(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】ブリーザ
(51)【国際特許分類】
F16H 57/027 20120101AFI20230929BHJP
【FI】
F16H57/027
(21)【出願番号】P 2020009357
(22)【出願日】2020-01-23
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】福間 健之
(72)【発明者】
【氏名】五島 弘喜
(72)【発明者】
【氏名】呉 尚泳
(72)【発明者】
【氏名】花井 孝佳
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 英司
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 清式
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-083934(JP,A)
【文献】特開2015-086935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用駆動伝達装置と当該車両用駆動伝達装置を潤滑するための油とを収容していると共に車両に固定されたケースに設けられるブリーザであって、
第1包囲壁によって囲まれた第1ブリーザ室と、
前記第1ブリーザ室に隣接して配置され、第2包囲壁によって囲まれた第2ブリーザ室と、
前記第1ブリーザ室と前記ケースの外部とを連通する外部連通部と、
前記第2ブリーザ室と前記ケースの内部とを連通する第1連通部及び第2連通部と、
前記第1ブリーザ室と前記第2ブリーザ室とを連通する室間連通部と、を備え、
前記車両が水平面上にある車両水平状態での水平方向に沿う特定の方向を対象方向とし
て、
前記第1連通部と前記第2連通部とが、前記室間連通部を挟んで前記対象方向の両側に離間して配置され
、
前記対象方向の一方側を対象方向第1側とし、前記対象方向の他方側を対象方向第2側として、
前記第1連通部は、前記室間連通部よりも前記対象方向第1側に配置されると共に、前記ケースの内部に貯留された油の油面が前記対象方向第2側に最大傾斜した状態である第2傾斜状態において、当該第2傾斜状態の油面より上方に位置するように配置され、
前記第2連通部は、前記室間連通部よりも前記対象方向第2側に配置されると共に、前記油面が前記対象方向第1側に最大傾斜した状態である第1傾斜状態において、当該第1傾斜状態の油面より上方に位置するように配置され、
前記第1連通部は、前記第1傾斜状態において、当該第1傾斜状態の油面より下方に位置するように配置され、
前記第2連通部は、前記第2傾斜状態において、当該第2傾斜状態の油面より下方に位置するように配置されている、ブリーザ。
【請求項2】
前記室間連通部は、前記第2包囲壁に開口する連通開口部を備え、
前記連通開口部よりも前記対象方向第1側における前記第2ブリーザ室の容積と前記連通開口部よりも前記対象方向第2側における前記第2ブリーザ室の容積とが均等となる位置に、前記連通開口部が配置されている、
請求項1に記載のブリーザ。
【請求項3】
前記車両水平状態における水平方向視において、前記室間連通部が、前記第1連通部と前記第2連通部とを繋ぐ仮想線よりも上方に位置するように配置されている、
請求項1又は2に記載のブリーザ。
【請求項4】
前記ケースは、第1ケース部材と、前記第1ケース部材に対して接合される第2ケース部材と、を備え、
前記室間連通部が、前記第1ケース部材と前記第2ケース部材とが接合される合わせ面に沿って形成されている、
請求項1から3のいずれか一項に記載のブリーザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用駆動伝達装置と当該車両用駆動伝達装置を潤滑するための油とを収容していると共に車両に固定されたケースに設けられるブリーザに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特開2017-172593号公報(特許文献1)には、ケース内部の油のブリーザ室への流入を抑制することで、ブリーザ室からケース外部へ油が吹き出す、いわゆるブリーザ吹きの発生を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示された技術のような分野では、熱などの影響によりケース内部で高まった圧力を、ブリーザ室を介してケース外部に逃がすことで、ケース内部における圧力の調整を図っている。このため、ブリーザ室は、ケース外部に連通すると共に、ケース内部にも連通している。しかしながら、例えば、車両の旋回時や急発進/急ブレーキなどの急制動時において油面の一部が上昇することにより、ブリーザ室とケース内部との連通部分が油で塞がれると、ブリーザ室とケース内部との圧力差によってブリーザ室に油が流入し易くなり、その結果、ブリーザ吹きが発生する可能性が高くなる。
【0005】
上記実状に鑑みて、ブリーザ吹きが生じ難いブリーザの実現が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記に鑑みた、車両用駆動伝達装置と当該車両用駆動伝達装置を潤滑するための油とを収容していると共に車両に固定されたケースに設けられるブリーザの特徴構成は、
第1包囲壁によって囲まれた第1ブリーザ室と、
前記第1ブリーザ室に隣接して配置され、第2包囲壁によって囲まれた第2ブリーザ室と、
前記第1ブリーザ室と前記ケースの外部とを連通する外部連通部と、
前記第2ブリーザ室と前記ケースの内部とを連通する第1連通部及び第2連通部と、
前記第1ブリーザ室と前記第2ブリーザ室とを連通する室間連通部と、を備え、
前記車両が水平面上にある車両水平状態での水平方向に沿う特定の方向を対象方向として、
前記第1連通部と前記第2連通部とが、前記室間連通部を挟んで前記対象方向の両側に離間して配置されている点にある。
【0007】
本構成によれば、ケースの外部に連通する第1ブリーザ室が、室間連通部と第2ブリーザ室とを介してケースの内部に連通しているため、第1ブリーザ室に油が流入する前に、第2ブリーザ室に油が流入する構造となっている。そのため、第1ブリーザ室への油の流入を抑制でき、第1ブリーザ室からケースの外部へ油が吹き出す、いわゆるブリーザ吹きを生じさせ難くすることができる。また、ケースの内部に連通する第1連通部と第2連通部とが、第1ブリーザ室と第2ブリーザ室とを連通する室間連通部を挟んで、車両水平状態での水平方向に沿う対象方向の両側に離間して配置されている。そのため、例えば車両の旋回時や急制動時などにおいて、ケースの内部に貯留された油の油面が傾斜し、対象方向の一方側で油面が上昇した場合であっても、第1連通部と第2連通部との少なくとも一方が油面よりも上に位置する状態を確保し易いようにできる。従って、上記のような油面の傾斜状態においても、第1連通部及び第2連通部のうち、油面よりも上に位置して油によって塞がれていない何れか一方と、外部連通部とを、室間連通部を介して連通した状態とし、それによってケースの内部とケースの外部とを連通させることができる。従って、第1ブリーザ室への油の流入を少なく抑制でき、ひいては、ブリーザ吹きを生じさせ難くすることができる。
【0008】
本開示に係る技術のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】第2ケース部材の合わせ面側から見た、第1ブリーザ室と第2ブリーザ室との位置関係を示す軸方向視図
【
図3】第1ケース部材の合わせ面側から見た、第1ブリーザ室と第2ブリーザ室との位置関係を示す軸方向視図
【
図4】第1ブリーザ室と第2ブリーザ室との位置関係を示す平面視図
【
図5】直交方向視における、第1ブリーザ室と第2ブリーザ室との位置関係を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0010】
ブリーザは、車両用駆動伝達装置を収容するケースに設けられ、ケースの内部とケースの外部との間での空気の流通経路を確保することで、ケースの内部とケースの外部との圧力の差を低減させる機能を果たす。ここで、ケースの内部とケースの外部との圧力の差は、ケースの内部での温度上昇やケースの外部の気温の変化等によって生じる。例えば、ケースの内部の温度が上昇してケースの内部の圧力が上昇した場合には、ケースの内部の空気がブリーザを介してケースの外部に排出されることでケースの内部の圧力が減少する。この際、車両用駆動伝達装置の潤滑等のためにケースの内部に収容された油が、空気と共にケースの外部に排出される、いわゆるブリーザ吹きが生じることは避ける必要がある。このように、ブリーザには、空気の流通を確保しつつケースの内部から外部への油の排出を規制する機能が求められる。以下、ブリーザの実施形態について図面を参照して説明する。
【0011】
〔車両用駆動伝達装置〕
まず、
図1を参照して、ブリーザ100の適用例としての車両用駆動伝達装置Tの構成について説明する。
【0012】
車両用駆動伝達装置Tは、複数の車輪Wの駆動力源となる回転電機6と、カウンタギヤ機構7と、カウンタギヤ機構7を介して回転電機6から入力されるトルクを複数の車輪Wに分配する差動歯車機構8と、を備えている。本実施形態では、上記の各機構7,8を介して複数の車輪Wに伝達される回転電機6のトルクによって、車両(車両用駆動伝達装置Tが搭載された車両)が走行する。
【0013】
本明細書では、「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。また、本明細書では、2つの部材の配置に関して、「ある方向に見て重複する」とは、その視線方向に平行な仮想直線を当該仮想直線に直交する各方向に移動させた場合に、当該仮想直線が2つの部材の双方に交わる領域が少なくとも一部に存在することを意味する。また、本明細書では、「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が一又は二以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いている。
【0014】
回転電機6は、不図示のロータと一体回転するロータ軸60を備えている。ロータ軸60は、仮想軸である第1軸A1を回転軸心として配置されていると共に、回転電機6のトルクを出力するための出力ギヤ61に連結されている。
【0015】
差動歯車機構8は、差動入力ギヤ81と、一対の出力軸80とを備えている。差動入力ギヤ81及び出力軸80は、仮想軸である第2軸A2を回転軸心として配置されている。一対の出力軸80のそれぞれは車輪Wに連結されている。差動入力ギヤ81は、後述するカウンタギヤ機構7の第2ギヤ72に噛み合っている。従って、回転電機6のトルクは、カウンタギヤ機構7を介して差動入力ギヤ81に伝達される。差動入力ギヤ81に伝達されたトルクは、図示しない差動ギヤ機構によって一対の出力軸80に分配され、各車輪Wに伝達される。
【0016】
カウンタギヤ機構7は、第1ギヤ71と、第2ギヤ72と、連結軸70とを備えている。連結軸70は、仮想軸である第3軸A3を回転軸心として配置されていると共に、第1ギヤ71及び第2ギヤ72と一体的に回転するように連結されている。第1ギヤ71は、出力ギヤ61に噛み合っている。第2ギヤ72は、差動入力ギヤ81に噛み合っている。本例では、第1ギヤ71は出力ギヤ61よりも大径であり、第2ギヤ72は差動入力ギヤ81よりも小径である。これにより、出力ギヤ61の回転は、2段階に減速されて差動入力ギヤ81に伝達される。このような構成を実現し易くするため、第2ギヤ72は、第1ギヤ71よりも小径に形成されている。
【0017】
第1軸A1、第2軸A2、及び第3軸A3は、互いに異なる仮想軸であり、互いに平行に配置される。以下では、これらの各軸A1~A3に平行な方向を「軸方向L」とする。本実施形態では、軸方向Lは、車両の前後方向(進行方向)を基準とする左右方向に等しい。そして、平面視で軸方向Lに直交する方向は、車両の前後方向に等しい。以下で説明する各部材についての方向は、それらが車両用駆動伝達装置T、或いは、車両に組み付けられた状態での方向を用いて表すものとする。
【0018】
図2~
図4に示すように、ケース5は、車両用駆動伝達装置Tと当該車両用駆動伝達装置Tを潤滑するための油9(
図5等参照)とを収容していると共に、車両に固定されている。本実施形態では、ケース5は、第1ケース部材51と、第1ケース部材51に対して接合される第2ケース部材52と、を備えている。本例では、第1ケース部材51と第2ケース部材52とは、軸方向Lに並んで配置されると共に、互いの合わせ面F51,F52を軸方向Lに対向させた状態で当該合わせ面F51,F52にて接合されている。
図2は、第2ケース部材52の合わせ面F52側から見た軸方向L視図であり、
図3は、第1ケース部材51の合わせ面F51側から見た軸方向L視図である。
【0019】
図2及び
図3に示すように、本実施形態では、第1軸A1、第2軸A2、及び第3軸A3は、上方から下方へ向かって、第3軸A3、第1軸A1、第2軸Aの順に配置されている。また、これらの3つの軸は、軸方向Lに沿う軸方向L視で、水平方向の一方側(
図2における右側)から他方側(
図2における左側)へ向かって、第1軸A1、第3軸A3、第2軸Aの順に配置されている。
【0020】
〔ブリーザ〕
次に、
図2~
図7を参照して、ブリーザ100について説明する。
【0021】
ブリーザ100は、ケース5に設けられている。ブリーザ100は、ケース外部53に連通すると共に、ケース内部54に連通している。これにより、ブリーザ100は、ケース内部54とケース外部53との間での空気の流通経路を確保し、ケース内部54とケース外部53との圧力の差を低減させる機能を果たす。
【0022】
ここで一般的に、ケース内部54には油9が収容されていることから、ブリーザ100におけるケース内部54との連通部分が油9で塞がれることがある。例えば、車両の旋回時や急発進/急ブレーキなどの急制動時には、ケース内部54における油面F9が傾斜してその一部が上昇する場合がある。具体的には、車両の旋回時には、左右方向に油面F9が傾斜し、車両の急発進/急ブレーキなどの急制動時には、前後方向に油面F9が傾斜する。このような場合において、油面F9の一部が上昇することによって、ブリーザ100におけるケース内部54との連通部分が、油面F9よりも下方に位置して油9で塞がれると、ケース内部54に収容された油9がブリーザ100を介してケース外部53に排出される、いわゆるブリーザ吹きが生じる可能性がある。本開示に係るブリーザ100は、このようなブリーザ吹きが生じ難いように構成されている。そこで、このようなブリーザ100の構成について詳細に説明する。
【0023】
以下では、車両が水平面上にある車両水平状態での水平方向に沿う特定の方向を対象方向Xとする。そして、対象方向Xの一方側を対象方向第1側X1とし、対象方向Xの他方側を対象方向第2側X2とする。例えば、対象方向Xは、車両の左右方向または前後方向、或いは、左右方向と前後方向との双方に交差する方向とされる。本実施形態では、対象方向Xは、車両の左右方向(本例では軸方向L)に沿うように設定されている。この場合、車両の旋回時等において、ケース内部54の油面F9が左右方向に傾斜した場合であっても、ブリーザ吹きが生じ難い構成とすることができる。また、以下では、水平面内で対象方向Xに直交する方向を直交方向Yとする。本実施形態のように対象方向Xが車両の左右方向に沿うように設定されている場合、直交方向Yは、車両の前後方向に沿う方向となる。
【0024】
図2~
図5に示すように、ブリーザ100は、第1包囲壁W1によって囲まれた第1ブリーザ室10と、第1ブリーザ室10に隣接して配置され、第2包囲壁W2によって囲まれた第2ブリーザ室20と、第1ブリーザ室10とケース外部53とを連通する外部連通部43と、第2ブリーザ室20とケース内部54とを連通する第1連通部41及び第2連通部42と、第1ブリーザ室10と第2ブリーザ室20とを連通する室間連通部30と、を備えている。第1ブリーザ室10は、外部連通部43を介してケース外部53と連通していると共に、室間連通部30を介して第2ブリーザ室20と連通している。そして、第2ブリーザ室20は、第1連通部41及び第2連通部42の双方を介してケース内部54と連通している。つまり、第1連通部41と第2連通部42とは、それぞれ、第2ブリーザ室20の第2包囲壁W2に開口すると共に、ケース内部54に開口するように形成されている。従って、ブリーザ100は、ケース外部53とケース内部54との双方に連通しており、ケース内部54の圧力を調整可能となっている。ブリーザ100は、上記構成により、ケース外部53に連通する第1ブリーザ室10に油9が流入する前に、第2ブリーザ室20に油9が流入する構造となっている。そのため、この構成によれば、第1ブリーザ室10への油9の流入を抑制でき、第1ブリーザ室10からケース外部53へ油9が吹き出すブリーザ吹きを生じさせ難くすることができる。
【0025】
図2及び
図3に示すように、本実施形態では、ケース内部54に連通する第2ブリーザ室20は、ケース内部54の上部領域、より詳細には、ケース5の合わせ面F51,F52における上縁部分に隣接して配置されている。これにより、油面F9が上昇した場合であっても、当該油面F9が第2ブリーザ室20に到達し難くできる。本例では、第1ブリーザ室10及び第2ブリーザ室20の双方が、ケース5の合わせ面F51,F52における上縁部分に隣接して配置されている。
【0026】
また、本実施形態では、第2ブリーザ室20は、回転電機6の回転軸心に沿う第1軸A1よりも上方に配置されている。図示の例では、第2ブリーザ室20は、第1軸A1、第2軸A2、及び第3軸A3のうち、最も上方に配置される第3軸A3よりも上方に配置されている。これにより、例えば回転電機6の駆動に伴ってギヤ等により油9が掻き上げられた場合に、掻き上げられた油9が第2ブリーザ室20に流入し難くできる。本例では、第1ブリーザ室10及び第2ブリーザ室20の双方が、第3軸A3よりも上方に配置されている。
【0027】
図2~
図5に示すように、本実施形態では、第1ブリーザ室10は、第2ブリーザ室20よりも大きく形成されている。換言すれば、第1ブリーザ室10の容積は、第2ブリーザ室20の容積よりも大きい。このように第1ブリーザ室10の容積を大きく確保することにより、仮に第1ブリーザ室10に油9が流入した場合であっても、流入した油9が外部連通部43に到達し難くでき、ブリーザ吹きを生じさせ難くすることができる。
【0028】
本実施形態では、第1ブリーザ室10における対象方向Xに沿う寸法は、直交方向Yに沿う寸法よりも長く形成されている。そして、外部連通部43は、第1包囲壁W1から上方に突出するように形成されている。図示の例では、外部連通部43は、第1包囲壁W1における対象方向Xの中央部分に接続されている。但し、このような構成に限定されることなく、外部連通部43は、第1包囲壁W1における何れの部分に接続されていても良い。外部連通部43は、例えば、第1包囲壁W1における対象方向第1側X1の端部、或いは対象方向第2側X2の端部に接続されていても良い。外部連通部43の上端部は、第1包囲壁W1よりも上方に配置されている。
【0029】
本実施形態では、外部連通部43には、ケース外部53と連通する不図示のブリーザプラグが取り付けられている。これにより、ケース内部54とケース外部53との間での空気の流通経路を確保しつつ、ケース外部53からの水や異物等の侵入を規制することができる。
【0030】
本実施形態では、ブリーザ100は、第1ブリーザ室10とケース内部54とを連通し、第1ブリーザ室10に流入した油9をケース内部54に排出する油排出孔44を備えている。本例では、油排出孔44は、第1包囲壁W1における底部に開口している。そして、油排出孔44は、当該油排出孔44を介してケース内部54から第1ブリーザ室10へ油9が流入し難いように小径に形成されている。ここでは、油排出孔44は、第2ブリーザ室20とケース内部54とを連通する第1連通部41及び第2連通部42のそれぞれの開口よりも小径に形成されている。そして、油排出孔44の径を第1連通部41及び第2連通部42のそれぞれの径よりも十分に小さくすることにより、仮に油面F9が油排出孔44より上まで上昇した場合であっても、第1ブリーザ室10に流入する油の量を、第1連通部41及び第2連通部42に流入する油の量に比べて十分に少なく抑えることができる。そして、油面F9が油排出孔44より低い状態では、第1ブリーザ室10に流入した油9は、自重によって油排出孔44からケース内部54へ排出される。
【0031】
本実施形態では、第2ブリーザ室20は、第1ブリーザ室10よりも小さく形成されている。換言すれば、第2ブリーザ室20の容積は、第1ブリーザ室10の容積よりも小さい。但し、第2ブリーザ室20の容積は、後述するように、第1連通部41又は第2連通部42に油が流入し始めてから室間連通部30に到達するまでに確保する必要がある時間に応じて設定される。従って、第2ブリーザ室20の容積が、第1ブリーザ室10の容積よりも大きく設定されても良い。
【0032】
図5に示すように、本実施形態では、第2ブリーザ室20は、直交方向Y視において第1ブリーザ室10と重複するように配置されている。これにより、ブリーザ100全体の配置領域を小型化できる。本例では、第2ブリーザ室20は、直交方向Y視において、第1ブリーザ室10の上部領域と重複するように、より詳細には、第1ブリーザ室10における上下方向の中央領域よりも上方の領域と重複するように配置されている。これにより、第2ブリーザ室20とケース内部54とを連通する第1連通部41及び第2連通部42を、ケース内部54における上縁部分に近い領域に配置でき、油面F9が第1連通部41又は第2連通部42に到達し難くすることができる。
【0033】
本実施形態では、第2ブリーザ室20は、対象方向Xに沿って長い形状とされている。換言すれば、第2ブリーザ室20における対象方向Xに沿う寸法は、直交方向Yに沿う寸法よりも長く形成されている。これにより、第1連通部41と第2連通部42との対象方向Xの間隔を大きく確保し易くなっている。その結果、第1連通部41と室間連通部30との対象方向Xの間隔、及び、第2連通部42と室間連通部30との対象方向Xの間隔も大きく確保し易くなっている。
【0034】
室間連通部30は、第1ブリーザ室10と第2ブリーザ室20とを連通している。
図2~
図4に示すように、本実施形態では、室間連通部30は、第1ケース部材51と第2ケース部材52とが接合される合わせ面F51,F52に沿って形成されている。例えば、第1ケース部材51の合わせ面F51及び第2ケース部材52の合わせ面F52のうち少なくとも一方に、合わせ面F51,F52に沿うと共に第1ブリーザ室10と第2ブリーザ室20とに亘る溝状部が形成されると良い。これにより、第1ケース部材51と第2ケース部材52とを接合した状態で当該溝状部によって室間連通部30が形成される。このような構成により、室間連通部30を容易に形成することができる。本例では、第1ケース部材51の合わせ面F51及び第2ケース部材52の合わせ面F52のうちいずれか一方に、溝状部が形成され、いずれか他方には溝状部は形成されていない(
図4参照)。図示の例では、第2ケース部材52における合わせ面F52にのみ、溝状部が形成されている。これにより、室間連通部30を更に容易に形成することができている。
【0035】
図5に示すように、室間連通部30は、第2包囲壁W2に開口する連通開口部30Aを備えている。当然ながら、室間連通部30は、第1包囲壁W1に開口する第1室側連通開口部30B(
図2参照)も備えている。室間連通部30は、対象方向Xにおける第1連通部41と第2連通部42との間に配置されている。本実施形態では、連通開口部30Aよりも対象方向第1側X1における第2ブリーザ室20の容積と連通開口部30Aよりも対象方向第2側X2における第2ブリーザ室20の容積とが均等となる位置に、連通開口部30Aが配置されている。より詳細には、連通開口部30Aの中心を通ると共に対象方向Xに直交する仮想面(上下方向に沿う仮想面)に対して、対象方向第1側X1の容積と対象方向第2側X2の容積とが均等となる位置に、連通開口部30Aが配置されている。これにより、第1連通部41を介して第2ブリーザ室20に油9が流入する場合と、第2連通部42を介して第2ブリーザ室20に油9が流入する場合とで、第2ブリーザ室20に流入した油9が連通開口部30Aに到達するまでの時間に不均等が生じないようにできる。ここで、均等とは、厳密に同じであることを意図するものではなく、実質的に同じであることを含む概念として用いている。本実施形態では、第1連通部41から油9が流入した場合と、第2連通部42から油9が流入した場合とで、油9が連通開口部30Aに到達するまでの時間の差が無視できる程度の差である場合には、対象方向第1側X1の容積と対象方向第2側X2の容積とが均等であると考える。
【0036】
次に、室間連通部30(連通開口部30A)、第1連通部41、及び第2連通部42の配置構成について、
図6及び
図7も参照して説明する。
【0037】
ここで、
図6は、ケース内部54に貯留された油9の油面F9が、対象方向第1側X1に向かうに従って高くなるように最大傾斜した状態である第1傾斜状態S1を示している。ここでは、「油面F9が対象方向第1側X1に最大に傾斜した状態」とは、車両の走行状態の中で想定される最大の角度で油面F9が対象方向第1側X1に傾斜した状態をいう。図示の例では、油面F9は、第1傾斜状態S1で、水平面に対して約45度傾斜している。油面F9の第1傾斜状態S1では、油面F9における対象方向第1側X1の部分が上昇すると共に対象方向第2側X2の部分が下降している。
【0038】
図7は、ケース内部54に貯留された油9の油面F9が対象方向第2側X2に向かうに従って高くなるように最大傾斜した状態である第2傾斜状態S2を示している。ここでは、「油面F9が対象方向第2側X2に最大に傾斜した状態」とは、車両の走行状態の中で想定される最大の角度で油面F9が対象方向第2側X2に傾斜した状態をいう。図示の例では、油面F9は、第2傾斜状態S2で、水平面に対して約45度傾斜している。油面F9の第2傾斜状態S2では、油面F9における対象方向第2側X2の部分が上昇すると共に対象方向第1側X1の部分が下降している。
【0039】
本実施形態において、油面F9には、ケース内部54に収容された油9の平滑な液面だけを意味するものではなく、車両の振動や加減速によって波立った液面や、回転電機6や車両用駆動伝達装置Tのギヤ等によって攪拌されたことにより泡立った液面等も含まれる。このような場合においては、波立った或いは泡立った液面における最も高い位置が油面F9となる。なお、
図5は、油面F9が傾斜していない状態を示している。
【0040】
本実施形態では、油面F9の第1傾斜状態S1は、車両の左右方向におけるいずれか一方側(例えば右側)に最大傾斜した状態であり、第2傾斜状態S2は、車両の左右方向におけるいずれか他方側(例えば左側)に最大傾斜した状態である。すなわち本例では、車両の旋回時において、油面F9が第1傾斜状態S1又は第2傾斜状態S2となることを想定している。
【0041】
本実施形態に係るブリーザ100は、第1傾斜状態S1又は第2傾斜状態S2(油面F9が水平面に対して45度傾斜した状態)が一定期間(例えば30秒間)維持された場合においても、油9が第1ブリーザ室10へ流入し難いように構成されている。
【0042】
図5~
図7に示すように、第1連通部41と第2連通部42とは、室間連通部30(連通開口部30A)を挟んで対象方向Xの両側に離間して配置されている。これにより、油面F9が対象方向Xにおけるいずれかの側に傾斜した場合であっても、第1連通部41と第2連通部42との少なくとも一方が油面F9よりも上方に位置する状態を確保し易い。従って、ブリーザ100を介してケース内部54とケース外部53とが連通した状態(空気の流通経路が確保された状態)を維持できる。また、上述のように、本実施形態では、第2ブリーザ室20における対象方向Xに沿う寸法は、直交方向Yに沿う寸法よりも長く形成されている。そのため、第1連通部41と第2連通部42との対象方向Xの離間距離を長く確保することができている。従って、油面F9が対象方向Xにおけるいずれかの側に傾斜した場合であっても、第1連通部41と第2連通部42との少なくとも一方が油面F9よりも上方に位置する状態を更に確保し易くなっている。
【0043】
また、上述のように、本実施形態では、連通開口部30Aよりも対象方向第1側X1における第2ブリーザ室20の容積と連通開口部30Aよりも対象方向第2側X2における第2ブリーザ室20の容積とが均等となる位置に、連通開口部30Aが配置されている。本例では、直交方向Y視において、第2ブリーザ室20における対象方向Xの中央部から対象方向第2側X2の容積が、当該中央部から対象方向第1側X1の容積よりも大きく形成されている。従って、図示のように、連通開口部30Aは、第2ブリーザ室20における対象方向Xの中央部よりも対象方向第2側X2にずれた位置に配置されている。本例では、対象方向Xにおける連通開口部30Aと第2連通部42との離間距離は、対象方向Xにおける連通開口部30Aと第1連通部41との離間距離も短くなっている。このように、第2ブリーザ室20の形状に関わらず、室間連通部30(連通開口部30A)、第1連通部41、及び第2連通部42の相対的な位置関係を調整することで、第2ブリーザ室20に流入した油9が連通開口部30Aに到達するまでの時間に不均等が生じないようにできる。従って、第2ブリーザ室20が配置される周辺の構造に合わせて、当該第2ブリーザ室20の形状を自由度高く設計することができる。
【0044】
本実施形態では、第1連通部41は、室間連通部30(連通開口部30A)よりも対象方向第1側X1に配置されると共に、
図7に示すように、ケース内部54に貯留された油9の油面F9が対象方向第2側X2に最大傾斜した状態である第2傾斜状態S2において、当該第2傾斜状態S2の油面F9より上方に位置するように配置されている。これにより、油面F9が第2傾斜状態S2の場合に、第1連通部41が油9で塞がれないようにできる。
【0045】
本実施形態では、第2連通部42は、室間連通部30(連通開口部30A)よりも対象方向第2側X2に配置されると共に、
図6に示すように、油面F9が対象方向第1側X1に最大傾斜した状態である第1傾斜状態S1において、当該第1傾斜状態S1の油面F9より上方に位置するように配置されている。これにより、油面F9が第1傾斜状態S1の場合に、第2連通部42が油9で塞がれないようにできる。
【0046】
このように、本実施形態の構成によれば、油面F9が第1傾斜状態S1及び第2傾斜状態S2のいずれの場合であっても、第1連通部41及び第2連通部42のうちいずれか一方が油9で塞がれないようにできる。従って、油面F9が最大限傾斜した状態であっても、第1連通部41及び第2連通部42のうちいずれか一方と、第2ブリーザ室20の一部と、連通開口部30Aと、第1ブリーザ室10と、外部連通部43とを介して、ケース内部54とケース外部53とを連通させることができる。これにより、油面F9の傾斜状態に関わらず、ケース内部54とケース外部53との間での空気の流通経路を常に確保することができ、ケース内部54とケース外部53との圧力の差によって、ケース内部54に収容された油9が空気と共にケース外部53に排出される、いわゆるブリーザ吹きが生じないようにすることができる。
【0047】
ところで、ケース内部54とケース外部53とが連通した状態を維持する観点からは、油面F9の傾斜状態に関わらず、第1連通部41及び第2連通部42の双方が油面F9よりも上方に位置している構成とすることも考えられる。しかしながら、そのような構成とするためには、ケース5を上下方向に大型化する必要があり、車両への搭載性が悪化する可能性がある。そこで、本実施形態では、第1連通部41は、油面F9の第1傾斜状態S1において、当該第1傾斜状態S1の油面F9より下方に位置するように配置されている(
図6参照)。また、第2連通部42は、油面F9の第2傾斜状態S2において、当該第2傾斜状態S2の油面F9より下方に位置するように配置されている(
図7参照)。このように、第1連通部41及び第2連通部42を油面F9に対して必要以上に上方に配置せず、油面F9に比較的近い位置に配置することにより、ケース5が上下方向に必要以上に大型化しないようにでき、車両への搭載性を良好に確保し易くなっている。
【0048】
また本実施形態では、車両水平状態における水平方向視(本例では直交方向Y視)において、室間連通部30(連通開口部30A)が、第1連通部41と第2連通部42とを繋ぐ仮想線Vよりも上方に位置するように配置されている。このような構成によれば、室間連通部30(連通開口部30A)が、当該仮想線Vよりも下方に位置するように配置されている場合に比べて、第2ブリーザ室20に油9が流入した場合において当該油9の油面F9よりも上に室間連通部30が位置する状態を長く確保し易くなる。従って、油9が第1ブリーザ室10へ流入する可能性を低減できる。
【0049】
ここで、第1連通部41を介して第2ブリーザ室20に油9が流入した場合に連通開口部30Aに油9が到達するまでの時間は、第1連通部41の開口断面積によっても変化する。これは、第1連通部41の開口断面積に応じて、第1連通部41を通って流入する油9の流量が変化するからである。このことは、第2連通部42についても同様である。すなわち、第1連通部41又は第2連通部42から第2ブリーザ室20に流入した油9が連通開口部30Aに到達するまでの時間は、上述したような、第2ブリーザ室20の容積、及び、室間連通部30と第1連通部41と第2連通部42との位置関係に加えて、第1連通部41及び第2連通部42の開口断面積の設定によっても変化する。そして、ブリーザ吹きが生じる可能性を低減するためには、油面F9が最大限傾斜した状態であっても、連通開口部30Aが油9によって塞がれない時間を長く確保することが望ましい。そのためには、第1連通部41及び第2連通部42の開口断面積は、空気の流通経路を確保できる範囲で、できるだけ小さくすることが好ましい。これにより、第1連通部41及び第2連通部42を、第2ブリーザ室20への油9の流入を制限する絞り部として機能させることができる。
【0050】
本実施形態では、第1連通部41及び第2連通部42は、対象方向Xにおける第1連通部41が形成された位置における第2ブリーザ室20の対象方向Xに直交する断面積、及び、対象方向Xにおける第2連通部42が形成された位置における第2ブリーザ室20の対象方向Xに直交する断面積、の双方よりも小径とされている。また本実施形態では、第1連通部41の開口断面積と、第2連通部42の開口断面積とは同じに設定している。このような構成により、第1連通部41及び第2連通部42が、ケース内部54から第2ブリーザ室20への油9の流路における絞り部として機能する。そのため、
図6及び
図7に示すように、第2ブリーザ室20の外部であってケース内部54における油面F9の上昇に対して、第2ブリーザ室20における油面F9の上昇速度を遅くすることができる。従って、本構成によれば、室間連通部30(連通開口部30A)が、第2ブリーザ室20の外部の油面F9より下に位置する状態となった場合でも、第2ブリーザ室20に流入した油9が室間連通部30(連通開口部30A)に到達するまでの時間を一定程度確保することができる。従って、油面F9の第1傾斜状態S1又は第2傾斜状態S2が、一定期間継続した場合であっても、室間連通部30を介しての第1ブリーザ室10への油9の流入を抑制することができ、ブリーザ吹きを生じさせ難くすることができる。
【0051】
室間連通部30(連通開口部30A)が、第2ブリーザ室20の外部の油面F9より下に位置する状態となってから、第2ブリーザ室20に流入した油9が室間連通部30(連通開口部30A)に到達するまでに確保する必要がある時間(以下単に「要求時間」という)は、車両の要求仕様に応じて定まることが多い。従って、本実施形態に係るブリーザ100では、この要求時間を確保できるように、第1連通部41及び第2連通部42の開口断面積と、連通開口部30Aに対して対象方向第1側X1及び対象方向第2側X2のそれぞれにおける第2ブリーザ室20の容積と、が設定されている。具体的には、
図6に示すような第1傾斜状態S1では、室間連通部30(連通開口部30A)に油9が到達するまでの時間は、第1連通部41の開口断面積と、連通開口部30Aに対して対象方向第1側X1における第2ブリーザ室20の容積と、油9の状態(粘度や圧力等)とに応じて定まる。また、
図7に示すような第2傾斜状態S2では、室間連通部30(連通開口部30A)に油9が到達するまでの時間は、第2連通部42の開口断面積と、連通開口部30Aに対して対象方向第2側X2における第2ブリーザ室20の容積と、油9の状態(粘度や圧力等)とに応じて定まる。従って、第1連通部41及び第2連通部42の開口断面積と、連通開口部30Aに対して対象方向第1側X1及び対象方向第2側X2のそれぞれにおける第2ブリーザ室20の容積とが、想定される使用条件での油9の状態と、要求時間(例えば30秒)とに基づいて、最も悪い条件でも当該要求時間を確保できるように設定されると好適である。
【0052】
〔その他の実施形態〕
次に、ブリーザのその他の実施形態について説明する。
【0053】
(1)上記の実施形態では、連通開口部30Aよりも対象方向第1側X1における第2ブリーザ室20の容積と連通開口部30Aよりも対象方向第2側X2における第2ブリーザ室20の容積とが均等となる位置に、連通開口部30Aが配置されている例について説明した。しかし、このような例に限定されることなく、連通開口部30Aは、上記の対象方向第1側X1における容積と対象方向第2側X2における容積とが不均等となる位置に配置されていても良い。この場合であっても、第1連通部41から油9が流入した場合と、第2連通部42から油9が流入した場合とで、油9が連通開口部30Aに到達するまでの時間が同等となるようにすると好適である。例えば、第1連通部41と第2連通部42とのうち、連通開口部30Aに対して第2ブリーザ室20の容積が小さい方に設けられた連通部の開口断面積を、他方の開口断面積よりも小さくすると好適である。
【0054】
(2)上記の実施形態では、車両水平状態における水平方向視(直交方向Y視)において、室間連通部30(連通開口部30A)が、第1連通部41と第2連通部42とを繋ぐ仮想線Vよりも上方に位置するように配置されている例について説明した。しかし、このような例に限定されることなく、室間連通部30は、車両水平状態における水平方向視において、上記仮想線Vと重複する位置、或いは、上記仮想線Vよりも下方に位置するように配置されていても良い。
【0055】
(3)上記の実施形態では、室間連通部30が、第1ケース部材51と第2ケース部材52とが接合される合わせ面F51,F52に沿って形成されている例について説明した。しかし、このような例に限定されることなく、室間連通部30は、第1ケース部材51と第2ケース部材52とが接合される合わせ面F51,F52とは異なる位置に形成されていても良い。
【0056】
(4)上記の実施形態では、第1連通部41と第2連通部42とが室間連通部30を挟んで離間して配置される方向である対象方向Xが、車両の左右方向に沿うように設定されている例について説明した。しかし、このような例に限定されることなく、対象方向Xは、例えば車両の前後方向に沿うように設定されていても良い。この場合、車両の急発進/急ブレーキなどの急制動時において、ケース内部54の油面F9が前後方向に傾斜した場合であっても、ブリーザ吹きが生じ難い構成とすることができる。或いは、対象方向Xが、左右方向と前後方向との双方に交差する方向に設定されていても良い。この場合、車両の旋回時と急制動時との双方で油面F9の傾斜によるブリーザ吹きが生じ難い構成とすることができる。
【0057】
(5)なお、上述した各実施形態で開示された構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示された構成と組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。従って、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
【0058】
〔上記実施形態の概要〕
以下、上記において説明したブリーザについて説明する。
【0059】
車両用駆動伝達装置(T)と当該車両用駆動伝達装置(T)を潤滑するための油(9)とを収容していると共に車両に固定されたケース(5)に設けられるブリーザ(100)であって、
第1包囲壁(W1)によって囲まれた第1ブリーザ室(10)と、
前記第1ブリーザ室(10)に隣接して配置され、第2包囲壁(W2)によって囲まれた第2ブリーザ室(20)と、
前記第1ブリーザ室(10)と前記ケース(5)の外部(53)とを連通する外部連通部(43)と、
前記第2ブリーザ室(20)と前記ケース(5)の内部(54)とを連通する第1連通部(41)及び第2連通部(42)と、
前記第1ブリーザ室(10)と前記第2ブリーザ室(20)とを連通する室間連通部(30)と、を備え、
前記車両が水平面上にある車両水平状態での水平方向に沿う特定の方向を対象方向(X)として、
前記第1連通部(41)と前記第2連通部(42)とが、前記室間連通部(30)を挟んで前記対象方向(X)の両側に離間して配置されている。
【0060】
本構成によれば、ケース(5)の外部(53)に連通する第1ブリーザ室(10)が、室間連通部(30)と第2ブリーザ室(20)とを介してケース(5)の内部(54)に連通しているため、第1ブリーザ室(10)に油(9)が流入する前に、第2ブリーザ室(20)に油(9)が流入する構造となっている。そのため、第1ブリーザ室(10)への油(9)の流入を抑制でき、第1ブリーザ室(10)からケース(5)の外部(53)へ油が吹き出す、いわゆるブリーザ吹きを生じさせ難くすることができる。また、ケース(5)の内部(54)に連通する第1連通部(41)と第2連通部(42)とが、第1ブリーザ室(10)と第2ブリーザ室(20)とを連通する室間連通部(30)を挟んで、車両水平状態での水平方向に沿う対象方向(X)の両側に離間して配置されている。そのため、例えば車両の旋回時や急制動時などにおいて、ケース(5)の内部(54)に貯留された油(9)の油面(F9)が傾斜し、対象方向(X)の一方側で油面(F9)が上昇した場合であっても、第1連通部(41)と第2連通部(42)との少なくとも一方が油面(F9)よりも上に位置する状態を確保し易いようにできる。従って、上記のような油面(F9)の傾斜状態においても、第1連通部(41)及び第2連通部(42)のうち、油面(F9)よりも上に位置して油(9)によって塞がれていない何れか一方と、外部連通部(43)とを、室間連通部(30)を介して連通した状態とし、それによってケース(5)の内部(54)とケース(5)の外部(53)とを連通させることができる。従って、第1ブリーザ室(10)への油(9)の流入を少なく抑制でき、ひいては、ブリーザ吹きを生じさせ難くすることができる。
【0061】
ここで、
前記対象方向(X)の一方側を対象方向第1側(X1)とし、前記対象方向(X)の他方側を対象方向第2側(X2)として、
前記第1連通部(41)は、前記室間連通部(30)よりも前記対象方向第1側(X1)に配置されると共に、前記ケース(5)の内部(54)に貯留された油(9)の油面(F9)が前記対象方向第2側(X2)に最大傾斜した状態である第2傾斜状態(S2)において、当該第2傾斜状態(S2)の油面(F9)より上方に位置するように配置され、
前記第2連通部(42)は、前記室間連通部(30)よりも前記対象方向第2側(X2)に配置されると共に、前記油面(F9)が前記対象方向第1側(X1)に最大傾斜した状態である第1傾斜状態(S1)において、当該第1傾斜状態(S1)の油面(F9)より上方に位置するように配置されていると好適である。
【0062】
本構成によれば、油面(F9)が第2傾斜状態(S2)の場合に、第1連通部(41)が油(9)で塞がれないようにでき、油面(F9)が第1傾斜状態(S1)の場合には、第2連通部(42)が油(9)で塞がれないようにできる。従って、本構成によれば、油面(F9)が対象方向(X)の何れかの側に最大傾斜した状態であっても、ケース(5)の内部(54)とケース(5)の外部(53)とを連通させることができ、その結果、ブリーザ吹きを生じさせ難くすることができる。
【0063】
また、
前記第1連通部(41)は、前記第1傾斜状態(S1)において、当該第1傾斜状態(S1)の油面(F9)より下方に位置するように配置され、
前記第2連通部(42)は、前記第2傾斜状態(S2)において、当該第2傾斜状態(S2)の油面(F9)より下方に位置するように配置されていると好適である。
【0064】
このように、油面(F9)が第1傾斜状態(S1)の場合には、第1連通部(41)は油面(F9)よりも下方に配置されることから油(9)で塞がれることになるが、上述のように、第2連通部(42)は油面(F9)よりも上方に配置される。一方、油面(F9)が第2傾斜状態(S2)の場合には、第2連通部(42)は油面(F9)よりも下方に配置されることから油(9)で塞がれることになるが、上述のように、第1連通部(41)は油面(F9)よりも上方に配置される。従って、油面(F9)の傾斜状態によっては第1連通部(41)及び第2連通部(42)のうち何れか一方が油(9)によって塞がれる場合であっても、何れか他方は油(9)によって塞がれないようにできる。ところで、油面(F9)の傾斜状態に関わらず、第1連通部(41)及び第2連通部(42)の双方が油面(F9)よりも上方に位置するようにできれば良いが、そのような構成とするためにケース(5)が大型化すると、車両への搭載性が悪化する。本構成によれば、ケース(5)の大型化を抑制しつつ、油面(F9)の傾斜状態に関わらずケース(5)の内部(54)とケース(5)の外部(53)とが連通した状態を確保でき、ブリーザ吹きを生じさせ難くすることができる。
【0065】
また、
前記室間連通部(30)は、前記第2包囲壁(W2)に開口する連通開口部(30A)を備え、
前記連通開口部(30A)よりも前記対象方向第1側(X1)における前記第2ブリーザ室(20)の容積と前記連通開口部(30A)よりも前記対象方向第2側(X2)における前記第2ブリーザ室(20)の容積とが均等となる位置に、前記連通開口部(30A)が配置されていると好適である。
【0066】
本構成によれば、油面(F9)が第1傾斜状態(S1)の場合には、ケース(5)の内部(54)からの油(9)が第1連通部(41)を介して第2ブリーザ室(20)に流入する。そして、この第1傾斜状態(S1)が一定期間継続することで、第2ブリーザ室(20)には、対象方向第1側(X1)から次第に油(9)が貯留していき、油面(F9)が連通開口部(30A)に次第に近づく。反対に、油面(F9)の第2傾斜状態(S2)が一定期間継続した場合には、第2ブリーザ室(20)には、対象方向第2側(X2)から次第に油(9)が貯留していき、油面(F9)が連通開口部(30A)に次第に近づく。本構成によれば、連通開口部(30A)よりも対象方向第1側(X1)における第2ブリーザ室(20)の容積と連通開口部(30A)よりも対象方向第2側(X2)における第2ブリーザ室(20)の容積とが均等となるようにされているため、油面(F9)が第1傾斜状態(S1)である場合と第2傾斜状態(S2)である場合とで、第2ブリーザ室(20)に油(9)が貯留して連通開口部(30A)に到達するまでの時間に不均等が生じないようにできる。従って、油面(F9)の傾斜状態に関わらず、ブリーザ吹きを生じさせ難くすることができる。
【0067】
また、
前記車両水平状態における水平方向視において、前記室間連通部(30)が、前記第1連通部(41)と前記第2連通部(42)とを繋ぐ仮想線(V)よりも上方に位置するように配置されていると好適である。
【0068】
本構成によれば、第2ブリーザ室(20)に流入した油(9)が、室間連通部(30)に到達し難くすることができる。従って、ブリーザ吹きを生じさせ難くすることができる。
【0069】
また、
前記ケース(5)は、第1ケース部材(51)と、前記第1ケース部材(51)に対して接合される第2ケース部材(52)と、を備え、
前記室間連通部(30)が、前記第1ケース部材(51)と前記第2ケース部材(52)とが接合される合わせ面(F51,F52)に沿って形成されていると好適である。
【0070】
本構成によれば、例えば第1ケース部材(51)と第2ケース部材(52)とが接合される合わせ面(F51,F52)の一部を溝状に形成することで、第1ケース部材(51)と第2ケース部材(52)とを接合した状態でその合わせ面(F51,F52)に沿って室間連通部(30)を形成することができる。従って本構成によれば、例えば、第1ケース部材(51)と第2ケース部材(52)との何れかに貫通孔を形成することにより室間連通部(30)を形成する場合に比べて、室間連通部(30)を容易に形成でき、製造コストの削減にも寄与できる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本開示に係る技術は、車両用駆動伝達装置と当該車両用駆動伝達装置を潤滑するための油とを収容していると共に車両に固定されたケースに設けられるブリーザに利用することができる。
【符号の説明】
【0072】
100 :ブリーザ
5 :ケース
51 :第1ケース部材
52 :第2ケース部材
F51 :合わせ面
F52 :合わせ面
53 :ケースの外部
54 :ケースの内部
9 :油
F9 :油面
10 :第1ブリーザ室
20 :第2ブリーザ室
30 :室間連通部
30A :連通開口部
41 :第1連通部
42 :第2連通部
43 :外部連通部
S1 :第1傾斜状態
S2 :第2傾斜状態
T :車両用駆動伝達装置
V :仮想線
W1 :第1包囲壁
W2 :第2包囲壁
X :対象方向
X1 :対象方向第1側
X2 :対象方向第2側