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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】磁気共鳴撮像装置、及び、その制御方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20230929BHJP
【FI】
A61B5/055 311
A61B5/055 380
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019210420
(22)【出願日】2019-11-21
(65)【公開番号】P2021078949
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小高 晃弘
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 公輔
【審査官】冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-051308(JP,A)
【文献】特開2019-083992(JP,A)
【文献】国際公開第2012/060192(WO,A1)
【文献】特開2017-136113(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0164084(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
核磁気共鳴信号を収集する撮像部と、所定のパルスシーケンスに従い前記撮像部を制御する撮像制御部とを有する磁気共鳴撮像装置であって、
前記パルスシーケンスは、反転パルスを印加することなく信号取得する第1の信号取得シーケンスと、反転パルス印加後に前記反転パルスからの信号収集時刻を異ならせて実行される複数の信号取得シーケンスとを備えたT1マップ計測用パルスシーケンスを含み、
前記撮像制御部は、前記複数の信号取得シーケンスの撮像条件を、撮像対象のT1値、及び、ユーザが要求するT1マップの精細度に応じて制御することを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記撮像条件は、前記反転パルスからの信号収集時刻、前記反転パルス印加後に実行される信号取得シーケンスの数、前記複数の信号取得シーケンスの間の間隔、及び、信号収集時間、の少なくとも一つを含むことを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項3】
核磁気共鳴信号を収集する撮像部と、所定のパルスシーケンスに従い前記撮像部を制御する撮像制御部とを有する磁気共鳴撮像装置であって、
前記パルスシーケンスは、反転パルスを印加することなく信号取得する第1の信号取得シーケンスと、反転パルス印加後に前記反転パルスからの信号収集時刻を異ならせて実行される複数の信号取得シーケンスとを備えたT1マップ計測用パルスシーケンスを含み、
前記T1マップ計測用パルスシーケンスは、第1の反転パルス印加後に前記第1の反転パルスからの信号収集時刻を異ならせて実行される第2及び第3の信号取得シーケンスと、第2の反転パルス印加後に前記第2の反転パルスからの信号収集時刻を異ならせて実行される第4及び第5の信号取得シーケンスとを含み、
前記第4及び第5の信号取得シーケンスの信号収集時刻は、それぞれ、前記第2及び第3の信号取得シーケンスの信号収集時刻と異なるものであり、
前記撮像制御部は、前記複数の信号取得シーケンスの撮像条件を、撮像対象のT1値、及び、ユーザが要求するT1マップの精細度に応じて制御することを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項4】
請求項3に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記撮像制御部は、前記複数の信号取得シーケンスのそれぞれの撮像条件を、撮像対象のT1値とその要求精度に応じて制御することを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項5】
請求項4に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記撮像条件は、前記反転パルスからの信号収集時刻、前記反転パルス印加後に実行される信号取得シーケンスの数、前記反転パルス印加後に実行される複数の信号取得シーケンスの間の間隔、及び、信号収集時間、の少なくとも一つを含むことを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項6】
請求項1に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
T1値及びその精度に関する情報と、前記T1マップ計測用パルスシーケンスの撮像条件との関係を格納する記憶部と、をさらに備え、
前記撮像制御部は、前記記憶部に格納された関係を用いて、前記T1マップ計測用パルスシーケンスの撮像条件を制御することを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項7】
請求項1に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記T1マップ計測パルスシーケンスの実行により、前記第1の信号取得シーケンスを含む複数の信号取得シーケンスで取得された核磁気共鳴信号を用いてT1マップの算出を含む演算を行う演算部をさらに備え、前記演算部は、前記信号取得シーケンスの数に応じた算出方法でT1マップの算出を行うことを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項8】
請求項7に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記演算部は、前記T1マップ計測パルスシーケンスの実行により取得された核磁気共鳴信号を用いてB1マップをさらに算出することを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項9】
請求項7に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記T1マップ計測パルスシーケンスは、前記第1の信号取得シーケンスと同種であってエコー時間が異なる追加信号取得シーケンスをさらに備え、
前記演算部は、前記第1の信号取得シーケンス及び前記追加信号取得シーケンスでそれぞれ取得した核磁気共鳴信号を用いてT2*マップを算出することを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項10】
請求項1に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
撮像対象のT1値とその要求精度に関するユーザ指定を受付けるユーザインターフェイス部をさらに備え、
前記撮像制御部は、前記ユーザインターフェイス部が受付けたユーザ指定に従い、前記T1マップ計測用パルスシーケンスの撮像条件を制御することを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項11】
請求項10に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記ユーザインターフェイス部は、前記撮像対象のT1値として、T1値の範囲を受付ることを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項12】
請求項10に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記ユーザインターフェイス部は、前記要求精度として、判別可能なT1値の幅を受付ることを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項13】
請求項10に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記ユーザインターフェイス部は、前記ユーザ指定として、検査対象の部位と検査名とを受付ることを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項14】
請求項1に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
撮像中の検査対象から収集した心拍に関する同期信号を受付ける同期信号入力部をさらに備え、
前記撮像制御部は、前記複数の信号取得シーケンスにおける信号収集時刻が同一又は近接した心時相となるように前記撮像部を制御することを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項15】
反転パルスを印加することなく信号取得する第1の信号取得シーケンスと、反転パルス印加後に前記反転パルスからの信号収集時刻を異ならせて実行される複数の信号取得シーケンスとを備えたT1マップ計測用パルスシーケンスを実行する磁気共鳴撮像装置の制御方法であって、
撮像対象のT1値及びその要求精度に関する情報を受付けるステップと、
予め記憶されたT1値、及び、ユーザが要求するT1マップの精細度に関する情報と、前記T1マップ計測用パルスシーケンスの撮像条件との関係に基づき、T1マップ計測用パルスシーケンスを決定するステップとを含み、
前記撮像条件は、前記複数の信号取得シーケンスのそれぞれの、前記反転パルスからの信号収集時刻、信号収集時間、及び、信号取得シーケンスの数のいずれかを含むことを特徴とする磁気共鳴撮像装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴撮像(以下、「MRI」という)装置に関し、特に、MRI装置におけるT1マップ計測に関するものである。
【背景技術】
【0002】
MRI装置は、均一な静磁場中に被検体(特に人体)を配置した状態で、被検体に高周波磁場(RF)パルスを印加することによって生じた核磁気共鳴(NMR)信号を計測し、被検体の頭部、腹部、四肢等の形態や機能を2次元的に或いは3次元的に画像化する撮像装置であり、NMR信号を取得するタイミングやRFパルスの種類や印加の繰り返し時間などの撮像条件を変更することにより、コントラストを異ならせた種々の画像が得られる。
【0003】
MRI装置で取得される画像の一つに、T1マップがある。T1マップは、ボクセル毎のT1緩和曲線からT1を直接算出し、T1値をマッピングした画像である。T1値は、組織によって異なることから、T1マップから組織の違いや性状の変化を捉えることができ、特に、心筋性状評価に有用である。
【0004】
これまで、T1マップ計測法は種々提唱されているが、現在最も広く臨床で用いられているのはLook-Locker法である(非特許文献1)。この方法は、スピンを反転させるプリパルスを照射した後の縦磁化緩和過程で、タイミングを変えて複数の画像を取得し、これら画像の信号値をフィッティングすることにより縦緩和曲線を得、T1を計測する。この方法ではフィッティングを安定させるために多くの画像を取得する必要があり、その結果、誤差が大きく時間もかかる。
【0005】
一方、特許文献1には、RFパルスの照射磁場分布(B1マップ)を計測する手法として、プリパルス照射後にタイミングを異ならせて複数の信号計測を行う手法が提案されており、複数の信号計測の一つをプリパルス照射前に行うことが記載されている。また特許文献1では、B1マップの算出の際に、T1値も算出できることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】D.R.Messroghli et al.,“Modified Look-Locker Invenrion Recovery (MOLLI) for High-Resolution T1 Mapping of the Heart”, Magn. Reson. Med. 2004; 52:141-164
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開2012/073474号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように非特許文献1に記載される従来のLook-Locker法では、撮像時間が長く、しかも誤差が大きいという問題がある。特許文献1の技術は、B1マップ計測を目的とする技術であり、T1マップ値も算出できるとの記載はあるものの、T1マップ計測に必要な撮像条件は検討されていない。従って、特許文献1に記載されたB1マップ計測用パルスシーケンスで取得した信号からT1マップを算出したとしても、精度のよいT1値を算出することは難しい。T1マップ計測において、精度や計測時間を良くする撮像パラメータは撮像対象のT1値に応じて異なるため、毎回適切に設定することが期待されるが、適切なパラメータの程度の判断が難しい上、設定作業も煩雑である。
【0009】
本発明は、対象とするT1値とその要求精度に合わせて、T1マップ計測の撮像条件を最適に設定できる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明では、目的とするT1値やその要求精度、即ち何msまで識別可能に計測するか、に応じて、撮像条件を決定する手段を備えるMRI装置を提供する。
具体的には、本発明のMRI装置は、核磁気共鳴信号を収集する撮像部と、所定のパルスシーケンスに従い前記撮像部を制御する撮像制御部とを有し、前記パルスシーケンスは、第1の信号取得シーケンスと、反転パルス印加後に前記反転パルスからの信号収集時刻を異ならせて実行される複数の信号取得シーケンスとを備えたT1マップ計測用パルスシーケンスを含み、前記撮像制御部は、前記複数の信号取得シーケンスのそれぞれの撮像条件を、撮像対象のT1値とその要求精度に応じて制御することを特徴とする。なお「撮像対象のT1値」とは、T1値は部位や組織によって種々の値が考えられるが、T1マップ計測のターゲット(ヒト組織やファントムなど)のT1値とそれに幅がある場合には、その幅も含めた値を意味する。
【0011】
また本発明のMRI装置は、核磁気共鳴信号を収集する撮像部と、所定のパルスシーケンスに従い前記撮像部を制御する撮像制御部とを有する磁気共鳴撮像装置であって、前記パルスシーケンスは、第1の信号取得シーケンスと、反転パルス印加後に前記反転パルスからの信号収集時刻を異ならせて実行される複数の信号取得シーケンスとを備えたT1マップ計測用パルスシーケンスを含み、前記T1マップ計測用パルスシーケンスは、第1の反転パルス印加後に前記第1の反転パルスからの信号収集時刻を異ならせて実行される第2及び第3の信号取得シーケンスと、第2の反転パルス印加後に前記第2の反転パルスからの信号収集時刻を異ならせて実行される第4及び第5の信号取得シーケンスとを含み、前記第4及び第5の信号収集時刻は、それぞれ、前記第2及び第3の信号取得シーケンスの信号収集時刻と異なることを特徴とする。
【0012】
本発明の磁気共鳴撮像装置の制御方法は、第1の信号取得シーケンスと、反転パルス印加後に前記反転パルスからの信号収集時刻を異ならせて実行される複数の信号取得シーケンスとを備えたT1マップ計測用パルスシーケンスを実行する磁気共鳴撮像装置の制御方法であって、撮像対象のT1値及びその要求精度に関する情報を受付けるステップと、予め記憶されたT1値及びその精度に関する情報と、前記T1マップ計測用パルスシーケンスの撮像条件との関係に基づき、T1マップ計測用パルスシーケンスを決定するステップとを含み、前記撮像条件は、前記複数の信号取得シーケンスのそれぞれの、前記反転パルスからの信号収集時刻、信号収集時間、及び、信号取得シーケンスの数のいずれかを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のMRI装置によれば、T1マップ計測において、プリパルスの影響を受けていない画像取得のためのシーケンス(第1の信号取得シーケンス)を実行し、その画像の信号値をT1マップ算出に用いることによりプリパルス後の信号取得シーケンスの数や信号取得シーケンス間の間隔をT1マップ計測用に最適化し、算出T1値の精度を向上するとともに計測時間の短縮を図ることができる。特に撮像対象のT1値やその範囲及び要求精度に合わせたパラメータ設定が可能となり、幅広いT1値で高いT1マップ精度を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明が適用されるMRI装置の全体構成を示す図。
図2】計算機(CPU)の機能ブロック図。
図3】T1マップ計測の手順を示す図。
図4】T1マップ計測用のパルスシーケンスの一例の概要を示す図。
図5図4T1マップ計測用のパルスシーケンスの詳細を示す図。
図6】設定したTIよる、実際のT1と計算値とのずれの違いを示す図。
図7】(A)、(B)は、それぞれ、第一実施形態の撮像シーケンス例を示す図。
図8】第一実施形態の撮像シーケンスの別の例を示す図。
図9】(A)、(B)は、それぞれ、UI部の表示画面例を示す図。
図10】記憶装置に格納されるテーブルの一例を示す図。
図11】記憶装置に格納されるテーブルの別の例を示す図。
図12】(A)、(B)は、それぞれ、第一実施形態のT1マップ計測の結果を示す図。
図13】第二実施形態のMRI装置の計算機(CPU)の機能ブロック図。
図14】第二実施形態の撮像シーケンスの一例を示す図。
図15】第三実施形態の撮像制御の手順を示す図。
図16】第三実施形態の撮像シーケンスの一例を示す図。
図17】第三実施形態の撮像シーケンスの一例を示す図。
図18】第三実施形態の撮像シーケンスの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のMRI装置の実施形態を、図面を参照して説明する。
まず本発明が適用されるMRI装置の全体構成を説明する。図1に示すように、MRI装置は、静磁場発生部11、傾斜磁場発生部12、送信部13、受信部14、シーケンサ15、信号処理部16、及び計算機(CPU)20を備えている。計算機20を除く上記各部を撮像部10と総称する。
【0016】
静磁場発生部11は、永久磁石方式、常電導方式あるいは超電導方式の静磁場発生源を備え、被検体1が置かれる空間に均一な静磁場を発生させる。発生させる静磁場の方向により、垂直磁場方式と水平磁場方式がある。
【0017】
傾斜磁場発生部12は、MRI装置の座標系(静止座標系)であるX,Y,Zの3軸方向の傾斜磁場を印加する傾斜磁場コイル121と、各傾斜磁場コイル121を駆動する傾斜磁場電源123とを備えている。後述するシ-ケンサ15からの命令に従ってそれぞれのコイルの傾斜磁場電源123を駆動することにより、X,Y,Zの3軸方向に傾斜磁場Gx,Gy,Gzを印加する。これら傾斜磁場を組み合わせることにより、任意の方向の傾斜磁場を発生させることができ、任意の撮像断面(スライス)を選択し、それと直交し且つ互いに直交する位相エンコード方向及び周波数エンコード方向に傾斜磁場を印加して、NMR信号にそれぞれの方向の位置情報をエンコードする。
【0018】
送信部13は、被検体1の生体組織を構成する原子の原子核スピンに核磁気共鳴を起こさせるために、被検体1にRFパルスを照射するものであり、高周波発振器131、変調器132、高周波増幅器133、及び送信側の高周波コイル(送信コイル)135を備えている。高周波発振器131から出力されたRFパルスをシーケンサ15からの指令によるタイミングで変調器132により振幅変調し、この振幅変調された高周波パルスを高周波増幅器133で増幅した後に被検体1に近接して配置された高周波コイル135に供給することにより、RFパルスが被検体1に照射される。
【0019】
受信部14は、被検体1の生体組織を構成する原子核スピンの核磁気共鳴により放出されるNMR信号を検出するものであり、受信側の高周波コイル(受信コイル)145、信号増幅器141、直交位相検波器142、及びA/D変換器143を備えている。送信側の高周波コイル135から照射されたRFパルスによって誘起された被検体1の応答のNMR信号が、被検体1に近接して配置された高周波コイル145で検出され、信号増幅器141で増幅された後、シーケンサ15からの指令によるタイミングで直交位相検波器142により直交する二系統の信号に分割され、それぞれがA/D変換器143でディジタル量に変換されて、計測データとして信号処理部16に送られる。
【0020】
シーケンサ15は、計算機20の制御で動作し、被検体1の断層画像のデータ収集に必要な種々の命令を送信部13、傾斜磁場発生部12、及び受信部14に送信し、高周波磁場パルス(以下、「RFパルス」という)と傾斜磁場パルスを所定のパルスシーケンスで繰り返し印加するように制御する。
【0021】
信号処理部16は、各種データ処理と処理結果の表示及び保存等を行うものであり、その機能の一部又は全部をCPU20が行うことも可能である。
【0022】
計算機20には、RAM、ROM等の記憶装置30と、ディスプレイ41や操作デバイス42などを備えたUI部40と、磁気ディスク、光ディスク等の外部記憶装置50が備えられている。UI部40は、ユーザから撮像条件や撮像開始等の指令を受け入れるとともに指令を促すUI画面や撮像結果をディスプレイ41表示し、ユーザとの間のインタラクティブなやりとりを実現する。
【0023】
計算機20は、MRI装置全体を制御する制御部として機能すると共に、受信部14からデータを入力して、信号処理、画像再構成等の処理を実行する演算部として機能し、各種演算の結果である被検体1の断層画像をディスプレイ41に表示させると共に、記憶装置30や外部記憶装置50に記録する。
【0024】
図2に、制御部及び演算部として機能する計算機20の機能ブロック図を示す。図示するように、計算機20には、UI部40を介して入力される、撮像に必要な情報や条件に従って撮像を制御する撮像制御部21、撮像パラメータを設定する撮像パラメータ設定部22、信号処理部16で処理された信号を用いて画像を作成する画像再構成部23、画像を用いた演算によりT1マップを算出するT1マップ算出部25が備えられている。なお計算機20には、図2には示していない、一般的なMRI装置に備えられる機能部を備えていてもよい。
【0025】
撮像制御部21が受付ける撮像条件には、撮像対象の部位、撮像シーケンス、撮像シーケンスを決定するパラメータ、例えば、高周波磁場の帯域幅、TE、TR、スライスエンコード数、位相エンコード数、撮像範囲(FOV)等が含まれる。撮像シーケンスには、撮像方法に応じて種々のパルスシーケンスがあり、予め記憶装置内に格納されている。撮像制御部21は撮像対象や撮像目的に応じて所定の撮像シーケンスを読み込み、その撮像シーケンスをパラメータ設定部22に設定された撮像パラメータで実行することで撮像が行われる。本実施形態では、撮像シーケンスとして、T1マップ計測のパルスシーケンスを実行する。
【0026】
T1マップ計測用シーケンスの撮像パラメータは、上述した一般的な撮像パラメータのほかに、TI時間や、信号取得シーケンスの数(画像取得数)、信号取得シーケンス間の間隔、信号取得シーケンスにおける信号取得時間(或いはプリパルスのショット数)、信号取得シーケンスとプリパルスとの間隔などが含まれる。これらの撮像パラメータは、予め所定のパラメータをデフォルトとしてパラメータ設定部22に設定しておく場合、UI部40を介したユーザ指定に基づき設定する場合がある。ユーザ指定は、例えば撮像対象のT1値やT1マップの要求精度(何msの違いを判別したいか)などであり、その入力形式には種々の形態がありえる。T1マップ計測の撮像パラメータ設定の詳細については後述する。
【0027】
T1マップ算出部25は、T1マップ撮像において受信部14により検出したNMR信号に基づいて、T1マップを取得する。T1マップの算出手法は、設定のパラメータ(画像取得数)に応じて算出手法を変化させて実現する。
【0028】
上述した計算機20の制御及び演算等の各機能は、記憶装置30や記憶装置50に格納されたプログラムを計算機20のCPUが読み込み、実行することでソフトウェアとして実現される。T1マップの算出については、設定の画像取得数に応じたT1算出方法の分岐が記憶装置30に記憶されており、T1マップ算出部25はこれに基づいてT1マップを算出する。但し、演算の機能の一をASICやFPGA等のハードウェアで実現してもよい。
【0029】
次に本実施形態のMRI装置によるT1マップ計測の概要を説明する。図3に処理のフローを示す。
【0030】
まず撮像制御部21が、予め設定された撮像シーケンスと撮像パラメータ及び撮像条件に基づきシーケンサ15に指令を送り、撮像部10による撮像を開始する(S1)。この際、撮像制御部21は、撮像対象のT1値やユーザが希望するT1マップの精度(精細度)などに応じて適切な撮像パラメータを設定する。
【0031】
撮像部10は、公知の位置決め撮像等を行って被検体の撮像位置を決定した後、設定された撮像パラメータでT1マップ計測の撮像シーケンスを実行する(S2)。T1マップ計測のための撮像シーケンスでは、縦磁化を反転するパルスをプリパルスとして用いに、縦磁化緩和過程で、プリパルス印加からの信号収集時間が異なる複数の画像を取得するためのシーケンス(信号取得シーケンス)を実行するものであるが、本実施形態では、プリパルスの印加に先立って、信号取得シーケンスを実行すること、及び、プリパルス後に実行される信号取得シーケンスのTI時間などが設定された撮像パラメータによって調整されていることが特徴である。
【0032】
このプリパルス印加前に実行される信号取得シーケンスで得られた画像をT1マップ算出に用いることで、プリパルス印加後の信号取得シーケンスの数を減らし且つT1マップ算出の精度を高めることができる。
【0033】
本実施形態の撮像シーケンスの一例を、図4及び図5に示す。図4は、T1マップ計測用パルスシーケンスの概要と縦磁化の変化を示す図、図5は、パルスシーケンスの詳細を示す図である。
【0034】
図4に示すように、本実施形態のT1マップ計測では、まず、画像を取得するための撮像シーケンス(信号取得シーケンス)501を実行した後、プリパルス500を印加し、その印加から所定の時間(TI時間)後に2番目、3番目の信号取得シーケンス502、503を実行する。プリパルス500は、図4の下側に示すように、縦磁化M0(原子核スピン)を反転される180度RFパルス(IRパルス)である。信号取得シーケンス502、503は、この縦時間の緩和過程で、異なるTI時間で実行される。なお、図4では、プリパルス印加後に2回の信号取得シーケンスを実行する場合を示しているが、2回に限定されない。
【0035】
信号取得シーケンス501~503は、同一のグラディエントエコー系のパルスシーケンスGEで、図5に示すように、所定のスライス選択傾斜磁場とともに励起用RFパルスを印加した後、位相エンコード傾斜磁場パルス及び読み出し傾斜磁場パルスを印加し、グラディエントエコーを計測する。位相エンコード傾斜磁場パルスの強度を変更しながらRFパルスの印加からエコーの計測までを繰り返し、画像再構成に用いる信号を収集する。各信号取得シーケンス501~503におけるRFパルスの照射数はT1マップのマトリス数と同一である。T1マップ計測では低分解能画像を取得すればよく、例えばマトリクス数は64×64である。
【0036】
最初の信号取得シーケンス501では、プリパルス500の影響を受けていない信号を収集する。この信号取得シーケンス501で得られる画像をここでは基準画像またはTI0画像という。プリパルス500の印加後に実行される信号取得シーケンス502,503で得られる画像をここではTI1画像、TI2画像という。信号収集には、所定数のエコーを計測するまで所定の時間が必要となるが、例えば、k空間データの中心に配置されるエコーを計測する時刻を信号収集時刻とする。k空間の中心からエコー信号の計測を開始するセントリックオーダーのシーケンスでは、信号収集開始時点が信号収集時刻となる。
【0037】
画像再構成部23は、縦磁化緩和過程で実行された信号取得シーケンス502,503及びプリパルスの影響を受けていない信号取得シーケンス501でそれぞれ得られた信号を用いて画像を再構成する。T1マップ算出部25は、これら画像間の演算により、画素毎のT1を算出し、T1マップを作成する(S3)。
【0038】
上述したT1マップ計測の3つの信号取得シーケンス501~503で得られる3つの画像、基準画像、TI1画像及びTI2画像の信号値(各画素の信号値)をそれぞれS(TI0)、S(TI1)、S(TI2)とすると、これらは次式(1-1)~(1-3)で表すことができる。
【0039】
(数1)
S(TI0) ∝ M0 (1-1)
S(TI1) ∝ M0[1-(1-cos(FA)e-TI1/T1] (1-2)
S(TI2) ∝ M0[1-(1-cos(FA)e-TI2/T1] (1-3)
式中、M0は縦磁化の大きさ、FAは照射磁場強度(B1)である。
【0040】
これら3画像の信号値を元に縦緩和の連立方程式を解いてT1値を求める。
プリパルス印加後の信号取得シーケンスを3回以上とした場合は、例えば、[TI0,TI1,TI2]、[TI0,TI1,TI3]、[TI0,TI1,TI4]などの3つの画像の組から、それぞれ、3画像の信号値を元に縦緩和の連立方程式を解いてT1を求める。3つの結果は、それぞれTI2、TI3、TI4に近いT1が正確に求まるので、最終的にT1の範囲毎に2つの結果のうち正確な結果を採用することでT1マップを取得する。なお取得画像数はTI4までに限定されず、TI3まででもよいし、TI5以降があってもよい。
【0041】
上述したT1マップ算出のアルゴリズムは、記憶装置30内に、画像取得数に応じて分岐して記憶されており、T1マップ算出部25は、画像取得数が決まると対応する算出方法でT1マップを算出する。
【0042】
T1を画素毎に算出することでT1マップが得られる。T1値の算出結果やT1マップは、所定の表示形態でディスプレイに表示される(S4)。
【0043】
上述したT1マップ計測において、撮像制御部(撮像パラメータ設定部)21は、T1値の算出の精度を高めるための撮像パラメータ調整を行う。撮像制御部21が調整する撮像パラメータには、プリパルス500後の各信号取得シーケンス502,503のTI時間のほか、各信号取得シーケンス502,503の間隔、信号取得シーケンスの数(取得画像数)、ショット数(プリパルスの数)の少なくとも一つを含む。
【0044】
以下、撮像パラメータ設定部22に設定されるT1マップ計測の撮像パラメータの調整について詳述する。
【0045】
T1マップ算出部25がT1を算出する演算は、図4に示す縦緩和曲線をフィッティングする処理であり、図4の撮像シーケンスで得た画像を用いた演算を行う場合、フィッティングで得られる解の精度は次の原則(1)~(4)に従う。
【0046】
(1)プリパルス照射時に作用したフリップアングル(FA)が180度に近いほど正確になる、(2)2番目の信号収集時間と3番目の信号収集時間との間隔が長いほど、フィッティングが安定しやすい、(3)信号収集シーケンスのTI時間がT1値に近いほど正確な解が求められる。例えば、図6は、3番目の信号取得シーケンスのTI(TI2)を異ならせた場合の、実際のT1値とT1計算値との関係を示す図である。図中、左側は右側のスケールを細かくした図である。図示するように、例えばTI2=100msにすれば、真のTI2=100msを100msと計測できるが、真のTI2=600msは500msなど誤差をもって算出される。TI2=600msにすれば、真のTI2=600msを600msと計測できるが、真のTI2=50msは100msなど誤差をもって算出される(図6)。
【0047】
図中、「■」のドットは、信号取得シーケンスの数(画像取得数)を4回にした場合であり、この場合には、広いT1値の範囲でフィッティングが良好となる。即ち、(4)画像取得数を増やすことで広いT1値の範囲を正確に求めることができる。但し、1回の縦緩和中の画像取得数が多いと信号取得シーケンス間の間隔を確保できないため、誤差が大きくなる。従って画像取得数を増やす場合、信号取得シーケンス間の間隔を確保するためにプリパルスのショット数の調整が必要となる。
【0048】
撮像パラメータ設定部22は、これら原則に従ってフィッティングの精度を高め、且つ撮像時間が極力延長しないように撮像パラメータを設定する。
【0049】
具体的には、(1)については、信号取得シーケンス501で印加される励起用RFパルスのフリップアングルを考慮したプリパルス500のフリップアングルを設定する。例えば、信号取得シーケンス501とプリパルス500との間隔(Δt)は、特に制限はないので、できるだけ近い間隔とし、信号取得シーケンス501のRFパルスとプリパルス500とのFAの合計が180度となるように設定する。
【0050】
(2)の信号収集シーケンスの間隔については、プリパルス後に最初に実行される信号収集シーケンス502のTIを設定可能な最小値とすることで、TI1とTI2との時間差(ΔT)を大きくすることができる。
【0051】
(3)については、目的とする組織のT1値に合わせて、信号取得シーケンス503のTI時間(TI2)を設定する。また短いT1から長いT1までを正確に計測する場合には、取得する画像の数を増やす(TI3、TI4・・・を追加する)この場合、信号取得シーケンス間の間隔(画像取得の間隔)を確保するために、ショット数を調整する。ショット数の調整とは、信号取得シーケンスで取得する信号を複数回に分けて取得することであり、これにより信号取得時間を短縮し、画像取得の間隔を広くすることができる。
【0052】
このように本実施形態のMRI装置(撮像制御部)では、撮像対象である組織やユーザの要求する精度や撮像時間に応じてT1マップ計測用パルスシーケンスの撮像パラメータを調整する。これによって撮像時間を長引かせることなく、T1値計測の精度を向上する。
【0053】
以下、撮像制御部による調整の具体的な実施形態を説明する。
<第1実施形態>
本実施形態では、撮像パラメータ設定部22が設定する具体的な設定例を説明する。
撮像パラメータ設定部22は、対象とするT1値とその要求精度に関するユーザ指定を受付けて、撮像パラメータを設定する。
【0054】
ユーザ指定のT1値が単一の値である場合、図7(A)、(B)に示すように、プリパルス印加後に2回の信号取得シーケンスを実行する撮像シーケンスとし、プリパルス後最初の信号取得シーケンス502は、できるだけプリパルスから間隔を空けないように、例えば10msにTI1を設定する。2回目の信号取得シーケンス503は指定されたT1値に合わせてTI2を設定する。
【0055】
また要求精度に応じて、画像取得の間隔を空けるためにショット数を変更する。例えば、T1マップのマトリクス数が64×64、TR=5msとすると、各画像の取得時間は、5ms×64=320msとなる。このとき、例えばTI1=10ms、TI2=600msのときに、各画像取得の間隔は270ms(=600-(10+320))になる。
【0056】
これに対し、ショット数を2とすると、画像の取得時間は半分(5ms×32=160ms)に短縮できるので、各画像取得の間隔を430ms(=600-(10+160))に長くすることができる。これにより、例えば画像取得間隔が270sのとき真のT1値(600ms)が550msと算出される場合に、590msと算出されるようになるなど、精度を向上することができる。
【0057】
計測対象となる組織が複数のT1値を含み、比較的範囲が広い場合には、画像の取得数即ちプリパルス印加後の信号取得シーケンスの数を増やす。この場合、1回のプリパルス印加後に3回以上の信号取得シーケンスを実行してもよいが、1回の縦緩和中の画像取得数が多くなると誤差は大きくなる。従って、この場合には、ショット数を増やし、隣接するショットでプリパルス印加後に実施する信号取得シーケンスのTIを異ならせる。
【0058】
例えば、図8に示すように、1ショット目ではTI1画像とTI3画像(TI=600ms)、2ショット目ではTI2画像(TI=100ms)とTI4画像(TI=1000ms)を取得する。これにより画像取得の間隔(ΔT)を空けることができ、算出されるT1値の精度がよくなる。TI0画像は、いずれか一つのプリパルスの前で取得するようにしてもよいが、プリパルスの印加条件(フリップ角)を揃えるためには、いずれのショットでもTI0信号取得シーケンスを実施することが好ましい。
【0059】
プリパルス印加後の信号取得シーケンスの数を増やした場合には、T1マップ算出部25は記憶装置30から画像数に応じた算出方法を選択しT1マップを算出する。すなわち、前述したように、3つの画像の組を複数セット用いて、T1を求め、最終的にT1の範囲毎に最も正確な結果を採用してT1マップとする。
【0060】
上述した撮像パラメータの調整は、ユーザが指定したT1値やその範囲及び要求精度に応じて調整してもよいし、デフォルトで所定の値を設定しておいてもよい。ユーザ指定の場合には、精度や計測時間についてのユーザ自由度が高くなる。一方、デフォルトで設定しておいた場合には、毎回の撮像パラメータが変化しないので、撮像が簡潔になるという利点がある。但し、デフォルトで設定した値をユーザが調整可能にしてもよい。以下、それぞれの場合の具体例を説明する。
【0061】
[ユーザ指定の場合]
ユーザの指定は、T1値や要求精度自体を入力するように、それらを特定できる別の表現でもよい。図9にユーザ指定を受付けるUI画面例を示す。図9(A)は、T1値と要求精度を入れるための入力ボックス91、92を設けた画面である。ユーザは、T1マップ計測に先立って、入力ボックス91に1乃至複数のT1値を入力することができ、また入力ボックス92で精度を数値で入力したり、「低」、「中」、「高」などを選択して指定することができる。精度の代わりに或は精度の入力ボックスに加えて、計測時間「短」、「中」、「長」などの入力ボックスを加えてもよい。図9(B)は、撮像対象(部位名)と検査名の入力を受付けるUI画面例である。いずれもテキスト形式で入力してもよいし、プルダウンメニューとしてもよい。図9(B)の場合は、ユーザは(A)の場合よりも更に操作の難易度を下げることができる。
【0062】
これらユーザ指定と撮像パラメータとの関係を示すテーブルを予め記憶装置30に格納しておく。格納されたテーブルは、予めシミュレーションにより求められた最適な撮像パラメータの決定方法を記録したものである。
【0063】
ユーザ指定が図9(A)の場合のテーブルの例を図10に、図9(B)の場合のテーブルの例を図11に示す。なお図9(B)の入力画面において、テキスト形式の入力を受付ける場合には、受付けたワードと予め登録された撮像対象名や検査名とを紐付けるテーブルを作成しておく。撮像パラメータ設定部22は、UI画面を介して入力されたユーザ指定を受付けると、テーブルに基づいて、画像取得数、TI値、ショット数、各画像を取得するタイミングの適切なものが決定される。
【0064】
決定された撮像条件について、撮像時間を算出し表示してもよい、これによりユーザは、所望の撮像時間に合わなければ、適宜、要求の精度を再入力したり、パラメータを手動で調整したりして撮像を行う。撮像制御部21は、最終的に設定された撮像条件とそれ以外の撮像パラメータを用いて撮像部10による撮像を制御する。
【0065】
ユーザ指定に基づいて撮像条件を設定することで、装置が自動で最適なT1マップの撮像パラメータを選択するので、撮像者がその都度、原理に基づいて撮像パラメータを調整する必要がなく、設定作業の難易度や煩雑さを解消することが可能となる。
【0066】
[デフォルト設定の場合]
一方、ユーザ指定によるのではなく、デフォルトで撮像パラメータを設定する場合は、ヒトの組織のT1値とその範囲はある程度決まっているので、その範囲をカバーする2点以上のT1値をターゲットにした撮像シーケンスを予め設定しておく。例えば、デフォルトとしては、図8に示すような、2ショットで4点(例えば、TI1=10ms、TI2=100ms、TI3=600ms、TI3=1000ms)のT1値を計測する撮像シーケンスを設定しておく。またT1の算出方法についても、[TI0,TI1,TI2]、[TI0,TI1,TI3]、[TI0,TI1,TI4]などの3つの画像の組から、それぞれ、3画像の信号値を元にT1を求め、最終的にT1の範囲毎に3つの結果のうち正確な結果を採用する算出方法を設定しておく。
【0067】
デフォルトで設定する場合、頭部用、胸部用、腹部用などの部位毎や臓器毎に、4点のTIを異ならせた複数の撮像パラメータセットを設定しておいてもよい。一般に撮像に際しては、撮像部位等が設定されるので、設定された部位等から撮像パラメータ設定部22が自動的に複数の撮像パラメータセットのいずれかを選択して設定する。
【0068】
またデフォルトとして、全ての撮像条件を設定しておくのではなく、例えば、取得画像数を固定しておいて、TIのみユーザ指定を受付ける、或いは、複数のTIとその取得順序を固定しておき、取得画像数についてユーザ指定を受付ける、などでもよい。
【0069】
デフォルトで設定した撮像パラメータはUI画面に表示してもよく、その際、ユーザによる変更や計測時間に関するユーザ指定を受付けてもよい。撮像パラメータ設定部22は、ユーザ変更や新たなユーザ指定を受付けて、設定された撮像パラメータを調整する。
【0070】
[実施例]
本実施形態のT1マップ計測法によりT1マップ計測を行った結果を図12(A)、(B)に示す。図12(A)はファントム、図12(B)はヒト腹部において、画像取得数3(TI0=-600ms、TI1=200ms、TI2=600ms)としてT1マップ計測を行った結果である。図示するように、本実施形態のT1マップ計測法により、少ない画像取得数で精度のよいT1マップが得られた。
【0071】
本実施形態によれば、T1マップ計測の撮像シーケンスとして、プリパルス前にTI0の画像を取得するシーケンスを含めることにより、プリパルス後の信号取得シーケンスの数を減らすことができ、T1算出の精度向上と撮像時間の短縮を図ることができる。また本実施形態によれば、組織のT1値や撮像目的に応じて、適切な撮像パラメータが設定されたT1マップ計測を実行することができ、さらに算出されるT1マップの精度を向上することができる。
【0072】
<第2実施形態>
本実施形態でも、T1マップ計測において、プリパルス印加前に信号取得シーケンスを実行する撮像シーケンスを行うことは第1実施形態と同じであるが、本実施形態では、プリパルス印加前の信号取得シーケンスで取得する信号を用いて、T1マップ計測と同時にB1マップあるいはT2*マップ計測を行うことが特徴である。
【0073】
以下、第1実施形態と異なる点を中心に本実施形態のMRI装置を説明する。
【0074】
図13に本実施形態のMRI装置の計算機(CPU)のブロック図を示す。図13において、第1実施形態のCPU(図2)と同じ機能部は同じ符号で示し、重複する説明は省略する。図示するように、本実施形態のCPU20は、演算部にB1マップ算出部26及びT2*マップ算出部27が追加されている。但し、B1マップ算出部26及びT2*マップ算出部27はいずれか一方のみでもよい。
【0075】
[B1マップ計測]
またB1マップ計測を追加する場合の撮像シーケンスは、図4図8に示す撮像シーケンスと同様で、プリパルス印加後の信号取得シーケンスとして2点以上の信号取得シーケンスを実行するが、プリパルス印加前の信号取得シーケンスとプリパルスとの間隔ΔTをT1マップ計測のみのときよりも長くする。T1マップ計測においては、この間隔ΔTの長短は、T1マップの精度に影響しないが、B1マップは間隔が長いほど精度よい計測を行うことができる。
【0076】
それ以外の撮像パラメータについては、第1実施形態と同じであり、プリパルス500からTI1の信号取得シーケンスまでの間はできるだけ短くし(例えば10ms)、信号取得シーケンス502と503との間(ΔT)はできるだけ長くする。設定するTIによって、この画像取得の間隔(ΔT)を長くとることができない場合には、図8の撮像シーケンスのように、プリパルス500のショット数を増やして、画像取得の間隔を長くする。
【0077】
B1マップ算出部26は、この撮像パルスシーケンスによって得られた3つの画像(TI0画像、TI1画像、及びTI2画像或いはTI3画像)の信号値を用いて、前述した縦緩和の連立方程式を解いてFA(B1値)を求める。
【0078】
[T2*マップ計測]
一方、T2*マップの計測を追加する場合の撮像シーケンスは、プリパルス印加前に実行される信号取得シーケンス(TI0画像の取得)501を、エコー時間(TE)を異ならせて繰り返す。それ以外の条件は、T1マップ計測の場合と同様である。例えば、図8の撮像シーケンスでは、プリパルス照射に先立って実行されるTI0の信号取得シーケンスは同一条件であったが、図14に示す撮像シーケンスでは、プリパルスのショット毎に、TI0の信号取得シーケンス501A、501B・・・を実行し、それぞれ、エコー時間TEを異ならせる。
【0079】
ショット数をn回とすると、エコー時間が異なるn個のTI0画像が得られる。これら画像の信号値は次式(2)で表すことができる。
【数2】
【0080】
TEを異ならせた複数の信号値から、T2*は次式(3-1)(3-2)で表すことができる。T2*マップ算出部27は、この式を元にフィッティングしてT2*を算出する。
【数3】
【0081】
T1マップの算出については、第1実施形態と同様であるが、図14に示す撮像シーケンスのように、プリパルス500のショット毎にTI値の異なる信号取得シーケンス502、503(504、505)を実行した場合には、3画像の組み合わせとして複数の組み合わせを用いて、T1値が最も正確に求められる組み合わせからT1値を算出することができる。ただし、目標とするT1値の幅が狭い場合には、同じ組み合わせの画像取得を繰り返してもよい。
【0082】
さらに、T1マップとともにB1マップとT2*マップの両方を計測する場合には、上述したT2*マップ計測の撮像シーケンスにおいて、B1マップ計測のための条件即ちTI0信号取得シーケンス501とプリパルス500との間の間隔を長くする、を追加する。
【0083】
本実施形態のMRI装置においても、UI部を介して、B1マップ計測或いはT2*マップ計測の追加をユーザが選択する構成とすることができる。
【0084】
本実施形態によれば、T1マップ計測の撮像シーケンスを基本として、条件の追加を行うことで、B1マップ計測やT2*マップ計測を行うことができ、これらを独立して計測する場合に比べ大幅な計測時間の短縮を図ることができる。
【0085】
<第3実施形態>
本実施形態のMRI装置は、T1マップ計測を心電同期により行う。このため、本実施形態のMRI装置は、被検体1(図1)に取り付けた心電計等(不図示)の出力を同期信号として入力する同期信号入力部がCPUに備えられており、撮像制御部21は同期信号を用いてT1マップ計測用撮像シーケンスを制御する。
【0086】
以下、第1及び第2実施形態と異なる点を説明する。撮像制御部21による制御のフローを図15に、本実施形態による撮像シーケンスの一例を図16、17に示す。
【0087】
撮像制御部21は、まず、第1実施形態と同様に、TI0画像とプリパルス印加後にTI1画像、TI2画像等の複数の画像を取得する撮像シーケンスを設定し、その撮像パラメータ(TI、TRなど)を決定する(S11)。撮像シーケンスは、例えば、図7に示したように、TI0のほかに2点(TI1~TI2)のTIが異なる画像を取得するものとする。心電同期では、R波から各信号取得シーケンス開始までの時間を同じにする。
【0088】
また撮像制御部21は、心電計からの信号を入力すると、R波とR波との間隔(1心拍の長さ)を計測し、その平均値を算出する(S12)。算出した1心拍の長さ(R-R)とTIを比較し、R-Rに対してTI1とTI2の間隔が近ければ、TI0画像、TI1画像及びTI2画像の取得の間隔は1心拍とする(S13、S14)(図16)。TI1とTI2の間隔がR-Rの倍数に近い場合は、TI1画像及びTI2画像の取得の間隔はその倍数分の心拍とする(S13、S15)(図17)。R-Rに対してTI1とTI2の間隔が近くない場合は、TI1画像取得後に時間を空けて縦磁化が緩和した後、プリパルス504を照射してからTI2画像を取得する。このとき、プリパルス504照射のタイミングを調整することにより意図するTI2画像取得タイミングにする(S13、S16)(図18)。
【0089】
撮像条件設定後に撮像を開始し、得られた画像からT1マップを算出することは他の実施形態と同様である(S16)。
【0090】
なお本実施形態においても、撮像条件を設定するステップS11において、複数のTI、信号取得シーケンス(取得画像)の数や間隔、ショット数などを、撮像対象のT1や要求精度に応じて或いはユーザ指定により決定してもよい。
【0091】
T1マップは、心筋性状評価に有用とされており、本実施形態により心筋性状評価の精度を高めることができる。
以上、本発明のMRI装置及びその制御方法の実施形態を説明したが、上記実施形態は技術的に矛盾しない限り、適宜組み合わせて実行することも可能である。例えば、心電同期を行う際に、T1マップ計測のみならずT2*マップ計測を行うことも可能であるし、条件の設定については、デフォルトで設定しておく場合やユーザ指定により調整或いは変更する場合もありえる。
【符号の説明】
【0092】
10・・・撮像部、11・・・静磁場発生部、12・・・送信部、121・・・高周波発振器、122・・・変調器、123・・・高周波増幅器、125,145・・・高周波コイル、131・・・傾斜磁場コイル、132・・・傾斜磁場電源、14・・・受信部、141・・・信号増幅器、142・・・直交位相検波器、143・・・A/D変換器、15・・・シーケンサ、16・・・信号処理部、20・・・計算機(CPU)、21・・・撮像制御部、22・・・撮像パラメータ設定部、23・・・画像再構成部、25・・・T1マップ算出部、26・・・B1マップ算出部、27・・・T2*マップ算出部、30・・・記憶装置、40・・・UI部、411・・・ディスプレイ、412・・・操作部、50・・・外部記憶装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図17
図18