(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】敏感肌の処置のための抽出物および該抽出物を含む皮膚科用組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20230929BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20230929BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230929BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230929BHJP
A61K 8/99 20170101ALI20230929BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230929BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230929BHJP
【FI】
C12N1/20 E ZNA
A61K35/74 D
A61P17/00
A61P29/00
A61K8/99
A61Q19/00
A61P43/00 107
(21)【出願番号】P 2020566988
(86)(22)【出願日】2019-05-31
(86)【国際出願番号】 EP2019064211
(87)【国際公開番号】W WO2019229248
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-05-10
(32)【優先日】2018-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【微生物の受託番号】CNCM CNCM I-4290
(73)【特許権者】
【識別番号】500166231
【氏名又は名称】ピエール、ファブレ、デルモ‐コスメティーク
【氏名又は名称原語表記】PIERRE FABRE DERMO-COSMETIQUE
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】ナタリー、カステス-リッツィ
(72)【発明者】
【氏名】ベルトラン、ショル
(72)【発明者】
【氏名】ファブリス、レスティエンヌ
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-503211(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0028805(US,A1)
【文献】特開2009-108031(JP,A)
【文献】国際公開第2018/089640(WO,A1)
【文献】Inflammation & Allergy - Drug Targets,2014年,vol.13,p.177-190
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚の神経原性炎症を予防および/または処置するための医薬品の製造における、非病原性グラム陰性細菌の細菌抽出物
の使用であって、
前記細菌は、
2010年4月8日にCNCMに番号I-4290として寄託されたLMB64であり、
前記細菌抽出物は、以下の工程:
a.前記細菌を好適な培地で培養して細菌培養物を得る工程;
b.前記培養物の液体/固体を分離し、液相を除去する工程;
c.前記分離された固相の細胞を溶解する工程;
d.前記固相の溶解物を、水性液
相に再懸濁する工程
、ここで、前記水性液相は、トリス-アルギニン緩衝液である;
e.前記再懸濁された液体/固体を分離し、液相を回収する工
程
を含んでなる方法によって得られる、前記
使用。
【請求項2】
前記方法が、以下の工程:
f.必要に応じて、前記回収された液相を濾過する工程
をさらに含んでなる、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記細菌が、配列番号2の配
列を含んでなる1つ以上のプラスミドを含むことを特徴とする、請求項1
または2に記載の
使用。
【請求項4】
前記皮膚の神経原性炎症が、敏感肌および/または不耐性皮膚
の炎症を含むことを特徴とする、請求項
1~3のいずれか一項に記載の使
用。
【請求項5】
細菌抽出物と、化粧品としてまたは皮膚科学的に許容可能な1種以上の賦形剤とを含んでなる化粧品組成物または皮膚科用組成物
であって、
前記細菌抽出物は、非病原性グラム陰性細菌の細菌抽出物であり、
前記細菌は、2010年4月8日にCNCMに番号I-4290として寄託されたLMB64であり、
前記細菌抽出物は、以下の工程:
a.前記細菌を好適な培地で培養して細菌培養物を得る工程;
b.前記培養物の液体/固体を分離し、液相を除去する工程;
c.前記分離された固相の細胞を溶解する工程;
d.前記固相の溶解物を、水性液相に再懸濁する工程、ここで、前記水性液相は、トリス-アルギニン緩衝液である;
e.前記再懸濁された液体/固体を分離し、液相を回収する工程
を含んでなる方法によって得られる、前記化粧品組成物または皮膚科用組成物。
【請求項6】
前記方法が、以下の工程:
f.必要に応じて、前記回収された液相を濾過する工程
をさらに含んでなる、請求項5に記載の化粧品組成物または皮膚科用組成物。
【請求項7】
局所適用に適していることを特徴とする、請求項
5または6に記載の化粧品組成物または皮膚科用組成物。
【請求項8】
皮膚の神経原性炎症を予防および処置するための医薬品の製造における、請求項5~7のいずれか一項に記載の皮膚科用組成物の使用。
【請求項9】
前記皮膚の神経原性炎症が敏感肌および/または不耐性皮膚の炎症を含むことを特徴とする、請求項8に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、敏感肌および/または反応性の不耐性皮膚(reactive intolerant skin)の保護および/または処置、特に皮膚の神経原性炎症に対する標的化された作用を介した保護および/または処置に有用であり得る新規な細菌抽出物に関する。本発明はまた、そのような細菌抽出物を活性成分として含有する化粧品組成物または皮膚科用組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
先行技術の現状
表皮は多層化した上皮(pluristratified epithelium)であり、その環境および害からの防護バリアとして機能している。その複数の生理機能のうち、表皮は微生物による身体の侵襲に対する生物学的、物理的および化学的バリアを構成する機能を有する。この表皮の物理的バリア特性は、その構造と顕著に関連している。例えば、表皮は、通常、表皮の胚芽層を構成するケラチノサイトの基底層と、数層の多面細胞(polyhedral cell)からなるいわゆる有棘層と、そして最後に、一連の上層(角質細胞と呼ばれる分化の最終段階にあるケラチノサイトからなる角質層(horny layerまたはstratum corneum)と呼ばれる)とに分けられる。表皮の化学的バリア特性は、特に、表皮の表面における多くの抗菌ペプチドの放出に依存している。表皮細胞の構造組織における機能不全、または表皮の化学バリア機能の欠陥は、皮膚の炎症状態をもたらし得る。
【0003】
炎症は、以下のタイプ:感染性、熱性、機械的、化学的、病変性またはアレルギー性の傷害に対する身体の正常な免疫防御反応である。それは、4つの点:赤み、熱、腫れおよび痛みで特徴付けられる。急性皮膚炎は、有害な成分に対する即時の反応であり、その期間は短く(数日または数週間)、多くの場合、突然発症し、激しい腫れを特徴とする。急性炎症は自然に、または処置によって治癒する。慢性の場合は、炎症が自然に治らず、数ヶ月間または数年間さえも、持続または悪化する。炎症反応は、いくつかの連続した工程:血管性(血管拡張)、白血球の滲出および免疫細胞の化学遊走、最終的な浄化(cleansing)を含むダイナミックなプロセスである。白血球の滲出とは、血管壁を積極的に横断し、循環性の免疫細胞、リンパ球、好中球および単球が病変部に蓄積することを意味する。好中球は、化学走性によってその他の炎症細胞を引き寄せる機能と、抗菌物質およびプロテアーゼを分泌して損傷部位をクリーニングする(cleaning)機能とを有する。単球は化学走性によって遊走し、マクロファージに分化して損傷部位をクリーニングする。マクロファージは成長因子、炎症性サイトカイン、例えば、IL-1(特に、IL-1β)、TNFα、プロテアーゼ、プロスタグランジンおよびIFNを分泌し、炎症の維持および/または増幅を可能にする。浄化は、血管相に続き、白血球の滲出と同時である。これは、壊死組織および病原体が除去されるプロセスである。
【0004】
皮膚の神経原性炎症は、神経終末による一次炎症過程の誘導および/または増幅と定義されており、したがって、神経ペプチド、例えば、サブスタンスPを分泌する表皮内神経線維の活性化によって引き起こされる皮膚の炎症である。皮膚の神経原性炎症は、特に、敏感肌、反応性の不耐性肌および掻痒性の炎症性皮膚疾患に関与している。掻痒症は、掻きむしりたくなるような不快な感覚と定義されている。最近では、痒みを知覚するための特異的な受容体である痒み受容器(掻痒受容器)という概念が浮上しているが、侵害受容器ファミリーとの区別は、未だ議論されている。これらの掻痒受容器は、表皮内のAo線維および特にC線維を使用している。これらは、神経ペプチド:サブスタンスP、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)および血管作動性腸管ペプチド(VIP)を分泌する。近年、掻痒症の誘発におけるプロテアーゼ(トリプシン、カテプシンG、トロンビンなど)の役割が明らかにされてきた。実際、プロテアーゼ活性化受容体2(PAR-2)は、掻痒症活性化の第2の主要経路として定義されている(Misery et al., Nat. Rev. Neurol 10, 408-416, 2014)。
【0005】
皮内神経線維は、皮膚細胞ならびに内分泌系、リンパ系および免疫系の細胞と直接的または間接的に相互作用する。これらのコミュニケーションによって、神経-免疫-皮膚-内分泌システムの定義につながった。機能するために、このシステムは、異なる性質の分子、神経伝達物質、サイトカインおよび成長因子からなる共通言語を必要とする。これらの分子は、皮膚細胞、常在性の免疫細胞およびリクルートされた免疫細胞、ならびに表皮内の神経終末によって合成および放出される。表皮細胞および真皮細胞はまた、神経伝達物質、酵素、ニューロトロフィン、サイトカイン、ケモカインおよび成長因子を産生することができる。これらのメディエーターは、皮膚の神経支配および炎症反応を制御する。炎症が起こると、感覚神経終末および皮膚細胞から分泌されるこれらのメディエーターの作用により、皮膚内に移行している免疫細胞または皮膚内に構成的に存在する免疫細胞が活性化され得る。このプロセスは、サイトカインおよび神経伝達物質の放出の第二波をもたらし、炎症の増幅ループを引き起こす。
【0006】
最近、ケラチノサイトもまた、皮膚の神経原性炎症の主要な役者であることを示唆する新しい概念が浮上してきた。
【0007】
神経ペプチドによって生じる皮膚の神経原性炎症は、敏感肌および不耐性皮膚の反応性にも関与している。敏感肌という概念は、人それぞれの肌の感応性レベルを反映している。何歳であっても敏感肌になり得るが、乳児および高齢者に非常に多く見られる。乳児の肌は、大人の肌の5分の1程度の厚さであり、したがって、化学的、物理的および微生物的なダメージ、ならびに紫外線に対して非常に敏感である。大人の肌のバリア機能は、加齢とともに代謝プロセスが鈍化することで徐々に弱くなる。また、肌の老化とともに脂質が徐々に不足し、アルカリ性物質、例えば、石鹸による刺激を受けやすくなる。
【0008】
皮膚の感応性の閾値が非常に低い場合、すなわち、外部からの僅かな刺激に対して過剰に反応する場合、これを不耐性皮膚、または反応性の不耐性皮膚という。不耐性皮膚は、外部からの傷害に対してより脆弱であり、日常的な不快感および高い刺激性によって特徴付けられる。多かれ少なかれ、いくつかの兆候があるため、それを認識することができる。例えば、顔の不耐性皮膚は、赤くてヒリヒリする(tingle)。それは、突っ張り(pull)、熱または痒みを引き起こす。また、灼熱感を引き起こす可能性もある。不耐性皮膚は、一般的にアレルギー体質であるため、化粧品の成分に特に敏感である。
【0009】
敏感肌とは、実際には、ピンおよび針の刺激に対して、発熱し、ヒリヒリし、痒みを感じやすい肌のことであり、時には赤みを伴う。これらの不快感は、正常な皮膚では刺激を引き起こさない刺激に反応して悪い方向で現れる。このような皮膚の過敏性は、皮膚の耐性閾値の低下に起因する。皮膚が敏感であればあるほど、その耐性閾値は低くなり、耐性閾値が最も低い場合、これは不耐性皮膚と呼ばれる。この過敏症は、様々な要因:
-化学的刺激物、例えば、特定の石鹸、家庭用洗剤、汚染物質と接触したときに起こる炎症反応。したがって、これらの物質を誘発する閾値(the threshold triggering these substances)が、敏感肌または不耐性皮膚を誘発する;
-表皮バリア機能の変化。この現象は、次いで、皮膚の脱水およびとりわけ潜在的な刺激物の浸透を促進する;
-心理的要因、例えば、ストレス;
-ホルモン要因;
-物理的要因、例えば、日光、温度変化(暖かい/冷たい)、風、エアコン、暖房、硬水
によって説明可能である。
【0010】
皮膚は表面の皮脂膜と呼ばれる保護膜で覆われている。この膜は、最も外側のバリアであり、最も壊れやすく、最も乱れやすく、皮膚の健康を最も代表するバリアでもあり、主に、皮脂腺から分泌される脂肪性の物質、角質細胞の角化段階における細胞の分解から生じる脂質、ならびに、親水性化合物(例えば、汗水、グリセロール、尿素、天然皮膚保湿因子、塩類、皮膚フローラの代謝物など)からなる。この表面の膜は、環境ストレス、衛生習慣および皮膚の状態に大きく曝され、敏感である。このバリア機能を維持し、さらには改善することが、特に最も敏感な皮膚にとって重要である。また、皮膚のバリア機能が低下している不耐性皮膚の人は、生理的に類似する(physio-mimetic)油分補給剤、特に皮膚軟化剤および生理的保湿剤を使用したケアが必要であることが知られているが、表面の皮脂膜を悪化させる可能性のある物質、例えば、界面活性剤または防腐剤に皮膚が接触することを避けることも重要である。
【0011】
敏感肌または不耐性皮膚は、非アレルギー性のメカニズムであり、特定のアレルゲンを認識せずに炎症反応を伴う。
【0012】
皮膚過敏症の病態生理学的メカニズムは、明確には解明されていないが、寄与している可能性のある2つのタイプの要因が特定される傾向がある。一方は、水分の喪失および角質間脂質の変化による皮膚バリアの変化である。皮膚は外部からの刺激物および刺激に対してより敏感になり、刺激はたとえ最小限であっても、炎症性サイトカインおよびアラキドン酸カスケードからの化合物の放出につながる。他方で、神経学的障害が、皮膚の過敏性および反応性の原因となる場合もある。表皮の細胞に到達する神経線維は、外部刺激の影響下で、神経原性炎症、すなわち皮膚の神経原性炎症を引き起こす神経伝達物質(例えば、サブスタンスP)を産生する。
【0013】
したがって、炎症性要素が神経原性炎症である敏感肌、不耐性皮膚を処置し、予防し、保護することができる組成物が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、これらのニーズを満たすこと、言い換えれば、皮膚の神経原性炎症を緩和または抑制することにより、敏感肌または不耐性皮膚の状態を保護および/または改善する組成物を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
初めて、本出願人は、地下水から単離された細菌株(または細菌)LMB64に由来する細菌抽出物の組織再生および皮膚病変の治癒における有益な特性を実証した。この細菌は、本出願人によって特許出願WO2012/085182に記載されている。より具体的には、S0、E0およびES0として既知の抽出物は、それぞれ、バイオマスから分離された培養上清、溶解した細胞バイオマス、および塩基性pHで数時間インキュベートした後の培養上清からなるものが記載され、例示されている。画分E0およびES0を試験したところ、これらの抽出物E0およびES0は、(E0の場合)サイトカインおよび成熟ランゲルハンス細胞を誘導する能力を有し、(ES0の場合)TLR2/TLR4/TLR5受容体を活性化し、PARに拮抗し、抗菌ペプチドを誘導する能力を有していることが示された。これらの結果から、炎症性疾患、例えば、掻痒症、乾癬、湿疹、アトピー性皮膚炎の処置に、このような抽出物の使用を検討することが可能となった。
【0016】
本発明の概要
本発明者らは、驚くべきことに、皮膚の神経原性炎症の予防および/または処置における特定の新規な細菌抽出物の有効性を明らかにした。
【0017】
実際、本発明者らは、この細菌抽出物が、サブスタンスPによって誘導されるIL-1βおよびTNF-αのケラチノサイトによる放出を抑制する効果を有することを実証した。
【発明を実施するための形態】
【0018】
詳細な説明
第1の実施形態によれば、本発明の目的は、本発明の細菌抽出物、ならびに皮膚の神経原性炎症の予防および/または処置における該細菌抽出物の使用である。
【0019】
特に、皮膚の神経原性炎症の予防および/または処置は、敏感肌または不耐性皮膚の保護および/または処置を含んでなるか、あるいは、敏感肌または不耐性皮膚の保護および/または処置からなる。
【0020】
特に、皮膚の神経原性炎症の予防および/または処置は、敏感肌の保護および/または処置を含んでなるか、あるいは、敏感肌の保護および/または処置からなる。
【0021】
特に、皮膚の神経原性炎症の予防および/または処置は、不耐性皮膚の保護および/または処置を含んでなるか、あるいは、不耐性皮膚の保護および/または処置からなる。
【0022】
細菌LMB64は、ベータプロテオバクテリア綱(Betaproteobacteria)ナイセリア科(Neisseriaceae)の亜科の、おそらくはまだ定義されていない新しい属に属するものとして特徴づけられ、定義されている。16SリボソームRNA(rRNA)をコードする遺伝子配列の解析により、この細菌は、クロモバクテリウム属(Chiromobacterium)、パルディモナス属(Paludimonas)、ルテリア属(Lutelia)およびグルベンキアナ属(Glubenkiana)に近く、95%の配列類似性を有していることが明らかになった。この非病原性グラム陰性菌は、地下水から単離されている。より具体的には、細菌LMB64は、長さ約2.3μm±0.3μm、幅約1.0μm±0.1μmの棒状である。この細菌の特徴は、極鞭毛が存在することである。
【0023】
16S rRNAをコードする遺伝子は、ほぼ完全に配列決定されている(1487bp、配列番号1の配列に対応)。細菌LMB64は、10948bpの環状プラスミドを有する。このプラスミドは、完全に配列決定されており、配列は、配列番号2に示されている。
【0024】
別の実施形態によれば、本発明の細菌抽出物が由来する細菌は、配列番号2の配列または配列番号2の配列と80%以上、有利には85%以上、90%以上、95%以上、もしくは97%以上、より好ましくは98%以上の同一性を有する任意の配列を含んでなる1つ以上のプラスミドを含む。
【0025】
また、本発明の細菌抽出物が由来する細菌は、ベータプロテオバクテリア綱ナイセリア科の亜科に属する非病原性グラム陰性細菌で、該細菌は、配列番号1の配列または配列番号1の配列と80%以上、90%以上、95%以上もしくは97%以上の同一性を有する任意の配列を含んでなる16S rRNAを含み、かつ、該細菌は、配列番号2の配列または配列番号2の配列と80%以上、有利には90%以上、95%以上もしくは97%以上、より好ましくは98%以上の同一性を有する任意の配列を含んでなる1つ以上のプラスミドを含む。
【0026】
例として、そのような細菌は、出願人に代わって、2010年4月8日にパリのパスツール研究所のCollection Nationale de Cultures de Microorganismes(CNCM)に番号I-4290として寄託された株LMB64によって代表される。
【0027】
この遺伝子型情報を有することを、硫黄を含まない培地での増殖特性と、この細菌の非フィラメント性と組み合わせて、当業者は、本発明の細菌抽出物を得ることを可能にする別の細菌を見つけること/同定することに何の困難もないであろう。遺伝子型的にはわずかに異なるかもしれないが、細菌抽出物に関して本発明の表現型基準を満たす別の細菌のそのような同定は、本出願に含まれる情報および出願WO2012/085182に含まれる情報と、当業者の一般的な知識との組み合わせに基づいて、決して克服不可能ではない選択プロセスを経て実施することができる。
【0028】
本発明の文脈において、2つの核酸配列間の「パーセンテージ同一性」とは、最良なアラインメント(最適アラインメント)の後に得られる、比較される2つの配列間の同一のヌクレオチドのパーセンテージを意味し、このパーセンテージは純粋に統計学的なものであり、2つの配列間の差はランダムにその全長にわたって分布している。2つの核酸配列間の配列比較は、伝統的に、最適にアラインメントされた後にこれらの配列を比較することによって行われており、これは、セグメントごとに、または「比較ウインドウ(comparison window)」ごとに行われ得る。比較のための配列の最適アラインメントは、手動で行うことに加えて、Smith and Waterman (1981) [Ad. App. Math. 2:482]の局所的相同性アルゴリズムにより、Needleman and Wunsch (1970) [J. Mol. Biol. 48:443]の局所的相同性アルゴリズムにより、Pearson and Lipman (1988) [Proc. Natl. Acad. Sci. The USA 85:2444]の同様の検索方法により、または、これらのアルゴリズムを使用したコンピュータソフトウェア(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Group Computer,575 Science Dr.,Madison,WI、または、BLAST NもしくはBLAST P比較ソフトウェアのGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTA)により実施することができる。
【0029】
2つの核酸配列間のパーセンテージ同一性は、これら2つの最適にアラインメントされた配列を比較することによって決定され、その際、比較される核酸配列は、これら2つの配列間の最適アラインメントのために、参照配列に関して挿入または欠失を含んでいてもよい。パーセンテージ同一性は、2つの配列間でヌクレオチドが同一である同一の位置の数を決定し、この同一の位置の数を比較ウインドウ内の総位置数で除算し、その結果に100を乗算することにより算出されて、これら2つの配列間のパーセンテージ同一性を得る。
【0030】
例えば、BLASTプログラム、具体的には、ウェブサイトhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/gorf/bl2.htmlで入手可能な「BLAST 2 sequences」(Tatusova et al., “Blast 2 sequences - a new tool for comparing protein and nucleotide sequences”, FEMS Microbiol Lett. 174:247-250)を使用することができ、既定値のパラメータ(特にパラメータ「open gap penalty」:5および「extension gap penalty」:2とし、選択されるマトリックスは、例えば、プログラムにより提案される「BLOSUM 62」マトリックスである)を使用することができる。比較される2つの配列間のパーセンテージ同一性は、プログラムにより直接的に算出される。その他のプログラム、例えば、「ALIGN」または「Megalign」(DNASTAR)を使用することもできる。
【0031】
本発明の細菌、特に細菌LMB64は、配列番号2の配列または該配列番号2の配列と80%以上、好ましくは85%以上、90%以上、95%以上、98%以上の同一性を有する任意の配列を含んでなる1つ以上のプラスミドを含む。該細菌、特に細菌LMB64のその他の特徴は、実施例において以下に詳述される。
【0032】
一般に、「本発明の細菌抽出物」という用語は、発酵培地から細菌細胞を単離し、それらを溶解(特に凍結融解による溶解)し、水性溶媒に再懸濁し、そして、細胞質成分、可溶性細胞内細胞性化合物、可溶性膜化合物/分子、可溶性膜貫通化合物/分子、可溶性ペリプラズム化合物/分子および可溶性鞭毛化合物/分子、特にタンパク質を含んでなる液体画分を回収した後に得られる細菌の細胞質に存在する可溶性化合物を含んでなるセットを言い表すために使用される。
【0033】
「可溶性膜化合物/分子、可溶性膜貫通化合物/分子、可溶性ペリプラズム化合物/分子および可溶性鞭毛化合物/分子」という表現は、細胞質領域もしくはペリプラズム領域、膜領域もしくは膜貫通領域または鞭毛に含まれるタンパク質およびその他の可溶性化合物であって、本発明の細菌の溶解により放出されるタンパク質およびその他の可溶性化合物を指す。これらのタンパク質および化合物は、本発明の方法、言い換えれば、発酵培地から細胞集団を単離し、次いで、溶解(例えば、凍結融解による溶解)した細菌の細胞集団に液体/固体分離を実施し、次いで、液相を回収することによって得られる。これらの可溶性の細胞質、膜、ペリプラズムおよび/または鞭毛の細胞内タンパク質または化合物は、例えば、溶解によって放出され、水または水性溶媒に可溶なリボソーム、細胞代謝に関連する酵素、リポ多糖類、糖類、リポタンパク質、膜およびペリプラズムを含む。
【0034】
細菌は二分裂により増殖する。すなわち、それぞれの細菌が成長した後、細胞壁により形成された分裂隔壁により隔てられた2つの娘細胞に分裂する。分裂の間に、DNAは、それ自身およびその他の成分を複製する。細胞分裂には、合成および分解の様々な酵素系が関与している。
【0035】
細菌の増殖は、細菌の全成分の秩序ある増加である。それは、細菌数の増加につながる。成長の間、培養培地では、栄養分が枯渇し、細菌によって培養培地中に分泌および排出され、この培地中で可溶化された生体分子、ならびに代謝副産物が富化される。
【0036】
「培養培地」という表現は、少なくとも細菌の成長および増殖に必要な栄養素を含む任意の培地を指す。細菌は、液体、固体または半液体の培地で増殖させることができる。好ましくは、培養培地は、バイオマスの増殖および回収を可能にし、本発明の細菌抽出物の生産を可能にする液体培地である。
【0037】
適切な培養培地は、細菌の成長および増殖を促進する栄養素を含む。一般に、適切な成長培地は、水、炭素源、窒素源および塩類を含む場合がある。
【0038】
「発酵培地」または細菌培養物は、細菌の成長および発育の終わりに細菌を含む培養培地に対応するものであると言うことができる。
【0039】
実際には、細菌の成長、発育および増殖を可能にし、液相から分離、例えば、遠心分離した後に、細胞の回収を可能にする培養培地における本発明の細菌の培養物から、本発明の細菌抽出物、特に細菌LMB64の抽出物をペレットまたはバイオマスの形態で得ることができる。このバイオマスは、細胞膜および細胞壁を透過可能にし、分解するための処理、例えば、凍結融解による処理に供される。処理されたバイオマス、特に解凍されたバイオマスを塩基性緩衝液と一緒に取り、次いで、混合物の固液分離を、例えば、遠心分離により行うことによって、本発明の抽出物を得ることができる。このようにして、本発明の抽出物を表す水相が得られる。
【0040】
液体/固体分離の任意の手段によっても、発酵培地からバイオマスを回収することができる。したがって、より具体的には、当業者に既知の技術を使用して、主に全細胞を含む細胞バイオマスと、表面タンパク質および/または細菌のペリプラズム領域に局在するタンパク質を含んでなる細胞デブリを含む細胞バイオマスとを、培養培地からの残留溶質および細菌によって排出された生体分子であって、発酵培地中で可溶化された該生体分子を含む液体画分から単離することが可能である。
【0041】
実例として、液体/固体分離は、遠心分離、沈降(sedimentation)、濾過、限外濾過、沈殿(settling)から選択される技術により実施可能である。
【0042】
好ましくは、液体/固体分離は、一方の固相、すなわち、細胞および細胞デブリを含むバイオマスペレットと、他方の液相、すなわち、発酵中に排出された可溶性分子および細菌によって消費されない、培養培地の残留化合物を含んでなる上清とを分離するために、細菌培養物を含む発酵培地の遠心分離によって実施される。
【0043】
固相、すなわち、得られたバイオマス、特に遠心分離ペレットは、細胞膜の破壊につながる工程、例えば、凍結とそれに続く解凍工程に供される。
【0044】
凍結は、水が固化し、細胞内および膜間結晶が形成され、したがって、膜が少なくとも部分的に破壊されることを可能にするいかなる負の温度でも実施することができる。
【0045】
特に、凍結は、-10℃、-20℃、-30℃、-40℃、-50℃、-60℃、または約-80℃の温度で実施可能である。好ましくは、凍結は約-20℃で実施される。
【0046】
凍結時間および速度は、それ自体は重要ではない。凍結時間は温度に依存する場合があり、例えば、1時間~数時間が適切である。また、凍結した固相は、必要でない場合、数日、数週間または数ヶ月間保存可能である。
【0047】
凍結の速度または解凍の速度も重要ではなく、細菌の壁および膜の変性を可能にする条件が求められる。
【0048】
用語「解凍」は、氷の結晶を融解することを可能にする正の温度に戻すことを意味する。
【0049】
壁および膜の浸透化および破壊を行うこの工程はまた、化学的、超音波的または機械的手段、例えば、界面活性剤、カオトロピック剤、ガラスビーズなどによっても実施可能である。
【0050】
この工程により、溶解または損傷した細胞のこの固相に存在する可溶性の細胞質内化合物の放出が可能となる。
【0051】
次いで、この固相に水性溶媒の形態の液相を添加し、溶解または損傷した細胞を再懸濁し、該溶媒に可溶な細胞質可溶性化合物を抽出する。
【0052】
水性溶媒は、好ましくは緩衝液、特に塩基性緩衝液である。好ましくは、この塩基性緩衝液は、トリス緩衝液またはアルギニン緩衝液またはトリス-アルギニン緩衝液である。好ましくは、アルギニン緩衝液である。アルギニン濃度は、0.1~1M、特に0.3~0.5Mで構成されてもよい。トリス濃度は、1~100mM、特に20mMで構成されてもよい。塩基性緩衝液のpHは、8~12、好ましくは9~11であってもよい。
【0053】
この再懸濁工程により、溶解または損傷した細胞のバイオマスに含まれる細胞質可溶性化合物を抽出することができる。
【0054】
最後に、液体/固体分離を行い、可溶性の細胞質化合物を含む水性液相、特に緩衝液の水性液相を回収する。
【0055】
こうして得られたこの液相は、本発明の抽出物を表す。
【0056】
再懸濁工程のための固相/水性液相の比率は、1~10%w/vで構成されていてもよい。
【0057】
塩基性緩衝液を使用することにより、外部膜の透過性をさらに高め、ペリプラズム領域から液体媒体への分子の拡散を促進することが可能となる。また、塩基性緩衝液を使用することにより、化合物、特に可溶性タンパク質を安定化させることが可能となり、長期保存期間中の凝集およびプロテアーゼの作用による分解を防止することができる。
【0058】
抽出物を清澄化し、精製された本発明の抽出物をもたらすために、1以上の濾過工程を実施してもよい。
【0059】
濾過は、液相または緩衝液相の清澄化を可能にする適切な手段によって実施されてもよい。濾過によるそのような清澄化は、第2の液体/固体分離工程において除去されない懸濁粒子の除去を可能にし、精製された澄んだ本発明の細菌抽出物の生成を目的とする。
【0060】
濾過は、濾過、限外濾過または透析濾過の任意の手段によって実施可能である。
【0061】
有利には、濾過は、0.4μm、好ましくは0.2μmのカットオフを有するフィルターまたはフィルターカートリッジ上での濾過によって実施される。この場合、細菌抽出物は、細菌抽出物中に存在する化合物の大きさが0.2μm以下であることを特徴とする。
【0062】
好ましくは、抽出物の活性の全部または一部に関与する生体分子の吸収を避けるために、静電気的に帯電していないフィルターまたはプレフィルターを使用してもよい。
【0063】
異なる工程は、実施例においてより詳細に記載される。本明細書に関して当業者には自明と思われる方法、媒体、または一連の工程のいかなる改変も、本発明の範囲内に収まると考えられなければならないことが理解される必要がある。
【0064】
一実施形態によれば、本発明の方法は、本発明の細菌抽出物を調製するための方法からなり、該方法は、以下の工程:
a)本発明の細菌、特にLMB64を、好適な培地で培養して細菌培養物を得る工程;
b)前記培養物の液体/固体を分離し、液相を除去する工程;
c)前記分離された固相の細胞を溶解する工程;
d)前記固相の溶解物を、水性液相、好ましくは緩衝化された水性液相に再懸濁する工程;
e)前記再懸濁された液体/固体を分離し、液相を回収する工程;
f)必要に応じて、前記回収された液相をろ過する工程
を含んでなる。
【0065】
好ましい実施形態において、固相の細胞溶解の工程c)は、凍結に続いて解凍することによって実施される。
【0066】
特定の実施形態によれば、細菌は、配列番号1の配列または配列番号1の配列と80%以上の同一性を有するいかなる配列をも含んでなる16S rRNAを含む、ベータプロテオバクテリア綱ナイセリア科の亜科に属する非病原性グラム陰性細菌であり、より好ましくは細菌LMB64である。
【0067】
好ましくは、細菌は、配列番号2の配列または配列番号2の配列と80%以上の同一性を有するいかなる配列をも含んでなる1つ以上のプラスミドを含む。
【0068】
一実施形態によれば、本発明は、上記の本発明の方法によって得られる細菌抽出物または得ることができる細菌抽出物に関する。
【0069】
一実施形態において、本発明は、皮膚の神経原性炎症の予防および処置に使用するための本発明の細菌抽出物、特に、本発明の方法によって得られる抽出物または得ることができる抽出物に関する。
【0070】
有利には、皮膚の神経原性炎症は、敏感肌および/または不耐性皮膚を含む。
【0071】
別の実施形態によれば、本発明は、皮膚の神経原性炎症の予防および処置に使用するための化粧品組成物または皮膚科用組成物であって、本発明の1以上の細菌抽出物を、化粧品としてまたは皮膚科学的に許容可能な1種以上の賦形剤とともに含んでなる化粧品組成物または皮膚科用組成物に関する。
【0072】
別の実施形態によれば、本発明は、敏感肌または不耐性皮膚の保護および/または処置に使用するための化粧品組成物または皮膚科用組成物であって、本発明の1以上の細菌抽出物を、化粧品としてまたは皮膚科学的に許容可能な1種以上の賦形剤とともに含んでなる化粧品組成物または皮膚科用組成物に関する。特に、これは、皮膚の神経原性炎症を起源とする敏感肌または不耐性皮膚である。
【0073】
本発明はまた、皮膚の神経原性炎症の予防および処置を目的とした医薬品の製造のための化粧品組成物または皮膚科用組成物の使用であって、本発明の1以上の細菌抽出物を、化粧品としてまたは皮膚科学的に許容可能な1種以上の賦形剤とともに含んでなる化粧品組成物または皮膚科用組成物の使用に関する。
【0074】
本発明はまた、皮膚の神経原性炎症を予防および/または処置するための方法であって、本発明の1以上の細菌抽出物を、化粧品としてまたは皮膚科学的に許容可能な1種以上の賦形剤とともに含んでなる化粧品組成物または皮膚科用組成物の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含んでなる方法にも関する。
【0075】
有利には、皮膚の神経原性炎症は、敏感肌および/または不耐性皮膚を含む。
【0076】
本発明において、「化粧品としてまたは皮膚科学的に許容可能な」とは、化粧品組成物または皮膚科用組成物の調製に有用であり、一般に安全であり、無毒であり、生物学的にもそれ以外の点でも望ましくないものではなく、化粧品としての使用または皮膚科学的使用、特に局所適用による化粧品としての使用または皮膚科学的使用に許容可能であることを意味する。
【0077】
特定の実施形態によれば、本発明の組成物は、局所適用に適した形態である。
【0078】
活性成分の特性およびアクセス性を改善するために、本発明の化粧品組成物または皮膚科用組成物は、特に皮膚浸透を可能にする賦形剤を有する、局所投与のために一般に知られている形態、すなわち、ローション、フォーム、ゲル、分散液、エマルジョン、スプレー、セラム(serum)、マスクまたはクリーム、ゼリー、特にミセルゼリーであってもよい。有利には、クリーム、リッチクリーム、ローション、アイケア製品、UVケア製品である。
【0079】
これらの組成物は、一般に、本発明の細菌抽出物の化合物に加えて、一般に水または溶媒、例えば、アルコール、エーテルまたはグリコールに基づく生理的に許容可能な媒体を含む。それらはまた、界面活性剤、錯化剤、防腐剤、安定剤、乳化剤、増粘剤、ゲル化剤、保水剤、皮膚軟化剤、微量元素、エッセンシャルオイル、香料、染料、マット剤、化学的または鉱物フィルター、保湿剤、温泉水(thermal water)などを含んでいてもよい。
【0080】
有利には、本発明の組成物は、組成物の総重量に基づいて、本発明の細菌抽出物を0.05~10重量%、好ましくは0.1~5重量%、より好ましくは0.5~3重量%含んでなる。
【0081】
本発明の組成物は、一日中快適を維持する保護を提供する。特に、敏感肌、反応性の皮膚、特に乳児の肌に適用することができる。
【0082】
好ましくは、本発明の組成物は、敏感肌を予防、保護および/または処置するために使用される。
【0083】
一般に、敏感肌は、皮膚の特定の反応性によって定義される。この皮膚の反応性は、様々な起源を有し得る誘発要因との対象の接触に応答して不快感の徴候の出現によって古典的に表現される。これは、敏感肌の表面への化粧品の適用、食物の摂取、急激な温度変化への曝露、大気汚染および/または紫外線もしくは赤外線に関連する場合がある。また、年齢および肌タイプに関連した要因もある。したがって、敏感肌は正常な肌よりも、乾燥肌または脂性肌に起こることが多い。本発明の意味では、敏感肌は、過敏性皮膚および不耐性皮膚をカバーする。
【0084】
このような組成物は、当業者に周知の方法に従って製造可能である。
【実施例】
【0085】
本発明は、その範囲を限定することなく、それを例示する以下の実施例を読むことによって、よりよく理解されるであろう。
【0086】
実施例1:細菌LMB64の培養
例として、好ましい培養培地は、塩化アンモニウム、硫酸マグネシウムおよび酵母エキスを含む。また、出願WO2012/085182等に示されているように、その他の類似の培地が使用されてもよく、したがって、本明細書の不可欠な部分として考慮されるべきであることにも留意すべきである。当業者によるいかなる改変もまた、本発明の一部として考慮されなければならない。
【0087】
培養方法の例を以下に記載する。この例は例示的なものに過ぎず、いかなる意味でも限定的であると考えられるべきではないことをここで想起すべきである。
【0088】
株LMB64は、3工程、すなわち、最初の植菌、バッチモードでの前培養(または前発酵)、そして最後の培養を行うが、フェッドバッチモード(グルコースの添加)で培養する。
【0089】
植菌:WCB LMB64のチューブを使用して、1000mLの滅菌培地を入れた三角フラスコに植菌する。次いで、この三角フラスコを振盪培養機に入れ、振盪する。培養液の細胞密度が十分になったとき、培養を停止する。次いで、細胞を前発酵槽(prefermenter)に移すまで冷却しておく。
【0090】
前培養:次いで、前発酵槽を、約16Lの培地で満たし、完全に滅菌する。
【0091】
前発酵槽および追加のブロックを滅菌した後、2個のサテライトバイアル(satellite vial)を前発酵槽に接続する。
-滅菌された50%グルコース溶液を含むバイアル。この溶液(グルコースバッチ前培養)は、初期グルコース濃度が20g/Lになるように直ちに培養培地に移される。
-上記植菌工程で説明した植菌液を入れた三角フラスコは、前発酵槽に植菌される。
【0092】
前培養が開始され、その後、自動的に調整される。例として、以下のパラメータ:温度、攪拌速度、圧力、空気流量またはpO2を挙げることができる。
【0093】
620nmにおける光学密度の測定によって、細胞の成長をモニターする。十分な密度に達した時点で冷却することにより、前培養を停止する。
【0094】
培養:発酵槽(fermenter)を、pH7.0に調整された培地127Lで満たし、完全に滅菌する。3個のサテライトバイアルを使用する。
-滅菌されたグルコース溶液を含むバイアル。この溶液は、初期グルコース濃度が20g/Lになるように直ちに培養培地に移される。
-消泡剤のボトル。この消泡剤は、培養中に自動的に添加され、発酵槽内の泡のレベルをコントロールする。
-フェッドバッチグルコースのボトル。この溶液は、細胞の成長をサポートするために培養中に添加される。
【0095】
培養が開始され、その後、自動的に調整される。例として、以下のパラメータ:温度、pH、攪拌、圧力、空気流量、pO2を挙げることもできる。
【0096】
培地中に最初に存在するグルコースを枯渇させた後(pO2の上昇)、フェッドバッチグルコース溶液の添加が誘発され、高密度の細胞増殖を可能にする。発酵は、全グルコースの消費後に停止される。この段階で、発酵液は、自動的に冷却される必要がある。培養中、620nmでの光学密度の測定によって、細胞の成長をモニターする。培養終了時に得られた乾燥バイオマスの量(g/L)は、重量法を使用して決定する。
【0097】
実施例2:本発明の画分の抽出
以下の例は、好ましい実施形態の例示として示されているが、限定的と考えるべきではない。
【0098】
本発明の細菌抽出物は、上清を除去し、バイオマス、すなわち、細菌の細胞、表面タンパク質、ペリプラズム領域に位置するタンパク質および細胞内タンパク質(凍結工程に起因して存在)を保持するために、培養工程の結果物を遠心分離した後に、通常得られる。遠心分離工程では、発酵槽から遠心分離機への搬送ラインを滅菌する。次いで、遠心分離機で連続的に遠心分離することによって、発酵物を分離する。10900±1000rpmの回転速度(bowl speed)で150L/h(±30L/h)、遠心分離を実施する。細胞を使い捨ての袋に回収する。超低温殺菌の間に、上清を除去する。この遠心分離工程に続いて、ペレットを-20℃で1時間以上凍結する工程を実施する。
【0099】
110リットルのトリス-アルギニン抽出緩衝液を、発酵槽内で滅菌する。蠕動ポンプを介して、室温で事前に解凍された細胞を発酵槽に移送する。必要な接触時間は1~7時間である。使い捨ての袋への添加後のトリスおよびアルギニンの目的の濃度は、約0.3MのL-アルギニンおよび20mMのトリスである。
【0100】
遠心分離機で連続的に遠心分離することにより、発酵物を分離する。10900±1000rpmの回転速度で100L/h(±30L/h)、遠心分離を実施する。流出液(effluent)の濁度に応じて、濁度20%の設定点で自動的に部分沈殿を開始する。一連の全沈殿操作は、分離する量の半分で手動により開始される。上清を使い捨ての袋に回収する。超低温殺菌中に、細胞を除去する。
【0101】
上清を清澄化し、無菌の本発明の細菌抽出物を得るために、2つの濾過工程をインライン(in line)で実施する。濾過/分配システムによって、濾過を制御する。使い捨てのデプスフィルターカートリッジを、そのフィルターハウジング内に配置する。濾過段階の安全性を確保するために、濾過マニホールドは、その圧力計を備える。プレ濾過モジュールを約92L±5Lの精製水ですすぎ、濾過される生成物の袋を接続して振盪する。最後に、0.2μm 30”PES濾過カートリッジを残りの濾過システムに接続する。蠕動ポンプを使用して、240L/h±10Lの初期流量で濾過を実施する。フィルター上流の圧力が1.2barに達すると、濾過流量を減少させる。400Lの使い捨て袋を備えた容器に、濾過された生成物の全量を無菌的に回収する。濾過された生成物の袋を、天秤皿で計量し、分配するまで+5℃で保存する。使用後、滅菌フィルターを外し、完全性試験で確認する。
【0102】
実施例3:皮膚の神経原性炎症に対する本発明の細菌抽出物の効果
本試験の目的は、皮膚の炎症における本発明の細菌抽出物の調節特性を評価することである。そのために、サブスタンスPによって活性化されたヒト表皮ケラチノサイトによる腫瘍壊死因子-α(TNF-α)およびインターロイキン-1β(IL-1β)の産生および放出の測定に基づくin vitroの実験的アプローチが、皮膚の神経原性炎症のin vitroモデルとして提案されている。
【0103】
プロトコル
正常なヒト表皮ケラチノサイトに対して、この試験を実施する。これらの細胞は新生児の包皮から得られたものである。従来の実験室での手順を使用して、これらの細胞を無血清培地で培養する。試験される化合物(本発明の細菌抽出物および参照化合物)の非存在下(対照条件)または存在下で、場合によりサブスタンスPに曝露された培地中で培養されたこれらのケラチノサイトについて、皮膚の神経原性炎症のマーカーの決定を実施する。炎症性サイトカイン(TNF-αおよびIL-1β)のレベルは、サブスタンスP(0.5μM)の添加による炎症性ストレスの誘導の24時間後に定量される。同時に、参照化合物として選択的NK-1R阻害剤である化合物CP96345を1μMで試験する。2つの異なるケラチノサイトドナーで、各実験条件を実施する。
【0104】
TNF-αおよびIL-1β産生を培養培地中で測定し、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)により定量する。データが正規性検定に合格しないため、統計解析(*p<0.05;**p<0.01または***p<0.001)は、ノンパラメトリック検定を使用して阻害率を決定し、次いで、ポストホック検定としてDunnの多重比較検定を実施する。
【0105】
IL-1β放出(pg/mg総タンパク質)に関する結果を以下の表1にまとめる。
【0106】
【0107】
ケラチノサイトをサブスタンスPに曝露すると、IL-1βの実質的かつ統計的に有意な放出が誘導される。1μMのCP96345で処理すると、IL-1β産生が強力に減少する(91%、p<0.05)。この結果は、非常に説得力のあるものである。すなわち、このNK-1R阻害剤の使用によって、この試験の有効性が確認される。本発明の化合物によるケラチノサイトの処理は、サブスタンスPによって誘導されるIL-1β放出の濃度依存的な阻害を可能にする。試験した最初の濃度(1.64μg/mLタンパク質)は、有意差に達しないが、それでも、このIL-1β放出を80%減少させる。5.45μg/mLおよび16.36μg/mL(μL/mLタンパク質)の濃度では、この阻害は統計的に有意である(93%および96%の阻害、それぞれp<0.05およびp<0.01)。
【0108】
TNF-α放出(pg/mg総タンパク質)に関する結果を以下の表2にまとめる。
【0109】
【0110】
ケラチノサイトをサブスタンスPに曝露すると、TNF-αの実質的かつ統計的に有意な放出が誘導される。1μMのCP96345で処理すると、TNF-α産生が有意に減少する(90%、p<0.05)。この結果はまた、非常に説得力のあるものである。すなわち、このNK-1R阻害剤の使用によって、この試験の有効性が確認される。本発明の細菌抽出物によるケラチノサイトの処理は、サブスタンスPによって誘導されるTNF-α放出の濃度依存的な阻害を可能にする。試験した最も低い濃度の本発明の細菌抽出物は、TNF-α放出を60%減少させる。この阻害は有意性の閾値には達しないが、実証された濃度応答効果は、本発明の細菌抽出物がこの試験において非常に活性であることを明確に示している。16.36μg/mLのタンパク質濃度では、この阻害は統計的に有意である(77%の阻害、p<0.01)。
【0111】
このように、本発明者らは、本発明の細菌抽出物が、サブスタンスPを介して産生されるサイトカインの産生を有意に阻害することが可能であることを実証した。したがって、本発明のこの細菌抽出物は、皮膚の神経原性炎症の処置に有効である。
【0112】
実施例4:正常ヒト表皮ケラチノサイトのモデルにおける自然免疫の遺伝子発現プロファイルに対する本発明の細菌抽出物の効果
皮膚のバリア機能には、微生物に対する防御も含まれている。上皮は、生得的な宿主防御において積極的な役割を果たしている。皮膚の抗菌システムは、数ある中でも、特定の表面脂質および特定の構成タンパク質の存在に基づいている。これらのタンパク質は抗菌活性を有する。さらに、表皮表面の酸性化は、皮膚の抗菌防御なしでも、重要な役割を果たしている。このように、皮膚は、物理的なバリアとしてだけでなく、化学的なバリアとしても機能している。抗菌ペプチドの誘導性分泌に基づく自然免疫の順応的要素もある。後者は、上皮細胞および炎症性細胞に作用し、細胞増殖およびサイトカイン産生に影響を与えることにより、炎症のメディエーターとして重要な役割を果たす。それらの作用様式は、感染性微生物の細胞膜を破裂させること、または細胞内代謝を妨害するために微生物の中に入ることで構成されている。皮膚で最も研究されている抗菌ペプチドは、β-デフェンシンおよびカテリシジンである。ヒトのβ-デフェンシンは、ヒト上皮に見られる抗菌ペプチドの主要な部類であり、そのうち4つが皮膚で同定されており、HBD1~4である。これらは同一のファミリーに属しているが、異なる経路で制御されている。4kDaのヘパリン結合ペプチドであるヒトβ-デフェンシン2(hBD2)は、主要な皮膚抗菌ペプチドの1つである。hBD2ペプチドの発現は、炎症状態を反映するサイトカイン(IL-1α、IL-1βおよびTNF-α)の分泌によって、あるいは、細菌または真菌との接触によって誘導される。
【0113】
本試験の目的は、自然免疫に関連する2つの遺伝子についてのRT-PCR法により、正常ヒト表皮ケラチノサイトの遺伝子発現に対する本発明の細菌抽出物の影響を評価することである。
【0114】
本試験は、3人のドナーから得た正常ヒト表皮ケラチノサイトに対して実施される。これらの細胞を3回目の継代時に使用する。従来の実験室手順を使用して、上皮成長因子(EGF)、下垂体抽出物(PE)およびゲンタマイシンを補充した標準培地中で、これらの細胞を培養する。
【0115】
本発明の細菌抽出物を、3つの濃度:0.4、2および10μg/mL(μg/mLタンパク質)で試験する。
【0116】
同時に、塩化カルシウムを参照として1.5mMで試験する。
【0117】
ケラチノサイトを24ウェルプレート(50,000細胞/ウェル)に播種し、培養培地中で24時間培養する。次いで、培地を、本発明の細菌抽出物もしくは塩化カルシウム(参照)を含む試験培地または含まない試験培地(対照条件、DMSO)に交換し、細胞をこれらの条件で48時間インキュベートする。このインキュベーション期間の終了時に、細胞を緩衝液で洗浄し、直ちに-80℃の温度で凍結する。
【0118】
各条件で細胞から抽出したトータルRNAについて、RT-qPCR法により、マーカーの発現を解析する。Tripure Isolation(登録商標)試薬を使用して、供給業者の使用説明書に従って各試料中のトータルRNAを抽出する。キャピラリー電気泳動により、RNAの量および質を評価する。オリゴ(dT)およびトランスクリプター逆転写酵素の存在下でトータルRNAを逆転写することにより、cDNAを合成する。次いで、cDNAの量を調製し、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)工程に供する。
【0119】
供給業者のデータに従ってLightCycler(登録商標)システム(ロシュ社)を使用して、PCRを実施する。
【0120】
データは、Microsoft Excelソフトウェアによって解析される。
【0121】
増幅されたDNAへの蛍光の取り込みは、PCRサイクル中に連続的に測定される。これにより、蛍光強度と、各マーカーの相対発現値に対するPCRサイクル数との間のグラフ表示が得られる。
【0122】
本試験で使用したPCR法には、2つの参照遺伝子(RPL13AおよびTBP)が含まれている。これらの遺伝子の発現は構成的であり、したがって、理論的に安定であるため、データの正規化にこれらの遺伝子を使用する。よって、すべての条件について、標的遺伝子の発現レベルをこれら2つの参照マーカーの発現レベルの平均値と比較する。
【0123】
相対発現/100としてパラメータRQ(相対定量化)を定義する。すべての結果は、乗数(number of times)を表す乗法因子(multiplicative factor)で表され、RQ>1の場合は遺伝子が過剰発現し、RQ<1の場合は遺伝子が低発現している。
【0124】
以下の表3は、対照条件に対する処理条件の効果を分類したものである。
【0125】
【0126】
結果
ポジティブコントロールとして使用した1.5mM 塩化カルシウムで正常ヒト表皮ケラチノサイトを処理すると、自然免疫の標的遺伝子の強発現が誘導される。この結果により、実験条件の有効性が確認される(表4)。
【0127】
【0128】
表5は、試験した3つの濃度における本発明の細菌抽出物の効果を要約している。
【表5】
【0129】
本発明者らは、すべての試験された濃度の本発明の細菌抽出物が、濃度依存的にHBD2およびS100A7遺伝子の発現を誘導することを実証した。
【0130】
本発明の細菌抽出物は、抗菌ペプチドの誘導を増強する能力を有する。自然免疫を刺激することにより、抗菌ペプチドは皮膚の防御を誘導し、皮膚バリアを保護するのに役立つ。
【0131】
これらすべての結果、すなわち、皮膚バリアを保護する補助と組み合わせた皮膚の神経原性炎症の緩和は、本発明の細菌抽出物が、敏感肌および/または不耐性皮膚に真に作用することを示す。
【配列表】