(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィドの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 75/0281 20160101AFI20230929BHJP
【FI】
C08G75/0281
(21)【出願番号】P 2021567346
(86)(22)【出願日】2020-12-16
(86)【国際出願番号】 JP2020047030
(87)【国際公開番号】W WO2021131985
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2019237137
(32)【優先日】2019-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義紀
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-246858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸塩、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩、及びアルカリ土類金属リン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種の助剤の存在下で、有機極性溶媒、硫黄源、水、ポリハロ芳香族化合物、及びアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を加熱して重合反応を開始させ、ポリハロ芳香族化合物の転化率が50モル%以上のプレポリマーを含有する反応混合物を生成させる第一重合工程と、
前記第一重合工程後に、前記反応混合物に相分離剤を添加する相分離剤添加工程と、
前記相分離剤添加工程後に、重合反応を継続する第二重合工程と、
前記第二重合工程後に、前記反応混合物を冷却する冷却工程と、を含み、
前記冷却工程において、最大増粘温度より5℃以上高く、且つ250℃未満である温度において前記反応混合物
に冷却剤が添加され、且つ、最大増粘温度における冷却速度は2.2℃/分以上3.9℃/分以下であるポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項2】
前記冷却剤は水及び/又は氷である請求項
1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項3】
前記最大増粘温度において、前記反応混合物における冷却剤の含有量は、前記硫黄源1モルに対し2.7モル以上6.0モル以下である請求項
2に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項4】
前記冷却工程後に得られる前記ポリアリーレンスルフィドの平均粒子径が、400μm以上2000μm以下であり、
前記平均粒子径は、使用篩として、篩目開き2,800μm(7メッシュ(目数/インチ))、篩目開き1,410μm(12メッシュ(目数/インチ))、篩目開き1,000μm(16メッシュ(目数/インチ))、篩目開き710μm(24メッシュ(目数/インチ))、篩目開き500μm(32メッシュ(目数/インチ))、篩目開き250μm(60メッシュ(目数/インチ))、篩目開き150μm(100メッシュ(目数/インチ))、篩目開き105μm(145メッシュ(目数/インチ))、篩目開き75μm(200メッシュ(目数/インチ))、篩目開き38μm(400メッシュ(目数/インチ))の篩を用いた篩分法により測定された、各篩の篩上物の質量から、累積質量が50%質量となる時の粒子径である、
請求項1~
3のいずれか1項に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(以下、「PPS」とも称する。)に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下、「PAS」とも称する。)は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、機械的強度、電気特性、寸法安定性等に優れたエンジニアリングプラスチックである。PASは、押出成形、射出成形、圧縮成形等の一般的溶融加工法により、各種成形品、フィルム、シート、繊維等に成形可能であるため、電気機器、電子機器、自動車機器、包装材料等の広範な技術分野において汎用されている。
【0003】
PASは、特に、自動車関連の分野においては、自動車の軽量化のための金属代替物として、多く利用されている。車載用途には、高い靱性を有する高分子量PASが求められている。特許文献1及び2には、高分子量PASとして、粒状PASを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-89569号公報
【文献】特開2004-51732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、粒状PASの需要増加に伴い、粒状PAS製造の更なる短時間化が求められている。しかし、従来の製造方法では、粒状PASの粒子径制御や純度向上を目的として、造粒により粒状PASを形成するための冷却工程において、徐冷を行うことが必要であることから、冷却工程に長時間を要している。
【0006】
一方で、重合助剤の存在下でPASの製造を行うと、短時間で高分子量PASが得られることが知られている。しかし、得られるPASは、平均粒子径が増大しやすく、結果として、PAS製造装置等の配管が詰まりやすく、また、詰まったPASを除去するために、配管の洗浄には多くの時間が必要である。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、粒状PASを形成するための冷却工程にかかる時間を短縮することができ、且つ、得られる粒状PASの平均粒子径の増大を抑制することができるPASの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、PASの製造に際し、カルボン酸塩等から選択される少なくとも1種の助剤の存在下で、第一重合工程と、相分離剤添加工程と、第二重合工程と、冷却工程と、をこの順に行い、冷却工程において、所定の範囲内の温度で冷却剤を反応混合物に添加し、且つ最大増粘温度における冷却速度を2.2℃/分以上6.0℃/分以下とすることにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明に係るPASの製造方法は、
カルボン酸塩、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩、及びアルカリ土類金属リン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種の助剤の存在下で、有機極性溶媒、硫黄源、水、ポリハロ芳香族化合物、及びアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を加熱して重合反応を開始させ、ポリハロ芳香族化合物の転化率が50モル%以上のプレポリマーを含有する反応混合物を生成させる第一重合工程と、
前記第一重合工程後に、前記反応混合物に相分離剤を添加する相分離剤添加工程と、
前記相分離剤添加工程後に、重合反応を継続する第二重合工程と、
前記第二重合工程後に、前記反応混合物を冷却する冷却工程と、を含み、
前記冷却工程において、前記最大増粘温度より5℃以上高く、且つ250℃未満である温度において前記反応混合物に前記冷却剤が添加され、且つ最大増粘温度における冷却速度は2.2℃/分以上6.0℃/分以下である。
【0010】
本発明に係るPASの製造方法では、前記冷却工程において、前記反応混合物に冷却剤が添加されてもよい。
【0011】
本発明に係るPASの製造方法において、前記冷却剤は水及び/又は氷でもよい。
【0012】
本発明に係るPASの製造方法では、前記最大増粘温度において、前記反応混合物における冷却剤の含有量は、前記硫黄源1モルに対し2.7モル以上6.0モル以下でもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、粒状PASを形成するための冷却工程にかかる時間を短縮することができ、且つ、得られる粒状PASの平均粒子径の増大を抑制することができるPASの製造方法を提供することができる。その結果、PAS製造装置等の配管が詰まりにくくなり、また、詰まったPASを除去する必要性が低くなるため、配管の洗浄にかける時間を短縮することができる。以上から、全体として、粒状PAS製造をより短時間化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るPASの製造方法の一実施形態について以下に説明する。本実施形態におけるPASの製造方法は、必須の工程として、第一重合工程、相分離剤添加工程、第二重合工程、及び冷却工程を含む。本実施形態におけるPASの製造方法は、所望により、脱水工程、仕込み工程、後処理工程等を含んでもよい。以下、本発明に用いられる各材料について詳細に説明するとともに、各工程について詳細に説明する。
【0015】
(有機極性溶媒、硫黄源、ポリハロ芳香族化合物、及びアルカリ金属水酸化物)
有機極性溶媒、硫黄源、ポリハロ芳香族化合物、及びアルカリ金属水酸化物としては、PASの製造において通常用いられるものを用いることができる。有機極性溶媒、硫黄源、ポリハロ芳香族化合物、及びアルカリ金属水酸化物の各々は、単独で用いてもよいし、PASの製造が可能である組み合わせであれば、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0016】
有機極性溶媒としては、例えば、有機アミド溶媒;有機硫黄化合物からなる非プロトン性有機極性溶媒;環式有機リン化合物からなる非プロトン性有機極性溶媒が挙げられる。有機アミド溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド化合物;N-メチル-ε-カプロラクタム等のN-アルキルカプロラクタム化合物;N-メチル-2-ピロリドン(以下、「NMP」とも称する。)、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン等のN-アルキルピロリドン化合物又はN-シクロアルキルピロリドン化合物;1,3-ジアルキル-2-イミダゾリジノン等のN,N-ジアルキルイミダゾリジノン化合物;テトラメチル尿素等のテトラアルキル尿素化合物;ヘキサメチルリン酸トリアミド等のヘキサアルキルリン酸トリアミド化合物等が挙げられる。有機硫黄化合物からなる非プロトン性有機極性溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン等が挙げられる。環式有機リン化合物からなる非プロトン性有機極性溶媒としては、1-メチル-1-オキソホスホラン等が挙げられる。中でも、入手性、取り扱い性等の点で、有機アミド溶媒が好ましく、N-アルキルピロリドン化合物、N-シクロアルキルピロリドン化合物、N-アルキルカプロラクタム化合物、及びN,N-ジアルキルイミダゾリジノン化合物がより好ましく、NMP、N-メチル-ε-カプロラクタム、及び1,3-ジアルキル-2-イミダゾリジノンが更により好ましく、NMPが特に好ましい。
【0017】
有機極性溶媒の使用量は、重合反応の効率等の観点から、上記硫黄源1モルに対し、1~30モルが好ましく、3~15モルがより好ましい。
【0018】
硫黄源としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、硫化水素を挙げることができ、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物であることが好ましい。硫黄源は、例えば、水性スラリー及び水溶液のいずれかの状態で扱うことができ、計量性、搬送性等のハンドリング性の観点から、水溶液の状態であることが好ましい。アルカリ金属硫化物としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムが挙げられる。アルカリ金属水硫化物としては、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムが挙げられる。
【0019】
ポリハロ芳香族化合物とは、芳香環に直結した2個以上の水素原子がハロゲン原子で置換された芳香族化合物を指し、芳香環に直結した2個の水素原子がハロゲン原子で置換された芳香族化合物(即ち、ジハロ芳香族化合物)でも、芳香環に直結した3個以上の水素原子がハロゲン原子で置換された芳香族化合物(「ハロゲン置換数3以上のポリハロ芳香族化合物」ともいう。)でもよい。
【0020】
ポリハロ芳香族化合物としては、例えば、o-ジハロベンゼン、m-ジハロベンゼン、p-ジハロベンゼン、ジハロトルエン、ジハロナフタレン、メトキシ-ジハロベンゼン、ジハロビフェニル、ジハロ安息香酸、ジハロジフェニルエーテル、ジハロジフェニルスルホン、ジハロジフェニルスルホキシド、ジハロジフェニルケトン等のジハロ芳香族化合物;1,2,3-トリクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン、1,3,5-トリクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、1,2,3,4-テトラクロロベンゼン、1,2,4,5-テトラクロロベンゼン、1,3,5-トリクロロ-2,4,6-トリメチルベンゼン、2,4,6-トリクロロトルエン、1,2,3-トリクロロナフタレン、1,2,4-トリクロロナフタレン、1,2,3,4-テトラクロロナフタレン、2,2’,4,4’-テトラクロロビフェニル、2,2’,4,4’-テトラクロロベンゾフェノン、2,4,2’-トリクロロベンゾフェノン等の、ハロゲン置換数3以上のポリハロ芳香族化合物が挙げられる。ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素の各原子を指し、ポリハロ芳香族化合物における2個以上のハロゲン原子は、同じでも異なっていてもよい。中でも、入手性、反応性等の点で、p-ジハロベンゼン、m-ジハロベンゼン、及びこれら両者の混合物が好ましく、p-ジハロベンゼンがより好ましく、p-ジクロロベンゼン(以下、「pDCB」とも称する。)が特に好ましい。
【0021】
ポリハロ芳香族化合物の使用量は、硫黄源の仕込み量1モルに対し、好ましくは0.90~1.50モルであり、より好ましくは0.92~1.10モルであり、更により好ましくは0.95~1.05モルである。上記使用量が上記範囲内であると、分解反応が生じにくく、安定的な重合反応の実施が容易であり、高分子量ポリマーを生成させやすい。
【0022】
アルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムが挙げられる。
【0023】
(脱水工程)
脱水工程は、仕込み工程の前に、有機極性溶媒、硫黄源、及びアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を含む系内から、水を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出する工程である。硫黄源とポリハロ芳香族化合物との重合反応は、重合反応系に存在する水分量によって促進又は阻害される等の影響を受ける。したがって、上記水分量が重合反応を阻害しないように、重合の前に脱水処理を行うことにより、重合反応系内の水分量を減らすことが好ましい。
【0024】
脱水工程では、不活性ガス雰囲気下での加熱により脱水を行うことが好ましい。脱水工程で脱水されるべき水分とは、脱水工程で仕込んだ各原料が含有する水、水性混合物の水媒体、各原料間の反応により副生する水等である。
【0025】
脱水工程における加熱温度は、300℃以下であれば特に限定されず、好ましくは100~250℃である。加熱時間は、15分~24時間であることが好ましく、30分~10時間であることがより好ましい。
【0026】
脱水工程では、水分量が所定の範囲内になるまで脱水する。即ち、脱水工程では、仕込み混合物(後述)における硫黄源(以下、「仕込み硫黄源」又は「有効硫黄源」とも称する)1.0モルに対して、好ましくは0.5~2.4モルになるまで脱水することが望ましい。脱水工程で水分量が少なくなり過ぎた場合は、重合工程に先立つ仕込み工程において水を添加して所望の水分量に調節すればよい。
【0027】
(仕込み工程)
仕込み工程は、有機極性溶媒、硫黄源、及びポリハロ芳香族化合物を含有する混合物を調製する工程である。仕込み工程において仕込まれる混合物を、「仕込み混合物」とも称する。
【0028】
脱水工程を行う場合、仕込み混合物における硫黄源の量(以下、「仕込み硫黄源の量」又は「有効硫黄源の量」とも称する。)は、原料として投入した硫黄源のモル量から、脱水工程で揮散した硫化水素のモル量を引くことによって、算出することができる。
【0029】
脱水工程を行う場合、仕込み工程では脱水工程後に系内に残存する混合物に、必要に応じてアルカリ金属水酸化物及び水を添加することが出来る。特に、脱水時に生成した硫化水素の量と脱水時に生成したアルカリ金属水酸化物の量とを考慮したうえで、アルカリ金属水酸化物を添加することが出来る。なお、アルカリ金属水酸化物のモル数は、仕込み工程で添加するアルカリ金属水酸化物のモル数、並びに、脱水工程を行う場合には、脱水工程において必要に応じて添加したアルカリ金属水酸化物のモル数、及び、脱水工程において硫化水素の生成に伴い生成するアルカリ金属水酸化物のモル数に基づいて算出される。硫黄源がアルカリ金属硫化物を含む場合には、硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル数は、アルカリ金属硫化物のモル数を含めて算出するものとする。硫黄源に硫化水素を使用する場合には、生成するアルカリ金属硫化物のモル数を含めて、硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル数を算出するものとする。ただし、他の目的で添加されるアルカリ金属水酸化物のモル数、例えば、重合助剤及び/又は相分離剤として有機カルボン酸金属塩を有機カルボン酸とアルカリ金属水酸化物との組み合わせの態様で使用する場合には、中和等の反応で消費したアルカリ金属水酸化物のモル数は、硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル数に含めないものとする。更に、何らかの理由で、無機酸及び有機酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸が使用される場合等は、上記少なくとも1種の酸を中和するに必要なアルカリ金属水酸化物のモル数は、硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル数に含めないものとする。
【0030】
仕込み混合物において、有機極性溶媒及びポリハロ芳香族化合物の各々の使用量は、例えば、硫黄源の仕込み量1モルに対し、有機極性溶媒及びポリハロ芳香族化合物に関する上記説明中で示す範囲に設定される。
【0031】
(第一重合工程)
第一重合工程は、カルボン酸塩、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩、及びアルカリ土類金属リン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種の助剤の存在下で、有機極性溶媒、硫黄源、水、ポリハロ芳香族化合物、及びアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を加熱して重合反応を開始させ、ポリハロ芳香族化合物の転化率が50モル%以上のプレポリマーを含有する反応混合物を生成させる工程である。第一重合工程では、生成するポリマーが均一に有機極性溶媒に溶解した反応系での重合反応が行われる。なお、本明細書において、反応混合物とは、上記重合反応で生じる反応生成物を含む混合物をいい、上記重合反応の開始と同時に生成が始まる。
【0032】
重合サイクル時間を短縮する目的のために、重合反応方式としては、2つ以上の反応槽を用いる方式を用いてもかまわない。
【0033】
第一重合工程では、仕込み工程で調製した混合物、即ち、仕込み混合物を温度170~270℃の温度に加熱して重合反応を開始させ、ポリハロ芳香族化合物の転化率が50モル%以上のプレポリマーを生成させることが好ましい。第一重合工程での重合温度は、180~265℃の範囲から選択することが、副反応や分解反応を抑制する上で好ましい。
【0034】
ポリハロ芳香族化合物の転化率は、好ましくは50~98%、より好ましくは60~97%、更により好ましくは65~96%、特に好ましくは70~95%である。ポリハロ芳香族化合物の転化率は、反応混合物中に残存するポリハロ芳香族化合物の量をガスクロマトグラフィにより求め、その残存量とポリハロ芳香族化合物の仕込み量と硫黄源の仕込み量に基づいて算出することができる。
【0035】
重合反応の途中で、水及び有機極性溶媒の少なくとも1種の量を変化させてもよい。例えば、重合途中で水を反応系に加えることができる。ただし、第一重合工程において、通常は、仕込み工程で調製した仕込み混合物を用いて重合反応を開始し、且つ第一重合工程における反応を終了させることが好ましい。
【0036】
第一重合工程の開始時において、水の含有量は、硫黄源1.0モル当たり0.5~2.4モルであることが好ましく、0.5~2.0モルであることがより好ましく、1.0~1.5モルであることが更により好ましい。第一重合工程の開始時において、水の含有量を上記範囲とすることで、硫黄源を有機極性溶媒に可溶化し、反応を好適に進めることができる。
【0037】
第一段重合工程は、カルボン酸塩、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩、及びアルカリ土類金属リン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種の助剤の存在下で行われる。これにより、本発明に係るPASの製造方法では、高分子量PASが得られやすい。入手性、取り扱い性等の観点から、助剤はカルボン酸塩であることが好ましい。
【0038】
第一段重合工程において助剤が存在している限り、助剤を添加する段階としては、特に限定されず、例えば、脱水工程、仕込み工程、又は第一重合工程が挙げられる。
【0039】
助剤は、カルボン酸塩等の上述の化合物そのものとして反応系内に添加してもよいし、対応する有機酸又は無機酸の形態で反応系内に添加し、反応系内のアルカリ金属水酸化物との中和反応により助剤に該当する化合物を生成させることで、第一段重合工程において存在するようにしてもよい。
【0040】
助剤の量は、硫黄源1モル当たり、好ましくは0.1~50モル%、より好ましくは1~40モル%、更により好ましくは5~30モル%である。助剤の量が上記範囲内であると、高分子量PASがより得られやすい。
【0041】
(相分離剤添加工程)
相分離剤添加工程は、第一重合工程後に、前記反応混合物に相分離剤を添加する工程である。相分離剤としては、特に限定されず、例えば、水、有機カルボン酸金属塩、有機スルホン酸金属塩、アルカリ金属ハライド、アルカリ土類金属ハライド、芳香族カルボン酸のアルカリ土類金属塩、リン酸アルカリ金属塩、アルコール類、及び無極性溶媒からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。中でも、コストが安価で、後処理が容易な水が好ましい。また、有機カルボン酸塩と水との組合せ、特に、アルカリ金属カルボン酸塩と水とを含む混合物も好ましい。上記の塩類は、対応する酸と塩基を別々に添加する態様であっても差しつかえない。
【0042】
無極性溶媒としては、例えば、炭化水素が挙げられ、プレポリマー同士の反応を促すために、無極性溶媒はプレポリマーを溶解しない方がより高分子量のPASを得やすいことから、脂肪族炭化水素が好ましく、アルカン(パラフィン系炭化水素類)がより好ましく、直鎖状アルカンが更により好ましい。炭化水素、脂肪族炭化水素、アルカン、及び直鎖状アルカンの炭素数としては、第2重合工程において炭化水素、脂肪族炭化水素、アルカン、及び直鎖状アルカンを溶媒として使用できる限り、特に限定されず、例えば、6~24が挙げられ、取り扱い性等の観点から、7~20が好ましく、8~18がより好ましく、9~16が更により好ましく、10~14が特に好ましい。無極性溶媒の具体例としては、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、イソオクタン、n-ノナン、n-デカン、n-ドデカン、n-テトラデカン、n-ヘキサデカン、n-オクタデカン、n-エイコサン、n-テトラコサン等が挙げられ、より高分子量のPASを得やすく、取り扱い性、入手性等に優れることから、イソオクタン、n-デカン、及びn-テトラデカンが好ましく、n-デカン及びn-テトラデカンがより好ましい。
【0043】
相分離剤の使用量は、用いる化合物の種類によって異なるが、有機極性溶媒1kgに対し、通常、1~10モルの範囲内である。特に、第二重合工程における反応系内の水分量が有機極性溶媒1kg当たり4モル超過20モル以下となるように、相分離剤添加工程において相分離剤として水を添加する方法を採用することが好ましい。本発明において、相分離剤は水を含み、相分離剤添加工程における有機極性溶媒に対する水のモル比は、0.5~3.0であり、粒子強度の観点から、好ましくは0.6~2.0であり、より好ましくは0.65~1.5である。相分離剤の使用量を上記範囲とすることで、粒子強度が高いPAS粒子を高収率で製造することができる。
【0044】
なお、相分離剤として、アルカリ金属カルボン酸塩と水とを含む混合物とを用いる場合、この混合物の使用量は、アルカリ金属カルボン酸塩の量が硫黄源1モル当たり30モル以下となるように調整することが好ましい。本実施形態に係る相分離剤の添加方法としては、特に限定されず、例えば、一度に全量を添加する方法や、複数回に分けて添加する方法が挙げられる。
【0045】
(第二重合工程)
第二重合工程は、相分離剤添加工程後に、重合反応を継続する工程である。第二重合工程では、相分離剤の存在下で反応系内がポリマー濃厚相とポリマー希薄相とに相分離した状態で重合反応を継続する、相分離重合が行われる。具体的には、相分離剤を添加することにより、重合反応系(重合反応混合物)をポリマー濃厚相(溶融PASを主とする相)とポリマー希薄相(有機極性溶媒を主とする相)に相分離させる。
【0046】
第二重合工程での重合温度については、245~290℃、好ましくは250~285℃、より好ましくは255~280℃に加熱して重合反応を継続する。重合温度は、一定の温度に維持してもよいし、必要に応じて、段階的に昇温又は降温してもよい。重合反応の制御の観点から、一定の温度に維持することが好ましい。重合反応時間は、一般に10分間~72時間の範囲であり、望ましくは30分間~48時間である。
【0047】
収率向上の観点から、第二重合工程後の反応混合物のpHを8~11としてもよく、9~10.5としてもよい。反応混合物のpHを調整する方法としては、特に限定されず、例えば、仕込み工程におけるアルカリ金属水酸化物の含有量を調整する方法や、後からアルカリ金属水酸化物や無機酸及び/又は有機酸を添加する方法が挙げられる。
【0048】
(冷却工程)
冷却工程は、第二重合工程後に、前記反応混合物を冷却する工程である。冷却工程では、生成ポリマーを含有する液相を冷却する。冷却工程において、最大増粘温度より5℃以上高く、且つ250℃未満である温度において反応混合物に冷却剤が添加され、且つ最大増粘温度における冷却速度は、2.2℃/分以上6.0℃/分以下である。
上記の範囲内の温度で冷却剤の反応混合物への添加を行うとともに、最大増粘温度における冷却速度を上記の範囲内とすることによって、粒状PASを形成するための冷却工程にかかる時間を短縮することができ、且つ、得られる粒状PASの平均粒子径の増大を抑制することができる。
【0049】
冷却速度の下限は、2.2℃/分以上であり、好ましくは2.3℃/分以上であり、より好ましくは2.4℃/分以上であり、更により好ましくは2.5℃/分以上であり、特に好ましくは2.6℃/分以上である。上記冷却速度が2.2℃/分以上であると、粒状PASを形成するための冷却工程にかかる時間を短縮することができ、且つ、得られる粒状PASの平均粒子径の増大を抑制することができる。上記冷却速度の上限は、特に限定されず、例えば、6.0℃/分以下でよく、5.0℃/分以下でも4.0℃/分以下でも3.9℃/分以下でもよい。
【0050】
冷却工程において、冷却剤の反応混合物への添加が上記の所定の範囲内の温度で行われ、且つ最大増粘温度における冷却速度が上記の範囲である限り、冷却速度のプロファイルは特に限定されない。よって、最大増粘温度以外の温度における冷却速度は、例えば、自然空冷による冷却速度でもよく、冷却工程の時間を短縮する観点からは、最大増粘温度における冷却速度と同一でもよい。また、例えば、後述する冷却剤を用いて冷却を行う場合、反応缶の容量が限られているために冷却剤の添加量が制限されるときには、まず、自然空冷を行い、その後、反応缶の内容物の温度が最大増粘温度の近傍まで低下してきたら、最大増粘温度を超える温度における冷却速度を最大増粘温度における冷却速度と同一にする冷却速度調節を行ってもよい。この際、上記冷却速度調節を行う温度としては、反応缶の容量等に応じて、適宜、設定すればよく、例えば、最大増粘温度超(最大増粘温度+20℃)以下が挙げられ、(最大増粘温度+5℃)以上(最大増粘温度+15℃)以下でもよく、(最大増粘温度+8℃)以上(最大増粘温度+12℃)以下でもよく、最大増粘温度+10℃でもよい。
【0051】
冷却工程において、最大増粘温度より5℃以上高く、且つ250℃未満である温度において反応混合物に冷却剤が添加される。このため、最大増粘温度における冷却速度が2.2℃/分以上6.0℃/分以下となるような冷却方法は、少なくとも冷却剤の反応混合物への添加を含む。冷却剤の添加による冷却と、他の冷却方法とを組み合わせて実施してもよい。他の冷却方法は、特に限定されず、例えば、扇風機、サーキュレーター等の気流発生装置による強制空冷;重合反応槽のジャケットにおける冷媒の循環;リフラックスコンデンサーによる、反応混合物中の気相の還流等が挙げられる。中でも、重合反応槽の壁面からの冷却による該壁面へのPAS付着を防止しやすい点等から、反応混合物への冷却剤の添加が好ましい。冷却剤としては、特に限定されず、後処理工程においてPASから分離しやすい点から、水及び/又は氷;有機極性溶媒(例えば、NMP等の有機アミド溶媒)が好ましく、比熱や蒸発潜熱が大きい点から、水及び/又は氷がより好ましい。また、反応混合物の相分離性が向上しやすく、PASの収率が向上しやすい点からも、冷却剤としては、水及び/又氷がより好ましい。
【0052】
最大増粘温度において、反応混合物における冷却剤の含有量は、量に応じた十分な冷却が行われやすい点から、前記硫黄源1モルに対し、好ましくは2.7モル以上6.0モル以下であり、より好ましくは3.0モル以上5.5モル以下であり、更により好ましくは4.0モル以上5.0モル以下である。
【0053】
本明細書において、最大増粘温度とは、前記第二重合工程後の前記反応混合物を自然空冷により255℃から冷却する際、240℃から220℃までの間で該反応混合物の撹拌トルクを測定し、該撹拌トルクが最大となる温度をいう。
【0054】
(後処理工程(分離工程、洗浄工程、回収工程等))
本実施形態におけるPASの製造方法においては、重合反応後の後処理工程を、常法によって、例えば、特開2016-056232号公報に記載の方法によって、行うことができる。
【0055】
(得られるPAS)
本実施形態におけるPASの製造方法によって得られるPASは、平均粒子径が好ましくは2000μm以下、より好ましくは1800μm以下、更により好ましくは1500μm以下である。上記PASの平均粒子径の下限は、特に限定されず、例えば、200μm以上でよく、300μm以上でも400μm以上でもよい。なお、本明細書において、平均粒子径とは、篩分により、後述の実施例に記載の通りにして測定した値をいう。
【0056】
本実施形態におけるPASの製造方法によって得られるPASは、温度310℃及び剪断速度1,216sec-1で測定した溶融粘度が、好ましくは1000Pa・s以下、より好ましくは300Pa・s以下、更により好ましくは150Pa・s以下である。上記PASの上記溶融粘度の下限は、特に限定されず、例えば、1Pa・s以上でよく、5Pa・s以上でも8Pa・s以上でもよい。なお、本明細書において、溶融粘度とは、PASの乾燥ポリマー約20gを用いてキャピログラフを使用して、上記温度及び剪断速度において測定した値をいう。
【0057】
本実施形態におけるPASの製造方法により得られるPASは、そのまま、又は酸化架橋させた後、単独で、又は所望により各種無機充填剤、繊維状充填剤、各種合成樹脂を配合し、種々の射出成形品又はシート、フィルム、繊維、及びパイプ等の押出成形品に成形することができる。
【0058】
本実施形態におけるPASの製造方法において、PASは、特に限定されず、PPSであることが好ましい。
【0059】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例】
【0060】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。なお、本発明は、実施例に限られるものではない。実施例及び比較例における操作は、特に断らない限り、室温で行った。また、本明細書において、重量平均分子量(以下、「Mw」ともいう。)とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィにより測定されたポリスチレン換算の重量平均分子量をいう。
【0061】
(1)溶融粘度
PASの溶融粘度は、キャピラリーとして1.0mmφ、長さ10.0mmのノズルを装着した(株)東洋精機製作所製キャピログラフ(登録商標)1Dにより測定した。設定温度を310℃とした。ポリマー試料を装置内に導入し、5分間保持した後、剪断速度1,200sec-1で溶融粘度を測定した。
【0062】
(2)平均粒子径
PASの平均粒子径は、使用篩として、篩目開き2,800μm(7メッシュ(目数/インチ))、篩目開き1,410μm(12メッシュ(目数/インチ))、篩目開き1,000μm(16メッシュ(目数/インチ))、篩目開き710μm(24メッシュ(目数/インチ))、篩目開き500μm(32メッシュ(目数/インチ))、篩目開き250μm(60メッシュ(目数/インチ))、篩目開き150μm(100メッシュ(目数/インチ))、篩目開き105μm(145メッシュ(目数/インチ))、篩目開き75μm(200メッシュ(目数/インチ))、篩目開き38μm(400メッシュ(目数/インチ))の篩を用いた篩分法により測定し、各篩の篩上物の質量から、累積質量が50%質量となる時の平均粒径を算出した。
【0063】
[実施例1]
(脱水工程)
20リットルのオートクレーブに、NMP6,005g、水硫化ナトリウム水溶液(NaSH:純度62.24質量%)2,003g、水酸化ナトリウム(NaOH:純度73.40質量%)1,071g、及び酢酸ナトリウム180gを仕込んだ。該オートクレーブ内を窒素ガスで置換後、約4時間かけて、撹拌機により回転数250rpmで撹拌しながら、徐々に200℃まで昇温し、水(H2O)902g、NMP763g、及び硫化水素(H2S)15gを留出させた。
【0064】
(第一重合工程)
上記脱水工程後、オートクレーブの内容物を150℃まで冷却し、pDCB3,244g、NMP3,302g、水酸化ナトリウム8g、及び水107gを加え、撹拌しながら、220℃まで昇温後、260℃まで1.5時間で昇温し、第一重合工程を行った。缶内のNMP/仕込み硫黄源(以下、「仕込みS」と略記する。)の比率(g/モル)は、391、pDCB/仕込みS(モル/モル)は1.010、H2O/仕込みS(モル/モル)は1.50であった。第一重合工程におけるpDCBの転化率は、93%であった。
【0065】
(相分離剤添加工程)
第一重合工程終了後、オートクレーブの内容物を撹拌しながら水酸化ナトリウム60g及びイオン交換水445gを圧入し、撹拌機の回転数を400rpmに上げた。H2O/NMP(モル/モル)は0.67、H2O/仕込みS(モル/モル)は2.63であった。
【0066】
(第二重合工程)
イオン交換水の圧入後、オートクレーブの内容物を265℃まで昇温し、2.5時間反応させて第二重合工程を行った。
【0067】
(冷却工程)
第二重合工程の終了後、自然空冷により冷却速度0.56℃/分で265℃からオートクレーブの内容物を冷却し、該内容物の温度が最大増粘温度+10℃となった時点で、H2O/仕込みS(モル/モル)が2.63から5.00となるようにオートクレーブ内に室温の水を圧入して、冷却速度を上昇させ、その後、室温まで冷却を行った。なお、最大増粘温度における冷却速度は、2.6℃/分であった。
【0068】
なお、最大増粘温度の測定方法は以下の通りである。高分子量PASの製造が可能な、相分離重合系を伴う、重合反応終了後の反応缶内では、PASは溶融状態で存在し、相分離剤によって濃厚相と希薄相に相分離していること、が知られている。そして、系を撹拌下に冷却すると、PASは溶融状態から固形化し、粉状あるいは粒子状あるいは顆粒状の固体として、懸濁した状態で存在するようになるが、この過程で系の粘度変化が起こる。即ち、溶融したPASを含む分散系を撹拌下に冷却すると、冷却に伴うPASの増粘により系全体の見掛け粘度が次第に増大し、ある温度に達すると、却って系全体の見掛け粘度は低下するようになる。この系の最大増粘温度は、一定撹拌下における撹拌トルクあるいは撹拌機への供給動力として検出され得る。最大増粘温度は、クランプ電力計CW140(横河電機株式会社)をオートクレーブの撹拌機モータに設置して測定した消費電力の極大値に基づいて前もって測定した。
【0069】
(後処理工程)
冷却工程後、オートクレーブの内容物を目開き径150μm(100メッシュ)のスクリーンで篩分けし、アセトン及びイオン交換水で洗浄後、酢酸水溶液で洗浄し、一昼夜乾燥を行い、粒状PPSを得た。冷却工程における条件等を表1に示し、粒状ポリマーの物性等を表2に示す(以下、同様)。
【0070】
[実施例2]
冷却工程において、室温の水に代えて氷水をオートクレーブ内に圧入し、更に、氷水の圧入と同時に、扇風機によるオートクレーブの強制空冷を開始した以外は、実施例1と同様にして、粒状PPSを得た。なお、最大増粘温度における冷却速度は、3.9℃/分であった。
【0071】
[実施例3]
室温の水を圧入する温度を、最大増粘温度+20℃に変えることの他は、実施例1と同様にして、粒状PPSを得た。なお、最大増粘温度における冷却速度は、2.8℃/分であった。
【0072】
[実施例4]
室温の水を圧入する温度を、最大増粘温度+5℃に変えることの他は、実施例1と同様にして、粒状PPSを得た。なお、最大増粘温度における冷却速度は、2.7℃/分であった。
【0073】
[比較例1]
冷却工程において、自然空冷により冷却速度0.56℃/分で265℃から室温までオートクレーブの内容物を冷却した以外は、実施例1と同様にして、粒状PPSを得た。なお、最大増粘温度における冷却速度は、0.56℃/分であった。
【0074】
[比較例2]
冷却工程における水の含有量が増加したことによる影響を確認するため、冷却工程において、第二重合工程の終了後ただちに、オートクレーブ内に室温の水を圧入して、H2O/仕込みS(モル/モル)を2.63から5.00とし、また、最大増粘温度における冷却速度が比較例1における値に近い0.54℃/分であった以外は、実施例1と同様にして、粒状PPSを得た。
【0075】
[比較例3]
冷却速度による影響を確認するため、冷却工程において、H2O/仕込みS(モル/モル)が2.63から5.00となるようにオートクレーブ内に室温の水を圧入する代わりに、扇風機によるオートクレーブの強制空冷を行い、また、最大増粘温度における冷却速度が1.7℃/分であった以外は、実施例1と同様にして、粒状PPSを得た。
【0076】
[比較例4]
粒状PASの平均粒子径の増大を抑制するために必要な冷却速度を確認するため、冷却工程において、水の圧入スピードを調整した結果、最大増粘温度における冷却速度が1.8℃/分であった以外は、実施例1と同様にして、粒状PPSを得た。
【0077】
[比較例5]
粒状PASの平均粒子径の増大を抑制するために必要な冷却剤の添加温度を確認するため、冷却工程において水添加温度を250℃に加えるとともに、水の添加後に扇風機によるオートクレーブの強制空冷を行うこと以外は、実施例1と同様にして、粒状PPSを得た。
【0078】
【0079】
【0080】
表1及び2から明らかな通り、本発明に係るPASの製造方法によれば、粒状PASを形成するための冷却工程にかかる時間を短縮することができ、且つ、得られる粒状PASの平均粒子径の増大を抑制することができる。