mmであるキャップ付きボトル缶。
【請求項8】
請求項7に記載のキャップ付きボトル缶であって、
前記キャップの周壁下端から前記傾斜部の下端までの前記缶軸方向に沿う距離が、2~6mmであるキャップ付きボトル缶。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のキャップ付きボトル缶であって、
前記傾斜部に、前記缶軸回りに延びる裾巻きロール痕が形成されたキャップ付きボトル缶。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか一項に記載のキャップ付きボトル缶であって、
前記首部に、前記缶軸回りに延びる裾巻きロール痕が形成されていないキャップ付きボトル缶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶の薄肉化を図った場合であっても、キャッピング時の成形荷重による首部の変形を防止できるボトル缶、及びキャップ付きボトル缶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば下記特許文献1に示されるようなボトル缶が知られている。
ボトル缶は、アルミニウム合金材料等からなり、有底筒状に形成されている。ボトル缶は、缶の周壁である缶胴と、缶の底壁である缶底と、を備えている。缶胴の開口部は、該開口部以外の部位(胴部及び肩部)よりも小径の口金部とされている。
【0003】
図6及び
図7に示すものは、従来のボトル缶100の口金部101近傍の缶軸O方向に沿う縦断面図である。ボトル缶100の口金部101は、ねじ部102と、ねじ部102の下方に隣接配置され、径方向外側へ向けて膨出するとともに缶軸O回りの全周にわたって延びる膨出部(カブラ)103と、膨出部103の下方に隣接配置され、該膨出部103よりも小径とされた円筒状の首部104と、を備える。
ボトル缶100の内部に飲料等の内容物が充填された後、口金部101には有頂筒状のキャップ105が装着される。
【0004】
詳しくは、まず
図6に示されるように、口金部101にキャップ105を被せ、該キャップ105の上方からプレッシャーブロック(図示略)により下方へと荷重(軸荷重)をかけ、ボトル缶100を密封状態とする。この密封状態で、キャップ105の周壁に対して、ねじ巻きロール(図示略)を径方向内側へ向けて押し当てつつ缶軸O回りの周方向に転動させることにより、該キャップ105の周壁に、ねじ部102の雄ねじ形状に倣った雌ねじ形状を成形する。また、キャップ105の周壁下端に対して、裾巻きロール50により径方向内側への荷重(横荷重)を付与しつつ、該裾巻きロール50を缶軸O回りの全周に転動させて、キャップ105の周壁下端を裾巻き成形する。これにより、
図7に示されるようにキャップ105の周壁下端が、膨出部103に密着して嵌合する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のボトル缶は、下記の課題を有していた。
この種のボトル缶に対しては、原材料費の削減等を目的として、薄肉化への要請がある。しかしながら、単純に缶の薄肉化を図った場合、キャッピング時の成形荷重(軸荷重や横荷重)によって、缶軸に垂直な横断面視で首部が楕円形状等に変形するおそれがあった。
【0007】
また
図6及び
図7において、裾巻きロール50が、口金部101のうちキャップ105の周壁下端の下方に位置する首部104に対して強く押し当てられることにより、上記変形の起点となったり首部104が潰れることがあった。
具体的に、キャップ105の裾(周壁下端)は膨出部103の下端まで達しており、キャップ105の裾を確実に巻くには、キャッピング時に裾巻きロール50の先端(外周)を首部104に強く押圧せざるを得ず、缶を薄肉化した場合には、首部104がこの押圧力(横荷重)に耐えられず変形するおそれがある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、缶の薄肉化を図った場合であっても、キャッピング時の成形荷重による首部の変形を防止できるボトル缶、及びキャップ付きボトル缶を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、缶胴と缶底とを備えた有底筒状のボトル缶であって、前記缶胴の口金部は、ねじ部と、前記ねじ部の下方に隣接配置され、径方向外側へ向けて膨出するとともに缶軸回りの全周にわたって延び、前記口金部に装着される有頂筒状のキャップの周壁下端が裾巻きされる膨出部と、前記膨出部の下方に隣接配置され、下方へ向かうに従い径方向内側へ向けて傾斜する傾斜部と、前記傾斜部の下方に配置されて前記傾斜部よりも小径とされた首部と、を備え、前記膨出部の最大外径と、前記首部の最小外径との差が、2.5~10.0mmであり、前記首部の最小外径は、28~35.5mmであることを特徴とする。
また、本発明の一態様は、缶胴と缶底とを備えた有底筒状のボトル缶と、前記缶胴の口金部に装着された有頂筒状のキャップと、を備えたキャップ付きボトル缶であって、前記口金部は、ねじ部と、前記ねじ部の下方に隣接配置され、径方向外側へ向けて膨出するとともに缶軸回りの全周にわたって延び、前記キャップの周壁下端が裾巻きされる膨出部と、前記キャップの周壁下端の下方に隣接配置され、下方へ向かうに従い径方向内側へ向けて傾斜する傾斜部と、前記傾斜部の下方に配置されて前記傾斜部よりも小径とされた首部と、を備え、前記膨出部の最大外径と、前記首部の最小外径との差が、2.5~10.0mmであり、前記首部の最小外径は、28~35.5mmであることを特徴とする。
【0010】
本発明のボトル缶及びキャップ付きボトル缶によれば、缶胴の口金部が傾斜部を有しており、該傾斜部は、膨出部の下方に隣接配置され、及び膨出部に嵌着されるキャップの周壁下端の下方に隣接配置されるとともに、下方へ向かうに従い径方向内側へ向けて傾斜して形成されている。つまり、従来のように膨出部の下方に、缶軸に平行な円筒状の首部が隣接配置されるのではなく、本発明では膨出部と首部との間に、下方へ向かうに従い徐々に径方向内側へ向けて延びるテーパー状の傾斜部が設けられている。
ボトル缶縦断面視において傾斜部は、膨出部の下端の延長線よりも外側(缶の外側であり、径方向外側と言い換えてもよい)に配置されている。そして、キャップの周壁下端を裾巻き成形する裾巻きロール(の先端)は、この傾斜部に対して、当接させられる。つまり裾巻きロールは、首部ではなく傾斜部に当接する。
【0011】
このため、キャッピング時に、裾巻きロールでキャップの周壁下端を膨出部に裾巻き成形する際、裾巻きロールは、キャップ周壁とともに傾斜部にも当接するが、この傾斜部が径方向内側に傾斜して逃げている分、該傾斜部に対する裾巻きロールからの押圧力(横荷重)を低減できる。
詳しくは、従来のように膨出部の下方に首部が隣接配置された構成に比べて、本発明では傾斜部が設けられた分だけ、該傾斜部を従来の首部よりも径方向内側に配置できる。裾巻きロールは、ばね力によって径方向内側へ向けて付勢されているため、裾巻きロールの先端(外周縁の鍔部)が、径方向内側へ逃げた傾斜部へと押し付けられることで、傾斜部が裾巻きロールから受ける押圧力を小さく抑えることができる。また、傾斜部が傾斜していることにより、裾巻きロールの押圧力を径方向内側以外の缶軸方向下方等に分散させることができる。また、傾斜部以外の部分(例えば傾斜部の下方に位置する首部等)に対して、裾巻きロールが当接することを防止することができる。従って、これらの相乗効果により、首部の変形を効果的に抑制できる。
【0012】
ここで、裾巻きロールから首部が受ける径方向内側へ向けた押圧力と、これに応じた首部の変形量について説明する。首部の変形量(半径の変化量)△Rは、材料力学より下記の式で表すことができる。
△R=(R2/tE)×P
上記式のうち、Pは外圧(裾巻きロールから首部が径方向内側へ向けて受ける圧力)、Rは首部の半径(内径)、tは首部の厚さ(肉厚)、Eはヤング率である。上記式より、外圧P、厚さt及びヤング率Eが一定の場合には、首部の変形量△Rは、首部の半径Rの二乗に比例することがわかる。つまり、首部の半径Rが小さくなれば、首部の変形量△Rも、半径Rの二乗に比例して小さくなる(なお、実際には半径Rが変化すると厚さtも僅かに変化するが、微小量であるためここでは考慮しないこととする)。
【0013】
本発明では、上述したように首部の上方に傾斜部が形成されている分、該首部の外径が小さくされている。つまり、従来のボトル缶に比べて本発明のボトル缶は、首部の半径Rが小さくされているため、仮に裾巻きロールから受ける押圧力が従来と同じであっても、首部の変形量△Rは確実に低減されて、首部の変形が防止される。
【0014】
以上より本発明のボトル缶及びキャップ付きボトル缶によれば、缶の薄肉化を図った場合であっても、キャッピング時の成形荷重(軸荷重や横荷重)によって首部が変形することを確実に防止できる。
【0015】
また、上記ボトル缶において、前記膨出部の最大外径と、前記首部の最小外径との差が、2.5~10.0mmである。
【0016】
膨出部の最大外径(直径)と、首部の最小外径(直径)との差が、2.5mm以上であれば、膨出部と首部との間に位置する傾斜部の長さを十分に確保でき、裾巻きロールが首部に当たることをより確実に防止することができる。また、首部の半径Rが十分に小さくされて、首部の変形量△Rを安定して小さく抑えられる。
また上記差が、10.0mm以下であれば、傾斜部の成形性が良好に維持される。つまり、例えばダイ加工によって傾斜部を成形する場合において、該傾斜部が首部から上方へ向けて急激に拡径させられることにより生じる割れ等を防止できる。
なお、上述の作用効果をさらに格別顕著なものとするには、上記差が3.0~7.0mmであることがより好ましい。
また、上記ボトル缶は、ボトル口径が、38mm口径であることとしてもよい。
【0017】
また、上記ボトル缶において、前記缶軸を含む縦断面視で、前記缶軸に対して前記傾斜部が傾斜する角度が、20~40°であることが好ましい。
【0018】
ボトル缶の缶軸を含む縦断面視で、缶軸に対して傾斜部が傾斜する角度が20°以上であれば、傾斜部が十分に傾斜させられて(寝かされて)、該傾斜部に裾巻きロールが強く当たることをより確実に防止できる。
また上記縦断面視で、缶軸に対して傾斜部が傾斜する角度が40°以下であれば、傾斜部が大きく傾斜させられ過ぎて(寝かされ過ぎて)、口金部の耐荷重(特に軸荷重への耐力)が低減するようなことを防止できる。
【0019】
また、上記ボトル缶において、前記缶軸を含む縦断面視で、前記傾斜部が、直線状をなし、前記傾斜部の缶軸方向に沿う単位長さあたりの径方向への変位量は、前記膨出部の下部の前記変位量よりも小さいこととしてもよい。
また、上記ボトル缶において、前記缶軸を含む縦断面視で、前記傾斜部が、凹曲線状をなすこととしてもよい。
【0020】
ボトル缶の縦断面視において、傾斜部は、直線状や凹曲線状に適宜形成されてよい。傾斜部が直線状に形成される場合には、該傾斜部を膨出部の下端に段差なく接続しやすくなり、傾斜部が凹曲線状に形成される場合には、成形性がより向上する。
【0021】
また、上記ボトル缶は、前記缶軸を含む縦断面視で、前記膨出部と前記傾斜部とが、互いの接続部分において接するように繋がっていることが好ましい。
【0022】
この場合、口金部を成形しやすく、また、膨出部と傾斜部との接続部分を起点として口金部が座屈変形することを防止できる。また、口金部の外観(美観)がよい。
【0023】
また、上記キャップ付きボトル缶において、前記キャップの周壁下端から前記傾斜部の下端までの前記缶軸方向に沿う距離が、2~6mmであることが好ましい。
【0024】
キャップの周壁下端と、傾斜部の下端との缶軸方向の距離が、2mm以上であれば、裾巻きロールが首部に当たることをより確実に防止できる。これは、裾巻きロールの外周縁(鍔部)の上下方向の厚さが2mm以上であるためである。
また上記距離が、6mm以下であれば、傾斜部が長くなり過ぎることによる傾斜部の耐軸荷重の低減を抑制できる。
【0025】
また、上記キャップ付きボトル缶において、前記傾斜部に、前記缶軸回りに延びる裾巻きロール痕が形成されたこととしてもよい。
【0026】
キャッピング時に裾巻きロールが傾斜部に当接することにより、該傾斜部には、缶軸回りに延びる裾巻きロール痕が形成される。本発明では上述したように、裾巻きロールによる傾斜部への押圧力を小さく抑えることができるため、裾巻きロール痕を目立たなくすることができる。そして首部の変形も抑制される。
【0027】
また、上記キャップ付きボトル缶は、前記首部に、前記缶軸回りに延びる裾巻きロール痕が形成されていない。
【0028】
キャッピング時に裾巻きロールが首部に当接しないので、該首部には、缶軸回りに延びる裾巻きロール痕が形成されない。首部に裾巻きロール痕が形成されないため、口金部の美観を高めることができる。そして首部の変形がより確実に防止される。
【発明の効果】
【0029】
本発明のボトル缶及びキャップ付きボトル缶によれば、缶の薄肉化を図った場合であっても、キャッピング時の成形荷重による首部の変形を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の一実施形態に係るボトル缶及びキャップ付きボトル缶を示す縦断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るボトル缶及びキャップ付きボトル缶の口金部近傍の縦断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るボトル缶及びキャップ付きボトル缶の口金部近傍の縦断面図である。
【
図4】本実施形態に係るキャップ付きボトル缶(ボトル缶)のキャップ裾巻き成形前の口金部近傍を拡大して示す縦断面図である。
【
図5】本実施形態に係るキャップ付きボトル缶(ボトル缶)のキャップ裾巻き成形後の口金部近傍を拡大して示す縦断面図である。
【
図6】従来のボトル缶及びキャップ付きボトル缶の口金部近傍の縦断面図である。
【
図7】従来のボトル缶及びキャップ付きボトル缶の口金部近傍の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の一実施形態に係るボトル缶10及びキャップ付きボトル缶20について、図面を参照して説明する。なお、本実施形態の説明に用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、要部となる部分を拡大、強調、抜粋して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際のものと同じであるとは限らない。
【0032】
ボトル缶10は、アルミニウムを主成分とする例えば3004材または3104材等の合金から形成されている。
図1に示されるように、本実施形態ではボトル缶10として、缶軸O方向に沿う全長(つまり缶全高)が133mm程度とされた、当業者が「310B」サイズと呼ぶボトル缶を一例に挙げている。ただしこれに限定されるものではなく、ボトル缶10は、例えば缶全高が164mm程度とされた、当業者が「410B」サイズと呼ぶボトル缶等であってもよい。
【0033】
ボトル缶10は、内部に飲料等の内容物が充填され、後述する缶胴1の口金部5にキャップ15が取り付けられ密封されることにより、キャップ付きボトル缶20とされる。つまり、キャップ付きボトル缶20は、有底筒状をなすボトル缶10と、該ボトル缶10の口金部5に装着された有頂筒状のキャップ15と、を有する。
【0034】
ボトル缶10は、缶の周壁である缶胴1と、缶の底壁である缶底2と、を備えている。缶胴1の中心軸、缶底2の中心軸及びキャップ15の中心軸は、互いに同軸に配置されており、本実施形態ではこれらの共通軸を缶軸Oという。
また、缶軸Oが延在する方向(缶軸Oに沿う方向)を缶軸O方向という。缶軸O方向のうち、缶底2から缶胴1の口金部5及びキャップ15へ向かう方向を上方といい、キャップ15及び口金部5から缶底2へ向かう方向を下方という。
また、缶軸Oに直交する方向を径方向という。径方向のうち、缶軸Oに接近する向きを径方向の内側といい、缶軸Oから離間する向きを径方向の外側という。
また、缶軸O回りに周回する方向を周方向という。
【0035】
本実施形態で用いる、ボトル缶10の例えば「凹」、「凸」、「窪む」、「突出する」等の各種形状は、特に説明しない限り、ボトル缶10の外面(缶外面。外部に露出する表面)における各種形状を表している。
また、
図1~
図5に示されるボトル缶10(キャップ付きボトル缶20)の缶軸O方向に沿う縦断面視(缶軸Oを含む縦断面視)において、ボトル缶10の各部形状の説明に用いる「円弧」、「曲線」、「直線」、「接線」、「延長線」等の線形状は、特に説明しない限り、ボトル缶10の外面における各種の線形状を表している。
【0036】
図1において、缶底2は、下方へ向けて突出するとともに周方向に沿って延びる環状凸部(リム)11と、環状凸部11の径方向の内側に連設され、上方へ向けて窪むドーム部12と、を備えている。
また、缶胴1は、缶底2に接続する胴部3と、胴部3から上方へ向かうに従い径方向内側へ向けて傾斜する肩部4と、肩部4の上方に立設された口金部5と、を備えている。
【0037】
胴部3は、缶底2の環状凸部11の外周縁部に連設されており、該外周縁部から上方に向けて延びている。胴部3は、缶軸O方向に沿って略一定の外径とされた円筒状をなしている。胴部3は、缶胴1における最大径部分であり、胴部3の外径は、例えば65~67mmである。
肩部4は、胴部3の上方に連設され、胴部3から上方へ向かうに従い徐々に縮径するテーパー状をなしている。
【0038】
図1~
図5において、口金部5は、肩部4の上方に連設されている。口金部5は、缶胴1の最小径部分とされている。
口金部5は、ねじ部6と、ねじ部6の下方に隣接配置され、径方向外側へ向けて膨出するとともに周方向の全周にわたって延びる膨出部7と、膨出部7の下方に隣接配置された傾斜部21と、傾斜部21の下方に配置されて該傾斜部21よりも小径とされた首部8と、口金部5の上端開口縁に形成されたカール部9と、を備えている。なお本実施形態の例では、
図4及び
図5に示されるボトル缶縦断面視において、傾斜部21と首部8との間に、これらを接続して凹曲線状をなす凹曲線部22が形成されている。
【0039】
ねじ部6には、周方向へ向かうに従い缶軸O方向に向けて延びる螺旋状の雄ねじが形成されている。
膨出部7は、径方向外側へ向けて膨出するとともに周方向に沿って延びる環状をなしている。膨出部7は、カブラとも呼ばれる。膨出部7の外径は、ねじ部6の外径に対して同等以上の大きさであり、本実施形態の例では、ねじ部6の外径より大きい。膨出部7の最大外径(直径)は、例えば38.0mm程度である。膨出部7の最大外径は、ボトル口径に相当する。つまり本実施形態のボトル缶10は、38mm口径である。
【0040】
図3及び
図5に示すように、膨出部7には、口金部5に装着されるキャップ15の周壁下端が裾巻きされる。口金部5にキャップ15が取り付けられ、膨出部7の径方向外側に該キャップ15の周壁が嵌合させられた状態で、膨出部7の下端と、キャップ15の周壁下端とは、互いに略同一位置に(略一致して)配置される。
【0041】
図4及び
図5に示されるボトル缶縦断面視において、膨出部7は、ねじ部6の下方に隣接配置された上凸曲線部16と、上凸曲線部16の下方に隣接配置された中凸曲線部17と、中凸曲線部17の下方に隣接配置された下凸曲線部18と、下凸曲線部18の下方に隣接配置された直線部19と、を有する。ボトル缶縦断面視において、上凸曲線部16、中凸曲線部17及び下凸曲線部18は、いずれも径方向外側へ向けて凸となる曲線状をなしており、互いに曲率半径が異なっている。図示の例では、これらの凸曲線部の曲率半径が、下凸曲線部18、上凸曲線部16、中凸曲線部17の順に大きくされている。
【0042】
上凸曲線部16は、ねじ部6の下端に連なり、下方へ向かうに従い径方向外側へ向けて傾斜している。中凸曲線部17は、上凸曲線部16の下端に接するように滑らかに連なり、下方へ向かうに従い径方向外側へ向けて傾斜している。中凸曲線部17の缶軸O方向に沿う単位長さあたりの径方向への変位量(つまり傾き)は、上凸曲線部16の前記変位量よりも小さい。
【0043】
下凸曲線部18は、中凸曲線部17の下端に接するように滑らかに連なり、下方へ向かうに従い径方向内側へ向けて傾斜している。
図5に示されるボトル缶縦断面視で、下凸曲線部18の(缶外面における)曲率半径r2は、1.0~1.6mmである。直線部19は、下凸曲線部18の下端に接するように滑らかに連なり、下方へ向かうに従い径方向内側へ向けて傾斜している。ボトル缶縦断面視において、直線部19は、直線状をなしている。
本実施形態では
図5に示されるように、膨出部7の下凸曲線部18及び直線部19に対して、キャップ15の周壁下端が裾巻きされる。
【0044】
また
図5に示すボトル缶縦断面視で、膨出部7の下部(直線部19)が缶軸Oに対して傾斜する角度は、36~50°である。なお前記角度とは、ボトル缶縦断面視で、缶軸Oと膨出部7の下部との間に形成される鋭角及び鈍角のうち、鋭角の角度を指す。つまり、ボトル缶10の縦断面視において、缶軸Oと膨出部7の下端の延長線Lとの間に形成される鋭角及び鈍角のうち、鋭角の角度が、36~50°である。
【0045】
図2~
図5に示されるように、傾斜部21は、下方へ向かうに従い径方向内側へ向けて傾斜しており、本実施形態の例では、キャップ15の周壁下端とともに裾巻きロール50に当接される。傾斜部21は、膨出部7(の直線部19)の下端に接続し、下方へ向かうに従い徐々に縮径するテーパー状をなしている。ボトル缶10の縦断面視で、膨出部7(の下部)と傾斜部21とは、互いの接続部分において接するように(共通の接線を有するように)、段差なく滑らかに繋がっている。
【0046】
缶軸Oを含む縦断面視において、傾斜部21は、膨出部7の下端の延長線Lよりも外側(缶の外側、径方向外側)に位置している。本実施形態では、膨出部7(の直線部19)の下端とは、
図5に示すように、キャップ15の周壁の裾の先端が当接する位置7aと定義する。
【0047】
図2~
図5に示す缶軸O方向に沿うボトル缶10の縦断面視で、傾斜部21は、缶軸Oに対して交差する向きに傾斜して延びる直線状をなしている。傾斜部21の缶軸O方向に沿う単位長さあたりの径方向への変位量(つまり傾き)は、膨出部7の下部(直線部19)の前記変位量よりも小さい。
【0048】
図2及び
図3に示すボトル缶10の縦断面視において、缶軸Oに対して傾斜部21が傾斜する角度θは、20~40°である。図示の例では、角度θが30°程度とされている。言い換えると、ボトル缶縦断面視において、缶軸Oに直交する仮想直線(図示略)に対して傾斜部21が傾斜する角度(90°-θ)が、60°程度である。
なお、本実施形態でいう上記角度θとは、ボトル缶10の縦断面視で、缶軸Oと傾斜部21との間に形成される鋭角及び鈍角のうち、鋭角の角度を指す。
図3及び
図5に示すボトル缶縦断面視で、缶軸Oに対して、膨出部7の下部(直線部19)が傾斜する角度に比べて、傾斜部21が傾斜する角度θが小さくされている。
【0049】
図3及び
図5に示されるキャップ付きボトル缶20において、傾斜部21は、キャップ15の周壁下端の下方に隣接配置されており、該キャップ15の周壁下端よりも斜め下方へ向けて延設されている。
図5において、キャップ15の周壁下端から傾斜部21の下端までの缶軸O方向に沿う距離Aは、2~6mmである。詳しくは、キャップ15の周壁における板厚を含む最下端から、傾斜部21のうち凹曲線部22に接続する下端(傾斜部21と凹曲線部22との接続点)までの缶軸O方向の距離Aが、2~6mmである。距離Aは、後述する裾巻きロール50の厚さ以上に設定されることが好ましい。つまり、裾巻きロール50の外周縁(鍔部)の上下方向の厚さ(ロール先端上下幅)が、少なくとも2mmである。また、膨出部7(の直線部19)の下端から傾斜部21の下端まで(凹曲線部22の上端まで)の缶軸O方向の距離については、キャップ15の周壁下端の板厚を考慮して、2.2~6.2mmである。
【0050】
凹曲線部22は、傾斜部21の下方に連なっており、径方向内側へ向けて窪む凹曲面状をなしている。凹曲線部22は、傾斜部21と首部8とに滑らかに接続している。
図5に示されるボトル缶縦断面視で、凹曲線部22の曲率半径r1は、0.8~1.4mmである。
【0051】
首部8は、凹曲線部22の下方に連なっており、膨出部7と肩部4との間において最も小径に形成された部分である。
図4及び
図5に示される例では、首部8が、缶軸Oに平行に延びる円筒状をなしている。例えばこれに代えて、首部8が径方向内側へ向けて窪む凹曲面状をなしていてもよい。
【0052】
首部8の最小外径(直径)は、28~35.5mmである。本実施形態の例では、首部8の最小外径が32mm程度とされている。また、膨出部7の最大外径(直径)と、首部8の最小外径(直径)との差は、2.5~10.0mmである。好ましくは、上記差は3.0~7.0mmである。
首部8の厚さ(肉厚。板厚)は、例えば、0.250~0.335mmである。
【0053】
本実施形態の例では、首部8の下方に凹曲線部が連なっており、該凹曲線部の下方に肩部4の上端部が接続している。なお、首部8と肩部4との間に、缶の座屈強度を高める目的で段部(図示略)を設けてもよい。
【0054】
カール部9は、口金部5の上端開口縁に位置している。カール部9の先端(材料端)は、径方向外側から下方へ向けて折り返されている。カール部9は、周方向に沿って延びる環状をなしている。本実施形態では、カール部9及び首部8のいずれかが、口金部5における最小径部分とされている。図示の例では、カール部9の外周の全周にわたって、径方向内側へ向けたスロットル加工(カール潰し加工)が施されており、これによりカール部9の外周面は、缶軸Oに平行な円筒面状をなしている。
【0055】
次に、本実施形態のボトル缶10及びキャップ付きボトル缶20の製造方法について、製造工程の一例を説明する。
ボトル缶10は、板材打ち抜き工程、カッピング工程(絞り工程)、DI工程(絞りしごき工程)、トリミング工程、印刷・塗装(缶外面)工程、塗装(缶内面)工程、ネッキング工程、トリミング工程、ねじ成形工程、カール工程及びスロットル工程等を経て、製缶される。
【0056】
板材打ち抜き工程では、アルミニウム合金材料等からなる圧延材(板材)を打ち抜き加工して、円板状のブランクを成形する。
カッピング工程(絞り工程)では、ブランクをカッピングプレスにより絞り加工(カッピング加工)して、有底筒状のカップ状体に成形する。
【0057】
DI工程(絞りしごき工程)では、DI缶製造装置によってカップ状体に再絞り及びしごき加工を施して、缶胴と缶底とを備えた有底筒状のDI缶を成形する。なお「DI」とは、Drawing&Ironingの略称である。
またDI工程において、缶底には、上述した環状凸部11及びドーム部12がプレス成形される。
【0058】
DI工程を経たDI缶は、缶胴の開口端部が凹凸形状をなしており、いわゆる耳が形成されていて高さが不均一である。このためトリミング装置を用いて、缶胴の開口端部のトリミング加工を行い、該開口端部の高さが全周にわたって均等に揃えられたDI缶とする(トリミング工程)。
【0059】
次いで、DI缶を洗浄して油分等を除去した後に、表面処理を施して乾燥し、DI缶の外面の印刷及び塗装を行い(印刷・塗装(缶外面)工程)、DI缶の内面の塗装を行う(塗装(缶内面)工程)。
DI缶の缶外面には、印刷及び外面仕上げニスの塗装が行われる。印刷、外面仕上げ塗装はウエットオンウエットで塗装され、その後焼付・乾燥される。
また、外面塗装後は、内面塗装とその乾燥・焼付が行われる。DI缶の内面への塗装は、スプレーノズルによって缶胴の開口部から缶底へ向けて塗料を噴霧して行われる。噴霧した塗料を乾燥することにより缶内面に塗膜が形成されて、耐食性が付与される。
【0060】
このDI缶を、ボトル缶製造装置に移送する。ボトル缶製造装置では、複数種類のダイ加工ツール(ネッキング成形金型)を用いて、缶胴の開口部近傍に段階的にダイ加工(ネッキング加工)を施すことにより、肩部4及び口金部5を成形する(ネッキング工程)。
具体的に、肩部4及び首部8については、ダイ加工により缶胴の開口部近傍を段階的に縮径して成形する。凹曲線部22、傾斜部21及び膨出部7の下部(直線部19及び下凸曲線部18等)については、ダイ加工により缶胴の開口部近傍を段階的に拡径して成形する。
また必要に応じて、複数種類のダイ加工同士の間に、トリミング加工ツールを用いて、高さが不揃いとなった開口端部のトリミング加工を行う(トリミング工程)。
【0061】
次いで、缶胴1の口金部5に、ねじ成形加工ツールを用いてねじ成形加工を施す(ねじ成形工程)。また口金部5の上端開口に、カール加工ツールを用いてカール加工を施し(カール工程)、スロットル加工ツール(カール潰し加工ツール)を用いてスロットル加工(スロットル工程)を施す。これにより、口金部5にねじ部6及びカール部9が成形される。なお、上述のねじ成形加工とカール加工との間に、複数のダイ加工及びトリミング加工を行ってもよい。
【0062】
これにより、
図1に示されるような繋ぎ目のない一体成型されたボトル缶10が製缶される。
なお、本実施形態の例では、口金部5の首部8、凹曲線部22及び傾斜部21等の成形を、上記ネッキング工程においてダイ加工ツールを用いて行うこととした。これに代えて、ねじ成形工程の前後において回転加工ツール(中子ローラ、外子ローラ等の成形ローラ)を用いて行ってもよい。
【0063】
上記スロットル工程よりも後工程において、ボトル缶10の内部には飲料等の内容物が充填され、キャッパー(キャップ装着装置)により、口金部5には、有頂筒状をなすキャップ15が嵌着される。これにより、キャップ付きボトル缶20が製造される。
詳しくは、まず
図2及び
図4に示されるように、口金部5にキャップ15を被せ、該キャップ15の上方からプレッシャーブロック(図示略)により下方へと荷重(軸荷重)をかけ、キャップ15の頂壁(天壁)の下面に設けたシール材を口金部5のカール部9に上方から押し付けて、ボトル缶10を密封状態とする。この密封状態で、キャップ15の周壁に対して、ねじ巻きロール(図示略)を径方向内側へ向けて押し当てつつ缶軸O回りの周方向に転動させることにより、該キャップ15の周壁に、ねじ部6の雄ねじ形状に倣った雌ねじ形状を成形する。また、キャップ15の周壁下端に対して、裾巻きロール50により径方向内側への荷重(横荷重)を付与しつつ、該裾巻きロール50を缶軸O回りの全周に転動させて、キャップ15の周壁下端を裾巻き成形する。これにより、
図3及び
図5に示されるようにキャップ15の周壁下端が、膨出部7(の下部)に密着して嵌合する。
このようにして、ボトル缶10の内容物が密封された状態で、口金部5にキャップ15が取り付けられる。またこの密封状態は、口金部5からキャップ15を取り外し開栓するまでの間、維持される。
【0064】
なお本実施形態の例では、裾巻きロール50によってキャップ15の周壁下端を裾巻き成形する際、
図3に示すように、裾巻きロール50の先端(外周の鍔部)が傾斜部21に当接させられる。裾巻きロール50が傾斜部21に当接されることにより、傾斜部21には、缶軸O回りに延びる裾巻きロール痕(図示略)が形成される。また、裾巻きロール50は首部8に対しては当接させられず、このため首部8には、上記裾巻きロール痕は形成されない。
つまり本実施形態の例では、裾巻きロール50でキャップ15の周壁下端を裾巻き成形するときに、該裾巻きロール50の先端を積極的に傾斜部21に当てることで、この裾巻きロール50の先端が首部8に当たることを防止している。
【0065】
以上説明した本実施形態に係るボトル缶10及びキャップ付きボトル缶20によれば、缶胴1の口金部5が傾斜部21を有しており、該傾斜部21は、膨出部7の下方に隣接配置され、及び膨出部7に嵌着されるキャップ15の周壁下端の下方に隣接配置されるとともに、下方へ向かうに従い径方向内側へ向けて傾斜して形成されている。つまり、
図7に示す従来のボトル缶100のように、膨出部103の下方に、缶軸Oに平行な円筒状の首部104が隣接配置されるのではなく、本実施形態では
図5に示すように、膨出部7と首部8との間に、下方へ向かうに従い徐々に径方向内側へ向けて延びるテーパー状の傾斜部21が設けられている。
ボトル缶縦断面視において傾斜部21は、膨出部7の下端の延長線Lよりも外側(缶の外側であり、径方向外側と言い換えてもよい)に配置されている。そして本実施形態の例では、キャップ15の周壁下端を裾巻き成形する裾巻きロール50(の先端)が、傾斜部21に対して、当接させられる。つまり裾巻きロール50は、首部8ではなく傾斜部21に当接する。
【0066】
このため、キャッピング時に、裾巻きロール50でキャップ15の周壁下端を膨出部7(の下部)に裾巻き成形する際、裾巻きロール50は、キャップ15周壁とともに傾斜部21にも当接するが、この傾斜部21が径方向内側に傾斜して逃げている分、該傾斜部21に対する裾巻きロール50からの押圧力(横荷重)を低減できる。
詳しくは、従来のように膨出部103の下方に首部104が隣接配置された
図7の構成に比べて、
図5に示す本実施形態では傾斜部21が設けられた分だけ、該傾斜部21を従来の首部104よりも径方向内側に配置できる。裾巻きロール50は、ばね力によって径方向内側へ向けて付勢されているため、裾巻きロール50の先端(外周縁の鍔部)が、径方向内側へ逃げた傾斜部21へと押し付けられることで、傾斜部21が裾巻きロール50から受ける押圧力を小さく抑えることができる。また、傾斜部21が傾斜していることにより、裾巻きロール50の押圧力を径方向内側以外の缶軸O方向下方等に分散させることができる。また、傾斜部21以外の部分(傾斜部21の下方に位置する凹曲線部22や首部8等)に対して、裾巻きロール50が当接することを防止することができる。従って、これらの相乗効果により、首部8の変形を効果的に抑制できる。
【0067】
ここで、裾巻きロール50から首部8が受ける径方向内側へ向けた押圧力と、これに応じた首部8の変形量について説明する。首部8の変形量(半径の変化量)△Rは、材料力学より下記の式で表すことができる。
△R=(R2/tE)×P
上記式のうち、Pは外圧(裾巻きロール50から首部8が径方向内側へ向けて受ける圧力)、Rは首部8の半径(内径)、tは首部8の厚さ(肉厚)、Eはヤング率である。上記式より、外圧P、厚さt及びヤング率Eが一定の場合には、首部8の変形量△Rは、首部8の半径Rの二乗に比例することがわかる。つまり、首部8の半径Rが小さくなれば、首部8の変形量△Rも、半径Rの二乗に比例して小さくなる(なお、実際には半径Rが変化すると厚さtも僅かに変化するが、微小量であるためここでは考慮しないこととする)。
【0068】
本実施形態では、上述したように首部8の上方に傾斜部21が形成されている分、該首部8の外径が小さくされている。つまり、
図6及び
図7に示す従来のボトル缶100に比べて、
図1~
図5に示す本実施形態のボトル缶10は、首部8の半径Rが小さくされているため、仮に裾巻きロール50から受ける押圧力が従来と同じであっても、首部8の変形量△Rは確実に低減されて、首部8の変形が防止される。
【0069】
以上より本実施形態のボトル缶10及びキャップ付きボトル缶20によれば、缶の薄肉化を図った場合であっても、キャッピング時の成形荷重(軸荷重や横荷重)によって首部8が変形することを確実に防止できる。
【0070】
また本実施形態では、膨出部7の最大外径(直径)と、首部8の最小外径(直径)との差が、2.5~10.0mmであるので、下記の作用効果を奏する。
すなわち上記構成のように、膨出部7の最大外径と首部8の最小外径との差が、2.5mm以上であれば、膨出部7と首部8との間に位置する傾斜部21の長さを十分に確保でき、裾巻きロール50が首部8に当たることをより確実に防止することができる。また、首部8の半径Rが十分に小さくされて、首部8の変形量△Rを安定して小さく抑えられる。
また上記差が、10.0mm以下であれば、傾斜部21の成形性が良好に維持される。つまり、本実施形態で説明したようにダイ加工によって傾斜部21を成形する場合において、該傾斜部21が首部8から上方へ向けて急激に拡径させられることにより生じる割れ等を防止できる。
なお、上述の作用効果をさらに格別顕著なものとするには、上記差が3.0~7.0mmであることがより好ましい。
【0071】
また本実施形態では、缶軸O方向に沿うボトル缶10の縦断面視で、缶軸Oに対して傾斜部21が傾斜する角度θが、20~40°であるので、下記の作用効果を奏する。
すなわち上記構成のように、ボトル缶10の缶軸Oを含む縦断面視で、缶軸Oに対して傾斜部21が傾斜する角度θが20°以上であれば、傾斜部21が十分に傾斜させられて(寝かされて)、該傾斜部21に裾巻きロール50が強く当たることをより確実に防止できる。
また上記縦断面視で、缶軸Oに対して傾斜部21が傾斜する角度θが40°以下であれば、傾斜部21が大きく傾斜させられ過ぎて(寝かされ過ぎて)、口金部5の耐荷重(特に軸荷重への耐力)が低減するようなことを防止できる。
【0072】
また本実施形態では、ボトル缶10の縦断面視において、傾斜部21が直線状に形成されているので、該傾斜部21を膨出部7の下端(直線部19)に段差なく接続しやすい。
【0073】
また本実施形態では、ボトル缶10の縦断面視で、膨出部7と傾斜部21とが、互いの接続部分において接するように繋がっているので、口金部5を成形しやすく、また、膨出部7と傾斜部21との接続部分を起点として口金部5が座屈変形することを防止できる。また、口金部5の外観(美観)がよい。
【0074】
また本実施形態では、キャップ15の周壁下端から傾斜部21の下端までの缶軸O方向に沿う距離Aが、2~6mmであるので、下記の作用効果を奏する。
すなわち上記構成のように、キャップ15の周壁下端と、傾斜部21の下端との缶軸O方向の距離Aが、2mm以上であれば、裾巻きロール50が首部8に当たることをより確実に防止できる。これは、裾巻きロール50の外周縁(鍔部)の上下方向の厚さが2mm以上であるためである。
また上記距離Aが、6mm以下であれば、傾斜部21が長くなり過ぎることによる傾斜部21の耐軸荷重の低減を抑制できる。
また、キャップ15装着前のボトル缶10において、膨出部7の下端7aから傾斜部21の下端までの缶軸O方向の距離が、2.2~6.2mmであるので、上記同様の作用効果が得られる。
【0075】
また本実施形態では、キャッピング時に裾巻きロール50が傾斜部21に当接させられることで、該傾斜部21に、缶軸O回りに延びる裾巻きロール痕が形成される。本実施形態では上述したように、裾巻きロール50による傾斜部21への押圧力を小さく抑えることができるため、裾巻きロール痕を目立たなくすることができる。そして首部8の変形も抑制される。
【0076】
また本実施形態では、キャッピング時に裾巻きロール50が首部8に当接しないので、該首部8には、缶軸O回りに延びる裾巻きロール痕が形成されない。首部8に裾巻きロール痕が形成されないため、口金部5の美観を高めることができる。そして首部8の変形がより確実に防止される。
【0077】
また本実施形態では、ボトル缶10の縦断面視で、缶軸Oに対して膨出部7の下部が傾斜する角度(缶軸Oと延長線Lとの間に形成される角度。以下同様)が36°以上であるので、膨出部7の下部が十分に傾斜させられて(寝かされて)、キャップ15の周壁の裾巻きが確実に行われ、キャップ15のすっぽ抜け(口金部5からの上方への離脱)が発生しない。
また上記縦断面視で、缶軸Oに対して膨出部7の下部が傾斜する角度が50°以下であるので、膨出部7の下部が大きく傾斜させられ過ぎて(寝かされ過ぎて)、膨出部7の耐荷重(特に軸荷重への耐力)が低減するようなことを防止できる。
【0078】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、例えば下記に説明するように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0079】
前述の実施形態では、膨出部7と肩部4との間に、傾斜部21と、凹曲線部22と、首部8と、首部8の下方に隣接する凹曲線部と、が備えられているとしたが、これに限定されるものではない。すなわち膨出部7の下方には、下方へ向かうに従い径方向内側へ向けて傾斜する傾斜部21と、傾斜部21の下方に配置されて該傾斜部21よりも小径に形成された首部8と、が備えられていればよく、それ以外の構成要素については、前述の実施形態で説明した形状以外の形状であってもよい。
【0080】
また、前述の実施形態では、缶軸O方向に沿うボトル缶10の縦断面視で、傾斜部21が直線状をなしているとしたが、これに限定されるものではない。缶軸Oを含む縦断面視で、傾斜部21が凹曲線状をなしていてもよい。この場合、傾斜部21は、缶の内側(径方向内側)へ向けて窪む凹曲面状に形成される。ボトル缶縦断面視で、傾斜部21が凹曲線状に形成されることで、成形性がより向上する。
【0081】
また、缶軸Oを含む縦断面視において、傾斜部21を直線状や凹曲線状に形成する代わりに、凸曲線状に形成してもよい。この場合、傾斜部21は、缶の外側(径方向外側)へ向けて膨らむ凸曲面状をなす。
或いは、ボトル缶縦断面視において、例えば直線、凹曲線及び凸曲線のいずれか2つ以上を組み合わせた複合的な形状の傾斜部21を用いてもよい。
【0082】
また、前述の実施形態では、裾巻きロール50でキャップ15の周壁下端を膨出部7に裾巻き成形する際、裾巻きロール50が、キャップ15周壁とともに傾斜部21にも当接するとしたが、本発明の参考例では、これに限定されるものではない。裾巻きロール50は、傾斜部21に当接されなくてもよい。この場合、首部8だけでなく傾斜部21にも、裾巻きロール痕は形成されない。
【0083】
また、前述の実施形態では、ボトル缶縦断面視において、膨出部7の下端に直線部19が配置されており、該直線部19の延長線Lに対して、傾斜部21が外側(缶の外側、径方向外側)に配置されるとしたが、膨出部7の下端には、直線部19の代わりに凸曲線部が配置されていてもよい。この場合、膨出部7の下端の延長線Lとは、膨出部7と傾斜部21との接続点(境界点、変曲点)における接線を指す(前記接線とは、少なくとも膨出部7の前記凸曲線部の下端に接する接線である)。
【0084】
また、前述の実施形態では、ボトル缶10の縦断面視で、膨出部7と傾斜部21とが、互いの接続部分において接するように繋がっていることとしたが、これに限定されるものではない。例えば、ボトル缶縦断面視において、膨出部7と傾斜部21との接続部分が、(鈍角の)屈曲状に形成されていてもよい。
【0085】
また、前述の実施形態では、口金部5の膨出部7における最大外径(直径)が38.0mm程度とされた、38mm口径のボトル缶10を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。すなわち本発明は、例えば、口金部の膨出部における最大外径(直径)が33.0mmや28.0mm程度とされた口径のボトル缶にも適用可能で、28mm~38mmの間の膨出部直径であってもよい。
【0086】
また、前述の実施形態では、ボトル缶10として、缶胴1と缶底2とが一体に形成された例を挙げて説明したが、ボトル缶10は、缶胴1と缶底2とが別体に形成され、これらが組み合わされたものであってもよい。
【0087】
その他、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態、変形例及びなお書き等で説明した各構成(構成要素)を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明のボトル缶及びキャップ付きボトル缶は、缶の薄肉化を図った場合であっても、キャッピング時の成形荷重による首部の変形を防止できる。従って、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0089】
1 缶胴
2 缶底
5 口金部
6 ねじ部
7 膨出部
7a 膨出部の下端
8 首部
10 ボトル缶
15 キャップ
19 直線部(膨出部の下部)
20 キャップ付きボトル缶
21 傾斜部
50 裾巻きロール
A 距離
L 延長線
O 缶軸
θ 角度