(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】センシング用ナノ粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/566 20060101AFI20231002BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20231002BHJP
【FI】
G01N33/566
G01N33/53 D
(21)【出願番号】P 2022503390
(86)(22)【出願日】2021-03-01
(86)【国際出願番号】 JP2021007726
(87)【国際公開番号】W WO2021172591
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2020031457
(32)【優先日】2020-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020159008
(32)【優先日】2020-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522341388
【氏名又は名称】株式会社TearExo
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】竹内 俊文
(72)【発明者】
【氏名】砂山 博文
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 恵里
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/221271(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/194152(WO,A1)
【文献】特開2018-132527(JP,A)
【文献】特開2016-194443(JP,A)
【文献】国際公開第2017/204209(WO,A1)
【文献】特開2009-128169(JP,A)
【文献】松本 大樹、外4名,ポストインプリンティング修飾分子インプリントポリマーナノ薄膜による前立腺特異抗原センシング,2017年 第78回応用物理学会秋季学術講演会[講演予稿集] The 78th JSAP Autumn Meeting, 2017 [Extended Abstracts],日本,公益社団法人応用物理学会 The Japan Society of Applied Physics,2017年
【文献】松浦 亮 、外5名,分子インプリントポリマー修飾プラズモニックチップによるヒト血清アルブミンの高感度プラズモニックセンシ,<第63回>応用物理学会春季学術講演会講演予稿集,日本,2016年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
G01N 21/62-21/74
C09K 11/00-11/89
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体物質の分子インプリント空間を有する分子インプリントポリマーを含み、
前記分子インプリントポリマーが、前記生体物質との相互作用基及び前記相互作用基とは異なるシグナル物質結合性基を含む機能性基を有する機能性モノマー由来の構成単位を含み、
前記機能性基が前記分子インプリント空間表面に存在しており、
前記シグナル物質結合性基が、アミノ基、カルボキシル基、チオール基、ジスルフィド基含有基、アミノオキシ基、アルデヒド基、及び水酸基からなる群より選択される、センシング用ナノ粒子。
【請求項2】
生体物質の分子インプリント空間を有する分子インプリントポリマーを含み、
前記分子インプリントポリマーが、前記生体物質との相互作用基及び前記相互作用基とは異なるシグナル物質結合性基を含む機能性基を有する機能性モノマー由来の構成単位を含み、
前記機能性基が前記分子インプリント空間表面に存在しており、
前記分子インプリントポリマーが、N-置換又は無置換の(メタ)アクリルアミド及び/又は生体適合性モノマー由来の構成単位を含む、センシング用ナノ粒子。
【請求項3】
生体物質の分子インプリント空間を有する分子インプリントポリマーを含み、
前記分子インプリントポリマーが、前記生体物質との相互作用基及び前記相互作用基とは異なるシグナル物質結合性基を含む機能性基を有する機能性モノマー由来の構成単位を含み、
前記機能性基が前記分子インプリント空間表面に存在しており、前記生体物質の検出に用いられる、センシング用ナノ粒子。
【請求項4】
前記機能性基が下記式(1)で示される、請求項1~3のいずれかに記載のセンシング用ナノ粒子。
【化1】
[R
1は前記生体物質との相互作用基を表し、R
2は前記シグナル物質結合性基を含む連結基を表し、L
1は直接結合又は連結基を表す。]
【請求項5】
前記相互作用基が、置換又は無置換のアミノ基、置換又は無置換の芳香族基、アミジノ基、グアニジノ基、カルボキシル基、スルホ基、ボロニル基、及び前記生体
物質のリガンドからなる群より選択される、請求項1~4のいずれかに記載のセンシング用ナノ粒子。
【請求項6】
前記シグナル物質結合性基が、アミノ基、カルボキシル基、チオール基、ジスルフィド
基含有基、アミノオキシ基、アルデヒド基、及び水酸基からなる群より選択される、請求項2~5のいずれかに記載のセンシング用ナノ粒子。
【請求項7】
前記機能性基が下記式(11)又は(12)で示される、請求項1~6のいずれかに記載のセンシング用ナノ粒子。
【化2】
[R
11は、カルボキシルアリール基又はスルホアリール基を表し、L
11は、炭素数1~4
のアルキレン基を表す。]
【化3】
[R
11は、カルボキシルアリール基又はスルホアリール基を表し、L
12は2価連結基を表し、R
21は、アミノ基、カルボキシル基、チオール基、ジスルフィド基含有基、アミノオキシ基、アルデヒド基、又は水酸基を表し、L
21は、2価連結基を表す。]
【請求項8】
前記シグナル物質結合性基に結合したシグナル基を含む、請求項1~7のいずれかに記載のセンシング用ナノ粒子。
【請求項9】
前記分子インプリントポリマーが、N-置換又は無置換の(メタ)アクリルアミド及び/又は生体適合性モノマー由来の構成単位を含む、請求項1または3~8のいずれかに記載のセンシング用ナノ粒子。
【請求項10】
前記生体物質が、タンパク質、糖鎖、脂質、及びこれらの2以上の複合分子からなる群より選択される、請求項1~9のいずれかに記載のセンシング用ナノ粒子。
【請求項11】
前記生体物質がアルブミンである、請求項1~10のいずれかに記載のセンシング用ナノ粒子。
【請求項12】
前記生体物質の検出に用いられる、請求項1、2、4~11のいずれかに記載のセンシング用ナノ粒子。
【請求項13】
生体物質が、膜構造体の生体膜に付着又は結合している物質、前記生体膜の露出している部分構造に相当する分子、若しくは、特定の生体分子の断片であり、前記相互作用基による前記生体分子の捕捉を介した、前記膜構造体又は前記特定の生体分子の検出に用いられる、請求項1~12のいずれかに記載のセンシング用ナノ粒子。
【請求項14】
前記膜構造体が、細胞、ウイルス、細胞外小胞又は細胞小器官であり、前記特定の生体分子が抗体である、請求項13に記載のセンシング用ナノ粒子。
【請求項15】
前記生体物質がハラムに該当する動植物由来の生体物質であり、ハラルチェックに用いられる、請求項1~14のいずれかに記載のセンシング用ナノ粒子。
【請求項16】
基板と、前記基板に固定された請求項1~15のいずれかに記載のセンシング用ナノ粒子とを含む、センシング用基板。
【請求項17】
請求項1~15のいずれかに記載のセンシング用ナノ粒子を含む、センシング用試薬。
【請求項18】
生体物質を鋳型として、前記生体物質との相互作用基及び前記相互作用基とは異なるシグナル物質結合性基を含む機能性基を有する機能性モノマーを含むモノマー成分を重合させることで、分子インプリントポリマーを合成する工程1と、
前記分子インプリントポリマーから前記鋳型を除去する工程2と、
を含む、センシング用ナノ粒子の製造方法。
【請求項19】
前記工程2の後、前記分子インプリントポリマーにおけるシグナル物質結合性基にシグナル物質を結合させる工程3を含む、請求項18に記載のセンシング用ナノ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センシング用ナノ粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質等の生体物質は、代謝、シグナル伝達、免疫、生体構造の形成など多くの生命現象に携わっており、病気の診断等における有益な情報を提供する。そして、このような生体分子の利用価値を更に高めるべく、生体分子を認識する材料をバイオセンサへ応用する研究が行われている。
【0003】
バイオセンサにおいて生体分子を認識するレセプタとして用いられる抗体は、その優れた特異性と親和性とにより、バイオセンサの性能に大きく寄与している。一方で、抗体は、生体分子であるがゆえに、熱及びpHなどの外部刺激に対して脆弱である点、並びに高コストである点等の生来的な課題を孕んでいる。
【0004】
抗体の生来的な課題に鑑み、抗体の特異性及び親和性を人工的に獲得すべく、分子インプリンティングの応用が試みられている。分子インプリンティングは、生体分子の鋳型を高分子内に型取る技術として確立されており、具体的には、鋳型となる生体分子と機能性モノマーの複合体を形成させ、架橋剤と共に共重合した後、鋳型を除去することで、鋳型に対して相補的な結合空間(分子インプリント空間)をもつ分子インプリントポリマー(MIP)を得る。このようなMIPの膜を基板上に製膜した様々な人工バイオセンサ基板が報告されている。
【0005】
例えば、非特許文献1には、分子インプリント空間に結合したバイオマーカーの検出感度を向上させることを可能とする人工バイオセンサ基板が報告されている。この人工バイオセンサ基板では、分子インプリント空間の作成により初期結合に抗体を使用する必要性を無くし、且つ、二次標識抗体を、静電容量に依存するバイオセンサに置き換えることで、複雑なサンプル中の低濃度の生体分子を迅速かつ無標識で、高感度に検出及び定量する感度を向上させている。
【0006】
また、非特許文献2には、分子インプリント空間の特異性及び親和性を向上させるとともに、結合情報を蛍光変化で読み出すことを可能とする人工バイオセンサ基板が報告されている。この人工バイオセンサ基板では、それぞれ異なる可逆結合(ジスルフィド基及びオキシイミノ基)を有する2種の機能性モノマーを、鋳型となるα-フェトプロテイン(AFP)に共有結合で導入しておき、分子インプリンティングによりMIPの膜を形成した後、可逆結合を切断してAFPを除去することで、分子インプリント空間内に、可逆結合に由来する2種類の官能基(チオール基及びオキシアミノ基)を局在させている。これら2種類の官能基のうち、一方にAFPと相互作用する基を導入することで、分子インプリント空間に対するAFPの特異性及び親和性を向上させ、他方に蛍光レポーター分子を導入することで、分子インプリント空間に対するAFPの結合情報を蛍光変化で読み出している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Journal of Visualized Experiments, 132, e57208, doi:10.3791/57208 (2018)
【文献】Angewandte Chemie International Edition., 55, 13023-13027(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、MIPの膜を基板上に製膜した人工バイオセンサ基板について、その性能を向上させる研究がなされているものの、未だ、改善の余地があると言わざるを得ない。
【0009】
非特許文献1の技術は、分子インプリント空間によって抗体を代替えするものであり、認識した分子の検出感度を上げることを主旨としている。しかしながら、分子インプリント空間によって発揮される認識能は、対象分子表面の相補的形状に基づいて発揮される程度でしかなく、その特異性及び親和性については到底満足できるものではない。
【0010】
非特許文献2の技術は、分子インプリント空間内に対象分子との相互作用基を追加することで、分子インプリント空間と対象分子との親和性を、当該空間の形状だけでなく、相互作用基との相互作用を利用することで向上させている。また、相互作用基を分子インプリント空間内に局在させるための分子インプリンティングプロトコルにより、当該空間以外での非特異吸着を低減させている。しかしながら、これらの優れた性能を得ることと引き換えに、鋳型に予め2種の機能性モノマーを共有結合させる特殊な工程が必要であり、製法が複雑化する。
【0011】
本発明者は、非特許文献2の技術において、上記の特殊な工程を捨象することで製法を簡易化する検討を行った。具体的には、鋳型となる生体分子に非共有結合的に(非共有結合又はそれに類する弱い共有結合で)相互作用する官能基(相互作用基)を有する機能性モノマーを用いることにより、重合系中で当該機能性モノマーを鋳型表面に吸着させ、分子インプリント空間に相互作用基を局在させることを試みた。また、この試みでは、蛍光レポーター分子を導入する基(シグナル物質結合性基)も分子インプリント空間に局在させることを目的として、当該機能性モノマーを、相互作用基とシグナル物質結合性基との両方を有するように設計した。しかしながら、このような製造方法を用いても、得られる人工バイオセンサ基板は、特異性が乏しくなるという課題に直面した。
【0012】
そこで本発明の目的は、製造容易でありながら特異性にも優れる人工バイオセンサ、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は鋭意検討の結果、相互作用基とシグナル物質結合性基との両方を有するモノマーを用い、MIPを粒子状となるように形成することで、鋳型に対する特殊な工程を行わない容易な製法であるにも関わらず、特異性にも優れた人工バイオセンサが得られることを見出した。本発明は、この知見に基づき、さらに検討を重ねることにより完成された。
【0014】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
【0015】
項1. 生体物質の分子インプリント空間を有する分子インプリントポリマーを含み、
前記分子インプリントポリマーが、前記生体物質との相互作用基及び前記相互作用基とは異なるシグナル物質結合性基を含む機能性基を有する機能性モノマー由来の構成単位を含み、
前記機能性基が前記分子インプリント空間表面に存在している、センシング用ナノ粒子。
項2. 前記機能性基が下記式(1)で示される、項1に記載のセンシング用ナノ粒子。
【化1】
[R
1は前記生体物質との相互作用基を表し、R
2は前記シグナル物質結合性基を含む連結基を表し、L
1は直接結合又は連結基を表す。]
項3. 前記相互作用基が、置換又は無置換のアミノ基、置換又は無置換の芳香族基、アミジノ基、グアニジノ基、カルボキシル基、スルホ基、ボロニル基、及び前記生体分子のリガンドからなる群より選択される、項1又は2に記載のセンシング用ナノ粒子。
項4. 前記シグナル物質結合性基が、アミノ基、カルボキシル基、チオール基、ジスルフィド基含有基、アミノオキシ基、アルデヒド基、及び水酸基からなる群より選択される、項1~3のいずれかに記載のセンシング用ナノ粒子。
項5. 前記機能性基が下記式(11)又は(12)で示される、項1~4のいずれかに記載のセンシング用ナノ粒子。
【化2】
[R
11は、カルボキシルアリール基又はスルホアリール基を表し、L
11は、炭素数1~4のアルキレン基を表す。]
【化3】
[R
11は、カルボキシルアリール基又はスルホアリール基を表し、L
12は2価連結基を表し、R
21は、アミノ基、カルボキシル基、チオール基、ジスルフィド基含有基、アミノオキシ基、アルデヒド基、又は水酸基を表し、L
21は、2価連結基を表す。]
項6. 前記シグナル物質結合性基に結合したシグナル基を含む、項1~5のいずれかに記載のセンシング用ナノ粒子。
項7. 前記分子インプリントポリマーが、N-置換又は無置換の(メタ)アクリルアミド及び/又は生体適合性モノマー由来の構成単位を含む、項1~6のいずれかに記載のセンシング用ナノ粒子。
項8. 前記生体物質が、タンパク質、糖鎖、脂質、及びこれらの2以上の複合分子からなる群より選択される、項1~7のいずれかに記載のセンシング用ナノ粒子。
項9. 前記生体物質がアルブミンである、項1~8のいずれかに記載のセンシング用ナノ粒子。
項10. 前記生体物質の検出に用いられる、項1~9のいずれかに記載のセンシング用ナノ粒子。
項11. 生体物質が、膜構造体の生体膜に付着又は結合している物質、前記生体膜の露出している部分構造に相当する分子、若しくは、特定の生体分子の断片であり、前記相互作用基による前記生体分子の捕捉を介した、前記膜構造体又は前記特定の生体分子の検出に用いられる、項1~9のいずれかに記載のセンシング用ナノ粒子。
項12. 前記膜構造体が、細胞、ウイルス、細胞外小胞又は細胞小器官であり、前記特定の生体分子が抗体である、項11に記載のセンシング用ナノ粒子。
項13. 前記生体物質がハラムに該当する動植物由来の生体物質であり、ハラルチェックに用いられる、項1~12のいずれかに記載のセンシング用ナノ粒子。
項14. 基板と、前記基板に固定された項1~13のいずれかに記載のセンシング用ナノ粒子とを含む、センシング用基板。
項15. 項1~13のいずれかに記載のセンシング用ナノ粒子を含む、センシング用試薬。
項16. 生体物質を鋳型として、前記生体物質との相互作用基及び前記相互作用基とは異なるシグナル物質結合性基を含む機能性基を有する機能性モノマーを含むモノマー成分を重合させることで、分子インプリントポリマーを合成する工程1と、
前記分子インプリントポリマーから前記鋳型を除去する工程2と、
を含む、センシング用ナノ粒子の製造方法。
項17. 前記工程2の後、前記分子インプリントポリマーにおけるシグナル物質結合性基にシグナル物質を結合させる工程3を含む、項16に記載のセンシング用ナノ粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、製造容易でありながら特異性にも優れる人工バイオセンサ、及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明のセンシング用ナノ粒子の一例を模式的に示す。
【
図2】本発明のセンシング用ナノ粒子の他の例を模式的に示す。
【
図3】本発明のセンシング用ナノ粒子の使用態様の例を模式的に示す。
【
図4】本発明のセンシング用ナノ粒子の製造方法の一例における工程1を模式的に示す。
【
図5】本発明のセンシング用ナノ粒子の製造方法の一例における工程2及び3を模式的に示す。
【
図6】本発明のセンシング用基板の一例を模式的に示す。
【
図7】本発明のセンシング用基板の他の例を模式的に示す。
【
図8】試験例5で得られた、実施例2(
図7のセンシング用基板に相当)によるタンパク質吸着試験の結果を示す。
【
図9】試験例5で得られた、比較例2(MIP膜を設けた対比用のセンシング用基板)によるタンパク質吸着試験の結果を示す。
【
図10】試験例6で得られた、BCP法によるHSA濃度とセンシング用基板で測定されたHSA結合に基づく相対蛍光強度との相関を示す。
【
図11】試験例7で得られた、実施例4の蛍光基導入MIP-NGsが固定されたセンシング用基板について、得られた相対蛍光強度と、PSA濃度との相関を示す。
【
図12】試験例7で得られた、実施例4の蛍光基導入MIP-NGsが固定されたセンシング用基板(
図7のセンシング用基板に相当)によるタンパク質吸着試験の結果を示す。
【
図13】試験例7で得られた、比較例3の蛍光基導入NIP-NGsが固定されたセンシング用基板によるタンパク質吸着試験の結果を示す。
【
図14】試験例7で得られた、実施例4の蛍光基導入MIP-NGsが固定されたセンシング用基板(
図7のセンシング用基板に相当)による、PSA混入牛肉抽出サンプル中のPSA吸着試験の結果を示す。
【
図15】試験例7で得られた、実施例4の蛍光基導入MIP-NGsが固定されたセンシング用基板(
図7のセンシング用基板に相当)による、豚肉抽出サンプル混入牛肉抽出サンプル中の蛍光応答試験の結果を示す。
【
図16】試験例8で得られた、実施例4の蛍光基導入MIP-NGsの非固定(遊離)粒子に対する、PSA添加時の蛍光スペクトル変化(λex=647nm)を示す。
【
図17】試験例8で得られた、実施例4の蛍光基導入MIP-NGsの非固定(遊離)粒子の、PSA(センシング対象タンパク質)又はトランスフェリン(参照タンパク質)に対する選択性実験であり、各タンパク質を所定濃度で添加した時の667nmの相対蛍光強度変化を示す。
【
図18】試験例9で得られたFcドメインセンシング用(且つFcドメイン捕捉を介したIgGセンシング用)基板に対してFcドメイン断片を添加した時の相対蛍光強度変化を示す。
【
図19】試験例9で得られたFcドメインセンシング用(且つFcドメイン捕捉を介したIgGセンシング用)基板に対して、Fcドメイン断片、完全IgG又はリソソームを添加した時の相対蛍光強度変化を示す。
【
図20】試験例10で得られた、HER2捕捉を介するエクソソームセンシング用基板による、相対蛍光強度とエクソソーム濃度との関係を示す。
【
図21】試験例10で得られた、HER2捕捉を介するエクソソームセンシング用基板と、抗HER2アフィボディの代わりに抗HSAアフィボディが導入されたセンシング用基板とについて、HER2過剰発現型乳がん細胞株由来のエクソソームを添加した場合の相対蛍光強度変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[1.センシング用ナノ粒子]
本発明のセンシング用ナノ粒子は、生体物質の分子インプリント空間を有する分子インプリントポリマーを含み;前記分子インプリントポリマーが、前記生体物質との相互作用基及び前記相互作用基とは異なるシグナル物質結合性基を含む機能性基を有する機能性モノマー由来の構成単位を含み;前記機能性基が前記分子インプリント空間表面に存在している。以下、本発明のセンシング用ナノ粒子について詳述する。
【0019】
図1に、本発明のセンシング用ナノ粒子の一例を模式的に示す。
図1に示すように、センシング用ナノ粒子10は、生体物質の分子インプリント空間21を有する分子インプリントポリマー20を含み;分子インプリントポリマー20が、生体物質との相互作用基(図中、R
1で模式的に表される)及び前記相互作用基とは異なるシグナル物質結合性基(図中、R
2で模式的に表される構造中に含まれる)を含む機能性基22を有する機能性モノマー由来の構成単位を含み;機能性基22が分子インプリント空間21表面に存在している。センシング用ナノ粒子10は、シグナル物質結合性基がフリーであり、シグナル物質結合性基にシグナル基を導入してセンシング用ナノ粒子10aの形態とすることで、生体物質の認識用センサとして用いることができる。センシング用ナノ粒子10は、シグナル物質結合性基に導入すべきシグナル基を、ユーザが自由に選択してカスタマイズすることができる。
【0020】
また、
図2に、本発明のセンシング用ナノ粒子の他の例を模式的に示す。
図2に示すセンシング用ナノ粒子10aは、
図1に示したセンシング用ナノ粒子10のシグナル物質結合性基に予めシグナル基31が導入されている。このため、センシング用ナノ粒子10aは、それ自体、生体物質の認識用センサとして用いることができる。
【0021】
更に、
図3に、本発明のセンシング用ナノ粒子の使用態様の例を模式的に示す。
図3においては、
図2に示すセンシング用ナノ粒子10a(生体物質の認識用センサ)が、センシング対象である生体物質90を認識し捕捉している様子を示している。
【0022】
[1-1.分子インプリントポリマー]
[1-1-1.形状]
分子インプリントポリマー20は、粒子状であり、センシング対象となる生体物質(
図3に示す生体物質90)の分子インプリント空間(凹部)21を有する。1個の分子インプリントポリマー分子20に設けられているインプリント空間21の数は、図示されているように1個であってもよいし、複数個(例えば2~3個、好ましくは2個)であってもよい。分子インプリント空間21は、センシング対象となる生体物質を鋳型とした分子インプリンティングにより形成されたものであるため、当該生体物質の表面形状と相補的な形状を有している。
【0023】
分子インプリントポリマー20が粒子状であることは、センシング用ナノ粒子10aの優れた特異性の発現に本質的に寄与する。分子インプリントポリマー20と同じモノマー構成で基板上に平膜状の分子インプリントポリマー(MIP膜)を製膜し、シグナル基を導入して作製された生体物質の認識用センサ基板では、本発明のセンシング用ナノ粒子ほどに優れた特異性を発現させることはできない。このような優れた特異性の発現を本発明特有の効果として得ることができる具体的なメカニズムとしては定かではないが、一考察として次の理由が考えられる。生体物質を鋳型とした膜形成(重合)時においては、鋳型がランダムに存在しやすいことで分子インプリント空間が非均一的に(分子インプリント空間の開口径の大きさのばらつきが大きい状態で)形成され、これによって、全ての分子インプリント空間に対して非特異吸着を生じ得る分子インプリント空間(たとえば、開口径が小さ過ぎることで十分な選択性を発揮しないもの)の割合が大きくなることに対し、生体物質を鋳型としたポリマー粒子形成(重合)時においては、ポリマーに対して相対的に親水性である生体物質鋳型がポリマーと重合反応液との界面近傍に存在しやすいことで分子インプリント空間を均一性高く(分子インプリント空間の開口径の大きさのばらつきが少ない状態で)形成でき、全ての分子インプリント空間に対して非特異吸着を生じ得る分子インプリント空間の割合が極めて小さくなると考えられる。
【0024】
更に、分子インプリントポリマー20が粒子状であることは、具体的な生体物質の認識用センサの形状として基板形状に限定されないため、例えば、液体状のセンシング試薬として製剤することが出来、汎用性の点でも優れている。
【0025】
分子インプリントポリマー20の平均粒子径としては、センシング対象となる生体物質のサイズ及び用途等に応じて異なるが、例えば、動的光散乱法(DLS)によって測定される体積平均粒子径(体積粒子径分布の累積50%の値)で5~500nmが挙げられ、DLSによって測定されるZ平均粒子径で5~500nmが挙げられる。より具体的には、生体内に投与して用いる場合、及び細胞内を観察するin vitroイメージングに用いる場合の分子インプリントポリマー20の平均粒子径としては、動的光散乱法(DLS)によって測定される体積平均粒子径で5~100nmが挙げられ、DLSによって測定されるZ平均粒子径で5~100nmが挙げられる。また、生体内に投与せずに用いる場合の分子インプリントポリマー20の平均粒子径としては、動的光散乱法(DLS)によって測定される体積平均粒子径で5~500nmが挙げられ、DLSによって測定されるZ平均粒子径で5~500nmが挙げられる。好ましくは、分子インプリントポリマー20の平均粒子径は、体積平均粒子径で7~50nm、8~40nm、15~30nm、又は20~25nmが挙げられ、Z平均粒子径で7~50nm、8~40nm、15~30nm、又は20~25nmが挙げられる。
【0026】
[1-1-2.分子インプリント空間内に配された機能性基]
分子インプリントポリマー20には、分子インプリント空間21に機能性基22が存在している。機能性基22は、センシング対象となる生体物質の認識、及びそれに基づくシグナル情報の提供に寄与する。本発明においては、分子インプリント空間21に機能性基22が存在している限り、分子インプリント空間21以外の分子インプリントポリマー20表面に機能性基22が存在していることを許容するが、分子インプリント空間21においては、センシング対象となるタンパク質を型取りした形状と、機能性基22の存在とにより、センシング対象となる生体物質以外の分子による非特異吸着を抑制し、優れた特異性を発揮する。
【0027】
[1-1-3.機能性基の構造]
上述のとおり、機能性基22は、センシング対象となる生体物質との相互作用基(図中、R1で模式的に表される)と、シグナル物質結合性基(図中、R2で模式的に表される構造中に含まれる)を含む。更に、相互作用基とシグナル物質結合性基とは互いに異なる基として設計されている。
【0028】
[1-1-3-1.相互作用基及びシグナル物質結合性基の機能]
相互作用基は、センシング対象となる生体物質と相互作用して非共有結合的な結合を形成できる基である。
図3に、相互作用基(R
1)がセンシング対象となる生体物質90表面と相互作用している様子が参照される。非共有結合的な結合には、非共有結合、及び共有結合の中でも非共有結合程度に弱い結合を含む。非共有結合の種類としては、水素結合、静電相互作用による結合(イオン結合)、疎水性結合、ファンデルワールス結合が挙げられる。非共有結合程度に弱い共有結合としては、酸化剤又は還元剤等の強い酸化又は還元作用等を示す開裂用試薬を加えることなく、液性を変化させることのみによって開裂できる共有結合が挙げられ、具体的には、当該生体物質が糖タンパク質である場合に、糖タンパク質の糖基とボレート基との間で形成される共有結合が挙げられる。これによって、分子インプリンティングにおいて、分子インプリントポリマー粒子を合成した後に、鋳型となる生体物質を除去することが容易となる。
【0029】
また、相互作用基は、当該タンパク質の表面形状と相補的な形状のインプリント空間21表面において、当該生体物質の上記特定のアミノ酸残基及び/又は上記特定の疎水性領域と対応する位置に存在している。従って、分子インプリントポリマー20は、分子インプリント空間21が当該生体物質に特有の形状を有していることと、分子インプリント空間21に存在する相互作用基が当該生体物質に特有の位置にあることとによって、当該生体物質に対して優れた認識能を発揮する。
【0030】
シグナル物質結合性基は、シグナル物質と結合可能な基である。シグナル物質結合性基とシグナル物質とが結合することで、センシング用ナノ粒子10aのようにシグナル基31が導入される。シグナル基31は、センシング対象となる生体物質が相互作用基と非共有結合することで環境変化を受けるため、当該生体物質の結合前後でシグナル変化をもたらす。
図3に、
図2(生体物質90認識前)で露出していたシグナル基31が、センシング対象となる生体物質90が相互作用基(R
1)と非共有結合することで、環境変化を受ける様子が参照される。つまり、センシング用ナノ粒子10aは、センシング対象となる生体物質の結合情報をシグナル変化で読み出すことができる。
【0031】
なお、センシング対象となる生体物質との相互作用によりシグナル基31が受ける環境変化としては、センシング対象となる生体物質の近接によりシグナル変化をもたらすものであれば特に限定されない。例えば、当該環境変化の例として、(i)センシング対象となる生体物質の極性基がシグナル基31近傍へ近接することで、シグナル基31の電子が当該極性基に引っ張られること;(ii)センシング対象となる生体物質の極性基がシグナル基31近傍へ近接して、シグナル基31近傍に存在していた水分子の排除されることで、近傍にあった水分子にシグナル基31の電子が引っ張られていた状態から解放されること;(iii)センシング対象となる生体物質の極性基がシグナル基31近傍へ近接することで、シグナル基31側にあったエネルギーが結合したセンシング対象となる生体物質に移動すること;(iv)センシング対象となる生体物質の極性基がシグナル基31近傍へ近接して、シグナル基31を遮蔽することで、励起エネルギーがシグナル基31に届かなくなること、等が挙げられる。
【0032】
[1-1-3-2.相互作用基及びシグナル物質結合性基の位置関係]
図示した態様では、相互作用基は機能性基22の先端側に位置し、シグナル物質結合性基は機能性基22の基端側に位置しているが、機能性基22において、相互作用基とシグナル物質結合性基との位置関係は、センシング対象となる生体物質が相互作用基と非共有結合でき、且つ、非共有結合した時にシグナル基31が環境変化を受けるような位置関係である限り、これに限定されるものではない。例えば、相互作用基とシグナル物質結合性基との位置関係が図示された態様と逆転していてもよい。しかしながら、当該生体物質と相互作用基との非共有結合をより容易とすることでより高い認識能を得る観点、及び/又は当該生体物質と相互作用基との非共有結合時により確実にシグナル基31の環境を変化させることでシグナル変化をより感度高く得る観点から、図示された通り、相互作用基が機能性基22の先端側に位置し、シグナル物質結合性基が機能性基22の基端側に位置していることが好ましい。
【0033】
[1-1-3-3.機能性基の具体例]
(一般式)
機能性基の好ましい例は、下記式(1)で示される。
【0034】
【0035】
式(1)中、R1は相互作用基を表し、R2はシグナル物質結合性基を含む連結基を表し、L1は直接結合又は連結基を表す。
【0036】
(相互作用基R
1
)
相互作用基R1は、センシング対象となる生体物質の表面状態に応じて設計される。例えば、相互作用基R1としては、当該生体物質を構成する特定の構造との間で相互作用により、水素結合、静電相互作用による結合(イオン結合)、疎水性結合、ファンデルワールス結合からなる群より選択される1又は2以上の結合を形成可能な基が挙げられる。相互作用基R1の具体例としては、[1]置換又は無置換のアミノ基、[2]置換又は無置換の芳香族基、[3]アミジノ基(-C(=NH)NH2)、[4]グアニジノ基(-NHC(=NH)NH2)、[5]カルボキシル基、[6]スルホ基、[7]ボロニル基(-B(OH)2)、及び/又は、[8]リガンドが挙げられる。[2]置換又は無置換の芳香族基における芳香族基には、[21]置換又は無置換の含窒素芳香族基及び[22]置換又は無置換の非含窒素芳香族基が含まれ、また、[25]置換又は無置換のアリール基([251]含窒素アリール基及び[252]非含窒素アリール基)及び[26]置換又は無置換のアリーレン基([261]含窒素アリーレン基及び[262]非含窒素アリーレン基)が挙げられる。相互作用基R1はこれらの基のいずれかからなる基であってもよいし、これらの基から選択される2種以上の組み合わせを含む基であってもよい。
【0037】
生体物質がタンパク質である場合、相互作用基R1の具体例としては、当該タンパク質を構成する特定のアミノ酸残基との間で相互作用により水素結合及び/又は静電相互作用を形成可能な基、及び当該タンパク質の特定の疎水性領域との間で疎水結合を形成可能な基等が挙げられる。アミノ酸残基又は疎水性領域と、相互作用基R1として選択される具体的な基と、それらの相互作用により形成される非共有結合的な結合の種類との組み合わせを、下記表に示す。
【0038】
【0039】
[1]置換アミノ基における置換基としては、炭素数1~8の、直鎖又は分岐のアルキル基、置換又は無置換のアラルキル基;環状2級アミノ基を構成する炭素数4~6のアルケニル基;置換又は無置換のアリール基等が挙げられる。置換又は無置換のアリール基の具体例は、後述の[251]置換又は無置換の含窒素アリール基及び[252]置換又は無置換の非含窒素アリール基において挙げる基が挙げられる。[1]置換又は無置換のアミノ基の具体例としては、アミノ基(無置換);N-メチルアミノ基、N-エチルアミノ基、N-n-プロピルアミノ基、N-イソプロピルアミノ基、N-n-ブチルアミノ基、N-イソブチルアミノ基、N-tert-ブチルアミノ基、N-ベンジルアミノ基、N-フェニルアミノ基、N-メシルアミノ基、N-トシルアミノ基などの2級アミノ基;N,N-ジメチルアミノ基、N,N-ジエチルアミノ基、N,N-ジベンジルアミノ基、N-エチル-N-メチルアミノ基、N,N-ジ-n-プロピルアミノ基、N,N-ジイソプロピルアミノ基、N,N-ジフェニルアミノ基、N-メチル-N-フェニルアミノ基、N-メチル-N-ベンジルアミノ基、N-メシル-N-メチルアミノ基等の二級アミノ基;ピペリジル基、ピロリジル基などの環状2級アミノ基等が挙げられる。
【0040】
[2]置換又は無置換の芳香族基のうちの、[251]置換又は無置換の含窒素アリール基における含窒素アリール基としては、炭素数2~12の含窒素アリール基が挙げられる。置換含窒素アリール基における置換基としては、炭素数1~8の、直鎖又は分岐のアルキル基等が挙げられる。[251]置換又は無置換の含窒素アリール基の具体例としては、ピリジル基、ピリミジル基、ピリダジル基、ピラジル基、イミダゾリル基、トリアゾリル基、メチルピリジル基(2-メチルピリジル基、3-メチルピリジル基、4-メチルピリジル基等)、ジメチルピリジル基(2,6-ジメチルピリジル基等)、メチルエチルピリジル基(2-メチル-6-エチルピリジル基等)、メチルイミダゾリル基(1-メチルイミダゾリル基等)、ジメチルイミダゾリル基(1,2-ジメチルイミダゾリル基等)、エチルイミダゾリル基(1-エチルイミダゾリル基等)、プロピルイミダゾリル基(1-n-プロピルイミダゾリル基等)、ブリルイミダゾリル基(1-n-ブチルイミダゾリル基等)、ペンチルイミダゾリル基(1-n-ペンチルイミダゾリル基等)、ヘキシルイミダゾリル基(1-n-ヘキシルイミダゾリル基等)等が挙げられる。
【0041】
[2]置換又は無置換の芳香族基のうちの、[252]置換又は無置換の非含窒素アリール基における非含窒素アリール基としては、炭素数6~16の、フェニル基、ナフチル基(1-ナフチル基、2-ナフチル基等)等が挙げられる。置換アリール基における置換基としては、炭素数1~8の、直鎖又は分岐のアルキル基、ニトロ基、ハロゲン基(フルオロ基、クロロ基、ブロモ基等)等が挙げられる。[252]置換又は無置換のアリール基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、トリル基(o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基等)、エチルフェニル基(4-エチルフェニル基、3-エチルフェイル基、2-エチルフェニル基等)、プロピルフェニル基(4-n-プロピルフェニル基等)、イソプロピルフェニル基(4-イソプロピルフェニル基、2-イソプロピルフェニル基等)、ブチルフェニル基(4-n-ブチルフェニル基、4-イソブチルフェニル基、4-t-ブチルフェニル基、3-t-ブチルフェニル基、2-t-ブチルフェニル基等)、ペンチルフェニル基(4-n-ペンチルフェニル基、4-イソペンチルフェニル基、2-ネオペンチルフェニル基、4-t-ペンチルフェニル基等)、ヘキシルフェニル基(4-n-ヘキシルフェニル基等)、4-(2-エチルブチル)フェニル基、4-n-ヘプチルフェニル基、4-n-オクチルフェニル基、4-(2-エチルヘキシル)フェニル基、4-t-オクチルフェニル基、4-エチル-1-ナフチル基、6-n-ブチル-2-ナフチル基、ジメチルフェニル基(2,4-ジメチルフェニル基、2,5-ジメチルフェニル基、3,4-ジメチルフェニル基、3,5-ジメチルフェニル基、2,6-ジメチルフェニル基等)、トリメチルフェニル基(2,3,5-トリメチルフェニル基、2,3,6-トリメチルフェニル基、3,4,5-トリメチルフェニル基等)、ジエチルフェニル基(2,4-ジエチルフェニル基、2,6-ジエチルフェニル基等)、2,5-ジイソプロピルフェニル基、2,6-ジイソブチルフェニル基、ジ-t-ブチルフェニル基(2,4-ジ-t-ブチルフェニル基、2,5-ジ-t-ブチルフェニル基等)、4,6-ジ-t-ブチル-2-メチルフェニル基、5-t-ブチル-2-メチルフェニル基、4-t-ブチル-2,6-ジメチルフェニル基、フルオロフェニル基(4-フルオロフェニル基、3-フルオロフェニル基、2-フルオロフェニル基等)、クロロフェニル基(4-クロロフェニル基、3-クロロフェニル基、2-クロロフェニル基等)、ブロモフェニル基(4-ブロモフェニル基、2-ブロモフェニル基等)、クロロナフチル基(4-クロロ-1-ナフチル基、4-クロロ-2-ナフチル基等)、6-ブロモ-2-ナフチル基、ジクロロフェニル基(2,3-ジクロロフェニル基、2,4-ジクロロフェニル基、2,5-ジクロロフェニル基、3,4-ジクロロフェニル基、3,5-ジクロロフェニル基等)、2,5-ジブロモフェニル基、2,4,6-トリクロロフェニル基、ジクロロナフチル基(2,4-ジクロロ-1-ナフチル基、1,6-ジクロロ-2-ナフチル基等)、クロロメチルフェニル基(2-クロロ-4-メチルフェニル基、2-クロロ-5-メチルフェニル基、2-クロロ-6-メチルフェニル基、3-クロロ-4-メチルフェニル基、2-メチル-3-クロロフェニル基、2-メチル-4-クロロフェニル基、3-メチル-4-クロロフェニル基等)、トリフルオロメチルフェニル基(4-トリフルオロメチルフェニル基等)、ニトロフェニル基(4-ニトロフェニル基等)等が挙げられる。
【0042】
また、上記[1]~[7]の基から選択される2種以上の組み合わせを含む基としては、[1]~[7]の基のうちの1価の基である、[1]置換又は無置換のアミノ基、[251]含窒素アリール基、[252]非含窒素アリール基、[3]アミジノ基、[4]グアニジノ基、[5]カルボキシル基、[6]スルホ基、[7]ボロニル基と、[26]置換又は無置換のアリーレン基([261]含窒素アリーレン基、[262]非含窒素アリーレン基)との組み合わせを含む基が挙げられる。
【0043】
[26]置換又は無置換のアリーレン基のうちの、[261]含窒素アリーレン基は、上記の[251]置換又は無置換の含窒素アリール基として挙げた基から、芳香族環を構成している炭素に結合している水素が一個除去された基である。[26]置換又は無置換のアリーレン基のうちの、[262]非含窒素アリーレン基は、上記の[252]置換又は無置換の非含窒素アリール基として挙げた基から、芳香族環を構成している炭素に結合している水素が一個除去された基である。
【0044】
上記[1]~[7]の基から選択される2種以上の組み合わせを含む具体的な基としては、[3]アミジノ基と[26]置換又は無置換のアリーレン基との組み合わせであるアミジノアリール基、[5]カルボキシル基と[26]置換又は無置換のアリーレン基との組み合わせであるカルボキシアリール基、[6]スルホ基と[26]置換又は無置換のアリーレン基との組み合わせであるスルホアリール基、[7]ボロニル基と[26]置換又は無置換のアリーレン基との組み合わせであるボロニルアリール基等が挙げられる。これらの基の中でも好ましい基を以下に示す。
【0045】
【0046】
[8]リガンドとしては、センシング対象となる生体物質をアナライトとした場合の、当該アナライトに対応するリガンドとなるものであれば特に限定されない。例えば、当該生体物質が抗原である場合では抗体ミメティック(アフィボディ等)、ナノボディ等が挙げられ、当該生体物質が糖鎖である場合ではレクチン等が挙げられ、当該生体物質がリン脂質である場合ではリン脂質結合性タンパク質(エベクチン2、アネキシンA2、アネキシンV、Tim4)等が挙げられ、当該生体物質が酵素である場合は酵素基質又は酵素阻害剤が挙げられる。
【0047】
(シグナル物質結合性基を含む連結基R
2
)
シグナル物質結合性基を含む連結基R
2において、シグナル物質結合性基は、導入するシグナル基31の由来となるシグナル物質(後述
図5のシグナル物質30)が有する結合性基(後述
図65の結合性基32)に応じて設計される。シグナル物質結合性基の具体例としては、アミノ基(1価アミノ基及び2価アミノ基を含む)、カルボキシル基、チオール基、ジスルフィド基含有基(1価基)、アミノオキシ基、アルデヒド基、及び水酸基が挙げられる。
【0048】
連結基R2は、非分岐状又は分岐状の2価基である。
【0049】
連結基R2が非分岐状である場合、シグナル物質結合性基は、それ自体が連結基R2を成す(つまり、連結基R2が、シグナル物質結合性基からなる)。このような非分岐状の連結基R2すなわちシグナル物質結合性基としては、下記式(2)で示される2価アミノ基が挙げられる。
【0050】
【0051】
式(2)中、R3は、水素、若しくは、炭素数1~8の直鎖又は分岐のアルキル基であり、好ましくは水素を表す。
【0052】
連結基R2が分岐状である場合、シグナル物質結合性基は分岐に存在する1価基である。このような連結基R2としては、下記式(3)で示される2価基が挙げられる。
【0053】
【0054】
式(3)中、R21は、アミノ基(1価)、カルボキシル基、チオール基、ジスルフィド基含有基(1価基)、アミノオキシ基、アルデヒド基、又は水酸基を表し、好ましくは、チオール基又はジスルフィド基含有基を表す。アミノ基(1価)としては、上記の相互作用基R1の一例である[1]置換又は無置換のアミノ基として挙げた基が挙げられる。
【0055】
ジスルフィド基含有基(1価基)は、下記式(4)で表される。
【0056】
【0057】
式(4)中、R211は、置換又は無置換のアルキル基を表す。置換又は無置換のアルキル基におけるアルキル基としては、炭素数1~8の直鎖又は分岐のアルキル基が挙げられる。置換アルキル基における置換基としては、相互作用基R1と鋳型となる生体物質との相互作用に干渉せず、また、ジスルフィド結合とシグナル物質との反応に干渉せず、化合物全体として水溶性が担保される任意の官能基を、当業者が適宜選択することができ、具体的には、水酸基、アミノ基(具体的には、上記の相互作用基R1の一例である[1]置換又は無置換のアミノ基として挙げた基が挙げられる)、カルボキシ基、アルコキシ基(例えば、炭素数1~4、好ましくは1~3、より好ましくは1~2、さらに好ましくは1のアルコキシ基)、ポリエチレングリコール基(エチレンオキシド付加数として、1~6が挙げられる)、アルキル基(例えば、炭素数1~4のアルキル基が挙げられる)、アミド基、スルホ基、グアニジノ基、アミジノ基等が挙げられる。置換アルキル基における置換基の位置としては、連結基R2の分岐の末端が挙げられる。
【0058】
式(3)中、L21は、直接結合又は連結基を表す。当該連結基としては、アルキレン基、カルボニル基、エステル結合(-COO-又は-OCO-)、アミド結合(-CONH-又は-NHCO-)、及びそれらの任意の組み合わせからなる基が挙げられ、好ましくはアルキレン基が挙げられる。アルキレン基としては、炭素数1~4、好ましくは1~3、より好ましくは1~2、さらに好ましくは1のアルキレン基が挙げられる。
【0059】
(直接結合又は連結基L
1
)
直接結合又は連結基L1は、相互作用基R1とシグナル物質結合性基を含む連結基R2との間に介在する。センシング用ナノ粒子10aがセンシング対象となる生体物質90を認識する時に、連結基R2のシグナル物質結合性基に導入されるシグナル基31と、生体物質の相互作用基R1への結合との干渉をより効果的に抑制する観点から、L1は、連結基であることがより好ましい。
【0060】
当該連結基としては、アルキレン基、カルボニル基、エステル結合(-COO-又は-OCO-)、アミド結合(-CONH-又は-NHCO-)、及びそれらの任意の組み合わせからなる基が挙げられる。アルキレン基としては、炭素数1~4のアルキレン基が挙げられる。
【0061】
(より具体的な例)
機能性基22のより具体的な構造としては、下記式(11)又は(12)が挙げられる。
【0062】
【0063】
式(11)において、R11が式(1)の相互作用基R1に相当し、2価のアミノ基(-NH-)が式(1)のシグナル物質結合性基を含む連結基R2(これ自体がシグナル物質結合性基を構成する)に相当し、L11が式(1)の直接結合又は連結基L1に相当する。
【0064】
式(11)において、R11はカルボキシアリール基又はスルホアリール基を示し、具体的には、上述の[5]カルボキシル基と[26]置換又は無置換のアリーレン基との組み合わせであるカルボキシアリール基、[6]スルホ基と[26]置換又は無置換のアリーレン基との組み合わせであるスルホアリール基として述べた通りである。また、式(11)において、L11は、炭素数1~4のアルキレン基を表す。式(11)で示される機能性基においては、相互作用基R1であるR11とシグナル物質結合性基である2価のアミノ基(-NH-)との距離が近い程、センシング用ナノ粒子10aがセンシング対象となる生体物質90を認識した時にシグナル変化をより感度高く得ることができる。この観点から、L11としては、好ましくは炭素数1~3、より好ましくは1~2、さらに好ましくは1のアルキレン基が挙げられる。
【0065】
【0066】
式(12)において、R11が式(1)の相互作用基R1に相当し、2価の基(-CH(L21-R21)-)が式(1)のシグナル物質結合性基を含む連結基R2に相当し、L12が式(1)の直接結合又は連結基L1に相当する。
【0067】
式(12)において、R11はカルボキシアリール基又はスルホアリール基を示し、具体的には、上述の[5]カルボキシル基と[26]置換又は無置換のアリーレン基との組み合わせであるカルボキシアリール基、[6]スルホ基と[26]置換又は無置換のアリーレン基との組み合わせであるスルホアリール基として述べた通りである。また、式(12)において、2価の基(-CH(L21-R21)-)は、上記式(3)として述べた通りである。さらに、式(12)において、L12は2価連結基を表す、当該2価連結基としては、アルキレン基、カルボニル基、エステル結合(-COO-又は-OCO-)、アミド結合(-CONH-又は-NHCO-)、及びそれらの任意の組み合わせからなる基が挙げられ、好ましくはアミド結合が挙げられる。
【0068】
下記式(11)及び(12)で示した基の更なる具体例を、それぞれ、下記式(11a),(11b)、及び下記式(12a),(12b)に示す。
【0069】
【0070】
これらの機能性基22は、1個のセンシング用ナノ粒子あたり、1種のみが存在していても複数種が存在していてもよく、1個のみが存在していても複数個が存在していてもよい。また、これらの機能性基22は、1個の分子プリント空間あたり、1種のみが存在していても複数種が存在していてもよく、1個のみが存在していても複数個が存在していてもよい。
【0071】
[1-1-4.分子インプリントポリマーの構成モノマー]
分子インプリントポリマー20を構成するポリマーは、少なくとも、機能性基22を有する機能性モノマー由来の構成単位を含む。また、分子インプリントポリマー20を構成するポリマーは、機能性モノマー由来の構成単位と共に、N-置換又は無置換のアクリルアミド及び/又は生体適合性モノマー由来の構成単位を含むことができる。好ましくは、分子インプリントポリマー20を構成するポリマーは、機能性モノマー由来の構成単位と共に、N-置換又は無置換の(メタ)アクリルアミド及び生体適合性モノマー由来の構成単位を含む。なお、分子インプリントポリマー20を構成するポリマーは機能性モノマー、N-置換又は無置換のアクリルアミド、生体適合性モノマーとは異なるモノマー由来の構成単位を含んでいてもよい。
【0072】
(機能性モノマー)
機能性基22を有する機能性モノマーは、機能性基とエチレン性不飽和基とを含むモノマーであれば特に限定されず、例えば下記式(5)で示される。
【0073】
【0074】
式(5)中、Xはエチレン性不飽和基を表し、L5は連結基を表し、-R2-L1-R1は、機能性基を表す。エチレン性不飽和基としては、アクリル基及びメタクリル基が挙げられる。連結基としては、アルキレン基、カルボニル基、エステル結合(-COO-又は-OCO-)、アミド結合(-CONH-又は-NHCO-)、及びそれらの任意の組み合わせからなる基が挙げられ、好ましくはアルキレン基及びアミド結合がそれぞれ任意の数で結合した基が挙げられる。機能性基としては、上記の「1-1-3.機能性基の構造」で詳述した通りである。
【0075】
式(5)で表される機能性モノマーの具体例としては、下記式(51a)、(52a)、(51b)、(52b)に示される機能性モノマーが挙げられる。
【0076】
【0077】
(N-置換又は無置換のアクリルアミド)
N-置換又は無置換の(メタ)アクリルアミドについて、N-置換(メタ)アクリルアミドは、下記式(6)で示される。
【0078】
【0079】
式(6)中、R61は、水素又はメチル基、好ましくは水素を表し、R62及びR63は、それぞれ独立に、水素;炭素数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基;炭素数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のヒドロキシアルキル基;若しくは炭素数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアミノアルキル基を表し、これらは互いに同じ又は異なっていてよく(但し、R62及びR63がいずれも水素である場合を除く。);また、R62及びR63が、それらを担持する窒素原子と共に酸素原子を含む飽和5~7員環を形成していてもよい。
【0080】
炭素数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。炭素数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシエチル基、1-ヒドロキシ-n-プロピル基、2-ヒドロキシ-n-プロピル基、3-ヒドロキシ-n-プロピル基、1-ヒドロキシイソプロピル基、2-ヒドロキシイソプロピル基、1-ヒドロキシ-n-ブチル基、1-ヒドロキシ-n-ペンチル基、1-ヒドロキシ-n-ヘキシル基等が挙げられる。炭素数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアミノアルキル基としては、アミノメチル基、1-アミノエチル基、2-アミノエチル基、1-アミノ-n-プロピル基、2-アミノ-n-プロピル基、3-アミノ-n-プロピル基、1-アミノイソプロピル基、2-アミノイソプロピル基、1-アミノ-n-ブチル基、1-アミノ-n-ペンチル基、1-アミノ-n-ヘキシル基等が挙げられる。窒素原子と共に酸素原子を含む飽和5~7員環としては、モルホリン環等が挙げられる。
【0081】
これらのN-置換又は無置換の(メタ)アクリルアミドの中でも、好ましくはN-置換の(メタ)アクリルアミドが挙げられ、より好ましくはN-モノ置換(メタ)アクリルアミドが挙げられ、さらに好ましくはN-アルキル(メタ)アクリルアミド(アルキル基は、上記の炭素数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基)が挙げられ、一層好ましくはN-イソプロピル(メタ)アクリルアミドが挙げられ、特に好ましくはN-イソプロピルアクリルアミドが挙げられる。
【0082】
(生体適合性モノマー)
生体適合性とは、生体物質の接着を誘起しない性質をいう。分子インプリントポリマー20を構成するポリマー生体適合性モノマーに由来する成分を含むことにより、非特異的吸着を一層抑制することができる。生体適合性モノマーとしては、好ましくは親水性モノマーが挙げられ、より好ましくは双性イオンモノマーが挙げられる。
【0083】
双性イオンモノマーは、酸性官能基(たとえば、リン酸基、硫酸基、およびカルボキシル基等)に由来するアニオン基と、塩基性官能基(たとえば、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基および4級アンモニウム基等)に由来するカチオン基との両方を1分子中に含む。双性イオンモノマーの種類としては、ホスホベタイン、スルホベタイン、およびカルボキシベタイン等が挙げられる。
【0084】
ホスホベタインとしては、ホスホリルコリン基を側鎖に有する分子が挙げられ、好ましくは、2-メタクリロイロキシエチルホスホリルコリン(MPC)等が挙げられる。スルホベタインとしては、N,N-ジメチル-N-(3-スルホプロピル)-3’-メタクリロイルアミノプロパンアミニウムインナーソルト(SPB)、N,N-ジメチル-N-(4-スルホブチル)-3’-メタクリロイルアミノプロパンアミニウムインナーソルト(SBB)等が挙げられる。カルボキシベタインとしては、N,N-ジメチル-N-(1-カルボキシメチル)-2’-メタクリロイロキシエタンアミニウムインナーソルト(CMB)、N,N-ジメチル-N-(2-カルボキシエチル)-2’-メタクリロイロキシエタンアミニウムインナーソルト(CEB)等が挙げられる。
【0085】
これらの生体適合性モノマーの中でも、好ましくはホスホベタインが挙げられ、より好ましくはホスホリルコリン基を側鎖に有する分子が挙げられ、さらに好ましくは2-メタクリロイロキシエチルホスホリルコリン(MPC)が挙げられる。
【0086】
[1-2.シグナル基]
シグナル基31は、センシング対象となる生体物質90と、分子インプリント空間21における相互作用基R1との結合情報を与えるものとして機能する。シグナル基31としては、センシング対象となる生体物質90と相互作用基R1との結合により環境変化を受けることでシグナルが変化するものであれば特に限定されない。シグナルの変化の態様としては、シグナル強度の変化、及びスペクトルの変化(例えばピークのシフト)が挙げられる。
【0087】
シグナル基31の例としては、蛍光基、放射性元素含有基、磁性基等が挙げられる。検出容易性等の観点から、シグナル基31としては蛍光基であることが好ましい。蛍光基としては、非生体物質系の基であることが好ましく、例えば、フルオレセイン系色素、インドシアニン色素などのシアニン系色素、ローダミン系色素などの蛍光色素等が挙げられる。放射性元素含有基としては、18F等の放射性同位体でラベルした、糖、アミノ酸、核酸、19FでラベルしたMRIプローブ等が挙げられる。磁性基としては、フェリクロームなどの磁性体を有する基等が挙げられる。
【0088】
[1-3.他の構造]
上記「1-1-2.分子インプリント空間内に配された機能性基」で述べたとおり、本発明においては、分子インプリント空間21に機能性基22が存在している限り、分子インプリント空間21以外の分子インプリントポリマー20表面に機能性基22が存在していることを許容する。本発明のセンシング用ナノ粒子には、分子インプリント空間21以外の分子インプリントポリマー20表面に機能性基22が存在する場合、分子インプリント空間21以外の分子インプリントポリマー20表面に存在する機能性基22に、キャッピング修飾基が結合していてもよい。
【0089】
キャッピング修飾基とは、機能性モノマーの機能を阻害する化合物により導入された基である。機能性モノマーの機能を阻害する化合物(キャッピング化合物)としては、非シグナル物質であって、生体物質の吸着抑制等に用いられる化合物(例えば、オリゴエチレングリコール鎖を有する化合物)及び糖鎖構造を有する化合物等が挙げられる。キャッピング修飾基の結合位置としては、機能性基22の相互作用基R1及び/又はシグナル物質結合性基が挙げられる。このようなキャッピング修飾基は、機能性基22を外部から遮蔽するため、非特異的な結合及びバックグラウンドシグナルの抑制効果をより一層高く得ることができる。
【0090】
[1-4.センシング対象となる生体物質]
本発明のセンシング用ナノ粒子のセンシング対象は、生体物質である。本発明において、生体物質とは、生体を構成する基本材料となる分子に分類される分子種をいい、一般的には、炭素及び水素を含み、さらに、窒素、酸素、リン、及び/又は硫黄等を構成元素として含み、生物学的機能又は生物学的意義を有する分子である。生体物質の具体例としては、タンパク質(ペプチドも含む。以下において同様。)、糖鎖、脂質(例えばリン脂質等)、これらの2以上の複合分子、及びタンパク質と補因子(例えば補酵素及び補欠分子族が挙げられ、具体的には、タンパク質以外の有機分子及び金属イオンが挙げられる)とを含む複合分子等が挙げられる。本発明において、生体物質としては、天然物及び人工物を問わない。
図3においては、便宜上、センシング対象となる生体物質90としてヒト血清アルブミン(HSA)を例示しているが、この生体物質90は、本発明がセンシング対象とするあらゆる生体物質を意図している。
【0091】
生体物質の好ましい例としては、タンパク質が挙げられる。以下の説明において、タンパク質には、糖、脂質、補因子のいずれも有さない通常のタンパク質と、糖、脂質、補因子の少なくともいずれを含む複合タンパク(例えば、糖タンパク質、リポタンパク質、金属タンパク質等)のいずれをも包含する。タンパク質としては、天然タンパク質及び人工タンパク質を問わない。天然タンパク質は、自然選択の結果生成したタンパク質である。人工タンパク質としては、天然タンパク質のアミノ配列の一部を人為的に改変したもの、天然タンパク質に対して人為的に修飾基を導入又は除外したもの等が挙げられる。
【0092】
生体物質90としては、生体内での存在形態の観点から、体液中に分泌される遊離分子(例えば、遊離タンパク質、遊離糖鎖等)、膜構造体(例えば、細胞、ウイルス、細胞外小胞(エクソソーム等)又は細胞小器官等)の生体膜に付着又は結合している物質(例えば、膜タンパク質、膜糖鎖)、及び生体膜の露出している部分構造に相当する分子(例えば、ホスファチジルセリン等のリン脂質等)が挙げられる。また、生体物質90としては、特定の生体分子の断片であってもよい。このような断片としては、特定の生体分子(例えば、抗体等)から特定の領域(例えばドメイン)を切り出して得られる分子、人為的に当該領域部分のみを作製して得られる分子が挙げられる。さらに、生体物質90としては、その機能の観点から、血漿タンパク質、バイオマーカー、ドメイン、酵素、ホルモン等が挙げられる。血漿タンパク質としては、アルブミン、γ-グロブリン、フィブリノゲン等が挙げられる。バイオマーカーとしては、腎機能マーカー、肝機能マーカー、炎症マーカー、腫瘍マーカー等が挙げられ、より具体的には、尿中アルブミン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、トランスフェリン、セルロプラスミン、乳酸脱水素酵素(LDH)、アルカリフォスファターゼ(ALP)、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GTP)、C反応性蛋白(CRP)、α-フェトプロテイン(AFP)、各種抗原(例えば、糖鎖抗原19-9(CA19-9)癌胎児性抗原(CEA)、前立腺特異抗原(PSA)、エクソソーム特異的抗原(CD63、CD9、CD81、CD37、CD53、CD82、CD13、CD11、CD86、ICAM-1、Rab5、Annexin V、LAMP1等)等)が挙げられる。生体物質90としては、由来生物の観点から、ヒト由来生体物質及びヒト以外の生物由来生体物質等が挙げられる。ヒト以外の生物としては特に限定されず、魚類、両生類、爬虫類、哺乳類等の脊椎動物;刺胞動物、甲殻類等の無脊椎動物;種子・裸子植物、藻類等の植物等のあらゆる生物が挙げられ、好ましくは哺乳動物が挙げられ、例えば、マウス、ラット、サル、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ハムスタ-、ウサギ、及びヤギ等が挙げられる。さらに、生体物質90としては、イスラム教の戒律の観点から、ハラムに該当する動植物由来の生体物質も挙げられる。
【0093】
[1-5.用途]
本発明のセンシング用ナノ粒子は、上記の生体物質を検出する用途で使用することができる。なお、当該生体物質が、膜構造体(例えば、細胞、ウイルス、細胞外小胞又は細胞小器官等)の生体膜に付着又は結合している物質(例えば、膜タンパク質、膜糖鎖)、及び生体膜の露出している部分構造に相当する分子(例えば、ホスファチジルセリン等のリン脂質等)である場合、若しくは特定の生体分子の断片(例えば、ドメイン等の特定の領域)である場合、本発明のセンシング用ナノ粒子は、上記生体物質を介して、当該生体物質を有する膜構造体(細胞、ウイルス、細胞外小胞(例えば、エクソソーム等)又は細胞小器官等)若しくは当該断片(例えば、ドメイン等の特定の領域)を部分構造に持つ特定の生体分子(例えば、抗体等)を検出する用途で使用することができる。
【0094】
本発明のセンシング用ナノ粒子のより具体的な用途としては、生体物質の種類により異なるが、例えば、本発明のセンシング用ナノ粒子が、腎機能マーカー、肝機能マーカー、炎症マーカー、腫瘍マーカー等のバイオマーカーのセンシング用に設計される場合、腎機能、肝機能、炎症の有無又は程度、腫瘍の有無又は程度等に基づく診断用途等が挙げられる。
【0095】
また、本発明のセンシング用ナノ粒子は優れた特異性により、異種生物間の同種生体物質を識別することができるため、本発明のセンシング用ナノ粒子のより具体的な用途としては、前記生体物質がハラムに該当する動植物由来の生体物質である場合、食品中にハラムに該当する動植物由来の生体物質(例えば、ブタ血清アルブミン等)の混在の有無を確認するハラルチェックの用途も挙げられる。
【0096】
[2.センシング用ナノ粒子の製造方法]
[2-1.製造方法1]
本発明は、上記「1.センシング用ナノ粒子」で述べた本発明のセンシング用ナノ粒子の製造方法も提供する。本発明のセンシング用ナノ粒子の製造方法は、生体物質を鋳型として、前記生体物質との相互作用基及び前記相互作用基とは異なるシグナル物質結合性基を含む機能性基を有する機能性モノマーを含むモノマー成分を重合させることで、分子インプリントポリマーを合成する工程1と;前記分子インプリントポリマーから前記鋳型を除去する工程2と、を含む。また、本発明のセンシング用ナノ粒子の製造方法は、前記工程2の後、前記分子インプリントポリマーにおけるシグナル物質結合性基にシグナル物質を結合させる工程3を含むことができる。本発明の製造方法においては、工程1におけるモノマー成分に、N-置換又は無置換の(メタ)アクリルアミド及び/又は生体適合性モノマーが更に含まれていてもよい。
【0097】
なお、この製造方法1においては、工程1に先立って、鋳型となる生体物質に対して、共有結合による表面修飾(例えば、分子インプリント空間に相互作用基及びシグナル物質結合性基を局在させることを目的として行われる処置)等を行う必要が無い。また、この製造方法1は、上記「1.センシング用ナノ粒子」で述べた本発明のセンシング用ナノ粒子のいずれについても適用できるが、前記相互作用基が、置換又は無置換のアミノ基、置換又は無置換の芳香族基、アミジノ基、グアニジノ基、カルボキシル基、スルホ基、ボロニル基からなる群より選択される場合に適用されることが好ましい。
【0098】
図4に、本発明のセンシング用ナノ粒子の製造方法の一例における工程1を模式的に示す。又、
図5に、本発明のセンシング用ナノ粒子の製造方法の一例における工程2及び3を模式的に示す。以下、これらの図を参照して本発明のセンシング用ナノ粒子の製造方法について詳述する。
【0099】
[2-1-1.工程1]
工程1では、
図4に示すように、生体物質90’を鋳型として、生体物質90’との相互作用基R
1及び相互作用基R
1とは異なるシグナル物質結合性基を含む機能性基22を有する機能性モノマーM22を含むモノマー成分を重合させることで、分子インプリントポリマーを合成する。
図4の例においては、モノマー成分は、機能性モノマーM22とともに、N-置換又は無置換の(メタ)アクリルアミドM23及び生体適合性モノマーM24を含む。
【0100】
鋳型となる生体物質90’は、センシング対象となる生体物質90と同種の生体物質である。例えば、センシング対象となる生体物質90がHSAであれば、鋳型となる生体物質90’としてもHSAを用いることができる。従って、鋳型となる生体物質90’はとしては、上記「1-4.センシング対象となる生体物質」で挙げたものが挙げられる。
【0101】
重合反応液中の鋳型となる生体物質90’の濃度としては特に限定されないが、例えば0.5~5μmol/L、好ましくは1~3μmol/L、より好ましくは1.5~2.5μmol/Lが挙げられる。
【0102】
機能性モノマーM22としては、上記「1-1-4.分子インプリントポリマーの構成モノマー」の「(機能性モノマー)」で述べた通りである。
【0103】
重合反応液中の機能性モノマーM22の濃度としては特に限定されないが、例えば、1~6mmol/L、好ましくは2~4mmol/L、より好ましくは2.5~3.5mmol/Lが挙げられる。また、鋳型となる生体物質90’に対する機能性モノマーM22の使用量としては、鋳型となる生体物質90’の1μmol当たりの機能性モノマーM22の使用量として、好ましくは0.5~4mmol、より好ましくは1~2mmol、さらに好ましくは1.3~1.7mmolが挙げられる。
【0104】
N-置換又は無置換の(メタ)アクリルアミドM23としては、上記「1-1-4.分子インプリントポリマーの構成モノマー」の「(N-置換又は無置換の(メタ)アクリルアミド)」で述べた通りである。
【0105】
重合反応液中のN-置換又は無置換の(メタ)アクリルアミドM23の濃度としては特に限定されないが、例えば、20~60mmol/L、好ましくは30~50mmol/L、より好ましくは35~40mmol/Lが挙げられる。また、鋳型となる生体物質90’に対するN-置換又は無置換の(メタ)アクリルアミドM23の使用量としては、鋳型となる生体物質90’の1μmol当たりのN-置換又は無置換の(メタ)アクリルアミドM23の使用量として、好ましくは5~40mmol、より好ましくは10~33mmol、さらに好ましくは15~20mmolが挙げられる。さらに、機能性モノマーM22に対するN-置換又は無置換の(メタ)アクリルアミドM23の使用量としては、機能性モノマーM22の1モル当たりのN-置換又は無置換の(メタ)アクリルアミドM23の使用量として、好ましくは5~30モル、より好ましくは8~20モル、さらに好ましくは10~15モルが挙げられる。
【0106】
生体適合性モノマーM24としては、上記「1-1-4.分子インプリントポリマーの構成モノマー」の「(生体適合性モノマー)」で述べた通りである。
【0107】
重合反応液中の生体適合性モノマーM24の濃度としては特に限定されないが、例えば、0.5~5mmol/L、好ましくは1~3.5mmol/L、より好ましくは1.5~2.5mmol/Lが挙げられる。また、鋳型となる生体物質90’に対する生体適合性モノマーM24の使用量としては、鋳型となる生体物質90’の1μmol当たりの生体適合性モノマーM24の使用量として、好ましくは0.3~3.5mmol、より好ましくは0.5~2mmol、さらに好ましくは0.8~1.2mmolが挙げられる。さらに、機能性モノマーM22に対する生体適合性モノマーM24の使用量としては、機能性モノマーM22の1モル当たりの生体適合性モノマーM24の使用量として、好ましくは0.1~1.5モル、より好ましくは0.2~1モル、さらに好ましくは0.4~0.8モルが挙げられる。
【0108】
重合反応液中には、適宜、架橋剤、開始剤、及び溶剤が含まれる。
【0109】
架橋剤としては、2以上のエチレン性不飽和基がリンカー基により結合された化合物を挙げることができる。具体的な架橋剤の例としては、下記式(7)で示されるものが挙げられる。
【0110】
【0111】
式(7)中、Wは互いに同じ又は異なっていてよいエチレン性不飽和基を表し、Zはリンカー基を表す。エチレン性不飽和基としてはアクリル基及びメタクリル基が挙げられる。リンカー基としては、リンカー基としては、例えば、炭素数1~6、好ましくは2~6のアルキレン基、アミノ基(-NH-)、エーテル基、カルボニル基、エステル結合(-COO-又は-OCO-)、アミド結合((-CONH-又は-NHCO-))、スルホキシド基(-SO-)、スルホニル基(-SO2-)、及びこれら2以上が結合した基が挙げられる。2以上の上記基が結合して上記リンカー基が構成されている場合、当該結合数としては、5以下または4以下が好ましく、3以下または2がより好ましい。より具体的な架橋剤の例としては、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジメタクリレート等の低分子架橋剤が挙げられ、好ましくはN,N’-メチレンビスアクリルアミドが挙げられる。
【0112】
重合反応液中の架橋剤の濃度としては特に限定されないが、例えば、0.5~5mmol/L、好ましくは1~3.5mmol/L、より好ましくは1.5~2.5mmol/Lが挙げられる。
【0113】
開始剤としては、過硫酸アンモニウム及び過硫酸カリウム等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩等のアゾ系重合開始剤が挙げられ、好ましくはアゾ系重合開始剤が挙げられ、より好ましくは2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩が挙げられる。
【0114】
重合反応液中の開始剤の濃度としては特に限定されないが、例えば、1~15mmol/L、好ましくは3~12mmol/L、より好ましくは5~10mmol/Lが挙げられる。
【0115】
溶剤としては、緩衝液等の水系の溶媒が用いられ、好ましくは、リン酸緩衝液が挙げられる。また、溶剤には、NaClを含んでいることが好ましく、NaClの濃度としては、例えば100~200mM、好ましくは120~160mMが挙げられる。また、溶剤のpHとしては、鋳型90’の変性を生じないpHが適宜選択され、例えば6~8、好ましくは6.8~7.8、より好ましくは7.2~7.6が挙げられる。
【0116】
工程1の重合反応系においては、
図4に示すように、モノマー成分のうちの機能性モノマーM22が、相互作用基R
1を介して鋳型90’の所定の部位と特異的に相互作用することで、機能性モノマーM22-鋳型90’の複合体が形成される。このような複合体が形成されている状態で重合反応が進行することで、鋳型90’の表面形状と相補的な分子インプリント空間(凹部)が形成されるとともに、機能性基22を分子インプリント空間(凹部)表面に存在させることができる。また、鋳型90’がポリマー界面近傍に存在しやすいことで効率的に分子インプリント空間が形成される。
【0117】
分子インプリントポリマーのナノ粒子を得るための具体的な重合方法としては、無乳化剤沈殿重合法、分散重合法、乳化重合法、シード乳化重合法などが挙げられ、好ましくは無乳化剤沈殿重合法が挙げられる。
【0118】
工程1では、重合反応液を、重合反応を進行させる温度条件に供する前に、機能性モノマーM22-鋳型90’の複合体を十分形成させるために、1~15℃、好ましくは1~10℃、より好ましくは2~6℃の低温条件に供することが好ましい。低温条件に供する時間としては、例えば20~30時間が挙げられる。重合反応を進行させる温度条件としては、例えば40~76℃、好ましくは50~74℃、より好ましくは60~72℃が挙げられる。重合反応を進行させる温度条件に供する時間としては、例えば10~15時間が挙げられる。なお、重合反応が加熱条件で行われても、鋳型は、分子インプリント空間の特異性を失わせる変性を来さない程度にその形状が保持されるため、分子インプリント空間の特異性を効果的に獲得することができる。
【0119】
このようにして、分子インプリントポリマー20部分が合成され、分子インプリントポリマー20と鋳型90’との複合体を得る。分子インプリントポリマー20と鋳型90’との複合体は、相互作用基R1と鋳型90’との間の非共有結合的な結合(非共有結合、及び共有結合の中でも非共有結合程度に弱い結合を含む)により形成されている。
【0120】
[2-1-2.工程2]
工程2では、
図5に示すように、分子インプリントポリマー20と鋳型90’との複合体から鋳型90’を除去する。分子インプリントポリマー20と鋳型90’との複合体において、相互作用基R
1と鋳型90’との結合が非共有結合的な弱い結合であるため、酸化剤又は還元剤等の強い酸化又は還元作用等を示す開裂用試薬を加えることなく、容易に鋳型90’を乖離して除去することができる。
【0121】
ここで、本発明の製造方法とは異なり、鋳型に対して、可逆結合(ジスルフィド基、オキシイミノ基等の共有結合)を有する機能性モノマーを予め導入しておき、分子インプリンティング重合によりナノ粒子を形成した後、開裂用試薬で可逆結合を切断して鋳型を除去し、可逆結合に由来する官能基(チオール基、オキシアミノ基等の、シグナル物質結合性基及び/又は相互作用基として機能する基)を分子インプリント空間内に局在させようとした場合、鋳型と分子インプリントポリマーとの間が共有結合であるため、開裂用試薬をもってしても、鋳型は容易には除去できない。この場合において鋳型をより確実に除去するためには、予め、鋳型に機能性モノマーを導入しておくだけでなく、このような鋳型をシリカのような担体に担持させておき、分子インプリンティング重合後の鋳型除去において、担体ごと除去する必要がある。一方で、本発明の製造方法は、分子インプリンティング重合に先立って鋳型90’に機能性モノマーを導入する工程も、鋳型90’を担体に担持させる工程も不要であるうえに、分子インプリントポリマー20と鋳型90’との複合体からの鋳型90’の除去も容易であるため、製造容易性の点でも優れている。
【0122】
鋳型90’の除去は、相互作用基R1と鋳型90’との結合様式に基づいて、当業者が適宜決定することができる。好ましくは、工程1を終えた反応液をクロマトグラフィ(好ましくは、陰イオン交換クロマトグラフィ)に供し、この時に用いられる移動相を、鋳型分子の溶離液としても用いることで、鋳型90’を除去することができる。除去された鋳型90’は、クロマトグラフィによって、分子インプリントポリマー20から分離され、分子インプリントポリマー20が精製される。
【0123】
移動相としては、好ましくはトリス塩酸緩衝液が挙げられる。また、移動相には、NaClを含んでいることが好ましく、NaClの濃度としては、工程1で用いた溶剤における濃度と同じであってよく、例えば100~200mM、好ましくは120~160mMが挙げられる。また、移動相のpHとしては、工程1で用いた溶剤のpHと同じであってよく、例えば6~8、好ましくは6.8~7.8、より好ましくは7.2~7.6が挙げられる。
【0124】
このようにして、センシング用ナノ粒子10が合成される。
【0125】
[2-1-3.工程3]
工程3では、
図5に示すように、分子インプリントポリマー20におけるシグナル物質結合性基にシグナル物質30を結合させる。
【0126】
シグナル物質30は、シグナル基31と、結合性基32とを含む。シグナル基31としては、上述「1-2.シグナル基」で述べた通りである。結合性基32は、シグナル物質結合性基と共有結合可能な基であり、具体的には、シグナル物質結合性基の種類(アミノ基(1価アミノ基及び2価アミノ基を含む)、カルボキシル基、チオール基、ジスルフィド基含有基(1価基)、アミノオキシ基、アルデヒド基、又は水酸基)に応じて当業者が適宜決定することができる。
【0127】
シグナル物質30を分子インプリントポリマー20に導入する具体的な条件は、結合性基32の種類とグナル物質結合性基の種類とに基づいて、両者が化学反応して共有結合を形成できる条件を当業者が適宜決定することができる。
【0128】
このようにして、センシング用ナノ粒子10aが合成される。
【0129】
[2-1-4.他の工程]
上記「1-3.他の構造」で述べたキャッピング修飾基を有するセンシング用ナノ粒子を得る場合、合成したセンシング用ナノ粒子10に対して、以下の工程を行うことができる。またこの場合、キャッピング修飾基を導入した後に、シグナル基の導入を行うことが好ましい。
【0130】
まず、センシング用ナノ粒子10に対して、ごく少量の生体物質(センシング対象となる生体物質90及び鋳型となる生体物質90’と同種の生体物質)を添加し、分子インプリント空間21を当該生体物質で塞いで保護する(保護工程)。次に、機能性モノマーの機能を阻害する化合物(キャッピング化合物)を反応させて、分子インプリント空間21以外の分子インプリントポリマー20表面に存在する機能性基22の、相互作用基R1及び/又はシグナル物質結合性基に、キャッピング修飾基を結合させる(キャッピング修飾工程)。機能性モノマーの機能を阻害する化合物(キャッピング化合物)としては、非シグナル物質であって、一般的な生体物質の吸着抑制等に用いられる化合物(例えば、オリゴエチレングリコール鎖を有する化合物)及び糖鎖構造を有する化合物等が挙げられる。次に、結合させていた当該生体物質を除去することで分子インプリント空間21を再生する(脱保護工程)。
【0131】
[2-2.製造方法2]
上記「1.センシング用ナノ粒子」で述べた本発明のセンシング用ナノ粒子の製造方法は、上記「2-1.製造方法1」で述べた方法に限定されない。本発明のセンシング用ナノ粒子の製造方法は、生体物質の表面が可逆的連結基を介して重合性官能基で修飾された、分子インプリントの鋳型を用意する工程11と;前記重合性官能基を基質とし、前記鋳型の前記表面の一部に対する分子インプリントポリマーを合成する工程12と;前記可逆的連結基を開裂させて前記分子インプリントポリマーから前記鋳型を除去する工程13と;前記生体物質との相互作用基を結合させるための基及びシグナル物質結合性基を含む機能性基を有する分子を、可逆的連結基を介して導入する工程14と、を含むことができる。さらに、この製造方法2は、上記工程11~14を行う工程に加え;前記生体物質との相互作用基を結合させるための基に、前記生体物質との相互作用基を与える分子を結合する工程と;前記シグナル物質結合性基にシグナル物質を結合する工程と、を含むことができる。
【0132】
この製造方法2は、上記「1.センシング用ナノ粒子」で述べた本発明のセンシング用ナノ粒子のいずれについても適用できるが、前記相互作用基が前記生体分子のリガンドである場合に適用されることが好ましい。
【0133】
[3.センシング用基板及びセンシング用試薬]
上記「1.センシング用ナノ粒子」で述べた本発明のセンシング用ナノ粒子の適用例としては、センシング用基板及びセンシング用試薬が挙げられる。
【0134】
[3-1.センシング用基板]
センシング用基板は、基板と、前記基板に固定されたセンシング用ナノ粒子とを含む。
図6に、センシング用基板の一例を模式的に示す。また、
図7に、センシング用基板の他の例を模式的に示す。
図6に示すセンシング用基板1は、基板40と、基板40に固定されたセンシング用ナノ粒子10とを含む。
図7に示すセンシング用基板1aは、基板40と、基板40に固定されたセンシング用ナノ粒子10aとを含む。
【0135】
基板40の材料としては、金属、ガラス、及び樹脂からなる群から選択される材料が挙げられる。金属としては、金、銀、銅、アルミニウム、タングステン、モリブデン等が挙げられる。樹脂としては、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリスチレン、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリウレタン、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられる。
【0136】
基板40は、上述の材料から選ばれる複数の材料が組み合わされて形成されたものであってもよい。例えば、基板40は、ガラス又は樹脂の表面に、金属膜が設けられたものであってもよい。
【0137】
基板40は、シグナル基31のセンシング手段に適合したものを用いることができる。例えば、基板40として、表面プラズモン(SPR)基板、表面増強ラマン散乱(SERS)基板等が挙げられる。
【0138】
基板40に固定されたセンシング用基板1としては、上記「1.センシング用ナノ粒子」で述べたセンシング用ナノ粒子10として述べた通りである。図示された態様では、便宜上、センシング用ナノ粒子10の向きが統一されているが、センシング用ナノ粒子10の向きはランダムであってもよい。
【0139】
図6に示すセンシング用基板1は、上記「1.センシング用ナノ粒子」で述べたセンシング用ナノ粒子10を、基板40表面に固定することで得られる。
【0140】
センシング用ナノ粒子10を基板40表面へ固定する方法としては特に限定されず、ポリマーナノ粒子を基板表面へ固定する一般的な方法を、当業者が適宜決定することができる。このような方法は、例えば、基板40表面に、結合性官能基を表面に有する分子膜を形成する分子膜形成工程と、形成された分子膜表面の結合性官能基に、センシング用ナノ粒子10を結合させる工程とによって行うことができる。なお、分子膜表面の結合性官能基と結合するセンシング用ナノ粒子10表面の官能基としては、例えば、当該表面に残存する機能性モノマー由来の相互作用基及び/又はシグナル物質結合性基、並びに/若しくは、センシング用ナノ粒子10を構成するポリマーの末端に残存する開始剤由来の官能基等が挙げられる。
【0141】
図示された態様では、基板40表面に、結合性官能基としてカルボキシル基を表面に有する分子膜を形成し、当該カルボキシル基とセンシング用ナノ粒子10表面のアミノ基との間でアミド結合を形成することによって、センシング用ナノ粒子10を結合させた例を示している。
【0142】
また、
図7に示すセンシング用基板1aは、上記のセンシング用基板1に対してシグナル基を導入することによって得ることができる。シグナル基の導入方法としては、上記「2-3.工程3」において述べた通りである。また、
図7に示すセンシング用基板1aは、基板40に固定するセンシング用ナノ粒子として、センシング用ナノ粒子10に代えてセンシング用ナノ粒子10aを用い、上記のセンシング用基板1の製造方法と同様にして得ることもできる。
【0143】
センシング用基板は、上記項目1-4に示した生体物質を検出する用途で使用することができる。なお、当該生体物質が、膜構造体(例えば、細胞、ウイルス、細胞外小胞又は細胞小器官等)の生体膜に付着又は結合している物質(例えば、膜タンパク質、膜糖鎖)、及び生体膜の露出している部分構造に相当する分子(例えば、ホスファチジルセリン等のリン脂質等)である場合、若しくは特定の生体分子の断片(例えば、ドメイン等の特定の領域)である場合、センシング用基板は、上記生体物質を介して、当該生体物質を有する膜構造体(細胞、ウイルス、細胞外小胞(例えば、エクソソーム等)又は細胞小器官等)若しくは当該断片(例えば、ドメイン等の特定の領域)を部分構造に持つ特定の生体分子(例えば、抗体等)を検出する用途で使用することができる。より具体的な用途としては、センシング対象となる生体物質の種類により異なるが、例えば、腎機能マーカー、肝機能マーカー、炎症マーカー、腫瘍マーカー等のバイオマーカーのセンシング用に設計されたセンシング用基板は、腎機能、肝機能、炎症の有無又は程度、腫瘍の有無又は程度等に基づく診断用途等が挙げられる。また、本発明のセンシング用基板のより具体的な用途としては、前記生体物質がハラムに該当する動植物由来の生体物質である場合、食品中にハラムに該当する動植物由来の生体物質(例えば、ブタ血清アルブミン等)の混在の有無を確認するハラルチェックの用途も挙げられる。
【0144】
[3-2.センシング用試薬]
センシング用試薬は、センシング用ナノ粒子を含む。センシング用試薬におけるセンシング用ナノ粒子は、基板などのバルクな基材に固定されていない。
【0145】
センシング用試薬は液状又は固形状(例えば粉末状)に製剤されている。センシング用試薬は、薬学的に許容される他の成分を含む。他の成分としては、センシング用試薬の安定性及び認識能に影響を与えない固体及び/又は液体が適宜選択され、例えば、水、NaCl等の塩、緩衝剤、安定剤、酸化防止剤、防腐剤、pH調整剤、界面活性剤、賦形剤、結合剤等が挙げられる。
【0146】
センシング用試薬は、センシング用ナノ粒子10又はセンシング用ナノ粒子10aと、上記の他の成分とを用いて、通常の製剤方法に基づいて製剤することで得られる。
【0147】
センシング用試薬の用途の一例としては、上記のセンシング用基板の用途として挙げたのと同じ用途が挙げられる。センシング用試薬の用途の他の例としては、センシング用粒子が基板に固定されていない特徴を利用したin vitroイメージング及びin vivoイメージングが挙げられる。in vitroイメージングの一例として、細胞内又は表面の生体物質をセンシング対象としたセンシング用ナノ粒子10aを作製し、当該細胞に対して添加することで、細胞内又は表面の生体物質90の動態を蛍光顕微鏡などのシグナル検出手段でイメージングする方法が挙げられる。in vivoイメージングの一例として、体内に存在する生体物質をセンシング対象としたセンシング用ナノ粒子10aを作製し、実験動物などの動物の循環器、例えば血液に投与し、生体物質90の体内動態をシグナル検出手段でイメージングする方法が挙げられる。
【実施例】
【0148】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0149】
[試験例1:センシング用ナノ粒子の合成-1]
本試験例では、
図1のセンシング用ナノ粒子10に相当するヒト血清アルブミン(HSA)センシング用ナノ粒子(以下において、「MIP-NGs」とも記載する。)を合成した。対比として、分子インプリントを行わなかったことを除いて同様にしてナノ粒子(以下において、「NIP-NGs」とも記載する。)も合成した。
【0150】
1-1.分子インプリントポリマーの合成(工程1)
下記表に示した成分の混合物(プレポリマー溶液)をシュレンクフラスコ50 mL中に用意し、機能性モノマーとHASと十分に相互作用させるために、4℃で24時間インキュベートした後、窒素雰囲気下、70℃で12時間、無乳化剤沈殿重合を行った。一方、対比用のNIP-NGsについては、プレポリマー溶液にHSAを含まないことを除いて同様の条件で無乳化剤沈殿重合を行った。
【0151】
【0152】
【0153】
なお、式51aに示す機能性モノマーは、ベンゼン環、カルボキシル基、及び2級アミノ基を有しており、MIP-NGsにおいて、ベンゼン環がHSAの疎水ポケットと相互作用し、カルボキシル基がHSAのリジン残基に代表される正に帯電した部位と相互作用すると考えられ、さらに、2級アミノ基は、後述のポストインプリンティング修飾(工程3)において蛍光分子の導入に用いる。
【0154】
1-2.鋳型の除去(工程2)
以下のようにして、陰イオン交換クロマトグラフィを用いて、粒子の精製を行った。本工程では、陰イオン交換クロマトグラフィ担体とHSAとの強い相互作用を利用することで、分子インプリントポリマーから鋳型を除去した。
【0155】
重合反応後の溶液を、アミコンウルトラ-4、10kDaの透析チューブを使用して3回限外濾過(25℃,7500×g,20分)を行い、未反応モノマーの除去と、PBSから140mM NaClを含有する10mMトリス塩酸バッファーpH7.4への溶媒置換とを行い、未精製試料を得た。
【0156】
陰イオン交換クロマトグラフィ用クロマト充填剤DEAE-Sephadex 1.0gを、140mM NaClを含有するトリス塩酸バッファー(pH7.4)35mLに加えて24時間膨潤させ、ポリプロピレン製Big LibraTube(R)に高さ5.5cm程度まで充填させた。これに、未精製試料を1mL添加し、140mM NaClを含む10mMトリス塩酸バッファー(pH7.4)を移動相に用い、溶出液を1.5mLずつ分画した。分画したフラクションの機能性モノマー(機能性基)由来の蛍光(励起波長280nmにおける400nm)とHSA由来の蛍光(励起波長280nmにおける340nm)を、日立ハイテクノロジー社製 F-2500を後いて測定し、HASが除去されたことを確認した。2~7番目のフラクションを全て混合し、10kDaの透析チューブを用いて溶媒をPBSに置換し、5mLまで濃縮した。これにより、MIP-NGs又はNIP-NGsの精製試料液を得た。
【0157】
1-3.粒子径の測定
得られたMIP-NGs及びNIP-NGsの粒子径を、以下のようにしてDLS測定(Malvern社製 ZETASIZER NANO-ZS MAL500735)にて評価した。
【0158】
精製試料液を1.5mLマイクロチューブに500μL添加し、90℃で一晩乾燥させた。乾燥前後の質量から、下記式(式中、w0は、1.5mLマイクロチューブの重量(g)、w1は、乾燥前の重量(g)、w2は、乾燥後の重量(g)を表す。)に基づいて固形分濃度を算出した。結果を下記表に示す。
【0159】
【0160】
【0161】
表3に示される通り、MIP-NGs及びNIP-NGsについてナノメートルオーダーの粒子の存在が確認された。
【0162】
[試験例2:センシング用基板の作製-1]
本試験例では、以下のようにして、試験例1で得られたMIP-NGs(実施例1)及びNIP-NGs(比較例1)を基板上に固定した。具体的には、試験例1で得られたMIP-NGsを基板上に固定し、
図6のセンシング用基板1に相当するヒト血清アルブミン(HSA)センシング用基板を作製した。また、NIP-NGsについても同様にして基板上に固定した。
【0163】
2-1.基板への粒子の固定
SPR金基板(GE Healthcare社製 SIA Kit Au)を、エタノール及び純水で洗浄後、1mMの11-Mercaptoundecanoic acidエタノール溶液に浸漬させ、25℃で24時間インキュベートした。反応後の基板をエタノール及び純水で洗浄し、窒素ガスで乾燥させた。
【0164】
SPRによる分子間相互作用解析装置(GE Healthcare社製 Biacore 3000)を用いて、0.1MのN-Hydroxysuccinimide(NHS)と0.4Mの1-(3-dimethylaminopropyl)-3-ethylcarbodiimide hydrochloride(EDC)の1:1の混合溶液を流速20μL/分で7分インジェクトして分子膜を形成した後、試験例1の工程2で得た精製試料(466μg/mL)を流速20μL/分で7分インジェクトし、基板への粒子の固定化を行った。この固定化においては、分子膜表面のNHSエステルと粒子表面の官能基(この官能基としては、機能性モノマー由来のアミノ基、及び/又は粒子を構成するポリマーの末端に残存する開始剤由来のアミジノ基が考えられる。)とが反応することで、粒子が基板に固定化される。続いて、1Mの2-アミノエタノール(pH8.5)を流速20μL/分で7分インジェクトすることで、分子膜表面の未反応NHSエステルをブロッキングした。
【0165】
2-2.タンパク質吸着試験
基板に固定された粒子に対して、PBS(10mM,pH7.4,含140mM NaCl)に溶解したヒト血清アルブミン(HSA;Mw:66.5kDa,pI:4.6)、シトクロムC(Cyt c;Mw:11.7 kDa,pI:10.3)又はトランスフェリン(Trf;80kDa,pI:6.1)を以下の条件でインジェクトし、吸着実験を行った。
【0166】
【0167】
また、得られた吸着等温線から、カーブフィッティングにより結合定数を算出した。一ティングは、DeltaGraph 5.4.5v(日本ポラデジタル社製)を用い、下記式(式中、Kは結合定数、Gはタンパク質濃度、DはSPRシグナル強度の最大変化量、及びHは独立変数を表す。)に基づいて行った。結果を下記表に示す。
【0168】
【0169】
【0170】
【0171】
表5に示すように、MIP-NGsはNIP-NGsと比較して結合定数が顕著に大きくなっていることから、分子インプリント効果によりHSAに対して高い親和性を示すことが確認された。また、表6に示すように、3種類のタンパク質の中ではHSAの結合定数が顕著に大きくなっていることから、MIP-NGsがHSAに対して特異的な結合空間を有することが推認される。
【0172】
[試験例3:MIP膜を設けた対比用のセンシング用基板の作製]
後述の試験例5での対比試験のため、試験例1で用いられたモノマーと同じモノマーを用いて、基板上に平膜状のMIP膜を形成し、対比用のHSAセンシング用基板を作製した。
【0173】
3-1.重合性官能基固定化基板の作製
金コートガラス基板(5×10mm)を、エタノール及び純水で洗浄後、UV-O3処理を30分間行った。処理後の基板を1mMの11-mercapto-1-undecanolエタノール溶液に浸漬し、25℃で24時間インキュベーションを行った。その後、基板をエタノール及び純水で洗浄し、窒素ガスで乾燥させた。得られた基板を、10mM methacryloyl chloride及び10mM triethylamineを溶解させたCH2Cl2溶液に浸漬し、25℃で24時間インキュベーションを行った。その後、基板をエタノール及び純水で洗浄し、窒素ガスで乾燥させた。これによって、重合性官能基固定化基板を得た。
【0174】
3-2.MIP膜の合成
下記表に示す成分を混合してプレポリマー溶液を調製した、重合官能基固定化基板に半径3mm孔が穿設されたシリコンゴムシート(厚み:0.5mm)を被せ、その孔内における金基板表面の露出部分にプレポリマー溶液を滴下し、上からカバーガラスを被せた。これを光反応装置(KeyChem-Lumino,YMC Co., Ltd.)にセットし光重合反応を行い(λem=365nm、4℃、10分)、これによってMIP膜(比較例2)を得た。
【0175】
【0176】
【0177】
3-3.鋳型除去
MIP膜(比較例2)が設けられた基板を純水で洗浄後、1MのNaCl水溶液、及び0.5wt%のSDS水溶液に浸漬(それぞれ2時間)させ、HSAの除去を行った。
【0178】
3-4.蛍光導入
洗浄後の基板のMIP膜部分に、50μg/mLのATTO647N NHS溶液(10mM PBSを含む0.5%DMSO中)10μLを滴下し、1時間室温で静置した。その後、基板を純水で洗浄した。
【0179】
これによって、対比用のHSAセンシング用MIP膜基板を得た。この対比用のHSAセンシング用MIP膜基板は、基板上に設けられたMIP膜表面に、HSAの分子インプリント空間(凹部)を有しており、少なくとも分子インプリント空間(凹部)内に、機能性モノマーに由来する機能性基と蛍光基とが配設されている。なお、当該蛍光基は、インプリント空間(凹部)がセンシング対象を吸着する時の環境変化により増蛍光する。
【0180】
[試験例4:センシング用ナノ粒子の合成-2]
本試験例では、
図2のセンシング用ナノ粒子10aに相当するHSAセンシング用ナノ粒子を合成した。
【0181】
シグナル物質(蛍光物質)の導入(工程3)
試験例1の工程2で得たMIP-NGs(実施例1)の精製試料(466μg/mL)1mLに、10mg/mLの蛍光物質(ATTO647N NHS、励起波長646nm、蛍光波長664nm)の10mM PBSを含む0.5wt%DMSO溶液を5μL加え、25℃で2時間インキュベートした。その後、アミコンウルトラ-4 10kDaを用いて限外濾過(25℃,7500×g,20分,3回)を行うことでMIP-NGsをPBSで洗浄することで、蛍光基が導入されたMIP-NGsを得た。
【0182】
[試験例5:センシング用基板の作製-2]
本試験例では、
図7のセンシング用基板1aに相当するHSAセンシング用基板を作製した。
【0183】
5-1.基板への蛍光基導入MIP-NGsの固定
金コートガラス基板(5mm×10mm)を、エタノール及び純水で洗浄後、1mMの11-Mercaptoundecanoic acidエタノール溶液に浸漬させ、25℃で24時間インキュベートした。反応後の基板をエタノール及び純水で洗浄し、窒素ガスで乾燥させた。
【0184】
0.2MのEDC及び50mMのNHSを含む水溶液を100μL滴下し、室温で1時間インキュベートした。純水で洗浄後、試験例4で得られた蛍光基導入MIP-NGs(47μg/mL)を100μL滴下し、室温で2時間反応させて固定化した。純水で洗浄した後、1Mの2-アミノエタノール(pH8.5)を100μL滴下して30分反応させることによるブロッキングを行った。これによって、蛍光基導入MIP-NGsが基板に固定されたHSAセンシング基板を得た。
【0185】
5-2.タンパク質吸着試験-1
得られた蛍光基導入MIP-NGs固定HSAセンシング用基板について、試験例2と同様にして、タンパク質吸着試験を行った。結果を下記表に示す。
【0186】
【0187】
表8に示すように、蛍光基を導入することで、HSAの結合定数がさらに向上した。これは、導入された蛍光基が、分子インプリント空間において、センシング対象であるHSAと相互作用基との結合を阻害しないだけでなく、導入された蛍光基が疎水性であるために、相互作用基におけるベンゼン環とHSAの疎水性領域との相互作用に、疎水性である蛍光基とHSAの疎水性領域との相互作用も加わったことが推認される。
【0188】
5-3.タンパク質吸着試験-2
得られた蛍光基導入MIP-NGs固定HSAセンシング用基板と、試験例3で得られたMIP膜を設けた対比用のHSAセンシング用基板とについて、Selectivity factorに基づくタンパク質吸着試験を行った。対比したそれぞれのHSAセンシング用基板の特徴は下記表に示す通りである。
【表9】
【0189】
センシング用基板に対して、PBS(10mM,pH7.4,含140mM NaCl)に溶解したヒト血清アルブミン(HSA;Mw:66.5kDa,pI:4.6)、シトクロムC(Cyt c;Mw:11.7 kDa,pI:10.3)又はトランスフェリン(Trf;80kDa,pI:6.1)を、25℃10分間インキュベーションし、SIC 自動分注装置付き蛍光顕微鏡を用いて以下の条件で測定を行った。
【0190】
(SIC自動分注装置付蛍光顕微鏡 測定条件)
・蛍光顕微鏡
フィルター:Cy5
対物レンズ:×5
露光時間:0.1秒
光量:12%
光源:水銀ランプ
・SIC自動分注装置シーケンス
1.チップ取り付け
2.サンプル吸引(150μL)
3.インキュベーション(25℃、10分)
4.測定位置keep(測定ポート)
※2→4の手順を、タンパク質毎に繰り返した。
【0191】
センシング基板への各タンパク質添加前後における蛍光強度の変化率を、センシング対象であるHSAの蛍光強度変化率で割ることで、Selectivity factorを算出した。具体的には、Selectivity factorは下記式で表される。式中、F0は、上記緩衝液中での基板表面の蛍光強度を表し、Fsampleは、各タンパク質を含むサンプルでの基板表面の蛍光強度を表し、FHSAは、センシング対象であるHSAを含むサンプルでの基板表面の蛍光強度を表す。
【0192】
【0193】
蛍光基導入MIP-NGs(粒子)固定HSAセンシング用基板(実施例2)についての結果を
図8に示し、試験例3で得られたMIP膜を設けた対比用のHSAセンシング用MIP膜基板(比較例2)についての結果を
図9に示す。
【0194】
Selectivity factorの値は、1より小さければHSAに対する認識能があることを示す。
図8及び
図9に示すように、いずれのセンシング基板も、HSAに対する認識能が認められた。しかしながら、
図9に示すように、MIP膜を設けた対比用のHSAセンシング用基板(比較例2)については、センシング対象であるHSAだけでなく、センシング対象ではないCyt c及びTrfに対しても大きな蛍光変化を示すことが観察されており、特異性に乏しいことが分かった。これに対して、
図8に示すように、粒子状のMIPを基板に固定したHSAセンシング用基板(実施例2)では、センシング対象であるHSAに対する特異的が高いことが認められた。
【0195】
[試験例6:血清サンプル中のHSAの測定]
本試験例では、試験例5で作製された
図7のセンシング用基板1aに相当するHSAセンシング用基板(実施例2)を用い、血清サンプル中のHSAの測定を行った。
【0196】
神戸大学大学院医学研究科等医学倫理委会の受付番号180128にて承認されているヒト血清サンプル8検体を用いた。まず、これらのサンプルそれぞれのHSAの濃度を、ブロモクレゾールパープル(BCP法)にて測定することで確認した。確認したHSA濃度を下記表に示す。
【0197】
【0198】
次に、それぞれの検体を、緩衝液(PBS(10mM,pH7.4,含140mM NaCl))で1000倍希釈し、試験例5で作製された
図7のセンシング用基板1aに相当するHSAセンシング用基板を用いて、試験例5のタンパク質吸着試験-2と同様にして相対蛍光強度を求めた。
【0199】
得られた相対蛍光強度と、BCP法によって得られた濃度との相関を
図10に示す。なお、相対蛍光強度は、F-F
0/F
0(F
0は、上記緩衝液中での基板表面の蛍光強度を表し、Fは、検体中での基板表面の蛍光強度を表す。)で表した。
図10に示されるとおり、BCP法によるHSA濃度と、HSAセンシング用基板で測定されたHSA結合に基づく相対蛍光強度との間に、高い相関関係が見られた。このことから、HSAセンシング用基板はヒト血清中からでもHSAを検出及び定量可能であることが示された。
【0200】
[試験例7:PSAセンシング用基板を用いたハラルチェック]
本試験例では、センシング対象をブタ血清アルブミン(PSA)とする粒子を基板に固定化したPSAセンシング用基板を作製し、PSAがハラルフード中のブタ由来成分混入のマーカーとして用いられることに基づき、この基板を用いてハラルチェックを行った。
【0201】
7-1.センシング用ナノ粒子の合成-3
まず、
図1のセンシング用ナノ粒子10に相当するPSAセンシング用ナノ粒子を合成した。具体的には、鋳型タンパク質としてPSAを用いたことを除いて、下記表に示した成分の混合物(プレポリマー溶液)を用い、試験例1と同様にしてMIP-NGsを合成した(実施例3)。
【0202】
【0203】
7-2.粒子径の測定
得られたMIP-NGs及びNIP-NGsについて、試験例1と同様にして粒子径を測定したところ、ナノメートルオーダーの粒子の存在が確認された。
【0204】
【0205】
7-3.センシング用ナノ粒子の合成-4
次に、
図2のセンシング用ナノ粒子10aに相当するPSAセンシング用ナノ粒子を合成した。具体的には、実施例3のMIP-NGsに対して、試験例4と同様にして蛍光物質ATTO647N NHSを導入することで、蛍光基導入MIP-NGs(実施例4)を得た。
【0206】
7-4.センシング用基板-3
次に、実施例4の蛍光基導入MIP-NGsを、以下のようにして基板に固定した。
【0207】
金コートガラスSPR基板(5mm×10mm)を、エタノール及び純水で洗浄後、UV-O3クリーナーで20分処理し、1mMの11-amino-1-undecaneoctanethiol hydrochlorideエタノール溶液に浸漬させ、25℃で24時間インキュベートした。反応後の基板をエタノール及び純水で洗浄し、窒素ガスで乾燥させた。これによって、表面に分子膜が形成された基板を得た。さらに、基板上の分子膜に、EDC(0.4M)とNHS(0.1M)とを溶解させた水溶液(100μL)を滴下し、1時間静置した。そこに実施例3の蛍光基が導入されたMIP-NGsを100μL(300μg/mL)滴下し、2時間反応させることで、基板への粒子の固定化を行った。この固定化においては、分子膜表面のアミノ基と粒子表面の官能基(機能性モノマー由来のカルボキシル基)とが反応することで、粒子が基板に固定化される。10mMのsulfo-NHS acetate水溶液100μLを滴下し、30分反応させることで表面のアミノ基のブロッキングを行った。
【0208】
7-5.サンプル中のPSAの測定
比較例1のNIP-NGsに対しても、上記と同様に蛍光物質の導入を行い、蛍光導入NIP-NGs(比較例3)を得た。比較例3の蛍光基導入NIP-NGsについて同様に基板への固定化を行い、比較用のセンシング用基板を作製した。実施例4の蛍光基導入MIP-NGsが固定されたPSAセンシング用基板と、比較例3の蛍光基導入NIP-NGsが固定されたセンシング用基板とを用い、緩衝液(PBS(10mM,pH7.4,含140mM NaCl))中のPSA濃度が0~20nMであるサンプルに含まれるPSA濃度について、試験例6と同様にして測定を行った。検出限界は12ng/mLであった。
【0209】
実施例4の蛍光基導入MIP-NGsが固定されたPSAセンシング用基板について、得られた相対蛍光強度と、PSA濃度との相関を
図11に示す。なお、相対蛍光強度については試験例6と同様である。
図11に示されるとおり、PSA濃度と当該PSAセンシング用基板で測定されたPSA結合に基づく相対蛍光強度との間に、高い相関関係が見られた。このことから、インプリント凹部の鋳型を変更すれば、ヒト血清アルブミンHSAだけでなく、ブタ血清アルブミンPSAを検出及び定量可能であることが示された。一方で、比較例3の蛍光基導入NIP-NGsが固定されたセンシング用基板について同様に蛍光測定を行ったが、ほとんど蛍光変化を観察することはできなかった。さらに、得られた蛍光変化率から見掛けの結合定数を算出した結果を下記表に示す。
【0210】
【0211】
表13に示すように、MIP-NGs(実施例4)はNIP-NGs(比較例3)と比較して結合定数が顕著に大きくなっていることから、分子インプリント効果によりPSAに対して高い親和性を示すことが確認された。
【0212】
7-6.PSAに対する特異性
ブタ血清アルブミン(PSA)、ヒト血清アルブミン(HSA)、ウシ血清アルブミン(BSA)、リゾチーム(LyZ)、又はトランスフェリン(Trf)を40nMの濃度で緩衝液(PBS(10mM,pH7.4,含140mM NaCl))中に溶解させたサンプルを調製した。これらサンプルについて、実施例4の蛍光基導入MIP-NGsが固定されたセンシング用基板又は比較例3の蛍光基導入NIP-NGsが固定されたセンシング用基板を用いて、試験例6と同様にして測定を行った。なお、Selectivity factorは、40nMのPSAでの蛍光変化に対するサンプルでの蛍光変化の比率であり、下記式で表される。式中、F0は、上記緩衝液中での基板表面の蛍光強度を表し、Fsampleは、サンプルでの基板表面の蛍光強度を表し、FPSAは、40nMのPSAでの基板表面の蛍光強度を表す。
【0213】
【0214】
実施例4の蛍光基導入MIP-NGsが固定されたセンシング用基板についての結果を
図12に示し、比較例3の蛍光基導入NIP-NGsが固定されたセンシング用基板についての結果を
図13に示す。
【0215】
Selectivity factorの値は、1より小さければPSAに対する認識能があることを示す。
図12及び
図13に示すように、いずれのセンシング基板も、PSAに対する認識能が認められた。しかしながら、
図13に示すように、比較例3の蛍光基導入NIP-NGsが固定されたセンシング用基板では、センシング対象であるPSAだけでなく、センシング対象ではないタンパク質に対しても大きな蛍光変化を示すことが観察されており、特異性に乏しいことが分かった。これに対して、
図12に示すように、実施例4の蛍光基導入MIP-NGsが固定されたセンシング用基板では、センシング対象であるPSAに対する特異的が高いことが認められた。
【0216】
7-7.ハラルチェック-1
牛肉の細切物1gを4mLのリン酸緩衝液(pH7.4)に添加し、ホモジナイザーを用いて10,000rpmで1分間、牛肉をホモジナイズした。遠心分離(16,000×g、30分、4℃)にて得られた上清を、0.2μmフィルターで3回濾過し、リン酸緩衝液(pH7.4)で500倍希釈して、牛肉抽出サンプルを得た。
【0217】
得られた牛肉抽出サンプルに、様々な濃度でPSAを添加し、PSA混入牛肉抽出サンプルを調製した。別途、リン酸緩衝液(pH7.4)に、同様の濃度でPSAを添加し、PSAサンプルを調製した。PSA混入牛肉抽出サンプル及びPSAサンプルについて、実施例4の蛍光基導入MIP-NGsが固定されたセンシング用基板を用いて蛍光変化を測定し、上述と同様に相対蛍光強度変化を導出した。結果を
図14に示す。
【0218】
図14に示されるとおり、実施例4の蛍光基導入MIP-NGsが固定されたセンシング用基板は、牛肉抽出サンプル中(in 500× beef extract)に混入したPSAについても、リン酸緩衝液中(in PBS buffer)のPSAと同様に定量できることが認められた。
【0219】
7-8.ハラルチェック-2
豚抽出サンプルが混入した牛肉抽出サンプルを作製した。まず、上述と同様にして、500倍希釈の牛肉抽出サンプルを得た。また、牛肉の代わりに豚肉を用いたことを除いて同様にして、500倍希釈の豚肉抽出サンプルを得た。牛肉抽出サンプルの含有率及び豚肉抽出サンプルの混入率が下記表に示す比率となるように、両抽出サンプルを混合し、豚抽出サンプルが混入した牛肉抽出サンプルを得た。なお、表中に示す比率は、抽出サンプル中のタンパク質量(重量ベース)相当の量を示す。
【0220】
【0221】
これらの豚抽出サンプルが混入した牛肉抽出サンプルについて、実施例4の蛍光基導入MIP-NGsが固定されたセンシング用基板を用いて蛍光変化を測定し、上述と同様に相対蛍光強度を導出した。結果を
図15に示す。
図15では、横軸に豚肉抽出サンプル混入率を示し、縦軸に相対蛍光強度を示す。
【0222】
図15から明らかなとおり、豚肉抽出サンプルが混入していない牛肉抽出サンプル100%のネガティブコントロールでは、PBS緩衝液と同様に、蛍光変化はほぼ観察されなかった。これに対し、豚抽出サンプルが混入した牛肉抽出サンプルでは、豚抽出サンプルに含まれていたPSAを検出できた。特に、豚抽出サンプル混入率が0.1wt%であってもPSAを検出できたことから、実施例4の蛍光基導入MIP-NGsが固定されたセンシング用基板が、高感度のハラルチェックに好適であることが認められた。
【0223】
[試験例8:PSA用センシング用粒子(非固定)を用いた免疫応答]
本試験例では、センシング対象をブタ血清アルブミン(PSA)とする粒子を、基板に固定化しない遊離状態で用い、PSA及びトランスフェリンそれぞれに対する免疫応答を試験した。
【0224】
センシング対象をPSAとする粒子(蛍光基導入MIP-NGs;実施例4)は、試験例7の「センシング用ナノ粒子の合成-3」及び「センシング用ナノ粒子の合成-4」と同じ方法で作製した。
【0225】
80μg/mLの蛍光基導入MIP-NGsに、タンパク質(PSA又はトランスフェリン)の最終濃度が5,10,50,100,500,1000μg/mLになるように、タンパク質溶液(140mM NaClを含む10mMリン酸緩衝液(pH7.4)中)を添加し(最終溶液量500μL)、25℃で15分間インキュベーションした。その後、蛍光分光光度計(F-2500,日立ハイテクノロジーズ)で溶液の蛍光スペクトルを測定した(励起波長λex:647nm,λem:658-690nm)。その結果を
図16に示す。また、PSA及びトランスフェリンそれぞれのタンパク質濃度(PSA:5,10,50,100,500,1000μg/mL、トランスフェリン:10,50,100,500,1000μg/mL)に対する蛍光波長667nmの相対蛍光強度をプロットした。その結果を
図17に示す。
【0226】
図16に示すとおり、遊離状態の実施例4の蛍光基導入MIP-NGsにPSA溶液を添加した場合は、濃度増加に伴って蛍光強度の増加が観察された。実施例4の蛍光基導入MIP-NGsを基板に固定化した場合においても同様の現象が確認されている(試験例7)ことから、
図16に示される蛍光強度の増加は、実施例4の蛍光基導入MIP-NGsへのPSA結合に伴う蛍光強度変化であることが示唆された。また、
図17に示すように、参照タンパク質であるトランスフェリンを添加した場合の蛍光変化と比較して、PSAを添加した場合の方が大きな蛍光強度変化を示した。このことから、実施例4の蛍光基導入MIP-NGsは、基板に固定されていない遊離状態であっても、PSAを選択的に吸着し、その結合情報を蛍光シグナルとして発信できることが示された。
【0227】
[実施例9:センシング用ナノ粒子の合成-5]
本試験例では、
図2のセンシング用ナノ粒子10aに相当する、Fcドメインセンシング用(且つFcドメイン捕捉を介したIgGセンシング用)ナノ粒子を合成した。
【0228】
9-1.機能性モノマーの合成
式51bに示す機能性モノマーを設計し、以下のスキームに従って合成した。なお、式51bに示す機能性モノマーは、ボロニルアリール基と二価アミノ基とを有しており、MIP-NGsにおいて、ボロニルアリール基はIgGのFcドメインの糖鎖との相互作用し、2級アミノ基はポストインプリンティング修飾において蛍光分子の導入に用いられる。
【0229】
【0230】
エチレンジアミンモノメタクリルアミド塩酸塩(ca.1.57mmol)と4-ホルミルフェニルボロン酸(215mg,1.5mmol)及びトリエチルアミン(210μL,1.5mmol)をメタノール(10mL)に溶解させ、室温で撹拌した(0.5h)。反応追跡はTLC(MeOH→UV@254nm及びニンヒドリン)にて行い、UV吸収及びニンヒドリンで染色されるスポット(Rf:0.55,紫)の出現を確認したことから、シッフ塩基が形成されていると判断し、そこにNaBH4(120mg,9.0mmol)を加えた。添加後更に室温で一晩(8h)撹拌した。TLC(MeOH→UV@254nm及びニンヒドリン)で目的物スポット(Rf:0.25,黄)を確認したことから反応を終了し、溶媒をロータリーエバポレーターにて減圧留去した。残渣をオートカラム(シリカ:universal premium,MeOH/DCM=70/30→100/0,GR)を用いて精製し、目的物を得た。
収量: 175 mg (0.668 mmol, 42.5 %)
1H-NMR (500 MHz, D2O): δ=7.62 (d, 2H, phenyl), 7.30 (d, 2H, phenyl), 5.69 (s, 1H, vinyl), 5.44 (s, 1H, vinyl), 3.97 (s, 2H, N-CH2-), 3.47 (t, 2H, -CH2-), 2.99 (br, 2H, -CH2-), 1.89 (s, 3H, -Me)
【0231】
9-2.Fcドメインの調製
10mgのIgGを10mMリン酸緩衝液(pH7.4,140mM NaCl)(5mL)に溶解させ、抗体溶液を調製した。10mMリン酸緩衝液(pH7.4,140mM NaCl)に0.02M L-システイン,0.002M EDTA,0.1mg/mLパパインを溶解させ、酵素溶液を調製した。抗体溶液と酵素溶液とを同量混合し、37℃で24時間反応させた。その後、反応液を10kDaの限外ろ過膜(7500g,20分×3)を用いて溶媒を20mMリン酸緩衝液(pH7.0)に置換した。続いて100kDaの限外ろ過膜(Amicon Ultra)(7500g,20分×3)を用いて未反応のIgGを分離した。得られた溶液(1mL)についてProtein Aカラム(HitrapTM Protein A HP,Cytiva)を用いて精製を行った。結合バッファーとして20mMリン酸緩衝液(pH7.0)を用い、溶出バッファーとして0.1M クエン酸緩衝液(pH3.0)を用い、シリンジ(流速:約1mL/分)にて精製行った。精製後の溶液について、10kDaの限外ろ過膜(7500g,20分×3)を用いて溶媒を10mM炭酸緩衝液(pH9.2)に置換した。Fcドメインの精製はSDS-PAGEで確認した。
【0232】
9-3.センシング用ナノ粒子の合成-5
下記表に示した成分の混合物(プレポリマー溶液)を、50℃で12時間、無乳化剤沈殿重合に供し、ポリマーナノゲルを合成した(工程1)。なお、プレポリマー溶液に含ませるモノマーには、粒子の精製作業を容易化するために、標識モノマーも用いた。重合後の溶液(2mL)を、限外ろ過膜(10kDa,7500×g,20分×3)にて10mMリン酸緩衝液(pH7.4,140mM NaCl)に置換した。得られた溶液(2mL)をサイズ排除クロマトグラフィー(Sephadex G-100)を通し、未反応のモノマーを除去した。これによって得られた溶液(1mL)と40mg/mL SDS水溶液(1mL)とを混合し、5分間インキュベーションし、その後、陰イオン交換樹脂(DEAE-Sephadex,10cm,1.5cm i.d.)に添加し、10mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4,140mM NaCl)を溶出液として溶出を行った(工程2)。その後、SDSを除去するために脱塩カラム(PD-10)(溶出液:10mMリン酸緩衝液(pH7.4,140mM NaCl)を通すことで精製を行った。
【0233】
【0234】
得られたMIP-NGs(実施例5)及びNIP-NGs(比較例4)について、試験例1と同様にして粒子径を測定したところ、ナノメートルオーダーの粒子の存在が確認された。具体的には、Z平均粒子径で、MIP-NGs(実施例5)で21nm、NIP-NGs(比較例4)で18nmであった。Z電位は、MIP-NGs(実施例5)で19mV、NIP-NGs(比較例4)で2.9mVで正に帯電していることが示された。これの電荷は、機能性モノマーの2級アミノ基(及び重合開始剤)に由来するものと考えられる。これらのことから機能性モノマー部位が組み込まれた粒子が合成されたことが示唆された。また、精製前後での粒子溶液の蛍光測定(λex=280nm)の結果から、精製前に認められていた340nm付近のFc領域に含まれるトリプトファン由来の蛍光が消失していたため、ほとんどのFcドメイン断片の洗浄除去が行えたことも確認した。
【0235】
さらに、精製後のMIP-NGs(0.5mg/mL,1mL)に5μLのATTO647N NHS(10mg/mL)DMSO溶液を加え25℃で2時間インキュベーションした(工程3)。反応後の溶液を限外ろ過(10kDa,7500×g,20分×3)することで、未反応の蛍光分子を取り除き、蛍光基導入MIP-NGs(実施例5)を得た。なお、蛍光分子(ATTO647N)導入操作前後での蛍光測定(励起波長:647nm)から、導入前には見られなかった670nm付近の蛍光ピークが観察されたことをもって、蛍光導入を確認した。NIP-NGsについても同様の操作を行い、蛍光基導入NIP-NGs(比較例4)を得た。
【0236】
9-4.センシング用基板-4
金スパッタガラス基板(4.3×9.8mm)を、純水及びEtOHで洗浄し、UV-O3洗浄(20分)を行った。洗浄後の基板を1mM 11-メルカプトウンデカン酸のEtOH溶液に浸漬させることで自己組織化単分子膜形成を利用して表面にカルボキシ基を導入した(25℃,24時間)。基板をEtOHで洗浄した後、基板を0.2M EDC及び0.05M NHSを溶解させた水溶液中に浸漬させることで、表面カルボキシ基の活性化を行った(25℃,1時間)。反応後の基板上に50μLの蛍光基導入MIP-NGs(実施例5)又は蛍光基導入NIP-NGs(比較例4)の溶液(PBS中、0.5mg/mL)を添加し、アミンカップリングによりナノ粒子の固定化を行った(25℃,1時間)。その後、未反応能活性エステルに対して1Mアミノエタノール水溶液(50μL)を滴下することで不活性化を行った(25℃,0.5時間)。最後にProtein free blocking buffer(50μL)を滴下し表面のブロッキングを行った(25℃,0.5時間)。なお、固定化前後での表面での蛍光強度を測定し、固定化後の基板で蛍光強度の増加が観察されたことから、粒子の固定を確認した。
【0237】
9-5.蛍光測定
作製したセンシング用基板のタンパク質の蛍光検出能について、自動液体ハンドリングロボット付き蛍光顕微鏡を用いて検討を行った。測定シーケンス条件は次の通りである。
蛍光顕微鏡
フィルタ: Cy5 対物レンズ:×5 露光時間:0.1秒
光量: 12% 光源:水銀ランプ
ROI:基板中心部3×5の15か所
自動分注装置のシークエンス
1.チップ取り付け
2.サンプル吸引 150μL
3.反応5分(25℃)
4.測定位置 keep 2→4の繰り返し
【0238】
作製したセンシング用基板に対して、鋳型タンパク質であるFcドメイン断片(0-1600nM)を添加した時の相対蛍光強度変化を
図18に示した。NIP-NGs(比較例4)を固定化した基板と対比して、MIP-NGs(実施例5)を固定化した基板で大きな蛍光変化を示したことから、MIP-NGs(実施例5)でFcドメイン断片の結合空間が分子インプリンティングにより形成されており、かつその空間内に、機能性モノマーが組み込まれ、ポストインプリンティング修飾によって蛍光標識されることで、Fcドメイン断片の結合を蛍光シグナル変換できたことが示唆された。また、得られた蛍光の変化率から見かけの結合定数(K
d)は9.8×10
-9Mと算出された。
【0239】
Fcドメイン断片と、参照タンパク質としての完全IgG及びLysozyme(Lyz)とを用い、作製したセンシング用基板のタンパク質選択性を試験した。Fcドメイン断片(100nM)添加時の相対蛍光強度変化を1として、各参照タンパク質(100 nM)添加時の蛍光応答を
図19に示す。MIP-NGs(実施例5)ではFcドメイン断片添加時に最も大きな蛍光変化を示した。またFcドメイン断片をその部分構造として有する完全IgGも7割程度レスポンスしていることから、IgGのFc部位を認識可能であることを示唆している。つまり、Fcドメイン断片を鋳型に用いて作製したMIP-NGs(実施例5)が、Fcドメインの捕捉を介してIgGを検出することも可能であることが示された。一方、NIP-NGs(比較例4)では完全IgG及びLyzがいずれもFcドメイン断片より大きな蛍光応答を示した。これはNIP-NGs(比較例4)表面にランダムに存在している機能性モノマー残基およびそこに導入された蛍光分子と非特異的に結合したものと推察される。Whole IgGのpIは~8.5 、Lyzは11.2とされ、中性溶液中では正に帯電している。このことから、機能性モノマーのボロニルアリール基との静電相互作用、アミド結合部位との水素結合などが結合に寄与していると考えられる。
【0240】
[試験例10]
本試験例では、HER2(生体物質)をセンシング対象とする分子インプリント凹部を有し、分子インプリント凹部に、HER2と相互作用する抗HER2アフィボディ(生体物質との相互作用基)と、シグナル物質ATTO647Nとを有する機能性基を有する粒子を、HER2の捕捉を介するエクソソーム(HER2過剰発現型乳がん細胞株であるSK-BR-3細胞が発現するエクソソーム)センシング用ナノ粒子として作製した。
【0241】
10-1.鋳型の修飾(工程11)
以下のようにして、ジスルフィド結合(可逆的連結基)を介してメタクリロイル基(重合性官能基)で修飾された鋳型HSAの作製を行った。
【0242】
10-1-1.試薬
・Albumin, from Human Serum (HSA;ヒト血清アルブミン)(和光純薬工業)
・以下の方法で合成した化合物(5)
【0243】
【0244】
3-mercaptopropionic acid (0.900g ,8.50 mmol) をethanol 20 mLに溶解させ、1.6 mL のacetic acidを加えた。そこに30mlのethanolに溶解させた2,2-dipyridyl disulfide (3.75g ,17 mmol) を室温で攪拌しながら滴下した。25 ℃で3時間反応させることで、化合物(1)を得た。
【0245】
精製した化合物(1)(1.43 g,3.97 mmol)をエタノール15 mLに溶解させ、その後2-(Boc-amino) ethanethiol (1.69 mL,9.99mmol, 2eq) をエタノール20 mLに溶解させたものを加えた。3時間室温で反応させたることで、化合物(2)を得た。
【0246】
CH2Cl210 mLに溶解した4N HCl dioxane (6.60mL, 25.5 mmol, 5 eq)を、CH2Cl25mLに溶解した精製化合物(2)(1.43g, 5.10mmol)に対して、氷冷下で攪拌しながら滴下した。その後、室温にて一晩反応させることで、化合物(3)を得た。
【0247】
精製した化合物(3)(531.6mg, 2.45mmol)をCH2Cl25 mLに分散させDIEA (1.28mL, 7.35mmol, 3 eq)を加えた。これにN-succinimidyl methacrylate (670 mg, 3.68mmol, 1.5eq)を溶解したCH2Cl23.5mLを窒素雰囲気下で滴下し、室温で一晩反応させることで、化合物(4)を得た。
【0248】
精製した化合物(4)(290mg,1.16mmol, 1.1eq) とsulfo-NHS (230mg, 1.1mmol)とDCC (304.5mg, 1.54mmol, 1.4 eq)をDMA 5 mLに溶解し室温で24時間反応させた。反応後、溶液を4℃で冷却し沈殿物をろ過して除去した。その後、ろ液を減圧留去することでDMAを除いた。得られた白色個体をAcOEtに溶解させ、これにHexaneを加えることで再度沈殿させ、化合物(5)を得た。(1H-NMR chart 7 (500MHz,CD3OD):δ=8.1 (t,1H, -CO-NH-C-) , 5.7-5.3 (s,2H, CH3-C=CH2) , 4.0-3.8 (d,1H ,-CO-CH-SO3Na) , 3.4-3.3 (m, 2H,NaSO3-CH-CH2-) , 3.3-2.7 (m,8H, -NH-CH2-CH2-S-S-CH2-CH2-), 1.85 (s, 3H, CH3-C=CH2))
【0249】
10-1-2.実験手順
HSA (100mg, 2.23 μmol ) を溶解した10 mM リン酸緩衝溶液( pH 7.4 ) 2 mL と、化合物(5) (20 mg, 44.6 μmol, 20eq ) を溶解した10 mM リン酸緩衝溶液( pH 7.4 )1 mL とを混合し、4 ℃で一晩反応させた。その後、アミコンウルトラ-4 10 kDa (4 ℃, 7500 G, 20 min ) で 3 回洗浄を行い、ジスルフィド結合(可逆的連結基)を介してメタクリロイル基(重合性官能基)で修飾された鋳型HSAを得た。
【0250】
10-2.分子インプリントポリマーの合成(工程12)
以下のようにして分子インプリントポリマーの粒子を合成した。
【0251】
具体的には、下記表の重合レシピに従い、シュレンクフラスコ50mL中で窒素雰囲気下、70℃で16時間無乳化剤沈殿重合を行うことで、分子インプリントポリマーの粒子MIP-NGsを合成した。
【表16】
【0252】
10-3.鋳型の除去(工程13)
分子インプリントポリマーから鋳型を除去した。
【0253】
分子インプリントポリマーの粒子MIP-NGsと鋳型HSAとの複合体を含むPBS液について、アミコンウルトラ-4 (10 kDa) の透析チューブを用いた限外濾過(25℃, 7500 g, 20 分, 3 回)により溶媒の純水置換を行った。この複合体に 20 mM となるように Tris(2-carboxyethyl)phosphine Hydrochloride (TCEP) を加えて 25℃で一晩反応させた。これにより、鋳型HSAとMIP-NGsとの間のジスルフィド結合(可逆的連結基)を還元して切断し、チオール基を露出させた。
【0254】
さらに、サイズ排除クロマトグラフィー用クロマト充填剤Sephadex G-100を用いたふるい分け、アミコンウルトラ-4 10 kDa の透析チューブを使用した限外濾過 (25 ℃, 7500 g, 20 min, 3 回)によりTCEP の除去及び140 mM NaCl 10 mM トリス塩酸バッファーpH 7.4 への溶媒置換を行った。さらに、陰イオン交換クロマトグラフィーにより鋳型HSAを除去した。これによって、分子インプリントポリマーの粒子MIP-NGsを得た。
【0255】
10-4.基板への粒子の固定
得られた分子インプリントポリマーの粒子MIP-NGsを、以下のようにして基板に固定した。
【0256】
SPR金基板を純粋及びエタノールで洗浄後、11-Mercaptoundecanoic acidを1mMになるように調製したエタノール溶液に浸漬させ、25℃で一晩インキュベートした。反応後の基板をエタノール、純水で洗浄し、窒素ガスで乾燥させた後、Biacore3000 を用いて、0.1 M N-Hydroxysuccinimide(NHS), 0.4 M 1-(3-dimethylaminopropyl)-3- ethylcarbodiimide hydrochloride (EDC)のPBS溶液をインジェクションし、25℃で10分インキュベートした。得られた基板(基板表面が結合性基としてのカルボン酸活性エステル基で改質されたもの)を400μg/mLのMIP-NGs溶液をインジェクションし、25℃で10分インキュベートさせることで、MIP-NGsが固定化された基板を得た。
【0257】
10-5.機能性分子の合成
下記スキームに従って、後述の項目10-6で用いる、生体物質との相互作用基を結合させるための基及びシグナル物質結合性基を含む機能性基を有する機能性分子(下記化合物(3))を合成した。
【0258】
【0259】
Tris(2-aminoethyl)amine 1800 μL (12 mmol)をDioxane (4 mL)に溶解させ、氷冷下で撹拌した。そこにBoc2O 440 mg (2. 0 mmol)を溶解させたdioxane (10 mL)をゆっくり滴下し、さらに一晩撹拌した(0℃→室温)。反応後の溶媒を減圧留去し、残渣をMilli-Q水に溶解させ、CH2Cl2 (15 mL)で抽出した(×4)。有機層をNa2SO4で乾燥させ、溶媒をロータリーエバポレーターで減圧留去、真空乾燥させ透明オイル状の目的物(1)を得た。(収量:364 mg, 74 %)
1H-NMR (300 MHz, CDCl3) δ = 5.29 (br, 1H, carbamide), 3.18 (t, 2H, -CH2-NH-Boc), 2.75 (t, 4H, H2N-CH2-), 2.53 (m, 6H, -CH2-), 1.45 (s, 9H, Boc)
【0260】
(3-Pyridyldithio)propionic acid 323 mg (1.5 mmol)、DCC 330 mg (1.6 mmol)をCH2Cl2 (10 mL)に溶解させ、氷冷下で撹拌した。そこに化合物(1)130 mg (0.53 mmol)を加えさらに1時間撹拌した。反応後、析出物をろ過にて取り除き、溶媒をロータリーエバポレーターで減圧留去した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(EA/Hx=45/55→100/0, EA/MeOH=99/1→80/20)にて精製し化合物(2)を得た。(収量: 230 mg , 68 %)
1H-NMR (300 MHz, CDCl3) δ= 8.44 (d, 2H, pyridyl), 7.70-7.60 (m, 4H, pyridyl), 7.18 (br, 2H, amide), 7.12-7.07 (m, 2H, pyridyl), 5.01 (br, 1H, carbamide), 3.34-3.29 (m, 4H, H2N-CH2-), 3.14-3.07 (m, 6H, -CH2-NH-Boc, -CH2-), 2.68 (t, 4H, -CH2-), 2.61-2.51 (m, 6H, -CH2-), 1.43 (s, 9H, Boc)
【0261】
化合物(2)230 mg (0.36 mmol)をCH2Cl2 (5 mL)に溶解させ、そこに4 N HCl in dioxane 0.5 mLを添加し、氷冷下で撹拌した。一晩撹拌(0 ℃→室温)した後、過剰量のジエチルエーテルを添加し、沈殿物をデカンテーションにて分離した。得られた固体をジエチルエーテルで洗浄、真空乾燥し目的物(化合物(3))を得た。(収量: 255 mg, quant.)
1H-NMR (300 MHz, D2O) δ= 8.51 (d, 2H, pyridyl), 8.14(t, 2H, pyridyl), 8.01 (d, 2H, pyridyl), 7.56 (m, 2H, pyridyl), 3.67-3.3.56 (m, 6H, HN-CH2-), 3.43 (t, 6H, -CH2-N), 3.09 (t, 4H, -CH2-), 2.74 (t, 4H, -CH2-)
【0262】
10-6.機能性基の導入(工程14)
機能性分子を、以下のようにして、ジスルフィド結合(可逆的連結基)を介して分子インプリント凹部の結合性基に導入した。
【0263】
上記10-4で得られた分子インプリントポリマーの粒子MIP-NGsが固定された基板を、上記10-5で得られた機能性分子(化合物(3))の900μg/mLPBS溶液に浸漬し、室温℃で2時間反応させることで、機能性分子のピリジルジスルフィド基と分子インプリントポリマーのチオール基とを、ジスルフィド結合(可逆的連結基)に変換した。
【0264】
10-7.アフィボディ及び蛍光物質の導入
上記10-6で得られた基板に、以下のようにして抗Her2アフィボディ分子(生体物質との相互作用基を与える分子)と蛍光物質(シグナル物質)とを導入した。
【0265】
Anti-Her2 Affibody(R) Molecule (抗Her2アフィボディ分子、アブカム株式会社)の1mg/mL溶液(10 mM PB, 137 mM NaCl, 0.05vol% Tween20 (pH 7.4);PBST)10μLを、20mMのDTT溶液(50 mM PB, 137 mM NaCl (pH7.5))40μLに加え、25℃、2時間で反応後、Amicon Ultra-0.5 (MWCO: 10 kDa)を用いて限外濾過(4℃,14000×g,15分)を3回行い、PBSTにて精製した。これにより、抗Her2アフィボディを与える分子を得た。
【0266】
抗Her2アフィボディ分子(生体物質との相互作用基を与える分子)の10μg/mLPBS溶液を、上記10-6で得られた基板と反応させ(室温、2時間)、ピリジルジスルフィド基(生体物質との相互作用基を結合させるための基)に抗Her2アフィボディ基(生体物質との相互作用基)の導入を行った。その後、100μMの2-メルカプトエタノール溶液を反応させることで、残存したピリジルジスルフィド基のキャッピングを行った。次いで、基板をAtto647N-NHS溶液と反応させ(室温、2時間)、アミノ基(シグナル物質結合性基)にAtto647N(シグナル基)を導入した。これによって、HER2を鋳型とした分子インプリント凹部を有し、分子インプリント凹部に、HER2と相互作用する抗HER2アフィボディと、シグナル物質ATTO647Nとを有する機能性基を有する粒子が固定されたセンシング用基板を得た。
【0267】
10-8.蛍光測定による検出対象の分析
上記10-7で得られたセンシング用基板を用い、SIC 自動分注装置付き蛍光顕微鏡によるエクソソーム捕捉試験を行った。
【0268】
10-8-1.実験手順
SK-BR-3細胞が発現するエクソソームを、PBS(10mM phosphate,140mM NaCl,pH7.4)中に、0~1.0×10-13Mの濃度で溶解させたエクソソーム溶液を調製した。調製されたエクソソーム溶液を、上記10-7で得られた検出対象の分析用センサに滴下した。
【0269】
蛍光顕微鏡の測定条件については、測定地点は基板上の3ポイント、フィルタはCy5、対物レンズは5倍、露光時間は0.1秒、光量は100%、光源は水銀ランプとした。
【0270】
10-8-2.結果
相対蛍光強度を算出し、相対蛍光強度とエクソソーム濃度との関係を調べた。結果を
図20に示す。
【0271】
図20に示すように、上記10-7で得られたセンシング用基板では、エクソソームの濃度依存的に消光の程度が増加することが確認された。つまり、SK-BR-3細胞が発現するエクソソームに対する認識能が示された。また、カーブフィッティングによる解離定数K
dを算出したその結果、解離定数K
dは1.0×10
-17(M)であった。
【0272】
また、抗HER2アフィボディの代わりに抗HSAアフィボディを用いたことを除いて上記と同様にして別のセンシング用基板を得た。抗HER2アフィボディが導入されたセンシング用基板と、抗HSAアフィボディが導入された別のセンシング用基板とに対し、HER2過剰発現型乳がん細胞株であるSK-BR-3細胞が発現するエクソソーム(5×10
-17M)を添加した場合の相対蛍光強度変化を
図21に示す。
【0273】
図21に示す通り、SK-BR-3細胞が発現するエクソソームは、抗HER2アフィボディが導入された、HER2捕捉を介するエクソソームセンシング用基板によって特異的に検出された。
【符号の説明】
【0274】
1,1a…センシング用基板
10,10a…センシング用ナノ粒子
20…分子インプリントポリマー
21…分子インプリント空間
R1…相互作用基
R2…シグナル物質結合性基を含む連結基
22…機能性基
F22…機能性モノマー
F23…アクリルアミド
F24…生体適合性モノマー
30…シグナル物質
31…シグナル基
40…基板
90…生体物質(センシング対象)
90’…生体物質(鋳型)