IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 川崎重工業株式会社の特許一覧

特許7357575制御装置、及びそれを備える液圧システム
<>
  • 特許-制御装置、及びそれを備える液圧システム 図1
  • 特許-制御装置、及びそれを備える液圧システム 図2
  • 特許-制御装置、及びそれを備える液圧システム 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】制御装置、及びそれを備える液圧システム
(51)【国際特許分類】
   F15B 21/08 20060101AFI20230929BHJP
   F15B 11/08 20060101ALI20230929BHJP
   G05B 11/36 20060101ALI20230929BHJP
【FI】
F15B21/08
F15B11/08 A
G05B11/36 501Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020046637
(22)【出願日】2020-03-17
(65)【公開番号】P2021148160
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135220
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 祥二
(72)【発明者】
【氏名】能勢 知道
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 勇人
(72)【発明者】
【氏名】村岡 英泰
(72)【発明者】
【氏名】木下 敦之
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-197185(JP,A)
【文献】国際公開第2016/111205(WO,A1)
【文献】特開2006-162058(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0269808(US,A1)
【文献】特開2000-257601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 11/08
F15B 21/08
G05B 11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液圧システムに備わる弁装置の弁体の動きを制御する制御装置であって、
入力される開口指令に基づいて、前記弁体に対するストローク指令を演算するストローク指令演算部と、
前記ストローク指令演算部で演算されるストローク指令に基づいて、当該ストローク指令に対する前記弁体におけるストロークの動的偏差を推定するオブザーバと、
前記ストローク指令演算部で演算されるストローク指令と前記オブザーバで推定される動的偏差とに基づいて、前記弁体に作用するフローフォースを推定するフローフォース推定部と、を有し、
前記ストローク指令演算部は、入力される開口指令に加えて前記フローフォース推定部で推定されるフローフォースに基づいて、ストローク指令を演算する、制御装置。
【請求項2】
前記ストローク指令演算部で演算されるストローク指令に基づいて、前記弁体の動きを制御する動作指令を演算する動作指令演算部を更に有し、
前記オブザーバで演算される動的偏差に基づいて、前記動作指令演算部で演算される動作指令に対して状態フィードバックを実行する状態フィードバック制御部を有する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記オブザーバは、前記ストローク指令に加えて前記オブザーバで推定した動的偏差の前回値に基づいて動的偏差を推定する請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記オブザーバは、前記ストローク指令に基づいて前記弁体に作用する慣性力及び粘性抵抗を演算し、前記弁体に作用する慣性力、粘性抵抗、及び予め定められるクーロン摩擦力に基づいて前記ストロークの動的偏差を推定する、請求項1乃至3の何れか1つに記載の制御装置。
【請求項5】
アクチュエータに供給する作動液を吐出する液圧ポンプと、
前記アクチュエータに供給される作動液の流量を調整する弁装置と、
請求項1乃至4の何れか1つに記載の制御装置と、を備える液圧システム。
【請求項6】
前記弁装置は、少なくとも1つの電磁比例弁と、スプール弁とを備え、
前記スプール弁は、前記弁体であるスプールを有し、
前記スプールは、前記スプールに作用するパイロット圧に応じてストロークし、
前記電磁比例弁は、前記スプールに作用するパイロット圧を出力し、
前記制御装置は、動作指令である圧力指令を演算し、演算される圧力指令に応じたパイロット圧を前記電磁比例弁から出力させて前記スプールの動きを制御する、請求項5に記載の液圧システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧システムに備わる弁装置の弁体の動きを制御する制御装置、及びそれを備える液圧システムに関する。
【背景技術】
【0002】
液圧システムは、制御装置を備えている。制御装置は、液圧システムにおける弁装置の弁体、例えばスプール弁のスプールの動きを制御する。このような制御装置としては、例えば特許文献1のような制御装置が知られている。特許文献1の制御装置では、センサ回路によって検出されるスプール位置に基づいて指令電流に対してフィードバック制御を実行している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-167604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の制御装置は、フィードバック制御を実行すべくセンサ回路を備えているが、スプール位置を検出しなくても弁体の動きを制御できることが好ましい。例えば、操作指令等の入力値から弁体のストローク量を推定する方法がある。ストローク量を推定する方法では、主にスプールの静的なつり合い条件のみに基づいてストローク量が推定される。しかし、スプールの静的なつり合い条件のみに基づいてストローク量が推定されると、ストローク量の推定誤差が大きくなる。それ故、弁体の動作に関する制御の精度を向上させることが求められている。
【0005】
そこで本発明は、弁体の動きに関する制御の精度を向上させることができる制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の制御装置は、液圧システムに備わる弁装置の弁体の動きを制御するものであって、入力される開口指令に基づいて、前記弁体に対するストローク指令を演算するストローク指令演算部と、前記ストローク指令演算部で演算されるストローク指令に基づいて、当該ストローク指令に対する前記弁体におけるストロークの動的偏差を推定するオブザーバと、前記ストローク指令演算部で演算されるストローク指令と前記オブザーバで推定される動的偏差とに基づいて、前記弁体に作用するフローフォースを推定するフローフォース推定部と、を有し、前記ストローク指令演算部は、入力される開口指令に加えて前記フローフォース推定部で推定されるフローフォースに基づいて、ストローク指令を演算するものである。
【0007】
本発明に従えば、静的なつり合い条件で参照されないフローフォースに基づいてストローク指令を演算することによって、より精度の高いストローク指令を演算することができる。これにより、弁体の動きに関する制御の精度を向上させることができる。
【0008】
本発明の液圧システムは、アクチュエータに供給する作動液を吐出する液圧ポンプと、前記アクチュエータに供給される作動液の流量を調整する弁装置と、前述する制御装置と、を備えるものである。
【0009】
本発明に従えば、弁体の動きに関する制御の精度がより高い液圧システムを実現することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、弁体の動きに関する制御の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る液圧システムを示す液圧回路図である。
図2図1の液圧システムに備わる制御装置のブロック図である。
図3図1の液圧システムの弁装置を流れる流量の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る実施形態の液圧システム1及び制御装置17を前述する図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明で用いる方向の概念は、説明する上で便宜上使用するものであって、発明の構成の向き等を記載される方向に限定するものではない。また、以下に説明する液圧システム1及び制御装置17は、本発明の一実施形態に過ぎない。従って、本発明は以下の実施形態に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲で追加、削除、変更が可能である。
【0013】
建設機械は、各構成を動かすべく液圧アクチュエータ及び液圧システム1を備えている。液圧アクチュエータは、例えば図1に示すような液圧シリンダ2である。液圧シリンダ2は、建設機械の各構成に対応付けて取り付けられている。液圧シリンダ2は、伸縮することによって対応する構成を作動させることができる。更に詳細に説明すると、液圧シリンダ2は、ロッド側ポート2a及びヘッド側ポート2bを有している。液圧シリンダ2では、各ポート2a,2bに作動液が供給されることによって伸縮する。
【0014】
液圧システム1は、液圧シリンダ2に作動液を供給することができる。そして、液圧システム1は、液圧シリンダ2に作動液を供給することによって液圧シリンダ2を伸縮させることができる。このような機能を有する液圧システム1は、例えば液圧ポンプ11と、弁装置12と、3つの圧力センサ13~15と、操作装置16と、制御装置17とを備えている。
【0015】
液圧ポンプ11は、作動液を吐出することができる。更に詳細に説明すると、液圧ポンプ11は、駆動源に接続されている。駆動源は、エンジンE又は電気モータである。本実施形態において、駆動源はエンジンEである。液圧ポンプ11は、エンジンEによって回転駆動されることによって作動液を吐出する。なお、液圧ポンプ11は、本実施形態において斜板ポンプ又は斜軸ポンプである。
【0016】
弁装置12は、液圧ポンプ11と液圧シリンダ2との間に介在する。そして、弁装置12は、入力される動作指令に応じて、液圧ポンプ11から液圧シリンダ2に流れる作動液の流れる方向及び作動液の流量を制御することができる。即ち、弁装置12は、作動液の流れる方向を液圧シリンダ2の2つのポート2a,2bの何れかの方向へと切替え、また2つのポート2a,2bへの作動液の流れを遮断することができる。更に詳細に説明すると、弁装置12は、電子制御式のスプール弁である。即ち、弁装置12は、方向制御弁21と、2つの電磁比例制御弁22L,22Rを有している。
【0017】
方向制御弁21は、液圧ポンプ11、液圧シリンダ2のロッド側ポート2a及びヘッド側ポート2b、並びにタンク3に接続されている。そして、方向制御弁21は、液圧ポンプ11、液圧シリンダ2のロッド側ポート2a及びヘッド側ポート2b、並びにタンク3の接続状態を切替える(即ち、各々を連通したり遮断したりする)ことができる。これにより、液圧ポンプ11から液圧シリンダ2への流れが切替えられる。このように流れを変えることによって、方向制御弁21は液圧シリンダ2を伸縮することができる。また、方向制御弁21は、液圧ポンプ11と液圧シリンダ2とを連通する際の開口の大きさ、即ち開度を調節することができる。これにより、液圧シリンダ2に流れる作動液の流量を調整することができる。即ち、液圧シリンダ2の伸縮する速度を調整することができる。
【0018】
更に詳細に説明すると、方向制御弁21は、スプール21aを有している。スプール21aは、位置(即ち、ストローク量)を変えることによって、接続状態を切替えことができる。即ち、スプール21aは、位置に応じて液圧ポンプ11をロッド側ポート2a及びヘッド側ポート2bの各々に接続することができる。また、スプール21aは、スプール21aのストローク量(又は位置)に応じて開度を調整することができる。これにより、液圧シリンダ2に流れる作動液の流量を調整することができる。このような機能を有するスプール21aは、互いに抗するパイロット圧P1,P2を受圧しており、2つのパイロット圧P1,P2の差圧に応じた位置に移動する。
【0019】
電磁比例弁の一例である第1及び第2電磁比例制御弁22L,22Rは、入力される信号(本実施形態では電流又は電圧)に応じた圧力の第1パイロット圧P1及び第2パイロット圧P2を夫々出力する。出力される第1パイロット圧P1及び第2パイロット圧P2は、スプール21aに導かれる。更に詳細に説明すると、第1及び第2電磁比例制御弁22L,22Rは、図示しないパイロットポンプに接続されている。第1及び第2電磁比例制御弁22L,22Rは、パイロットポンプから吐出される作動液を信号に応じた圧力に調圧してスプール21aに出力する。
【0020】
3つの圧力センサ13~15は、方向制御弁21の前後の液圧を検出する。更に詳細に説明すると、第1圧力センサ13は、方向制御弁21と液圧ポンプ11とを繋ぐ流路に対応付けて設けられている。また、第2圧力センサ14は、方向制御弁21と液圧シリンダ2のロッド側ポート2aとを繋ぐ流路に対応付けて設けられている。更に、第3圧力センサ15は、方向制御弁21とヘッド側ポート2bとを繋ぐ流路に対応付けて設けられている。各圧力センサ13~15は、対応する流路の液圧を検出する。そして、各圧力センサ13~15は、検出された液圧を制御装置17に出力する。
【0021】
操作装置16は、液圧シリンダ2を作動させるべく操作指令を制御装置17に出力する。操作装置16は、例えば操作弁又は電気ジョイスティック等である。更に詳細に説明すると、操作装置16は操作具の一例である操作レバー16aを有している。操作レバー16aは、操作者が操作可能に構成されている。例えば、操作レバー16aは、揺動可能に構成されている。操作装置16、操作レバー16aの操作量(本実施形態において揺動量)に応じた操作指令を制御装置17に出力する。
【0022】
制御装置17は、圧力センサ13~15、2つの電磁比例制御弁22L,22R、及び操作装置16に接続されている。制御装置17は、操作装置16からの操作指令に応じて弁装置12のスプール21aの動作を制御する。更に詳細に説明すると、制御装置17は、圧力センサ13~15の検出結果、及び操作装置16からの操作指令に基づいて動作指令を演算する。動作指令は、弁装置12のスプール21aの動作を制御するための圧力指令(より詳細には、後述する実指令)である。制御装置17は、実指令に基づいて電磁比例制御弁22L,22Rに出力する信号を生成する。生成された信号が電磁比例制御弁22L,22Rに出力されることによって、実指令に応じたパイロット圧P1,P2が電磁比例制御弁22L,22Rから出力される。これにより、弁装置12のスプール21aの動作が操作指令に応じて制御される。
【0023】
以下では、制御装置17について更に詳細に説明する。制御装置17は、動作指令を演算すべく流量目標値及び弁装置12の前後差圧を取得する。流量目標値は、液圧シリンダ2に流す作動液の流量の目標値である。本実施形態において、制御装置17は、操作装置16からの操作指令に基づいて流量目標値を設定する。なお、本実施形態では動作指令を演算すべく流量目標値を設定しているが、圧力目標値であってもよい。他方、弁装置12の前後差圧(即ち、方向制御弁21の前後差圧)は、弁装置12を介して液圧ポンプ11と液圧シリンダ2とを繋ぐ流路において、弁装置12(より詳しくは方向制御弁21)の上流側及び下流側の圧力の差である。制御装置17は、3つの圧力センサ13~15からの信号に基づいて方向制御弁21の前後差圧を取得する。また、制御装置17は、動作指令を演算すべく、開口指令演算部31と、ストローク指令演算部32と、オブザーバ33と、フローフォース推定部34、圧力指令演算部35と、状態フィードバック制御部36とを有している。
【0024】
開口指令演算部31は、取得した流量目標値及び方向制御弁21の前後差圧に基づいて方向制御弁21に対する開口指令を演算する。開口指令は、方向制御弁21が開くべき開度である。本実施形態において、開口指令演算部31は、流量目標値の流量の作動液を方向制御弁21から液圧シリンダ2に流すことができる開度を演算する。
【0025】
ストローク指令演算部32は、開口指令演算部31で演算される開口指令に基づいて、スプール21aに対するストローク指令を演算する。ストローク指令は、方向制御弁21の開度が開口指令に応じた開度になるようにスプール21aを移動させるべきストローク量である。更に詳細に説明すると、ストローク指令演算部32は、非線形要素であるフローフォースを考慮してスプール21aの移動すべきストローク量を演算する。
【0026】
更に詳細に説明すると、ストローク指令演算部32は、後述するフローフォース推定部34で推定されるフローフォース(即ち、フローフォース推定値)を取得する。なお、フローフォースは、液圧ポンプ11からの作動液が方向制御弁21を介して液圧シリンダ2に流れる際にスプール21aに作用する荷重である。本実施形態において、スプール21aは、方向制御弁21内を流れる作動液から方向制御弁21の開口を閉じる方向のフローフォースを受けている。ストローク指令演算部32は、フローフォース推定値と開口指令とに基づいてストローク指令を演算する。これにより、スプール21aの運動を規定する数式モデルから非線形要素を排除することができる。なお、ストローク指令演算部32が基づく開口指令は、必ずしも開口指令演算部31で演算される指令である必要はない。例えば、操作装置16からの操作指令自体が開口指令であってもよい。
【0027】
オブザーバ33は、ストローク指令演算部32で演算されるストローク指令に基づいてスプール21aの状態量を推定する。本実施形態において、オブザーバ33が推定する状態量は、動的偏差及び動的偏差の微分値を含むベクトルである。動的偏差とは、ストローク指令に応じてスプール21aを移動させた際にスプール21aの動きによって発生する荷重(例えば、慣性力、粘性摩擦、及びクーロン摩擦)である動的荷重によって変動するスプール21aのストローク量である。
【0028】
更に詳細に説明すると、オブザーバ33は、スプール21aの状態量を推定すべく以下のように機能している。即ち、オブザーバ33は、ストローク指令演算部32で演算されるストローク指令に基づいて慣性力及び粘性抵抗を演算する。また、オブザーバ33には、所定のクーロン摩擦が設定されている。更に、オブザーバ33は、所定の線形状態方程式を有している。それ故、オブザーバ33は、推定される慣性力及び粘性抵抗、並びにクーロン摩擦である動的荷重と、線形状態方程式とに基づいてスプール21aの状態量を推定する。
【0029】
フローフォース推定部34は、オブザーバ33で推定される状態量に含まれる動的偏差に基づいてフローフォースを演算する。より詳細に説明すると、フローフォース推定部34は、スプール21aの推定ストローク量に基づいてフローフォースを推定する。スプール21aの推定ストローク量は、スプール21aの実際のストローク量(即ち、実ストローク量)の推定値である。即ち、ストローク量の推定値である推定ストローク量は、ストローク指令から動的偏差分だけ変位させた値である。それ故、スプール21aの推定ストローク量は、ストローク加算部40が取得したストローク量と動的偏差とを加算することによって演算される。フローフォース推定部34は、ストローク加算部40で演算される推定ストローク量に基づいてフローフォースを推定する。本実施形態において、フローフォース推定部34では、フローフォースを推定すべく推定式が設定されている。フローフォース推定部34は、前述する推定式と推定ストローク量とに基づいてフローフォースを演算する。
【0030】
動作指令演算部の一例である圧力指令演算部35は、ストローク指令演算部32で演算されるストローク指令に基づいて圧力指令を演算する。圧力指令は、スプール21aをストローク指令に応じて移動させるべく電磁比例制御弁22L,22Rから出力させるべきパイロット圧P1,P2の指令値である。即ち、圧力指令演算部35は、ストローク指令に応じてパイロット圧P1,P2の指令値(即ち、圧力指令)を演算する。
【0031】
状態フィードバック制御部36は、オブザーバ33で推定される状態量に基づいて、圧力指令演算部35で演算される圧力指令に対して状態フィードバックを実行する。更に詳細に説明すると、状態フィードバック制御部36は、状態フィードバック量演算部分37と、圧力換算部分38と、実指令演算部分39とを有している。
【0032】
状態フィードバック量演算部分37は、オブザーバ33で推定される状態量に基づいて状態フィードバック量を演算する。状態フィードバック量は、圧力指令に対して状態フィードバック制御を実施すべく演算される値である。より詳しく説明すると、状態フィードバック量は、スプール21aの動的偏差分に応じた動的荷重である。本実施形態において、状態フィードバック量演算部分37は、オブザーバ33で推定される状態量とゲインベクトルとの内積として状態フィードバック量を演算する。
【0033】
圧力換算部分38は、状態フィードバック量を圧力換算する。本実施形態では、圧力換算部分38は、状態フィードバック量演算部分37で演算された状態フィードバック量に基づいて演算される。更に詳細に説明すると、圧力換算部分38は、状態フィードバック量演算部分37で演算された状態フィードバック量にゲインKを乗算する。これにより、状態フィードバック量が圧力値に換算される。
【0034】
実指令演算部分39は、圧力指令演算部35で演算される圧力指令と圧力換算部分38で圧力換算された圧力値、即ち換算状態フィードバック量とに基づいて電磁比例制御弁22L,22Rに実際に出力すべき圧力指令である実指令を演算する。実指令は、圧力指令に対して状態フィードバック制御を実施して得られる指令である。本実施形態において、実指令演算部分39は、圧力指令から換算状態フィードバック量を減算することによって実指令を算出する。このように状態フィードバック制御部36は、圧力指令に対して状態フィードバック制御を実行する。
【0035】
また、オブザーバ33は、圧力指令に対する状態フィードバック制御を実施する際の方向制御弁21の状態量を推定する役割も果たしている。それ故、オブザーバ33は、ストローク指令に加えて前述する状態フィードバック量を取得する。そして、オブザーバ33は、ストローク指令、状態フィードバック量、及びクーロン摩擦等を入力値として線形状態方程式に基づいて動的偏差を含む状態量を推定する。これにより、液圧システム1に関してより誤差の少ないモデルを有するオブザーバ33で状態量を推定することができる。即ち、精度の高い動的偏差をオブザーバ33で推定することができる。これにより、スプール21aの動きに関する制御の精度を向上させることができる。
【0036】
このような機能を有する制御装置17は、操作装置16の操作レバー16aが操作されると、以下のような制御を実行する。なお、本実施形態おいて、操作レバー16aは、図3のグラフの二点鎖線A0に示す流量の経時変化で液圧ポンプ11から液圧シリンダ2に作動液が供給されるように操作される。即ち、制御装置17は、操作装置16からの操作指令に基づいて図3の二点鎖線A0に示すような流量目標値を設定する。また、制御装置17は、3つの圧力センサ13~15で検出される圧力に基づいて方向制御弁21の前後差圧を演算する。
【0037】
次に、制御装置17では、開口指令演算部31が目標流量値及び方向制御弁21の前後差圧に基づいて開口指令を算出する。ストローク指令演算部32は、開口指令及びフローフォース推定値に基づいてストローク指令を算出する。フローフォース推定値は、オブザーバ33で推定される状態量に含まれる動的偏差に基づいて推定される。即ち、オブザーバ33は、事前に演算されたストローク指令及び事前に推定された動的荷重(本実施形態において、直前のストローク指令及び動的荷重)に基づいて状態量を演算する。フローフォース推定部34は、状態量に含まれる動的偏差に基づいてフローフォースを推定する。より詳しく説明すると、フローフォース推定部34は、動的偏差をストローク指令に加算して得られる推定ストローク量に基づいてフローフォースを推定する。このようにして推定されるフローフォースがその後に演算されるストローク指令に用いられる。
【0038】
また、制御装置17では、圧力指令演算部35がストローク指令に基づいて圧力指令を演算する。圧力指令によれば、所望の開度で開くべく所望のストローク量に対してスプール21aが動的偏差分だけストロークする。それ故、圧力指令によって液圧シリンダ2に実際に流れる作動液の流量は図3の一点鎖線A1に示されるような経時変化となる。即ち、液圧シリンダ2に実際に流れる作動液の流量は、流量目標値に対して図3の時刻t1においてΔQ1少なく、また図3の時刻t2においてΔQ2少ない。そこで、制御装置17では、状態フィードバック制御部36が圧力指令に対して状態フィードバック制御を実行する。
【0039】
即ち、状態フィードバック量演算部分37が動的偏差に基づいて状態フィードバック量を演算する。そして、圧力換算部分38が状態フィードバック量を圧力換算する。なお、状態フィードバック量は、図3の時刻t1において流量をΔQ1増加させる分に相当する量であり、図3の時刻t2において流量をΔQ2増加させる分に相当する量である。そして、実指令演算部分39が、圧力指令から動的偏差分に応じた圧力をキャンセルすべく圧力指令と状態フィードバック量とに基づいて実指令を演算する。
【0040】
制御装置17は、演算される実指令に応じたパイロット圧P1,P2を電磁比例制御弁22L,22Rから出力させる。これにより、方向制御弁21のスプール21aを操作レバー16aの操作量に応じた位置へと動かすことができる。即ち、制御装置17によってスプール21aの動きが制御される。これにより、液圧シリンダ2に実際に流れる作動液の流量を流量目標値に近づけることができる(図3のグラフの実線A2参照)。
【0041】
このように構成されている液圧システム1の制御装置17は、ストローク指令演算部32が開口指令とフローフォース推定値とに基づいてストローク指令を演算している。即ち、静的なつり合い条件でストローク指令を演算した場合に参照されないフローフォースに基づいてストローク指令が演算される。それ故、開口指令に応じた開度で方向制御弁21を開くべく、より精度の高いストローク指令を演算することができる。これにより、スプール21aの動きに関する制御の精度を向上させることができる。
【0042】
また、液圧システム1の制御装置17は、ストローク指令を演算すべくフローフォース推定値を考慮し、スプール21aの運動を規定する数式モデルからから非線形要素を排除している。これにより、制御装置17は、ストローク指令から演算される動的偏差に基づいて圧力指令に対して状態フィードバックを実行することができる。このように状態フィードバックを実行することによって、過渡応答時におけるスプール21aのストロークの遅れを抑制することができる。即ち、過渡応答時におけるスプール21aの動的偏差に起因するストロークの遅れを抑制することができる。これにより、スプール21aの動きに関する制御の精度を更に向上させることができる。
【0043】
更に、液圧システム1の制御装置17は、スプール21aの動的偏差に基づいて状態フィードバック制御を実行しているので、ストローク量に基づく状態フィードバック制御が実行される場合に比べて、センサレスによる状態フィードバック制御の精度を向上させることができる。即ち、ストローク量に比べて絶対量が小さい動的偏差を用いることで、モデル化誤差が状態フィードバックに与える影響を小さくすることができる。それ故、状態フィードバック制御によって、よりロバストな制御を実現することができる。
【0044】
更に、制御装置17では、オブザーバ33がストローク指令に加えて動的偏差(より詳しくは、状態フィードバック量)の前回値に基づいて動的偏差を推定している。これにより、オブザーバ33において、状態フィードバック制御される制御系のモデルを組み入れることができ、より高い精度で液圧システム1をモデル化することができる。これにより、より高い精度で動的偏差を推定することができる。それ故、スプール21aの動きに関する制御の精度を向上させることができる。また、液圧システム1の制御装置17は、スプール21aに作用する慣性力、粘性抵抗、及びクーロン摩擦力に基づいて動的偏差を推定するので、スプール21aの動きに関する制御の精度を向上させることができる。
【0045】
<その他の実施形態>
本実施形態の液圧システム1は、建設機械に適用されているが、フォークリフト等の産業車両やプレス機械等の産業機械に適用されてもよい。また、本実施形態の液圧システム1では、液圧ポンプ11に対して1つの方向制御弁21だけが接続されているが、複数の方向制御弁21が並列的又は直列的に接続されていてもよい。また、方向制御弁21に接続される液圧アクチュエータもまた液圧シリンダ2に限定されず、液圧モータであってもよい。
【0046】
また、本実施形態の液圧システム1において、液圧アクチュエータの一例が液圧シリンダ2であるが、液圧アクチュエータは液圧モータであってもよい。また、液圧シリンダ2の種類も片ロッドの複動式のシリンダに限定されず、両ロッドのシリンダ及び単動式のシリンダであってもよい。また、弁装置12に含まれる構成は方向制御弁21に限定されず、弁体によって開口の大きさを調整可能なものであればよい。動作指令は、必ずしも圧力指令に限定されず、電流指令であってもよい。
【0047】
更に、本実施形態の液圧システム1では、方向制御弁21のスプール21aが電磁比例制御弁22L,22Rからのパイロット圧に応じて動いている。しかし、方向制御弁21のスプール21aの駆動方式は、必ずしもこのように方式に限定されない。例えば、方向制御弁21のスプール21aを直動機構を介して電気モータで駆動してもよい。この場合、動作指令は、電気モータを駆動する駆動信号となる。
【符号の説明】
【0048】
1 液圧システム
11 液圧ポンプ
12 弁装置
17 制御装置
21 方向制御弁(スプール弁)
21a スプール(弁体)
22L 第1電磁比例制御弁
22R 第2電磁比例制御弁
31 開口指令演算部
32 ストローク指令演算部
33 オブザーバ
34 フローフォース推定部
35 圧力指令演算部(動作指令演算部)
36 状態フィードバック制御部
図1
図2
図3