(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】野菜又は果物の冷凍方法
(51)【国際特許分類】
A23B 7/04 20060101AFI20230929BHJP
A23B 7/06 20060101ALI20230929BHJP
【FI】
A23B7/04
A23B7/06
(21)【出願番号】P 2020523139
(86)(22)【出願日】2019-06-05
(86)【国際出願番号】 JP2019022302
(87)【国際公開番号】W WO2019235515
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2018107926
(32)【優先日】2018-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】714004734
【氏名又は名称】テーブルマーク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100107386
【氏名又は名称】泉谷 玲子
(72)【発明者】
【氏名】寺窪 絵里香
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】J. Fd Technol.,1980年,Vol.15,pp.429-433
【文献】LWT-Food Science and Technology,2014年,Vol.58,pp.230-238
【文献】Journal of Agroalimentary Processes and Technologies,2016年,Vol.22,No.1,pp.31-34
【文献】Alim. Nutr.,1997年,Vol.8,pp.27-38
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B
FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
野菜又は果物の冷凍方法であって、
(i)野菜又は果物を加熱処理し;
(ii)(i)の野菜又は果物を
-9℃~-15℃の条件下に静置して冷却し、これにより当該野菜又は果物は過冷却状態となり、次いで、過冷却状態が解除される;そして、
(iii)(ii)の野菜又は果物を凍結する、
ことを含む、
ここにおいて、(i)の加熱処理は、(iii)の凍結処理後も野菜又は果物の細胞組織が破壊されない程度の加熱処理である、
ここにおいて、野菜はチコリーではない、
ここにおいて、果物が、リンゴ、スイカ、ナシ、ブドウ、モモ、マンゴ、柑橘類、バナナ、パイナップル、及びベリー類からなる群から選択される、
前記冷凍方法。
【請求項2】
(ii)において、-9℃以下で過冷却状態が解除される、請求項1に記載の冷凍方法。
【請求項3】
(i)加熱処理の工程後に、野菜又は果物の表面の水分を除去する、
請求項1又は2のいずれか1項に記載の冷凍方法。
【請求項4】
(i)の加熱処理の工程を、60℃~250℃の条件下で行う、
請求項1-3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
(i)の加熱処理の工程を、100℃~250℃の条件下で行う、
請求項1-4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
(i)の加熱処理の工程を、10秒-600秒行う、
請求項1-5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
(i)の加熱処理の工程を、30秒-600秒行う、
請求項1-6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
(i)の加熱処理を、過熱水蒸気加熱、蒸し加熱、又は炒め加熱により行う、
請求項1-7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
(ii)の過冷却状態の解除は、外部からの刺激なしに自然に生じる、
請求項1-8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
野菜が、モヤシ、タマネギ、ピーマン、パプリカ、ニンジン、ダイコン、ホウレンソウ、キャベツ、レタス、ブロッコリ、カリフラワー、アスパラガス、ポテト、ネギ、およびショウガからなる群から選択される、
請求項1-9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1-10のいずれか1項に記載の方法により冷凍された野菜又は果物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜又は果物の冷凍方法、及び冷凍された野菜又は果物に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜の冷凍処理
食品冷凍技術は、食品の長期保存、その後の簡便調理を実現し、食生活の改善に大きく貢献している。しかし、この食品冷凍技術は、まだ未完成の技術であり、検討の余地を残している。野菜や果物などの生鮮青果品の冷凍技術もその一つである。
【0003】
従来、野菜の冷凍では、保管中の酵素的変化を抑制するために、ブランチング(加熱処理)等前処理と急速冷凍の方法の組み合わせが用いられてきた。ブランチングとは、冷凍野菜を作る際に、茹でる、蒸すなどの加熱処理である。このような予備的加熱処理をすることで、野菜中の酵素を失活させることにより、栄養成分や色調の変化が抑えられる。ブランチングの処理条件は、その目的から、耐熱性のある酵素ペルオキシターゼやカタラーゼの失活を目安とすることが多い。一方、加熱処理を施せば、野菜類は柔らかく軟化する。
【0004】
また、急速冷凍技術は、食品中の氷結晶成長速度が遅い最大氷結晶生成帯(-1~-5℃)を短時間で通過することによって食品のテクスチャー劣化を抑制する技術である。一般の食品については広く用いられており、ブランチング処理した野菜類については、組織破壊を急速凍結により軽減できるため、商業的には急速冷凍が広く用いられている。しかし、植物性素材のうち、生鮮野菜類では、急速冷凍でもそのテクスチャーを維持することはできない。
【0005】
従って、ブランチング処理と急速凍結技術を組み合わせたとしても、生鮮野菜が本来保持して、嗜好性が高い、サラダ野菜のようなパリッとした食感、野菜を軽く炒めた時の適度な食感、テクスチャーを大事にする野菜類には適用できないと考えられていた。(「野菜情報」2014年7月号 vol.124 pp.6~14「特集/国産野菜の冷凍加工に向けた取り組み: 食品の冷凍技術と冷凍野菜の品質:鈴木徹」(参考情報:http://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/senmon/1407/chosa01.html))
【0006】
特開2006-271352は、冷凍食品の製造方法を記載している。当該文献に記載の方法は、カットした野菜に過熱水蒸気処理を行い、加熱処理と同時に水分を減少させた後に冷凍処理を行うものである。当該方法は、加熱処理により解凍時に発生するドリップ(離水)を抑制することを特徴とする。
【0007】
特開2005-143366は、冷凍ニンジンの製造方法を記載している。当該文献に記載の方法は、ニンジンの内部に熱が伝わらない程度に加熱後剥皮し、凍結を行うことを特徴とするものである。当該文献の方法における加熱処理の目的は、ニンジンの皮表面に付着している微生物の減少と褐変酵素の不活性化である(特許文献2 段落0021)。冷凍条件は、-35℃急速凍結である(特許文献2の段落0041、0047)。当該文献の段落0005は、「ブランチング処理などの加熱処理により、多くの冷凍野菜は凍結・解凍後の食感が更に悪くなることが知られている。この理由としては、細胞壁の受けるダメージが加熱・凍結・解凍の分だけ大きく、細胞壁の柔軟性が失われるとともに凍結保存時に組織のスポンジ化が起こるためと考えられる。」とブランチング処理などの加熱処理の問題を挙げている。
【0008】
以上のように、野菜等の冷凍において、ブランチング処理、特に過熱水蒸気処理と、急速冷凍を行うことによって、一定のドリップの発生や、微生物の減少、褐変化などは防げるものの、組織の破壊によるテクスチャーの劣化は抑えることができていなかった。
【0009】
過冷却
過冷却とは、物質の相変化において、変化するべき温度以下でもその状態が変化しないでいる状態を指す。例えば、液体が凝固点(転移点)過ぎて冷却されても凍結せず、液体の状態を保持する現象である。水であれば0℃以下でもなお凍結しない状態を指す。
【0010】
食品についても、この過冷却状態を発生させた後に本来の凍結温度より低い温度で過冷却状態を解除し、一気に凍結すること(過冷却凍結)により微細氷結晶を均一に生成させて、凍結時の氷結晶による食品組織の破壊を抑制する方法が最近提案されている。しかしながら、食品の過冷却技術は、過冷却状態とするときの冷却速度が遅く、酸化や細菌繁殖などによって食品の品質が低下する可能性があった。また、過冷却状態は不安定であるため過冷却状態での最低到達点温度が深く到達する前に過冷却が解除されやすい、最低到達点温度が浅いと解除されたときに出来る氷核が少ないため品質の良い冷凍ができない。等の問題がある。
【0011】
食品冷凍において、氷結晶の形態は食品の最終品質に大きく影響を与える。小林らの論文(Transactions of the Japan Society of refrigerating and Air Conditioning Engineers, Vol.31, No.3 (2014), p.297-303)は豆腐を用いて食品凍結時の過冷却現象が氷結晶の形態およびドリップに及ぼす影響について、詳述している。当該論文において、「過冷却凍結法を実用化するにあたっては、過冷却解消温度や解消後の冷却速度などの条件のより詳細な検討とともに、過冷却状態を維持する再現性の高い手法の確立、すなわち過冷却の制御法についての検討も必要である。」と総括している。食品、特に水分の多い野菜、果物について、安定した過冷却凍結状態を生じさせることは困難であった。
【0012】
特開2016-39787は食品の冷凍方法を記載している。当該文献に記載の方法は、食品を過冷却する前に、食品の表面に疎水性物質を塗布する、または、疎水性物質を表層に溶解させる前処理を過程を施すことを特徴とする。疎水性物質の例として、食用油、二酸化炭素が挙げられている。
【0013】
また、特開2014-221020は、生鮮青果物の保存方法を記載している。当該文献に記載の方法は、生鮮青果物を水中又は水蒸気中で加熱処理後、冷蔵状態及び過冷却状態の少なくともいずれかで保存することを特徴とする。加熱は酵素活性を抑制させることを目的としており、温度が30~50度で10~60分間保持する、というものである。当該方法は、青果物を過冷却状態のまま冷蔵保存する技術であり、その後の過冷却解除およびその後の凍結については何の示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2006-271352
【文献】特開2005-143366
【文献】特開2016-39787
【文献】特開2014-221020
【非特許文献】
【0015】
【文献】Transactions of the Japan Society of refrigerating and Air Conditioning Engineers, Vol.31, No.3 (2014), p.297-303
【文献】「野菜情報」2014年7月号 vol.124 pp.6~14「特集/国産野菜の冷凍加工に向けた取り組み: 食品の冷凍技術と冷凍野菜の品質:鈴木徹」(参考情報:http://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/senmon/1407/chosa01.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
野菜を、予めブランチング処理したのちに急速凍結したものが、冷凍野菜として市場に流通している。しかし、水分含有量の多い野菜では凍結した際に、野菜表面と野菜内部の温度に差があるため、氷結晶が野菜の表面に向かって成長し、その過程で組織が壊れてしまう。このように組織が破壊されると、解凍した野菜は特有の食感も失われ、ドリップが生じてしまう。このため、野菜の食感を失うことなく凍結させることが課題であった。
食品の解凍時の食感低下を抑制する冷凍方法として、過冷却凍結が提案されていたが、過冷却はコントロールが難しく、また設備コストが高いという問題点があった。さらに、この方法は水分含量が多い野菜ではそのまま行っても過冷却状態を発生させることができなかった。
【0017】
本発明は、上記問題を解決し、凍結後、解凍しても、野菜及び果物本来のシャキシャキした食感を維持することのできる冷凍野菜又は冷凍果物、並びに野菜又は果物の冷凍方法提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、野菜を適度に加熱し、加熱後の野菜を冷却処理することにより、過冷却状態を発生させられることを明らかにした。さらに過冷却が自動的に解除され、野菜が凍結されること、加熱処理→過冷却状態を経て凍結された野菜は解凍後も冷凍前の食感が維持されやすいことを見出し、本発明を想到した。限定されるわけではないが、本発明は以下の態様を含む。
[態様1]
野菜又は果物の冷凍方法であって、
(i)野菜又は果物を加熱処理し;
(ii)(i)の野菜又は果物を冷却し、これにより当該野菜又は果物は過冷却状態となり、次いで、過冷却状態が解除される;そして、
(iii)(ii)の野菜又は果物を凍結する、
ことを含む、
ここにおいて、(i)の加熱処理は、(iii)の凍結処理後も野菜又は果物の細胞組織が破壊されない程度の加熱処理である、
前記冷凍方法。
[態様2]
(ii)において、-9℃以下で過冷却状態が解除される、態様1に記載の冷凍方法。
[態様3]
(ii)の工程において、野菜又は果物を-9℃~-25℃の条件下に置いて冷却する、態様1又は2に記載の冷凍方法。
[態様4]
(ii)の工程において、野菜又は果物を-9℃~-15℃の条件下に置いて冷却する、態様1-3のいずれか1項に記載の冷凍方法。
[態様5]
(i)加熱処理の工程後に、野菜又は果物の表面の水分を除去する、態様1-4のいずれか1項に記載の冷凍方法。
[態様6]
(i)の加熱処理の工程を、60℃~250℃の条件下で行う、態様1-5のいずれか1項に記載の方法。
[態様7]
(i)の加熱処理の工程を、100℃~250℃の条件下で行う、態様1-6のいずれか1項に記載の方法。
[態様8]
(i)の加熱処理の工程を、10秒-600秒行う、態様1-7のいずれか1項に記載の方法。
[態様9]
(i)の加熱処理の工程を、30秒-600秒行う、態様1-8のいずれか1項に記載の方法。
[態様10]
(i)の加熱処理を、過熱水蒸気加熱、蒸し加熱、又は炒め加熱により行う、態様1-9のいずれか1項に記載の方法。
[態様11]
(ii)の過冷却状態の解除は、外部からの刺激なしに自然に生じる、態様1-10のいずれか1項に記載の方法。
[態様12]
野菜が、モヤシ、タマネギ、ピーマン、パプリカ、ニンジン、ダイコン、ホウレンソウ、キャベツ、レタス、ブロッコリ、カリフラワー、アスパラガス、ポテト、ネギ、およびショウガからなる群から選択される、態様1-11のいずれか1項に記載の方法。
[態様13]
果物が、リンゴ、スイカ、ナシ、ブドウ、モモ、マンゴ、柑橘類、バナナ、パイナップル、及びベリー類からなる群から選択される、態様1-11のいずれか1項に記載の方法。
[態様14]
態様1-13のいずれか1項に記載の方法により冷凍された野菜又は果物。
【発明の効果】
【0019】
本発明の冷凍方法は、冷凍、解凍後も、野菜の食感を保持したままの冷凍野菜を製造することを可能にする。本発明の冷凍野菜は、過冷却状態を経ずに冷凍(例:急速冷凍)させた野菜又は果物と比較して、優れた食感を有し、今まで不可能と思われていた種々の冷凍食品に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、Stable Micro Systemsのテクスチャーアナライザーアタッチメントの模式図を示す。
【
図2】
図2は、テクスチャー測定結果である。縦軸のCI(Crispiness Index(%))は、テクスチャーを測定した全モヤシ中の未調理モヤシ(生鮮)と似たテクスチャーを持つモヤシの割合である。
【
図3】
図3は、冷凍モヤシのX線CT画像である。
図3-1は、過冷却凍結モヤシ、
図3-2は急速冷凍モヤシである。
【
図4】
図4は、蒸し処理したモヤシのたわみ角度を支持体と分度器を用いて測定する工程を図示したものである。
【
図5】
図5は、実施例におけるヤング率算定のための前提を図示したものである。
【
図6】
図6は、モヤシの凍結温度を変化させた場合の弾性率(ヤング率)を調べた結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
1.野菜又は果物の冷凍方法
本発明は一態様において野菜又は果物の冷凍方法に関する。
非限定的に、本発明の冷凍方法は、
(i)野菜又は果物を加熱処理し;
(ii)(i)の野菜又は果物を冷却し、これにより当該野菜又は果物は過冷却状態となり、次いで、過冷却状態が解除される;そして、
(iii)(ii)の野菜又は果物を凍結する、
ことを含む。
【0022】
ここにおいて、(i)の加熱処理は、(iii)の凍結処理後も野菜又は果物の細胞組織が破壊されない程度の加熱処理である。
【0023】
本発明の方法は、野菜、果物等の生鮮食品を加熱処理後に、冷却することにより凍結させる。凍結に至る前に、過冷却状態、次いで、過冷却状態の解除を経ることを特徴の1つとする。この特徴により、生鮮食品を過冷却を経ることなく直接冷凍させた場合よりも、冷凍前後の生鮮食品の食感劣化を抑制することができ、生鮮食品の食感を維持した冷凍食品を得ることができる。
【0024】
加熱処理
(i)の加熱処理は、(iii)の凍結処理後も野菜又は果物の細胞組織が破壊されない程度の強すぎない程度に行う。野菜又は果物の細胞組織が破壊されて保持されない程度まで強い加熱処理を施してしまうと、歯応え、歯切れ、シャキシャキ感などの食感が低下して、味が落ちてしまうため、好ましくない。
【0025】
一方、(i)の加熱処理の工程を適度に行わないと、(ii)の冷却工程において、過冷却状態、続く、過冷却状態の解除が生じない。一態様において、野菜又は果物の細胞に適度なダメージは与えており、過冷却状態が細胞の内部まで発生はするが、全部は破壊されていない状態をいう、あるいは、細胞はダメージを受けており、過冷却状態が細胞の内部まで発生するが、細胞組織の破壊を生じていない状態をいう。
【0026】
本発明の方法は、(ii)の冷却工程において、過冷却状態、続く、過冷却状態の解除が生じさせるために、(i)の加熱処理の工程以外に、添加物を加える等処理を行う必要がない。一態様において、本発明の方法は、(ii)の冷却工程において、過冷却状態、続く、過冷却状態の解除を生じさせるために、(i)の加熱処理の工程以外に、添加物を加える等処理を行わない。
【0027】
加熱処理を行う方法は特に限定されず、公知の任意の方法によって行うことができる。一態様において、加熱処理は、過熱水蒸気加熱、蒸し加熱、又は炒め加熱によって行う。好ましくは、過熱水蒸気加熱又は蒸し加熱である。茹で加熱(ブランチング)も使用しうる。ただし、茹で加熱(ブランチング)は、過熱水蒸気加熱、蒸し加熱、炒め加熱と比較して、加熱中に野菜又は果物の内部にまで水分が浸透しやすく、水分量が多くなりやすいので、より慎重な加熱条件の設定が必要である。最も好ましくは過熱水蒸気加熱である。
【0028】
加熱処理の工程を施す温度及び時間は、冷凍する野菜又は果物の種類、水分量、大きさ、形状、成分量、凍結時の状態、過冷却時、その後の過冷却解除条件、さらに凍結状態、保存状態等の要素に応じて異なる。
【0029】
一態様において、(i)の加熱処理は、好ましくは、60℃以上、70℃以上、80℃以上、90℃以上、100℃以上、120℃以上で行う。より好ましくは、100℃以上である。一態様において、(i)の加熱処理は、好ましくは、300℃以下、280℃以下、250℃以下、200℃以下、180℃以下で行う。一態様において、(i)の加熱処理の工程を、60℃~250℃の条件下で行う。一態様において、(i)の加熱処理の工程を、100℃~250℃の条件下で行う。
【0030】
一態様において、(i)の加熱処理の工程を10秒以上、20秒以上、30秒以上、45秒以上、60秒以上、90秒以上、100秒以上、120秒以上、180秒以上、300秒以上行う。一態様において、(i)の加熱処理の工程を900秒以内、600秒以内、300秒以内、200秒以内、180秒以内行う。一態様において、(i)の加熱処理の工程を10秒-600秒行う。一態様において、(i)の加熱処理の工程を30秒-600秒行う。
【0031】
一態様において、(i)の加熱処理の工程を、60℃~250℃の条件下で10秒-600秒行う。一態様において、(i)の加熱処理の工程を、100℃~250℃の条件下で10秒-600秒行う。一態様において、(i)の加熱処理の工程を、60℃~250℃の条件下で30秒-600秒行う。一態様において、(i)の加熱処理の工程を、100℃~250℃の条件下で30秒-600秒行う。
【0032】
本明細書の実施例において、各種野菜、果物について種々の条件の加熱処理を行い、冷凍野菜及び果物を得た。一態様において、これらの実施例において、過冷却、過冷却解除が生じ、冷凍野菜又は果物が得られた場合の加熱条件を適用しうる。一態様において、好ましくは、実施例(特に、実施例1、実施例8)において官能評価が、急速冷凍時の評価である9点を超える、9点以上、10点以上、11点以上又は12点以上となる加熱条件である。一態様において、好ましくは、実施例(特に、実施例1、実施例8)において、官能≧12率が、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、50%以上となる加熱条件である。一態様において、好ましくは、実施例(特に、実施例1、実施例8)において、過冷却解除温度が-7℃以下、-8℃以下、-9℃以下、-10℃以下となる加熱条件である。
【0033】
加熱条件は、冷凍する野菜又は果物の種類、水分量、大きさ、形状、成分量、凍結時の状態、過冷却時、その後の過冷却解除条件、さらに凍結状態、保存状態等の要素に応じて、実施例に使用した野菜又は果物とは異なる。例えば、よりサイズの大きい野菜又は果物の場合には、より強い加熱条件(例えば、より長時間の加熱処理等)が必要になる場合があり、サイズが小さい場合はその逆である。また、野菜又は果物がカットされている場合、カット後のサイズや形状によっても条件が異なる。より小さくカットされている場合には、より弱い加熱条件(例えば、より短時間の加熱処理等)が必要になる場合があり、カットサイズが大きい場合はその逆である。あるいは、例えば、水分量が多い、あるいは、熟していて柔らかくなっている場合には、より弱い加熱条件(例えば、より短時間の加熱処理等)が必要になる場合がある。また、加熱処理に使用する装置等によっても時間等の条件が変わってくる場合がある。また、炒め加熱の場合は、火力によっても加熱処理の時間が異なってくる。当業者は、冷凍する野菜又は果物の状況、使用する装置等に応じて適切な加熱条件を適宜適用可能である。
【0034】
(ii)の冷却工程に供する野菜又は果物は表面に水分が付着していない方が、過冷却解除温度が低くなる、及び/又は、高い官能評価の冷凍野菜又は果物が得られる、という効果が得られやすいため、好ましい。よって、一態様において、(i)加熱処理の工程後に、野菜又は果物の表面の水分を除去する。特に、蒸し加熱は飽和水蒸気に満たされた状態で処理されるために、加熱処理後に組織表面に過剰な水分が存在する状態である。このような場合、野菜又は果物の表面に存在するの水分を除去することが好ましい。水分を除去するための方法は特に限定されない。表面にキッチンペーパー等の吸湿性の布又は紙を押しあてる、等の手段で行うことが可能である。
【0035】
非限定的に、加熱処理は、野菜又は果物の内部まで均一に行われることが好ましい(加熱の均一性)。
【0036】
冷却処理
(i)の野菜又は果物を、次に冷却する。これにより当該野菜又は果物は過冷却状態となり、次いで、過冷却状態が解除される。
【0037】
過冷却状態が解除される温度は特に限定されない。一態様において、過冷却解除温度は-1℃以下、-3℃以下、-5℃以下、-7℃以下、-9℃以下、-10℃以下である。好ましくは-9℃以下又は-10℃以下である。一態様において、(ii)において、-9℃以下で過冷却状態が解除される過冷却解除温度は、例えば、過冷却解除された野菜又は果物の過冷却解除温度の相加平均で示すことができる。
【0038】
冷却の温度、時間、手段等の条件は特に限定されない。野菜又は果物を0℃以下の温度下に静置することにより行うことが可能である。野菜又は果物を過冷却解除温度より低い温度下に置く必要があるので、一態様において、冷却温度は-1℃以下、-3℃以下、-5℃以下、-7℃以下、-9℃以下、-10℃以下である。一態様において、冷却温度は、-30℃以上、-25℃以上、-20℃以上、-18℃以上、-15℃以上、-12℃以上である。
【0039】
一態様において、(ii)の工程において、野菜又は果物を-9℃~-25℃の条件下に置いて冷却する。一態様において、(ii)の工程において、野菜又は果物を-9℃~-15℃の条件下に置いて冷却する。
【0040】
冷却時間は特に限定されない。過冷却、過冷却状態の解除、凍結が生じうるのに必要な時間であればよい。一態様において、5分以上、10分以上、15分以上、20分以上、30分以上である。上記過冷却解除温度より低い温度下に、野菜又は果物を置くことにより(iii)の凍結の工程まで進み得る。あるいは、過冷却状態の解除し凍結が生じた野菜又は果物を、より低温の凍結条件下に移動してもよい。(ii)の冷却工程は、例えば、冷凍庫、ディープフリーザー低温恒温器等の装置によって行うことができる。非限定的に、温度管理ができる装置が好ましい。
【0041】
一般に、過冷却状態にある液体に振動などの何らかの刺激が加わると、急激に結晶化し、過冷却状態が解除される。しかしながら、本発明の一態様においては、(ii)の過冷却状態の解除は、冷却工程の際に、外部からの刺激なしに時間の経過により自然に生じる。
【0042】
野菜又は果物
上記方法により冷凍される野菜又は果物の種類は特に限定されない。一態様において、水分含有率のより高い野菜又は果物が好ましい、一態様において、大きさ、形状がより小さい野菜又は果物が好ましい。
【0043】
非限定的に、一態様において、野菜は、モヤシ、タマネギ、ピーマン、パプリカ、ニンジン、ダイコン、ホウレンソウ、キャベツ、レタス、ブロッコリ、カリフラワー、アスパラガス、ポテト、ネギ、およびショウガからなる群から選択される。
【0044】
非限定的に、一態様において、果物は、リンゴ、スイカ、ナシ、ブドウ、モモ、マンゴ、ミカン等の柑橘類、バナナ、パイナップル、並びに、イチゴ、ブルーベリー等のベリー類からなる群から選択される。柑橘類には、ミカン、オレンジ、ハッサク、甘夏、デコポン等を含む。ベリー類には、イチゴ、ブルーベリー、ラズベリー等を含む。より好ましくは、リンゴ、スイカ、ナシ、ブドウ、モモ、マンゴ、ミカン、バナナ、パイナップル、イチゴ及びブルーベリーからなる群から選択される。
なお、上記方法は、野菜又は果物以外も水分を含む生鮮食品にも適用可能である。
【0045】
2.冷凍された野菜又は果物
本発明は一態様において、上記方法により冷凍された野菜又は果物に関する。
野菜又は果物の種類は、「1.野菜又は果物の冷凍方法」において記載した通りである。野菜又は果物は、冷凍された状態のものの他に、冷凍後解凍されたものも含む。
【0046】
野菜又は果物は、凍結処理後も野菜又は果物の細胞組織が破壊されない、という特徴を有する。非限定的に、一態様において、野菜又は果物は適度にダメージを受けており、過冷却が発生しうる状態にある。
【0047】
一態様において、野菜又は果物は、過冷却状態を経ずに冷凍(例:急速冷凍)させた野菜又は果物と比較して、優れた食感を有する。優れた食感とは、例えば、歯ごたえ、歯切れ、シャキシャキ感の1つ以上又は全てにおいて優れている(評価が高い)ことを意味する。一態様において、野菜又は果物は、組織が破壊されず、ドリップの発生が少なく、その結果希釈がなく呈味を強く感じられる。また組織が残存することから食感も維持されている。
【0048】
一態様において、野菜又は果物は、自然解凍だけでなく、電子レンジ、鍋解凍等によっても上記優れた食感を有し得る。野菜は、例えば、野菜具入りラーメンや、野菜具入りチャーハンに使用しうる。また、そのまま炒め処理を行い、野菜炒め等のような調理を行っても、生鮮野菜同様の食感、テクスチャーを有する野菜炒めを製造することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
【0050】
実施例1 過加熱水蒸気を用いた場合の加熱条件の検討
本実施例ではモヤシについて、加熱処理として過加熱水蒸気を用いた場合の加熱条件の検討を行った。
【0051】
(1)加熱処理及び冷却・凍結処理
加熱処理は、生鮮のモヤシ(緑豆モヤシ、成田食品製)50gを、過熱水蒸気オーブン(直本工業株式会社製)を用いて、100℃、120℃、180℃、220℃、250℃の過熱水蒸気でそれぞれ60秒、100秒間前処理を行った。ブランチング処理としては、沸騰水中に60秒および100秒浸漬することによって行なった。
【0052】
次に加熱処理した各モヤシに熱電対(二宮電線工業株式会社製)を縦向きに差し込み、さらに、あらかじめ-15℃に設定したプログラム低温恒温器(ヤマト科学株式会社製)に熱電対を差し込んだモヤシを含んだモヤシ50gを15分静置して、各モヤシの外観観察、及び温度変化の記録を行った。なお、同様の方法の実験を最低2回は繰り返し、精度を求めた。
なお、比較例としては、生鮮のモヤシ(緑豆モヤシ、成田食品製)を用いて、前処理なく、あらかじめ雰囲気温度-15℃の冷凍庫に静置した。
【0053】
(2)各特性の測定
得られた各モヤシを観察し、その外観と温度変化記録から、過冷却が生じたモヤシの数、過冷却した後解除したモヤシの本数、それらが過冷却解除した温度を測定した。これらの結果から各前処理温度におけるモヤシの過冷却率(過冷却が生じたモヤシ本数/全モヤシ本数)への影響、過冷却解除発生率(過冷却解除したモヤシ本数/過冷却が生じたモヤシ本数)、過冷却温度(過冷却解除されたモヤシの過冷却解除温度の相加平均)を算出した。又、各サンプルは官能検査に供し、その食感を検証した。
モヤシの水分値は遠赤外線水分計(kett社製)を使用し、定法により測定した。
【0054】
(3)官能検査
官能検査は、凍結後のモヤシ(緑豆モヤシ、成田食品製)5本を各々袋に入れ、室温で1時間静置したもので行い、以下に示す基準で歯ごたえ(応力、噛み締めた際に感じる力)、歯切れ(破断した際に必要な力)、シャキシャキ感(青果物を噛み締めた際に感じる食感としてとして好ましいシャキシャキを感じた感覚)について、それぞれを以下の基準で5点満点でそれぞれ採点し、評価した。一方、本点数、計15点をそれぞれ加算し、その合計値が12点以上であるものを良好として、モヤシ5本中の良好とした12点以上獲得した割合を示した(官能≧12率)。なお、上記試験を2サイクル行うことにより精度を上げ、官能評価は事前に評価基準を統一する訓練を受けた5人で行った。
1:歯ごたえ、歯切れが悪く、シャキシャキ感がない
2:歯ごたえ、歯切れがよくなく、シャキシャキ感が少ない
3:歯ごたえ、歯切れ、シャキシャキ感がある程度ある(ブランチング後に急速凍結させた場合と同等の食感)
4:歯ごたえ、歯切れ、シャキシャキ感がある
5:歯ごたえ、歯切れ、シャキシャキ感がとても好ましい(ブランチング直後と同等の食感)
【0055】
(4)結果
水分値、過冷却率、解除発生率、過冷却解除温度(℃)、過冷却解除温度≦-9℃の割合、官能評価、官能≧12率の結果を、表1-表7に示す。
【0056】
【表1】
水分値は、遠赤外線水分計(kett社製)を使用し、定法により測定した。
【0057】
【表2】
過冷却率は、無作為に選択したモヤシの10本中、過冷却した本数の割合である。
【0058】
過冷却率は、前処理の加熱温度が上がるにしたがい、加熱温度が120℃では100秒以上、180℃以上では60秒程度の短時間から過冷却状態が常に発生することが明らかになった、生鮮のモヤシでは過冷却状態は発生しないが、前処理として加熱することにより過冷却状態の発生を促し、さらに加熱状態を強くすることにより、過冷却状態の発生を安定化する。
【0059】
次いで、過冷却状態が解除され、氷結晶が発生する、いわゆる過冷却解除が発生した率について検証した。
【0060】
【0061】
解除発生率は、過冷却したモヤシが過冷却を解除し、氷結晶が発生することにより凍結した割合である。過冷却の解除は、前処理温度100℃では60秒から完全に発生し、220℃までは100%発生するのに対し、250℃を超えたものでは時間が長くなるについて過冷却解除が発生しなくなり、加熱を行うことにより過冷却状態は発生するものの、過冷却解除に影響を与えることが示唆された。
【0062】
【0063】
過冷却解除温度は、過冷却状態にはいったモヤシが、過冷却を解除せずに過冷却状態のまま到達した最低温度である。過冷却解除温度は、ばらつきはあるものの加熱温度、加熱時間が長くなるについて過冷却温度が低くなり、180℃を超えるとほぼすべてのサンプルが-9℃以下にまで到達し、過冷却解除温度の平均も-11℃程度を示すようになった。さらに前処理条件を厳しくしていくと過冷却は発生するものの、解除は発生しないものが多く見られるようになり、結果として見かけ上の過冷却温度は高くなった。
【0064】
【0065】
表5の「過冷却解除温度≦-9℃の割合」は、過冷却させたモヤシが-9℃以下に到達した本数の割合である。過冷却解除温度≦-9℃の割合は、前処理の加熱温度が上がるにしたがって高くなる。加熱温度が180℃から220℃においては、60秒、120秒のいずれの時間でも100%の割合で過冷却状態が発生した。
【0066】
官能検査はパネラーにより、特に固さとして評価される3項目(歯ごたえ、歯切れ、シャキシャキ感)について15点満点で評価した。結果を表6に示す。官能評価の合計値が12点を超えたものを良好な食感(固さ)を有するものとする、という方法で評価した。表7の「官能≧12率」は、モヤシ10本中の官能評価の結果が12点以上になったモヤシの割合である。
【0067】
【0068】
【0069】
表1-表7の結果より、過冷却状態、その解除状態と複雑な状態を経過するため、必ずしも加熱時間や温度に従っては変化しないものの、全体的には時間と温度に従い変化し、120℃、180℃、220℃、250℃では60秒程度の短い時間でも良好な食感を有していることが示唆された。又、250℃の場合では、100秒以上の加熱の場合にはむしろ食感を失い、評価が下がることが明らかになり、良好な冷凍状態を得るための過冷却冷凍状態は、過冷却の前処理で適度な加熱を行うことが有効であることが示唆されたが、さらに過度の加熱を行なうと、過冷却冷凍は発生するものの、食感が失われることが明らかになった。これは過度の加熱により組織が損傷するためと考えられる。
【0070】
過冷却温度と官能検査の結果を比較したところ、過冷却温度が-9℃より低下した時点で、食感が一定の改善効果を見られた(例えば、120℃・60秒)。過冷却温度がさらに低下すると、一定の物性改善効果が確認できた(100℃・100秒、250℃・60秒など)ことから、過冷却温度と官能検査の結果は一定の相関があることが示唆された。より低い温度で過冷却を発生させることが、過冷却冷凍状態にした後でも食感を維持する上で有効であることが示唆された。
【0071】
なお、生鮮のモヤシをあらかじめ雰囲気温度-15℃の冷凍庫に静置した比較例では、品温が0℃より下がったところで速やかに凍結が始まり、いわゆる過冷却状態が発生しなかった。比較例で製造された冷凍モヤシを官能検査に供したところ、歯ごたえ3点、歯切れ3点、シャキシャキ感3点の合計9点であり、全体としてモヤシ組織の構造が壊れて、歯応え、歯切れ、シャキシャキ感などの食感を失った、くたっとした張りのないテクスチャーとなった。
【0072】
実施例2 炒め加熱よる加熱処理
本実施例では、炒め加熱よる加熱処理を行った場合について検討した。具体的には、炒め(2分半)による加熱処理を行ったモヤシ、過加熱水蒸気加熱処理(120℃、100秒又は300秒)を行ったモヤシ、生鮮モヤシについて、実施例1と同様に特性を調べて比較した。
【0073】
結果を表8に示す。表8に示したように、炒め工程による加熱処理でも過冷却冷凍が発生しうる。
【0074】
【0075】
実施例3 蒸し加熱による加熱処理
本実施例では、蒸し加熱による加熱処理を行った場合について検討した。
具体的には、モヤシ50gをスチーマーボックス(アラハタフードマシン社製)で60秒、120秒、180秒蒸し加熱を行った後、あらかじめ-15℃に設定した低温恒温器に15分静置して、各モヤシの温度変化を記録した。実施例1と同様に各特性を調べた。
結果を表9に示す。
【0076】
【0077】
表9に示される通り、蒸し工程を前処理として行なった場合には、60秒、120秒で蒸し工程(100℃)を行なったものは、過冷却率75%と比較的高い割合で過冷却が発生した。100℃、180秒で蒸し加熱処理したものは25%のみが過冷却状態には移行し、残りは過冷却状態を経ずに凍結へと移った、また官能評価でも高い評価は得られなかった。
【0078】
過加熱水蒸気で加熱した場合と蒸し加熱した場合で比較を行うと、蒸し工程を施したものは、適度な時間(60秒から120秒)を行なった場合に、適度な過冷却が発生し、かつ過冷却が解除して凍結状態に移行するが、官能検査の結果は好ましいものではなかった。この結果は、前処理を蒸し工程とした場合には、前処理の効果が過加熱水蒸気と同様には得ることができず、そのため過冷却解除温度が比較的高温であるために、氷結晶が大きくなり、その結果、官能検査での評価を下げたものと推測される。
【0079】
実施例4 冷却前の表面処理の効果
本実施例では、冷却前に野菜の表面の水分を除去する処理の効果について調べた。
実施例3では、蒸し加熱と過加熱水蒸気処理とでは、その効果に差異が生じたために(例えば、温度が100℃の場合)、本実施例では、組織表面の水分の状態と過冷却の安定性との相関について検討した。蒸し工程の場合は、飽和水蒸気に満たされた状態で処理されるために、組織表面に過剰な水分が存在する状態であるのに対し、熱風により組織を加熱する過加熱水蒸気処理の場合には組織の表面は乾いた状態にある。その違いが本発明の効果に影響があるかどうかについて検証した。
【0080】
具体的には、モヤシ50gを100℃、100秒間過加熱水蒸気オーブンで加熱した場合、モヤシの表面に過剰の水分が付着していたため、モヤシ表面の水分をモヤシ上部からキッチンペーパーを押し当て除去した。また、180℃、60秒間過加熱水蒸気で加熱処理したモヤシの場合には、表面が乾燥した状態であったので、霧吹きを用いて、5ml程度モヤシ表面全体に水分を付着させた。水処理は、加熱後のモヤシ表面の水分の状態の影響を調べるために行った。冷却方法、温度測定や官能評価は実施例1と同様の方法で行った。
結果を表10に示す。
【0081】
【0082】
表10から明らかなように、過加熱水蒸気が過冷却率、解除発生率については、いずれの試料でも高い値を示しており、過冷却凍結を安定して発生したことが示唆される。一方、過冷却温度を比較したところ、100℃では水分を拭き取った方が低く、180℃の場合には、水分を付着させない方が低い温度を示した。この結果は、実施例3と同様に官能検査の結果と一致した。即ち、過冷却温度がより低い方が、より固い食感を保持していることが明らかになった。
【0083】
上記結果より、野菜の表面の水分を除去することにより、過冷却温度の低下を促し、官能評価の結果を向上させることが示された。蒸し加熱の場合も、野菜又は果物の表面の水分を除去により、過加熱水蒸気処理の場合と同様の効果が得ることができる、と考えられる。
【0084】
実施例5 加熱処理野菜の冷却条件の検討
本実施例では、加熱処理野菜の冷却条件を検討した。具体的には、加熱処理した野菜について様々な冷却条件で冷却処理を行い、過冷却状況の検討と官能評価を行った。まず、モヤシ50gに対し、過熱水蒸気オーブンを用いて180℃60秒、過加熱水蒸気により加熱処理を行った。次に加熱処理した各モヤシをあらかじめ-5℃、-10℃、-15℃、-20℃、-25℃、-30℃に設定した低温恒温器で15分静置した。実施例1と同様に特性を調べた。
結果を表11に示す。
【0085】
【0086】
表11に示された通り、加熱処理を行ったモヤシでは-5℃~-30℃の冷却条件で静置すると高い割合で過冷却が生じることが示された。また、過冷却解除温度を比較すると、冷却温度を下げていくに従って、過冷却解除温度も徐々に低下し、冷却温度-15℃において、-11.9℃まで低下する。冷却温度をさらに低下させると、過冷却解除温度は上昇に転じ、またサンプル間のばらつきも多くみられるようになった。特に、冷却温度が-30℃の場合には、試料にとって過剰な冷却条件であるために、過冷却状態に入る前にそのまま凍結されてしまったために、このような高い過冷却解除温度になったものと推測された。また、他の条件に比べ-10℃と-15℃で静置させた条件では過冷却解除温度が-9℃に到達した割合が高いことが示された。このことから、-10℃と-15℃で静置した条件の官能評価の結果も好ましいことが示唆された。
【0087】
実施例6 機器分析による冷凍野菜のテクスチャー評価
本実施例では、機器分析による冷凍野菜のテクスチャー評価を行った。具体的には、実施例5において官能評価の結果が好ましかった、-10℃と-15℃の冷却条件を基準として過冷却野菜のテクスチャーの評価を行った。測定条件は以下の通りである。
【0088】
(1)装置
Stable Micro Systemsのテクスチャーアナライザーを使用した。
図1示すアタッチメントを用いた。木片の間に薄いスポンジ状のものを敷き、モヤシをつぶさないように固定して、中央にフックを引っ掛けて切断できるようになっている。
【0089】
(2)方法
実験当日に購入した生鮮のモヤシ(緑豆モヤシ、成田食品製)を用いた。直径30cmの蒸し器を用い、生鮮のモヤシ50gを重ならないように並べて120秒加熱することによりブランチングを行った。その後モヤシの表面の水分をキムタオルで吸い取り、ディープフリーザー(ツインバード工業製)を-20℃、-17℃、-14℃、-12℃、-10℃、-8℃(冷却温度)に設定し、モヤシを15本クッキングシートに並べて、30分静止させた。その後-20℃ストッカーに一晩保存した。これを各温度3セット行った。翌日常温解凍し、テクスチャーアナライザーを用いてテクスチャー測定を行った。
【0090】
未調理のモヤシは、表面が凸凹しており切断をすると裂けて切れる(ガタガタ)。このガタガタが、食した際のシャキシャキ感と関連する。各冷却温度で過冷却し、その後凍結したモヤシのテクスチャー測定を行い(n=30)、テクスチャーを測定した全モヤシ中の未調理モヤシ(生鮮)と似たテクスチャーを持つモヤシの割合を調べた。
【0091】
結果を、
図2に示す。
図2のCI(Crispiness Index(%))は、テクスチャーを測定した全モヤシ中の未調理モヤシ(生鮮)と似たテクスチャーを持つモヤシの割合である。
図2に示したように、-8℃から-17℃の冷却条件で過冷却したモヤシの40%以上が未調理モヤシと同様のテクスチャーを有していた。また、-12℃で過冷却を行ったモヤシが未調理モヤシのテクスチャーに最も近いことが示された。また、上記テクスチャーの評価は実施例1の官能評価の結果と似たような傾向がみられた。
【0092】
実施例7 冷凍モヤシの組織観察
本実施例では、冷凍モヤシの組織観察を行った。
(1)装置の説明
試料の乾燥は、共和真空技術(株)製のRLE-52真空凍結乾燥機を用いて行った。試料の観察には、東陽テクニカ製のマイクロCTスキャナSkyScan1172を用いた。
【0093】
(2)方法
試料はテクスチャー測定同様実験当日に購入した生鮮のモヤシ(緑豆モヤシ、成田食品製)を用いた。直径30cmの蒸し器を用い、生鮮のモヤシ50gを重ならないように並べて120秒加熱することによりブランチングを行った。その後モヤシの表面の水分をキムタオルで吸い取り、ディープフリーザー(ツインバード工業製)を-12℃に設定し、モヤシをクッキングシートに並べて、30分静止させた。その後-20℃ストッカーに保存した。
比較例として、試料を同様にブランチング後、-60℃ストッカーで凍結保存させた。
【0094】
その後試料を-40℃36時間、-30℃2時間、-20℃2時間、-10℃2時間、0℃2時間、10℃2時間、20℃2時間で真空凍結乾燥機にかけ乾燥させた。得られた乾燥試料のX線CT画像を撮影し、観察した。
【0095】
結果を
図3に示す。急速凍結を行ったモヤシでは、組織の目が粗く空隙が多い断面が観察された。これに対し過冷却を行ったモヤシでは、緻密な組織が保持されていた。この結果から、急速凍結されたモヤシは氷結晶が肥大化したことにより、組織が破壊され空隙が粗くなってしまったのに対し、過冷却されたモヤシは氷結晶が小さいことで細胞組織が破壊されず、保持されたままであることが示唆された。
【0096】
実施例8 種々の野菜・果物の処理条件の検討
本実施例では、種々の野菜又は果物を用いて処理条件の検討を行った。
材料;玉ねぎ(くし切り)、ピーマン(くし切り)、ニンジン(5×5mmダイス、細短冊切り)ダイコン(品種:アオクビダイコン)、(5×5×40mm、10×10×40mm)、ホウレンソウ(長さ4cm)レタス(長さ3cm)、リンゴ(1/8カットをさらに5mm程度にスライス)
【0097】
加熱処理は、過熱水蒸気オーブンを用いて100℃、180℃、220℃、250℃の過加熱水蒸気でそれぞれ60秒、100秒、150秒間の処理、あるいは、沸騰水浴中に所定の時間浸漬させるブランチングを行った。
【0098】
あらかじめ-15℃に設定した冷凍庫に各種野菜50gを15分または30分静置して、各種野菜又は果物の温度変化を記録した。実施例1と同様に各特性を調べた。結果を表12-表18に示す。
【0099】
【0100】
表12の結果より、生鮮タマネギに対し、ブランチングや過熱水蒸気の前処理を行うと、過冷却が発生することが示された。過熱水蒸気では過冷却温度が-9℃~-13℃にまで達してから過冷却解除するため、急速凍結より好ましい結果となった。ブランチングでは過冷却温度が-5℃~-9℃と過熱水蒸気による処理より高い温度で過冷却が解除されてしまう。官能評価も急速凍結させた場合(9点)に及ばなかった。
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
表13~17の結果より、ピーマン、ダイコンやレタスは過冷却温度も-9℃に達し、過冷却解除率も良好であった。官能評価も好ましい結果であった。また、ホウレンソウは、試験した加熱処理条件(100℃、60秒のブランチング)で過冷却温度が-9℃に達したが、官能評価は若干低かった。ニンジンは形状が細短冊で、一定の過加熱水蒸気による加熱処理(180℃、100秒又は150秒)を行った場合、過冷却温度が-9℃に達したが、官能評価は若干低かった。
【0107】
【0108】
表18に示した通り、生鮮のリンゴでは過冷却は生じない。一方、過熱水蒸気で前処理を行うと過冷却が発生することが示された。過冷却温度は-3℃~-4℃であり、官能評価は、急速凍結をしたリンゴと比べ、過冷却させたものの方が若干改善した。
【0109】
以上、種々の野菜及び果物において、過冷却凍結法によって良好な食感の冷凍野菜を調製することができた。
【0110】
実施例9 ラーメンスープへの添加
生鮮のモヤシ50gを実施例1の方法を用いて180℃、60秒過熱水蒸気処理した後に、-15℃で15分静置し、過冷却凍結モヤシを調製した。比較例として、生鮮のモヤシ50gを、実施例と同様に180℃、60秒過熱水蒸気処理した後、-40℃急速凍結させた急速凍結モヤシを調製した。
【0111】
ラーメンスープ(鉄人とんこつ醤油、富士食品工業(株))原液30ccに対し、お湯を220cc添加し、中華麺(NEW 中華麺 200g、テーブルマーク(株))を電子レンジで3分温めたものをラーメンスープにいれ、上から冷凍モヤシ70gをトッピングすることにより、野菜ラーメンを調理した。その野菜ラーメンの凍結モヤシを、訓練されたパネラー13名による官能検査に供した。
【0112】
【0113】
その結果を、表19に示す。急速凍結されたモヤシのみの官能検査された点数を、各項目3点(5点満点)として評価した。ラーメンにトッピングした急速凍結モヤシは急速凍結したモヤシのみの官能評価を行った場合(各項目3点、)に比べ低い点数となった。電子レンジで温めたラーメンスープ上にトッピングしたことにより、蒸気でさらに蒸煮され、ふやけてしまったことが原因ではないかと推測される。一方、過冷却凍結させたモヤシでも、同様に野菜のみで官能評価を行った場合と比べると点数は低いものの(表6、180℃、60秒)、以前高い評価が得られ、、急速凍結したモヤシに比べても歯ごたえ、歯切れ、シャキシャキ感全てにおいて高い評価を得ることができる。この結果より、過冷却凍結した冷凍野菜(モヤシ)を使用することにより、従来の急速凍結法の冷凍野菜よりも食感が維持され、官能的にすぐれた野菜ラーメンの提供が可能になることが示された。
【0114】
実施例10 モヤシの弾性率
本実施例では、過冷却凍結後のモヤシの弾性率の測定を行った。
生鮮のモヤシ50gを直径30cmの蒸し器を用いて100℃、120秒で加熱処理した。あらかじめ-12℃に設定したディープフリーザー(ツインバード工業社製)又は-20℃、-30℃、-80℃に設定したストッカー(サーモマジック社製)に加熱処理したモヤシ50gを一晩静置した。凍結したモヤシを室温で60分静置して解凍を行い、弾性率の測定に供した。比較例として、モヤシ50gを直径30cmの蒸し器を用いて100℃、120秒蒸し過熱処理し、凍結させていないものを用いた。
【0115】
弾性率の測定方法は、前処理を行ったモヤシ50gから無作為に10本選択し、支持体に静置した。支持体への静置方法は、支持体外に2.5cm分モヤシをはみ出させ、その支持体よりはみ出した部分が荷重により折り曲がった角度を分度器を用いて測定した(
図4)。
【0116】
はみ出したモヤシ1.25cmを重心とし、重心に全荷重がかかると仮定し、下記の計算方式により測定された折れ曲がった角度(θ)と、モヤシ1本分の太さ(D)からヤング率を算定した(化1、
図5)。
【0117】
【0118】
【0119】
表20及び
図6に記載の通り、-12℃で凍結したモヤシは、-20℃以下のより低い温度下で凍結した場合と比較して、約10倍以上の高い弾性率を示した。より高い弾性率は、よりしっかりした食感と関連する。