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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】筒状編地の編成方法、及び筒状編地
(51)【国際特許分類】
   D04B 1/00 20060101AFI20230929BHJP
   D04B 1/24 20060101ALI20230929BHJP
【FI】
D04B1/00 Z
D04B1/24
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020071337
(22)【出願日】2020-04-10
(65)【公開番号】P2021167482
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】上道 和也
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第01788850(US,A)
【文献】特開2001-011717(JP,A)
【文献】国際公開第01/055492(WO,A1)
【文献】特開2002-069729(JP,A)
【文献】特開2020-063545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B1/00-1/28、21/00-21/20、
A41D27/00-27/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後に対向する第一針床と第二針床とを備える横編機を用いて、
前記第一針床と前記第二針床とに係止される筒状ベース部を編成し、
前記筒状ベース部のウエール方向の終端部を周回するように前記終端部に二層構造の帯状部を繋げる筒状編地の編成方法において、
前記終端部の一部の編目からなる基端部に第一編目を編成することと、前記終端部の編幅方向の外側に第二編目を編成することと、を交互に連続して行う工程Aと、
前記第二編目を基点として前記帯状部の始端を編成する工程Bと、
前記始端のウエール方向に続く前記帯状部を編成すると共に、前記筒状ベース部を一方向に回転させて、前記終端部の編目を前記帯状部の編目と重ねることを繰り返し、前記基端部を除く前記終端部と前記帯状部とを接合する工程Cと、
前記基端部と前記帯状部の終端とを、両者の境界位置から順次、伏目処理によって接合する工程Dと、を行う筒状編地の編成方法。
【請求項2】
前記工程Aの前に前記基端部が前記筒状ベース部の編幅方向の中間にある場合、前記筒状ベース部を回転させて、前記基端部を編幅方向の端に寄せる請求項1に記載の筒状編地の編成方法。
【請求項3】
ウエール方向の上端に切込み状の開き部を有する前記筒状ベース部を編成するために、
周方向に切れ目なく繋がった主ベース部を編成した後、
前記主ベース部のウエール方向の終端部における所定部分を除く部分に対して編成を行って、前記所定部分を切込みの端部とする前記開き部を有する開口ベース部を編成し、
前記所定部分を前記基端部として前記工程Aを行う請求項1又は請求項2に記載の筒状編地の編成方法。
【請求項4】
筒状ベース部と、前記筒状ベース部の終端部に繋がる二層構造の帯状部とを備え、
前記帯状部のウエール方向が、前記終端部の周方向に沿っている筒状編地において、
前記終端部の一部の編目からなる基端部を備え、
前記帯状部の始端と終端とが共に、前記基端部に編成で繋がり、
前記始端の編目の向きが、前記基端部の編目の向きと同じで、
前記終端の編目の向きが、前記基端部の編目の向きと逆になっている筒状編地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状ベース部と、そのウエール方向の終端部に繋がる帯状部を備える筒状編地、及び筒状編地の編成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2には、筒状ベース部とその筒状ベース部の終端部に繋がる二層構造の帯状部とを備える筒状編地を編成する方法が開示されている。
【0003】
特許文献1,2では、筒状ベース部を編成する。次いで、筒状ベース部の編成範囲の外側に編出し部を編成する。そして、編出し部を基点に、二層構造となる筒状の帯状部を編成しながら、筒状ベース部の終端部に対して周回するように繋げる。特許文献1,2では、(1)筒状の帯状部を筒状ベース部の側に移動させて、帯状部の編目を筒状ベース部の編目に重ね合わせることと、(2)その重ね目を含む帯状部のウエール方向に続けて、帯状部の新たなコースを編成することと、を繰り返している。その結果、筒状ベース部と、筒状ベース部の終端部に繋がる筒状の帯状部とを備える筒状編地を編成できる。帯状部のウエール方向は、筒状ベース部の周方向に沿った方向となる。
【0004】
帯状部を筒状ベース部の側に移動させる際、編目の移動のための空針を確保することが難しい。そこで、特許文献1では、帯状部の第一層の編幅に対して第二層の編幅を極端に小さくすることで、編目の移動のための空針を確保している(特に特許文献1の図2を参照)。また、特許文献2では、帯状部の第一層と第二層とを編幅方向にずれた状態とすることで、編目の移動のための空針を確保している(特に特許文献2の図2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-074240号公報
【文献】特開2015-110849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポロ衿を有するニットウェアのように、帯状部の一部が筒状ベース部の厚み方向に重複する筒状編地を無縫製で編成したいというニーズがある。帯状部が二層構造であれば、見栄えが良く、厚みのあるしっかりとした帯状部となる。しかし、特許文献1,2の編成方法では、二層構造を有する帯状部を編成する際に帯状部の編目を移動させるための空針を確保することが難しい。編目の移動のための空針を確保すると、帯状部の編目が粗くなってしまう。
【0007】
上記事情に鑑み、本発明の目的の一つは、二層構造を有するしっかりとした帯状部を備える筒状編地の編成方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、二層構造を有するしっかりとした帯状部を備える筒状編地を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
<1>本発明の筒状編地の編成方法は、
前後に対向する第一針床と第二針床とを備える横編機を用いて、
前記第一針床と前記第二針床とに係止される筒状ベース部を編成し、
前記筒状ベース部のウエール方向の終端部を周回するように前記終端部に二層構造の帯状部を繋げる筒状編地の編成方法において、
前記終端部の一部の編目からなる基端部に第一編目を編成することと、前記終端部の編幅方向の外側に第二編目を編成することと、を交互に連続して行う工程Aと、
前記第二編目を基点として前記帯状部の始端を編成する工程Bと、
前記始端のウエール方向に続く前記帯状部を編成すると共に、前記筒状ベース部を一方向に回転させて、前記終端部の編目を前記帯状部の編目と重ねることを繰り返し、前記基端部を除く前記終端部と前記帯状部とを接合する工程Cと、
前記基端部と前記帯状部の終端とを、両者の境界位置から順次、伏目処理によって接合する工程Dと、を行う。
【0009】
<2>本発明の筒状編地の編成方法の一形態として、
前記工程Aの前に前記基端部が前記筒状ベース部の編幅方向の中間にある場合、前記筒状ベース部を回転させて、前記基端部を編幅方向の端に寄せる形態が挙げられる。
【0010】
<3>本発明の筒状編地の編成方法の一形態として、
ウエール方向の上端に切込み状の開き部を有する前記筒状ベース部を編成するために、
周方向に切れ目なく繋がった主ベース部を編成した後、
前記主ベース部のウエール方向の終端部における所定部分を除く部分に対して編成を行って、前記所定部分を切込みの端部とする前記開き部を有する開口ベース部を編成し、
前記所定部分を前記基端部として前記工程Aを行う形態が挙げられる。
【0011】
<4>本発明の筒状編地は、
筒状ベース部と、前記筒状ベース部の終端部に繋がる二層構造の帯状部とを備え、
前記帯状部のウエール方向が、前記終端部の周方向に沿っている筒状編地において、
前記終端部の一部の編目からなる基端部を備え、
前記帯状部の始端と終端とが共に、前記基端部に編成で繋がり、
前記始端の編目の向きが、前記基端部の編目の向きと同じで、
前記終端の編目の向きが、前記基端部の編目の向きと逆になっている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の筒状編地の編成方法によれば、二層構造を有し、かつ始端と終端が共に筒状ベース部の所定部分である基端部に繋がる帯状部を備える筒状編地を編成することができる。また、上記編成方法では、厚みのあるしっかりとした帯状部を編成することができる。更に、上記編成方法では、帯状部の始端と終端をそれぞれ筒状ベース部に編成によって繋ぐため、帯状部を縫製によって筒状ベース部に繋ぐ必要がない。従って、二層構造を有する帯状部を備える筒状編地を生産性良く製造することができる。
【0013】
上記<2>の編成方法によれば、筒状ベース部の編幅方向の中間に基端部があっても、帯状部と筒状ベース部とを接合できる。
【0014】
上記<3>の筒状編地の編成方法によれば、切込み状の開き部を有する筒状ベース部であっても、開き部を含めた筒状ベース部の終端部の全周にわたって二層構造の帯状部を編成できる。切込み状の開き部を有する筒状編地の一例として、例えばポロ衿を有するニットウェアが挙げられる。
【0015】
本発明の筒状編地は、本発明の筒状編地の編成方法によって編成された筒状編地であって、厚みがあって見栄えに優れる二層構造の帯状部を備える。
【0016】
本発明の筒状編地は生産性に優れる。帯状部の始端と終端とが筒状ベース部に編成によって繋げられているため、従来のように帯状部を筒状ベース部に縫製によって繋ぐ必要が無いからである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施形態1に示す筒状編地であるニットウェアの概略図である。
図2図2は、実施形態1に示すニットウェアを編成する手順の一例を示すイメージ図である。
図3図3は、実施形態1に示すニットウェアの編成工程の一部を示す第一の編成工程図である。
図4図4は、図3の第一の編成工程図に続く第二の編成工程図である。
図5図5は、実施形態2に示すニットウェアの編成工程の一部を示す編成工程図である。
図6図6は、実施形態4に示すニットウェアのポロ衿近傍の部分を示す概略図である。
図7図7は、実施形態4に示すニットウェアの編成工程の一部を示す編成工程図である。
図8図8は、実施形態5に示すニットウェアのポロ衿近傍の部分を示す概略図である。
図9図9は、実施形態5に示すニットウェアの編成工程の一部を示す編成工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<実施形態1>
本実施形態1では、本発明の筒状編地の編成方法を用いて、身頃と袖とを有するニットウェア(筒状編地)を編成する例を説明する。
【0019】
図1に示す筒状編地であるニットウェア100は、身頃50と袖60とポロ衿80とを有する。身頃50は、前身頃と後身頃とが筒状に繋がった筒状ベース部10である。身頃50のウエール方向の上端には切込み状の開き部13が形成されている。筒状ベース部10は、裾から開き部13の端部13bまでの部分である主ベース部11と、主ベース部11のウエール方向に連続する開口ベース部12とを備える(図2)。身頃50のウエール方向は、図中の矢印で示されるように裾から衿ぐりに向う方向である。衿ぐりは、身頃50のウエール方向の終端部10E(図2)で構成される。
【0020】
ポロ衿80は、二層構造の帯状部20である。ポロ衿80は、右前立て部81と、右前衿部82と、後衿部83と、左前衿部84と、左前立て部85とを備える。ポロ衿80のウエール方向は、図中の矢印で示されるように、筒状ベース部10の終端部10Eの周方向に沿っている。より具体的には、ポロ衿80は、開き部13の端部13bを起点として、右前立て部81、右前衿部82、後衿部83、左前衿部84、左前立て部85の順に編成されている。
【0021】
右前立て部81の始端20S(図2)、即ち帯状部20の始端20Sは、開き部13の端部13b、即ち終端部10Eの一部の編目からなる基端部1に繋がっている。つまり、始端20Sの編目の向きは、基端部1の編目の向きと同じとなっている。一方、左前立て部85の終端20E(図2)、即ち帯状部20の終端20Eは、開き部13の端部13b(基端部1)に繋がっている。つまり、終端20Eの編目の向きは、基端部1の編目の向きと逆になっている。従って、右前立て部81の編目の向きと、左前立て部85の編目の向きとはほぼ逆向きになっている。
【0022】
帯状部20の始端20S(図2)と終端20E(図2)とは、開き部13の端部13bに無縫製で接合されている。また、開き部13の端部13b(基端部1)において、始端20Sと終端20Eとが筒状ベース部10の厚み方向に重複している。従って、基端部1の近傍において、右前立て部81の下端側の部分と左前立て部85の下端側の部分とが厚み方向に重複している。本例では、右前立て部81における端部13b側の部分が、左前立て部85における端部13b側の部分の裏側に重複している。
【0023】
図1のニットウェア100は、本発明の筒状編地の編成方法によって編成される。まず、図2の編成イメージ図を参照し、本発明の筒状編地の編成方法の概略を説明する。図2では、袖の図示を省略する。
【0024】
まず、紙面下側から上側に向かって筒状編成によって主ベース部11を編成する。主ベース部11は、周方向に切れ目なく繋がった筒状体である。
【0025】
次に、主ベース部11のウエール方向の終端部11Eにおける所定部分を除く部分に対して引き返し編成やC字状編成などの往復編成を行って、所定部分を切込みの端部13bとする開き部13を有する開口ベース部12を編成する。開き部13は、編幅方向に延びる端部13bと、この端部13bを挟む右側縁部L11及び左側縁部L15とで囲まれる空間である。右側縁部L11と左側縁部L15とは、端部13bを挟んで互いに向き合う。本例の開き部13には、図1の右前立て部81と左前立て部85とが配置される。
【0026】
開口ベース部12を編成する際、開き部13の端部13bを挟む右前身頃と左前身頃とを、端部13bから離れる方向に移動させて増し目を形成しながら編成する。その結果、端部13b、右側縁部L11、右前衿ぐり部L12、後衿ぐり部L13、左前衿ぐり部L14、及び左側縁部L15が周状に針床に係止された状態になる。このとき、左右の前身頃を端部13bから離れる方向に移動させる前に両袖60(図1)の袖山を形成しておけば、両袖60を身頃50側に寄せて接合する編成を省くことができる。これらの部分13b(基端部1),L11,L12,L13,L14,L15は、筒状ベース部10のウエール方向の終端部10Eである。開口ベース部12の編成が終了した時点で、ニットウェア100におけるポロ衿80以外の部分の編成は終了している。
【0027】
本例とは異なり、右側縁部L11と左側縁部L15がV字状に開いた開き部13を編成する場合、左右の前身頃を引き返し編成によって編成しても良い。両縁部L11,L12の傾斜角度によっては、この引き返し編成に加えて、左右の前身頃を端部13bから離れる方向に前記移動させる編成を組み合わせても良い。
【0028】
終端部10Eのうち、開き部13の端部13bを基端部1として、ポロ衿80(帯状部20)を編成する。図2では、図示の都合上、各部81~85を別々に示しているが、実際は両端矢印で示す位置は切れ目なく連続している。
【0029】
ポロ衿80(帯状部20)の編成にあたり、基端部1に編成で繋がる帯状部20の始端20Sを編成する。その際、基端部1の点aと始端20Sの点aとが繋がり、基端部1の点bと始端20Sの点bとが繋がるように結合糸を配置する。結合糸については後述する。この始端20Sのウエール方向に続けて、右前立て部81を編成する。右前立て部81を編成する際、右前立て部81のラインL21を、開き部13の右側縁部L11に繋げる。つまり、右前立て部81を含む帯状部20は、筒状ベース部10の外側に半回転捻じられた状態で編成される。結合糸と始端20Sの編成方法、及びラインL21と右側縁部L11との繋ぎ方については、図4の編成工程図を参照して後述する。
【0030】
右前立て部81のウエール方向に連続して、右前衿部82を編成する。右前衿部82を編成する際、右前衿部82の編幅を拡げる。右前衿部82における二点鎖線よりも紙面左側の部分は、図1に示される外側に折り返される部分となる。右前衿部82のラインL22は、右前衿ぐり部L12に接合される。
【0031】
以降、右前衿部82のウエール方向に連続して、後衿部83、左前衿部84、及び左前立て部85を順次編成する。後衿部83のラインL23、左前衿部84のラインL24、及び左前立て部85のラインL25はそれぞれ、後衿ぐり部L13、左前衿ぐり部L14、及び左側縁部L15に接続される。最後に、ポロ衿80の終端20Eを基端部1に編成で繋げる。その際、基端部1の点aと終端20Eの点aとを繋げ、基端部1の点bと終端20Eの点bとを繋げる。
【0032】
ここで、ポロ衿80における編幅方向の縁部のラインL21,L22,L23,L24,L25よりも、編幅方向に数目内側の位置で、ポロ衿80と身頃50の終端部10Eとを接続しても良い。そうすることで、終端部10Eがポロ衿80に隠れるので、ニットウェア100の見栄えが良くなる。
【0033】
上記ポロ衿80(帯状部20)の具体的な編成工程を図3,4に基づいて説明する。図3,4では、二つの下部針床と二つの上部針床とを備える4枚ベッド横編機を用いて、隣接する編目間に空針が無い総針編成によってニットウェア100を編成する例を説明する。二つの上部針床は主として編目の移動に用いられるため、図3,4では図示を省略する。本例とは異なり、隣接する編目間に空針を設けた針抜き編成を行う場合、2枚ベッド横編機によって本例のニットウェア100を編成することもできる。
【0034】
図3のS0には、下部針床である第一針床FB及び第二針床BBに筒状ベース部10の終端部10Eの編目が係止された状態が示されている。図3,4の「S+数字」は編成工程の番号を、右欄には第一針床FB及び第二針床BBにおける編目の係止状態が示されている。図3,4では、図2における基端部1の編目を丸マークで示し、右側縁部L11及び左側縁部L15の編目をダイヤマークで示し、衿ぐり部L12~L14の編目を五角形マークで示す。また、帯状部20の編目は三角マークで示す。各編成工程で新たに編成された編目は塗り潰して示す。また、図中の直線矢印は目移しを、円弧矢印は筒状ベース部10の回転方向を示している。
【0035】
図3のS1では、筒状ベース部10を針床上で時計回りに回転させ、筒状ベース部10の編幅方向の端部に基端部1を配置する。筒状ベース部10の回転には、公知の手法が利用可能である。
【0036】
図4のS2では、第一給糸口8を移動させ、終端部10Eの一部の編目からなる基端部1に第一編目2を編成することと、終端部10Eの編幅方向の外側に第二編目3を編成することと、を交互に連続して行う(工程A)。ここで、図2に示されるように、帯状部20は、筒状ベース部10の外側に半回転捻じられた状態で編成される。この捻じれを解消できるように、第一編目2と第二編目3とを編成する。具体的には、第一編目2と第二編目3とを繋ぐ複数の渡り糸4が捻じられた状態になるように、本例では第一針床FBに配置する第一編目2と、第二針床BBに配置する第二編目3とを順次編成する。本例の第一編目2は、第一針床FBに係止される基端部1の編目にタックを行うことで編成されたタック目である。第一編目2が編成された部分は基端部1である。S3以降は第一編目2の図示を省略する。一方、本例の第二編目3は、第一編目2が編成される第一針床FBに対向する第二針床BBの空針に編成された掛け目である。
【0037】
本例とは異なり、第一編目2は、基端部1の編目のウエール方向に連続して編成されたニット目でも良い。また、第二編目3は、捨て編地の編目のウエール方向に連続して編成されたニット目でも良い。
【0038】
複数の第一編目2は、本例では筒状ベース部10の編幅方向の端部から中間に向く方向(右方向)で、かつ端部から中間に向かって順次編成される。また、複数の第二編目3は、本例では筒状ベース部10の編幅方向の端部から外方に向く方向(左方向)で、かつ端部から外方に向かって順次編成される。このような順序で第一編目2と第二編目3とを編成することで、第一編目2と第二編目3とを繋ぐ複数の渡り糸4が半回転捻じられた状態になる。第一給糸口8から給糸される編糸Y8は、基端部1と、後述するS3において編成される帯状部20の始端20Sとを繋ぐ結合糸である。
【0039】
第一給糸口8は、筒状ベース部10を編成する編糸を給糸する給糸口とは別の給糸口である。S2には図示されていないが、筒状ベース部10の編成に使用した給糸口を用いて、第一編目2のウエール方向に連続するニット目を編成し、第一編目2を基端部1にしっかりと固定しても良い。この場合、第一編目2に編成された複数のニット目からなる部分を基端部1とみなす。
【0040】
S3では、第二編目3を起点として帯状部20の始端20Sを編成する(工程B)。より具体的には、第一給糸口8とは異なる第二給糸口9を用いて、第二針床BBにおける第二編目3が係止される編針と、第二編目3に対向する第一針床FBの編針に編出し部を編成する。この編出し部が、帯状部20の始端20Sとなる。編出し部の編成方法は特に限定されない。例えば、WO2002-101133号公報に記載される編成方法によって編出し部を編成することができる。始端20Sは、第二編目3のウエール方向に連続する単層の編出し部でも良い。
【0041】
S4では、筒状ベース部10を反時計回りに回転させ、終端部10Eの第一端部編目5(S3参照)を帯状部20の編目に重ねた後、帯状部20を編成する(工程Cの一部)。第一端部編目5は、基端部1に最も近い位置にある右側縁部L11の編目である。本例では、第一端部編目5を、帯状部20の編幅方向の縁部よりも内側の編目に重ねているが、当該縁部の編目に重ねても良い。筒状ベース部10の回転方向は、第一端部編目5に向けて回転する方向である。帯状部20は、筒状に編成しても良いし、例えばミラノリブのように帯状部20の第一層と第二層とが綴じ合わされた状態となるように編成しても良い。
【0042】
更に、S4では、S3において第一針床FBにおける編幅方向の端部にある第二端部編目6を、第二針床BBに移動させている。第二端部編目6の移動は、終端部10Eにおける第一針床FBと第二針床BBの編目数の差を少なくするために行っている。第二端部編目6の移動は、前後の編目数の差が四つ以上となることがないように行うことが好ましい。
【0043】
S4以降は、S4と同様の編成を繰り返し、基端部1を除く終端部10Eと帯状部20とを接合する。その結果、S5に示されるように、基端部1の一部が第二針床BBに回し込まれた状態になる。
【0044】
S5の状態から、基端部1をS4の回転方向と同方向(反時計回り)に回転させながら、基端部1と帯状部20の終端20Eとを、両者1,20Eの境界位置から順次、伏目処理によって接合する(工程D)。例えば、第二針床BBに係止される終端20Eの各編目を、対向位置にある第一針床FBに係止される終端20Eの各編目に重ねてから、公知の伏目処理によって、基端部1と終端20Eとを接合する。公知の伏目処理としては、例えば特許第5804729号公報などに記載の伏目処理が挙げられる。
【0045】
帯状部20の始端20S(S3)は、結合糸Y8(S2)を介して基端部1に繋がっている。従って、基端部1と帯状部20の終端20Eとを接合することで、基端部1に対して、始端20Sと終端20Eの両方が編成によって繋がった状態になる。
【0046】
上記編成工程図に示されるように、本例では、筒状ベース部10を針床上で回転させながら、筒状ベース部10の終端部10Eの編目を帯状部20に寄せて、筒状ベース部10と帯状部20とを接合している。その際、筒状ベース部10の編成範囲の外側で帯状部20を編成しているため、帯状部20の編成に制約がない。従って、図1に示すように、幅広のポロ衿80(帯状部20)を有する筒状編地であるニットウェア100を編成することができる。また、ポロ衿80の編成に制約がないため、ポロ衿80に組織柄を編成することもできるし、複数の編糸を用いて編み柄を編成することもできる。
【0047】
ポロ衿80の編成が終了したら、結合糸Y8(S2参照)の少なくとも一端を引っ張れば、帯状部20の始端20Sと終端20Eとが綴じ合わされる。その結果、図1に示すポロ衿80を有するニットウェア100が完成する。
【0048】
<実施形態2>
実施形態2では、図1に示すニットウェア100の帯状部20を、図3,4とは異なる手順で編成する例を図5に基づいて説明する。
【0049】
実施形態1の図3のS0の状態から、図5のS1では、筒状ベース部10を反時計回りに回転させ、筒状ベース部10の終端部10Eにおける基端部1を、第二針床BBにおける編幅方向の端部に寄せる。続くS2では、基端部1に第一編目2を編成することと、終端部10Eの編幅方向の外側に第二編目3を編成することと、を交互に連続して行う(工程A)。以降、実施形態1のS3~S5と同様の編成を行えば良い。筒状ベース部10の回転方向は、反時計回りである。
【0050】
<実施形態3>
実施形態3では、図1に示す右前立て部81が左前立て部85の前側に重ねられたポロ衿80を備えるニットウェア100を編成する例を説明する。
【0051】
本例では、ポロ衿80は、左前立て部85、左前衿部84、後衿部83、右前衿部82、右前立て部81の順に編成される。本例のポロ衿80は、実施形態1に示す図3,4の編成工程に対して左右対称の編成工程によって編成することができる。また、実施形態2に示す図5の編成工程に対して左右対称の編成工程によっても編成することができる。左右対称の編成工程とは、編目の配置が左右逆で、筒状ベース部10の回転方向が逆の編成工程のことである。
【0052】
<実施形態4>
実施形態4では、図6に示すように、基端部1に対して右前立て部81と左前立て部85とが横並びに接合されたポロ衿80を有するニットウェア100を編成する例を説明する。図6のニットウェア100は、例えば図7に示す編成工程図に従って編成される。
【0053】
基端部1が筒状ベース部10の編幅方向の中間にある状態から、図7のS1では、筒状ベース部10を時計回りに回転させ、筒状ベース部10の編幅方向の端部に基端部1を配置する。本例では、基端部1の一部の編目が第一針床FBに、残部の編目が第二針床BBに係止された状態になっている。第一針床FBの基端部1の編目数と、第二針床BBの基端部1の編目数は同数である。その結果、右前立て部81の編幅と、左前立て部85の編幅とが同じになる。
【0054】
S2では、第一給糸口8を用いて、第二針床BBにおいて第二編目3と第一編目2とを交互に編成する。複数の第二編目3は、筒状ベース部10に近づく方向(右方向)で、かつ筒状ベース部10の外側から筒状ベース部10に向けて順次編成される。また、複数の第一編目2は、筒状ベース部10の編幅方向の端部から中間に向く方向(右方向)で、かつ端部から中間に向かって順次編成される。この編成では、結合糸Y8を引っ張ったときに、複数の第二編目3がその並び順を保持したまま平行移動して複数の第一編目2に重なるように、第一編目2と第二編目3を共に第二針床BBに配置している。複数の渡り糸4は、複数の第二編目3が平行移動する際に絡まないように、捻じられていない。これは、S1において、基端部1における第一編目2が編成される部分を第二針床BBに移動させているため、複数の渡り糸4を捻じる必要がないからである。
【0055】
S3では、第一編目2を伏目処理によって第二針床BBから外すと共に、筒状ベース部10を反時計回りに回転させ、終端部10Eの右側縁部L11を第二編目3に近接させる。以降、実施形態1の図4のS3~S5と同様の編成を行うことで、図6に示すニットウェア100を編成できる。
【0056】
<実施形態5>
実施形態5では、図8に示すように、右前立て部81と左前立て部85とが厚み方向に一部重複したポロ衿80を有するニットウェア100を編成する例を説明する。図8のニットウェア100は、例えば図9に示す編成工程図に従って編成される。
【0057】
基端部1が筒状ベース部10の編幅方向の中間にある状態から、図9のS1では、筒状ベース部10を時計回りに回転させ、筒状ベース部10の編幅方向の端部に基端部1を配置する。本例では、基端部1の一部の編目が第一針床FBに、残部の編目が第二針床BBに係止された状態になっている。第一針床FBの基端部1の編目数は、右前立て部81と左前立て部85とが重複する分だけ、第二針床BBの基端部1の編目数よりも多い。
【0058】
S2では、実施形態1の図4のS2と同様の編成を行った後、実施形態4の図7のS2と同様の編成を行う。S2の後は、実施形態4の図7のS3と同様の編成を行ってから、実施形態1の図4のS3~S5と同様の編成を行うことで、図8に示すニットウェア100を編成できる。
【0059】
<その他の実施形態>
本発明の筒状編地100は、開き部13を有していなくても良い。例えば、筒状ベース部10を引き返し編成などで編成すれば、下がりの小さな丸首のセーターなどの衿ぐり部に、実施形態1~5の帯状部20を編成できる。また、基端部1が筒状ベース部10の編幅方向の中間ではなく、最初から図3のS1の位置に配置されるように筒状ベース部10を編成すれば、回し込みで袖の位置をずらすこと無く、図1の身頃50の肩の位置に開き部13を備えるファッショナブルなニットウェア100を編成できる。
【符号の説明】
【0060】
1 基端部
2 第一編目
3 第二編目
4 渡り糸
5 第一端部編目
6 第二端部編目
8 第一給糸口、Y8 編糸(結合糸)
9 第二給糸口
10 筒状ベース部、10E 終端部
11 主ベース部、11E 終端部
12 開口ベース部、13 開き部、13b 端部
20 帯状部、20E 終端、20S 始端
100 ニットウェア(筒状編地)
50 身頃(筒状ベース部)
60 袖
80 ポロ衿(帯状部)
81 右前立て部、82 右前衿部、83 後衿部、84 左前衿部、85 左前立て部
L11 右側縁部、L12 右前衿ぐり部、L13 後衿ぐり部
L14 左前衿ぐり部、L15 左側縁部
L21,L22,L23,L24,L25 ライン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9