(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】回路
(51)【国際特許分類】
H03F 1/04 20060101AFI20231002BHJP
H03F 3/45 20060101ALI20231002BHJP
【FI】
H03F1/04
H03F3/45
(21)【出願番号】P 2020029107
(22)【出願日】2020-02-25
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000130329
【氏名又は名称】株式会社コルグ
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】三枝 文夫
(72)【発明者】
【氏名】遠山 雅利
【審査官】及川 尚人
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-214588(JP,A)
【文献】特開2010-273195(JP,A)
【文献】実開平06-002816(JP,U)
【文献】実開平03-125572(JP,U)
【文献】実開平07-020716(JP,U)
【文献】特開2018-113594(JP,A)
【文献】特開2015-061257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 1/00-3/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメント、グリッド、アノードを有する直熱型の真空管を用いた回路であって、
第1バッファと第2バッファを備え、
前記第1バッファの入力には
第1抵抗を通して所定の第1直流電圧が印加され、前記第1バッファの出力は
前記フィラメントと同等の抵抗値の第1出力抵抗を介して前記フィラメントの一端に接続され、前記フィラメントの一端と前記第1バッファの入力の間には
第1コンデンサが配置され、
前記第2バッファの入力には
第2抵抗を通して所定の第2直流電圧が印加され、前記第2バッファの出力は
前記フィラメントと同等の抵抗値の第2出力抵抗を介して前記フィラメントの他端に接続され、前記フィラメントの他端と前記第2バッファの入力の間には
第2コンデンサが配置され
、
前記第1抵抗と前記第2抵抗の抵抗値、および前記第1コンデンサと前記第2コンデンサの静電容量は、当該回路での処理対象の信号の周波数帯域の下限での、前記フィラメント側から前記第1バッファ、前記第2バッファを見たインピーダンスが前記フィラメントの抵抗値に対して十分高くなる値であり、
前記グリッドへの入力信号を、当該回路の入力信号とし、
前記フィラメントの電位、もしくは前記アノードの電位を当該回路の出力信号とする
ことを特徴とする回路。
【請求項2】
フィラメント、グリッド、アノードを有する直熱型の真空管を用いた回路であって、
第1バッファと、第2バッファと、第1分圧抵抗、第2分圧抵抗、第3分圧抵抗
を備え、
前記第1分圧抵抗の一端は所定の第1直流供給電源に接続され、前記第1分圧抵抗の他端は前記第2分圧抵抗の一端に接続され、前記第2分圧抵抗の他端は前記第3分圧抵抗の一端に接続され、前記第3分圧抵抗の他端は所定の第2 直流供給電源に接続され、
前記第1バッファの入力は前記第1分圧抵抗の他端に接続され、前記第1バッファの出力は
前記フィラメントと同等の抵抗値の第1出力抵抗を介して前記フィラメントの一端に接続され、前記フィラメントの一端と前記第1バッファの入力の間には
第1コンデンサが配置されており、
前記第2バッファの入力は前記第2分圧抵抗の他端に接続され、前記第2バッファの出力は
前記フィラメントと同等の抵抗値の第2出力抵抗を介して前記フィラメントの他端に接続され、前記フィラメントの他端と前記第2バッファの入力の間には
第2コンデンサが配置され、
前記第1分圧抵抗、第2分圧抵抗、第3分圧抵抗
の抵抗値、および前記第1コンデンサと前記第2コンデンサの静電容量は、当該回路での処理対象の信号の周波数帯域の下限での、前記フィラメント側から前記第1バッファ、前記第2バッファを見たインピーダンスが前記フィラメントの抵抗値に対して十分高くなる値であ
り、
前記グリッドへの入力信号を、当該回路の入力信号とし、
前記フィラメントの電位、もしくは前記アノードの電位を当該回路の出力信号とする
ことを特徴とする回路。
【請求項3】
フィラメント、グリッド、アノードを有する直熱型の真空管を用いた回路であって、
第1バッファと第2バッファを備え、
前記第1バッファの入力には第1抵抗を通して所定の第1直流電圧が印加され、前記第1バッファの出力は前記フィラメントと同等の抵抗値の第1出力抵抗を介して前記フィラメントの一端に接続され、前記フィラメントの一端と前記第1バッファの入力の間には第1コンデンサが配置され、
前記第2バッファの入力には第2抵抗を通して所定の第2直流電圧が印加され、前記第2バッファの出力は前記フィラメントと同等の抵抗値の第2出力抵抗を介して前記フィラメントの他端に接続され、前記フィラメントの他端と前記第2バッファの入力の間には第2コンデンサが配置され、
前記第1抵抗と前記第2抵抗の抵抗値、および前記第1コンデンサと前記第2コンデンサの静電容量は、当該回路での処理対象の信号の周波数帯域の下限での、前記フィラメント側から前記第1バッファ、前記第2バッファを見たインピーダンスが前記フィラメントの抵抗値に対して十分高くなる値であり、
前記グリッドの電位を所定の第3直流電圧にし、
前記フィラメントへの入力信号を、当該回路の入力信号とし、
前記アノードの電位を当該回路の出力信号とする
ことを特徴とする回路。
【請求項4】
フィラメント、グリッド、アノードを有する直熱型の真空管を用いた回路であって、
第1バッファと、第2バッファと、第1分圧抵抗、第2分圧抵抗、第3分圧抵抗
を備え、
前記第1分圧抵抗の一端は所定の第1直流供給電源に接続され、前記第1分圧抵抗の他端は前記第2分圧抵抗の一端に接続され、前記第2分圧抵抗の他端は前記第3分圧抵抗の一端に接続され、前記第3分圧抵抗の他端は所定の第2 直流供給電源に接続され、
前記第1バッファの入力は前記第1分圧抵抗の他端に接続され、前記第1バッファの出力は前記フィラメントと同等の抵抗値の第1出力抵抗を介して前記フィラメントの一端に接続され、前記フィラメントの一端と前記第1バッファの入力の間には第1コンデンサが配置されており、
前記第2バッファの入力は前記第2分圧抵抗の他端に接続され、前記第2バッファの出力は前記フィラメントと同等の抵抗値の第2出力抵抗を介して前記フィラメントの他端に接続され、前記フィラメントの他端と前記第2バッファの入力の間には第2コンデンサが配置され、
前記第1分圧抵抗、第2分圧抵抗、第3分圧抵抗の抵抗値、および前記第1コンデンサと前記第2コンデンサの静電容量は、当該回路での処理対象の信号の周波数帯域の下限での、前記フィラメント側から前記第1バッファ、前記第2バッファを見たインピーダンスが前記フィラメントの抵抗値に対して十分高くなる値であり、
前記グリッドの電位を所定の第3直流電圧にし、
前記フィラメントへの入力信号を、当該回路の入力信号とし、
前記アノードの電位を当該回路の出力信号とする
ことを特徴とする回路。
【請求項5】
フィラメント、グリッド、アノードを有する直熱型の真空管を2つ用いた回路であって、
第1バッファと第2バッファを備え、
前記真空管の一方を第1真空管、他方を第2真空管とし、
前記第1バッファの入力には
第1抵抗を通して所定の第1直流電圧が印加され、前記第1バッファの出力は
前記フィラメントと同等の抵抗値の第1出力抵抗を介して前記第1真空管と前記第2真空管の両方のフィラメントの一端に接続され、前記両方のフィラメントの一端と前記第1バッファの入力の間には
第1コンデンサが配置され、
前記第2バッファの入力には
第2抵抗を通して所定の第2直流電圧が印加され、前記第2バッファの出力は
前記フィラメントと同等の抵抗値の第2出力抵抗を介して前記第1真空管と前記第2真空管の両方のフィラメントの他端に接続され、前記両方のフィラメントの他端と前記第2バッファの入力の間には
第2コンデンサが配置され、
前記第1抵抗と前記第2抵抗の抵抗値、および前記第1コンデンサと前記第2コンデンサの静電容量は、当該回路での処理対象の信号の周波数帯域の下限での、前記フィラメント側から前記第1バッファ、前記第2バッファを見たインピーダンスが前記フィラメントの抵抗値に対して十分高くなる値であり、
前記第1真空管の前記グリッドへの入力信号を、当該回路の入力信号とし、
前記第2真空管の前記グリッドの電位を所定の第3直流電圧に
し、
前記第1真空管の前記アノードの電位と、前記第2真空管の前記アノードの電位を当該回路の出力信号とする
ことを特徴とする回路。
【請求項6】
フィラメント、グリッド、アノードを有する直熱型の真空管を2つ用いた回路であって、
第1バッファと第2バッファを備え、
前記真空管の一方を第1真空管、他方を第2真空管とし、
前記第1バッファの入力には
第1抵抗を通して所定の第1直流電圧が印加され、前記第1バッファの出力は直接もしくは
前記フィラメントと同等の抵抗値の第1出力抵抗を介して前記第1真空管のフィラメントの一端に接続され、前記第1真空管のフィラメントの他端と前記第1バッファの入力の間には
第1コンデンサが配置され、
前記第1真空管のフィラメントの他端は、前記第2真空管のフィラメントの一端に接続され、
前記第2バッファの入力には
第2抵抗を通して所定の第2直流電圧が印加され、前記第2バッファの出力は直接もしくは
前記フィラメントと同等の抵抗値の第2出力抵抗を介して前記第2真空管のフィラメントの他端に接続され、前記第2真空管のフィラメントの一端と前記第2バッファの入力の間には
第2コンデンサが配置され、
前記第1抵抗と前記第2抵抗の抵抗値、および前記第1コンデンサと前記第2コンデンサの静電容量は、当該回路での処理対象の信号の周波数帯域の下限での、前記フィラメント側から前記第1バッファ、前記第2バッファを見たインピーダンスが前記フィラメントの抵抗値に対して十分高くなる値であり、
前記第1真空管の前記グリッドへの入力信号を、当該回路の入力信号とし、
前記第2真空管の前記グリッドの電位を所定の第3直流電圧に
し、
前記第1真空管の前記アノードの電位と、前記第2真空管の前記アノードの電位を当該回路の出力信号とする
ことを特徴とする回路。
【請求項7】
フィラメント、グリッド、アノードを有する直熱型の真空管を2つ用いた回路であって、
第1バッファと第2バッファを備え、
前記真空管の一方を第1真空管、他方を第2真空管とし、
前記第1バッファの入力には
第1抵抗を通して所定の第1直流電圧が印加され、前記第1バッファの出力は
前記フィラメントと同等の抵抗値の第1出力抵抗を介して前記第1真空管のフィラメントの一端に接続され、前記第1真空管のフィラメントの一端と前記第1バッファの入力の間には
第1コンデンサが配置され、
前記第1真空管のフィラメントの他端は、前記第2真空管のフィラメントの一端に接続され、
前記第2バッファの入力には
第2抵抗を通して所定の第2直流電圧が印加され、前記第2バッファの出力は
前記フィラメントと同等の抵抗値の第2出力抵抗を介して前記第2真空管のフィラメントの他端に接続され、前記第2真空管のフィラメントの他端と前記第2バッファの入力の間には
第2コンデンサが配置され、
前記第1抵抗と前記第2抵抗の抵抗値、および前記第1コンデンサと前記第2コンデンサの静電容量は、当該回路での処理対象の信号の周波数帯域の下限での、前記フィラメント側から前記第1バッファ、前記第2バッファを見たインピーダンスが前記フィラメントの抵抗値に対して十分高くなる値であり、
前記第1真空管の前記グリッドへの入力信号を、当該回路の入力信号とし、
前記第2真空管の前記グリッドの電位を所定の第3直流電圧に
し、
前記第1真空管の前記アノードの電位と、前記第2真空管の前記アノードの電位を当該回路の出力信号とする
ことを特徴とする回路。
【請求項8】
フィラメント、グリッド、アノードを有する直熱型の真空管を2つ用いた回路であって、
第1バッファと第2バッファを備え、
前記真空管の一方を第1真空管、他方を第2真空管とし、
前記第1バッファの入力には第1抵抗を通して所定の第1直流電圧が印加され、前記第1バッファの出力は前記フィラメントと同等の抵抗値の第1出力抵抗を介して前記第1真空管と前記第2真空管の両方のフィラメントの一端に接続され、前記両方のフィラメントの一端と前記第1バッファの入力の間には第1コンデンサが配置され、
前記第2バッファの入力には第2抵抗を通して所定の第2直流電圧が印加され、前記第2バッファの出力は前記フィラメントと同等の抵抗値の第2出力抵抗を介して前記第1真空管と前記第2真空管の両方のフィラメントの他端に接続され、前記両方のフィラメントの他端と前記第2バッファの入力の間には第2コンデンサが配置され、
前記第1抵抗と前記第2抵抗の抵抗値、および前記第1コンデンサと前記第2コンデンサの静電容量は、当該回路での処理対象の信号の周波数帯域の下限での、前記フィラメント側から前記第1バッファ、前記第2バッファを見たインピーダンスが前記フィラメントの抵抗値に対して十分高くなる値であり、
前記第1真空管の前記グリッドへの入力信号を、当該回路の入力信号とし、
前記第2真空管の前記グリッドの電位を所定の第3直流電圧にし、
前記第1真空管の前記アノードと前記第2真空管の前記アノードとの間に1次側コイルが配置されたトランスも備え、前記トランスの2次側コイルの両端の電位差を当該回路の出力信号とする
ことを特徴とする回路。
【請求項9】
フィラメント、グリッド、アノードを有する直熱型の真空管を2つ用いた回路であって、
第1バッファと第2バッファを備え、
前記真空管の一方を第1真空管、他方を第2真空管とし、
前記第1バッファの入力には第1抵抗を通して所定の第1直流電圧が印加され、前記第1バッファの出力は直接もしくは前記フィラメントと同等の抵抗値の第1出力抵抗を介して前記第1真空管のフィラメントの一端に接続され、前記第1真空管のフィラメントの他端と前記第1バッファの入力の間には第1コンデンサが配置され、
前記第1真空管のフィラメントの他端は、前記第2真空管のフィラメントの一端に接続され、
前記第2バッファの入力には第2抵抗を通して所定の第2直流電圧が印加され、前記第2バッファの出力は直接もしくは前記フィラメントと同等の抵抗値の第2出力抵抗を介して前記第2真空管のフィラメントの他端に接続され、前記第2真空管のフィラメントの一端と前記第2バッファの入力の間には第2コンデンサが配置され、
前記第1抵抗と前記第2抵抗の抵抗値、および前記第1コンデンサと前記第2コンデンサの静電容量は、当該回路での処理対象の信号の周波数帯域の下限での、前記フィラメント側から前記第1バッファ、前記第2バッファを見たインピーダンスが前記フィラメントの抵抗値に対して十分高くなる値であり、
前記第1真空管の前記グリッドへの入力信号を、当該回路の入力信号とし、
前記第2真空管の前記グリッドの電位を所定の第3直流電圧にし、
前記第1真空管の前記アノードと前記第2真空管の前記アノードとの間に1次側コイルが配置されたトランスも備え、前記トランスの2次側コイルの両端の電位差を当該回路の出力信号とする
ことを特徴とする回路。
【請求項10】
フィラメント、グリッド、アノードを有する直熱型の真空管を2つ用いた回路であって、
第1バッファと第2バッファを備え、
前記真空管の一方を第1真空管、他方を第2真空管とし、
前記第1バッファの入力には第1抵抗を通して所定の第1直流電圧が印加され、前記第1バッファの出力は前記フィラメントと同等の抵抗値の第1出力抵抗を介して前記第1真空管のフィラメントの一端に接続され、前記第1真空管のフィラメントの一端と前記第1バッファの入力の間には第1コンデンサが配置され、
前記第1真空管のフィラメントの他端は、前記第2真空管のフィラメントの一端に接続され、
前記第2バッファの入力には第2抵抗を通して所定の第2直流電圧が印加され、前記第2バッファの出力は前記フィラメントと同等の抵抗値の第2出力抵抗を介して前記第2真空管のフィラメントの他端に接続され、前記第2真空管のフィラメントの他端と前記第2バッファの入力の間には第2コンデンサが配置され、
前記第1抵抗と前記第2抵抗の抵抗値、および前記第1コンデンサと前記第2コンデンサの静電容量は、当該回路での処理対象の信号の周波数帯域の下限での、前記フィラメント側から前記第1バッファ、前記第2バッファを見たインピーダンスが前記フィラメントの抵抗値に対して十分高くなる値であり、
前記第1真空管の前記グリッドへの入力信号を、当該回路の入力信号とし、
前記第2真空管の前記グリッドの電位を所定の第3直流電圧にし、
前記第1真空管の前記アノードと前記第2真空管の前記アノードとの間に1次側コイルが配置されたトランスも備え、前記トランスの2次側コイルの両端の電位差を当該回路の出力信号とする
ことを特徴とする回路。
【請求項11】
請求項5から
10のいずれかに記載の回路であって、
第1分圧抵抗、第2分圧抵抗、第3分圧抵抗
を備え、
前記第1分圧抵抗の一端は所定の第1直流供給電源に接続され、前記第1分圧抵抗の他端は前記第2分圧抵抗の一端に接続され、前記第2分圧抵抗の他端は前記第3分圧抵抗の一端に接続され、前記第3分圧抵抗の他端は所定の第2直流供給電源に接続され、
前記第1分圧抵抗の他端の電圧が、前記第1直流電圧であり、
前記第2分圧抵抗の他端の電圧が、前記第2直流電圧で
ある
ことを特徴とする回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直熱型の真空管を用いた回路に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2、非特許文献1,2に示された真空管が直熱型の真空管として知られている。直熱型の真空管は、フィラメント、グリッド、アノードを備え、フィラメントに直接電流を流すことで、フィラメントを高温にし、熱電子を放出させる。直熱型の真空管の他に傍熱型の真空管も存在する。傍熱型の真空管は、フィラメントの代わりにヒーターとカソードを備えている。ヒーターに電流を流すことでカソードを高温にし、カソードから熱電子を放出させる。なお、ヒーターとカソードは絶縁されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-134298号公報
【文献】特開2016-134299号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】KORG、“Nutube”,[令和2年2月6日検索]、インターネット<https://korgnutube.com/jp/>.
【文献】Western Electric, “300-B Vacuum Tube”,[令和2年2月6日検索]、インターネット<https://www.westernelectric.com/products/300b.html>.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
直熱型の真空管のフィラメントおよび傍熱型の真空管のヒーターには大電流を流す必要がある。フィラメントまたはヒーターを高温にするために流す電流は、真空管で扱う信号の電流よりも非常に大きい。製品および使用方法にも依存するが、高温にするための電流は信号の電流の10~1000倍程度である。傍熱型の真空管の場合は、ヒーターとカソードが絶縁されているので、ヒーターを高温にするための電流と真空管が扱う信号の電流とは分けられている。したがって、カソードの電位を利用した信号処理回路を作成しやすい。例えば、カソードの電圧を出力とするカソードフォロアを利用しやすい。
【0006】
しかしながら、直熱型の真空管の場合、フィラメントに高温にするための電流と信号の電流の両方を流す必要があるので、フィラメントの電位を利用した現実的な信号処理回路を提供することが困難だった。
【0007】
本発明は、直熱型の真空管を用いた回路において、フィラメントの電位を利用した信号処理回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の回路は、フィラメント、グリッド、アノードを有する直熱型の真空管を用いた回路であり、第1バッファと第2バッファを備える。第1バッファの入力には抵抗を通して所定の第1直流電圧が印加され、第1バッファの出力は抵抗を介してフィラメントの一端に接続され、フィラメントの一端と第1バッファの入力の間にはコンデンサが配置される、また、第2バッファの入力には抵抗を通して所定の第2直流電圧が印加され、第2バッファの出力は抵抗を介してフィラメントの他端に接続され、フィラメントの他端と第2バッファの入力の間にはコンデンサが配置される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の回路によれば、フィラメント側から第1バッファ側を見たときのインピーダンスおよび第2バッファ側を見たときのインピーダンスは、直流に対しては低くなり、所定の周波数より高い交流成分に対しては高くなる。したがって、フィラメントを高温にするための回路の影響を受けることなく、フィラメントの電位を利用した信号処理回路を作成できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】フィラメント側からバッファ側を見たインピーダンスを説明するための図。
【
図10】実施例3変形例3の回路の構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、同じ機能を有する構成部には同じ番号を付し、重複説明を省略する。
【実施例1】
【0012】
図1に実施例1の回路の構成例を示す。真空管150は直熱型の真空管であり、フィラメント151、グリッド152、アノード153を有する。回路100は、真空管150、第1バッファ111、第2バッファ121を備える。第1バッファ111と第2バッファ121は、増幅率が約1であり、入力インピーダンスが大きく、出力インピーダンスが小さい。第1バッファ111、第2バッファ121には、オペアンプを用いてもよいし、トランジスタを用いてもよい。第1バッファ111と第2バッファ121の増幅率の詳細については、後述する。
【0013】
第1バッファ111の入力には抵抗135を通して所定の第1直流電圧V1が印加される。第1バッファ111の出力は出力抵抗112を介してフィラメント151の一端に接続される。フィラメント151の一端と第1バッファ111の入力の間にはコンデンサ113が配置される。第2バッファ121の入力には抵抗136を通して所定の第2直流電圧V2が印加される。第2バッファ121の出力は出力抵抗122を介してフィラメント151の他端に接続される。フィラメント151の他端と第2バッファ121の入力の間にはコンデンサ123が配置される。なお、抵抗135,136は抵抗値が大きい抵抗である。
【0014】
コンデンサ113,123の位置には、コンデンサのみを配置してもよいし、直列に抵抗も配置してもよい。少なくとも、第1バッファ111、第2バッファ121の入力と出力の間は、直流電流が流れないようにする。直流電流が流れない状態なので、第1バッファ111の入力に印加される電圧の直流成分は、抵抗135を通して印加される第1直流電圧V1と同じとなる。一方、交流成分は、第1バッファ111の入力にフィードバックされる。直流を供給する電源を直接バッファ111に接続したのでは、交流成分をフィードバックできなくなるため、抵抗を通して直流電圧を印加する。「抵抗を通して直流電圧を印加する」とは、電圧の直流成分は所定の電圧に維持し、交流成分は変化できる状態で直流電圧を供給することを意味している。また、バッファ111の増幅率は約1なので、バッファ111の出力の電位は約V1となる。同様に、バッファ121の入力に印加される電圧の直流成分は、抵抗136を通して印加される第2直流電圧V2と同じとなる。また、バッファ121の増幅率は約1なので、バッファ121の出力の電位は約V2となる。
【0015】
出力抵抗112,122の抵抗値をr、フィラメントの抵抗値をrfとすると、フィラメント151には、|V2-V1|/(rf+2r)の電流が流れる。フィラメント151を高温にするために、出力抵抗112,122は、フィラメント151と同等の小さい抵抗値にする必要がある。所定の第1直流電圧V1、第2直流電圧V2は、フィラメント151を高温にするために必要な電位差となるように設定すればよい。フィラメント151に流れる電流は、第1直流電圧V1と第2直流電圧V2の電位差の絶対値に比例するだけなので、第1直流電圧V1と第2直流電圧V2自体の電位は、グリッド152に印加するバイアス電圧を調整しやすいように定めればよい。例えば、グリッド152に信号を入力する際にバイアス電圧を付加する必要がないように、第1直流電圧V1と第2直流電圧V2の電位を設定してもよい。
【0016】
第1直流電圧V
1、第2直流電圧V
2は、抵抗値が大きい3つの抵抗を用いて、
図2に示す構成で実現してもよい。
図2に実施例1の回路の別の構成例を示す。
図1と異なる点は、第1直流電圧V
1、第2直流電圧V
2を3つの抵抗を用いて印加していることである。回路101は、第1分圧抵抗131、第2分圧抵抗132、第3分圧抵抗133を備える。この場合、第1分圧抵抗131の一端は所定の第1直流供給電源V
Aに接続される。第1分圧抵抗131の他端は第2分圧抵抗132の一端に接続される。第2分圧抵抗132の他端は第3分圧抵抗133の一端に接続される。第3分圧抵抗133の他端は所定の第2直流供給電源V
Bに接続される。第1分圧抵抗131の他端の電圧を第1直流電圧V
1とし、第1バッファ111の入力に接続すればよい。第2分圧抵抗132の他端の電圧を第2直流電圧V
2とし、第2バッファ121の入力に接続すればよい。例えば、第1直流供給電源V
Aを負の供給電圧-V
C、第2直流供給電源V
Bを正の供給電圧+V
Cとし、第1直流電圧V
1と第2直流電圧V
2が所定の電圧になるように、第1分圧抵抗131、第2分圧抵抗132、第3分圧抵抗133で分圧すればよい。上述のように第1分圧抵抗、第2分圧抵抗、第3分圧抵抗は、出力抵抗に比べ十分大きい抵抗値である。なお、第1バッファ111のフィードバックによって電位V
1は影響を受けると考えられるが、電位V
1の直流成分は変化しない。電位V
2についても同様である。したがって、第1分圧抵抗131、第2分圧抵抗132、第3分圧抵抗133で、第1直流供給電源V
Aと第2直流供給電源V
Bを分圧すれば、第1直流電圧V
1と第2直流電圧V
2を所定の電圧に設定できる。このように設定された直流電圧をバッファの入力に印加する場合も、「バッファの入力に抵抗を介して直流電圧を印加する」に該当する。
【0017】
図1,2に示した回路は、傍熱型の真空管を用いた場合のカソードフロアに相当する。回路100,101を、カソードフロアとして動作させる場合、アノード153に、直接または抵抗154を介して所定の直流電圧であるアノード電圧+Vが印加される。回路100,101の場合は、グリッド152に当該回路への入力信号sである交流の信号が入力される。なお、バイアス電圧が必要な場合は、入力信号sはバイアス電圧が付加された上で、グリッド152に入力される。そして、フィラメント151の電位に含まれる交流成分を出力信号Sとする。
図1,2の例では、フィラメント151の他端(第2バッファ側)の電位を出力信号としているが、フィラメント151の一端(第1バッファ側)の電位を出力信号としても構わない。
【0018】
図3は、フィラメント側からバッファ側を見たインピーダンスを説明するための図である。
図3では、第2バッファ121を例として示している。第2バッファ121の増幅率をA、出力抵抗の抵抗値をr、コンデンサ123の静電容量をC、第2バッファ121の入力と接地までの抵抗134の抵抗値をR、フィラメント側の電圧をV、フィラメント側からバッファ側に流れる電流をI、出力抵抗122に流れる電流をI
1、コンデンサ123と抵抗134に流れる電流をI
2、流れる電流の周波数をf、jは虚数を示す記号とする。このとき、バッファ121の入力の電位はR・I
2であり、バッファ121の出力の電位はA・R・I
2であり、以下の関係が成り立つ。
【0019】
I1=(V-A・R・I2)/r
I2=V/(R+1/j2πfC)
I=I1+I2
これらの式からI1とI2を消去し、インピーダンスZ(f)=V/Iを求めると、以下のようになる。
【0020】
【0021】
直流(f=0)の場合、Z(0)=rとなる。また、周波数が高くなるとインピーダンスZ(f)は大きくなり、周波数が十分高くなると、
【0022】
【0023】
となる。静電容量C、抵抗値R、増幅率Aを調整することで、フィラメント側からバッファ側を見たインピーダンスの周波数特性を設定できることが分かる。処理対象の信号の周波数帯域の下限でのインピーダンスが十分に高くなるように、静電容量C、抵抗値R、増幅率Aを定めればよい。音響信号に回路100,101を使用する場合、下限が10Hzから20Hzになるように静電容量C、抵抗値R、増幅率Aを調整すればよい。特に、増幅率Aを約1にすればZ(f)≒Rにでき、増幅率AをA=1+r/RにすればZ(f)を無限大にできる。ただし、rは小さい値であり、Rは大きい値なので増幅率Aは約1にすればよい。
【0024】
例えば、C=100μF、R=2.2MΩ、r=41Ω(非特許文献1のフィラメントの抵抗値)とする。このとき、A=1であれば、10Hzで500kΩ、20Hzで1MΩ、100Hzで2MΩ、200Hz以上で約2.2MΩとなる。A=0.9999であれば、10Hzで300kΩ、100Hz以上で約330Ωとなる。A=0.9995のときは、10Hz以上は約90kΩである。いずれの場合も、0.001Hzのときは100Ω以下であり、直流のときは41Ωである。いずれの場合も、音響信号の処理に利用できるが、増幅率Aは1に近い方が望ましい。第1バッファ111の場合も同様である。つまり、
図3に示した回路において、rを小さい値、RとCを大きい値、Aを約1に設定することで、直流成分に対するインピーダンスを低くし、交流成分に対するインピーダンスを高くできる。「約1」の許容範囲は、回路100,101に求められる精度などから定めればよい。
【0025】
回路100,101によれば、フィラメント側から第1バッファ側を見たときのインピーダンスおよび第2バッファ側を見たときのインピーダンスは、直流に対しては低くなり、所定の周波数より高い交流成分に対しては高くなる。したがって、フィラメントを高温にするための回路の影響を受けることなく、フィラメントの電位を利用した信号処理回路を作成できる。特に、
図1,2のようにカソードフォロアに相当する回路にすれば、フィラメントの電位を出力信号にすることができる。また、カソードフロアは入力インピーダンスが大きく出力インピーダンスが小さい特性を持つので、
図1,2の回路は、インピーダンス変換器として利用できる。
【0026】
[変形例1]
図4に、実施例1変形例1の回路の構成例を示す。真空管160は直熱型の真空管であり、フィラメント161、グリッド162、アノード163を有する。回路102は、真空管160、第1バッファ111、第2バッファ121を備える。第1バッファ111と第2バッファ121は、増幅率が約1であり、入力インピーダンスが大きく、出力インピーダンスが小さい。第1バッファ111、第2バッファ121には、オペアンプを用いてもよいし、トランジスタを用いてもよい。
【0027】
回路102の構成は、回路101と同じであり、回路102への入出力が異なる。回路102においても、第1バッファ111の入力には抵抗を通して所定の第1直流電圧V
1が印加される。第1バッファ111の出力は出力抵抗112を介してフィラメント161の一端に接続される。フィラメント161の一端と第1バッファ111の入力の間にはコンデンサ113が配置される。第2バッファ121の入力には抵抗を通して所定の第2直流電圧V
2が印加される。第2バッファ121の出力は出力抵抗122を介してフィラメント161の他端に接続される。フィラメント161の他端と第2バッファ121の入力の間にはコンデンサ123が配置される。なお、コンデンサ113,123の位置には、コンデンサのみを配置してもよいし、直列に抵抗も配置してもよい。少なくとも、第1バッファ111、第2バッファ121の入力と出力の間は、直流電流が流れないようにする。なお、
図4では、3つの抵抗を用いて第1直流電圧V
1、第2直流電圧V
2を印加する構成を示しているが、
図1に示した2つの抵抗を用いる構成でもよい。
【0028】
また、アノード163に、抵抗164を介して所定の直流電圧であるアノード電圧+Vが印加される。グリッド162の電位は、所定の第3直流電圧V
Gに維持される。第3直流電圧V
Gは、第1直流電圧V
1と第2直流電圧V
2と真空管160の特性を考慮して定めればよい。なお、第3直流電圧V
Gを接地にすればよいように、第1直流電圧V
1と第2直流電圧V
2を設定すれば、回路をシンプルにできる。回路102では、フィラメント161に入力信号sである交流の信号が入力される。
図4の例では、フィラメント161の他端側に入力されている。そして、回路102は、アノード163の電位を出力信号Sとする。
【0029】
回路102の場合も、フィラメント側から第1バッファ側を見たときのインピーダンスおよび第2バッファ側を見たときのインピーダンスは、直流に対しては低くなり、所定の周波数より高い交流成分に対しては高くなる。したがって、フィラメントを高温にするための回路の影響を受けることなく、フィラメントの電位を利用した信号処理回路を作成できる。
【実施例2】
【0030】
図5に、実施例2の回路の構成例を示す。真空管150,160は直熱型の真空管であり、フィラメント151,161、グリッド152,162、アノード153,163を有する。回路200は、真空管150,160、第1バッファ111、第2バッファ121を備える。第1バッファ111と第2バッファ121は、増幅率が約1であり、入力インピーダンスが大きく、出力インピーダンスが小さい。第1バッファ111、第2バッファ121には、オペアンプを用いてもよいし、トランジスタを用いてもよい。
【0031】
第1バッファ111の入力には抵抗を通して所定の第1直流電圧V1が印加される。第1バッファ111の出力は出力抵抗112を介してフィラメント151,161の一端に接続される。フィラメント151,161の一端と第1バッファ111の入力の間にはコンデンサ113が配置される。第2バッファ121の入力には抵抗を通して所定の第2直流電圧V2が印加される。第2バッファ121の出力は出力抵抗122を介してフィラメント151,161の他端に接続される。フィラメント151,161の他端と第2バッファ121の入力の間にはコンデンサ123が配置される。なお、コンデンサ113,123の位置には、コンデンサのみを配置してもよいし、直列に抵抗も配置してもよい。少なくとも、第1バッファ111、第2バッファ121の入力と出力の間は、直流電流が流れないようにする。アノード153,163には、抵抗154,164を介して所定の直流電圧であるアノード電圧+Vが印加される。
【0032】
真空管150のグリッド152への入力信号sを、回路200の入力信号とする。そして、真空管160のグリッド162の電位を所定の第3直流電圧V
Gに維持する。回路200では、真空管150のアノード153の電位を回路200の1つ目の出力信号S
1とする。出力信号S
1は、入力信号sとは位相が反転されて増幅されている。真空管150のフィラメント151の電位はフィラメント161に入力される。
図5の真空管160に関する回路構成は実施例1変形例1と同じである。真空管160のアノード163の電位を回路200の2つ目の出力信号S
2とする。フィラメント151の電位は入力信号sと同相であり、アノード163の電位も同相である。つまり、出力信号S
1と出力信号S
2とは逆相となっている。
【0033】
回路200は、回路101(
図2)と回路102(
図4)とを共通する回路を共用しながら組み合わせた回路である。
図5に示すように、回路200は、第1分圧抵抗131、第2分圧抵抗132、第3分圧抵抗133も備える。この場合、回路101と同様に、第1分圧抵抗131の一端は所定の第1直流供給電源V
Aに接続される。第1分圧抵抗131の他端は第2分圧抵抗132の一端に接続される。第2分圧抵抗132の他端は第3分圧抵抗133の一端に接続される。第3分圧抵抗133の他端は所定の第2直流供給電源V
Bに接続される。記第1分圧抵抗131の他端の電圧を第1直流電圧V
1とし、第1バッファ111の入力に接続すればよい。第2分圧抵抗132の他端の電圧を第2直流電圧V
2とし、第2バッファ121の入力に接続すればよい。第1分圧抵抗、第2分圧抵抗、第3分圧抵抗は、出力抵抗に比べ十分大きい抵抗値である。なお、
図5では、3つの抵抗を用いて第1直流電圧V
1、第2直流電圧V
2を印加する構成を示しているが、
図1に示した2つの抵抗を用いる構成でもよい。後述する
図6~10においても同様である。
【0034】
回路200によれば、フィラメント側から第1バッファ側を見たときのインピーダンスおよび第2バッファ側を見たときのインピーダンスは、直流に対しては低くなり、所定の周波数より高い交流成分に対しては高くなる。したがって、フィラメントを高温にするための回路の影響を受けることなく、フィラメントの電位を利用した信号処理回路を作成できる。
【0035】
[変形例1]
図6に、実施例2変形例1の回路の構成例を示す。回路201は、抵抗154、164の代わりに、トランス170を備えていることが回路200との相違点である。そのほかの構成は、回路200と同じである。トランス170の1次側コイル155,165は真空管150のアノード153と真空管160のアノード163の間に配置され、1次側コイル155と1次側コイル165の間に所定の直流電圧であるアノード電圧+Vが印加される。
図6では、2次側コイル175の両端の電位差を出力とする。例えば、出力信号Sをスピーカ(図示していない)に接続すればよい。回路201の場合も、フィラメントを高温にするための回路の影響を受けることなく、フィラメントの電位を利用した信号処理回路を作成できる。
【実施例3】
【0036】
図7に、実施例3の回路の構成例を示す。真空管150,160は直熱型の真空管であり、フィラメント151,161、グリッド152,162、アノード153,163を有する。回路200は、真空管150,160、第1バッファ111、第2バッファ121を備える。第1バッファ111と第2バッファ121は、増幅率が約1であり、入力インピーダンスが大きく、出力インピーダンスが小さい。第1バッファ111、第2バッファ121には、オペアンプを用いてもよいし、トランジスタを用いてもよい。
【0037】
第1バッファ111の入力には抵抗を通して所定の第1直流電圧V1が印加される。第1バッファ111の出力は直接もしくは出力抵抗112を介して真空管150のフィラメント151の一端に接続される。真空管150のフィラメント151の他端と第1バッファ111の入力の間にはコンデンサ113が配置される。真空管150のフィラメント151の他端は、真空管160のフィラメント161の一端に接続される。第2バッファ121の入力には抵抗を通して所定の第2直流電圧V2が印加される。第2バッファ121の出力は直接もしくは出力抵抗122を介して真空管160のフィラメント161の他端に接続される。真空管160のフィラメント161の一端と第2バッファ121の入力の間にはコンデンサ123が配置される。なお、コンデンサ113,123の位置には、コンデンサのみを配置してもよいし、直列に抵抗も配置してもよい。少なくとも、第1バッファ111、第2バッファ121の入力と出力の間は、直流電流が流れないようにする。上記の構成の場合、フィラメント151,161が出力抵抗の役割を果たすので、出力抵抗112,122は無くてもよい。したがって、第1バッファ111の出力をフィラメント151の一端に直接接続してもよい。また、第2バッファ121の出力をフィラメント161の他端に直接接続してもよい。アノード153,163には、抵抗154,164を介して所定の直流電圧であるアノード電圧+Vが印加される。
【0038】
真空管150のグリッド152への入力信号sを、回路300の入力信号とする。そして、真空管160のグリッド162の電位を所定の第3直流電圧V
Gに維持する。回路300では、真空管150のアノード153の電位を回路300の1つ目の出力信号S
1とする。出力信号S
1は、入力信号sとは位相が反転されて増幅されている。真空管150のフィラメント151の電位はフィラメント161に入力される。そして、真空管160のアノード163の電位を回路300の2つ目の出力信号S
2とする。フィラメント151の電位は入力信号sと同相であり、アノード163の電位も同相である。つまり、出力信号S
1と出力信号S
2とは逆相となっている。
図5に示した回路200ではフィラメント151,161が並列に接続されていたが、回路300は、フィラメント151,161が直列に接続されている。実施例2と実施例3の違いはフィラメントの接続方法である。
【0039】
回路300も、第1分圧抵抗131、第2分圧抵抗132、第3分圧抵抗133を備えてもよい。第1分圧抵抗131、第2分圧抵抗132、第3分圧抵抗133を備える場合の構成は、回路200と同じである。
【0040】
回路300によれば、フィラメント側から第1バッファ側を見たときのインピーダンスおよび第2バッファ側を見たときのインピーダンスは、直流に対しては低くなり、所定の周波数より高い交流成分に対しては高くなる。したがって、フィラメントを高温にするための回路の影響を受けることなく、フィラメントの電位を利用した信号処理回路を作成できる。
【0041】
[変形例1]
図8に、実施例3変形例1の回路の構成例を示す。回路301は、抵抗154、164の代わりに、トランス170を備えていることが回路300との相違点である。そのほかの構成は、回路300と同じである。トランス170の1次側コイル155,165は真空管150のアノード153と真空管160のアノード163の間に配置され、1次側コイル155と1次側コイル165の間に所定の直流電圧であるアノード電圧+Vが印加される。
図8では、2次側コイル175の両端の電位差を出力とする。例えば、出力信号Sをスピーカ(図示していない)に接続すればよい。回路301の場合も、フィラメントを高温にするための回路の影響を受けることなく、フィラメントの電位を利用した信号処理回路を作成できる。
【0042】
[変形例2]
図9に、実施例3変形例2の回路の構成例を示す。回路302と回路300との相違点は以下のとおりである。回路302では、第1バッファ111の出力は出力抵抗112を介して真空管150のフィラメント151の一端に接続される。真空管150のフィラメント151の一端と第1バッファ111の入力の間にはコンデンサ113が配置される。第2バッファ121の出力は出力抵抗122を介して真空管160のフィラメント161の他端に接続される。真空管160のフィラメント161の他端と第2バッファ121の入力の間にはコンデンサ123が配置される。回路300では、フィラメント151,161に出力抵抗の役割を果たさせることができたので出力抵抗112,122を省略可能だったが、回路302では出力抵抗112,122を備える必要がある。回路302の場合も、フィラメントを高温にするための回路の影響を受けることなく、フィラメントの電位を利用した信号処理回路を作成できる。
【0043】
[変形例3]
図10に、実施例3変形例3の回路の構成例を示す。回路303は、抵抗154、164の代わりに、トランス170を備えていることが回路302との相違点である。そのほかの構成は、回路302と同じである。トランス170の1次側コイル155,165は真空管150のアノード153と真空管160のアノード163の間に配置され、1次側コイル155と1次側コイル165の間に所定の直流電圧であるアノード電圧+Vが印加される。
図10では、2次側コイル175の両端の電位差を出力とする。例えば、出力信号Sをスピーカ(図示していない)に接続すればよい。回路303の場合も、フィラメントを高温にするための回路の影響を受けることなく、フィラメントの電位を利用した信号処理回路を作成できる。
【符号の説明】
【0044】
100,101,102,200,201,300,301,302,303 回路
111 第1バッファ 112,122 出力抵抗
113,123 コンデンサ 121 第2バッファ
131 第1分圧抵抗 132 第2分圧抵抗
133 第3分圧抵抗 134,135,136 抵抗
150,160 真空管 151,161 フィラメント
152,162 グリッド 153,163 アノード
154,164 抵抗 155,165 1次側コイル
170 トランス 175 2次側コイル