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特許7357841タイヤ用ゴム組成物、それを用いた空気入りタイヤ、並びにスタッドレスタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物、それを用いた空気入りタイヤ、並びにスタッドレスタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20231002BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20231002BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20231002BHJP
【FI】
C08L9/00
C08L1/02
B60C1/00 Z
B60C1/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019224787
(22)【出願日】2019-12-12
(65)【公開番号】P2021091839
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】炭野 有吾
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-167353(JP,A)
【文献】特開平03-262707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温で固体のジエン系ゴム100質量部に対して、常温で液体のジエン系ゴム3~30質量部と、空隙率75~95%でありかつ長径/短径の比が1~1.5である球状粒子である多孔性セルロース粒子0.3~20質量部とを含有する、タイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記常温で液体のジエン系ゴムが、イソプレンゴム及び/又はブタジエンゴムを含有する、請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のタイヤ用ゴム組成物からなるトレッドを備えた、空気入りタイヤ。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のタイヤ用ゴム組成物からなるトレッドを備えた、スタッドレスタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物に関し、より詳細には、例として空気入りタイヤ、特にスタッドレスタイヤのトレッドに好適に用いることのできるタイヤ用ゴム組成物、及び、それを用いた空気入りタイヤ並びにスタッドレスタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
氷雪路面では一般路面に比べて著しく摩擦係数が低下し滑りやすくなる。そのため、スタッドレスタイヤのトレッドに用いられるゴム組成物においては、氷上路面での接地性を高めるために、ガラス転移点の低いブタジエンゴム等の使用や軟化剤の配合により、低温でのゴム硬度を低く維持することがなされている。しかしながら、ゴム硬度が低下するとトレッドパターンが変形しやすくなり、ウエットグリップ性能が悪化するという問題があった。
【0003】
また、氷上摩擦力を高めるために、トレッドに発泡ゴムを使用したり、中空粒子や、ガラス繊維、植物性粒状体等の硬質材料を配合することがなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、優れた氷上性能を有するゴム組成物として、ジエン系ゴム100重量部に対し、空隙率が75~95%で平均粒子径が1000μm以下の多孔性セルロース粒子を0.3~20重量部配合してなるゴム組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-12110号公報
【文献】特開平4-110333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、多孔性セルロース粒子を配合することで氷上制動性能が向上することは知られているものの、最近益々厳しくなる市場の要求に対し、必ずしも十分なレベルに達しているとは言えず、背反特性である氷上制動性能とウエットグリップ性能の両立が求められている。
【0007】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、優れたウエットグリップ性能及び氷上制動性能を有するタイヤ用ゴム組成物、それを用いた空気入りタイヤ、並びにスタッドレスタイヤを提供することを目的とする。
【0008】
なお、特許文献2には、液状ポリマーを配合したゴム組成物が記載されているが、加工性及び耐摩耗性が低下することなく、長期間にわたって低温での硬度変化の少ないタイヤ用ゴム組成物を提供することを目的とするものであり、ウエットグリップ性能や氷上制動性能については示唆されていない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るタイヤ用ゴム組成物は、常温で固体のジエン系ゴム(以下、「固体状ジエン系ゴム」という)100質量部に対して、常温で液体のジエン系ゴム(以下、「液状ジエン系ゴム」という)3~30質量部と、空隙率75~95%である多孔性セルロース粒子0.3~20質量部とを含有するものとする。
【0010】
上記液状ジエン系ゴムは、イソプレンゴム及び/又はブタジエンゴムを含有するものとすることができる。
【0011】
本発明に係る空気入りタイヤ及びスタッドレスタイヤは、上記タイヤ用ゴム組成物からなるトレッドを備えたものとする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のタイヤ用ゴム組成物によれば、ウエットグリップ性能及び氷上制動性能に優れた空気入りタイヤ及びスタッドレスタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0014】
本実施形態に係るタイヤ用ゴム組成物において、固体状ジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴムなど、タイヤ用ゴム組成物において通常使用される各種ジエン系ゴムが挙げられる。これらジエン系ゴムは、いずれか1種単独で、又は2種以上ブレンドして用いることができる。ここで、「固体状ジエン系ゴム」とは、常温23℃において、固体状のジエン系ゴムのことを指し、ここで「固体状」とは流動性を有しない状態を言うものとする。
【0015】
上記固体状ジエン系ゴムは、天然ゴムと他のジエン系ゴムとのブレンドであることが好ましく、天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)とのブレンドゴムであることがより好ましい。その場合、BRの比率が少なすぎるとゴム組成物の低温特性が得難くなり、逆に多くなりすぎると加工性の悪化や耐引き裂き抵抗性が低下する傾向になるため、NR/BRの比率は質量比で30/70~80/20であることが好ましく、40/60~70/30であることがより好ましい。
【0016】
上記液状ジエン系ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、イソプレンブタジエンゴム、イソプレンスチレンゴム、イソプレンブタジエンスチレンゴム、イソブチレン、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)が挙げられる。これらの液体のジエン系ゴムは、カルボキシル化やメタクリレート化などによって変性されたものであってもよい。また、共重合体であるものは、交互共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよく、ランダム共重合体であってもよい。これら液状ジエン系ゴムは、いずれか1種単独で用いるものであってもよく、2種以上ブレンドして用いるものであってもよい。これらの中でも、氷上制動性能の観点からガラス転移温度(Tg)が-50℃以下であるものが好ましく、具体的にはイソプレンゴム、ブタジエンゴムが挙げられる。ここで、「液状ジエン系ゴム」とは、常温23℃において、液体状のジエン系ゴムのことを指す。また、ガラス転移温度は、JIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)法により、昇温速度:20℃/分にて(測定温度範囲:-150℃~50℃)測定される値である。
【0017】
液状ジエン系ゴムとしては市販されているものを利用することもでき、例えば、イソプレン系ゴムとしては、クラレ(株)製のLIR-30、LIR-50、LIR-310、LIR-390、LIR-410、UC-203、UC-102、LIR-290、LIR-700などが挙げられ、ブタジエン系ゴムとしては、同社製のLBR-307、LBR-305、LBR-352、スチレンブタジエン系ゴムとしては、同社製のL-SBR-820、L-SBR-841などが挙げられる。
【0018】
液状ジエン系ゴムの数平均分子量は、特に限定されないが、3000~150000であることが好ましく、5000~100000であることがより好ましい。ここで、本明細書において、数平均分子量とは、ゲル透過クロマトフラフィー(GPC)により測定した値とする。
【0019】
液状ジエン系ゴムの含有量(2種以上使用する場合は合計量)は、固体状ジエン系ゴム100質量部に対して、3~30質量部であり、5~20質量部であることが好ましく、5~15質量部であることがより好ましい。
【0020】
本実施形態に係るタイヤ用ゴム組成物には、空隙率75~95%の多孔性セルロース粒子が配合される。多孔性セルロース粒子は、天然素材で生分解性があり、多孔質構造及び高い化学安定性を持つという特徴から、消臭剤、生ごみ処理基材、タバコフィルター基材などに用いられている。
【0021】
多孔性セルロース粒子の空隙率は75~95%であれば特に限定されないが、より好ましくは85~95%である。空隙率が75%以上である場合、氷上制動性能の向上効果が得られやすく、95%以下である場合、粒子の強度が維持され、ゴム成分との混合時に変形したり、破砕したりしにくくなる。
【0022】
多孔性セルロース粒子の空隙率は、一定質量の試料(即ち、多孔性セルロース粒子)の体積をメスシリンダーで測定し、嵩比重を求めて、下記式から求めることができる。
【0023】
空隙率[%]=(空隙体積[ml])/(試料の嵩体積[ml])×100
={(試料の嵩体積[ml])-(試料の実体積[ml])}/(試料の嵩体積[ml])×100
={1-(試料の実体積[ml])/(試料の嵩体積[ml])}×100
={1-(試料の嵩比重[g/ml])/(試料の真比重[g/ml])}×100
ここで、セルロースの真比重は1.5である。
【0024】
多孔性セルロース粒子の含有量は、固体状ジエン系ゴム100質量部に対して、0.3~20質量部であり、1~15質量部であることが好ましい。多孔性セルロース粒子の含有量が上記範囲内である場合、ウエットグリップ性能及び氷上制動性能の向上効果が得られやすい。
【0025】
多孔性セルロース粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、1000μm以下であることが好ましく、より好ましくは100~800μmであり、更に好ましくは200~800μmである。上記のように平均粒子径が1000μm以下である場合、耐摩耗性を維持することができる。
【0026】
多孔性セルロース粒子としては、長径/短径の比が1~2である球状粒子であることが好ましく、長径/短径の比が1~1.5である球状粒子であることがより好ましい。このような球状構造の粒子を用いることにより、ゴム組成物中への分散性を向上して、氷上制動性能の向上や耐摩耗性の維持に寄与することができる。
【0027】
多孔性セルロース粒子の平均粒子径と、長径/短径の比は、次のようにして求められる。すなわち、多孔性セルロース粒子を顕微鏡で観察して画像を得て、この画像を用いて、粒子の長径と短径(長径と短径が同じ場合には、ある軸方向の長さとこれに直交する軸方向の長さ)を100個の粒子について測定し、その平均値を算出することで平均粒子径が得られ、また、長径を短径で割った値の平均値により長径/短径の比が得られる。
【0028】
このような多孔性セルロース粒子は、例えばレンゴー株式会社から「ビスコパール」(登録商標)として市販されており、また、特開2001-323095号公報や特開2004-115284号公報に記載されており、それらを好適に用いることができる。
【0029】
詳細には、ビスコース等のアルカリ型セルロース溶液に多孔化剤を加え、セルロースの凝固・再生と多孔化剤による発泡とを同時進行させて得られたセルロース粒子を用いることが好ましい。多孔化剤としては、炭酸カルシウム等の炭酸塩が挙げられ、炭酸塩をアルカリ型セルロース溶液に均一に混合分散し、得られた分散液の液滴を塩酸等の酸性溶液と接触させることにより、酸によってセルロースの凝固・再生と炭酸塩の発泡・分解が同時に進行して、上記のような高い空隙率を持つ多孔性セルロース粒子が得られる。
【0030】
本実施形態に係るゴム組成物は、かかる空隙率の高い多孔性セルロース粒子と液状ジエン系ゴムを含有するものであり、例えばスタッドレスタイヤなどの空気入りタイヤのトレッドゴムに用いることにより、ウエットグリップ性能及び氷上制動性能を著しく向上させることができる。そのメカニズムは定かではないが、多孔性セルロース粒子を配合することにより、多孔性セルロース粒子の細孔が氷上路面の水膜を効果的に吸水および除水し、更に、砕けた粒子や細孔壁のエッジにより氷上路面を引っ掻く効果が発揮される。そして、液状ジエン系ゴムを配合することにより、ゴム組成物のせん断応力が低下し、多孔性セルロース粒子の潰れが抑制されることで、多孔性セルロース粒子の上記効果が向上するものと推測される。さらに、液状ジエン系ゴムを配合することにより、ゴム組成物の0℃におけるtanδが向上し、ウエットグリップ性能が向上するものと推測される。
【0031】
本実施形態に係るタイヤ用ゴム組成物には、石油樹脂を配合するものであってもよい。石油樹脂としては、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂が挙げられる。脂肪族系石油樹脂は、炭素数4~5個相当の石油留分(C5留分)であるイソプレンやシクロペンタジエンなどの不飽和モノマーをカチオン重合することにより得られる樹脂であり(C5系石油樹脂とも称される。)、水添したものであってもよい。芳香族系石油樹脂は、炭素数8~10個相当の石油留分(C9留分)であるビニルトルエン、アルキルスチレン、インデンなどのモノマーをカチオン重合することにより得られる樹脂であり(C9系石油樹脂とも称される。)、水添したものであってもよい。脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂は、上記C5留分とC9留分を共重合することにより得られる樹脂であり(C5/C9系石油樹脂とも称される。)、水添したものであってもよい。
【0032】
石油樹脂を含有する場合、その含有量は、固体状ジエン系ゴム100質量部に対して、0.1~5質量部であってもよい。
【0033】
本実施形態に係るタイヤ用ゴム組成物には、多孔性セルロース粒子とともに、種子の殻又は果実の核を粉砕してなる植物性粒状体、及び/又は、植物の多孔質性炭化物の粉砕物を更に配合してもよい。これらの植物性粒状体や多孔質性炭化物の粉砕物を併用することにより、氷上制動性能を更に向上させることができる。
【0034】
上記植物性粒状体としては、胡桃(クルミ)、椿などの種子の殻、あるいは桃、梅などの果実の核を公知の方法で粉砕してなる粉砕品を用いることができる。これらはモース硬度が2~5程度であり、氷よりも硬いので、氷上路面に対して引っ掻き効果を発揮することができる。
【0035】
植物性粒状体は、ゴムとのなじみを良くして脱落を防ぐために、ゴム接着性改良剤で表面処理されたものを用いることが好ましい。ゴム接着性改良剤としては、例えば、レゾルシン・ホルマリン樹脂初期縮合物とラテックスの混合物を主成分とするもの(RFL液)が挙げられる。
【0036】
植物性粒状体の平均粒子径は、特に限定されないが、引っ掻き効果を発揮するとともにトレッドからの脱落を防止するため、100~600μmであることが好ましい。なお、平均粒子径は、レーザ回折・散乱法により測定される値であり、例えば、光源として赤色半導体レーザ(波長680nm)を用いる島津製作所製のレーザ回折式粒度分布測定装置「SALD-2200」を用いて測定することができる。
【0037】
上記多孔質性炭化物の粉砕物は、木、竹などの植物を材料として炭化して得られる炭素を主成分とする固体生成物からなる多孔質性物質を粉砕してなるものであり、中でも竹炭の粉砕物(竹炭粉末)はその特有の多孔質性により優れた吸着性を発揮することから、氷上路面に発生する水膜を効果的に吸水、除去することができる。
【0038】
上記多孔質性炭化物の粉砕物の平均粒子径は、特に限定されないが、10~500μmであることが好ましい。なお、平均粒子径は、植物性粒状体と同様、レーザ回折・散乱法により測定される値である。
【0039】
これら植物性粒状体と多孔質性炭化物の粉砕物を配合する場合、その含有量は、両者の合計量で、ジエン系ゴム100質量部に対して、0.3~20質量部であることが好ましく、より好ましくは1~10質量部である。
【0040】
本実施形態に係るゴム組成物は、上記した各成分に加え、通常のゴム工業で使用されているカーボンブラックやシリカなどの補強剤や充填剤、プロセスオイル、酸化亜鉛、ステアリン酸、軟化剤、可塑剤、老化防止剤(アミン-ケトン系、芳香族第2アミン系、フェノール系、イミダゾール系等)、加硫剤、加硫促進剤(グアニジン系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チウラム系等)などの配合薬品類を通常の範囲内で適宜配合することができる。
【0041】
ここで、カーボンブラックとしては、スタッドレスタイヤのトレッド部に用いる場合は、ゴム組成物のウエットグリップ性能及び氷上制動性能やゴムの補強性などの観点から、窒素吸着比表面積(NSA)(JIS K6217-2)が70~150m/gであり、かつDBP吸油量(JIS K6217-4)が100~150ml/100gであるものが好ましく用いられる。具体的にはSAF,ISAF,HAF級のカーボンブラックが例示され、含有量としてはジエン系ゴム100質量部に対して10~80質量部程度の範囲で使用されることが好ましい。
【0042】
また、シリカを用いる場合は、湿式シリカ、乾式シリカ或いは表面処理シリカなどが使用され、含有量はゴムのtanδのバランスや補強性、電気伝導度の観点からジエン系ゴム100質量部に対して10~80質量部であることが好ましく、カーボンブラックとの合計量では10~120質量部程度が好ましい。また、シリカを配合する場合、シランカップリング剤を併用することが好ましい。
【0043】
本実施形態に係るゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダなどの混合機を用いて混練し作製することができる。例えば、第一混合段階(ノンプロ練り工程)で、固体状ジエン系ゴムに対し、液状ジエン系ゴムに加えて、加硫剤及び加硫促進剤を除く他の添加剤を添加して混練し、次いで、得られた混合物に、最終混合段階(プロ練り工程)で加硫剤及び加硫促進剤を添加して混練することにより、ゴム組成物を調製することができる。該ゴム組成物は、空気入りタイヤ、好ましくはスタッドレスタイヤのトレッド部のためのゴム組成物として好適に用いられる。
【0044】
本実施形態に係る空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いてゴム用押し出し機などによりタイヤのトレッド部を作製し未加硫タイヤを成型した後、常法に従い加硫工程を経ることで製造することができる。キャップベース構造のスタッドレスタイヤに適用される場合は、接地面側のキャップトレッドにのみ本発明のゴム組成物を適用すればよい。
【0045】
このようにして得られた空気入りタイヤは、トレッドゴムに配合した多孔性セルロース粒子がトレッド表面に露出することで、上述した水膜除去効果や引っ掻き効果等により、トレッドゴムと路面との摩擦係数を高めて氷上制動性能を向上することができる。また、液状ジエン系ゴムを配合することにより、ゴム組成物の0℃におけるtanδが向上するため、ウエットグリップ性能を向上させることができる。
【実施例
【0046】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合に従い、スタッドレスタイヤ用トレッドゴム組成物を調製した。表1中の各成分は以下の通りである。なお、下記のくるみ殻粉末の空隙率は、上記の多孔性セルロース粒子の空隙率の算出式によるものであり、真比重については、1.15とした。
【0048】
・天然ゴム:RSS#3
・BR:宇部興産(株)製「BR150B」
・液状IR1:クラレ(株)製「LIR30」(数平均分子量=28000)
・液状IR2:クラレ(株)製「LIR50」(数平均分子量=54000)
・液状BR1:クラレ(株)製「LBR305」(数平均分子量=8000)
・液状BR2:クラレ(株)製「LBR307」(数平均分子量=26000)
・多孔性セルロース粒子:レンゴー(株)製「ビスコパールミニ」(平均粒子径=400μm、粒子の長径/短径の比=1.11、空隙率=87%)
・くるみ殻粉砕物:日本ウォルナット(株)製「ソフトグリッド#46」に対し、特開平10-7841号公報に記載に方法に準じてRFL処理液で表面処理を施したもの(処理後の植物性粒状体の平均粒子径=300μm、空隙率=48%)
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シーストKH(N339,HAF)」
・シリカ:東ソー(株)製「ニップシールAQ」
・シランカップリング剤:エボニック社製「Si75」
・パラフィンオイル:ジャパンエナジー(株)製「JOMOプロセスP200」
・樹脂:東ソー(株)製「ペトロタック90」(C5/C9系石油樹脂)
・老化防止剤:大内新興化学(株)製「ノクラック6C」
・ワックス:日本精蝋(株)製「OZOACE0355」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS-20」
・酸化亜鉛:三井金属(株)製「亜鉛華1号」
・硫黄:鶴見化学(株)製「粉末硫黄」
・加硫促進剤1:大内新興化学(株)製「ノクセラーD」
・加硫促進剤2:住友化学(株)製「ソクシノールCZ」
【0049】
得られた各ゴム組成物について、多孔性セルロース粒子の潰れ率を測定した。また、各ゴム組成物をトレッドに適用したスタッドレスタイヤを作製し、ウエットグリップ性能と氷上制動性能を評価した。各測定・評価方法は次の通りである。
【0050】
・多孔性セルロース粒子の潰れ率:160℃×20分で加硫した試験片を任意の箇所で切断し、その断面を走査電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率30で測定した。得られた画像に表れた穴から任意に50個の穴を選択し、それぞれの長径、短径を測定した。穴の開口部を楕円として穴の断面積をそれぞれ計算し、平均値を求めた。そして、比較例3の潰れ率を100%とし、それぞれの実施例の穴の断面積に対する、比較例3の穴の断面積の比率(比較例3/実施例 ×100)を潰れ率として表1に示した。潰れ率が大きいほど、セルロース粒子が潰れたことを示す。
【0051】
・ウエットグリップ性能:上記スタッドレスタイヤを2000ccのFR車に装着し、23℃~26℃の気温にて約1mmの水を張った路面で時速80km/hからABSを作動させて制動距離を測定し(n=10の平均値)、比較例3を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、制動距離が短く、ウエットグリップ性能が良好であることを示す。
【0052】
・氷上制動性能:上記スタッドレスタイヤを2000ccの4WD車に装着し、-2℃~-6℃の気温にて時速40km/hからABSを作動させて氷上での制動距離を測定し(n=10の平均値)、比較例3を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、制動距離が短く、氷上制動性能が良好であることを示す。
【0053】
【表1】
【0054】
結果は表1に示す通りであり、実施例1~7と比較例3との対比から、多孔性セルロース粒子を配合する系において、液状ジエン系ゴムを配合することにより、多孔性セルロース粒子の潰れ率が低減され、ウエットグリップ性能及び氷上制動性能が改善することがわかる。
【0055】
比較例1と比較例2との対比から、多孔性セルロース粒子を配合せずに、液状ジエン系ゴムを配合する場合、ウエットグリップ性能は改善するものの、氷上制動性能が悪化することがわかる。
【0056】
比較例1と比較例3との対比から、多孔性セルロース粒子を配合するが、液状ジエン系ゴムを配合しない場合、氷上制動性能は改善するものの、ウエットグリップ性能が改善されないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係るタイヤ用ゴム組成物は、乗用車、ライトトラック・バス等の各種タイヤに用いることができ、特に、スタッドレスタイヤに用いることが好ましい。