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特許7357543がん細胞の抗がん治療に対する感受性を増大させる方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】がん細胞の抗がん治療に対する感受性を増大させる方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/10 20060101AFI20230929BHJP
   A61K 31/138 20060101ALI20230929BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20230929BHJP
   A61K 33/243 20190101ALI20230929BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230929BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230929BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230929BHJP
【FI】
A61K38/10 ZNA
A61K31/138
A61K31/704
A61K33/243
A61K39/395 T
A61K47/68
A61P35/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019557632
(86)(22)【出願日】2018-05-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-02
(86)【国際出願番号】 IL2018050542
(87)【国際公開番号】W WO2018211514
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-05-12
(31)【優先権主張番号】62/507,939
(32)【優先日】2017-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510170992
【氏名又は名称】トゥー トゥー バイオテック リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】デバリー,ヨラム
【審査官】松浦 安紀子
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-507545(JP,A)
【文献】国際公開第2012/038957(WO,A1)
【文献】Recent Advances in Clinical Medicine, 2010, pp.168-173,ISBN: 978-960-474-165-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/10
A61K 31/138
A61K 31/704
A61K 33/243
A61K 39/395
A61K 47/68
A61P 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする患者のトリプルネガティブ乳癌(TNBC)を治療するための医薬組成物であって、配列番号:1で表されるアミノ酸配列からなる単離されたポリペプチド又はその機能性誘導体、及び少なくとも1種の抗がん剤を含み、
前記誘導体は、配列番号:1で表されるアミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含
前記少なくとも1種の抗がん剤は、HER2に対するモノクローナル抗体若しくは複合体化抗体、タモキシフェン、ドキソルビシン又はシスプラスチンである、医薬組成物。
【請求項2】
前記単離されたポリペプチドは、前記患者のがん細胞の、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2/neu受容体)、若しくはエストロゲンα受容体(ERα)の発現を増加させる、又はグルタチオンの発現を減少させる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記HER2に対するモノクローナル抗体はハーセプチンであり、HER2に対する複合体化抗体はカドサイラである、請求項またはに記載の医薬組成物。
【請求項4】
それを必要とする患者の卵巣がん細胞、膵臓がん細胞、およびトリプルネガティブ乳がん細胞の、少なくとも1種の抗がん剤に対する感受性を増大させるための医薬組成物であって、配列番号:1で表されるアミノ酸配列からなる単離されたポリペプチド又はその機能性誘導体を含み、
前記医薬組成物は、前記患者のがん細胞のグルタチオンの発現を減少させ、それにより前記がん細胞の前記少なくとも1種の抗がん剤に対する感受性を増大させるために用いられ、
前記誘導体は、配列番号:1で表されるアミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含
前記少なくとも1種の抗がん剤は、ドキソルビシンである、医薬組成物。
【請求項5】
前記医薬組成物は、医薬上許容される担体、希釈剤、及び/又は賦形剤を更に含む、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記単離されたポリペプチドが、前記少なくとも1種の抗がん剤を投与する前、同時、又は後に投与される、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
それを必要とする患者のトリプルネガティブ乳癌(TNBC)を治療するためのキットであって、
(i)配列番号:1で表されるアミノ酸配列からなる単離されたポリペプチド又はその機能性誘導体と、任意選択で、医薬上許容される担体、希釈剤、及び/又は賦形剤と;
(ii)抗がん剤と、任意選択で、医薬上許容される担体、希釈剤、及び/又は賦形剤と;
を含み、
前記誘導体は、配列番号:1で表されるアミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含
前記抗がん剤は、HER2に対するモノクローナル抗体又は複合体化抗体、タモキシフェン、ドキソルビシン及びシスプラスチンのいずれか1つである、キット。
【請求項8】
前記キットは、使用説明書を更に含む、請求項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本開示は、がんの治療に関する。より具体的には、本開示は、がん細胞の抗がん治療に対する感受性を増大させるための組成物、方法、及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
本明細書に開示する主題の背景に関連すると考えられる参考文献を以下に列挙する:
[1]Yao, H. et al. 2016, Oncotarget, DOI: 10.18632/oncotarget.12284
[2]Andre, F. and Zielinski, C. C. 2012, Annals of Oncology 23 (Supplement 6): vi46-vi51, 2012
[3]国際公開第2009/083968号
[4]Sandler, T. et al. 2010, Recent Advances in Clinical Medicine, ISSN: 1790-5125, ISBN: 978-960-474-165-6
【0003】
本明細書において上記参考文献を認めることが、これらが何らかの形で本明細書に開示する主題の特許性に関連していることを意味するものと推定すべきではない。
【0004】
背景
がんには100を超える種類があり、したがって、がんの治療にも数多くの種類が存在する。現行の抗がん療法の一部は有効性が不十分であり、その理由は、それらの療法が、転移性腫瘍が異なる器官で類似の挙動をとることを想定して設計されていたことにある。加えて、がんの細胞傷害性化学療法又は放射線療法は、感受性の高い正常細胞にも毒性を示すことから、深刻な、場合によっては生命にも関わる副作用があるため、限界がある。そのため、腫瘍関連抗原を認識する標的療法を発展させる努力が続けられている。
【0005】
乳癌は最も多く見られるがんの形態であり、世界中の女性の癌関連死の原因としては2番目に高く、2015年には米国で約40,000人が死亡している。1年間に乳癌と診断される症例数は世界中で1~130万人と推定されている。その中の約15~20%がトリプルネガティブ乳癌(TNBC)サブタイプに分類される(1)。
【0006】
TNBCは、エストロゲン受容体(ER)及びプロゲステロン受容体(PR)が発現しておらず、且つヒト上皮成長因子受容体2(HER2)が発現又は遺伝子増幅していないものと定義される。
【0007】
現在のTNBCの治療は、幅広い乳癌患者に対し承認されている多くの薬剤を基礎としている。この治療を幾つか挙げると、アントラサイクリン、タキサン、白金製剤レジメン、及び抗血管形成療法がある(2)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、明確な治療標的が存在しないTNBCは、現在、治療の選択肢が限られた、悪性度の高い(aggressive)がんのサブタイプと見なされており、標準治療で治療した後の予後は非常に悪い。特に、転移性疾患の患者に有効な新規な療法に対する要求は現在も満たされていない(2)。
【0009】
「KTPAF50」と称されるペプチド及びその断片が、様々な種類のがん細胞の生存度の低下及び増殖の阻害に関連していることが、in vitro及びマウスにおいて既に示されている(3、4)。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一般的な説明
本開示は、その態様の1つにより、それを必要とする患者のがんを治療するための方法であって、前記患者に、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体と、少なくとも1種の抗がん剤と、を投与することを含む方法を提供する。
【0011】
幾つかの実施形態において、本開示による単離されたポリペプチドは、前記患者の前記少なくとも1種の抗がん剤に対する反応性を増大させる。更なる実施形態において、本開示による単離されたポリペプチドは、前記患者のがん細胞の少なくとも1種の細胞部位(cellular moiety)の発現を調節する。更なる他の実施形態において、本開示による単離されたポリペプチドは、前記患者のがん細胞の少なくとも1種の細胞部位の発現を増加又は減少させる。
【0012】
幾つかの実施形態において、本開示により定義される細胞部位は、前記がん細胞の細胞表面に存在するか又は細胞内部位である。他の実施形態において、本開示により定義される細胞部位は、受容体、ポリペプチド、酵素、転写因子、又はアダプター分子(adapting molecule)である。特定の実施形態において、本開示により定義される細胞部位は、細胞表面受容体である。
【0013】
更なる他の特定の実施形態において、本開示による単離されたポリペプチドは、前記患者のがん細胞の少なくとも1種の細胞部位の発現を増加させ、本明細書において定義する細胞部位は受容体である。
【0014】
幾つかの実施形態において、本開示による細胞部位は、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2/neu受容体)、エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PR)、グルタチオン(GSH)、上皮成長因子受容体(EGFR)、アンドロゲン受容体、B細胞分化抗原群CD20(CD20)、分化抗原群33(CD33)、プログラム細胞死リガンド(PD-L)、又はST2受容体の少なくとも1種である。
【0015】
他の実施形態において、本開示による少なくとも1種の抗がん剤は、前記少なくとも1種の細胞部位と直接的又は間接的に相互作用する。更なる実施形態において、本開示による抗がん剤は、免疫療法剤(immnotherapy)、化学療法剤、シグナル伝達阻害剤、受容体阻害剤、遺伝子発現調節剤、アポトーシス誘導物質、血管新生阻害剤、ホルモン療法剤(hormone therapy)、代謝阻害剤、抗自食作用剤(anti-autophagy agent)、小胞体ストレス誘導剤、活性酸素種(ROS)誘導剤、又はこれらの組合せである。
【0016】
幾つかの実施形態において、本開示による少なくとも1種の抗がん剤は、免疫療法剤、好ましくは、モノクローナル抗体又は複合体化(conjugated)抗体である。他の実施形態において、本明細書において定義するモノクローナル抗体又は複合体化抗体は、HER2、ER、又はPRの少なくとも1種に対する抗体である。
【0017】
他の実施形態において、本明細書において定義する少なくとも1種の抗がん剤は、受容体阻害剤、好ましくは、上皮成長因子受容体(EGFR)の阻害剤である。更なる実施形態において、本開示による少なくとも1種の抗がん剤は、化学療法剤、好ましくは、ドキソルビシン若しくはドキソルビシン誘導体、シスプラチン、タキソール、又は活性酸素種(ROS)誘導剤である。
【0018】
特定の実施形態において、本開示による患者は、前記単離されたポリペプチドなしで投与された場合は、前記抗がん剤に反応性を示さない。
【0019】
幾つかの実施形態において、本明細書において定義するがんは、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、大腸癌、B細胞リンパ腫、急性骨髄性白血病(AML)、又は膵臓癌の少なくとも1種である。様々な実施形態において、本明細書において定義するがんはトリプルネガティブ乳癌(TNBC)である。
【0020】
更に本開示は、それを必要とする患者のトリプルネガティブ乳癌(TNBC)を治療するための方法であって、前記患者に、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体と、少なくとも1種の抗がん剤とを投与することを含む、方法を提供する。幾つかの実施形態において、本開示により定義される単離されたポリペプチドは、前記患者のがん細胞のヒト上皮成長因子受容体2(HER2/neu受容体)、エストロゲン受容体(ER)、又はプロゲステロン受容体(PR)の少なくとも1種の発現を増加させる。
【0021】
幾つかの実施形態において、本開示の単離されたポリペプチドは、配列番号:1で表されるアミノ酸配列からなる。
【0022】
他の実施形態において、本明細書において定義する少なくとも1種の抗がん剤は、Her2/neu受容体、ER、又はPRと相互作用する。更なる実施形態において、本明細書において定義する少なくとも1種の抗がん剤は、化学療法剤、好ましくは、ドキソルビシン若しくはドキソルビシン誘導体、シスプラチン、タキソール、又は活性酸素種(ROS)誘導剤である。
【0023】
他の一態様により、本開示は、それを必要とする患者のがん細胞の少なくとも1種の抗がん剤に対する感受性を増大させる方法であって、前記患者に、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体を投与することを含む方法を提供し、前記単離されたポリペプチドは、前記患者のがん細胞の少なくとも1種の細胞部位の発現を調節し、それにより前記がん細胞の前記少なくとも1種の抗がん剤に対する感受性を増大させる。幾つかの実施形態において、がん細胞の少なくとも1種の抗がん剤に対する感受性を増大させるための方法は、前記患者に、本明細書において定義する前記少なくとも1種の抗がん剤を投与することを更に含む。
【0024】
様々な実施形態において、本開示の単離されたポリペプチド及び/又は前記少なくとも1種の抗がん剤は、医薬上許容される担体、希釈剤、及び/又は賦形剤を更に任意選択的に含む医薬組成物に含まれる。
【0025】
幾つかの実施形態において、本開示による方法は、本明細書において定義する単離されたポリペプチドを、本開示の少なくとも1種の抗がん剤を投与する前、同時、又は後に投与する。
【0026】
更なる他の一態様により、本開示は、それを必要とする患者のがんを治療するための方法に使用するための、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体及び少なくとも1種の抗がん剤を提供する。
【0027】
更に本開示は、それを必要とする患者のトリプルネガティブ乳癌(TNBC)を治療するための方法に使用するための、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体及び少なくとも1種の抗がん剤を提供する。
【0028】
更に本開示は、それを必要とする患者のがん細胞の、少なくとも1種の抗がん剤に対する感受性を増大させるための方法に使用するための、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体を提供し、前記単離されたポリペプチドは、前記患者のがん細胞の少なくとも1種の細胞部位の発現を調節し、それにより前記がん細胞の前記少なくとも1種の抗がん剤に対する感受性を増大させる。幾つかの特定の実施形態において、がん細胞の本発明による少なくとも1種の抗がん剤に対する感受性を増大させるための方法に使用するための、単離されたポリペプチド及び少なくとも1種の抗がん剤は、前記方法が、前記少なくとも1種の抗がん剤を前記患者に投与することを更に含む。
【0029】
更に本開示は:
(i)配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体と、任意選択で、医薬上許容される担体、希釈剤、及び/又は賦形剤と;
(ii)抗がん剤と、任意選択で、医薬上許容される担体、希釈剤、及び/又は賦形剤と;
を含むキットを提供する。
【0030】
幾つかの実施形態において、本開示によるキットは使用説明書を更に含む。
【0031】
様々な実施形態において、本明細書において定義するキットは、それを必要とする患者のがんを治療する方法に使用するためのものである。
【0032】
図面の簡単な説明
本明細書に開示する対象をより十分に理解するため、及びそれを実際にどのように実施することができるかを例示するために、ここで実施形態を、添付の図面を参照しながら、非限定的な例のみとして説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1A】MDA-MB-231細胞のHER2のFACS解析を示すものである。図面は、無処理の細胞(対照細胞、図1A)、又はAPC1を2種類の投与量である100μg/ml(図1B)及び250μg/ml(図1C)で処理したMDA-MB-231細胞上のHER2受容体の発現をFACS解析したグラフを示している。細胞は、1回目投与後に24時間及び2回目投与後に72時間インキュベートした。図1Dは、陽性対照であり、APC1の非存在下におけるN87細胞上のHER2発現を示すものである。
図1B】MDA-MB-231細胞のHER2のFACS解析を示すものである。図面は、無処理の細胞(対照細胞、図1A)、又はAPC1を2種類の投与量である100μg/ml(図1B)及び250μg/ml(図1C)で処理したMDA-MB-231細胞上のHER2受容体の発現をFACS解析したグラフを示している。細胞は、1回目投与後に24時間及び2回目投与後に72時間インキュベートした。図1Dは、陽性対照であり、APC1の非存在下におけるN87細胞上のHER2発現を示すものである。
図1C】MDA-MB-231細胞のHER2のFACS解析を示すものである。図面は、無処理の細胞(対照細胞、図1A)、又はAPC1を2種類の投与量である100μg/ml(図1B)及び250μg/ml(図1C)で処理したMDA-MB-231細胞上のHER2受容体の発現をFACS解析したグラフを示している。細胞は、1回目投与後に24時間及び2回目投与後に72時間インキュベートした。図1Dは、陽性対照であり、APC1の非存在下におけるN87細胞上のHER2発現を示すものである。
図1D】MDA-MB-231細胞のHER2のFACS解析を示すものである。図面は、無処理の細胞(対照細胞、図1A)、又はAPC1を2種類の投与量である100μg/ml(図1B)及び250μg/ml(図1C)で処理したMDA-MB-231細胞上のHER2受容体の発現をFACS解析したグラフを示している。細胞は、1回目投与後に24時間及び2回目投与後に72時間インキュベートした。図1Dは、陽性対照であり、APC1の非存在下におけるN87細胞上のHER2発現を示すものである。
図2A】APC1を投与したMDA-MB-231細胞の免疫蛍光である。図面は、APC1の単回投与(250μg/ml)を行わずに(図2A)、又は行った(図2B)後に、48時間インキュベートしたMDA-MB-231細胞の免疫蛍光顕微鏡写真を示すものである。HER2は、HER2に対する抗体を用いた免疫蛍光を示し;DAPIは、DAPI染色による免疫蛍光を示し;Mergeは、HER2及びDAPIの両方の免疫蛍光を示す。
図2B】APC1を投与したMDA-MB-231細胞の免疫蛍光である。図面は、APC1の単回投与(250μg/ml)を行わずに(図2A)、又は行った(図2B)後に、48時間インキュベートしたMDA-MB-231細胞の免疫蛍光顕微鏡写真を示すものである。HER2は、HER2に対する抗体を用いた免疫蛍光を示し;DAPIは、DAPI染色による免疫蛍光を示し;Mergeは、HER2及びDAPIの両方の免疫蛍光を示す。
図3A】APC1を反復投与したMDA-MB-231細胞の免疫蛍光である。図面は、APC1の反復投与(各250μg/ml)を行わずに(図3A)、又は行った(図3B)後に、144、96、及び72時間インキュベートしたMDA-MB-231細胞の免疫蛍光顕微鏡写真を示すものである。HER2は、HER2に対する抗体を用いた免疫蛍光を示し;DAPIは、DAPI染色による免疫蛍光を示し;Mergeは、HER2及びDAPIの両方の免疫蛍光を示す。
図3B】APC1を反復投与したMDA-MB-231細胞の免疫蛍光である。図面は、APC1の反復投与(各250μg/ml)を行わずに(図3A)、又は行った(図3B)後に、144、96、及び72時間インキュベートしたMDA-MB-231細胞の免疫蛍光顕微鏡写真を示すものである。HER2は、HER2に対する抗体を用いた免疫蛍光を示し;DAPIは、DAPI染色による免疫蛍光を示し;Mergeは、HER2及びDAPIの両方の免疫蛍光を示す。
図4A】APC1を投与したMDA-MB-468細胞の免疫蛍光である。図面は、APC1の反復投与(各100μg/ml)を行わずに(図4A)又は行った後に(図4B)、24及び72時間インキュベートしたMDA-MB-468細胞の免疫蛍光顕微鏡写真を示すものである。HER2は、HER2に対する抗体を用いた免疫蛍光を示し;DAPIは、DAPI染色による免疫蛍光を示し;Mergeは、HER2及びDAPIの両方の免疫蛍光を示す。
図4B】APC1を投与したMDA-MB-468細胞の免疫蛍光である。図面は、APC1の反復投与(各100μg/ml)を行わずに(図4A)又は行った後に(図4B)、24及び72時間インキュベートしたMDA-MB-468細胞の免疫蛍光顕微鏡写真を示すものである。HER2は、HER2に対する抗体を用いた免疫蛍光を示し;DAPIは、DAPI染色による免疫蛍光を示し;Mergeは、HER2及びDAPIの両方の免疫蛍光を示す。
図5A】APC1及びカドサイラを投与したMDA-MB-231細胞のアポトーシス解析である。図面は、まずAPC1を投与し(各250μg/mlを2回投与し、投与後にそれぞれ24及び72時間インキュベート)、次いでカドサイラを5若しくは10μg/mlを72時間(図5A)、又は5、10、若しくは25μg/mlを72時間(図5B)投与したMDA-MB-231細胞がアポトーシスした割合を棒グラフで示したものである。細胞は、上に詳述した、指定した濃度のAPC1の存在下又はカドサイラの存在下においてもインキュベートした。略称:対照:無処理;Kad:カドサイラ。
図5B】APC1及びカドサイラを投与したMDA-MB-231細胞のアポトーシス解析である。図面は、まずAPC1を投与し(各250μg/mlを2回投与し、投与後にそれぞれ24及び72時間インキュベート)、次いでカドサイラを5若しくは10μg/mlを72時間(図5A)、又は5、10、若しくは25μg/mlを72時間(図5B)投与したMDA-MB-231細胞がアポトーシスした割合を棒グラフで示したものである。細胞は、上に詳述した、指定した濃度のAPC1の存在下又はカドサイラの存在下においてもインキュベートした。略称:対照:無処理;Kad:カドサイラ。
図6】APC1及びカドサイラを投与し長時間インキュベートしたMDA-MB-231細胞のアポトーシス解析である。棒グラフは、まずAPC1を投与し(各250μg/mlを2回投与し、投与後に、それぞれ24及び72時間インキュベート)、次いでカドサイラを5、10、又は25μg/ml投与し、96時間インキュベートしたMDA-MB-231細胞がアポトーシスした割合を示している。細胞は、上に詳述した、指定した濃度のAPC1の存在下又はカドサイラの存在下においてもインキュベートした。略称:対照:無処理;Kad:カドサイラ。
図7】APC1及びカドサイラを投与したBTS49及びMDA-MB-468細胞のアポトーシス解析である。棒グラフは、まずAPC1を投与し(各250μg/mlを2回投与した後、それぞれ24及び72時間インキュベート)、次いでカドサイラを5、10、又は25μg/ml投与し、96時間インキュベートしたBTS49及びMDA-MB-468細胞のアポトーシスの割合を示している。細胞は、上に詳述した、指定した濃度のAPC1の存在下又はカドサイラの存在下においてもインキュベートした。略称:対照:無処理;Kad:カドサイラ。
図8A】ヌードマウスのMDA-MB-231腫瘍のHER2免疫組織染色である。図面は、MDA-MB-231腫瘍を注射し、APC1を反復投与(350μg/匹)したBalb/Cヌードマウスから摘出したMDA-MB-231腫瘍切片のMDA-MB-231の免疫蛍光顕微鏡写真を示すものである。HER2は、HER2に対する抗体を用いた免疫蛍光であり;DAPIは、DAPIによる染色の免疫蛍光であり;Mergeは、HER2及びDAPIの両方の免疫蛍光を示す。
図8B】ヌードマウスのMDA-MB-231腫瘍のHER2免疫組織染色である。図面は、MDA-MB-231腫瘍を注射し、APC1を反復投与(350μg/匹)したBalb/Cヌードマウスから摘出したMDA-MB-231腫瘍切片のMDA-MB-231の免疫蛍光顕微鏡写真を示すものである。HER2は、HER2に対する抗体を用いた免疫蛍光であり;DAPIは、DAPIによる染色の免疫蛍光であり;Mergeは、HER2及びDAPIの両方の免疫蛍光を示す。
図9】APC1及びハーセプチンを投与したMDA-MB-468細胞のアポトーシス解析である。棒グラフは、無処理(対照)、ハーセプチン(12μg/ml)投与後、APC1(250μg/ml)投与後、又は上の量のAPC1及びハーセプチンの両方を投与後のMDA-MB-468細胞のアポトーシスレベルを示すものである。ハーセプチン(100μg/ml)の非存在下及び存在下におけるN87細胞のアポトーシスレベルも示す。
図10】APC1を投与したMDA-MB-231細胞の細胞膜上のNotch3受容体量である。棒グラフは、APC1(250μg/ml)を、1時間(縦棒2)、3時間(縦棒3)、5時間(縦棒4)、又は24時間(縦棒5)投与したMDA-MB-231細胞の細胞膜上のNotch3受容体の量(任意単位で表した密度)を示すものである。縦棒1は対照である。
図11A】APC1及びタモキシフェンを投与(24時間インキュベート)したMDA-MB-231細胞の生存率である。棒グラフは、培地(「0」で示す)又はタモキシフェン10、50、若しくは100nMの存在下に24時間インキュベートした、MDA-MB-231細胞(図11A)、APC1で処理されたMDA-MB-231細胞(図11B)、及び抗PRT3で処理されたMDA-MB-231細胞(図11C)の細胞生存率(レサズリンアッセイ使用)を示すものである。対照:無処理。
図11B】APC1及びタモキシフェンを投与(24時間インキュベート)したMDA-MB-231細胞の生存率である。棒グラフは、培地(「0」で示す)又はタモキシフェン10、50、若しくは100nMの存在下に24時間インキュベートした、MDA-MB-231細胞(図11A)、APC1で処理されたMDA-MB-231細胞(図11B)、及び抗PRT3で処理されたMDA-MB-231細胞(図11C)の細胞生存率(レサズリンアッセイ使用)を示すものである。対照:無処理。
図11C】APC1及びタモキシフェンを投与(24時間インキュベート)したMDA-MB-231細胞の生存率である。棒グラフは、培地(「0」で示す)又はタモキシフェン10、50、若しくは100nMの存在下に24時間インキュベートした、MDA-MB-231細胞(図11A)、APC1で処理されたMDA-MB-231細胞(図11B)、及び抗PRT3で処理されたMDA-MB-231細胞(図11C)の細胞生存率(レサズリンアッセイ使用)を示すものである。対照:無処理。
図12A】APC1及びタモキシフェンを投与(48時間インキュベート)したMDA-MB-231細胞の生存率解析である。棒グラフは、培地(「0」で示す)又はタモキシフェン10、50、若しくは100nMの存在下に48時間インキュベートした、MDA-MB-231細胞(図12A)、APC1処理されたMDA-MB-231細胞(図12B)、又は抗PRT3で処理されたMDA-MB-231細胞(図12C)の細胞生存率(レサズリンアッセイ)を示すものである。対照:無処理。
図12B】APC1及びタモキシフェンを投与(48時間インキュベート)したMDA-MB-231細胞の生存率解析である。棒グラフは、培地(「0」で示す)又はタモキシフェン10、50、若しくは100nMの存在下に48時間インキュベートした、MDA-MB-231細胞(図12A)、APC1処理されたMDA-MB-231細胞(図12B)、又は抗PRT3で処理されたMDA-MB-231細胞(図12C)の細胞生存率(レサズリンアッセイ)を示すものである。対照:無処理。
図12C】APC1及びタモキシフェンを投与(48時間インキュベート)したMDA-MB-231細胞の生存率解析である。棒グラフは、培地(「0」で示す)又はタモキシフェン10、50、若しくは100nMの存在下に48時間インキュベートした、MDA-MB-231細胞(図12A)、APC1処理されたMDA-MB-231細胞(図12B)、又は抗PRT3で処理されたMDA-MB-231細胞(図12C)の細胞生存率(レサズリンアッセイ)を示すものである。対照:無処理。
図13】APC1と一緒にインキュベートしたMDA-MB-231細胞のERα発現のウェスタンブロット解析である。図面は、APC1(250μg/ml)で、1週間、週1回(左から3レーン目~7レーン目)、又は3若しくは4週間、週2回(左から9、10レーン目)処理したMDA-MB-231細胞の、表示した時点におけるエストロゲンα受容体の発現を、抗エストロゲン受容体α(ERα)抗体を用いて試験したウェスタンブロット解析を示すものである。略称:M:タンパク質パーカー;c:対照;h:時間;w:週。
図14A】TNBC細胞をAPC1及び化学療法剤により処理したものである。グラフは、APC1で前処理し、次いで指示された濃度のドキソルビシン(図14A)又はシスプラチン(図14B)の存在下にインキュベートしたMDA-MB-231及びMDA-MB-468細胞の相対細胞生存率を示すものである。略称:Dox:ドキソルビシン;CisPt:シスプラチン。
図14B】TNBC細胞をAPC1及び化学療法剤により処理したものである。グラフは、APC1で前処理し、次いで指示された濃度のドキソルビシン(図14A)又はシスプラチン(図14B)の存在下にインキュベートしたMDA-MB-231及びMDA-MB-468細胞の相対細胞生存率を示すものである。略称:Dox:ドキソルビシン;CisPt:シスプラチン。
図15】ヒトTNBC腫瘍に対するAPC1及びドキソルビシンの効果である。グラフは、TNBC細胞を接種し、APC1(15mg/kg、週3回、5週間まで)、ドキソルビシン(3mg/kg、週1回)、又はAPC1及びドキソルビシン(APC1を15mg/kg、週2回、及びドキソルビシンを3mg/kg、週1回)で処理したヌードマウスの相対腫瘍体積を示すものである。対照マウス群は生理食塩水で処理した。
図16】ヒト卵巣癌腫瘍に対するAPC1及びドキソルビシンの効果である。グラフは、ヒト卵巣癌細胞(OV90)を接種し、APC1(15mg/kg、週3回、5週間まで)、ドキソルビシン(3mg/kg、週1回)、又はAPC1及びドキソルビシン(APC1を15mg/kg、週2回、及びドキソルビシンを3mg/kg、週1回)で処理したヌードマウスの相対腫瘍体積を示すものである。対照マウス群は生理食塩水で処理した。
図17】ヒト膵臓癌腫瘍に対するAPC1及びドキソルビシンの効果である。グラフは、ヒト膵臓癌細胞(Panc1)を接種し、APC1(15mg/kg、週3回、5週間まで)、ドキソルビシン(3mg/kg、週1回)、又はAPC1及びドキソルビシン(APC1、15mg/kg、週2回、及びドキソルビシン3mg/kg、週1回)で処理したヌードマウスの相対腫瘍体積を示すものである。対照マウス群は生理食塩水で処理した。
図18A】ヒトがん細胞のグルタチオン量に対するAPC1の効果である。グラフは指示された濃度のAPC1で処理したヒト卵巣癌細胞(図18A)、ヒト膵臓癌細胞(図18B)、及びヒトTNBC細胞(図18C)の相対グルタチオン量を示すものである。
図18B】ヒトがん細胞のグルタチオン量に対するAPC1の効果である。グラフは指示された濃度のAPC1で処理したヒト卵巣癌細胞(図18A)、ヒト膵臓癌細胞(図18B)、及びヒトTNBC細胞(図18C)の相対グルタチオン量を示すものである。
図18C】ヒトがん細胞のグルタチオン量に対するAPC1の効果である。グラフは指示された濃度のAPC1で処理したヒト卵巣癌細胞(図18A)、ヒト膵臓癌細胞(図18B)、及びヒトTNBC細胞(図18C)の相対グルタチオン量を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
実施形態の詳細な説明
本発明は、本明細書において「APC1」と称する、アミノ酸配列EKGAAFSPIYPRRK(配列番号:1で表す)からなるポリペプチドを投与することにより、がん細胞の幅広い種類の抗がん剤に対する感受性を増大させ、したがって、抗がん剤(抗がん薬)の治療効果の増強剤として使用することができるという、驚くべき発見に基づく。
【0035】
後に実施例で詳述するように、トリプルネガティブ乳癌(TNBC)細胞にポリペプチドAPC1を投与することにより、TNBC細胞上のヒト上皮成長因子受容体2(HER2)受容体の発現のみならずエストロゲン受容体の発現も増加した。
【0036】
TNBCは、特に、エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PR)、及びヒト上皮成長因子受容体2(HER2)を発現しない(又は少なくとも発現が低下している)ものと定義される。治療の明確な標的が存在しないため、TNBCは治療の選択肢が限られた、悪性度の高いがんのサブタイプと見なされている。後に示すように、APC1を投与することにより、細胞表面のHER2のみならずエストロゲン受容体の発現も増加した。したがって、特定の理論に束縛されることを望むものではないが、処理された細胞のHER2に基づく抗がん療法に対する感受性(又は反応性)が増大した。
【0037】
APC1とHER2に基づく抗がん療法とを併用した場合の、TNBC細胞(一般に、HER2に基づく標的抗がん療法に感受性を示さないと考えられている)に対する効果を調査するために、実施例に後述するように、TNBC細胞にまずAPC1を投与し、次いで、例えば特定の抗がん剤としてカドサイラを投与した。カドサイラは、HER2に対する抗体であるトラスツズマブ及び化学療法剤であるエムタンシン(DM1)の作用機序を1つの薬剤に併合した抗体-薬物複合体(ADC)である。
【0038】
図5Aに示すように、MDA-MB-231細胞にカドサイラを投与した結果、アポトーシスレベルは予想通り比較的低かった。驚くべきことに、APC1及びカドサイラの両方で処理した細胞のアポトーシスレベルは、カドサイラ単独で処理した細胞よりも少なくとも2.5倍高くなった。加えて、後に実施例で示すように、HER2受容体が発現することも、APC1で処理したマウスのMDA-MB-231腫瘍細胞において実証された。
【0039】
更に、例えば図11Bに示すように、APC1で前処理し、続いて選択的エストロゲン受容体調節剤(SERM)であるタモキシフェンで処理されたTNBC細胞の細胞生存率が、タモキシフェン単独で処理した細胞と比較して低下しており、処理された細胞上のエストロゲン受容体の発現が増加したことを示唆している。エストロゲン受容体の発現が増加したことは、図13においても直接実証されている。
【0040】
驚くべきことに、TNBC細胞(図14)及び様々な種類のがんの腫瘍を接種したマウス(図15、16、及び17)にAPC1を投与し、これらの細胞にドキソルビシン又はシスプラチンも投与した場合、それぞれ細胞生存率が低下すると共に腫瘍体積が低下した。
【0041】
上の結果をまとめると(後に更に詳述する)、APC1はがん細胞の幅広い種類の抗がん剤に対する感受性を増大させ、したがって、抗がん剤の治療効果の増強剤として使用することができることが示された。
【0042】
したがって本開示は、それを必要とする患者のがんを治療するための方法であって、前記患者に、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体と、少なくとも1種の抗がん剤とを投与することを含む方法を提供する。
【0043】
他の一態様により、本開示は、それを必要とする患者のがんを治療するための方法に使用するための、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体と、少なくとも1種の抗がん剤とを提供する。
【0044】
公開特許出願である国際公開第2009/083968号(3)には、「KTPAF50」と称されるポリペプチド及びその断片が、白血病及び前立腺癌細胞の生存率の低下に加えて、マウスの腫瘍成長の阻止にも関連することが既に示されている。
【0045】
国際公開第2009/083968号(3)に示されているように、KTPAF50ポリペプチドの全長は74アミノ酸残基であり、アミノ酸配列:
【化1】

(本明細書において配列番号:2で表す)を有する。国際公開第2009/083968号に記載されているKTPAF50の断片の中でも、KTPAF50のN末端の24個のアミノ酸残基(シグナル配列)を持たないポリペプチドであり、アミノ酸配列:LRRREQAERGSRRCAIAGEERAMLSPSPLPETPFSPEKGAAFSPIYPRRを有するものが挙げられる(本明細書において配列番号:3で表す)。
【0046】
ここで本開示により、ペプチドKTPAF50の14個のC末端アミノ酸残基からなる、配列番号:1で表されるアミノ酸配列EKGAAFSPIYPRRKを有するAPC1ペプチドは、それ自体を様々なタイプの細胞に投与しても、細胞のアポトーシスは僅かである(例えあるとしても)、即ち細胞生存率に何ら効果がないことを示す(図5A及び図5B)。ところが、APC1を追加の抗がん剤(例えば、カドサイラ又はハーセプチン)と一緒に投与することにより、TNBC MDA-MB-231細胞がアポトーシスに至る。換言すれば、細胞のカドサイラに対する反応性はAPC1ペプチドの存在下に増大し、図6及び図7においてもその効果が実証された。更に、反応性の増大は、追加の薬剤としてHER2受容体に対するハーセプチン(図9)を用いた場合のみならず、タモキシフェン(図11及び図12)、ドキソルビシン(例えば、図14A)、及びシスプラチン(例えば、図14B)に関しても実証された。
【0047】
したがって幾つかの実施形態において、本明細書において定義する単離されたポリペプチドは、前記患者の前記少なくとも1種の抗がん剤に対する反応性を増大させる。
【0048】
特定の実施形態において、本開示は、それを必要とする患者のがんを治療するための方法であって、前記患者に、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体と少なくとも1種の抗がん剤と投与することを含む方法を提供し、前記単離されたポリペプチドは、前記患者の前記少なくとも1種の抗がん剤に対する反応性を増大させる。
【0049】
他の実施形態において、本開示は、それを必要とする患者のがんを治療するための方法に使用するための、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体と、少なくとも1種の抗がん剤とを提供し、前記単離されたポリペプチドは、前記患者の前記少なくとも1種の抗がん剤に対する反応性を増大させる。
【0050】
本開示に関連する「反応性を増大させる」又は「増大した反応性」という語は、本発明の分野の熟練の施術者に知られている任意の臨床パラメータを用いて評価することができる、治療の結果としての、患者全体のアウトカム(例えば、改善)を指す。反応性の増大は、本明細書において定義する単離されたポリペプチドの存在下及び非存在下における特定の抗がん療法が、患者から採取された細胞試料に与える効果を比較することによって評価することができる。
【0051】
より具体的には、反応性の増大は、対照である無処理の細胞又は器官の対応する比率と比較して、少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、100%、200%、300%、400%、500%、600%、700%、800%、900%、又は約1000%とすることができる。
【0052】
反応性の評価は当該技術分野において知られている任意の方法、例えば、腫瘍マーカーの評価又はコンピューター体軸断層撮影(CT)若しくは核磁気共鳴画像法(MRI)による腫瘍サイズの評価により実施することができる。
【0053】
例えば、後に図5に示すように、APC1の非存在下では、細胞のカドサイラによる治療に対する反応性はより低い。したがって幾つかの実施形態において、本明細書に定義する患者は、前記単離されたポリペプチドなしで投与した場合、前記抗がん剤に反応性を示さない。換言すれば、本明細書に定義する患者は、前記抗がん剤を単独で投与すると反応性を示さない場合がある。
【0054】
特定の実施形態において、本開示は、それを必要とする患者のがんを治療するための方法であって、前記患者に、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体と、少なくとも1種の抗がん剤とを投与することを含む方法を提供し、前記患者は、前記単離されたポリペプチドなしで投与した場合、前記抗がん剤に反応性を示さない。
【0055】
更なる特定の実施形態において、本開示は、それを必要とする患者のがんを治療するための方法に使用するための、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体と少なくとも1種の抗がん剤とを提供し、前記患者は、前記単離されたポリペプチドなしで投与した場合、前記抗がん剤に反応性を示さない。
【0056】
本明細書において用いられる「反応性を示さない」という語は、前記患者の、特定の抗がん治療による利益又は反応性が十分とは言えない(例えあるとしても)ことを意味する。上に述べたように、治療に対する反応性は、当該技術分野において知られている任意の方法により、例えば、腫瘍マーカーを評価するか又はコンピューター体軸断層撮影(CT)若しくは核磁気共鳴画像法(MRI)で腫瘍サイズを評価することによって評価することができる。
【0057】
本明細書に示すように、APC1を投与することにより、がん細胞の様々な抗がん剤(即ち、幾つかの例を挙げると、カドサイラ、ハーセプチン)に対する感受性が増大した。特定の理論に束縛されることを望むものではないが、APC1を投与することにより、細胞標的(本明細書においては「細胞部位」と称する)の発現が調節された。
【0058】
したがって、幾つかの実施形態において、本発明による単離されたポリペプチドは、前記患者のがん細胞の少なくとも1種の細胞部位の発現を調節する。特定の実施形態において、本開示は、それを必要とする患者のがんを治療するための方法を包含し、前記方法は、前記患者に、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体と、少なくとも1種の抗がん剤とを投与することを含み、前記単離されたポリペプチドは、前記患者のがん細胞の少なくとも1種の細胞部位の発現を調節する。
【0059】
更なる特定の実施形態において、本発明は、それを必要とする患者のがんを治療するための方法に使用するための、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体と、少なくとも1種の抗がん剤とを提供し、前記単離されたポリペプチドは、前記患者のがん細胞の少なくとも1種の細胞部位の発現を調節する。
【0060】
本明細書において用いられる「調節する」という語は、本明細書において定義する細胞部位の少なくとも1種の活性を変更、増大、又は低下させることを意味する。
【0061】
本開示に関連する「がん(癌)細胞」という語は、当該技術分野において知られている、任意のタイプの細胞及び任意のタイプのがん(癌)を包含することを意味する。
【0062】
後に詳述するように、APC1の投与は、細胞表面のHER2発現及びエストロゲン受容体の発現を増加させ、したがって、特定の理論に束縛されることを望むものではないが、処理された細胞の、HER2を標的とする治療に対する感受性(又は脆弱性)を増大させる。更に、後に示すように、これらの細胞をAPC1で処理すると、卵巣癌、膵臓癌、及びTNBC癌細胞のグルタチオン量が減少した。
【0063】
したがって、幾つかの実施形態において、本明細書において定義する単離されたポリペプチドは、前記患者のがん細胞の少なくとも1種の細胞部位の発現を増加又は減少させる。
【0064】
他の特定の実施形態において、本明細書に定義する単離されたポリペプチドは、前記患者のがん細胞の少なくとも1種の細胞部位の発現を増加させる。
【0065】
本明細書において定義する「細胞部位」という語は、抗がん剤の標的となり得る細胞分子又はその断片を包含する。
【0066】
本開示に関連する「発現を増加させる」という語は、前記患者のがん細胞の少なくとも1種の細胞部位又はその断片の、転写速度、翻訳速度、タンパク質及び/又はmRNAの安定性、遺伝子産物の量、並びにタンパク質及び/又はmRNAの成熟の、漸増(escalation)、上昇(rise)、又は増大(increment)を指す。より具体的には、発現の増加は、対照である無処理の細胞又は器官の対応する比率と比較して、少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、100%、200%、300%、400%、500%、600%、700%、800%、900%、又は約1000%とすることができる。
【0067】
それとは逆に、本開示に関連する「発現を減少させる」という語は、前記患者のがん細胞の少なくとも1種の細胞部位又はその断片の、転写速度、翻訳速度、タンパク質及び/又はmRNAの安定性、遺伝子産物の量、並びにタンパク質及び/又はmRNAの成熟の、降下(decline)、低減(reduction)、又は抑制(constriction)を指す。より具体的には、発現の減少は、対照である無処理の細胞又は器官の対応する比率と比較して、少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、100%、200%、300%、400%、500%、600%、700%、800%、900%、又は約1000%とすることができる。
【0068】
本明細書において定義する細胞部位の発現の増加又は減少は、当該技術分野において知られている任意の方法、例えば、これらに限定されるものではないが、後に例示する方法により監視することができる。
【0069】
添付の実施例に示すように、APC1を投与することによって、細胞受容体(即ち、HER2及びエストロゲン受容体)及びグルタチオンの発現が調節された。HER2はがん細胞の増殖(成長)及び転移(拡散)の制御に関与していることが知られている。当該技術分野において知られているように、腫瘍近傍の活性酸素種(ROS)が発生するストレス条件下において、グルタチオンがその損傷を抑制するため、グルタチオンにより細胞の増殖能力が調節される。更にグルタチオンは、薬剤耐性メカニズムにも関係しており、したがって化学療法の作用を阻害する可能性がある。
【0070】
したがって、幾つかの実施形態において、本開示による細胞部位は、がん細胞の成長、制御、又は拡散の少なくとも1種に関与している。特に本開示による細胞部位は、がん細胞の成長の増加又は減少に関連している。
【0071】
幾つかの実施形態において、本明細書において定義する細胞部位は、細胞内分子部分(即ち、細胞内に存在する)であり、他の実施形態においては、前記がん細胞の細胞表面に存在する部分(即ち、細胞表面上で到達可能)である。更なる他の実施形態において、細胞部位又はその断片は、少なくともその断片が細胞内に存在し、少なくとも他の断片が細胞表面に存在するように、細胞膜に埋め込まれている。
【0072】
したがって、更なる実施形態において、本明細書において定義する細胞部位は、前記がん細胞の細胞表面に存在するか又は細胞内部位である。
【0073】
更なる特定の実施形態において、本開示による細胞部位は、受容体、ポリペプチド、酵素、転写因子、又はアダプター分子である。
【0074】
当該技術分野において知られている「受容体」という語は、細胞内又は細胞表面に埋め込まれている、特定の物質に選択的結合し、その結合の結果として特定の生理学的効果を生じることを特徴とする分子構造を指す。本開示に包含される受容体の非限定的な幾つかの例としては、エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PR)、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2/neu受容体)、上皮成長因子受容体(EGFR)、アンドロゲン受容体、又はST2が挙げられる。
【0075】
特定の実施形態において、本開示による細胞部位は細胞表面受容体である。
【0076】
本明細書において言及する「細胞表面受容体」(「膜受容体」又は「膜貫通受容体」としても知られる)という語は、細胞外分子と結合(又は相互作用)することによって、特に細胞シグナル伝達に作用する、細胞膜に埋め込まれた受容体に関する。細胞外分子は、とりわけ、ホルモン、神経伝達物質、サイトカイン、成長因子、細胞接着分子、又は栄養素であり、受容体と反応して細胞の代謝及び活性の変化を誘導する。細胞表面受容体の非限定的な幾つかの例としては、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2/neu受容体)、エストロゲン受容体(ER)、及びプロゲステロン受容体(PR)が挙げられる。
【0077】
更なる特定の実施形態において、本明細書において定義する単離されたポリペプチドは、前記患者のがん細胞の少なくとも1種の細胞部位の発現を増加させ、前記細胞部位は受容体(例えば、細胞表面受容体)である。
【0078】
更なる特定の実施形態において、本開示は、それを必要とする患者のがんを治療するための方法を包含し、前記方法は、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体と、少なくとも1種の抗がん剤とを前記患者に投与することを含み、前記単離されたポリペプチドは、前記の患者のがん細胞の少なくとも1種の細胞部位の発現を増加させ、前記細胞部位は受容体である。
【0079】
更なる他の実施形態において、本開示は、それを必要とする患者のがんを治療するための方法に使用するための、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体と、少なくとも1種の抗がん剤とを包含し、前記単離されたポリペプチドは、前記患者のがん細胞の少なくとも1種の細胞部位の発現を増加させ、前記細胞部位は受容体である。
【0080】
様々な特定の実施形態において、本開示による単離されたポリペプチドは、前記患者のがん細胞の少なくとも1種の細胞部位の発現を増加させ、前記細胞部位は、細胞表面受容体、好ましくは、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)、エストロゲン受容体(ER)、又はプロゲステロン受容体(PR)である。
【0081】
上に述べたように、本明細書において定義する細胞部位は、受容体、ポリペプチド、酵素、転写因子、又はアダプター分子とすることができる。
【0082】
当該技術分野において知られている「ポリペプチド」という語は、アミノ酸残基の分子鎖を指し、当該技術分野において知られている「酵素」という語は、折り畳まれて特異的な三次元構造を形成し、分子に固有の特性を与える特徴的なアミノ酸配列を持つポリペプチド(又はタンパク質)分子を指す。本開示に包含されるポリペプチドの非限定的な例としては、プログラム細胞死リガンド1(PD-L1)、プログラム細胞死リガンド2(PD-L2)、並びにグルタチオンの合成に関与する酵素及び/又はポリペプチドが挙げられる。
【0083】
本明細書において定義する「転写因子」という語は、特定のDNA配列に結合することにより、DNAの遺伝情報をメッセンジャーRNAに転写する速度を制御する分子を指す。
【0084】
本明細書において用いられる「アダプター分子」という語は、他の分子と物理的に相互作用することができ、その生物活性を変化させることができる分子を指す。アダプター分子の非限定的な例としては、構造(2S)-2-アミノ-4-{[(1R)-1-[(カルボキシメチル)カルバモイル]-2-スルファニルエチル]カルバモイル}ブタン酸を有するグルタチオン(GSH)並びにSH2及び/又はSH3ドメインを含む分子が挙げられる。
【0085】
更なる他の実施形態において、本開示の細胞部位は、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2/neu受容体)、エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PR)、グルタチオン(GSH)、上皮成長因子受容体(EGFR)、アンドロゲン受容体、B細胞分化抗原群CD20(CD20)、分化抗原群33(CD33)、プログラム細胞死リガンド(PD-L)、又はST2受容体の少なくとも1種である。
【0086】
本明細書において定義する「エストロゲン受容体」(ER)という語は、細胞の内部及び表面に見られるタンパク質群を指す。これらの受容体は、ホルモンであるエストロゲン(17β-エストラジオールとも呼ばれる)によって活性化される。ERには、細胞内受容体である核内受容体ファミリーのメンバーである核内エストロゲン受容体(ERα及びERβ)と、殆どがGタンパク質共役受容体である細胞膜エストロゲン受容体(mER、即ち、GPER(GPR30)、ER-X、及びGq-mER)の2つの群が存在する。ERは、エストロゲンによって活性化されると核内に移行し、DNAに結合して、様々な遺伝子の活性を制御することができる(即ち、DNA結合性転写因子である)。ER受容体は、DNAとの結合とは独立した他の機能も有している。がん細胞(特に、乳癌細胞)をER陽性細胞に変えることの利益は当該技術分野において知られている。それは、ER陽性細胞はエストロゲン(並びにそのアンタゴニスト及び/又はアゴニスト)に感受性を示し、ホルモン療法に反応することができるためである。ER陽性である乳癌細胞を有すると診断された患者に施すことができる療法の非限定的な例としては、タモキシフェン、又は他の任意の選択的エストロゲン受容体調節剤(SERM)が挙げられる。
【0087】
当該技術分野において知られているように、「タモキシフェン」という語は、抗悪性腫瘍剤である選択的エストロゲン受容体修飾薬(SERM)によるホルモン療法に関連する。タモキシフェン(2-[4-[(Z)-1,2-ジフェニルブト-1-エニル]フェノキシ]-N,N-ジメチルエタンアミン)は、乳房組織において抗エストロゲン剤(阻害剤)として作用するが、コレステロール代謝、骨密度、及び子宮内膜の細胞増殖においてはエストロゲン(刺激剤)として作用する。タモキシフェンは、エストラジオールのエストロゲン受容体への結合を競合的に阻害し、それにより、この受容体がDNA上のエストロゲン応答配列に結合することを阻止する。その結果としてDNA合成及びエストロゲンに対する細胞応答が低下する。タモキシフェンは、とりわけ、初期のホルモン受容体陽性乳癌の手術及び他の治療後の再発リスクの低下、術前の大きなホルモン受容体陽性乳癌の縮小、及び転移性乳癌を含む進行段階のホルモン受容体陽性乳癌の治療に使用される。
【0088】
「プロゲステロン受容体」という語(PR、特にNR3C3としても知られる)は、細胞内に見られるタンパク質を指す。これはステロイドホルモンであるプロゲステロンにより活性化される。ヒトにおいて、PRは、単一のPGR遺伝子によりコードされる。これは分子量が異なるPRA及びPRBの2種の主要な形態を有している。さほど知られていない第3のアイソフォーム(PRC)も存在する。プロゲステロン受容体を作用させるためにはプロゲステロンが必要である。結合するホルモンが存在しなければ、カルボキシル末端によって転写が阻害される。ホルモンが結合すると、構造変化が誘発され、阻害作用が解消される。プロゲステロンアンタゴニストは構造の再形成を阻害する。プロゲステロンが受容体に結合すると、続いて二量体化を伴う再形成が起こり、この複合体は核内に入り、DNAに結合する。こうして転写が開始され、その結果としてメッセンジャーRNAが形成され、リボソームにより翻訳されて特定のタンパク質が産生される。
【0089】
がん細胞(特にトリプルネガティブ乳癌細胞)を調節してPR陽性細胞にすることの利益は当該技術分野において知られている。それは、PR陽性細胞はプロゲステロン(並びにそのアンタゴニスト及び/又はアゴニスト)に感受性を示し、ホルモン療法に反応性を示すことができるためである。
【0090】
特に、プロゲステロン受容体の発現が増加すると、PR陽性細胞を、プロゲステロン受容体に作用する薬剤である選択的プロゲステロン受容体修飾薬(SPRM)の標的とすることが可能になる。SPRMは、異なる組織で異なる作用を示す、即ち、ある組織においてはアゴニストとして作用する一方で、他の組織においてはアンタゴニストとして作用することから、受容体フルアゴニスト(プロゲステロン等)やフルアンタゴニスト(アグレプリストン等)とは区別されうる。このような混合作用プロファイル(mixed profile of action)により、組織特異的に刺激又は阻害が行われる。
【0091】
上に示したように、APC1の存在下において、TNBCと見なされる細胞のHER2の発現が増加することが実証されており、したがって、特に本開示は、トリプルネガティブ乳癌を治療するための、APC1(配列番号:1で表される)及びHER2に対する抗がん剤(例えば、カドサイラ又はハーセプチン)の組合せの投与に関する。
【0092】
「ヒト上皮成長因子受容体2」(NEU、NGL、HER2、TKR1、HER-2、c-erbB2、及びHER-2/neuとしても知られる)は、当該技術分野において知られているように、乳癌の約18%~20%で増幅が見られるヒト上皮成長因子受容体2遺伝子(ERBB2)によりコードされる。増幅はHER2を過剰発現させる主要な機序であり、これらの腫瘍においては、チロシンキナーゼ活性を有する185kdの糖タンパクが異常に多いことが見出されている。HER2の過剰発現は乳癌患者の臨床アウトカムに関連している。HER2の状態を幾つかの形で、特に、予後の推定及び幾つかの全身療法に対する反応性の予測に利用することができる。したがって、HER2の状態を、推奨される抗がん療法の種類に関する臨床判断(他の予後因子と共に)に組み込むことができる。重要なことは、幾つかの研究から、HER2を標的とする薬剤が、再発・転移癌の治療(metastatic settings)及びアジュバント療法(adjuvant settings)の両方において非常に有効であることが示されていることにある。例えば、ヒト化モノクローナル抗体であるトラスツズマブ(ハーセプチン)は、HER2陽性患者の転移性乳癌に単独で使用するか又は化学療法と併用すると、奏効率、無増悪期間に加えて生存率さえも向上する。
【0093】
当該技術分野において知られているように、「グルタチオン」(GSH、グルタチオン(γ-L-グルタミル-L-システイニルグリシン)という語は、L-グルタミン酸、L-システイン、及びグリシンを含む低分子量のアミノ酸含有分子(ペプチド)を指す。この分子は、食料供給源及びヒトの体内に見られ、そこで酸化防止剤として作用する。「グルタチオン系」には、細胞内でグルタチオンを合成する酵素及びグルタチオンを酸化防止作用を発揮させる手段として利用する酵素が含まれる。グルタチオンは多剤耐性にも関連している。アルキル化剤、放射線療法、及びシスプラチンに対する耐性及びそれらの間の交差耐性に、細胞内GSH濃度の上昇が関係していることが既に示されている。
【0094】
「上皮成長因子受容体」(EGFR、ErbB1、又はHER1)という語は、当該技術分野において知られており、本明細書において用いられるように、細胞増殖、生存、分化、及び遊走の制御に必須の役割を果たす受容体型チロシンキナーゼである上皮成長因子ファミリー(ErbB)のメンバーを指す。多くのヒト疾患、大部分は特にがんの根底に、ErbB受容体の制御不能がある。EGFRは、細胞外のリガンドに結合する細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、短い膜近傍部位、チロシンキナーゼドメイン、及びチロシンを含むC末端鎖から構成される単鎖の膜貫通糖タンパクである。受容体の細胞外ドメインに可溶性リガンドが結合すると受容体間のホモ二量体及びヘテロ二量体の形成が促進される。受容体の二量体化は細胞内チロシンキナーゼドメインの活性化及びC末端鎖のリン酸化に必須である。次いでホスホチロシン残基は、直接又はアダプタータンパク質を介して、シグナル伝達経路の下流の構成要素を活性化する。EGFRは、標的抗がん剤の合理的デザインの標的となっている。EGFRを標的とする抗がん剤は当該技術分野においてよく知られており、特に、とりわけ、エルロチニブ塩酸塩(Tarceva)、ラパチニブ(Tykerb)、セツキシマブ(Erbitux)、パニツムマブ(Vectibix)、又はゲフィチニブ(Iressa)が挙げられる。
【0095】
「アンドロゲン受容体」という語は、当該技術分野において知られているように、N末端ドメイン、DNA結合ドメイン、及びアンドロゲン結合ドメインの3つの主要な機能ドメインを有するタンパク質を指す。このタンパク質はステロイドホルモンで活性化される転写因子として機能する。ホルモンリガンドが結合すると、受容体はアクセサリータンパク質から解離し、核内に移行し、二量体化して、アンドロゲン応答遺伝子の転写を刺激する。アンドロゲン受容体は様々ながん、その中でも前立腺癌及び乳癌に関係している。アンドロゲン受容体を特異的薬剤の標的とすることは当該技術分野においてよく知られている。
【0096】
「B細胞分化抗原群CD20」(CD20)は、当該技術分野において知られており、本明細書において用いられるように、全てのB細胞表面に発現する活性化されたグリコシル化リンタンパク質を指す。B細胞表面分子はB細胞から形質細胞を発生及び分化させる役割を果たしている。CD20は様々なモノクローナル抗体、特に、リツキシマブ、オビヌツズマブ、イブリツモマチウキセタン(Ibritumoma tiuxetan)、及びトシツモマブの標的であり、これらはいずれも、全てのB細胞リンパ腫及び白血病の治療において活性を示す薬剤である。
【0097】
「分化抗原33」(CD33)という語は、当該技術分野において知られており、本明細書において使用されるように、骨髄球系細胞上に発現する膜貫通受容体を指す。通常これは、骨髄球に特異的であると考えられているが、一部のリンパ球上にも見られる。これはシアル酸に結合し、したがってレクチンのSIGLECファミリーのメンバーである。
【0098】
「プログラム細胞死リガンド(PD-L)」は、当該技術分野において知られているように、プログラム細胞死受容体のリガンドである。プログラム細胞死リガンドの非限定的な例は、PD-L1及びPD-L2である。
【0099】
本明細書において定義する「ST2受容体」又はT1/ST2受容体(「T1/ST2」及び「ST2/T1」とも称される)という語は、3つの細胞外免疫グロブリンドメイン及び細胞内TIRドメインを有するIL-IRスーパーファミリーのメンバーを指す。
【0100】
本発明の単離されたポリペプチドを投与することにより、本明細書において定義する任意の細胞部位又はその断片の発現が調節され、細胞の様々な抗がん剤に対する反応性を変化させることによって、それを必要とする患者に対する抗がん治療の選択肢が広がることを理解すべきである。
【0101】
アメリカがん協会(American Cancer Society)によれば、1990年代後期までがん療法は、ホルモン治療を除けば、増殖細胞を死滅させることにより作用する細胞傷害性薬剤(化学療法薬)から構成されていた。この薬剤は、増殖細胞ほどではないにせよ、正常細胞にも影響を及ぼしていた。古典的な化学療法薬とは対照的に、標的療法は、がん細胞の成長、分裂、及び拡散を制御する過程に加えて、がん細胞を自然死させるシグナルにも影響を及ぼすことにより作用する。標的療法は様々な経路で働く。
【0102】
本明細書における「抗がん剤」という語は、その最も広義の意味で用いられ、当該技術分野において知られている、がんの治療及びがん性細胞の増殖を制御するために使用される任意の抗がん薬又は抗悪性腫瘍薬を指す。様々な実施形態において、抗がん剤は、細胞部位又はその断片を標的とする抗がん剤であり、がんの成長、進行、及び拡散に関与する少なくとも1種の特定の分子又は部位(「分子標的」とも称される)と相互作用することによりがんの成長及び/又は拡散をブロックする薬物(又は分子)を指す。標的がん療法は、「分子標的薬」、「分子標的療法」、又は「プレシジョンメディシン」と称されることもある。
【0103】
幾つかの実施形態において、本開示の抗がん剤は、標的療法、即ち、細胞内又はその表面に(少なくとも部分的に)存在する細胞分子、その部分又は断片を標的とする抗がん剤である。
【0104】
標的療法は、がんに関与する特定の分子標的(又は本明細書において定義する「細胞部位」)に作用し、一方、大部分の標準的な化学療法は、全ての急速に分裂する正常及びがん性細胞に作用するという点で、標準的な化学療法とは異なっている。
【0105】
本明細書における実施例に示すように、TNBC細胞にポリペプチドAPC1を投与することにより、TNBC細胞のヒト上皮成長因子受容体2(HER2)受容体及びエストロゲン受容体アルファの発現が増加し、これらの細胞のHER2又はERに基づく抗がん療法に対する感受性が増大する。
【0106】
したがって幾つかの実施形態において、本開示による前記少なくとも1種の抗がん剤は、前記少なくとも1種の細胞部位と直接的又は間接的に相互作用する。
【0107】
特定の実施形態において、本開示は、それを必要とする患者のがんを治療するための方法であって、前記患者に、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体と、少なくとも1種の抗がん剤とを投与することを含む方法を提供し、前記単離されたポリペプチドは、前記患者のがん細胞の少なくとも1種の細胞部位の発現を増加又は減少させ、前記少なくとも1種の抗がん剤は、前記少なくとも1種の細胞部位と直接的又は間接的に相互作用する。
【0108】
他の実施形態において、本開示は、それを必要とする患者のがんを治療するための方法に使用するための、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体と、少なくとも1種の抗がん剤とを提供し、前記単離されたポリペプチドは、前記患者のがん細胞の少なくとも1種の細胞部位の発現を増加又は減少させ、前記少なくとも1種の抗がん剤は、前記少なくとも1種の細胞部位と直接的又は間接的に相互作用する。
【0109】
抗がん剤に関連して本明細書において用いられる「~と相互作用する」という語は、標的(細胞部位)の活性を変更するように、例えば、例示のみを目的として挙げると、標的の活性を上昇、標的の活性を阻害、標的の活性を制限、又は標的の活性を拡張(extend)するように、直接的又は間接的のいずれかで標的に結合又は接触することを意味する。
【0110】
標的がん療法にはさまざまな種類があり、幾つか例を挙げると、増殖シグナル阻害剤、血管新生阻害剤、及びアポトーシス誘導物質等がある。本開示の方法及び他の態様の幾つかの実施形態において、少なくとも1種の抗がん剤は、上記患者のがん細胞の増殖又は拡散の少なくとも1種を直接的又は間接的に阻害する。
【0111】
特定の実施形態において、本明細書において定義する少なくとも1種の抗がん剤は、上記患者のがん細胞の増殖又は拡散の少なくとも1種を直接的又は間接的に阻害する。
【0112】
本明細書において用いられる「成長(増殖)(growth)」という語は、細胞質の体積、細胞の発生、及び細胞の繁殖の増大、並びに細胞のサイズ又は個体数の増加を指す。がん細胞に関連する「拡散」という語は、がん細胞の転移と、転移を可能にするか、又は結果として転移を生じる様々な細胞過程とに関連する。本明細書において言及する「阻害する」又は「阻害」という語は、がん細胞の成長又は拡散の少なくとも1種を、約1%~5%、約5%~10%、約10%~15%、約15%~20%、約20%~25%、約25%~30%、約30%~35%、約35%~40%、約40%~45%、約45%~50%、約50%~55%、約55%~60%、約60%~65%、約65%~70%、約75%~80%、約80%~85%、約85%~90%、約90%~95%、約95%~99%、又は約99%~99.9%遅延又は低減させることに関連する。
【0113】
更なる特定の実施形態において、本明細書において定義する少なくとも1種の抗がん剤は、前記少なくとも1種の細胞部位と直接的又は間接的に相互作用し、前記細胞部位は細胞表面受容体である。
【0114】
特に本開示は、それを必要とする患者のがんを治療するための方法であって、前記患者に、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体と少なくとも1種の抗がん剤とを投与することを含む、方法を包含し、前記単離されたポリペプチドは、前記患者の細胞の細胞表面受容体の少なくとも1種の発現を増加させ、前記少なくとも1種の抗がん剤は、前記少なくとも1種の細胞表面受容体と直接的又は間接的に相互作用する。
【0115】
更なる実施形態において、本開示は、それを必要とする患者のがんを治療するための方法に使用するための、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体と、少なくとも1種の抗がん剤とを包含し、前記単離されたポリペプチドは、前記患者の細胞の少なくとも1種の細胞表面受容体の発現を増加させ、前記少なくとも1種の抗がん剤は、前記少なくとも1種の細胞表面受容体と直接的又は間接的に相互作用する。
【0116】
様々な実施形態において、本開示による抗がん剤は、免疫療法剤、化学療法剤、シグナル伝達阻害剤、受容体阻害剤、遺伝子発現調節剤、アポトーシス誘導物質、血管新生阻害剤、ホルモン療法剤、代謝阻害剤、抗自食作用剤(例えば、ブレオマイシン又はドキソルビシン)、小胞体ストレス誘導剤、活性酸素種(ROS)誘導剤、又はこれらの組合せである。
【0117】
後に例示するように、ペプチドAPC1を投与することにより、様々な免疫療法抗がん剤、例えば、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2/neu受容体)に対する抗体の効果が向上又は増強されることが示された。
【0118】
当該技術分野において知られているように、がん療法に関連する「免疫療法」(「生物学的療法」又は「バイオセラピー」とも称される)は、がん細胞を破壊する免疫系を発動させる治療を指す。現在、がんの治療に用いられている免疫療法の主要な種類としては、特に、モノクローナル抗体、がんワクチン、及び免疫チェックポイント阻害剤が挙げられる。こうしたタンパク質は、免疫応答を抑制した状態に維持することを助けると共に、T細胞にがん細胞を死滅させないようにすることができる。このタンパク質を阻害すると、免疫系のいわゆる「ブレーキ」が開放され、T細胞はがん細胞をより強力に死滅させることができるようになる。T細胞又はがん細胞上に見られるチェックポイントタンパク質の例としては、PD-1/PD-L1及びCTLA-4/B7-1/B7-2が挙げられる。
【0119】
他の免疫療法としては、がん細胞表面上の特定の分子を認識するモノクローナル抗体が挙げられ、モノクローナル抗体が標的分子に結合すると、その標的分子(本明細書においては「細胞部位」と称する、例えば、細胞表面受容体)を発現する細胞が免疫破壊される。
【0120】
したがって、様々な特定の実施形態において、本開示の抗がん剤は、免疫療法剤、例えば、抗体、モノクローナル抗体、又はその任意の断片若しくは複合体である。
【0121】
他の実施形態において、本開示による抗がん剤は、免疫療法、好ましくは、モノクローナル抗体又は複合体化抗体である。様々な更なる実施形態において、本明細書に定義するモノクローナル抗体又は複合体化抗体は、上皮成長因子受容体2(HER2)、エストロゲン受容体(ER)、又はプロゲステロン受容体(PR)の少なくとも1種に対する抗体である。特定の実施形態において、本開示による少なくとも1種の抗がん剤は、Her2/neu受容体を対象とする。更なる他の実施形態において、モノクローナル抗体は、PD-L1に対する抗体である。
【0122】
本明細書における「抗体」という語は、その最も広義の意味で用いられ、免疫グロブリン遺伝子又はその機能性断片によりコードされる、抗原に特異的に結合及び認識するポリペプチドを指し、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、1価抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)が含まれ、抗原結合性抗体断片も含まれる。このような抗原結合性断片は、例えば、抗原に結合することができるFab及びF(ab’)とすることができる。この種の断片は、当該技術分野において知られている任意の方法、例えば、パパイン(Fab断片を産生する)又はペプシン(F(ab’)断片を産生する)等の酵素を使用するタンパク質分解により産生することができる。抗体は、キメラ抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、及び/又は親和性成熟化抗体とすることができる。
【0123】
本明細書に定義する「モノクローナル抗体」(mAb)という語は、実質的に均一な抗体の集団、即ち、集団を構成する個々の抗体が、少量で存在し得る自然発生する変異体の可能性を除いて、同一であるものを指す。モノクローナル抗体は、単一種の抗原部位(抗原決定基)に対する抗体である。
【0124】
モノクローナル抗体は当該技術分野において知られている任意の方法により作製及び精製することができる。例えば、モノクローナル抗体は、免疫した動物(例えば、ラット、マウス、又はサル)の脾臓又はリンパ節から取り出したB細胞から、雑種細胞の増殖に好ましい条件下で不死化B細胞と融合させることにより、作製することができる。
【0125】
本明細書に定義する「複合体化抗体」(「免疫複合体」としても知られる)という語は、更なる試剤と複合体化(結合又は接合)した、本発明による抗体又はその任意の抗原結合性断片を指す。免疫複合体は当業者に知られている任意の方法、例えば、本発明による抗体に更なる試剤を架橋させることによるか又は組換えDNA法により作製することができる。
【0126】
抗体の作製は当該技術分野においてよく知られている。様々な特定の実施形態において、モノクローナル抗体は、がん細胞を死滅させる毒性分子、具体的には、複合体化抗体であるカドサイラを送達する。トラスツズマブエムタンシン又はado-トラスツズマブエムタンシンとしても知られるカドサイラは、細胞傷害性薬剤であるエムタンシン(DM1)に結合させたモノクローナル抗体であるトラスツズマブ(ハーセプチンとしても知られる)から構成される抗体-薬物複合体である。トラスツズマブ単独では、HER2/neu受容体に結合することによりがん細胞の成長を停止させ、一方、DM1は細胞内に侵入し、チューブリンに結合することにより細胞を破壊する。Her2に結合したトラスツズマブは、受容体のホモ二量体化又はヘテロ二量体化(Her2/Her3)を阻止し、最終的にMAPK及びPI3K/Akt細胞シグナル伝達経路の活性化を阻害する。HER2は特定のがん細胞においてのみ過剰発現しており、モノクローナル抗体はHER2を標的とするので、この複合体は腫瘍細胞に特異的に毒性物質を送達する。
【0127】
したがって、更なる特定の実施形態において、本明細書に定義する抗がん剤は、HER2に対するモノクローナル抗体又は複合体化抗体である。更なる実施形態において、本明細書に定義する少なくとも1種の抗がん剤は、カドサイラ又はハーセプチンである。
【0128】
「シグナル伝達阻害剤」という語は、ある分子から他の分子へと伝えられるシグナルを遮断する物質を指す。このようなシグナルを遮断すると、細胞分裂及び細胞死を含む多くの細胞機能に影響を与えることができ、それにより、がん細胞が死滅し得る。換言すれば、シグナル伝達阻害剤は、シグナル伝達に参加する分子の活性、即ち、細胞がその環境からのシグナルに応答する過程を遮断する。一部のがんにおいて、悪性細胞は、外部の成長因子によってそのように促されることがなくても、分裂を続けるように刺激されている。シグナル伝達阻害剤はこの不適切なシグナル伝達を妨げる。
【0129】
「受容体阻害剤」という語は、当該技術分野において知られているように、受容体の活性を遮断するか又は少なくとも調節する任意の物質を意味する。幾つかの非限定的な実施形態において、受容体阻害剤は、上皮成長因子受容体ファミリーメンバーの阻害剤、即ち、上皮成長因子受容体(EGFR)ファミリーメンバーの活性を遮断する物質を指す。上皮成長因子受容体は、一部の正常細胞の表面に見られ、細胞成長に関与している。EGFRは、一部種類のがん細胞上でも多量に存在する場合があり、それによって、このような細胞を成長及び分裂させるので、EGFRを遮断するとがん細胞の成長を阻害することができる。
【0130】
本開示による幾つかの非限定的な受容体の例には、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2/neu受容体)、エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PR)、上皮成長因子受容体(EGFR)、アンドロゲン受容体、CD20、及びST2が包含される。
【0131】
様々な更なる実施形態において、本明細書に定義する抗がん剤は、エストロゲン受容体を遮断することにより作用する(例えば、タモキシフェン、フルベストラント)。
【0132】
特定の実施形態において、本開示による少なくとも1種の抗がん剤は、前記少なくとも1種の細胞部位と直接的又は間接的に相互作用し、前記少なくとも1種の細胞部位は、細胞表面受容体、例えばHER2、ER、及び/又はPRである。他の実施形態において、本開示による抗がん剤は、HER2、ER及び/又はPRを対象とする。更なる具体的な実施形態において、本開示による抗がん剤は、受容体阻害剤、好ましくは上皮成長因子受容体(EGFR)の阻害剤である。
【0133】
本明細書に定義する「遺伝子発現調節剤」という語は、遺伝子発現の制御に直接的又は間接的に関係する薬剤を指す。
【0134】
本明細書において用いられる「アポトーシス誘導物質」という語は、がん細胞に、制御された細胞死、即ちアポトーシスの過程を辿らせる薬剤を意味する。幾つかの非限定的なアポトーシス誘導物質の例として、ドキソルビシン、ブレオマイシン、シスプラチン、フルオロウラシル(5FU)が挙げられる。
【0135】
構造(7S,9S)-7-[(2R,4S,5S,6S)-4-アミノ-5-ヒドロキシ-6-メチルオキサン-2-イル]オキシ-6,9,11-トリヒドロキシ-9-(2-ヒドロキシアセチル)-4-メトキシ-8,10-ジヒドロ-7H-テトラセン-5,12-ジオンを有するドキソルビシン(例えば、アドリアマイシン又はドキシルとも称される)は、ストレプトマイセス・ペウセティウス(Streptomyces peucetius)から得られる抗悪性腫瘍薬である抗生物質である。ドキソルビシンはDNA螺旋の塩基対の間に挿入され、それによってDNAの複製を阻止し、最終的にタンパク質合成を阻害する、アントラサイクリン系トポイソメラーゼ阻害剤である。加えて、ドキソルビシンはトポイソメラーゼIIを阻害し、その結果として、DNA複製時に安定した切断可能な酵素-DNA結合複合体の生成を増大させ、続いて二重鎖切断後のヌクレオチド鎖の連結を阻止する。ドキソルビシンは、酸素フリーラジカル(ROS)も発生させ、その結果として細胞膜脂質の脂質過酸化に伴う細胞傷害をもたらす。ドキソルビシンの任意の誘導体も本開示に包含される。
【0136】
シスプラチン、シス白金、又はcis-ジアンミンジクロロ白金(II)(ClPt)は様々な種類のがんの治療に使用される白金系化学療法薬であり、その種類に分類された最初のメンバーであるが、現在はカルボプラチン及びオキサリプラチンもこれに含まれる。
【0137】
特定の実施形態において、本開示は、それを必要とする患者のがんを治療するための方法であって、前記患者に、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体と、少なくとも1種の抗がん剤とを投与することを含む方法を提供し、前記少なくとも1種の抗がん剤は、アポトーシス誘導物質、好ましくはドキソルビシン、ドキソルビシン誘導体、又はシスプラチンである。
【0138】
更なる実施形態において、本開示は、それを必要とする患者のがんを治療するための方法に使用するための、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体と、少なくとも1種の抗がん剤とを提供し、前記少なくとも1種の抗がん剤は、アポトーシス誘導物質、好ましくは、ドキソルビシン、ドキソルビシン誘導体又はシスプラチンである。
【0139】
本明細書において用いられる「血管新生阻害剤」という語は、腫瘍への新しい血管の成長(腫瘍血管新生)をブロックする薬剤を指す。血管新生を阻害する幾つかの標的療法は、新しい血管の形成を刺激する物質である血管内皮成長因子(VEGF)の作用を妨げる。
【0140】
当該技術分野において知られており、本明細書において使用される「ホルモン療法」という語は、成長のために特定のホルモンを必要とするホルモン感受性腫瘍の成長を停止させるか又は少なくとも遅らせる薬剤を指す。ホルモン療法は身体のホルモン産生を阻止することによるか又はホルモンの作用を妨げることにより作用する。ホルモン療法剤の例としては、これらに限定されるものではないが、乳癌の治療及び予防に用いられるタモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼ阻害剤、及び黄体形成ホルモン(LH)遮断薬、並びに前立腺癌の治療に使用される黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)アゴニストが挙げられる。
【0141】
本明細書において用いられる「代謝阻害剤」は、がん細胞の代謝を妨げる薬剤を指し、幾つかの例として、解糖を阻害する薬剤(例えば、ダウノルビシン(ダウノマイシンとしても知られる)又はパクリタキセル)、ミトコンドリア代謝を阻害する薬剤(例えば、パクリタキセル又はオメプラゾール)が挙げられる。
【0142】
後の実施例で詳述するように、APC1を前投与することにより、がん細胞のドキソルビシン又はシスプラチンに対する感受性が増大した。ドキソルビシン及びシスプラチンは、特に化学療法剤として分類することができる。
【0143】
当該技術分野においてよく知られているが、「化学療法剤」は、がんの治療に使用され、場合によっては、数日間から数週間に亘り他の薬剤と組み合わせて使用される。この種の薬剤は、増殖速度が速い細胞に毒性を示す。
【0144】
したがって、更なる実施形態により、本明細書において定義する少なくとも1種の抗がん剤は、化学療法剤、好ましくは、ドキソルビシン若しくはドキソルビシン誘導体、シスプラチン、タキソール、又は活性酸素種(ROS)誘導剤である。
【0145】
本明細書において定義する「抗自食作用剤」という語は、オートファジーに関与する過程のいずれかを少なくとも部分的に阻害する任意の薬剤を含むことを意味する。当該技術分野において知られているように、オートファジーは、損傷した細胞小器官及びタンパク質を分解することにより栄養の再利用を促進する過程であり、少なくとも神経変性疾患に対し細胞を保護する機序として認められている。一方、オートファジーを阻害することは、様々ながんの治療において望ましい(例えば、クロロキン又はヒドロキシクロロキンを、多発性新生物(multiple neoplasm)を治療するための他の薬物と組み合わせて用いる)。
【0146】
本明細書において定義する「小胞体ストレス誘導剤」という語は、小胞体(ER)のストレスを増大するか又は刺激する任意の薬剤を含むことを意味している。当該技術分野において知られているように、小胞体(ER)は、分泌タンパク質及び膜貫通タンパク質を正しく折り畳み、処理するように機能する。ERの機能を乱す薬剤は、正しく折り畳まれなかった、又は折り畳まれなかったタンパク質をER内腔に蓄積させ、「ERストレス」として知られる状態にする。ERストレス状態が解除されなければ、様々な種類のがんの治療に所望されるアポトーシスが促進される。
【0147】
イオン及び分子の一群である活性酸素種(ROS)は、ヒドロキシルラジカル(・OH)、アルコキシルラジカル、スーパーオキシドアニオン(O・-)、一重項酸素、及び過酸化水素(H)を含み、これらは全て非常に反応性が高い化学種である。内在性ROSは大部分が呼吸時にミトコンドリア内で形成される。低濃度のROSは哺乳動物の細胞の生物学的機能の制御において重要な役割を果たすが、ROSが過剰に産生されると、細胞内生体高分子に与える酸化損傷作用により細胞死が誘導される可能性がある。細胞死を誘導することは様々な種類のがんの治療において望ましく、したがってROSは、抗腫瘍療法として重要な役割を果たす。
【0148】
実際、分子標的薬及び化学療法剤等の一部の抗がん薬は、ROSの産生を誘導することによりがん細胞を効果的に死滅させる。加えて、光線力学的療法(PDT)は、主として、がん細胞を死滅させるためにROSバーストを誘発することに基づいている。電離放射線を利用する放射線療法により細胞死が誘導される機序は、ROS産生とも称される。したがって、本明細書において用いられる「活性酸素種(ROS)誘導剤」は、ROSの産生を誘導する任意の薬剤を指す。
【0149】
上に述べたように、本明細書において定義する単離されたポリペプチドは、少なくとも1種の抗がん剤と一緒に投与される。「少なくとも1種の」という語は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又はそれを超える種類の本明細書において定義する抗がん剤を含むことを意味する。
【0150】
上に述べたように、本発明は、細胞に本開示の単離されたポリペプチドを投与することにより、TNBC細胞の細胞表面上のヒト上皮成長因子受容体2(HER2)受容体の発現が増加し、これらの細胞が、HER2受容体に対する標的療法を受けやすくなることを見出したことに基づく。実際、ペプチドAPC1及びカドサイラの両方で処理された細胞のアポトーシスレベルが、カドサイラ単独で処理された細胞よりも少なくとも2.5倍高くなった。添付の実施例においても、本開示のペプチドによってエストロゲン受容体の発現が増加し、タモキシフェン(例えば、図11図12、及び図13)及び他の抗がん剤、即ち、ドキソルビシン及びシスプラチン(図14図15図16、及び図17)の効果が実証された。
【0151】
したがって本開示は、本発明の単離されたポリペプチドを、少なくとも1種の抗がん剤と一緒に投与する併用療法を提供する。換言すれば、本開示は、それを必要とする患者のがんを治療するための方法であって、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体を、少なくとも1種の抗がん剤と組み合わせて前記患者に投与することを含む、方法を提供する。
【0152】
更に本発明は、それを必要とする患者のがんを治療するための方法に使用するための、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体と、少なくとも1種の抗がん剤との組合せを提供する。
【0153】
「併用(組合せ)(combination)」又は「併用療法」という語は、2種以上の薬剤(即ち、本明細書において定義する単離されたポリペプチド及び少なくとも1種の抗がん剤)の同時又は連続投与を意味することができる。例えば、並行(concurrent)(同時)投与は、2種以上の薬剤が並行して(同時に)投与されることを意味し、連続投与は、2種以上の薬剤が異なる時点で、任意選択で異なる投与経路により患者に投与されることを意味する。
【0154】
特定の実施形態において、本明細書に定義する組合せは、前記患者の前記少なくとも1種の抗がん剤に対する反応性を、前記少なくとも1種の抗がん剤単独で処理した細胞又は器官の対応する比率と比較して、少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、100%、200%、300%、400%、500%、600%、700%、800%、900%、又は約1000%増大させる。
【0155】
様々な実施形態において、本開示による単離されたポリペプチドは、前記少なくとも1種の抗がん剤を投与する前、同時、又は後に投与される。単離されたポリペプチド及び本明細書に定義した少なくとも1種の抗がん剤の投与は、当該技術分野において知られている任意の経路により実施することができる。
【0156】
本発明による投与は次に示す経路のいずれかにより実施することができる:経口投与、静脈内、筋肉内、腹腔内、イントラテカル(intratechal)、若しくは皮下注射、直腸内投与、鼻腔内投与、眼内投与、又は局所投与。
【0157】
特定の実施形態において、本明細書において定義する単離されたポリペプチドは、前記少なくとも1種の抗がん剤を投与する前に投与される。更なる特定の実施形態において、本明細書において定義する単離されたポリペプチドは、前記少なくとも1種の抗がん剤を投与する約1~7日前に投与される。
【0158】
上に詳述したように、本発明は、がんの治療に用いるための方法及び単離されたポリペプチドを提供する。
【0159】
本明細書において用いられる「がん」及び「腫瘍」という語はその最も広義の意味で使用され、組織又は器官の過形成にも同様に関連する。組織がリンパ系又は免疫系の一部である場合、悪性細胞には循環細胞の非固形腫瘍も含むことができる。他の組織又は器官の悪性腫瘍は、固形腫瘍を生成させる可能性がある。一般に、本発明の方法及び更なる態様は、非固形腫瘍及び固形腫瘍の治療に使用することができる。がん及びがんの種類の診断は、当該技術分野において知られているように、熟練の内科医により行われる。
【0160】
がんの種類の非限定的な例としては、副腎皮質癌、黒色腫、悪性黒色腫、非黒色腫皮膚癌、カポジ肉腫、膀胱癌、大腸癌、結腸直腸癌、直腸癌、神経外胚葉及び松果体癌、小児脳幹グリオーマ、小児小脳星細胞腫、小児大脳星細胞腫、小児髄芽腫、小児視経路グリオーマ、髄膜種、混合膠腫、乏突起神経膠腫、星状細胞腫、上衣腫、下垂体腺腫、メタスタシックアデノカルシノーマ(Metastasic Adenocarcinoma)、聴神経腫瘍、傍脊柱部奇形腫(Paravertebral teratoma)、乳癌、腺管癌、乳腺腫瘍、卵巣癌、カルチノイド腫瘍、子宮頸癌、子宮癌、子宮内膜癌、膣癌、外陰癌、妊娠性絨毛性癌(Gestational Trophoblastic cancer)、ファロペイン(Fallopain)、子宮肉腫、皮膚T細胞リンパ腫、リンパ腫(ホジキン病及び非ホジキン病)、網膜芽細胞腫、軟部肉腫、ウィルムス腫瘍、ファンコニ貧血、ランゲルハンス細胞組織球症、腎臓の悪性ラブドイド腫瘍、肝臓癌、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、絨毛癌、内分泌癌、食道癌、ユーイング肉腫、眼癌、胃癌(gastric cancer)、消化器癌、尿生殖器癌、神経膠腫、婦人科癌、頭頸部癌、肝細胞癌、下咽頭癌、アイスレットコール(Islet call)癌、腎臓がん、喉頭癌、肺癌、男性乳癌、中皮腫、多発性骨髄腫、鼻咽頭癌、非黒色腫皮膚癌、食道がん、骨肉腫、膵臓癌、下垂体癌、前立腺癌、腎細胞癌、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、肉腫、皮膚癌、扁平上皮癌、胃癌(stomach cancer)、精巣癌胸腺癌、甲状腺癌、移行上皮癌、絨毛性癌、急性リンパ性白血病、白血病、急性骨髄性白血病、腺様嚢胞癌、肛門癌、骨癌、腸癌、脂肪肉腫、腎芽細胞腫及び骨肉腫が挙げられる。
【0161】
本開示に包含される具体的ながんの種類は、前記少なくとも1種の抗がん剤に対する反応性を増大させることにより利益が得られるであろう、例えば、本明細書において定義する単離されたポリペプチドを投与することにより、少なくとも1種の細胞部位(例えば、幾つかを挙げると、受容体、細胞表面受容体)の発現量が増加することによりそのことが示される、種類のがんに包含される。
【0162】
更なる特定の実施形態において、本開示によるがんは、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、大腸癌、B細胞リンパ腫、急性骨髄性白血病(AML)、又は膵臓癌の少なくとも1種である。
【0163】
後に示すように、MDA231、MDA-MB-468、及びBTS49(全てトリプルネガティブ乳癌細胞株)に単離されたペプチドAPC1を投与すると、これらの細胞の分子部分、即ち受容体HER2を標的とする抗がん剤を用いた治療に対する感受性が増大した。したがって、特定の実施形態において、本明細書において定義するがんは乳癌である。更なる特定の実施形態において、本明細書において定義するがんはトリプルネガティブ乳癌(TNBC)である。
【0164】
「トリプルネガティブ乳癌」(TNBC)という語は、エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PR)、又はHer2/neuの遺伝子を発現しない任意の乳癌を指す。ほとんどの化学療法は上の3種の受容体のうちの1つを標的としているため、この受容体を発現しないTNBCは治療がより困難である。
【0165】
当該技術分野において知られているように、ホルモン療法(例えば、抗エストロゲン)又は標的療法(例えば、トラスツズマブ)等の特定の乳癌治療戦略は、腫瘍細胞が対応する受容体及び標的を発現する場合にのみ有効である。乳癌では、ホルモン療法にはエストロゲン(ER)及び/又はプロゲステロン受容体(PR)が有効に発現していることが必要であり、一方、トラスツズマブ療法は、それをコードするがん遺伝子であるERBB2の増幅に起因してHER2が過剰発現している腫瘍にのみ適用される。上に示したように、標的療法(例えば、ホルモン療法及びトラスツズマブ)は、化学療法よりも有害な副作用が少なく、化学療法よりも更なる利点がある(例えば、患者の無病生存率及び全生存期間の延長)。ところが、一部のがん腫瘍はERもPRも発現せず、HER2も過剰発現していない(例えば、TNBC)。
【0166】
トリプルネガティブ乳癌は、異種の癌の群を含む。あらゆる種類のTNBCが本開示に包含される。上記及び他の実施形態において、TNBCは、進行TNBC、局所進行TNBC、又は転移性TNBCである。
【0167】
他の一態様により、本開示は、それを必要とする患者のトリプルネガティブ乳癌(TNBC)を治療するための方法であって、前記患者に、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体と、少なくとも1種の抗がん剤とを投与することを含む、方法を提供する。
【0168】
更に本開示は、それを必要とする患者のトリプルネガティブ乳癌(TNBC)を治療するための方法に使用するための、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体と、少なくとも1種の抗がん剤とを提供する。
【0169】
更なる特定の実施形態において、本明細書に定義する前記少なくとも1種の抗がん剤は、HER2、ER、及び/又はPRを対象とする。
【0170】
様々な特定の実施形態において、本明細書に定義する単離されたポリペプチドは、前記患者のがん細胞のヒト上皮成長因子受容体2(HER2/neu受容体)、エストロゲン受容体(ER)、又はプロゲステロン受容体(PR)の少なくとも1種の発現を増加させる。
【0171】
更なる特定の実施形態において、本開示による抗がん剤は、Her2/neu受容体(例えば、本明細書に定義する抗がん剤は、カドサイラやハーセプチン等のHer2/neu受容体に対する抗体である)、ER(例えば、本明細書に定義する抗がん剤は、タモキシフェン又はラロキシフェンである)、又はPRと相互作用する。
【0172】
更なる実施形態において、本開示による少なくとも1種の抗がん剤は、化学療法剤、好ましくは、ドキソルビシン又はドキソルビシン誘導体、シスプラチン、タキソール、又は活性酸素種(ROS)誘発剤である。
【0173】
本明細書において用いられる「治療する(treat)」「治療すること(treating)」「治療(treatment)」という語は、本明細書において定義する患者の疾患の活動性の1種又は複数種の臨床的兆候を改善することを意味する。「治療」とは、療法的治療を指す。治療を必要とするのは、がんに罹患している哺乳動物の被験体である。したがって、「患者」又は「それを必要とする患者」という語は、本明細書において定義する単離されたポリペプチド及び少なくとも1種の抗がん剤又はその任意の医薬組成物を、がん、特にヒトの患者のがんを克服するか又は少なくとも進行を遅らせるために投与することが所望される任意の哺乳動物、例えばヒトを意味する。がんの診断は熟練の内科医に知られている方法により実施することができる。
【0174】
幾つかの実施形態において、本発明によるそれを必要とする患者は、乳癌と診断されているか又は罹患している被験体であり、特定の実施形態において、それを必要とする患者は、トリプルネガティブ乳癌(TNBC)と診断されているか又は罹患している被験体を指す。
【0175】
様々な実施形態において、本明細書において定義するそれを必要とする患者は、事前に化学療法を施されており、がんが進行又は再発している。
【0176】
更に本開示は、それを必要とする患者のがんを治療するため又はトリプルネガティブ乳癌(TNBC)を治療するための医薬の調製における、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体と、少なくとも1種の抗がん剤との使用を提供する。
【0177】
上に示したように、本開示は、それを必要とする患者のがんを治療するための方法であって、前記患者に、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体と、少なくとも1種の抗がん剤とを投与することを含む、方法を提供する。
【0178】
後に詳述するように、本開示により、がん細胞(又は場合により動物)に、配列番号:1で表されるアミノ酸配列EKGAAFSPIYPRRKを有するペプチドAPC1を投与することにより、抗がん剤を用いた治療に対するがん細胞の反応性が増大したことを例示する。
【0179】
本明細書において定義する「単離されたポリペプチド」という語は、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド(本明細書において「APC1」と称する)、又は配列番号:1で表されるアミノ酸配列の機能性断片若しくは誘導体、又は前記単離されたペプチドの医薬上許容される塩を包含する。「単離された」という語は、それらの本来の環境から取り出され、単離又は分離された、本明細書に記載するアミノ酸配列、ペプチド、又はポリペプチド等の分子を指す。
【0180】
特定の実施形態において、本開示による単離されたポリペプチドは、配列番号:1で表されるアミノ酸配列からなる。他の実施形態において、本開示による単離されたポリペプチドは、配列番号:2又は配列番号:3で表されるアミノ酸配列からなる。
【0181】
上に示したように、「ポリペプチド」は、任意選択的に、そのアミノ酸残基の1つ又は複数が修飾、例えば、マノシレーション(manosylation)、グリコシル化、アミド化(例えば、C末端アミド)、カルボキシル化、又はリン酸化されていてもよい、アミノ酸残基の分子鎖を指す。本開示のポリペプチドは、合成により、遺伝子工学的方法により、宿主細胞内で発現させることにより、又は当該技術分野において知られている他の任意の好適な手段により得ることができる。ペプチド又はポリペプチドを作製するための方法は当該技術分野においてよく知られている。
【0182】
本明細書において用いられる「アミノ酸」という語は、天然又は合成のアミノ酸残基に加えて、天然のアミノ酸と同様に機能するアミノ酸類似体及びアミノ酸擬似体を指す。天然のアミノ酸とは、遺伝暗号によりコードされるものに加えて、後段で修飾されたアミノ酸、例えば、ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸、及びO-ホスホセリンである。アミノ酸という語は、L-アミノ酸、及びL-アミノ酸の鏡像体である、α炭素に対する鏡像異性を反転させた、D-アミノ酸を包含する。
【0183】
「アミノ酸配列」又は「ポリペプチド配列」という語は、ペプチド及びタンパク質の鎖中に存在するペプチド結合で連結しているアミノ酸残基の順序にも関係している。この配列は、一般に、遊離アミノ基を含むN末端から遊離カルボキシル基を含むC末端までが報告される。
【0184】
「含む(comprising)」という語は、本開示による単離されたポリペプチドが、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含むが、このペプチドのN末端又はC末端又はその両方の末端に、更なるアミノ酸残基も含むことができる(例えば、単離されたポリペプチドは、配列番号:2又は配列番号:3で表されるアミノ酸配列(両方共、そのC末端に配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む)からなるように、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含むことができる)ことを意味する。単離されたポリペプチドは、本開示により、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含み、配列番号:1で表されるペプチドのN末端及び/又はC末端に保護基も有するポリペプチドも包含する。保護基は、当該技術分野において知られており、とりわけ、アルコール保護基、アミン保護基、カルボニル保護基等が含まれる。
【0185】
上に示したように、本開示は、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドの機能性断片又は誘導体を含む単離されたポリペプチドも包含する。
【0186】
本明細書において定義する「断片」という語は、本発明によるポリペプチドから少なくとも1個のアミノ酸残基を欠失させることにより得られる、本開示による単離されたポリペプチドよりも少なくとも1個のアミノ酸が短い任意のペプチド又はポリペプチドを指す。
【0187】
具体的には、本発明による単離されたポリペプチドの断片は、配列番号:1で表される配列よりも1、2、3、4、5個、又はそれを超える個数のアミノ酸残基が短い、配列番号:1の連続したアミノ酸の一部を含むポリペプチドである。換言すれば、本明細書において定義する断片は、配列番号:1で表される配列の9、10、11、12、13、又は14個のアミノ酸残基を含むことができる。
【0188】
「誘導体」という語は、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含むが、その全配列中、1個又は複数個のアミノ酸残基が異なる、即ち、配列番号:1の配列全体の中に欠失、置換(例えば、少なくとも1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置き換わっている)、逆位、又は挿入を有するポリペプチドを含むことを意味する。この語はまた、全配列中の少なくとも1個のアミノ酸残基が、それぞれのDアミノ酸残基に置き換わっているものも包含する。誘導体は、配列番号:1で表されるアミノ酸配列の少なくとも1個のアミノ酸残基が合成アミノ酸残基、アミノ酸類似体、又はアミノ酸擬似体に置き換わっているものも包含する。
【0189】
アミノ酸の「置換」は、1個のアミノ酸が他のアミノ酸に、例えば、構造及び/又は化学的性質が類似している他のアミノ酸に置き換わった結果である(保存的アミノ酸置換)。アミノ酸の置換は、関与する残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、及び/又は両親媒性の類似性に基づき行うことができる。例えば、次に示す8つの群は、互いに保存的置換となるアミノ酸を含む:
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7)セリン(S)、トレオニン(T);及び
8)システイン(C)、メチオニン(M)。
【0190】
アミノ酸置換はまた、配列番号:1で表される配列の少なくとも1個のアミノ酸残基を、上に定義し、当該技術分野において知られている、少なくとも1種の合成アミノ酸残基により行うことも、少なくとも1種のアミノ酸類似体又はアミノ酸擬似体により行うこともできる。
【0191】
これらの改変されたポリペプチド断片又は誘導体は、元のペプチドの生物活性を変化させてはならないことが理解される。「機能性」という語は、未改変ポリペプチド(配列番号:1で表されるアミノ酸配列を有する)の生物活性と定性的に類似した生物活性を保持している、配列番号:1で表されるアミノ酸配列の任意の断片又は誘導体を包含する。本明細書において定義する断片又は誘導体の生物活性は、当該技術分野において知られている任意の方法により、例えば、本明細書に記載するもの、即ち、前記断片又は誘導体が、がん細胞の本明細書において定義する少なくとも1種の細胞部位の発現を増加することを監視することにより決定することができる。
【0192】
特定の実施形態において、本開示は、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドの機能性断片又は誘導体に関し、前記機能性断片又は誘導体は、本発明の未改変の単離されたポリペプチド、即ち、配列番号:1、配列番号:2、又は配列番号:3で表されるアミノ酸配列のうちの1つのアミノ酸配列との同一性が、少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%、より好ましくは95%、特に99%である、アミノ酸配列を有する。
【0193】
したがって、様々な実施形態において、本開示は、それを必要とする患者のがんを治療するための方法であって、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体と、少なくとも1種の抗がん剤とを前記患者に投与することを含み、機能性断片又は誘導体は、配列番号:1で表されるアミノ酸配列との同一性が、少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%、又は95%である。
【0194】
本開示の単離されたペプチド及び/又は抗がん剤は、当該技術分野において知られている任意の方法によって、それ自体を、又は当該技術分野において知られている医薬上許容される担体、希釈剤、及び/又は賦形剤(例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)又は生理食塩水)と一緒に、投与することができる。更に、本明細書において定義する単離されたペプチドの任意の医薬上許容される塩又は溶媒和物が本開示に包含される。
【0195】
換言すれば、本明細書において定義する単離されたポリペプチド及び/又は前記少なくとも1種の抗がん剤は、任意選択で、医薬上許容される担体、希釈剤、及び/又は賦形剤を更に含む医薬組成物中に含まれる。単離されたポリペプチド及び抗がん剤は、別々の医薬組成物に含まれていても、同一の医薬組成物に含まれていてもよい。
【0196】
本開示の医薬組成物は、一般に、当該技術分野において知られている緩衝剤、その浸透圧を調整する薬剤、並びに任意選択で、1種又は複数種の医薬上許容される担体、希釈剤及び/又は賦形剤を含む。補助的な有効成分も組成物に組み込むことができる。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコール等)、それらの好適な混合物、及び植物油を含む溶媒又は分散媒とすることができる。
【0197】
様々な実施形態において、本開示による単離されたポリペプチド及び/又は前記抗がん剤は、治療有効量で投与される。
【0198】
当該技術分野において知られているように、「治療有効量」という語は、研究者、獣医師、医師(medical doctor)、又は他の臨床家が求めている、組織、系、動物、又はヒトの生物学的又は医学的応答を誘発しうる薬物又は医薬品(即ち、本明細書において定義する単離されたポリペプチド及び抗がん剤)の量を意味することを意図している。治療有効量の決定は、当該技術分野においてよく知られている臨床パラメータに基づき熟練の内科医により行うことができる。
【0199】
ヒトに対する治療的に有効なAPC1の用量は、当業者により、当該技術分野において知られている方法により、例えば、本明細書において後に例示する試験により評価することができる。
【0200】
後の実施例において示すように、ペプチドAPC1は、HER2/neu受容体に対する抗体、エストロゲン受容体に対するタモキシフェンに加えて、他の作用機序により作用するドキソルビシン及びシスプラチンを含む様々な抗がん剤に対するがん細胞の反応性を増大させた。したがって本発明は、それを必要とする患者のがん細胞の少なくとも1種の抗がん剤に対する感受性を増大させるための方法であって、前記患者に、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体を投与することを含む方法を更に提供し、前記単離されたポリペプチドは、前記患者のがん細胞の少なくとも1種の細胞部位の発現を調節し、それによって前記がん細胞の前記少なくとも1種の抗がん剤に対する感受性を増大させる。
【0201】
本発明の更なる他の態様により、それを必要とする患者のがん細胞の少なくとも1種の抗がん剤に対する感受性を増大させるための方法に使用するための、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体が提供され、前記単離されたポリペプチドは、前記患者のがん細胞の少なくとも1種の細胞部位の発現を調節し、それによって前記がん細胞の前記少なくとも1種の抗がん剤に対する感受性を増大させる。
【0202】
特定の実施形態において、本発明によるがん細胞の感受性を増大させるための方法は、前記患者に前記少なくとも1種の抗がん剤を投与することを更に含む。
【0203】
更なる特定の実施形態における、本発明によるがん細胞の感受性を増大させるための方法において、前記がんは、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、又は大腸癌、B細胞リンパ腫、急性骨髄性白血病(AML)、又は膵臓癌の少なくとも1種である。
【0204】
それを必要とする患者のがん細胞の少なくとも1種の抗がん剤に対する感受性を増大させる方法の更なる他の特定の実施形態においては、本明細書に定義する前記単離されたポリペプチドを、結腸直腸癌細胞及び肺癌細胞に投与してこれらの細胞をEGFR陽性細胞に形質転換し、それにより、これらの細胞に、古典的なEGFR阻害剤、例えばEGFRに結合して細胞死を誘導するモノクローナル抗体を用いた治療に対する感受性を付与する。
【0205】
幾つかの実施形態において、本明細書において定義するがん細胞の分化を誘発する方法は、in vivoで実施され、他の実施形態においては、in vitroで実施される。
【0206】
本開示に関連する「感受性の増大」という語は、本明細書において定義する単離されたペプチドで処理していない細胞と比較して、少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、100%、200%、300%、400%、500%、600%、700%、800%、900%、又は約1000%、特定の刺激、この場合は、本明細書に定義した細胞部位を標的とする抗がん剤の効果を受けやすい、反応しやすい、影響を受けやすい、又は応答しやすくなったがん細胞の状態を指す。
【0207】
特に本開示の単離されたポリペプチドの投与を行っていないがん細胞は、無処理(naive)であり、本明細書において定義する細胞部位を標的とする抗がん剤の効果に対し非感受性又は非反応性であると称する。様々な実施形態において、本明細書において定義する単離されたポリペプチドは、ホルモン療法にもはや応答せず、その効力が弱まった前立腺癌細胞を、ホルモン療法に応答する細胞に形質転換することができる。
【0208】
更なる実施形態において、本開示による単離されたポリペプチドは、EGFR阻害剤に応答しない肺癌細胞がレスポンダー細胞になるように形質転換する(それにより、EGFR阻害剤に反応しない肺癌細胞のEGFR阻害剤に対する感受性が増大される)。
【0209】
更なる他の実施形態において、本開示による単離されたポリペプチドは、EGFR阻害剤に応答しない結腸直腸がん(CRC)細胞を形質転換してレスポンダーにする(それにより、EGFR阻害剤に応答しないCRC細胞のEGFR阻害剤に対する感受性が増大される)。
【0210】
本明細書において定義する本発明の単離されたペプチドと併用することができる抗がん剤の、具体的な、但し非限定的な例としては、これらに限定されるものではないが、カドサイラ、ハーセプチン、タモキシフェン、シスプラチン、及びドキソルビシンが挙げられる。
【0211】
本明細書において用いられる「がん細胞」という語は、任意の種類のがん及びそれに由来する任意の種類のがん細胞を包含することを意味する。
【0212】
更に本議論は:
(i)配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体と、任意選択で、医薬上許容される担体、希釈剤、及び/又は賦形剤と;
(ii)抗がん剤と、任意選択で、医薬上許容される担体、希釈剤、及び/又は賦形剤と;
を含む、キットを提供する。
【0213】
様々な特定の実施形態において、本発明によるキットは、前記少なくとも1種の細胞部位と直接的又は間接的に相互作用する抗がん剤に関する。更なる実施形態において、本発明によるキットは、細胞部位を標的とする抗がん剤に関する。
【0214】
幾つかの実施形態において、本発明によるキットは使用説明書を更に含む。
【0215】
他の実施形態において、本発明によるキットは、免疫療法剤、化学療法剤、シグナル伝達阻害剤、受容体阻害剤、遺伝子発現調節剤、アポトーシス誘導物質、血管新生阻害剤、ホルモン療法剤、代謝阻害剤、抗自食作用剤、小胞体ストレス誘導剤、活性酸素種(ROS)誘導剤、又はこれらの組合せである、抗がん剤に関する。
【0216】
更なる実施形態において、本発明によるキットは、配列番号:1で表されるアミノ酸配列からなる単離されたポリペプチドに関する。
【0217】
更に本開示は、それを必要とする患者のがんを治療する方法に使用するための、本明細書において定義するキットを提供する。
【0218】
様々な特定の実施形態において、本明細書において定義する単離されたポリペプチドは、単回投与することができる。更なる実施形態において、本明細書において定義する単離されたポリペプチドは、反復投与することができる。
【0219】
本明細書において用いられる「約」という語は、言及した値から1%、より具体的には5%、より具体的には10%、より具体的には15%、場合によっては20%、高い又は低い方向に逸れていてもよい値を示唆し、この逸脱範囲には、整数値が包含され、適切であれば、連続する範囲を構成する非整数値も包含される。
【0220】
開示及び説明を行ってきたが、本発明は、本明細書に開示された具体的な例、方法ステップ、及び組成物は、幾分変化し得るため、このような方法ステップ及び組成物に限定されないことを理解すべきである。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲及びその均等物によってのみ限定されるので、本明細書において用いる専門用語も、具体的な実施形態を説明する目的にのみ使用され、限定を意図するものではないことを理解すべきである。
【0221】
「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(having)」、及びそれらの活用形は、「含むが、それらに限定されない」ことを意味する。この語は「からなる(consisting of)」及び「から基本的になる(consisting essentially of)」という語を包含する。「から基本的になる」という句は、組成物又は方法が、追加の構成要素及び/又はステップを含み得るが、この追加の構成要素及び/又はステップが、特許請求する組成物又は方法の基本的及び新規な特徴を実質的に変えない場合に限られることを意味する。本明細書及び実施例及び後述の特許請求の範囲全体を通して、文脈によりそうでないことが必要でない限り、「含む(comprise)」、並びにその変化形である「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」等は、明言された整数又はステップ又は整数若しくはステップの群を含むが、他の任意の整数又はステップ又は整数若しくはステップの群を除外しないことを示唆していると理解される。
【0222】
本明細書において用いられる「方法」という語は、所与の課題を達成するための様式、手段、技法、及び手順を指し、これらに限定されるものではないが、化学、薬理学、生物学、生化学、及び医学分野の専門家に知られている様式、手段、技法、及び手順、又は当該専門家によって、公知の様式、手段、技法、及び手順から容易に開発される、様式、手段、技法、及び手順が含まれる。
【0223】
本開示は、がん細胞の分化を誘導する方法であって、前記細胞に、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド又はその機能性断片若しくは誘導体を投与することを含む、方法を更に提供する。
【0224】
「分化を誘導する」又は「分化の誘導」という語は、細胞生化学の変化、成長の阻害、及び細胞タイプの分化の促進を、引き起こす、発生させる、促進する、又は影響を与えることを指す。
【0225】
幾つかの実施形態において、本明細書において定義する単離されたポリペプチドは、肺、大腸、前立腺、又は乳房のがん幹細胞の分化を誘導し、これらの細胞がこれらの疾患の古典的な標的抗がん療法に応答するようにする。
【0226】
上の実施形態は、本発明の様々な態様、即ち、本発明に使用するための、治療方法、がん細胞の感受性を増大させる方法、単離されたペプチド、及び追加の抗がん剤、並びにキットに等しく言及していることに留意されたい。
【0227】
本明細書及び特許請求の範囲に用いる単数形「1の(a、an)」及び「その(the)」は、文脈が明らかにそれ以外を指示していない限り、複数形も含むことに留意しなければならない。
【0228】
本明細書及び実施例及びそれに続く特許請求の範囲全体を通して、文脈がそうでないことを必要としていない限り、「含む(comprise)」という語及びその変化形である「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」等は、明記した整数又はステップ又は整数若しくはステップの群を包含するが、他の整数又はステップ又は整数若しくはステップの群を除外しないことを示唆していることが理解される。
【0229】
以下に示す実施例は、本発明者らが本発明の態様を実施する際に用いる技法の代表的なものである。これらの技法は、本発明を実施するための好ましい実施形態の例示であって、当業者は、本開示に照らし、本発明の主旨及び意図された範囲から逸脱することなく多くの修正を行うことができることを認識するであろう。
【実施例
【0230】
実施例
実験手順
材料
本明細書において以下に特に指定しない限り、細胞用培地(500ml当たり)は、50ml FBS(Biological industries、カタログ番号04-121-1A)、5ml ピルビン酸ナトリウム11mg/ml(100mM)(Biological industries、カタログ番号03-042-1B)、0.5ml アンホテリシンB 2500μg/ml(Biological industries、カタログ番号03-029-1)、及び5ml ゲンタマイシン硫酸塩 50mg/ml(Biological industries、カタログ番号03-035-1)を含む、高グルコースL-グルタミン含有DMEM(Gibco、41965-039)又はRPMI(Gibco、カタログ番号21875)とした。
Trypsin EDTA(Biological industries、カタログ番号03-052-1B)。
培養フラスコ:75cm(Nunc、カタログ番号178905)、25cm(Nunc、カタログ番号136196)。
チェンバースライド(8ウェル、Nunc、カタログ番号154534)。
APC1(リン酸緩衝生理食塩水中、50mg/ml)。APC-1ペプチド(Novetide、Israel)は、アミノ酸配列EKGAAFSPIYPRRK(配列番号:1で表す)を有する。APC1をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で可溶化した。
カドサイラ、100mg(トラスツズマブエムタンシン、Roche)、0.45%生理食塩水で20mg/ml溶液を用時調製する。
キシレン(Sigma #534056)。
エタノール、無水、未変性、組織学用(100% Solufix #E003及び95% Sigma #32294)。
脱イオン水(dHO)。
ヘマトキシリン Gill2(Sigma、#GHS216)。
【0231】
細胞
トリプルネガティブ乳房腫瘍細胞株MDA-MB-231(DMEM中で培養)、MDA-MB-468(RPMI中で培養)、及びBTS-149(RPMI中で培養)をATCCから入手した。本明細書においては、細胞MDA-MB-231及びMDA-MB-468を、それぞれ「MDA231」及び「MDA468」とも称する。
【0232】
細胞用培地の維持
トリプルネガティブ乳房腫瘍細胞(MDA-MB-231、MDA-MB-468、及びBTS-149)を、37℃、5%COを含むインキュベーターで密度が70~80%(この密度を超えるべきではない)に達するまで増殖させた。次いで増殖培地を捨て、細胞用フラスコをTrypsin EDTA 5mlで洗浄した。次いで追加のTrypsin EDTA 5mlを細胞用フラスコに加え、細胞用フラスコをインキュベーターに移し、大部分の細胞がもはやフラスコに付着しなくなるまで待った(細胞の剥離量を増やそうとしてフラスコを叩くべきではない;この手続きには数分を要する)。次いでトリプシン処理した細胞に培地(10ml)を加えた。最後に培地及びトリプシンに懸濁させた細胞を2個のフラスコに分割して、各フラスコに新鮮な培地15mlを加えた。細胞を上述の条件のインキュベーターに移し、約70~80%の密度に達するまで2~3日間待ち、必要に応じて上の手順を繰り返した。本明細書で使用した他の細胞株は当該技術分野において知られているように増殖させた。
【0233】
APC1の存在下における細胞増殖
細胞(MDA-MB-231、MDA-MB-468、及びBTS-149)を密度が70~80%に達するまで増殖させた。次いで増殖培地を捨て、細胞を上に述べたようにトリプシン及び培地で処理した。細胞を表面から剥離させ、細胞懸濁液(即ち、培地及びトリプシン中の細胞)20mlを50mlのコニカルチューブに移して、300gで10分間、4℃で遠心分離した。次いで上清を捨て、新鮮な培地2mlを細胞ペレットに加えた。次いで細胞を流動化し、培地13mlをチューブに加え、それにより細胞を合計15mlの培地中に懸濁させた。細胞を計数し、増殖培地1ml中に10,000~15,000個/wellでチェンバースライドに播種した。細胞を播種したチェンバースライドをフードに移し、1時間後にインキュベーターに移し、上述の条件下に一晩インキュベートした。翌日、細胞用チェンバースライドから培地を吸引して捨て、APC1を添加した細胞処理培地1ml(終濃度100又は250μg/ml)又は対照培地(培地のみ)。培地を各ウェルに添加した(凍結融解サイクルを繰り返すことを避けるため、APC1をアリコートとして利用した)。次いで細胞を24~144時間インキュベートした。任意選択で、処理された細胞にAPC1の追加投与量を投与し、この細胞を2回目の投与量の存在下に更に96時間までインキュベートし、3回目の投与量の存在下に144時間までインキュベートした。細胞を回収し、以下に詳述するように更に分析した。
【0234】
APC1及びカドサイラの存在下における細胞増殖
細胞を70~80%の密度に達するまで増殖させた。次いで増殖培地を捨て、上に述べたように細胞をトリプシン及び培地で処理した。次いでトリプシン及び培地中に懸濁した細胞を50mlコニカルチューブに移し、300gで10分間、4℃で遠心分離した。次いで上清を捨て、新鮮な培地2mlを細胞ペレットに加えた。細胞を流動化させ、追加の培地13mlを細胞に加え、細胞が合計15mlの培地中に懸濁するようにした。細胞を計数し、それぞれ約40,000個の細胞を10mlの培地(各フラスコ中)を含む9本の25cmフラスコに入れた。細胞をインキュベーターに一晩放置した。翌日、上清を捨て、10mlの2.5%FBS(10%FBSに替えて)を含むDMEM又はRPMIに交換した。実施例として細胞用フラスコを次に示すように更に処理した:
フラスコ1+9:無処理
フラスコ2:250μg/ml APC1
フラスコ3:無処理
フラスコ4:無処理
フラスコ5:無処理
フラスコ6:250μg/ml APC1
フラスコ7:250μg/ml APC1
フラスコ8:250μg/ml APC1
【0235】
上に示したように処理した細胞をインキュベーターで48時間インキュベートした。次いでAPC1の2回目投与量(終濃度を同一とする)を細胞用フラスコ2、6、7、及び8に加え、細胞を更に24時間インキュベートした。細胞が85%コンフルエントに達したら、細胞の50%をフラスコから掻き取った。培地を捨て、10%FBSを含むDMEM又はRPMI 10mlを各フラスコに加えた。細胞用フラスコを、例えば、更に次に示すように処理した(APC1の3回目投与及び/又はカドサイラ):
フラスコ1+9:無処理
フラスコ2:250μg/ml APC1
フラスコ3:5μg/mlカドサイラ
フラスコ4:10μg/mlカドサイラ
フラスコ5:25μg/mlカドサイラ
フラスコ6:250μg/ml APC1+5μg/mlカドサイラ
フラスコ7:250μg/ml APC1+10μg/mlカドサイラ
フラスコ8:250μg/ml APC1+25μg/mlカドサイラ(任意選択)
【0236】
細胞を更に72~96時間インキュベートした。最後に細胞を回収し、次に示すように分析した(アポトーシスマーカーによるFACS解析又はHER2発現の評価)。カドサイラ(トラスツズマブエムタンシン、Roche)は、秤量して0.45%生理食塩水で希釈して濃度を20mg/mlとし、即座に使用した(残った溶液は廃棄)。
【0237】
換言すれば、細胞をAPC1の1回目投与量と共に48時間、次いでAPC1の2回目投与量と共に24時間インキュベートした後、培地を除去し、新鮮なFBS培地をAPC1の3回目投与量(最初の投与量と同一)と共に、指示がある場合はカドサイラと一緒に又はカドサイラなしで添加した。72時間後、細胞をFACS解析に供した。
【0238】
APC1及びタモキシフェンで処理したMDA-MB-231細胞のレサズリン細胞生存率試験
材料
クリアボトム96ウェル細胞培養プレート;
細胞培養培地:10%FBSを添加した、ピルビン酸ナトリウム、ペニシリン/ストレプトマイシン、及びアンホテリシンB含有DMEM;
細胞毒性試験キット(比色検出)ab112118;
タモキシフェン(Sigma T5648)、2.5mg/mlに希釈(6.65mM);
50mg/ml APC1ストック溶液(PBSで希釈);
細胞株:250μg/mlのAPC1で週2回、1週間処理したMDA-MB-231細胞及びMDA-MB-231細胞(特に指定がない場合)。
【0239】
手順
APC1で処理したMDA-MB-231又はMDA-MB-231を細胞培養培地(100μl)を含む96ウェルプレートに10個/ウェルで播種した。APC1で処理した細胞をAPC1 250μg/mlと一緒に播種し、一晩インキュベートした。次いで、次に示す処理液を培養培地中で250μg/ml APC1と一緒に又はAPC1を使用せずに調製した:対照、10nMタモキシフェン、50nMタモキシフェン、及び100nMタモキシフェン。次いで培地をプレートから吸引し、処理液(100μl)を適切なウェルに加えた。各処理を3連で行い、細胞を48時間インキュベートした。次いで細胞毒性試験キット(比色検出、ab112118)20μlを各ウェルに加え、細胞を1時間インキュベートした。プレートを分光光度計にて570及び605のODを読み取った。
【0240】
次いで試験試料及び対照試料の細胞生存率を次式に基づき算出した:細胞生存率(%)=100×(Rsample-Ro)/(Rctrl-Ro)。
「Rsample」は試験化合物(APC1)の存在下における吸光度比OD570/OD605である。「Rctrl」は試験化合物の非存在下における吸光度比OD570/OD605であり(対照試料)、「Ro」はバックグラウンド(細胞を含まない対照)の吸光度比OD570/OD605の平均値である。
【0241】
APC1及びシスプラチン又はドキソルビシンで処理したMDA-MB231細胞の細胞生存率試験(レサズリン)
材料
クリアボトム96ウェル細胞培養プレート;
細胞培養培地は、10%FBSを添加した、ピルビン酸ナトリウム、ペニシリン/ストレプトマイシン、及びアンホテリシンB含有DMEMとした;
細胞毒性試験キット(比色検定)ab112118;
シスプラチン(Sigma EPCC221000)、使用直前にDMSOで40mg/mlに希釈(133.3mM);
ドキソルビシン(D1515 Sigma)、DWで50mg/mlに希釈(86.6mM)(4℃で3週間まで保存可能);
APC1、PBSで50mg/mlに希釈;
細胞株は、MDA-MB-231細胞、APC1で処理(250μg/ml、週2回、1週間)したMDA-MB-231細胞、MDA-MB-468細胞、及びAPC1で処理(250μg/ml、週2回、1週間)したMDA-MB-468細胞とした。
【0242】
手順
細胞(10個)を、細胞培養培地(100μl)を入れた96ウェルプレートに播種した。APC1で処理した細胞をAPC1 250μg/mlと一緒に播種した。細胞を一晩インキュベートした。次いで、次に示す処理液を、培地中、APC1 250μgと一緒に又はAPC1を使用せずに調製した:対照、500μMシスプラチン、750μMシスプラチン、1000μMシスプラチン、0.3μMドキソルビシン、0.5μMドキソルビシン、及び1μMドキソルビシン。
【0243】
次いで培地をプレートから吸引し、処理液100μlを適切なウェルに加えた。各処理を3連で実施した。細胞を48時間インキュベートした。次いで細胞毒性試験キット(比色検出、ab112118)20μlを各ウェルに加え、細胞を1時間インキュベートし、570及び605のODを、分光光度計を用いて測定した。試験試料及び対照試料の細胞生存率を次式に基づき上に詳述したように算出した:細胞生存率(%)=100×(Rsample-Ro)/(Rctrl-Ro)。
【0244】
蛍光活性化細胞選別(FACS)解析
FACS解析を用いてアポトーシス又はHER2発現に関し細胞を試験した。HER2抗体としてabcamab 16901を使用した。アポトーシスを評価するマーカーとしてAnnexin(Enco)を使用した。
【0245】
APC1で処理したヒト腫瘍細胞の免疫蛍光
APC1で処理したヒト腫瘍細胞の免疫蛍光に使用した材料を次に示す。スライド:Nunc(商標) Lab-Tek(商標)II CC2(商標)チェンバースライドシステム(154917 Nunc)、洗浄バッファー:PBS(02-023-5A Biological Industries)、固定液:PBS中3%ホルムアルデヒド(252549 Sigma)、透過処理液:PBS中0.25% Triton X-100(0694 Amresco)、ブロッキング/抗体バッファー:1%BSA(A7906 Sigma)を添加したPBS(0.1% Tween-20(0777 Amresco)含有)、一次抗体:抗ErbB 2抗体(3B5)(ab16901)abcam、二次抗体:ロバ抗マウスIgG H&L(Alexa Fluor(登録商標) 488)血清吸着処理済み(ab150109)、DAPI(4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)含有封入剤:Fluoroshield Mounting Medium With DAPI(abcam ab104139)。
【0246】
上に述べたように細胞をAPC1と一緒にインキュベートした後、培地を吸引し、各ウェルを洗浄バッファーで満たして細胞を洗浄した。バッファーを捨て、固定液300μlを各ウェルに加え、細胞を室温(RT)で15分間インキュベートした。次いで固定液を捨て、ウェルを洗浄バッファーで簡単に2回洗浄し、透過処理液300μlを各ウェルに加えた。次いで細胞をRTで10分間インキュベートした。次いで透過処理液を捨て、各ウェルに洗浄バッファーを加え、5分間処理した後、洗浄バッファーを捨てた。洗浄が完了したら、ブロッキングバッファー(1ml)を各ウェルに加え、細胞をRTで1時間インキュベートした。インキュベート時間が終了する前に、最初の(一次)抗体を希釈、即ちAnti-ErbB 2抗体(3B5)(ab16901)abcamを抗体希釈バッファーで1:400に希釈した。次いでブロッキングバッファーをウェルから捨て、一次抗体120μlを各ウェルに加えた。細胞を覆い(パラフィルム又はダクトテープで)、4℃で一晩インキュベートした。翌日、一次抗体を捨て、細胞を洗浄バッファーで3回洗浄した(上に述べた洗浄をそれぞれ5分間)。次いで二次抗体を希釈、即ちロバ抗マウスIgG H&L(Alexa Fluor(登録商標)488)血清吸着処理済み(ab150109)を抗体希釈バッファーで1:1000に希釈し、二次抗体150μlを各ウェルに加えた。細胞をRTの暗所で1時間インキュベートした。次いで細胞を洗浄バッファーで3回洗浄した(上に述べたように、暗所でそれぞれ5分間)。次いでウェルをスライドから取り外し、スライドを暗所の空気中で乾燥させた。DAPI含有封入剤を加え、チェンバーをスライドから取り外した後、封入剤をスライドに添加し、カバースリップを被せてマニキュア液でシールし、4℃の暗所で保存した。細胞を蛍光顕微鏡並びにAlexa fluor 488(緑色発光)及びDAPI(青色発光)用フィルタを用いて可視化した。
【0247】
Balb/Cヌードマウス注射用がん細胞培養液の調製
MDA-MB-231細胞を、175cmフラスコ(Nunc 178883)内で、10%非働化処理済みウシ胎児血清(Biological industries、#04-121-1A)及び1%抗生物質Pen-Strep(Biological industries、03-031-1B)を添加したHepes含有DMEM培地(Gibco 41965-039)中で増殖させた。細胞を37℃、5%CO、湿度95%でインキュベートした。マウスに注射した他のがん細胞(即ち、OV90及びPanc1)も同様にして調製した。
【0248】
十分な数の細胞が存在する場合、細胞を300gで5分間遠心分離した。上清を捨て、残っている培地を洗い流すために5~10mlのPBS(Biological Industries、#02-023-5A)を細胞ペレットに加えた。細胞を再び遠心分離し(同一の速度及び時間)、上清を捨て、5~10mlの生理食塩水を細胞に加えた。この段階で、光学顕微鏡で血球計数板を用いて細胞を計数し、それに従い、8×10個/200μlの濃度に達するように生理食塩水を加えた。
【0249】
実験動物
雌性Balb/Cヌードマウス(BALB/cOlaHsd-Foxn1nu、5~6週齢)をHarlan laboratoriesから購入した。購入前にマウスを病原微生物がいない環境に維持した。ケージ(425×266×185mm、床面積800cm(1291H Eurostandard Type III H、Tecniplast、マウス6~9匹/ケージ)を清掃し、木材チップ(Harlan Telkad Sani-Chips、2.2立方フィート、実験室用)及び水(水道水、1Lボトル中)は週1回交換した。マウスは滅菌済イヤーパンチを用いて識別した。
【0250】
Balb/Cヌードマウスのがん細胞注射
雌性Balb/Cヌードマウス(上述の通り)を本発明者の動物施設で少なくとも24時間維持した。次いで全てのマウスに27G注射針を使用して8×10個の細胞(生理食塩水200μl中)を腹腔内注射した。
【0251】
マウスのAPC1処理
APC1ペプチドを350μg/匹の投与量で注射するために生理食塩水で適切な濃度に希釈した。腫瘍サイズが0.5cm×0.5cmに達したら(通常5日間)マウスの処理を開始した。対照群にはアーリン(aaline)を注射した。処理群にはAPC1を注射した(350μg/匹)。マウスの注射は2週間に亘り、日曜、火曜、及び木曜に行った(計6回注射)。
【0252】
腫瘍サイズ及びマウスの体重の監視
治療期間中、各マウスの体重を計測し、腫瘍サイズをデジタルノギスで測定した。
【0253】
腫瘍切片のHER2免疫組織染色
溶液及び試薬
次に示す溶液及び試薬を使用した:洗浄バッファー:1×TBS/0.1%Tween-20(1×TBST)。1Lを調製する場合、50mlの20×TBS(Amresco、#J640)を蒸留水(dHO)950mlに加えた。次いでこの溶液にTween-20(Amresco、#J640)1mlを加え、溶液を混合した。抗体希釈液:Signal Stain(登録商標)抗体希釈液#8112。抗原賦活化剤:クエン酸塩:10mMクエン酸ナトリウムバッファー。1Lを調製する場合、2.94gのクエン酸三ナトリウム塩二水和物(CNa・2HO)を1LのdHOに加え、pHを6.0に調整した。過酸化水素(3%):30% H(Sigma、#216763)10mlをdHO 90mlに加えた。ブロッキング液:Background Buster(Innovex、#NB306)。一次(1st)抗体:抗ErbB 2抗体[3B5](ab16901)(abcam)。蛍光標識二次抗体:ロバ抗マウスIgG H&L(Alexa Fluor(登録商標) 488)血清吸着処理済み(ab150109)。DAPI含有封入剤:Fluoroshield DAPI含有封入剤(abcam ab104139)。
【0254】
脱パラフィン及び水和
この手順を行う間は常にスライドが乾かないようにした。切片はHarlan laboratoriesにて作製した。固定した切片をパラフィン包埋し、4ミクロンの切片に切り出し、スライドガラスに貼り付けた。切片を脱パラフィン化/水和するために、切片をキシレンの洗浄液中で3回(各5分間)、100%エタノールの洗浄液中で2回(各10分間)、95%エタノールの洗浄液中で2回(各10分間)、最後にdHOの洗浄液中で2回(各5分間)インキュベートした。
【0255】
抗原賦活化
スライドをpH6.0の10mMクエン酸ナトリウムバッファーと一緒に沸騰させた後、沸点直前の温度で10分間維持した。スライドを実験台で30分間放冷した。
【0256】
染色
切片をdHO中で3回、各5分間洗浄した。切片を3%過酸化水素中で10分間インキュベートした後、dHO中で2回(各5分間)及び洗浄バッファー中で5分間洗浄した。各切片を100~400μlのブロッキング液を用いて室温で30分間ブロッキングした。次いでブロッキング液を除去し、抗体希釈剤で1:400に希釈した一次抗体100~400μlを各切片に加え、4℃で一晩インキュベートした。次いで抗体溶液を除去し、切片を洗浄バッファー中で3回、各5分間洗浄した。二次抗体を抗体希釈剤で1:1,000に希釈し、二次抗体を各切片に100~400μlずつ加えた。次いで切片を室温の暗所で1時間インキュベートした。最後に二次抗体溶液を除去し、切片を洗浄バッファーで3回、各5分間暗所で洗浄し、次いでdHO中で、5分間暗所で洗浄した。
【0257】
切片の脱水
切片を載せたスライドを暗所の空気中で乾燥させた。カバーガラスを載せ、封入剤を使用して封入した。
【0258】
Notchタンパク質受容体のウェスタンブロット解析
10%ウシ胎児血清(FBS)、ゲンタマイシン硫酸塩(03-035-1C Biological industries)、及びアンホテリシンB(03-029-1C Biological industries)を添加したDMEM(41965039 Gibco)培地25mlを入れた5本の75cmフラスコにMDA-MB-231細胞(0.8×10)を播種した。細胞をインキュベーターで一晩インキュベートした。次いでPBSストック液中50mg/mlのペプチドAPC1を室温(R.T.)で解凍し、フラスコに終濃度が250μg/mlとなるように加え、細胞を0、1、3、5、又は21時間インキュベートした。
【0259】
次いで培地を除去し、セルスクレイパーでフラスコの細胞を掻き取り、新鮮なDMEM培地1.8mlに入れた。細胞の2種類の画分:膜タンパク質抽出キット(Thermo scientific#89842)を用いて抽出した細胞質タンパク質及び膜タンパク質を2mlのエッペンドルフチューブに回収した。製造業者の推奨に従いプロテアーゼ阻害剤(Sigmap 2714)及びホスファターゼ阻害剤(Sigma P5726)を透過処理バッファー及び可溶化バッファーに加えた。
【0260】
ウェスタンブロッティング用試料を次に示すように調製した:サンプルバッファー(invitrogen、カタログ#NP0007、4倍濃度)及びサンプル還元剤(Invitrogen、カタログ#NP0009、10倍濃度)を各試料に加え、試料を5分間沸騰させた。
【0261】
次いで4~20%トリス-グリシンゲル(NuSep、カタログ#NG21-420)上の各ウェルに試料を50μlずつを添加した。ゲルを1時間150V(最初の10分間は80V)で泳動させた後、PVDF膜(Immobilon-P トランスファーメンブレン、カタログ#:IPV00010、孔径:0.45)に1時間転写した。膜を5%乳含有TBSTを用いてR.Tで1時間攪拌しながらブロッキングを行った。5%乳含有TBST中で1:1000に希釈したNotch3抗体(abcamab 23426)を加え、攪拌しながら4℃で一晩インキュベートした。
【0262】
膜をTBSTで3回洗浄し、次いで二次抗体であるαラビット-HRP(5%乳含有TBSTで1:5000に希釈)を加えて、攪拌しながら室温で1時間インキュベートした。最後に、膜をTBSTで3回洗浄し(各洗浄の間に4~5分間放置する)、ECL基質(Clarity Western 1705061 BIO-RAD)を加えた。膜をLi-CORC-Digit装置でスキャンした。Notch3抗体を膜にアプライし、タンパク質の定量化を行い、βアクチンタンパク質を用いて較正した。
【0263】
APC1で処理した細胞のグルタチオンレダクターゼ測定
材料
75cm細胞培養フラスコ;
細胞培養培地は、10%FBSを加えたピルビン酸ナトリウム、ペニシリン/ストレプトマイシン、及びアンホテリシンB含有DMEMとした;
グルタチオン測定キット(Sigma CS0260);
APC1溶液、50mg/ml、PBS中;
細胞株(MDA-MB-231、MDA-MB-468)を75cm細胞培養フラスコで80~90%コンフルエントに達するまで増殖させた。細胞をAPC1(250μg/ml、週2回、1週間)で処理した。
【0264】
手順
細胞をPBS10mlで2回洗浄し、PBS(5ml)を加え、細胞をスクラッピングにより回収し、300G、4℃で5分間遠心分離した後、上清を捨て、細胞を上に示したようにAPC1で処理した。グルタチオン標準溶液の値を用いて検量線を求め、還元型グルタチオン1ナノモルに対応するΔA412/minを製造業者の指示に従いウェル毎に算出した。
【0265】
実施例1
トリプルネガティブ乳癌細胞をAPC1で処理することにより細胞表面のHER2受容体の発現が増加する
上に示したように、トリプルネガティブ乳癌(TNBC)は、とりわけ、エストロゲン受容体(ER)及びプロゲステロン受容体(PR)が発現せず、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)が発現も増幅もしないものと定義されている。
【0266】
本明細書においてアミノ酸配列EKGAAFSPIYPRRK(配列番号:1で表される)を有する「APC1」と称するペプチドは、ペプチドKTPAF50の14個のC末端アミノ酸残基からなり、in vitro及びマウスのがん細胞の生存率及び増殖に影響を与えることが既に見出されている(3、4)。APC1をトリプルネガティブ乳癌細胞(且つHER2を発現しない)として知られているMDA-MB-231細胞に投与した場合の効果を、まずFACS解析により、上に述べたように調査した。これを図1に示す。
【0267】
簡潔には、APC1を上に詳述したようにMDA-MB-231細胞に反復投与した。APC1の1回目投与量(終濃度100又は250μg/ml)を細胞に加え、細胞を48時間インキュベートした。次いで処理された細胞にAPC1の追加投与を行い、更に24時間インキュベートした。
【0268】
図1Aに示すように、APC1処理を行わなかったMDA-MB-231細胞(対照細胞)の細胞膜上にHER2はほとんど発現していない。驚くべきことに、APC1で処理したMDA-MB-231細胞では、図1B及び図1Cに示すように、HER2発現が上昇した。図1B(100μg/ml APC1)を図1C(250μg/ml APC1)と比較すると、HER2発現量が変化していることから、この効果は濃度依存性があると推定される。APC1 250μg/mlにおけるMDA-MB-231細胞の細胞表面上のHER2発現が、HER2陽性であることが知られているN87細胞上の発現(図1D)と類似していることが明らかである。
【0269】
APC1投与がTNBC細胞上のHER2発現に与える効果を、上に詳述したように、更に様々な濃度のAPC1で処理し、様々な時間でインキュベートしたMDA-MB-231及びMDA-MB-468細胞上のHER2の発現の免疫蛍光により調査した。
【0270】
まず図2Bに示すように、250μg/ml APC1の存在下に48時間インキュベートしたMDA-MB-231細胞は、HER2発現の免疫蛍光による解析から、対照細胞と比較して明らかなHER2発現が示された(図2A)。
【0271】
更に、図3Bに示すように、MDA-MB-231細胞を250μg/ml APC1の存在下に長時間インキュベート、即ち、1回目投与後に144時間インキュベートし、更に2回目及び3回目投与後にそれぞれ96及び72時間インキュベートすることにより上述の効果が増強された。上に示したAPC1の投与量を250μg/mlとする条件が、本細胞腫のHER2発現を増加させるのに最適であることが見出された。
【0272】
他の公知のTNBC細胞、即ちMDA-MB-468でも、図4Bに示すように、同様の結果が得られた。この場合、細胞にはAPC1を2回投与し(各100μg/ml)、1回目及び2回目投与の後、それぞれ24及び72時間インキュベートした。
【0273】
特に、APC1を投与しなかった全ての対照細胞においては、免疫蛍光によるHER2発現は観測されなかった(図2A図3A、及び図4Aに示す)。
【0274】
上の結果は、APC1を投与することにより細胞表面のHER2発現が増加し、したがって、特定の理論に束縛されることを望むものではないが、HER2を標的とする治療に対する処理された細胞の感受性(又は脆弱性)が増大することを示唆している。
【0275】
実施例2
APC1で処理したMDA-MB-231細胞に対するカドサイラの効果
上の結果は、APC1をTNBC細胞に投与することにより、少なくとも細胞表面上のHER2発現が向上又は増加することと、したがってAPC1を、この細胞のHER2を標的とする任意の治療、例えばHER2を標的とする抗体に対する感受性を増大させる薬剤として使用することができることとを示唆している。
【0276】
APC1が実際にTNBC細胞のHER2を標的とする治療に対する感受性を増大させることを検証するため、上に述べたように、MDA-MB-231細胞にまずAPC1を投与し、次いでカドサイラを投与した。カドサイラは、トラスツズマブ(ハーセプチンとしても知られる、HER2に対する抗体)及び化学療法薬分子であるエムタンシン(DM1)の作用機序を1つの薬剤に併合した抗体-薬物複合体(ADC)である。
【0277】
簡潔には、細胞にまずAPC1を2回投与し(各250μg/ml、1回目及び2回目の投与後にそれぞれ48及び24時間インキュベート)、更にカドサイラを5又は10μg/mlの投与量で投与(更に72時間インキュベート)した。次いで処理された細胞を、アポトーシスマーカーであるAnnexinのFACS解析に供した。
【0278】
MDA-MB-231細胞は上に詳述したようにトリプルネガティブ細胞として知られており、したがって、カドサイラ治療に感受性を示さない。実際、図5Aに示すように、APC1で前処理していないMDA-MB-231細胞にカドサイラを単独投与した場合のアポトーシスレベルは比較的低かった(5μg/mlカドサイラ投与では実質的にゼロであり、10μg/mlカドサイラ投与で10%であった)。
【0279】
驚くべきことに、APC1及びカドサイラの両方で処理した細胞は、カドサイラ単独で処理した細胞と比較して、アポトーシスレベルがカドサイラの各投与量に対し少なくとも2.5倍高くなった。特定の理論に束縛されることを望むものではないが、APC1により、カドサイラが細胞内に侵入して、細胞死因子として作用する薬物部分を放出することが可能になった。
【0280】
上に述べたように、まずAPC1を投与し、次いでカドサイラを投与したMDA-MB-231細胞でも、カドサイラを5、10、又は25μg/ml投与した場合に、図5Bに示すように類似の結果が得られた。但しこの場合は、APC1及びカドサイラの両方で処理した細胞のアポトーシスレベルはAPC1のみで処理した対応する細胞よりも3~10倍高かった。
【0281】
APC1をTNBC細胞に投与することにより、抗HER2剤を用いた更なる処理に対する感受性が高まるという効果を更に裏付けるために、MDA-MB-231細胞に加えて他のTNBC細胞、即ち、MDA-MB-468及びBTS49について追加実験を行った。
【0282】
これらの実験において、APC1を2回投与(各250μg/ml)し、上に詳述した時間インキュベートした。次いでカドサイラを5、10、又は25μg/ml投与し、細胞を更に上に詳述したようにインキュベートした。
【0283】
図6は、カドサイラで処理する前にAPC1で前処理することによりMDA-MB-231細胞のアポトーシスレベルが2~6倍高くなったことを示している。対照及びAPC1のみ/カドサイラのみで処理した細胞においてはアポトーシスレベルが低かったが、APC1及びカドサイラの両方で処理した細胞においては、細胞のアポトーシスレベルが大幅に増加した。
【0284】
更に図7は、MDA-MB-231細胞に関し示された結果と同様に、カドサイラで処理する前にAPC1で前処理することによりBTS49細胞のアポトーシスレベルが2.5~5倍高くなったことを示している。しかしながら、MDA-MB-468細胞の場合、APC1で前処理しなかった細胞のアポトーシスの基礎レベルは幾分高かった。
【0285】
実施例3
APC1処理したマウスMDA-MB-231腫瘍細胞上のHER2受容体発現
APC1はまた、後に詳述するように、腫瘍細胞を注射したマウスのTNBC細胞(MDA-MB-231)上のHER2発現を増加させることも示された。
【0286】
雌性Balb/Cヌードマウス(5~6週齢)に8×10個のMDA-MB-231細胞を腹腔内注射した。腫瘍サイズが0.5cm×0.5cmに達したら(通常5日後)、マウスにAPC1(350μg/匹)を週3回、2週間注射した(即ち、2週間に亘り、日曜、火曜、及び木曜、計6回注射)。
【0287】
APC1がマウス体内で増殖するMDA-MB-231腫瘍細胞に与える効果を監視するために、腫瘍切片のHER2免疫組織染色を行った。図8に示すように、対照細胞(図8A、生理食塩水で処理したマウスから採取)においては、細胞表面にHER2の発現は観測されず、APC1で処理したマウスから採取した細胞(図8B)には、HER2の明確な発現が認められた。
【0288】
上記のことを鑑み、特定の理論に束縛されることを望むものではないが、APC1は細胞表面にHER2を発現させ、これらの細胞に、HER2を対象とするHER2に基づく抗がん療法に対する脆弱性又は感受性を付与する。
【0289】
実施例4
APC1で処理したMDA-MB-468細胞に対するハーセプチンの効果
上に示したように、APC1は細胞上のHER2の発現を増加させ、それにより、HER2に基づくがんの抗体治療により細胞を特異的に標的化することが可能になった。HER2に基づく抗がん剤がAPC1で前処理されたTNBC細胞を標的とする能力を示すために、HER2/neu受容体を阻害するモノクローナル抗体であるハーセプチンを使用した。
【0290】
図9は、APC1及びハーセプチンの両方で処理したTNBC細胞であるMDA-MB-468のアポトーシス(25%)が、ハーセプチンのみ(10%)又はAPC1のみ(15%)で処理した細胞のアポトーシスレベルよりも高かったことを示している。更に、APC1及びハーセプチンの両方を併用して処理したMDA-MB-468細胞のアポトーシスレベルは、ハーセプチン単独で処理したN87細胞のアポトーシスレベルと同等であった。
【0291】
実施例5
APC1で処理したTNBC細胞がNotch3タンパク質発現を増加させた
当該技術分野において知られているように、神経原性遺伝子座ノッチホモログタンパク質(Neurogeniclocus notch homolog protein)3(Notch3)は幾つかの種類のがんで過剰発現しており、現在、抗がん薬の標的として研究されている。APC1の投与がNotch3の量に与える効果を、上に詳述したように、TNBC細胞であるMDA-MB-231で評価した。
【0292】
図10に示すように、APC1をMDA-MB-231細胞に投与すると、3及び5時間インキュベートした後に最大となったことが膜タンパク質画分のウェスタンブロット解析から示されるように、細胞膜上の活性Notch3受容体の発現が増加した。
【0293】
この結果は、上に示した場合において、ペプチドAPC1が細胞タンパク質である膜タンパク質の発現を誘導する能力も示している。
【0294】
実施例6
TNBC細胞をAPC1で処理するとタモキシフェンに対する感受性が細胞に付与される
APC1がエストロゲン受容体の発現も調節するか否かを調査するために、TNBC細胞をAPC1の存在下にインキュベートした。この目的のために、MDA-MB-231細胞をAPC1で前処理した後、タモキシフェンの存在下に24~48時間インキュベートした。次いでこれらの細胞の生存率を、上で詳述したようにレサズリン細胞生存率試験により調査した。
【0295】
図11Bに示すように、APC1(250μg/mlを3回投与)及びタモキシフェンで処理した(24時間)MDA-MB-231細胞は、図11Aに示す、APC1で前処理せずにタモキシフェンのみの存在下に成長させた対照細胞と比較して、生存率が低下した。
【0296】
図12B図12Aと比較すると明らかなように、生存率の低下は、MDA-MB-231細胞をAPC1(250μg/mを3回投与)及びタモキシフェンで48時間で処理した場合に、より顕著となった。
【0297】
APC1及びタモキシフェンの組合せで処理したMDA-MB-231細胞で観測された生存率が、APC1で処理しなかったMDA-MB-231細胞と比較して低下したことは、特定の理論に束縛されることを望むものではないが、APC1がタモキシフェンの標的、即ちエストロゲン受容体に対し明らかに効果を示すことを例証している。換言すれば、これらの結果は、APC1ががん細胞のエストロゲン受容体の発現を増加させ、これらの細胞のタモキシフェンに対する感受性を増大させることを示している。
【0298】
実施例7
MDA-MB-231細胞をAPC1で処理することによりエストロゲンα受容体の発現が増加した
上に示した結果を鑑み、エストロゲン受容体αの発現量を直接測定した。図13に示すように、抗エストロゲン受容体α(ERα)抗体を用いてウェスタンブロット解析を実施したところ、APC1(250μg/ml)で週1回1週間処理(図13の左からレーン3~7)又は週2回3若しくは4週間処理(図13の左からレーン9、10)したMDA-MB-231細胞において、エストロゲン受容体αの発現量が明らかに増加したことが分かった。
【0299】
これらの結果は、APC1ががん細胞の細胞部位、今回はエストロゲン受容体の発現を増加させることを例証している。
【0300】
実施例8
APC1がTNBC細胞の化学療法に対する感受性を増大させた
APC1が、特定の細胞標的を対象とする薬剤を用いた治療に対するTNBC細胞の感受性を増大させるという上の結果に加えて、次に示す結果は、APC1が、異なる作用機序によって作用する他の抗がん剤に対するTNBC細胞の感受性を増大させたことを示している。
【0301】
この目的のために、上に詳述したように、TNBC細胞であるMDA-MB-231及びMDA-MB-468をAPC1で前処理した後、ドキソルビシン又はシスプラチンの存在下にインキュベートした。図14Aに示すように、APC1により上のTNBC細胞のドキソルビシンに対する感受性が濃度依存的に増大した。
【0302】
APC1及びシスプラチンの組合せに関しても、図14Bに示すように、同様の効果が示された。
【0303】
実施例9
APC1がTNBC腫瘍のドキソルビシンに対する感受性を増大させた
APC1の投与によりTNBC細胞のドキソルビシン又はシスプラチンに対する感受性が増大することを示している上の結果に加えて、APC1及びドキソルビシンを併用する効果をヒトTNBC細胞(腫瘍)を接種したマウスでも試験した。
【0304】
この目的のために、上に詳述したようにTNBC細胞をマウスに接種した。簡潔には、32匹のヌードマウスにTNBC細胞(MDA-MB-231、8×10個/匹)の皮下に接種した。腫瘍体積が50mmを超えたら、次に示すようにマウスを無作為に4群(8匹/群)に割り付けた。対照群は生理食塩水のみで処理し、APC1処理群は、APC1を15mg/kgの投与量で週3回処理し、ドキソルビシン及びAPC1処理群は、APC1の週2回投与(15mg/kg)及びドキソルビシンの週1回投与(3mg/kg)によって処理し、ドキソルビシン処理群は、ドキソルビシンのみを、週1回3mg/kgを投与することにより処理した。これらの投与プロトコルを、実験期間を通して、即ち5週間繰り返した。
【0305】
図15から明らかなように、対照群においては相対腫瘍体積が直線的に増加したのに対し、ドキソルビシン処理群及びAPC1処理群においては、腫瘍体積の増加が緩やかになった(この効果はAPC1処理群でより顕著であった)。
【0306】
顕著なことには、APC1及びドキソルビシンの両方で処理したマウスでは、腫瘍体積に対し明らかな相乗効果が見られ、腫瘍成長が阻害され、それどころか腫瘍サイズが低下した(元のサイズと比較して)。
【0307】
これらの例から、APC1がTNBC細胞の化学療法対する感受性を、細胞自体でも、動物の腫瘍として存在した場合も増大させることが明らかである。
【0308】
実施例10
卵巣及び膵臓腫瘍を治療するためのAPC1及びドキソルビシンの併用
APC1及びドキソルビシンの組合せがTNBC腫瘍に与える効果を鑑み、本発明者らは、他のがん、即ち、ヒト卵巣癌及びヒト膵臓癌から採取した腫瘍に対する上の組合せの効果も調査した。
【0309】
この目的のために、ヒト卵巣細胞(OV90、9×10個/匹)又はヒト膵臓癌細胞(Panc1、7×10個/匹)をヌードマウスの皮下に接種した。腫瘍体積が40mm又は50mm(それぞれ、OV90及びPanc1の場合)を超えたら、マウスを次に示すように無作為に4群(8匹/群)に割り付けた。対照群は生理食塩水のみで処理し、APC1処理群は、APC1を各15mg/kgの投与量で週3回処理し、ドキソルビシン及びAPC1処理群は、APC1を週2回投与(各15mg/kg)及びドキソルビシンを週1回(3mg/kg)投与することにより処理し、ドキソルビシン処理群は、ドキソルビシンのみを3mg/kg投与することにより処理した。これらの投与プロトコルを実験期間を通して、即ち5週間繰り返した。
【0310】
図16に示すように、対照群においては相対腫瘍体積が直線的に増加し、ドキソルビシン処理群及びAPC1処理群においては、腫瘍体積の増加が緩やかになり、APC1処理群の効果がより顕著であった。
【0311】
驚くべきことに、APC1及びドキソルビシンの両方で処理したマウスにおいては、腫瘍体積に明らかな相乗効果が見られ、その結果として腫瘍の成長が阻害され(20日目まで)、20日目から実験終了までは腫瘍サイズが元の腫瘍サイズよりも低下した。
【0312】
図17に示すように、同様の相乗効果が、マウスに接種したヒト膵臓癌腫瘍細胞においても示された。
【0313】
実施例11
APC1によりヒトがん細胞のグルタチオン量が低下した
当該技術分野においてよく知られているように、グルタチオンが複合体化し、抗がん薬のグルタチオン複合体が細胞から輸送されることが、抗がん薬の解毒のための機序の1つとして提案された。
【0314】
一般に、グルタチオンは、抗がん薬と一体化して、より毒性が低く、より水溶性が高い複合体を形成することができる。実際、多くの薬剤耐性細胞においてグルタチオンが関連する酵素の発現が増加しているか又は過剰発現しており、結果として薬剤耐性となることが見出されている。
【0315】
本実施例において、本発明者らは、APC1が卵巣、膵臓、及びTNBCがん細胞のグルタチオン量に与える影響を調査した。
【0316】
上に詳述したように、卵巣癌細胞OV90及びOV3、膵臓癌細胞BxPC3及びPanc1、並びにTNBCがん細胞MDA-MB-231及びMDA-MB-468をAPC1で処理し、次いでこれらの細胞の相対的なグルタチオン量を上に詳述したように測定した。
【0317】
図18A図18B、及び図18Cに示すように、卵巣、膵臓、及びTNBCがん細胞のグルタチオン量は、それぞれ、これらの細胞をAPC1で処理することにより低下した。
【0318】
特定の理論に束縛されることを望むものではないが、これらの結果から、APC1が、様々な薬剤を用いた治療に対するがん細胞の感受性を増大させるように作用する少なくとも1種の経路を説明することができる。即ち、APC1は、細胞内のグルタチオン量を低下させ、それによって、細胞の薬剤耐性度を低下させるように作用するようである。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
図12C
図13
図14A
図14B
図15
図16
図17
図18A
図18B
図18C
【配列表】
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