(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】芳香液の製造方法及び芳香液
(51)【国際特許分類】
A23L 27/10 20160101AFI20230929BHJP
C12H 6/02 20190101ALI20230929BHJP
C12G 3/06 20060101ALI20230929BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20230929BHJP
A23L 27/20 20160101ALI20230929BHJP
C12N 1/16 20060101ALI20230929BHJP
C12P 7/24 20060101ALI20230929BHJP
【FI】
A23L27/10 H
C12H6/02
C12G3/06
A23L27/00 C
A23L27/20 D
C12N1/16 J
C12P7/24
(21)【出願番号】P 2019115459
(22)【出願日】2019-06-21
【審査請求日】2022-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000110918
【氏名又は名称】ニッカウヰスキー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】細井 健二
(72)【発明者】
【氏名】杉本 利和
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 健太郎
【審査官】安孫子 由美
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-131255(JP,A)
【文献】特開2008-104408(JP,A)
【文献】特開2004-242579(JP,A)
【文献】国際公開第2015/164414(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0214299(US,A1)
【文献】特開2003-093084(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1414086(CN,A)
【文献】Journal of Agricultural and Food Chemistry,2012年,60,5652-5659
【文献】Food Chemistry,2017年,237,399-407, Supporting information
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C
C12F
C12G
C12H
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め乾燥させた酵母を水性液中で
、発酵に供することなく加熱することで炭素数6~10の直鎖飽和脂肪族アルデヒドを生成させる工程;及び
該直鎖飽和脂肪族アルデヒドを回収する工程;
を包含する芳香液の製造方法。
【請求項2】
前記酵母の加熱は実質的に無酸素環境下で行われる請求項1に記載の芳香液の製造方法。
【請求項3】
前記酵母の加熱は酵母を含む水性液を蒸留することで行われる請求項1又は2に記載の芳香液の製造方法。
【請求項4】
前記酵母を加熱する水性液は醪である請求項1~3のいずれか一項に記載の芳香液の製造方法。
【請求項5】
前記酵母は、発酵終了後の醪に含有させる請求項4に記載の芳香液の製造方法。
【請求項6】
前記芳香液はアルコール飲料である請求項1~5のいずれか一項に記載の芳香液の製造方法。
【請求項7】
前記芳香液は蒸留酒である請求項1~6のいずれか一項に記載の芳香液の製造方法。
【請求項8】
前記芳香液はグリーン香気を有する芳香液である請求項1~7のいずれか一項に記載の芳香液の製造方法。
【請求項9】
乾燥させた酵母を発酵終了後の醪に含有させる工程;
酵母を含有させた醪を
、その後発酵に供することなく蒸留することで炭素数6~10の直鎖飽和脂肪族アルデヒドを生成させる工程;及び
該直鎖飽和脂肪族アルデヒドを回収する工程;
を包含する蒸留酒の製造方法。
【請求項10】
前記蒸留酒はグリーン香気を有する蒸留酒である請求項9に記載の蒸留酒の製造方法。
【請求項11】
乾燥させた酵母を発酵終了後の醪に含有させる工程;
酵母を含有させた醪を
、その後発酵に供することなく蒸留することで炭素数6~10の直鎖飽和脂肪族アルデヒドを生成させる工程;及び
該直鎖飽和脂肪族アルデヒドを回収する工程;
を包含する蒸留酒のグリーン香気を増大させる方法。
【請求項12】
前記蒸留酒はグリーン香気を有する蒸留酒である請求項11に記載の蒸留酒のグリーン香気を増大させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は芳香液に関し、特に、グリーン香気を有する芳香液に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にみどりの香りと呼ばれる香気を生成する成分として、青葉アルデヒド(即ち、不飽和アルデヒドである (2E)-ヘキセナール)が知られている(非特許文献1、2)。この青葉アルデヒドは食品の香りのなかで「草様」や「葉様」な香りを構成する成分として野菜や果実に含まれている。
【0003】
高品質なスコッチウイスキーに認められた特徴的な香りの中に、「グリーン」な香りがあり、ウイスキーの香気を具体的に表現する際に使用されるフレーバーホイールにおいて、香気の大分類(最も内側の環)として「グリーン(Green)/草様(Grassy)」が、中分類(中間の環)として「薬草様(Herbal)、葉様(Leafy)」が記載されている(非特許文献3)。
【0004】
非特許文献4には、多次元的ガスクロマトグラフィー-マススペクトロメーター/オルファクトメトリー(MDGC-MS-O)を使用してモルトウイスキーを分析した結果として、E,Z-2,6-ノネナール、E-2-ノネナール、1-オクテン-3-オール、4-ヘプテン-1-オール及びノナン-2-オールが、グリーンな香りに寄与していることが記載されている。
【0005】
ウイスキー中には青葉アルデヒドが含まれていない。それにもかかわらず、グリーンな香りを特長とする製品が存在する。青葉アルデヒドはさわやかな青臭い香りを特徴とするが、ウイスキーの官能で示される「グリーンな香り」は新鮮な、または乾燥した草のような香りを呈する。ウイスキーにグリーン香が生成するメカニズムは解明されていない。
【0006】
特許文献1はグリーンな香りをもつ生成物、その取得方法およびそれを含有するアルコール飲料に関する。特許文献1には、培地中において不飽和脂肪酸にリポキシゲナーゼを作用させることを特徴とするグリーンな香りをもつ生成物の取得方法、その生成物およびそれを含有するアルコール飲料が記載されている。特許文献1では、実際に、ウイスキー、焼酎に対し、グリーンな香りをもつ溶液を添加して官能試験が行われた。その結果、香味が蒸留酒の味に変化を及ぼし、グリーンな香気が感じられる場合は、味が甘く、味が良くなるという点で長所をもつとされた。
【0007】
しかしながら、特許文献1のグリーン香気をもつ生成物の生成方法は、適切な培地を調製し、酵素源になる麹菌を準備し、前培養し、酵素反応を行う等の煩雑な作業を必要とする。それゆえ、グリーン香気をもつ生成物の生成効率が非常に低く、実施するコストが高くなる。
【0008】
特許文献1では、生成したグリーン香蒸留物を市販の焼酎またはウイスキーに添加することで、グリーン香気を有するウイスキー、焼酎が製造されている。つまり、特許文献1のグリーン香気をもつ生成物は香料として使用されている。一方で、ウイスキー等の蒸留酒は、製造の際に、香料等の添加剤を使用することが禁止されている場合が多い(非特許文献3)。このように、特許文献1のグリーン香気をもつ生成物は適用対象が狭く、実用性が低いものである。
【0009】
また、ウイスキーに関しては、どのようにして製造すれば、そのグリーン香気が増強されるか、未だ明らかにされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献】
【0011】
【文献】畑中顕和「植物起源の香り」、FFIジャーナル、第168号、1996年、第5~22頁
【文献】畑中顕和「第5回記念シンポジウム『ヒトは何故にみどりの香りによってリフレッシュされるのか!』を終えて」、FFIジャーナル、第198号、2002年、第45~55頁
【文献】Charles W. Bamforth及びRobert E. Ward編、”The Oxford Handbook of Food Fermentations”、Oxford University Press、2014年、第238~241頁
【文献】Akira Wanikawaら、”Identification of green note compounds in malt whisky using multidimensional gas chromatography”、Flavour Fragr. J.、2002年、第17号、第207~211頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、操作が簡便で、実用性に優れた、グリーン香気を有する芳香液の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、直鎖飽和脂肪族アルデヒド、特に、炭素数6~10の直鎖飽和脂肪族アルデヒドがウイスキーのグリーンな香りに寄与していることを発見し、簡便でかつウイスキー製造において特に実用性の高いグリーン香の付香方法を見出した。
【0014】
本発明は、予め乾燥させた酵母を水性液中で加熱することで炭素数6~10の直鎖飽和脂肪族アルデヒドを生成させる工程;及び
該直鎖飽和脂肪族アルデヒドを回収する工程;
を包含する芳香液の製造方法を提供する。
【0015】
ある一形態においては、前記酵母の加熱は実質的に無酸素環境下で行われる。
【0016】
ある一形態においては、前記酵母の加熱は酵母を含む水性液を蒸留することで行われる。
【0017】
ある一形態においては、前記酵母を加熱する水性液は醪である。
【0018】
ある一形態においては、前記酵母は、発酵終了後の醪に含有させる。
【0019】
ある一形態においては、前記芳香液はアルコール飲料である。
【0020】
ある一形態においては、前記芳香液は蒸留酒である。
【0021】
また、本発明は、上記いずれかに記載の芳香液の製造方法により製造される芳香液を提供する。
【0022】
また、本発明は、1-ヘキサナール、1-ヘプタナール及び1-ノナナールを含有するグリーン香気を有する芳香液を提供する。
【0023】
ある一形態においては、前記芳香液のグリーン香気は1-オクタナール及び1-デカナールをさらに含有する。
【0024】
また、本発明は、酵母を発酵終了後の醪に含有させる工程;
酵母含有させた醪を蒸留することで炭素数6~10の直鎖飽和脂肪族アルデヒドを生成させる工程;及び
該直鎖飽和脂肪族アルデヒドを回収する工程;
を包含する蒸留酒の製造方法を提供する。
【0025】
また、本発明は、酵母を発酵終了後の醪に含有させる工程;
酵母を含有させた醪を蒸留することで炭素数6~10の直鎖飽和脂肪族アルデヒドを生成させる工程;及び
該直鎖飽和脂肪族アルデヒドを回収する工程;
を包含する蒸留酒のグリーン香気を増大させる方法を提供する。
【0026】
ある一形態においては、前記酵母は凍結を経験させたものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明のグリーン香気を有する芳香液の製造方法は、一般的な蒸留酒の製造工程に組み込むことができ、操作が簡便である。また、本発明の方法では、グリーン香気を有する芳香液を、香料としても、蒸留酒としても製造することができる。従って、本発明は適用対象が広く、実用性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の方法では、所定の過酸化脂質を熱分解することで、炭素数6~10の直鎖飽和脂肪族アルデヒドを生成させる。炭素数6~10の直鎖飽和脂肪族アルデヒドは、いずれか一種類が生成すれば足りる。好ましい一形態においては、炭素数6、7及び9の直鎖飽和脂肪族アルデヒドが全て生成する。より好ましい一形態においては、炭素数6~9の直鎖飽和脂肪族アルデヒドが全て生成する。さらに好ましい一形態においては、炭素数6~10の直鎖飽和脂肪族アルデヒドが全て生成する。
【0029】
炭素数6~10の直鎖飽和脂肪族アルデヒドは、好ましくは、それぞれ、1-ヘキサナール、1-ヘプタナール、1-オクタナール、1-ノナナール及び1-デカナールである。1-ヘキサナール、1-ヘプタナール、1-オクタナール、1-ノナナール及び1-デカナールからなる群から選択される少なくとも一種のアルデヒドを、以下、「グリーンアルデヒド」と呼ぶことがある。
【0030】
酵母は、その種類を問わず、菌体内に多くの不飽和脂肪酸を有する。不飽和脂肪酸は、酸素と接触することで、容易に過酸化脂質に変化する。それゆえ、酵母は本発明の方法の原料として、つまり、過酸化脂質の供給源として使用することができる。また、酵母菌体を分解して得られる酵母分解物等も過酸化脂質の供給源として使用することができる。酵母分解物の具体例には、酵母菌体からエキス分を抽出した残渣、及びその乾燥物である酵母細胞壁等が挙げられる。
【0031】
本発明の方法に使用できる酵母は、菌体内に不飽和脂肪酸を有する種類であれば特に限定されない。かかる酵母としては、キャンディダ属酵母、ピキア属酵母、クリべロミセス属酵母などを挙げることができる。これらの酵母の中でもビール酵母、ウイスキー酵母、ワイン酵母として使用されるものが好ましく、不飽和脂肪酸の含有量が多いエールビール酵母及びウイスキー酵母が特に好ましい。
【0032】
酵母及び酵母分解物は、好ましくは、予め乾燥させる。酵母等の乾燥は、好ましくは、酸素の存在する環境下で行う。乾燥させることで酵母の菌体内の不飽和脂肪酸が酸素と接触して過酸化脂質に変化する。その結果、酵母に含まれる過酸化脂質の量が増大する。酵母の乾燥は、酵母が実質的に水分を含まない状態になるまで行う。
【0033】
酵母の乾燥方法としては、天日干し及び日陰干し等の自然乾燥、温風乾燥、冷風乾燥、減圧乾燥及び凍結真空乾燥等の人工乾燥等がある。乾燥効率を考慮して、好ましくは、人工乾燥を使用する。人工乾燥の種類は特に限定されないが、熱風乾燥、フリーズドライ、スプレードライ、ドラムドライが通常使用される。これらは工業的に常用される乾燥方法であり、装置の準備、及び条件の最適化等が容易である。中でも好ましい乾燥方法はフリーズドライ及びスプレードライである。
【0034】
一旦乾燥させた酵母は、もろいブロック状になり、水等の液体に対する親和性が向上し、酵母に含まれる過酸化脂質が水性液に溶解し易くなると考えられる。さらに、乾燥前に酵母を凍結することにより、酵母細胞膜の破壊が促進されるため、グリーン香気を増大させるために有効である。かかる観点から、好ましい乾燥方法の一例は、フリーズドライである。
【0035】
乾燥させた酵母は、好ましくは、酸素が存在する環境下で保存する。そのことで、過酸化脂質の含有量が更に増大する。保存期間は、過酸化脂質の含有量が増大する程度を考慮して適宜調節する。常温環境下で保存を行う場合は、保存期間は、例えば、約5日以上、好ましくは約10~300日、より好ましくは約20~100日程度である。
【0036】
乾燥させた酵母は、水性液に含有させて、加熱する。乾燥させた酵母を水性液に含有させる手段の一例には、該酵母を水性液に添加する手段がある。酵母の使用量は生成させるグリーン香の程度を考慮して適宜決定される。一般に、水性液100重量部に対し、0.01~15重量部、好ましくは0.02~5.0重量部、より好ましくは0.03~1.0重量部である。
【0037】
水性液は、水を含み流動性を示す物をいう。水性液は酵母を酸素から遮断し、酵母に熱を伝達する媒体として機能する。水性液は水であっても、水溶液であっても、固形分を含む不均質な混合物であってもよい。水性液はアルコールを含んでいてもよい。酵母が水性液中で加熱される場合、過酸化脂質が無酸素環境下で加熱されるので、分解反応の効率が向上する。
【0038】
加熱温度は過酸化脂質が分解する温度であれば足りる。加熱温度は、好ましくは、水性液の沸点までの温度である。分解効率の観点から、加熱温度は、常圧で加熱する場合は、好ましくは70℃以上、より好ましくは80~110℃、更に好ましくは90~100℃である。また、減圧下で加熱する場合は40~70℃で加熱することが望ましい。酵母の加熱は、酵母を含有させた水性液を蒸留することで行ってもよい。
【0039】
例えば、芳香液が蒸留酒である等の場合は、水性液として、醪を使用することができる。芳香液である蒸留酒は、具体的には、ウイスキー、焼酎、ブランデー、または、ジン、ウォッカ、ラム等のスピリッツが挙げられる。芳香液である蒸留酒は、ウイスキーであることが特に好ましい。高品質なスコッチウイスキーに認められた特徴的な香りの中に、「グリーン」な香りがあるので、グリーン香気は、嗜好性に優れたウイスキーを製造する用途に有用である。
【0040】
醪とは、デンプン原料、麹、水、酵母を発酵させた、アルコール飲料の中間原料をいう。乾燥させた酵母を含有させる醪は、好ましくは、発酵が終了した状態のものである。発酵が終了していない醪に乾燥させた酵母を含有させると、酵母の代謝作用により、過酸化脂質の量が減少する可能性がある。
【0041】
この場合、発酵後の醪に含有させる酵母は乾燥していないものでも、乾燥したものでもよい。醪に含有させる酵母は過酸化脂質を有するものであれば、蒸留酒のグリーン香を増大させるために有効である。酵母の使用量は上述と同様である。
【0042】
酵母を含有させた醪の蒸留は、蒸留酒を製造する際に、醪を蒸留する際に通常行われる条件で行えばよい。蒸留酒がモルトウイスキーである場合、醪の蒸留、即ち初留は、容器の容量にもよるが、通常5~8時間蒸留温度に維持することで行う。醪の蒸留温度は、一般には70~100℃である。
【0043】
蒸留工程は、加熱水蒸気により蒸留器内の空気が系外に排出され、実質的に無酸素状態となる。
【0044】
過酸化脂質が熱分解することで炭素数6~10の直鎖飽和脂肪族アルデヒドが生成し、さらに無酸素環境下で加熱することにより、直鎖飽和脂肪族アルデヒドの生成は増進する。生成した炭素数6~10の直鎖飽和脂肪族アルデヒドは揮発性であり、水性液から放出される場合がある。かかる場合は、放出された炭素数6~10の直鎖飽和脂肪族アルデヒドを、これらを溶解する媒体に接触させ、溶解させて回収する。炭素数6~10の直鎖飽和脂肪族アルデヒドを溶解する媒体としては、水及びアルコール水溶液などを使用する。水性液が蒸留される場合は、炭素数6~10の直鎖飽和脂肪族アルデヒドは、還流液中に含まれた状態で回収される。
【0045】
回収された炭素数6~10の直鎖飽和脂肪族アルデヒドが溶解した溶液は、グリーン香を有する芳香液である。その芳香液はそのままで、又はより適切なグリーン香を呈する濃度に調節されて、例えば、蒸留酒又は香料として使用される。本発明の蒸留酒は、単独で、又は酒類と適宜混合して、グリーン香を有する蒸留酒及びアルコール飲料等を製造することができる。本発明の蒸留酒は増大されたグリーン香を有する。本発明の香料は、飲用水、甘味料、アルコール、色素、炭酸等の所定の成分と適宜混合することで、グリーン香気を有する清涼飲料及びアルコール飲料等を製造することができる。
【実施例】
【0046】
<実施例1>
(熱風乾燥酵母の製造方法)
冷凍されたエールビール廃酵母を入手し、室温にて解凍させた。解凍した酵母を表1の条件で熱風乾燥させた。
【0047】
【0048】
<実施例2>
(フリーズドライ酵母の製造方法)
冷凍されたエールビール廃酵母を入手し、室温にて解凍させた。解凍した酵母を試料台に載せ、-25℃~-40℃で凍結させた後、4.6mmHg以下、40~50℃にて水分を昇華させて、凍結した酵母を乾燥させた。その後、フリーズドライ酵母を、表2の条件で加熱した。
【0049】
【0050】
<実施例3>
(スプレードライ酵母の製造方法)
冷凍されたエールビール廃酵母を入手し、室温にて解凍させた。解凍した酵母を表3の条件でスプレードライした。スプレードライ後、A-SD-5、A-AD-8のみ表3に記載の条件で流動層造粒機で加熱した。
【0051】
【0052】
<実施例4>
(スプレードライ酵母の製造方法)
冷凍されたエールビール廃酵母を入手し、室温にて解凍させた。解凍した酵母を70℃にて2時間加温し、150℃でスプレードライした。スプレードライ後の加熱は、W-SD-6~8のみ行った。処理の種類を表4に示す。
【0053】
(乾燥時に行う処理の内容)
(1)加温:高圧ホモジナイズ(35MPa)
(2)加温:エアー注入(1L/min)
(3)加温:銅接触(直径0.3mm×15mの銅線を入れた容器で撹拌)
(4)スプレードライ時のエアー注入(流量15~20L/hr)
(5)加熱:恒温器処理(99℃±1℃)
(6)加熱:流動層造粒機(フロイント FL-5相当機)
【0054】
【0055】
<実施例5>
(ドラムドライ酵母の製造方法)
冷凍されたエールビール廃酵母を入手し、室温にて解凍させた。解凍した酵母をドラム型乾燥機に入れ、表5の条件で乾燥させた。
【0056】
【0057】
<実施例6>
(過酸化脂質の分析方法)
発色系酵素法試薬キットである、Cayman Chemical Company 製Lipid Hydroperoxide (LPO) Assay Kitを用いた。抽出溶媒は酢酸エチル/メタノール=9/1を用いた。
【0058】
(過酸化脂質量)
実施例1~5で調製した試料の過酸化脂質量を分析した。なお、未処理酵母とは、冷凍されたエールビール廃酵母を室温にて解凍させた酵母であり、乾燥処理を行っていない酵母である。
【0059】
【0060】
(過酸化脂質量の経時間変化)
実施例1~5で調製した試料を常温で保存した場合の過酸化脂質量の経時変化を確認した。
【0061】
【0062】
【0063】
<実施例7>
(モデル系溶液での蒸留試験)
アルコール8%のエタノール溶液4Lに対し、実施例1~5で調製した乾燥酵母を12g(液重量の0.3%)添加し、全量を5L容量蒸留器にて2回蒸留し、得られた蒸留液のグリーンアルデヒド濃度(1-hexanal、1-heptanal、1-octanal、1-nonanal、1-decanal)を分析した。結果を表9に示す。
【0064】
(1-hexanal分析方法)
(1)試料採取
ヘッドスペース用バイアルに超純水2.5ml、蒸留液0.5ml を採取し、63%EtOH 水75μL、内部標準液(1-pentanal 2ppm)50μl を添加し、測定に供した。
標準液(STD)(1-hexanal 1.64ppm)は超純水2.5ml、63%EtOH 水0.5mlと混合してから使用するが、検量線作成のため、25μl、50μl、75μl 添加の3種を用意した。
【0065】
(2)分析条件
装置:Agilent 製 HS7697A、GC6890N、MS5973
ヘッドスペース条件:ループサイズ3ml
温度(オーブン60℃、ループ80℃、トランスファーライン120℃)
バイアル平衡化時間10min
ループ平衡化時間0.01min
注入時間1min
注入条件:パルスドスプリット(20:1)、250kPa、ガスセーバー30ml/min(2min)
注入口温度:150℃
カラム:VF-WAXms(Varian) 1μm×0.25mmI.D.×30m
カラム流量:1.2ml/min(He、コンスタントフローモード)
昇温条件:40℃(10min)→10℃/min→240℃(1min)
MS 条件:温度(トランスファーライン230℃、イオン源230℃、四重極150℃)
【0066】
【0067】
(1-heptanal、1-octanal、1-nonanal、1-decanal分析方法)
(1)前処理
蒸留液を50ml 容遠沈管に5ml 採取し、IS(Octanal-d16 100ppm)を20μl 添加し、超純水20ml を加えて希釈する。
標準液(STD) (各成分50ppm)は超純水20ml、63%EtOH 水5ml 、IS20μlと混合してから使用するが、検量線作成のため、10μl、20μl、30μl 添加の3種を用意した。
これら試験液を酢酸エチル、メタノール、超純水でコンディショニングした固相カラム(Waters 製OasisHLB3cc,60mg)に負荷し、1 滴/sec 程度で通引させる。試験液通引後、超純水10ml で洗浄し、5 分程度吸引乾燥する。乾燥後固相を取り外し、流路をアセトンで洗浄、乾燥させ、脱水用カートリッジ(GL サイエンス製Inertsep Slim-J DRY)をセットし、その上に吸着させた固相を取り付け、酢酸エチル6ml で定量用試験管に溶出する。溶出液を窒素パージで0.5ml 以下に濃縮し、酢酸エチルで1ml に定容したものをGC/MS に供する。
【0068】
(2)分析条件
装置:Agilent 製 GC6890N、MS5973
注入条件:パルスドスプリット(20:1)、250kPa、ガスセーバー20ml/min(2min)
温度210℃、注入量1μl
カラム:Inert Pure WAX(GL サイエンス) 0.25μm×0.25mmI.D.×30m
カラム流量:1.2ml/min(He、コンスタントフローモード)
昇温条件:40℃(3min)→8℃/min→120℃(2min)→12℃/min→230℃(10min)
MS 条件:温度(トランスファーライン230℃、イオン源230℃、四重極150℃)
【0069】
【0070】
【0071】
<実施例8>
(蒸留酒の製造方法)
比重1.060の麦汁4Lに対しウイスキー酵母(Distiller’s酵母)を10g添加し、23℃にて発酵を開始し、最高温度32℃となるようコントロールし、3日間発酵させた。発酵が終了した醪に対し、12gの実施例1~5で調製した乾燥酵母を添加した後、全量を5L容量蒸留器にて2回蒸留し、得られた蒸留液のグリーンアルデヒド濃度(1-hexanal、1-heptanal、1-octanal、1-nonanal、1-decanal)を分析した。
【0072】
【0073】
(ウイスキーの官能評価)
蒸留酒の専門パネル7名により、製造した蒸留酒の官能評価を行った。評価点はパネル7名のうち、上下1名ずつを除いたものの5名の平均値とした。
【0074】
【0075】
【0076】