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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】診断システム
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20230929BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20230929BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G05B23/02 T
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019166742
(22)【出願日】2019-09-13
(65)【公開番号】P2021043124
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】明渡 豊
(72)【発明者】
【氏名】市川 智子
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-202886(JP,A)
【文献】特開2017-162327(JP,A)
【文献】特開2015-027229(JP,A)
【文献】特開2009-252085(JP,A)
【文献】特開平11-212634(JP,A)
【文献】特開平08-339224(JP,A)
【文献】国際公開第2020/031225(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M13/00-13/045; 99/00; G05B23/00-23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断対象装置の複数のコンポーネントに対応して設けられ、対応する各コンポーネントの状態検出情報を出力する複数のセンサと、
各コンポーネントの前記状態検出情報に基づいて当該コンポーネントに異常が有るか否かを判定する異常判定部と、
前記異常判定部により1つのコンポーネントが異常有りと判定された場合に、次に異常有りと判定されるコンポーネントを予測する異常予測部と、
を備える診断システム。
【請求項2】
前記異常予測部は、前記複数のコンポーネントのうち前記異常判定部により異常有りと判定された異常コンポーネントに対する他の各コンポーネントの関係性を示す関係度情報と、前記他の各コンポーネントの前記状態検出情報に基づいて得られる当該コンポーネントの状態度情報と、に基づいて、次に異常が生じるコンポーネントを予測する、
請求項1記載の診断システム。
【請求項3】
前記関係度情報は、前記異常コンポーネントと前記他の各コンポーネントとの間の距離に関する情報、前記異常コンポーネントの第1物理量と前記他の各コンポーネントの第2物理量との間の相互相関に関する情報、前記異常コンポーネントと前記他の各コンポーネントとの間の第3物理量の伝達率に関する情報、又は、これらのうちの複数の情報が含まれる、
請求項2記載の診断システム。
【請求項4】
前記状態度情報は、前記状態検出情報を統計処理して得られる統計的状態度、予め記憶された演算式に前記状態検出情報を当てはめて得られる論理的状態度、前記状態検出情報により示される現時点の負担を示す負荷度、又は、これらのうちの複数の情報が含まれる、
請求項2又は請求項3記載の診断システム。
【請求項5】
前記異常予測部は、前記状態度情報と前記関係度情報とを予め記憶された計算式にあてはめて次に異常が生じる危険度を計算し、
前記計算式をシステム外から変更可能な入力処理部を備える、
請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の診断システム。
【請求項6】
前記異常予測部は、前記異常判定部により1つのコンポーネントが異常有りと判定された場合に、当該コンポーネントの異常が継続する期間の影響を含めて次に異常有りと判定されるコンポーネントを予測する、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の診断システム。
【請求項7】
診断対象装置の複数のコンポーネントに対応して設けられ、対応する各コンポーネントの状態検出情報を出力する複数のセンサと、
前記複数のコンポーネントのうち指定された1つの指定コンポーネントと、他の各コンポーネントとの間の影響度を求める影響度計算部と、
を備える診断システム。
【請求項8】
前記影響度計算部は、前記指定コンポーネントに対する他の各コンポーネントの関係性を示す関係度情報と、前記他の各コンポーネントの前記状態検出情報に基づいて得られる当該コンポーネントの状態度情報と、に基づいて、前記影響度を計算する、
請求項7記載の診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機器の故障を検知する診断システムが提案されている(例えば特許文献1を参照)。特許文献1の診断システムは、機器に含まれる複数のギヤモータ等を診断対象要素として、複数の診断対象要素にそれぞれ対応する複数のセンサと複数の処理ユニットとを備える。そして、センサが各診断対象要素に取り付けられ、処理ユニットがセンサの出力に基づき各診断対象要素の診断処理を繰り返し実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-173333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数のコンポーネントを備え、複数のコンポーネントが連携して動作する装置においては、1つのコンポーネントの状態変化が他のコンポーネントに影響を及ぼすことがある。
【0005】
本発明は、複数のコンポーネント間の影響を考慮した診断が可能な診断システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る一つの診断システムは、
診断対象装置の複数のコンポーネントに対応して設けられ、対応する各コンポーネントの状態検出情報を出力する複数のセンサと、
各コンポーネントの前記状態検出情報に基づいて当該コンポーネントに異常が有るか否かを判定する異常判定部と、
前記異常判定部により1つのコンポーネントが異常有りと判定された場合に、次に異常有りと判定されるコンポーネントを予測する異常予測部と、
を備える。
【0007】
本発明に係るもう一つの診断システムは、
診断対象装置の複数のコンポーネントに対応して設けられ、対応する各コンポーネントの状態検出情報を出力する複数のセンサと、
前記複数のコンポーネントのうち指定された1つの指定コンポーネントと、他の各コンポーネントとの間の影響度を求める影響度計算部と、
を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、複数のコンポーネント間の影響を考慮した診断が可能な診断システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る診断システム及び診断対象装置を示すブロック図である。
図2】異常判定部及び異常予測部により実行される診断処理のフローチャートである。
図3】異常予測部による或るコンポーネントの危険度の計算過程を説明する図である。
図4】異常予測部が計算する各コンポーネントの危険度を説明する図である。
図5】次に異常が生じると予測されるコンポーネントの出力例を示す画像図である。
図6】入力処理部により実行される設定入力処理のフローチャートである。
図7】演算式の設定入力画面を示す画像図である。
図8】係数マトリックスの設定入力画面を示す画像図である。
図9】影響度計算部が実行する影響度出力処理のフローチャートである。
図10】影響度計算部による影響度の計算過程を説明する図である。
図11】影響度の出力画面の一例を示す画像図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
図1は、実施形態に係る診断システム及び診断対象装置を示すブロック図である。
【0012】
本実施形態の診断システム1は、複数のコンポーネント111を有する診断対象装置100に併設され、各コンポーネント111の異常の検出と、次に故障する危険度の高いコンポーネント111の通知と、複数のコンポーネント111間の影響度の計算及び表示とを行うシステムである。本実施形態において診断対象装置100は、複数のギヤモータを有するベルトコンベアである。診断対象装置100は、これに限定されず、機械的又は電気的に連携して動作する複数のコンポーネント111を含む装置であれば、どのような装置であってもよい。以下、ベルトを駆動する複数のギヤモータを、複数のコンポーネント111として説明する。
【0013】
診断システム1は、複数のコンポーネント111に対応して設けられた複数のセンサ11と、複数のセンサ11の出力(状態検出情報)を受けて診断対象装置100の診断処理を行う計算機20と、情報を出力する表示装置30と、計算機20へシステム外からデータ入力可能なポインティングデバイス及びキーボード等の入力装置40とを備える。
【0014】
各コンポーネント111に取り付けられるセンサ11は、振動センサなど1種類のセンサであってもよいし、温度センサ、モータ電流センサ、潤滑油中の鉄粉濃度センサなど、複数種類のセンサが含まれていてもよい。また、同種類のセンサが1つのコンポーネントの複数箇所に設けられていてもよい。センサの種類は上記の具体例に限定されない。
【0015】
計算機20は、複数のセンサ11の出力に基づきいずれかのコンポーネント111の異常の発生を判定する異常判定部21と、1つのコンポーネント111が異常と判定された場合に次に異常が生じる危険度の高いコンポーネント111を予測する異常予測部22と、オペレータからの要求に基づきいずれか1つのコンポーネント111と他の各コンポーネント111との間の影響度を計算し表示装置30から出力する影響度計算部23と、危険度又は影響度の計算に関する設定を変更可能な入力処理部24と、制御データを格納した記憶装置27と、複数のセンサ11の信号を取り込むインタフェース28とを備える。記憶装置27に格納された制御データには、異常予測部22及び影響度計算部23が使用する関係度データテーブルT1と、状態度算出用制御データDB1と、係数マトリックスM3と、理由データベースDB2が含まれる。計算機20は、CPU(Central Processing Unit)、制御データ及びプログラムを格納した記憶装置27、並びに、RAM(Random Access Memory)を備え、上記の異常判定部21、異常予測部22、影響度計算部23及び入力処理部24は、CPUがプログラムを実行することで実現されるソフトウェア機能モジュールである。
【0016】
<診断処理>
続いて、フローチャートを参照しながら、各部の詳細な動作について説明する。図2は、異常判定部及び異常予測部が実行する診断処理のフローチャートである。
【0017】
診断対象装置100の稼働中、異常判定部21は複数のセンサ11の出力を取り込み(S1)、各コンポーネント111に異常が生じていないか判定処理を行う(ステップS2)。そして、異常と判定されたコンポーネント111が無ければ、異常判定部21は、ステップS1、S2の処理を繰り返す。
【0018】
ステップS2の異常の判定は、コンポーネント111が動作不能となる故障の判定、故障に近い異常の判定、要メンテナンスを知らせる異常の判定、あるいは、要メンテナンスのレベルに至っていない何らかの異常の判定であってもよい。つまり、異常判定部21は、予め定められた異常の条件に合致するか否か判定すればよく、異常の条件は特に限定されない。
【0019】
ステップS2において、異常判定部21は、例えば、各センサ11の出力値と、予め設定された異常を示す閾値とを比較し、或るセンサ11の出力値が閾値を超えた場合に、当該センサ11が取り付けられているコンポーネント111を異常と判定する。あるいは、異常判定部21は、センサ11の出力値の趨勢と、趨勢の異常を示すパターンとを比較し、両者が合致する場合に、当該センサ11が取り付けられているコンポーネント111を異常と判定してもよい。あるいは、各コンポーネント111に種類又は設置位置の異なる複数のセンサ11が取り付けられている場合には、異常判定部21は、これら複数のセンサ11の出力、その趨勢、又はこれら両方を、組み合わせて、所定の判定式で計算し、あるいは所定の判定処理にかけ、これらの結果に基づき異常の発生を判定してもよい。
【0020】
異常判定部21が、いずれか1つのコンポーネント111が異常と判定すると、異常判定部21は、異常の報知を行う(ステップS3)。例えば、異常判定部21は、異常の報知として、異常の発生と、異常が生じたコンポーネントの識別情報とを、表示装置30から表示出力する。
【0021】
異常判定部21が異常を判定し、異常の報知を行うと、次に、異常予測部22が、異常が発生した1つのコンポーネント111(以下、「異常コンポーネント111」と記す)と、他の各コンポーネント111との関係度を考慮し、次に異常が生じる他の各コンポーネント111の危険度を計算する(ステップS4)。つづいて、危険度の計算処理について詳細に説明する。
【0022】
<危険度の計算処理>
図3は、異常予測部による或るコンポーネントの危険度の計算過程を説明する図である。以下、複数のコンポーネント111の個々を識別するために、複数のコンポーネント111をコンポーネントA~コンポーネントEのようにも表わす。図3は、コンポーネントAに異常が生じた場合に次にコンポーネントBに異常が生じる危険度を計算する例を示している。
【0023】
<関係度>
異常予測部22は、ステップS4の危険度の計算を行うために、複数のコンポーネント111間の関係度の各パラメータ値が登録された関係度データテーブルT1(図1)を使用する。
【0024】
関係度データテーブルT1には、各一対のコンポーネント111間の関係度を、複数の項目に分けて表わした値が登録されている。図3の関係度リストL1は、関係度データテーブルT1からコンポーネントAとコンポーネントBとの間の関係度の値を抽出したリストである。関係度データテーブルの項目には、図3の関係度リストL1に示されるように、距離係数、相関係数、及び伝達率などが含まれる。関係度データテーブルT1には、コンポーネントA~Eの全ての組み合わせ({A、B}、{A、C}、{A、D}、{A、E}、{B、C}、{B、D}、{B、E}、{C、D}、{C、E}、{D、E})について、図3の関係度リストL1と同一の項目の値が登録されている。関係度データテーブルT1の各値は、診断対象装置100が調査されて求められ、予め登録されている。関係度リストL1は、本発明に係る関係度情報の一例に相当する。
【0025】
距離係数は、例えば空間距離を表わす正規化された値である。これに限られず、関係度データテーブルT1には、動力伝達経路に沿った距離、ベルトに沿った距離、互いを結ぶ電線の距離、制御基板間の絶縁沿面距離に関する値など、様々な種類の距離係数の項目が含まれていてもよい。また、距離係数としては、任意の理論によって構築された或る距離空間の距離に関する値が採用されてもよい。例えば、全コンポーネント111の様々な物理現象の因果関係をネットワーク表記したときに、一つのコンポーネントの所定の物理現象から別のコンポーネント111の所定の物理現象までを結ぶ因果関係のネットワークの最小ノード数などを、一つの距離係数としてもよい。
【0026】
相関係数は、一方のコンポーネント111の所定の物理量(例えば振動の大きさ)と、他方のコンポーネント111の所定の物理量(例えば振動の大きさ)との相互相関を示す係数である。関係度データテーブルT1には、その他、モータ回転速度、モータ回転総数、温度など、様々な物理量についての相互相関の項目が含まれていてもよい。相互相関は、一方のコンポーネント111の温度と、他方のコンポーネントの振動の大きさなど、異なる物理量間の相互相関であってもよい。
【0027】
伝達率は、例えばトルクの伝達率である。これに限られず、関係度データテーブルT1には、その他、エネルギーの伝達率、電源電力の伝達率、又は、信号がシリアル伝送される場合における信号の伝達率など、様々な伝達率の項目が含まれてもよい。
【0028】
<状態度>
ステップS4の危険度を計算するために、異常予測部22は、さらに、計算対象のコンポーネントBの現在の状態度リストL2(図3)を演算により求める。状態度リストL2は、複数の項目を有し、コンポーネントBについての各項目の値は、コンポーネントBに取り付けられた1つ又は複数のセンサ11のセンサ出力から求められる。異常予測部22が各状態度を求めるため、状態度算出用制御データDB1には、1つ又は複数の統計処理プログラム及び演算式のデータが格納されている。状態度リストL2は、本発明に係る状態度情報の一例に相当する。
【0029】
状態度リストL2の項目には、異常度、負荷度、専門家知識に基づく故障度などが含まれる。
【0030】
異常度は、所定のセンサ11の出力が異常を示す値にどれだけ近づいたかを示す度合である。状態度リストL2には、種類又は設置位置の異なる複数のセンサ11に応じた複数項目の異常度が含まれていてもよい。また、異常度には、過去から現在までのセンサ11の出力値を統計処理して求められる経時的な異常度が含まれていてもよい。統計処理により求められる異常度は、本発明に係る統計的状態度の一例に相当する。異常度は、異常か否かを判断するためのパラメータが、異常を示す閾値にどこまで近づいているか、割合(パーセント)で表わされてもよいし、高中低などの段階表示により表わされてもよい。
【0031】
負荷度は、センサ11の出力から計算される現時点におけるコンポーネントBへの力学的あるいは電気的な負担を示す度合である。状態度リストL2には、1つのコンポーネントB中の異なる箇所並びに異なる対象についての複数の負荷度の項目が含まれていてもよい。
【0032】
専門家知識に基づく故障度は、理論的あるいはノウハウによって定式化された故障に近い度合(劣化度)を示し、状態度算出用制御データDB1に格納された演算式に、1つ又は複数のセンサ11の出力値を当てはめて(代入して)計算される。状態度リストL2の項目には、理論的あるいはノウハウによって定式化された状態量で、演算式にセンサ11の出力値を代入して計算できる様々な種類の状態度の項目が含まれていてもよい。専門家知識に基づく故障度又は演算式により得られる状態度は、本発明に係る論理的状態度の一例に相当する。
【0033】
<関係係数>
ステップS4の危険度を計算するために、異常予測部22は、さらに、係数マトリックスM3を使用する。係数マトリックスM3は、(i×j)個の関係係数αfgを含む。ここで、f=1~i、g=1~j、iは状態度リストL2の項目数、jは関係度リストL1の項目数である。関係係数αfgは、状態度リストL2のf番目の項目と関係度リストL1のg番目の項目との組み合わせが、コンポーネント111の故障の危険度にどれだけ関与するかを相対的に表わす値に設定される。例えば、運動エネルギーの伝達率(例えば関係度リストの4番目の項目)と振動の異常度(状態度リストの5番目の項目)とをの組み合わせは、故障の危険度への関与が強いため、この項目間の関係係数は大きい値(例えばα54=0.7)となり、運動エネルギーの伝達率(関係度リストの4番目の項目)と電気信号のノイズ量の異常度(例えば状態度リストの6番目の項目)との組み合わせは故障の危険度への関与が弱いため、この項目間の関係係数は小さい値(α64=0.1)になる。
【0034】
係数マトリックスM3の各関係係数αfgは、関係度リストL1の項目と状態度リストL2の項目との内容によって決定される値であり、計算対象のコンポーネント111又は異常と判定されたコンポーネント111に依存しない値である。
<危険度マトリックス>
ステップS4で危険度を計算するため、異常予測部22は、先ず、異常と判定されたコンポーネントAの異常度と、上述した関係度リストL1、状態度リストL2及び係数マトリックスM3とを乗じる計算を行う。計算では、コンポーネントAの異常度は、リストの各成分に乗算され、関係度リストL1と状態度リストL2とはテンソル積され、テンソル積の結果と係数マトリックスM3との積は、対応する成分同士の乗算とする。このような計算により、(関係度リストL1の項目数)×(状態度リストL2の項目数)の成分数を有する危険度マトリックスM10が得られる。関係度リストL1の各項目の値は正規化され、状態度リストL2の各項目の値は正規化され、かつ、関係係数αfg同士は相対的な値に設定されている。したがって、危険度マトリックスM10の各成分の値は、互いに危険度の大小を比較できる値となる。すなわち、各成分の値は、各成分に対応する関係度リストL1の項目と状態度リストL2の項目とが、次に異常を発生させる危険度にどれだけ寄与しているかを表わす指標となる。
【0035】
ステップS4で危険度マトリックスM10が計算されたら、異常予測部22は、さらに、危険度マトリックスM10をスカラー化し、この値を、次にコンポーネントBに異常が生じる危険度とする。スカラー化の手法としては、例えば危険度マトリックスM10の全成分の総和、あるいは全成分の総和及びその規格化などを採用できる。
【0036】
ステップS4において、異常予測部22は、他のコンポーネントC、D、Eの各々についても、同様に、危険度マトリックスM10と、スカラー化された危険度とを計算する。図4は、異常予測部が計算する各コンポーネントの危険度を説明する図である。図4に示すように、各コンポーネントB~Eについて計算された危険度は、異常と判定されたコンポーネントAと、その他の各コンポーネントB~Eとの関係性を考慮して計算された値であり、コンポーネントAの異常に起因して次に異常が発生する可能性を表わす。危険度マトリックスM10の計算で使用される関係度リストL1及び状態度リストL2の値は、計算対象のコンポーネントごとに異なるため、危険度マトリックスM10及び危険度の値はコンポーネントB~Eごとに異なる。
【0037】
<危険度の理由>
異常予測部22は、各コンポーネントB~Eの危険度マトリックスM10及び危険度を計算したら、理由データベースDB2から危険度の理由を抽出する(ステップS5)。理由データベースDB2には、危険度マトリックスM10の各成分の位置(行数と列数)に対応づけられて、対応する成分に合致した理由の表記内容が登録されている。すなわち、危険度マトリックスM10の各成分の値は、各成分に対応する関係度リストL1の或る項目と状態度リストL2の或る項目とが、次に異常を発生させる危険度にどれだけ寄与しているかを表わす指標となる。したがって、いずれかの成分が高い値を示すときには、この成分に対応する関係度の項目と状態度の項目との相乗作用が危険度を上昇させていることを意味する。したがって、この相乗作用を示す内容が、この成分に対応する理由として採用されている。
【0038】
ステップS5において、異常予測部22は、各コンポーネントB~Eの危険度マトリックスM10から、成分値が閾値を超えるものを探索し、閾値を超えた成分値に対応する理由を、理由データベースDB2から抽出する。或るコンポーネント111について危険度マトリックスM10の全成分の値が閾値よりも小さければ、当該コンポーネント111については理由は抽出されない。
【0039】
<危険度ランキング表の出力>
図5は、次に異常が生じると予測されるコンポーネントの出力例を示す画像図である。異常予測部22は、次に、各コンポーネントB~Eと、ステップS4で計算された危険度と、ステップS5で抽出された理由とを対応づけた、危険度ランキング表H1のデータを作成し、表示装置30から出力する(ステップS6)。危険度ランキング表H1は、危険度順にソートされていてもよい。危険度ランキング表H1は、全てのコンポーネントの情報を含まず、危険度の高いコンポーネントのみの情報を含んでいてもよい。危険度ランキング表H1の表示の出力の際には、ステップS3の異常コンポーネントの報知表示J1が合せて行われていてもよい。報知表示J1には、異常コンポーネントの異常度の表示項目が含まれていてもよい。異常度の表示により、異常の深刻度をユーザに示すことができる。図5の危険度ランキング表H1は、異常予測部22が、次に異常を発生するコンポーネントとして、危険度の最も高いことから、コンポーネントCを予測したことを示す。
【0040】
オペレータは、危険度ランキング表H1から、危険度の最も高いコンポーネントCを見つけることで、当該コンポーネントCが、コンポーネントAの異常に続いて、次に異常が生じると予測されたコンポーネントであると認識できる。さらに、オペレータは、その理由の表記にから、何が大きく影響して、異常が生じる危険度を高くしているのか認識することができる。オペレータは、これらの支援情報から、診断対象装置100の効率的なメンテナンススケジュール又は効率的な部品交換スケジュールを計画できる。
【0041】
<設定入力処理>
図6は、入力処理部により実行される設定入力処理のフローチャートである。
【0042】
本実施形態の診断システム1は、入力処理部24(図1)の機能により、上述した危険度の計算に関する設定を、オペレータが変更することができる。設定変更可能な対象は、状態度リストL2中の「専門家知識による故障度」の演算式と、係数マトリックスM3の各関係係数αfgである。
【0043】
図7は、演算式の設定入力画面を示す画像図である。
【0044】
オペレータが、システムメニューから設定入力処理の実行を選択すると、入力処理部24が設定入力処理を開始する。設定入力処理では、先ず、入力処理部24は、オペレータから、演算式の設定変更か、係数マトリックスM3の設定変更かを選択させる選択入力処理を行う(ステップS11)。その結果、演算式の設定変更が選択されると、入力処理部24は、表示装置30に図7の設定入力画面G1を出力する(ステップS12)。設定入力画面G1には、演算式で使用できる変数の説明表記N1と、演算式を入力できる入力ボックスN2と、入力完了又は入力キャンセルを選択できるコマンドボタンN3とが含まれる。ここで、オペレータは、設定入力画面G1の入力ボックスN2に、新たに適用する演算式を入力し、入力完了のコマンドボタンN3を選択操作する。
【0045】
すると、入力処理部24は、選択操作を判別し(ステップS13)、入力完了であれば、入力ボックスN2の入力内容を専門家知識による故障度の演算式として、状態度算出用制御データDB1中の演算式のデータを書き換える(ステップS14)。そして、設定入力処理が終了する。
【0046】
なお、上記の設定入力処理では、状態度算出用制御データDB1に含まれるデータのうち、専門家知識による故障度についての演算式を設定変更する例を示した。しかし、状態度算出用制御データDB1に、他の項目の状態度を計算する演算式が含まれる場合には、この演算式についても同様の処理により設定変更可能にしてもよい。
【0047】
図8は、係数マトリックスの設定入力画面を示す画像図である。
【0048】
ステップS1の選択入力処理において、オペレータが係数マトリックスM3の設定変更を選択すると、入力処理部24は、先ず、表示装置30に図8の設定入力画面G2を出力する(ステップS15)。設定入力画面G2には、係数マトリックスM3に対応する行数及び列数を有する表N11と、入力完了又は入力キャンセルを選択できるコマンドボタンN12とが含まれる。さらに、表N11の各セル内には、関係係数αfgに対応する関係度の項目名と状態度の項目名との表示N14と、関係係数αfgの入力ボックスN15とが含まれる。ここで、オペレータは、表N11内の各入力ボックスN15に、各関係係数αfgの更新後の値を入力し、入力完了のコマンドボタンN12を選択する。
【0049】
すると、入力処理部24は、選択操作を判別し(ステップS16)、入力完了であれば、入力ボックスN15の入力内容で、記憶装置27の係数マトリックスM3の各関係係数αfgを書き換える(ステップS17)。関係係数αfgの値は、危険度の計算式を決定する値であり、関係係数αfgの設定変更は、危険度の計算式の設定変更に相当する。そして、設定入力処理が終了する。
【0050】
図7に示した演算式の設定入力処理によれば、専門家知識による故障度を表わす演算式、又は、何かしらの状態度を表わす演算式に、改善点が見つかった場合に、演算式を修正して、より正確な故障度又は状態度を表わすことが可能となる。
【0051】
図8に示した係数マトリックスM3の設定入力処理によれば、関係度リストL1の各項目と状態度リストL2の各項目との相乗作用が、コンポーネント111を異常に導く危険度にどれだけ関与するのか、新たな知見があった場合、あるいは、実際の計算結果から関係係数αfgの調整を行いたい場合に、係数マトリックスM3の各関係係数αfgを適宜修正できる。これにより、係数マトリックスM3を用いて計算される危険度マトリックスM10の精度をより向上できる。
【0052】
<コンポーネント間の影響度の計算及び出力>
図9は、影響度計算部23により実行される影響度出力処理のフローチャートである。図10は、影響度計算部による影響度の計算過程を説明する図である。図11は、影響度の出力画面の一例を示す画像図である。本実施形態の診断システム1は、影響度計算部23(図1)の機能により、複数のコンポーネント111の何れにも異常が生じていない段階において、或るコンポーネント111と他の各コンポーネント111との間の影響度を計算及び表示することができる。以下では、コンポーネントAが影響元として指定され、コンポーネントAからその他の各コンポーネントB~Eへの影響度を計算及び出力する場合について説明する。指定されコンポーネントを、「指定コンポーネント」とも呼ぶ。
【0053】
オペレータが、システムメニューから影響度出力処理の実行を選択すると、影響度計算部23が図9の影響度出力処理を開始する。すると、影響度計算部23は、先ず、図11の影響度出力処理の画面G3を表示装置30から出力する(ステップS21)。なお、図11の画面G3は、影響度の計算後の表示出力を示しており、ステップS21の段階では、入力ボックスN21と結果表示枠N23とはブランクにされる。
【0054】
影響度出力処理の画面G3には、指定コンポーネントを選択する入力ボックスN21と、指定完了又はキャンセルを示すコマンドボタンN22と、計算結果を出力する結果表示枠N23とが含まれる。この画面において、先ず、オペレータは、影響を及ぼす側のコンポーネント111を、入力ボックスN21を用いて指定する。そして、指定完了のコマンドボタンN22を選択操作する。すると、影響度計算部23は、選択操作を判別し(ステップS22)、指定完了であれば、指定コンポーネントAから他の各コンポーネントB~Eへの影響度を計算する(ステップS23)。また、指定完了のコマンドボタンN22が選択操作されたら、異常予測部22又は影響度計算部23が、指定コンポーネントAの異常度を演算し、指定コンポーネントAの異常度を、結果表示枠N23の異常度欄N23aに出力してもよい。異常度欄N23aの異常度はパーセント表示又は段階表示されてもよい。
【0055】
続いて、1つのコンポーネントBへの影響度の計算方法について説明する。影響度の計算は、前述した危険度の計算に類似する。影響度計算部23は、図10の関係度リストL1と、状態度リストL2と、係数マトリックスM3とを乗じて、影響度マトリックスM20を得る。関係度リストL1は、関係度データテーブルT1から、指定コンポーネントAと計算対象のコンポーネントBとの関係を示す部分を抽出したリストであり、図3の関係度リストL1と同一である。状態度リストL2は、計算対象のコンポーネントBの状態度を示すリストであり、図3の状態度リストL2と同一である。係数マトリックスM3は、図3の係数マトリックスM3と同一である。乗算方法も同様であり、影響度マトリックスM20は、各成分の値にコンポーネントAの異常度の積が含まれない点以外は、図3の危険度マトリックスM10の値と同様である。
【0056】
影響度計算部23は、さらに、図11の影響度マトリックスM20を図3の場合と同様にスカラー化し、この値を、指定コンポーネントAからコンポーネントBへの影響度として得る。影響度計算部23は、ステップS23において、他のコンポーネントC~Eについても同様に影響度を計算する。計算の結果、指定コンポーネントAから他の各コンポーネントB~Eへの各影響度が得られる。
【0057】
他のコンポーネントB~Eへの影響度が計算されたら、影響度計算部23は、影響度が示された画像Z24を、表示枠N23から出力する(ステップS24)。画像Z24は、例えば複数のコンポーネントA~Eを示すシンボルP1~P5と、複数のコンポーネントA~Eのうち、各2つの組み合わせを示す対応関係ラインLと、影響度が計算された組み合わせの対応関係ラインLに付随される影響度表示Vとを含む。図11の例では、指定コンポーネントAから他の各コンポーネントB~Eへの影響度が計算されたので、これらの間の対応関係ラインLに付随して影響度表示Vが出力されている。
【0058】
オペレータは、影響度の計算結果から、指定コンポーネントAの状態変化が、他の各コンポーネントB~Eにどれだけ負担を及ぼすかを認識することができる。そして、オペレータは、これらを支援情報として、診断対象装置100の効率的なメンテナンススケジュール又は効率的な部品交換スケジュールを計画することができる。
【0059】
以上のように、本実施形態の診断システム1によれば、異常予測部22又は影響度計算部23が、診断対象装置100の複数のコンポーネント111間の関係を考慮した故障の危険度あるいは影響度を計算する。したがって、これらの計算結果に基づいて、複数のコンポーネント間の影響を考慮した診断対象装置100の診断が可能となる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は上記の実施形態に限られない。例えば、次に異常が生じる危険度の計算に使用される関係度リストL1の項目には、コンポーネント間の関係性を示す情報であれば、実施形態の例に限定されず、様々な項目が含まれていてもよい。状態度リストL2の項目についても、各コンポーネント111に取り付けられるセンサ11の出力から得られる当該コンポーネント111の状態を示すものであれば、実施形態の例に限定されず、様々な項目が含まれていてもよい。その他、危険度の計算式、影響度の計算式など、実施の形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、上記実施形態では、診断対象装置及び複数のコンポーネントとして、ベルトコンベア及びギヤモータを一例に採って説明したが、診断対象装置としては、射出成形機、工作機械、産業用ロボットなど、様々な装置が適用されてもよく、コンポーネントとしては、チェーンスプロケットなどの各種の機械部品、制御基板などの各種の電気部品など、様々な要素が適用されてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 診断システム
11 センサ
20 計算機
21 異常判定部
22 異常予測部
23 影響度計算部
24 入力処理部
27 記憶装置
T1 関係度データテーブル
DB1 状態度算出用制御データ
M3 係数マトリックス
DB2 理由データベース
L1 関係度リスト
L2 状態度リスト
M10 危険度マトリックス
M20 影響度マトリックス
J1 異常コンポーネントの報知表示
H1 危険度ランキング表
G1、G2 設定入力画面
G3 影響度出力処理画面
N21 指定コンポーネントの入力ボックス
Z24 影響度が示された画像
30 表示装置
40 入力装置
100 診断対象装置
111 コンポーネント
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11