(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】微細加工された酸化物の膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/26 20060101AFI20231002BHJP
H01L 21/306 20060101ALI20231002BHJP
H01L 21/027 20060101ALI20231002BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20231002BHJP
【FI】
G03F7/26 513
H01L21/306 N
H01L21/30 576
G03F7/20 501
(21)【出願番号】P 2019141853
(22)【出願日】2019-08-01
【審査請求日】2022-06-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.「水リフトオフプロセスによるβ-Ga▲2▼O▲3▼薄膜の選択成長・マイクロパターニング及び特性評価」(19a-224A-1),2018年 第79回応用物理学会秋季学術講演会[講演予稿集],発行者 公益社団法人 応用物理学会,発行日 平成30年9月5日 2.「水リフトオフプロセスによるβ-Ga▲2▼O▲3▼薄膜の選択成長・マイクロパターニング及び特性評価」(19a-224A-1),集会名 2018年第79回 応用物理学会秋季学術講演会,開催日 平成30年9月19日(会期:9月18日~9月20日),開催場所 名古屋国際会議場 3.第28回日本MRS年次大会 アブストラクト「水リフトオフ法による微細加工されたβ-Ga▲2▼O▲3▼薄膜の選択成長」(A1-019-009),ウェブサイト掲載日 平成30年12月5日,ウェブサイトのアドレス https://www.mrs-j.org/meeting2018/abstract/jp/login.php 4.「水リフトオフ法による微細加工されたβ-Ga▲2▼O▲3▼薄膜の選択成長」(A1-019-009),開催日 平成30年12月19日(会期:12月18日~12月20日),北九州国際会議場・西日本総合展示場
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】川江 健
(72)【発明者】
【氏名】井藤 聡詞
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-221794(JP,A)
【文献】特開平04-307772(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0036658(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0131168(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/26
G03F 7/20
H01L 21/306
H01L 21/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面にフォトレジスト材料を用いて所定の微細形状又はパターニングされたフォトレジスト層を形成するステップと、
前記表面にa-CaO膜を形成するステップと、
次に溶剤に浸漬し前記フォトレジスト層を有する部分を除去するステップと、
次に前記表面に酸化物の膜を成長させるステップと、
次に水に浸漬して前記a-CaO膜を有する部分を
潮解レート210nm/min以上で除去するステップとを
有し、
前記酸化物の膜はβ-Ga
2
O
3
であることを特徴とする微細加工された酸化物の膜の形成方法。
【請求項2】
基板の表面にSrRuO
3
膜を形成し、その表面にフォトレジスト材料を用いて所定の微細形状又はパターニングされたフォトレジスト層を形成するステップと、
前記表面にa-CaO膜を形成するステップと、
次に溶剤に浸漬し前記フォトレジスト層を有する部分を除去するステップと、
次に前記表面に酸化物の膜を成長させるステップと、
次に水に浸漬して前記a-CaO膜を有する部分を潮解レート210nm/min以上で除去するステップとを有し、
前記酸化物の膜はPb(Zr,Ti)O
3
であることを特徴とする微細加工された酸化物の膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物からなる膜の選択的成長技術に関し、特に水リフトオフ法により微細加工された薄膜を形成する技術に係る。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイス材料として近年、酸化ガリウムが注目されている。
酸化ガリウムには、5種類の結晶形が知られていて、コランダム構造を有するα-Ga2O3,βガリア構造と称されるβ-Ga2O3等が例として挙げられる。
高温超電導材料分野にても、多くの酸化物の膜が提案されている。
例えば、Y-Ba-Cu-O系,Bi-Sr-Ca-Cu-O系の材料が報告され、具体例としてはYBa2Cu3O7-X,Bi2Sr2Ca2Cu3O10等があり、いろいろな酸化物の膜が検討されている。
酸化物の膜には、強誘電特性を示すものもあり、例えばBaTiO3(チタン酸バリウム),Pb(Zr,Ti)O3(チタン酸ジルコン酸鉛)等が例として挙げられ、これらは圧電特性を有する。
【0003】
これらの酸化物の膜は、融点が高く、従来のレジスト材料を用いたレジストリフトオフ法を用いることができないため、微細加工された状態に成膜するのが難しいとされている。
【0004】
特許文献1には、基板上にフォトレジスト材料を用いたパターニングにより、基板/フォトレジスト材料表面を形成し、その上に水溶性材料を堆積した後に有機溶媒中にてフォトレジスト材料をリフトオフし、有機/無機材料を積層した後に水溶性材料をリフトオフさせるパターニング方法を開示するが、基板上に有機/無機材料をパターニングする目的であって、酸化物の膜を選択成長させるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、所定の微細形状又はパターニングされた状態に成膜できる酸化物の膜の形成方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る微細加工された酸化物の膜の形成方法は、基板の表面にフォトレジスト材料を用いて所定の微細形状又はパターニングされたフォトレジスト層を形成するステップと、前記表面にa-CaO膜(非晶質CaO膜)を形成するステップと、次に溶剤に浸漬し前記フォトレジスト層を有する部分を除去するステップと、次に前記表面に酸化物の膜を成長させるステップと、次に水に浸漬して前記a-CaO膜を有する部分を除去するステップとを有することを特徴とする。
【0008】
酸化物の膜は、各種PVD(物理蒸着)により成膜されるが、本発明において微細加工された酸化物の膜と表現したのは、単に酸化物の膜を成膜するのではなく、例えばデバイス加工等、所定の微細形状あるいはパターニングされた状態に酸化物の膜を選択成長させることをいう。
【0009】
本発明において、酸化物の膜は強誘電特性,圧電特性,高温超電導特性,半導体特性又は導電性のいずれかを有しているのが好ましい。
強誘電特性及び圧電特性を有するものとしては、BaTiO3,Pb(Zr,Ti)O3が挙げられ、高温超電導特性を有するものとしては、YBa2Cu3O7-X,Bi2Sr2Ca2Cu3O10等が例として挙げられる。
また、パワーデバイス材料としては、Ga2O3が例として挙げられる。
導電性の酸化物としてはSrRuO3が例として挙げられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、所定の微細形状にあるいは微細にパターニングされた酸化物の成膜に対して融点が高く、水による潮解性に優れたa-CaOの堆積膜を水リフトオフ法の犠牲層に用いたので、精密に制御された選択成長膜を形成することができる。
例えば、a-CaOはa-MgOに比較して、約290倍の潮解レート(210nm/min)を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】酸化物の膜の例としてβ-Ga
2O
3の薄膜を選択成長・パターニングしたプロセスの例を示す。
【
図2】サファイア基板上にβ-Ga
2O
3の膜をパターニングした表面の電子顕微鏡(FE-SEM)画像を示す。
【
図3】サファイア基板上にβ-Ga
2O
3の膜を形成した各種微細形状の電子顕微鏡画像を示す。
【
図4】サファイア基板上にβ-Ga
2O
3の膜を形成したサンプルのX線回折チャートを示す。
【
図5】サファイア基板上にβ-Ga
2O
3の膜を形成したサンプルの電子線後方散乱回折(EBSD)結果を示す。
【
図6】サファイア基板上にβ-Ga
2O
3の膜を形成したサンプルの原子間力顕微鏡(AFM)画像を示す。
【
図7】基板上にSRO(SrRuO
3)膜を形成し、その上に本発明に係るプロセスを用いてPZTをパターニングした場合のP-Eヒステリシスループの計測結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る微細加工された酸化物の膜の形成方法の例を以下、図に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0013】
図1に、評価したプロセスの流れを模式的に示す。
まず、c面サファイア基板の表面にフォトリソグラフィによりレジスト材料を用いて、レジスト層をパターニングする(
図1a)。
次に、
図1(b)に示すようにPulsed Laser Deposition(PLD)法を用いて、a-CaOの膜を堆積した。
次に、
図1(c)に示すようにアセントに浸漬し、レジスト層を有する部分を除去することで、a-CaO犠牲層がパターニングされる。
a-CaO層がパターニングされた基板の表面にPLD法を用い、600℃の高温にて減圧下、β-Ga
2O
3の膜を成膜した(
図1d)。
次に、a-CaO層を有する部分を純水に浸漬し、潮解させることでリフトオフさせた。
【0014】
上記のプロセスにて作製した試料(サンプル)の表面の電子顕微鏡画像を
図2,
図3に示す。
図2は、サファイア基板上にa-CaOの残渣がないか確認したものであり、パターニングされた以外の部位には、a-CaOが認められなかった。
図3は、いろいろな微細形状の選択成長例を示す。
図4は、上記サンプルのXRDの分析結果を示す。
β-Ga
2O
3が配向成長されているのが分かる。
図5にEBSDによる解析結果を示し、
図6のAFM像を示す。
これらの情報から、パターニング部における表面形状の変化や結晶性の劣化が見られないがことが確認できた。
【0015】
次に、PZT:Pb(Zr,Ti)O
3の膜を成膜した例を
図7に示す。
基板上にPLD法により、SRO(SrRuO
3)膜を成膜し、その上、本発明に係るプロセスを用いて、PZTの膜をパターニングした。
図7では、犠牲層にa-CaOを用いたものの他に、比較例としてa-MgOを用いたもの及びPZTを一様堆積させたサンプルを作製し、そのP-Eヒステリシスループを計測した。
図7中、CaOで示したループは、犠牲層にa-CaOを用いたものを示し、MgOで示したループは犠牲層にa-MgOを用いたものを示す。
また、cfで示したループは、PZTを一様堆積させたものを示す。
このことから、a-CaOの方がa-MgOよりも電気特性の劣化が抑えられていることが分かる。
これは、a-CaOの方がa-MgOよりも水による潮解性に優れているためと推定される。