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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/12 20060101AFI20231002BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20231002BHJP
【FI】
B60C11/12 B
B60C11/03 100C
B60C11/03 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019223903
(22)【出願日】2019-12-11
(65)【公開番号】P2021091329
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金村 利彦
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-252749(JP,A)
【文献】特開2001-039126(JP,A)
【文献】特開2015-024758(JP,A)
【文献】特開2006-007793(JP,A)
【文献】特開平05-330319(JP,A)
【文献】特開2014-193629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延びる主溝と、主溝深さに対して30%以下の深さを持つ浅サイプと、主溝深さに対して30%超100%以下の深さを持つ深サイプと、をトレッド部に備えるタイヤにおいて、
前記トレッド部の接地面における浅サイプの幅方向サイプ密度をLSDSとし、前記接地面における深サイプの幅方向サイプ密度をLSDDとし、前記接地面における浅サイプの周方向サイプ密度をCSDSとし、前記接地面における深サイプの周方向サイプ密度をCSDDとして、下記式(1)及び式(2)を満足し、
式(1):LSDS<LSDD
式(2):CSDS>CSDD
さらに、LSDS/LSDDが15/85以上25/75以下であり、かつ、CSDS/CSDDが50/50超60/40以下であり、
前記接地面は、タイヤを正規リムにリム組みし、正規内圧を充填した状態で平坦な路面に垂直に置き、正規荷重を加えたときの接地面である、タイヤ。
【請求項2】
タイヤ周方向に延びる主溝と、主溝深さに対して30%以下の深さを持つ浅サイプと、主溝深さに対して30%超100%以下の深さを持つ深サイプと、をトレッド部に備えるタイヤにおいて、
前記トレッド部の接地面における浅サイプの幅方向サイプ密度をLSDSとし、前記接地面における深サイプの幅方向サイプ密度をLSDDとし、前記接地面における浅サイプの周方向サイプ密度をCSDSとし、前記接地面における深サイプの周方向サイプ密度をCSDDとして、下記式(1)及び式(2)を満足し、
式(1):LSDS<LSDD
式(2):CSDS>CSDD
さらに、前記タイヤは車両への装着向きが指定され、前記トレッド部の接地面においてタイヤ赤道面よりも車両装着内側に位置する内側領域とタイヤ赤道面よりも車両装着外側に位置する外側領域とを備え、
前記内側領域における浅サイプの幅方向サイプ密度をLSDS(IN)とし、前記内側領域における全サイプの幅方向サイプ密度をLSD(IN)とし、前記接地面における全サイプの幅方向サイプ密度をLSDとして、下記式(3)を満足し、
式(3):LSDS(IN)/LSDS>LSD(IN)/LSD
前記接地面は、タイヤを正規リムにリム組みし、正規内圧を充填した状態で平坦な路面に垂直に置き、正規荷重を加えたときの接地面である、タイヤ。
【請求項3】
タイヤ周方向に延びる主溝と、主溝深さに対して30%以下の深さを持つ浅サイプと、主溝深さに対して30%超100%以下の深さを持つ深サイプと、をトレッド部に備えるタイヤにおいて、
前記トレッド部の接地面における浅サイプの幅方向サイプ密度をLSDSとし、前記接地面における深サイプの幅方向サイプ密度をLSDDとし、前記接地面における浅サイプの周方向サイプ密度をCSDSとし、前記接地面における深サイプの周方向サイプ密度をCSDDとして、下記式(1)及び式(2)を満足し、
式(1):LSDS<LSDD
式(2):CSDS>CSDD
さらに、前記タイヤは車両への装着向きが指定され、前記トレッド部の接地面においてタイヤ赤道面よりも車両装着内側に位置する内側領域とタイヤ赤道面よりも車両装着外側に位置する外側領域とを備え、
前記外側領域における浅サイプの周方向サイプ密度をCSDS(OUT)とし、前記外側領域における深サイプの周方向サイプ密度をCSDD(OUT)とし、前記外側領域における全サイプの周方向サイプ密度をCSD(OUT)とし、前記接地面における全サイプの周方向サイプ密度をCSDとして、下記式(4)及び式(5)を満足し、
式(4):CSDS(OUT)/CSDS>CSD(OUT)/CSD
式(5):CSDD(OUT)/CSDD<CSD(OUT)/CSD
前記接地面は、タイヤを正規リムにリム組みし、正規内圧を充填した状態で平坦な路面に垂直に置き、正規荷重を加えたときの接地面である、タイヤ。
【請求項4】
前記外側領域における浅サイプの幅方向サイプ密度をLSDS(OUT)とし、前記外側領域における全サイプの幅方向サイプ密度をLSD(OUT)として、LSDS(IN)/LSDS(OUT)が60/40以上70/30以下であり、LSD(IN)/LSD(OUT)が55/45以上65/35以下である、請求項に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記内側領域における浅サイプの周方向サイプ密度をCSDS(IN)とし、前記内側領域における深サイプの周方向サイプ密度をCSDD(IN)とし、前記内側領域における全サイプの周方向サイプ密度をCSD(IN)として、CSDS(IN)/CSDS(OUT)が60/40以上70/30以下であり、CSDD(IN)/CSDD(OUT)が70/30以上80/20以下であり、CSD(IN)/CSD(OUT)が65/35以上75/25以下である、請求項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
オールシーズンタイヤやウインタータイヤのような雪道を走行するタイヤにおいては、エッジ効果を発揮させるためにトレッド部にサイプが設けられている。このようなタイヤにおいて、雪道での走行性能を向上させるためにサイプを増加させると、陸部剛性が低下して操縦安定性が損なわれる。
【0003】
そのため、例えば、特許文献1,2には、雪上での制動性能であるスノー制動性を得ながら操縦安定性を向上するために、トレッド部の主溝及びサイプの配分を適正化することが提案されている。詳細には、特許文献1では、タイヤ幅方向に延びるサイプを車両装着外側よりも車両装着内側でトータル長さが大きくなるように設定した上で、タイヤ赤道面を挟んだ両側の主溝の溝面積を異ならせることが記載されている。特許文献2には、タイヤ幅方向に延びるサイプを車両装着内側よりも車両装着外側でトータル長さが大きくなるように設定した上で、タイヤ赤道面を挟んだ両側の主溝のタイヤ赤道面からの位置を異ならせることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-161123号公報
【文献】特開2007-168628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般にサイプは主溝深さに対して30%超の深さを持つ。このような深いサイプは、タイヤの摩耗後にもエッジ効果を維持してスノー制動性に寄与することができる。しかしながら、深いサイプは陸部剛性を低下させるので、特に大きな荷重がかかるタイヤでは使用初期における操縦安定性が損なわれる。そのため、摩耗後におけるスノー制動性を損なうことなく使用初期における操縦安定性を向上することが求められる。
【0006】
本発明の実施形態は、上記の点に鑑み、摩耗後におけるスノー制動性と使用初期における操縦安定性を両立することができるタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係るタイヤは、タイヤ周方向に延びる主溝と、主溝深さに対して30%以下の深さを持つ浅サイプと、主溝深さに対して30%超100%以下の深さを持つ深サイプと、をトレッド部に備えるタイヤにおいて、前記トレッド部の接地面における浅サイプの幅方向サイプ密度をLSDSとし、前記接地面における深サイプの幅方向サイプ密度をLSDDとし、前記接地面における浅サイプの周方向サイプ密度をCSDSとし、前記接地面における深サイプの周方向サイプ密度をCSDDとして、
式(1):LSDS<LSDD、及び、
式(2):CSDS>CSDD
を満足し、さらに、LSDS/LSDDが15/85以上25/75以下であり、かつ、CSDS/CSDDが50/50超60/40以下であるタイヤである。
また、本発明の実施形態に係るタイヤは、タイヤ周方向に延びる主溝と、主溝深さに対して30%以下の深さを持つ浅サイプと、主溝深さに対して30%超100%以下の深さを持つ深サイプと、をトレッド部に備えるタイヤにおいて、前記トレッド部の接地面における浅サイプの幅方向サイプ密度をLSDSとし、前記接地面における深サイプの幅方向サイプ密度をLSDDとし、前記接地面における浅サイプの周方向サイプ密度をCSDSとし、前記接地面における深サイプの周方向サイプ密度をCSDDとして、
式(1):LSDS<LSDD、及び、
式(2):CSDS>CSDD
を満足し、さらに、前記タイヤは車両への装着向きが指定され、前記トレッド部の接地面においてタイヤ赤道面よりも車両装着内側に位置する内側領域とタイヤ赤道面よりも車両装着外側に位置する外側領域とを備え、前記内側領域における浅サイプの幅方向サイプ密度をLSDS(IN)とし、前記内側領域における全サイプの幅方向サイプ密度をLSD(IN)とし、前記接地面における全サイプの幅方向サイプ密度をLSDとして、
式(3):LSDS(IN)/LSDS>LSD(IN)/LSD
を満足するタイヤである。
また、本発明の実施形態に係るタイヤは、タイヤ周方向に延びる主溝と、主溝深さに対して30%以下の深さを持つ浅サイプと、主溝深さに対して30%超100%以下の深さを持つ深サイプと、をトレッド部に備えるタイヤにおいて、前記トレッド部の接地面における浅サイプの幅方向サイプ密度をLSDSとし、前記接地面における深サイプの幅方向サイプ密度をLSDDとし、前記接地面における浅サイプの周方向サイプ密度をCSDSとし、前記接地面における深サイプの周方向サイプ密度をCSDDとして、
式(1):LSDS<LSDD、及び、
式(2):CSDS>CSDD
を満足し、さらに、前記タイヤは車両への装着向きが指定され、前記トレッド部の接地面においてタイヤ赤道面よりも車両装着内側に位置する内側領域とタイヤ赤道面よりも車両装着外側に位置する外側領域とを備え、前記外側領域における浅サイプの周方向サイプ密度をCSDS(OUT)とし、前記外側領域における深サイプの周方向サイプ密度をCSDD(OUT)とし、前記外側領域における全サイプの周方向サイプ密度をCSD(OUT)とし、前記接地面における全サイプの周方向サイプ密度をCSDとして、
式(4):CSDS(OUT)/CSDS>CSD(OUT)/CSD、及び、
式(5):CSDD(OUT)/CSDD<CSD(OUT)/CSD
を満足するタイヤである。
【発明の効果】
【0008】
本実施形態によれば、トレッド部に深さの異なる浅サイプ及び深サイプを設けた上で、これらを上記式(1)及び式(2)を満足するように配したことにより、摩耗後におけるスノー制動性と使用初期における操縦安定性を両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係るタイヤのトレッドパターンを示す展開図
図2】同トレッドパターンにおいて浅サイプと深サイプを区別して示す図
図3】同タイヤのトレッド部の外形形状を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について図面を参照して説明する。
【0011】
一実施形態に係るタイヤは、空気入りタイヤであり、左右一対のビード部及びサイドウォール部と、左右のサイドウォール部のタイヤ径方向外方端部同士を連結するように両サイドウォール部間に設けられたトレッド部とを備えて構成されている。タイヤの内部構成は、特に限定されず、例えば、ビード部に埋設された環状のビードコアと、一対のビード部間にトロイダル状に延びるラジアル構造のカーカスプライと、トレッド部においてカーカスプライのタイヤ径方向外側に設けられたベルト及びトレッドゴム等を有して構成される。本実施形態では、トレッドパターン以外については一般的なタイヤ構造を採用することができる。
【0012】
なお、本明細書における各形状及び寸法等は、特に断らない限り、タイヤを正規リムに装着して正規内圧を充填した無負荷の正規状態でのものである。正規リムとは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、又はETRTO規格における「Measuring Rim」である。正規内圧とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、例えばJATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における表「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の「最大値」、又はETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」である。
【0013】
図1は、一実施形態に係るタイヤのトレッド部10の一部展開図である。図中、符号CLは、タイヤ幅方向中心に相当するタイヤ赤道面を示す。符号WDは、タイヤ幅方向(タイヤ軸方向とも称される。)を示し、タイヤ幅方向WD内側とはタイヤ赤道面CLに近づく方向をいい、タイヤ幅方向WD外側とはタイヤ赤道面CLから離れる方向をいう。符号CDは、タイヤ回転軸を中心とした円周上の方向であるタイヤ周方向を示す。また、図3において、符号RDは、タイヤ径方向(タイヤ回転軸に垂直な方向)を示し、タイヤ径方向RD内側とはタイヤ回転軸に近づく方向をいい、タイヤ径方向RD外側とはタイヤ回転軸から離れる方向をいう。
【0014】
符号TEは、トレッド部10の接地端を示す。接地端TEは、タイヤを正規リムにリム組みし、正規内圧を充填した状態でタイヤを平坦な路面に垂直に置き、正規荷重を加えたときの路面に接地するトレッド部10表面のタイヤ幅方向WDの最外位置を指す。正規荷重は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、例えばJATMA規格における最大負荷能力、TRA規格における上記の表に記載の最大値、ETRTO規格における「LOAD CAPACITY」であるが、タイヤが乗用車用である場合には前記荷重の88%に相当する荷重とする。
【0015】
図1に示すタイヤは、車両への装着向きが指定されたタイヤであり、車両に装着する際に外側に装着される面と内側に装着される面とが指定されている。そのため、タイヤの例えばサイド部には、車両への装着向きを指定するための表示が設けられている。図1中、符号OUTで示す側が車両装着姿勢において外側(車両装着外側)に向き、符号INで示す側が車両装着姿勢において内側(車両装着内側)に向くように、車両に装着される。
【0016】
トレッド部10の表面には、タイヤ周方向CDに延びる複数の主溝12がタイヤ幅方向WDに間隔をおいて設けられている。この例では、主溝12は3本、即ち、タイヤ赤道面CL上に位置するセンター主溝12Aと、その両側に配された一対のショルダー主溝12B,12Bが設けられており、いずれもタイヤ周方向CDに平行に延びるストレート状である。なお、主溝12は、一般に5mm以上の溝幅(開口幅)を持つ周方向溝である。主溝深さD0(図3参照)は、特に限定しないが、例えば8~15mmでもよい。ここで、主溝深さD0とは、TWI(トレッドウエアーインジケータ)の部位を除いた主溝12の最大深さをいう。
【0017】
トレッド部10には主溝12によって複数の陸部が区画形成されている。この例では、センター主溝12Aとショルダー主溝12Bとの間に挟まれた左右のセンター陸部14,16と、ショルダー主溝12Bのタイヤ幅方向WD外側に位置して接地端TEを含む左右のショルダー陸部18,20が設けられている。
【0018】
センター陸部14,16は、タイヤ周方向CDに連続するリブとして形成されている。車両内側INのセンター陸部14には、タイヤ幅方向WDに延びて陸部の途中で終端する横溝22が当該陸部の両側の縁部にそれぞれ設けられている。横溝22は、センター陸部14の幅の50%よりも小さい長さを持ちセンター陸部14内で終端しており、タイヤ周方向CDに間隔をおいて複数設けられている。車両外側OUTのセンター陸部16には、タイヤ幅方向WDに延びて陸部の途中で終端する横溝24が当該陸部の両側の縁部にそれぞれ設けられている。横溝24は、センター陸部16の幅の50%よりも大きい長さを持ちセンター陸部16内で終端しており、タイヤ周方向CDに間隔をおいてかつ左右交互に複数設けられている。
【0019】
ショルダー陸部18,20は、タイヤ幅方向WDに延びて当該陸部を横断する横溝26,28をタイヤ周方向CDに間隔をおいて設けることにより複数のブロック30,32をタイヤ周方向CDに配設してなるブロック列として形成されている。
【0020】
なお、トレッドパターンはタイヤ赤道面CLに関して非対称である。また、横溝22,24,26,28の延在方向はタイヤ幅方向WDに平行でもよく、タイヤ幅方向WDに対して傾斜してもよい。ここで、横溝とは、溝幅が1.5mmよりも大きい溝をいい、横溝の溝幅は通常2mm以上である。
【0021】
トレッド部10には、複数のサイプ34が設けられている。ここで、サイプとは、溝幅が1.5mm以下の細長い溝をいい、サイプの溝幅は0.4~1.2mmでもよい。
【0022】
この例では、サイプ34は、センター陸部14,16及びショルダー陸部18,20にそれぞれ複数設けられており、タイヤ幅方向WDに延びる横サイプ36と、タイヤ周方向CDに延びる縦サイプ38とを含む。ここで、横サイプ36はタイヤ幅方向WDに対する傾斜角度が45°未満のサイプであり、縦サイプ38はタイヤ幅方向WDに対する傾斜角度が45°以上(タイヤ周方向CDに対する傾斜角度が45°以下)のサイプである。横サイプ36と縦サイプ38は、各陸部14,16,18,20において交点を有して形成されてもよい。なお、この例では、センター陸部14には、縦サイプ38として、タイヤ周方向CDに断続状に延びるジグザグサイプ38Aが設けられている。
【0023】
サイプ34は、深さが一定ではなく異なる深さに形成されており、主溝深さD0に対して30%以下の深さを持つ浅サイプ34Sと、主溝深さD0に対して30%超100%以下の深さを持つ深サイプ34Dとからなる。浅サイプ34Sの深さDs(図3参照)は、主溝深さD0に対して0%超30%以下であり、より好ましくは10~30%であり、更に好ましくは20~30%である。深サイプ34Dの深さDd(図3参照)は、主溝深さD0に対して50~90%であることが好ましく、より好ましくは60~80%である。
【0024】
ここで、浅サイプ34S及び深サイプ34Dは、例えば、ある1つのサイプ34においてその延在方向の全体で深さが主溝深さD0の30%以下であれば当該サイプ全体が浅サイプ34Sであり、延在方向の全体で深さが主溝深さD0の30%超100%以下であれば当該サイプ全体が深サイプ34Dである。また、1つのサイプ34においてその延在方向の一部で深さが主溝深さD0の30%以下であり残部での深さが30%超100%以下である場合、当該一部が浅サイプ34Sであり、残部が深サイプ34Dである。
【0025】
本実施形態では、浅サイプ34Sと深サイプ34Dが下記式(1)及び式(2)を満足するように設けられている。
【0026】
式(1):LSDS<LSDD
式(2):CSDS>CSDD
ここで、LSDS、LSDD、CSDS、CSDDは以下の通りである。
・LSDS:接地面10Aにおける浅サイプ34Sの幅方向サイプ密度
・LSDD:接地面10Aにおける深サイプ34Dの幅方向サイプ密度
・CSDS:接地面10Aにおける浅サイプ34Sの周方向サイプ密度
・CSDD:接地面10Aにおける深サイプ34Dの周方向サイプ密度。
【0027】
LSDSは、トレッド部10の接地面10Aの面積(mm)当たりの、当該接地面10Aに存在する浅サイプ34Sのタイヤ幅方向WDの寸法(各浅サイプ34Sをタイヤ幅方向WDに平行な直線に対して当該直線に垂直な投影線で投影した際の長さ。以下同じ)の総和(mm)である。ここで、接地面10Aとは、タイヤ幅方向WDの両側の接地端TE,TEに挟まれた領域であり、接地面10Aの面積とは、当該接地面10Aにおける陸部面積と溝部面積(主溝12、横溝22,24,26,28及びサイプ34の面積)とを合わせた接地面10A全体の面積である(以下同じ)。
【0028】
LSDDは、トレッド部10の接地面10Aの面積(mm)当たりの、当該接地面10Aに存在する深サイプ34Dのタイヤ幅方向WDの寸法(各深サイプ34Dをタイヤ幅方向WDに平行な直線に対して当該直線に垂直な投影線で投影した際の長さ。以下同じ)の総和(mm)である。
【0029】
CSDSは、トレッド部10の接地面10Aの面積(mm)当たりの、当該接地面10Aに存在する浅サイプ34Sのタイヤ周方向CDの寸法(各浅サイプ34Sをタイヤ周方向CDに平行な直線に対して当該直線に垂直な投影線で投影した際の長さ。以下同じ)の総和(mm)である。
【0030】
CSDDは、トレッド部10の接地面10Aの面積(mm)当たりの、当該接地面10Aに存在する深サイプ34Dのタイヤ周方向CDの寸法(各深サイプ34Dをタイヤ周方向CDに平行な直線に対して当該直線に垂直な投影線で投影した際の長さ。以下同じ)の総和(mm)である。
【0031】
幅方向サイプ密度は主にスノー制動性に関連する。本実施形態では、浅サイプ34Sを設けることで使用初期におけるエッジ効果を発揮してスノー制動性を向上することができる。詳細には、深サイプ34Dのみでは陸部剛性が低下し、特に大きな荷重がかかったときにサイプが閉じてエッジ効果を発揮しにくくなるが、陸部剛性の高い浅サイプ34Sを追加することで、それを補うことができる。
【0032】
このように浅サイプ34Sにより使用初期におけるスノー制動性を向上しつつ、式(1)のように深サイプ34Dの幅方向サイプ密度LSDDを浅サイプ34Sの幅方向サイプ密度LSDSよりも大きく設定したことにより、摩耗後におけるスノー制動性を維持することができる。
【0033】
一方、周方向サイプ密度は主に操縦安定性に関連する。本実施形態では、式(2)のように浅サイプ34Sの周方向サイプ密度CSDSを深サイプ34Dの周方向サイプ密度CSDDよりも大きく設定したことにより、大きな負荷がかかるコーナリング時に陸部剛性を確保して使用初期における乾燥路面での操縦安定性(ドライ操縦安定性)を向上することができる。また、上記コーナリング時にサイプ34を閉じにくくすることができ、エッジ効果を発揮することで使用初期における雪道での操縦安定性(スノー操縦安定性)を向上することができる。
【0034】
そのため、本実施形態によれば、摩耗後におけるスノー制動性と使用初期における操縦安定性を両立することができる。
【0035】
本実施形態においては、LSDS/LSDDが15/85以上25/75以下であることが好ましい。すなわち、LSDSとLSDDの合計を100%としたとき、LSDSの比率が15~25%、LSDDの比率が75~85%であることが好ましい。浅サイプ34Sの幅方向サイプ密度LSDSの比率を15%以上とすることで、使用初期のスノー制動性を向上することができる。また、深サイプ34Dの幅方向サイプ密度LSDDの比率を75%以上とすることで、摩耗後の幅方向サイプ成分を十分に確保して摩耗後のスノー制動性を向上することができる。
【0036】
また、CSDS/CSDDが50/50超60/40以下であることが好ましい。すなわち、CSDSとCSDDの合計を100%としたとき、CSDSの比率が50%超60%以下であり、CSDDの比率が40%以上50%未満であることが好ましい。浅サイプ34Sの周方向サイプ密度CSDSの比率を50%よりも大きくすることで、使用初期における操縦安定性を向上することができる。また、深サイプ34Dの周方向サイプ密度CSDDの比率を40%以上とすることで、摩耗後の操縦安定性を向上することができる。
【0037】
上記のように一実施形態のタイヤは車両への装着向きが指定されており、トレッド部10の接地面10Aにおいて、タイヤ赤道面CLよりも車両装着内側INに位置する内側領域40とタイヤ赤道面CLよりも車両装着外側OUTに位置する外側領域42とを備える。ここにおいて、浅サイプ34Sと深サイプ34Dは下記式(3)を満足するように設けられることが好ましい。
【0038】
式(3):LSDS(IN)/LSDS>LSD(IN)/LSD
ここで、LSDSは上記のとおりであり、LSDS(IN)、LSD(IN)、LSDは以下のとおりである。
・LSDS(IN):内側領域40における浅サイプ34Sの幅方向サイプ密度
・LSD(IN):内側領域40における全サイプ34の幅方向サイプ密度
・LSD:接地面10Aにおける全サイプ34の幅方向サイプ密度。
【0039】
LSDS(IN)は、内側領域40の面積(mm)当たりの、当該内側領域40に存在する浅サイプ34Sのタイヤ幅方向WDの寸法の総和(mm)である。ここで、内側領域40とは、接地面10Aにおいてタイヤ赤道面CLと車両装着内側INの接地端TEとで挟まれた領域であり、内側領域40の面積とは、当該内側領域40における陸部面積と溝部面積(主溝12、横溝22,26及びサイプ34の面積)とを合わせた内側領域40全体の面積である(以下同じ)。
【0040】
LSD(IN)は、内側領域40の面積(mm)当たりの、当該内側領域40に存在するサイプ34(浅サイプ34S及び深サイプ34D)のタイヤ幅方向WDの寸法(各サイプ34をタイヤ幅方向WDに平行な直線に対して当該直線に垂直な投影線で投影した際の長さ。以下同じ)の総和(mm)である。
【0041】
LSDは、トレッド部10の接地面10Aの面積(mm)当たりの、当該接地面10Aに存在するサイプ34(浅サイプ34S及び深サイプ34D)のタイヤ幅方向WDの寸法の総和(mm)である。
【0042】
LSDS(IN)/LSDSは、浅サイプ34Sの接地面10A全体での幅方向サイプ密度LSDSに対する内側領域40での幅方向サイプ密度LSDS(IN)の比率である。LSD(IN)/LSDは、全サイプ34の接地面10A全体での幅方向サイプ密度LSDに対する全サイプ34の内側領域40での幅方向サイプ密度LSD(IN)である。
【0043】
一般に、タイヤの直進時には外側領域42よりも内側領域40が接地しやすく、コーナリング時には内側領域40よりも外側領域42が接地しやすい。特に、ライトトラック用タイヤのような高負荷系のタイヤでネガティブキャンバーの車両に装着される場合、その傾向が顕著となり、深サイプ34Dは使用初期において閉じやすくなる。これに対し、式(3)のようにLSDS(IN)/LSDSをLSD(IN)/LSDよりも大きく設定することにより、使用初期における内側領域40でのサイプ閉鎖を効果的に抑制することができ、使用初期でのスノー制動性を更に高めることができる。
【0044】
この場合、浅サイプ34Sと深サイプ34Dは、また下記(L1)~(L3)を満たすように設けられていることが好ましい。
【0045】
(L1):LSD(IN)/LSD(OUT)が55/45以上65/35以下であること
すなわち、LSD(IN)とLSD(OUT)の合計を100%としたとき、LSD(IN)の比率が55~65%、LSD(OUT)の比率が35~45%であることが好ましい。これにより、直進時に接地しやすい内側領域40でスノー制動性を向上しつつ、コーナリング時に接地しやすい外側領域42でドライ操縦安定性を向上することができる。
【0046】
ここで、LSD(IN)は上記のとおりである。LSD(OUT)は、外側領域42における全サイプ34の幅方向サイプ密度であり、詳細には、外側領域42の面積(mm)当たりの、当該外側領域42に存在するサイプ34(浅サイプ34S及び深サイプ34D)のタイヤ幅方向WDの寸法の総和(mm)である。ここで、外側領域42とは、接地面10Aにおいてタイヤ赤道面CLと車両装着外側OUTの接地端TEとで挟まれた領域であり、外側領域42の面積とは、当該外側領域42における陸部面積と溝部面積(主溝12、横溝24,28及びサイプ34の面積)とを合わせた外側領域42全体の面積である(以下同じ)。
【0047】
(L2):LSDS(IN)/LSDS(OUT)が60/40以上70/30以下であること
すなわち、LSDS(IN)とLSDS(OUT)の合計を100%としたとき、LSDS(IN)の比率が60~70%、LSDS(OUT)の比率が30~40%であることが好ましい。ここで、LSDS(IN)は上記のとおりである。LSDS(OUT)は、外側領域42における浅サイプ34Sの幅方向サイプ密度であり、詳細には、外側領域42の面積(mm)当たりの、当該外側領域42に存在する浅サイプ34Sのタイヤ幅方向WDの寸法の総和(mm)である。
【0048】
(L3):LSDD(IN)/LSDD(OUT)が55/45以上65/35以下であること
すなわち、LSDD(IN)とLSDD(OUT)の合計を100%としたとき、LSDD(IN)の比率が55~65%、LSDD(OUT)の比率が35~45%であることが好ましい。ここで、LSDD(IN)は、内側領域40における深サイプ34Dの幅方向サイプ密度であり、詳細には、内側領域40の面積(mm)当たりの、当該内側領域40に存在する深サイプ34Dのタイヤ幅方向WDの寸法の総和(mm)である。LSDD(OUT)は、外側領域42における深サイプ34Dの幅方向サイプ密度であり、詳細には、外側領域42の面積(mm)当たりの、当該外側領域42に存在する深サイプ34Dのタイヤ幅方向WDの寸法の総和(mm)である。
【0049】
上記(L1)及び(L2)、より好ましくは(L1)~(L3)の条件を満たすことにより、上記式(3)の条件を満たすことと相俟って、使用初期における内側領域40でのサイプ閉鎖をより効果的に抑制することができ、使用初期でのスノー制動性を更に高めることができる。
【0050】
本実施形態では、また、浅サイプ34Sと深サイプ34Dは下記式(4)及び式(5)を満足するように設けられることが好ましい。
【0051】
式(4):CSDS(OUT)/CSDS>CSD(OUT)/CSD
式(5):CSDD(OUT)/CSDD<CSD(OUT)/CSD
ここで、CSDS、CSDDは上記のとおりであり、CSDS(OUT)、CSD(OUT)、CSD、CSDD(OUT)は以下のとおりである。
・CSDS(OUT):外側領域における浅サイプの周方向サイプ密度
・CSD(OUT):外側領域における全サイプの周方向サイプ密度
・CSD:接地面における全サイプの周方向サイプ密度
・CSDD(OUT):外側領域における深サイプの周方向サイプ密度。
【0052】
CSDS(OUT)は、外側領域42の面積(mm)当たりの、当該外側領域42に存在する浅サイプ34Sのタイヤ周方向CDの寸法の総和(mm)である。
【0053】
CSD(OUT)は、外側領域42の面積(mm)当たりの、当該外側領域42に存在するサイプ34(浅サイプ34S及び深サイプ34D)のタイヤ周方向CDの寸法の総和(mm)である。
【0054】
CSDは、トレッド部10の接地面10Aの面積(mm)当たりの、当該接地面10Aに存在するサイプ34(浅サイプ34S及び深サイプ34D)のタイヤ周方向CDの寸法の総和(mm)である。
【0055】
CSDD(OUT)は、外側領域42の面積(mm)当たりの、当該外側領域42に存在する深サイプ34Dのタイヤ周方向CDの寸法の総和(mm)である。
【0056】
CSDS(OUT)/CSDSは、浅サイプ34Sの接地面10A全体での周方向サイプ密度CSDSに対する外側領域42での周方向サイプ密度CSDS(OUT)の比率である。CSD(OUT)/CSDは、全サイプ34の接地面10A全体での周方向サイプ密度CSDに対する全サイプ34の外側領域42での周方向サイプ密度CSD(OUT)である。
【0057】
式(4)のようにCSDS(OUT)/CSDSをCSD(OUT)/CSDよりも大きく設定することにより、コーナリング時に接地しやすい外側領域42において、陸部剛性が高く閉じにくい浅サイプ34Sの比率を高めることができ、使用初期での操縦安定性(ドライ操縦安定性やスノー操縦安定性)を高めることができる。
【0058】
また、式(5)のようにCSDD(OUT)/CSDDをCSD(OUT)/CSDよりも小さく設定することにより、外側領域42での剛性を高めることができ、ドライ操縦安定性を向上することができる。
【0059】
この場合、浅サイプ34Sと深サイプ34Dは、また下記(C1)~(C3)を満たすように設けられていることが好ましい。
【0060】
(C1):CSD(IN)/CSD(OUT)が65/35以上75/25以下であること
すなわち、CSD(IN)とCSD(OUT)の合計を100%としたとき、CSD(IN)の比率が65~75%、CSD(OUT)の比率が25~35%であることが好ましい。これにより、内側領域40でスノー操縦安定性を向上しつつ、外側領域42でドライ操縦安定性を向上することができる。
【0061】
ここで、CSD(OUT)は上記のとおりである。CSD(IN)は、内側領域40における全サイプ34の周方向サイプ密度であり、詳細には、内側領域40の面積(mm)当たりの、当該内側領域40に存在するサイプ34(浅サイプ34S及び深サイプ34D)のタイヤ周方向CDの寸法の総和(mm)である。
【0062】
(C2):CSDS(IN)/CSDS(OUT)が60/40以上70/30以下であること
すなわち、CSDS(IN)とCSDS(OUT)の合計を100%としたとき、CSDS(IN)の比率が60~70%、CSDS(OUT)の比率が30~40%であることが好ましい。ここで、CSDS(OUT)は上記のとおりであり、CSDS(IN)は、内側領域40における浅サイプ34Sの周方向サイプ密度であり、詳細には、内側領域40の面積(mm)当たりの、当該内側領域40に存在する浅サイプ34Sのタイヤ周方向CDの寸法の総和(mm)である。
【0063】
(C3):CSDD(IN)/CSDD(OUT)が70/30以上80/20以下であること
すなわち、CSDD(IN)とCSDD(OUT)の合計を100%としたとき、CSDD(IN)の比率が70~80%、CSDD(OUT)の比率が20~30%であることが好ましい。ここで、CSDD(OUT)は上記のとおりであり、CSDD(IN)は、内側領域40における深サイプ34Dの周方向サイプ密度であり、詳細には、内側領域40の面積(mm)当たりの、当該内側領域40に存在する深サイプ34Dのタイヤ周方向CDの寸法の総和(mm)である。
【0064】
上記(C1)~(C3)の条件を満たすことにより、上記式(4)及び式(5)の条件を満たすことと相俟って、使用初期でのスノー操縦安定性およびドライ操縦安定性の向上効果を高めることができる。
【0065】
本実施形態において、内側領域40と外側領域42のボイド比の差は特に限定しないが、偏摩耗を抑制する観点から5%以内であることが好ましい。ここで、ボイド比とは、その領域内に占める非接地部分(主溝、横溝及びサイプ)の面積の比率である。
【0066】
また、各陸部の面積比は特に限定しないが、センター陸部14,16での摩耗を抑制する観点から、全陸部の合計面積を100%として、各センター陸部14,16の面積が26~30%であること、及び各ショルダー陸部18,20の面積が20~24%であることが好ましい。ここで、陸部の面積とは、主溝、横溝及びサイプを除いた各陸部表面の面積である。
【0067】
また、各陸部のサイプ密度は特に限定しないが、内側領域40によるスノー性能と外側領域42によるドライ性能を両立する観点から、次のように設定されていることが好ましい。
【0068】
(IN)Ce>(IN)Sh>(OUT)Ce>(OUT)Sh
ここで、(IN)Ceは内側領域40のセンター陸部14のサイプ密度、(IN)Shは内側領域40のショルダー陸部18のサイプ密度、(OUT)Ceは外側領域42のセンター陸部16のサイプ密度、(OUT)Shは外側領域42のショルダー陸部20のサイプ密度である。また、サイプ密度(mm/mm)とは、上記接地面10Aの面積当たりの、当該陸部に存在する各サイプ34の長さ(波形サイプ等の場合には直線に伸ばした長さ)の総和(mm)である。
【0069】
図2は、図1に示すトレッドパターンにおいて、上記の各条件を満足するように浅サイプ34Sと深サイプ34Dを設定した例を示す図であり、浅サイプ34Sにはハッチングを入れて示している。図2では、横サイプ36において、その主溝12への開口端部が浅サイプ34Sとされ、その残部が深サイプ34Dとされている。また、縦サイプ38については、ジグザグサイプ38Aが深サイプ34Dとされ、その他の縦サイプ38は浅サイプ34Sとされている。
【0070】
なお、図1及び図2に示すトレッドパターンは好ましい一例にすぎず、本実施形態は、上記式(1)及び式(2)を満足する種々のトレッドパターンに適用可能である。例えば図1に示す例では、サイプ34をその延在方向の全体が直線状のサイプとしたが、横断面形状が波形をなす波形部を含む波形サイプとしてもよい。また、各陸部におけるサイプの配置等の構成、横溝の配置等の構成、主溝の位置等の構成についても種々の変更が可能である。更に主溝の本数も上記の3本には限定されず、2本でもよく4本以上でもよい。
【0071】
本実施形態に係るタイヤとしては、乗用車用タイヤ、トラックやバスなどの重荷重用タイヤ、ライトトラック(例えば、SUV車やバン(ライトバン)、ピックアップトラック)用タイヤなど、各種車両用のタイヤが挙げられる。また、用途も特に限定されない。好ましくは、オールシーズンタイヤやウインタータイヤに用いることであり、またライトトラック用タイヤに用いることである。ここで、ライトトラックとは、ライトデューティートラックとも称され、アメリカ合衆国における自動車の分類で、貨物の積載量が4000ポンド(1815kg)未満のトラックまたはトラックベースの自動車をいう。
【0072】
本実施形態に係るタイヤは、ネガティブキャンバーの車両に装着して使用されることが好ましい。ネガティブキャンバーの車両とは、キャンバー角をネガティブにした車両、即ちタイヤの上部側が車両内側に傾くことで、車両正面から見たときに左右のタイヤがハ字状になるように装着される車両をいう。
【実施例
【0073】
本実施形態に係るタイヤの性能改善効果を確認するために、実施例1~3および比較例1の空気入りラジアルタイヤ(タイヤサイズ:235/65R16C)を試作し、各タイヤを16×6.5のリムに装着し、内圧300kPaを充填して、ネガティブキャンバー角が1°のライトトラックに装着して、使用初期のスノー制動性、スノー操縦安定性及びドライ操縦安定性と、50%摩耗時のスノー制動性、スノー操縦安定性及びドライ操縦安定性を評価した。50%摩耗時とは、トレッド部が主溝の溝深さの50%まで摩耗した段階である。
【0074】
実施例1のタイヤは、上記の図1~3で示すトレッドパターンを備えたものであり、幅方向サイプ密度及び周方向サイプ密度の詳細は下記表1に示す通りであり、上記式(1)~(5)、(L1)~(L3)及び(C1)~(C3)を全て充足する例である。
【0075】
実施例2のタイヤは、実施例1に対して、タイヤ幅方向WDに延びるサイプにおける浅サイプ34Sの長さを変更することでLSDS(IN)とLSDS(OUT)の比率を表1に示す通り変更したものであり、上記式(3)を充足しない例である。
【0076】
実施例3のタイヤは、実施例1に対して、タイヤ周方向CDに延びる浅サイプ34Sの長さを変更することでCSDS(IN)とCSDS(OUT)の比率を表1に示す通り変更したものであり、上記式(4)及び式(5)を充足しない例である。
【0077】
比較例1のタイヤは、実施例1に対して、タイヤ周方向CDに延びるサイプにおける浅サイプ34Sの長さを変更することでCSDSとCSDDの比率を表1の通り変更したものであり、上記式(2)を充足しない例である。
【0078】
実施例1~3及び比較例1において、センター主溝12Aの溝幅は10.5mm、深さは10.3mm、ショルダー主溝12Bの溝幅は12.5mm、深さは10.3mmとし、各主溝の位置及び横溝22,24,26,28の構成も含めて全て共通とした。また、浅サイプ34Sの深さは3.0mm、深サイプ34Dの深さは8.0mmとし、内側領域40のボイド比は42%、外側領域42のボイド比は38%とし、各陸部の面積比は、内側領域40のショルダー陸部18で23%、センター陸部14で26%、外側領域42のセンター陸部16で27%、ショルダー陸部20で24%とし、また、内側領域40のショルダー陸部18のサイプ密度(IN)Shを0.025mm/mm、内側領域40のセンター陸部14のサイプ密度(IN)Ceを0.028mm/mm、外側領域42のセンター陸部16のサイプ密度(OUT)Ceを0.017mm/mm、外側領域42のショルダー陸部20のサイプ密度(OUT)Shを0.016mm/mmとし、いずれも実施例1~3及び比較例1で共通とした。
【0079】
各評価方法は以下の通りである。
・スノー制動性:スノー路面において、走行速度40km/hから制動力をかけて0km/hとしたときの制動距離を測定し、比較例1のタイヤの使用初期における制動距離の逆数を100とした指数で表示した。数値が大きいほど、制動距離が短く、スノー制動性に優れることを示す。
・スノー操縦安定性:スノー路面を旋回走行し、ドライバーによる官能評価により操縦安定性を評価し、比較例1のタイヤの使用初期における操縦安定性評価を100とした指数で表示した。数値が大きいほどスノー操縦安定性に優れることを示す。
・ドライ操縦安定性:ドライ路面(乾燥したアスファルト路面)を旋回走行し、ドライバーによる官能評価により操縦安定性を評価し、比較例1のタイヤの使用初期における操縦安定性評価を100とした指数で表示した。数値が大きいほどドライ操縦安定性に優れることを示す。
【0080】
【表1】
【0081】
結果は表1に示す通りであり、実施例1~3であると、比較例1に対して、50%摩耗後のスノー制動性の低下を抑えながら、使用初期におけるスノー操縦安定性とドライ操縦安定性を顕著に向上することができ、摩耗後におけるスノー制動性と使用初期における操縦安定性を両立することができた。
【0082】
以上、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0083】
10…トレッド部、12…主溝、12A…センター主溝、12B…ショルダー主溝、34…サイプ、34S…浅サイプ、34D…深サイプ、40…内側領域、42…外側領域、CD…タイヤ周方向、WD…タイヤ幅方向、IN…車両装着内側、OUT…車両装着外側、D0…主溝深さ、Ds…浅サイプの深さ、Dd…深サイプの深さ
図1
図2
図3