(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】電気化学デバイスおよび電子装置
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20230929BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20230929BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20230929BHJP
H01M 4/64 20060101ALI20230929BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20230929BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230929BHJP
H01G 11/64 20130101ALI20230929BHJP
H01G 11/68 20130101ALI20230929BHJP
H01G 11/26 20130101ALI20230929BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/66 A
H01M10/0567
H01M4/64 A
H01M10/0568
H01M10/052
H01G11/64
H01G11/68
H01G11/26
(21)【出願番号】P 2022502603
(86)(22)【出願日】2021-08-23
(86)【国際出願番号】 CN2021114056
(87)【国際公開番号】W WO2022078068
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2022-01-14
(31)【優先権主張番号】202011103536.8
(32)【優先日】2020-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】513054978
【氏名又は名称】寧徳新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningde Amperex Technology Limited
【住所又は居所原語表記】No.1 Xingang Road, Zhangwan Town, Jiaocheng District, Ningde City, Fujian Province, 352100, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ワン クァフェイ
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-229306(JP,A)
【文献】特開2019-012709(JP,A)
【文献】特開2012-054198(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0099468(US,A1)
【文献】特開2016-106346(JP,A)
【文献】特開2019-160782(JP,A)
【文献】特表2018-514070(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0104772(KR,A)
【文献】特開2000-303128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/13、4/64、4/66
H01M10/052、10/0567、10/0568
H01G11/26、11/64、11/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極集電体および該負極集電体上に形成された負極活物質層を含む負極と、電解液とを備える電気化学デバイスであって、
前記負極集電体の引張強さをF N/mm
2とすると、Fは400以上であり、
前記負極活物質層の単位面積あたりの重量をW mg/cm
2とすると、Wは3~12であ
り、
前記負極集電体が第1の金属を含み、前記第1の金属が銀及び錫のうちの少なくとも1つを含み、
前記負極集電体の重量に対する前記第1の金属の含有量をa%とすると、aは0.01~0.5であり、
Fとaとが4≦F×a≦200を満たす、電気化学デバイス。
【請求項2】
前記負極集電体が銅元素を含む、請求項1に記載の電気化学デバイス。
【請求項3】
前記負極集電体が、少なくとも1種の希土類元素をさらに含む、請求項
1に記載の電気化学デバイス。
【請求項4】
FとWとが100/3≦F/W≦200を満たす、請求項1に記載の電気化学デバイス。
【請求項5】
前記負極活物質層の密度をD g/cm
3とすると、Dが1.4~2.0であり、FとDとが560≦F×D≦1200を満たす、請求項1に記載の電気化学デバイス。
【請求項6】
前記負極集電体が、以下の特徴1)~3)の少なくとも一方を有する、請求項1に記載の電気化学デバイス。
1)平均表面粗さは0.05μm~1.5μmである;
2)0.2%耐力は30N/mm
2以上である;
3)厚さは1μm~100μmである。
【請求項7】
前記負極活物質層が以下の特性a)~b)の少なくとも一方を有する、請求項1に記載の電気化学デバイス。
a)550nmの波長での反射率Raは7%~15%である;
b)空孔率Paは20%~40%である。
【請求項8】
前記電解液が、以下の化合物(i)~(iv)のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の電気化学デバイス。
(i)プロピオン酸エステル、
(ii)シアノ基含有化合物、
(iii)ジフルオロリン酸リチウム、または
(iv)式(1):
【化1】
(式中、
Wは下記の各式:
【化2】
で示される化合物から選ばれた一つである。
Lはそれぞれ独立して単結合またはメチレン基である。
mは1、2、3、または4である。
nは0、1または2である。)で示される化合物。
【請求項9】
前記式(1)で示される化合物が、下記式(1-1)~(1-2)で示される化合物のうちの少なくとも1つを含む、請求項
8に記載の電気化学デバイス。
【化3】
【化4】
【請求項10】
前記電解液の重量に対する前記シアノ基含有化合物の含有量をb%とすると、bが0.01~10である、請求項
8に記載の電気化学デバイス。
【請求項11】
1≦b/a≦300である、請求項
10に記載の電気化学デバイス。
【請求項12】
Wとbとが0.5≦W/b≦24を満たす、請求項
10に記載の電気化学デバイス。
【請求項13】
請求項1~
12のいずれか一項に記載の電気化学デバイスを含む電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー貯蔵の分野に関し、具体的には、電気化学デバイスおよび電子装置、特にリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
技術の進歩とモバイル機器への需要の増加に伴い、電気化学デバイス(例えば、リチウムイオン電池)の航続時間に対する需要も高まっている。リチウムイオン電池の航続時間の向上に加えて、リチウムイオン電池の他の性能、特にリチウムイオン電池の高温貯蔵下での膨張性能(以下、「高温貯蔵膨張性能」と略称する。)とサイクル膨張性能に対する要求もがさらに高まっている。
【0003】
上記状況に鑑みて、改善された性能を有する電気化学デバイスおよび電子装置を提供する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、当分野における少なくとも1つの上記課題を少なくともある程度解決するために、高温貯蔵膨張性能およびサイクル膨張性能が改善された電気化学デバイスおよび電子装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様において、正極と、負極集電体および該負極集電体上に形成された負極活物質層を含む負極と、電解液とを備える電気化学デバイスであって、前記負極集電体の引張強さをF N/mm2とすると、Fは400以上であり、前記負極活物質層の単位面積あたりの重量をW mg/cm2とすると、Wは3~12の範囲内である電気化学デバイスを提供する。
【0006】
本発明の一実施形態によれば、前記負極集電体が銅元素を含む。
【0007】
本発明の一実施形態によれば、前記負極集電体が第1の金属を含み、前記第1の金属が銀または錫のうちの少なくとも1つを含み、前記第1の金属の、前記負極集電体に対する含有量をa%とすると、aは0.01~0.5の範囲内である。
【0008】
本発明の一実施形態によれば、前記負極集電体が、少なくとも1つの希土類元素をさらに含む。
【0009】
本発明の一実施形態によれば、Fとaが4≦F×a≦200を満たす。
【0010】
本発明の一実施形態によれば、FとWが100/3≦F/W≦200を満たす。
【0011】
本発明の一実施形態によれば、前記負極活物質層の密度をD g/cm3とすると、Dが1.4~2.0の範囲内であり、FとDが560≦F×D≦1200を満たす。
【0012】
本発明の一実施形態によれば、前記負極集電体が、下記特徴の少なくとも一つを有する。
1)平均表面粗さが0.05μm~1.5μmである;
2)0.2%耐力が30N/mm2以上である;
3)厚さが1μm~100μmである。
【0013】
本発明の一実施形態によれば、前記負極活物質層が下記特徴の少なくとも一つを有する。
a)550nmの波長での反射率Raが7%~15%である;
b)空孔率Paが20%~40%である。
【0014】
本発明の一実施形態によれば、前記電解液は、下記化合物から選ばれた少なくとも1つを含む。
i.プロピオン酸エステル、
ii.シアノ基含有化合物、
iii.ジフルオロリン酸リチウム、または
iv.下記の式(1)
【化1】
(式中、
Wは下記の各式:
【化2】
で示される化合物から選ばれた一つである。
Lはそれぞれ独立して単結合またはメチレン基である。
mは1、2、3、または4である。
nは0、1または2である。)で示される化合物。
【0015】
本発明の一実施形態によれば、前記式(1)で示される化合物は、以下の化合物のうち少なくとも1つを含む。
【化3】
【化4】
【0016】
本発明の一実施形態によれば、前記シアノ基含有化合物の前記電解液に対する含有量をb%とすると、bが0.01~10の範囲である。
【0017】
本発明の一実施形態によれば、aとbが1≦b/a≦300を満たす。
【0018】
本発明の一実施形態によれば、Wとbが0.5≦W/b≦24を満たす。
【0019】
本発明の別の一態様において、本発明にかかる前記電気化学デバイスを含む電子装置を提供する。
【0020】
本発明の他の態様および利点の一部については、以下に詳細に示すか、又は本発明の実施例によって説明するが、本発明の範囲は、以下の記載に限定されない。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態について、以下に詳細に説明する。本発明の実施形態は、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0022】
特に明記しない限り、本明細書で使用される下記用語は、以下に示される意味を有する。
【0023】
発明を実施するための形態および特許請求の範囲において、「少なくとも一方」という用語によって接続された複数の事項は、列挙された事項からなる任意の組み合わせを意味する。例えば、AおよびBが列挙されている場合、「AおよびBのうちの少なくとも一方」という表現は、Aのみ、Bのみ、または、AおよびBを意味する。別の一例として、A、BおよびCが列挙されている場合、「A、BおよびCのうちの少なくとも一方」という表現は、Aのみ、Bのみ、Cのみ、AおよびB(Cを除く)、AおよびC(Bを除く)、BおよびC(Aを除く)、または、A、BおよびCのすべてを意味する。また、A、B、Cのいずれにも、一つの要素または複数の要素が含まれてもよい。「少なくとも1つ」という用語は、「少なくとも1種」、「少なくとも一方」などの用語と同じ意味を有する。
【0024】
本明細書で使用される場合、「アルキル」という用語は、1~20個の炭素原子を有する直鎖状飽和炭化水素構造を有するものを指すと意図する。「アルキル」はまた、3~20個の炭素原子を有する分岐鎖状または環状炭化水素構造を有するものを指すと意図する。具体的な炭素数を有するアルキル基が指定される場合、当該炭素数を有するすべての幾何異性体を含むと意図する。従って、例えば、「ブチル」とは、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、及びシクロブチルを含むと意味する。「プロピル」とは、n-プロピル、イソプロピル、及びシクロプロピルを含むと意味する。アルキル基の例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、シクロブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、シクロペンチル、メチルシクロペンチル、エチルシクロペンチル、n-ヘキシル、イソヘキシル、シクロヘキシル、n-ヘプチル、オクチル、シクロプロピル、シクロブチル、ノルボルニル基などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
本明細書で使用される場合、「ハロゲン化」という用語は、基における水素原子の一部または全部がハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素)で置換されることを意味する。
【0026】
技術の進歩と使用需要の増加に伴い、電気化学デバイス(例えば、リチウムイオン電池)の航続時間に対する需要も高まっている。航続時間を向上させるために、リチウムイオン電池の性能、特にリチウムイオン電池の高温貯蔵膨張性能とサイクル膨張性能に対する要求がさらに高まっている。
【0027】
上記課題を解決するために、本発明において、高い引張強さを有する負極集電体および特定の重量を有する負極活物質層を使用することにより、高温条件下での負極の破断を防ぎ、電気化学デバイスにその容量を十分に発揮させ、電気化学デバイスの高温貯蔵膨張性能とサイクル膨張性能を大幅に改善することができる。
【0028】
本発明の一態様により、後述する正極、負極および電解液を含む電気化学デバイスを提供する。
【0029】
I、負極
負極は、負極集電体と、該負極集電体の片面または両面に設けられた負極活物質層とを含む。
【0030】
1、負極集電体
本明細書で使用される場合、「引張強さ」という用語は、試料が破断するまでに必要な最大引張力と試料の断面積との比を指す。
【0031】
本発明の電気化学デバイスは、負極集電体の引張強さをF N/mm2とすると、Fが400以上であることを特徴とする。いくつかの実施形態において、Fが450以上である。いくつかの実施形態において、Fが500以上である。いくつかの実施形態において、Fが550以上である。いくつかの実施形態において、Fが600以上である。いくつかの実施形態において、Fが650以上である。いくつかの実施形態において、Fが700以上である。いくつかの実施形態において、Fは800以上である。いくつかの実施形態において、Fが900以上である。いくつかの実施形態において、Fが1000以上である。
【0032】
負極集電体の高い引張強さは、負極集電体に特定の元素をドープすることによって達成することができる。引張強さの高い負極集電体を使用することにより、電気化学デバイスの充放電時における負極活物質層の膨張・収縮による負極集電体の亀裂を抑制することができ、これにより、電気化学デバイスの高温貯蔵膨張性能とサイクル膨張性能を大幅に改善することができる。
【0033】
負極集電体の引張強さは、伸張率の測定と同じ装置と方法を採用してもよい(GB-228-87に準じる試験方法を参照)。
【0034】
いくつかの実施形態では、前記負極集電体の形式としては、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属フィルム、エキスパンドメタル、パンチングメタル、発泡金属などが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、負極集電体は金属箔である。いくつかの実施形態において、金属箔はメッシュ状である。
【0035】
いくつかの実施形態において、前記負極集電体は銅元素を含む。
【0036】
いくつかの実施形態において、負極集電体は銅箔である。本明細書で使用される場合、「銅箔」という用語は、銅合金箔を含む。
【0037】
いくつかの実施形態において、負極集電体は、タフピッチ銅または無酸素銅のうちの少なくとも1つを含む。本明細書で使用される場合、「タフピッチ銅」という用語は、タフピッチ銅をベースとする銅合金箔を含み、「無酸素銅」という用語は、無酸素銅をベースとする銅合金箔を含む。
【0038】
いくつかの実施形態において、前記タフピッチ銅は、JIS-H3100-C1100規格を満たす。いくつかの実施形態では、前記無酸素銅は、JIS-H3100-C1020規格を満たす。 上記の規格を満たすタフピッチ銅または無酸素銅の組成は純銅に近く、導電率が良好であり、特に負極集電体としての使用に適する。
【0039】
いくつかの実施形態において、前記タフピッチ銅における酸素含有量は、銅に対して0.01%~0.02%である。いくつかの実施形態において、前記無酸素銅における酸素含有量は、銅に対して0.001%以下である。
【0040】
いくつかの実施形態において、前記負極集電体は第1の金属を含み、前記第1の金属は銀または錫のうちの少なくとも1つを含む。前記負極集電体の重量に対する前記第1の金属の含有量をa%とすると、aは0.01~0.5の範囲内である。いくつかの実施形態において、aは0.05~0.4の範囲内である。いくつかの実施形態において、aは0.1~0.3の範囲内である。いくつかの実施形態において、aは、0.01、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5であるか、または上記任意の2つの値から構成される範囲内である。負極集電体における第1の金属の含有量が0.01%~0.5%の範囲である場合、負極集電体の表面の酸化を抑制するのに寄与し、負極集電体の電導率を良くするだけでなく、負極の作製過程中で負極活物質層を塗布した後の乾燥工程中で再結晶化することができ、電気化学デバイスの高温貯蔵膨張性能とサイクル膨張性能をさらに改善することができる。
【0041】
いくつかの実施形態において、前記負極集電体は、少なくとも1つの希土類元素をさらに含む。
【0042】
いくつかの実施形態において、前記希土類元素は、インジウム、イットリウム、スカンジウム、チタン、及びバナジウムのうちの少なくとも1つを含む。
【0043】
いくつかの実施形態において、前記銅箔は不純物を含み、前記不純物は、P、Fe、Zr、Mg、S、Ge、及びTiのうちの少なくとも1つを含む。いくつかの実施形態において、前記銅箔の重量に対して、前記不純物の含有量は20ppm以下である。銅箔中の不純物含有量が上記の範囲内である場合、銅箔は曲げ変形しにくいため、結晶方位の回転を減少し、せん断帯の発生を回避し、負極集電体の耐破断性を改善するのに寄与する。
【0044】
いくつかの実施形態において、負極集電体の引張強さであるF N/mm2と負極集電体における第1の金属の含有量であるa%は、4≦F×a≦200を満たす。いくつかの実施形態において、5≦F×a≦150である。いくつかの実施形態において、10≦F×a≦100である。いくつかの実施形態において、20≦F×a≦50である。いくつかの実施形態において、F×aは、4、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200であるか、または上記任意の2つの値から構成される範囲内である。負極集電体の引張強さであるF N/mm2と負極集電体における第1の金属の含有量であるa%とが上記の関係を満たす場合、電気化学デバイスの高温貯蔵膨張性能とサイクル膨張性能をさらに改善することができる。
【0045】
いくつかの実施形態において、前記負極集電体は、以下の特徴(1)~(3)の少なくとも一つを有する。
【0046】
(1)平均表面粗さ
いくつかの実施形態において、前記負極集電体の平均表面粗さは、0.05μm~1.5μmである。いくつかの実施形態において、前記負極集電体の平均表面粗さは、0.1μm~1.3μmである。いくつかの実施形態において、前記負極集電体の平均表面粗さは、0.15μm~1.0μmである。いくつかの実施形態において、前記負極集電体の平均表面粗さは、0.2μm~0.8μmである。いくつかの実施形態において、前記負極集電体の平均表面粗さは、0.3μm~0.5μmである。いくつかの実施形態において、前記負極集電体の平均表面粗さは、0.05μm、0.1μm、0.3μm、0.5μm、0.8μm、1μm、1.3μm、1.5μmであるか、または上記任意の2つの値から構成される範囲内である。負極集電体の平均表面粗さが上記の範囲内であれば、負極集電体と負極活物質層との界面面積が大きくなると共に、負極集電体と負極活物質との密着性が向上し、電気化学デバイスの高温貯蔵膨張性能とサイクル膨張性能を改善するのに寄与する。
【0047】
負極集電体の平均表面粗さはISO1302:2002に記載の方法で測定してもよい。
【0048】
(2)0.2%耐力
本明細書で使用される場合、「0.2%耐力」という用語は、試料に0.2%塑性変形(すなわち、永久変形)を発生させるために必要な荷重の大きさを意味する。言い換えると、荷重を加えて試料に0.2%の塑性変形を発生させた後、当該荷重を取り除いても、試料は依然として0.2%の塑性変形を維持する。
【0049】
いくつかの実施形態において、前記負極集電体の0.2%耐力は、30N/mm2以上である。いくつかの実施形態において、前記負極集電体の0.2%耐力は、50N/mm2以上である。いくつかの実施形態において、前記負極集電体の0.2%耐力は、100N/mm2以上である。いくつかの実施形態において、前記負極集電体の0.2%耐力は、150N/mm2以上である。いくつかの実施形態において、前記負極集電体の0.2%耐力は、200N/mm2以上である。いくつかの実施形態において、前記負極集電体の0.2%耐力は、300N/mm2以上である。負極集電体の0.2%耐力は上記の範囲内であれば、電気化学デバイスの充放電時における負極活物質層の膨張または収縮による負極集電体の亀裂を抑制することができ、これにより、高温貯蔵膨張性能とサイクル膨張性能を改善することができる。
【0050】
負極集電体の0.2%耐力は、伸張率の測定と同じ装置と方法(GB-228-87に準じる試験方法を参照)を採用して測定してもよい。
【0051】
(3)厚さ
いくつかの実施形態において、前記負極集電体の厚さは1μm~100μmである。いくつかの実施形態において、前記負極集電体の厚さは3μm~80μmである。いくつかの実施形態において、前記負極集電体の厚さは5μm~50μmである。いくつかの実施形態において、前記負極集電体の厚さは10μm~30μmである。いくつかの実施形態において、前記負極集電体の厚さは15μm~20μmである。いくつかの実施形態において、前記負極集電流器の厚さは、1μm、3μm、5μm、10μm、15μm、20μm、25μm、30μm、35μm、40μm、45μm、50μm、55μm、60μm、65μm、70μm、75μm、80μm、85μm、90μm、95μm、100μmであるか、または上記任意の2つの値から構成される範囲内である。負極集電体の厚さが上記の範囲内であれば、負極集電体は強度が高く、塗布されやすく、負極の形状が曲げなどの変形を発生しにくい。
【0052】
2、負極活物質層
負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質層は、1層または複数層からなるものであってもよく、複数層の負極活物質における各層は、それぞれ同じまたは異なる負極活物質を含んでも良い。負極活物質は、リチウムイオンなどの金属イオンを可逆的に吸蔵・放出可能な物質である。いくつかの実施形態において、充電中におけるリチウム金属の負極への意図しない析出を防止するために、負極活物質の充電可能容量を、正極活物質の放電容量より大きくさせる。
【0053】
本発明の電気化学デバイスの別の特徴として、負極活物質層の単位面積あたりの重量をW mg/cm2とすると、Wが3~12の範囲内である。いくつかの実施形態において、Wは5~10の範囲内である。いくつかの実施形態において、Wは6~8の範囲内である。いくつかの実施形態において、Wは、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12であるか、または上記任意の2つの値から構成される範囲内である。負極活物質層の単位面積あたりの重量が上記の範囲内であれば、負極集電体と負極活物質層との間の界面付近への電解液の浸透性を改善するのに寄与し、電気化学デバイスにおける電子伝導を改善するとともに、活物質層の加工中に受ける衝撃を低減することができ、負極集電体と負極活物質層との間の界面を良好に維持し、負極活物質同士の間の相対変位を減少し、これにより、電気化学デバイスの高温貯蔵膨張性能とサイクル膨張性能を改善することができる。
【0054】
いくつかの実施形態において、負極集電体の引張強さであるF N/mm2と負極活物質層の単位面積当たりの重量であるW mg/cm2が、100/3≦F/W≦200を満たす。いくつかの実施形態において、40≦F/W≦150。いくつかの実施形態において、50≦F/W≦100。いくつかの実施形態において、60≦F/W≦80。いくつかの実施形態において、F/Wは、100/3、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200であるか、または上記任意の2つの値から構成される範囲内である。負極集電体の引張強さであるF N/mm2と負極活物質層の単位面積あたりの重量であるW mg/cm2が上記の関係を満たす場合、電気化学デバイスの高温貯蔵膨張性能とサイクル膨張性能さらに改善することができる。
【0055】
本発明における負極活物質層の単位面積あたりの重量は、活物質層の面積(cm2)に対する負極活物質層の質量(mg)の比である。負極活物質層の質量および面積は、次の方法で得られる:負極から適宜なサイズの試験片を切り出し、その面積S1と質量W0を測定し、次に負極から負極集電体を剥離し、負極集電体の質量W1を測定し、負極活物質層の質量を(W0-W1)から算出し、単位面積あたりの重量=(W0-W1)/S1である。測定対象とする負極が両面に活物質層を有する場合、単位面積あたりの重量=(W0-W1)/S1/2である。
【0056】
負極活物質層を剥離する方法としては、例えば、負極活物質層を、それを溶解または膨潤可能な溶媒に浸漬して、活物質層を布で拭き取る方法などが挙げられる。
【0057】
負極活物質層の単位面積あたりの重量は、既知の方法で調整できる。例えば、塗布により負極活物質層を形成する場合、負極活物質層を形成するための塗布液の固形分濃度、塗布回数、塗布機の塗布液投入口のギャップを変えることによって調整することができる。具体的に、前記固形分濃度を上げ、前記塗布回数を増やし、または前記ギャップを大きくすることによって負極活物質層の単位面積あたりの重量を増加することができ、前記固形分濃度を下げ、前記塗布回数を減らし、または前記ギャップを小さくすることによって負極活物質層の単位面積あたりの重量を減少することができる。
【0058】
いくつかの実施形態において、前記負極活物質層の密度をD g/cm3とすると、Dは1.4~2.0の範囲内である。いくつかの実施形態において、Dは1.5~1.8の範囲内である。いくつかの実施形態において、Dは、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0であるか、または上記任意の2つの値から構成される範囲内である。負極活物質層の密度が上記の範囲内であれば、負極活物質が破壊され難く、初期不可逆容量を低く維持し、負極活物質同士の間の高い導電性を維持することができるだけでなく、負極集電体と負極活物質層との界面付近への電解液の浸透率を向上させることができ、これにより、電気化学デバイスの高温貯蔵膨張性能とサイクル膨張性能を改善することができる。
【0059】
いくつかの実施形態において、前記負極集電体の引張強さであるF N/mm2と負極活物質層の密度であるD g/cm3が、560≦F×D≦1200を満たす。いくつかの実施形態において、600≦F×D≦1000を満たす。いくつかの実施形態において、700≦F×D≦800を満たす。いくつかの実施形態において、F×Dは、560、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1050、1100、1150、1200であるか、または上記任意の2つの値から構成される範囲内である。負極集電体の引張強さであるF N/mm2と負極活物質層の密度であるD g/cm3が上記の関係を満たす場合、電気化学デバイスの高温貯蔵膨張性能とサイクル膨張性能をさらに改善することができる。
【0060】
いくつかの実施形態において、前記負極活物質層は、以下の特徴(a)および(b)のうち少なくとも一方を有する。
【0061】
(a)反射率
負極活物質層の反射率は、負極活物質層の表面の平滑性および負極活物質の表面圧縮状態を反映することができる。負極活物質層の反射率は、負極活物質層の種類、負極活物質層の成形条件、及び成形後の後処理プロセスにより制御できる。また、負極圧延時の圧延圧力、圧延回数、圧延時の加熱条件、圧延時に使用する圧延板及び圧延ロールの材質や表面形状によって制御できる。
【0062】
いくつかの実施形態において、前記負極活物質層の波長550nmでの反射率Raは、7%~15%である。いくつかの実施形態において、前記負極活物質層の波長550nmでの反射率Raは、8%~14.8%である。いくつかの実施形態において、前記負極活物質層の波長550nmでの反射率Raは、10%~12%である。いくつかの実施形態において、前記負極活物質層の波長550nmでの反射率Raは、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%であるか、または上記任意の2つの値から構成される範囲内である。負極活物質層の反射率が上記の範囲内であれば、負極活物質層の表面での副反応を抑制し、電解液の、負極活物質層の表面から負極活物質層の内部への浸透性を向上させることができ、これにより、電気化学デバイスの高速充電特性を改善することができる。
【0063】
負極活物質層の反射率は、市販の分光光度計(例えば、コニカミノルタ製SPECTRO PHOTOMETER CM-5)を用いて測定してもよい。
【0064】
(b)空孔率
いくつかの実施形態において、前記負極活物質層の空孔率Paは20%~40%である。いくつかの実施形態において、前記負極活物質層の空孔率Paは、26.5%~31.3%である。いくつかの実施形態において、前記負極活物質層の空孔率Paは、26%~31%である。いくつかの実施形態において、前記負極活物質層の空孔率Paは、20%、22%、24%、26%、28%、30%、32%、34%、36%、38%、40%であるか、または上記任意の2つの値から構成される範囲内である。
【0065】
負極活物質層の空孔率は、打ち抜き機を用いて負極を13mmの小円盤に打ち抜き、マイクロメータを用いて小円盤の厚さを測定することにより測定してもよい。AccuPyc 1340機器のサンプルコンパートメントに一定数量の小円盤を入れ、ヘリウムガスでサンプルを30回パージした後、プログラムによりヘリウムガスを導入してサンプルコンパートメント内の圧力を測定することにより、PV=nRTという理想気体の法則によりサンプルコンパートメント内の真体積を算出する。測定完了後、小円盤の数量を数え、サンプルの見かけ体積を算出する。従って、次の式でサンプルの空孔率を算出する。
空孔率=1-真体積/見かけ体積。
【0066】
負極活物質
いくつかの実施形態において、負極活物質には、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、MCMBなどの炭素材料;シリコン;SiOx(0<x<2)で表されるケイ素酸化物などのケイ素含有化合物;リチウム金属、リチウムと合金を形成する金属及びそれらの合金;二酸化錫などの酸化物を主体とするアモルファス化合物;およびチタン酸リチウム(Li4Ti5O12)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0067】
いくつかの実施形態において、負極活物質は炭素材料を含む。いくつかの実施形態において、負極活物質は、黒鉛構造を有する炭素材料を含む。いくつかの実施形態において、負極活物質は、人造黒鉛または天然黒鉛のうちの少なくとも1つである。
【0068】
いくつかの実施形態において、負極活物質は複数の成分を含み、その中で、黒鉛構造を有する炭素材料が主成分である。いくつかの実施形態において、黒鉛構造を有する炭素材料の含有量は、負極活物質層の重量に対して70.0%以上である。いくつかの実施形態において、黒鉛構造を有する炭素材料の含有量は、負極活物質層の重量に対して90.0%以上である。黒鉛構造を有する炭素材料の含有量は、負極活物質層の重量に対して95.0%以上である。
【0069】
いくつかの実施形態において、金属リチウムとの合金を形成する金属としては、アルミニウム、シリコン、錫及びゲルマニウムなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
いくつかの実施形態において、負極活物質は、シリコンに代表される、リチウムとの合金を形成可能な金属若しくは半金属、又はこのような金属若しくは半金属とリチウムとの合金であり、高い充放電容量を有する。
【0071】
いくつかの実施形態において、負極活物質は、シリコンに代表される、リチウムとの合金を形成可能な金属若しくは半金属、又はこのような金属若しくは半金属とリチウムとの合金と、黒鉛構造を有する炭素材料との混合物を含む。
【0072】
バインダー
いくつかの実施形態において、前記負極活物質層は、負極バインダーをさらに含む。負極バインダーは、負極活物質粒子同士の間の結合、および負極活物質層と負極集電体との間の結合を強めることができる。負極バインダーの種類は、電解液や、電極の製造に使用される溶媒に安定な材料である限り、特に限定されない。
【0073】
負極バインダーの例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、芳香族ポリアミド、セルロース、ニトロセルロースなどの樹脂系ポリマー;SBR(スチレンブタジエンゴム)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、フルオロゴム、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)、スチレン-プロピレンゴムなどのゴム状ポリマー;スチレン-ブタジエン-スチレンブロックコポリマーまたはその水素化物;EPDM(エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体)、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレンコポリマー、スチレン-イソブチレン-スチレンブロックコポリマーまたはその水素化物などの熱可塑性エラストマー状ポリマー;シンジオタクチック1,2-ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、プロピレン-α-オレフィン共重合体などの軟質樹脂状ポリマー;ポリフッ化ポリニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン-エチレンコポリマーなどのフッ素系ポリマー;アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有するポリマー組成物などが挙げられるが、これらに限定されない。上記の負極バインダーは、単独で使用してもよく、または任意の組み合わせで使用してもよい。
【0074】
いくつかの実施形態において、前記負極バインダーの含有量は、負極活物質層の重量に対して、0.1%以上、0.5%以上、または0.6%以上である。いくつかの実施形態において、前記負極バインダーの含有量は、負極活物質層の重量に対して、10%以下、8%以下、5%以下、または4%以下である。いくつかの実施形態において、前記負極バインダーの含有量は、上記任意の2つの値から構成される範囲内である。負極バインダーの含有量が上記の範囲内であれば、電気化学デバイスの容量および負極の強度を十分に確保することができる。
【0075】
負活物質層がゴム状ポリマー(例えば、SBR)を含む場合、いくつかの実施形態において、前記負極バインダーの含有量は、負極活物質層の重量に対して、0.1%超、0.5%超、または0.6%超である。いくつかの実施形態において、前記負極バインダーの含有量は、負極活物質層の重量に対して、5%未満、3%未満、または2%未満である。いくつかの実施形態において、前記負極バインダーの含有量は、負極活物質層の重量に対して、上記任意の2つの値から構成される範囲内である。
【0076】
負極活物質層がフッ素系ポリマー(例えば、ポリフッ化ビニリデン)を含む場合、いくつかの実施形態において、前記負極バインダーの含有量は、負極活物質層の重量に対して、1%超、2%超、または3%超である。いくつかの実施形態において、前記負極バインダーの含有量は、負極活物質層の重量に対して、10%未満、8%未満、または5%未満である。前記負極バインダーの含有量は、負極活物質層の重量に対して、上記任意の2つの値から構成される範囲内である。
【0077】
増粘剤
増粘剤は通常、負極スラリーの粘度を調整するために使用される。増粘剤の種類は特に限定されず、その例として、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化デンプン、リン酸化デンプン、カゼインおよびそれらの塩が挙げられるが、これらに限定されない。上記の増粘剤は、単独で使用してもよく、または任意の組み合わせで使用してもよい。
【0078】
いくつかの実施形態において、前記増粘剤の含有量は、負極活物質層の重量に対して、0.1%超、0.5%超、または0.6%超である。いくつかの実施形態において、前記増粘剤の含有量は、負極活物質層の重量に対して、5%未満、3%未満、または2%未満である。増粘剤の含有量が上記の範囲内である場合、電気化学デバイスの容量の低減および抵抗の増加を抑制することができるだけでなく、負極スラリーが良好な塗布性を有することを確保することができる。
【0079】
溶媒
負極スラリーを形成するための溶媒の種類は、負極活物質、負極バインダー、および必要に応じて使用される増粘剤や導電材を溶解または分散させることができる溶媒であれば、特に限定されない。いくつかの実施形態において、負極スラリーを形成するための溶媒は、水系溶媒および有機系溶媒のいずれか1つを使用してもよい。水系溶媒の例としては、水、アルコールなどが挙げられるが、これらに限定されない。有機系溶媒の例としては、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、アセトン、ジエチルエーテル、ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホキシド、ベンゼン、キシレン、キノリン、ピリジン、メチルナフタレン、ヘキサンなどが挙げられるが、これらに限定されない。上記溶媒は、単独で使用してもよく、または任意の組み合わせで使用してもよい。
【0080】
負極の作製
本発明の電気化学デバイスにおける負極は、任意の既知の方法を使用して作製してもよい。例えば、負極活物質に、バインダー、溶媒、及び、必要に応じて増粘剤、導電材、充填剤などを添加してスラリー化した後、得られたスラリーを負極集電体に塗布し、乾燥した後、プレスすることにより電極を形成する。また、負極活物質を圧延ロールでシート状電極に成形したり、圧縮成形によりペレット電極に作製したりすることも可能である。
【0081】
II、電解液
本発明の電気化学装置において使用される電解液は、電解質および該電解質を溶解する溶媒を含む。いくつかの実施形態において、本発明の電気化学デバイスにおいて使用される電解液は、添加剤をさらに含む。
【0082】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記電解液は、下記化合物のうちの少なくとも1つをさらに含む。
【0083】
i.プロピオン酸エステル、
ii.シアノ基含有化合物、
iii.ジフルオロリン酸リチウム、または
iv.下記の式(1):
【化5】
(式中、
Wは下記の各式:
【化6】
で示される化合物から選ばれた一つである。
Lはそれぞれ独立して単結合またはメチレン基である。
mは1、2、3、または4である。
nは0、1または2である。)で示される化合物。
【0084】
(i)プロピオン酸エステル
いくつかの実施形態において、プロピオン酸エステルは、以下の式(2):
【化7】
(式中、
R
1はエチルまたはハロゲン化エチルから選ばれ、且つ
R
2は、C
1~6アルキルまたはC
1~6ハロゲン化アルキルから選ばれる。)で示される化合物を含む。
【0085】
いくつかの実施形態において、前記プロピオン酸エステルは、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸ペンチル、ハロゲン化プロピオン酸メチル、ハロゲン化プロピオン酸エチル、ハロゲン化プロピオン酸プロピル、ハロゲン化プロピオン酸ブチル、およびハロゲン化プロピオン酸ペンチルが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、前記プロピオン酸エステルは、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、およびプロペン酸ペンチルから選ばれる少なくとも1つである。いくつかの実施形態において、ハロゲン化プロピオン酸メチル、ハロゲン化プロピオン酸エチル、ハロゲン化プロピオン酸プロピル、ハロゲン化プロピオン酸ブチル、およびハロゲン化プロピオン酸ペンチルにおけるハロゲン基は、フッ素基(-F)、塩素基(-Cl)、臭素基(-Br)、及びヨウ素基(-I)から選ばれる1つ以上である。いくつかの実施形態において、前記ハロゲン基は、フッ素基(-F)であることにより、さらに優れた効果を達成することができる。
【0086】
いくつかの実施形態において、前記プロピオン酸エステルの含有量は、前記電解液の重量に対して、10%~60%である。いくつかの実施形態において、前記プロピオン酸エステルの含有量は、前記電解液の重量に対して、20%~50%である。いくつかの実施形態において、前記プロピオン酸エステルの含有量は、前記電解液の重量に対して、30%~40%である。いくつかの実施形態において、前記プロピオン酸エステルの含有量は、前記電解液の重量に対して、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%であるか、または上記任意の2つの値から構成される範囲内である。
【0087】
(ii)シアノ基含有化合物
いくつかの実施形態においてにおいて、シアノ基含有化合物として、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、1,5-ジシアノペンタン、1,6-ジシアノヘキサン、テトラメチルスクシノニトリル、2-メチルグルタロニトリル、2,4-ジメチルグルタロニトリル、2,2,4,4-テトラメチルグルタロニトリル、1,4-ジシアノペンタン、1,2-ジシアノベンゼン、1,3-ジシアノベンゼン、1,4-ジシアノベンゼン、エチレングリコールビス(プロピオニトリル)エーテル、3,5-ジオキサ-ピメロニトリル、1,4-ビス(シアノエトキシ)ブタン、ジエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、トリエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、テトラエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、 1,3-ビス(2-シアノエトキシ)プロパン、1,4-ビス(2-シアノエトキシ)ブタン、1,5-ビス(2-シアノエトキシ)ペンタン、エチレングリコールビス(4-シアノブチル)エーテル、1,4-ジシアノ-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2-メチル-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2-エチル-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2,3-ジメチル-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2,3-ジエチル-2-ブテン、1,6-ジシアノ-3-ヘキセン、1,6-ジシアノ-2-メチル-3-ヘキセン、1,3,5-ペンタントリカルボニトリル、1,2,3-プロパントリカルボニトリル、1,3,6-ヘキサントリカルボニトリル、1,2,6-ヘキサントリカルボニトリル、1,2,3-トリス(2-シアノエトキシ)プロパン、1,2,4-トリス(2-シアノエトキシ)ブタン、1,1,1-トリス(シアノエトキシメチレン)エタン、1,1,1-トリス(シアノエトキシメチレン)プロパン、3-メチル-1,3,5-トリス(シアノエトキシ)ペンタン、1,2,7-トリス(シアノエトキシ)ヘプタン、1,2,6-トリス(シアノエトキシ)ヘキサン、および1,2,5-トリス(シアノエトキシ)ペンタンから選ばれた1つ以上を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0088】
上記シアノ基含有化合物は、単独で使用してもよく、または任意の組み合わせで使用してもよい。電解液が2種以上のシアノ基含有化合物を含む場合、シアノ基含有化合物の含有量は、2種以上のシアノ基含有化合物の総含有量を意味する。
【0089】
いくつかの実施形態において、前記電解液の重量に対する、前記シアノ基含有化合物の含有量をb%とすると、bは0.01~10の範囲内である。いくつかの実施形態において、bは0.1~8の範囲内である。いくつかの実施形態において、bは0.5~5の範囲内である。いくつかの実施形態において、bは1~3の範囲内である。いくつかの実施形態において、bは、0.01、0.05、0.1、0.5、0.8、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10であるか、または上記任意の2つの値から構成される範囲内である。電解液中におけるシアノ基含有化合物の含有量が上記の範囲内であれば、電気化学デバイスの高温貯蔵膨張性能とサイクル膨張性能をさらに改善するのに寄与する。
【0090】
いくつかの実施形態において、電解液中のシアノ基含有化合物の含有量であるb%と負極集電体における第1の金属の含有量であるa%が、1≦b/a≦300を満たす。いくつかの実施形態において、5≦b/a≦250を満たす。いくつかの実施形態において、10≦b/a≦200を満たす。いくつかの実施形態において、50≦b/a≦150を満たす。いくつかの実施形態において、80≦b/a≦100を満たす。いくつかの実施形態において、b/aは、1、5、10、20、50、80、100、120、150、180、200、220、250、280、300であるか、または上記任意の2つの値から構成される範囲内である。電解質中のシアノ基含有化合物の含有量であるb%と負極集電体における第1の金属の含有量であるa%が上記の関係を満たす場合、電気化学デバイスの高温貯蔵膨張性能とサイクル膨張性能をさらに改善するのに寄与する。
【0091】
いくつかの実施形態において、電解液中のシアノ基含有化合物の含有量であるb%と負極活物質層の単位面積当たりの重量であるW mg/cm2が、0.5≦W/b≦24を満たす。いくつかの実施形態において、1≦W/b≦20を満たす。いくつかの実施形態において、5≦W/b≦15を満たす。いくつかの実施形態において、8≦W/b≦10を満たす。いくつかの実施形態において、W/bは、0.5、1、2、5、8、10、12、15、18、20、22、24であるか、または上記任意の2つの値から構成される範囲内である。電解液中のシアノ基含有化合物の含有量であるb%と負極活物質層の単位面積あたりの重量であるW mg/cm2が上記の関係を満たす場合、電気化学デバイスの高温貯蔵膨張性能とサイクル膨張性能をさらに改善するのに寄与する。
【0092】
(iii)ジフルオロリン酸リチウム(LiPO
2
F
2
)
いくつかの実施形態において、前記ジフルオロリン酸リチウムの含有量は、前記電解液の重量に対して、0.01%~1.5%である。いくつかの実施形態において、前記ジフルオロリン酸リチウムの含有量は、前記電解液の重量に対して、0.05%~1.2%である。いくつかの実施形態において、前記ジフルオロリン酸リチウムの含有量は、前記電解液の重量に対して、0.1%~1.0%である。いくつかの実施形態において、前記ジフルオロリン酸リチウムの含有量は、前記電解液の重量に対して、0.5%~0.8%である。いくつかの実施形態において、前記ジフルオロリン酸リチウムの含有量は、前記電解液の重量に対して、0.01%、0.05%、0.1%、0.15%、0.2%、0.25%、0.3%、0.35%、0.4%、0.45%、0.5%、0.8%、1%、1.5%であるか、または上記任意の2つの値から構成される範囲内である。
【0093】
(iv)式(1)で示される化合物(以下、「式(1)の化合物」と略称する。)
いくつかの実施形態において、式(1)の化合物は、下記化合物のうちの少なくとも1つを含む。
【化8】
【化9】
【0094】
いくつかの実施形態において、前記式(1)の化合物の含有量は、前記電解液の重量に対して、0.01%~5%である。いくつかの実施形態において、前記式(1)の化合物の含有量は、前記電解液の重量に対して、0.05%~3%である。いくつかの実施形態において、前記式(1)の化合物の含有量は、前記電解液の重量に対して、0.1%~2%である。いくつかの実施形態において、前記式(1)の化合物の含有量は、前記電解液の重量に対して、0.5%~1%である。いくつかの実施形態において、前記式(1)の化合物の含有量は、前記電解液の重量に対して、0.01%、0.05%、0.1%、0.5%、1%、2%、3%、4%、5%であるか、または上記任意の2つの値から構成される範囲内である。
【0095】
溶媒
いくつかの実施形態において、前記電解液は、従来既知の任意の、電解質の溶媒として使用可能な非水溶媒をさらに含む。
【0096】
いくつかの実施形態において、前記非水溶媒は、環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状カルボン酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、環状エーテル、鎖状エーテル、リン含有有機溶媒、硫黄含有有機溶媒、及び芳香族フッ素含有溶媒から選ばれた1つ以上を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0097】
いくつかの実施形態において、前記環状カーボネートの例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、及びブチレンカーボネートから選ばれた1つ以上を含んでも良いが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、前記環状カーボネートは、3~6個の炭素原子を有する。
【0098】
いくつかの実施形態において、前記鎖状カーボネートの例としては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルn-プロピルカーボネート、エチルn-プロピルカーボネート。ジ-n-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネートなどから選ばれた1つ以上を含んでも良いが、これらに限定されない。フッ素で置換された鎖状カーボネートの例としては、ビス(フルオロメチル)カーボネート、ビス(ジフルオロメチル)カーボネート、ビス(トリフルオロメチル)カーボネート、ビス(2-フルオロエチル)カーボネート、ビス(2,2-ジフルオロエチル)カーボネート、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)カーボネート、2-フルオロエチルメチルカーボネート、2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネート、及び2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネートなどから選ばれた1つ以上を含んでも良いが、これらに限定されない。
【0099】
いくつかの実施形態において、前記環状カルボン酸エステルの例としては、γ-ブチロラクトン及びγ-バレロラクトンうちの1つ以上を含んでもよいが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、環状カルボン酸エステルにおける水素原子の一部は、フッ素で置換されてもよい。
【0100】
いくつかの実施形態において、前記鎖状カルボン酸エステルの例としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸sec-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸tert-ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、吉草酸メチル、吉草酸エチル、ピバリン酸メチル、及びピバリン酸エチルなどから選ばれた1つ以上を含んでも良いが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、鎖状カルボン酸エステルにおける水素原子の一部は、フッ素で置換されてもよい。いくつかの実施形態において、フッ素で置換された鎖状カルボン酸エステルの例としては、トリフルオロ酢酸メチル、トリフルオロ酢酸エチル、トリフルオロ酢酸プロピル、トリフルオロ酢酸ブチル、およびトリフルオロ酢酸2,2,2-トリフルオロエチルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0101】
いくつかの実施形態において、前記環状エーテルの例としては、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、及びジメトキシプロパンから選ばれた1つ以上を含んでも良いが、これらに限定されない。
【0102】
いくつかの実施形態において、前記鎖状エーテルの例としては、ジメトキシメタン、1,1-ジメトキシエタン、1,2-ジメトキシエタン、ジエトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、エトキシメトキシメタン、1,1-エトキシメトキシエタン、及び1,2-エトキシメトキシエタンなどから選ばれた1つ以上を含んでも良いが、これらに限定されない。
【0103】
いくつかの実施形態において、前記リン含有有機溶媒の例としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、ジメチルエチルホスフェート、メチルジエチルホスフェート、メチルエチレンホスフェート、エチルエチレンホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスフェート、及びトリス(2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル)ホスフェートなどから選ばれた1つ以上を含んでも良いが、これらに限定されない。
【0104】
いくつかの実施形態において、硫黄含有有機溶媒の例としては、スルホラン、2-メチルスルホラン、3-メチルスルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、エチルメチルスルホン、メチルプロピルスルホン、ジメチルスルホキシド、メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、エタンスルホン酸メチル、エタンスルホン酸エチル、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、及び硫酸ジブチルから選ばれた1つ以上を含んでも良いが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、硫黄含有有機溶媒における水素原子の一部はフッ素で置換されてもよい。
【0105】
いくつかの実施形態において、前記芳香族フッ素含有溶媒として、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、トリフルオロベンゼン、テトラフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、及びトリフルオロメチルベンゼンから選ばれた1つ以上を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0106】
いくつかの実施形態において、本発明の電解液において使用される溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状カルボン酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、およびそれらの組み合わせが挙げられる。いくつかの実施形態において、本発明の電解液において使用される溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、n-プロピルアセテート、エチルアセテートおよびそれらの組み合わせから選ばれた有機溶媒を含む。いくつかの実施形態において、本発明の電解質において使用される溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、γ-ブチロラクトン、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0107】
添加剤
いくつかの実施形態において、前記添加剤の例としては、フッ素化カーボネート、炭素-炭素二重結合含有エチレンカーボネート、硫黄-酸素二重結合含有化合物、および酸無水物から選ばれた1つ以上を含んでも良いが、これらに限定されない。
【0108】
いくつかの実施形態において、前記添加剤の含有量は、前記電解液の重量に対して、0.01%~15%、0.1%~10%、または1%~5%である。
【0109】
本発明の一実施形態によれば、前記電解液の重量に基づき、前記プロピオン酸エステルの含有量は、前記添加剤の1.5~30倍、1.5~20倍、2~20倍、または5~20倍である。
【0110】
いくつかの実施形態において、前記添加剤は、1つまたは複数のフッ素化カーボネートを含む。リチウムイオン電池を充放電する際に、フッ素化カーボネートがプロピオン酸エステルとともに作用して、負極の表面に安定した保護膜を形成するこれにより、電解液の分解反応を抑制することができる。
【0111】
いくつかの実施形態において、前記フッ素化カーボネートは、式:C=O(ORx)(ORy)で表される。ここで、RxおよびRyは、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基またはハロゲン化アルキル基から選ばれ、ただし、RxおよびRyのうちの少なくとも一方は、炭素数1~6のフッ素化アルキル基から選ばれる。また、RxとRyは、それらが結合する原子と一緒になって、5~7員環を形成してもよい。
【0112】
いくつかの実施形態において、前記フッ素化カーボネートの例としては、フルオロエチレンカーボネート、シス-4,4-ジフルオロエチレンカーボネート、トランス-4,4-ジフルオロエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロエチレンカーボネート、4-フルオロ-4-メチルエチレンカーボネート、4-フルオロ-5-メチルエチレンカーボネート、トリフルオロメチルメチルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、およびエチルトリフルオロエチルカーボネートなどから選ばれた1つ以上を含んでも良いが、これらに限定されない。
【0113】
いくつかの実施形態において、前記添加剤は、1種以上の炭素-炭素二重結合含有エチレンカーボネートを含む。前記炭素-炭素二重結合含有エチレンカーボネートの例として、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、1,2-ジメチルビニレンカーボネート、1,2-ジエチルビニレンカーボネート、フルオロビニレンカーボネート、トリフルオロメチルビニレンカーボネート;ビニルエチレンカーボネート、1-メチル-2-ビニルエチレンカーボネート、1-エチル-2-ビニルエチレンカーボネート、1-n-プロピル-2-ビニルエチレンカーボネート、1-メチル-2-ビニルエチレンカーボネート、1,1-ジビニルエチレンカーボネート、1,2-ジビニルエチレンカーボネート、1,1-ジメチル-2-メチレンエチレンカーボネート、および1,1-ジエチル-2-メチレンエチレンカーボネートなどから選ばれた1つ以上を含んでも良いが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、前記炭素-炭素二重結合含有エチレンカーボネートは、容易に入手可能であり、より優れた効果を達成する観点から、炭酸ビニレンを含む。
【0114】
いくつかの実施形態において、前記添加剤は、フッ素化カーボネートと炭素-炭素二重結合含有エチレンカーボネートとの組み合わせである。いくつかの実施形態において、前記添加剤は、フッ素化カーボネートと硫黄-酸素二重結合含有化合物との組み合わせである。いくつかの実施形態において、前記添加剤は、フッ素化カーボネートと2~4個のシアノ基を有する化合物との組み合わせである。いくつかの実施形態において、前記添加剤は、フッ素化カーボネートと環状カルボン酸エステルの組み合わせである。いくつかの実施形態において、前記添加剤は、フッ素化カーボネートと環状リン酸無水物の組み合わせである。いくつかの実施形態において、前記添加剤は、フッ素化カーボネートとカルボン酸無水物の組み合わせである。いくつかの実施形態において、前記添加剤は、フッ素化カーボネートとスルホン酸無水物の組み合わせである。いくつかの実施形態において、前記添加剤は、フッ素化カーボネートとカルボン酸スルホン酸無水物の組み合わせである。
【0115】
電解質
電解質については特に限定されなく、電解質として公知されている任意の物質を使用してもよい。リチウム二次電池に用いる場合、一般的にはリチウム塩を使用する。電解質の例としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAlF4、LiSbF6、LiWF7などの無機リチウム塩;LiWOF5などのタングステン酸リチウム類;HCO2Li、CH3CO2Li、CH2FCO2Li、CHF2CO2Li、CF3CO2Li、CF3CH2CO2Li、CF3CF2CO2Li、CF3CF2CF2CO2Li、CF3CF2CF2CF2CO2Liなどのカルボン酸リチウム塩類;FSO3Li、CH3SO3Li、CH2FSO3Li、CHF2SO3Li、CF3SO3Li、CF3CF2SO3Li、CF3CF2CF2SO3Li、CF3CF2CF2CF2SO3Liなどのスルホン酸リチウム塩類;LiN(FCO)2、LiN(FCO)(FSO2)、LiN(FSO2)2、LiN(FSO2)(CF3SO2)、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、環状1,2-ペルフルオロエタンビススルホンイミドリチウム、環状1,3-ペルフルオロプロパンビススルホンイミドリチウム、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)などのイミドリチウム塩類;LiC(FSO2)3、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3などのメチル化リチウム塩類;リチウムビス(マロナト)ボレート、リチウムジフルオロ(マロナト)ボレートなどのリチウム(マロナト)ボレート類;リチウムトリス(マロナト)ホスフェート、リチウムジフルオロビス(マロナト)ホスフェート、リチウムテトラフルオロ(マロナト)ホスフェートなどのリチウム(マロナト)ホスフェート類;および、LiPF4(CF3)2、LiPF4(C2F5)2、LiPF4(CF3SO2)2、LiPF4(C2F5SO2)2、LiBF3CF3、LiBF3C2F5、LiBF3C3F7、LiBF2(CF3)2、LiBF2(C2F5)2、LiBF2(CF3SO2)2、LiBF2(C2F5SO2)2などのフッ素含有有機リチウム塩類;リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート、リチウムビス(オキサラト)ボレートなどのリチウム(オキサラト)ボレート類;リチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート、リチウムトリス(オキサラト)ホスフェートなどのリチウム(オキサラト)ホスフェート類が挙げられるが、これらに限定されない。
【0116】
いくつかの実施形態では、電気化学デバイスの出力特性、高レート充電放電特性、高温貯蔵特性およびサイクル特性などを改善するのに寄与する観点から、電解質は、LiPF6、LiSbF6、FSO3Li、CF3SO3Li、LiN(FSO2)2、LiN(FSO2)(CF3SO2)、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、環状1,2-ペルフルオロエタンビススルホンイミドリチウム、環状1,3-ペルフルオロプロパンビススルホンイミドリチウム、LiC(FSO2)3、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3、LiBF3CF3、LiBF3C2F5、LiPF3(CF3)3、LiPF3(C2F5)3、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート、リチウムビス(オキサラト)ボレート、及びリチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェートから選ばれることが好ましい。
【0117】
本発明の効果を損なわない限り、電解質の含有量について特に限定されない。いくつかの実施形態において、電解液中のリチウムの総モル濃度は、0.3モル/L超、0.4モル/L超、または0.5モル/L超である。いくつかの実施形態において、電解液中のリチウムの総モル濃度、3モル/L未満、2.5モル/L未満、または2.0モル/L未満である。いくつかの実施形態において、電解液中のリチウムの総モル濃度は、上記任意の2つの値から構成される範囲内である。電解質の濃度が上記の範囲内である場合、荷電粒子としてのリチウム含有量が少なすぎず、粘度を適切な範囲にすることができるため、より良好な電導率を確保することができる。
【0118】
2種以上の電解質を使用する場合、電解質は、モノフルオロリン酸塩、ホウ酸塩、シュウ酸塩、およびフルオロスルホン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩を含む。いくつかの実施形態において、電解質は、モノフルオロリン酸塩、シュウ酸塩、およびフルオロスルホン酸塩からなる群から選ばれる塩を含む。いくつかの実施形態において、電解質はリチウム塩を含む。いくつかの実施形態において、モノフルオロリン酸塩、ホウ酸塩、シュウ酸塩、およびフルオロスルホン酸塩からなる群から選ばれる塩の含有量は、電解質の重量に対して、0.01%超、または0.1%超である。いくつかの実施形態において、モノフルオロリン酸塩、ホウ酸塩、シュウ酸塩、およびフルオロスルホン酸塩からなる群から選ばれる塩の含有量は、電解質の重量に対して、20%未満または10%未満である。いくつかの実施形態において、モノフルオロリン酸塩、ホウ酸塩、シュウ酸塩、およびフルオロスルホン酸塩からなる群から選択される塩の含有量は、上記任意の2つの値から構成される範囲内である。
【0119】
いくつかの実施形態において、電解質は、モノフルオロリン酸塩、ホウ酸塩、シュウ酸塩、およびフルオロスルホン酸塩からなる群から選ばれる1種以上と、それら以外の1種以上の塩とを含む。それら以外の塩として、以上で例示したリチウム塩が挙げられ、いくつかの実施形態において、LiPF6、LiN(FSO2)(CF3SO2)、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、環状1,2-ペルフルオロエタンビススルホンイミドリチウム、環状1,3-ペルフルオロプロパンビススルホンイミドリチウム、LiC(FSO2)3、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3、LiBF3CF3、LiBF3C2F5、LiPF3(CF3)3、LiPF3(C2F5)3である。いくつかの実施形態において、それら以外の塩はLiPF6である。
【0120】
いくつかの実施形態において、前記それら以外の塩の含有量は、電解質の重量に対して、0.01%超、または0.1%超である。いくつかの実施形態において、前記それら以外の塩の含有量は、電解質の重量に対して、20%未満、15%未満、または10%未満である。いくつかの実施形態において、前記それら以外の塩の含有量は、上記任意の2つの値から構成される範囲内である。前記それら以外の塩の含有量が上記の範囲内であれば、電解液の電導率と粘度のバランスを取るのに寄与する。
【0121】
電解液には、上記の溶媒、添加剤、電解質塩に加えて、必要に応じて、負極皮膜形成剤、正極保護剤、過充電防止剤などの添加剤が含まれてもよい。添加剤として、非水電解質二次電池中に一般的に使用される添加剤を使用してもよく、その例として、炭酸ビニレン、無水コハク酸、ビフェニル、シクロヘキシルベンゼン、2,4-ジフルオロアニソール、プロパンスルトン、プロペンスルトンが挙げられるが、これらに限定されない。これらの添加剤は、単独でまたは任意の組み合わせで使用してもよい。また、電解液中のこれらの添加剤の含有量については特に限定されず、添加剤の種類等により適宜設定すればよい。いくつかの実施形態において、添加剤の含有量は、電解液の重量に対して、5%未満、0.01%~5%の範囲内、または0.2%~5%の範囲内である。
【0122】
III、正極
正極は、正極集電体と、該正極集電体の片面または両面に設けられた正極活物質層とを含む。
【0123】
1、正極活物質層
正極活物質層は、正極活物質を含み、前記正極活物質層は、1層または複数層からなるものであってもよい。複数層の正極活物質である場合、各層は、それぞれ同じまたは異なる正極活物質を含んでもよい。正極活物質は、リチウムイオンなどの金属イオンを可逆的に吸蔵・放出可能な任意の物質であってもよい。
【0124】
正極活物質の種類については特に限定されず、金属イオン(例えば、リチウムイオン)を電気化学的に吸蔵・放出できればよい。いくつかの実施形態において、正極活物質は、リチウムと少なくとも1つの遷移金属とを含む物質である。正極活物質の例としては、リチウム遷移金属複合酸化物およびリチウム含有遷移金属リン酸化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0125】
いくつかの実施形態において、リチウム遷移金属複合酸化物における遷移金属として、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuなどが挙げられる。いくつかの実施形態において、リチウム遷移金属複合酸化物として、LiCoO2などのリチウムコバルト複合酸化物;LiNiO2などのリチウムニッケル複合酸化物;LiMnO2、LiMn2O4、およびLi2MnO4などのリチウムマンガン複合酸化物;LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2、LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2などのリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物が挙げられ、これらのリチウム遷移金属複合酸化物の主体としての遷移金属原子の一部が、Na、K、B、F、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Si、Nb、Mo、Sn、Wなどの他の元素で置換されてもよい。リチウム遷移金属複合酸化物の例として、LiNi0.5Mn0.5O2、LiNi0.85Co0.10Al0.05O2、LiNi0.33Co0.33Mn0.33O2、LiNi0.45Co0.10Al0.45O2、LiMn1.8Al0.2O4およびLiMn1.5Ni0.5O4が挙げられるが、これらに限定されない。リチウム遷移金属複合酸化物の組み合わせの例として、LiCoO2とLiMn2O4の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されず、そしてLiMn2O4におけるMnの一部が他の遷移金属で置換されてもよく(例えば、LiNi0.33Co0.33Mn0.33O2)、LiCoO2におけるCoの一部が他の遷移金属で置換されてもよい。
【0126】
いくつかの実施形態において、リチウム含有遷移金属リン酸化合物における遷移金属として、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuなどが挙げられる。いくつかの実施形態において、リチウム含有遷移金属リン酸化合物として、LiFePO4、Li3Fe2(PO4)3、LiFeP2O7などのリン酸鉄類;LiCoPO4などのリン酸コバルト類が挙げられ、これらの遷移金属リン酸塩化合物の主体としての遷移金属原子の一部が、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Nb、Siなど他の元素で置換されてもよい。
【0127】
いくつかの実施形態において、正極活物質は、電気化学デバイスの連続充電特性を向上するために、リン酸リチウムを含む。 リン酸リチウムの使用に制限されない。いくつかの実施形態において、正極活物質とリン酸リチウムとを混合して使用する。いくつかの実施形態において、リン酸リチウムの含有量は、上記正極活物質とリン酸リチウムとの総重量に対して、0.1%超、0.3%超、または0.5%超である。いくつかの実施形態において、リン酸リチウムの含有量は、上記正極活物質とリン酸リチウムとの総重量に対して、10%未満、8%未満、または5%未満である。いくつかの実施形態において、リン酸リチウムの含有量は、上記任意の2つの値から構成される範囲内である。
【0128】
表面被覆
上記正極活物質の表面に、その組成と異なる物質が付着されてもよい。表面付着物質の例として、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマスなどの酸化物;硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウムなどの硫酸塩;炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの炭酸塩;及び、炭素などが挙げられるが、これらに限定されない。
これらの表面付着物質を正極活物質の表面に付着させる方法として、表面付着物質を溶媒に溶解または懸濁し、正極活物質に含浸させて添加した後、乾燥する方法;表面付着物質の前駆体を溶媒に溶解または懸濁し、正極活物質に含浸させて添加した後、加熱等により反応させる方法;及び、表面付着物質を正極活物質の前駆体に添加した後に焼成する方法などが挙げられる。また、炭素を付着させる場合、炭素材料(例えば、活性炭など)を機械的に付着させる方法も使用可能である。
【0129】
いくつかの実施形態において、表面付着物質の含有量は、正極活物質層の重量に対して、0.1ppm超、1ppm超、または10ppm超である。いくつかの実施形態において、表面付着材料の含有量は、正極活物質層の重量に対して、20%未満、10%未満、または10%未満である。いくつかの実施形態において、表面付着物質の含有量は、正極活物質層の重量に対して、上記任意の2つの値から構成される範囲内である。
【0130】
正極活物質の表面に物質を付着させることにより、正極活物質の表面での電解液の酸化反応を抑制し、電気化学デバイスの寿命を延ばすことができる。表面付着物質の量が少なすぎると、その効果を十分に発揮できず、表面付着物質の量が多すぎると、リチウムイオンの出入りを妨げるため、電気抵抗が増加する場合がある。
【0131】
本発明において、組成が異なる物質が表面に付着された正極活物質についても、「正極活物質」と称する。
【0132】
形状
いくつかの実施形態において、正極活物質の粒子の形状として、ブロック状、多面体状、球状、楕円球状、板状、針状、柱状などが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、正極活物質の粒子は、一次粒子、二次粒子、またはそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、一次粒子は凝集して二次粒子を形成することも可能である。
【0133】
タップ密度
いくつかの実施形態において、正極活物質のタップ密度は、0.5g/cm3超、0.8g/cm3超、または1.0g/cm3超である。正極活物質のタップ密度が上記の範囲内である場合、正極活物質層の形成に必要な分散媒の量と、導電材や正極バインダーの量とを抑制することができ、これにより、正極活物質の充填率および電気化学デバイスの容量を確保することができる。タップ密度の高い複合酸化物粉末を使用することにより、高密度の正極活物質層を形成することができる。一般には、タップ密度が大きいほど好ましいので、特に上限はない。いくつかの実施形態において、正極活物質のタップ密度は、4.0g/cm3未満、3.7g/cm3未満、または3.5g/cm3未満である。正極活物質のタップ密度が上記のような上限を有する場合、負荷特性の低下を抑制することができる。
【0134】
正極活物質のタップ密度は、以下の方法で算出できる。正極活物質粉末5g~10gを容積10mLのガラス製メス円柱に入れ、ストロークが20mmの振動を200回行い、粉末のかさ密度(タップ密度)を得る。
【0135】
メジアン径(D50)
正極活物質の粒子が一次粒子である場合、正極活物質の粒子のメジアン径(D50)は、正極活物質の一次粒子径を意味する。正極活物質の一次粒子が凝集して二次粒子を形成する場合、正極活物質の粒子のメジアン径(D50)は、正極活物質の二次粒子径を意味する。
【0136】
いくつかの実施形態において、正極活物質の粒子のメジアン径(D50)は、0.3μm超、0.5μm超、0.8μm超、または1.0μm超である。いくつかの実施形態において、正極活物質の粒子のメジアン径(D50)は、30μm未満、27μm未満、25μm未満、または22μm未満である。いくつかの実施形態において、正極活物質の粒子のメジアン径(D50)は、上記任意の2つの値から構成される範囲内である。正極活物質の粒子のメジアン径(D50)が上記範囲内である場合、高いタップ密度の正極活物質が得られ、電気化学デバイスの性能の低下を抑制することができる。一方、電気化学デバイスの正極の作製過程中(すなわち、正極活物質、導電材、およびバインダーを溶媒でスラリー化してフィルム状に塗布する際)において、筋引きの発生などの問題を防ぐことができる。ここで、メジアン径値が異なる2種以上の正極活物質を混合することにより、正極作製時の充填性をさらに向上させることができる。
【0137】
正極活物質の粒子のメジアン径(D50)は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置で測定できる。HORIBA社製LA-920を粒度分布計として使用する場合には、0.1%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を測定に用いられる分散媒として使用し、5分間の超音波分散後に測定屈折率を1.24とすることによって測定される。
【0138】
平均一次粒子径
正極活物質の一次粒子が凝集して二次粒子を形成する場合、いくつかの実施形態において、正極活物質の平均一次粒子径は、0.05μm超、0.1μm超、または0.5μm超である。いくつかの実施形態において、正極活物質の平均一次粒子径は、5μm未満、4μm未満、3μm未満、または2μm未満である。いくつかの実施形態において、正極活物質の平均一次子粒子径は、上記任意の2つの値から構成される範囲内である。正極活物質の平均一次粒子径が上記の範囲内である場合、粉体の充填性および比表面積を確保し、電池性能の低下を抑制し、適度な結晶性を得ることができ、これにより、電気化学デバイスの充放電の可逆性を確保することができる。
【0139】
正極活物質の平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で得られた画像を観察することによって得ることができる。10000倍の倍率のSEM画像で、任意の一次粒子50個について、水平方向直線に対する一次粒子の左右の境界線による切片の最大値から、その平均値を求めて平均一次粒子径を得る。
【0140】
比表面積(BET)
いくつかの実施形態において、正極活物質の比表面積(BET)は、0.1m2/g超、0.2m2/g超、または0.3m2/g超である。いくつかの実施形態において、正極活物質の比表面積(BET)は、50m2/g未満、40m2/g未満、または30m2/g未満である。いくつかの実施形態において、正極活物質の比表面積(BET)は、上記任意の2つの値から構成される範囲内である。正極活物質の比表面積(BET)が上記の範囲内である場合、電気化学デバイスの性能を確保することができるだけでなく、正極活物質に良好な塗布性を付与することができる。
【0141】
正極活物質の比表面積(BET)は、表面積計(例えば、大倉理研社製全自動表面積測定装置)を用いて、窒素ガス流通下で試料を150℃で30時間予備乾燥を行った後、大気圧に対する窒素ガスの相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素-ヘリウム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって測定した値で定義される。
【0142】
正極導電材
正極導電材の種類について限定されず、任意の既知の導電材を使用してもよい。正極導電材の例として、天然黒鉛および人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、ニードルコークスなどのアモルファスカーボンなどの炭素材料、カーボンナノチューブ、グラフェンなどが挙げられるが、これらに限定されない。上記正極導電材は、単独で、または任意の組み合わせで使用してもよい。
【0143】
いくつかの実施形態において、正極導電材の含有量は、正極活物質層の重量に対して、0.01%超、0.1%超、または1%超である。いくつかの実施形態において、正極導電材の含有量は、正極活物質層の重量に対して、10%未満、8%未満、または5%未満である。正極導電材の含有量が上記の範囲内である場合、導電性および電気化学デバイスの容量を十分に確保することができる。
【0144】
正極バインダー
正極活物質層の製造に使用される正極バインダーの種類について特に限定されないが、塗布法を使用する場合、電極の製造中に使用される液体媒体に溶解または分散可能な材料であればよい。正極バインダーの例として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリイミド、芳香族ポリアミド、セルロース、ニトロセルロースなどの樹脂系ポリマー;スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、フッ素ゴム、イソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、エチレン-プロピレンゴムなどのゴム系ポリマー;スチレン・ブタジエン・スチレンブロックコポリマーまたはその水素化物、エチレン・プロピレン・ジエン三元コポリマー(EPDM)、スチレン・エチレン・ブタジエン・エチレンコポリマー、スチレン・イソプレン・スチレンブロックコポリマーまたはその水素化物などの熱可塑性エラストマー系ポリマー;シンジオタクチック1,2-ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、酢酸-酢酸ビニルコポリマー、プロピレン-α-オレフィンコポリマーなどの軟質樹脂系ポリマー;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ポリニリデン、ポリテトラフルオロエチレン-エチレンコポリマーなどのフッ素系ポリマー;アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有するポリマー組成物から選ばれる1つ以上を含んでもよいが、これらに限定されない。上記の正極バインダーは、単独で、または任意の組み合わせで使用してもよい。
【0145】
いくつかの実施形態において、正極バインダーの含有量は、正極活物質層の重量に対して、0.1%超、1%超、または1.5%超である。いくつかの実施形態において、正極バインダーの含有量は、正極活物質層の重量に対して、10%未満、8%未満、5%未満、または4%未満である。正極バインダーの含有量が上記の範囲内である場合、正極が良好な導電性および十分な機械的強度を有することができ、電気化学デバイスの容量を確保することができる。
【0146】
溶媒
正極スラリーを形成するための溶媒の種類は限定されず、正極活物質、導電材、正極バインダー、および必要に応じて使用される増粘剤を溶解または分散させることができる溶媒であればよい。正極スラリーを形成する溶媒の例として、水性溶媒および有機溶媒のいずれか1つを含んでもよい。水性媒体の例として、水、およびアルコールと水との混合媒体などが挙げられるが、これらに限定されない。有機媒体の例として、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルナフタレンなどの芳香族炭化水素類;キノリン、ピリジンなどの複素環式化合物;アセトン、エチルメチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸メチル、アクリル酸メチルなどのエステル類;ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミンなどのアミン類;ジエチルエーテル、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン(THF)などのエーテル類;N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類;ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒が挙げられるが、これらに限定されない。
【0147】
増粘剤
増粘剤は通常、スラリーの粘度を調整するために使用される。水性媒体を使用する場合、増粘剤及びスチレンブタジエンゴム(SBR)エマルジョンを使用してスラリー化させることができる。増粘剤の種類について特に限定されず、その例として、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化デンプン、リン酸化デンプン、カゼインおよびそれらの塩が挙げられるが、これらに限定されない。上記増粘剤は、単独でまたは任意の組み合わせで使用してもよい。
【0148】
いくつかの実施形態において、増粘剤の含有量は、正極活物質層の重量に対して、0.1%超、0.2%超、または0.3%超である。いくつかの実施形態において、増粘剤の含有量は、正極活物質層の重量に対して、5%未満、3%未満、または2%未満である。いくつかの実施形態において、増粘剤の含有量は、正極活物質層の重量に対して、上記任意の2つの値から構成される範囲内である。増粘剤の含有量が上記の範囲内である場合、正極スラリーが良好な塗布性を有することができるだけでなく、電気化学デバイスの容量の低下および抵抗の増加を抑制することができる。
【0149】
正極活物質の含有量
いくつかの実施形態において、正極活物質の含有量は、正極活物質層の重量に対して、80%超、82%超、または84%超である。いくつかの実施形態において、正極活物質の含有量は、正極活物質層の重量に対して、99%未満または98%未満である。いくつかの実施形態において、正極活物質の含有量は、正極活物質層の重量に対して、上記任意の2つの値から構成される範囲内である。正極活物質の含有量が上記の範囲内である場合、正極活物質層中の正極活物質の容量を確保するだけでなく、正極の強度を保持することができる。
【0150】
正極活物質層の密度
塗布、乾燥によって得られた正極活物質層については、正極活物質の充填密度を高めるために、ハンドプレスまたはローラープレスによって圧縮処理を行ってもよい。いくつかの実施形態において、正極活物質層の密度は、1.5g/cm3超、2g/cm3超、または2.2g/cm3超である。いくつかの実施形態において、正極活物質層の密度は、5g/cm3未満、4.5g/cm3未満、または4g/cm3未満である。いくつかの実施形態において、正極活物質層の密度は、上記任意の2つの値から構成される範囲内である。正極活物質層の密度が上記の範囲内である場合、電気化学デバイスが良好な充放電特性を有することができるだけでなく、抵抗の増加を抑制することができる。
【0151】
正極活物質層の厚さ
正極活物質層の厚さは、正極集電体のいずれか一側の面における正極活物質層の厚さを意味する。いくつかの実施形態において、正極活物質層の厚さは、10μm超、または20μm超である。いくつかの実施形態において、正極活物質層の厚さは、500μm未満または450μm未満である。
【0152】
正極活物質の製造方法
正極活物質は、無機化合物を製造する一般的な方法を使用して製造することができる。球形または楕円球形の正極活物質を作製するために、以下の製造方法を使用することができる。遷移金属の原料物質を水などの溶媒に溶解するか、又は粉砕して水などの溶媒に分散させて、撹拌しながらpHを調整し、球形の前駆体を作製、回収し、必要に応じて乾燥させた後、LiOH、Li2CO3、LiNO3などのLi源を添加して高温で焼成し、正極活物質を得る。
【0153】
2、正極集電体
正極集電体の種類について特に限定されず、正極集電体として適用可能な任意の既知の材料であればよい。正極集電体の例として、アルミニウム、ステンレス、ニッケルめっき、チタン、タンタルなどの金属材料;カーボンクロス、カーボンペーパーなどの炭素材料が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、正極集電体は金属材料である。いくつかの実施形態において、正極集電体はアルミニウムである。
【0154】
正極集電体の形態について特に限定されない。正極集電体が金属材料である場合、正極集電体の形態として、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属箔、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡金属等。正極集電体が炭素材料である場合、正極集電体の形態として、炭素板、炭素膜、炭素円柱等が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、正極集電体は金属箔である。いくつかの実施形態において、金属箔はメッシュ状である。金属箔の厚さについて特に制限されない。いくつかの実施形態において、金属箔の厚さは、1μm超、3μm超、または5μm超である。いくつかの実施形態において、金属箔の厚さは、1mm未満、100μm未満、または50μm未満である。いくつかの実施形態において、金属箔の厚さは、上記任意の2つの値から構成される範囲内である。
【0155】
正極集電体と正極活物質層の電気接触抵抗を低減するために、正極集電体の表面に導電性助剤を塗布してもよい。導電性助剤の例として、炭素や、金、白金、銀などの貴金属類が挙げられるが、これらに限定されない。
【0156】
正極活物質層と正極集電体の厚さの比は、片面の正極活物質層の厚さを正極集電体の厚さで割って得た値であり、特に限定されない。いくつかの実施形態において、上記厚さの比は、50未満、30未満、または20未満である。いくつかの実施形態において、上記厚さの比は、0.5超、0.8超、または1超である。いくつかの実施形態において、厚さの比は、上記任意の2つの値から構成される範囲内である。厚みの比が上記の範囲内である場合、高電流密度での充放電時の正極集電体の発熱を抑制することができ、電気化学デバイスの容量を確保することができる。
【0157】
3、正極の製造方法
正極は、集電体に正極活物質とバインダーを含む正極活物質層を形成することにより作製してもよい。正極活物質を用いる正極の製造に、正極活物質とバインダー、ならびに必要に応じて導電材と増粘剤を乾式混合し、シート状にして得たシート状物を正極集電体に圧着する方法、またはこれらの材料を液体媒体に溶解または分散させてスラリー化し、得られたスラリーを正極集電体に塗布して乾燥させ、集電体に正極活物質層を形成する方法などの通常の方法で行うことにより、正極を製造することができる。
【0158】
IV、セパレータ
短絡を防ぐために、通常、正極と負極の間にセパレータが設けられる。この場合、本発明の電解液は、通常、セパレータに浸透するように使用される。
【0159】
セパレータの材料および形状について、本発明の効果を著しく損なわない限り、特に制限がない。前記セパレータは、本発明の電解液に安定な材料からなる樹脂、ガラス繊維、無機物などであってもよい。いくつかの実施形態において、前記セパレータは、保液性に優れた多孔質シート又は不織布状のものなどを含む。樹脂またはガラス繊維セパレータの材料の例として、ポリオレフィン、芳香族ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホンなどが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、前記ポリオレフィンは、ポリエチレンまたはポリプロピレンである。いくつかの実施形態において、前記ポリオレフィンはポリプロピレンである。上記のセパレータの材料は、単独でまたは任意の組み合わせで使用してもよい。
【0160】
前記セパレータはまた、上記の材料が積層された材料であってもよく、その例として、ポリプロピレン-ポリエチレン-ポリプロピレンを順に積層した3層のセパレータが挙げられるが、これに限定されない。
【0161】
無機物の例として、アルミナ、二酸化ケイ素などの酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物;硫酸塩(例えば、硫酸バリウム、硫酸カルシウムなど)が挙げられるが、これらに限定されない。無機物の形態として、粒状または繊維状が挙げられるが、これらに限定されない。
【0162】
前記セパレータの形態はフィルムであってもよく、その例として、不織布、織物、微多孔質フィルムなどが挙げられるが、これらに限定されない。フィルムの場合に、前記セパレータの孔径は0.01μm~1μm、厚さは5μm~50μmである。 上記独立したフィルム状セパレータの他、樹脂系バインダーを用いて正極及び/又は負極の表面に形成した、上記無機物の粒子を含有する複合多孔層であるセパレータを使用してもよい。このようなセパレータとして、例えば、フッ素樹脂をバインダーとして用いて、正極の両面に90%粒径が1μm未満のアルミナ粒子を多孔層に形成することによって得られたセパレータが挙げられる。
【0163】
前記セパレータの厚さは任意である。いくつかの実施形態において、前記セパレータの厚さは、1μm超、5μm超、または8μm超である。いくつかの実施形態において、前記セパレータの厚さは、50μm未満、40μm未満、または30μm未満である。いくつかの実施形態において、前記セパレータの厚さは、上記任意の2つの値から構成される範囲内にある。セパレータの厚さが上記の範囲内である場合、絶縁性と機械的強度を確保することができるだけでなく、電気化学デバイスのレート特性とエネルギー密度を確保することができる。
【0164】
多孔質シートや不織布などの多孔質材料をセパレータとして使用する場合、セパレータの空孔率は任意である。いくつかの実施形態において、前記セパレータの空孔率は、10%超、15%超、または20%超である。いくつかの実施形態において、セパレータの空孔率は、60%未満、50%未満、または45%未満である。いくつかの実施形態において、セパレータの空孔率は、上記任意の2つの値から構成される範囲内である。前記セパレータの空孔率が上記の範囲内である場合、絶縁性、機械的強度を確保することができると共に、膜の抵抗を抑制することができるため、電気化学デバイスの安全性は良好である。
【0165】
前記セパレータの平均孔径も任意である。いくつかの実施形態において、前記セパレータの平均孔径は、0.5μm未満または0.2μm未満である。いくつかの実施形態において、前記セパレータの平均孔径は0.05μm超である。いくつかの実施形態において、前記セパレータの平均孔径は、上記任意の2つの値から構成される範囲内である。前記セパレータの平均孔径が上記の範囲を超えると、短絡が発生しやすい。セパレータの平均孔径が上記の範囲内である場合、電気化学デバイスは良好な安全特性を有する。
【0166】
V、電気化学モジュール
電気化学モジュールは、電極群、集電構造、外装ケース、および保護素子を含む。
【0167】
電極群
電極群は、上記セパレータを介して上記正極と負極とを積層してなる積層構造を有するもの、及び、上記のセパレータを介して上記正極と負極とを渦巻き状に捲回してなる構造を有するもののいずれか一つであってもよい。いくつかの実施形態において、電極群の体積が電池の内容積に占める割合(電極群占有率)は、40%超、または50%超である。いくつかの実施形態において、電極群占有率は、90%未満または80%未満である。いくつかの実施形態において、電極群占有率は、上記任意の2つの値から構成される範囲内である。電極群占有率が上記の範囲内である場合、電気化学デバイスの容量を確保することができるだけでなく、内圧の上昇に伴う繰り返し充放電性能や高温貯蔵特性などの特性の低下を抑制することができる。
【0168】
集電構造
集電構造について特に限定されない。いくつかの実施形態において、集電構造は、配線部分および接合部分の抵抗を低減した構造である。電極群が上記積層構造である場合、各電極層の金属芯部分を束ねて端子に溶接して形成する構造が好適に用いられる。1枚の電極の面積が大きくなる場合には、内部抵抗が大きくなるため、電極内に2つ以上の端子を設けて抵抗を低減することも好適に用いられる。電極群が上記捲回構造である場合、正極及び負極にそれぞれ2つ以上のリード構造を設けて端子に束ねることにより、内部抵抗を低下させることができる。
【0169】
外装ケース
外装ケースの材質について特に限定されなく、用いられる電解液に安定な物質であればよい。外装ケースには、ニッケルめっき鋼板、ステンレス、アルミニウム若しくはアルミニウム合金、マグネシウム合金などの金属類、又は樹脂とアルミ箔との積層フィルムが用いられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、外装ケースは、アルミニウムまたはアルミニウム合金の金属、又は積層フィルムである。
【0170】
金属類部材からなる外装ケースは、レーザー溶接、抵抗溶接、又は超音波溶接により金属部材同士を溶着してなる封止密閉構造、又は、樹脂製ガスケットを介して上記金属類部材を用いてなるかしめ構造を有しても良いが、これらに限定されない。上記積層フィルムを用いた外装ケースは、樹脂層同士を熱融着してなる封止密閉構造を有してもう良いが、これに限定されない。シール性を上げるために、上記樹脂層の間に、積層フィルムに用いられる樹脂とは異なる樹脂を介在させてもよい。集電端子を介して樹脂層を熱融着して密閉構造を形成する場合には、金属と樹脂との接合になるため、介在する樹脂として、極性基を有する樹脂や、極性基を導入した変性樹脂を使用しても良い。また、外装ケースの形状も任意であり、例えば円筒型、角型、ラミネート型、コイン型、大型等のうちのいずれか1種であってもよい。
【0171】
保護素子
保護素子としては、異常発熱や過大電流の場合に抵抗が増大する正温度係数(PTC)素子、温度ヒューズ、サーミスタ、異常発熱時に電池内部圧力や内部温度の急激な上昇により回路における電流を遮断する弁(電流遮断弁)等を使用することができる。上記保護素子として、高電流での通常使用時に作動しないという条件を満たすものを選択してもよい。また、保護素子がなくても異常発熱や熱暴走に至らない構成にしてもよい。
【0172】
VI、応用
本発明にかかる電気化学デバイスは、電気化学反応が起こる任意のデバイスを含んでもよく、その具体的な例としては、あらゆる種類の一次電池、二次電池、燃料電池、太陽電池、またはコンデンサが挙げられる。特に、該電気化学デバイスは、リチウム二次電池であり、例えば、リチウム金属二次電池またはリチウムイオン二次電池であってもよい。
【0173】
本発明の別の一態様において、本発明に係る電気化学デバイスを含む電子装置をさらに提供する。
【0174】
本発明の電気化学デバイスの使用について特に限定されず、従来技術中に知られている任意の電子装置に使用することができる。いくつかの実施形態では、本発明の電気化学デバイスは、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯ファックス、携帯コピー機、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、バイク、原動機付自転車、自転車、照明器具、玩具、ゲーム機器、時計、電動工具、ストロボ、カメラ、家庭用大型蓄電池、リチウムイオンキャパシタ等に用いられるが、これらに限定されない。
【0175】
以下には、リチウムイオン電池を例として具体的な実施例によりリチウムイオン電池の作製を説明する。当業者は、本明細書に記載される製造方法は単なる例に過ぎず、他の任意の適切な製造方法も本発明の範囲内にあると理解される。
【実施例】
【0176】
以下に説明するように、本発明にかかるリチウムイオン電池の実施例および比較例について、性能評価を行った。
【0177】
一、リチウムイオン電池の製造
1、負極の作製
人造黒鉛、スチレン-ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロースナトリウムを質量比96%:2%:2%で脱イオン水と混合し、均一に攪拌して負極スラリーを得、この負極スラリーを12μmの集電体に塗布した。負極集電体の引張強さと負極活物質層の単位面積あたりの重量を、以下に示される実施例または比較例の設定のように制御した。その後、乾燥して冷間プレスを行い、さらに切り出し、タブを溶接して負極を得た。
【0178】
2、正極の作製
コバルト酸リチウム(LiCoO2)、導電材(Super-P)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を質量比95%:2%:3%でN-メチルピロリドン(NMP)と混合し、均一に攪拌して正極スラリーを得、それを12μmのアルミ箔に塗布し、乾燥して冷間プレスを行い、さらに切り出し、タブを溶接して正極を得た。
【0179】
3、電解液の調製
乾燥アルゴン雰囲気で、EC、PCおよびDEC(重量比1:1:1)を混合し、LiPF6の濃度が1.15mol/LになるようにLiPF6を添加して均一に混合して基本電解液を形成した。基本電解液に添加剤を異なる含有量で加えることにより各実施例および各比較例の電解液を得た。電解液中の成分及びそれらの略語を以下の表に示している。
【0180】
【0181】
4、セパレータの作製
ポリエチレン(PE)多孔質ポリマーフィルムがセパレータとして使用された。
【0182】
5、リチウムイオン電池の製造
得られた正極、セパレータ及び負極を順に巻回して外装ケースに入れ、注液口を開けたまま保留した。注液口に電解液を注入して封止し、化成、容量測定などの工程を経てリチウムイオン電池の製造を完成した。
【0183】
二、試験方法
1、リチウムイオン電池の高温貯蔵膨張率の試験方法
25℃で、リチウムイオン電池を30分間放置した後、0.5Cのレートで4.45Vまで定電流充電してから、4.45Vで0.05Cまで定電圧充電し、5分間静置した後、リチウムイオン電池の厚さを測定した。60℃で21日間保存した後に再度にリチウムイオン電池の厚さを測定した。リチウムイオン電池の高温貯蔵膨張率は、次の式で算出した。
高温貯蔵膨張率=[(貯蔵後の厚さ-貯蔵前の厚さ)/貯蔵前の厚さ]×100%。
【0184】
2、リチウムイオン電池のサイクル膨張率の試験方法
25℃で、リチウムイオン電池を30分間放置した後、0.5℃レートで4.45Vまで定電流充電してから、4.45Vで0.05℃まで定電圧充電し、5分間静置下後、リチウムイオン電池の厚さを測定した。リチウムイオン電池を上記と同じ条件で100回サイクルさせた後、リチウムイオン電池の厚さを測定した。リチウムイオン電池のサイクル膨張率は、次の式で算出した。
サイクル膨張率=[(サイクル後の厚さ-サイクル前の厚さ)/サイクル前の厚さ]×100%。
【0185】
3、リチウムイオン電池の放電容量維持率の試験方法
リチウムイオン電池を0.5Cで3.0Vまでに定電流放電し、5分間静置した後、0.5Cで4.45Vまで定電流充電してから、カットオフ電流が0.05Cになるまで定電圧充電し、5分間静置し、さらに、それぞれ、0.2C及び5Cの電流でカットオフ電圧が3.0Vになるまで定電流放電した。5Cでの放電容量をD1と記し、0.2Cでの放電容量をD0と記した。次の式で0.2℃での放電容量に対する、5Cでのリチウムイオン電池の放電容量維持率を算出した。
放電容量維持率=[(D1-D0)/D0]×100%
【0186】
実施例または比較例ごとに5つのサンプルを試験し、平均値を取った。
【0187】
三、試験結果
表1に、負極集電体の引張強さと負極活物質層の単位面積あたりの重量による、リチウムイオン電池の高温貯蔵膨張率とサイクル膨張率に対する影響を示す。
【0188】
【表1】
上記表1において、「/」は、添加しないか、または該特徴を有しないことを意味する。
【0189】
上記結果から分かるように、電気化学デバイスにおける負極集電体の引張強さが400N/mm2以上で、且つ負極活物質層の単位面積あたりの重量が3mg/cm2~12mg/cm2である場合、電気化学デバイスの充放電に起因する負極の膨張または収縮が抑制され、負極活物質層の構造を安定化するのに寄与でき、これにより、リチウムイオン電池の高温貯蔵膨張率とサイクル膨張速度を大幅に低下させることができる。
【0190】
また、負極集電体が第1の金属(銀および/または錫)を0.01%~0.5%含む場合、リチウムイオン電池の高温貯蔵膨張率とサイクル膨張率をさらに低下させることができる。
【0191】
また、負極集電体の引張強さであるF N/mm2と負極集電体における第1の金属の含有量であるa%とが4≦F×a≦200を満たす場合、リチウムイオン電池の高温貯蔵膨張率とサイクル膨張率をさらに低下させることができる。
【0192】
また、負極集電体の引張強さであるF N/mm2と負極活物質層の単位面積あたりの重量であるW mg/cm2とが100/3≦F/W≦200を満たす場合、リチウムイオン電池の高温貯蔵膨張率とサイクル膨張率をさらに低下させることができる。
【0193】
表2において、負極活物質層の密度であるD g/cm3と、その負極集電体の引張強さであるF N/mm2との関係による、リチウムイオン電池の性能である高温貯蔵膨張率とサイクル膨張率に対する影響を示す。また、実施例2-1~2-11と実施例1-1及び1-5との相違点は、表2に記載されるパラメーターのみにある。
【0194】
【0195】
上記結果から分かるように、負極集電体が第1の金属(錫および/または銀)、またはそれと希土類元素との組み合わせをさらに含む場合、リチウムイオン電池の高温貯蔵膨張率とサイクル膨張率をさらに低下させることができる。負極集電体の引張強さであるF N/mm2と負極活物質層の密度であるD g/cm3(Dは1.4~2.0)が560≦F×D≦1200を満たす場合、リチウムイオン電池の高温貯蔵膨張率とサイクル膨張率をさらに低下させることができる。
【0196】
表3には、さらに、負極集電体の厚さと0.2%耐力によるリチウムイオン電池の高温貯蔵膨張率とサイクル膨張率に対する影響を示す。また、実施例3-1および3-4と、実施例1-1との相違点は、表3に記載されるパラメーターのみにある。
【0197】
【0198】
表3に示されるように、負極集電体は、30N/mm2以上の0.2%耐力および/または1μm~100μmの厚さを有することができる。負極集電体が上記範囲内にある0.2%耐力及び厚みを有する場合、リチウムイオン電池の高温貯蔵膨張率とサイクル膨張率をさらに低下させるのに寄与する。
【0199】
表4には、さらに、波長550nmでの負極活物質および負極活物質層の反射率Raによるリチウムイオン電池の高温貯蔵膨張率、サイクル膨張率および放電容量維持率に対する影響を示す。また、実施例4-1~4-6と実施例1-1の相違点は、表4に記載されるパラメーターのみにある。
【0200】
【0201】
上記結果から分かるように、異なる負極活物質を使用して負極活物質層の550nmの波長での反射率Raを7%~15%にすることにより、リチウムイオン電池の高温貯蔵膨張率とサイクル膨張率をさらに低下させることができるだけでなく、リチウムイオン電池の放電容量維持率を大幅に向上させることができる。
【0202】
表5には、電解液の成分によるリチウムイオン電池の高温貯蔵膨張率とサイクル膨張率に対する影響を示す。また、実施例5-1~5-35と実施例1-1との相違点は、表5に記載されるパラメーターのみにある。
【0203】
【表5】
上記表5において、「/」は、添加しないか、または該特徴を有しないことを意味する。
【0204】
上記結果から分かるように、負極集電体の引張強さが400N/mm2以上であり、且つ負極活物質層の単位面積あたりの重量が3mg/cm2~12mg/cm2であることに加えて、電解質がプロピオン酸エステル、シアノ基含有有機化合物、ジフルオロリン酸リチウムおよび/または式(1)の化合物を含む場合、リチウムイオン電池の高温貯蔵膨張率とサイクル膨張率をさらに低下させることができる。
【0205】
表6には、負極集電体における第1の金属の含有量であるa%と電解液中のシアノ基含有化合物の含有量であるb%との関係による、リチウムイオン電池の高温貯蔵膨張率とサイクル膨張率に対する影響を示す。また、実施例6-1~6-10と実施例1-1の相違点は、表6に記載されるパラメーターのみにある。
【0206】
【0207】
上記結果から分かるように、電解液中のシアノ基含有化合物の含有量が0.01%~10%である場合、リチウムイオン電池の高温貯蔵膨張率とサイクル膨張率をさらに低下させることができる。
【0208】
負極集電体における第1の金属の含有量であるa%と電解液中のシアノ基含有化合物の含有量であるb%とが1≦b/a≦300を満たす場合、リチウムイオン電池の高温貯蔵膨張率とサイクル膨張率をさらに低下させることができる。
【0209】
表7には、電解液中のシアノ基含有化合物の含有量であるb%と負極活物質層の単位面積あたりの重量であるW mg/cm2との関係によるリチウムイオン電池の高温貯蔵膨張率とサイクル膨張率に対する影響を示す。また、実施例7-1~7-6と実施例1-1との相違点は、表7に記載されるパラメーターのみにある。
【0210】
【0211】
上記結果から分かるように、電解液中のシアノ基含有化合物の含有量であるb%と負極活物質層の単位面積あたりの重量であるW mg/cm2とが0.5≦W/b≦24を満たす場合、リチウムイオン電池の高温貯蔵膨張率とサイクル膨張率をさらに低下させることができる。
【0212】
本明細書全体における「実施形態」、「実施形態の一部」、「一実施形態」、「別の実施例」、「実施例」、「具体的な例」、または「例の一部」への言及は、本発明にかかる少なくとも1つの実施形態または実施例が、言及された実施形態または実施例に記載された特定の特徴、構造、材料、または特性を有することを意味する。従って、本明細書全体における「いくつかの実施形態において」、「実施形態において」、「一実施形態において」、「別の実施例において」、「一実施例において」、「特定の実施例において」、または「実施例において」は、必ずしも本発明にかかる同一の実施形態または実施例を引用するわけではない。さらに、本明細書に記載の特定の特徴、構造、材料、または特性は、1つまたは複数の実施形態または実施例において任意の適切な形態で組み合わせてもよい。
【0213】
以上で、例示的な実施例を示して説明したが、当業者であれば、上記実施例について本発明を限定するものとして解釈するべきではなく、本発明の主旨、原理、および範囲から逸脱せずに、実施例の構成を適宜変更、置換、および調整することが可能である、と理解できる。