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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】除染システム
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/20 20060101AFI20231002BHJP
   A61L 2/025 20060101ALI20231002BHJP
   A61L 2/18 20060101ALI20231002BHJP
【FI】
A61L2/20 100
A61L2/025
A61L2/18 100
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023117251
(22)【出願日】2023-07-19
【審査請求日】2023-07-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】599053643
【氏名又は名称】株式会社エアレックス
(74)【代理人】
【識別番号】100121784
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 稔
(72)【発明者】
【氏名】川崎 康司
(72)【発明者】
【氏名】緒方 嘉貴
(72)【発明者】
【氏名】角田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】北野 司
(72)【発明者】
【氏名】郭 志強
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/196072(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/064866(WO,A1)
【文献】特開2020-168181(JP,A)
【文献】特許第7144894(JP,B1)
【文献】特開2007-259930(JP,A)
【文献】特開2010-115451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/00- 2/28;
11/00- 12/14
A61M 5/00
B65B 55/02- 55/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器本体と当該容器本体の解放部を封止するガス透過性のシール部材とからなる収納容器の内部に、プレフィルドシリンジが収納された状態において、内部に収納されたプレフィルドシリンジの外表面を除染する除染システムであって、
前記収納容器の内部に連続供給装置を使用して除染剤を供給する除染剤供給工程と、除染剤が供給された前記収納容器を所定時間維持して前記プレフィルドシリンジの外表面を除染する除染工程と、除染後の前記収納容器の内部から残留した除染剤を除去して清浄空気で置換するエアレーション工程とを有し、
前記連続供給装置は、搬入口から搬出口まで前記収納容器を搬送する搬送手段と、当該搬送手段の搬送経路において、前記収納容器を封止する前記シール部材の表面に所定量の過酸化水素水を吐出する吐出手段と、過酸化水素水が吐出された前記シール部材の表面に向けて超音波を放射する超音波放射手段とを備え、
前記吐出手段により前記シール部材の表面に吐出された過酸化水素水は、前記超音波放射手段から放射される超音波により過酸化水素が気化すると共に、気化した過酸化水素ガスが超音波の音響流を受けて前記シール部材の表面から前記収納容器の内部に供給されることを特徴とする除染システム。
【請求項2】
前記連続供給装置は、前記搬送手段の搬送経路において、前記超音波放射手段の前段位置及び/又は後段位置にあって、前記シール部材の表面に吐出された過酸化水素水を加熱する加熱手段を有し、
前記吐出手段により前記シール部材の表面に吐出された過酸化水素水は、前記加熱手段により昇温し、且つ、前記超音波放射手段から放射される超音波により過酸化水素が気化すると共に、気化した過酸化水素ガスが超音波の音響流を受けて前記シール部材の表面から前記収納容器の内部に供給されることを特徴とする請求項1に記載の除染システム。
【請求項3】
前記超音波放射手段は、基盤と複数の送波器とを具備する超音波振動盤であって、
前記基盤の平面上に前記複数の送波器の送波方向を統一して前記シール部材の表面に向けて配置すると共にこれらの送波器を同位相で作動させることにより、
前記複数の送波器の正面方向の超音波を互いに強め合うと共に、当該複数の送波器の横方向の超音波を互いに打ち消し合うようにして、前記超音波振動盤の盤面から前記シール部材の表面に向けて垂直方向に指向性の強い超音波による音響流を発生させることを特徴とする請求項1又は2に記載の除染システム。
【請求項4】
前記吐出手段は、ディスペンサー方式或いはインクジェット方式により過酸化水素水を吐出するものであって、少量の過酸化水素水を微小な液滴として前記シール部材の表面に均一に塗布することを特徴とする請求項1又は2に記載の除染システム。
【請求項5】
前記吐出手段により前記シール部材の表面に吐出される過酸化水素水の吐出量は、当該シール部材の表面部位により変化するように制御され、
前記収納容器の内部に収納された前記プレフィルドシリンジの部位に対応して、前記シール部材の表面から前記収納容器の内部に供給される気化した過酸化水素ガスの量を変化させることを特徴とする請求項1又は2に記載の除染システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収納容器の内部に収納された物品の外表面を収納された状態で除染する除染システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療現場での利便性から前もって医薬品を充填したプレフィルドシリンジが製造されている。この場合、シリンジに医薬品を充填する作業は、無菌環境下の充填作業室で行われる。しかし、プレフィルドシリンジを収納容器に収納する際には、通常、クリーンルーム等の清浄な環境下において行われるが、収納容器の内部の厳密な滅菌を保証できるレベルで行われるものではない。
【0003】
そこで、プレフィルドシリンジの収納は、プレフィルドシリンジの形状に合わせて成形されたプラスチック製の容器本体と気体透過可能なシール部材とを備えた収納容器が使用されている。このシール部材には、一般に高密度ポリエチレン極細繊維からなる不織布、タイベック(商標)が使用され、このタイベック(商標)が有する微細孔を通してプラスチック製の容器の内部への気体の透過は可能であるが、微生物の侵入は阻止される。この場合、プレフィルドシリンジを収納容器に収納し、収納した状態でプレフィルドシリンジの外表面と収納容器の内部を過酸化水素ガスなどの除染剤により除染する。
【0004】
しかし、収納容器の内部に気体透過可能なシール部材を介して過酸化水素ガスを供給して除染した後に、内部に残留する過酸化水素を完全に除去するには、相当に長い時間放置する必要がある。これでは、除染操作の効率が悪く、収納容器に収納されたプレフィルドシリンジの生産性を低下させるという問題があった。そこで、下記特許文献1において、収納容器の内部にプレフィルドシリンジが収納された状態において、過酸化水素ガスで除染した後に残留する過酸化水素ガスを確実に除去できる滅菌方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-193010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1の方法は、陰圧状態で過酸化水素ガスを収納容器の内部に浸透させる操作を複数回繰り返す。また、過酸化水素ガスによって滅菌処理した後、加温しつつ収納容器の内部から過酸化水素ガスを脱ガス処理するものである。しかし、この方法においては、大掛かりな陰圧チャンバーを必要とする問題があった。また、陰圧チャンバーを使用して除染するには、陰圧操作と復圧操作の繰り返しが必要であり、除染工程に時間を要するという問題があった。また、陰圧操作によりプレフィルドシリンジに充填された薬液の内部に気泡が混入するリスクがあった。更に、収納容器を積み重ねた状態で除染するので、容器の形状に工夫が必要であり対応できる収納容器が限られるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記の諸問題に対処して、過酸化水素水の使用量を必要な範囲で軽減できるので、収納容器の内部に残留する過酸化水素の量が減少し、除染及びエアレーションの時間を大幅に短縮することが可能となり、小さな設備で大量の収納容器を連続して除染できる除染システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、収納容器のガス透過性のシール部材の表面に少量の過酸化水素水を均一に塗布し、これに超音波を照射することによりシール部材を介して収納容器の内部に過酸化水素ガスを供給できることを見出し本発明の完成に至った。
【0009】
即ち、本発明に係る除染システムは、請求項1の記載によれば、
容器本体(P1)と当該容器本体の解放部を封止するガス透過性のシール部材(P2)とからなる収納容器(P)の内部に、プレフィルドシリンジ(S)が収納された状態において、内部に収納されたプレフィルドシリンジの外表面を除染する除染システムであって、
前記収納容器の内部に連続供給装置(100)を使用して除染剤を供給する除染剤供給工程と、除染剤が供給された前記収納容器を所定時間維持して前記プレフィルドシリンジの外表面を除染する除染工程と、除染後の前記収納容器の内部から残留した除染剤を除去して清浄空気で置換するエアレーション工程とを有し、
前記連続供給装置は、搬入口(111)から搬出口(131)まで前記収納容器を搬送する搬送手段(10)と、当該搬送手段の搬送経路において、前記収納容器を封止する前記シール部材の表面に所定量の過酸化水素水を吐出する吐出手段(20)と、過酸化水素水が吐出された前記シール部材の表面に向けて超音波を放射する超音波放射手段(40)とを備え、
前記吐出手段により前記シール部材の表面に吐出された過酸化水素水は、前記超音波放射手段から放射される超音波により過酸化水素が気化すると共に、気化した過酸化水素ガスが超音波の音響流を受けて前記シール部材の表面から前記収納容器の内部に供給されることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、請求項2の記載によれば、請求項1に記載の除染システムであって、
前記連続供給装置(100)は、前記搬送手段の搬送経路において、前記超音波放射手段の前段位置及び/又は後段位置にあって、前記シール部材の表面に吐出された過酸化水素水を加熱する加熱手段(30)を有し、
前記吐出手段により前記シール部材の表面に吐出された過酸化水素水は、前記加熱手段により昇温し、且つ、前記超音波放射手段から放射される超音波により過酸化水素が気化すると共に、気化した過酸化水素ガスが超音波の音響流を受けて前記シール部材の表面から前記収納容器の内部に供給されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、請求項3の記載によれば、請求項1又は2に記載の除染システムであって、
前記超音波放射手段(40)は、基盤(41)と複数の送波器(42)とを具備する超音波振動盤であって、
前記基盤の平面上に前記複数の送波器の送波方向を統一して前記シール部材の表面に向けて配置すると共にこれらの送波器を同位相で作動させることにより、
前記複数の送波器の正面方向の超音波を互いに強め合うと共に、当該複数の送波器の横方向の超音波を互いに打ち消し合うようにして、前記超音波振動盤の盤面から前記シール部材の表面に向けて垂直方向に指向性の強い超音波による音響流を発生させることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、請求項4の記載によれば、請求項1又は2に記載の除染システムであって、
前記吐出手段(20)は、ディスペンサー方式或いはインクジェット方式により過酸化水素水を吐出するものであって、少量の過酸化水素水を微小な液滴として前記シール部材の表面に均一に塗布することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、請求項5の記載によれば、請求項1又は2に記載の除染システムであって、
前記吐出手段(20)により前記シール部材の表面に吐出される過酸化水素水の吐出量は、当該シール部材の表面部位により変化するように制御され、
前記収納容器の内部に収納された前記プレフィルドシリンジの部位に対応して、前記シール部材の表面から前記収納容器の内部に供給される気化した過酸化水素ガスの量を変化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
上記構成によれば、本発明に係る除染システムは、除染剤供給工程と除染工程とエアレーション工程とを有している。これらの中で、除染剤供給工程に使用する連続供給装置に特徴を有する。この連続供給装置は、搬送手段と吐出手段と超音波放射手段とを備えている。搬送手段は、搬入口から搬出口まで収納容器を搬送する。吐出手段は、搬送手段の搬送経路において、収納容器を封止するシール部材の表面に所定量の過酸化水素水を吐出する。超音波放射手段は、搬送手段の搬送経路において、加熱された過酸化水素水に対してシール部材の表面に向けて超音波を放射する。
【0015】
ここで、吐出手段によりシール部材の表面に吐出された過酸化水素水は、超音波放射手段から放射される超音波により過酸化水素が気化する。また、気化した過酸化水素ガスは、超音波の音響流を受けてシール部材の表面から収納容器の内部に供給される。このように、上記構成によれば、過酸化水素水の使用量を必要な範囲で軽減できるので、収納容器の内部に残留する過酸化水素の量が減少し、除染及びエアレーションの時間を大幅に短縮することが可能となり、小さな設備で大量の収納容器を連続して除染できる除染システムを提供することができる。
【0016】
また、上記構成によれば、連続供給装置は加熱手段を有している。当該加熱手段は、搬送手段の搬送経路において、超音波放射手段の前段位置及び/又は後段位置にあって、シール部材の表面に吐出された過酸化水素水を加熱する。よって、吐出手段によりシール部材の表面に吐出された過酸化水素水は昇温し、且つ、超音波放射手段から放射される超音波により過酸化水素が気化すると共に、気化した過酸化水素ガスが超音波の音響流を受けてシール部材の表面から収納容器の内部に供給される。このことにより、上記作用効果をより具体的且つ効果的に発揮することができる。
【0017】
また、上記構成によれば、超音波放射手段は、基盤と複数の送波器とを具備する超音波振動盤である。この超音波振動盤は、基盤の平面上に複数の送波器の送波方向を統一してシール部材の表面に向けて配置する。また、これらの送波器を同位相で作動させることにより、複数の送波器の正面方向の超音波を互いに強め合うと共に、当該複数の送波器の横方向の超音波を互いに打ち消し合う。このようにして、超音波振動盤の盤面からシール部材の表面に向けて垂直方向に指向性の強い超音波による音響流を発生させる。このことにより、上記作用効果をより具体的且つ効果的に発揮することができる。
【0018】
また、上記構成によれば、吐出手段は、ディスペンサー方式或いはインクジェット方式により過酸化水素水を吐出するものであって、少量の過酸化水素水を微小な液滴としてシール部材の表面に均一に塗布する。このことにより、上記作用効果をより具体的且つ効果的に発揮することができる。
【0019】
また、上記構成によれば、吐出手段によりシール部材の表面に吐出される過酸化水素水の吐出量は、当該シール部材の表面部位により変化するように制御される。よって、収納容器の内部に収納されたプレフィルドシリンジの部位に対応して、シール部材の表面から収納容器の内部に供給される気化した過酸化水素ガスの量を変化させることができる。このことにより、上記作用効果をより具体的且つ効果的に発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る除染システムの除染対象であるプレフィルドシリンジを収納した収納容器の容器本体がシール部材で封止される前の状態を示す平面図である。
図2図1のプレフィルドシリンジを収納した収納容器の容器本体がシール部材で封止された状態を示す右側面図である。
図3図1のプレフィルドシリンジを収納した収納容器の容器本体がシール部材で封止された状態を示す正面図である。
図4】本発明に係る除染システムで使用する連続供給装置の外観を示す概要斜視図である。
図5図4の連続供給装置の内部を示す側面からの断面図である。
図6図4の連続供給装置を使用した除染システムにおける収納容器の正面図であって、除染剤供給工程の(A)操作前、(B)吐出操作、(C)加熱操作、(D)超音波操作と、これに続く(E)除染工程、(F)エアレーション工程である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る除染システムを実施形態により詳細に説明する。なお、本発明は、下記の実施形態にのみ限定されるものではない。以下に示す実施形態に係る除染システムにおいては、除染剤として過酸化水素水を使用する。まず、過酸化水素水により除染する物品を説明する。本実施形態においては、収納容器に収納されたプレフィルドシリンジの外表面と収納容器の内部を除染対象とする。
【0022】
図1は、本発明に係る除染システムの除染対象であるプレフィルドシリンジを収納した収納容器の容器本体がシール部材で封止される前の状態を示す平面図である。図1において、収納容器Pは、ポリエチレン製の容器本体P1とタイベック(商標)製のシール部材P2とを備えている。容器本体P1の内部には、プレフィルドシリンジSが収納されている。なお、図1においては、4本のプレフィルドシリンジSが収納された4連1体の収納容器Pを使用しているが、これに限定するものではない。また、図1においては、容器本体P1とシール部材P2とは封止される前の状態にある。
【0023】
また、図2は、図1のプレフィルドシリンジを収納した収納容器の容器本体がシール部材で封止された状態を示す右側面図である。また、図3は、図1のプレフィルドシリンジを収納した収納容器の容器本体がシール部材で封止された状態を示す正面図である。図2及び図3の状態においては、収納容器Pの内部とそこに収納されたプレフィルドシリンジSは、除染前の状態にある。
【0024】
本実施形態に係る除染システムは、除染剤供給工程と除染工程とエアレーション工程とから構成される。なお、本実施形態に係る除染システムは、除染剤供給工程に特徴を有している。以下、除染剤供給工程を中心に説明する。
【0025】
本実施形態においては、除染剤として35W/V%の過酸化水素水を使用し、過酸化水素ガスを発生させて除染する。過酸化水素ガスは、強力な滅菌効果を有し、安価で入手しやすく、且つ、最終的には酸素と水に分解する環境に優しい除染ガスとして有効である。
【0026】
次に、除染剤供給工程で使用する連続供給装置について説明する。図4は、連続供給装置の外観を示す概要斜視図である。また、図5は、連続供給装置の内部を示す側面からの断面図である。本実施形態に係る連続供給装置100は、除染対象であるプレフィルドシリンジSが収納された収納容器Pの内部に除染剤である過酸化水素水をガス化して供給する。
【0027】
図4及び図5において、連続供給装置100は、ステンレス製金属板からなる壁部で構成された箱体からなり、床面上に載置されている。連続供給装置100の内部は、前室110と除染剤供給室120と後室130とに各壁部で区画されている。また、連続供給装置100の架台部140の内部には、機械・電装関係の装置などが収納されている。
【0028】
連続供給装置100には、搬入口111の外部から前室110と除染剤供給室120と後室130とを経由して搬出口131の外部に至る搬送コンベア10が設置され、収納容器Pを搬送する。本実施形態においては、搬送コンベア10としてベルトコンベアを使用する。また、搬送コンベア10の搬送経路において、除染剤供給室120には吐出装置20と、加熱ヒーター30と、超音波振動盤40とが設けられている。なお、本実施形態においては、加熱ヒーター30を設置するが、これに限定するものではなく、超音波振動盤40のみで対応する場合もある(後述する)。
【0029】
以下、搬送コンベア10で搬送される収納容器Pに対する各装置の作動について説明する。図5において、前室110と後室130の内部は、排気装置(図示せず)により各排気口112,132から排気されて陰圧となっている。これは、除染剤供給室120で供給される過酸化水素水の一部が外部環境に放出されることを防ぐためである。この状態で、搬送コンベア10は、一定の速度で図示右方向に向けて一定速度で回転している。
【0030】
搬入口111の外部では、搬入装置R1のロボットアームがシール部材P2を上側にして収納容器Pを搬送コンベア10のベルト上に設置する。搬送コンベア10の収納容器Pは、搬入口111から前室110を経由して除染剤供給室120に入る。除染剤供給室120において、収納容器Pは、搬送コンベア10により吐出装置20の下を移動しながら、そのシール部材P2の表面に向けて、吐出装置20から過酸化水素水が吐出される。
【0031】
ここで、吐出装置20について説明する。本発明においては、吐出装置20の種類について特に限定するものではない。よって、各種スプレーノズルや2流体ノズルなどを使用することができる。また、特に少量の過酸化水素水をシール部材P2の表面に均一に塗布するために、ディスペンサー方式或いはインクジェット方式で吐出することが好ましい。
【0032】
この場合、吐出方式は特に限定するものではなく、エアパルス方式、プランジャ方式、スクリューポンプ方式、ピエゾ方式、サーマル方式、バブル方式などいずれであってもよい。また、シール部材P2の幅に合わせた複数のノズルで固定式としてもよく、或いは、シール部材P2の幅に合わせてトラバースする走行式としてもよい。なお、本実施形態においては、インクジェット方式の吐出ノズルを使用した。
【0033】
本実施形態においては、プレフィルドシリンジSを収納した収納容器Pの内部容積と、これに対応するシール部材P2の表面積から、予め吐出する過酸化水素水の塗布量を例えば、0.05mg/cm~2mg/cmの範囲内で設定することが好ましい。本実施形態においては、インクジェット方式の吐出ノズルを使用することにより、予め設定した過酸化水素水の塗布量をシール部材P2の表面に均一に塗布することができる。なお、より多くの過酸化水素水を塗布しても良いが、その後のエアレーション時間が長くなり工程時間が延長するという課題が生じる。
【0034】
なお、本実施形態においては、シール部材P2の表面に過酸化水素水を均一に塗布するが、これに限定するものではなく、シール部材P2の表面に吐出される過酸化水素水の吐出量をシール部材P2の表面部位により変化するように制御してもよい(後述する)。
【0035】
このようにして、シール部材P2の表面に過酸化水素水が均一に塗布された収納容器Pは、搬送コンベア10により加熱ヒーター30の下を移動しながら、そのシール部材P2の表面に塗布された過酸化水素水が加熱ヒーター30により加熱される。
【0036】
ここで、加熱ヒーター30について説明する。加熱ヒーター30は、シール部材P2の表面に平行に配置され、シール部材P2の表面に塗布された過酸化水素水を均一に加熱して昇温する。なお、本発明においては、加熱ヒーター30の種類について特に限定するものではない。本実施形態においては、短時間で均一に加熱することから、遠赤外線ヒーターや赤外線レーザーなどを使用することが好ましい。また、過酸化水素水を昇温する温度は、シール部材P2の表面温度が、例えば、30℃~50℃の範囲内で設定することが好ましい。なお、より温度を上げても良いが、プレフィルドシリンジSに充填された薬液に対して影響を与えるという課題が生じる可能性がある。
【0037】
このようにして、シール部材P2の表面に塗布された過酸化水素水が均一に昇温した収納容器Pは、搬送コンベア10により超音波振動盤40の下を移動しながら、そのシール部材P2の表面で昇温した過酸化水素水に対して超音波が放射される。このことにより、シール部材P2の表面に塗布された過酸化水素水は、超音波の音響流を受けてシール部材P2の表面から収納容器Pの内部にガス化しながら供給される。
【0038】
なお、本実施形態においては、除染剤供給室120の吐出装置20の後方に、複数の加熱ヒーター30と複数の超音波振動盤40とを交互に配置した。このことにより、シール部材P2の表面に塗布された過酸化水素水に昇温と超音波の照射が繰り返され、塗布された過酸化水素水が完全に気化して超音波の音響流を受けてシール部材P2の表面から収納容器Pの内部に供給される。なお、本実施形態においては、複数の加熱ヒーター30と複数の超音波振動盤40とを交互に配置するが、これに限定するものではない(後述する)。
【0039】
このようにして、シール部材P2の表面に塗布された過酸化水素水が過酸化水素ガスとなり、超音波の音響流を受けて収納容器Pの内部に供給された状態で、収納容器Pは、搬送コンベア10により後室130を経由して搬出口131の外部に至る。搬出口131の外部では、搬入装置R2のロボットアームが収納容器Pを搬送コンベア10から搬出している。
【0040】
ここで、連続供給装置100の吐出装置20、加熱ヒーター30及び超音波振動盤40の作用効果について説明する。図6は、連続供給装置を使用した除染システムの収納容器の正面図であって、除染剤供給工程の(A)操作前、(B)吐出操作、(C)加熱操作、(D)超音波操作と、これに続く(E)除染工程、(F)エアレーション工程である。
【0041】
≪除染剤供給工程≫
まず、図6(A)は、収納容器Pが除染剤供給室120に搬入された操作前の状態を示している。この状態においては、シール部材P2の表面には過酸化水素水は塗布されていない。次に、図6(B)は、吐出装置20からシール部材P2の表面に過酸化水素水が吐出されている吐出操作の状態を示している。上述のように、インクジェット方式の吐出ノズルを使用することにより、予め設定した過酸化水素水の量をシール部材P2の表面に均一に塗布することができる。
【0042】
次に、図6(C)は、加熱ヒーター30でシール部材P2の表面に塗布された過酸化水素水が昇温吐出されている加熱操作の状態を示している。上述のように、遠赤外線ヒーターなどを使用することにより、シール部材P2の表面温度を30℃~50℃の範囲内で昇温することができる。次に、図6(D)は、超音波振動盤40からシール部材P2の表面に向けて超音波が放射されている超音波操作の状態を示している。
【0043】
ここで、超音波振動盤40について説明する。超音波振動盤40は、シール部材P2の表面に平行に配置されシール部材P2の表面に塗布され昇温した過酸化水素水に超音波を照射する。本実施形態において、超音波振動盤40は、基盤(スピーカー基盤)41の平面上に複数の送波器(超音波スピーカー)42が設けられている。また、これら複数の送波器(超音波スピーカー)42の送波方向を統一してシール部材P2の表面に向けて配置されている。
【0044】
この状態において、これら複数の送波器(超音波スピーカー)42を同位相で作動させる。このことにより、複数の送波器(超音波スピーカー)42の正面方向の超音波が互いに強め合うと共に、当該複数の送波器(超音波スピーカー)42の横方向の超音波が互いに打ち消し合うことになる。その結果、超音波振動盤40の盤面からシール部材P2の表面に向けて垂直方向に指向性の強い超音波による音響流を発生させることができる。
【0045】
このようにして、超音波振動盤40からシール部材P2の表面に指向性の強い超音波による音響流が照射されると、シール部材P2の表面に塗布され昇温した過酸化水素水が超音波のエネルギーを受けて気化して過酸化水素ガスとなる。更に、気化した過酸化水素ガスは、超音波の音響流を受けてシール部材P2の表面から収納容器Pの内部に供給される。
【0046】
≪除染工程≫
次に、図6(E)は、除染工程の状態を示している。除染剤供給室120の内部で吐出操作の後に加熱操作と超音波操作とが繰り返され、予め設定された所定量の過酸化水素ガスが収納容器Pの内部に供給されている。なお、除染剤供給工程の途中から収納容器Pの内部の除染は始まっているが、搬送コンベア10から搬出された収納容器Pを所定時間保管することにより、除染工程が完結する。
【0047】
≪エアレーション工程≫
次に、図6(F)は、エアレーション工程の状態を示している。本実施形態においては、少量で適正量の過酸化水素水を供給することから、除染工程完了後に収納容器Pの内部には過酸化水素は略残留しないと考えられる。しかし、除染工程後の収納容器Pを収容したチャンバーの内部を清浄空気で置換することにより、より完璧なエアレーション工程が完結する。また、エアレーションの際にチャンバーの内部を加温することで、エアレーション工程の時間を短縮することも可能である。
【0048】
以上、説明したように、上記実施形態によれば、過酸化水素水の使用量を最低限除染に必要な範囲で軽減できるので、収納容器の内部に残留する過酸化水素の量が減少し、除染及びエアレーションの時間を大幅に短縮することが可能となり、小さな設備で大量の収納容器を連続して除染できる除染システムを提供することができる。
【0049】
なお、本発明の実施にあたり、上記実施形態に限らず、次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)上記実施形態においては、加熱ヒーター30を設置するが、これに限定するものではない。本発明においては、シール部材P2の表面に塗布された過酸化水素水の量は、適正且つ少量であるので、加熱ヒーター30で昇温することなく、超音波振動盤40のみの作用で気化することもできる。
(2)上記実施形態においては、複数の加熱ヒーター30と複数の超音波振動盤40とを交互に配置するが、これに限定するものではない。この場合には、加熱ヒーター30と超音波振動盤40とをそれぞれ複数設置することなく、超音波振動盤40の前段位置にのみ、或いは、超音波振動盤40の後段位置にのみ加熱ヒーター30を設置するようにしてもよい。
(3)上記実施形態においては、シール部材P2の表面に過酸化水素水を均一に塗布するが、これに限定するものではない。例えば、シール部材P2の表面に吐出される過酸化水素水の吐出量をシール部材P2の表面部位により変化するように制御してもよい。収納容器Pの内部に収納されたプレフィルドシリンジSは、各部位の構造により除染に必要な過酸化水素ガスの量が異なることが考えられる。よって、プレフィルドシリンジSの各部位の構造により、除染に必要な過酸化水素水の量を適正且つ少量に制御することが好ましい。
【符号の説明】
【0050】
P…収納容器、P1…容器本体、P2…シール部材、R1…搬入装置、
R2…搬出装置、S…プレフィルドシリンジ、10…搬送コンベア、
20…吐出装置、30…加熱ヒーター、40…超音波振動盤、
41…基盤(スピーカー基盤)、42…送波器(超音波スピーカー)、
100…連続供給装置、110…前室、120…除染剤供給室、130…後室、
111…搬入口、131…搬出口、112,132…排気口、140…架台部。
【要約】
【課題】過酸化水素水の使用量を必要な範囲で軽減できるので、収納容器の内部に残留する過酸化水素の量が減少し、除染及びエアレーションの時間を大幅に短縮することが可能となり、小さな設備で大量の収納容器を連続して除染できる除染システムを提供する。
【解決手段】除染剤供給工程で使用する連続供給装置を特徴とする。この連続供給装置は、搬送手段の搬送経路に吐出手段と加熱手段と超音波放射手段とを備えている。吐出手段により収納容器のシール部材の表面に吐出された過酸化水素水は、加熱手段により昇温し、且つ、超音波放射手段から放射される超音波により過酸化水素が気化すると共に、気化した過酸化水素ガスが超音波の音響流を受けてシール部材の表面から収納容器の内部に供給される。
【選択図】図5
図1
図2
図3
図4
図5
図6