(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】作業機械、及び作業機械の制御方法
(51)【国際特許分類】
B60W 10/04 20060101AFI20230929BHJP
B60W 10/10 20120101ALI20230929BHJP
E02F 9/20 20060101ALI20230929BHJP
F16H 61/02 20060101ALI20230929BHJP
F16H 59/18 20060101ALI20230929BHJP
F16H 59/48 20060101ALI20230929BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20230929BHJP
B60W 10/103 20120101ALI20230929BHJP
【FI】
B60W10/00 104
E02F9/20 M
F16H61/02
F16H59/18
F16H59/48
B60W10/06
B60W10/103
(21)【出願番号】P 2019062992
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2022-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】竹中 唯太
(72)【発明者】
【氏名】山田 賢一
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-131606(JP,A)
【文献】特開2005-335925(JP,A)
【文献】特開2001-113989(JP,A)
【文献】特開2015-040422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
E02F 9/20
F16H 59/18
F16H 59/48
F16H 61/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンに接続されるトランスミッションを含む走行駆動系と、
作業機と、
前記エンジンによって駆動され、前記作業機に供給される作動油を吐出する油圧ポンプを含む機器駆動系と、
オペレータによる操作を受け付けるアクセル操作部材と、
オペレータによる操作を受け付ける作業機操作部材と、
コントローラと、
を備えた作業機械において、
前記コントローラは、
前記作業機操作部材の操作量に応じて、前記機器駆動系を制御し、
前記アクセル操作部材の操作量に基づいて、前記走行駆動系の目標牽引力を決定し、
前記作業機械の許容加速度を決定し、
前記走行駆動系の走行負荷を取得し、
前記走行駆動系の走行負荷に相当する牽引力と、前記許容加速度に相当する牽引力との和を、前記走行駆動系の牽引力の上限値として決定し、
前記目標牽引力が前記上限値より大きいときには、前記上限値以下となるように前記目標牽引力を補正し、
補正された前記目標牽引力に基づいて、前記走行駆動系を制御
する、
作業機械。
【請求項2】
エンジンと、
前記エンジンに接続されるトランスミッションを含む走行駆動系と、
作業機と、
前記エンジンによって駆動され、前記作業機に供給される作動油を吐出する油圧ポンプを含む機器駆動系と、
オペレータによる操作を受け付けるアクセル操作部材と、
オペレータによる操作を受け付ける作業機操作部材と、
コントローラと、
を備えた作業機械において、
前記コントローラは、
前記作業機操作部材の操作量に応じて、前記機器駆動系を制御し、
前記アクセル操作部材の操作量に基づいて、前記走行駆動系の目標牽引力を決定し、
前記作業機械の許容加速度を決定し、
前記許容加速度に基づいて前記走行駆動系の牽引力の上限値を決定し、
前記目標牽引力が前記上限値より大きいときには、前記上限値以下となるように前記目標牽引力を補正し、
補正された前記目標牽引力に基づいて、前記走行駆動系を制御し、
前記作業機械の
作業状態が掘削である場合には、前記作業機械の作業状態が掘削以外の作業である場合よりも、前記許容加速度を
増大させる、
作業機械。
【請求項3】
前記コントローラは、第1モードと、前記第1モードよりも前記走行駆動系の牽引力を制限する第2モードとを選択的に実行し、
前記第2モードでの前記許容加速度は、前記第1モードでの前記許容加速度よりも小さい、
請求項1
又は2に記載の作業機械。
【請求項4】
前記コントローラは、
車速と、前記アクセル操作部材の操作量と、前記走行駆動系の要求牽引力との関係を規定する要求牽引力データを記憶しており、
前記要求牽引力データを参照して、前記車速から前記要求牽引力を決定し、
前記要求牽引力から前記目標牽引力を決定し、
前記第1モードと前記第2モードのうち選択されたモードに応じて、前記要求牽引力データを変更する、
請求項
3に記載の作業機械。
【請求項5】
前記コントローラは、
前記作業機械の作業状態が掘削であるかを判定し、
前記第2モードにおいて前記作業機械の作業状態が前記掘削であるときには、前記作業機械の作業状態が前記掘削以外の作業であるときよりも、前記要求牽引力が増大するように、前記要求牽引力データを変更する、
請求項
4に記載の作業機械。
【請求項6】
前記コントローラは、
前記作業機操作部材の操作量に基づいて、前記機器駆動系の要求トルクを決定し、
前記走行駆動系の前記目標牽引力と、前記機器駆動系の前記要求トルクとに基づいて前記エンジンの出力を制御する、
請求項1から
5のいずれかに記載の作業機械。
【請求項7】
前車体と、
前記前車体に対して左右に旋回可能に接続される後車体と、
をさらに備え、
前記走行駆動系は、前記トランスミッションに接続される走行装置をさらに含み、
前記走行装置は、
前記前車体に設けられる前輪と、
前記後車体に設けられる後輪と、
を含む、
請求項1から
6のいずれかに記載の作業機械。
【請求項8】
エンジンと、前記エンジンに接続されるトランスミッションを含む走行駆動系と、作業機と、前記エンジンによって駆動され前記作業機に供給される作動油を吐出する油圧ポンプを含む機器駆動系と、を含む作業機械を制御するためにコントローラによって実行される制御方法であって、
作業機操作部材の操作量を取得することと、
前記作業機操作部材の操作量に応じて、前記機器駆動系を制御することと、
アクセル操作部材の操作量を取得することと、
前記アクセル操作部材の操作量に基づいて、前記走行駆動系の目標牽引力を決定することと、
前記作業機械の許容加速度を決定することと、
前記走行駆動系の走行負荷を取得することと、
前記走行駆動系の走行負荷に相当する牽引力と、前記許容加速度に相当する牽引力との和を、前記走行駆動系の牽引力の上限値として決定することと、
前記目標牽引力が前記上限値より大きいときには、前記上限値以下となるように前記目標牽引力を補正することと、
補正された前記目標牽引力に基づいて、前記走行駆動系を制御すること、
を備える方法。
【請求項9】
エンジンと、前記エンジンに接続されるトランスミッションを含む走行駆動系と、作業機と、前記エンジンによって駆動され前記作業機に供給される作動油を吐出する油圧ポンプを含む機器駆動系と、を含む作業機械を制御するためにコントローラによって実行される制御方法であって、
作業機操作部材の操作量を取得することと、
前記作業機操作部材の操作量に応じて、前記機器駆動系を制御することと、
アクセル操作部材の操作量を取得することと、
前記アクセル操作部材の操作量に基づいて、前記走行駆動系の目標牽引力を決定することと、
前記作業機械の許容加速度を決定することと、
前記許容加速度に基づいて前記走行駆動系の牽引力の上限値を決定することと、
前記目標牽引力が前記上限値より大きいときには、前記上限値以下となるように前記目標牽引力を補正することと、
補正された前記目標牽引力に基づいて、前記走行駆動系を制御すること、
を備え、
前記作業機械の
作業状態が掘削である場合には、前記作業機械の作業状態が掘削以外の作業である場合よりも、前記許容加速度を
増大させる、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、作業機械、及び作業機械の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、作業機械において、コントローラが、アクセル操作部材の操作に基づいて、トランスミッションの目標牽引力を決定する技術が開示されている。それにより、オペレータは、アクセル操作部材によって、作業機械を走行させるためのトルクを任意に操作することができる。
【0003】
また、特許文献1では、コントローラは、作業機操作部材の操作に基づいて、作業機の要求トルクを決定している。コントローラは、トランスミッションの目標牽引力と作業機の要求トルクとに基づいて、エンジンを制御する。それにより、オペレータは、アクセル操作部材を操作せずに、作業機操作部材を操作するだけで、エンジンの出力を増大させることができる。それにより、作業機を所望の速度で動作させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、アクセル操作部材の操作に基づいて目標牽引力が決定される場合には、オペレータが意図せず大きな操作を行ったときに、大きな加速力が作業機械に発生する。その場合、乗り心地が低下してしまう。
【0006】
そこで、エンジンの出力を制限すれば、このような大きな加速力の発生を抑えることができる。しかし、その場合、所望の作業機の要求トルクを得ることができず、作業性が低下する虞がある。
【0007】
また、目標牽引力の上限を制限することでも、大きな加速力の発生を抑えることができる。しかし、作業機械は、平坦な道路に限らず、悪路、或いは急な坂を走行することがある。また、作業機械は、道路を走行するだけではなく、掘削等の作業を行うことがある。従って、作業機械が受ける負荷は、状況に応じて大きく異なる。そのため、目標牽引力の上限を一律に制限すると、作業機械の負荷が大きな状況では、十分な加速力を得ることができず、走行性が低下する虞がある。
【0008】
本開示の目的は、作業機械において、過大な加速力の発生を抑えながら、作業性と走行性との低下を抑えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様に係る作業機械は、エンジンと、走行駆動系と、作業機と、機器駆動系と、アクセル操作部材と、作業機操作部材と、コントローラとを備える。走行駆動系は、エンジンに接続されるトランスミッションを含む。機器駆動系は、エンジンによって駆動される油圧ポンプを含む。油圧ポンプは、作業機に供給される作動油を吐出する。アクセル操作部材は、オペレータによる操作を受け付ける。作業機操作部材は、オペレータによる操作を受け付ける。
【0010】
コントローラは、作業機操作部材の操作量に応じて、機器駆動系を制御する。コントローラは、アクセル操作部材の操作量に基づいて、走行駆動系の目標牽引力を決定する。コントローラは、作業機械の許容加速度を決定する。コントローラは、許容加速度に基づいて、走行駆動系の牽引力の上限値を決定する。コントローラは、目標牽引力が上限値より大きいときには、上限値以下となるように目標牽引力を補正する。コントローラは、補正された目標牽引力に基づいて、走行駆動系を制御する。
【0011】
第2の態様に係る方法は、作業機械の制御方法である。作業機械は、エンジンと、走行駆動系と、作業機と、機器駆動系とを備える。走行駆動系は、エンジンに接続されるトランスミッションを含む。機器駆動系は、エンジンによって駆動される油圧ポンプを含む。油圧ポンプは、作業機に供給される作動油を吐出する。当該方法は、以下の処理を備える。第1の処理は、作業機操作部材の操作量を取得することである。第2の処理は、作業機操作部材の操作量に応じて、機器駆動系を制御することである。第3の処理は、アクセル操作部材の操作量を取得することである。第4の処理は、アクセル操作部材の操作量に基づいて、走行駆動系の目標牽引力を決定することである。第5の処理は、作業機械の許容加速度を決定することである。第6の処理は、許容加速度に基づいて走行駆動系の牽引力の上限値を決定することである。第7の処理は、目標牽引力が上限値より大きいときには、上限値以下となるように目標牽引力を補正することである。第8の処理は、補正された目標牽引力に基づいて、走行駆動系を制御することである。
【発明の効果】
【0012】
本開示では、目標牽引力が上限値より大きいときには、上限値以下となるように目標牽引力が補正される。そのため、エンジンの出力が制限される場合と比べて、機器駆動系のためのトルクを確保することができる。それにより、作業性の低下を抑えることができる。また、走行駆動系の牽引力の上限値は、許容加速度に基づいて、決定される。そのため、許容加速度に相当する走行駆動系の牽引力を確保することができる。それにより、過大な加速力の発生を抑えながら、走行性の低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】作業機械の駆動システム及び制御システムの構成を示すブロック図である。
【
図4】エンジンを制御するための処理を示すブロック図である。
【
図5】目標牽引力を決定するための処理を示すブロック図である。
【
図7】第2モードでの牽引力の上限値を示す図である。
【
図8】第1モードでの牽引力の上限値を示す図である。
【
図9】トランスミッションを制御するための処理を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る作業機械1の側面図である。
図1に示すように、作業機械1は、車体2と作業機3とを備えている。
【0015】
車体2は、前車体2aと後車体2bとを含む。後車体2bは、前車体2aに対して左右に旋回可能に接続されている。前車体2aと後車体2bとには、油圧シリンダ15が連結されている。油圧シリンダ15が伸縮することで、前車体2aが、後車体2bに対して、左右に旋回する。
【0016】
作業機3は、掘削等の作業に用いられる。作業機3は、前車体2aに取り付けられている。作業機3は、ブーム11と、バケット12と、油圧シリンダ13,14とを含む。油圧シリンダ13,14が伸縮することによって、ブーム11及びバケット12が動作する。
【0017】
図2は、作業機械1の駆動システム及び制御システムの構成を示すブロック図である。
図2に示すように、作業機械1の駆動システムは、エンジン21と、走行駆動系20aと、機器駆動系20bとを含む。
【0018】
エンジン21は、例えばディーゼルエンジンである。エンジン21には、燃料噴射装置26が設けられている。燃料噴射装置26は、エンジン21のシリンダ内に噴射する燃料量を調整することで、エンジン21の出力を制御する。
【0019】
走行駆動系20aは、トランスミッション23と走行装置24とを含む。トランスミッション23は、エンジン21に接続される。例えば、トランスミッション23は、HST(Hydro-Static Transmission)である。ただし、トランスミッション23は、HMT(Hydraulic Mechanical Transmission)、或いはEMT(Electric Mechanical Transmission)などの他の種類のトランスミッションであってもよい。
【0020】
走行装置24は、作業機械1を走行させる。走行装置24は、アクスル31a,31bと、前輪32と、後輪33とを含む。アクスル31a,31bは、トランスミッション23に接続される。前輪32は、前車体2aに設けられる。後輪33は、後車体2bに設けられる。アクスル31a,31bは、トランスミッション23からの駆動力を前輪32と後輪33とに伝達する。
【0021】
機器駆動系20bは、PTO(Power Take Off)22と油圧ポンプ25とを含む。PTO22は、トランスミッション23と油圧ポンプ25とに、エンジン21の駆動力を分配する。なお、
図2では、1つの油圧ポンプ25のみが図示されている。しかし、2つ以上の油圧ポンプが、PTO22を介してエンジン21に接続されてもよい。
【0022】
油圧ポンプ25は、PTO22を介してエンジン21に接続される。油圧ポンプ25は、エンジン21によって駆動され、作動油を吐出する。油圧ポンプ25から吐出された作動油は、上述した油圧シリンダ13-15に供給される。
【0023】
作業機械1の制御システムは、エンジンセンサ34と、車速センサ35と、ポンプセンサ36とを含む。エンジンセンサ34は、エンジン回転速度を検出する。車速センサ35は、走行駆動系20aの出力回転速度を検出する。走行駆動系20aの出力回転速度は、例えば、トランスミッション23の出力軸の回転速度である。ただし、出力回転速度は、トランスミッション23内、或いはトランスミッション23の下流に位置する他の回転要素の回転速度であってもよい。ポンプセンサ36は、油圧ポンプ25の吐出圧を検出する。
【0024】
作業機械1の制御システムは、コントローラ41を含む。コントローラ41は、作業機械1を制御する。コントローラ41は、エンジンセンサ34から、エンジン回転速度を示す信号を受信する。コントローラ41は、車速センサ35から、出力回転速度を示す信号を受信する。コントローラ41は、ポンプセンサ36から、油圧ポンプ25の吐出圧を示す信号を受信する。コントローラ41は、エンジン21およびトランスミッション23に指令信号を送信する。
【0025】
コントローラ41は、プロセッサ42と記憶装置43とを含む。プロセッサ42は、例えばCPU(central processing unit)である。或いは、プロセッサ42は、CPUと異なるプロセッサであってもよい。プロセッサ42は、プログラムに従って、作業機械1の制御ための処理を実行する。記憶装置43は、ROMなどの不揮発性メモリと、RAMなどの揮発性メモリとを含む。記憶装置43は、ハードディスク、或いはSSD(Solid State Drive)などの補助記憶装置を含んでもよい。記憶装置43は、非一時的な(non-transitory)コンピュータで読み取り可能な記録媒体の一例である。記憶装置43は、作業機械1を制御するためのプログラム及びデータを記憶している。
【0026】
作業機械1の制御システムは、アクセル操作部材44と、作業機操作部材45と、入力装置46とを含む。アクセル操作部材44は、作業機械1の走行を制御するためにオペレータによって操作可能である。アクセル操作部材44は、例えばペダルである。ただし、アクセル操作部材44は、レバー、或いはスイッチなどの他の部材であってもよい。
【0027】
作業機操作部材45は、作業機3を制御するためにオペレータによって操作可能である。作業機操作部材45は、例えばレバーである。ただし、作業機操作部材45は、スイッチ、或いはペダルなどの他の部材であってもよい。入力装置46は、作業機械1の制御モードを選択するためにオペレータによって操作可能である。入力装置46は、例えばタッチパネルを含む。ただし、入力装置46は、機械式のスイッチ等の他の部材を含んでもよい。
【0028】
コントローラ41は、アクセル操作部材44から、アクセル操作量を示す信号を受信する。アクセル操作量は、アクセル操作部材44の操作量である。コントローラ41は、作業機操作部材45から、作業機操作量を示す信号を受信する。作業機操作量は、作業機操作部材45の操作量である。
【0029】
コントローラ41は、入力装置46から、制御モードの選択を示す信号を受信する。制御モードは、第1モードと第2モードとを含む。ただし、コントローラ41は、作業機械1にかかる負荷に応じて、自動的に制御モードを選択してもよい。
【0030】
図3は、第1モードと第2モードとのそれぞれにおける牽引力-車速特性を示す図である。
図3においてL1は、第1モードにおける牽引力-車速特性を示す。L2は、第2モードにおける牽引力-車速特性を示す。牽引力-車速特性は、各車速における最大牽引力を示す。
図3に示すように、第2モードでは、第1モードよりも作業機械1の牽引力が小さく制限される。コントローラ41は、第1モードと第2モードとから選択された制御モードに従って、エンジン21とトランスミッション23とを制御する。
【0031】
以下、コントローラ41によって実行されるエンジン21を制御するための処理について説明する。
図4は、エンジン21を制御するための処理を示すブロック図である。
図4に示すように、ステップS101では、コントローラ41は、走行駆動系20aの目標牽引力を決定する。コントローラ41は、主としてアクセル操作量と出力回転速度とから、目標牽引力を決定する。目標牽引力の決定方法については、後に詳細に説明する。
【0032】
なお、走行駆動系20aの牽引力は、走行駆動系20aの出力トルクに対応している。走行駆動系20aの牽引力と走行駆動系20aの出力トルクとは、互いに換算可能である。従って、以下の説明において牽引力は、出力トルクと言い換えられてもよい。
【0033】
ステップS102では、コントローラ41は、PTO要求トルクを決定する。PTO要求トルクは、機器駆動系20bの要求トルクである。言い換えれば、PTO要求トルクは、PTO22を介してエンジン21に接続された機器での要求トルクである。コントローラ41は、作業機操作量と油圧ポンプ25の吐出圧とから、PTO要求トルクを決定する。PTO要求トルクは、油圧ポンプ25における要求トルクを含む。例えば、コントローラ41は、作業機操作量から、作動油の要求流量を決定する。コントローラ41は、要求流量と吐出圧とから、PTO要求トルクを決定する。なお、2つ以上の油圧ポンプが、PTO22を介してエンジン21に接続されている場合は、PTO要求トルクは、他の油圧ポンプにおける要求トルクをさらに含んでもよい。
【0034】
ステップS103では、コントローラ41は、要求エンジンパワーを決定する。要求エンジンパワーは、エンジン21での要求馬力である。コントローラ41は、PTO要求トルクと目標牽引力とから、要求エンジンパワーを決定する。例えば、コントローラ41は、PTO要求トルクと目標牽引力との和から、要求エンジンパワーを決定する。
【0035】
ステップS104では、コントローラ41は、目標エンジン回転速度を決定する。コントローラ41は、要求エンジンパワーから目標エンジン回転速度を決定する。例えば、コントローラ41は、目標エンジン回転速度データD1を記憶している。目標エンジン回転速度データD1は、要求エンジンパワーPeと目標エンジン回転速度Ntとの関係を規定する。コントローラ41は、目標エンジン回転速度データD1を参照して、要求エンジンパワーPeから目標エンジン回転速度Ntを決定する。
【0036】
コントローラ41は、上記のように決定された目標エンジン回転速度に応じて、燃料噴射装置26への指令を決定する。それにより、目標牽引力とPTO要求トルクとが達成されるように、エンジン21の出力が制御される。なお、コントローラ41は、PTO要求トルクと目標牽引力とから、エンジン21の目標トルクを決定してもよい。コントローラ41は、エンジン21の目標トルクに基づいて、エンジン21を制御してもよい。
【0037】
次に、目標牽引力を決定するための処理について説明する。
図5は、目標牽引力を決定するための処理を示すブロック図である。
図5に示すように、ステップS201では、コントローラ41は、走行駆動系20aの要求牽引力を決定する。コントローラ41は、アクセル操作量と出力回転速度とから、要求牽引力を決定する。例えば、コントローラ41は、要求牽引力データD2を記憶している。要求牽引力データD2は、車速Vと要求牽引力Ftとの関係を規定する。要求牽引力データD2は、アクセル操作量に応じて変更される。コントローラ41は、出力回転速度から車速を算出する。コントローラ41は、要求牽引力データD2を参照して、アクセル操作量と車速とから、要求牽引力を決定する。
【0038】
ステップS202では、コントローラ41は、牽引力係数を決定する。コントローラ41は、車速と制御モードとから、牽引力係数を決定する。例えば、コントローラ41は、
図6に示す係数データD3を記憶している。係数データD3は、車速と牽引力係数との関係を規定する。係数データD3は、第1係数データD3aと第2係数データD3bとを含む。第1係数データD3aは、第1モードでの車速と牽引力係数との関係を規定する。第2係数データD3bは、第2モードでの車速と牽引力係数との関係を規定する。
【0039】
第1係数データD3aでは、車速がV1以下では、牽引力係数はC3である。車速がV2以上では、牽引力係数はC4である。C4はC3より大きい。C4は1であってもよい。或いは、C4は、1と異なる値であってもよい。第1係数データD3aにおいて、車速がV1とV2との間の範囲であるときには、車速の増大に応じて、牽引力係数は増大する。
【0040】
第2係数データD3bでは、車速がV1以下では、牽引力係数はC1である。車速がV2以上では、牽引力係数はC2である。C2はC1より大きい。C2はC3より小さい。ただし、C2は、C3と同じであってもよい。或いは、C2は、C3より大きくてもよい。第2係数データD3bにおいて、車速がV1とV2との間の範囲であるときには、車速の増大に応じて、牽引力係数は増大する。
【0041】
S203では、コントローラ41は、目標牽引力を決定する。コントローラ41は、ステップS201で決定した要求牽引力に、牽引力係数を乗じることで、目標牽引力を決定する。上述したように、第2モードでの牽引力係数は、第1モードでの牽引力係数より小さい。そのため、第2モードでの目標牽引力は、第1モードでの目標牽引力よりも小さく制限される。それにより、
図3に示すような第1モードの牽引力-車速特性L1と第2モードの牽引力-車速特性L2とが実現される。言い換えれば、コントローラ41は、要求牽引力データに第1モードの牽引力係数を乗じることで、要求牽引力データを第1モードの牽引力-車速特性L1に相当するデータに変更する。コントローラ41は、要求牽引力データに第2モードの牽引力係数を乗じることで、要求牽引力データを第2モードの牽引力-車速特性L2に相当するデータに変更する。
【0042】
S204では、コントローラ41は、許容加速度を決定する。コントローラ41は、制御モードから、許容加速度を決定する。コントローラ41は、第1モードでは第1加速度を許容加速度として決定する。コントローラ41は、第2モードでは第2加速度を許容加速度として決定する。第2加速度は、第1加速度よりも小さい。従って、第2モードでの許容加速度は、第1モードでの許容加速度よりも小さい。
【0043】
第1加速度と第2加速度とは、例えば固定値である。ただし、第1加速度と第2加速度とは、変数であってもよい。コントローラ41は、作業機械1の状態に基づいて、第1加速度と第2加速度とを決定してもよい。作業機械1の状態は、例えば、作業機械1が掘削状態であるか否かであってもよい。コントローラ41は、作業機械1が掘削状態であるときの第2加速度を、作業機械1が非掘削状態であるときの第2加速度から変化させてもよい。或いは、コントローラ41は、作業機械1の車速に基づいて、第1加速度と第2加速度とを決定してもよい。
【0044】
ステップS205では、コントローラ41は、走行負荷を決定する。走行負荷は、走行駆動系20aの負荷である。コントローラ41は、走行駆動系20aの牽引力と、作業機械1の加速度と、作業機械1の重量とから、走行負荷を算出する。
【0045】
ステップS206では、コントローラ41は、牽引力の上限値を決定する。コントローラ41は、走行負荷に相当する走行駆動系20aの牽引力と、許容加速度に相当する走行駆動系20aの牽引力とに基づいて、牽引力の上限値を決定する。
図7は、第2モードにおける牽引力の上限値の一例を示す図である。
図7において、A1は、平地での走行時の走行負荷に相当する牽引力を示す。A2は、掘削時の走行負荷に相当する牽引力を示す。掘削時の走行負荷A2は、平地での走行時の走行負荷A1よりも大きい。このように、走行負荷は、作業機械1の状態に応じて変動する。
【0046】
図7において、B2は、第2モードでの許容加速度に相当する走行駆動系20aの牽引力を示す。走行負荷に相当する牽引力がA1であるときには、コントローラ41は、A1とB2との和であるFL1を、牽引力の上限値として決定する。走行負荷に相当する牽引力がA2であるときには、コントローラ41は、A2とB2との和であるFL2を、牽引力の上限値として決定する。
【0047】
図8は、第1モードにおける牽引力の上限値の一例を示す図である。
図8において、B1は、第1モードでの許容加速度に相当する走行駆動系20aの牽引力を示す。走行負荷に相当する牽引力がA1であるときには、コントローラ41は、A1とB1との和であるFL3を、牽引力の上限値として決定する。走行負荷に相当する牽引力がA2であるときには、コントローラ41は、A2とB1との和であるFL4を、牽引力の上限値として決定する。
【0048】
ステップS207では、コントローラ41は、目標牽引力を補正する。コントローラ41は、ステップS203で決定された目標牽引力の値が、牽引力の上限値より大きいときには、目標牽引力を上限値に補正する。コントローラ41は、ステップS203で決定された目標牽引力の値が、牽引力の上限値以下であるときには、ステップS203で決定された値を目標牽引力として決定する。すなわち、コントローラ41は、ステップS203で決定された目標牽引力の値が、牽引力の上限値以下であるときには、目標牽引力の補正を行わない。
【0049】
図9は、トランスミッション23を制御するための処理を示すブロック図である。コントローラ41は、上述のように決定された目標牽引力に基づいて、トランスミッション23の変速比を制御する。
図9に示すように、ステップS301では、コントローラ41は、出力加速度を決定する。出力加速度は、例えば、トランスミッション23の出力軸の加速度である。ただし、出力加速度は、トランスミッション23内、又はトランスミッション23の下流に位置する他の回転要素の加速度であってもよい。なお、出力加速度は、トランスミッション23の出力軸の減速度を含む。例えば、マイナスの値の出力加速度は、減速度を意味する。コントローラ41は、目標牽引力と走行負荷とから、トランスミッション23の出力加速度を決定する。
【0050】
ステップS302では、コントローラ41は、出力回転速度の推定値を決定する。出力回転速度の推定値は、所定時間後の出力回転速度として推定される値である。所定時間は、例えばコントローラ41による処理の制御周期から決定される。コントローラ41は、現在の出力回転速度と、出力加速度とから、出力回転速度の推定値を決定する。
【0051】
ステップS303では、コントローラ41は、エンジン21の加速度を決定する。エンジン21の加速度は、エンジン21の出力軸の加速度である。エンジン21の加速度は、トランスミッション23の入力軸の加速度であってもよい。コントローラ41は、エンジン21の目標加速トルクから、エンジン21の加速度を決定する。例えば、コントローラ41は、目標エンジン回転速度と、現在のエンジン回転速度とから、エンジン21の目標加速トルクを決定する。
【0052】
ステップS304では、コントローラ41は、入力回転速度の推定値を決定する。入力回転速度は、例えば、トランスミッション23の入力軸の回転速度である。入力回転速度の推定値は、所定時間後の入力回転速度として推定される値である。コントローラ41は、現在のエンジン回転速度と、エンジン21の加速度とから、入力回転速度の推定値を決定する。
【0053】
ステップS305では、コントローラ41は、目標速度比を決定する。コントローラ41は、出力回転速度の推定値と入力回転速度の推定値とから、目標速度比を決定する。目標速度比は、出力回転速度の推定値と入力回転速度の推定値との比である。
【0054】
コントローラ41は、トランスミッション23の速度比が、目標速度比となるように、トランスミッション23への指令を決定する。例えば、トランスミッション23がHSTである場合には、コントローラ41は、目標速度比に応じて、HSTの油圧ポンプと油圧モータとの目標容量を決定する。トランスミッション23がHMTである場合には、コントローラ41は、HSTと同様に、目標速度比に応じて、HMTの油圧モータの目標トルクを決定する。トランスミッション23がEMTである場合には、コントローラ41は、目標速度比に応じて、EMTの電動モータの目標トルクを決定する。それにより、目標牽引力と目標エンジン回転速度が達成されるように、トランスミッション23の速度比が制御される。
【0055】
以上説明した本実施形態に係る作業機械1では、目標牽引力が上限値より大きいときには、上限値以下となるように目標牽引力が補正される。そのため、エンジンの出力が制限される場合と比べて、機器駆動系20bの要求トルクを確保することができる。それにより、作業性の低下を抑えることができる。また、走行駆動系20aの牽引力の上限値は、許容加速度に基づいて、決定される。そのため、許容加速度に相当する走行駆動系20aの牽引力を確保することができる。それにより、過大な加速力の発生を抑えながら、走行負荷が変化しても一定の加速度を確保できる。その結果、走行性の低下を抑えることができる。
【0056】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。作業機械1は、ホイールローダに限らず、ブルドーザ、或いはモータグレーダなどの他の機械であってもよい。
【0057】
エンジン21を制御するための処理は、上述した処理に限らず、変更、省略、或いは追加されてもよい。目標牽引力を決定するための処理は、上述した処理に限らず、変更、省略、或いは追加されてもよい。許容加速度を決定するための処理は、上述した処理に限らず、変更、省略、或いは追加されてもよい。例えば、許容加速度の決定において、走行負荷が省略されてもよい。処理の実行順序は、上述したものに限らず、変更されてもよい。上述したデータD1-D3は、上述したものに限らず、変更されてもよい。
【0058】
コントローラ41は、作業機械の作業状態に応じて、目標牽引力を変更してもよい。例えば、コントローラ41は、作業機械の作業状態が掘削であるかを判定してもよい。コントローラ41は、作業機操作部材45の操作、作業機の位置、及び、油圧シリンダ13,14の油圧に基づいて、作業機械の作業状態が掘削であるかを判定してもよい。コントローラ41は、第2モードにおいて作業機械の作業状態が掘削であるときには、作業機械の作業状態が掘削以外の作業であるときよりも、目標牽引力が増大するように、要求牽引力データD2を変更してもよい。例えば、コントローラ41は、第2モードにおいて作業機械の作業状態が掘削であるときには、作業機械の作業状態が走行状態であるときよりも、牽引力係数を増大させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本開示によれば、作業機械において、過大な加速力の発生を抑えながら、作業性と走行性との低下を抑えることができる。
【符号の説明】
【0060】
2a 前車体
2b 後車体
20a 走行駆動系
20b 機器駆動系
21 エンジン
23 トランスミッション
24 走行装置
32 前輪
33 後輪
41 コントローラ
44 アクセル操作部材
45 作業機操作部材