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特許7357916ポリエステル含有多種混合プラスチックの処理方法
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  • 特許-ポリエステル含有多種混合プラスチックの処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】ポリエステル含有多種混合プラスチックの処理方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/24 20060101AFI20231002BHJP
   C08J 11/12 20060101ALI20231002BHJP
   C10G 1/10 20060101ALI20231002BHJP
【FI】
C08J11/24
C08J11/12
C10G1/10
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019188894
(22)【出願日】2019-10-15
(65)【公開番号】P2021063181
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】509164164
【氏名又は名称】地方独立行政法人山口県産業技術センター
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 翔伍
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-510225(JP,A)
【文献】特開2005-026104(JP,A)
【文献】特開2000-256274(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 11/00
B09B 1/00-5/00
C10G 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルを含む廃プラスチック混合物をエチルヘキサノールと反応させて可塑剤を合成する可塑剤合成工程と、
前記可塑剤合成工程でエチルヘキサノールと反応させた廃プラスチック混合物を、固体部分と液体部分に分離する固液分離工程と、
前記固液分離工程で分離された可塑剤と過剰エチルヘキサノールを含む液体部分から、過剰エチルヘキサノールを除去する精製工程と、
前記固液分離工程で分離された固体部分を熱分解し、熱分解ガスと残渣とを発生させる熱分解工程と、
前記熱分解工程で発生させた熱分解ガスを凝縮し、分解油として回収する回収工程を有する
ことを特徴とするポリエステル含有多種混合プラスチックの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルを含む廃棄された多種類のプラスチックからポリエステルを除去する方法及びポリエステルを除去した廃プラスチックを原料として分解油を取り出す油化方法を含むポリエステル含有多種混合プラスチックの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、廃棄されたプラスチックによる海洋汚染や廃棄されたプラスチックを焼却することによる有害ガスの発生等の環境汚染が社会問題化している。
そこで、使用済みのプラスチックを回収してリユースしたり、リサイクルしたりして再生利用することが試みられている。
プラスチックの油化も廃プラスチックのリサイクルの一つの手段であり、ポリオレフィンやポリスチレンなどの樹脂を高温で熱分解して炭素鎖を切断し油化を行うものである。
しかしながら、ポリエステルが混入する材料の場合、テレフタル酸の発生による配管の腐食と閉塞により油化することが困難となる。
そして、特許文献1(特開2006-16594号公報)に記載されるように、油化工程前に油化不適合物である金属類、塩ビ系樹脂、およびPETを選別除去し、これらの油化不適合物が選別除去された廃プラスチックを破砕する選別破砕処理工程を設けることで、ポリエステルの混入を防ぐ技術が存在する(特に、請求項1を参照)。
また、特許文献2(特開2002-20535号公報)には、ハロゲン含有プラスチックを含むプラスチック廃棄物からポリエチレンテレフタレートを除去し、ハロゲン残存率を低減させた良質の油化原料等を提供する技術が記載されている(特に、段落0014を参照)。
【0003】
しかし、特許文献1及び2記載の技術によっても、ポリエステルの混入を完全に防ぐことはできず、分離残渣であるポリエステル成分を有効にリサイクルすることもできない。
なお、特許文献3(特開2019-94408号公報)には、油化した際に発生するテレフタル酸を晶析する装置を付属させた油化装置が開示されているが、油化工程が煩雑になるため装置が高価となること、回収したテレフタル酸のリサイクル方法がないことなどの課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-16594号公報
【文献】特開2002-20535号公報
【文献】特開2019-94408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の課題等に鑑みてなされたものであり、ポリエステルを含む廃プラスチック混合物からポリエステル成分を選択的に分離するとともに、分離したポリエステル成分を可塑剤としてリサイクルする方法を得ることを第1の課題とする。
また、ポリエステル成分を選択的に分離した廃プラスチック混合物を原料として分解油を得ることを第2の課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、
ポリエステルを含む廃プラスチック混合物をエチルヘキサノールと反応させて可塑剤を合成する可塑剤合成工程と、
前記可塑剤合成工程でエチルヘキサノールと反応させた廃プラスチック混合物を、固体部分と液体部分に分離する固液分離工程と、
前記固液分離工程で分離された可塑剤と過剰エチルヘキサノールを含む液体部分から、過剰エチルヘキサノールを除去する精製工程と、
前記固液分離工程で分離された固体部分を熱分解し、熱分解ガスと残渣とを発生させる熱分解工程と、
前記熱分解工程で発生させた熱分解ガスを凝縮し、分解油として回収する回収工程を有することを特徴とするポリエステル含有多種混合プラスチックの処理方法である。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明のポリエステル含有多種混合プラスチックの処理方法は、ポリエステルを含む廃プラスチック混合物をエチルヘキサノールと反応させて可塑剤を合成する可塑剤合成工程と、可塑剤合成工程でエチルヘキサノールと反応させた廃プラスチック混合物を、固体部分と液体部分に分離する固液分離工程と、固液分離工程で分離された可塑剤と過剰エチルヘキサノールを含む液体部分から、過剰エチルヘキサノールを除去する精製工程を有しているので、廃プラスチック混合物からポリエステル成分を選択的に分離することができ、分離されたポリエステル成分を有効活用し、可塑剤としてリサイクルすることができる。
また、固液分離工程で分離された固体部分を熱分解し、熱分解ガスと残渣とを発生させる熱分解工程と、熱分解工程で発生させた熱分解ガスを凝縮し、分解油として回収する回収工程を有しており、ポリエステルが完全に除去された固体部分を熱分解するのでテレフタル酸が発生せず、簡単な構造の油化装置を用いて熱分解ガスを凝縮することにより容易に分解油を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ポリエステル含有多種混合プラスチックの処理方法の概要を示すフロー図。
図2】実施例に係るポリエステル含有多種混合プラスチックの処理方法の工程を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1はポリエステル含有多種混合プラスチックの処理方法の概要を示すフロー図である。
本発明は図1に示すとおり、ポリエステルを含有する廃プラスチック混合物をエチルヘキサノールと反応させて可塑剤を合成する可塑剤合成工程と、エチルヘキサノールと反応させた廃プラスチック混合物を固体部分と液体部分に分離する固液分離工程と、分離された液体部分から過剰エチルヘキサノールを除去し可塑剤を得る精製工程と、分離された固体部分を熱分解し、熱分解ガスと残渣とを発生させる熱分解工程と、熱分解ガスを凝縮することにより分解油を回収する回収工程とを有している。
以下、実施例によって本発明の実施形態を説明する。
【実施例1】
【0012】
図2は実施例に係るポリエステル含有多種混合プラスチックの処理方法の工程を示すフロー図である。
以下、実施例1に係るポリエステル含有多種混合プラスチックの処理方法について、順を追って説明する。
(工程1):可塑剤合成工程
ポリエステルを89%含有する廃プラスチック混合物2.1gに2-エチル-1-ヘキサノール7.98g、炭酸カリウム0.14gを反応容器に入れた後、ディーンスターク装置を取り付け、6時間還流反応を行った。
(工程2):固液分離工程
反応終了後冷却し、ろ過することにより固体部分と液体部分に分離した。
(工程3):精製工程
工程2で得た液体部分を減圧蒸留することにより過剰な2-エチル-1-ヘキサノールを留去し、続いて活性炭による吸着ろ過で精製し、2.62gのジオクチルテレフタレート(可塑剤)を得た。
(工程4):熱分解工程
工程2で得た固体部分20.1gを、アルゴンガス中において400℃で熱分解し、熱分解ガスと残渣とを発生させた。
(工程5):回収工程
工程4で得た熱分解ガスを凝縮することにより、14.1gの分解油を回収した。
【参考例1】
【0013】
実施例1の廃プラスチック混合物2.1gに代えてポリエステル19.2gを用い、工程1と同様に、に2-エチル-1-ヘキサノール39.3g、炭酸カリウム0.69gを反応容器に入れた後、ディーンスターク装置を取り付け、6時間還流反応を行った。
その後、工程2と同様に固体部分と液体部分に分離し、工程5と同様にして得られた液体部分を精製することにより、35.6gのジオクチルテレフタレート(可塑剤)を得た。
この実験により、廃プラスチック混合物に含まれているポリエステルがアルコール分解されてジオクチルテレフタレートが合成され、精製できることが確認できた。
【参考例2】
【0014】
参考例1のポリエステルをポリエチレンに変更した以外は参考例1と同じ手順でアルコール分解反応を行った。
その結果、ポリエチレンはアルコールと反応せず、固液分離工程を経た後も固相で回収されることが分かった。
【参考例3】
【0015】
参考例1のポリエステルをポリプロピレンに変更した以外は参考例1と同じ手順でアルコール分解反応を行った。
その結果、ポリプロピレンはアルコールと反応せず、固液分離工程を経た後も固相で回収されることが分かった。
【参考例4】
【0016】
参考例1のポリエステルをナイロンに変更した以外は参考例1と同じ手順でアルコール分解反応を行った。
その結果、ナイロンはアルコールと反応せず、固液分離工程を経た後も固相で回収されることが分かった。
【参考例5】
【0017】
参考例1のポリエステルをポリ塩化ビニルに変更した以外は参考例1と同じ手順でアルコール分解反応を行った。
その結果、ポリ塩化ビニルはアルコールと反応せず、固液分離工程を経た後も固相で回収されることが分かった。
【0018】
表1は、参考例1~5における各種プラスチック材料をアルコール分解した結果をまとめたものである。
そして、表1に示すとおり、各種プラスチック材料のうち、ポリエステルだけがアルコールと反応し、反応後は液相となることから、多種混合プラスチックをアルコール分解し、その後ろ過することによって、ポリエステルを選択的に分離できることが分かる。
【表1】
【0019】
実施例1に係るポリエステル含有多種混合プラスチックの処理方法の変形例を説明する。
(1)実施例1では、工程1においてポリエステル含有廃プラスチック混合物に2-エチル-1-ヘキサノールを反応させて、可塑剤であるジオクチルテレフタレートを合成したが、廃プラスチック混合物に各種エチルヘキサノール(例えば、2-エチル-1-ヘキサノール、3-エチル-1-ヘキサノール、4-エチル-1-ヘキサノール、3-エチル-2-ヘキサノール、4-エチル-2-ヘキサノール、3-エチル-3-ヘキサノール、4-エチル-3-ヘキサノール)を反応させて、適宜の可塑剤を合成しても良い。
(2)実施例1では、工程1においてポリエステルを89%含有する廃プラスチック混合物2.1gを用いたが、ポリエステルの含有量はもっと少なくても良く、廃プラスチック混合物の量はもっと多くても良い。
そして、廃プラスチック混合物の量が多く、また、大きな形状である場合には、可塑剤合成工程の前に、廃プラスチック混合物を切断、裁断又は破砕して使用する反応器に適した大きさとなるように、サイズ縮小工程を追加した方が良い。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明のポリエステル含有多種混合プラスチックの処理方法によれば、ポリエステルを含有する廃プラスチック混合物を有効活用でき、分離したポリエステル成分を可塑剤としてリサイクルすることができる。
また、ポリエステル成分を除去したプラスチックを用いて、分解油を安価に製造することができる。
図1
図2