(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】少なくとも1種のトリアジン化合物を含む電気塗装材料
(51)【国際特許分類】
C09D 163/00 20060101AFI20230929BHJP
C09D 5/44 20060101ALI20230929BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20230929BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20230929BHJP
C09D 7/41 20180101ALI20230929BHJP
C08G 59/50 20060101ALI20230929BHJP
C25D 13/00 20060101ALI20230929BHJP
C25D 13/04 20060101ALI20230929BHJP
【FI】
C09D163/00
C09D5/44 A
C09D7/65
C09D7/61
C09D7/41
C08G59/50
C25D13/00 307D
C25D13/04
(21)【出願番号】P 2020520200
(86)(22)【出願日】2018-10-08
(86)【国際出願番号】 EP2018077347
(87)【国際公開番号】W WO2019072774
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2021-09-15
(32)【優先日】2017-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D-48165 Muenster,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】ヴェグナー,エゴン
(72)【発明者】
【氏名】ヨハンペッター,オリファー
(72)【発明者】
【氏名】ブランク,トビアス
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-194769(JP,A)
【文献】国際公開第2007/009581(WO,A1)
【文献】特表2011-515546(JP,A)
【文献】特表2010-536943(JP,A)
【文献】特開2002-020685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00
C09D 100/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも1種のエポキシド-アミン付加物と、
(b)少なくとも1種の顔料及び/又は少なくとも1種の充填剤と、
(c)少なくとも1種の架橋剤と
を含む、陰極析出が可能な水性電着コーティング材料であって、
前記(a)少なくとも1種のエポキシド-アミン付加物は、少なくとも1種のエポキシ樹脂及び少なくとも1種のアミンの反応生成物であり、かつ前記エポキシド-アミン付加物はウレタン変性されておらず、
前記架橋剤(c)において少なくとも25質量%の割合(前記架橋剤(c)の総質量を基準とする)が、少なくとも1種のトリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンにより形成されており、そして、残りの割合が、前記の少なくとも1種のトリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンとは異なると共にブロックポリイソシアネート、アミノ樹脂、及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の架橋剤によって、形成されて
おり、
架橋剤(c)としてのトリス(アルコシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンの最大割合は、架橋剤(c)の総質量を基準として、100質量%未満であり、架橋剤(c)の残りの割合は1種類以上のブロックポリイソシアネートからなる陰極析出が可能な水性電着コーティング材料。
【請求項2】
OH官能性コポリマーであって、少なくとも1個のアミノ基を含む少なくとも1種の構造単位を有するOH官能性コポリマーを含有しない、請求項
1に記載の電着コーティング材料。
【請求項3】
前記架橋剤(c)において少なくとも30質量%(前記架橋剤(c)の総質量を基準とする)の割合が、少なくとも1種のトリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンにより形成されている、請求項1
または2に記載の電着コーティング材料。
【請求項4】
前記架橋剤(c)において少なくとも35質量%(前記架橋剤(c)の総質量を基準とする)の割合が、少なくとも1種のトリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンにより形成されている、請求項1から
3のいずれか一項に記載の電着コーティング材料。
【請求項5】
成分(c)が、5~45質量%(前記電着コーティング材料の総固形分を基準とする)の範囲の量で前記電着コーティング材料中に含まれている、請求項1から
4のいずれか一項に記載の電着コーティング材料。
【請求項6】
前記トリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンが、一般式(I):
【化1】
(式中、ラジカルR
1、R
2、及びR
3は、それぞれ互いに独立して、C
1~C
8アルキル基である)
を有する少なくとも1種のトリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンを含む、請求項1から
5のいずれか一項に記載の電着コーティング材料。
【請求項7】
ラジカルR
1、R
2、及びR
3が、それぞれ互いに独立して、C
1~C
4アルキル基である、請求項
6に記載の電着コーティング材料。
【請求項8】
成分(b)が、0.5~17.5質量%(前記電着コーティング材料の総質量を基準とする)の範囲の量で前記電着コーティング材料中に含まれている、請求項1から
7のいずれか一項に記載の電着コーティング材料。
【請求項9】
前記電着コーティング材料中における成分(a)と(c)との互いの相対質量比が、5:1~1.1:1の範囲である、請求項1から
8のいずれか一項に記載の電着コーティング材料。
【請求項10】
前記エポキシド-アミン付加物(a)が、ビスフェノールAを主成分とする少なくとも1種のエポキシ樹脂と、少なくとも1種の第一級及び/又は第二級アミン及び/又はこれらの塩及び/又は第三級アミンの少なくとも1種の塩との反応生成物である、請求項1から
9のいずれか一項に記載の電着コーティング材料。
【請求項11】
陰極電着コーティングによって導電性基材を少なくとも部分的にコーティングする方法であって、
(1)請求項1から
10のいずれか一項に記載の電着コーティング材料を含む電着コーティング浴に、前記導電性基材を少なくとも部分的に浸漬する工程、
(2)前記基材を陰極として接続する工程、
(3)直流を使用して前記基材上にコーティング膜を析出させる工程、
(4)コーティングした前記基材を前記電着コーティング浴から取り出す工程、及び
(5)前記基材上に析出させた前記コーティング膜をベイクする工程、
を含む方法。
【請求項12】
前記の工程(5)によるベイク温度が、125~165℃の範囲である、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
工程(1)で使用する前記導電性基材が、少なくとも1種の金属リン酸塩で前処理された基材である、請求項
11又は
12に記載の方法。
【請求項14】
ベイクされた請求項1から
10のいずれか一項に記載の電着コーティング材料によって少なくとも部分的にコーティングされているか、及び/又は請求項
12及び
13のいずれかに記載の方法によって得ることのできる導電性基材。
【請求項15】
電着コーティング前の前処理工程によって電着コーティング浴に運ばれたリン酸塩を通じて及び/又は他の金属塩を通じて前記電着コーティング浴中に存在する不純物が容易にもたらされ、これによって前記電着コーティング浴が容易に中断されることを低減又は排除するため、及び/又は
導電性基材の少なくとも部分的なコーティングの場合における前記電着コーティング材料のベイク温度を125℃~165℃の範囲の温度に低下させるために、請求項1から
10のいずれか一項に記載の陰極析出が可能な電着コーティング材料中において、当該電着コーティング材料中の架橋剤の総質量を基準として少なくとも25質量%の割合で少なくとも1種のトリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンを使用する方法。
【請求項16】
前記トリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンが、一般式(I):
【化2】
(式中、ラジカルR
1、R
2、及びR
3は、それぞれ互いに独立して、C
1~C
8アルキル基である)
を有する少なくとも1種のトリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンを含む、請求項
15に記載の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種のエポキシド-アミン付加物(a)と、少なくとも1種の顔料及び/又は少なくとも1種の充填剤(b)と、少なくとも1種の架橋剤(c)とを含み、少なくとも25質量%の割合(架橋剤(c)の総質量を基準とする)の架橋剤(c)が、少なくとも1種のトリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンにより形成される、陰極析出が可能な水性電着コーティング材料に関するものであり、前記電着コーティング材料を使用した陰極電着コーティングにより導電性基材をコーティングする方法に関するものであり、その方法によってコーティングされた基材に関するものであり、そして、電着コーティング前の前処理工程の結果として電着コーティング浴に運ばれたリン酸塩を通じての及び/又は他の金属塩を通じての電着コーティング浴中に存在する不純物によって電着コーティング浴が容易に中断されることを低減又は排除するために、トリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンを陰極析出が可能な電着コーティング材料中に使用する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車部門では、製造に使用される金属構成要素は、通常、腐食から保護しなければならない。製造者は、特に、長年にわたり錆の穿孔に対して保証をしばしば行うので、腐食制御に関する達成すべき要件は、非常に厳格である。そのような腐食制御は、通常、構成要素へのコーティング、又はその構成要素を製造するのに使用される基材へのコーティングを介して、この目的に適した少なくとも1種のコーティングを使用して達成される。
【0003】
必要な腐食制御を確保できるようにするために、電着コーティング膜を金属基材に塗布することが慣例であり、なお、この基材は、場合により、リン酸塩処理によって前処理される。電着コーティング(電気塗装)材料は、膜形成剤、顔料及び/又は充填剤、及び頻繁に使用される添加剤が含まれるコーティング材料である。陽極及び陰極析出が可能な電気塗装材料があり、陰極析出が可能な材料は、産業コーティングにおいて、及び、特に自動車仕上げにおいて、最も重要である。陰極電着コーティングでは、コーティングすべき基材を電気コーティング浴に浸漬し、陰極として接続する。浴は、対極として陽極を有する。電気コーティング分散液の粒子は、正電荷で安定化され、陰極に析出され、コーティング膜を形成する。析出に続いて、電気コーティング浴からコーティングした基材を取り出し、コーティング膜をベイクする(すなわち、熱硬化させる)。
【0004】
電気塗装材料は、従来技術において知られている。独国特許出願公開第19921223号明細書には、バインダーシステムの使用を想定する電着コーティングの方法が開示されており、このシステムは、熱だけでなく紫外線放射によっても硬化可能であり、その目的のためにオレフィン性不飽和二重結合を有している。これによって、特に、直接近づくことができない端を有する基材の電着コーティングを行うことが可能になる。溶解乳化によって製造することができる電気塗装材料は、独国特許出願公開第10036560号明細書によって知られている。欧州特許第EP1192226号明細書には、端の保護を改善するだけでなく、油汚染に対する安定性も改善するための添加剤として水溶性ポリビニルアルコール(コ)ポリマーを含む電気塗装材料が記載されている。最後に、国際公開第99/31187号には、乳酸修飾ビスマス化合物を含むカチオン析出が可能な電気塗装材料が開示されており、これは、鉛化合物の使用を回避することを可能にするが、それでも十分な腐食制御を達成するものである。さらに、欧州特許出願公開第1743925号明細書には、トリアジン化合物の組み合わせ、及び、OH官能性及びアミノ基を含有したコポリマーの組み合わせを含む電気塗装材料が記載されている。
【0005】
電気塗装材料は、独国特許出願公開第19703869号明細書及び欧州特許第0505445号明細書にも記載されている。それらに記載されているコーティング材料中のバインダーは、修飾エポキシ樹脂と、架橋することができる他の成分(特に、ブロックポリイソシアネート)との混合物を含む。そのようなブロックポリイソシアネートは、陰極電気コーティングにおける広く行き渡った架橋剤である。芳香族ポリイソシアネートは、最も反応性の高いイソシアネートであるので、主に使用されている。適当なポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート(TDI)及び4,4-ジイソシアナト-ジフェニルメタン(MDI)が挙げられる。
【0006】
独国特許出願公開第19703869号明細書に記載されている電気塗装材料は優れた腐食制御を確かに提供することができるが、一方、その電気塗装材料は、金属リン酸塩及び他の金属塩により引き起こされる不純物のせいで、これら材料が容易に変化するという欠点を有する。これらの不純物は、実際には避けられない。この理由としては、(電着コーティングの前における)コーティングすべき基材は、腐食制御をさらに改善するための上流の前処理工程において、一般に、例えばリン酸亜鉛処理を使用して、リン酸塩処理されるからである。洗浄工程を使用して、基材(例えば、自動車の車体)から、付着されているリン酸塩及び任意の他の金属塩を完全になくすことは事実上不可能であることを考えると、前記不純物は、電着コーティング浴に何度も運ばれる(リン酸塩の同伴)。この結果には、電気塗装仕上げの膜の欠陥(これは、架橋を中断させるので腐食制御を損なうおそれがある)、望ましくない不利な点(例えば、不十分な溶媒耐性)、及び、しばしば、最終的なマルチコート自動車仕上げの外観からの視覚的な劣化が含まれる。さらに、そのようなリン酸塩の同伴によって、例えば、特にドア入口領域などに使用される基材の大きな部分において、硬化が不十分である電気塗装膜が特にもたらされることがある。これは、大きな問題となる。この理由としては、原則として、リン酸塩で汚染された電気コーティング浴のリン酸塩含有量が、浴の完全な又は部分的な交換によって低くできるか又は排除できることしかできないからである。しかしながら、そのような交換は、最大で300000リットルまでの量の電気塗装材料を破棄することに等しいので、経済的に合理的ではない。
【0007】
さらに、独国特許出願公開第19703869号明細書などの従来技術で知られている電気塗装材料は、例えば160~180℃の比較的高いベイク温度を必要とする。これらの高いベイク温度の結果によって、エネルギー消費が高くなり、これは、経済的に望ましくない。この目的のために、すなわち、ベイク温度を低減するために、国際公開第2009/021719号は、陰極析出が可能な電気塗装材料における水不溶性次硝酸ビスマスの使用を教示している。次硝酸ビスマスの存在によって、水溶性ビスマス塩(例えば、硝酸ビスマス)を含む電気塗装材料と比較して、ベイク温度を低下させることができる。
【0008】
従って、上記で特定した欠点の少なくとも1つを有しない電気塗装材料が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】独国特許出願公開第19921223号明細書
【文献】独国特許出願公開第10036560号明細書
【文献】欧州特許第EP1192226号明細書
【文献】国際公開第99/31187号
【文献】欧州特許出願公開第1743925号明細書
【文献】独国特許出願公開第19703869号明細書
【文献】欧州特許第0505445号明細書
【文献】国際公開第2009/021719号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明が取り組むべき課題は、特に、リン酸塩及び/又は他の金属塩を通じての不純物が容易にもたらされ、これによって容易に中断することを大幅に低減するか又は好ましくは完全に排除することのできる、陰極析出が可能な電着コーティング材料を提供することである。加えて、コーティング膜の硬化に必要なベイク温度は、低くするべきであり、及び得られるコーティング膜は、いかなる有害な光学的及び/又は機械的な特性も有するべきではない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は、特許請求の範囲で請求される主題、及び以下の明細書に記載されている主題の好ましい実施形態によっても解決される。
従って、本発明の第一の主題は、
(a)少なくとも1種のエポキシド-アミン付加物と、
(b)少なくとも1種の顔料及び/又は少なくとも1種の充填剤と、及び
(c)少なくとも1種の架橋剤とを含む、陰極析出が可能な水性電着コーティング材料であって、
架橋剤(c)の少なくとも25質量%の割合(架橋剤(c)の総質量を基準とする)が、少なくとも1種のトリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンにより形成されており、及び残りの割合のうちの任意の割合が、少なくとも1種のトリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンとは異なると共にブロックポリイソシアネート、アミノ樹脂、及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の架橋剤により形成されている、陰極析出が可能な水性電着コーティング材料である。
【0012】
本発明のさらなる主題は、陰極電着コーティングによって導電性基材を少なくとも部分的にコーティングする方法であって、
(1)本発明の電着コーティング材料を含む電着コーティング浴に、導電性基材を少なくとも部分的に浸漬し、
(2)基材を陰極として接続し、
(3)直流を使用して基材上にコーティング膜を析出させ、
(4)コーティングした基材を電着コーティング浴から取り出し、及び
(5)基材上に析出させたコーティング膜をベイクする、方法である。
【0013】
本発明のさらなる主題は、ベイクした本発明の電着コーティング材料で少なくとも部分的にコーティングした導電性基材である。
【0014】
本発明のさらなる主題は、電着コーティングの前の前処理工程によって電着コーティング浴に運ばれたリン酸塩を通じて、特に金属リン酸塩及び/又は他の金属塩通じて電着コーティング浴中に存在する不純物が容易にもたらされ、これによって電着コーティング浴が容易に中断されることを低減又は排除するためであるか、及び/又は導電性基材の少なくとも部分的なコーティングの場合に電着コーティング材料のベイク温度を125℃~165℃の範囲の温度に低下させるための、陰極析出が可能な電着コーティング材料中における、少なくとも25質量%(電着コーティング材料中の架橋剤の総質量を基準とする)の割合の少なくとも1種のトリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンを使用する方法である。
【0015】
驚くべきことに、本発明の電着コーティング材料は、特に成分(c)及び/又はその中に含まれるトリアジン部分の存在により、電着コーティングの前の前処理工程によって電着コーティング浴に運ばれたリン酸塩を通じた及び/又は他の金属塩を通じた汚染が容易にもたらされ、これによって容易に中断することを著しく低減するか又は完全に排除することが見出された。特にここで、驚くべきことに、本発明の電着コーティング材料は、リン酸塩及び/又は他の金属塩の(望ましくない)存在下でさえ、及びドア入口領域などの大きな部分にでさえ、ベイク後に十分に硬化した膜をもたらすことが明らかとなった。特に驚くべきことに、本発明の電着コーティング材料は、特に、その電着コーティング材料に含有されるトリアジンが、25質量%(架橋剤(c)の総質量を基準とする)の最も小さい割合で、リン酸塩に対して全く容易に変化することはなく、その一方で、トリアジンの割合が25質量%よりも低い比較のコーティング材料は、リン酸塩に対して、実質的により容易に変化する(実験データの5.6節及び表10を参照)ことが見出された。
【0016】
さらに、驚くべきことに、本発明の電着コーティング材料から得られたコーティングは、特に成分(c)及び/又はその中に含まれるトリアジン部分の存在により、任意の有害な光学的及び/又は機械的特性を有さず、特に膜欠陥がないことが見出された。特に、このようにして得られたコーティングは、良好な溶媒耐性で注目に値する。対応するコーティングした金属基材の良好な腐食制御、及び得られたコーティング部分での良好な耐候性も達成される。
【0017】
さらに驚くべきことに、特に、成分(c)及び/又はその中に含まれるトリアジン部分の存在により、本発明の電着コーティング材料は、適した基材の少なくとも部分的なコーティングの場合、ベイク温度を低下させることが見出された。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の意味における「含む」という用語は、例えば本発明の電着コーティング材料と関連させて、好ましくは、「からなる」の意味を有する。本発明の電着コーティング材料に関して、成分(a)、(b)、(c)及び水に加えて、以下で特定された成分、及び場合により本発明の電着コーティング材料に含まれる1種以上のさらなる成分が、これらの中に含まれることが可能である。各場合において、すべての成分が、以下で特定されるように、その好ましい実施形態において存在する。
【0019】
本発明の電着コーティング材料
本発明の陰極析出が可能な水性電着コーティング材料は、少なくとも成分(a)、(b)、(c)、及び水も含む。
【0020】
本発明の陰極析出が可能な水性電着コーティング材料は、電着コーティング材料で導電性基材を少なくとも部分的にコーティングするのに適しており、これは、本発明の陰極析出が可能な水性電着コーティング材料が、導電性基材の基材表面に対して電着コーティング膜の形態で少なくとも部分的に塗布するのに適していることを意味する。
【0021】
本発明の陰極析出が可能な電着コーティング材料は、水性である。本発明の電着コーティング材料に関連する「水性」という用語は、好ましくは本発明の目的のために、溶媒としての又は希釈剤としての水が主構成成分として、本発明の電着コーティング材料の総質量を基準として、好ましくは少なくとも35質量%の量で存在することを意味すると理解される。有機溶媒は、35質量%よりも小さい割合で、好ましくは<20質量%の量でさらに存在してもよい。
【0022】
本発明の電着コーティング材料は、各場合とも電着コーティング材料の総質量を基準として、少なくとも40質量%、より好ましくは少なくとも45質量%、非常に好ましくは少なくとも50質量%、特には少なくとも55質量%の水の割合を含むことが好ましい。
【0023】
本発明の電着コーティング材料は、有機溶媒の割合を、各場合とも電着コーティング材料の総質量を基準として、<20質量%の範囲、より好ましくは0~<20質量%の範囲、非常に好ましくは0.5~20質量%又は17.5質量%又は15質量%又は10質量%の範囲で含むことが好ましい。そのような有機溶媒としては、ヘテロ環状、脂肪族、又は芳香族炭化水素、一価又は多価アルコール、特にメタノール及び/又はエタノール、エーテル、エステル、ケトン、及びアミド、例えば、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、トルエン、キシレン、ブタノール、エチルグリコール及びブチルグリコール及びこれらのアセテート、ブチルジグリコール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン、イソホロン、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0024】
本発明の電着コーティング材料の固形分は、各場合とも電着コーティング材料の総質量を基準として、好ましくは5~45質量%、より好ましくは5~40質量%、非常に好ましくは7.5~40質量%、より具体的には7.5~35質量%、最も好ましくは10~35質量%又は15~30質量%の範囲である。固形分(言い換えれば、不揮発分)は、以下に記載する方法によって決定する。
【0025】
本発明の電着コーティング材料は、2.0~10.0の範囲、より好ましくは2.5~9.5の範囲又は2.5~9.0の範囲、非常に好ましくは3.0~8.5の範囲又は3.0~8.0の範囲、より具体的には2.5~7.5の範囲又は3.5~7.0の範囲、特に好ましくは4.0~6.5の範囲、最も好ましくは3.5~6.5又は5.0~6.0の範囲のpHを有することが好ましい。
【0026】
本発明の電着コーティング材料は、成分(a)を、各場合とも電着コーティング材料の総固形分を基準として、好ましくは15~85質量%、より好ましくは20~80質量%、非常に好ましくは25~77.5質量%、より具体的には30~75質量%又は35~75質量%、最も好ましくは40~70質量%又は45~70質量%又は50~70質量%の範囲の量で含む。
【0027】
本発明の電着コーティング材料は、成分(a)を、各場合とも電着コーティング材料の総質量を基準として、好ましくは1~40質量%、より好ましくは2.5~37.5質量%、非常に好ましくは4~35質量%、より具体的には5.5~32.5質量%、最も好ましくは7~30質量%又は8~25質量%の範囲の量で含む。
【0028】
本発明の電着コーティング材料は、成分(b)を、各場合とも電着コーティング材料の総質量を基準として、好ましくは0.2~20質量%、より好ましくは0.5~17.5質量%、非常に好ましくは0.75~15質量%、より具体的には1.0~12.5質量%、最も好ましくは1.0~10質量%又は1.0~9質量%の範囲の量で含む。
【0029】
本発明の電着コーティング材料は、成分(c)を、各場合とも電着コーティング材料の総固形分を基準として、好ましくは5~45質量%、より好ましくは6~42.5質量%、非常に好ましくは7~40質量%、より具体的には8~37.5%質量%又は9~35質量%、最も好ましくは10~35質量%、特に好ましくは15~35質量%の範囲の量で含む。
【0030】
本発明の電着コーティング材料は、成分(c)を、各場合とも電着コーティング材料の総質量を基準として、好ましくは0.5~30質量%、より好ましくは1~25質量%、非常に好ましくは1.5~20質量%、より具体的には2~17.5質量%、最も好ましくは2.5~15質量%、特に好ましくは3~10質量%の範囲の量で含む。
【0031】
本発明の電着コーティング材料は、オレフィン性不飽和二重結合を有する成分を含まないことが好ましい。より具体的には、本発明の電着コーティング材料の成分(a)及び(c)のどちらも、オレフィン性不飽和二重結合を含有しない。
【0032】
本発明の電着コーティング材料に含まれているすべての成分(a)、(b)、(c)、及び水についての質量%で表す割合、ならびに追加して存在することがあるさらなる成分についての質量%で表す割合は、電着コーティング材料の総質量を基準として、合計で100質量%となる。
【0033】
本発明の電着コーティング材料中の成分(a)及び(c)の互いについての相対質量比は、好ましくは5:1~1.1:1の範囲、より好ましくは4.5:1~1.1:1の範囲、非常に好ましくは4:1~1.2:1の範囲、より具体的には3:1~1.5:1の範囲である。
【0034】
少なくとも1種のエポキシド-アミン-付加物(a)は、電着コーティング材料の総固形分を基準として、50~70質量%の量で電着コーティング材料中に存在することが好ましく、及び少なくとも1種の架橋剤(c)は、電着コーティング材料の総固形分を基準として、10~35質量%の量で電着コーティング材料中に存在することが好ましい。
【0035】
本発明の電着コーティング材料は、OH官能性コポリマー(なお、このコポリマーは、少なくとも1個のアミノ基を順番に有する少なくとも1種の構造単位を含有するものである)を含有しておらず、より具体的には、ビニル基を含有するモノマーの共重合によって調製されるこうしたコポリマーを含有しないことが好ましい。
【0036】
成分(a)
本発明の電着コーティング材料の成分(a)は、少なくとも1種のエポキシド-アミン付加物を含む。
【0037】
本発明の目的のためのエポキシド-アミン付加物は、少なくとも1種のエポキシ樹脂及び少なくとも1種のアミンの反応生成物である。使用するエポキシ樹脂は、より具体的には、ビスフェノールA及び/又はその誘導体に基づくものである。エポキシ樹脂と反応させるアミンは、第一級及び/又は第二級アミン又はその塩及び/又は第三級アミンの塩である。
【0038】
少なくとも1種のエポキシド-アミン付加物(a)は、好ましくは、カチオン性の、エポキシドベースのアミン修飾樹脂である。このようなカチオン性の、アミン修飾エポキシドベース樹脂の調製は既知であり、例えば、独国特許出願公開第3518732号明細書、独国特許出願公開第3518770号明細書、欧州特許出願公開第0004090号明細書、欧州特許出願公開第0012463号明細書、欧州特許第0961797号明細書、欧州特許第0505445号明細書に記載されている。カチオン性の、エポキシドを主成分とするアミン修飾樹脂は、好ましくは2個以上(例えば、3個)のエポキシド基を有する少なくとも1種のポリエポキシドと少なくとも1種のアミン(好ましくは、少なくとも1種の第一級及び/又は第二級アミン)との反応生成物であることが好ましいと理解される。特に好ましいポリエポキシドは、ポリフェノール及びエピハロヒドリンから調製されるポリフェノールのポリグリシジルエーテルである。使用されるポリフェノールは、特にビスフェノールA及び/又はビスフェノールFである。他の適したポリエポキシドは、多価アルコールの、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレン1,2-グリコール、プロピレン1,4-グリコール、1,5-ペンタンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、グリセロール、及び2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンのポリグリシジルエーテルである。使用されるポリエポキシドは、修飾ポリエポキシドであってもよい。修飾ポリエポキシドは、反応性官能基のいくつかが少なくとも1種の修飾化合物と反応しているポリエポキシドであると理解される。そのような修飾化合物の例は次のとおりである。
【0039】
i)カルボキシル基を含有する化合物、例えば飽和又は不飽和モノカルボン酸(例えば、安息香酸、リンシード油脂肪酸、2-エチルヘキサン酸、バーサチック酸(Versatic acid))、種々の鎖長の脂肪族、脂環式及び/又は芳香族ジカルボン酸(例えば、アジピン酸、セバシン酸、イソフタル酸、又は二量化脂肪酸)、ヒドロキシアルキルカルボン酸(例えば、乳酸、ジメチロールプロピオン酸)、及びカルボキシル含有ポリエステル、又は
ii)ジエチルアミン又はエチルヘキシルアミンなどのアミノ基又は第二級アミノ基を有するジアミンを含有する化合物、例えば、N,N’-ジアルキルアルキレン-ジアミン、例えばジメチルエチレンジアミン、N,N’-ジアルキル-ポリオキシアルキレンアミン、例えばN,N’-ジメチルポリオキシプロピレンジアミン、シアノアルキル化アルキレンジアミン、例えばビス-N,N’-シアノエチルエチレンジアミン、シアンアルキル化ポリオキシアルキレンアミン、例えばビス-N,N’-シアノエチル-ポリオキシプロピレンジアミン、ポリアミノアミド、例えばベルサミド(Versamide)、特にジアミンのアミノ末端反応生成物(例えばヘキサメチレンジアミン)、ポリカルボン酸、特に二量体脂肪酸及びモノカルボン酸、より具体的には脂肪酸、又は1モルのジアミノヘキサン及び2モルのモノグリシジルエーテル又はモノグリシジルエステルの反応生成物、特にα分岐脂肪酸のグリシジルエステル、例えばバーサチック酸、又は
iii)ヒドロキシル基を含有する化合物、例えばネオペンチルグリコール、ビスエトキシル化ネオペンチルグリコール、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレート、ジメチルヒダントイン-N,N’-ジエタノール、ヘキサン-1,6-ジオール、ヘキサン-2,5-ジオール、1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,1-イソプロピリデンビス(p-フェノキシ)-2-プロパノール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、又はアミノアルコール、例えばトリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、又はヒドロキシル基含有アルキルケチミン、例えばアミノメチルプロパン-1,3-ジオールメチルイソブチルケチミン又はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンシクロヘキサノンケチミン、及びポリグリコールエーテル、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、種々の官能性及び分子量のポリカプロラクタムポリオール、又は
iv)ナトリウムメトキシドの存在下でエポキシ樹脂のヒドロキシル基でエステル化される、飽和又は不飽和脂肪酸メチルエステル。
【0040】
成分(a)の調製に使用することができるアミンとしては、例えば、モノ-及びジアルキルアミン、例えばメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、メチルブチルアミン、アルカノールアミン、例えばメチルエタノールアミン又はジエタノールアミン、ジアルキルアミノアルキルアミン、例えばジメチルアミノエチルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、又はジメチルアミノプロピルアミンが挙げられる。使用することができるアミンは、アミンと任意に修飾されたポリエポキシドのエポキシド基との反応を中断せず、且つ反応混合物のゲル化も引き起こさない限り、他の官能基も含んでよい。第二級アミンが好ましく使用される。水での希釈性及び電気析出に必要な電荷は、水溶性の酸(例えば、ホウ酸、ギ酸、酢酸、乳酸、好ましくは酢酸)でのプロトン化によって生成される。任意に修飾されたポリエポキシドにカチオン性基を導入するさらなる手段は、ポリエポキシドのエポキシド基をアミン塩と反応させることである。
【0041】
成分(a)として使用することができるエポキシド-アミン付加物は、好ましくは、ビスフェノールAに基づくエポキシ樹脂、及び第一級及び/又は第二級アミン又はその塩及び/又は第三級アミンの塩の反応生成物である。
【0042】
成分(b)
本発明の電着コーティング材料の成分(b)は、少なくとも1種の顔料及び/又は少なくとも1種の充填剤を含む。好ましくは、本発明の電着コーティング材料は、成分(b)として少なくとも1種の顔料及び少なくとも1種の充填剤を含む。
【0043】
「充填剤」という用語は、例えば、DIN55943(日付:2001年10月)から当業者に知られている。本発明の目的のための「充填剤」とは、好ましくは、例えば本発明の電着コーティング材料などの応用媒体に実質的に、好ましくは完全に不溶性の成分であり、特に、体積を増加させるために使用される。本発明の意味における「充填剤」とは、好ましくは、「顔料」とはこれらの屈折率において異なり、屈折率は充填剤については、<1.7である。
【0044】
「顔料」という用語は同様に、例えば、DIN55943(日付:2001年10月)から当業者に知られている。本発明の意味における「顔料」とは、好ましくは、例えば本発明の電着コーティング材料などの、これらを取り囲む媒体に実質的に、好ましくは完全に不溶性の粉末又はフレーク形態の成分を指す。顔料は、その磁気的、電気的及び/又は電磁的特性が理由で顔料として使用することができる着色剤及び/又は物質であることが好ましい。顔料は、好ましくは、「充填剤」とはこれらの屈折率において異なり、屈折率は顔料については≧1.7である。
【0045】
当業者に知られている任意の慣例の充填剤を成分(b)として使用してよい。適した充填剤としては、カオリン、ドロマイト、カルサイト、チョーク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、グラファイト、シリケート、例えばマグネシウムシリケート、特に対応するフィロシリケート、例えばヘクトライト、ベントナイト、モンモリロナイト、タルク及び/又はマイカ、シリカ、特にヒュームドシリカ、水酸化物、例えば水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウム、又は有機充填剤、例えば織物繊維、セルロース繊維、ポリエチレン繊維又はポリマー粉末などが挙げられる。さらなる詳細については、Roempp Lexikon Lacke und Druckfarben、Georg Thieme Verlag、1998年、第250頁以降、「充填剤」を参照されたい。
【0046】
当業者に知られている任意の通常の顔料を成分(b)として使用してよい。適した顔料としては、無機及び有機着色顔料が挙げられる。適した無機着色顔料としては、白色顔料、例えば亜鉛白、硫化亜鉛又はリトポン、黒色顔料、例えばカーボンブラック、鉄マンガンブラック又はスピネルブラック、有彩顔料、例えば酸化クロム、酸化クロム水和物グリーン、コバルトグリーン又はウルトラマリングリーン、コバルトブルー、ウルトラマリンブルー又はマンガンブルー、ウルトラマリンバイオレット又はコバルトバイオレット及びマンガンバイオレット、酸化鉄レッド、カドミウムスルホセレニド、モリブデートレッド又はウルトラマリンレッド、酸化鉄ブラウン、混合ブラウン、スピネル相及びコランダム相又はクロムオレンジ、又は酸化鉄イエロー、ニッケルチタンイエロー、クロムチタンイエロー、硫化カドミウム、硫化カドミウム亜鉛、クロムイエロー又はビスマスバナデートである。さらなる無機着色顔料は、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化アルミニウム水和物、特にベーマイト、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、及びこれらの混合物である。適した有機着色顔料の例は、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、アントラキノン顔料、ベンズイミダゾール顔料、キノアクリドン顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料、ジオキサジン顔料、インダントロン顔料、イソインドリン顔料、イソインドリノン顔料、アゾメチン顔料、チオインジゴ顔料、金属錯体顔料、ペリノン顔料、ペリレン顔料、フタロシアニン顔料又はアニリンブラックが挙げられる。
【0047】
成分(b)は、好ましくは、顔料ペースト及び/又は充填剤ペーストの形態で電着コーティング材料中に組み込まれる。そのようなペーストは、典型的には、粉砕樹脂として使用される少なくとも1種のポリマーを含む。従って好ましくは、粉砕樹脂として使用される少なくとも1種のそのようなポリマーが、本発明の電着コーティング材料に含まれる。当該樹脂は、好ましくは同様にエポキシド-アミン付加物であり、これはこの場合、成分(a)に対応し、及び/又は成分(a)内に包含されるべきである。粉砕樹脂として使用されるポリマーは、好ましくは、顔料及び/又は充填剤の表面と相互作用するビルディングブロックを有する。従って粉砕樹脂は、乳化剤の効果を有する。多くの場合、粉砕樹脂の特性を改善する目的で、第四級アンモニウム化合物が組み込まれる。顔料及び/又は充填剤は、好ましくは粉砕樹脂と共に粉砕して、顔料ペーストを形成する。完成した電着コーティング材料を製造するために、このペーストを残りの構成成分と混合する。電着コーティング材料の顔料及びバインダーの分率は、顔料ペーストの量によって実際の要件にいつでも容易に適合させることができるので、顔料ペーストの使用は、より大きな柔軟性を電着コーティングに有利にもたらす。
【0048】
本発明の電着コーティング材料が、エポキシド-アミン付加物ではなく従って成分(a)とは異なる、粉砕樹脂として使用される少なくとも1種のポリマーを含む場合、前記ポリマーは、各場合とも電着コーティング材料の総質量を基準として、好ましくは0.5~10質量%、より好ましくは0.5~7.5質量%、非常に好ましくは0.75~5質量%の範囲の量で、電着コーティング材料中に含まれる。
【0049】
成分(c)
本発明の電着コーティング材料の成分(c)は、少なくとも1種の架橋剤を含み、架橋剤(c)の総質量を基準として少なくとも25質量%の割合の架橋剤(c)が、少なくとも1種のトリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンにより形成され、及び架橋剤(c)の総質量を基準として多くとも75質量%の任意の残りの割合、すなわち、場合により架橋剤内に残っている割合が、少なくとも1種のトリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンとは異なり、且つブロックポリイソシアネート、アミノ樹脂、及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の架橋剤により形成される。言い換えれば、架橋剤(c)の総質量を基準として少なくとも25質量%の架橋剤(c)が、本発明の電着コーティング材料中に、少なくとも1種のトリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンの形態で存在する。架橋剤(c)の総質量を基準として多くとも75質量%の架橋剤(c)が、本発明の電着コーティング材料中に、少なくとも1種のトリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンとは異なり、且つブロックポリイソシアネート、アミノ樹脂、及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の架橋剤の形態で存在する。トリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンの割合は、電着コーティング材料中に、架橋剤(c)の総質量を基準として、最大で100質量%までであってよい。本発明の電着コーティング材料は、少なくとも一種の架橋剤(c)以外の架橋剤を含有しないことが好ましい。
【0050】
「ブロックポリイソシアネート」という用語は、当業者に知られている。利用することができるブロックポリイソシアネートは、少なくとも2個のイソシアネート基(ジイソシアネート)を有するが、好ましくは2個を超える、例えば3~5個のイソシアネート基を有するポリイソシアネートであり、イソシアネート基は反応していて、形成されるブロックポリイソシアネートが、特にヒドロキシル基及びアミノ基、例えば第一級及び/又は第二級アミノ基に関して、室温、すなわち18~23℃の温度で安定であるが、高温で、例えば≧80℃、≧110℃、≧130℃又は≧140℃では、ウレタン及び/又は尿素結合それぞれの転換及び形成を伴って反応する。
【0051】
ブロックポリイソシアネートの調製では、架橋に適した任意の所望の有機ポリイソシアネートを使用することが可能である。使用するイソシアネートは、好ましくは(ヘテロ)脂肪族、(ヘテロ)脂環式、(ヘテロ)芳香族、又は(ヘテロ)脂肪族-(ヘテロ)芳香族イソシアネートである。好ましいポリイソシアネートは、2~36個、特に6~15個の炭素原子を含有するものである。好ましい例は、エチレン1,2-エチレンジイソシアネート、テトラメチレン1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレン1,6-ジイソシアネート(HDI)、2,2,4(2,4,4)-トリメチルヘキサメチレン1,6-ジイソシアネート(TMDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,9-ジイソシアナト-5-メチルノナン、1,8-ジイソシアナト-2,4-ジメチルオクタン、ドデカン1,12-ジイソシアネート、ω,ω’-ジイソシアナトジプロピルエーテル、シクロブテン1,3-ジイソシアネート、シクロヘキサン1,3-及び1,4-ジイソシアネート、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート、IPDI)、1,4-ジイソシアナトメチル-2,3,5,6-テトラメチル-シクロヘキサン、デカヒドロ-8-メチル(1,4-メタノナフタレン-2(又は3),5-イレンジメチレンジイソシアネート、ヘキサヒドロ-4,7-メタノインダン-1(又は2),5(又は6)-イレンジメチレンジイソシアネート、ヘキサヒドロ-4,7-メタノインダン-1(又は2),5(又は6)-イレンジイソシアネート、ヘキサヒドロトリレン2,4-及び/又は2,6-ジイソシアネート(H6-TDI)、トルエン2,4-及び/又は2,6ジイソシアネート(TDI)、ペルヒドロジフェニルメタン2,4’-ジイソシアネート、ペルヒドロジフェニルメタン4,4’-ジイソシアネート(H12MDI)、4,4’-ジイソシアナト-3,3’,5,5’-テトラメチルジシクロヘキシルメタン、4,4’-ジイソシアナト-2,2’,3,3’,5,5’,6,6’-オクタメチルジシクロヘキシルメタン、ω,ω’-ジイソシアナト-1,4-ジエチルベンゼン、1,4-ジイソシアナトメチル-2,3,5,6-テトラメチルベンゼン、2-メチル-1,5-ジイソシアナトペンタン(MPDI)、2-エチル-1,4-ジイソシアナトブタン、1,10-ジイソシアナトデカン、1,5-ジイソシアナトヘキサン、1,3-ジイソシアナトメチルシクロヘキサン、1,4-ジイソシアナトメチルシクロヘキサン、2,5(2,6)-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(NBDI)、及びこれら化合物の任意の混合物である。イソシアネート官能性のより高いポリイソシアネートを使用してもよい。その例は、三量化ヘキサメチレンジイソシアネート及び三量化イソホロンジイソシアネート、より具体的には対応するイソシアヌレートである。さらに、ポリイソシアネートの混合物を利用することも可能である。
【0052】
ポリイソシアネートをブロックするために、任意の所望の適した脂肪族、脂環式、又は芳香族アルキルモノアルコールを使用することが可能であり、好ましい。その例は、脂肪族アルコール、例えばメチル、エチル、クロロエチル、プロピル、ブチル、アミル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、3,3,5-トリメチルヘキシル、デシル、及びラウリルアルコール、脂環式アルコール、例えばシクロペンタノール及びシクロヘキサノール、芳香族アルキルアルコール、例えばフェニルカルビノール及びメチルフェニルカルビノールである。他の適したブロック剤は、ヒドロキシルアミン、例えばエタノールアミン、オキシム、例えばメチルエチルケトンオキシム、アセトンオキシム、及びシクロヘキサノンオキシム、及びアミン、例えばジブチルアミン及びジイソプロピルアミンである。
【0053】
アミノ樹脂(アミノプラスト樹脂)も同様に当業者に知られている。使用するアミノ樹脂は、好ましくはメラミン樹脂、より具体的にはメラミン-ホルムアルデヒド樹脂であり、これらは同様に当業者に知られている。しかしながら、架橋剤(c)としてメラミン-ホルムアルデヒド樹脂などのアミノ樹脂を使用しないことが好ましい。従って本発明の電着コーティング材料は、好ましくはメラミン-ホルムアルデヒド樹脂などのアミノ樹脂を含まない。
【0054】
トリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジン(TACT)も同様に当業者に知られている。コーティング材料組成物における架橋剤としてのトリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンの使用が知られている。例えば、独国特許出願公開第19712940号明細書は、ベースコート材料におけるそのような架橋剤の使用を記載している。米国特許第5,084,541号は、成分(c)として使用することができる対応する化合物の調製を記載している。
【0055】
好ましくは、前記少なくとも1種のトリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンは、一般式(I)
【化1】
(式中、ラジカルR
1、R
2、及びR
3は、それぞれ互いに独立してC
1~C
8アルキル基、より好ましくはそれぞれ互いに独立してC
1~C
6アルキル基、非常に好ましくはそれぞれ互いに独立してC
1~C
4アルキル基である)の少なくとも1種のトリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンを含む。ここで混合エステルも可能である。つまり、R
1及びR
2は例えばそれぞれメチル、及びR
3はn-ブチルであり、又はR
1及びR
2は例えばそれぞれn-ブチル及びR
3はメチルである。しかしながら特に、ラジカルR
1、R
2、及びR
3のそれぞれは、n-ブチルである。
【0056】
成分(c)として使用することができる適したトリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンの例は、トリス(メトキシカルボニルアミノ)-、トリス(ブトキシカルボニルアミノ)-、及びトリス(2-エチルヘキソキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジン及びこれらの混合物である。トリス(ブトキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンが特に好ましい。
【0057】
好ましくは、各場合とも架橋剤(c)の総質量を基準として、少なくとも30質量%、より好ましくは少なくとも35質量%、非常に好ましくは少なくとも40質量%、なおより好ましくは少なくとも45質量%、そしてより好ましくは少なくとも50質量%の割合の架橋剤(c)は、少なくとも1種のトリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンにより形成される。必要に応じて、架橋剤内の残りの割合は、各場合とも、少なくとも1種のトリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンとは異なり且つブロックポリイソシアネートからなる群から選択される、少なくとも1種の架橋剤によって形成される。トリス(アルコシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンの最大割合は、各場合とも架橋剤(c)の総質量を基準として、各場合とも100質量%又は100質量%未満であることが好ましい。
【0058】
さらに好ましい実施形態では、各場合とも架橋剤(c)の総質量を基準として、少なくとも55質量%、より好ましくは少なくとも60質量%、非常に好ましくは少なくとも65質量%、なおより好ましくは少なくとも70質量%又は少なくとも80質量%、そしてより好ましくは少なくとも85質量%又は少なくとも90質量%又は少なくとも95質量%又は少なくとも100質量%の割合の架橋剤(c)が、少なくとも1種のトリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンにより形成される。トリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンの最大割合は、各場合とも架橋剤(c)の総質量を基準として、各場合とも、100質量%であるか又は100質量%未満であることが好ましい。
【0059】
本発明の電着コーティング材料は、好ましくは一成分型(1K)のコーティング組成物として使用する。この理由から、本発明の電着コーティング材料は、遊離ポリイソシアネートを含有しないことが好ましい。
【0060】
他の任意の成分
本発明の電着コーティング材料は、成分(d)としてリン酸塩を含む。原則として、本発明の電着コーティング材料中のリン酸塩の存在は望ましくない。しかしながら、リン酸塩による汚染はしばしば避けられない。それは、コーティングされる基材は一般に、例えば、電着コーティング前の上流の前処理工程でリン酸亜鉛処理により、腐食制御をさらに改善する目的でリン酸処理されるからである。洗浄工程によって、基材から、付着するリン酸塩を完全になくすことは難しいので、リン酸塩は不純物として電着コーティング浴にしばしば運ばれる(リン酸塩の同伴)。
【0061】
リン酸塩の存在は上記のように望ましくないものではあるが、本発明の電着コーティング材料は、リン酸塩を最大で5000ppmの範囲、例えば1~5000ppmの範囲の量で含んでよい。ここで、本発明の電着コーティング材料中のリン酸塩の割合は、DIN EN ISO11885(日付:2009年9月)によって、誘導結合プラズマ原子発光分析(ICP-OES)によって決定する。
【0062】
さらに、本発明の電着コーティング材料は、場合により、成分(e)として、例えば金属含有触媒などの触媒を含む。しかしながら、好ましい一実施形態では、本発明の電着コーティング材料は、金属含有触媒などの触媒を含まない。場合により含まれる触媒は、好ましくはビスマス含有触媒である。特に好ましくは、例えば、ビスマス(III)酸化物、塩基性ビスマス(III)酸化物、ビスマス(III)水酸化物、ビスマス(III)炭酸塩、ビスマス(III)硝酸塩、次硝酸ビスマス(III)(塩基性硝酸ビスマス(III))、サリチル酸ビスマス(III)及び/又は次サリチル酸ビスマス(III)(塩基性サリチル酸ビスマス(III))、及びこれらの混合物などのビスマス含有触媒を使用することが可能である。特に好ましいのは、水不溶性のビスマス含有触媒である。好ましくはより具体的には、次硝酸ビスマス(III)である。本発明の電着コーティング材料は、好ましくは、ビスマス金属として計算したビスマス(III)含有量が、本発明の電着コーティング材料の総質量を基準として10ppm~20000ppmの範囲であるような量で、少なくとも1種のビスマス含有触媒を含む。金属として計算したビスマスの量は、DIN EN ISO11885(日付:2009年9月)によって誘導結合プラズマ原子発光分析(ICP-OES)によって決定し得る。
【0063】
所望の応用に応じて、本発明の電着コーティング材料は、1種以上の一般的に用いられるさらなる添加剤を含む。好ましくは、これらの添加剤は、湿潤剤、乳化剤、分散剤、界面活性剤などの界面活性化合物、流動制御助剤、可溶化剤、消泡剤、レオロジー助剤、酸化防止剤、安定剤、好ましくは熱安定剤、プロセス安定剤、及びUV及び/又は光安定剤、柔軟剤、可塑剤、及び前述の添加剤の混合物からなる群から選択される。添加剤の含有量は、意図する使用に応じて非常に広く異なってよい。本発明の電着コーティング材料の総質量に基づく添加剤含有量は、好ましくは0.1~20.0質量%、より好ましくは0.1~15.0質量%、非常に好ましくは0.1~10.0質量%、特に好ましくは0.1~5.0質量%、及びより具体的には、0.1~2.5質量%である。
【0064】
電気コーティングの方法
本発明のさらなる主題は、陰極電着コーティングによって導電性基材を少なくとも部分的にコーティングする方法であって、
(1)本発明の電着コーティング材料を含む電着コーティング浴に、導電性基材を少なくとも部分的に浸漬し、
(2)基材を陰極として接続し、
(3)直流を使用して基材上にコーティング膜を析出させ、
(4)コーティングした基材を電着コーティング浴から取り出し、及び
(5)基材上に析出させたコーティング膜をベイクする、方法である。
【0065】
本発明の電着コーティング材料に関連する上記のあらゆる好ましい実施形態は、この電着コーティング材料を使用して、陰極電着コーティングによって導電性基材を少なくとも部分的にコーティングする、前述の本発明の方法に関する好ましい実施形態でもある。
【0066】
本発明の方法は、自動車両の車体又はその部品の電着コーティングに特に適している。従って、好ましい基材は、自動車両の車体又はその部品である。
【0067】
通例使用され、当業者に知られているあらゆる導電性基材が、本発明により使用する導電性基材として適している。本発明により使用する導電性基材は、好ましくは、鋼からなる群から選択され、好ましくは、冷間圧延鋼、熱間圧延鋼、溶融亜鉛めっき鋼などの亜鉛めっき鋼、合金亜鉛めっき鋼(例えば、ガルバリウム、合金化溶融めっき(Galvannealed)又はガルファン(Galfan))及びアルミナイズド鋼、アルミニウム及びマグネシウム、及びZn/Mg合金及びZn/Ni合金からなる群から選択される鋼である。特に適した基材は、自動車製造のための車両車体の部品又は完全な車体である。
【0068】
工程(1)でそれぞれの導電性基材を使用する前に、その基材を好ましくは洗浄及び/又は脱脂する。
【0069】
本発明により使用する導電性基材は、好ましくは、リン酸亜鉛などの少なくとも1種の金属リン酸塩で前処理した基材である。リン酸塩処理によるこの種の前処理は、通常、基材が洗浄された後及び基材が工程(1)で電着コーティングされる前に行われ、特に自動車産業で慣例の前処理工程である。
【0070】
本発明の方法の工程(1)、(2)、及び(3)の実行中、本発明の電着コーティング材料は、工程(1)で浴に浸漬した基材の領域に陰極析出させる。工程(2)では、基材を陰極として接続し、基材と少なくとも1つの対極との間に電圧をかける。対極は析出浴中に位置し、又は、例えば、アニオン透過性のアニオン交換膜によって、浴とは別に存在する。このように、対極は陽極として機能する。陽極と陰極との間で電流が流れると、しっかりと付着するコーティング膜が、陰極上、すなわち、基材の浸漬部分上に析出する。ここにおいてかけられる電圧は、好ましくは50~500ボルトの範囲である。本発明の方法の工程(1)、(2)、及び(3)の実行時に、電着コーティング浴は、20~45℃の範囲の浴温度を有することが好ましい。
【0071】
工程(5)におけるベイク温度は、120℃~185℃、より好ましくは120℃~180℃、非常に好ましくは120℃~175℃、より具体的には125℃~170℃又は125℃~165℃、最も好ましくは130℃~165℃又は130℃~160℃の範囲であることが好ましい。
【0072】
基材
本発明のさらなる主題は、ベイクした本発明の電着コーティング材料で少なくとも部分的にコーティングした導電性基材である。
【0073】
本発明の電着コーティング材料及び本発明の方法に関連する上記のあらゆる好ましい実施形態は、前述の本発明の少なくとも部分的にコーティングした基材に関する好ましい実施形態でもある。
【0074】
使用
本発明のさらなる主題は、電着コーティング前の前処理工程、例えば特に上流のリン酸塩処理によって電着コーティング浴に運ばれたリン酸塩を通じて及び/又は他の金属塩を通じて電着コーティング浴中に存在する不純物が容易にもたらされ、これによって電着コーティング浴が容易に中断されることを低減又は排除するために、及び/又は導電性基材の少なくとも部分的なコーティングの場合に電着コーティング材料のベイク温度を125℃~165℃、より好ましくは130℃~165℃又は130℃~160℃の範囲の温度に低下させるために、少なくとも1種のトリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンを陰極析出が可能な電着コーティング材料中に、電着コーティング材料中の架橋剤の総質量を基準として少なくとも25質量%の割合で、使用する方法である。ここで、陰極析出が可能な電着コーティング材料は、好ましくは、本発明の電着コーティング材料、すなわち、成分(a)及び(b)に加えて少なくとも1種の架橋剤(c)を含み、架橋剤(c)の総質量を基準として少なくとも25質量%の割合の架橋剤(c)が、少なくとも1種のトリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンにより形成され、及び任意の残りの割合が、少なくとも1種のトリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンとは異なり且つブロックポリイソシアネート、アミノ樹脂、及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の架橋剤により形成される、電着コーティング材料である。好ましくは、トリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンとして、上記で示した一般式(I)の少なくとも1種のトリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンを用いる。
【0075】
本発明の電着コーティング材料、本発明の方法、及び本発明の少なくとも部分的にコーティングした基材に関連する上記のあらゆる好ましい実施形態は、前述の、少なくとも1種のトリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンを陰極析出が可能な電着コーティング材料中に使用する方法に関する、好ましい実施形態でもある。
【0076】
決定の方法
1. 不揮発分の決定
不揮発分(固体又は固形分)は、DIN EN ISO3251(日付:2008年6月)によって決定される。これは、試料1gを事前に乾燥させたアルミ皿に量り取り、試料が入った皿を乾燥キャビネットで60分間130℃で乾燥させ、デシケーターで冷却してから、再び計量することを伴う。用いた試料の総量に対する残渣が、不揮発分に相当する。
【0077】
2. 平均粒子径の決定
平均粒子径は、DIN ISO13321(日付:2004年10月)に基づく方法で動的光散乱(光子相関分光法)(PCS)によって決定される。ここでの平均粒子径は、測定された粒子径平均値(Z平均値)である。測定は、「Malvern Nano S90」(Malvern Instruments社製)を使用して、25±1℃で行う。装置は3~3000nmのサイズ範囲を対象とし、4mWのHe-Neレーザーを633nmで備える。それぞれの試料は、粒子を含まない脱イオン水の分散媒で希釈し、次いで1mlのポリスチレンキュベット内で適切な散乱強度で測定する。評価は、Zetasizer Vers.7.11評価ソフトウェア(Malvern Instruments社製)を使用して、デジタル相関器で実行した。測定は5回実行し、2番目の新しく調製した試料を繰り返し測定する。現在言及している平均粒子径は、測定した平均粒子直径の算術体積平均値(V平均値)である。この場合の5倍決定の標準偏差は≦4%である。結果は、100~200nmの認証された粒子径を有するポリスチレン標準を使用して検証する。
【0078】
3. ガラス転移温度の決定
ガラス転移温度Tgは、DIN51005(日付:2005年8月)「Thermische Analyse(TA)-Terms(用語)」及びDIN53765(日付:1994年3月)「Thermische Analyse-Differential Scanning Calorimetry(DCS)(示差走査熱量測定)」に基づく方法で、実験的に決定する。これは、15mgの試料を試料ボートに量り取り、試料が入ったボートをDSC機器に導入することを伴う。冷却は開始温度まで行い、その後、1回目と2回目の測定実施を50ml/分の不活性ガスブランケット(N2)で10K/分の加熱速度で行い、試料は実施間に、開始温度まで再度冷却する。測定は、予想されるガラス転移温度よりも約50℃低い温度から、予想されるガラス転移温度よりも約50℃高い温度の範囲で行う。ガラス転移温度は、DIN53765、8.1節によると、特定のピーク容量の変化の半分(0.5デルタcp)が達成される2回目の測定実施における温度である。これは、DSCダイアグラム(温度に対する熱流のプロット)から確認される。これは、測定プロットでのガラス転移の前後の外挿されたベースライン間の中心線の交点に対応する温度である。測定で予想されるガラス転移温度の有用な推定のために、既知のFox式を用いることが可能である。Fox式は、分子量を含めずに、ホモポリマーとその質量部のガラス転移温度を基準として適した近似を表すので、合成の当業者にとって有用なツールとして使用することができ、所望のガラス転移をいくつかの目標指向の試験によって設定できるようになる。
【0079】
4. DIN EN13523-11(日付:2011年9月)に基づくMEK試験による溶媒耐性の決定
MEK試験によって、有機溶媒に対するコーティング膜の耐性を決定する(摩擦試験)。一片の綿圧縮物(Roemer Apotheke Rheinberg社製のArt.No.1225221)を輪ゴムでMEKハンマーのヘッドに固定し、溶媒としてのMEK(メチルエチルケトン)に浸す。ハンマーの質量は1200gであり、配置面積が2.5cm2のハンドルを有する。ハンマーを同様に溶媒で満たすと、溶媒が綿圧縮物に連続的に流れ込む。これにより、圧縮物が試験を通して確実にずぶ濡れの状態となる。金属の試験シートを、圧縮物で前後に1回擦る(=1DR、1回の二重摩擦(前後ストローク))。このシートは、実施例で使用した金属の試験シートのうちの1つと類似する。ここで試験距離は9.5cmである。ここで1DHを1秒で実行する。この手順の間、ハンマーに追加の力は加えない。金属試験シートの端での反転の頂点及び底点は評価しない。試験シート上のコーティング膜全体を下方の基材まで侵食するために必要なDRをカウントし、この数値を報告する。最大100のDRに到達するまでにそのような侵食が達成されない場合、最大100のDRの後に試験は中止する。
【0080】
5. 耐食性の決定
コーティングの耐食性は、塩水噴霧ミスト試験によって決定する。塩水噴霧ミスト試験は、調査中のコーティングした基材についてDIN EN ISO9227NSS(日付:2012年9月)により行う。調査中の試料を、35℃の温度のチャンバー内に360時間の間継続して収容し、6.5~7.2の範囲のpHに制御した5%濃度の塩化ナトリウム溶液からミストを生成する。調査中の試料にミストが付着し、試料は腐食性の塩水膜で覆われる。
【0081】
DIN EN ISO9227NSSによる塩水噴霧ミスト試験の実行に続き、試料の錆被覆率(表面の錆)をDIN EN ISO4628-3(日付:2004年1月)により調査する。錆被覆率は、評点付けにより評価する(0=錆なし、1=約1%の錆被覆率、2=約3%の錆被覆率、3=約10%の錆被覆率、4=約30%の錆被覆率、5=約50%の錆被覆率)。
【0082】
DIN EN ISO9227NSSによる塩水噴霧ミスト試験のなお前に、調査中の試料のコーティングがブレードの切り込みで基材まで刻み目を入れられている場合、基材はDIN EN ISO9227NSS塩水噴霧ミスト試験の間に刻み目が入れられた線に沿って腐食するので、試料はその腐食性浸食のレベルについてDIN EN ISO4628-8(日付:2013年3月)によって調査することができる。腐食の進行性過程の結果として、コーティングは試験の間、多かれ少なかれ浸食される。浸食の程度[mm]は、コーティングの耐性の尺度である。
【0083】
6. 耐候性の決定
耐候性は、DIN EN ISO16474-1(日付:2014年3月)、DIN EN ISO16474-2(日付:2014年3月)、DIN EN ISO4892-1(日付:2014年3月)、及びDIN EN ISO4892-2(日付:2013年6月)により、試験中のコーティングした試料をトップコートシステムなしで240時間連続で風化させることにより決定する。風化の前後に、Byk-Gardner社製のMicro-TRI-Gloss装置を使用してコーティングの光沢を測定した。同様に風化の前後で、色値b(45°のCIELAB、重み付けなし)をX-Rite MA60装置を使用して決定した。
【実施例】
【0084】
本発明の実施例及び比較例
以下の本発明の実施例及び比較例によって、本発明を説明するが、限定的に解釈されるべきではない。特に明記しない限り、部で表す量は質量部であり、パーセントで表す量は各場合とも質量パーセントである。
【0085】
1. 本発明によらないで使用される架橋剤V1の調製
架橋剤V1は、国際公開第2009/021719号の第10頁、第1~13行、1.1節の実施例1に記載されているように調製した。V1は、従来のブロックポリイソシアネートである。
【0086】
2. エポキシド-アミン付加物及び架橋剤の混合物の調製
2.1 水性バインダー分散液D1の調製(本発明ではない)
水性バインダー分散液D1は、独国特許出願公開第19703869号明細書、実施例2.3(バインダー分散液C)、第7頁、第59行~第8頁、第26行に記載されているように、すなわち、架橋剤V1を使用して調製した。
【0087】
2.2 水性バインダー分散液D2の調製(本発明)
水性バインダー分散液D2は、独国特許出願公開第19703869号明細の対応する節を参照し、バインダー分散液D1に関連して2.1節で記載したように調製したが、812部の架橋剤V1の代わりに、812部のトリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジン架橋剤(すなわち、HOS-Technik GmbH社から市販されている製品HTB-S)中で撹拌した。得られた分散液D2は、45.5質量%の固形分及び6.0のpHを有していた。分散液中に存在する粒子の平均粒子径は、140nmであった。
【0088】
3. 顔料ペーストの製造
3.1 粉砕樹脂分散液R1の製造
欧州特許第0505445号明細書、実施例1.3(粉砕樹脂A3)、第9頁、第29~49行により、粉砕樹脂を製造した。前述の刊行物に記載されている調製により、樹脂をさらに中和し、2.82部の氷酢酸及び13.84部の脱イオン水で希釈した。これにより、得られる粉砕樹脂分散液の固形分は60質量%に低下した。
【0089】
3.2 水性顔料ペーストP1の製造
以下の表1に列挙する成分を、高速溶解撹拌機に連続して加え、30分間混合した。
【0090】
【0091】
続いて、混合物を実験室用撹拌ミルで1~2時間かけてヘグマン粒度12μmに分散させ、必要に応じてさらなる脱塩水で所望の加工粘度に調整した。
【0092】
3.3 水性顔料ペーストP2の製造
水性顔料ペーストP2は、顔料ペーストP1に関連して3.2節に記載したように製造したが、P2は次硝酸ビスマスを含有しなかった。代わりにP2の製造には、32.7質量部に代えて37.4質量部の二酸化チタンを使用した。
【0093】
4. 電気塗装材料の製造
4.1 以下の表2に列挙する成分を加工して、陰極析出が可能な電気塗装材料(ETL1からETL5)を得た。各場合とも、使用する特定のバインダー分散液を導入して脱イオン水で希釈し、任意にリン酸を加えた。次いで、それぞれの顔料ペーストを攪拌しながら導入した。表2の量は、各場合とも質量部である。電気塗装材料ETL1及びETL3は比較例である。電気塗装材料ETL2、ETL4、及びETL5は本発明の実施例である。
【0094】
【0095】
ETL3の製造(ETL1との比較)及びETL4の製造(ETL2の製造と比較)の場合におけるリン酸の使用によって、(望ましくない)リン酸塩の同伴をシミュレートした:使用する基材がリン酸塩処理によって前処理されている場合(自動車産業におけるあらゆる前処理の95%以上がリン酸塩処理手順である)、対応する電気コーティング浴には、通常、少なくとも少量のリン酸塩が含まれるので、リン酸塩の同伴はECシステムでは通常である。
【0096】
4.2 本発明による電気塗装材料ETL4の架橋剤の100質量%は、トリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジン架橋剤であった。本発明によらない電気塗装材料ETL3の架橋剤の100質量%は、従来のブロックポリイソシアネートによって形成された。電気塗装材料中のトリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジン架橋剤部分の影響を調査するために、ETL3及びETL4の異なる混合物を製造して、さらなる電気塗装材料の一連、すなわち電気塗装材料ETL6からETL9を製造した。これらの電気塗装材料ETL6からETL9内のトリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジン架橋剤(TACT)及び架橋剤V1の量は、各場合とも使用したあらゆる架橋剤の総質量を基準として、
ETL6では、TACTの割合が20質量%であり、及びV1の割合が80質量%であり、
ETL7では、TACTの割合が30質量%であり、及びV1の割合が70質量%であり、
ETL8では、TACTの割合が40質量%であり、及びV1の割合が60質量%であり、
ETL9では、TACTの割合が50質量%であり、及びV1の割合も同様に50質量%であるような量であった。
【0097】
従って、電気塗装材料ETL6は、本発明によらない電気塗装材料であり、一方でETL7からETL9は、本発明による電気塗装材料であった。
【0098】
5. 電気塗装材料の調査及び試験
5.1 ガラス転移温度の調査
ガラス転移温度(Tg)を決定するために、電気塗装材料ETL1、ETL2、及びETL5の膜を、陰極接続させると共にリン酸塩処理した試験パネル上で、浴温度28~34℃、析出電圧220~350Vで、2分間にわたって析出させた。続いて、金属試験シートを175℃(基材温度)で15分間ベイクした。その後、ガラス転移温度を上記の方法により決定した。結果を表3に示す。
【0099】
【0100】
表3の結果は、本発明による電気塗装材料ETL2及びETL5が、従来製品ETL1と比較して、著しく高いガラス転移温度を呈することを示す。ここで、特にETL5には触媒が含まれていないことに留意されたい。
【0101】
5.2 架橋状態及び溶媒耐性の調査
架橋状態を決定するために、電気塗装材料ETL1及びETL2の膜を、陰極接続しリン酸塩処理した試験パネル上に、浴温度28~34℃、析出電圧220~350Vで、2分間にわたって析出させた。続いて、金属試験シートを異なる基材温度で15分間ベイクした。ベイクしたコーティング膜の架橋状態を試験するために、DIN EN13523-11(日付:2011年9月)(MEK-Test、すなわちメチルエチルケトン(MEK)に関する溶媒耐性)により、上記に記載の方法で、溶媒耐性を決定した。結果を表4に示す。
【0102】
【0103】
データから、本発明による電気塗装材料ETL2における架橋反応は、120℃のベイク温度であっても十分であり、一方、比較例ETL1には少なくとも150℃のベイク温度が必要であるのが明らかである。
【0104】
5.3 炭素繊維ネットによる架橋動態の調査
架橋開始温度(架橋の開始)を決定するために、コーティング膜を電気塗装材料ETL1からETL5で炭素繊維ネット上に、浴温度28~34℃、析出電圧110~150Vで、2分以内に析出させた。架橋開始温度は、DMA(動的機械分析)にネットを導入することによって決定した。結果を表5に示す。
【0105】
【0106】
結果は、本発明の実施例ETL2、ETL4、及びETL5の架橋開始温度が、従来製品ETL1及びETL3の架橋開始温度(それぞれ146℃及び160℃)よりもはるかに低い(116℃)ことを示す。その結果、本発明の実施例ETL2、ETL4、及びETL5は、およそ120~130℃の温度であっても架橋することができる。ETL5の結果は、このコーティング材料が触媒を含まない(次硝酸ビスマスを含有しない)ので特に注目に値するが、それでも開始に関しては、触媒システムETL2に匹敵する値を示す。
【0107】
さらに、表6では、DMA分析によって同様に得られた、分で表す外挿された架橋オフセット時間(架橋持続時間)を、異なる温度で互いに比較する。ここで特に調査するのは、必要な架橋持続時間に対する、電気塗装材料中に存在するリン酸塩の影響である。前処理からのリン酸塩の(空隙などを介した)同伴は、自動車ラインにおいて、激しい洗浄操作にもかかわらず頻繁に発生し、従って、これによって、(特に、大きな部分における)析出コーティングの硬化(この硬化は、ゆっくりと或る程度まで加熱される)が損なわれる。
【0108】
【0109】
表6によるETL4及びETL2の比較から、本発明による電気塗装材料ETL2が、リン酸塩の添加に対して実質的に反応を呈さず(ETL4でシミュレートされる)、一方、リン酸塩を添加した場合には、比較例コーティングETL3でシミュレートされるように、比較例コーティングETL1は、その架橋が大きく制限されることが明らかである。すなわち、ETL1は架橋には著しくさらなる時間が必要である(ETL1の場合175℃で23分であるがETL3の場合175℃で40分)。
【0110】
表5及び6による開始及びオフセット測定に加えて、5.2節で記載したように、溶媒MEKに関する溶媒耐性測定として、MEK二重摩擦を決定及び比較して、架橋状態を決定し、これによって架橋の尺度とすることも可能である。この場合、電気塗装材料ETL1からETL4のコーティング膜を、陰極接続された、リン酸塩処理した試験パネル上に、コーティング浴温度28~34℃、析出電圧220~350Vで、2分以内に析出させた。続いて、金属試験パネルを様々な基材温度(150℃、160℃、又は175℃)で15分間ベイクした。ベイクしたコーティング膜の架橋状態を試験するために、DIN EN13523-11(日付:2011年9月)(MEK-Test、すなわちメチルエチルケトン(MEK)に関する溶媒耐性)により、上記に記載の方法で、溶媒耐性を決定した。結果を表7に示す。数値は、検出された二重摩擦(DR)の数を表す。
【0111】
【0112】
表7によるETL4及びETL2の比較から、本発明による電気塗装材料ETL2が、リン酸塩の添加に対して反応を呈さず(ETL4でシミュレートされる)、一方、リン酸塩を添加した場合には、比較例コーティング材料ETL3でシミュレートされるように、比較例コーティング材料ETL1は、MEK溶媒に対する耐性が、実質的に、より低いことが分かる。
【0113】
5.4 耐食性の試験
耐食性を試験するために、電気塗装材料ETL1及びETL2の膜を、陰極接続された、リン酸塩処理した試験パネル上に、コーティング浴温度28~34℃、析出電圧220~350Vで、2分以内に析出させ、ベイクした。これらの試験パネルは、上記の方法により塩水噴霧ミスト試験に供し、その後、試料の錆被覆率(表面錆)を確認した。対応する結果を以下の表8に示す。
【0114】
【0115】
5.5 耐候性の試験
耐候性を決定するために、電気塗装材料ETL1及びETL2のコーティング膜を、陰極接続させると共にリン酸塩処理した試験パネル上で、コーティング浴温度28~34℃、析出電圧220~350Vで、2分以内に析出させ、175℃でベイクした。パネルはトップコートシステムなしで240時間、上記の方法で、DIN EN ISO16474-1、DIN EN ISO16474-2、DIN EN ISO4892-1及びDIN EN ISO4892-2により風化(WOM)に供し、光沢及び色値は、暴露前(未暴露)及び暴露後に決定した。結果を表9に示す。
【0116】
【0117】
結果は、本発明による電気塗装材料ETL2はチョーキング(白亜化)が少なく(すなわち、より良好な光沢保持を呈する)且つ黄変が少なく、従って全体として、比較例コーティングETL1よりも、短波光による分解の程度が少ないことを明確に示す。紫外線による浸漬コーティングの分解のリスクがあるプライマーのない方法では、これは特に重要である。
【0118】
5.6 架橋とリン酸塩の感受性とについてのさらなる調査
溶媒MEKに関する溶媒耐性の尺度としてのMEK二重摩擦の平均数は、5.2節及び5.3節で記載したように測定し、架橋状態を決定して、これによって架橋の尺度とした。この場合、リン酸塩含有電気塗装材料ETL3、ETL4及びETL6からELT9のコーティング膜を、陰極接続させると共にリン酸塩処理した試験パネル上で、コーティング浴温度28~34℃、析出電圧220~350Vで、2分以内に析出させた。続いて、金属試験パネルを基材温度160℃で15分間ベイクした。ベイクしたコーティング膜の架橋状態を試験するために、DIN EN13523-11(日付:2011年9月)(MEK-Test、すなわちメチルエチルケトン(MEK)に関する溶媒耐性)により、上記に記載の方法で、溶媒耐性を決定した。結果を表10に示す。数値は、160℃の基材温度で検出された二重摩擦(DR)の数を表す。
【0119】
【0120】
各場合とも質量%で表す数値は、それぞれの電気塗装材料中の架橋剤の総質量に関する。
【0121】
表10から、本発明による電気塗装材料ETL7からETL9及びETL4は、リン酸塩の添加に対して反応を呈さないが、一方、リン酸塩を添加するシミュレーションの場合には、比較例コーティング材料ETL3及びETL6は、ETL7からETL9及びETL4よりも、MEK溶媒に対する耐性が、実質的に、より低いことが分かる。