(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】履物
(51)【国際特許分類】
A43B 23/02 20060101AFI20230929BHJP
A43B 7/08 20220101ALI20230929BHJP
【FI】
A43B23/02 101A
A43B7/08
(21)【出願番号】P 2022516576
(86)(22)【出願日】2020-04-23
(86)【国際出願番号】 JP2020017470
(87)【国際公開番号】W WO2021214938
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 千早
【審査官】大内 康裕
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-512911(JP,A)
【文献】特表2016-528950(JP,A)
【文献】特許第6068775(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 23/02
A43B 7/06~ 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソール及びアッパーを備える履物であって、
前記アッパーは、通気性を有する基層を含む単一生地部を有し、
前記単一生地部は、
前記基層と、通気性を有する通気層と、単一あるいは複数の繊維からなり前記基層と前記通気層とを接続する強度層と、を有する強度部と、
前記基層のみ、あるいは、前記基層及び前記通気層の双方のみを有する通気部と、を有し、
前記基層は、前記履物の長手方向における先端部に位置するつま先領域から前記履物の長手方向における後端部に位置する踵領域に至るように延びる形状を有し、
前記強度部は、
前記つま先領域に配置されたつま先強度部と、
前記踵領域に配置された踵強度部と、を含み、
前記通気部は、前記つま先領域及び前記踵領域間に位置する中間領域に配置された中間通気部を含む、履物。
【請求項2】
前記つま先領域及び前記踵領域における前記強度部の面積に対する前記通気部の面積の割合よりも、前記中間領域における前記強度部の面積に対する前記通気部の面積の割合の方が大きい、請求項1に記載の履物。
【請求項3】
前記アッパーは、
足の内足面の少なくとも一部を被覆する内足被覆部と、
足の外足面の少なくとも一部を被覆する外足被覆部と、
前記履物の幅方向における前記内足被覆部と前記外足被覆部との間に設けられており、足の出し入れを許容する足入れ部と、
前記中間領域に設けられており、前記足入れ部から前記長手方向における前方に向けて延びるスリット部と、を有する、請求項1又は2に記載の履物。
【請求項4】
前記強度部は、前記スリット部の側方に配置された複数の帯状強度部をさらに含み、
前記複数の帯状強度部の各帯状強度部は、前記スリット部から前記履物の高さ方向に沿って前記ソールに至るように延びる形状を有し、
前記中間通気部は、前記スリット部の側方に配置された複数の帯状通気部を含み、
前記複数の帯状通気部の各帯状通気部は、前記スリット部から前記高さ方向に沿って前記ソールに至るように延びる形状を有し、
前記帯状強度部と前記帯状通気部とは、前記長手方向に交互に並ぶように配置されている、請求項3に記載の履物。
【請求項5】
前記長手方向における前記帯状強度部の長さは、前記長手方向における前記帯状通気部の長さよりも大きい、請求項4に記載の履物。
【請求項6】
前記中間通気部は、
前記内足被覆部に配置された内側通気部と、
前記外足被覆部に配置された外側通気部と、を含み、
前記内側通気部は、前記スリット部の後端部から前記幅方向に沿って前記ソールに至るように延びる形状を有し、
前記外側通気部は、前記スリット部の前端部から前記幅方向に沿って前記ソールに至るように延びる形状を有する、請求項3に記載の履物。
【請求項7】
前記強度部は、前記スリット部の前方に配置された複数の前方強度部を含み、
前記複数の前方強度部の各前方強度部は、前記幅方向に沿って延びる形状を有し、
前記通気部は、前記スリット部の前方に配置された複数の前方通気部を含み、
前記複数の前方通気部の各前方通気部は、前記幅方向に沿って延びる形状を有し、
前記前方強度部と前記前方通気部とは、前記長手方向に交互に並ぶように配置されている、請求項3に記載の履物。
【請求項8】
前記強度部は、前記スリット部の前方に配置された複数の前方強度部を含み、
前記通気部は、前記スリット部の前方に配置された複数の前方通気部を含み、
前記複数の前方通気部は、
前記長手方向における前方に向かうにしたがって前記幅方向における内側に向かうように傾斜する複数の第1傾斜通気部と、
前記長手方向における前方に向かうにしたがって前記幅方向における外側に向かうように傾斜する複数の第2傾斜通気部と、を有し、
前記複数の前方強度部の各前方強度部は、前記複数の第1傾斜通気部と前記複数の第2傾斜通気部とによって囲まれる部位で構成されている、請求項3に記載の履物。
【請求項9】
前記強度部は、前記内足被覆部における前記中間領域に配置された複数の内側強度部をさらに有し、
前記複数の内側強度部の各内側強度部は、前記ソールから前記スリット部に向かうにしたがって次第に前記つま先領域に向かうように傾斜する形状を有し、
前記中間通気部は、それぞれが前記内足被覆部に形成されているとともに、前記ソールから前記スリット部に向かうにしたがって次第に前記つま先領域に向かうように傾斜する形状を有する複数の内側傾斜通気部を有し、
前記内側強度部と前記内側傾斜通気部とは、前記長手方向に交互に並ぶように配置されている、請求項3に記載の履物。
【請求項10】
前記強度部は、前記中間領域に配置された複数の中間強度部をさらに有し、
前記複数の中間強度部の各中間強度部は、前記踵領域から前記つま先領域に向かって延びる形状を有し、
前記中間通気部は、それぞれが前記踵領域から前記つま先領域に向かって延びる形状を有する複数の長手通気部を有し、
前記中間強度部と前記長手通気部とは、前記幅方向に交互に並ぶように配置されており、
前記基層は、前記アッパーの外表面を構成するように配置されている、請求項3に記載の履物。
【請求項11】
前記通気部は、
前記基層のみを有する単層部と、
前記基層及び前記通気層の双方のみを有する二層部と、を含み、
前記二層部は、前記スリット部の前方に配置されている、請求項3に記載の履物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、履物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許第6068775号公報等に見られるように、ソール及びアッパーを備える履物が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許第6068775号公報に記載されるような履物のアッパーには、種々の機能が求められる。例えば、アッパーのうち履物の長手方向における先端部に位置するつま先領域や、長手方向における後端部に位置する踵領域には、高い剛性(強度)が求められ、アッパーのうち履物の長手方向における中間部に位置する中間領域には、通気性が求められる場合がある。この場合、高い通気性を有する生地でアッパーを形成するとともに、そのつま先領域及び踵領域に、比較的高い剛性を有する別の生地を接着や縫製等によって接続することが考えられる。
【0005】
しかしながら、通気性を有する生地に別の生地が接着される場合、接着剤によってアッパーの重量が増加したり、アッパーが部分的に硬くなったりする。また、通気性を有する生地に別の生地が縫製される場合、アッパーに縫い代が必要となるため、アッパーの重量が増加する。
【0006】
本開示の目的は、中間領域における通気性の確保と、つま先領域及び踵領域における剛性の確保と、を接着や縫製を行うことなく達成可能な履物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この開示の一局面に従った履物は、ソール及びアッパーを備える履物であって、前記アッパーは、通気性を有する基層を含む単一生地部を有し、前記単一生地部は、前記基層と、通気性を有する通気層と、単一あるいは複数の繊維からなり前記基層と前記通気層とを接続する強度層と、を有する強度部と、前記基層のみ、あるいは、前記基層及び前記通気層の双方のみを有する通気部と、を有し、前記基層は、前記履物の長手方向における先端部に位置するつま先領域から前記履物の長手方向における後端部に位置する踵領域に至るように延びる形状を有し、前記強度部は、前記つま先領域に配置されたつま先強度部と、前記踵領域に配置された踵強度部と、を含み、前記通気部は、前記つま先領域及び前記踵領域間に位置する中間領域に配置された中間通気部を含む。
【発明の効果】
【0008】
この開示によれば、中間領域における通気性の確保と、つま先領域及び踵領域における剛性の確保と、を接着や縫製を行うことなく達成可能な履物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の第1実施形態の履物を概略的に示す平面図である。
【
図4】単一生地部の構成を概略的に示す断面図である。
【
図5】
図1に示される履物のアッパーの展開図である。
【
図6】
図5に示されるアッパーの変形例を示す平面図である。
【
図7】
図5に示されるアッパーの変形例を示す平面図である。
【
図8】本開示の第2実施形態の履物のアッパーの展開図である。
【
図9】
図8におけるIX-IX線での断面図である。
【
図10】本開示の第3実施形態の履物を概略的に示す平面図である。
【
図11】本開示の第4実施形態の履物のアッパーの展開図である。
【
図12】本開示の第5実施形態の履物のアッパーの展開図である。
【
図13】
図12に示されるアッパーの変形例を示す平面図である。
【
図14】本開示の第6実施形態の履物のアッパーの展開図である。
【
図15】本開示の第7実施形態の履物のアッパーの展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
この開示の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下で参照する図面では、同一またはそれに相当する部材には、同じ番号が付されている。以下の説明では、長手方向、幅方向、前方、後方等の用語が用いられる。これら方向を示す用語は、地面等の平らな面に置かれた履物1を着用した着用者の視点から見た方向を示す。例えば、前方は、つま先側を指し、後方は、踵側を指す。また、内足側は、幅方向における足の内側(足の第1趾側)を指し、外足側は、幅方向における足の外側を指す。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、本開示の第1実施形態の履物を概略的に示す平面図である。
図2は、
図1に示される履物の左側面図である。
図3は、
図1に示される履物の右側面図である。なお、
図1~
図3には、左足用の履物1が示されているが、この履物1は、右足にも適用可能であり、この場合、左足用の履物1と対称になる。本実施形態の履物1は、例えば、スポーツシューズやウォーキングシューズとして適用可能であり、履物の用途は問わない。
【0012】
図1~
図3に示されるように、履物1は、ソール5と、アッパー10と、を備えている。
【0013】
アッパー10は、ソール5に接続されており、ソール5とともに足を収容する空間を形成する。アッパー10は、内足被覆部11と、外足被覆部12と、足入れ部10h1と、スリット部10h2と、を有している。
【0014】
内足被覆部11は、足の内足面の少なくとも一部を被覆する部位である。内足被覆部11は、アッパー10のうち、履物1の幅方向における中央を通る中心線Aから内側(
図1における右側)の部位で構成されている。なお、中心線Aは、幅方向における履物1の中心線でなく、履物1において、標準的な着用者の足の踵骨中心と足の第1趾と第2趾の間を通過する線と対応する位置を結ぶ線としてもよい。また、内側及び外側は、幅方向における履物1の中心線を基準として規定されているが、これは厳密なものではない。
【0015】
外足被覆部12は、足の外足面の少なくとも一部を被覆する部位である。外足被覆部12は、アッパー10のうち中心線Aから外側(
図1における左側)の部位で構成されている。
【0016】
足入れ部10h1は、履物1の幅方向における内足被覆部11と外足被覆部12との間に設けられており、足の出し入れを許容する部位である。
【0017】
スリット部10h2は、足入れ部10h1から履物1の長手方向における前方に向けて延びる形状を有する開口部である。スリット部10h2は、中間領域R3に設けられている。中間領域R3は、履物1の長手方向における先端部に位置するつま先領域R1と、履物1の長手方向における後端部に位置する踵領域R2と、の間に位置する領域である。
【0018】
つま先領域R1は、履物1の全長に対して履物1の先端部から後端部に向かって0%~4%程度の範囲に位置する領域である。中間領域R3は、履物1の全長に対して履物1の先端部から後端部に向かって4%~80%程度の範囲に位置する領域である。踵領域R2は、履物1の全長に対して履物1の先端部から後端部に向かって80%~100%の範囲に位置する領域である。
【0019】
図4に示されるように、アッパー10は、通気性を有する基層101を含む単一生地部100を有している。基層101は、つま先領域R1から踵領域R2に至るように延びる形状を有している。基層101は、例えばメッシュ状の生地からなる。単一生地部100は、編物からなる。
【0020】
単一生地部100は、強度部110と、通気部120と、を有している。なお、各図において、強度部110にはドット状の模様が付されており、通気部120にはメッシュ状の模様が付されている。
【0021】
強度部110は、基層101と、通気層102と、強度層103と、を有している。
【0022】
通気層102は、通気性を有する層である。通気層102は、例えばメッシュ状の生地からなる。通気層102は、基層101と同じ生地からなってもよい。
【0023】
強度層103は、基層101と通気層102との間に配置されている。強度層103は、単一あるいは複数の繊維からなる。本実施形態では、強度層103は、撚糸(例えばZ糸)からなる。ただし、強度層103は、無撚糸からなってもよい。強度層103は、基層101と通気層102とを接続している。すなわち、強度部110は、基層101と通気層102とを強度層103によって縫製することで構成されている。
【0024】
図1~
図3及び
図5に示されるように、強度部110は、つま先強度部111と、踵強度部112と、を有している。強度部110には、複数の貫通孔hが設けられていてもよい。
【0025】
つま先強度部111は、つま先領域R1に配置されている。つま先強度部111の外側の縁部は、アッパー10の先端部に沿う形状を有している。つま先強度部111は、先端部に向かって凸となるように湾曲する形状を有している。
【0026】
踵強度部112は、踵領域R2に配置されている。踵強度部112の後端部は、ソール5から足入れ部10h1に至るように延びる形状を有している。踵強度部112は、つま先領域R1に向かうにしたがって次第に足入れ部10h1から離間する形状を有している。
【0027】
図4に示されるように、通気部120は、単層部120Aと、二層部120Bと、を有している。
【0028】
単層部120Aは、基層101のみを有している。
【0029】
二層部120Bは、基層101及び通気層102の双方のみを有している。二層部120Bにおける通気層102は、当該二層部120Bに隣接する強度部110の通気層102と連続的につながっている。
【0030】
図2、
図3及び
図5に示されるように、通気部120は、つま先通気部121と、踵通気部122と、中間通気部123と、を有している。通気部120には、複数の貫通孔hが設けられていてもよい。
【0031】
つま先通気部121は、つま先領域R1に配置されている。踵通気部122は、踵領域R2に配置されている。中間通気部123は、中間領域R3に配置されている。なお、つま先通気部121及び踵通気部122は、省略されてもよい。
【0032】
本実施形態では、つま先通気部121、踵通気部122及び中間通気部123は、単層部120Aのみで構成されている。ただし、つま先通気部121、踵通気部122及び中間通気部123の少なくとも一つの部位は、二層部120Bで構成されていてもよい。
【0033】
つま先領域R1及び踵領域R2における強度部110の面積に対する通気部120の面積の割合よりも、中間領域R3における強度部110の面積に対する通気部120の面積の割合の方が大きい。
【0034】
以上に説明したように、本実施形態の履物1では、強度部110及び通気部120の一部を構成する基層101がつま先領域R1から踵領域R2に至るように延びる形状を有しているため、中間通気部123による中間領域R3における通気性の確保、つま先強度部111によるつま先領域R1における剛性の確保、及び、踵強度部112による踵領域R2における剛性の確保が、接着や縫製を行うことなく達成される。
【0035】
なお、この実施形態において、
図6に示されるように、アッパー10のうちスリット部10h2の前方の領域に、開口部h10が設けられていてもよい。
【0036】
あるいは、
図7に示されるように、アッパー10の内足被覆部11及び外足被覆部12のうちスリット部10h2の周囲の部位に、シューレースを挿通させるための挿通孔h20が設けられてもよい。
【0037】
(第2実施形態)
次に、
図8及び
図9を参照しながら、本開示の第2実施形態の履物1のアッパー10について説明する。第2実施形態では、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明を行い、第1実施形態と同じ構造、作用及び効果の説明は繰り返さない。
【0038】
本実施形態では、強度部110は、中間領域R3に配置された複数の中間強度部113をさらに有している。各中間強度部113は、踵領域R2からつま先領域R1に向かって延びる形状を有している。複数の中間強度部113は、履物1の幅方向に沿って間隔を置いて配置されている。
【0039】
中間通気部123は、複数の長手通気部123aを有している。各長手通気部123aは、踵領域R2からつま先領域R1に向かって延びる形状を有している。中間強度部113と長手通気部123aとは、幅方向に交互に並ぶように配置されている。長手通気部123aは、つま先領域R1及び踵領域R2に至るように延びていてもよい。
【0040】
図9に示されるように、基層101は、アッパー10の外表面を構成するように配置されている。
【0041】
この態様では、履物1内の足とアッパー10の基層101との間でかつ幅方向に互いに隣接する一対の中間強度部113間に、踵領域R2からつま先領域R1に向かって延びる形状を有する流路が形成されるため、中間領域R3における通気性が有効に確保される。
【0042】
(第3実施形態)
次に、
図10を参照しながら、本開示の第3実施形態の履物1のアッパー10について説明する。第3実施形態では、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明を行い、第1実施形態と同じ構造、作用及び効果の説明は繰り返さない。
【0043】
本実施形態では、強度部110は、複数の内側強度部114と、複数の外側強度部115と、をさらに有している。
【0044】
複数の内側強度部114は、内足被覆部11における中間領域R3に配置されている。各内側強度部114は、ソール5からスリット部10h2に向かうにしたがって次第につま先領域R1に向かうように傾斜する形状を有している。
【0045】
複数の外側強度部115は、外足被覆部12における中間領域R3に配置されている。各外側強度部115は、ソール5からスリット部10h2に向かうにしたがって次第に踵領域R2に向かうように傾斜する形状を有している。
【0046】
中間通気部123は、複数の内側傾斜通気部123bと、複数の外側傾斜通気部123cと、を有している。
【0047】
各内側傾斜通気部123bは、内足被覆部11に形成されている。各内側傾斜通気部123bは、内足被覆部11のうち足入れ部10h1よりも前方に形成されることがより好ましい。各内側傾斜通気部123bは、ソール5からスリット部10h2に向かうにしたがって次第につま先領域R1に向かうように傾斜する形状を有している。内側強度部114と内側傾斜通気部123bとは、長手方向に交互に並ぶように配置されている。
【0048】
各外側傾斜通気部123cは、外足被覆部12に形成されている。各外側傾斜通気部123cは、ソール5からスリット部10h2に向かうにしたがって次第に踵領域R2に向かうように傾斜する形状を有している。外側強度部115と外側傾斜通気部123cとは、長手方向に交互に並ぶように配置されている。
【0049】
この態様では、脚をスイングさせたときに履物1内が効果的に換気される。より詳細には、ランニング中の脚のスイング状態において履物1が地面に対して45°傾斜したときに、各内側傾斜通気部123bが空気の流れ方向と平行になり、各外側傾斜通気部123cが空気の流れ方向と直交する。これにより、履物1内が効果的に換気される。このため、履物1内部の熱が効果的に放散される。
【0050】
(第4実施形態)
次に、
図11を参照しながら、本開示の第4実施形態の履物1のアッパー10について説明する。第4実施形態では、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明を行い、第1実施形態と同じ構造、作用及び効果の説明は繰り返さない。
【0051】
本実施形態では、強度部110は、スリット部10h2の側方に配置された複数の帯状強度部116をさらに含んでいる。複数の帯状強度部116は、内足被覆部11の中間領域R3と、外足被覆部12の中間領域R3と、に配置されている。
【0052】
各帯状強度部116は、スリット部10h2から履物1の高さ方向に沿ってソール5に至るように延びる形状を有している。
【0053】
中間通気部123は、スリット部10h2の側方に配置された複数の帯状通気部123dを含んでいる。複数の帯状通気部123dは、内足被覆部11の中間領域R3と、外足被覆部12の中間領域R3と、に配置されている。各帯状通気部123dは、スリット部10h2から高さ方向に沿ってソール5に至るように延びる形状を有している。
【0054】
帯状強度部116と帯状通気部123dとは、長手方向に交互に並ぶように配置されている。長手方向における帯状強度部116の長さは、長手方向における帯状通気部123dの長さよりも大きい。
【0055】
この態様では、動作時にアッパー10の中間領域R3において履物1の高さ方向にせん断応力が生じた際に各帯状通気部123dが変形するため、中間領域R3におけるせん断変形が許容される。なお、「高さ方向」とは、履物1の長手方向に直交する方向のみならず、その方向に対して傾斜する方向も含む。
【0056】
(第5実施形態)
次に、
図12を参照しながら、本開示の第5実施形態の履物1のアッパー10について説明する。第5実施形態では、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明を行い、第1実施形態と同じ構造、作用及び効果の説明は繰り返さない。
【0057】
本実施形態では、中間通気部123は、内側通気部123eと、外側通気部123fと、を有している。内側通気部123e及び外側通気部123fは、単層部120Aで構成されている。本実施形態では、通気部120は、つま先通気部121及び踵通気部122を有していない。
【0058】
内側通気部123eは、内足被覆部11に配置されている。内側通気部123eは、スリット部10h2の後部から幅方向に沿ってソール5に至るように延びる形状を有している。内側通気部123eは、スリット部10h2からソール5に向かうにしたがって次第に長手方向における長さが大きくなる形状を有している。具体的に、内側通気部123eの後端側の縁部は、スリット部10h2からソール5に向かうにしたがって次第に踵領域R2に向かうように延びる形状を有している。
【0059】
外側通気部123fは、外足被覆部12に配置されている。外側通気部123fは、スリット部10h2の前部から幅方向に沿ってソール5に至るように延びる形状を有している。外側通気部123fは、スリット部10h2からソール5に向かうにしたがって次第に長手方向における長さが大きくなる形状を有している。具体的に、外側通気部123fの先端側の縁部は、スリット部10h2からソール5に向かうにしたがって次第につま先領域R1に向かうように延びる形状を有している。外側通気部123fの後端側の縁部は、スリット部10h2からソール5に向かうにしたがって次第に踵領域R2に向かうように延びる形状を有している。
【0060】
強度部110は、内側強度部114と、外側強度部115と、をさらに有している。
【0061】
内側強度部114は、内足被覆部11における中間領域R3に配置されている。具体的に、内側強度部114は、内側通気部123eの前方に配置されている。内側強度部114は、つま先強度部111とつながっている。
【0062】
外側強度部115は、外足被覆部12における中間領域R3に配置されている。具体的に、外側強度部115は、外側通気部123fの後方に配置されている。外側強度部115は、踵強度部112とつながっている。
【0063】
この態様では、アッパー10が屈曲した際にしわが生じやすい部位が比較的柔軟性の高い通気部120で構成されているため、アッパー10の屈曲時における前記部位へのしわの発生が抑制される。このため、動作時における足へのフィット性が高まる。
【0064】
なお、この実施形態において、
図13に示されるように、通気部120は、スリット部10h2の前方に配置された前方通気部123gをさらに有していてもよい。前方通気部123gは、二層部120Bで構成されている。
【0065】
(第6実施形態)
次に、
図14を参照しながら、本開示の第6実施形態の履物1のアッパー10について説明する。第6実施形態では、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明を行い、第1実施形態と同じ構造、作用及び効果の説明は繰り返さない。
【0066】
本実施形態では、強度部110は、スリット部10h2の前方に配置された複数の前方強度部117をさらに有している。各前方強度部117は、幅方向に沿って延びる形状を有している。複数の前方強度部117は、長手方向に沿って間隔を置いて配置されている。
【0067】
通気部120は、スリット部10h2の前方に配置された複数の前方通気部123gを有している。各前方通気部123gは、幅方向に沿って延びる形状を有している。前方強度部117と前方通気部123gとは、長手方向に交互に並ぶように配置されている。長手方向における前方通気部123gの長さは、長手方向における前方強度部117の長さよりも小さい。
【0068】
なお、前方通気部123gは、つま先領域R1に配置されていてもよい。また、本実施形態では、通気部120は、踵通気部122を有していない。
【0069】
この態様では、アッパー10のうちスリット部10h2の前方の部位が屈曲しやすくなる。
【0070】
(第7実施形態)
次に、
図15を参照しながら、本開示の第7実施形態の履物1のアッパー10について説明する。第7実施形態では、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明を行い、第1実施形態と同じ構造、作用及び効果の説明は繰り返さない。
【0071】
本実施形態では、強度部110は、前方強度部117をさらに有しており、通気部120は、複数の前方通気部123gを有している。
【0072】
複数の前方通気部123gは、スリット部10h2の前方に配置されている。複数の前方通気部123gは、複数の第1傾斜通気部123g1と、複数の第2傾斜通気部123g2と、を有している。
【0073】
各第1傾斜通気部123g1は、長手方向における前方に向かうにしたがって幅方向における内側に向かうように傾斜する形状を有している。
【0074】
各第2傾斜通気部123g2は、長手方向における前方に向かうにしたがって幅方向における外側に向かうように傾斜する形状を有している。
【0075】
各前方強度部117は、複数の第1傾斜通気部123g1と複数の第2傾斜通気部123g2とによって囲まれる部位で構成されている。すなわち、各前方強度部117は、四角形である。
【0076】
図15に示されるように、前方通気部123g及び前方強度部117は、スリット部10h2の前部の側方に配置されていてもよい。
【0077】
この態様では、アッパー10のうちスリット部10h2の前方の部位が屈曲された際に各前方強度部117が変形するため、前記前方の部位におけるしわの発生が抑制される。
【0078】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく請求の範囲によって示され、さらに請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0079】
例えば、上記各実施形態において、スリット部10h2が省略され、アッパー10がいわゆるモノソック構造で構成されてもよい。この場合、スリット部10h2の周囲に設けられた各部位(開口部h10、中間通気部123、前方通気部123g、内側強度部114、前方強度部117等)の位置は、スリット部10h2が設けられている場合の位置と同じである。
【0080】
[態様]
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0081】
この開示の一局面に従った履物1は、ソール5及びアッパー10を備える履物1であって、前記アッパー10は、通気性を有する基層101を含む単一生地部100を有し、前記単一生地部100は、前記基層101と、通気性を有する通気層102と、単一あるいは複数の繊維からなり前記基層と前記通気層とを接続する強度層103と、を有する強度部110と、前記基層101のみ、あるいは、前記基層101及び前記通気層102の双方のみを有する通気部120と、を有し、前記基層101は、前記履物の長手方向における先端部に位置するつま先領域R1から前記履物の長手方向における後端部に位置する踵領域R2に至るように延びる形状を有し、前記強度部110は、前記つま先領域に配置されたつま先強度部111と、前記踵領域に配置された踵強度部112と、を含み、前記通気部120は、前記つま先領域及び前記踵領域間に位置する中間領域R3に配置された中間通気部123を含む。
【0082】
この履物では、強度部及び通気部の一部を構成する基層がつま先領域から踵領域に至るように延びる形状を有しているため、中間通気部による中間領域における通気性の確保、つま先強度部によるつま先領域における剛性の確保、及び、踵強度部による踵領域における剛性の確保が、接着や縫製を行うことなく達成される。
【0083】
また、前記つま先領域R1及び前記踵領域R2における前記強度部110の面積に対する前記通気部120の面積の割合よりも、前記中間領域R3における前記強度部110の面積に対する前記通気部120の面積の割合の方が大きいことが好ましい。
【0084】
このようにすれば、上記の効果が有効に得られる。具体的に、発汗量が比較的多い足の甲に接する中間領域では、通気部の面積の方が大きいため、通気性が確保され、強度が求められるつま先領域及び踵領域では、強度部の面積の方が大きいため、剛性が確保される。
【0085】
また、前記アッパー10は、足の内足面の少なくとも一部を被覆する内足被覆部11と、足の外足面の少なくとも一部を被覆する外足被覆部12と、前記履物の幅方向における前記内足被覆部と前記外足被覆部との間に設けられており、足の出し入れを許容する足入れ部10h1と、前記中間領域に設けられており、前記足入れ部から前記長手方向における前方に向けて延びるスリット部10h2と、を有していてもよい。
【0086】
また、前記強度部110は、前記スリット部の側方に配置された複数の帯状強度部116をさらに含み、前記複数の帯状強度部の各帯状強度部116は、前記スリット部から前記履物の高さ方向に沿って前記ソールに至るように延びる形状を有し、前記中間通気部123は、前記スリット部の側方に配置された複数の帯状通気部123dを含み、前記複数の帯状通気部の各帯状通気部123dは、前記スリット部から前記高さ方向に沿って前記ソールに至るように延びる形状を有し、前記帯状強度部と前記帯状通気部とは、前記長手方向に交互に並ぶように配置されていてもよい。
【0087】
この態様では、動作時にアッパーの中間領域において履物の高さ方向にせん断応力が生じた際に各帯状通気部が変形するため、中間領域におけるせん断変形が許容される。なお、「高さ方向」とは、履物の長手方向に直交する方向のみならず、その方向に対して傾斜する方向も含む。
【0088】
この場合において、前記長手方向における前記帯状強度部の長さは、前記長手方向における前記帯状通気部の長さよりも大きいことが好ましい。
【0089】
このようにすれば、上記の効果がより有効に得られる。
【0090】
また、前記中間通気部123は、前記内足被覆部に配置された内側通気部123eと、前記外足被覆部に配置された外側通気部123fと、を含み、前記内側通気部123eは、前記スリット部の後端部から前記幅方向に沿って前記ソールに至るように延びる形状を有し、前記外側通気部123fは、前記スリット部の前端部から前記幅方向に沿って前記ソールに至るように延びる形状を有していてもよい。
【0091】
この態様では、アッパーが屈曲した際にしわが生じやすい部位が比較的柔軟性の高い通気部で構成されているため、アッパーの屈曲時における前記部位へのしわの発生が抑制される。このため、動作時における足へのフィット性が高まる。
【0092】
また、前記強度部110は、前記スリット部の前方に配置された複数の前方強度部117を含み、前記複数の前方強度部の各前方強度部117は、前記幅方向に沿って延びる形状を有し、前記通気部120は、前記スリット部の前方に配置された複数の前方通気部123gを含み、前記複数の前方通気部の各前方通気部123gは、前記幅方向に沿って延びる形状を有し、前記前方強度部と前記前方通気部とは、前記長手方向に交互に並ぶように配置されていてもよい。
【0093】
この態様では、アッパーのうちスリット部の前方の部位が屈曲しやすくなる。
【0094】
また、前記強度部110は、前記スリット部の前方に配置された複数の前方強度部117を含み、前記通気部120は、前記スリット部の前方に配置された複数の前方通気部123gを含み、前記複数の前方通気部123gは、前記長手方向における前方に向かうにしたがって前記幅方向における内側に向かうように傾斜する複数の第1傾斜通気部123g1と、前記長手方向における前方に向かうにしたがって前記幅方向における外側に向かうように傾斜する複数の第2傾斜通気部123g2と、を有し、前記複数の前方強度部の各前方強度部117は、前記複数の第1傾斜通気部と前記複数の第2傾斜通気部とによって囲まれる部位で構成されていてもよい。
【0095】
この態様では、アッパーのうちスリット部の前方の部位が屈曲された際に各前方強度部が変形するため、前記前方の部位におけるしわの発生が抑制される。
【0096】
また、前記強度部110は、前記内足被覆部における前記中間領域に配置された複数の内側強度部114をさらに有し、前記複数の内側強度部の各内側強度部114は、前記ソールから前記スリット部に向かうにしたがって次第に前記つま先領域に向かうように傾斜する形状を有し、前記中間通気部123は、それぞれが前記内足被覆部に形成されているとともに、前記ソールから前記スリット部に向かうにしたがって次第に前記つま先領域に向かうように傾斜する形状を有する複数の内側傾斜通気部123bを有し、前記内側強度部と前記内側傾斜通気部とは、前記長手方向に交互に並ぶように配置されていてもよい。
【0097】
この態様では、脚をスイングさせたときに履物内が効果的に換気される。
【0098】
また、前記強度部110は、前記中間領域に配置された複数の中間強度部113をさらに有し、前記複数の中間強度部の各中間強度部113は、前記踵領域から前記つま先領域に向かって延びる形状を有し、前記中間通気部123は、それぞれが前記踵領域から前記つま先領域に向かって延びる形状を有する複数の長手通気部123aを有し、前記中間強度部と前記長手通気部とは、前記幅方向に交互に並ぶように配置されており、前記基層101は、前記アッパー10の外表面を構成するように配置されていてもよい。
【0099】
この態様では、履物内の足と基層との間でかつ幅方向に互いに隣接する中間強度部間に、踵領域からつま先領域に向かう流路が形成されるため、中間領域における通気性が有効に確保される。
【0100】
また、前記通気部120は、前記基層101のみを有する単層部120Aと、前記基層101及び前記通気層102の双方のみを有する二層部120Bと、を含み、前記二層部は、前記スリット部の前方に配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0101】
1 履物、5 ソール、10 アッパー、10h1 足入れ部、10h2 スリット部、11 内足被覆部、12 外足被覆部、100 単一生地部、101 基層、102 通気層、103 中間層、110 強度部、111 つま先強度部、112 踵強度部、113 中間強度部、114 内側強度部、115 外側強度部、116 帯状強度部、117 前方強度部、120 通気部、120A 単層部、120B 二層部、121 つま先通気部、122 踵通気部、123 中間通気部、123a 長手通気部、123b 内側傾斜通気部、123c 外側傾斜通気部、123d 帯状通気部、123e 内側通気部、123f 外側通気部、123g 前方通気部、123g1 第1傾斜通気部、123g2 第2傾斜通気部、h10 開口部、h20 挿通孔、R1 つま先領域、R2 踵領域、R3 中間領域