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特許7357619燃料電池用電極触媒層及びそれを用いた固体高分子形燃料電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】燃料電池用電極触媒層及びそれを用いた固体高分子形燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20230929BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20230929BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20230929BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20230929BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M4/86 B
H01M4/90 M
H01M4/92
H01M8/10 101
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020536346
(86)(22)【出願日】2019-06-04
(86)【国際出願番号】 JP2019022072
(87)【国際公開番号】W WO2020031479
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2018150646
(32)【優先日】2018-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】茂木 暁
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 彦睦
(72)【発明者】
【氏名】附田 龍馬
(72)【発明者】
【氏名】阿部 直彦
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-174835(JP,A)
【文献】特開2002-216777(JP,A)
【文献】特開2009-070584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/98
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性無機酸化物からなる担体に触媒が担持されてなる触媒担持担体と、親水性材料とを含む燃料電池用電極触媒層であって、
前記親水性材料が導電性を有する親水性粒子の凝集体であり、
前記触媒層における前記親水性材料の含有量が、前記担体と前記親水性材料の合計に対して2質量%以上20質量%未満であり、
前記触媒担持担体の粒子径Dに対する、前記親水性粒子の粒子径d1の比率が、0.5以上3.0以下であり、
前記触媒層の厚みTに対する、前記親水性材料の粒子径d2の比率が、0.1以上1.2以下である燃料電池用電極触媒層。
【請求項2】
前記触媒が、白金又は白金と白金以外の貴金属若しくは卑金属との合金からなる、請求項1に記載の燃料電池用電極触媒層。
【請求項3】
前記親水性粒子が、インジウム系酸化物、スズ系酸化物、チタン系酸化物、ジルコニウム系酸化物、セレン系酸化物、タングステン系酸化物、亜鉛系酸化物、バナジウム系酸化物、タンタル系酸化物、ニオブ系酸化物及びレニウム系酸化物から選択される1種以上の粒子を含む、請求項1又は2に記載の燃料電池用電極触媒層。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の燃料電池用電極触媒層が、固体高分子電解質膜の少なくとも一面に形成されてなる燃料電池用膜電極接合体。
【請求項5】
請求項4に記載の膜電極接合体を有し、前記電極触媒層をカソード触媒層として用いた固体高分子形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極触媒層及びそれを用いた固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、固体高分子電解質膜の各面に触媒層を配し、該触媒層の外側にガス拡散層を配した構造を有している。触媒層は一般に、担体粒子の表面に、貴金属触媒が担持されてなる触媒担持担体から構成される多孔質層である。この多孔質層内に、水素やメタノール等の燃料ガス、又は酸素や空気等の酸化剤が流通し、三相界面で電極反応が起こる。反応の結果、触媒層内に水が生成する。
【0003】
生成した水は触媒層から散逸していく。しかし、場合によっては触媒層内に水が蓄積していき、それが進行すると触媒層が水を収容しきれなくなり、いわゆるフラッディング現象が起こる。特に、触媒の担体として導電性の金属酸化物を用いた場合、その表面が比較的親水性であるためフラッディング現象が起こりやすい。フラッディング現象はセル電圧の低下の一因となると考えられている。
【0004】
特許文献1には、触媒担持粉体の水濡れを防止することを目的として、金属酸化物等の無機材質からなる触媒担体の表面に撥水性表面保護物質を吸着させ、更に触媒物質を担持させた触媒担持粉体が提案されている。また、特許文献2には、無機酸化物からなる担体に触媒が担持されてなる触媒担持担体と、該無機酸化物よりも疎水度の高い高疎水性物質とを含む触媒層を用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-099486号公報
【文献】US2017/141407A1
【発明の概要】
【0006】
特許文献1及び2のように疎水性材料を用いた場合であっても、特に高電流密度で燃料電池を運転した場合には生成水が多量になることに起因して、生成した水を排出するための通り道(以下「排出パス」ともいう。)を触媒層内に十分に確保することが困難な場合があり、フラッディング現象が発生する課題があった。
【0007】
したがって本発明の課題は、フラッディング現象の発生を防止することで、セル電圧の低下を効果的に防止し得る燃料電池用電極触媒層を提供することにある。
【0008】
本発明は、導電性無機酸化物からなる担体に触媒が担持されてなる触媒担持担体と、親水性材料とを含む燃料電池用電極触媒層であって、
前記親水性材料が導電性を有する親水性粒子の凝集体であり、
前記触媒層における前記親水性材料の含有量が、前記担体と前記親水性材料の合計に対して2質量%以上20質量%未満であり、
前記触媒担持担体の粒子径Dに対する、前記親水性粒子の粒子径d1の比率が、0.5以上3.0以下であり、
前記触媒層の厚みTに対する、前記親水性材料の粒子径d2の比率が、0.1以上1.2以下である燃料電池用電極触媒層を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の燃料電池用電極触媒層は、担体に触媒が担持されてなる触媒担持担体を含む。担体は無機酸化物粒子からなる。無機酸化物としては、例えば金属酸化物、非金属酸化物又は半金属酸化物を用いることができる。触媒層の電気伝導性を高める観点からは、無機酸化物は導電性を有していることが有利である。無機酸化物は、例えば100kΩcm以下の体積抵抗率を有していることが好ましい。体積抵抗率は、例えば圧粉抵抗測定システム(三菱化学アナリテックPD-51)と抵抗率測定器(三菱化学アナリテックMCP-T610)を用いて測定される。具体的には、試料1gをプローブシリンダへ投入し、プローブユニットをPD-51へセットする。油圧ジャッキによって57.3MPaの荷重を加えて直径20mmの円筒状ペレットを作製する。得られたペレットの抵抗値を、MCP-T610を用いることで測定される。
【0010】
無機酸化物の例としては、インジウム系酸化物、スズ系酸化物、チタン系酸化物、ジルコニウム系酸化物、セレン系酸化物、タングステン系酸化物、亜鉛系酸化物、バナジウム系酸化物、タンタル系酸化物、ニオブ系酸化物及びレニウム系酸化物から選択される1種以上が挙げられる。更に好ましい無機酸化物としては、例えばスズ酸化物に、インジウム、ニオブ、タンタル、アンチモン及びタングステンのうち1種以上の元素が含まれているものが挙げられる。また、スズ酸化物に、フッ素が含まれているものも挙げられる。具体的には、インジウム含有スズ酸化物や、アンチモン含有スズ酸化物、フッ素含有スズ酸化物、フッ素タングステン含有スズ酸化物、タンタル含有スズ酸化物、タンタルアンチモン含有スズ酸化物、タングステン含有スズ酸化物及びニオブ含有スズ酸化物のような金属ないし非金属含有(ドープ)スズ酸化物などが挙げられる。
【0011】
無機酸化物の粒子径は、10nm以上100nm以下、特に10nm以上50nm以下、とりわけ20nm以上50nm以下であることが、担体の比表面積を大きくし得る点から好ましい。無機酸化物に触媒が担持されてなる触媒担持担体の粒子径Dも、この範囲内であることが好ましい。無機酸化物及び触媒担持担体の粒子径は、触媒層の断面を電子顕微鏡像観察し、500個以上の粒子を対象として最大横断長を測定し、その平均値を算出することで求められる。観察倍率は10万倍とし、その倍率において、外見上の幾何学的形態から判断して粒子としての最小単位と認められる物体を対象として測定を行う。
【0012】
無機化合物からなる担体に担持される触媒としては、当該技術分野においてこれまで用いられてきたものと同様のものを用いることができる。例えば白金、白金と白金以外の貴金属類との合金、白金と卑金属との合金等が挙げられる。白金以外の貴金属類としては、パラジウム、ルテニウム、ロジウム及びイリジウムが挙げられる。卑金属としては、バナジウム、クロム、コバルト、ニッケル、鉄及びチタンが挙げられる。これらの触媒は、担体の表面における平均粒径が1nm以上10nm以下であることが、触媒能の効率的な発現の点から好ましい。触媒の粒径は、前記の無機酸化物及び触媒担持担体の粒子径の測定方法と同様に測定できる。観察倍率は50万倍とする。
【0013】
触媒を担体の表面に担持させる方法に特に制限はなく、当該技術分野においてこれまで知られている方法と同様の方法を採用することができる。例えば、触媒として白金を用いる場合には、白金源として塩化白金酸六水和物(H2PtCl6・6H2O)やジニトロジアンミン白金(Pt(NH32(NO22)等を用い、これらを液相化学還元法、気相化学還元法、含浸-還元熱分解法、コロイド法、表面修飾コロイド熱分解還元法等の公知の手法を用いて還元することで、担体に白金を担持させることができる。触媒の担持量は、担体の質量に対して1質量%以上70質量%以下、特に5質量%以上20質量%以下とすることが好ましい。一方、触媒として白金と卑金属との合金を用いる場合には、例えば白金錯体や白金塩等の白金化合物と、卑金属錯体や卑金属塩等の卑金属化合物と、還元剤とを含む分散液を加熱する。これにより、白金及び卑金属が還元されて白金合金を生成し、担体に白金合金を担持させることができる。
【0014】
本発明の燃料電池用電極触媒層は、更に親水性材料を含む。親水性材料は、少なくともその表面が親水性であればよい。このような親水性材料としては、親水性粒子の凝集体等が挙げられる。親水性粒子の凝集体を用いることにより、親水性材料の有効比表面積が大きくなり、水の排出パスを触媒層中に確保しやすくなる。また、当該親水性粒子の凝集体内部においては生成水が発生しないため、水の排出をより効率化することができる。
【0015】
親水性粒子の形状に特に制限はなく、比表面積を大きくし得る形状であればよい。例えば球状、多面体状、板状若しくは紡錘状、又はこれらの混合など、種々の形状を採用することができる。
【0016】
親水性の尺度としては、「疎水度」を用いることができる。疎水度は、粉体濡れ性試験機(株式会社レスカ製WET101P)を用いて次のように測定できる。50mgの測定対象物を、60ml(温度25℃)の水に添加し、撹拌羽根によって撹拌する。この状態下にメタノールを水中に滴下する。これとともにメタノール水溶液に波長780nmのレーザー光を照射し、その透過率を測定する。測定対象物が濡れて沈降、懸濁していき、透過率が80%となるところのメタノールの体積濃度を疎水度とする。この値が小さいほど親水性の程度が高いと判断される。本発明においては、疎水度が2体積%未満であることが好ましい。なお、例えば特許文献2に記載のような疎水化処理をしていない無機酸化物粒子の疎水度は、実質的に0体積%となる。疎水度が0体積%であるとは、測定対象物を水に添加すると直ちに沈降し、疎水度を測定することができないことを意味する。
【0017】
親水性材料を構成する親水性粒子は、例えば無機酸化物の粒子が挙げられる。触媒層の電気伝導性を高める観点から、親水性粒子は導電性を有していることが有利であり、例えば体積抵抗率が100kΩcm以下の親水性粒子を用いることが好ましい。
親水性粒子を構成する無機酸化物の例としては、前記担体に用いられる無機酸化物と同様に、インジウム系酸化物、スズ系酸化物、チタン系酸化物、ジルコニウム系酸化物、セレン系酸化物、タングステン系酸化物、亜鉛系酸化物、バナジウム系酸化物、タンタル系酸化物、ニオブ系酸化物及びレニウム系酸化物からなる群から選択される1種以上が挙げられる。更に好ましい無機酸化物としては、例えばスズ酸化物に、インジウム、ニオブ、タンタル、アンチモン及びタングステンのうち1種以上の元素が含まれているものが挙げられる。また、スズ酸化物に、フッ素が含まれているものも挙げられる。具体的には、インジウム含有スズ酸化物や、アンチモン含有スズ酸化物、フッ素含有スズ酸化物、フッ素タングステン含有スズ酸化物、タンタル含有スズ酸化物、タンタルアンチモン含有スズ酸化物、タングステン含有スズ酸化物及びニオブ含有スズ酸化物のような金属ないし非金属含有(ドープ)スズ酸化物などが挙げられる。親水性粒子を構成する無機化合物は、担体を構成する無機化合物と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0018】
触媒層における親水性材料の含有量は、担体と親水性材料の合計に対して2質量%以上20質量%未満であることが好ましく、2.5質量%以上18質量%以下であることがより好ましく、2.5質量%以上15質量%以下であることが特に好ましい。親水性材料の含有量を前記範囲とすることによって、生成水を適切に排出することが可能となり、フラッディング現象の発生が防止されることで高電流密度領域でのセル電圧の低下を防止することができる。
【0019】
親水性材料を構成する親水性粒子の粒子径d1は、10nm以上100nm以下、特に20nm以上50nm以下とすることで、比表面積が大きくなり、生成した水の許容量が多くなる点から好ましい。親水性粒子の粒子径は、触媒層の断面を電子顕微鏡像観察し、500個以上の粒子を対象として最大横断長を測定し、その平均値を算出することで求められる。観察倍率は10万倍とし、その倍率において、外見上の幾何学的形態から判断して粒子としての最小単位と認められる物体を対象として測定を行う。
【0020】
親水性粒子の粒子径d1は、触媒担持担体の粒子径と大きく異ならないことが好ましい。具体的には、触媒担持担体の粒子径Dに対する親水性粒子の粒子径d1の比率、すなわちd1/Dの値は、0.5以上3.0以下であることが好ましく、0.7以上2.0以下であることがより好ましく、0.8以上1.5以下であることが特に好ましい。親水性粒子の粒子径d1と触媒担持担体Dの粒子径が大きく異ならないようにすることで、適切な排出パスが構築されやすい。親水性粒子の材料と、触媒担持担体の材料とが同じである場合、顕微鏡観察によって親水性粒子の粒子径d1を測定するときには、前記の親水性粒子の粒子径の測定方法と同様に測定し、電子顕微鏡に付設されているエネルギー分散型X線分光装置によって触媒が分布している領域を抽出することで、親水性粒子と触媒担持担体とを区別することで測定できる。
【0021】
親水性粒子の凝集体からなる親水性材料の粒子径d2は、触媒層の厚みTに対する比率として設定することが、水の排出パスが適切に構築されやすい観点から好ましい。この観点から、触媒層の厚みTに対する、親水性材料の粒子径d2の比率、すなわちd2/Tの値は、0.1以上1.2以下であることが好ましく、0.2以上1.0以下であることがより好ましく、0.3以上0.7以下であることが特に好ましい。
【0022】
触媒層の厚みTは、触媒層の断面を電子顕微鏡像観察し、観察視野内で最も厚い部分の厚みと最も薄い部分の厚みを測定し、その平均値を算出することで求められる。本発明においては、燃料電池を作製する際に抵抗が不安定となるのを防止する観点及び触媒活性が良好に得られる程度の体積を確保する観点から、触媒層の厚みTは1μm以上であることが好ましく、1.5μm以上であることがより好ましく、2μm以上であることが更に好ましい。一方で、燃料電池とした際の抵抗が高くなりすぎるのを防止する観点や、ガス・水の拡散抵抗が増えるのを防止する観点から、10μm以下とすることが好ましい。
【0023】
親水性材料の粒子径d2は、以下の方法で測定できる。すなわち、親水性材料を含む触媒層を切断し、切断面を電子顕微鏡像にて観察する。次いで、電子顕微鏡に付設されているエネルギー分散型X線分光装置によって、親水性材料を識別する。当該親水性材料を任意に50個以上抽出して最大横断長を測定し、その平均値を算出することで求められる。観察倍率は1万倍とし、その倍率において、外見上の幾何学的形態から判断して粒子としての最小単位と認められる物体を対象として測定を行う。
【0024】
親水性材料を製造する方法としては、例えば噴霧乾燥法、転動造粒法、流動層造粒法、撹拌造粒法、圧縮造粒法、押出造粒法、解砕造粒法などの各種造粒法が挙げられる。これらの造粒法のうち、噴霧乾燥法を用いることにより、細孔径が5~100nm程度の親水性材料を容易に得ることができ、水の排出パスを適切に構築することができる観点から好ましい。造粒は、親水性材料の粒子径d2が0.2μm以上10μm以下、特に0.5μm以上5μm以下となるように行うことが好ましい。
【0025】
本発明の燃料電池用電極触媒層は、これまで説明してきた物質に加え、必要に応じて粒子どうしを結合する結着剤やアイオノマーなど当該技術分野においてこれまで知られている材料と同様の材料を含有させてもよい。尤も、触媒層はノニオン性ポリマーを非含有であることが好ましい。
【0026】
本発明の燃料電池用電極触媒層は、公知の方法により形成することができる。例えば、触媒担持担体及び親水性材料をインク化して塗工用のインクを調製し、これを固体高分子電解質膜上に塗布することによって、該電解質膜の少なくとも一面に触媒層を形成することができる。触媒担持担体と親水性材料をインク化するためには、例えば触媒担持担体と親水性材料とを液媒体と混合すればよい。液媒体としては水を用いることが簡便である。必要に応じ、水溶性の有機溶媒を水と併用することもできる。水溶性の有機溶媒としては、例えばエタノールや2-プロパノール等の一価の低級アルコールなどを用いることができる。これらの水溶性の有機溶媒は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。インクには、プロトン導電性の高分子化合物を添加することが好ましい。該高分子化合物としては、フッ素化されたポリオレフィン系樹脂の側鎖にスルホン酸が導入された高分子化合物が挙げられる。以上の各成分を混合して、目的とするインクを得る。混合には、例えば遊星ボールミルを用いることができる。
【0027】
得られたインクを用いて固体高分子電解質膜上に触媒層を形成する。触媒層の形成は固体高分子電解質膜上に直接インクを塗布する方法と、転写シートにインクを塗布して触媒層を形成した後に、該触媒層を固体高分子電解質膜上に転写する方法のいずれの方法を用いることができる。転写シートには例えばポリ四フッ化エチレンを用いることができる。インクの塗布には例えば噴霧法、スピンコート法、ドクターブレード法、スクリーン印刷法及びバーコート法等を用いることができる。塗膜の乾燥には、例えば熱風乾燥及びホットプレスを用いることができる。このようにして、触媒層被覆電解質膜(CCM)が得られる。
【0028】
固体高分子電解質膜としては、燃料電池内の環境において化学的に安定であり、且つプロトン伝導性が高いものを用いることができる。また固体高分子電解質膜は電気伝導性がなく、更にガスのクロスオーバーが起こりにくいものを用いることも好ましい。そのような材料としては例えばパーフルオロ系ポリエチレン主鎖にスルホン酸基が結合した高分子電解質膜が好適なものとして挙げられる。その他、ポリスルホン類、ポリエーテルスルホン類、ポリエーテルエーテルスルホン類、ポリエーテルエーテルケトン類、炭化水素系ポリマーをスルホン化した材料などを用いることもできる。
【0029】
前記CCMの触媒層側に、更にガス拡散層を積層することにより、燃料電池用膜電極接合体(MEA)が得られる。触媒層(カソード触媒層及びアノード触媒層)とガス拡散層によりカソード及びアノードが構成される。ガス拡散層としては、電気伝導性を有し、燃料ガス又は酸化剤を触媒層へ拡散可能な構造を有する材料を用いることが好ましい。そのような材料としては、主に炭素含有材料からなる多孔質体を用いることできる。具体的には、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボン不織布等の炭素繊維で形成された多孔質カーボンが用いられる。また、これらの材料に撥水処理や親水性処理等の表面処理を施したものも用いることもできる。このようにして固体高分子形燃料電池が得られる。
【実施例
【0030】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0031】
〔実施例1〕
(1)カソード用の電極触媒層の形成
(ア)親水性材料の調製
SnOにTa及びSbを含有させたタンタルアンチモン含有スズ酸化物(以下「Ta,Sb-SnO」と表記する)の粒子を親水性粒子として用いた。Ta,Sb-SnO粒子はWO2017/022499に記載の方法で製造されたものであり、粒子径d1は31.5nmであった。この粒子をメノウ乳鉢で粗砕し、次いでイットリウム安定化ジルコニア製のボールを使用してボールミルで粉砕した。ボールミルによる粉砕においては、親水性粒子40gを、純水700mL及びエタノール40gと混合してスラリーとなし、このスラリーを粉砕に用いた。粉砕後、スラリーとボールとを分離し、分離されたスラリーを用いて噴霧乾燥法による造粒を行い、粒子径d2が2.0μmの親水性材料を得た。造粒条件は、入口温度:220℃、出口温度60℃、噴霧圧力:0.15-0.2MPa、送液速度:8.3mL/分、スラリー濃度:10g/250mLとした。その後、大気中、700℃で5時間焼成した。得られた親水性材料の疎水度を上述の方法で測定すると、メタノール添加前に親水性材料が水中に沈降してしまったため、疎水度は0体積%であった。
【0032】
(イ)電極触媒層の形成
SnOにF及びWを含有させたフッ素タングステン含有スズ酸化物(以下「F,W-SnO」と表記する)の粒子を担体として用いた。F,W-SnO粒子はWO2016/098399に記載の方法で製造されたものであった。この担体にコロイド法で白金とニッケルの合金を20%担持させたものを、触媒担持担体(触媒担持担体中において担体が80%、白金とニッケルの合金が20%を占める)として用いた。触媒担持担体の粒子径Dは30.0nmであった。
触媒担持担体1.46g及び親水性材料0.03gを容器に入れ、更に純水、エタノール及び2-プロパノールを35:45:20の質量比(混合液として3.06g)で順に加えた。このようにして得られたインクを、超音波で3分間にわたり分散した。次いで、直径10mmのイットリウム安定化ジルコニア製ボールを容器内に入れ、遊星ボールミル(シンキーARE310)を用いて800rpmで20分間撹拌した。更にインクに5%ナフィオン(登録商標)(274704-100ML、Sigma-Aldrich社製)を加え、超音波分散と遊星ボールミルにより前記と同様な撹拌を行った。ナフィオンの添加量は、ナフィオン/(担体+親水性材料)の質量比が0.074となるような量とした。
このようにして得られたインクを、ポリ四フッ化エチレンのシート上にバーコーターを用いて塗工し、塗膜を60℃で乾燥させた。得られた触媒層の厚みTは5.4μmであった。また、触媒担持担体の粒子径Dに対する、親水性粒子の粒子径d1の比率は1.05、触媒層の厚みTに対する、親水性材料の粒子径d2の比率は0.37であった。
【0033】
(2)アノード用の電極触媒層の形成
田中貴金属工業社製の白金担持カーボンブラック(TEC10E50E)1.00gを容器に入れ、更に純水、エタノール及び2-プロパノールを45:35:20の質量比(混合液として12.8g)で順に加えた。このようにして得られたインクを、超音波で3分間にわたり分散した。次いで、直径10mmのイットリウム安定化ジルコニア製ボールを容器内に入れ、遊星ボールミル(シンキーARE310)によって800rpmで20分間撹拌した。更にインクに5%ナフィオン(登録商標)(274704-100ML、Sigma-Aldrich社製)を加え、超音波分散と遊星ボールミルにより前記と同様な撹拌を引き続き行った。ナフィオンの添加量は、ナフィオン/カーボンブラックの質量比が0.70となるような量とした。このようにして得られたインクを、ポリ四フッ化エチレンのシート上にバーコーターを用いて塗工し、塗膜を60℃で乾燥させた。
【0034】
(3)CCMの製造
得られたカソード用及びアノード用電極触媒層付ポリ四フッ化エチレンのシートを54mm四方の正方形状に切り出し、ナフィオン(登録商標)(NRE-212、Du-Pont社製)の電解質膜と重ね合わせ、140℃、25kgf/cmの条件下に2分間大気中で熱プレスし、転写を行った。このようにして、ナフィオンからなる固体高分子電解質膜の各面にカソード及びアノード触媒層を形成した。
【0035】
(4)燃料電池の組み立て
前記(3)で得られたCCMを用いて燃料電池を組み立てた。ガス拡散層としてSIGRACET(登録商標)29BC(SGL社製)を用いた。
【0036】
〔実施例2〕
触媒担持担体1.43g及び親水性材料0.06gを用いた以外は、実施例1と同様にして燃料電池を得た。
【0037】
〔実施例3〕
触媒担持担体1.35g及び親水性材料0.12gを用いた以外は、実施例1と同様にして燃料電池を得た。
【0038】
〔比較例1〕
実施例1の親水性材料を用いず、触媒担持担体1.20gを用いた以外は、実施例1と同様にして燃料電池を得た。
【0039】
〔比較例2〕
実施例3の親水性材料に代えて、1次粒子径が31.5nmであり且つ造粒を行っていない親水性材料であるTa,Sb-SnO粒子(疎水度は0体積%)を用いた以外は、実施例3と同様にして燃料電池を得た。
【0040】
〔比較例3〕
実施例3の親水性材料に代えて、1次粒子径が400nmであり且つ造粒を行っていない親水性材料であるTiO粒子(疎水度は0体積%)を用いた以外は、実施例3と同様にして燃料電池を得た。
【0041】
〔比較例4〕
触媒担持担体1.20g及び親水性材料0.24gを用いた以外は実施例1と同様にして燃料電池を得た。
【0042】
〔評価〕
実施例1ないし3及び比較例1ないし4で得られた燃料電池について、発電特性を評価した。燃料電池のアノード及びカソードに、80℃に加熱し、100%RHに加湿した窒素を流通させて安定化した後、加湿した水素をアノードに供給するとともに、加湿した空気をカソードに供給した。加湿の程度は100%RHとした。この条件下で発電特性(電流-電圧特性)を測定した。測定結果から、電流密度が1.5A/cmのときのセル電圧(V)を算出した。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例の燃料電池は、比較例の燃料電池に比べて、電流密度が高い領域でのセル電圧の低下が効果的に防止されていることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、生成した水を排出するための通り道が触媒層内に構築されるため、生成水を適切に触媒層外へ排出することができ、フラッディング現象を防止できる。その結果、高電流密度で燃料電池を運転した場合であっても、セル電圧の低下を効果的に防止することができる。