(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】窒素化合物を含むマーカ組成物、並びに当該マーカ組成物を製造及び使用するための方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/88 20060101AFI20231002BHJP
G01N 30/86 20060101ALI20231002BHJP
G01N 30/64 20060101ALI20231002BHJP
【FI】
G01N30/88 M
G01N30/86 J
G01N30/64 F
G01N30/86 M
(21)【出願番号】P 2020511171
(86)(22)【出願日】2018-08-23
(86)【国際出願番号】 US2018047713
(87)【国際公開番号】W WO2019040726
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-07-28
(32)【優先日】2017-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519014040
【氏名又は名称】ユナイテッド カラー マニュファクチャリング,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】ヒントン マイケル ピー.
(72)【発明者】
【氏名】フレデリコ ジャスティン ジェイ.
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/087360(WO,A1)
【文献】米国特許第05229298(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0184555(US,A1)
【文献】国際公開第2012/125120(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00-30/96
B01J 20/281-20/292
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非ピロリジノン窒素含有化合物を含むガスクロマトグラフィマーカと、分光分析マーカを含有する炭化水素流体を識別する方法であって、
前記非ピロリジノン窒素含有化合物と前記分光分析マーカは異なる化学物質であり、前記非ピロリジノン窒素含有化合物は1~12個の炭素原子の長さの0、1、2又は3のアルキル側鎖又はアルケニル側鎖を有するコア構造であり、前記コア構造はピロール、ピラゾール、ピラゾロン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピロリン、ピロリジン、ピペリドン、ピペリジン、ピペラジン、ピラジン、ピリダジノン、イミダゾール、イミダゾリドン、オキサゾール、オキサゾリンまたはオキサゾリジンであり、
a)前記炭化水素流体のサンプルをガスクロマトグラフィシステムに導入するステップと、それにより当該サンプルのガスクロマトグラフィレポートが得られ、
b)前記ガスクロマトグラフィレポートを使用して、前記炭化水素流体中における前記非ピロリジノン窒素含有化合物の存在を確認するステップと、
c)前記炭化水素流体の第2のサンプルを分光分析するステップと、それにより第2のサンプルの分光分析レポートが得られ、
d)前記分光分析レポートを使用することにより、前記炭化水素流体中における前記分光分析マーカの有無を確認するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ガスクロマトグラフィシステムは窒素リン検出器付きガスクロマトグラフィ(GC-NPD)システムであり、ステップa)は、前記サンプルを前記GC-NPDシステムに導入するステップである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記GC-NPDシステムは、熱イオン化検出器又はアルカリ炎イオン化検出器を備えている、請求項2記載の方法。
【請求項4】
ステップa)により得られる前記ガスクロマトグラフィレポートは、前記サンプル中の窒素又はリンの量に比例する強度の値を含む、請求項2又は3記載の方法。
【請求項5】
前記強度は、前記サンプルの成分の溶出時間に依存する時変性である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
ステップb)の確認は、1つ又は複数の所定の溶出時間において前記強度の値をモニタリングすることを含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記ガスクロマトグラフィシステムは、ガスクロマトグラフィ質量分析(GC-MS)システム、ガスクロマトグラフィ-ホール電解導電率検出器(GC-HECD)システム、ガスクロマトグラフィ-熱イオン化検出器(GC-FID)システム、ガスクロマトグラフィ-電子捕獲検出器(GC-ECD)システム、ガスクロマトグラフィ-光イオン化検出器(GC-PID)システム、又はこれらの組み合わせであり、
ステップa)は、前記GC-MSシステム、前記GC-HECDシステム、前記GC-FIDシステム、前記GC-ECDシステム、前記GC-PIDシステム、又はこれらの組み合わせに前記サンプルを導入することである、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記ガスクロマトグラフィシステムは、溶融シリカカラム、ポリエチレングリコールカラム、シアノプロピルカラム、トリフルオロプロピルカラム、置換ポリシロキサンカラム、又はこれらの組合せを備えており、
ステップa)の導入は、前記サンプルを前記溶融シリカカラム、前記ポリエチレングリコールカラム、前記シアノプロピルカラム、前記トリフルオロプロピルカラム、前記置換ポリシロキサンカラム、又はこれらの前記組合せに導入することを含む、請求項1~7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
ステップa)の導入は、窒素と、ヘリウムと、これらの組合せから成る群から選択されたキャリアガスと共に前記サンプルを導入することを含む、請求項1~8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
ステップb)の確認は、前記ガスクロマトグラフィレポートと参照レポートとを比較することを含む、請求項1~9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記非ピロリジノン窒素含有化合物は、前記炭化水素流体中に0.1ppm~500ppmの量で存在する、請求項1~10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
ステップc)の分光分析は、蛍光分光分析、UV-Vis分光分析、ラマン分光分析、近赤外線分光分析、又はこれらの組合せを含む、請求項1~11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
ステップd)の確認は、前記分光分析レポートと参照スペクトルとを比較することを含む、請求項1~12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記分光分析マーカは、前記炭化水素流体中に0.1ppm~500ppmの量で存在する、請求項1~13のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願の相互参照>
本願は、2017年8月23日に出願された米国仮出願番号第62/549,087号に基づくと共にその優先権を主張するものであり、当該仮出願の内容はあらゆる目的のために参照により本願明細書に組み込まれているものとする。
【0002】
<連邦政府の支援による研究に関する言明>
無し。
【0003】
本発明の分野は、流体のためのマーカ組成物である。具体的には、本発明は窒素含有化合物を含むマーカ組成物に関するものである。
【背景技術】
【0004】
マーカは、製品、典型的には石油製品及びアルコール並びに多数の適切な流体に標識付けするために使用でき、その後検出のために使用できる物質である。マーカは通常、識別対象の流体中に溶解され、その後、標識付けされた流体について物理的又は化学的なテストを行うことにより検出することができる。例えば、行政機関が特定の等級の燃料に対して適切な税金が支払われることを保証するためにマーカを使用することがある。また、石油会社が自社の製品にマーカを付することにより、当該製品を希釈又は変化させた者を特定するのを助けることもある。石油会社はしばしば、自社ブランドの石油製品が例えば揮発性及びオクタン価に関する特定の仕様を満たすことを保証し、かつ、洗浄剤及び他の成分を含有する有効な添加物パッケージを自社の石油製品に設けるための費用が膨大になることが多い。消費者は製品名及び品質表示を頼りに、購入しようとする製品が所望の品質であることを納得する。
【0005】
悪徳者が、高品質ブランド又は高品質の表示が付された製品に対して消費者が支払おうとする金額で劣悪品を販売することにより、利益を増大させることがあり得る。また、ブランド製品を劣悪品によって希釈するだけで、利益を簡単に増大させることもできる。例えばある製品を他の製品に置き換える小売業者/ディーラー又はブランド製品を劣悪品とブレンドする小売業者/ディーラーを取り締まることは、ガソリンの場合には困難である。その理由は、ブレンドされた製品は量的には、ブランド製品の各成分が存在するように見せかけることができるからである。ブランド製品の重要な成分は一般的には、劣悪品による希釈を検出するための定量的分析が非常に困難になり、時間を要し、高コストになるように低レベルで存在する。
【0006】
限定列挙ではないが燃料、潤滑剤、グリース等を含めた石油製品用のマーカ系が提案されているが、その有効性を阻害する種々の欠点が存在する。現在入手可能な多くのマーカは、ガスクロマトグラフィ(GC)による分析によって検出される法廷用マーカとしても、また、マーカの展開又は抽出によって検出される簡単なフィールドテスト用マーカとしても、使用することができない。なお、上記マーカの具体例は限定列挙ではない。多くの公知のマーカは、当該マーカが添加されてそのマーカ系の完全性を損なう流体から、容易に除去することができる。現在入手可能な多くのマーカは、マーカ製品を検出するために、燃料から除去できない成分と容易に組み合わせることができない。また、かかるマーカの研究室分析の現在の手法は、非常に高コストになってしまっている。
【0007】
上記点に鑑み、マーカとして有用な組成物であって、フィールドだけでなく研究室においても検出できる組成物を提供することが望ましい。フィールドテスト結果だけでなく、限定列挙ではないが例えばGCによる分析等の通常の研究室技術を使用してマーカの存在の研究室確認も提供するため、フィールドテスト技術と既存のクロマトグラフィとを組み合わせることが望ましい。さらに、マーカは上記のことを達成しつつ、悪徳者による不所望の抽出又は除去(洗浄(laundering))に対して耐性を保持できる必要もある。さらに、限定列挙ではないが石油製品やアルコール等を含めた幅広く多岐にわたる流体においても使用できるマーカ組成物を提供することも望ましい。石油製品には、燃料、潤滑剤、グリース等を含むことができるが、これらは限定列挙ではない。また、作業員の高度な訓練を要しない経済的な検出手法を提供することも望ましい。
【発明の概要】
【0008】
一側面では本願開示は、洗浄されたマーカ付き炭化水素流体を識別する方法を提供するものであり、未洗浄のマーカ付き炭化水素流体は、ガスクロマトグラフィマーカと分光分析マーカとを含む。ガスクロマトグラフィマーカは、非ピロリジノン窒素含有化合物を含む。本方法は、a)洗浄された疑いのある炭化水素流体サンプルの第1の一部分をガスクロマトグラフィシステムに導入するステップと、それにより炭化水素流体サンプルのガスクロマトグラフィレポートが得られ、b)炭化水素流体サンプルの第2の一部分を分光分析するステップと、それにより炭化水素流体サンプルの分光分析レポートが得られ、c)ガスクロマトグラフィレポートを使用してガスクロマトグラフィマーカの存在を確認すると共に、分光分析レポートを使用して分光分析マーカの存在を確認するステップと、d)ステップc)の確認に基づいて、ガスクロマトグラフィマーカ及び分光分析マーカが存在することが確認された場合、炭化水素流体サンプルはマーカ付きであり、かつ洗浄されていないことを表示し、ガスクロマトグラフィマーカが存在することが確認され、かつ分光分析マーカが存在しないことが確認された場合、炭化水素流体サンプルはマーカ付きであり、かつ洗浄されていることを表示し、ガスクロマトグラフィマーカ及び分光分析マーカが存在しないことが確認された場合、炭化水素流体はマーカ無しであることを表示するステップと、を含む。
【0009】
他の一側面では本願開示は、市場に流通する炭化水素流体のサブセットにマーカを付して当該マーカの存在を検出する方法を提供する。本方法は、a)市場に流通する炭化水素流体のサブセットに、非ピロリジノン窒素含有化合物を含むガスクロマトグラフィマーカを添加するステップと、b)市場に流通する炭化水素流体のうち1つのサンプルを選択するステップと、c)市場に流通する前記1つのサンプルの少なくとも一部をガスクロマトグラフィシステムに導入するステップと、それにより当該サンプルのガスクロマトグラフィレポートが得られ、d)ガスクロマトグラフィレポートを使用してサンプル中の非ピロリジノン窒素含有化合物の有無を確認するステップと、を含み、それにより当該サンプルが炭化水素流体のサブセットの内からであるかサブセットの外からであるか否かを確認する。
【0010】
他の一側面では本願開示は、非ピロリジノン窒素含有化合物を含むガスクロマトグラフィマーカを含有する炭化水素流体を識別する方法を提供する。本方法は、a)炭化水素流体のサンプルをガスクロマトグラフィシステムに導入するステップと、それにより当該サンプルのガスクロマトグラフィレポートが得られ、b)ガスクロマトグラフィレポートを使用して、炭化水素流体中における非ピロリジノン窒素含有化合物の存在を確認するステップと、を含む。
【0011】
さらに他の一側面では、本願開示はマーカ組成物を提供する。マーカ組成物は、非ピロリジノン窒素含有化合物を含むガスクロマトグラフィマーカと、溶媒と、を含有する。
【0012】
さらに他の一側面では、本願開示はマーカ組成物を提供する。マーカ組成物は、非ピロリジノン窒素含有化合物を含むガスクロマトグラフィマーカと、分光分析マーカと、を含有する。
【0013】
他の一側面では、本願開示はマーカ付きの炭化水素流体を提供する。マーカ付きの炭化水素流体は、炭化水素流体と、上述のマーカ組成物と、を含む。マーカ組成物は、マーカ付きの炭化水素流体中の非ピロリジノン窒素含有化合物の濃度を0.1ppm~500ppmとするために十分な量で、マーカ付きの炭化水素流体中の分光分析マーカの濃度を0.1ppm~500ppmとするために十分な量で、又はこれらの濃度の組合せを達成するために十分な量で存在する。
【0014】
さらに他の一側面では、本願開示はキットを提供する。キットは、上述のマーカ組成物と、当該マーカ組成物の非ピロリジノン窒素含有化合物に係る参照ガスクロマトグラフィレポートと、を備えている。
【0015】
さらに他の一側面では本願開示は、非ピロリジノン窒素含有化合物を含むガスクロマトグラフィマーカにより標識された炭化水素流体を識別するためのシステムを提供する。本システムは、窒素リン検出器(GC-NPD)付きガスクロマトグラフィシステムと、コンピュータとを備えている。コンピュータはプロセッサとメモリとを備えている。メモリは、非ピロリジノン窒素含有化合物に係る参照ガスクロマトグラフィレポートと、プロセッサによって実行されたときに、当該プロセッサにGC-NPDシステムからガスクロマトグラフィレポートを受け取らせ、参照ガスクロマトグラフィレポートとの比較に基づいてガスクロマトグラフィマーカの有無を確認させる指令と、を記憶している。
【0016】
本発明の上記及び他の側面及び利点は、以下の説明から明らかである。本説明では、当該説明の一部を構成する添付図面を参照する。同図面では、本発明の好適な実施形態が例示されている。しかし、かかる実施形態は必ずしも本発明の範囲全部を表している訳ではないので、本発明の範囲を解釈するためには特許請求の範囲を参照する。
【0017】
図面の簡単な説明
本発明の理解を助けるため、以下では添付図面を参照する。図面中、同様の符号は同様の要素を示している。図面は例示に過ぎず、本発明を限定するものと解してはならない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【発明を実施するための形態】
【0019】
本願の材料及び方法を説明する前に、その開示は、記載されている特定の手法、プロトコル、材料及び試薬には限定されないと解される。これらは変えることができるからである。また、ここで使用されている用語用法は、特定の実施形態を説明するためだけのものであり、本発明の範囲を限定することを意図したものではないと解すべきである。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0020】
本説明及び添付の特許請求の範囲において使用されている単数形「1つの(a、an)」及び「前記(1つの)」は、文脈から特段明らかでない限り、複数形も含む。また、「1つ(a、an)」、「1つ又は複数」及び「少なくとも1つ」との文言は、本願では等価交換可能なものである。また、「含む」、「含有する」及び「有する」との用語も等価交換可能であることに留意すべきである。
【0021】
当業者であれば、既に記載されている形態の他にも、さらなる多くの改良形態が、本発明の着想から逸脱することなく可能であることが明らかである。本願開示の解釈に際しては、全ての文言について、文脈に一致する最も広い可能な解釈を行うべきである。「含む」、「含有する」又は「有する」との文言の変形は、要素、成分又はステップについて非排他的に言及するものと解釈すべきであるから、言及対象の要素、成分又はステップは、明示的に言及されていない他の要素、成分又はステップと組み合わせることができる。特定の要素を「含む」、「含有する」又は「有する」ものとして言及される実施形態は、文脈から特段明らかでない限り、当該特定の要素「から実質的に成る」や、当該特定の要素「から成る」とも解される。文脈から明示的に特段明らかでない限り、システムについて記載されている本願開示の側面は方法にも適用することができ、またその逆も成り立つことが明らかである。
【0022】
本願にて開示されている数値範囲は、その両端値も含む。例えば、1~10の数値範囲は値1及び10を含む。特定の1つの値について複数の数値範囲が開示されている場合には、本願開示はこれら範囲の上限及び下限の任意の組合せを含む範囲を明示的に想定している。例えば、1~10又は2~9の数値範囲は、1~9の数値範囲と2~10の数値範囲とを含むことを意図する。
【0023】
別段の定義が無い限り、本願にて使用されている全ての技術用語及び科学用語並びに略語は、本発明が属する分野における通常の知識を有する者により一般的に理解されるものと同一の意味を有する。本発明を実施又は試験する際に、本願にて記載されている方法及び材料と類似する又は均等な任意の方法及び材料を使用することができるが、以下では好適な方法及び材料について説明する。限定列挙ではないが米国特許第5,498,808号、同5,676,708号、同5,672,182,5号、858,930号,同6,002,056号,同6,482,651号,同7,157,563号,同7,163,827号及び同7,825,159号を含めた、本願にて具体的に挙げられている全ての刊行物及び特許は、本発明との関連において使用し得る刊行物において報告されている化学物質、道具、統計学的分析及び手法の記載及び開示を含めたあらゆる目的のために、参照により本願開示に含まれるものとする。本願明細書にて引用されている全ての参考文献は、当該分野における技術水準を示すと解される。ここに記載されているいずれの事項も、本発明が従来発明によってその開示より前の先行技術としての適格を認めると解してはならない。
【0024】
本願にて使用されている「アルキル基」とは、1つの水素が欠落したアルカンをいい、直鎖、分枝、及び環状アルキル基を含む。明確にするため、ここで使用されているように、3つの炭素原子を有するアルキル基には、文脈から特段明らかでない限りイソプロピル基が含まれ、他のアルキル基についても同様である。また、6つの炭素原子を有するアルキル基は、文脈から特段明らかでない限りシクロヘキシル基を含む。アルキル基に含まれる炭素原子の数を定義する場合、全ての枝が考慮される。よって、イソプロピル基は3つの炭素原子を有するアルキル基である。
【0025】
本願で使用されている「アルケニル基」とは、1つの水素を欠いたアルケンをいい、直鎖、分枝、及び環状アルケニル基を含む。
【0026】
本願で使用されている「青色染料」とは、580nm~660nmの可視電磁放射最大吸収を有する染料をいう。
【0027】
本願で使用されている「含む」とは包含的な用語であり、当該用語が係っている成分又は方法ステップと、それ以外の他の成分又は方法ステップと、を含む。
【0028】
本願で使用されている「~から実質的に構成されている」とは、本願出願時に米国特許商標庁における特許に関する手続において使用されていた定義を有する。明細書又は請求項における、特定の成分又は方法ステップから実質的に構成されているとの記載は、当該成分又は方法ステップと、明細書又は請求項に記載されている発明の基本的かつ新規の(1つ又は複数の)特性に実質的に影響を及ぼさない成分又は方法ステップと、に範囲が限定されるものとする。
【0029】
本願で使用されている「~から成る」とは排他的な用語であり、当該用語が係っている成分又は方法ステップのみを含み、それ以外の他の成分又は方法ステップを除外する。
【0030】
本願で使用されている「シクロアルキル基」とは、1つの水素を欠いたシクロアルカンをいい、無置換シクロアルキル基と、1つ又は複数のアルキル基置換を有するシクロアルキル基と、を含む。
1つのシクロアルキル基に、縮合環を含めた複数の環が存在することができる。
【0031】
本願で使用されている「ガスクロマトグラフィマーカ」とは、ガスクロマトグラフィ手段によって検出できる化学的実体をいい、このガスクロマトグラフィ手段には、窒素リン検出器を用いるガスクロマトグラフィ、ガスクロマトグラフィ質量分析、及び、当該分野における通常の知識を有する者に知られている他の類似のガスクロマトグラフィ手段が含まれるが、これらに限定されない。
【0032】
本願で使用されている「窒素リン検出器付きガスクロマトグラフィマーカ」とは、窒素リン検出器を用いたガスクロマトグラフィにより検出できる化学的実体をいう。
【0033】
本願で使用されている「イミダゾール」とは、イミダゾール基を含む化合物をいう。
【0034】
本願で使用されている「イミダゾリドン」とは、イミダゾリドン基を含む化合物をいう。
【0035】
本願で使用されている「非環式アルキル基」とは、環を含まないアルキル基をいう。
【0036】
本願で使用されている「非水」組成物とは、水分が1重量%未満の量で含まれている組成物をいう。
【0037】
本願で使用されている「非ピロリジノン」とは、ピロリジノン基(「ピロリドン基」ということもある。)を除外した化合物をいう。
【0038】
本願で使用されている「オキサゾール」とは、オキサゾール基を含む化合物をいう。
【0039】
本願で使用されている「オキサゾリン」とは、オキサゾリン基を含む化合物をいう。
【0040】
本願で使用されている「オキサゾリジン」とは、オキサゾリン基を含む化合物をいう。
【0041】
本願で使用されている「フタレイン」とは、無水フタル酸とフェノールとの反応により形成される化合物をいう。
【0042】
本願で使用されている「ピペラジン」とは、ピペラジン基を含む化合物をいう。
【0043】
本願で使用されている「ピペリジン」とは、ピペリジン基を含む化合物をいう。
【0044】
本願で使用されている「ピペリドン」とは、ピペリドン基(「ピペリジノン基」ということもある。)を含む化合物をいう。
【0045】
本願で使用されている「ピラジン」とは、ピラジン基を含む化合物をいう。
【0046】
本願で使用されている「ピラゾール」とは、ピラゾール基(「ジアゾール基」ということもある。)を含む化合物をいう。
【0047】
本願で使用されている「ピラゾロン」とは、ピラゾロン基を含む化合物をいう。
【0048】
本願で使用されている「ピリダジン」とは、ピリダジン基を含む化合物をいう。
【0049】
本願で使用されている「ピリダジノン」とは、ピリダジノン基を含む化合物をいう。
【0050】
本願で使用されている「ピリジン」とは、ピリジン基(「アジン基」又は「アザベンゼン基」ということもある。)を含む化合物をいう。
【0051】
本願で使用されている「ピリミジン」とは、ピリミジン基を含む化合物をいう。
【0052】
本願で使用されている「ピロール」とは、ピロール基を含む化合物をいう。
【0053】
本願で使用されている「ピロリジン」とは、ピロリジン基(「テトラヒドロピロール基」ということもある。)を含む化合物をいう。
【0054】
本願で使用されている「ピロリジノン」とは、ピロリジノン基(「ピロリドン基」ということもある。)を含む化合物をいう。
【0055】
本願で使用されている「ピロリン」とは、ピロリン基(「ジヒドロピロール基」ということもある。)を含む化合物をいう。
【0056】
本願で使用されている「赤色染料」とは、500nm~580nmの可視電磁放射最大吸収を有する染料をいう。
【0057】
本願で使用されている「分光分析マーカ」とは、分光分析手段によって検出できる化学的実体をいい、この分光分析手段には、蛍光分光分析、吸光分光分析、ラマン分光分析、近赤外線分光分析、及び、分光分析分野における通常の知識を有する者に知られている他の分光分析法が含まれるが、これらは限定列挙ではない。分光分析マーカは分光分析手段によって検出できる化学的実体をいうが、本願開示は、実際にかかる手段によって分光分析マーカを検出することに限定されないと解すべきである。例えば、分光分析マーカは、分析化学分野において通常の知識を有する者に理解される態様でクロマトグラフィ手段により検出することができる。
【0058】
本願で使用されている「黄色染料」とは、400nm~500nmの可視電磁放射最大吸収を有する染料をいう。
【0059】
略語:
【0060】
AFID アルカリ炎イオン化検出器
【0061】
ECD 電子捕獲検出器
【0062】
FID 熱イオン化検出器(Flame Ionization Detector)
【0063】
GC ガスクロマトグラフィ
【0064】
GC-MS ガスクロマトグラフィ質量分析
【0065】
GC-NPD 窒素リン検出器を用いるガスクロマトグラフィ
【0066】
GLP ゲル液体浸透
【0067】
HECD ホール電解導電率検出器
【0068】
LC 液体クロマトグラフィ
【0069】
LC-MS 液体クロマトグラフィ質量分析
【0070】
MS 質量分析
【0071】
NIR 近赤外線
【0072】
PID 光イオン化検出器
【0073】
UV-Vis 紫外線-可視光
【0074】
本願開示は、マーカ付き流体から組成物を容易又は経済的かつ大幅に除去し又は洗い流せる能力を削ぎ落す多層的なマーカ組成を導入することにより、限定列挙ではないが石油製品、潤滑剤又は他の任意の炭化水素流体を含む有機溶媒からの分光分析マーカの洗浄可能性又は除去の問題を大幅に解決するマーカ組成物に関するものである。本願に開示されている新規かつ非自明の多層的なマーカ組成物は、マーカ付き流体中における当該組成物の有無を判断するために簡単なフィールドテストを行えるだけでなく、マーカ付き流体中の組成物の存在を検出するためにより洗練された研究室分析も可能にする能力を組み合わせたものである。
【0075】
本願開示は、炭化水素流体を標識するためのマーカ組成物を提供する。マーカ組成物は、当該分野において通常の知識を有する者に理解されるところにより組み合わせることができる種々の形態をとることができる。
【0076】
一部の事例では、マーカ組成物はガスクロマトグラフィ(GC)マーカを含むことができる。一部の事例では、マーカ組成物は実質的にGCマーカから成ることができる。一部の事例では、マーカ組成物はGCマーカから成ることができる。
【0077】
一部の事例では、マーカ組成物はGCマーカと溶媒とを含むことができる。一部の事例では、マーカ組成物はGCマーカと溶媒とから実質的に成ることができる。一部の事例では、マーカ組成物はGCマーカと溶媒とから成ることができる。これらの各組成物ではGCマーカは、1重量%~99重量%、25重量%~75重量%、又は40重量%~60重量%の量で存在することができる。これらの各組成物では溶媒は、1重量%~99重量%、25重量%~75重量%、又は40重量%~60重量%の量で存在することができる。
【0078】
一部の事例では、マーカ組成物はGCマーカと分光分析マーカとを含むことができる。一部の事例では、マーカ組成物はGCと分光分析マーカとから実質的に成ることができる。一部の事例では、マーカ組成物はGCマーカと分光分析マーカとから成ることができる。これらの各組成物ではGCマーカは、1重量%~99重量%、25重量%~75重量%、又は40重量%~60重量%の量で存在することができる。これらの各組成物では分光分析マーカは、1重量%~99重量%、25重量%~75重量%、又は40重量%~60重量%の量で存在することができる。
【0079】
一部の事例では、マーカ組成物はGCマーカと、分光分析マーカと、溶媒とを含むことができる。一部の事例では、マーカ組成物はGCマーカと、分光分析マーカと、溶媒とから実質的に成ることができる。一部の事例では、マーカ組成物はGCマーカと、分光分析マーカと、溶媒とから成ることができる。これらの各組成物ではGCマーカは、10重量%~85重量%、20重量%~70重量%、又は25重量%~60重量%の量で存在することができる。これらの各組成物では分光分析マーカは、5重量%~80重量%、10重量%~50重量%、又は15重量%~25重量%の量で存在することができる。これらの各組成物では溶媒は、10重量%~85重量%、20重量%~70重量%、又は25重量%~60重量%の量で存在することができる。
【0080】
上記のマーカ組成物はいずれも、非水とすることができる。
【0081】
上記のいずれのマーカ組成物中のGCマーカも、窒素リン検出器(GC-NPD)付きガスクロマトグラフィマーカとすることができる。
【0082】
上記のいずれのマーカ組成物中のガスクロマトグラフィマーカも、非ピロリジノン窒素含有化合物を含むことができる。上記のいずれのマーカ組成物中のガスクロマトグラフィマーカも、非ピロリジノン窒素含有化合物から実質的に成ることができる。上記のいずれのマーカ組成物中のガスクロマトグラフィマーカも、非ピロリジノン窒素含有化合物から成ることができる。
【0083】
いかなる特定の理論にも拘束されることを希望することなく、非ピロリジノン窒素含有化合物は、ピロリジノン自体を含めた他のマーカに対して、複数の利点を奏することができる。まず、一部の事例では、1つの特定の分子中に複数の窒素原子が存在することにより、特定のGC検出システムにおいて応答性を高めることができる。例えばピペリジン、ピペリドン、ピラゾール及びピラゾロンは2つの窒素原子を有し、標準的な窒素リンGC検出器において応答性を増大させことを期待することができる。このような応答性の増大により、より高い濃度のより良好な分解能と、GCでの化合物の検出レベルでより良好な感度とを両立することができる。感度がより良好になることによって検出レベルを下げることができ、ユーザがマーカの量を減らすこともできる。本分野のマーカの多くの用途に燃料の燃焼(及び、これによるマーカの燃焼)が含まれることを考慮すると、量の低減は大きなインパクトを与え得る。また、多くの非ピロリジノン窒素含有化合物のGC保持時間も相違するので、これにより生じるGCスペクトルにおいて複数の異なる「フィンガープリント」を可能にすることができる。これらの異なる「フィンガープリント」が、複雑なGCスペクトルを有し得る燃料、潤滑剤及びグリースにて使用されると、検出をより容易化することができる。検出上の利点に加えて、非ピロリジノン窒素含有マーカは他にも例えば、燃料、潤滑剤及びグリース等の炭化水素流体への可溶性の改善等の利点を奏することができる。
【0084】
一部の事例では非ピロリジノン窒素含有化合物は、炭化水素流体中に0.01ppm~500ppmのレベルで溶解可能である任意の非ピロリジノン窒素含有化合物とすることができる。
【0085】
特定の用途では非ピロリジノン窒素含有化合物は、ピロロール、ピラゾール、ピラゾロン、ピリジン、ピリダジン、ピリイミジン、ピロリン、ピロリジン、ピペリドン、ピペリジン、ピペラジン、ピラジン、ピリダジノン、イミダゾール、イミダゾリドン、オキサゾール、オキサゾリン、オキサゾリジン、ターシャリーアミン、又はこれらの組み合わせとすることができる。非ピロリジノン窒素含有化合物は、1~12個の炭素原子の長さの0,1,2又は3のアルキル側鎖又はアルケニル側鎖を含むことができる。非ピロリジノン窒素含有化合物は、化合物あたり2つ以上の窒素原子を含むことができる。非ピロリジノン窒素含有化合物は、化合物あたり3,4,5,6,7,8,9又は10個以上の窒素原子を含むことができる。
【0086】
一部の事例では、非ピロリジノン窒素含有化合物はピロールとすることができる。一部の事例では、非ピロリジノン窒素含有化合物は、1-ベンジルピロール、又は1-フェニルピロールとすることができる。
【0087】
一部の事例では、非ピロリジノン窒素含有化合物はピラゾールとすることができる。一部の事例では、非ピロリジノン窒素含有化合物は1,3,5-トリメチルピラゾール又は1-フェニルピラゾールとすることができる。
【0088】
一部の事例では、非ピロリジノン窒素含有化合物はピラゾロンとすることができる。一部の事例では、非ピロリジノン窒素含有化合物は3-メチル-1-フェニル-ピラゾロンとすることができる。
【0089】
一部の事例では、非ピロリジノン窒素含有化合物はピリジンとすることができる。一部の事例では、非ピロリジノン窒素含有化合物は2-プロピルピリジンとすることができる。
【0090】
一部の事例では、非ピロリジノン窒素含有化合物はピリダジンとすることができる。
【0091】
一部の事例では、非ピロリジノン窒素含有化合物はピリミジンとすることができる。一部の事例では、非ピロリジノン窒素含有化合物は4-メチルピリミジンとすることができる。
【0092】
一部の事例では、非ピロリジノン窒素含有化合物はピロリンとすることができる。
【0093】
一部の事例では、非ピロリジノン窒素含有化合物はピロリジンとすることができる。一部の事例では、非ピロリジノン窒素含有化合物はN-ブチルピロリジンとすることができる。
【0094】
一部の事例では、非ピロリジノン窒素含有化合物はピペリドンとすることができる。
【0095】
一部の事例では、非ピロリジノン窒素含有化合物はピペリジンとすることができる。一部の事例では、非ピロリジノン窒素含有化合物は1-メチルピペリジン、1-エチルピペリジン、1-エチル-3-メチルピペリジン、又は1-プロピル-4-ピペリジンとすることができる。
【0096】
一部の事例では、非ピロリジノン窒素含有化合物はピペラジンとすることができる。
【0097】
一部の事例では、非ピロリジノン窒素含有化合物はピラジンとすることができる。
【0098】
一部の事例では、非ピロリジノン窒素含有化合物はピリダジノンとすることができる。
【0099】
一部の事例では、非ピロリジノン窒素含有化合物はイミダゾールとすることができる。一部の事例では、非ピロリジノン窒素含有化合物は1-ブチルイミダゾール又はとすることができる。
【0100】
一部の事例では、非ピロリジノン窒素含有化合物はイミダゾリドンとすることができる。
【0101】
一部の事例では、非ピロリジノン窒素含有化合物はオキサゾールとすることができる。
【0102】
一部の事例では、非ピロリジノン窒素含有化合物はオキサゾリンとすることができる。
【0103】
一部の事例では、非ピロリジノン窒素含有化合物はオキサゾリジンとすることができる。
【0104】
一部の事例では、非ピロリジノン窒素含有化合物はターシャリーアミンとすることができる。一部の事例では、非ピロリジノン窒素含有化合物はトリオクチルアミンとすることができる。
【0105】
任意の分光分析マーカを含めた、上述のいずれの組成物中の分光分析マーカも、マーカが付されている炭化水素流体に関連する内因性の分光分析信号と区別可能である再現可能な分光分析信号を有することが知られている。例えば分光分析マーカは、マーカが付されている炭化水素流体と区別可能である吸光スペクトルを有する染料とすることができる。他の一例として、分光分析マーカは、マーカが付されている炭化水素流体と区別可能である蛍光スペクトルを有する蛍光染料とすることができる。
【0106】
一部の事例では、分光分析マーカは、0.01ppm~500ppmのレベルで炭化水素流体に可溶である任意の分光分析マーカとすることができる。
【0107】
特定の用途では、分光分析マーカは青色染料、赤色染料、又は黄色染料とすることができる。分光分析マーカはソルベントレッド164又はソルベントイエロー124とすることができる。
【0108】
特定の用途では、分光分析マーカは以下のものである:
【化1】
【0109】
ここで、Ar1及びAr2はそれぞれ独立して、置換若しくは無置換のフェニレン基又は置換若しくは無置換のナフチレン基を表し、R1は、1~22個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖のアルキル基を表し、R2は水素原子又は化学式C(O)R4の基を表し、R4は水素原子又は1~22個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖のアルキル基であり、R3は水素原子、1~12個の炭素原子を有する直鎖若しくは分枝鎖のアルキル基、1~12個の炭素原子を有する直鎖若しくは分枝鎖のアルコキシ基、ヒドロキシル基、置換若しくは無置換のフェニル基、又は置換若しくは無置換のナフチル基を表し、Zは水素原子、又は、Ar2若しくはR3と組み合わさってラクトン環を形成する原子の群を表す。
【0110】
特定の用途では、分光分析マーカはフタレインとすることができる。分光分析マーカはフタレインジブチレートとすることができる。分光分析マーカはフタレインエステルとすることができる。分光分析マーカは、フルオロセインジブチレートと、クレゾールフタレインと、オルト-クレゾールフタレインジブチレートと、チモールフタレインとから成る群から選択することができる。分光分析マーカは、クレゾールフタレインジブチレートエステルと、クレゾールフタレインモノブチレートエステルと、クレゾールフタレインジイソプロピレートエステルと、クレゾールフタレインジ-n-プロピレートエステルと、クレゾールフタレインジヘキサノエートエステルと、クレゾールフタレインジペンタノエートエステルと、クレゾールフタレインジラウレートエステルとから成る群から選択することができる。分光分析マーカは、ナフトールフタレインジブチレートエステルと、チモールフタレインジブチレートエステルと、チモールフタレインジプロパノエートエステルとから成る群から選択することができる。分光分析マーカは、sec-ブチルフェノールフタレインジブチレートエステルと、ジ-sec-ブチルフェノールフタレインジブチレートエステルとから成る群から選択することができる。
【0111】
多くの非フタレイン分光分析マーカが本願開示の組成物の複数の実施形態において使用できることが想到される。さらに、米国特許第5,498,808号、同5,676,708号、同5,672,182号、同5,858,930号、同6,002,056号、同6,482,651号、同7,157,563号、同7,163,827号、及び同7,825,159号に記載の分光分析マーカが、あらゆる目的のために参照により本願の内容に含まれる。
【0112】
一部の事例では、溶媒は極性溶媒とすることができる。一部の事例では、溶媒は非プロトン性溶媒とすることができる。一部の事例では、溶媒は石油ナフサ(沸点100°F~250°F)と、メタノール、エタノール、プロパノール及びブタノール等を含めたアルコールと、エチレングリコールフェニルエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエステル、エチレングリコールジエチルエステル、エチレングリコールジフェニルエステル等を含めたグリコールエステルと、ジメチルホルムアミドと、ジメチルスルホキシドと、キシレンと、トルエンと、アセトンと、エチルアセテートと、ガソリン、灯油、ディーゼル燃料及びジェット燃料等を含めた石油製品と、これらの組み合わせと、から成る群から選択することができる。
【0113】
本願開示は、マーカ付きの炭化水素流体も提供する。一部の事例ではマーカ付きの炭化水素流体は、炭化水素流体と、本願の他の箇所に記載されているマーカ組成物のうち1つ又は複数と、を含む。一部の事例ではマーカ付きの炭化水素流体は、炭化水素流体と、本願の他の箇所に記載されているマーカ組成物のうち1つ又は複数と、から実質的に成る。一部の事例では、マーカ付きの炭化水素流体は、炭化水素流体と、本願の他の箇所に記載されているマーカ組成物のうち1つ又は複数と、から成る。
【0114】
上記の各マーカ付きの炭化水素流体ではマーカ組成物は、当該マーカ付きの炭化水素流体中における非ピロリジノン窒素含有化合物の濃度を、限定列挙ではないが0.5ppm~100ppm、1ppm~50ppm、又は5ppm~25ppmの濃度を含む0.1ppm~500ppmの濃度とするために十分な量で存在することができる。分光分析マーカが存在する一部の事例では、マーカ組成物は、当該マーカ付きの炭化水素流体中における分光分析マーカの濃度を、限定列挙ではないが0.5ppm~100ppm、1ppm~50ppm、又は5ppm~25ppmの濃度を含む0.1ppm~500ppmの濃度とするために十分な量で存在することができる。
【0115】
本願開示はキットも提供する。当該キットは、本願にて記載されているマーカ組成物のうちいずれかと、当該マーカ組成物のGC特性及び/又は分光分析特性に関する情報と、を備えることができる。情報は、非ピロリジノン窒素含有化合物に係る参照GCレポートを含むことができる。分光分析マーカが存在する場合、情報は分光分析マーカに係る参照分光分析レポートを含むことができる。
【0116】
マーカは、異物混入された製品を検出する手段を提供することによって製品完全性及びブランド完全性を保証する手段として、例えばガソリン、ディーゼル燃料、溶媒、潤滑剤、又は他の流体等の石油製品において使用される。典型的な異物混入シナリオには、プレミアムの製品を低品質のものに置き換えること、又は、プレミアムの製品に低い等級のものを混入すること、が含まれる。他のシナリオには、助成金を受けている燃料又は課税額が低い燃料の悪用が含まれる。
【0117】
本願開示は、ガスクロマトグラフィマーカを含む炭化水素流体を識別する方法を提供する。本方法は、a)炭化水素流体のサンプルをガスクロマトグラフィシステムに導入するステップと、それにより当該サンプルのガスクロマトグラフィレポートが得られ、b)ガスクロマトグラフィレポートを使用して、炭化水素流体中における非ピロリジノン窒素含有化合物の存在を確認するステップと、を含む。一部の事例では、炭化水素流体はさらに分光分析マーカを含むことができる。かかる場合には本方法はさらに、c)炭化水素流体の第2のサンプルを分光分析するステップと、それにより第2のサンプルの分光分析レポートが得られ、d)分光分析レポートを使用することにより、炭化水素流体中における分光分析マーカの存在を確認するステップと、を含むことができる。
【0118】
本願開示はまた、市場に流通する炭化水素流体のサブセットにマーカを付して当該マーカの確認を確認する方法も提供する。本方法は、a)市場に流通する炭化水素流体のサブセットに、非ピロリジノン窒素含有化合物を含むガスクロマトグラフィマーカを添加するステップと、b)市場に流通する炭化水素流体のうち1つのサンプルを選択するステップと、c)市場に流通する前記1つの前記サンプルをガスクロマトグラフィシステムに導入するステップと、それにより当該サンプルのガスクロマトグラフィレポートが得られ、d)ガスクロマトグラフィレポートを用いて前記サンプル中の非ピロリジノン窒素含有化合物の有無を確認するステップと、を含み、それにより前記サンプルが炭化水素流体のサブセットの内からであるかサブセットの外からであるかを確認する。ステップa)の添加は、炭化水素流体のサブセット中に非ピロリジノン窒素含有化合物が0.1ppm~500ppmの量で含まれるようにするために必要な量のGCマーカを添加することを含むことができ、これには、本願にて開示されている他の任意のGCマーカ又は非ピロリジノン窒素含有化合物の濃度範囲が含まれるが、これに限定されない。本方法は、ガスクロマトグラフィマーカを含む炭化水素流体を識別する方法に関する上記のいずれかの特徴を含むことができる。一部の事例では本方法はさらに、e)市場に流通する炭化水素流体のサブセットに分光分析マーカを追加するステップと、f)市場に流通する前記1つの前記サンプルの少なくとも第2の一部分を分光分析するステップと、それによりサンプルの分光分析レポートが得られ、g)分光分析レポートを用いてサンプル中における分光分析マーカの有無を確認するステップと、を含み、それによりサンプルが炭化水素流体のサブセットの内からであるかサブセットの外からであるかを確認する。ステップe)の追加は、分光分析マーカが炭化水素流体のサブセット中に、限定列挙ではないが本願にて記載されている他の任意の分光分析マーカ濃度範囲を含めた0.1ppm~500ppmの量で含まれるようにするために必要な量の分光分析マーカを追加することを含むことができる。
【0119】
本願開示は、洗浄されたマーカ付きの炭化水素流体を識別する方法も提供し、洗浄前のマーカ付きの炭化水素流体はガスクロマトグラフィマーカと分光分析マーカとを含む。本方法は、a)洗浄された疑いのある炭化水素流体サンプルの第1の一部分をガスクロマトグラフィシステムに導入するステップと、それにより炭化水素流体サンプルのガスクロマトグラフィレポートが得られ、b)炭化水素流体サンプルの第2の一部分を分光分析するステップと、それにより炭化水素流体サンプルの分光分析レポートが得られ、c)ガスクロマトグラフィレポートを使用してガスクロマトグラフィマーカの有無を確認すると共に、分光分析レポートを使用して分光分析マーカの有無を確認するステップと、d)ステップc)の確認に基づいて、ガスクロマトグラフィマーカ及び分光分析マーカが存在することが確認された場合、炭化水素流体サンプルはマーカ付きであり、かつ洗浄されていない旨を表示し、ガスクロマトグラフィマーカが存在することが確認され、かつ分光分析マーカが存在しないことが確認された場合、炭化水素流体サンプルはマーカ付きであり、かつ洗浄されている旨を表示し、ガスクロマトグラフィマーカ及び分光分析マーカが存在しないことが確認された場合、炭化水素流体はマーカ無しである旨を表示するステップと、を含む。
【0120】
これらの各方法では、流体のサンプル又は一部をGCシステムに導入するステップは、GC-NPDシステムに流体の当該サンプル又は当該一部を導入することによりGC-NPDレポートを得ることを含むことができる。GC-NPDシステムは、熱イオン化検出器又はアルカリ炎イオン化検出器を含むことができる。かかる場合、導入するステップにより得られたGCレポートは、サンプル又は流体中の窒素又はリンの量に比例する強度値を含むことができる。この強度は、サンプル又は流体の種々の成分の溶出時間に依存する時変性(time-variable)とすることができる。特定の事例では、GCマーカに複数の窒素原子を含むことにより、本願の他の箇所に記載されているように検出向上を達成することができる。
【0121】
上記の各方法において、一部の事例では、流体のサンプル又は一部をGCシステムに導入するステップは、GC-MSシステム、熱イオン化検出器(FTD)又はアルカリ炎イオン化検出器(AFID)を備えたGC-NPDシステムを含めたGC-NPDシステム、GC-ホール電解導電率検出器(HECD)システム、GC-熱イオン化検出器(FID)システム、GC-電子捕獲検出器(ECD)システム、GC-光イオン化検出器(PID)システム、又はこれらの組合せに、流体の前記サンプル又は一部を導入することを含むことができる。
【0122】
流体のサンプル又は一部をGCシステムに導入するステップはさらに、溶融シリカカラム、ポリエチレングリコールカラム、シアノプロピルカラム、トリフルオロプロピルカラム、又は置換ポリシロキサンカラム等を用いることを含むこともできる。流体のサンプル又は一部をGCシステムに導入するステップは、窒素と、ヘリウムと、これらの組合せとから成る群から選択されたキャリアガスを用いることを含むことができる。ガスクロマトグラフィシステムの他の動作パラメータは、GCマーカとマーカ付きの炭化水素流体の種々の成分との分離を改善する目的のため、当該分野において通常の知識を有する者に理解される態様で最適化することができる。
【0123】
これらの各方法では、GCレポートを使用して確認するステップは、1つ又は複数の所定の溶出時間において強度値をモニタリングすることを含むことができる。
【0124】
これらの各方法では、分光分析するステップは、蛍光分光分析、UV-Vis分光分析、ラマン分光分析、近赤外線分光分析、液体クロマトグラフィ質量分析(LC/MS)等のクロマトグラフィ技術、GLP(gel liquid permeation)、又はこれらの組合せを行うことを含むことができる。
【0125】
これらの各方法では、分光分析レポートを使用して確認するステップは、分光分析レポートと分光分析マーカの参照スペクトルとを比較することを含むことができる。
【0126】
図1を参照すると、本願開示はシステム10を提供する。本システムは、GCシステム12とコンピュータ14とを備えることができる。GC-NPDシステム12は、GCカラム16とGC検出器18とを備えることができる。GCシステム12はキャリアガス源20を備えることができる。
【0127】
一部の事例では、GCシステム12はGC-NPDシステムとすることができる。一部の事例では、GCシステム12はGC-MSシステムとすることができる。
【0128】
GCカラム16は、溶融シリカカラム、ポリエチレングリコールカラム、シアノプロピルカラム、トリフルオロプロピルカラム、置換ポリシロキサンカラム、又は、クロマトグラフィ分野における通常の知識を有する者に本願にて記載されているGCマーカを炭化水素流体から分離するために適していると知られている他のカラムとすることができる。一部の事例では、GC検出器18はNPDとすることができる。一部の事例では、GC検出器18はMSとすることができる。一部の事例ではGC検出器18は、FTD若しくはAFIDを含めたNPD、MS、HECD、FID、ECD、PID、又はこれらの組合せとすることができる。窒素リン検出器は、熱イオン化検出器、アルカリ炎イオン化検出器、又は、クロマトグラフィ分野において通常の知識を有する者に知られている他の窒素リン検出器とすることができる。キャリアガス源20は、ヘリウム源、窒素源、又はこれらの組合せとすることができる。
【0129】
コンピュータ14はプロセッサ22とメモリ24とを備えることができる。コンピュータは、計算機分野における通常の知識を有する者に理解されるように、種々のディスプレイ及び入力部等を備えることができる。メモリは、プロセッサにより実行されたときに、プロセッサにGCレポート及び/又は分光分析レポートを受け取らせ、上記のいずれかの方法の1つ又は複数の確認するステップを実行させる指令を記憶しておくことができる。
【0130】
メモリ24は、システム10によって分析されることを意図されたGCマーカ又は非ピロリジノン窒素含有化合物に応じた1つ又は複数の参照GCレポートを記憶しておくことができる。
【0131】
システム10はさらに、分光分析システム26を備えることができる。分光分析システム26は、光源28及び光検出器30を備えることができる。
【0132】
メモリ24は、システムによって分析されることを意図された分光分析マーカに応じた1つ又は複数の参照分光分析レポートを記憶しておくことができる。
【0133】
GCシステム12及びオプションの分光分析システム26は、当該分野における通常の知識を有する者に理解されるように、内蔵プロセッサ及び内蔵メモリを備えることができる。コンピュータとGCシステム12及びオプションの分光分析システム26との間の通信は、通信分野において通常の知識を有する者に知られている任意の通信プロトコルを用いて、有線又は無線とすることができる。
【0134】
1つ又は複数の好適な実施形態について本発明を説明したが、明示的に記載されている態様の他にも多くの均等態様、代替態様、変形態様及び改良態様が可能であり、本発明の範囲内であると解すべきである。