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特許7357892ホルダジョイント、ホルダユニット、およびスクライブ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】ホルダジョイント、ホルダユニット、およびスクライブ装置
(51)【国際特許分類】
   B28D 5/00 20060101AFI20231002BHJP
   C03B 33/027 20060101ALI20231002BHJP
【FI】
B28D5/00 Z
C03B33/027
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018245913
(22)【出願日】2018-12-27
(65)【公開番号】P2020104420
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-11-22
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390000608
【氏名又は名称】三星ダイヤモンド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111383
【弁理士】
【氏名又は名称】芝野 正雅
(72)【発明者】
【氏名】阪口 良太
(72)【発明者】
【氏名】岡島 康智
【審査官】堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-119348(JP,A)
【文献】特開2018-020533(JP,A)
【文献】特開2012-006396(JP,A)
【文献】実開昭47-008842(JP,U)
【文献】実開昭62-119641(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28D 5/00
C03B 33/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面にスクライブラインを形成するためのスクライビングホイールを備えたホルダを保持するホルダジョイントであって、
前記ホルダを挿入するための穴と、
前記穴の最奥部に設けられる磁石と、
前記穴の内部の、前記穴の中心軸から前記穴の径方向に変位した位置において、前記穴の軸方向に垂直な方向に伸びる位置決めピンと、
前記穴の内側面を構成し、前記穴の中心軸に対し前記位置決めピンと反対側において、前記穴の軸方向に沿って伸びるように、前記径方向に離れた位置にそれぞれ設けられ、前記ホルダを受ける2つの受け面と、を備え、
各々の前記受け面には、前記受け面を前記穴の軸方向に分断する窪みが形成されており、
前記ホルダを前記穴に挿入した場合であって、前記穴の中心軸に平行な方向見て、2つの前記受け面と前記ホルダとの接触点と、前記ホルダの中心軸とを結ぶそれぞれの線分がなす角は、90~120度の範囲である、
ことを特徴とするホルダジョイント。
【請求項2】
請求項1に記載のホルダジョイントにおいて、
前記受け面は、前記穴の中心軸に対して膨らむ円弧状の曲面である、
ことを特徴とするホルダジョイント。
【請求項3】
請求項1に記載のホルダジョイントにおいて、
前記受け面は、前記穴の軸方向に沿って伸びる平面である、
ことを特徴とするホルダジョイント。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れか一項に記載のホルダジョイントにおいて、
前記窪みは、前記穴の軸方向において、前記位置決めピンと対向する位置に設けられる、
ことを特徴とするホルダジョイント。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れか一項に記載のホルダジョイントにおいて、
前記窪みによって分断された前記受け面の両端のそれぞれは、前記穴の軸方向における長さが等しい、
ことを特徴とするホルダジョイント。
【請求項6】
基板の表面にスクライブラインを形成するためのスクライビングホイールを保持するホルダと、
前記ホルダを保持するホルダジョイントと、を備え、
前記ホルダジョイントは、
前記ホルダを挿入するための穴と、
前記穴の最奥部に設けられる磁石と、
前記穴の内部の、前記穴の中心軸から前記穴の径方向に変位した位置において、前記穴の軸方向に垂直な方向に伸びる位置決めピンと、
前記穴の内側面を構成し、前記穴の中心軸に対し前記位置決めピンと反対側において、前記穴の軸方向に沿って伸びるように、前記径方向に離れた位置にそれぞれ設けられ、前記ホルダを受ける2つの受け面と、を備え、
各々の前記受け面は、前記受け面を前記穴の軸方向に分断する窪みが形成されており、
前記ホルダを前記穴に挿入した場合であって、前記穴の中心軸に平行な方向見て、2つの前記受け面と前記ホルダとの接触点と、前記ホルダの中心軸とを結ぶそれぞれの線分がなす角は、90~120度の範囲である、
を備えることを特徴とするホルダユニット。
【請求項7】
基板の表面にスクライビングホイールによりスクライブラインを形成するためのスクライブ装置であって、
ホルダジョイントと、
前記ホルダジョイントを保持するスクライブヘッドと、を備え、
前記ホルダジョイントは、
前記スクライビングホイールを保持するホルダを挿入するための穴と、
前記穴の最奥部に設けられる磁石と、
前記穴の内部の、前記穴の中心軸から前記穴の径方向に変位した位置において、前記穴の軸方向に垂直な方向に伸びる位置決めピンと、
前記穴の内側面を構成し、前記穴の中心軸に対し前記位置決めピンと反対側において、前記穴の軸方向に沿って伸び、前記径方向に離れた位置にそれぞれ設けられ、前記ホルダを受ける2つの受け面と、を備え、
各々の前記受け面は、前記受け面を前記穴の軸方向に分断する窪みが形成されており、
前記ホルダを前記穴に挿入した場合であって、前記穴の中心軸に平行な方向見て、2つの前記受け面と前記ホルダとの接触点と、前記ホルダの中心軸とを結ぶそれぞれの線分がなす角は、90~120度の範囲である
とを特徴とする、スクライブ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の表面にスクライブラインを形成するためのスクライビングホイールを備えるホルダを保持するホルダジョイント、ホルダジョイントとホルダとから構成されるホルダユニット、およびホルダジョイントを備えるスクライブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス基板等の脆性材料基板の分断では、スクライビングホイールの刃先が、基板の表面に押し付けられながら、所定のラインに沿って移動され、スクライブラインが形成される。スクライビングホイールは、ホルダに備えられており、ホルダはホルダジョイントに保持される。
【0003】
スクライビングホイールにより基板にスクライブラインが形成されているとき、基板の表面において、スクライブ方向と異なる方向からの力がホルダに掛かると、ホルダジョイント内部でのホルダの姿勢、すなわちホルダジョイントとホルダの接触位置や角度等の固定状態が変化し、ホルダの安定性が悪化する。これにより、スクライビングホイールの安定性が悪化するため、良好なスクライブラインを形成することは困難である。
【0004】
特許文献1のホルダジョイントは、ホルダジョイントの下端部に上下方向に延びる開口穴と、開口穴に設けられる磁石および位置決め部材と、を備える。そして、開口穴の内周面に、基板の表面に垂直な方向から見たときの開口穴の断面において、V字形をなすように左右対称に形成された一対の垂直な平坦面が設けられる。開口穴にホルダを挿入すると、ホルダと一対の垂直な平坦面とが2箇所で線接触する。このようにホルダがホルダジョイントの内周面に線接触すると、ホルダはホルダジョイントに強く保持される。よって、基板の表面において、スクライブ方向に垂直な方向からの力をホルダが受けた場合でも、ホルダはがたつかず、スクライビングホイールは安定した状態でスクライブラインを形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-119348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のホルダジョイントは、上記の構成により、ホルダのがたつきが生じないとされている。しかし、たとえば、曲線のスクライブラインを形成する際には、ホルダに対して様々な方向からの力がかかることにより、ホルダの姿勢に微小な変化が生じる場合がある。また、近年、スマートフォン等に利用される脆性基板は、従来よりも薄型の基板が用いられており、より高品質のスクライブラインを形成することが望まれている。このため、従来であれば、品質に問題ないとして許容されていたホルダの姿勢の微小な変化も生じさせないようにする必要がある。
【0007】
かかる課題に鑑み、本発明は、スクライブラインの形成時、ホルダの姿勢が変化しないよう保持するホルダジョイント、ホルダとホルダジョイントとから構成されるホルダユニット、およびホルダジョイントを備えたスクライブ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、基板の表面にスクライブラインを形成するためのスクライビングホイールを備えたホルダを保持するホルダジョイントに関する。この態様に係るホルダジョイントは、前記ホルダを挿入するための穴と、前記穴の最奥部に設けられる磁石と、前記穴の内部の、前記穴の中心軸から前記穴の径方向に変位した位置において、前記穴の軸方向に垂直な方向に伸びる位置決めピンと、前記穴の内側面を構成し、前記穴の中心軸に対し前記位置決めピンと反対側において、前記穴の軸方向に沿って伸びるように、前記径方向に離れた位置にそれぞれ設けられ、前記ホルダを受ける2つの受け面と、を備える。各々の前記受け面には、前記受け面を前記穴の軸方向に分断する窪みが形成されており、前記ホルダを前記穴に挿入した場合であって、前記穴の中心軸に平行な方向見て、2つの前記受け面と前記ホルダとの接触点と、前記ホルダの中心軸とを結ぶそれぞれの線分がなす角は、90~120度の範囲である。
【0009】
本態様に係るホルダジョイントによれば、穴に挿入されたホルダを受けるための受け面において、受け面を穴の軸方向に分断するような窪みが形成されている。すなわち、受け面は、穴の軸方向の両端の径の方が、両端以外の領域すなわち受け面の窪みの径よりも小さい。このため、ホルダを穴に挿入すると、ホルダは受け面の窪みに接触しない。ホルダは、受け面において、窪みによって分断された領域、すなわち、受け面の両端の領域内に接触する。
【0010】
このように、ホルダと受け面とが接触する部位は、受け面の両端の領域内である。そして、受け面は、径方向に離れた位置に2つ設けられる。よって、2つの受け面とホルダとの接触部位は4箇所である。つまり、ホルダジョイントとホルダとは、穴の軸方向および径方向に離れた方向に位置する部位で接触する。このように、ホルダジョイントとホルダとの接触部位が、ホルダジョイントにおいてバランスよく配置されているため、ホルダジョイントは、ホルダを確実に保持することができる。
【0011】
したがって、スクライブの際に、スクライブ方向と異なる方向からホルダに力が加えられた場合でも、ホルダジョイント内でホルダが移動したり、回転したりすることが抑制される。ホルダに姿勢変化が生じやすい場合として、たとえば、スクライビングホイールの側面方向からの力がホルダに加わりやすい、曲線のスクライブラインを形成しているときが挙げられる。上記の構成によれば、ホルダの固定状態に変化が生じにくいため、スクライビングホイールは、曲線のスクライブラインであっても、安定した状態でスクライブ動作を行うことができる。さらに、ホルダを穴に挿入した場合であって、穴の中心軸に平行な方向見て、2つの受け面と前記ホルダとの接触点と、ホルダの中心軸とを結ぶそれぞれの線分がなす角は、90~120度の範囲である。この構成により、2つの受け面が径方向に、より離れて配置される。このため、ホルダは、より確実にホルダジョイントに保持される。よって、スクライブ方向と異なる方向からホルダに力が加えられた場合でも、ホルダの姿勢がより変化しにくくなる。
【0012】
この場合、前記受け面は、前記穴の中心軸に対して膨らむ円弧状の曲面であるよう構成され得る。また、前記受け面は、前記穴の軸方向に沿って伸びる平面であるよう構成されてもよい。
【0013】
この構成によれば、受け面が、円弧状の曲面または平面であっても、受け面に窪みを形成すれば、上記の効果を奏する。受け面が円弧状の曲面に形成されるか、平面に形成されるかは、たとえば、穴に挿入されるホルダの形状、ホルダジョイントおよびホルダの材質、およびスクライブラインを形成する基板の種類やサイズ等を考慮して決定することができる。
【0014】
本態様に係るホルダジョイントにおいて、前記窪みは、前記穴の軸方向において、前記位置決めピンと対向する位置に設けられる。
【0015】
この構成によれば、穴にホルダを挿入した状態で、スクライブ方向から見たとき、穴の軸方向に、受け面の両端の一端、位置決めピン、受け面の両端の他端の順に配置される。よって、位置決めピンがホルダに接触し、ホルダを押し付ける力が位置決めピンに対して上方と下方に位置する受け面の両端と、ホルダとの接触部位にバランスよく掛けられる。これにより、ホルダは、ホルダジョイントに確実に保持される。したがって、スクライブ方向と異なる方向からホルダに力が加えられた場合でも、ホルダは姿勢が変化しにくい。よって、スクライビングホイールは、安定した状態でスクライブラインを形成することができる。なお、上記の「スクライブ方向」とは、スクライビングホイールが基板にスクライブラインを形成する際の走行方向であり、位置決めピンが設けられる側である。
【0016】
本態様に係るホルダジョイントにおいて、前記窪みによって分断された前記受け面の両端のそれぞれは、前記穴の軸方向における長さが等しくなるよう構成され得る。
【0017】
この構成によれば、両端の一端および他端の穴の軸方向における長さが等しいため、ホルダはホルダジョイントにバランスよく接触する。よって、スクライブ方向と異なる方向からホルダに力が加えられた場合、さらにホルダの姿勢が変化しにくくなる。よって、スクライビングホイールは、より安定した状態でスクライブラインを形成することができる。
【0020】
本発明の第2の態様は、基板の表面にスクライブラインを形成するためのスクライビングホイールを備えたホルダユニットに関する。この態様に係るホルダユニットは、基板の表面にスクライブラインを形成するためのスクライビングホイールを保持するホルダと、前記ホルダを保持するホルダジョイントとから構成される。ホルダジョイントは、前記ホルダを挿入するための穴と、前記穴の最奥部に設けられる磁石と、前記穴の内部の、前記穴の中心軸から前記穴の径方向に変位した位置において、前記穴の軸方向に垂直な方向に伸びる位置決めピンと、前記穴の内側面を構成し、前記穴の中心軸に対し前記位置決めピンと反対側において、前記穴の軸方向に沿って伸び、前記径方向に離れた位置にそれぞれ設けられ、前記ホルダを受ける2つの受け面と、を備える。各々の前記受け面は、前記受け面を前記穴の軸方向に分断する窪みが形成されている。前記ホルダを前記穴に挿入した場合であって、前記穴の中心軸に平行な方向に見て、2つの前記受け面と前記ホルダとの接触点と、前記ホルダの中心軸とを結ぶそれぞれの線分がなす角は、90~120度の範囲である。
【0021】
本態様の構成であれば、上記のホルダジョイントと同様の効果を奏する。よって、安定的にスクライブラインを形成できる。
【0022】
本発明の第3の態様は、基板の表面にスクライビングホイールによりスクライブラインを形成するためのスクライブ装置に関する。この態様に係るスクライブ装置は、ホルダジョイントと、前記ホルダジョイントを保持するスクライブヘッドと、を備える。ここで、前記ホルダジョイントは、前記スクライビングホイールを保持するホルダを挿入するための穴と、前記穴の最奥部に設けられる磁石と、前記穴の内部の、前記穴の中心軸から前記穴の径方向に変位した位置において、前記穴の軸方向に垂直な方向に伸びる位置決めピンと、前記穴の内側面を構成し、前記穴の中心軸に対し前記位置決めピンと反対側において、前記穴の軸方向に沿って伸び、前記径方向に離れた位置にそれぞれ設けられ、前記ホルダを受ける2つの受け面と、を備え、前記受け面は、前記受け面を前記穴の軸方向に分断する窪みが形成されている。前記ホルダを前記穴に挿入した場合であって、前記穴の中心軸に平行な方向に見て、2つの前記受け面と前記ホルダとの接触点と、前記ホルダの中心軸とを結ぶそれぞれの線分がなす角は、90~120度の範囲である。
【0023】
本態様の構成であれば、上記のホルダジョイントと同様の効果を奏する。よって、安定的にスクライブラインを形成できる。
【発明の効果】
【0024】
以上のとおり、本発明によれば、スクライブラインの形成時、ホルダの姿勢が変化しないよう保持するホルダジョイント、ホルダとホルダジョイントとから構成されるホルダユニット、およびホルダジョイントを備えたスクライブ装置を提供することができる。
【0025】
本発明の効果ないし意義は、以下に示す実施の形態の説明により更に明らかとなろう。ただし、以下に示す実施の形態は、あくまでも、本発明を実施化する際の1つの例示であって、本発明は、以下の実施の形態に記載されたものに何ら制限されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1(a)は、実施形態に係るホルダジョイントが適用されるスクライブ装置1の構成を模式的に示す図である。図1(b)は、実施形態に係るホルダジョイントの側面図である。
図2図2(a)、実施の形態に係るホルダジョイントのジョイント部をZ軸負側から見た平面図である。図2(b)は、本実施の形態に係るホルダジョイントのジョイント部の構成を示す斜視図である。
図3図3(a)は、実施の形態に係るホルダジョイントのジョイント部をX軸正側から見た場合の斜視図である。図3(b)は、実施の形態に係るホルダジョイントのジョイント部を、X軸正側から見た場合であって、受け面に掛かる力を模式的に示した図である。
図4図4(a)は、実施の形態に係るホルダジョイントのジョイント部をY軸正側から見た側面図である。図4(b)は、実施の形態に係るホルダジョイントのジョイント部を、Y軸正側から見た場合であって、受け面に掛かる力を模式的に示した図である。
図5図5(a)、(b)は、それぞれ、上段が変更例に係るホルダジョイントのジョイント部の構成を示す斜視図であり、下段は、上段のジョイント部をZ軸負側から見た平面図である。図5(a)は、接触角が90度であり、図5(b)は、接触角が120度である。
図6図6(a)~(d)は、それぞれ、変更例に係るホルダジョイントを用いて、ホルダの移動量の測定結果を示すグラフである。図6(a)、(b)は、接触角が90度の場合の測定結果であり、図6(c)、(d)は、接触角が120度の場合の測定結果である。
図7図7(a)、(b)は、それぞれ、比較例に係るホルダジョイントを用いて、ホルダの移動量を測定した結果を示すグラフである。
図8図8(a)は、変更例に係るホルダジョイントを用いて、ホルダに付与する力を増加させて、ホルダの移動量の測定結果を示すグラフである。図8(b)は、比較例に係るホルダジョイントを用いて、ホルダに付与する力を増加させて、ホルダの移動量の測定結果を示すグラフである。
図9図9(a)、(b)は、それぞれ、上段が別の変更例に係るホルダジョイントのジョイント部の構成を示す斜視図であり、下段は、上段のジョイント部をZ軸負側から見た平面図である。図9(a)は、接触角が90度であり、図9(b)は、接触角αが120度である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、各図には、便宜上、互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸が付記されている。Z軸は、鉛直方向における上方および下方を示す。以降、上方および下方は、それぞれZ軸正側およびZ軸負側を意味する。また、本実施の形態において、スクライビングホイール2は、基板Fの表面を走行してスクライブラインを形成する。そこで、スクライビングホイール2の走行方向を「スクライブ方向」と称し、特に、X軸正方向は、「スクライブ方向前方」と称される場合がある。また、基板Fの表面について、スクライブ方向に垂直な方向を、「スクライブ方向と異なる方向」と称する場合がある。
【0028】
<スクライブ装置の構成>
図1(a)は、ホルダジョイント100が適用されるスクライブ装置1の構成を模式的に示す図である。図1(b)は、ホルダジョイント100の側面図である。
【0029】
図1(a)に示すように、スクライブ装置1は、スクライブヘッド10と、移動機構20と、支持機構30と、を備える。スクライブヘッド10は、支持機構30に支持された基板Fにスクライブラインを形成する。移動機構20は、スクライブヘッド10をスクライブ方向(X軸正方向)に移動させる。支持機構30は、上面に基板Fが載せられ、基板Fを支持する。また、支持機構30は、支持した基板Fをスクライブラインの形成ピッチでY軸方向に送る。
【0030】
実施形態に係るスクライビングホイール2がスクライブする基板Fは、ガラス基板やセラミックス基板等の脆性材料基板である。あるいは、脆性材料基板の上に、PET、ポリイミド樹脂等の樹脂を積層した基板としてもよい。さらに、複数の脆性材料基板を、接着材層を介して貼り合わせた貼合せ基板としてもよい。
【0031】
移動機構20は、移動部材21と、移送部22と、支持部23a、23bと、駆動機構24とを備える。移動部材21は、板状の部材からなり、スクライブヘッド10を支持する。移送部22は、移動部材21をX軸方向に案内するレール等を備え、移動部材21をX軸方向に移送する。支持部23aおよび23bは、移送部22を支持する。駆動機構24は、移送部22の駆動源であり、モータからなっている。
【0032】
支持機構30は、テーブル31と、ガイドレール32aおよび32bと、駆動軸33とを備える。テーブル31は、上面に基板Fが載せられ、基板Fを支持する。ガイドレール32aおよび32bは、テーブル31をY軸方向に移送する。駆動軸33は、外周にギア溝を有する軸であり、テーブル31に形成された孔のギア溝と噛み合っている。図示しないモータにより駆動軸33が回転されることにより、テーブル31がY軸方向に駆動される。
【0033】
スクライブヘッド10は、基板Fの表面に垂直な方向(Z軸方向)に、移動機構20の移動部材21に設置されている。スクライブヘッド10は、移動部材21に案内されてX軸方向に移動するように設置されている。スクライブヘッド10は、下端にホルダジョイント100を備えている。スクライビングホイール2が保持されているホルダ40が、ホルダジョイント100を介してスクライブヘッド10に取り付けられている。
【0034】
図1(b)に示すように、ホルダジョイント100は、回転軸部101およびジョイント部102を備えている。回転軸部101には、Z軸正側および負側にそれぞれベアリング103aおよび103bが筒状のスペーサ104を介して配置されている。ホルダジョイント100はスクライブヘッド10によって回転自在に保持される。
【0035】
ホルダジョイント100のジョイント部102には、Z軸負側に開口する穴110が形成されている。図1(b)の一点鎖線で示すように、穴110はZ軸に平行な中心軸M1を有し、以下では穴110の中心軸M1の方向を、単に、「軸方向」と称する。穴110の内部には、穴110の最奥部110aに磁石105が設置されている。また、穴110の内部には、ホルダ40の位置決め部材として、穴110の中心軸M1から径方向に変位した位置に、穴110の中心軸M1と垂直な方向に位置決めピン106が設けられる。位置決めピン106は、スクライブ時にはスクライビングホイール2に対してスクライブ方向前方に位置する。ホルダ40は、穴110に挿入されて、ホルダジョイント100に取り付けられる。また、ホルダ40の外側面が切欠かれることにより、傾斜面40aが形成されている。
【0036】
ホルダ40が穴110に挿入されると、ホルダ40の上端が磁石105に吸引される。このとき、ホルダ40の傾斜面40aが位置決めピン106に当接し、ホルダ40が正規の位置に位置決めされる。こうして、図1(b)に示すように、ホルダ40がジョイント部102の下端に装着される。つまり、ホルダ40が、ホルダジョイント100を介してスクライブヘッド10に取り付けられる。上記のように、ジョイント部102にホルダ40が取り付けられると、ホルダジョイント100とホルダ40とが一体となり、ホルダユニット4として構成される。
【0037】
次に、ホルダジョイント100のうち、特に、ジョイント部102の構成について、図2(a)~図4(b)を参照して詳細に説明する。
【0038】
図2(a)は、ジョイント部102をZ軸負側から見た平面図であり、穴110の断面を示す図である。図2(b)は、ホルダジョイント100のジョイント部102の構成を示す斜視図である。また、図2(a)では、図1(b)に示したように、ジョイント部102にスクライビングホイール2を保持したホルダ40が装着された場合、ジョイント部102の穴110をZ軸負側から見た場合の平面図を示している。なお、図1(b)に示すとおり、本実施の形態において、スクライビングホイール2と脆性材料基板Fとの接点を通り、脆性材料基板Fに垂直な方向、すなわちZ軸方向に伸びる軸を、「ホルダ40の中心軸M2」と称し、単に、「中心軸M2」と称される。なお、ホルダ40の中心軸M2と穴110の中心軸M1とは必ずしも一致しない。
【0039】
図2(a)に示すように、穴110の内周面は、2つの受け面111、112、および非接触面113、114から構成される。2つの受け面111、112は、ホルダ40と接触可能な面であり、穴の中心軸M1に対し位置決めピン106と反対側に、穴110の軸方向に沿って、穴110の径方向に離れた位置にそれぞれ配置される。すなわち、2つの受け面111、112は、X軸に対して対称となるように、Y軸負側および正側にそれぞれ設けられる。また、受け面111、112は、穴110に占める面積が互いに等しくなるよう形成される。
【0040】
なお、上記の「2つの受け面111、112は、ホルダ40と接触可能な面」とは、2つの受け面111、112の領域内で、ホルダ40が接触するという意味である。
【0041】
非接触面113、114は、ホルダ40と接触しない面であり、軸方向に伸びるように形成されている。受け面111、112は、例えばホルダ40の外径と同じ半径を有する曲面とされ、非接触面113よりも径が大きく、非接触面114よりも径が小さく形成される。X軸正側の非接触面114の方が、X軸負側の非接触面113よりも穴110に占める面積は大きい。なお、図2(a)では、非接触面114の方が非接触面113よりも曲率が大きく図示されているが、曲率は同一であってもよい。
【0042】
受け面111、112は、異なる2つの径の領域を有する。図2(b)に示すように、受け面111は、軸方向つまりZ軸方向において、受け面111の両端以外の領域が両端よりも径が大きくなるよう形成される。つまり、受け面111において、周方向に窪みが形成されることにより、軸方向において両端が分断されている。ここで、受け面111の両端について、Z軸正側および負側は、それぞれ、「端部111a」、「端部111b」と称される。また、窪みは、「領域111c」と称される。領域111cは、受け面111において窪んでいるため、ホルダ40は領域111cには接触しない。また、端部111a、111bと非接触面113との境界は、Z軸正側が「境界111d」、Z軸負側が「境界111e」と称される。
【0043】
なお、図2(b)では、受け面112が図示されていないが、受け面112も受け面111と同様に窪みが形成され、端部112a、112b、および領域112cから構成される。また、端部112a、112bと非接触面113との間には、Z軸正側に境界112d、Z軸負側に112eがある。これらは、図3(a)にて図示される。また、領域111cと同様に、受け面112において領域112cは窪んでいるため、ホルダ40は領域112cには接触しない。
【0044】
したがって、上記したとおり、「2つの受け面111、112は、ホルダ40と接触可能な面」とは、2つの受け面111、112の領域内で、ホルダ40が接触するという意味であるが、より具体的には、受け面111の端部111a、111b、および受け面112の端部112a、112bの領域内で、ホルダ40が接触することを意味する。
【0045】
ここで、図1(b)に示すように、ホルダ40が穴110に挿入されると、位置決めピン106は、ホルダ40の傾斜面40aに接触する。このとき、ホルダ40には位置決めピン106からスクライブ方向とは逆の方向すなわちX軸負方向の力が加わり、受け面111、112はホルダ40を挟み込むようにしてホルダ40と接触する。このため、境界111d、111e、および境界112d、112eは、受け面111、112において、ホルダ40が接触しやすい部位である。本実施の形態では、図2(a)に示すように、境界111eおよび境界112eと、ホルダ40の中心軸M2とを結ぶそれぞれの線分L1と線分L2とのなす角は、54度に設定される。ここで、線分L1と線分L2とのなす角を、以下、「接触角α」と称する。
【0046】
図3(a)は、ホルダジョイント100のジョイント部102をX軸正側つまりスクライブ方向から見た場合の斜視図である。図3(b)は、ホルダジョイント100のジョイント部102を、X軸正側つまりスクライブ方向から見た場合であって、受け面111、112に掛かる力を説明するための模式図である。なお、図3(b)では、ホルダ40は省略しており、位置決めピン106を破線で示している。
【0047】
図3(a)には、上記にて説明した受け面111、112の各端部、各領域、および非接触面113が図示されている。図3(a)に示す受け面111の端部111a、111b、および受け面112の端部112a、112bにホルダ40が接触する。すなわち、ホルダ40は、穴110の内周面と4箇所で接触する。しかも、この4箇所の接触部位は、穴110の軸方向と径方向とに分散して配置されている。この4箇所の接触部位に関して、図3(b)を参照して説明する。
【0048】
上記のとおり、ホルダ40が穴110に挿入されると、位置決めピン106はホルダ40に接触し、位置決めピン106は、スクライブ方向の後方すなわちX軸負方向に、ホルダ40を押し付けている(図1(b)参照)。そして、図3(b)に示すように、位置決めピン106がホルダ40を押しつける力は、ホルダ40と接触する受け面111の端部111a、111b、および受け面112の端部112a、112bに分散して加わる。よって、ホルダジョイント100は、ホルダ40を4箇所においてバランスよく受けることができる。すなわち、ホルダジョイント100は、ホルダ40を適切に保持することができる。
【0049】
図4(a)は、ホルダジョイント100のジョイント部102にホルダ40を挿入した場合の、Y軸正側から見た側面図である。図4(b)は、図4(a)に対応しており、受け面111、112に掛かる力を説明するための模式図である。なお、図3(a)では、ホルダ40を破線で示している。
【0050】
図4(a)に示すように、穴110の軸方向において、窪みである領域111cは位置決めピン106に対向する位置に設けられる。すなわち、位置決めピン106は、窪みである領域111cにより分断される受け面111の端部111a、111bの間に配置される。よって、図4(b)中の矢印に示すように、位置決めピン106がホルダ40に接触し、ホルダ40を押し付ける力は位置決めピン106の上方に位置するが受け面111の端部111aと、位置決めピン106の下方に位置する111bとホルダ40とに分散される。また、図4(a)では、Y軸正側から見た場合が示されているが、Y軸負側から見た場合も同様に、位置決めピン106がホルダ40を押し付ける力は、受け面112の位置決めピン106より上方の端部112aと、位置決めピン106より下方の端部112bとに分散して加えられる。このように、受け面111、112と位置決めピン106とを配置することにより、ホルダジョイント100内におけるホルダ40の姿勢が安定しやすくなり、ホルダジョイント100は、ホルダ40を確実に保持することができる。
【0051】
また、受け面111の端部111a、111b、および受け面112の端部112a、112bは、穴110の軸方向の長さが等しくなるように形成された場合、ホルダ40はホルダジョイント100に、よりバランスよく接触し、ホルダ40の固定状態が安定する。よって、ホルダジョイント100は、ホルダ40をより確実に保持することができる。
【0052】
スクライブ装置1を用いて基板Fにスクライブラインを形成する場合、まず、スクライビングホイール2が取り付けられたホルダ40がスクライブヘッド10に取り付けられる。スクライブ装置1は、スクライブヘッド10を所定の位置に移動させ、スクライビングホイール2に対して所定の荷重を印加して、基板Fへ接触させる。その後、スクライブ装置1は、スクライブヘッド10をX軸方向に移動させるとともに、スクライビングホイール2を押圧して基板Fに接触した状態で回転(転動)させながら基板Fにスクライブラインを形成する。なお、スクライブ装置1は、必要に応じてテーブル31を回動ないしY軸方向に移動させる。
【0053】
上記の実施の形態においては、スクライブヘッドがX軸方向に移動し、テーブル31がY軸方向に移動すると共に、回転するスクライブ装置について示したが、スクライブ装置はスクライブヘッドとテーブルとが相対的に移動するものであればよい。たとえば、スクライブヘッドが固定され、テーブルがX軸、Y軸方向に移動し、かつ回転するスクライブ装置であってもよい。
【0054】
[検証]
次に、上記実施形態のホルダジョイントにスクライビングホイールを備えたホルダを装着し、ホルダに対して、スクライブ方向と異なる方向から力を加えた場合、ホルダとホルダジョイントの固定状態の変化を検証した。検証には、接触角αが54度に形成されたジョイント部を有するホルダジョイントを用いた。
【0055】
まず、ホルダジョイントをバイスで固定し、ホルダを側面から押圧して、スクライブ方向に対して横からの力であるY軸正方向および負方向の力を、それぞれ1Nホルダに付与し、ホルダの移動量を測定した。その結果、本発明のホルダの移動量は数μm程度でほとんど固定状態が変化しなかった。また、従来のホルダジョイント(すなわち、受け面に窪みが形成されていないホルダジョイントである。)でホルダを保持した場合よりも、移動量は、半分以下に抑制されていることが確認された。
【0056】
したがって、本発明のホルダジョイントであれば、ホルダの姿勢や位置の変化を殆ど生じさせることなく、安定した状態でスクライブ動作を行うことができる。これは、特に、ホルダに横方向の力が加わる曲線のスクライブラインを形成する際に、本発明のホルダジョイントを用いれば、所望のスクライブラインを基板の表面に形成することができる。
【0057】
<実施形態の効果>
本実施形態によれば、以下の効果が奏される。
【0058】
図2(a)に示すように、ジョイント部102の穴110の内周面には、ホルダ40と接触可能な2つの受け面111、112、およびホルダ40と接触しない非接触面113、114が形成される。このように、ホルダ40と非接触な領域を設けることにより、ホルダ40をホルダジョイント100に対して容易に着脱することができる。
【0059】
図2(b)、図3(a)に示すように、受け面111、112には、ホルダ40と接触しない領域111c、112cが設けられ、領域111cを挟んで端部111a、111b、および領域112cを挟んで端部112a、112bに、ホルダ40が接触する。このように、ホルダ40とジョイント部102とは、4箇所で接触する。このため、位置決めピン106によってホルダ40に押し付けられた力は、端部111a、111b、および端部112a、112bにバランスよく分散する。これにより、ホルダジョイント100は、ホルダ40を確実に保持することができる。したがって、スクライブ方向と異なる方向からホルダ40に力が加えられた場合であっても、ホルダ40の姿勢が変化しにくくなる。よって、スクライビングホイール2は安定した状態でスクライブラインを形成することができる。
【0060】
ホルダ40やジョイント部102は、製造工程において、所定の公差の範囲内で製造されるため、実際の寸法においては製品ごとに僅かにばらつきが生じている。また、ホルダジョイント100およびホルダ40の使用期間が経過するにつれて、摩耗し、使用開始時から比べて僅かに変形する場合がある。そのため、本実施の形態では、図2(b)、図3(a)に示すように、受け面111の端部111a、111b、および受け面112の端部112a、112bの領域内の何れかでホルダ40が接触するよう構成される。これにより、ホルダジョイント100およびホルダ40の公差内の寸法のばらつきにかかわらず、また、上記のように、ホルダジョイント100およびホルダ40が摩耗により微小に変形した場合であっても、確実にホルダ40は受け面111の端部111a、111b、および受け面112の端部112a、112bに接触する。
【0061】
図2(b)に示すように、受け面111の端部111a、111b、および受け面112の端部112a、112bは、穴110の軸方向に沿って配置され、また、穴110の径方向に離れて配置される。よって、ホルダ40は、ジョイント部102に4箇所で接触し、さらに、接触部位がバランスよく配置されている。これにより、ホルダジョイント100は、ホルダ40を確実に保持することができる。したがって、スクライブ方向と異なる方向からホルダ40に力が加えられた場合であっても、ホルダ40は、よりぐらつきにくくなる。よって、スクライビングホイール2は、より安定した状態でスクライブラインを形成することができる。
【0062】
図4(a)、(b)に示すように、位置決めピン106は、受け面111の端部111a、111bの間に配置される。また、位置決めピン106は、受け面112の端部112a、112bの間に配置される。このため、位置決めピン106がホルダ40に接触し、ホルダ40を押し付ける力が受け面111の端部111a、111bとホルダ40との接触部位にバランスよく掛けられる。受け面112の端部112a、112bに対しても同様である。これにより、ホルダ40は、ホルダジョイント100に確実に保持される。したがって、スクライブ方向と異なる方向からホルダ40に力が加えられた場合でも、ホルダ40の姿勢及びホルダジョイントに対する固定状態は変化しない。よって、スクライビングホイール2は、安定した状態でスクライブラインを形成することができる。
【0063】
また、図4(a)、(b)に示すように、受け面111の端部111a、111bの穴110の軸方向の長さ、および受け面112の端部112a、112bの穴110の軸方向の長さが等しくなるよう窪みを形成した場合、ホルダ40はホルダジョイント100にバランスよく接触する。よって、スクライブ方向と異なる方向からホルダ40に力が加えられた場合、さらにホルダ40の姿勢が変化しにくくなる。この場合、受け面111の端部111a、111bの穴110の軸方向の長さは、2mm程度が好ましい。受け面112の端部112a、112bも同様である。また、領域111c、112cの深さは、特に限定されないが、たとえば、15~35μmである。
【0064】
<変更例>
(1)受け面が曲面の場合
図5(a)、(b)は、それぞれ、上段が変更例に係るホルダジョイント100のジョイント部102の構成を示す斜視図である。下段は、上段のジョイント部102をZ軸負側から見た平面図であり、穴110の断面を示す図である。図5(a)は、接触角αが90度であり、図5(b)は、接触角αが120度である。
【0065】
上記実施の形態では、接触角αが54度であったが、接触角αは、上記以外に限られない。たとえば、図5(a)に示すように、接触角αが90度であるように、受け面111、112を穴110に形成することができる。また、図5(b)に示すように、接触角αが120度であるように、受け面111、112を穴110に形成することができる。
【0066】
図5(a)、(b)に示すように、接触角αを54度より大きくなるよう受け面111、112を形成すると、受け面111、112の間隔がより離れて配置される。これにより、ホルダ40は、より確実にホルダジョイント100に保持される。よって、スクライブ方向と異なる方向、特に、スクライブ方向と異なる方向からホルダ40により大きな力が加えられた場合でも、ホルダ40の姿勢が変化しにくくなる。したがって、スクライビングホイール2は、より安定した状態でスクライブ動作を行うことができる。
【0067】
[検証1]
次に、上記変更例のホルダジョイント、すなわち、接触角が90度および120度に形成されたホルダジョイントのそれぞれにスクライビングホイールを備えたホルダを装着し、ホルダに対して、スクライブ方向と異なる方向である、スクライブ方向からみて左右方向からの力を加えた場合、ホルダの固定状態の変化を検証した。
【0068】
まず、接触角が90度に形成された2つのホルダジョイントAおよびホルダジョイントBと、3つのホルダa、b、cとを用意した。2つのホルダジョイントAおよびホルダジョイントBは、互いに同形状のものであった。ホルダジョイントAに対してホルダaを装着し、ホルダの一側面を押圧することでスクライブ方向と異なる方向であるY軸正方向から3Nの力をホルダaに加え、ホルダaの移動量を測定した。次に、上述のホルダの一側面と対向する側面からホルダを押圧し、スクライブ方向と異なる方向であるY軸負方向から3Nの力を加え、ホルダaの移動量を測定した。そして、これらの移動量の合計を算出した。この測定をホルダaに対して5回行った。このような測定を、ホルダbおよびホルダcについても行った。また、上記と同様の測定を、ホルダジョイントBについても行った。
【0069】
続いて、接触角が120度に形成された2つのホルダジョイントCおよびホルダジョイントDと、ホルダa、b、cとを用意した。なお、3つのホルダa、b、cは、上記した接触角が90度の場合の検証と同じホルダを用いた。2つのホルダジョイントCおよびホルダジョイントDは、互いに同形状のものであった。これらのホルダジョイントおよびホルダを使用して、上記と同様に、ホルダa、b、cの移動量を測定した。
【0070】
また、比較例として、接触角が54度であり、受け面に窪みを設けない2つのホルダジョイントEおよびホルダジョイントFと、3つのホルダa、b、cとを用意した。なお、3つのホルダa、b、cは、上記した接触角が90度および120度の場合の検証と同じホルダを用いた。2つのホルダジョイントEおよびホルダジョイントFは、互いに同形状のものであった。これらのホルダジョイントおよびホルダを使用して、上記と同様に、ホルダa、b、cの移動量を測定した。
【0071】
図6(a)~(d)のグラフは、変更例に係るホルダジョイントを用いて、ホルダの移動量を測定した結果を示すグラフである。図6(a)、(b)は、接触角が90度の場合の測定結果であり、図6(a)は、ホルダジョイントAを用いた場合であり、図6(b)は、ホルダジョイントBを用いた場合である。図6(c)、(d)は、接触角が120度の場合の測定結果であり、図6(c)は、ホルダジョイントCを用いた場合であり、図6(d)は、ホルダジョイントDを用いた場合である。図7(a)、(b)のグラフは、比較例に係るホルダジョイントを用いて、ホルダの移動量を測定した結果を示すグラフであり、図7(a)は、ホルダジョイントEを用いた場合であり、図7(b)は、ホルダジョイントFを用いた場合である。
【0072】
なお、図6(a)~(d)のグラフ、および図7(a)、(b)のグラフでは、ホルダaは、実線で示されており、ホルダbは、破線で示されており、ホルダcは、一点鎖線で示されている。また、図7(d)では、ホルダa、b、cの結果が重複している。
【0073】
図6(a)、(b)に示すように、接触角が90度に形成されているホルダジョイントでは、3Nという比較的強い力がスクライブ方向と異なる方向からホルダa、b、cに加えられた場合であっても、すべてのホルダジョイントおよびホルダの組み合わせにおいて、Y軸正方向および負方向から力を加えた場合の移動量の合計が10μmを超えることはなかった。
【0074】
さらに、図6(c)、(d)に示されるように、接触角が120度に形成されているホルダジョイントでは、ホルダa、b、cの移動量の合計が多くの組み合わせで0μm、最大でも1μmであり、ほとんどホルダa、b、cの移動が生じなかった。
【0075】
一方、図7(a)、(b)に示されるように、従来のホルダジョイントでは、ホルダa、b、cの移動量が多くの場合で10μmを超え、またホルダa、b、cの個体によるばらつきが大きいことが示された。
【0076】
この結果から、変更例に係るホルダジョイントにおいては、スクライブ方向と異なる方向の力がホルダに加わっても、より確実にホルダを保持することができるとともに、ホルダの個体差による影響を受けにくいといえる。
【0077】
[検証2]
続いて、上記変更例に係る接触角が120度に形成されたホルダジョイントと、ホルダa、bとを用意した。ホルダジョイントにホルダaを装着し、スクライブ方向と異なる方向であるY軸正方向および負方向からの力を1Nから5Nまで1Nずつ増加させてホルダaに付与し、付与するごとにY軸正方向および負方向の移動量を測定し、それぞれの移動量の合計を算出した。このような測定を、ホルダbについても行った。
【0078】
また、比較例として、接触角が54度であり、受け面に窪みを設けないホルダジョイントと、ホルダa、bとを用意した。なお、ホルダa、bは、上記した接触角が120度の場合の検証と同様のホルダを用いた。これらのホルダジョイントおよびホルダを使用して、上記と同様に、ホルダa、bの移動量を測定した。
【0079】
図8(a)のグラフは、変更例に係るホルダジョイントを用いて、ホルダの移動量を測定した結果である。図8(b)のグラフは、比較例に係るホルダジョイントを用いて、ホルダの移動量を測定した結果である。
【0080】
なお、図8(a)、(b)のグラフでは、ホルダaは、実線で示されており、ホルダbは、破線で示されている。
【0081】
図8(b)に示されるように、比較例に係るホルダジョイントにおいては、ホルダa、bに加えられる力が増加するとともに、ホルダa、bの移動量が増加する。これに対し、変更例に係るホルダジョイントでは、ホルダa、bに加えられる力が増加しても、移動量の増加がほとんど生じないことが確認された。
【0082】
これらの結果より、変更例に係るホルダジョイントにおいては、ホルダに加わるスクライブ方向と異なる方向の力が増加する場合であっても、確実にホルダを保持することができる。よって、ホルダの姿勢の変化を抑制することができると推察される。
【0083】
(2)受け面が平面の場合
図9(a)、(b)は、それぞれ、上段が変更例に係るホルダジョイント100のジョイント部102の構成を示す斜視図である。下段は、上段のジョイント部102をZ軸負側から見た平面図であり、穴110の断面を示す図である。図9(a)は、接触角αが90度であり、図9(b)は、接触角αが120度である。
【0084】
上記した本実施の形態、および変更例では、受け面111、112は、穴110の中心軸M1に対して径方向に膨らむ円弧状の曲面であった。別の変更例では、図9(a)、(b)に示すように、受け面111、112は、穴110の軸方向に沿って伸びる平面であるよう構成される。
【0085】
図9(a)、(b)に示すように、受け面111、112を構成した場合であっても、上記実施の形態、および変更例1と同様に、ホルダ40は、ホルダジョイント100に適切に保持される。よって、Y軸方向からホルダ40に力が加えられた場合でも、ホルダ40の姿勢は変化しにくくなる。また、接触角αを大きくした場合、変更例と同様に、ホルダ40は、より確実にホルダジョイント100に保持される。よって、Y軸方向からホルダ40に力が加えられた場合でも、ホルダ40の姿勢はより変化しにくくなる。したがって、スクライビングホイール2は、より安定した状態でスクライブ動作を行うことができる。
【0086】
受け面111、112を曲面に形成するか、平面に形成するかは、ホルダ40の形状、ホルダジョイント100およびホルダ40の材質、およびスクライブラインを形成する基板Fの種類やサイズ等を考慮して決定することができる。
【0087】
このほか、本発明の実施の形態は、特許請求の範囲に示された技術的思想の範囲内において、適宜、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0088】
1 … スクライブ装置
2 … スクライビングホイール
4 … ホルダユニット
10 … スクライブヘッド
40 … ホルダ
100 … ホルダジョイント
105 … 磁石
106 … 位置決めピン
110 … 穴
110a …最奥部
111 … 受け面
111a … 端部(両端)
111b … 端部(両端)
111c … 領域(窪み)
112 … 受け面
112a … 端部(両端)
112b … 端部(両端)
112c … 領域(窪み)
M1 … 穴の中心軸
M2 … ホルダの中心軸
L1、L2 … 線分
α … 接触角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9