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特許7357951親水化無機粉体及び当該親水化無機粉体を配合した化粧料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】親水化無機粉体及び当該親水化無機粉体を配合した化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/86 20060101AFI20231002BHJP
   A61K 8/29 20060101ALI20231002BHJP
   A61K 8/39 20060101ALI20231002BHJP
   A61K 8/19 20060101ALI20231002BHJP
   A61K 8/58 20060101ALI20231002BHJP
   A61K 8/44 20060101ALI20231002BHJP
   A61K 8/892 20060101ALI20231002BHJP
   A61K 8/89 20060101ALI20231002BHJP
   A61Q 1/02 20060101ALI20231002BHJP
【FI】
A61K8/86
A61K8/29
A61K8/39
A61K8/19
A61K8/58
A61K8/44
A61K8/892
A61K8/89
A61Q1/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021534522
(86)(22)【出願日】2019-07-25
(86)【国際出願番号】 JP2019029294
(87)【国際公開番号】W WO2021014655
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】391024700
【氏名又は名称】三好化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 幸夫
【審査官】駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-16814(JP,A)
【文献】国際公開第2007/007521(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Japio-GPG/FX
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材としての無機粉体と、当該無機粉体の表面を覆う疎水性被膜と、当該疎水性被膜を覆う親水性被膜とを有し、
前記親水性被膜の組成が、親水性部分及び炭素鎖部分を有する非イオン性界面活性剤であり、
前記非イオン性界面活性剤の炭素鎖部分が疎水性を有する無機粉体へ自己分散性を与えるに十分な分岐型構造を有し、
前記炭素鎖部分が、イソステアリルエーテル、イソドデシルエーテル、イソステアレート、イソステアリン酸グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル、オクチルドデシルエーテル、ヘキシルデシルエーテル、モノイソステアレートのいずれかであり、
前記非イオン性界面活性剤のHLBが9.5~15.5の範囲内である、
親水化無機粉体。
【請求項2】
前記非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレングリセリンエステル結合型構造を有する、請求項1に記載の親水化無機粉体。
【請求項3】
前記非イオン性界面活性剤が親水性部分と炭素鎖部分がエーテル結合型を有する、請求項1に記載の親水化無機粉体。
【請求項4】
前記非イオン性界面活性剤が、以下のものから選択される1種以上である、請求項1に記載の親水化無機粉体:
ポリオキシエチレン(10)イソステアリルエーテル、
ポリオキシエチレン(10)イソドデシルエーテル、
ポリオキシエチレン(12)イソステアレート、
ポリオキシエチレン(8)イソステアリン酸グリセリル、
ポリオキシエチレン(20)トリイソステアリン酸グリセリル、
ポリオキシエチレン(20)オクチルドデシルエーテル、
ポリオキシエチレン(5)ヘキシルデシルエーテル、
ポリグリセリル(10)モノイソステアレート。
【請求項5】
前記疎水性被膜の組成が、オクチルトリエトキシシラン、ステアロイルグルタミン酸2ナトリウム、ハイドロゲンジメチコン、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサンの中から選択される単数又は複数である、請求項1~4のいずれか1項に記載の親水化無機粉体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の親水化無機粉体を配合した化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水化無機粉体及び当該親水化無機粉体を配合した化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料には、酸化亜鉛、酸化チタンなどを基材とした顔料や紫外線散乱剤が配合される。この顔料や紫外線散乱剤を乳化系化粧料の水層に配合したいという要望があるが、酸化亜鉛、酸化チタンそのものでは強い凝集性を示し、粉っぽい感触や皮膚に対する物理的な刺激を有するため一般的には表面処理がなされる。
【0003】
水層に配合したいという要望に鑑みれば、酸化亜鉛の表面を親水化処理剤(例えばシリカ)で被覆することが考えられるが、シリカの表面被膜を有する酸化亜鉛は化粧料に配合される酸やアルカリと反応して溶出する(引用文献1参照)。そのため、引用文献1では、酸化亜鉛の表面に、まず疎水化処理剤(オクチルトリエトキシシラン)によって疎水性第1被膜を形成し、次に界面活性剤(乳化剤:PEG-11メチルエーテルジメチコン)によって親水性第2被膜を形成している(引用文献1参照)。同様の技術として、引用文献2には、二酸化チタンをまずステアリン酸ナトリウムを用いて疎水化処理し、次にイソデシルアルコール6-エトキシレート等を用いて親水化処理する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016―222589号
【文献】特許第4157039号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以下の分析は、本発明の観点からなされたものである。なお、上記先行技術文献の開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。
【0006】
引用文献1、2に開示されるように、疎水化処理剤と親水化処理剤の組み合わせは多種多様に選択され得るが、それらの組み合わせによっては所望の性質を達成できないという問題がある。ここで、所望の性質を達成できる疎水化処理剤及び親水化処理剤の選択の指標となり得る知見は存在しない。
【0007】
また、親水化処理剤(すなわち界面活性剤)の量は、肌への刺激性の観点から出来るだけ少ない配合量が好ましいが、引用文献1では被覆酸化亜鉛に対してPEG-11メチルエーテルジメチコンの量は10wt%であり、引用文献2では150gの二酸化チタンに対して18gのイソデシルアルコール6-エトキシレート、12gのセチルアルコール10-エトキシレートとなっており、改良の余地がある。
【0008】
そこで、本発明は、界面活性剤の配合量を低減しつつ、好適な性質を有する親水化無機粉体、及び当該親水化無機粉体を配合した化粧料の提供に寄与することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の視点によれば、
基材としての無機粉体と、当該無機粉体の表面を覆う疎水性被膜と、当該疎水性被膜を覆う親水性被膜とを有し、
前記親水性被膜の組成が、親水性部分及び炭素鎖部分を有する非イオン性界面活性剤であり、
前記非イオン性界面活性剤の炭素鎖部分が疎水性を有する無機粉体へ自己分散性を与えるに十分な分岐型構造を有する、親水化無機粉体が提供される。
【0010】
第1の視点において、非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレングリセリンエステル結合型構造を有することが好ましい。
【0011】
第1の視点において、非イオン性界面活性剤の炭素鎖部分が炭素数12~20であることが好ましい。
【0012】
第1の視点において、非イオン性界面活性剤が親水性部分と炭素鎖部分がエーテル結合型を有することが好ましい。
【0013】
第1の視点において、非イオン性界面活性剤が、以下のものから選択される1以上であることが好ましい、
ポリオキシエチレン(10)イソステアリルエーテル、
ポリオキシエチレン(10)イソドデシルエーテル、
ポリオキシエチレン(12)イソステアレート、
ポリオキシエチレン(8)イソステアリン酸グリセリル、
ポリオキシエチレン(20)トリイソステアリン酸グリセリル、
ポリオキシエチレン(20)オクチルドデシルエーテル、
ポリオキシエチレン(5)ヘキシルデシルエーテル、
ポリグリセリル(10)モノイソステアレート。
【0014】
第1の視点において、疎水性被膜の組成が、オクチルトリエトキシシラン、ステアロイルグルタミン酸2ナトリウム、ハイドロゲンジメチコン、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサンの中から選択される単数又は複数であることが好ましい。
【0015】
本発明の第2の視点によれば、親水化無機粉体を配合した化粧料が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の各視点によれば、界面活性剤の配合量を低減しつつ、好適な性質を有する親水化無機粉体、及び当該親水化無機粉体を配合した化粧料の提供に寄与する技術が提供される。なお、本発明によって得られる親水化無機粉体は、化粧料用粉体、粉状化粧料用基材なども考慮される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、親水性、自己分散性の評価結果の一例を示す。
図2図2は、親水性、自己分散性の評価結果の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本願で使用する用語について説明する。
【0019】
[無機粉体]
無機粉体は、親水化無機粉体の基体となる粉体であり、Ti、Zn、Si、Al、Fe、Mg、Ceの少なくとも一つを含む金属酸化物または金属水酸化物の粒子よりなる粉体が好ましい。具体的には、酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、酸化アルミニウム、酸化鉄、水酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化セリウム等が挙げられる。これらの無機酸化物粉体粒子に他の酸化物や水酸化物が被覆されていても構わない。
【0020】
なお、本発明において無機粉体は、通常の化粧料に用いられるものであれば特に制限されない。すなわち、無機粉体には、セリサイト、天然マイカ、焼成マイカ、合成マイカ、合成セリサイト、アルミナ、マイカ、タルク、カオリン、ベントナイト、スメクタイト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、リン酸カルシウム、無水ケイ酸、酸化マグネシウム、硫酸バリウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、酸化鉄、酸化クロム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、紺青、群青、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、硫酸マグネシウム、ケイ酸、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸ストロンチウム、炭化ケイ素、タングステン酸金属塩、アルミン酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、クロルヒドロキシアルミニウム、クレー、ゼオライト、ヒドロキシアパタイト、セラミックパウダー、窒化アルミニウム、シリコーンカーバイト、チタン酸コバルト、リチウムコバルトチタネート、アルミン酸コバルト、無機青色系顔料、低次酸化チタン、微粒子酸化チタン、バタフライ状硫酸バリウム、花びら状酸化亜鉛、六角板状酸化亜鉛、テトラポット状酸化亜鉛、微粒子酸化亜鉛、酸化チタン被覆雲母、酸化チタン被覆マイカ、酸化チタン被覆シリカ、酸化チタン被覆合成マイカ、酸化チタン被覆タルク、魚鱗箔、酸化チタン被覆着色雲母、酸化チタン被覆ホウケイ酸(ナトリウム/カルシウム)、酸化チタン被覆ホウケイ酸(カルシウム/アルミニウム)、ベンガラ被覆雲母、ベンガラ被覆雲母チタン、ベンガラ・黒酸化鉄被覆雲母チタン、カルミン被覆雲母チタン、カルミン・コンジョウ被覆雲母チタン、マンゴバイオレット、コバルトバイオレット、ガラスファイバー、アルミナ繊維等も含まれる。
【0021】
[疎水性被膜、疎水性無機粉体]
疎水性被膜とは、粉体の表面を覆う疎水性の被膜(疎水性第1被膜とも称される)を意味し、本願では疎水性被膜で覆われた無機粉体を疎水性無機粉体と称する。ここで、疎水性被膜は、有機表面処理剤で形成されるため、疎水性被膜の組成は有機表面処理剤であると言える。
【0022】
本発明の疎水性無機粉体とは疎水性を有する無機粉体である。評価方法としては50ccのガラスバイアルに精製水20gとイソドデカン20ccを入れ粉体0.2gを投入して上下10回30cm程の振り幅を手で強振とうする。50℃の恒温槽に3日間静置して取り出し前記同様に10回手で強振とうする。3分間静置後、粉体粒子が水層に移行しない粉体が好ましい。
【0023】
[有機表面処理剤]
有機表面処理剤とは、無機粉体の表面を被覆して疎水性にするための有機処理剤であり、疎水化処理剤とも称される。有機表面処理剤としては、シリコーン化合物、アルキルシラン、アルキルチタネート、ポリオレフィン、アシル化アミノ酸、脂肪酸、レシチン、エステル油、フラクトオリゴ糖、アクリルポリマー、ウレタンポリマーから選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。
【0024】
シリコーン化合物としては、メチルハイドロジェンポリシロキサン(信越化学工業社:KF99PやKF9901、X-24-9171、X-24-9221等)、ジメチコノール、片末端アルコキシシリルジメチルポリシロキサン、トリメチルシロキシケイ酸、テトラヒドロテトラメチルシクロテトラシロキサン等の環状メチルハイドロジェンシリコーン、アクリルシリコーン、シリコーンアクリル、アミノ変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、リン酸変性シリコーン等も使用できる。その他としては、信越化学工業社より市販されているものとしてはKF-9908(トリエトキシシリルエチルポリジメチルシロキシエチルジメチコン)やKF-9909(トリエトキシシリルエチルポリジメチルシロキシエチルヘキシルジメチコン)等も使用できる。代表的なシリコーン化合物としては、ハイドロゲンジメチコン、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサンが挙げられる。
【0025】
アルキルシランとしては、アルキルアルコシキシランが挙げられる。アルキル鎖の長さとして、炭素数で1~18が挙げられ、具体的にはメチルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシランやオクタデシルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0026】
アルキルチタネート(有機チタネート)としては、Ti(OR構造を基本骨格とするものが挙げられ、ここでRは互いに独立していてアルキル基または有機カルボニル基である。一般的に入手可能なものとしてはイソプロピルトリイソステアロイルチタネート(プレンアクトTTS;味の素ファインテクノ社)などが挙げられる。
【0027】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの分子中にカルボキシル基を少なくとも1個有するポリオレフィン樹脂を挙げることができる。例えば、特開昭63-179972号公報に記載の分子量500~40000で融点が40℃以上の低分子ポリエチレンや、ポリプロピレンを酸化して得られる酸化ポリエチレン、マレイン化ポリエチレン、酸化ポリプロピレン等が挙げられる。
【0028】
アシル化アミノ酸としては、炭素数12以上18以下である飽和脂肪酸とアミノ酸のアシル化化合物が挙げられる。ここでアミノ酸は、アスパラギン酸、グルタミン酸、アラニン、グリシン、サルコシン、プロリン、ヒドロキシプロリンを含む。また、アシル化アミノ酸としては小麦やえんどう豆等の植物由来のペプチドやシルクペプチド、動物由来のペプチド等の全加水分解物も含む。アミノ酸のカルボキシル基は遊離体、又はK、Na、Fe、Zn、Ca、Mg、Al、Zr、Ti等の塩になっているものでも構わない。例えば、ステアロイルグルタミン酸2ナトリウムによって例示される。
【0029】
具体的には、味の素社より市販されているアミソフトCS-11、CS-22、MS-11、HS-11P、HS-21P等、川研ファインケミカル社より市販されているソイポンSLP、ソイポンSCA、アラノンAMP、フランスSEPPIC社より市販されているSEPILIFT DPHP等、日光ケミカル社より市販されているサルコシネートMN等を挙げることができる。これらのアシル化アミノ酸は脂肪酸との組成物の形態でもよい。アシル化リポアミノ酸組成物としては、SEPPIC社より市販されているSEPIFEEL ONE(パルミトイルプロリン、パルミトイルサルコシン、パルミトイルグルタミン酸、パルミチン酸の4成分よりなる組成物)が挙げられる。
【0030】
脂肪酸としては、炭素数が12~22までの直鎖型又は分岐型の飽和又は不飽和脂肪酸が挙げられる。例えば、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、パルミトレイン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、2-エチルヘキサン酸、イソトリデカン酸、イソミリスチン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸、イソベヘン酸等の脂肪酸、あるいはそのCa、Mg、Zn、Zr、Al、Ti等の金属塩によって例示される。
【0031】
レシチンとしては、卵黄、大豆、コーン、菜種、ひまわり等から抽出された天然のレシチンが挙げられるとともに、合成レシチンを水素添加したもので、ヨウ素価が15以下の水添レシチンであり、リン酸基を有するグリセライドが挙げられる。塩の形態にあるものとしては、Al、Mg、Ca、Zn、Zr、Ti等の水不溶性水添レシチン金属塩等が挙げられる。
【0032】
エステル油としては、炭素数1~36の1種又は2種以上のアルコールと、炭素数1~36の1種又は2種以上のカルボン酸とを反応させて得ることができる、総炭素数16以上のエステル化合物を含む。ここで、酸価15以上である化合物が好適である。具体的には、日清オイリオグループ社のサラコスMIS(セバシン酸イソステアリル)、サラコスMOD(アゼライン酸オクチドデカノール)、サラコス1A(アジピン酸オクチルドデカノール)、サラコスHD(ダイマー酸オクチルドデカノール)等が挙げられる。
【0033】
デキストリン脂肪酸エステル、フラクトオリゴ糖脂肪酸エステルは、デキストリンやフラクトオリゴ糖と脂肪酸とで構成されるエステル、又はその誘導体であり、例えば、千葉製粉社より市販されているレオパールKL、レオパールMKL、レオパールTT、レオパールKE、レオパールTL、レオパールISK等によって例示される。
【0034】
アクリルポリマーは、アクリル酸またはメタクリル酸からなるモノマー1種以上とアクリル酸アルキルの共重合体であり、例えば、INCI名として(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマー、(アクリレーツ/メタクリル酸ベヘネス-25)コポリマー、(アクリレーツ/メタクリル酸ステアレス-20)クロスポリマー等によって例示される。
【0035】
ポリウレタンポリマーは、ポリウレタン骨格の親水基部を有し、分子中に疎水性部分をもつポリマーであり、例えば、INCI名で(PEG-240/デシルテトラデセス-20/HDI)コポリマー(アデカノールGT-700:ADEKA社)やビスステアリルPEG/PPG-8/6(SMDI/PEG-400)コポリマー(アクペック HU C2002:住友精化社)等によって例示される。
【0036】
[疎水性無機粉体(まとめ)]
上記のように、疎水性無機粉体は、基体としての無機粉体の種類と、有機表面処理剤(単数又は複数)の種類との組み合わせによって多種多様に調製され得るが、表面を有機表面処理剤で被覆して疎水性にした無機粉体であれば良い。本願において詳述する疎水性無機粉体は以下に列挙するものであり、いずれも一般的に入手可能である。

オクチルトリエトキシシラン処理疎水性顔料級酸化チタン(商品名:ALT-TSR-10;三好化成株式会社)
オクチルトリエトキシシラン処理疎水性黄酸化鉄(商品名:ALT-YHP-10;三好化成株式会社)
オクチルトリエトキシシラン処理疎水性赤酸化鉄(商品名:ALT-RHP-10;三好化成株式会社)
オクチルトリエトキシシラン処理疎水性黒酸化鉄(商品名:ALT-BHP-10;三好化成株式会社)
ステアロイルグルタミン酸2ナトリウム処理疎水性顔料級酸化チタン(商品名:NAI-TSR-10;三好化成株式会社)
ハイドロゲンジメチコン処理疎水性顔料級酸化チタン(商品名:SI-TSR-10;三好化成株式会社)
ハイドロゲンジメチコン処理疎水性黄酸化鉄(商品名:SI-YHP-10;三好化成株式会社)
ハイドロゲンジメチコン処理疎水性赤酸化鉄(商品名:SI-RHP-10;三好化成株式会社)
ハイドロゲンジメチコン処理疎水性黒酸化鉄(商品名:SI-BHP-10;三好化成株式会社)
ジメチルポリシロキサンとメチルハイドロジェンポリシロキサンとの複合処理疎水性微粒子酸化チタン(商品名:SAS-UT-A30;三好化成株式会社)
ジメチルポリシロキサンとオクチルトリエトキシシランとの複合処理疎水性微粒子酸化亜鉛(商品名:SALT-MZ-500;三好化成株式会社)
ハイドロゲンジメチコン処理疎水性微細酸化亜鉛(商品名:SI-微細酸化亜鉛;三好化成株式会社)
ハイドロゲンジメチコン処理タルク(商品名:SI-タルクJA-46R;三好化成株式会社)

なお、疎水性無機粉体は、それ自体が一般的に入手可能であるため疎水化処理についての詳細を割愛するが、例えばWO2014/102862号公報を参照して調製することができる。ここで、水中への自己分散性をより高めるには疎水性無機粉体の製造時にできるだけ一次粒子に近い状態で粒子表面が均一になるように疎水化処理することが好ましい。
【0037】
[親水性被膜としての非イオン性界面活性剤]
親水性被膜とは、粉体の表面を覆う親水性の被膜を意味し、本願では、特に疎水性無機粉体の表面を覆う親水性の被膜(親水性第2被膜とも称される)を意味する。本願では親水性被膜で覆われた疎水性無機粉体を親水化無機粉体と称する。ここで、親水性被膜は、親水化処理剤(特に、非イオン性界面活性剤)で形成されるため、親水性被膜の組成は非イオン性界面活性剤であると言える。本願の親水化無機粉体はこの親水性被膜としての非イオン性界面活性剤が水または水系溶媒への自己分散性のキー成分である。
【0038】
非イオン性界面活性剤とは、水中でイオン化しない界面活性剤を意味し、基本的には、親水性部分と疎水性部分とがエーテル結合又はエステル結合した構造を有する界面活性剤を意味する。なお、親水性部分と疎水性部分とがエーテル結合又はエステル結合した構造がポリオキシエチレングリセリンによって連結したグリセリン結合体(グリセリド)も非イオン性界面活性剤に含まれる。
【0039】
[親水性部分]
親水性部分とは、酸化エチレンがポリマー化(重合)した構造(つまりポリオキシエチレン構造)、又は、グリセリンがポリマー化した構造(つまりポリグリセリン構造)を有する部分を意味する。具体的には、ポリオキシエチレン構造は、H‐(OCHCH-と表記され得る構造であり、簡略的に「POE」と記載される場合がある。また、ポリエチレングリコールとも称され、「PEG」と記載される場合がある。また、ポリグリセリン構造は、H‐(OCHCHOHCH-と表記され得る構造であり、簡略的に「PG」と記載される場合がある。なお上記式においてnは酸化エチレン又はグリセリンの重合度を示し、一般的には付加モル数とも称される。例えば、付加モル数が10のポリオキシエチレン構造はPOE(10)と表記され得る。なお、付加モル数は平均値やピーク値であり、例えばPOE(10)にはPOE(9)やPOE(11)などが混在し得る。また、付加モル数が5のポリグリセリン構造はPG(5)と表記され得る。
【0040】
[分岐型炭素鎖部分(疎水性部分)]
炭素鎖部分とは、高級アルコール又は高級脂肪酸に由来する部分を意味し、疎水性部分とも称され得る。高級アルコールに由来する炭素鎖部分は、親水性部分とエーテル結合しているため、-O(CHHと表記され得る構造を有する。また、高級脂肪酸に由来する炭素鎖部分は、親水性部分とエステル結合しているため、-OCO(CHm-1Hと表記され得る構造を有する。なお上記式におけるmは、炭素鎖部分の炭素数に相当する。なお、炭素数も平均値やピーク値である。また炭素鎖部分の炭素数は例えば(C18)のようにも記載され得る。
【0041】
分岐型構造とは、分岐した炭素鎖、つまり直鎖でない炭素鎖部分の構造を意味する。本発明の親水性被膜である非イオン性界面活性剤の疎水性部分は分岐型高級アルコールまたは分岐型高級脂肪酸である。本願において、分岐型構造はモノメチルタイプ、ジメチルタイプ、多分岐タイプに分類されるが疎水性無機粉体に自己分散性を与えるに十分な分岐構造であれば分岐のタイプは問わない。
【0042】
[実施例と比較例で使用した非イオン性界面活性剤]
以上のように非イオン性界面活性剤はその構造によって分類され得るが、本願において詳述する非イオン性界面活性剤のタイプは以下のようにまとめられる。

【0043】
[Type 1の非イオン性界面活性剤]
Type 1は、POEと分岐型高級アルコールがモノエーテル結合した非イオン性界面活性剤であり、ポリオキシエチレンモノ分岐高級アルキルエーテルとも称される。POEの付加モル数は5~20であることが好ましい。分岐型高級アルコールの炭素数は12~20であることが好ましい。POEの付加モル数及び分岐型高級アルコールの炭素数は以下に述べる他のTypeでも同様である。分岐型高級アルコールとしては、イソドデカノール(C12)、イソミリスチルアルコール(C14)、イソセチルアルコール(C16)、イソステアリルアルコール(C18)、イソエイコサノール(C20)等が挙げられる。一般に入手可能なType 1の非イオン性界面活性剤は、日油社のノニオンIS-205(ポリオキシエチレン-5イソステアリルエーテル:HLB9.0)、ノニオンIS-210(ポリオキシエチレン-10イソステアリルエーテル:HLB12.4)、ノニオンIS-215(ポリオキシエチレン-15イソステアリルエーテル:HLB14.2)、ノニオンIS-220(ポリオキシエチレン-20イソステアリルエーテル:HLB15.3)、ノニオンOD-220(ポリオキシエチレン-20オクチルドデシルエーテル:HLB14.9)、日本エマルジョン社のEMALEX1605(ポリオキシエチレン-5ヘキシルデシルエーテル:HLB9.5)、EMALEX1610(ポリオキシエチレン-10ヘキシルデシルエーテル:HLB12.9)、EMALEX1805(ポリオキシエチレン-5イソステアリルエーテル:HLB9.0)、EMALEX1810(ポリオキシエチレン-10イソステアリルエーテル:HLB12.4)、EMALEX1815(ポリオキシエチレン-15イソステアリルエーテル:HLB14.2)などが挙げられる。
【0044】
[Type 2の非イオン性界面活性剤]
Type 2は、POEと分岐型高級脂肪酸とがモノエステル結合した非イオン性界面活性剤であり、ポリオキシエチレン分岐型高級脂肪酸モノエステルとも称され得る。イソタイプの脂肪酸としては、イソドデカン酸(C12)、イソミリスチン酸(C14)、イソパルミチン酸(C16)、イソステアリン酸(C18)、イソエイコ酸(C20)等が挙げられる。一般に入手可能なType 2の非イオン性界面活性剤は、日油社のノニオンIS-4(ポリオキシエチレン-8イソステアレート:HLB11.6)、ノニオンIS-6(ポリオキシエチレン-12イソステアレート:HLB13.7)、などが挙げられる。
【0045】
[Type 3の非イオン性界面活性剤]
Type 3は、POEとグリセリンのエーテル化物と分岐型高級脂肪酸とがエステル結合した非イオン性界面活性剤であり、ポリオキシエチレン分岐型高級脂肪酸グリセリルとも称される。モノエステルタイプとジエステル、トリエステルタイプがあるが疎水性無機粉体に自己分散性を与えるに十分な構造であればエステルのタイプは問わない。一般に入手可能なType 3の非イオン性界面活性剤は、日油社のユニオックスGT-20IS(ポリオキシエチレン-20トリイソステアリン酸グリセリル:HLB10.4)、ユニオックスGT-30IS(ポリオキシエチレン-30トリイソステアリン酸グリセリル:HLB12.3)、ユニオックスGM-8IS(ポリオキシエチレン-8イソステアリン酸グリセリル:HLB12.0)などが挙げられる。
【0046】
[Type 4の非イオン性界面活性剤]
Type 4は、PGと分岐型高級脂肪酸とがモノエステル結合した非イオン性界面活性剤であり、ポリグリセリン分岐型高級脂肪酸エステルとも称される。PGの重合度はPOEと同様である。一般に入手可能なType 4の非イオン性界面活性剤は、日光ケミカル社のデカグリン1-ISV(ポリグリセリル-10モノイソステアレート:HLB15.5)などが挙げられる。
【0047】
[Type 5の非イオン性界面活性剤]
Type 5は、POEと直鎖型高級アルコールとがモノエーテル結合した非イオン性界面活性剤である。ここで二重結合を含む直鎖型高級アルコールを用いた場合もType 5に含まれる。例えば、Type 5の非イオン性界面活性剤は、日油社のノニオンK-209(ポリオキシエチレン(9)ラウリルエーテル:HLB13.6)、ノニオンS-207(ポリオキシエチレン(7)ステアリルエーテル:HLB10.7)、ノニオンE-205S(ポリオキシエチレン(5)オレイルエーテル:HLB9.0)などが挙げられる。
【0048】
[Type 6の非イオン性界面活性剤]
Type 6は、POEと直鎖型高級脂肪酸とがモノエステル結合した非イオン性界面活性剤である。例えば、Type 6の非イオン性界面活性剤は、花王社のレオドール TW-O120V(ポリオキシエチレン(20)モノオレエート:HLB15.0)などが挙げられる。
【0049】
[Type 7の非イオン性界面活性剤]
Type 7は、POEとグリセリンのエーテル化物と直鎖型高級脂肪酸とがエステル結合した非イオン性界面活性剤である。例えば、日本エマルジョン社のEMALEX GWS-320(ポリオキシエチレン(20)グリセリルトリステアレート:HLB11.6)などが挙げられる。
【0050】
[Type 8の非イオン性界面活性剤]
Type 8は、PGと直鎖型高級脂肪酸とがモノエステル結合した非イオン性界面活性剤であり、ポリグリセリン直鎖型高級脂肪酸エステルとも称される。PGの重合度はPOEと同様である。一般に入手可能なType 8の非イオン性界面活性剤は、日光ケミカル社のデカグリン1-SV(ポリグリセリル-10モノステアレート:HLB15.5)などが挙げられる。
【0051】
[非イオン性界面活性剤の変形例]
上記のように、非イオン性界面活性剤は、基本的には親水性部分と疎水性部分とがエーテル結合又はエステル結合した構造を有し、上記のType以外の非イオン性界面活性剤も本願に含まれ得る。上記のType以外には、例えば、ポリグリセリン分岐高級アルコールエーテル(すなわち、Type 1のPGバージョン)、ポリグリセリン分岐型高級脂肪酸エステル(すなわち、Type 2のPGバージョン)などが含まれる。ここで、ポリグリセリン分岐型高級アルキルエーテルの性質は、Type 1の性質から当業者であれば予測可能であり、本願の範疇に含まれる。
【0052】
また、非イオン性界面活性剤の親水性部分と疎水性部分との間には他の構造が介在し得る。他の構造としては、ソルビタン、エリスリトール、ショ糖などが挙げられる。具体的には、ポリオキシエチレンソルビタン分岐型高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンエリスリトール分岐型高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンショ糖分岐型高級脂肪エステル、ポリグリセリン分岐型高級脂肪酸エステルなどと称される構造を有し、例えば日油社のノニオンIST-221(ポリオキシエチレン-20イソステアリン酸ソルビタン:HLB15.7)によって例示される。
【0053】
また、ポリオキシエチレン分岐型高級脂肪酸硬化ひまし油エステル(例えば、日油社のユニオックスHC-20MIS、ユニオックスHC-40MIS)などであっても良い。
【0054】
[HLB]
HLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance)とは、界面活性剤の水と油への親和性の程度を表す値である。HLBは、本願では下記に示す式により算出される。

HLB=(界面活性剤中の親水性部分(POEまたはPG)の分子量/界面活性剤の分子量)×20
【0055】
[親水化無機粉体]
親水化無機粉体とは、基材としての無機粉体と、無機粉体の表面を覆う疎水性被膜と、疎水性被膜を覆う親水性被膜とを有する粉体を意味する。すなわち、無機粉体を出発物質として考えると、まず無機粉体の表面を有機表面処理剤で被覆して疎水性無機粉体にした後に、更に非イオン性界面活性剤で被覆(すなわち親水化処理)して親水化無機粉体にしており、有機表面処理剤による疎水性の被膜と非イオン性界面活性剤による親水性の被膜の二重被覆を有することになる。
【0056】
親水化処理の方法は特に限定されず、非イオン性界面活性剤と疎水性無機粉体とが接触した状態で混合すれば調製可能である。混合方法も特に限定されず均一に処理できる混合機を採用すればよい。例えば、ヘンシルミキサー、リボンブレンダー、ニーダー、エクストルーダー、ディスパーミキサー、ホモミキサー、ビーズミル等が挙げられる。混合した後、熱風乾燥機やスプレードライヤー、フラッシュドライヤー、コニカルドライヤー等で乾燥して粉末を得ることができる。
【0057】
非イオン性界面活性剤(A)と疎水性無機粉体(B)の配合比率は、(A)/(B)=0.1/99.9~20.0/80.0(wt%)である。好ましくは、0.1/99.9~15.0/85.0(wt%)より好ましくは、0.1/99.9~10.0/190.0(wt%)である。界面活性剤は肌への刺激性の観点から出来るだけ少ない配合量が好ましい。
【0058】
[水および水系溶媒]
本願の親水化無機粉体は水への自己分散性を有する。本願で言う水とはイオン交換水や蒸留水等を言う。化粧料に配合する水は防腐や殺菌のされた水が使用される。本願の水系溶媒とは他の成分として水溶性のアルコールを含有した液を言う。例えば、エタノール、多価アルコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ヘキシルグリセリン、シクロヘキシルグリセリン、トリメチロールプロパン、キシリトール、エリスリトール、トレハロース、ソルビトール等のアルコール類が挙げられる。水とアルコールの配合比率は水/アルコール=100/0~50/50(wt%)であるが、アルコールの配合比率は親水化無機粉体の自己分散性の観点で低い程好ましい。
【0059】
また、化粧料の製造における中間原料として親水化無機粉体を高濃度に配合した水分散組成物が考えられる。この水分散組成物とは水に親水化無機粉体を主成分として分散した組成物であり流動する液状のものから粒状のものまで可能である。この分散組成物を製造する工程で分散機を使用することで親水化無機粉体の分散状態を調整できる事と化粧料に配合する際に粉体粒子の飛散が防止できる等使用適性のメリットがある。
【0060】
この水分散組成物にはその他成分としては、界面活性剤、保湿剤、紫外線吸収剤、防腐剤、酸化防止剤、皮膜形成剤、増粘剤、染料、顔料、各種薬剤、香料等を適宜配合することができる。
【0061】
界面活性剤は、非イオン性界面活性剤、特にポリオキシエチレン(10)イソステアリルエーテルを含むこともできるが、親水化無機粉体を調製する時点で使用するもの(本発明の用途のもの)と明確に区別される。
【0062】
前記増粘剤は、水分散組成物中の親水化無機粉体を長期間に渡って安定に分散させる、言い換えると貯蔵安定性を確保する目的で添加され得る。すなわち、無機粉体の種類などに依存して親水化無機粉体と水または水系溶媒の比重差によっては親水化無機粉体が浮遊、沈降したり離液が起こり得る。ここで、水または水系溶媒に増粘剤を添加すれば親水化無機粉体の浮遊、沈降を抑えることができる。
【0063】
増粘剤としては、ヒアルロン酸ナトリウム、カチオン化ヒアルロン酸ナトリウム、アクリロイルジメチルタウリンとその塩を構成単位とする重合体および共重合体、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。具体的には、例えば、(アクリル酸Na/アクリロイルジメチルタウリン/ジメチルアクリルアミド)クロスポリマー(商品名:SEPINOV P88;成和化成社)やポリアクリレートクロスポリマ-6(商品名:SEPIMAX ZEN;成和化成社)、(アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマー(商品名:SEPINOV EMT 10;成和化成社)、ポリビニルピロリドン(商品名:ルビスコールK17、ルビスコールK30、ルビスコールK90;BASFジャパン社)、(PEG-240/デシルテトラデセスー20/HDI)コポリマー/ラウリン酸K/BG/水の混合物(アデカノールGT-730;ADEKA社)、ポリウレタン-59/BG/水の混合物(アデカノールGT-930;ADEKA社)、トリデセス-6(Avalure Flex-6 CC Polymer;ルーブリゾル社)、キサンタンガム(ケルトロールCG-T;三晶社)、ジェランガム(ケルコゲル、ケルコゲルHM;DSP五協フード&ケミカル社)、ケイ酸(Na/Mg)(商品名:OVEIL ER(大阪ガスケミカル社))、ベントナイト(商品名:OVEIL BR(大阪ガスケミカル社))等が挙げられる。
【0064】
[化粧料]
化粧料は、メークアップ化粧料、スキンケア化粧料、頭髪化粧料等を含む。メークアップ化粧料としては、化粧下地、おしろい(水系、油系)、パウダーファンデーション、リキッドファンデーション、W/O型乳化ファンデーション、油性ファンデーション、油性固形ファンデーション、スティックファンデーション、プレストパウダー、フェイスパウダー、白粉、口紅、口紅オーバーコート、リップグロス、コンシーラー、頬紅、アイシャドウ(水系、油系)、アイブロウ、アイライナー、マスカラ、水性ネイルエナメル、油性ネイルエナメル、乳化型ネイルエナメル、エナメルトップコート、エナメルベースコート等が挙げられる。スキンケア化粧料としては、エモリエントクリーム、コールドクリーム、美白クリーム、乳液、化粧水、美容液、パック、カーマインローション、液状洗顔料、洗顔フォーム、洗顔クリーム、洗顔パウダー、メイククレンジング、ボディグロス、日焼け止め又は日焼け用クリームやローション、水系サンカットローション、O/W型日焼け止め化粧料等が挙げられる。頭髪化粧料としては、ヘアーグロス、ヘアクリーム、ヘアーシャンプー、ヘアリンス、ヘアカラー、ヘアブラッシング剤、ヘアトリートメント等が挙げられる。制汗剤としては、クリームやローション、パウダー、スプレータイプのデオドラント製品等が挙げられる。その他、乳液、石鹸、浴用剤、香水等も本願では化粧料に含まれる。
【実施例
【0065】
以下に、好適な実施例及び当該実施例に対応する比較例を挙げて本発明を詳細に説明する。なお本発明は下記の実施例には限定されるものではなく、下記の実施例から見いだされる本発明の技術的意義を逸脱しないように、修正、変更、応用(部分的なものを含む)及びそれらの組み合わせが可能である。
【0066】
[親水化無機粉体の親水性、自己分散性の評価]
まず、以下の実施例1~17及び比較例1~7に示す親水化無機粉体を調製して、各々の親水性、自己分散性について評価した。
【0067】
(実施例1)
ポリオキシエチレン(10)イソステアリルエーテル(ノニオンIS-210)102gをイオン交換水1.5kgに投入して60℃にて白濁溶解した。オクチルトリエトキシシラン処理疎水性顔料級酸化チタン(商品名:ALT-TSR-10;三好化成株式会社)5kgに前記白濁溶解液を投入してニーダーミキサーにて30分間混練した後、真空加熱下に撹拌してイオン交換水を留去して実施例1の粉体を得た。
【0068】
(実施例2)
ポリオキシエチレン(10)イソステアリルエーテル(ノニオンIS-210)208gをイオン交換水/イソプロピルアルコール(IPA)=8/2(wt%)液2kgに溶解した。オクチルトリエトキシシラン処理疎水性黄酸化鉄(商品名:ALT-YHP-10;三好化成株式会社)5kgに前記溶解液を投入して実施例1と同様に処理して実施例2の粉体を得た。
【0069】
(実施例3)
ポリオキシエチレン(10)イソステアリルエーテル(ノニオンIS-210)208gをイオン交換水/イソプロピルアルコール(IPA)=8/2(wt%)液2kgに溶解した。オクチルトリエトキシシラン処理疎水性赤酸化鉄(商品名:ALT-RHP-10;三好化成株式会社)5kgに前記溶解液を投入して実施例1と同様に処理して実施例3の粉体を得た。
【0070】
(実施例4)
ポリオキシエチレン(10)イソステアリルエーテル(ノニオンIS-210)155gをイオン交換水/イソプロピルアルコール(IPA)=8/2(wt%)液1.2kgに溶解した。オクチルトリエトキシシラン処理疎水性黒酸化鉄(商品名:ALT-BHP-10;三好化成株式会社)5kgに前記溶解液を投入して実施例1と同様に処理して実施例4の粉体を得た。
【0071】
(実施例5)
ポリオキシエチレン(10)イソステアリルエーテル(ノニオンIS-210)102gをイオン交換水200gに投入して白濁溶解した。ステアロイルグルタミン酸2ナトリウム処理疎水性顔料級酸化チタン(商品名:NAI-TSR-10;三好化成株式会社)5kgと前記白濁溶解液をヒーターヘンシルに投入して30分間撹拌した。ヒーターヘンシルのジャケットに加熱蒸気を通して加熱下撹拌してイオン交換水を留去した。アトマイザーにて粉砕して実施例5の粉体を得た。
【0072】
(実施例6)
ポリオキシエチレン(10)イソドデシルエーテル(ノニオンISK-210)102gをイオン交換水/イソプロピルアルコール(IPA)=8/2(wt%)液200gに白濁溶解した。ハイドロゲンジメチコン処理疎水性顔料級酸化チタン(商品名:SI-TSR-10;三好化成株式会社)5kgを投入して実施例5と同様に処理して実施例6の粉体を得た。
【0073】
(実施例7)
ポリオキシエチレン(10)イソステアリルエーテル(ノニオンIS-210)208gをイオン交換水/イソプロピルアルコール(IPA)=8/2(wt%)液250gに溶解した。ハイドロゲンジメチコン処理疎水性黄酸化鉄(商品名:SI-YHP-10;三好化成株式会社)5kgに前記溶解液を投入して実施例5と同様に処理して実施例7の粉体を得た。
【0074】
(実施例8)
ポリオキシエチレン(10)イソステアリルエーテル(ノニオンIS-210)208gをイオン交換水/イソプロピルアルコール(IPA)=8/2(wt%)液250gに溶解した。ハイドロゲンジメチコン処理疎水性赤酸化鉄(商品名:SI-RHP-10;三好化成株式会社)5kgに前記溶解液を投入して実施例5と同様に処理して実施例8の粉体を得た。
【0075】
(実施例9)
ポリオキシエチレン(10)イソステアリルエーテル(ノニオンIS-210)102gをイオン交換水/イソプロピルアルコール(IPA)=8/2(wt%)液200gに溶解した。ハイドロゲンジメチコン処理疎水性黒酸化鉄(商品名:SI-BHP-10;三好化成株式会社)5kgに前記溶解液を投入して実施例5と同様に処理して実施例9の粉体を得た。
【0076】
(実施例10)
イオン交換水3kgにポリオキシエチレン(12)イソステアレート(ノニオンIS-6)158gを入れ60℃にて白濁溶解した。この溶解液にディスパーミキサーを入れ撹拌下にジメチルポリシロキサンとメチルハイドロジェンポリシロキサンとの複合処理疎水性微粒子酸化チタン(商品名:SAS-UT-A30;三好化成株式会社)3kgを徐添しながら水分散液とした。この水分散液を二流体ノズルによるスプレードライヤーで噴霧乾燥して実施例10の粉体を得た。
【0077】
(実施例11)
イオン交換水3kgにポリオキシエチレン(20)トリイソステアリン酸グリセリル(ユニオックスGT-20IS)125gを入れ60℃にて溶解した。この溶解液にディスパーミキサーを入れ撹拌下にジメチルポリシロキサンとオクチルトリエトキシシランとの複合処理疎水性微粒子酸化亜鉛(商品名:SALT-MZ-500;三好化成株式会社)5kgを徐添しながら水分散液とした。この水分散液を二流体ノズルによるスプレードライヤーで噴霧乾燥して実施例11の粉体を得た。
【0078】
(実施例12)
実施例1のポリオキシエチレン(10)イソステアリルエーテルをポリグリセリル(10)モノイソステアレート(デカグリン1-ISV)に替えた以外は実施例1と同様に操作して実施例12の粉体を得た。
【0079】
(実施例13)
実施例1のポリオキシエチレン(10)イソステアリルエーテルをポリオキシエチレン(20)オクチルドデシルエーテル(EMALEX OD-20)に替えた以外は実施例1と同様に操作して実施例13の粉体を得た。
【0080】
(実施例14)
実施例1のポリオキシエチレン(10)イソステアリルエーテルをポリオキシエチレン(8)イソステアリン酸グリセリル(ユニオックスGM-8IS)に替えた以外は実施例1と同様に操作して実施例14の粉体を得た。
【0081】
(実施例15)
実施例1のポリオキシエチレン(10)イソステアリルエーテルをポリオキシエチレン(8)イソステアリン酸グリセリル(ユニオックスGM-8IS)に替えた以外は実施例1と同様に操作して実施例15の粉体を得た。
【0082】
(実施例16)
ポリオキシエチレン(5)ヘキシルデシルエーテル(EMALEX1605)102gをイオン交換水1.5kgに投入して60℃にて溶解した。ハイドロゲンジメチコン処理疎水性微細酸化亜鉛(商品名:SI-微細酸化亜鉛;三好化成株式会社)5kgに前記白濁溶解液を投入してニーダーミキサーにて30分間混練した。混練物をフラッシュドライヤーで乾燥・粉砕して実施例16の粉体を得た。
【0083】
(実施例17)
実施例5の疎水性顔料級酸化チタンをハイドロゲンジメチコン処理タルク(商品名:SI-タルクJA-46R;三好化成株式会社)に替えた以外は実施例5と同様に操作して実施例17の粉体を得た。
【0084】
(比較例1)
実施例1のポリオキシエチレン(10)イソステアリルエーテルをポリオキシエチレン(10)ステアリルエーテル(商品名:EMALEX 610(HLB12.4);日本エマルジョン社)に替えた以外は実施例1と同様に操作して比較例1の粉体を得た。
【0085】
(比較例2)
実施例6のポリオキシエチレン(10)イソドデシルエーテルをポリオキシエチレン(10)ラウリルエーテル(商品名:ノニオンK-210(HLB14.1);日油社)に替えた以外は実施例6と同様に操作して比較例2の粉体を得た。
【0086】
(比較例3)
実施例7のポリオキシエチレン(10)イソステアリルエーテルをポリグリセリル(10)モノステアレート(商品名:デカグリン1-SV(HLB15.5)に替えた以外は実施例7と同様に操作して比較例3の粉体を得た。
【0087】
(比較例4)
実施例8のポリオキシエチレン(10)イソステアリルエーテルをポリオキシエチレン(5)オレイルエーテル(商品名:ノニオンE-205S(HLB9.0);日油社)に替えた以外は実施例8と同様に操作して比較例4の粉体を得た。
【0088】
(比較例5)
実施例9のポリオキシエチレン(10)イソステアリルエーテルをポリオキシエチレン(20)モノオレエート(商品名:レオドール TW-O120V(HLB15.0);花王社)に替えた以外は実施例9と同様に操作して比較例5の粉体を得た。
【0089】
(比較例6)
実施例10のポリオキシエチレン(12)イソステアレートをポリオキシエチレン(6)イソデシルエーテル(商品名:ノニオンID-203(HLB9.1);日油社)に替えた以外は実施例10と同様に操作して比較例6の粉体を得た。
【0090】
(比較例7)
実施例11のポリオキシエチレン(20)トリイソステアリン酸グリセリルをポリオキシエチレン(20)トリステアリン酸グリセリル(商品名:EMALEX GWS-320(HLB11.6);日本エマルジョン社)に替えた以外は実施例11と同様に操作して比較例7の粉体を得た。
【0091】
(比較例8)
各実施例、比較例の粉体の基体としての無機粉体をそのまま比較評価用に用意した。これらの無機粉体(無処理)は、各実施例、比較例の粉体と異なり、疎水性被膜及び親水性被膜の両方が無く、無機粉体そのものが露出しており、親水性である。
【0092】
上記の実施例及び比較例で使用した非イオン性界面活性剤を上記の分類にあてはめると以下のようになる。

【0093】
(親水性および自己分散性の評価方法)
試験1
200ccのガラスバイアルにイオン交換水100ccを入れ、粉体0.3gをスパーテルに採り水面より5cmの高さから落とし入れ水中に粉体粒子が入り落ちていく様子を以下の評価基準で観察した。粉体を水面に投下した後は、物理的な撹拌操作は一切行わずに粉体粒子が水中で自然に拡散して分散する性質(すなわち自己分散性)を観察した。
試験2
試験1のイオン交換水をイオン交換水/ブチレングリコール(BG)=6/4(wt%)溶液に変えた以外は試験1と同様に評価した。
試験3
試験1のイオン交換水をイオン交換水/グリセリン(G)=6/4(wt%)溶液に変えた以外は試験1と同様に評価した。
【0094】
(親水性および自己分散性の評価基準)
〇:粉体粒子が水層に自己分散(拡散)して60秒後には水層全体に粉体粒子が拡散して濁った。
△:粉体粒子が水層に入るが60秒後には水層のごく一部が粉体粒子で濁った。
×:粉体粒子は水層中で分散せず沈降または浮遊した。
【0095】
なお、図1、2は、親水性、自己分散性の評価例であり、各粉体をイオン交換水に投入した直後(1)から60秒後(4)までの時間経過に伴う状態の変化を示す。図1(A)は、実施例1の粉体(オクチルトリエトキシシラン処理疎水性顔料級酸化チタンをポリオキシエチレン(10)イソステアリルエーテルで親水化処理した粉体)の状態変化を示し、評価基準:〇の一例である。図1(B)は、比較例8の粉体(実施例1で使用したオクチルトリエトキシシラン処理疎水性顔料級酸化チタンそのもの)の状態変化を示し、評価基準:×の一例である。図2(A)は、実施例2の粉体(オクチルトリエトキシシラン処理疎水性黄酸化鉄をポリオキシエチレン(10)イソステアリルエーテルで親水化処理した粉体)の状態変化を示し、評価基準:〇の一例である。図2(B)は、比較例8の粉体(実施例2で使用したオクチルトリエトキシシラン処理疎水性黄酸化鉄そのもの)の状態変化を示し、評価基準:×の一例である。
【0096】
(親水性および自己分散性の評価結果)
[表1]
【0097】
(評価結果の考察1)
実施例1と比較例8の評価結果などから、基体としての無機粉体を疎水化処理及び親水化処理の両方に供することによって親水性及び自己分散性が明確に改善されることが分かった。特に、図1、2に示すように、実施例1~17の粉体は、イオン交換水などに投下した後は、物理的な撹拌操作を一切行うことなく水中で自然に拡散して分散するという性質(すなわち自己分散性)において顕著な有用性を有することが分かった。より具体的には、実施例1~17の粉体は、水系溶媒に投下した後数十秒以内(少なくとも60秒以内)に自発的に分散して均一に混ざると言える。
【0098】
また、実施例1において、疎水性無機粉体に対する界面活性剤の配合量は、102g/5kg=0.0204であり、2wt%程度の配合量でも良好な親水性及び自己分散性が達成されることが分かった。
【0099】
(評価結果の考察2)
実施例1と比較例1の評価結果から、ポリオキシエチレン(10)イソステアリルエーテルを界面活性剤として使用した場合(実施例1:〇)に、ポリオキシエチレン(10)ステアリルエーテルを界面活性剤として使用した場合(比較例1:△)よりも、良好な親水性及び自己拡散性が達成されることが分かった。実施例1と比較例1の相違点は、界面活性剤の炭素鎖部分の構造(すなわち、実施例1:分岐型構造、比較例1:直鎖型構造)に存在するため、炭素鎖部分が分岐型構造の界面活性剤(すなわち、Type 1の非イオン性界面活性剤)が親水性及び自己分散性という観点で有用であることが分かった。同様のことが、実施例6と比較例2の評価結果(すなわち、炭素鎖部分の炭素数はいずれもC12)から言える。
【0100】
ただし、比較例6のように、ポリオキシエチレンの付加モル数が6であり炭素鎖部分がC10の場合には、炭素鎖部分が分岐型構造を有する界面活性剤は親水性及び自己分散性という観点で実施例1などよりも劣る。ここで、実施例1~17の中で最も炭素鎖部分の炭素数が少ない界面活性剤は実施例6で使用したポリオキシエチレン(10)イソドデシルエーテルのC12であり、実施例1~17の中で最も炭素鎖部分の炭素数が多い界面活性剤は実施例13で使用したポリオキシエチレン(20)オクチルドデシルエーテルのC20である。そのため、親水性及び自己分散性という観点で有用な界面活性剤は、炭素鎖部分の炭素数がC12~C20という視点で選択され得る。
【0101】
また、実施例1~17の中で、最もHLBが低い界面活性剤は実施例16で使用したポリオキシエチレン(5)ヘキシルデシルエーテルのHLB9.5であり、最もHLBが高い界面活性剤は実施例12で使用したポリグリセリル(10)モノイソステアレートのHLB15.5である。そのため、親水性及び自己拡散性という観点で有用な界面活性剤は、HLBが9.5~15.5という視点で選択され得る。
【0102】
(評価結果の考察3)
実施例11と比較例7の評価結果から、炭素鎖部分が分岐型構造の界面活性剤の有用性は、グリセリン結合体であるか否かに依存しないと言える。
【0103】
(評価結果の考察4)
実施例12と比較例5の評価結果から、炭素鎖部分が分岐型構造の界面活性剤の有用性は、親水性部分と炭素鎖部分の結合型(すなわち、エーテル結合又はエステル結合)に依存しないと言える。
【0104】
(評価結果の考察5)
実施例1~4などの評価結果から、基材としての無機粉体の種類に依存せずに良好な親水性及び自己分散性が達成されると言える。
【0105】
(評価結果の考察6)
実施例1、5、6などの評価結果から、疎水性被膜の組成に依存せずに良好な親水性及び自己分散性が達成されると言える。少なくとも、疎水性被膜の組成は、オクチルトリエトキシシラン、ステアロイルグルタミン酸2ナトリウム、ハイドロゲンジメチコン、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサンの中から選択され得ると言える。
【0106】
(評価結果の考察のまとめ)
以上のことから、良好な親水性及び自己分散性を達成し得る親水性被膜の組成は、炭素鎖部分が分岐構造を有する炭素数が12~20である非イオン性界面活性剤である。特にType 1のモノエーテルタイプの非イオン性界面活性剤であるか、又は、HLBが9.5~15.5であるという条件のいずれかを満足すれば、特に良好な親水性及び自己分散性を達成し得る。
【0107】
[O/W型乳化ファンデーションの使用感、化粧効果、化粧持続性の評価1]
以下の実施例18及び比較例9に示す組成のO/W型乳化ファンデーションを調製して、各O/W型乳化ファンデーションについての使用感、化粧効果、化粧持続性を評価した。
【0108】
(O/W型乳化ファンデーションの調製方法)
A:油層成分を良く分散混合した。
B:水層成分を良く分散混合した。
C:BにAを加えた後に、ホモミキサーで乳化してO/W型乳化ファンデーションを得た。
【0109】
(使用感、化粧効果、化粧持続性の評価方法)
使用感、化粧効果、化粧持続性は、各O/W型乳化ファンデーションを25名の専門パネラーに1日使用してもらい、以下に示す5段階のいずれの評点に値するかを採点してもらってその平均値で評価した。なお、使用感は、すべり性の良さ、ベトツキの無さ、心地よさという観点での評価である。また、化粧効果は、粉っぽさ、塗りムラの無さ、化粧膜の均一性、自然なツヤ感という観点での評価である。また、化粧持続性は、時間経過に伴う色くすみやテカリの発生、粉よれの無さという観点での評価である。
【0110】
(評価基準)
評価結果 : 評点
非常に良好 : 5点
良好 : 4点
普通 : 3点
やや不良 : 2点
不良 : 1点
【0111】
[表2]
【0112】
実施例18の評価結果から、実施例1~4の粉体は、O/W型乳化ファンデーションに調製しても、良好な使用感、化粧効果、化粧持続性が得られることが分かった。
【0113】
一方で、比較例9の評価結果から、比較例2~5の粉体は、O/W型乳化ファンデーションに調製した場合に、実施例1~4の粉体を使用した場合よりも使用感、化粧効果、化粧持続性が劣ることが分かった。
【0114】
[O/W型乳化ファンデーションの使用感、化粧効果、化粧持続性の評価2]
以下の実施例19及び比較例10、11に示す組成のO/W型乳化ファンデーションを調製して、各O/W型乳化ファンデーションについての使用感、化粧効果、化粧持続性を評価した。
【0115】
(製造方法、評価方法)
製造方法、評価方法は、上記実施例18と同様であるが、オクチルトリエトキシシラン処理疎水性顔料級酸化チタン、オクチルトリエトキシシラン処理疎水性黄酸化鉄、オクチルトリエトキシシラン処理疎水性赤酸化鉄、及び、オクチルトリエトキシシラン処理疎水性黒酸化鉄(各々は実施例1~4における親水化処理前の疎水性無機粉体に対応)を水層成分に配合した比較例10と対比する点で大きく異なる。
【0116】
[表3]
【0117】
実施例19の評価結果から、実施例1~4の粉体は、O/W型乳化ファンデーションの水層成分として配合した場合(実施例19)に、良好な使用感、化粧効果、化粧持続性が得られることが分かった。
【0118】
また、比較例10の評価結果から、親水化処理前の疎水性無機粉体をO/W型乳化ファンデーションの油層成分として配合した場合(比較例10)であっても、それなりの使用感、化粧効果、化粧持続性が得られるが、使用感、化粧効果に関しては、実施例19よりも劣ることが分かった。
【0119】
比較例10、11の評価結果から、比較例2~5の粉体は親水化処理前の粉体の使用感、化粧効果、化粧持続性よりも劣ることが分かった。つまり、直鎖型の炭素鎖部分を有する非イオン性界面活性剤で処理した場合には、親水化処理前の疎水性無機粉体よりも使用感、化粧効果、化粧持続性という観点で悪化することがわかった。なお、比較例10、11とでは水層、油層のいずれに配合するかという点で相違するが、各々の粉体の表面被膜を考慮すれば合理的であると解釈される。例えば、比較例2~5の粉体(親水化処理した粉体)を油層成分として配合した場合には、更なる使用感、化粧効果、化粧持続性の悪化が見込まれる。
【0120】
[水系サンカットローションの使用感、化粧効果、化粧持続性、SPF値の評価]
以下の実施例20及び比較例12、13に示す組成の水系サンカットローションを調製して、各水系サンカットローションについての使用感、化粧効果、化粧持続性、SPF値を評価した。
【0121】
(製造方法)
A:油層成分を良く分散混合した。
B:水層成分を良く分散混合した。
C:BにAを加えた後に、ホモミキサーで乳化して水系サンカットローションを得た。
【0122】
(評価方法)
水系サンカットローションは追加項目としてin-vitro SPF値を測定した。その他の評価方法は、上記のO/W型乳化ファンデーションと同様であるが、比較例12において親水化処理前の疎水性無機粉体(各々は実施例10、11における親水化処理前の疎水性無機粉体に対応)を水層成分に配合した例と比較する点で大きく異なる。
【0123】
[表4]
【0124】
表4の結果から、実施例10及び11の粉体を配合した水系サンカットローションは紫外線遮蔽能が高く使用感と化粧効果、化粧持続性に優れていることが分かった。
【0125】
[O/W型日焼け止め化粧料の使用感、化粧効果、化粧持続性、SPF値の評価1]
以下の実施例21及び比較例14に示す組成のO/W型日焼け止め化粧料を調製して、各O/W型日焼け止め化粧料についての使用感、化粧効果、化粧持続性、SPF値を評価した。
【0126】
(製造方法、評価方法)
O/W型日焼け止め化粧料の製造方法、評価方法は、上記の水系サンカットローションと同様である。
【0127】
[表5]
【0128】
表5の結果から、実施例7の粉体を配合したO/W型日焼け止め化粧料は紫外線遮蔽能が高く使用感と化粧効果、化粧持続性に優れていることが分かった。
【0129】
[O/W型日焼け止め化粧料の使用感、化粧効果、化粧持続性、SPF値の評価2]
以下の実施例22及び比較例15に示す組成のO/W型日焼け止め化粧料を調製して、各O/W型日焼け止め化粧料についての使用感、化粧効果、化粧持続性、SPF値を評価した。
【0130】
(製造方法、評価方法)
O/W型日焼け止め化粧料の製造方法、評価方法は、上記の水系サンカットローションと同様である。
【0131】
[表6]
【0132】
表6の結果から、実施例10及び11の粉体を配合したO/W型日焼け止め化粧料は紫外線遮蔽能が高く使用感と化粧効果、化粧持続性に優れていることが分かった。
【0133】
[パウダーファンデーションの使用感、化粧効果、化粧持続性の評価]
以下の実施例23及び比較例16に示す組成のパウダーファンデーションを調製して、各パウダーファンデーションについての使用感、化粧効果、化粧持続性を評価した。
【0134】
(製造方法)
A:粉末成分を良く分散混合した。
B:油性成分を良く混合溶解した。
C:AにBを加えた後に、混合粉砕後フルイを通して金皿に成型してパウダーファンデーションを得た。
【0135】
(評価方法)
パウダーファンデーションの評価方法は、上記のO/W型乳化ファンデーションと同様である。
【0136】
[表7]
【0137】
表7の結果から、実施例6~9の粉体を配合したパウダーファンデーションは使用感、化粧効果、化粧持続性に優れていることが分かった。
【0138】
[油性固形ファンデーションの使用感、化粧効果、化粧持続性の評価]
以下の実施例24及び比較例17に示す組成の油性固形ファンデーションを調製して、各油性固形ファンデーションについての使用感、化粧効果、化粧持続性を評価した。
【0139】
(製造方法)
A:粉末成分を良く分散混合した。
B:油性成分を良く混合溶解した。
C:AにBを加えた後に、熱ローラー処理して金皿に流し込み冷却成型して油性固形ファンデーションを得た。
【0140】
(評価方法)
油性固形ファンデーションの評価方法は、上記のO/W型乳化ファンデーションと同様である。
【0141】
[表8]
【0142】
表8の結果から、実施例1~4の粉体を配合した油性固形ファンデーションは使用感、化粧効果、化粧持続性に優れていることが分かった。
【0143】
[水系おしろいの使用感、化粧効果、化粧持続性の評価]
以下の実施例25及び比較例18に示す組成の水系おしろいを調製して、各水系おしろいについての使用感、化粧効果、化粧持続性を評価した。
【0144】
(製造方法)
A:粉体成分を良く混合した。
B:水層成分を混合して溶解した。
C:BにAを加えた後に、良く撹拌して水系おしろいを得た。
【0145】
(評価方法)
水系おしろいの評価方法は、上記のO/W型乳化ファンデーションと同様である。
【0146】
[表9]
【0147】
表9の結果から、実施例5の粉体を配合した水系おしろいは使用感、化粧効果、化粧持続性に優れていることが分かった。
【0148】
[湿式成型法による水系アイシャドウの使用感、化粧効果、化粧持続性の評価]
以下の実施例26及び比較例19に示す組成の水系アイシャドウを調製して、各水系アイシャドウについての使用感、化粧効果、化粧持続性を評価した。
【0149】
(製造方法)
A:粉体成分を良く混合した。
B:水層成分を混合して溶解した。
C:前記BにAを加え良く撹拌してスラリー状とし充填皿に流し込み乾燥して水系アイシャドウを得た。
【0150】
(評価方法)
水系アイシャドウの評価方法は、上記のO/W型乳化ファンデーションと同様である。
【0151】
[表10]
【0152】
表10の結果から、実施例1、7、8の粉体を配合した水系アイシャドウは使用感、化粧効果、化粧持続性に優れていることが分かった。
【0153】
[水系化粧下地の使用感、化粧効果、化粧持続性の評価]
以下の実施例27及び比較例20に示す組成の水系化粧下地を調製して、各水系化粧下地についての使用感、化粧効果、化粧持続性を評価した。
【0154】
(製造方法)
A:粉体成分を良く混合した。
B:水層成分のBGとA成分を混合してローラーで処理した。
C:BにAを加えた後に、良く撹拌して水系化粧下地を得た。
【0155】
(評価方法)
水系化粧下地の評価方法は、上記のO/W型乳化ファンデーションと同様である。
[表11]
【0156】
表11の結果から、実施例2~4の粉体を配合した水系化粧下地は使用感、化粧効果、化粧持続性に優れていることが分かった。
【0157】
[口紅の使用感、化粧効果、化粧持続性の評価]
以下の実施例28及び比較例21に示す組成の口紅を調製して、各口紅についての使用感、化粧効果、化粧持続性を評価した。
【0158】
(製造方法)
A:油層成分を良く混合した。
B:粉体成分をA成分と混合してローラーで分散処理した。
C:BをAに加えた後に均一に混合した。
D:水層成分を混合して加温した。
E:DをCに加えた後に乳化して口紅を得た。
【0159】
(評価方法)
口紅の評価方法は、上記のO/W型乳化ファンデーションと同様である。
【0160】
[表12]
【0161】
表12の結果から、実施例3、5の粉体を配合した口紅は使用感、化粧効果、化粧持続性に優れていることが分かった。
【0162】
[制汗剤のベタツキの無さ、油性感の無さ、心地良さの評価]
以下の実施例29及び比較例22に示す組成の制汗剤を調製して、各制汗剤についてのベタツキの無さ、油性感の無さ、心地良さを評価した。
【0163】
(製造方法)
A:粉体成分を良く混合する。
B:水層成分混合して溶解する。
C:BにAを加えた後に、混合して制汗剤を得た。
【0164】
(評価方法)
制汗剤の評価方法は、ベタツキの無さ、油性感の無さ、心地良さについて評価したこと以外は上記のO/W型乳化ファンデーションと同様である。ただし、比較例22では、無機粉体としてのタルクを使用した。この無機粉体としてのタルクは、疎水性被膜及び親水性被膜を有さない、無処理のタルクである。
【0165】
[表13]
【0166】
表13の結果から、実施例16、17の粉体を配合した制汗剤はベタツキや油性感が無く心地良さに優れていることが分かった。
【0167】
[トリートメントのベタツキの無さ、櫛通りの良さ、毛髪の滑らかさの評価]
以下の実施例30及び比較例23に示す組成のトリートメントを調製して、トリートメントについてのベタツキの無さ、櫛通りの良さ、毛髪の滑らかさを評価した。ベタツキの無さ、櫛通りの良さ、毛髪の滑らかさは、ツヤ感、さらさら感とも言い換えられる。
【0168】
(製造方法)
A:油層成分を加熱混合した。
B:水層成分を分散混合した。
C:AにBを加えた後に、良く混合してトリートメントを得た。
【0169】
(評価方法)
トリートメントの評価方法は、ベタツキの無さ、櫛通りの良さ、毛髪の滑らかさについて評価したこと以外は上記のO/W型乳化ファンデーションと同様である。ただし、比較例23では、無機粉体としてのタルクを使用した。この無機粉体としてのタルクは、疎水性被膜及び親水性被膜を有さない、無処理のタルクである。
【0170】
[表14]
【0171】
表14の結果から、実施例17の粉体を配合したトリートメントはベタツキが無く、櫛通りの良さ、毛髪の滑らかさに優れていることが分かった。
【0172】
[まとめ]
以上のように、基材としての無機粉体と、無機粉体の表面を覆う疎水性被膜と、疎水性被膜を覆う親水性被膜とを有する親水化無機粉体において、良好な親水性及び自己分散性を達成し得る親水性被膜の組成は、炭素鎖部分に分岐型構造を有する親水性の非イオン性界面活性剤を選択することができる。特に、炭素鎖部分の炭素数が12~20であるか、又は、HLBが9.5~15.5であるという条件のいずれかを満足すれば、良好な親水性及び自己分散性を達成し得る。特に図1、2に示すように自己分散性に関しては特別に顕著であり、公知の親水化無機粉体では達成できない性質であると言える。
【0173】
このような知見は、比較例11、13に示すように非選択的に非イオン性界面活性剤を用いて疎水性無機粉体を親水化処理した場合には、むしろ所望の性質(使用感、化粧効果、化粧持続性)という観点で悪化する可能性があることに鑑みれば、特に有用であると言える。
図1
図2