(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】電気光学効果を有するポリカーボネート及びその製造方法、並びに該ポリカーボネートを用いた光制御素子
(51)【国際特許分類】
C08G 64/12 20060101AFI20231002BHJP
C08G 64/24 20060101ALI20231002BHJP
G02B 1/04 20060101ALI20231002BHJP
G02F 1/01 20060101ALI20231002BHJP
【FI】
C08G64/12
C08G64/24
G02B1/04
G02F1/01 A
(21)【出願番号】P 2020115029
(22)【出願日】2020-07-02
【審査請求日】2022-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】中西 智哉
(72)【発明者】
【氏名】高橋 直
(72)【発明者】
【氏名】大友 明
(72)【発明者】
【氏名】山田 俊樹
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/168186(WO,A1)
【文献】特開平7-165898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G64/
C08L69/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学特性を有する部位(以下EO部位
とする)を有する構造単位(A)を含むポリカーボネートであって、
前記EO部位が、電子供与性のドナー構造部、電子受容性のアクセプタ構造部、及び前記ドナー構造部と前記アクセプタ構造部とを連結する共役系ブリッジ構造部とを有し、前記構造単位(A)が1分子内に3つ以上の水酸基を有する化合物に由来する構造単位(B)を含
み、前記3つ以上の水酸基が前記ドナー構造部に存在することを特徴とするポリカーボネート。
【請求項2】
前記構造単位(A)が1分子内に2つの水酸基を有する化合物に由来する構造単位を含むことを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート。
【請求項3】
ポリカーボネート全構造単位中、前記構造単位(B)を0.1モル%以上、5モル%以下含むことを特徴とする請求項1または2に記載のポリカーボネート。
【請求項4】
前記ポリカーボネートの構造単位が、下記式(1)の構造単位を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のポリカーボネート:
【化1】
(式中、R
1~R
4は、水素原子、ハロゲン原子、及びヘテロ原子を有していてもよく、かつ/又は分岐していてもよい、直鎖又は環状の、置換又は無置換の炭素数1~20の炭化水素系基からなる群よりそれぞれ独立して選択され;Xは、単結合、硫黄原子、酸素原子、及びヘテロ原子を有していてもよく、かつ/又は分岐していてもよい直鎖又は環状の、置換又は無置換の炭素数1~30の二価の炭化水素系基からなる群より選択される)。
【請求項5】
前記式(1)の構造単位において、Xが、下記式(2)で表されることを特徴とする請求項4に記載のポリカーボネート:
【化2】
(式中、R
5及びR
6の少なくとも一方は、ハロゲン原子、及びヘテロ原子を有していてもよく、かつ/又は分岐していてもよい、直鎖又は環状の、置換又は無置換の炭素数2~20の炭化水素系基から選択され、他方は水素原子、ハロゲン原子、及びヘテロ原子を有していてもよく、かつ/又は分岐していてもよい、置換又は無置換の炭素数1~20の炭化水素系基から選択されるか;又はR
5及びR
6が結合して、ヘテロ原子を有していてもよく、かつ/又は分岐していてもよい、置換若しくは無置換の炭素数4~20の環状炭化水素系基となる)。
【請求項6】
前記式(2)の構造単位において、R
5及びR
6が結合して、1つ~5つの置換基を有する環状基となり、前記置換基が炭素数1~4のアルキル基からそれぞれ選択され、前記環状基が、環状アルキル基又はアリール基から選択されることを特徴とする請求項5に記載のポリカーボネート。
【請求項7】
前記ポリカーボネートのゲル浸透クロマトグラフィー法により測定された重量平均分子量が、20,000以上であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のポリカーボネート。
【請求項8】
前記ポリカーボネートの示差走査熱量測定により測定されたガラス転移温度が120℃以上であることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載のポリカーボネート。
【請求項9】
ビスフェノールモノマーと、
電子供与性のドナー構造部、電子受容性のアクセプタ構造部、及び前記ドナー構造部と前記アクセプタ構造部とを連結する共役系ブリッジ構造部とを有し、3つ以上の水酸基が前記ドナー構造部に存在する化合物と、カーボネート前駆体とを、酸結合剤及び溶媒の存在下で重合反応させることを特徴とするポリカーボネートの製造方法。
【請求項10】
前記酸結合剤が第三級アミンであり、カーボネート前駆体がホスゲンである、請求項
9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記反応において、さらに末端停止剤を反応させる、請求項
9または
10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記反応を35℃以下の温度で行う、請求項
9~
11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
請求項1~
8のいずれか一項に記載のポリカーボネートを含む、光制御素子。
【請求項14】
請求項1~
8のいずれか一項に記載のポリカーボネートによって成形される光導波路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気光学効果を有するポリカーボネート及び該ポリカーボネートの製造方法、並びに該ポリカーボネートを用いた光制御素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電気光学効果(以下、「EO効果」ともいう)とは、物質に電界が印加されたときに屈折率が変化する現象を示す。EO効果は、光通信のキーデバイスである電気信号を光信号に変換する光変調器や光スイッチに使用されており、光メモリー、光電子回路、波長変換、電界センサー、THz(テラヘルツ)波発生器及び受信器、ホログラム等の光制御素子にも適用が進んでいる。EO効果を有する材料(以下、「EO材料」ともいう)は、一般的にニオブ酸リチウムに代表される無機誘電体が用いられてきた。しかしながら、近年の通信ネットワークにおける通信容量の拡大、情報処理装置の高速化が急速に進む中、光変調器の高速化と低消費電力化が課題となっている。従来の無機材料では高速化において限界があることから、高いEO効果を発揮し、高速化が可能な有機電気光学ポリマー(以下、「EOポリマー」ともいう)が検討されている。
【0003】
しかしながら、EOポリマーは光制御素子のデバイス作製においては、解決すべき課題が多く未だ実用化に至っていない。その課題の一つとして、EO効果の長期安定性が挙げられる。
【0004】
EOポリマーは、一般的に電子ドナーと呼ばれる電子を押し出す性質をもつ基、電子アクセプタと呼ばれる電子を引き付ける性質を持つ基、それをつなぐπ共役系から構成され、非対称構造を有する分子を、ポリマー主鎖、側鎖、末端に含有することでEO効果を発現することができる。例えば、特許文献1では、電気光学特性を有する部位(以下、「EO部位」ともいう)を側鎖に含むポリマーの架橋性高分子組成物が開示されており、EOポリマーを架橋構造にすることで、高いEO効果を発現し、高温条件下でも長期安定性を保持することが知られている。
【0005】
特許文献2では、特定のアクリル系モノマーを用いたアクリル系EOポリマーを開示している。このようなアクリル系EOポリマーは、比較的高いガラス転移温度を有するため、EO効果の長期安定性を得ることができることが知られている。
【0006】
しかし、特許文献1、2に記載のEOポリマーでは、加工工程において、樹脂フィルムとしての強度が不足していることが課題である。
【0007】
また、EO部位を有する電気光学分子は、例えば特許文献3~5及び非特許文献1~4に開示されている。
【0008】
さらに、特許文献6には、EO部位をポリマー主鎖に含むポリカーボネート樹脂が開示されている。しかしながら、当該ポリカーボネート樹脂は、非架橋性のため、高温条件下におけるEO効果の長期安定性が不十分であり、高いEO効果と長期安定性、デバイス加工性に優れたEOポリマーは実現できていないといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2014-44272号公報
【文献】特開2015-178544号公報
【文献】米国特許第6067186号明細書
【文献】特表2004‐501159号公報
【文献】国際公開第2011/024774号
【文献】国際公開第2019/168186号
【非特許文献】
【0010】
【文献】Toshiki Yamada, et al., ”Effect of two methoxy groups bound to an amino-benzene donor unit for thienyl-di-vinylene bridged EO chromophores”, Optical Materials, June 25 2013, volume 35, issue 12, page 2194-2200.
【文献】Toshiki Yamada, et al., ”Important role of the ethylenedioxy group bound to the thienyl-di-vinylene π-conjugation unit of tricyanofuran-based donor-acceptor electro-optic chromophores”, Optical Materials Express, 1 September 2016, Volume 6, No. 9, page 3021-3035.
【文献】Toshiki Yamada, et al., ”Effect of methoxy or benzyloxy groups bound to an amino-benzene donor unit for various nonlinear optical chromophores as studied by hyper-Rayleigh scattering”, Materials Chemistry and Physics, 15 May 2013, Volume 139, issues 2-3, page 699-705.
【文献】Mingqian He, et al., ”α-Hydroxy Ketone Precursors Leading to a Nobel class of Electro-optic Acceptors”, Chemistry of Materials, 17 April 2002, Volume 14, pages 2393-2400.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために鋭意検討を進めた結果、高いEO効果と長期安定性、加工性に優れたEOポリマーを提供することを目的とする。さらに詳しくは、高温条件下におけるEO効果の長期安定性に優れるEOポリマーを提供するとともに、該EOポリマーの製造方法及び該EOポリマーを使用した光制御素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、以下の態様を有する本発明により、上記課題を解決できることを見出した。
《態様1》
EO部位を有する構造単位(A)を含むポリカーボネートであって、前記構造単位(A)が1分子内に3つ以上の水酸基を有する化合物に由来する構造単位(B)を含むことを特徴とするポリカーボネート。
《態様2》
前記構造単位(A)が、1分子内に2つの水酸基を有する化合物に由来する構造単位を含むことを特徴とする態様1に記載のポリカーボネート。
《態様3》
ポリカーボネートの全構造単位中、前記構造単位(B)を0.1モル%以上、5モル%以下含むことを特徴とする態様1または2に記載のポリカーボネート。
《態様4》
前記ポリカーボネートの構造単位が、下記式(1)の構造単位を含むことを特徴とする態様1~3のいずれかに記載のポリカーボネート:
【化1】
(式中、R
1~R
4は、水素原子、ハロゲン原子、及びヘテロ原子を有していてもよく、かつ/又は分岐していてもよい、直鎖又は環状の、置換又は無置換の炭素数1~20の炭化水素系基からなる群よりそれぞれ独立して選択され;Xは、単結合、硫黄原子、酸素原子、及びヘテロ原子を有していてもよく、かつ/又は分岐していてもよい直鎖又は環状の、置換又は無置換の炭素数1~30の二価の炭化水素系基からなる群より選択される)。
《態様5》
前記式(1)の構造単位において、Xが、下記式(2)で表されることを特徴とする態様4に記載のポリカーボネート:
【化2】
(式中、R
5及びR
6の少なくとも一方は、ハロゲン原子、及びヘテロ原子を有していてもよく、かつ/又は分岐していてもよい、直鎖又は環状の、置換又は無置換の炭素数2~20の炭化水素系基から選択され、他方は水素原子、ハロゲン原子、及びヘテロ原子を有していてもよく、かつ/又は分岐していてもよい、置換又は無置換の炭素数1~20の炭化水素系基から選択されるか;又はR
5及びR
6が結合して、ヘテロ原子を有していてもよく、かつ/又は分岐していてもよい、置換若しくは無置換の炭素数4~20の環状炭化水素系基となる)。
《態様6》
前記式(2)の構造単位において、R
5及びR
6が結合して、1つ~5つの置換基を有する環状基となり、前記置換基が炭素数1~4のアルキル基からそれぞれ選択され、前記環状基が、環状アルキル基又はアリール基から選択されることを特徴とする態様5に記載のポリカーボネート。
《態様7》
前記ポリカーボネートのゲル浸透クロマトグラフィー法により測定された重量平均分子量が、20,000以上であることを特徴とする態様1~6のいずれかに記載のポリカーボネート。
《態様8》
前記ポリカーボネートの示差走査熱量測定により測定されたガラス転移温度が120℃以上であることを特徴とする態様1~7のいずれかに記載のポリカーボネート。
《態様9》
前記ポリカーボネートの構造単位に含まれるEO部位が、電子供与性のドナー構造部、電子受容性のアクセプタ構造部、及び前記ドナー構造部と前記アクセプタ構造部とを連結する共役系ブリッジ構造部とを有することを特徴とする態様1~8のいずれかに記載のポリカーボネート。
《態様10》
ビスフェノール化合物と、EO部位を有する化合物と、カーボネート前駆体とを、酸結合剤及び溶媒の存在下で重合反応させることを特徴とするポリカーボネートの製造方法。
《態様11》
前記酸結合剤が第三級アミンであり、カーボネート前駆体がホスゲンである、態様10に記載の製造方法。
《態様12》
前記反応において、さらに末端停止剤を反応させる、態様10または11に記載の製造方法。
《態様13》
前記反応を35℃以下の温度で行う、態様10~12のいずれかに記載の製造方法。
《態様14》
態様1~9のいずれかに記載のポリカーボネートを含む、光制御素子。
《態様15》
態様1~9のいずれかに記載のポリカーボネートによって成形される光導波路。
【発明の効果】
【0013】
本発明のEOポリマーは、EO効果が高く、EO効果の高温条件下の長期安定性が良好であり、加工性に優れるため、耐久性に優れる光制御素子を提供することができ、その奏する産業上の効果は格別である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、光制御素子の一態様である光導波路の構成を例示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
《ポリカーボネート》
本発明のポリカーボネートは、主鎖を構成する構造単位にEO部位を含む。
【0016】
本発明者らは、EO部位を有する構造単位を主鎖に組み込むことによって、高いEO効果とその効果の長期安定性とを両立できることを見出した。より詳しくは、ポリカーボネートがEO部位を有する構造単位を含み、前記構造単位が1分子内に3つ以上の水酸基を有する化合物に由来する構造単位を含むことで、EO効果の長期安定性をさらに向上できることを見出した。理論に限定されるものではないが、これは、水酸基が「3つ以上」であることによって、疑似的な架橋構造がポリマー内に形成されたことにより、EO部位がポリマー中で安定に保持されることによると考えられる。
【0017】
なお、本明細書において、「EO部位」は、電子供与性のドナー構造部、電子受容性のアクセプタ構造部、及び前記ドナー構造部と前記アクセプタ構造部とを連結する共役系ブリッジ構造部とを有する部位を意味する。また、「EO部位を有する構造単位」は、ポリカーボネート中に導入した、EO部位を有する繰り返し単位を意味する。
【0018】
また、本明細書において、「(EO部位を有する)構造単位(A)が1分子内に3つ以上の水酸基を有する化合物に由来する構造単位(B)を含む」とは、「(EO部位を有する)構造単位(A)のうちの少なくとも一部が、1分子内に3つ以上の水酸基を有する化合物に由来する構造単位(B)である」ことを意味している。
【0019】
本発明のポリカーボネートは、カーボネート基を有することにより、デバイス等の作成時における加工性に優れることを見出した。さらに、本発明のポリカーボネートからなるEOポリマーは、芳香族ビスフェノールを主たる構造単位として用いることによって、光通信に使用される波長域であるOバンド(1260nm~1360nm)及びCバンド(1530nm~1565nm)の吸収が低く、強度損失が少ないことから光制御素子として、非常に有用である。
【0020】
本発明のポリカーボネートは、高いガラス転移温度を有する。例えば、そのガラス転移温度は、100℃~250℃が好ましく、120~230℃がより好ましく、150~210℃が最も好ましい。ガラス転移温度が100℃未満の場合、EO効果の長期安定性に劣るため好ましくない。また、ガラス転移温度が250℃超過の場合、ポリマーのガラス転移温度付近に温度をあげ、そこで比較的高い電圧を印加し、EO部位の双極子方向を揃え、そのまま温度を下げてその配向を凍結させるポーリング処理おいて、加工温度が高くなりすぎることと、EO部位の熱的分解が生じるため好ましくない。
【0021】
〈ポリマー構造〉
本発明のポリカーボネートの重量平均分子量は、標準ポリスチレンを基準としたゲル浸透クロマトグラフィー法により測定することができる。例えば、その重量平均分子量は、10,000~300,000が好ましく、20,000~150,000がより好ましく、40,000~100,000が最も好ましい。また、分子量分布(Mw/Mn)は、1.5~50.0が好ましく、2.0~20.0がより好ましく、2.5~10.0が最も好ましい。このような範囲であれば、樹脂としての強度が十分であり、薄膜化や加工時のクラックや割れが発生しにくくなる。
【0022】
(主要構造単位)
本発明のポリカーボネートは、カーボネート基が連結した主要構造単位を主鎖中に含み、かつ上記のような本発明の有利な効果が得られる範囲であれば、主要構造単位の構造について特に限定されない。
【0023】
例えば、下記式(1)に記載されるビスフェノール化合物由来の構造単位を好適に使用することができる。:
【化3】
(式中、R
1~R
4は、水素原子、ハロゲン原子、及びヘテロ原子を有していてもよく、かつ/又は分岐していてもよい、直鎖又は環状の、置換又は無置換の炭素数1~20の炭化水素系基からなる群よりそれぞれ独立して選択され;Xは、単結合、硫黄原子、酸素原子、及びヘテロ原子を有していてもよく、かつ/又は分岐していてもよい、直鎖又は環状の、置換又は無置換の炭素数1~30の二価の炭化水素系基からなる群より選択される)。
【0024】
好ましくは、式(1)中、R1~R4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数5~20のシクロアルキル基、炭素数6~20のシクロアルコキシ基、炭素数6~10のアリール基、炭素数7~20のアラルキル基、炭素数6~10のアリールオキシ基、又は炭素数7~20のアラルキルオキシ基である。Xは、単結合、置換若しくは無置換の炭素数1~10のアルキレン基、置換若しくは無置換の炭素数1~10のアルキリデン基、炭素数6~10のアリール基、置換若しくは無置換の炭素数3~8の環状アルキル基、硫黄原子又は酸素原子である。
【0025】
好ましくは、上記式(1)中で、前記式(1)で表される構造単位において、R1~R4は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~20のシクロアルキル基、又は炭素原子数6~10のアリール基であることが好ましい。
【0026】
好ましくは、上記式(1)中で、Xは、ヘテロ原子を有していてもよく、かつ/又は分岐していてもよい、炭素数5~30の置換又は無置換の二価の環状炭化水素系基であるか、分岐部分に環状基を含むヘテロ原子を有していてもよい炭素数1~30の置換又は無置換の二価の直鎖状炭化水素系基である。
【0027】
より好ましくは、上記式(1)中で、Xは、下記式(2)を含む:
【化4】
(式中、
R
5及びR
6の少なくとも一方は、ハロゲン原子、及びヘテロ原子を有していてもよく、かつ/又は分岐していてもよい、直鎖又は環状の、置換又は無置換の炭素数2~20の炭化水素系基から選択され、他方は、水素原子、ハロゲン原子、及びヘテロ原子を有していてもよく、かつ/又は分岐していてもよい、置換又は無置換の炭素数1~20の炭化水素系基から選択されるか;又は
R
5及びR
6が結合して、ヘテロ原子を有していてもよく、かつ/又は分岐していてもよい置換若しくは無置換の炭素数4~20の環状炭化水素系基となる)。
【0028】
さらに好ましくは、R5及びR6の少なくとも一方は、ヘテロ原子を有していてもよく、かつ/又は分岐していてもよい、置換若しくは無置換の炭素数4~20の環状炭化水素系基を含むか、又は、R5及びR6が結合して、その環状炭化水素系基となる。
【0029】
特に好ましくは、R5及びR6は、互いに結合して、1つ~5つの置換基を有する環状基となり、置換基が炭素数1~4のアルキル基からそれぞれ選択され、前記環状基が、環状アルキル基又はアリール基から選択される。
【0030】
このように嵩高いXを選択することによって、ポリカーボネートのガラス転移温度を高くできる傾向がある。また、ポリカーボネートのγ分散温度、すなわち主鎖の軸方向の周りの回転が開始する温度も高くできる傾向がある。本発明者らは、ガラス転移温度の他に、γ分散温度も、ポリカーボネートからなるEOポリマーを光制御素子に用いた場合の長期安定性に影響を与えることを見出し、適切にXを選択することにより、解決できることを発見した。一方で、本発明者らは、Xの嵩高さが高すぎる場合には、光通信に使用される波長域であるOバンド(1260nm~1360nm)及びCバンド(1530nm~1565nm)の吸収特性についても考慮し、低損失を達成するために上記のような範囲のXの選択が好ましいことを発見した。
【0031】
なお、本明細書において、「置換の」とは、特記しない限り、ヘテロ原子を有していてもよく、かつ/又は分岐していてもよい、直鎖又は環状の、炭素数1~15の炭化水素系基によって置換されていることをいう。また、この場合、その置換基は、複数存在していてもよい。また、「ヘテロ原子」とは、特に、酸素原子及び硫黄原子を挙げることができる。
【0032】
上記のような構造単位を導入するために、主要構造単位としてビスフェノール化合物を用いることができ、特に以下の式(3)のビスフェノール化合物を用いることができる:
【化5】
(式中、R
1~R
4及びXは、上述したとおりであり、好ましいR
1~R
4及びXも上述したとおりである)。
【0033】
具体的には、以下記載のビスフェノール化合物を例示する:1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(以下、ビスフェノールTMCと記載)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールAと記載)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジイソプロピル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジフェニル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(3-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(3,5-ジイソプロピル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(3,5-ジフェニル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-2,3,5,6-テトラメチルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(3-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(3,5-ジイソプロピル-4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(3,5-ジフェニル-4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-2,3,5,6-テトラメチルフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチル-1,1-ビフェニル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジオクチル-1,1-ビフェニル、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、1,4-ビス(2-(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエ-テル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、ビス(4-ヒドロキシ-2,6-ジメチル-3-メトキシフェニル)メタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-エチルフェニル)プロパン1,1-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)デカン、1,1-ビス(2,3-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)デカン。
【0034】
特に、以下の式(4)で表されるビスフェノールTMCが好ましい:
【化6】
【0035】
ビスフェノールTMCは、2つのフェノールを連結する上記のXに該当する部分が環状基となっており、かつその環状基に置換基が複数存在しているため、分子の動きが大きく制限される。その結果、ポリカーボネートに高いガラス転移温度と高いγ分散温度と与えることができ、光制御素子における用途において特に有用となる。上記のXに該当する部分が嵩高いビスフェノール化合物は、ビスフェノールTMCと同様に有用である。
【0036】
本発明のポリカーボネートは、ビスフェノール化合物に由来する構造単位を、主たる量、すなわち50~99モル%含むことが好ましく、60~95モル%含むことがより好ましく、70~90モル%含むことが最も好ましい。このような範囲であれば、得られるポリカーボネートの強度及びEO効果が十分となる傾向にある。ここで、そのモル比は、使用する原料から理論的に導かれるモル比であってもよいが、ポリカーボネート40mgを0.6ml重クロロホルム溶液に溶解し、日本電子製400MHzの核磁気共鳴装置によって1H-NMRを測定し、各構造単位に特徴のあるスペクトルピーク面積比から、算出することができる。
【0037】
(EO部位)
本発明のポリカーボネートは、EO部位を有する構造単位(A)を含み、前記構造単位(A)が1分子内に3つ以上の水酸基を有する化合物に由来する構造単位(B)を少なくとも1種類以上含むことが特徴である。前記構造単位(A)は構造単位(B)以外も含むことができ、1分子内に1つあるいは2つの水酸基を有する化合物に由来する構造単位を併用することもできる。
【0038】
EO部位は、ポーリング処理により、その配向が維持されるのであれば、特にその種類は限定されない。
【0039】
本発明のポリカーボネートに含まれるEO部位は、ポーリング処理時に分解が生じないように、熱分解温度が、120℃以上、140℃以上、160℃以上、180℃以上、200℃以上又は220℃以上であってもよく、300℃以下、250℃以下、230℃以下、又は200℃以下であってもよい。
【0040】
本発明のポリカーボネートに含まれる前記構造単位(A)の全構造単位におけるモル比は、0.1モル%以上、1モル%以上、3モル%以上、5モル%以上、8モル%以上、10モル%以上、15モル%以上、又は20モル%以上で含んでいてもよく、50モル%以下、40モル%以下、30モル%以下、25モル%以下、20モル%以下、15モル%以下、10モル%以下、又は1.5モル%以下で含んでいてもよい。または、EO部位の質量比として、1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、8質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、または30質量%以上、35質量%以上で含んでいてもよく、80質量%以下、65質量%以下、50質量%以下、45質量%以下、40質量%以下、35質量%以下、または30質量%以下で含んでいてもよい。このような範囲であれば、得られるポリカーボネートの強度及びEO効果が十分となる傾向にある。ここで、そのモル比ならびに質量比は、使用する原料から理論的に導かれる値であってもよいが、ポリカーボネート40mgを0.6ml重クロロホルム溶液に溶解し、日本電子製400MHzの核磁気共鳴装置によって1H-NMRを測定し、各構造単位に特徴のあるスペクトルピーク面積比から、算出することができる。
【0041】
また、本発明のポリカーボネートに含まれる、前記構造単位(B)の全構造単位におけるモル比は、0.1モル%以上、0.5モル%以上、1モル%以上、又は2モル%以上で含んでいてもよく、10モル%以下、5モル%以下、4モル%以下、又は3モル%以下で含んでいてもよい。
【0042】
EO部位は、電子供与性のドナー構造部D、電子受容性のアクセプタ構造部A及びドナー構造部Dとアクセプタ構造部Aとを連結する共役系ブリッジ構造部Pとを有していてもよい。この場合、EO部位は、ドナー構造部D及びアクセプタ構造部Aのいずれかを通じてポリマーに結合することができるが、好ましくはドナー構造部Dを通じてポリマーに結合する。
【0043】
ドナー構造部Dとしては、共役系ブリッジ構造部Pと共役結合で結合し、かつ電子供与性基を有していれば特に限定されない。ドナー構造部Dは、例えば、共役系ブリッジ構造部Pと共役結合で結合している部分、ポリマーへの結合部分、及び電子供与性基を含む、置換又は無置換の共役系環状基であってもよい。この場合、共役系ブリッジ構造部Pと共役結合で結合している部分及びポリマーへの結合部分は、それぞれ、電子供与性基の一部であってもよく、又は共役系環状基と直接結合している部分であってもよい。
【0044】
ドナー構造部Dの共役系環状基としては、例えば、その環内に共役電子が存在している、単環式又は多環式の環状炭化水素基又は複素環式基を挙げることができ、特に芳香環又は複素芳香環を挙げることができる。
【0045】
ドナー構造部Dの電子供与性基は、共役系環状基と結合していてもよく、共役系環状基の置換基に含まれていてもよい。電子供与性基としては、アミノ基を挙げることができ、特に共役系環状基と結合している第三級アミノ基であって、ポリマーの主鎖の一部を構成している第三級アミノ基を挙げることができる。
【0046】
ドナー構造部Dが、アミノベンゼンを含むことが好ましく、特にアルキルオキシ基を有するアミノベンゼンを含むことが好ましい。
【0047】
ブリッジ構造部Pは、ドナー構造部Dとアクセプタ構造部Aとを共役結合で連結していれば特に限定されないが、例えば炭素-炭素の共役結合のみであってもよい。また、例えば、ブリッジ構造部Pは、ドナー構造部Dと炭素-炭素の共役結合で結合している部分及びアクセプタ構造部Aと炭素-炭素の共役結合で結合している部分を含む、置換又は無置換の、共役系環状基の部分であってもよい。
【0048】
ブリッジ構造部Pが、チエニル基を有することが好ましく、特にチエニルジビニレン構造を有することが好ましい。
【0049】
アクセプタ構造部Aとしては、共役系ブリッジ構造部Pと共役結合で結合し、かつ電子求引性基を有していれば特に限定されない。アクセプタ構造部Aは、例えば、共役系ブリッジ構造部Pと共役結合で結合している部分及び電子求引性基を含む、置換又は無置換の共役系環状基又は共役系直鎖炭化水素基であってもよい。この場合、共役系ブリッジ構造部Pと共役結合で結合している部分は、共役系環状基又は共役系直鎖炭化水素基と直接結合している部分であってもよい。
【0050】
アクセプタ構造部Aの共役系環状基としては、例えば、その環内に共役電子が存在している、単環式又は多環式の環状炭化水素基又は複素環式基を挙げることができる。
【0051】
アクセプタ構造部Aの電子求引性基は、共役系環状基又は共役系直鎖炭化水素基と結合していてもよく、共役系環状基の置換基に含まれていてもよい。電子求引性基としては、ニトリル基(-CN)、フッ化炭素系基(例えば、トリフルオロメチル基)等を挙げることができる。電子求引性基は、アクセプタ構造部Aに複数存在していることが好ましい。
【0052】
アクセプタ構造部Aが、トリシアノフラン誘導体を含むことが好ましく、特にトリフルオロメチル基を含むトリシアノフラン誘導体を含むことが好ましい。
【0053】
そのようなEO部位は、例えば、特許文献3~5及び非特許文献1~4等に記載のような二次非線形光学特性を有する分子をポリマーに結合することによって得ることができる。
【0054】
EO部位を重合時にポリマーに結合するために、1分子内にEO部位及び3つ以上の水酸基を有する化合物をモノマーとして用いる。
【0055】
具体的には、1分子内にEO部位及び3つの水酸基を有する化合物としては、例えば、以下のトリオール化合物等を挙げることができる:
【化7】
【0056】
EO部位を有するモノマーとして、1分子内に3つ以上の水酸基を有する化合物に加え、1分子内に2つの水酸基を有する化合物を用いることもできる。例えば、以下の化合物等を例示することができる:
【化8】
【0057】
上記式の下に記載したD、P及びAは、それぞれドナー構造部D、共役系ブリッジ構造部P及びアクセプタ構造部Aを示している。
【0058】
EO部位を重合時にポリマーに結合するために、以下に記載したような三官能以上の化合物をモノマーとして使用し、特許文献5等に記載のような二次非線形光学特性を有するモノヒドロキシ化合物を、その三官能以上の化合物と反応させて、そのモノヒドロキシ反応物をポリカーボネートに組み込むことも可能である。
【0059】
(その他の構造単位)
ビスフェノール化合物及びEO部位以外の構造単位としては、例えば脂肪族ジオール由来の構造単位を含むことができる。このような脂肪族ジオールとしては、例えば、イソソルビド:1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-ソルビトール、トリシクロデカンジメタノール(TCDDM)、4,8-ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロデカン、テトラメチルシクロブタンジオール(TMCBD)、2,2,4,4-テトラメチルシクロブタン-1,3-ジオール、混合異性体、シス/トランス-1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、シス/トランス-1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、シクロヘクス-1,4-イルエンジメタノール、トランス-1,4-シクロヘキサンジメタノール(tCHDM)、トランス-1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、シス-1,4-シクロヘキサンジメタノール(cCHDM)、シス-1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、シス-1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,1’-ビ(シクロヘキシル)-4,4’-ジオール、スピログリコール、ジシクロヘキシル-4,4’-ジオール、4,4’-ジヒドロキシビシクロヘキシル、及びポリ(エチレングリコール)が挙げられる。
【0060】
また、その他の構造単位として、脂肪酸由来の構造単位を挙げることができる。したがって、本発明のポリカーボネートは、ポリエステルカーボネートであってもよい。そのような脂肪酸としては、例えば、1,10-ドデカンジオン酸(DDDA)、アジピン酸、ヘキサンジオン酸、イソフタル酸、1,3-ベンゼンジカルボン酸、テレフタル酸、1,4-ベンゼンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、3-ヒドロキシ安息香酸(mHBA)、及び4-ヒドロキシ安息香酸(pHBA)が挙げられる。
【0061】
さらに、本発明のポリカーボネートは、必要に応じてポリオルガノシロキサン由来の構造単位を含んでいてもよい。
【0062】
そして、本発明のポリカーボネートは、EO部位とは別に三官能以上の化合物由来の構造単位を含んでいてもよく、分岐ポリカーボネートであってもよい。分岐ポリカーボネートに使用される三官能以上の化合物としては、例えば多官能性芳香族化合物を挙げることができ、具体的には、4,6-ジメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキジフェニル)ヘプテン-2、2,4,6-トリメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1-トリス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,6-ビス(2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェノール、および4-{4-[1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン}-α,α-ジメチルベンジルフェノール等のトリスフェノールが好適に例示される。中でも1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。
【0063】
なお、分岐構造単位は、多官能性化合物に由来するだけではなく、溶融エステル交換法による重合反応時に生じる副反応から生じていてもよい。このような分岐構造の割合については1H-NMR測定により算出することが可能である。
【0064】
(末端基)
本発明のポリカーボネートは、その末端が封止されていることが好ましい。すなわち、本発明のポリカーボネートは、末端基が、塩素基又はヒドロキシル基ではないことが好ましい。本発明のポリカーボネートの末端を封止することによって、機械的物性等を向上させることができる。例えば、本発明のポリカーボネートの末端基の、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、又は98%以上の末端基が封止されていること、すなわち塩素基又はヒドロキシル基ではないことが好ましい。
【0065】
例えば、そのような末端基を与えるために、ポリカーボネートを重合する際に、末端停止剤を用いることができる。そのような末端停止剤としては、例えば単官能フェノール化合物を挙げることができ、具体的には、フェノール、m-メチルフェノール、p-メチルフェノール、m-プロピルフェノール、p-プロピルフェノール、1-フェニルフェノール、2-フェニルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、p-クミルフェノール、イソオクチルフェノール、p-長鎖アルキルフェノール等が挙げられる。このような末端停止剤は、特に本発明のポリカーボネートをホスゲン法によって製造する場合には、特に有用である。
【0066】
《ポリカーボネートの製造方法》
本発明のポリカーボネートは、本発明の有利な効果が得られるポリマーが製造できるのであれば、その製造方法は特に限定されない。
【0067】
しかし、高分子量のポリカーボネートを得る観点から、本発明のポリカーボネートは、上述したビスフェノール化合物と、EO部位を有する化合物(たとえば、上述した1分子内に3つ以上の水酸基を含む化合物、及び必要に応じて1分子内に2つの水酸基を含む化合物)と、カーボネート前駆体とを、酸結合剤及び溶媒の存在下で重合反応させる方法によって製造することが好ましい。
【0068】
上記重合反応において、酸結合剤として、アミン化合物を用いることが好ましく、第三級アミン化合物を用いることがより好ましい。第三級アミン化合物としては、トリエチルアミン、ピリジン等を用いることができる。また、重合反応組成における酸結合剤量は、溶媒100質量部に対して、5質量部以上、10質量部以上、又は15質量部以上であってもよく、30質量部以下、又は20質量部以下であってもよい。
【0069】
重合反応に使用する溶媒は、例えば塩化メチレン、ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素を挙げることができ、この中でも特に塩化メチレンが好ましく用いることができる。
【0070】
重合反応に使用するモノマー量は、溶媒100質量部に対して、5質量部以上、10質量部以上、又は15質量部以上であってもよく、30質量部以下、又は20質量部以下であってもよい。
【0071】
重合反応に使用するカーボネート前駆体量は、モノマー1モルに対して、0.5モル以上、0.8モル以上、1.0モル以上、1.5モル以上、又は2.0モル以上であってもよく、3.0モル以下、2.0モル以下、1.8モル以下又は1.5モル以下であってもよい。このような範囲であると、高分子量のポリマーが得られる傾向がある。カーボネート前駆体は、ホスゲンを用いることができる。
【0072】
また、上記の反応では、上述したような末端停止剤を反応させることが好ましい。使用される末端停止剤の量は、モノマー100質量部に対して、0.1質量部以上、0.3質量部以上、0.5質量部以上又は1.0質量部以上であってもよく、3質量部以下、2質量部以下、1質量部以下、0.5質量部以下であってもよい。
【0073】
上記の反応を、60℃以下、50℃以下、40℃以下、35℃以下、30℃以下又は25℃以下の温度で行うことができ、0℃以上、10℃以上、15℃以上、20℃以上、又は25℃以上の温度で行うことができる。また、反応時間は、残留のモノマーが十分に減って高分子量のポリマーが得られるのであれば特に限定はないが、例えば30分以上、1時間以上、2時間以上又は3時間以上であってもよく、10時間以下、5時間以下、又は3時間以下であってもよい。
【0074】
この反応においては、カーボネート前駆体を反応混合物に比較的低温で吹き込みながら反応させる第1の工程、及びその後、カーボネート前駆体の吹き込みを停めて比較的高い温度で反応を続ける第2の工程を含むことができる。例えば、第1の工程を、0℃~35℃、例えば10℃~30℃の範囲で行い、第2の工程を20℃~50℃、例えば25℃~35℃の範囲で行うことができる。この場合において、第2の工程の反応温度は、第1の工程の反応温度よりも高くすることができる。これらの工程は、それぞれ10分以上、30分以上、1時間以上、又は2時間以上で行ってもよく、5時間以下、3時間以下、2時間以下又は1時間以下でおこなうことができる。
【0075】
また、本発明のポリカーボネートは、カーボネート前駆物質、例えば炭酸ジエステルと、上記のようなビスフェノール化合物及びEO部位を有するトリオール化合物とのエステル交換反応によって製造することもできる。
【0076】
この場合、反応は、不活性ガスの雰囲気下で、上記のようなビスフェノール化合物及びEO部位を有するトリオール化合物を、炭酸ジエステルと加熱しながら撹拌して、生成するアルコール又はフェノール化合物を系内を減圧にして留出させることによって行うことができる。この場合、反応温度は、生成するアルコール又はフェノール化合物の沸点等により異なるが、通常120~300℃の範囲である。
【0077】
また、上記の炭酸ジエステルとしては、例えばジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート等を挙げることができ、これらの中でも特にジフェニルカーボネートを用いることができる。
【0078】
この反応では、エステル交換反応に通常使用される触媒を使用することができる。また、上述のような末端停止剤も使用することができる。
【0079】
《ポリカーボネート樹脂組成物》
上記の本発明のポリカーボネートを、本発明の効果を損なわない範囲で、離型剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、流動改質剤、帯電防止剤等の公知の機能剤と混合し、ポリカーボネート樹脂組成物として用いることができる。
【0080】
《光制御素子》
本発明の光制御素子は、上記のポリカーボネートを少なくとも含む。上記のポリカーボネート及びポリカーボネート樹脂組成物は、その高いEO効果、その効果の高い長期高温安定性、及び高い機械的物性に起因して、光制御素子を構成する材料として好適に使用することができる。
【0081】
本発明の光制御素子は、従来公知の方法を用いて、例えば、光変調器、光スイッチ、マルチコアスイッチ、光インターコネクト、チップ内光配線、光フェーズドアレイ、LiDAR(Light Detection And Ranging)、電界センサー、THz波発生器、THzセンサー、高感度・高S/N脳波計、脳-機械インターフェース(BMI)、ホログラフィ等に使用することができる。その中でも特に、光制御素子として、光変調器又は光スイッチを挙げることができる。
【0082】
例えば、本発明の光制御素子は、
図1に記載のようなマッハツェンダー型の光導波路であってもよい。
図1に示す光導波路8は、基板1側から下部電極2、下部クラッド層3、コア層4、上部クラッド層5及び上部電極6がこの順序で積層されている。コア層4は、ポーリング処理が施され、EO効果を有する。光導波路コア7は反応性イオンエッチング法等により形成され、マッハツェンダー干渉計を構成している。下部電極2及び上部電極6の一方によって電界が印加されるか2つの上部電極6の相互に逆方向の電界が印加されると、これらの電極の間に位置するコア層4の屈折率が変化することにより、マッハツェンダー両アーム間の位相差が変化し、伝搬光の強度を変調することができる。
【0083】
このようなマッハツェンダー型の光導波路は、例えば特許文献1に記載のような公知の方法によって製造することができる。
【0084】
本発明を以下の実施例でさらに具体的に説明をするが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【実施例】
【0085】
《合成例》
〈合成例1〉
以下の化学式(EO-1)で示されるEO部位を有するトリオール系化合物を、以下に記載の工程1~11によって合成した。
【化9】
【0086】
〈合成例1-工程1〉
工程1を反応式で示すと以下のとおりである:
【化10】
【0087】
[4-(3-ブロモフェノキシ)ブトキシ](tert-ブチル)ジフェニルシラン1f 11.3g(23.37mmol)およびビス[2-[(tert-ブチルジメチルシリル)オキシ]エチル]アミン2f 10.13g(30.36mmol)をトルエン100mlに溶解し、室温下撹拌しながらカリウム ビス(トリメチルシリル)アミド5.59g(28.02mol)を添加した。110℃油浴中6時間撹拌した後冷却し、飽和食塩水で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで脱水後濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン)にて精製した。目的化合物3fを淡褐色油状物として9.1g得た。(収率52.9%)
【0088】
〈合成例1-工程2〉
工程2を反応式で示すと以下のとおりである:
【化11】
【0089】
N,N-ビス[2-[(tert-ブチルジメチルシリル)オキシ]エチル]-3-[4-[(tert-ブチルジフェニルシリル)オキシ]ブトキシ]アニリン3f 22.35g(30.36mmol)をテトラヒドロフラン45mlに溶解し、室温下攪拌しながらフッ化テトラブチルアンモニウム(1molテトラヒドロフラン溶液)137mlを滴下した。1.5時間攪拌した後250mlの水に注ぎ、酢酸エチルで抽出した。飽和食塩水で洗浄後無水硫酸ナトリウムで脱水し、濃縮した。残留物をヘキサン150mlで2回洗浄した。目的化合物4fを白色結晶として3.65g得た。(粗収率44.6%)
【0090】
〈合成例1-工程3〉
工程3を反応式で示すと以下のとおりである:
【化12】
【0091】
2,2’-[[3-(4-ヒドロキシブトキシ)フェニル]アザンジイル]ジエタノール4f 3.65g(13.55mmol)に無水酢酸10mlを加えて100℃油浴中2時間撹拌した。冷却後エーテル30mlおよび水40mlを加えて40分撹拌した。有機層を分取し、水層をさらに30mlのエーテルで抽出した。有機層を併せ、飽和炭酸水素ナトリウム水、ついで飽和食塩水で洗浄後無水硫酸マグネシウムで脱水し、濃縮した。残留液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/1)にて精製した。目的化合物5fを淡黄色油状物として4.76g得た。(収率88.8%)
【0092】
〈合成例1-工程4〉
工程4を反応式で示すと以下のとおりである:
【化13】
【0093】
N,N-ジメチルホルムアミド15mlに氷冷下攪拌しながらオキシ塩化リン1.88 g(12.26mmol)を滴下した。20分攪拌後浴を外して13℃まで昇温し、5分後再度氷冷した。[[3-(4-アセトキシブトキシ)フェニル]アザンジイル]ビス(エタン-2,1-ジイル)ジアセテート5f 4.76g(12.04mmol)を10mlのN,N-ジメチルホルムアミドに溶解して滴下した。20分後徐々に加熱して60℃で2時間攪拌した。氷浴で冷却しながら20%酢酸ナトリウム水20mlを滴下して40分攪拌した。酢酸エチルで抽出し、飽和食塩水、飽和炭酸水素ナトリウム水、飽和食塩水で順次洗浄した。無水硫酸ナトリウムで脱水後濃縮し、残留物を酢酸エチル/ヘキサン(2/3)で再結晶した。目的化合物6fを無色結晶として3.77g得た。ろ液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=2/1)にて精製してさらに0.27gを得た。(収率88.0%)
【0094】
〈合成例1-工程5〉
工程5を反応式で示すと以下のとおりである:
【化14】
【0095】
[[3-(4-アセトキシブトキシ)-4-ホルミルフェニル]アザンジイル]ビス(エタン-2,1-ジイル)ジアセテート6f 4.48g(10.58mmol)をエタノール20mlおよびテトラヒドロフラン10mlに溶解した。これに7%水酸化ナトリウム水26mlを滴下し、室温下30分攪拌した。反応液を飽和食塩水に注いでクロロホルムで抽出した。無水硫酸ナトリウムで脱水後濃縮し、目的化合物7fを2.11g得た。水層を酢酸エチル50mlで再抽出し、同様に脱水、濃縮してさらに1.06gを得た。合計3.17g(粗収率100.8%)
【0096】
〈合成例1-工程6〉
工程6を反応式で示すと以下のとおりである:
【化15】
【0097】
4-[ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-2-(4-ヒドロキシブトキシ)ベンズアルデヒド7f 3.17g(10.66mmol)およびイミダゾール3.4g(49.94mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド30mlに溶解した。室温下攪拌しながらtert-ブチルクロロジフェニルシラン9.23g(33.58mmol)を滴下した。2時間攪拌後飽和食塩水150mlに加えて酢酸エチルで抽出した。無水硫酸ナトリウムで脱水後濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/3)にて精製した。目的化合物8fを微黄色油状物として10.5g得た。(収率97.3%)
【0098】
〈合成例1-工程7〉
工程7を反応式で示すと以下のとおりである:
【化16】
【0099】
アルゴン気流下テトラヒドロフラン55mlにフェニルリチウム(2.1molジブチルエーテル溶液)5.4ml(11.34mmol)を加え、氷冷下塩化2-テニルトリフェニルホスホニウム9f 4.22g(10.69mmol)を10分間で添加した。5分間攪拌した後4-[ビス[2-[(tert-ブチルジフェニルシリル)オキシ]エチル]アミノ]-2-[4-[(tert-ブチルジフェニルシリル)オキシ]ブトキシ]ベンズアルデヒド8f 10.5g(10.37mmol)を15mlのテトラヒドロフラン溶液として滴下した。氷冷下2.5時間攪拌した後水に注いで酢酸エチルで抽出した。飽和食塩水で洗浄後無水硫酸ナトリウムで脱水し、濃縮した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/5)にて精製し、目的化合物10-(Z/E)fを黄色油状物として7.34g得た。(収率64.8%)
【0100】
〈合成例1-工程8〉
工程8を反応式で示すと以下のとおりである:
【化17】
【0101】
アルゴン気流下テトラヒドロフラン80mlに3-[4-[(tert-ブチルジフェニルシリル)オキシ]ブトキシ]-N,N-ビス[2-[(tert-ブチルジフェニルシリル)オキシ]エチル]-4-[2-(チオフェン-2-イル)ビニル]アニリン10-(Z/E)f 7.34g(6.72mmol)を溶解し、ドライアイス/アセトン冷却下n-ブチルリチウム(1.6molヘキサン溶液)5.04ml(8.06mmol)を滴下した。20分攪拌後N,N-ジメチルホルムアミド0.69ml(9.01mmol)を滴下した。2時間攪拌後昇温し、水5mlを滴下した。40分撹拌後250mlの飽和食塩水に注いで酢酸エチルで抽出した。無水硫酸ナトリウムで脱水後濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/3にて精製した。目的化合物11-(Z/E)fを6.82g得た。(収率90.5%)
【0102】
〈合成例1-工程9〉
工程9を反応式で示すと以下のとおりである:
【化18】
【0103】
5-[4-[ビス[2-[(tert-ブチルジフェニルシリル)オキシ]エチル]アミノ]-2-[4-[(tert-ブチルジフェニルシリル)オキシ]ブトキシ]スチリル]チオフェン-2-カルバルデヒド11-(Z/E)f 6.81g、をエーテル250mlに溶解し、これに沃素片200mgを添加した。室温下30分攪拌した後5%亜硫酸水素ナトリウム水60mlで洗浄した。さらに飽和食塩水で洗浄後無水硫酸マグネシウムで脱水し、濃縮した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/3)にて精製し、目的化合物11-(E)fを赤色油状物として6.60g得た。(収率96.9%)
【0104】
〈合成例1-工程10〉
工程10を反応式で示すと以下のとおりである:
【化19】
【0105】
(E)-5-[4-[ビス[2-[(tert-ブチルジフェニルシリル)オキシ]エチル]アミノ]-2-[4-[(tert-ブチルジフェニルシリル)オキシ]ブトキシ]スチリル]チオフェン-2-カルバルデヒド11-(E)f 6.59g(5.88mmol)をテトラヒドロフラン30mlに溶解し、室温下撹拌しながらフッ化テトラブチルアンモニウム(1molテトラヒドロフラン溶液)25mlを滴下した。1.5時間攪拌後200mlの飽和食塩水に注ぎ、クロロホルムで抽出した。無水硫酸ナトリウムで脱水後濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=50/1~10/1)にて精製した。再度シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/酢酸エチル/メタノール=5/5/3)にて精製した。目的化合物12-(E)fを赤色油状物として1.89g得た。(収率79.4%)
【0106】
〈合成例1-工程11〉
工程11を反応式で示すと以下のとおりである:
【化20】
【0107】
エタノール30mlに(E)-5-[4-[ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-2-(4-ヒドロキシブトキシ)スチリル]チオフェン-2-カルバルデヒド12-(E)f 1.62g(4.00mmol)および2-[3-シアノ-4-メチル-5-フェニル-5-(トリフルオロメチル)フラン-2(5H)-イリデン]マロノニトリル13f 1.38g(4.38mmol)を懸濁し室温下18時間撹拌した。析出した結晶をろ取し、エタノールで洗浄した。目的化合物EO-1をmp.219-220℃の暗赤褐色結晶として2.51g得た。(収率89.4%)
【0108】
〈合成例2〉
以下の化学式(EO-2)で示されるEO部位を有するジオール系化合物を、以下に記載の工程1~11によって合成した。
【化21】
【0109】
〈合成例2-工程1〉
工程1を反応式で示すと以下のとおりである:
【化22】
【0110】
アセトニトリル500mlにジエタノールアミン(式中の化合物1)18.35g(0.175mol)及びトリエチルアミン71.0g(0.702mol)を溶解した。室温下攪拌しながらtert-ブチルクロロジフェニルシラン96.0g(0.349mol)を滴下して5時間撹拌した。析出した結晶をろ去し、ろ液を濃縮、乾固した。得られた白色固体をヘキサン750mlで抽出した。ヘキサンを留去して化合物2を無色油状物(室温下放置後固化)として81.27g得た。
【0111】
また、ヘキサン不溶部24.86gを、水200mlに懸濁した後、飽和炭酸水素ナトリウム水200ml及びヘキサン300mlを加えて撹拌した(結晶は溶解した)。ヘキサン層を分取し、無水硫酸マグネシウムによって脱水し、その後濃縮して、化合物2を20.62g得た。合計で101.89gの化合物2を得た(粗収率101.9%)。
【0112】
〈合成例2-工程2〉
工程2を反応式で示すと以下のとおりである:
【化23】
【0113】
75.5g(0.13mol)の化合物2、及び334.0g(0.13mol)の化合物3(「1-ベンジルオキシ-3-ブロモベンゼン」)を、脱水トルエン500mlに溶解し、室温下撹拌しながら、30.9g(0.155mol)のカリウムビス(トリメチルシリル)アミドを加えた。110℃油浴中2時間撹拌した後冷却し、飽和食塩水で2回洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水し、濃縮した。化合物4を油状物として102.43g得た(粗収率103.7%)。
【0114】
〈合成例2-工程3〉
工程3を反応式で示すと以下のとおりである:
【化24】
【0115】
102.43g(0.134mol)の化合物4を、250mlのテトラヒドロフランに溶解し、室温下で攪拌しながら、372mlのフッ化テトラブチルアンモニウム(1molテトラヒドロフラン溶液)を滴下した。30分攪拌した後1000mlの水に注ぎ、酢酸エチルで抽出した。飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで脱水し、濃縮した。残留物にヘキサン500mlを加えて撹拌後、傾瀉によりヘキサン層を除いた。傾瀉残部を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=10/1)にて精製し、化合物5を淡黄色油状物として27.03g得た(収率72.8%)。
【0116】
〈合成例2-工程4〉
工程4を反応式で示すと以下のとおりである:
【化25】
【0117】
27.03g(0.094mol)の化合物5に、無水酢酸40mlを加えて100℃油浴中1時間45分撹拌した。冷却後、エーテル300ml及び水400mlを加えて、30分撹拌した。有機層を分取し、水層をさらに200mlのエーテルで抽出した。有機層を併せて飽和炭酸水素ナトリウム水、ついで飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで脱水し、濃縮した。残留液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/1)にて精製した。化合物6を淡黄色油状物として31.75g得た(収率90.9%)。
【0118】
〈合成例2-工程5〉
工程5を反応式で示すと以下のとおりである:
【化26】
【0119】
80mlのN,N-ジメチルホルムアミドに氷冷下攪拌しながら、13.20g(0.0861mol)のオキシ塩化リンを滴下した。20分後浴を外して12℃まで昇温して5分攪拌した。再度氷冷して、30.80g(0.0829mol)の化合物6を、40mlのN,N-ジメチルホルムアミドに溶解して滴下した。30分撹拌後徐々に加熱して70℃で2時間攪拌した。反応液を氷浴で冷却しながら、180mlの20%酢酸ナトリウム水を滴下して40分攪拌した。クロロホルムで2回抽出し、抽出液を飽和食塩水、飽和炭酸水素ナトリウム水、飽和食塩水で順次洗浄した。無水硫酸ナトリウムで脱水後濃縮し、残留物をエタノールから結晶化してろ取した。化合物7を、融点86~87℃の無色結晶として、28.0g得た。ろ液を濃縮してシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=3/2にて精製し、さらに2.70gの化合物7を得た。したがって、合計30.7g(収率92.7%)の化合物7を得た。
【0120】
〈合成例2-工程6〉
工程6を反応式で示すと以下のとおりである:
【化27】
【0121】
28.29g(70.82mmol)の化合物7を、エタノール150mlに溶解し、これに7.4%水酸化ナトリウム水100mlを滴下し、室温下30分攪拌した。反応液を600mlの飽和食塩水に注いでクロロホルムで抽出した。抽出液を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水後濃縮した。得られた粉末を、酢酸エチルを用いて再結晶し、化合物8を融点108~109℃の白色結晶として21.79g得た(収率97.5%)。
【0122】
〈合成例2-工程7〉
工程7を反応式で示すと以下のとおりである:
【化28】
【0123】
21.78g(69.06mmol)の化合物8、及び21.6g(317.28mmol)のイミダゾールを、100mlのN,N-ジメチルホルムアミドに溶解した。室温下攪拌しながら、39.0g(141.9mmol)のtert-ブチルクロロジフェニルシランを滴下した。40分攪拌後、これらを400mlの水に加えて、酢酸エチルで抽出した。抽出液を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水後濃縮した。残留液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=2/5)にて精製した。これにより化合物9を淡黄色油状物として51.3g得た(収率93.8%)。
【0124】
〈合成例2-工程8〉
工程8を反応式で示すと以下のとおりである:
【化29】
【0125】
アルゴン気流下で、250mlのテトラヒドロフランに、27.6ml(57.9mmol)のフェニルリチウム(2.1molジブチルエーテル溶液)を加え、氷冷下撹拌しながら20.8g(52.7mmol)の化合物10(「塩化2-テニルトリフェニルホスホニウム」)を加えた。なお、化合物10は、非特許文献3のFig.2(c)に記載の方法で合成を行った。10分間攪拌した後、28.68g(52.7mmol)の化合物9を、80mlのテトラヒドロフラン溶液として滴下した。氷冷下2時間攪拌した後、水550mlに注いで酢酸エチルで抽出した。飽和食塩水で洗浄した後無水硫酸ナトリウムで脱水し、濃縮した。残留物に酢酸エチル/ヘキサン(1/5)240mlを加えて撹拌後氷冷した。析出物をろ去した後濃縮し、残留液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/5)にて精製し、化合物11-(Z/E)を橙色油状物として30.18g得た(収率91.7%)。
【0126】
〈合成例2-工程9〉
工程9を反応式で示すと以下のとおりである:
【化30】
【0127】
アルゴン気流下、320mlのテトラヒドロフランに、47.8g(54.8mmol)の化合物11-(Z/E)を溶解し、ドライアイス/アセトン浴にて冷却しながら、44.6ml(71.4mmol)のn-ブチルリチウム(1.6molヘキサン溶液)を滴下した。20分攪拌後、4.47g(61.2mmol)のN,N-ジメチルホルムアミドを滴下した。40分攪拌後浴を外して昇温し、20mlの水を滴下した。35分撹拌後600mlの水に注いで酢酸エチルで抽出した。抽出液を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水後濃縮した。得られた暗赤色油状物49.63gを、800mlのエーテルに溶解し、これに沃素片1.5gを加えた。室温下30分攪拌した後5%亜硫酸水素ナトリウム水200mlで2回洗浄した。さらに飽和食塩水で洗浄した後無水硫酸マグネシウムで脱水して濃縮した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/3にて精製し、化合物12-(E)を赤色油状物として40.59g得た(収率82.3%)。
【0128】
〈合成例2-工程10〉
工程10を反応式で示すと以下のとおりである:
【化31】
【0129】
38.0g(42.2mmol)の化合物12-(E)を、150mlのテトラヒドロフランに溶解した。室温下攪拌しながら、125mlのフッ化テトラブチルアンモニウム(1モルテトラヒドロフラン溶液)を滴下した。30分攪拌した後水500mlに注ぎ、酢酸エチル250lで抽出した。抽出液を飽和食塩水で洗浄した後無水硫酸ナトリウムで脱水し、濃縮した。残留物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=10/1)にて精製した。目的化合物13-(E)を赤色油状物として17.08g得た(収率95.6%)。
【0130】
〈合成例2-工程11〉
工程11を反応式で示すと以下のとおりである:
【化32】
【0131】
18mlのエタノール及び2mlのテトラヒドロフランに、2.0g(4.72mmol)の化合物13-(E)及び1.64g(5.20mmol)の化合物14(「2-(3-シアノ-4-メチル-5-フェニル-5-トリフルオロメチル-2(5H)-フラニリデン)プロパンジニトリル」)を溶解して50℃に加温下2時間攪拌した。なお、化合物14は、非特許文献4に記載の方法で合成を行った。反応液を氷冷し、析出した結晶をろ取してエタノール洗浄した。得られた結晶をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=10/1)にて精製した。さらにエタノールで洗浄して化合物EO-1を、融点153~156℃の暗赤褐色結晶とし2.93g得た(収率86.2%)。
【0132】
《ポリマーの製造例》
〈実施例1〉
温度計及び撹拌機の付いた300ミリリットル反応容器に、それぞれ酸結合剤及び溶媒として、12.89質量部のピリジン及び69.22質量部の塩化メチレンを入れた。0.19質量部の化合物EO-1、4.70質量部の化合物EO-2及び6.33質量部のビスフェノールTMC(本州化学製)、並びに末端停止剤としてのp-tert-ブチルフェノール0.06質量部を、これに溶解した後、撹拌しながら15~26℃で、3.90質量部のホスゲンを約80分かけて吹き込んだ。ホスゲン吹き込み終了後、26~35℃で60分撹拌して反応を終了した。
【0133】
反応終了後生成物を塩化メチレンで希釈して水洗した後、塩酸を加え、酸性にして水洗し、さらに水相の導電率がイオン交換水とほぼ同じになるまで水洗を繰り返し、ポリカーボネートの塩化メチレン溶液を得た。次いで、得られた塩化メチレン溶液を50~80℃に保った温水中に滴下し、溶媒を蒸発除去し、フレーク状の固形物を得た。得られた固形物をろ過し、120℃で24時間乾燥し、黒色フレーク状の実施例1のポリカーボネートを得た。
【0134】
〈比較例1〉
化合物EO-1を添加せず、かつ化合物EO-2を4.90質量部に変更した以外は、実施例1と同様の手法行い、比較例1のポリカーボネートを得た。
【0135】
〈比較例2〉
アクリル系ペンダントEOポリマー
以下の化学式(EO-3)で示されるEO部位を有するモノオール系化合物を、特許文献5の実施例57と同様にして製造した。
【化33】
【0136】
以下の化学式(AP-1)で示されるアクリル系共重合ポリマーを、特許文献2の実施例2を参考にして製造した。
【化34】
ここで、n=3.92、m=1とした。
【0137】
特許文献2の実施例12を参考に、共重合ポリマーをAP-1、EO分子をEO-3として、EO分子濃度が35重量%になるように配合比率を調整し、AP-1の側鎖にあるNCO基にEO分子のOH基を反応させて、EO分子をペンダント基として導入することによって、アクリル系EOポリマーを製造した。
【0138】
《評価》
〈重量平均分子量Mw、分子量分布Mw/Mnの測定〉
ポリカーボネート共重合体の分子量分布Mw/Mnは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnを測定し、ポリスチレン換算法にて求めた。検量線は分子量既知の標準ポリスチレン(東ソーPSオリゴマーキットA-500~F-128までの12タイプ)を使用し、作成した。測定は、東ソー社製「HLC-8220GPC」を用い、カラムは東ソー社製「TSK-gel SuperHZ4000/3000/2000」の3本を使用した。サンプルはポリカーボネート共重合体10mgをクロロホルム(内標トルエン0.05%含有)5mLに溶解し、ミリポア社製「マイレクスLG4」を用いてろ過を行ったものを使用した。測定は40℃、流速0.35mL/minで実施した。溶離液には和光純薬工業社製高速液体クロマトグラフ用クロロホルムを用いた。
【0139】
〈EO部位比率〉
ポリカーボネート共重合体40mgを0.6ml重クロロホルム溶液に溶解し、日本電子製400MHzの核磁気共鳴装置により、1H-NMRを測定し、各構造単位に特徴のあるスペクトルピーク面積比より、EO部位の比率を算出した。
【0140】
〈ガラス転移温度(Tg)の測定〉
実施例及び比較例で得られたポリマーのTgは、示差走査熱量計(DSC-60A、株式会社島津製作所製)を使用し、測定試料10mg、基準試料はAl空容器、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/分の条件で測定を行った。
【0141】
〈電気光学係数(r33)の測定方法〉
シクロヘキサノンに1~20w%の濃度で各ポリマーを溶解した溶液を、スピンコーター(MS-B150、ミカサ株式会社製)を使用し、500~6000回転/分の条件で、膜厚9nmのITO膜付きガラス基板(ジオマテック社製:0008)に塗布した。その後、雰囲気調整精密熱処理装置( RSS-350-210、ユニテンプジャパン株式会社製)を使用し、ガラス転移温度(Tg)近傍で1時間真空乾燥した。ポリマー溶液の濃度及びスピンコーターの回転速度の条件は、所望の膜厚約0.7μmとなるように適宜選択した。
【0142】
上記のポリマー膜及びITO膜付の基板に、マグネトロンスパッタ法によってIZOを100nm成膜した。これらをポリマーのガラス転移温度近傍の温度まで加熱し、ITOとIZOに120V/μmの電界がかかるように電圧を印加し、電圧を印加したまま5分保持したのちに室温まで冷却してから電圧を0Vとした。これによって、電気光学係数(EO係数:r33)測定用の試料を作製した。
【0143】
EO係数(r33)の測定は、参考論文(“Transmission ellipsometric method without an aperture for simple and reliable evaluation of electro-optic properties”,Toshiki Yamada and Akira Otomo,Optics Express,vol.21,pages 29240-48(2013)に記載の方法と同様に行った。レーザー光源は、アジレント・テクノロジー社製DFBレーザー81663A(波長1308nm)を用いた。
【0144】
〈長期高温安定性の評価〉
熱処理前のEO係数(r33)を測定したのち、高温(85℃あるいは105℃)に保持したオーブン中に試料を保存し、4000時間経過したのちに試料を取り出し、電気光学係数(r33)を測定した。高温に保持した積算時間に対して電気光学係数(r33)の値の減少割合から、長期高温安定性を評価した。この場合、熱処理前のEO係数100%に対し、熱処理後にEO係数が80%以上保持できていた場合の評価を「〇」、70%以上保持できていた場合の評価を「△」、それ以下は評価を「×」とした。
【0145】
〈強度の評価〉
膜厚約2μmとなるようにポリマー膜をサイズ25mmX25mm合成石英基板上に作製し、クラックが発生しなかった場合の評価を「〇」、クラックが発生した場合の評価を「×」とした。
【0146】
《結果》
実施例1及び比較例1~2の構成及び評価結果を、表1にまとめた。
【表1】
【0147】
EO-1を含まない比較例1では、長期高温安定性に劣る結果であった。アクリル系ポリマーにペンダント化でEO部位を導入した比較例2では、EO係数は高かったものの、その強度が不十分であった。
【符号の説明】
【0148】
1 基板
2 下部電極
3 下部クラッド層
4 コア層
5 上部クラッド層
6 上部電極
7 コア
8 光導波路
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明の電気光学効果を有する新規のポリマーは、長期高温安定性の良好な電気光学効果を有するため、耐久性に優れる光制御素子を提供することができる。