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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】超高強度冷延鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230929BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20230929BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20230929BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/14
C21D9/46 G
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021564659
(86)(22)【出願日】2020-05-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-06
(86)【国際出願番号】 KR2020006387
(87)【国際公開番号】W WO2021117989
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2021-10-29
(31)【優先権主張番号】10-2019-0162495
(32)【優先日】2019-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】510307299
【氏名又は名称】ヒュンダイ スチール カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100196047
【弁理士】
【氏名又は名称】柳本 陽征
(72)【発明者】
【氏名】ノー、ヒョンソン
(72)【発明者】
【氏名】グ、ナムフン
(72)【発明者】
【氏名】メン、ハンソル
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/168962(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/003540(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/146886(WO,A1)
【文献】特開2011-195958(JP,A)
【文献】特開2013-227657(JP,A)
【文献】国際公開第2020/129402(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/085336(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 38/14
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素(C):0.10~0.40質量%、シリコン(Si):0.10~0.80質量%、マンガン(Mn):0.6~1.4質量%、アルミニウム(Al):0.01~0.30質量%、リン(P):0超過0.02質量%以下、硫黄(S):0超過0.003質量%以下、窒素(N):0超過0.006質量%以下、チタン(Ti):0超過0.05質量%以下、ニオブ(Nb)0以上0.05質量%以下、ボロン(B):0.001~0.003質量%、残部鉄(Fe)及びその他の不可避不純物であり、
面積分率で95%以上のテンパードマルテンサイト(tempered martensite)を含む微細組織を有し、
90゜曲げ加工性(R/t)が1.5以下であり、
前記チタン(Ti)に対するニオブ(Nb)の質量比(Nb/Ti)が1.5以下であることを特徴とする超高強度冷延鋼板。
【請求項2】
モリブデン(Mo):0超過0.2質量%以下をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の超高強度冷延鋼板。
【請求項3】
降伏強度(YS):1200MPa以上、引張強度(TS):1470MPa以上および延伸率(EL):5.0%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の超高強度冷延鋼板。
【請求項4】
ASTM G39-99規格に基づいた水素遅延破壊試験(4-point load test)時、100時間以上破断が発生しないことを特徴とする、請求項1に記載の超高強度冷延鋼板。
【請求項5】
炭素(C):0.10~0.40質量%、シリコン(Si):0.10~0.80質量%、マンガン(Mn):0.6~1.4質量%、アルミニウム(Al):0.01~0.30質量%、リン(P):0超過0.02質量%以下、硫黄(S):0超過0.003質量%以下、窒素(N):0超過0.006質量%以下、チタン(Ti):0超過0.05質量%以下、ニオブ(Nb)0以上0.05質量%以下、ボロン(B):0.001~0.003質量%、残部鉄(Fe)及びその他の不可避不純物である鋼スラブを用いて熱延板材を製造するステップと、
前記熱延板材を冷間圧延して冷延板材を製造するステップと、
前記冷延板材をAe以上の温度に加熱および維持して焼鈍熱処理するステップと、
前記焼鈍熱処理された冷延板材を冷却するステップと、
前記冷却された冷延板材をテンパリングするステップと、を含む冷延鋼板の製造方法であり、
前記冷却は、前記焼鈍熱処理された冷延板材を15℃/s以下の冷却速度で730~820℃まで1次冷却し;そして、前記1次冷却された冷延板材を80℃/s以上の冷却速度で常温~150℃の温度まで2次冷却するステップ、を含んでなり、
前記2次冷却は、450℃~150℃までにおける冷却速度が140℃/s以上であり、
前記製造された冷延鋼板は、面積分率で95%以上のテンパードマルテンサイト(tempered martensite)を含む微細組織を有し、
90゜曲げ加工性(R/t)が1.5以下であり、
前記チタン(Ti)に対するニオブ(Nb)の質量比(Nb/Ti)が1.5以下であることを特徴とする超高強度冷延鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記鋼スラブは、モリブデン(Mo):0超過0.2質量%以下をさらに含むことを特徴とする、請求項に記載の超高強度冷延鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記熱延板材は、前記鋼スラブを1180~1250℃に再加熱するステップと、
前記再加熱された鋼スラブを仕上げ圧延温度:850~950℃に熱間圧延して、圧延材を製造するステップと、
前記圧延材を冷却し、巻取温度:450~650℃の条件で巻取るステップと、を含んで製造されることを特徴とする、請求項に記載の超高強度冷延鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記テンパリングは、前記冷延板材を150~250℃まで加熱し、50~500秒間維持して行われることを特徴とする、請求項に記載の超高強度冷延鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記冷延鋼板は、降伏強度(YS):1200MPa以上、引張強度(TS):1470MPa以上および延伸率(EL):5.0%以上であることを特徴とする、請求項に記載の超高強度冷延鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記冷延鋼板は、ASTM G39-99規格に基づいた水素遅延破壊試験(4-point load test)時、100時間以上破断が発生しないことを特徴とする、請求項に記載の超高強度冷延鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高強度冷延鋼板およびその製造方法に関する。より詳しくは、剛性、成形性および水素遅延破壊抵抗性に優れた超高強度冷延鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両部品のうち、衝突時の搭乗者の安全に直接関わる、バンパービームのような部品を製造するためには、高い降伏強度と引張強度を有しかつ、成形に必要な曲げ性の優れた鋼材が求められている。鋼材の高い引張強度を満足するために、マルテンサイトとテンパードマルテンサイトベースの微細組織に一部のフェライトとベイナイトが含まれた超高強度鋼が開発された。また、150kgf以上の超高強度鋼では水素侵入による遅延破壊が発生しうるため、自動車用部品に適用するために、遅延破壊抵抗性が高い素材の開発が必要なのが現状である。
【0003】
本発明に関連する背景技術は、特許文献1(2012.11.23.公開、発明の名称:加工性に優れた超高強度鋼板およびその製造方法)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】大韓民国公開特許公報第2012-0127733号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一実施例によれば、剛性、曲げ加工性および水素遅延破壊抵抗性に優れた超高強度冷延鋼板を提供する。
【0006】
本発明の一実施例によれば、介在物および偏析の発生を最小化して表面品質に優れた超高強度冷延鋼板を提供する。
【0007】
本発明の一実施例によれば、生産性および経済性に優れた超高強度冷延鋼板を提供する。
【0008】
本発明の一実施例によれば、前記超高強度冷延鋼板の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一つの観点は、超高強度冷延鋼板に関する。一具体例において、前記超高強度冷延鋼板は、炭素(C):0.10~0.40重量%、シリコン(Si):0.10~0.80重量%、マンガン(Mn):0.6~1.4重量%、アルミニウム(Al):0.01~0.30重量%、リン(P):0超過0.02重量%以下、硫黄(S):0超過0.003重量%以下、窒素(N):0超過0.006重量%以下、チタン(Ti):0超過0.05重量%以下、ニオブ(Nb)0以上0.05重量%以下、ボロン(B):0.001~0.003重量%、残部の鉄(Fe)およびその他の不可避不純物を含み、テンパードマルテンサイト(tempered martensite)を含む微細組織を有し、90゜曲げ加工性(R/t)が1.5以下であり、前記チタン(Ti)に対するニオブ(Nb)の質量比(Nb/Ti)が1.5以下である。
【0010】
一具体例において、前記微細組織の平均結晶粒の大きさが6μm以下であってもよい。
【0011】
一具体例において、前記超高強度冷延鋼板は、モリブデン(Mo):0超過0.2重量%以下をさらに含むことができる。
【0012】
一具体例において、前記超高強度冷延鋼板は、降伏強度(YS):1200MPa以上、引張強度(TS):1470MPa以上および延伸率(EL):5.0%以上であってもよい。
【0013】
一具体例において、前記超高強度冷延鋼板は、ASTM G39-99規格に基づいた水素遅延破壊試験(4-point load test)時、100時間以上破断が発生しない。
【0014】
本発明の他の観点は、前記超高強度冷延鋼板の製造方法に関する。一具体例において、前記超高強度冷延鋼板の製造方法は、炭素(C):0.10~0.40重量%、シリコン(Si):0.10~0.80重量%、マンガン(Mn):0.6~1.4重量%、アルミニウム(Al):0.01~0.30重量%、リン(P):0超過0.02重量%以下、硫黄(S):0超過0.003重量%以下、窒素(N):0超過0.006重量%以下、チタン(Ti):0超過0.05重量%以下、ニオブ(Nb)0以上0.05重量%以下、ボロン(B):0.001~0.003重量%、残部の鉄(Fe)およびその他の不可避不純物を含む鋼スラブを用いて熱延板材を製造するステップと、前記熱延板材を冷間圧延して冷延板材を製造するステップと、前記冷延板材をAe以上の温度に加熱および維持して焼鈍熱処理するステップと、前記焼鈍熱処理された冷延板材を冷却するステップと、前記冷却された冷延板材をテンパリングするステップと、を含む冷延鋼板の製造方法であり、前記冷却は、前記焼鈍熱処理された冷延板材を15℃/s以下の冷却速度で730~820℃まで1次冷却し;そして、前記1次冷却された冷延板材を80℃/s以上の冷却速度で常温~150℃の温度まで2次冷却するステップ、を含んでなり、前記製造された冷延鋼板は、テンパードマルテンサイト(tempered martensite)を含む微細組織を有し、90゜曲げ加工性(R/t)が1.5以下であり、前記チタン(Ti)に対するニオブ(Nb)の質量比(Nb/Ti)が1.5以下である。
【0015】
一具体例において、前記鋼スラブは、モリブデン(Mo):0超過0.2重量%以下をさらに含むことができる。
【0016】
一具体例において、前記熱延板材は、前記鋼スラブを1180~1250℃に再加熱するステップと、前記再加熱された鋼スラブを仕上げ圧延温度:850~950℃に熱間圧延して、圧延材を製造するステップと、前記圧延材を冷却し、巻取温度:450~650℃の条件で巻取るステップと、を含んで製造できる。
【0017】
一具体例において、前記2次冷却は、450℃~150℃までにおける冷却速度が140℃/s以上であってもよい。
【0018】
一具体例において、前記テンパリングは、前記冷延板材を150~250℃まで加熱し、50~500秒間維持して行われる。
【0019】
一具体例において、前記冷延鋼板は、降伏強度(YS):1200MPa以上、引張強度(TS):1470MPa以上および延伸率(EL):5.0%以上であってもよい。
【0020】
一具体例において、前記冷延鋼板は、ASTM G39-99規格に基づいた水素遅延破壊試験(4-point load test)時、100時間以上破断が発生しない。
【発明の効果】
【0021】
本発明の超高強度冷延鋼板の製造方法により製造された超高強度冷延鋼板は、剛性、曲げ加工性および水素遅延破壊抵抗性に優れ、介在物および偏析の発生を最小化して表面品質に優れ、生産性および経済性に優れることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一具体例による超高強度冷延鋼板の製造方法を示す図である。
図2】本発明の一具体例による冷延板材の熱処理スケジュールのグラフである。
図3】(a)は、本発明の2次冷却速度を外れた冷延板材の微細組織を示す図であり、(b)は、本発明の2次冷却速度を適用した冷延板材の微細組織を示す図である。
図4】(a)は、実施例1の冷延鋼板の微細組織であり、(b)は、比較例3の冷延鋼板の微細組織を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。この時、本発明を説明するにあたり、かかる公知の技術または構成に関する具体的な説明が本発明の要旨を不必要にあいまいにしうると判断された場合、その詳細な説明は省略する。
【0024】
そして、後述する用語は本発明における機能を考慮して定義された用語であって、これは、使用者、運用者の意図または慣例などによって異なるので、その定義は本発明を説明する本明細書全般にわたる内容に基づいて行われなければならない。
【0025】
超高強度冷延鋼板
本発明の一つの観点は、超高強度冷延鋼板に関する。一具体例において、前記超高強度冷延鋼板は、炭素(C):0.10~0.40重量%、シリコン(Si):0.10~0.80重量%、マンガン(Mn):0.6~1.4重量%、アルミニウム(Al):0.01~0.30重量%、リン(P):0超過0.02重量%以下、硫黄(S):0超過0.003重量%以下、窒素(N):0超過0.006重量%以下、チタン(Ti):0超過0.05重量%以下、ニオブ(Nb)0以上0.05重量%以下、ボロン(B):0.001~0.003重量%、残部の鉄(Fe)およびその他の不可避不純物を含み、テンパードマルテンサイト(tempered martensite)を含む微細組織を有し、90゜曲げ加工性(R/t)が1.5以下であり、前記チタン(Ti)に対するニオブ(Nb)の質量比(Nb/Ti)が1.5以下である。
【0026】
以下、本発明の超高強度冷延鋼板に含まれる各成分の役割および含有量について詳しく説明する。
【0027】
炭素(C)
前記炭素(C)は、鋼の強度を確保するために添加し、マルテンサイト組織における炭素含有量が増加するほど強度が増加する。一具体例において、前記炭素は、前記冷延鋼板の全重量に対して0.10~0.40重量%含まれる。前記炭素を0.10重量%未満で含む時、目標強度を得にくく、0.40重量%超過で含まれる場合、溶接性に不利であり、曲げ性などに不利益がありうる。好ましくは、0.20~0.26重量%含まれる。
【0028】
シリコン(Si)
前記シリコン(Si)は、フェライト安定化元素であって、フェライト中の炭化物の形成を遅延させ、固溶強化効果がある。一具体例において、前記シリコンは、前記冷延鋼板の全重量に対して0.10~0.80重量%含まれる。前記シリコンを0.10重量%未満で含む場合、その効果が非常に少なく、0.80重量%超過で含む時、製造過程でMnSiOなどの酸化物を形成してめっき性が阻害され、炭素当量を高めて溶接性を低下させることがある。好ましくは、0.10~0.50重量%含まれる。
【0029】
マンガン(Mn)
前記マンガン(Mn)は、固溶強化効果があり、焼入性を増大させて強度の向上に寄与する。一具体例において、前記マンガンは、前記冷延鋼板の全重量に対して0.6~1.4重量%含まれる。前記マンガンを0.6重量%未満で含む時、その効果が十分ではなくて強度確保が難しく、1.4重量%超過で含む時、MnSなどの介在物の形成や偏析による加工性の低下と遅延破壊抵抗性の低下が発生し、炭素当量を高めて溶接性を低下させることがある。
【0030】
アルミニウム(Al)
前記アルミニウム(Al)は、脱酸剤として使用され、フェライトを清浄化するのに役立つことができる。一具体例において、前記アルミニウムは、前記冷延鋼板の全重量に対して0.01~0.30重量%含まれる。前記アルミニウムを0.01重量%未満で含む時、その効果が不十分であり、0.30重量%超過で含む時、スラブ製造時にAlNを形成して、鋳造または熱延中にクラックを誘発することがある。
【0031】
リン(P)
前記リン(P)は、鋼の製造過程で含まれる不純物である。前記リンは、前記冷延鋼板の全重量に対して0超過0.02重量%以下で含まれる。前記リンの添加時に、固溶強化によって強度の向上に役立つことはできるが、前記リンを0.02重量%超過で含む時、低温脆性が発生しうる。
【0032】
硫黄(S)
前記硫黄(S)は、鋼の製造過程で含まれる不純物である。一具体例において、前記硫黄は、前記冷延鋼板の全重量に対して0超過0.003重量%以下で含まれる。硫黄は、FeS、MnSのような非金属介在物を形成して靭性と溶接性を低下するので、0.003重量%以下に制限する。前記硫黄を0.003重量%超過で含む時、非金属介在物の形成量が増加して靭性および溶接性が低下することがある。
【0033】
窒素(N)
前記窒素(N)は、鋼中に過剰に存在すれば、窒化物が多量析出して延性を劣化させることがある。一具体例において、前記窒素(N)は、前記冷延鋼板の全重量に対して0.006重量%以下で含まれる。前記窒素を0.006重量%超過で含む時、前記冷延鋼板の延性が低下することがある。
【0034】
チタン(Ti)
前記チタン(Ti)は、析出物形成元素であり、TiNの析出と結晶粒の微細化効果がある。特に、TiNの析出により鋼内部の窒素含有量を低下させることができ、ボロンと一緒に添加された場合、BNの析出を防止することができる。一具体例において、前記チタンは、前記冷延鋼板の全重量に対して0超過0.05重量%以下で含まれる。前記チタンを0.05重量%超過で含む場合、鋼の製造コストを増加させる。例えば、0.01~0.05重量%含まれる。
【0035】
ニオブ(Nb)
前記ニオブ(Nb)は、析出物形成元素であり、析出と結晶粒の微細化により鋼の靭性と強度を向上させる。一具体例において、前記ニオブは、前記冷延鋼板の全重量に対して0以上0.05重量%以下で含まれる。前記ニオブを0.05重量%超過で含む時、圧延時の圧延負荷が大きく増加することがあり、鋼の製造コストを増加させる。
【0036】
ボロン(B)
前記ボロン(B)は、焼入性元素であって、焼鈍後、冷却後のマルテンサイトの形成に大きく寄与する。一具体例において、前記ボロンは、前記冷延鋼板の全重量に対して0.001~0.003重量%含まれる。前記ボロンを0.001重量%未満で含む場合、その効果が不十分でマルテンサイトを確保しにくく、0.003重量%超過で含む時、鋼の靭性を低下させることがある。
【0037】
本発明の一具体例において、前記冷延鋼板は、モリブデン(Mo):0超過0.2重量%以下をさらに含むことができる。
【0038】
モリブデン(Mo)
前記モリブデン(Mo)は、固溶強化効果があり、焼入性を増大させて強度の向上に寄与する。一具体例において、前記モリブデンは、前記冷延鋼板の全重量に対して0超過0.20重量%以下で含まれる。前記モリブデンを0.20重量%超過で含む場合、鋼の製造コストを増加させる。
【0039】
前記冷延鋼板は、テンパードマルテンサイト(tempered martensite)を含む微細組織を有する。例えば、前記冷延鋼板の微細組織は、面積分率で95%以上のテンパードマルテンサイトを含み、残部としてフェライト、ベイナイトおよび残留オーステナイトのうちの1つ以上を含むことができる。好ましくは、前記冷延鋼板の微細組織は、テンパードマルテンサイトのみからなり、強度と成形性が同時に優れた鋼板を確保することができる。
【0040】
一具体例において、前記冷延鋼板の微細組織の平均結晶粒の大きさは、6μm以下であってもよい。
【0041】
一具体例において、前記チタン(Ti)に対するニオブ(Nb)の質量比(Nb/Ti)は、1.5以下である。前記質量比の条件で結晶粒の微細化効果に優れ、析出物が過度に形成される現象を防止することができる。1.5質量比を超える場合、析出強化効果および結晶粒の微細化効果が低下して、本発明が目標とする結晶粒の大きさおよび機械的物性の確保が難しいことがある。例えば、1.3以下であってもよい。
【0042】
一具体例において、前記冷延鋼板は、90゜曲げ加工性(R/t)が1.5以下である。例えば、90゜曲げ加工性(R/t)が1.0以下であってもよい。
【0043】
一具体例において、前記冷延鋼板は、降伏強度(YS):1200MPa以上、引張強度(TS):1470MPa以上および延伸率(EL):5.0%以上であってもよい。例えば、前記冷延鋼板は、降伏強度1200~1500MPa、引張強度1470~1800MPaおよび延伸率5.0~9.0%であってもよい。
【0044】
前記冷延鋼板は、ASTM G39-99規格に基づいた水素遅延破壊試験(4-point load test)時、100時間以上破断が発生しない。
【0045】
前記チタン(Ti)およびニオブ(Nb)は、析出物形成元素であって、析出強化効果および結晶粒の微細化による強化効果がある。ただし、析出物が過度に多く形成される場合、鋼材の延性が低下して圧延負荷が増加し、冷間圧延中に板破断が発生するなどの問題がある。
【0046】
したがって、本発明では、前記チタン(Ti)およびニオブ(Nb)の含有量を制御するだけでなく、前記チタン(Ti)に対するニオブ(Nb)の質量比(Nb/Ti)を1.5以下、好ましくは1.3以下に制御することにより、冷延鋼板の平均結晶粒の大きさを6μm以下に制御し、析出強化効果を実現し、これによって、引張強度1470~1800MPa、降伏強度1200~1500MPaおよび延伸率5.0~9.0%を確保することができる。
【0047】
前記合金成分を有する本発明の冷延鋼板の微細組織は、チタン(Ti)系析出物およびニオブ(Nb)系析出物の少なくとも1つ以上を含むことができる。前記析出物は、チタン(Ti)系炭化物乃至ニオブ(Nb)系炭化物、好ましくは、TiC~NbCであってもよい。前記冷延鋼板中の任意の地点における単位面積(1μm=1μm×1μm)内に存在する、前記析出物中の大きさ100nm以下の析出物と前記析出物中の大きさ100nmを超える析出物との比率が4:1以上であってもよいし、好ましくは、9:1以上であってもよい。前記比率より低い場合、結晶粒の微細化が十分でなくて鋼板の強度が低下する。
【0048】
また、前記単位面積に存在する大きさ100nm以下の前記析出物の個数は、20個以上200個以下、好ましくは、50個以上100個以下であってもよい。前記大きさ100nm以下の析出物の個数が上限を超える場合、最終微細組織中の残留オーステナイト中の炭素含有量が減少することにより、TRIP効果が阻害されて強度と延伸率が減少することがあり、下限未満の場合、焼鈍時の結晶粒の微細化が十分でない。
【0049】
もちろん、前記合金成分を有する本発明の高強度鋼板は、上述した単位面積内における析出物の比率が4:1~9:1以上かつ、100nm以下の析出物が20~200個、好ましくは、50~100個である微細組織を有することができる。
【0050】
前記析出物の比率および前記析出物の個数は、前述した合金成分の条件を適用しかつ、チタン(Ti)に対するニオブ(Nb)の質量比(Nb/Ti)が1.5以下、好ましくは1.3以下の冷延鋼板をAe以上の温度で、好ましくは、840~920℃で30~120秒間焼鈍し、焼鈍された冷延板材を15℃/s以下の速度で730~820℃まで、好ましくは、焼鈍終了温度から760~810℃まで3~15℃/sの速度で冷却することにより制御することができる。
【0051】
超高強度冷延鋼板の製造方法
本発明の他の観点は、前記超高強度冷延鋼板の製造方法に関する。
【0052】
図1は、本発明の一具体例による超高強度冷延鋼板の製造方法を示す図である。前記図1を参照すれば、前記超高強度冷延鋼板の製造方法は、(S10)熱延板材製造ステップと、(S20)冷延板材製造ステップと、(S30)焼鈍熱処理ステップと、(S40)冷却ステップと、(S50)テンパリングステップと、を含む。
【0053】
より具体的には、前記超高強度冷延鋼板の製造方法は、(S10)炭素(C):0.10~0.40重量%、シリコン(Si):0.10~0.80重量%、マンガン(Mn):0.6~1.4重量%、アルミニウム(Al):0.01~0.30重量%、リン(P):0超過0.02重量%以下、硫黄(S):0超過0.003重量%以下、窒素(N):0超過0.006重量%以下、チタン(Ti):0超過0.05重量%以下、ニオブ(Nb)0以上0.05重量%以下、ボロン(B):0.001~0.003重量%、残部の鉄(Fe)およびその他の不可避不純物を含む鋼スラブを用いて熱延板材を製造するステップと、(S20)前記熱延板材を冷間圧延して冷延板材を製造するステップと、(S30)前記冷延板材をAe以上の温度に加熱および維持して焼鈍熱処理するステップと、(S40)前記焼鈍熱処理された冷延板材を冷却するステップと、(S50)前記冷却された冷延板材をテンパリングするステップと、を含む冷延鋼板の製造方法であり、前記冷却は、前記焼鈍熱処理された冷延板材を15℃/s以下の冷却速度で730~820℃まで1次冷却し;そして、前記1次冷却された冷延板材を80℃/s以上の冷却速度で常温~150℃の温度まで2次冷却するステップ、を含んでなる。
【0054】
前記製造された冷延鋼板は、テンパードマルテンサイト(tempered martensite)を含む微細組織を有し、90゜曲げ加工性(R/t)が1.5以下であり、前記チタン(Ti)に対するニオブ(Nb)の質量比(Nb/Ti)が1.5以下である。
【0055】
以下、本発明による超高強度冷延鋼板の製造方法をステップごとに詳しく説明する。
【0056】
(S10)熱延板材製造ステップ
前記ステップは、炭素(C):0.10~0.40重量%、シリコン(Si):0.10~0.80重量%、マンガン(Mn):0.6~1.4重量%、アルミニウム(Al):0.01~0.30重量%、リン(P):0超過0.02重量%以下、硫黄(S):0超過0.003重量%以下、窒素(N):0超過0.006重量%以下、チタン(Ti):0超過0.05重量%以下、ニオブ(Nb)0以上0.05重量%以下、ボロン(B):0.001~0.003重量%、残部の鉄(Fe)およびその他の不可避不純物を含む鋼スラブを用いて熱延板材を製造するステップである。
【0057】
一具体例において、前記鋼スラブのチタン(Ti)に対するニオブ(Nb)の質量比(Nb/Ti)は、1.5以下である。
【0058】
一具体例において、前記鋼スラブは、モリブデン(Mo):0超過0.2重量%以下をさらに含むことができる。
【0059】
前記鋼スラブに含まれる成分および含有量は前述したものと同一であるので、これに関する詳しい説明は省略する。
【0060】
一具体例において、前記熱延板材は、前記鋼スラブを1180~1250℃に再加熱するステップと、前記再加熱された鋼スラブを仕上げ圧延温度:850~950℃に熱間圧延して、圧延材を製造するステップと、前記圧延材を冷却し、巻取温度:450~650℃の条件で巻取るステップと、を含んで製造できる。
【0061】
一具体例において、前記鋼スラブは、製鋼工程により得た溶鋼を連続鋳造して半製品形態に製造できる。また、前記鋼スラブは、再加熱工程により鋳造工程で発生した成分偏析を均質化し、熱間圧延可能な状態に製造できる。
【0062】
一具体例において、前記鋼スラブは、スラブ再加熱温度(Slab Reheating Temperature、SRT):1180~1250℃の条件で再加熱することができる。前記スラブ再加熱温度を1180℃未満で実施する場合、前記鋼スラブの偏析が十分に再固溶できず、1250℃超過で実施する場合、オーステナイト結晶粒の大きさが増加し、工程費用が上昇することがある。一具体例において、前記鋼スラブの再加熱は、1~4時間行われる。前記再加熱時間が1時間未満の場合、偏析帯の減少が十分でなく、4時間を超える場合、結晶粒の大きさが増加し、工程費用が上昇することがある。
【0063】
一具体例において、前記再加熱された鋼スラブを仕上げ圧延温度(Finish Delivery Temperature、FDT):850~950℃に熱間圧延して、圧延材を製造することができる。前記熱間圧延時、仕上げ圧延温度を850℃未満で実施する場合、圧延負荷が急激に増加して生産性が低下し、950℃超過で実施する場合、結晶粒の大きさが増加して強度が減少することがある。
【0064】
前記巻取時、巻取温度を450℃未満で実施する場合、強度が増加して冷間圧延時の圧延負荷が増加し、650℃を超える場合、表面酸化などにより後工程で不良を起こすことがある。
【0065】
(S20)冷延板材製造ステップ
前記ステップは、前記熱延板材を冷間圧延して冷延板材を製造するステップである。一具体例において、前記コイル状態の熱延板材をアンコイリングし酸洗して表面スケール層を除去し、冷間圧延を実施する。例えば、冷間圧延時の厚さ圧下率は、約40~70%の条件で実施することができる。
【0066】
(S30)焼鈍熱処理ステップ
前記ステップは、前記冷延板材をAe以上の温度に加熱および維持して焼鈍熱処理するステップである。
【0067】
前記条件で焼鈍熱処理された冷延板材の微細組織は、オーステナイト単相組織が形成される。前記焼鈍熱処理工程は、オーステナイト結晶粒の大きさに影響を与え、結晶粒の大きさは、鋼板の強度に関係があるので、重要に作用する。
【0068】
図2は、本発明の一具体例による冷延板材の熱処理スケジュールのグラフである。前記図2を参照すれば、前記冷延板材は、オーステナイト単相を作るためにAe以上の焼鈍温度に昇温しなければならない。本発明の成分範囲において840℃以上の温度が適切である。例えば、前記焼鈍熱処理は、前記冷延板材を840~920℃まで昇温して加熱し、30~120秒間維持して実施できる。
【0069】
前記焼鈍熱処理時、840℃未満で加熱するか、加熱維持時間を30秒未満で実施する場合、オーステナイトが十分に均質化できないことがあり、920℃を超えて加熱するか、加熱維持時間が120秒を超えて実施する場合、熱処理効率性が低下し、オーステナイト結晶粒の大きさが粗大化し、生産性が低下することがある。
【0070】
一具体例において、前記昇温速度は、3℃/sec以上であってもよい。前記昇温速度を3℃/s未満で実施する場合、焼鈍される温度まで過度に多い時間がかかり熱処理効率性が低下し、オーステナイト結晶粒の大きさが粗大化し、生産性が低下することがある。
【0071】
(S40)冷却ステップ
前記ステップは、前記焼鈍熱処理された冷延板材を冷却するステップである。一具体例において、前記冷却は、前記焼鈍熱処理された冷延板材を15℃/s以下の冷却速度で730~820℃まで1次冷却し;そして、前記1次冷却された冷延板材を80℃/s以上の冷却速度で常温~150℃の温度まで2次冷却するステップ、を含んでなる。
【0072】
前記図2を参照すれば、1次冷却は15℃/s以下の冷却速度で冷却する徐冷区間である。例えば、3~15℃/sの冷却速度で730~820℃まで冷却することができる。前記1次冷却区間で冷却時、冷延板材のフェライト変態を抑制し、前記2次冷却区間で冷却する温度差を低減することができる。前記1次冷却を730℃未満の温度で終了する時、1次冷却中にフェライト変態が発生し、これは、強度低下の原因になりうる。
【0073】
前記2次冷却は、80℃/s以上の冷却速度で冷却する急冷区間である。前記2次冷却区間は、急冷によりフェライトとベイナイトの相変態を抑制し、マルテンサイト変態を起こし、冷却中にテンパリングを抑制することができる。前記2次冷却時、80℃/s未満の冷却速度で冷却する場合、フェライトまたはベイナイトの相変態によって強度低下の原因になりうる。
【0074】
前記図2を参照すれば、前記2次冷却は、80℃/s以上の冷却速度でM温度以上まで冷却し、次いで、140℃/s以上の冷却速度でM温度以下まで冷却することができる。一具体例において、前記2次冷却は、80℃/s以上の冷却速度で400~450℃まで冷却し、次いで、140℃/s以上の冷却速度で常温~150℃以下まで冷却することができる。
【0075】
前記2次冷却は、450℃~150℃までの温度区間での冷却速度が140℃/s以上で冷却することが好ましい。前記温度区間での冷却速度を140℃/s以上の速度で急冷時、フェライト、ベイナイト乃至残留オーステナイトなどの微細組織の形成を最小化することにより、テンパードマルテンサイト分率を95%以上確保することができ、好ましくは、テンパードマルテンサイトのみからなる微細組織を得ることができる。
【0076】
(S50)テンパリングステップ
前記ステップは、前記冷却された冷延板材をテンパリングするステップである。一具体例において、前記テンパリングは、前記冷延板材を150~250℃まで加熱し、50~500秒間維持して行われる。前記条件で本発明の冷延板材のテンパードマルテンサイトの微細組織が容易に形成される。前記テンパリング時、冷延板材を150℃未満で加熱してテンパリングする時、テンパリング効果がわずかであり、250℃を超える温度に加熱してテンパリングする時、炭化物の大きさが粗大化されて強度低下の要因になりうる。
【0077】
一具体例において、前述した2次冷却工程の直後に再加熱を実施してテンパリングするか、2次冷却工程後、前記冷延板材を常温で数分以上維持した後、テンパリングを実施することができる。
【0078】
一具体例において、前記冷延鋼板の微細組織の平均結晶粒の大きさは、6μm以下であってもよい。
【0079】
一具体例において、前記冷延鋼板は、降伏強度(YS):1200MPa以上、引張強度(TS):1470MPa以上および延伸率(EL):5.0%以上であってもよい。
【0080】
一具体例において、前記冷延鋼板は、ASTM G39-99規格に基づいた水素遅延破壊試験(4-point load test)時、100時間以上破断が発生しない。
【0081】
本発明の場合、従来技術と類似してマルテンサイトを用いた高強度鋼を製造する方法を説明したが、異なる点として、1)マンガン(Mn)の含有量を低くしてMnSなどの介在物や偏析による不利益を低減することができ、2)徐冷後、1次、2次急速冷却により冷却中のテンパリングを抑制し、その後、テンパリングにより均質なテンパードマルテンサイトを実現することができる。また、従来技術の合金成分に比べてマンガン含有量が低くて、製鋼時に投入される合金鉄の量が少ないというメリットを有する。
【0082】
また、本発明の冷延鋼板は、自動車用部品に適用可能であり、1200MPa以上の高い降伏強度と1500MPa以上の引張強度を有しかつ、90゜曲げ基準で1.5(R/t)以下の曲げ加工性を確保し、遅延破壊抵抗性に優れることができる。前記冷延鋼板の全体微細組織は、テンパードマルテンサイトを含んでなり、曲げ加工性と引張強度を確保するために十分な炭素および合金添加量を記述し、それに適した冷延熱処理条件を記述した。また、合金鉄のコスト上昇防止と水素脆性抵抗性の確保のために適した合金成分に制限を設けた。
【0083】
従来、冷延鋼板の曲げ成形性を確保するためには、冷延熱処理工程時、Ae以上の区間の温度に昇温して維持して焼鈍熱処理してオーステナイト単相組織を形成し;前記焼鈍熱処理後、50℃/s以下に急冷してMs点以下まで冷却して、フェライトなどの軟質組織への相変態を抑制し、マルテンサイトの微細組織に変態し;前記急冷後にテンパリングしてマルテンサイトのテンパリングおよび冷却中に残留オーステナイトの微細組織をマルテンサイトに変態完了する;過程を経て、組織を実現した。
【0084】
しかし、従来のように、前記急冷時の冷却速度を50℃/s以下で適用する場合、マンガン(Mn)、クロム(Cr)およびモリブデン(Mo)などの合金成分が十分に添加されてこそ、フェライトなどの軟質組織の相変態を抑制することができた。合金量の添加はコスト上昇の原因になり、マンガン(Mn)含有量を増加させる時、バンド構造の形成によって、成形性などが低下することがあった。また、前記のような冷却速度ではMs温度近傍で形成されたマルテンサイトが数秒間冷却中にテンパリングされて、炭化物の大きさが大きい組織が混在し、これは、微細な炭化物が形成されたテンパードマルテンサイトに比べて降伏強度が低い問題があった。
【実施例
【0085】
以下、本発明の好ましい実施例を通じて本発明の構成および作用をより詳細に説明する。ただし、下記の実施例は本発明の理解のためのものであり、本発明の範囲が下記の実施例に限定されない。
【0086】
製造例1~10
下記表1による成分および含有量の合金成分と、窒素(N):0超過0.006重量%以下、残部の鉄(Fe)およびその他の不可避不純物を含む鋼スラブを用意した。また、前記製造例1~10の合金系に対して、JMATPROで計算した合金の臨界温度(Ae変態温度、マルテンサイト変態開始温度(Ms)およびマルテンサイトの90%体積分率変態時点の温度(M90))を下記表1に併せて示した。
【0087】
【表1】
【0088】
実施例1~15および比較例1~9
前記製造例1~9で製造された鋼スラブを用いて冷延鋼板を製造した。具体的には、下記表2のような鋼スラブを、前記鋼スラブを1220℃に再加熱し、前記再加熱された鋼スラブを仕上げ圧延温度:900℃で3.2mmの厚さに熱間圧延して、圧延材を製造した後、前記圧延材を冷却し、巻取温度:600℃の条件で巻取って熱延板材を製造した。以後、酸洗により表面酸化層を除去し、1.2mmの厚さに冷間圧延して冷延板材を製造した。前記冷延板材を下記表2の条件で加熱および維持して焼鈍熱処理後、冷却およびテンパリングして冷延鋼板を製造した。前記冷却は、下記表2による冷却速度および冷却終了温度の条件で前記冷延板材を1次冷却後、前記1次冷却された冷延板材を下記表2の冷却速度(1)の条件で冷却区間(1):400℃以上450℃未満の温度区間まで冷却し、次いで、冷却速度(2)を適用して冷却区間(2):常温~150℃の温度区間まで2次冷却するステップを含んで実施した。
【0089】
【表2】
【0090】
前記実施例1~15および比較例1~9の冷延鋼板に対して、引張試験と90゜曲げ試験を進行させ、実施例および比較例のうち、代表的に実施例1、4、8、14および15と比較例6、7および9の冷延鋼板に対して遅延破壊試験を進行させて、その結果を下記表3に示した。遅延破壊試験はASTM G39-99基準に基づいて(4-point load test)で進行させ、試験条件として適用された応力は各試験片YSの100%であり、腐食溶液は0.1M HCl溶液を使用した。
【0091】
【表3】
【0092】
前記表3の結果を参照すれば、前記実施例1~15の場合、本発明が目標とする機械的強度(降伏強度(YS):1200MPa以上、引張強度(TS):1470MPa以上および延伸率(EL):5.0%以上)と、および曲げ加工性(1.5以下)を満足し、実施例1、4、8、14および15の場合、水素遅延破壊試験時、100時間以上経過でも試験片の破断が発生せず、水素遅延破壊抵抗性に優れていることが分かった。
【0093】
これに対し、本発明のテンパリング工程を適用しなかった比較例1の場合、本発明が目標とする降伏強度および曲げ性を達成することができず、比較例2および3の場合、2次冷却時、冷却区間(2)での冷却速度が140℃/sec未満で適用した場合で、降伏強度と引張強度が本発明の目標値に比べて低下した。比較例4の場合、1次冷却時、730℃未満の温度に冷却終了した場合で、引張強度が目標値を満足することができず、比較例5の場合、合金成分中の炭素含有量が少ない場合で、目標値を満足することができなかった。比較例6の場合、マンガン(Mn)含有量が目標値を超えた場合であり、比較例7は、ボロン(B)含有量が目標値を満たない場合で、遅延破壊評価で破断が発生した。比較例8は、マンガン(Mn)含有量が不足する場合で、降伏強度と引張強度が目標値に達していないことが分かった。比較例9の場合、チタンに対するニオブの質量比(Nb/Ti)が1.5を超える場合で、曲げ加工性が1.5を超え、水素遅延破壊試験で破断することが分かった。
【0094】
一方、冷却速度の差による相変態を確認するために、製造例2の試験片を用いて900℃まで昇温して焼鈍後、50℃/sec、100℃/secで連続冷却後の微細組織を下記の図3に示した。
【0095】
図3(a)は、50℃/sの冷却速度を適用して2次冷却した冷延板材の微細組織であり、図3(b)は、100℃/sの冷却速度を適用して2次冷却した冷延板材の微細組織を示す写真である。前記図3を参照すれば、本発明の2次冷却速度を外れた図3(a)の冷延鋼板は、フェライトおよびベイナイト領域が観察されたが、本発明の2次冷却速度を適用した図3(b)の冷延鋼板は、マルテンサイト単相組織が形成されたことが分かった。
【0096】
図4(a)は、実施例1の冷延鋼板の微細組織であり、図4(b)は、比較例3の冷延鋼板の微細組織を示す図である。前記図4を参照すれば、2次冷却時、冷却区間(1)で80℃/s以上で冷却後、冷却区間(2)で冷却速度300℃/sで冷却した実施例1の微細組織は、図4(a)のように、平均結晶粒の大きさが6μm以下に形成されてテンパードマルテンサイト組織内の炭化物の観察が難しいが、冷却区間(2)で冷却速度65℃/sで冷却した比較例3の場合、微細組織は、図4(b)のように、マルテンサイト中の炭化物の観察が容易な程度で冷却中にテンパリングが発生したことを確認することができる。
【0097】
また、本発明の実施例1は、水素遅延破壊試験時、100時間経過後にも試験片が破断せず水素遅延破壊抵抗性に優れていたが、比較例6の場合、水素遅延破壊抵抗性に劣り試験片の破断が発生したことが分かった。
【0098】
このように、本発明の冷却速度の条件を適用する時、冷却中にフェライトとベイナイトの変態を抑制し、マルテンサイトの冷却中にテンパリングまで抑制することができ、テンパリングして炭化物の確認が不可能なテンパードマルテンサイト組織を確保できることが分かった。
【0099】
本発明の単純な変形乃至変更はこの分野における通常の知識を有する者によって容易に実施可能であり、このような変形や変更はすべて本発明の領域に含まれる。
図1
図2
図3(a)】
図3(b)】
図4