IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-可変コンデンサ及びNMRプローブ 図1
  • 特許-可変コンデンサ及びNMRプローブ 図2
  • 特許-可変コンデンサ及びNMRプローブ 図3
  • 特許-可変コンデンサ及びNMRプローブ 図4
  • 特許-可変コンデンサ及びNMRプローブ 図5
  • 特許-可変コンデンサ及びNMRプローブ 図6
  • 特許-可変コンデンサ及びNMRプローブ 図7
  • 特許-可変コンデンサ及びNMRプローブ 図8
  • 特許-可変コンデンサ及びNMRプローブ 図9
  • 特許-可変コンデンサ及びNMRプローブ 図10
  • 特許-可変コンデンサ及びNMRプローブ 図11
  • 特許-可変コンデンサ及びNMRプローブ 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】可変コンデンサ及びNMRプローブ
(51)【国際特許分類】
   H01G 5/14 20060101AFI20230929BHJP
   H01G 5/013 20060101ALI20230929BHJP
   H01G 5/01 20060101ALI20230929BHJP
   G01N 24/00 20060101ALI20230929BHJP
【FI】
H01G5/14
H01G5/013 100
H01G5/013 335
H01G5/01 B
H01G5/013 380
G01N24/00 570A
G01N24/00 580F
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019149001
(22)【出願日】2019-08-15
(65)【公開番号】P2021034402
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 新治
(72)【発明者】
【氏名】辻 成悟
【審査官】清水 稔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0253124(US,A1)
【文献】実開平05-042751(JP,U)
【文献】実公昭48-013312(JP,Y1)
【文献】実開昭53-148246(JP,U)
【文献】特開2000-074059(JP,A)
【文献】特開2009-097964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 5/14
H01G 5/013
H01G 5/01
G01N 24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空洞を有する第1部材と、
前記空洞に挿入される軸体を有し、容量可変時に前記第1部材に対して相対的に運動する第2部材と、
前記第1部材及び前記第2部材にわたって設けられた軸受け構造と、
を含み、
前記軸受け構造は、
前記第1部材及び前記第2部材の内の一方の部材に設けられ、複数のループを有するワイヤーと、
前記第1部材及び前記第2部材の内の他方の部材に設けられた接触面と、
を含み、
前記複数のループにおいて前記接触面に接触する複数の部分が複数の線状接触子として機能し、
前記各線状接触子は、前記第2部材の相対的な運動方向に沿って伸長し、
前記相対的な運動方向は、前記軸体が有する中心軸の方向であり、
前記接触面は、前記第1部材に形成された内周面、又は、前記第2部材に形成された外周面である、
ことを特徴とする可変コンデンサ。
【請求項2】
請求項1記載の可変コンデンサにおいて、
前記第1部材は固定部材であり、
前記第2部材は可動部材であり、
前記複数の線状接触子は前記固定部材に設けられ、
前記接触面は前記軸体の外周面である、
ことを特徴とする可変コンデンサ。
【請求項3】
請求項1記載の可変コンデンサにおいて、
前記ワイヤーは金属線である、
ことを特徴とする可変コンデンサ。
【請求項4】
請求項1記載の可変コンデンサにおいて、
前記ワイヤーに含まれるループ数は3以上30以下である、
ことを特徴とする可変コンデンサ。
【請求項5】
空洞を有する第1部材と、
前記空洞に挿入される軸体を有し、容量可変時に前記第1部材に対して相対的に運動する第2部材と、
前記第1部材及び前記第2部材にわたって設けられた軸受け構造と、
を含み、
前記軸受け構造は、
前記第1部材及び前記第2部材の内の一方の部材に設けられ、複数のループを有するワイヤーと、
前記第1部材及び前記第2部材の内の他方の部材に設けられた接触面と、
を含み、
前記複数のループにおいて前記接触面に接触する複数の部分が複数の線状接触子として機能し、
前記各線状接触子は、前記第2部材の相対的な運動方向に沿って伸長し、
前記接触面は、前記第1部材に形成された内周面、又は、前記第2部材に形成された外周面であり、
前記複数のループは円環状のコアに巻き付けられた螺旋状の形態を有する、
ことを特徴とする可変コンデンサ。
【請求項6】
空洞を有する第1部材と、
前記空洞に挿入される軸体を有し、容量可変時に前記第1部材に対して相対的に運動する第2部材と、
前記第1部材及び前記第2部材にわたって設けられた軸受け構造と、
を含み、
前記軸受け構造は、
前記第1部材及び前記第2部材の内の一方の部材に設けられ、複数のループを有するワイヤーと、
前記第1部材及び前記第2部材の内の他方の部材に設けられた接触面と、
を含み、
前記複数のループにおいて前記接触面に接触する複数の部分が複数の線状接触子として機能し、
前記各線状接触子は、前記第2部材の相対的な運動方向に沿って伸長し、
前記接触面は、前記第1部材に形成された内周面、又は、前記第2部材に形成された外周面であり、
前記複数のループは円環状のコアに互いに独立して巻き付けられている、
ことを特徴とする可変コンデンサ。
【請求項7】
請求項1記載の可変コンデンサにおいて、
前記接触面には摩擦力を低減するコーティングが施されている、
ことを特徴とする可変コンデンサ。
【請求項8】
請求項1記載の可変コンデンサにおいて、
前記各線状接触子には摩擦力を低減するコーティングが施されている、
ことを特徴とする可変コンデンサ。
【請求項9】
請求項2記載の可変コンデンサにおいて、
前記固定部材は固定電極を有し、
前記軸体は前記固定電極に対して電気的に絶縁された導電部材を有し、
前記可動部材の進退運動により前記固定電極と前記導電部材との空間的関係が変化し、これにより容量が変化する、
ことを特徴とする可変コンデンサ。
【請求項10】
請求項9記載の可変コンデンサにおいて、
前記導電部材は前記固定電極の対極をなす可動電極である、
ことを特徴とする可変コンデンサ。
【請求項11】
請求項9記載の可変コンデンサにおいて、
前記固定電極は、対極関係にある第1固定電極及び第2固定電極を含み、
前記導電部材は、前記第1固定電極及び前記第2固定電極の間の誘電率を変化させるための部材である、
ことを特徴とする可変コンデンサ。
【請求項12】
請求項1記載の可変コンデンサにおいて、
当該可変コンデンサは、NMRプローブ内において冷却状態で使用される同調用コンデンサ又は整合用コンデンサである、
ことを特徴とする可変コンデンサ。
【請求項13】
同調用又は整合用の可変コンデンサを有し、冷却状態で使用される検出回路と、
前記可変コンデンサの容量可変時に、前記可変コンデンサに対して外部からの操作力を伝達する伝達部材と、
を含み、
前記可変コンデンサは、
空洞を有する固定部材と、
前記空洞に挿入される軸体を有し、前記操作力により、前記軸体が有する中心軸の方向に直線運動する可動部材と、
前記固定部材及び前記可動部材にわたって設けられた軸受け構造と、
を含み、
前記軸受け構造は、
前記固定部材に設けられ、複数のループを有するワイヤーと、
前記軸体の外周面と、
を含み、
前記複数のループにおいて前記中心軸の方向に沿って伸長した複数の部分が複数の線状接触子として機能し、
前記複数の線状接触子が前記外周面に接触する、
ことを特徴とするNMRプローブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変コンデンサ及びそれを含むNMRプローブに関し、特に、可変コンデンサにおける軸受け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
核磁気共鳴(NMR)測定装置は、検出回路を含むNMRプローブを有する。検出回路は、一般に、検出コイル、同調用コンデンサ、及び、整合用コンデンサを有する。同調用コンデンサ及び整合用コンデンサは、それぞれ可変コンデンサにより構成される。例えば、各可変コンデンサに対しては、操作部材を介して、操作力が伝達される。これにより容量(静電容量)が変更される。具体的には、操作部材の直線運動又は回転運動として、操作力が伝達される。
【0003】
可変コンデンサは、一般に、軸体を保持し且つ軸体の運動を案内する軸受け構造を備える。軸受け構造として、ボールベアリングが周知である。それは点接触方式に従うものであり、個々のボールの回転のために、潤滑油を必要とするものである。低温下、特に極低温下では、潤滑油の機能が低下し、あるいは、それが機能しなくなる。低温下においてボールベアリングは採用し難い。一方、軸受け構造として、小さな摩擦係数を有する樹脂(例えばフッ素系樹脂)からなる筒状部材を備えた軸受け構造を利用することが考えられる。それは面接触方式に従うものである。一般に、樹脂の線膨張係数は大きく、大きな温度変化がある環境下においては、そのような軸受け構造が適正に機能しない可能性を指摘できる。
【0004】
なお、特許文献1に開示された可変コンデンサは、軸部材を進退自在に保持するブッシュを有する。ブッシュは軸部材を挿通した環状部材である。なお、NMR測定装置以外の装置においても可変コンデンサが使用され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第9500726号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
可変コンデンサにおける軸受け構造として、当該可変コンデンサが使用される環境下において、運動する軸体を安定的に保持でき且つ軸体の運動を円滑に案内できるものを実現することが望まれる。例えば、極低温の冷却下において適正な保持機能及び適正な案内機能を発揮する軸受け構造を実現することが望まれる。
【0007】
本発明の目的は、可変コンデンサが使用される環境下において軸体を適正に保持でき且つ軸体の運動を適正に案内できる軸受け構造を提供することにある。あるいは、本発明の目的は、可変コンデンサの冷却状態において軸体を安定的に保持でき且つ軸体の運動を円滑に案内できる軸受け構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態に係る可変コンデンサは、第1部材、第2部材、及び、軸受け構造を有する。第1部材は空洞を有する部材である。第2部材は、空洞に挿入される軸体を有し、容量可変時に第1部材に対して相対的に運動する部材である。軸受け構造は、第1部材及び第2部材にわたって設けられた構造である。詳しくは、軸受け構造は、第1部材及び第2部材の内の一方の部材に設けられた複数の線状接触子と、第1部材及び第2部材の内の他方の部材に設けられ、複数の線状接触子が接触する接触面と、を含む。各線状接触子は、第2部材の相対的な運動方向に沿って伸長している。接触面は、第1部材に形成された内周面、又は、第2部材に形成された外周面である。
【0009】
上記構成は線接触方式を採用したものである。線接触方式によれば、一般に、点接触方式に比べて、安定した保持作用を得られ易く、面接触方式に比べて、摩擦抵抗の低減を図り易い。すなわち、上記構成によれば、各線状接触子が相対的な運動方向に沿って伸長しているので、且つ、軸体の周囲において複数の線状接触子が接触面に接触しているので、一方の部材による他方の部材の保持が安定化され、且つ、一方の部材に対する他方の部材の相対的な運動の案内が円滑化される。各線状接触子が比較的に柔軟な金属線で構成されてもよい。第1部材及び第2部材の一方又は両方が運動する部材として構成される。
【0010】
軸受け構造の態様として、複数の態様が挙げられる。第1の態様では、第1部材が固定部材として構成され、第2部材が可動部材として構成され、第1部材に内側に突出した複数の線状接触子が設けられ、第2部材に外側を向く接触面が設けられる。第2の態様では、第1部材が固定部材として構成され、第2部材が可動部材として構成され、第1部材に内側を向く接触面が設けられ、第2部材に外側に突出した複数の線状接触子が設けられる。第3の態様では、第1部材が可動部材として構成され、第2部材が固定部材として構成され、第1部材に内側に突出した複数の線状接触子が設けられ、第2部材に外側を向く接触面が設けられる。第4の態様では、第1部材が可動部材として構成され、第2部材が固定部材として構成され、第1部材に内側を向く接触面が設けられ、第2部材に外側に突出した複数の線状接触子が設けられる。
【0011】
上記の相対的な運動として、直線運動及び回転運動が挙げられる。直線運動が採用される場合、各線状接触子は直線状の線状接触子として構成される。その場合、複数の線状接触子は軸体の中心軸の周囲に配列される。回転運動が採用される場合、各線状接触子は円形の線状接触子として構成され、その場合、複数の線状接触子は、軸体の中心軸に沿って並べられる。
【0012】
実施形態において、第1部材は固定部材であり、第2部材は可動部材である。複数の線状接触子は固定部材に設けられ、接触面は軸体の外周面である。相対的な運動方向は軸体が有する中心軸の方向である。この構成は、上記の第1の態様に相当するものである。
【0013】
実施形態において、軸受け構造は、複数のループを有するワイヤーを含む。複数の線状接触子は、複数のループにおいて軸体の外周面に接触する複数の部分(線状部分)である。この構成によれば、複数の線状接触子の配置及び製造が容易化される。
【0014】
実施形態において、ワイヤーに含まれるループ数は3以上30以下である。3以上であれば、軸体の中心軸が安定化する。ループ数があまり多すぎると、面接触に近づいてしまい、摩擦抵抗が大きくなるので、ループ数を30以下とするのが望ましい。軸体が比較的に細い場合、ループ数を3以上20以下としてもよい。隣接するループ間にある程度の隙間が生じるように、ループ数を調整するのが望ましい。また、円周方向に並ぶ複数の隙間のサイズをおよそ揃えるのが望ましい。
【0015】
実施形態において、複数のループは、円環状のコアに巻き付けられた螺旋状の形態を有する。この構成によれば、複数の線状部材をより簡便に形成できる。例えば、物理的に見て1本のワイヤーをコアに螺旋状に順次巻き付けることにより、複数のループが形成される。中心軸に対する個々のループの傾斜角度が僅かであれば、その傾斜角度は無視でき、つまり、その場合でも安定した保持作用及び円滑な運動案内作用を得られる。ワイヤーを構成する材料を比較的に柔らかい金属で構成してもよい。上記構成によれば、運動方向への摩擦抵抗を低減しつつ、運動方向と直交する方向の摩擦抵抗が自然に増大される。また、接触面と複数のループとの間で良好な接触状態(電気的接触状態を含む)を形成し易くなる。実施形態において、複数のループは円環状のコアに互いに独立して巻き付けられている。この構成によれば、各ループの作用をより理想的なものにできる。
【0016】
実施形態において、外周面には摩擦力を低減するコーティングが施されている。また、実施形態において、各線状接触子にも摩擦力を低減するコーティングが施されている。それらの構成によれば、摺動抵抗を低減でき、あるいは、適度な摺動抵抗を得られる。
【0017】
実施形態において、固定部材は固定電極を有し、軸体は固定電極に対して電気的に絶縁された導電部材を有し、可動部材の進退運動により固定電極と導電部材との空間的関係が変化し、これにより容量が変化する。具体的には、導電部材は固定電極の対極をなす可動電極である。あるいは、固定電極は、対極関係にある第1固定電極及び第2固定電極を含み、導電部材は、第1固定電極及び第2固定電極の間の誘電率を変化させるための部材である。
【0018】
実施形態において、当該可変コンデンサは冷却状態において使用されるものである。上記軸受け構造においては、運動を支援する潤滑油を必ずしも必要とせず、また、冷却状態において固定部材及び可動部材の間でガタが生じ難い。
【0019】
実施形態に係るNMRプローブは、検出回路、及び、伝達部材を有する。検出回路は、同調用又は整合用の可変コンデンサを有し、冷却状態で使用されるものである。伝達部材は、可変コンデンサの容量可変時に、可変コンデンサに対して外部からの操作力を伝達する部材である。可変コンデンサは、固定部材、可動部材、及び、軸受け構造を有する。固定部材は、空洞を有する。可動部材は、空洞に挿入される軸体を有し、操作力により、軸体が有する中心軸の方向に直線運動する部材である。軸受け構造は、固定部材及び可動部材にわたって設けられた構造である。詳しくは、軸受け構造は、複数の線状接触子と、接触面と、を含む。複数の線状接触子は、固定部材に設けられ、各線状接触子は、中心軸の方向に沿って伸長している。接触面は、複数の線状接触子が接触する面であり、それは軸体の外周面である。
【0020】
上記可変コンデンサは線接触方式に従うものであり、冷却状態において、安定的な保持を図りつつ、中心軸の方向への運動時に摩擦抵抗の低減を図れるものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、可変コンデンサが使用される環境下において軸体を適正に保持でき且つ軸体の運動を適正に案内できる。あるいは、本発明によれば、可変コンデンサの冷却状態において軸体を安定して保持でき且つ軸体の運動を円滑に案内できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】核磁気共鳴(NMR)測定装置を示す模式図である。
図2】第1実施形態に係る可変コンデンサの断面図である。
図3】第1実施形態に係る可変コンデンサの斜視図である。
図4】第1実施形態に係る可変コンデンサの分解斜視図である。
図5図2においてAで示す断面を示す断面図である。
図6】ワイヤー軸受けの上部を示す斜視図である。
図7】第2実施形態に係る固定部及び可動部の分解斜視図である。
図8】第1実施形態に係る可変コンデンサの動作を説明するための図である。
図9】第2実施形態に係る可変コンデンサの動作を説明するための図である。
図10】第3実施形態に係る可変コンデンサの動作を説明するための図である。
図11】第1変形例を示す断面図である。
図12】第2変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
図1には、第1実施形態に係る核磁気共鳴(NMR)測定装置の構成例が示されている。このNMR測定装置は、試料の解析のために、試料において生じるNMRを測定する装置である。図示されたNMR測定装置は、分光計10、静磁場発生器12、及び、NMRプローブ14を有している。それらに加えて、真空ポンプ20及び冷却装置22を有している。分光計10は、メインコンソールを構成する。具体的には、分光計10は、送信器、受信器、スペクトル生成部等を有している。静磁場発生器12は、z方向に平行な静磁場を生成する。静磁場発生器12は、例えば、超電導コイルを有している。なお、各図において、第1水平方向がx方向であり、第2水平方向がy方向であり、垂直方向がz方向である。3つの方向は互いに直交している。
【0025】
NMRプローブ14は、挿入部16及び基部18により構成される。挿入部16は、静磁場発生器12のボア12A内に挿入される円筒状の部分である。挿入部16の上端部はプローブヘッドであり、その内部には検出回路26が設けられている。検出回路26は、試料管24内の試料においてNMRを生じさせ、また、生じたNMRを検出する回路である。典型的には、検出回路26は、検出コイル、同調用コンデンサ、及び、整合用コンデンサを有する。
【0026】
図示された構成例において、例えば、可変コンデンサ28は、同調(チューニング)用コンデンサであり、可変コンデンサ30は、整合(マッチング)用コンデンサである。検出回路26内に、3つ又はそれ以上の可変コンデンサが設けられてもよい。実施形態において、2つの可変コンデンサ28,30は、互いに同じ構成を有している。それらの構成を異ならせてもよい。
【0027】
基部18には、送受信ポートが設けられ、送受信ポートと分光計10との間に信号線が配設されている。基部18には配管を介して真空ポンプ20が接続されており、また、基部18には別の配管を介して冷却装置22が接続されている。真空ポンプ20の作用により、NMRプローブ14の内部(特にプローブヘッド内部)が真空とされる。冷却装置22は、冷媒循環システムの駆動源及び冷却源として機能する。冷却装置22から出た冷媒が基部18を通じてプローブヘッドまで送られる。冷媒によってプローブヘッド内の個々の要素が冷却される。その後、冷媒はプローブヘッドから基部18を介して冷却装置22へ送られる。冷媒として、液体ヘリウム、液体窒素等が挙げられる。検出回路26は、例えば、100K以下、望ましくは50K以下、の温度に維持される。それらの温度は例示に過ぎないものである。検出回路26の温度を室温としてもよい。
【0028】
2つの可変コンデンサ28,30に対して操作力を伝達するために2つのロッド32,34が設けられている。それらの下端には摘み36,38が設けられている。各ロッド32,34は可変コンデンサ28,30から見て操作部材として機能する。すなわち、摘み36,38を回転させると、それによる操作力がロッド32,34を介して可変コンデンサ28,30に伝達される。各ロッド32、34には、図示されていない運動転換機構が設けられている。運動転換機構は、回転運動を直線運動に転換する機構である。
【0029】
各可変コンデンサ28,30の容量を可変する際には、各ロッド32,34を介して、直線運動力が各可変コンデンサ28,30に与えられる。ロッド32,34の回転は、手作業により行われ、あるいは、機械的に行われる。2つの可変コンデンサ28,30は、プローブ内の構造体に固定されている。構造体は2つの可変コンデンサ28,30を冷却する熱伝導部材としても機能する。以下においては、2つの可変コンデンサ28,30の内で、可変コンデンサ28を代表させ、その構造の詳細を説明する。
【0030】
図2には、可変コンデンサ28のxz断面が示されている。可変コンデンサ28は、固定部材としての固定部40、及び、可動部材としての可動部42を有する。また、可変コンデンサ28は、固定部40及び可動部42にわたって又は跨がって設けられた軸受け構造49を有する。固定部40の内部は空洞である。
【0031】
固定部40は、構造体60に固定されている。構造体60は可変コンデンサ28を冷却するための熱伝導部材としても機能する。構造体60は例えば銅又はリン青銅により構成される。固定部40は、筒状体43を有する。筒状体43の本体は絶縁管44である。絶縁管44は、例えば、透明なサファイヤガラスにより構成される。絶縁管44は外周面及び内周面を有し、外周面の一方端部(図において上端部)には、電極層としての固定電極46が形成されている。固定電極46は、環状の形態を有し、それは薄膜である。
【0032】
絶縁管44の外周面の他方端部(図において下端部)には、被覆層47が形成されている。被覆層47は環状の形態を有し、それも薄膜である。固定電極46及び被覆層47は、例えば、銀めっき層として構成される。
【0033】
固定部40は、筒状のホルダ48を有する。ホルダ48は、例えば、リン青銅により構成される。具体的には、ホルダ48は、本体48Aと上端部48Bとからなる。上端部48Bの内部に筒状体43の下端部が差し込まれている。具体的には、上端部48Bは、肉薄部として構成されており、本体48Aは肉厚部として構成されている。それらの間に段差面が生じており、段差面に対して筒状体43の下端面が突き当たっている。上端部48Bと被覆層47は、ハンダ付け等によって相互に連結されている。本体48Aと構造体60も、必要に応じて、ハンダ付け等によって相互に連結される。
【0034】
本体48Aの内部に軸受け構造49が配置されている。軸受け構造49は本体48Aに固定されており、それは、実施形態において、ワイヤー軸受けを含むものである。軸受け構造49の詳細については後に説明する。
【0035】
可動部42は、軸体としての可動軸52、及び、可動軸52の先端に設けられた可動電極54、を有する。可動軸52及び可動電極54は、導電性部材で構成され、例えば、それらはリン青銅により構成される。可動軸52及び可動電極54の表面にはコーティングが施されている。例えば、それらの表面に金蒸着層が形成されている。可動電極54は、円柱状の肥大部を構成しており、その外径は、絶縁管44の内径よりも僅かに小さい。固定電極46と可動電極54は対極関係にあり、それらの間の容量が、可動電極54のz方向の位置によって変化する。
【0036】
符号62は可動軸52の進退運動を示している。可動電極54が最も下方に引き下げられた状態では、固定電極46の下端レベルよりも、可動電極54の上端レベルが低くなり、容量が最小となる。一方、可動電極54が最も上方へ引き上げられた状態では、水平方向から見て、固定電極46と可動電極54が完全にオーバーラップし、容量が最大となる。第1実施形態においては、固定電極46に対して第1信号線が接続され、ホルダ48に対して第2信号線が接続される。ホルダ48と可動電極54は導通関係にある。
【0037】
可動軸52の下端部にはネジ構造56が形成されている。そのネジ構造56を利用して、可動軸52がロッド32に連結される。可動軸52はロッド32と一体化されており、ロッド32を前進(上昇)させると、可動軸52が前進し、ロッド32を後退(下降)させると、可動軸が後退する。可動軸52は、ホルダ48に対して電気的に接続されている。
【0038】
なお、図2において、可動部42の長さ(z方向のサイズ)は、例えば、50~60mmの範囲内にある。絶縁管44の長さは、例えば、30~45mmの範囲内にある。固定電極46の長さは、例えば、5~15mmの範囲内にある。可動電極54の長さは、例えば、5~15mmの範囲内にある。ワイヤー軸受け50の長さは、例えば、10~15mmの範囲内にある。絶縁管44の外径は、例えば、3~8mmの範囲内にある。その肉厚は、0.3~1mmの範囲内にある。可動軸52の外径は、例えば、1.5~2.5mmの範囲内にある。容量の可変範囲は、例えば、0.5~30pFである。それらの数値はいずれも例示に過ぎないものである。
【0039】
図3は、可変コンデンサの斜視図である。既に説明したように、可変コンデンサは、固定部40と可動部42とにより構成される。
【0040】
図4は、可変コンデンサの分解斜視図である。可動部42は、既に説明したように、可動軸52及び可動電極54により構成される。
【0041】
固定部40は、筒状体43及びホルダ48を有する。ホルダ48の内部には、スペーサとして機能するシース68が設けられている。シース68の内部には、軸受け構造の要部をなすワイヤー軸受け50が固定的に設置されている。シース68は、例えば、導電性部材で構成される。ワイヤー軸受け50は、筒状又は円環状のコア64と、それに巻き付けられたワイヤー66と、により構成される。ワイヤー66は、導電性部材で構成され、例えば、それは銅線である。その断面は円形である。コア64は、例えば、絶縁性部材で構成される。それが導電性部材で構成される場合、少なくとも、コア64とワイヤー66との間で電気的な絶縁が図られるように、コア64又はワイヤー66が処理される。
【0042】
実施形態においては、ワイヤー66の表面全体に対して、摩擦抵抗を低減するコーティングが施されている。コーティングにより形成された表層は例えば金蒸着層である。ワイヤー66の直径は、例えば、0.15~0.3mmの範囲内にある。
【0043】
ワイヤー66の設置態様として、第1態様及び第2態様が挙げられる。第1態様では、ワイヤー66は、相互に分離された複数のワイヤー片としての複数のコイル67により構成される。複数のコイル67は、コア64に対して、周回方向に均等に巻き付けられる。その場合、可動軸52の中心軸から外側に放射状に配列をもって複数のコイル67が並ぶことになる。複数のコイル67において生じる複数の隙間は概ね均一とするのが望ましい。複数のコイル67において、可動軸52の表面に接触する複数の部分が複数の線状接触子として機能する。複数の線状接触子は、可動軸を安定的な保持し、かつ、可動軸の円滑な運動を案内する手段である。
【0044】
第2態様では、ワイヤー66は、物理的に見て1本のワイヤーにより構成される。コア64に対してそのワイヤーを螺旋状に巻き付けることにより、複数のコイルが構成される。もっとも、複数のコイル67は相互に分離されておらず、それらは連なっている。中心軸に対する各コイルの傾斜角度は僅かであり、それらのコイルは、相互に分離された複数のコイル67とほぼ同じ機能を発揮し、すなわち、それらの一部分が上記同様に複数の線状接触子として機能する。第2態様によれば、ワイヤー軸受け50を容易に製造でき、すなわち、ワイヤー66の配置を簡便に行える。
【0045】
軸受け構造は、既に説明したように、固定部材側に設けられたワイヤー軸受け50と、可動部材側に設けられた可動軸52の外周面と、により構成される。両者の配置を入れ替えてもよい。例えば、ワイヤー軸受けを可動部材に設け、ワイヤー軸受けを固定部材の内周面に接触させるようにしてもよい。軸体を固定部材として構成し、軸体が挿入される中空体を可動部材としてもよい。
【0046】
図5には、図2のAで示す断面が示されている。可動軸52は外周面72を有する。ホルダ48は空洞を有し、その空洞にはシース68が配置され、更にその内部にはワイヤー軸受け50が設けられている。ワイヤー軸受け50にはワイヤー66が巻き付けられており、それは複数のコイルからなる。各コイルは、外側部分と内側部分に大別され、外側部分がシース68の内周面に接しつつ固定されている。各コイルの内側部分が線状接触子として可動軸52の外表面に接触している。
【0047】
各線状接触子は、中心軸に平行な方向つまりz方向に伸長している。可動軸52を取り囲むように複数の線状接触子が設けられ、それらが可動軸の外周面に接触しているので、可動軸52は安定的に保持される。また、可動軸52を円滑に直線運動させることができる。図6には、ワイヤー軸受け50の上端部50Aが示されている。具体的には、図6においては、コアの上端部64A及び各コイルの上端部67Aが現れている。
【0048】
図7は、第2実施形態に係る可変コンデンサの分解斜視図である。第2実施形態に係る可変コンデンサは、基本的に、第1実施形態に係る可変コンデンサと同じ構成を有するが、電極部の構成が相違している。なお、第2実施形態において、既に説明した要素には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0049】
具体的に説明すると、図7において、可変コンデンサは、固定部40Aと可動部42Aにより構成される。固定部40Aにおいて、絶縁管の端部には、中心軸の方向に隔てて設けられた2つの電極76,78からなる電極ペアが設けられている。可動部42Aは、可動軸80と導電体54Aとにより構成されている。可動軸80は、導電性部分84と絶縁性部分82とで構成され、絶縁性部分82に導電体54Aが取り付けられている。導電体54Aは、図2等に示した可動電極と同じ形態を有している。導電体54Aは、電気的に見て浮いている。
【0050】
第2実施形態においては、可動軸80を進退運動させて、電極ペア74に対する導電体54Aの空間的関係を変化させることにより、容量が変更される。例えば、可動軸80を後退運動させると、容量が減少し、可動軸80を前進運動させると、容量が増大する。導電体54Aが2つの電極76,78に跨った位置あるいは完全にオーバーラップした位置に送達すると、容量が最大となる。第2実施形態において、2つの電極76,78に2つの信号線が接続される。
【0051】
第2実施形態によれば、第1実施形態に比べて、容量の可変範囲が低くなり、容量の微調整が容易となる。例えば、その容量は、0.4~2.7pFである。なお、導電体54Aの代わりに、誘電体を設けてもよい。
【0052】
図8には、第1実施形態に係る可変コンデンサ86の動作が示されている。固定電極46に第1信号線88が接続されており、ホルダ48に第2信号線90が接続されている。符号92は等価回路を示している。符号93で示すように、可動部の上下運動により、コンデンサの容量が変化する。ライン88aは第1信号線88に相当し、ライン90aは第2信号線90に相当する。
【0053】
図9には、第2実施形態に係る可変コンデンサ94の動作が示されている。電極76に第1信号線96が接続されており、電極78に第2信号線98が接続されている。符号100は等価回路を示している。符号101a及び101bで示すように、可動部の上下運動により、直列接続された2つのコンデンサ要素の容量が連動して変化する。ライン96aは第1信号線に相当し、ライン98aは第2信号線に相当する。ライン102aは電気的に浮いている導電体に相当する。
【0054】
図10には、第3実施形態に係る可変コンデンサ104の構成及び動作が示されている。絶縁管の端部における一方側には半円筒状の電極108が設けられ、その他方側には半円筒状の電極110が設けられている。電極108には第1信号線122が接続されており、電極110には第2信号線114が接続されている。可動部は可動電極を備えている。第3信号線116は、ワイヤー軸受け及び可動軸を介して、可動電極と導通関係にある。符号118は等価回路を示している。符号119a,119bで示すように、可動部の上下運動により、2つのコンデンサ要素の容量が連動して変化する。ライン112aは第1信号線に相当し、ライン114aは第2信号線に相当する。ライン116aは第3信号線に相当する。
【0055】
図11には第1変形例が示されている。可動部は可動軸124を有する。固定部は、ホルダ120及び軸受け122を有する。軸受け122は、可動軸124を保持しその回転運動を案内するものである。軸受けは、円筒状の本体126と、本体の内周面に設けられた環状突起列128と、からなる。環状突起列128は、中心軸Cの方向に並んだ複数の環状突起130により構成される。個々の環状突起130における頂点部分132がリング状の形態を有する線状接触子として機能する。各頂点部分132は可動軸124の外周面134に接触している。複数の環状突起130とそれらが接する外周面とにより軸受け構造が構成される。
【0056】
複数の環状突起130により可動軸が保持されるので、その保持状態が安定化される。また、個々の環状突起130は環状の形態を有しているので、可動軸124の回転運動時に生じる摩擦抵抗を低減できる。第1変形例では、可動軸の回転により容量が変化する構成が採用されている。
【0057】
図12には第2変形例が示されている。ワイヤー軸受け144は、可動軸140に固定されている。ワイヤー軸受け144は、コア146とそれに巻き付けられた複数のコイル150とを有し、各コイルの外側部分がホルダ142の内周面に接触している。すなわち、各外側部分が線状接触子として機能している。第2変形例を採用する場合、ホルダ142を中心軸の方向へ長くするか、ワイヤー軸受けの中心軸の方向の長さを増大させることが望まれる。第1変形例及び第2変形例においても接触関係にある2つの部材にコーティングを施すのが望ましい。
【0058】
上記の各実施形態によれば、可変コンデンサが使用される環境下において可動軸を適正に保持でき且つ可動軸の運動を適正に案内できる。特に、冷却状態において可動軸を安定して保持でき且つ可動軸の運動を円滑に案内できる。
【符号の説明】
【0059】
10 分光計、12 静磁場発生器、14 NMRプローブ、26 検出回路、28,30 可変コンデンサ、40 固定部(固定部材)、42 可動部(可動部材)、46 固定電極、49 軸受け構造、50 ワイヤー軸受け、52 可動軸、54 可動電極、64 コア、66 ワイヤー、67 ループ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12