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  • 特許-シリカの補強性評価方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】シリカの補強性評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/44 20060101AFI20231002BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20231002BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20231002BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20231002BHJP
   G01Q 60/28 20100101ALI20231002BHJP
【FI】
G01N33/44
C08K3/013
C08K3/36
C08L21/00
G01Q60/28
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019192776
(22)【出願日】2019-10-23
(65)【公開番号】P2021067545
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 竜也
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-151910(JP,A)
【文献】特開2016-105054(JP,A)
【文献】特開2017-003429(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0069271(US,A1)
【文献】澤登純一,シラノール基がゴムーシリカのハイブリッド化に与える影響,高分子論文集,2000年,Vol.57 No.6,Page.356-362
【文献】Fumio Asai,Silica Nanoparticle Rinforced Composites as Transparent Elastomeric Damping Materials,ACS Appl. Nano. Mater.,2021年04月05日,Vol.4 No.4,Page.4140-4152
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/44
C08K 3/013
C08K 3/36
C08L 21/00
G01Q 60/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカを含有するゴム組成物中のバウンドラバーの体積分率及び弾性率を原子間力顕微鏡のフォースカーブ測定により求めること、及び、
前記バウンドラバーの体積分率と弾性率の積、前記ゴム組成物の体積当たりの前記シリカの表面シラノール基量との比を求め、前記比に基づいて、前記ゴム組成物におけるシリカの補強性として前記シリカが効率的に補強効果を発揮しているか否かを評価すること、
を含む、シリカの補強性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカを含有するゴム組成物におけるシリカの補強性を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカを含有するゴム組成物には、一般にシリカとゴムポリマーとを反応させるためにシランカップリング剤が配合されている。それにより、シリカとシランカップリング剤が反応し、シランカップリング剤とゴムポリマーが反応して補強層であるバウンドラバーを形成し、これがシリカ配合のゴム組成物の補強性に関係している。そのため、バウンドラバーの量を測定することでゴム組成物中でのシリカの補強性を評価することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、バウンドラバーがゴム組成物中の充填剤の補強性の定量的な指標となること、及び、シリカ配合のゴム組成物について溶媒抽出法によりバウンドラバー量を測定することが記載されている。特許文献2にも、シリカ配合のゴム組成物における補強性を溶媒抽出法により求めたバウンドラバー量で評価することが記載されている。これらの文献には、バウンドラバーの量及び弾性率を用いてゴム組成物中でのシリカの補強性を評価することは記載されていない。
【0004】
一方、非特許文献1には原子間力顕微鏡(AFM)のフォースカーブ測定によりゴム組成物の弾性率をナノスケールで観察する手法が提案されている。しかしながら、原子間力顕微鏡により測定されるバウンドラバーの量及び弾性率とともにシリカの表面シラノール基量を用いてゴム組成物中でのシリカの補強性を評価することは記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2011-516630号公報
【文献】特開2002-3652号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Ken Nakajima他3名, “NANOMECHANICS OF THE RUBBER-FILLERINTERACTION”, Rubber Chemistry and Technology Vol.90, No.2, pp.272-284, 2017.
【文献】中嶋健、他2名「原子間力顕微鏡を用いたフィラー/ポリマー界面のナノ領域での構造・物性解析アプローチ」、日本接着学会発行、接着の技術誌、第35巻第3号、pp.13-17、2015年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の実施形態は、ゴム組成物におけるシリカの補強性を評価することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係るシリカの補強性評価方法は、シリカを含有するゴム組成物中のバウンドラバーの量及び弾性率を原子間力顕微鏡のフォースカーブ測定により求めること、及び、前記バウンドラバーの量及び弾性率と前記シリカの表面シラノール基量とから前記ゴム組成物におけるシリカの補強性を評価すること、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態によれば、シリカが実際にゴムポリマーに対して作用しているバウンドラバーの量及び弾性率を原子間力顕微鏡により求め、かかるバウンドラバーの量及び弾性率とともに、シリカがゴムポリマーに作用し得る量の指標となる表面シラノール基量を用いることにより、ゴム組成物中でのシリカの補強性を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1の一試験片についてのヒストグラムを示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0012】
本実施形態に係るシリカの補強性評価方法は、シリカを含有するゴム組成物中のバウンドラバーの量及び弾性率を原子間力顕微鏡のフォースカーブ測定により求める工程、及び、求めたバウンドラバーの量及び弾性率とシリカの表面シラノール基量とからゴム組成物におけるシリカの補強性を評価する工程とを含む。
【0013】
シリカの表面シラノール基(Si-OH)は、シランカップリング剤を介してゴムポリマーと反応し得る部位であるため、表面シラノール基量はシリカがゴムポリマーに作用し得る量の指標となる。かかる表面シラノール基量に対し、実際にシリカがゴムポリマーに対して作用しているバウンドラバーの量及び弾性率を原子間力顕微鏡により求めて比較することにより、シリカとゴムポリマーがどの程度効率的に反応しているか、即ちシリカとゴムポリマーとの反応性を評価することができる。そのため、ゴム組成物中でのシリカの補強性(補強効果)を評価することができる。
【0014】
本実施形態において、測定対象としてのゴム組成物はゴムポリマーとともにシリカを含有する。ゴム組成物は、好ましくは加硫ゴムであり、ゴムポリマーに補強性充填剤としてのシリカとともに硫黄等の加硫剤を含む種々の配合剤を配合し加硫してなる加硫ゴム組成物を測定対象とすることができる。
【0015】
ゴムポリマーとしては、特に限定されず、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X-IIR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)などのジエン系ゴムが挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は2種類以上ブレンドして用いることができる。
【0016】
シリカとしては、特に限定されず、例えば、湿式沈降法シリカや湿式ゲル法シリカなどの湿式シリカを用いてもよい。シリカのBET比表面積(JIS K6430に記載のBET法に準じて測定)は、特に限定されず、例えば100~300m/gでもよく、150~250m/gでもよい。
【0017】
シリカの表面シラノール基量は、特に限定されず、例えば3~10個/nmでもよい。表面シラノール基量は、例えば特許文献1(特表2011-516630号公報)の段落0035~0037に記載されたシリカの表面にメタノールを接合する方法により求めることができる。詳細には、約1gのシリカをオートクレーブ内で10mLのメタノール中に懸濁させ、気密閉鎖して200℃(40バール)で4時間加熱攪拌する。続いて、オートクレーブを冷却水槽中で冷却した後、シリカを沈降によって分離し、残留メタノールを窒素流下で蒸発させた後、真空下において12時間130℃で乾燥させる。得られた処理済みシリカと未処理シリカの炭素含有量を元素分析器によって決定する。nm当たりの表面シラノール基量Nは、処理済みシリカの炭素質量%をA1、未処理シリカの炭素質量%をA0、シリカのBET比表面積をBとして、N=(A1-A0)×6.02×10/(B×12)により算出される。
【0018】
シリカの配合量は、特に限定されず、例えば、ゴムポリマー100質量部に対して10~150質量部でもよく、15~100質量部でもよく、20~80質量部でもよい。
【0019】
ゴム組成物には、シリカとともに、シランカップリング剤を配合してもよい。シランカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィドなどのスルフィドシランカップリング剤; 3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メルカプトエチルトリエトキシシラン、エボニック・インダストリーズ社製「VP Si363」、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアル製「NXT-Z」などのメルカプトシランカップリング剤; 3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-プロピオニルチオプロピルトリメトキシシランなどの保護化メルカプトシランカップリング剤などが挙げられる。
【0020】
シランカップリング剤の配合量は、特に限定されず、例えば、シリカ100質量部に対して2~25質量部でもよく、5~15質量部でもよい。
【0021】
ゴム組成物に配合される加硫剤としては、硫黄が好ましく用いられ、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などが挙げられる。加硫剤の配合量は、特に限定されず、例えば、ゴムポリマー100質量部に対して0.1~10質量部でもよく、0.3~5質量部でもよく、0.5~3質量部でもよい。
【0022】
ゴム組成物には、上記成分以外の他、通常ゴム工業で使用される各種配合剤を任意成分として配合してもよい。そのような配合剤としては、例えば、オイル等の軟化剤、可塑剤、老化防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、ワックス、加硫促進剤などが挙げられる。
【0023】
ゴム組成物は、バンバリーミキサーなどの混合機を用いて各成分を常法に従い混練することにより作製することができ、該ゴム組成物を常法に従い加熱して加硫することにより加硫ゴム組成物が得られる。
【0024】
測定対象としてのゴム組成物の形状は、特に限定されず、例えばシート状のものを用いることができる。一実施形態として、測定対象としては、シート状に加硫成形したゴムシートを用いてもよい。
【0025】
本実施形態では、ゴム組成物中のバウンドラバーの量及び弾性率を原子間力顕微鏡のフォースカーブ測定により求める。原子間力顕微鏡(AFM)は、走査型プローブ顕微鏡の1種であり、試料と探針の原子間に働く力を検出する顕微鏡である。探針はカンチレバー(片持ちバネ)の先端に取り付けられており、試料と探針との間の距離を変えながら、カンチレバーに働く力(撓み量)を測定して、両者の関係をプロットした曲線であるフォースカーブを得る。このフォースカーブを解析することにより試料表面の弾性率(硬さ)を求めることができる。このようにフォースカーブ測定により試料表面の弾性率を求めること自体は公知であり、かかる公知の方法を用いて行うことができる。
【0026】
試料表面の所定範囲内でスキャンすることにより、フォースカーブの取得を当該所定範囲内の多数の点で行い、それぞれのフォースカーブから求められる弾性率からヒストグラムを作成する。このヒストグラムをピーク分離することで、充填剤であるシリカ成分、マトリックスゴム成分、および、マトリックスゴム成分よりも弾性率が高くかつシリカ成分よりも弾性率が低い成分(バウンドラバー成分)との3つの成分に分ける。これにより、バウンドラバーの量として、ゴム組成物中におけるバウンドラバーの体積分率を求めることができる。
【0027】
なお、充填剤としてのシリカの配合量が分かっている場合、当該配合量からシリカの体積分率を算出し、ヒストグラムをピーク分離する際に、この配合量から算出したシリカの体積分率を予め差し引いてから、残部をマトリックスゴム成分とバウンドラバー成分とに分けて、ゴム組成物中におけるバウンドラバーの体積分率を求めてもよい。
【0028】
詳細には、非特許文献2に記載された方法を参考にすることができる。すなわち、弾性率のヒストグラムからシリカに相当する高弾性率成分の体積分率をあらかじめ差し引く。次に、ヒストグラムの低弾性率側のピークをログノーマル関数で正規分布としてフィッティングする。このフィッティングカーブで囲まれている部分をマトリックスゴム成分とする。ヒストグラムのフィッティングカーブ外の成分をバウンドラバー成分として、バウンドラバー成分の体積分率を求めることができる。さらにバウンドラバー成分の弾性率ヒストグラムの平均値からバウンドラバー成分の弾性率を求めることができる。
【0029】
本実施形態では、以上のようにして求めたバウンドラバーの量及び弾性率とシリカの表面シラノール基量とからシリカの補強性を評価する。詳細には、一実施形態において、バウンドラバーの量と弾性率の積と、ゴム組成物の体積当たりのシリカの表面シラノール基量との比を求め、この比に基づいてゴム組成物におけるシリカの補強性を評価することができる。例えば、バウンドラバーの量と弾性率の積の、表面シラノール基量に対する比を、シリカの補強指数として算出してもよい。上記のとおり表面シラノール基量はシリカがゴムポリマーに作用し得る量の指標となるので、この補強指数が大きいほど、当該シリカが持つ本来の補強性能がより良く発揮され、即ちシリカとゴムポリマーとの反応性が高く、より効率的にシリカがゴムポリマーに反応していることを意味する。従って、該補強指数の大きさをみることで、ゴム組成物中でのシリカの補強性、即ちシリカがどの程度効率的に補強効果を発揮しているかを評価することができる。
【0030】
上記補強指数を算出する際に用いる表面シラノール基量としては、ゴム組成物の体積当たりのシリカの表面シラノール基量とすることが好ましく、シリカの配合量によらない補強指数を算出することができる。ここで、体積当たりの表面シラノール基量は、シリカの体積分率に、シリカの比重とBET比表面積と面積当たりの表面シラノール基量を乗じて算出することができる。シリカの体積分率にシリカの比重とBET比表面積と面積当たりの表面シラノール基量を乗じた値をアボガドロ定数で割ることで、表面シラノール基量をモル数として算出してもよい。なお、シリカの体積分率としては、上記フォースカーブ測定により求めた値を用いてもよく、シリカの配合量から算出した値を用いてもよい。
【0031】
例えば、ゴム組成物中のバウンドラバーの体積分率をVbとし、当該バウンドラバーの弾性率をVmとし、ゴム組成物の単位体積当たり(例えば1cm当たり)のシリカの表面シラノール基量をSとして、補強指数R=(Vb×Vm)/Sにより算出してもよい。
【0032】
一実施形態において、シリカの補強性を評価する際に、シリカの配合量を変えた複数のゴム組成物を作製し、それぞれの配合量のゴム組成物について上記の比又は補強指数を計算することにより、ゴム組成物におけるシリカの補強性を評価してもよい。これにより、例えば、当該シリカについて効率的な補強がなされる配合量を求めることができる。
【0033】
また、シランカップリング剤の種類を変えた複数のゴム組成物を作製し、それぞれのゴム組成物について上記の比又は補強指数を計算することにより、ゴム組成物におけるシリカの補強性を評価してもよい。これにより、シリカとゴムポリマーとの反応性を高くしてシリカの補強性を効率的に高めるシランカップリング剤を選定することができる。
【0034】
本実施形態によれば、原子間力顕微鏡のフォースカーブ測定により求めたバウンドラバーの量及び弾性率と、シリカの表面シラノール基量とを用いて、ゴム組成物におけるシリカの補強性を評価することができるので、例えばゴム組成物の材料開発においてシリカの種類や配合量、シランカップリング剤の種類の決定に役立てることができる。
【実施例
【0035】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
[原子間力顕微鏡のフォースカーブ測定方法]
原子間力顕微鏡としてブルカー製「Dimension Icon」を使用し、カンチレバーとしてオリンパス製「OMCL-AC240TS-R3」を使用した。測定範囲は3μm×3μm四方、測定点数は128点×128点の合計16384点として、各点でフォースカーブを測定した(測定周波数:10Hz)。
【0037】
JKR(Johnson-Kendall-Roberts)理論によりフォースカーブをフィッティングして弾性率を算出し、それぞれのフォースカーブから求められる弾性率からヒストグラムを作成した。この例では、各点でのフォースカーブを解析することで弾性率のヒストグラムを自動作成した。
【0038】
そして、上記実施形態において記載したように非特許文献2に記載された方法を参考にして、該ヒストグラムをピーク分離することで、シリカ成分、マトリックスゴム成分、マトリックスゴムよりも弾性率の高い成分(バウンドラバー成分)の3つの成分に分け、バウンドラバーの体積分率を求めた。また、バウンドラバーのヒストグラムの平均値によりバウンドラバーの弾性率を算出した。ここで、シリカの体積分率は、ゴム組成物の配合量から各配合剤の比重を用いて算出した。そして、上記ヒストグラムをピーク分離する際に、該シリカの体積分率を差し引いてから、残部をマトリックスゴム成分とバウンドラバー成分とに分けて、ゴム組成物中におけるバウンドラバーの体積分率を求めた。
【0039】
[シリカのBET比表面積]
JIS K6430に記載のBET法に準じてBET比表面積を測定した。
【0040】
[シリカのnm当たりの表面シラノール基量]
上記のとおり特許文献1の段落0035~0037に記載の方法により測定できるが、本実施例では簡易的に、「新版 ゴム技術の基礎 改訂版」(日本ゴム協会発行、1999年)の181頁に記載の湿式シリカの代表値である8個/nmを使用した。
【0041】
[マクロ弾性率]
上島製作所製の動的粘弾性装置を用いて、JIS K6394に準拠して動的粘弾性試験を実施した。試験条件は、サンプル形状:2mm×4mm×40mmの短冊状、測定モード:引っ張り、測定温度:25℃、周波数:10Hz、静歪み:1%、動歪み:0.05%とした。試験結果より、貯蔵弾性率を算出し、その値をマクロ弾性率(機械特性)として用いた。
【0042】
[実施例1]
バンバリーミキサーを使用し、ゴムポリマーに配合剤を添加し混練して、未加硫ゴム組成物を調製した。ゴム組成物の配合は、ゴムポリマー(SBR、旭化成(株)製「タフデン2000」)100質量部、シリカ20~55質量部(下記表1に記載)、シランカップリング剤1.6~4.4質量部(シリカ配合量に対して8質量%)、亜鉛華(三井金属鉱業(株)製「亜鉛華3号」)2質量部、ステアリン酸(花王(株)製「ルナックS-20」)1質量部、硫黄(鶴見化学工業(株)製「粉末硫黄」)1.5質量部、加硫促進剤1(住友化学(株)製「ソクシノールCZ」)1質量部、加硫促進剤2(大内新興化学工業(株)製「ノクセラーD」)1質量部とした。
【0043】
ここで、シリカとしては東ソー・シリカ(株)製「ニップシールAQ」(BET比表面積:205m/g、表面シラノール基量:8個/nm)を用い、シランカップリング剤としてはエボニック・インダストリーズ社製「Si75」を用いた。
【0044】
得られた未加硫ゴム組成物を160℃で20分間プレス加硫して厚さ2mmの加硫ゴム組成物を作製した。得られた厚さ2mmの加硫ゴム組成物についてマクロ弾性率を測定した。
【0045】
また、得られた加硫ゴム組成物を厚さ1mmの試験片とし、クライオミクロトームにて表面を鏡面に加工し、該試験片について原子間力顕微鏡のフォースカーブ測定を行い、バウンドラバーの体積分率とバウンドラバーの弾性率を求めた。参考までに、図1にシリカの配合量が20質量部の試験片についてのヒストグラムを示す。
【0046】
ゴム組成物の配合からゴム組成物1cm当たりのシリカの表面シラノール基量を算出した。詳細には、使用したシリカのnm当たりの表面シラノール基量は8個/nmであり、シリカの比重は1.95、BET比表面積は205m/gであるため、シリカの配合量から算出した体積分率に、比重1.95とBET比表面積205m/gと表面シラノール基量8個/nmを乗じ、アボガドロ定数で割ることにより、ゴム組成物1cm当たりのシリカ表面シラノール基量のモル数として算出した。
【0047】
ゴム組成物中のバウンドラバーの体積分率をVbとし、バウンドラバーの弾性率をVmとし、ゴム組成物1cm当たりのシリカ表面シラノール基量をS(mmol)として、補強指数R=(Vb×Vm)/Sを算出した。シリカの体積分率、バウンドラバーの体積分率、バウンドラバーの弾性率、ゴム組成物1cm当たりのシリカ表面シラノール基量(mmol)、補強指数R、マクロ弾性率の結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
結果は表1に示す通りである。シリカの配合量が45質量部を境としてそれ以上で補強指数が顕著に大きくなっており、よって45質量部以上とすることでシリカとゴムポリマーとがより効率的に反応し、シリカがより効率的に補強効果を発揮することが分かる。この点、マクロ弾性率も45質量部を境としてそれ以上で顕著に大きくなっていた。すなわち、40質量部までは配合量の増加に伴って徐々にマクロ弾性率が増加し、45質量部を境としてマクロ弾性率が大きく増加していた。
【0049】
[実施例2]
シランカップリング剤をエボニック・インダストリーズ社製「VP Si363」に変更し、その他は実施例1と同様にして、加硫ゴム組成物を作製し、マクロ弾性率の測定、原子間力顕微鏡のフォースカーブ測定によるバウンドラバーの体積分率とバウンドラバーの弾性率を求め、また、ゴム組成物1cm当たりのシリカの表面シラノール基量を算出して、補強指数Rを算出した。結果を表2に示す。
【0050】
【表2】
結果は表2に示す通りである。シリカの配合量の違いによる補強指数の変化はわずかであり、補強指数が顕著に大きくなるような境界となる配合量はなかった。この点、マクロ弾性率についても、シリカの配合量の増加に伴って徐々に増加しており、傾向が大きく変化するような配合量はなかった。また、実施例1と実施例2とを比較すると、補強指数は実施例1の方が大きかった。そのため、実施例1のシランカップリング剤を用いた配合では、実施例2のシランカップリング剤を用いた配合よりも、シリカとゴムポリマーがより効率的に反応し、ゴム組成物中でのシリカの補強性に優れることが分かる。
図1