(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】ゼオライト膜複合体の製造方法、および、ゼオライト膜複合体
(51)【国際特許分類】
B01D 71/02 20060101AFI20230929BHJP
C01B 39/48 20060101ALI20230929BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20230929BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20230929BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20230929BHJP
B01J 20/18 20060101ALI20230929BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20230929BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20230929BHJP
【FI】
B01D71/02
C01B39/48
B01D69/12
B01D69/10
B01D69/02
B01J20/18 A
B01J20/30
B01J20/28 A
(21)【出願番号】P 2019223161
(22)【出願日】2019-12-10
【審査請求日】2022-07-22
(31)【優先権主張番号】P 2019057974
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】野田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】宮原 誠
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-181456(JP,A)
【文献】特開2009-11980(JP,A)
【文献】特開2015-147204(JP,A)
【文献】特開2019-115895(JP,A)
【文献】特開2011-121854(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
C01B 33/20-39/54
B01J 20/00-20/28
B01J 20/30-20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト膜複合体の製造方法であって、
a)有機構造規定剤を含む原料溶液に支持体を浸漬し、水熱合成により前記支持体上に6員環ゼオライトからなるゼオライト膜を形成する工程と、
b)熱処理により前記ゼオライト膜から前記有機構造規定剤を除去する工程と、
を備え、
前記ゼオライト膜の表面に位置する複数のゼオライト結晶粒のうち、前記表面における短径が300nm以下であるゼオライト結晶粒が、前記ゼオライト膜の前記表面の面積の85%以上を占めることを特徴とするゼオライト膜複合体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のゼオライト膜複合体の製造方法であって、
c)前記a)工程の前に、前記支持体上に種結晶を付着させる工程をさらに備えることを特徴とするゼオライト膜複合体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のゼオライト膜複合体の製造方法であって、
前記b)工程における前記ゼオライト膜の加熱温度が、400~1000℃であることを特徴とするゼオライト膜複合体の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載のゼオライト膜複合体の製造方法であって、
前記支持体が多孔質であることを特徴とするゼオライト膜複合体の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載のゼオライト膜複合体の製造方法であって、
前記支持体が、アルミナ焼結体、ムライト焼結体またはチタニア焼結体であることを特徴とするゼオライト膜複合体の製造方法。
【請求項6】
ゼオライト膜複合体であって、
支持体と、
前記支持体上に設けられ、6員環ゼオライトからなるゼオライト膜と、
を備え、
前記ゼオライト膜の表面に位置する複数のゼオライト結晶粒のうち、前記表面における短径が300nm以下であるゼオライト結晶粒が、前記ゼオライト膜の前記表面の面積の85%以上を占めることを特徴とするゼオライト膜複合体。
【請求項7】
請求項6に記載のゼオライト膜複合体であって、
前記支持体が多孔質であることを特徴とするゼオライト膜複合体。
【請求項8】
請求項6または7に記載のゼオライト膜複合体であって、
前記支持体が、アルミナ焼結体、ムライト焼結体またはチタニア焼結体であることを特徴とするゼオライト膜複合体。
【請求項9】
請求項6ないし8のいずれか1つに記載のゼオライト膜複合体であって、
He透過速度が、10nmol/m
2・s・Pa以上であることを特徴とするゼオライト膜複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト膜複合体の製造方法、および、ゼオライト膜複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、様々な構造のゼオライトの合成方法が知られている。例えば、特許文献1では、有機構造規定剤を含むSOD型ゼオライト粉末を合成する方法が開示されている。当該ゼオライト粉末では、熱処理により有機構造規定剤が除去される。また、特許文献2では、有機構造規定剤を含まないSOD型ゼオライト膜を合成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-320819号公報
【文献】特開2012-246207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、SOD型ゼオライト等の6員環ゼオライトでは、細孔径が小さいため、有機構造規定剤が含まれている場合に、これを燃焼除去することは容易ではない。特に、6員環ゼオライト膜では、粉末と異なり、個々のゼオライト結晶粒が拘束されているため、有機構造規定剤を燃焼除去する困難性が高くなる。また、特許文献2のような有機構造規定剤を含まない6員環ゼオライト膜では、ゼオライトの微細孔中にアルカリ金属が存在するため、膜の透過量が低くなりやすい。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、有機構造規定剤を含んでいる6員環ゼオライトからなるゼオライト膜から有機構造規定剤を容易に除去することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ゼオライト膜複合体の製造方法に向けられている。本発明の好ましい一の形態に係るゼオライト膜複合体の製造方法は、a)有機構造規定剤を含む原料溶液に支持体を浸漬し、水熱合成により前記支持体上に6員環ゼオライトからなるゼオライト膜を形成する工程と、b)熱処理により前記ゼオライト膜から前記有機構造規定剤を除去する工程とを備え、前記ゼオライト膜の表面に位置する複数のゼオライト結晶粒のうち、前記表面における短径が300nm以下であるゼオライト結晶粒が、前記ゼオライト膜の前記表面の面積の85%以上を占める。
【0007】
好ましくは、ゼオライト膜複合体の製造方法は、c)前記a)工程の前に、前記支持体上に種結晶を付着させる工程をさらに備える。
【0008】
好ましくは、前記b)工程における前記ゼオライト膜の加熱温度が、400~1000℃である。
【0009】
好ましくは、前記支持体が多孔質である。
【0010】
好ましくは、前記支持体が、アルミナ焼結体、ムライト焼結体またはチタニア焼結体である。
【0011】
本発明は、ゼオライト膜複合体にも向けられている。本発明の好ましい一の形態に係るゼオライト膜複合体は、支持体と、前記支持体上に設けられ、6員環ゼオライトからなるゼオライト膜とを備え、前記ゼオライト膜の表面に位置する複数のゼオライト結晶粒のうち、前記表面における短径が300nm以下であるゼオライト結晶粒が、前記ゼオライト膜の前記表面の面積の85%以上を占める。
【0012】
好ましくは、前記支持体が多孔質である。
【0013】
好ましくは、前記支持体が、アルミナ焼結体、ムライト焼結体またはチタニア焼結体である。
【0014】
好ましくは、ゼオライト膜複合体のHe透過速度が、10nmol/m2・s・Pa以上である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、6員環ゼオライトからなるゼオライト膜から有機構造規定剤を容易に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】ゼオライト膜複合体の一部を拡大して示す断面図である。
【
図3】ゼオライト膜複合体の製造の流れを示す図である。
【
図5】分離装置による混合物質の分離の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、ゼオライト膜複合体1の断面図である。
図2は、ゼオライト膜複合体1の一部を拡大して示す断面図である。ゼオライト膜複合体1は、多孔質の支持体11と、支持体11上に設けられたゼオライト膜12とを備える。ゼオライト膜とは、少なくとも、支持体11の表面にゼオライトが膜状に形成されたものであって、有機膜中にゼオライト粒子を分散させただけのものは含まない。
図1では、ゼオライト膜12を太線にて描いている。
図2では、ゼオライト膜12に平行斜線を付す。また、
図2では、ゼオライト膜12の厚さを実際よりも厚く描いている。
【0018】
支持体11はガスおよび液体を透過可能な多孔質部材である。
図1に示す例では、支持体11は、一体成形された一繋がりの柱状の本体に、長手方向(すなわち、
図1中の上下方向)にそれぞれ延びる複数の貫通孔111が設けられたモノリス型支持体である。
図1に示す例では、支持体11は略円柱状である。各貫通孔111(すなわち、セル)の長手方向に垂直な断面は、例えば略円形である。
図1では、貫通孔111の径を実際よりも大きく、貫通孔111の数を実際よりも少なく描いている。ゼオライト膜12は、貫通孔111の内側面上に形成され、貫通孔111の内側面を略全面に亘って被覆する。
【0019】
支持体11の長さ(すなわち、
図1中の上下方向の長さ)は、例えば10cm~200cmである。支持体11の外径は、例えば0.5cm~30cmである。隣接する貫通孔111の中心軸間の距離は、例えば0.3mm~10mmである。支持体11の表面粗さ(Ra)は、例えば0.1μm~5.0μmであり、好ましくは0.2μm~2.0μmである。なお、支持体11の形状は、例えば、ハニカム状、平板状、管状、円筒状、円柱状または多角柱状等であってもよい。支持体11の形状が管状または円筒状である場合、支持体11の厚さは、例えば0.1mm~10mmである。
【0020】
支持体11の材料は、表面にゼオライト膜12を形成する工程において化学的安定性を有するのであれば、様々な物質(例えば、セラミックまたは金属)が採用可能である。本実施の形態では、支持体11はセラミック焼結体により形成される。支持体11の材料として選択されるセラミック焼結体としては、例えば、アルミナ、シリカ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化ケイ素、炭化ケイ素等が挙げられる。本実施の形態では、支持体11は、アルミナ焼結体、ムライト焼結体またはチタニア焼結体である。これにより、ゼオライト膜12と支持体11との密着性が向上する。
【0021】
支持体11は、無機結合材を含んでいてもよい。無機結合材としては、チタニア、ムライト、易焼結性アルミナ、シリカ、ガラスフリット、粘土鉱物、易焼結性コージェライトのうち少なくとも1つを用いることができる。
【0022】
支持体11の平均細孔径は、例えば0.01μm~70μmであり、好ましくは0.05μm~25μmである。ゼオライト膜12が形成される表面近傍における支持体11の平均細孔径は0.01μm~1μmであり、好ましくは0.05μm~0.5μmである。支持体11の表面および内部を含めた全体における細孔径の分布については、D5は例えば0.01μm~50μmであり、D50は例えば0.05μm~70μmであり、D95は例えば0.1μm~2000μmである。ゼオライト膜12が形成される表面近傍における支持体11の気孔率は、例えば25%~50%である。
【0023】
支持体11は、例えば、平均細孔径が異なる複数の層が厚さ方向に積層された多層構造を有する。ゼオライト膜12が形成される表面を含む表面層における平均細孔径および焼結粒径は、表面層以外の層における平均細孔径および焼結粒径よりも小さい。支持体11の表面層の平均細孔径は、例えば0.01μm~1μmであり、好ましくは0.05μm~0.5μmである。支持体11が多層構造を有する場合、各層の材料は上記のものを用いることができる。多層構造を形成する複数の層の材料は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0024】
ゼオライト膜12は、微細孔(マイクロ孔)を有する多孔膜である。ゼオライト膜12は、複数種類の物質が混合した混合物質から、分子篩作用を利用して特定の物質を分離する分離膜として利用可能である。ゼオライト膜12では、当該特定の物質に比べて他の物質が透過しにくい。換言すれば、ゼオライト膜12の当該他の物質の透過量は、上記特定の物質の透過量に比べて小さい。後述するように、ゼオライト膜12における微細孔は微小であり、透過量が大きい物質は、例えば、水(H2O)、アンモニア(NH3)、ヘリウム(He)、水素(H2)等である。
【0025】
ゼオライト膜12の厚さは、例えば0.05μm~30μmであり、好ましくは0.1μm~20μmであり、さらに好ましくは0.5μm~10μmである。ゼオライト膜12を厚くすると分離性能が向上する。ゼオライト膜12を薄くすると透過速度が増大する。ゼオライト膜12の表面粗さ(Ra)は、例えば5μm以下であり、好ましくは2μm以下であり、より好ましくは1μm以下であり、さらに好ましくは0.5μm以下である。
【0026】
ゼオライト膜12を構成するゼオライトの最大員環数は6である。すなわち、ゼオライト膜12は、最大員環数が6である6員環ゼオライトからなる、6員環ゼオライト膜である。ゼオライト膜12は、典型的には、6員環ゼオライトのみから構成されるが、製造方法等によっては、ゼオライト膜12において6員環ゼオライト以外の物質が僅かに(例えば、1質量%以下)含まれていてもよい。
【0027】
本実施の形態では、6員環細孔の短径と長径の算術平均をゼオライトの平均細孔径とする。6員環細孔とは、酸素原子が後述するT原子と結合して環状構造をなす部分の酸素原子の数が6個である微細孔である。ゼオライトが、複数の6員環細孔を有する場合には、全ての6員環細孔の短径と長径の算術平均をゼオライトの平均細孔径とする。このように、ゼオライト膜の平均細孔径は当該ゼオライトの骨格構造によって一義的に決定される。
【0028】
ゼオライト膜12の平均細孔径は、例えば0.3nm以下である。ゼオライト膜12の平均細孔径は、好ましくは0.2nm以上かつ0.3nm以下である。ゼオライト膜12の平均細孔径は、ゼオライト膜12が形成される表面近傍における支持体11の平均細孔径よりも小さい。
【0029】
ゼオライト膜12を構成するゼオライトの種類は、6員環ゼオライトであるならば特に限定されないが、例えば、AFG型、AST型、DOH型、FAR型、FRA型、GIU型、LIO型、LOS型、MAR型、MEP型、MSO型、MTN型、NON型、RUT型、SGT型、SOD型、SVV型、TOL型、UOZ型等のゼオライトであってよい。
【0030】
ゼオライト膜12は、例えば、ケイ素(Si)を含む。ゼオライト膜12は、例えば、Si、アルミニウム(Al)およびリン(P)のうちいずれか2つ以上を含んでいてもよい。この場合、ゼオライト膜12を構成するゼオライトとしては、ゼオライトを構成する酸素四面体(TO4)の中心に位置する原子(T原子)がSiのみ、もしくは、SiとAlとからなるゼオライト、T原子がAlとPとからなるAlPO型のゼオライト、T原子がSiとAlとPとからなるSAPO型のゼオライト、T原子がマグネシウム(Mg)とSiとAlとPとからなるMAPSO型のゼオライト、T原子が亜鉛(Zn)とSiとAlとPとからなるZnAPSO型のゼオライト等を用いることができる。T原子の一部は、他の元素に置換されていてもよい。
【0031】
ゼオライト膜12がSi原子およびAl原子を含む場合、ゼオライト膜12におけるSi/Al比は、例えば1以上かつ10万以下である。当該Si/Al比は、好ましくは5以上、より好ましくは20以上、さらに好ましくは100以上であり、高ければ高いほど好ましい。後述する原料溶液中のSi源とAl源との配合割合等を調整することにより、ゼオライト膜12におけるSi/Al比を調整することができる。ゼオライト膜12は、アルカリ金属を含んでいてもよい。当該アルカリ金属は、例えば、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)である。
【0032】
ゼオライト膜12は、有機構造規定剤(Organic Structure-Directing Agent、以下「有機SDA」とも呼ぶ。)を僅かに含んでもよい。すなわち、ゼオライト膜12を構成するゼオライトは、有機SDAを含んでもよい。有機SDAは、ゼオライト膜12の形成において利用される。後述するように、好ましいゼオライト膜12は、有機SDAをほとんど含まない。
【0033】
ゼオライト膜12は、支持体11の表面に形成された多数のゼオライト結晶粒により主として構成される多結晶膜である。ゼオライト膜12の表面を、当該表面に対しておよそ垂直な方向から走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して得られる電子顕微鏡画像(例えば、30,000倍の画像)では、複数のゼオライト結晶粒が密集した状態が確認される。ここで、電子顕微鏡画像において、各ゼオライト結晶粒の外縁に接しつつ当該ゼオライト結晶粒を挟む2本の平行線を、様々な向きで設定した場合に、2本の平行線間の幅が最小となるときの当該幅を「短径」とする。ゼオライト膜12では、電子顕微鏡画像におけるゼオライト膜12の表面の面積(投影面積)のうち、短径が300nm以下であるゼオライト結晶粒の面積の割合が85%以上である。当該面積の割合は、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上である。ゼオライト膜12では、短径が小さい多数のゼオライト結晶粒が密集しているため、ゼオライト膜12の表面における粒界と表面積が大きくなる。
【0034】
次に、
図3を参照しつつ、ゼオライト膜複合体1の製造の流れの一例について説明する。ゼオライト膜複合体1が製造される際には、まず、ゼオライト膜12の形成に利用される種結晶が生成されて準備される(ステップS11)。種結晶の生成では、例えば、Si源、P源、Al源および有機SDA等を、溶媒に溶解または分散させることにより、原料溶液が作製される。原料溶液の溶媒として、例えば、水や、エタノール等のアルコールを用いることができる。Si源として、例えばコロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、ケイ素アルコキシド、ケイ酸ナトリウム等を用いることができる。P源として、例えばリン酸、五酸化二リン、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸エステル等を用いることができる。Al源として、例えばアルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、アルミニウムアルコキシド、アルミナゾル等を用いることができる。有機SDAとして、例えば、アミン類、4級アンモニウム塩等を用いることができる。原料溶液は、必ずしもSi源、P源およびAl源の全てを含む必要はない。他の例では、原料溶液は、Si源を含む。さらに他の例では、原料溶液は、Si源、P源およびAl源のうちいずれか2つを含む。後述のステップS13における原料溶液において同様である。
【0035】
続いて、原料溶液の水熱合成が行われる。水熱合成時の温度は、例えば110~200℃である。水熱合成時間は、例えば5~100時間である。水熱合成が完了すると、得られた結晶が純水で洗浄される。そして、洗浄後の結晶を乾燥させることにより、6員環ゼオライトの粉末が生成される。6員環ゼオライトは、例えばSOD型ゼオライトまたはSGT型ゼオライトである。上記原料溶液中の原料(Si源、P源およびAl源等)の配合割合等を調整することにより、6員環ゼオライトの組成を調整することができる。
【0036】
6員環ゼオライトの粉末はそのまま種結晶として用いることも可能であるが、当該粉末を粉砕等によって加工することにより、支持体11の表面層の細孔径に合わせて粒径が調整された種結晶(例えば、支持体11の表面層の平均細孔径よりも平均粒径が大きい種結晶)を取得することが好ましい。6員環ゼオライトの粉末は、他の手法により準備されてもよい。
【0037】
続いて、種結晶を分散させた分散液に多孔質の支持体11を浸漬し、種結晶を支持体11に付着させる(ステップS12)。あるいは、種結晶を分散させた分散液を、支持体11上のゼオライト膜12を形成させたい部分に接触させることにより、種結晶を支持体11に付着させる。これにより、種結晶付着支持体が作製される。このとき、支持体11におけるゼオライト膜12を形成すべき部分において、単位面積当たりに付着する種結晶の質量(以下、「付着密度」という。)が所定値以上となるように、例えば、分散液における種結晶の濃度等が調整される。本実施の形態おける付着密度は、例えば、0.1g/m2以上であり、好ましくは0.15g/m2以上であり、より好ましくは0.2g/m2以上である。付着密度は、例えば、2.0g/m2以下である。種結晶は、他の手法により支持体11に付着されてもよい。
【0038】
種結晶が付着された支持体11は、原料溶液に浸漬される。当該原料溶液は、ステップS11(種結晶の生成時)における原料溶液と同様に、例えば、Si源、P源、Al源および有機SDA等を、溶媒に溶解または分散させることにより作製される。Si源、P源、Al源、有機SDAおよび溶媒の具体例は、ステップS11における原料溶液と同様である。既述のように、原料溶液は、必ずしもSi源、P源およびAl源の全てを含む必要はない。その後、水熱合成により支持体11上の種結晶を核としてゼオライトを成長させることにより、6員環ゼオライトからなるゼオライト膜12が支持体11上に形成される(ステップS13)。水熱合成時の温度は、例えば110~200℃である。水熱合成時間は、例えば5~100時間である。
【0039】
既述のように、種結晶は、支持体11の表面において、大きい付着密度で(密に)付着している。また、ステップS13では、形成すべきゼオライトの種類に応じて適切な合成条件が選択され、ゼオライト結晶粒が種結晶を核として膜厚方向に成長する。その結果、多数のゼオライト結晶粒が密集して広がるゼオライト膜12が形成される。ゼオライト膜12をその法線方向(膜厚方向)から見た場合に、ゼオライト膜12の表面に位置する複数のゼオライト結晶粒のうち、当該表面における短径が300nm以下であるゼオライト結晶粒が、当該表面の面積(投影面積)の85%以上を占める。典型的には、ゼオライト膜12の表面に位置する複数のゼオライト結晶粒のほとんどが、種結晶を除いて、支持体11の表面の法線方向に連続する一層の結晶粒である。なお、6員環ゼオライトからなるゼオライト膜12が形成可能であるならば、ステップS13の原料溶液に含まれる原料の種類と、ステップS11の原料溶液に含まれる原料の種類とが相違してもよい。
【0040】
水熱合成が終了すると、支持体11およびゼオライト膜12が純水で洗浄される。洗浄後の支持体11およびゼオライト膜12は、例えば100℃にて乾燥される。支持体11およびゼオライト膜12を乾燥した後に、ゼオライト膜12を酸化性ガス雰囲気下で熱処理することによって、ゼオライト膜12中の有機SDAが燃焼し、粒界や結晶表面から脱離することによって除去される(ステップS14)。これにより、ゼオライト膜12内の微細孔が貫通する。好ましくは、ゼオライト膜12中のほとんどの有機SDAが除去される。有機SDAの除去における加熱温度は、例えば400~1000℃であり、好ましくは400~900℃であり、より好ましくは450~800℃である。加熱温度が1000℃よりも高い場合、ゼオライト膜12の分離性能が低下する場合がある。また、加熱温度が400℃よりも低い場合、ゼオライト膜12中の有機SDAが十分に除去されない場合がある。加熱時間は、例えば10~200時間である。酸化性ガス雰囲気は、酸素を含む雰囲気であり、例えば大気中である。以上の処理により、ゼオライト膜複合体1が得られる。
【0041】
例えば、ゼオライト膜複合体1を1000℃よりも高温に加熱して有機SDAを分解する際における質量の減少量を、ゼオライト膜複合体1のゼオライト膜12における有機SDAの残存量として捉えることが可能である。また、ステップS14の熱処理前後における質量変化から、熱処理による有機SDAの除去量を求めることが可能である。熱処理による有機SDAの除去量、および、上記有機SDAの残存量の和のうち、有機SDAの残存量が占める割合は、ゼオライト膜複合体1のゼオライト膜12における有機SDAの残存率であり、当該残存率は、例えば10%以下であり、好ましくは5%以下である。また、ゼオライト膜12の質量に対する有機SDAの残存量の割合は、例えば3%以下であり、好ましくは1%以下である。
【0042】
上述のゼオライト膜複合体1の製造では、有機SDAを含む原料溶液に支持体11が浸漬され、水熱合成により支持体11上に6員環ゼオライトからなるゼオライト膜12が形成される。その後、熱処理によりゼオライト膜12から有機SDAが除去される。このとき、ゼオライト膜12の表面に位置する複数のゼオライト結晶粒のうち、当該表面における短径が300nm以下であるゼオライト結晶粒が、ゼオライト膜12の当該表面の面積の85%以上を占める。上述の熱処理において、ゼオライト膜12中で燃焼・分解した有機SDAがゼオライト膜12から脱離するためには、燃焼・分解した有機SDAが粒界や結晶表面まで拡散する必要がある。一方、細孔径が小さい6員環ゼオライト中では、燃焼・分解した有機SDAの拡散速度が遅いため、熱処理で有機SDAが十分に除去されない場合がある。しかし、ゼオライト膜12中の6員環ゼオライト結晶粒の短径が300nm以下であれば、熱処理時の温度(例えば400~1000℃)でも、燃焼・分解した有機SDAは、比較的短時間で近傍の粒界まで拡散することができ、粒界を通じて速やかにゼオライト膜12表面に到達し除去されることができる。このように、短径が小さいゼオライト結晶粒を密集させることにより、熱処理において、ゼオライト膜12から有機SDAを容易に除去することができる。
【0043】
また、ゼオライト膜12を形成する前に、支持体11上に種結晶を付着させることにより、短径が小さいゼオライト結晶粒が密集したゼオライト膜12を容易に形成することができる。さらに、熱処理におけるゼオライト膜12の加熱温度が、400~1000℃であることにより、ゼオライト膜12から有機構SDAをより確実に除去することが可能となる。言い換えると、表面に位置する複数のゼオライト結晶粒のうち、当該表面における短径が300nm以下であるゼオライト結晶粒が、当該表面の面積の85%以上を占めるようなゼオライト膜12であれば、400~1000℃での熱処理でも、ゼオライト膜12から有機構SDAを確実に除去することができる。
【0044】
また、ゼオライト膜12のHeガスの透過速度(He透過速度)は、10nmol/m2・s・Pa以上であることが好ましく、20nmol/m2・s・Pa以上であることがより好ましく、30nmol/m2・s・Pa以上であることが特に好ましい。ゼオライト膜12のHeガス透過試験は、導入Heガスの圧力(ゲージ圧力)を0.5MPaG、透過Heガスの圧力(ゲージ圧力)を0MPaGとして行う。He透過速度を10nmol/m2・s・Pa以上とすることにより、有機SDAが十分に除去され、透過性能が高いゼオライト膜12を得ることができる。
【0045】
次に、ゼオライト膜複合体1の製造の実施例について説明する。
【0046】
<実施例1>
まず、コロイダルシリカ、リン酸、水酸化アルミニウム、および、有機SDA(有機構造規定剤)である水酸化テトラメチルアンモニウムを純水に溶解させ、組成が1SiO2:1P2O5:0.2Al2O3:2SDA:400H2Oの原料溶液を作製した。当該原料溶液を170℃にて20時間水熱合成することにより、SOD型ゼオライト粉末を得た。
【0047】
SOD型ゼオライト粉末を7~8質量%となるよう純水に投入し、ボールミルによって粉砕し、SOD型ゼオライト種結晶の分散液を作製した。
【0048】
モノリス型の支持体を、SOD型ゼオライト種結晶の分散液に浸漬し、当該SOD型ゼオライト種結晶を0.1g/m2以上となるように支持体の各貫通孔の内側面に付着させた。
【0049】
次いで、コロイダルシリカ、リン酸、水酸化アルミニウム、および、有機SDAである水酸化テトラメチルアンモニウムを純水に溶解させ、組成が1SiO2:1P2O5:0.2Al2O3:2SDA:4000H2Oの原料溶液を作製した。
【0050】
続いて、種結晶を付着させた支持体を当該原料溶液に浸漬し、150℃にて20時間水熱合成した。これにより、支持体上にSOD型のゼオライト膜が形成された。水熱合成後、支持体およびゼオライト膜を純水にて十分に洗浄した後、100℃で乾燥させた。ゼオライト膜表面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したところ、短径が300nm以下であるゼオライト結晶粒は、ゼオライト膜表面の面積の85%以上であった。
【0051】
支持体およびゼオライト膜の乾燥後、ゼオライト膜のN
2(窒素)ガスの透過速度を測定した。上述のように、ゼオライト膜は、支持体が有する複数の貫通孔の内側面に形成されている。支持体の両端部はガラスにて封止され、支持体は外筒内に収められる(後述の
図4参照)。すなわち、ゼオライト膜複合体が外筒内に配置される。さらに、支持体の両端部と外筒との間にはシール部材が配置される。この状態で、N
2ガスが支持体の各貫通孔内に導入され、外筒に設けられた孔からゼオライト膜を透過したN
2ガスが回収される。導入N
2ガスの圧力(ゲージ圧力)を0.3MPaG、透過N
2ガスの圧力(ゲージ圧力)を0MPaGとした。その結果、ゼオライト膜のN
2透過速度は、0.005nmol/m
2・s・Pa以下であった。これにより、ゼオライト膜は、実用可能な程度の緻密性を有していることが確認された。その後、ゼオライト膜を700℃にて50時間熱処理した。
【0052】
次に、Heガスの透過速度を測定した。Heガス透過試験は、上述のN2ガス透過試験と同様にして実施した。透過試験での導入Heガスの圧力(ゲージ圧力)を0.5MPaG、透過Heガスの圧力(ゲージ圧力)を0MPaGとしたところ、ゼオライト膜をHeガスが透過することを確認した。He透過速度は、10nmol/m2・s・Pa以上であった。これにより、ゼオライト膜中の有機SDAは、十分に加熱除去されていることが確認された。
【0053】
<実施例2>
まず、コロイダルシリカ、水酸化ナトリウム、および、有機SDA(有機構造規定剤)である1-アダマンタンアミンを純水に溶解させ、組成が20SiO2:1Na2O:7SDA:800H2Oの原料溶液を作製した。当該原料溶液を180℃にて100時間水熱合成することにより、SGT型ゼオライト粉末を得た。
【0054】
SGT型ゼオライト粉末を7~8質量%となるよう純水に投入し、ボールミルによって粉砕し、SGT型ゼオライト種結晶の分散液を作製した。
【0055】
モノリス型の支持体を、SGT型ゼオライト種結晶の分散液に浸漬し、当該SGT型ゼオライト種結晶を0.1g/m2以上となるように支持体の各貫通孔の内側面に付着させた。
【0056】
次いで、コロイダルシリカ、および、有機SDAである1-アダマンタンアミンを純水に溶解させ、組成が50SiO2:1SDA:1000H2Oの原料溶液を作製した。
【0057】
続いて、種結晶を付着させた支持体を当該原料溶液に浸漬し、160℃にて20時間水熱合成した。これにより、支持体上にSGT型のゼオライト膜が形成された。水熱合成後、支持体およびゼオライト膜を純水にて十分に洗浄した後、100℃で乾燥させた。ゼオライト膜表面をSEMにて観察したところ、短径が300nm以下であるゼオライト結晶粒は、ゼオライト膜表面の面積の85%以上であった。
【0058】
支持体およびゼオライト膜の乾燥後、ゼオライト膜のN2ガスの透過速度を測定した。ゼオライト膜のN2透過速度は、0.005nmol/m2・s・Pa以下であった。これにより、ゼオライト膜は、実用可能な程度の緻密性を有していることが確認された。その後、ゼオライト膜を700℃にて50時間熱処理した。
【0059】
次に、実施例1と同様にしてHeガスの透過試験を実施した。その結果、ゼオライト膜をHeガスが透過することを確認した。He透過速度は、10nmol/m2・s・Pa以上であった。これにより、ゼオライト膜中の有機SDAは、十分に加熱除去されていることが確認された。
【0060】
<実施例3>
まず、コロイダルシリカ、および、有機SDA(有機構造規定剤)である水酸化テトラメチルアンモニウムを純水に溶解させ、組成が1SiO2:0.5SDA:200H2Oの原料溶液を作製した。当該原料溶液を180℃にて50時間水熱合成することにより、MTN型ゼオライト粉末を得た。
【0061】
MTN型ゼオライト粉末を7~8質量%となるよう純水に投入し、ボールミルによって粉砕し、MTN型ゼオライト種結晶の分散液を作製した。
【0062】
モノリス型の支持体を、MTN型ゼオライト種結晶の分散液に浸漬し、当該MTN型ゼオライト種結晶を0.1g/m2以上となるように支持体の各貫通孔の内側面に付着させた。
【0063】
次いで、コロイダルシリカ、および、有機SDAである水酸化テトラメチルアンモニウムを純水に溶解させ、組成が1SiO2:0.3SDA:1000H2Oの原料溶液を作製した。
【0064】
続いて、種結晶を付着させた支持体を当該原料溶液に浸漬し、170℃にて10時間水熱合成した。これにより、支持体上にMTN型のゼオライト膜が形成された。水熱合成後、支持体およびゼオライト膜を純水にて十分に洗浄した後、100℃で乾燥させた。ゼオライト膜表面をSEMにて観察したところ、短径が300nm以下であるゼオライト結晶粒は、ゼオライト膜表面の面積の85%以上であった。
【0065】
支持体およびゼオライト膜の乾燥後、ゼオライト膜のN2ガスの透過速度を測定した。ゼオライト膜のN2透過速度は、0.005nmol/m2・s・Pa以下であった。これにより、ゼオライト膜は、実用可能な程度の緻密性を有していることが確認された。その後、ゼオライト膜を700℃にて50時間熱処理した。
【0066】
次に、実施例1と同様にしてHeガスの透過試験を実施した。その結果、ゼオライト膜をHeガスが透過することを確認した。He透過速度は、10nmol/m2・s・Pa以上であった。これにより、ゼオライト膜中の有機SDAは、十分に加熱除去されていることが確認された。
【0067】
<比較例1>
SOD型ゼオライトの種結晶を0.1g/m2未満となるように支持体の各貫通孔の内側面に付着させた以外は、実施例1と同様にしてゼオライト膜を作製した。ゼオライト膜表面をSEMにて観察したところ、短径が300nm以下であるゼオライト結晶粒は、ゼオライト膜表面の面積の50%以下であった。
【0068】
支持体およびゼオライト膜の乾燥後、ゼオライト膜のN2ガスの透過速度を測定した。ゼオライト膜のN2透過速度は、0.005nmol/m2・s・Pa以下であった。これにより、ゼオライト膜は、実用可能な程度の緻密性を有していることが確認された。その後、ゼオライト膜を700℃にて50時間熱処理した。
【0069】
次に、実施例1と同様にしてHeガスの透過試験を実施した。その結果、Heガスはゼオライト膜をほとんど透過しなかった。これにより、ゼオライト膜中の有機SDAは十分に燃焼除去されていないことが確認された。
【0070】
<比較例2>
SGT型ゼオライトの種結晶を0.1g/m2未満となるように支持体の各貫通孔の内側面に付着させた以外は、実施例2と同様にしてゼオライト膜を作製した。ゼオライト膜表面をSEMにて観察したところ、短径が300nm以下であるゼオライト結晶粒は、ゼオライト膜表面の面積の50%以下であった。
【0071】
支持体およびゼオライト膜の乾燥後、ゼオライト膜のN2ガスの透過速度を測定した。ゼオライト膜のN2透過速度は、0.005nmol/m2・s・Pa以下であった。これにより、ゼオライト膜は、実用可能な程度の緻密性を有していることが確認された。その後、ゼオライト膜を700℃にて50時間熱処理した。
【0072】
次に、実施例1と同様にしてHeガスの透過試験を実施した。その結果、Heガスはゼオライト膜をほとんど透過しなかった。これにより、ゼオライト膜中の有機SDAは十分に燃焼除去されていないことが確認された。
【0073】
次に、
図4および
図5を参照しつつ、ゼオライト膜複合体1を利用した混合物質の分離について説明する。
図4は、分離装置2を示す図である。
図5は、分離装置2による混合物質の分離の流れを示す図である。
【0074】
分離装置2では、複数種類の流体(すなわち、ガスまたは液体)を含む混合物質をゼオライト膜複合体1に供給し、混合物質中の透過性が高い物質を、ゼオライト膜複合体1を透過させることにより混合物質から分離させる。分離装置2における分離は、例えば、透過性が高い物質を混合物質から抽出する目的で行われてもよく、透過性が低い物質を濃縮する目的で行われてもよい。既述のように、ゼオライト膜複合体1において透過性が高い物質は、例えば、水(H2O)、アンモニア(NH3)、ヘリウム(He)、水素(H2)等である。透過性が低い物質は、特に限定されない。
【0075】
当該混合物質(すなわち、混合流体)は、複数種類のガスを含む混合ガスであってもよく、複数種類の液体を含む混合液であってもよく、ガスおよび液体の双方を含む気液二相流体であってもよい。
【0076】
以下の説明では、分離装置2により分離される混合物質は、複数種類のガスを含む混合ガスであるものとして説明する。
【0077】
分離装置2は、ゼオライト膜複合体1と、封止部21と、外筒22と、2つのシール部材23と、供給部26と、第1回収部27と、第2回収部28とを備える。ゼオライト膜複合体1、封止部21およびシール部材23は、外筒22内に収容される。供給部26、第1回収部27および第2回収部28は、外筒22の外部に配置されて外筒22に接続される。
【0078】
封止部21は、支持体11の長手方向(すなわち、
図4中の左右方向)の両端部に取り付けられ、支持体11の長手方向両端面、および、当該両端面近傍の外側面を被覆して封止する部材である。封止部21は、支持体11の当該両端面からのガスの流入および流出を防止する。封止部21は、例えば、ガラスまたは樹脂により形成された板状部材である。封止部21の材料および形状は、適宜変更されてよい。なお、封止部21には、支持体11の複数の貫通孔111と重なる複数の開口が設けられているため、支持体11の各貫通孔111の長手方向両端は、封止部21により被覆されていない。したがって、当該両端から貫通孔111へのガス等の流入および流出は可能である。
【0079】
外筒22の形状は限定されないが、例えば略円筒状の筒状部材である。外筒22は、例えばステンレス鋼または炭素鋼により形成される。外筒22の長手方向は、ゼオライト膜複合体1の長手方向に略平行である。外筒22の長手方向の一方の端部(すなわち、
図4中の左側の端部)には供給ポート221が設けられ、他方の端部には第1排出ポート222が設けられる。外筒22の側面には、第2排出ポート223が設けられる。供給ポート221には、供給部26が接続される。第1排出ポート222には、第1回収部27が接続される。第2排出ポート223には、第2回収部28が接続される。外筒22の内部空間は、外筒22の周囲の空間から隔離された密閉空間である。
【0080】
2つのシール部材23は、ゼオライト膜複合体1の長手方向両端部近傍において、ゼオライト膜複合体1の外側面と外筒22の内側面との間に、全周に亘って配置される。各シール部材23は、ガスが透過不能な材料により形成された略円環状の部材である。シール部材23は、例えば、可撓性を有する樹脂により形成されたOリングである。シール部材23は、ゼオライト膜複合体1の外側面および外筒22の内側面に全周に亘って密着する。
図4に示す例では、シール部材23は、封止部21の外側面に密着し、封止部21を介してゼオライト膜複合体1の外側面に間接的に密着する。シール部材23とゼオライト膜複合体1の外側面との間、および、シール部材23と外筒22の内側面との間は、シールされており、ガスの通過はほとんど、または、全く不能である。
【0081】
供給部26は、混合ガスを、供給ポート221を介して外筒22の内部空間に供給する。供給部26は、例えば、外筒22に向けて混合ガスを圧送するブロワーまたはポンプである。当該ブロワーまたはポンプは、外筒22に供給する混合ガスの圧力を調節する圧力調節部を備える。第1回収部27および第2回収部28は、例えば、外筒22から導出されたガスを貯留する貯留容器、または、当該ガスを移送するブロワーもしくはポンプである。
【0082】
混合ガスの分離が行われる際には、上述の分離装置2が用意されることにより、ゼオライト膜複合体1が準備される(ステップS21)。続いて、供給部26により、ゼオライト膜12に対する透過性が異なる複数種類のガスを含む混合ガスが、外筒22の内部空間に供給される。供給部26から外筒22の内部空間に供給される混合ガスの圧力(すなわち、導入圧)は、例えば、0.1MPa~20.0MPaである。混合ガスの分離が行われる温度は、例えば、10℃~150℃である。
【0083】
供給部26から外筒22に供給された混合ガスは、矢印251にて示すように、ゼオライト膜複合体1の図中の左端から、支持体11の各貫通孔111内に導入される。混合ガス中の透過性が高いガス(以下、「高透過性物質」と呼ぶ。)は、各貫通孔111の内側面上に設けられたゼオライト膜12、および、支持体11を透過して支持体11の外側面から導出される。これにより、高透過性物質が、混合ガス中の透過性が低いガス(以下、「低透過性物質」と呼ぶ。)から分離される(ステップS22)。支持体11の外側面から導出されたガス(以下、「透過物質」と呼ぶ。)は、矢印253にて示すように、第2排出ポート223を介して第2回収部28により回収される。第2排出ポート223を介して第2回収部28により回収されるガスの圧力(すなわち、透過圧)は、例えば、約1気圧(0.101MPa)である。
【0084】
また、混合ガスのうち、ゼオライト膜12および支持体11を透過したガスを除くガス(以下、「不透過物質」と呼ぶ。)は、支持体11の各貫通孔111を図中の左側から右側へと通過し、矢印252にて示すように、第1排出ポート222を介して第1回収部27により回収される。第1排出ポート222を介して第1回収部27により回収されるガスの圧力は、例えば、導入圧と略同じ圧力である。不透過物質には、上述の低透過性物質以外に、ゼオライト膜12を透過しなかった高透過性物質が含まれていてもよい。
図4の分離装置2では、有機SDAを除去した6員環ゼオライトのゼオライト膜12を用いて、高透過性物質の分離を適切に行うことができる。
【0085】
上記ゼオライト膜複合体1、および、その製造では様々な変形が可能である。
【0086】
図3のゼオライト膜複合体1の製造では、種結晶を支持体11上に付着させる処理(
図3のステップS11,S12)を省略し、ステップS13の処理において支持体11上にゼオライト膜12を直接形成することも可能である。一方、短径が小さいゼオライト結晶粒が密集したゼオライト膜12を容易に形成するには、ゼオライト膜12を形成する前に、支持体11上に種結晶を付着させることが好ましい。
【0087】
ゼオライト膜複合体1は、支持体11およびゼオライト膜12に加えて、ゼオライト膜12上に積層された機能膜や保護膜をさらに備えていてもよい。このような機能膜や保護膜は、ゼオライト膜、シリカ膜または炭素膜等の無機膜であってもよく、ポリイミド膜またはシリコーン膜等の有機膜であってもよい。また、ゼオライト膜12上に積層された機能膜や保護膜には、特定の分子を吸着しやすい物質が添加されていてもよい。
【0088】
上記実施の形態では、支持体11が多孔質であることにより、分離装置2に適したゼオライト膜複合体1が得られるが、ゼオライト膜複合体1の設計によっては、支持体11が非多孔質である、すなわち、細孔がほとんど存在しない部材であってもよい。
【0089】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明のゼオライト膜複合体は、例えば、ガス分離膜として利用可能であり、さらには、ガス以外の分離膜や様々な物質の吸着膜等として、ゼオライトが利用される様々な分野で利用可能である。
【符号の説明】
【0091】
1 ゼオライト膜複合体
11 支持体
12 ゼオライト膜
S11~S14,S21,S22 ステップ