(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】グラナチシンBの多形体
(51)【国際特許分類】
C07D 493/18 20060101AFI20231002BHJP
A61K 31/352 20060101ALI20231002BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20231002BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20231002BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231002BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20231002BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231002BHJP
【FI】
C07D493/18
A61K31/352
A61K45/00
A61P31/04
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 105
(21)【出願番号】P 2017534202
(86)(22)【出願日】2015-12-22
(86)【国際出願番号】 US2015067399
(87)【国際公開番号】W WO2016106326
(87)【国際公開日】2016-06-30
【審査請求日】2018-12-21
【審判番号】
【審判請求日】2021-01-15
(32)【優先日】2014-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】399026731
【氏名又は名称】スローン - ケタリング・インスティテュート・フォー・キャンサー・リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【氏名又は名称】葛和 清司
(74)【代理人】
【識別番号】100201972
【氏名又は名称】松浦 綾子
(72)【発明者】
【氏名】クナリ,テロ
【合議体】
【審判長】阪野 誠司
【審判官】瀬良 聡機
【審判官】齋藤 恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-522212(JP,A)
【文献】Ming-Rong.Deng 外4名、Antonie van Leeuwenhoek、2011年、Vol.100、No.4、p.607~617
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAPLUS STN
REGISTRY STN
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物1:
【化1】
の結晶性形態Aであって、少なくとも以下の表:
【表1】
に記載の4個のピークをそのXRPDパターンに有することを特徴とする、前記結晶性形態A。
【請求項2】
少なくとも以下の表:
【表2】
に記載の5個のピークをそのXRPDパターンに有することを特徴とする、請求項1に記載の結晶性形態A。
【請求項3】
図3または
図4に示すものと実質的に同様のDSCエンドサーモグラムを特徴とする、請求項1
または2に記載の結晶性形態A。
【請求項4】
約190℃のピーク温度(T
max)を有するDSCエンドサーモグラムを特徴とする、請求項1~
3のいずれか一項に記載の結晶性形態A。
【請求項5】
約140℃~約250℃の範囲に相転移を有するDSCエンドサーモグラムを特徴とする、請求項1~
4のいずれか一項に記載の結晶性形態A。
【請求項6】
図5または
図6に示すものと実質的に同様の熱重量スペクトルを特徴とする、請求項1~
5のいずれか一項に記載の結晶性形態A。
【請求項7】
図7または
図8に示すものと実質的に同様のNMRスペクトルを特徴とする、請求項1~
6のいずれか一項に記載の結晶性形態A。
【請求項8】
結晶性形態Aが、水和物ではない;任意に、約0.01wt%~約5.0wt%の水が存在する、請求項1~
7のいずれか一項に記載の結晶性形態A。
【請求項9】
結晶性形態Aが、非晶質の化合物1を実質的に含まない;任意に、約0.01wt%~約10wt%の非晶質の化合物1が存在する、請求項1~
8のいずれか一項に記載の結晶性形態A。
【請求項10】
結晶性形態Aが、不純物を実質的に含まない、請求項1~
9のいずれか一項に記載の結晶性形態A。
【請求項11】
化合物1を、クロロホルムおよびメタノールから結晶化することを含む;任意に、クロロホルムが、水を含まない、請求項1~
10のいずれか一項に記載の結晶性形態Aを調製する方法。
【請求項12】
化合物1をメタノールおよびアセトンと混合して、混合物を生成することを含む;任意に、塩酸塩水溶液を加えて混合物を酸性化することをさらに含む、請求項1~
10のいずれか一項に記載の結晶性形態Aを調製する方法。
【請求項13】
請求項1~
10のいずれか一項に記載の結晶性形態Aおよび任意に薬学的に許容し得る賦形剤を含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2014年12月23日に出願された米国仮特許出願U.S.S.N. 62/095,850(これは参照により本明細書に組み込まれる)に対し、35 U.S.C. § 119(e)の下で優先権を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
グラナチシンは、Streptomyces violaceoruberによって二次代謝産物として産生される、ポリケチド由来の抗生物質である(James et al., J Gen Microbiol. 1989, 135(7), 1997-2003)。グラナチシンは、ベンゾイソクロマンキノンである(BIQ;Keller-Schierlein et al. Helv. Chim. Acta, 1968, 51, 1257-1268)。グラナチシンの化学修飾は、グリコシル化または二量体化のいずれかにより、C-C結合形成を介してC-10で行われている(Hopwood, Chem Rev. 1997, 97, 2465-2497;Floss et al., J Nat Prod. 1986, 49, 951;Toral-Barza et al, Mol. Cancer Ther. 2007, 6, 3028-3038;Salaski et al., J. Med. Chem. 2009, 23, 2181-2184)。追加の化学修飾または酵素修飾を8,11-エタノフロ[2,3-e]ナフト[2,3-c:6,7-c’]ジピラン-2,6,13(9H)-トリオンに対して行うことができ、グラナチシンAのうち、3-メチル-2-オキサビシクロ[2.2.2]オクタ-5-エン-4,8-ジオール基からの、3,3a,5,8,11,13b-ヘキサヒドロ-7,8,12,15-テトラヒドロキシ-5,9-ジメチル-、(3aS,5S,8S,9R,11R,13bS,15R)によって(例として炭水化物部分をカップリングする)、グラナチシンB(
図10の化合物1、MSK-777とも呼ばれる)が提供される。
【0003】
グラナチシンの抗細菌活性に加えて、Frattiniらは、グラナチシンがタンパク質キナーゼ経路を阻害することを見出した(Change et al., Antibiot. 1975, 28, 156;PCT出願公報WO 2011/112635)。特に、グラナチシンはCdcキナーゼ活性を阻害することが見出されたが、これは、300,000個を超える化合物の、セリン残基およびトレオニン残基をリン酸化するキナーゼ(Cdc7)およびアクチベーター(Dbf4)の四量体を阻害するというそれらの能力についての、ハイスループットスクリーニング(HTS)から同定されたヒットに基づく(WO 2011/112635)。
【0004】
グラナチシンBは、Streptomyces lateritiusまたはStreptomyces violaceoruberの培養濾過物を単離することから調製された(Elson et al., J. Antibiotic, 1988, 41(4), 570-572;U.S. Patent No. 3836642;Barcza et al., Helv. Chim. Acta, 1966, 4996), 1736-1740)。グラナチシンBを調製する現在のプロセスは、発酵からの天然産物を精製するための、下流のまたは化学的単位操作を伴う(Keller-Schierlein, Helv. Chim. Acta., 1968, 51, 1257-1268;Gilpin, J. Antibiot.,1988, 41(4), 570-572)。このプロセスは、抽出およびクロマトグラフィーを含む複数の工程を伴う。収率は望ましいものではなく、所望される生成物の分解が観察されている。したがって、臨床および研究目的でのグラナチシンB生産のための、実行可能な大規模プロセスを開発する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0005】
本発明の概要
グラナチシンB(化合物1)の多形体が発見され、形態Aと名付けられた。本発明は、疾患の処置および研究に有用な、形態Aだけでなくその組成物も提供する。ある態様において、形態Aおよびその医薬組成物は、細菌感染症および/または増殖性疾患(例として、がん)を処置および/または予防するのに有用である。形態Aは、化合物1の安定な結晶形態である。形態Aは、粉末X線回折、示差走査熱量測定、および熱重量測定フーリエ変換赤外線サーモグラムを含むがこれらに限定されない、本明細書に記載の様々な技術によって特徴付けられる。
【0006】
また本明細書に提供されるのは、化合物1の形態Aおよび任意に薬学的に許容し得る賦形剤を含む、医薬組成物である。
【0007】
本発明はまた、形態Aまたはその医薬組成物を使用して、増殖性疾患(例として、がん)または細菌感染を処置する方法も提供する。
【0008】
また本明細書に提供されるのは、化合物1の結晶性形態Aを調製する方法である。ある態様において、方法は、クロロホルム/メタノールまたはメタノール/アセトンからの蒸発結晶化を伴う。提供される方法は、化合物1の結晶性形態Aを大規模に(例えば、50グラムを超えて)調製するのに有用であり、なぜなら、伝統的な発酵プロセスは、通常の研究室で取り扱うには大量過ぎる(例えば、100Lを超える)からである。
【0009】
定義
用語「多形体」は、特定の結晶充填配置における、化合物(例として化合物1)またはその水和物もしくは溶媒和物の、結晶形態を指す。特定の化合物のすべての多形体は、同じ元素組成を有する。本明細書で使用する用語「結晶」は、構造単位の規則的な配置からなる固体状態の形態を指す。同じ化合物またはその水和物もしくは溶媒和物の異なる結晶形態は、固体状態の分子の異なる充填に起因し、異なる結晶対称性および/または単位細胞パラメータをもたらす。異なる結晶形態は通常、異なるX線回折パターン、赤外スペクトル、融点、密度、硬度、結晶形状、光学的および電気的特性、安定性、および/または溶解性を有する。再結晶化溶媒、結晶化の速度、貯蔵温度、および他の因子により、1つの結晶形態が、特定の調製物において優位を占めるようになり得る。化合物またはその水和物もしくは溶媒和物の様々な多形体は、異なる条件下での結晶化によって、調製することができる。
【0010】
用語「溶媒和物」は、通常はソルボリシス反応により溶媒に結合した化合物(例として化合物1)の形態を指す。この物理的結合は、水素結合を含み得る。従来の溶媒には、水、メタノール、エタノール、酢酸、DMSO、THF、ジエチルエーテルなどが含まれる。ある態様において、溶媒和物は、クラス3の溶媒を使用して形成される。溶媒のカテゴリーは、例えばInternational Conference on Harmonization of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use(ICH)の「Impurities: Guidelines for Residual Solvents, Q3C(R3)」(2005年11月)に定義されている。化合物は、例えば結晶形態で調製されてもよく、溶媒和されていてもよい。好適な溶媒和物は、薬学的に許容し得る溶媒和物を含み、さらに、化学量論溶媒和物および非化学量論溶媒和物の両方を含む。ある場合において、例えば1つ以上の溶媒分子が結晶固体の結晶格子中に組み込まれる場合に、溶媒和物は単離できる。
【0011】
用語「水和物」は、水と結合した化合物(例として化合物1)を指す。典型的には、化合物の水和物中に含有される水分子数は、水和物中の化合物分子数に対して一定の比率にある。水和物は、化学量論水和物および非化学量論水和物の両方を含む。したがって、化合物の水和物は、例えば一般的式R・xH2O(式中Rは、有機化合物であり、xは、0より大きな数である)によって表されてもよい。所与の化合物は1種類よりも多くの水和物を形成し得て、例えば、一水和物(化学量論的、xは1である)、低級水和物(非化学量論的、xは0より大きく1より小さい数であり、例えばヘミ水和物(R・0.5H2O))、および多水和物(非化学量論的、xは1よりも大きい数であり、例えば二水和物(R・2H2O)および六水和物(R・6H2O))を含む。
【0012】
同じ分子式を有するが、それらの原子の結合の性質もしくは順序、またはそれらの原子の空間における配置が異なる化合物は、「異性体」と称されることもまた理解されるべきである。
【0013】
本明細書で使用する用語「不純物」は、化合物または組成物(例として化合物1の形態A)に含まれる異物を指す。異物としては、関心のある化合物とは異なる、1種以上の物質を含む。ある態様において、異物は、望ましくない異物である。例えば、無水化合物が望ましい場合、化合物に含まれる溶媒(例として水)は、不純物と考えられる。結晶性化合物が望ましい場合、化合物に含まれる化合物の非晶質形態は、不純物と考えられる。化合物のある多形体が望ましい場合、化合物に含まれる化合物の異なる多形体は、不純物と考えられる。用語「実質的に不純物を含まない」とは、化合物(例として化合物1の形態A)が、有意な量の異物(例として望ましくない異物)を含有しないことを意味する。ある態様において、組成物中の約1wt%、約2wt%、約3wt%、約5wt%、約7wt%、または約10wt%の異物は、有意な量の異物である。
【0014】
投与が企図される「対象」は、ヒト(すなわち、任意の年齢群の男性または女性、例えば、小児対象(例えば、乳児、小児、青年)または成人対象(例えば、若年成人、中年成人、または高齢成人))および/または他の非ヒト動物、例えば哺乳類(例えば霊長類(例えばカニクイザル、アカゲザル)、商業的に関わる哺乳類、例えばウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、および/またはイヌ)および鳥類(例えば、商業的に関わる鳥類、例えばニワトリ、アヒル(duck)、ガチョウ、および/またはシチメンチョウ)を含むが、これに限定されない。ある態様において、動物は哺乳類である。ある態様において、対象は非ヒト動物である。ある態様において、動物はヒトである。
【0015】
本明細書で使用する用語「投与する」、「投与すること」、または「投与」は、化合物(例えば、化合物1の形態A)またはその医薬組成物を、対象中にまたはその上に移植する、吸収させる、摂取させる、注射する、吸入する、またはその他で導入することを指す。本発明の化合物を、1つ以上の他の活性剤と組み合わせて提供する場合、「投与」およびその変形はそれぞれ、化合物および他の活性剤の、同時および/または逐次の導入を含むものと理解される。
【0016】
本明細書で使用する場合、用語「状態」、「疾患」、および「障害」は、互換的に使用される。
【0017】
本明細書において、別段の指定がない限り、用語「処置する」、「処置すること」および「処置」は、対象が特定の疾患、障害または状態に罹患している間に生じる作用を企図し、これは、疾患、障害もしくは状態の重篤度を低減し、または、疾患、障害もしくは状態の進行を遅延もしくは遅らせ(「治療的処置」)、さらにまた、対象が特定の疾患、障害または状態に罹患する前に生じる作用も企図する(「予防的処置」)。
【0018】
例えば、ある態様において、用語「処置」、「処置する」、および「処置すること」は、対象における「病理学的状態」(例えば、疾患、障害または状態、またはその1以上の徴候もしくは症状)を逆転させ、緩和し、発症を遅延させ、または進行を阻害するために、医薬(例えば、化合物1の形態Aまたはその医薬組成物)を投与することを指す。いくつかの態様において、処置は、1つ以上の徴候または症状が発現した後または観察された後に、適用されてもよい。他の態様において、処置は、疾患または状態の徴候または症状の非存在下で、適用されてもよい。例えば、処置は、症状の発症前に感受性個体に適用してもよい。処置はまた、例えば再発を遅らせるまたは予防するために、症状が改善した後も続けてよい。
【0019】
本明細書で使用する用語「予防」、「予防する」、および「予防すること」は、対象における疾患または障害の1つ以上の症状が現れるのを回避または予防するために、医薬(例えば、化合物1の形態Aまたはその医薬組成物)を投与することを指す。医学分野の当業者であれば、用語「予防」、「予防する」および「予防すること」は、絶対的な用語ではないことを認識する。医学分野においてこれらの用語は、状態または状態の症状の可能性または重症度を実質的に減少させるための、医薬の予防的投与を指すことが理解され、これは本開示で意図される意味である。
【0020】
本明細書に記載の化合物の「有効量」は、所望の生物学的応答、例えば状態を処置または予防すること、を惹起するのに十分な量を指す。当業者が理解するように、本明細書に記載の化合物の有効量は、所望の生物学的エンドポイント、化合物の薬物動態、処置されている状態、投与のモード、ならびに対象の年齢および健康などの因子に依存して変わり得る。有効量は、治療的および予防的処置を包含する。例えば、がんまたは細菌感染の処置において、化合物の有効量は、がんもしくは細菌感染の処置および/または予防において治療的および/または予防的ベネフィットを提供し、またはがんもしくは細菌感染症に関連する1つ以上の症状を遅延または最小化することができる。
【0021】
本明細書に記載の化合物の「治療有効量」は、状態(例えば、がんまたは細菌感染)の処置において治療ベネフィットを提供する、または状態に関連する1つ以上の症状を遅延もしくは最小化するのに、十分な量である。化合物の治療有効量は、単独でまたは他の療法と組み合わせて、状態の処置において治療ベネフィットを提供する治療剤の量を意味する。用語「治療有効量」は、総合的な治療法を改善する、状態の症状もしくは原因を低減する、または別の治療剤の治療有効性を増強する量を、包含し得る。
【0022】
本明細書に記載の化合物の「予防有効量」は、状態(例えば、がんまたは細菌感染)または状態と関連する1つ以上の症状を予防するか、あるいはその再発を予防するのに、十分な量である。化合物の予防有効量は、単独でまたは他の剤と組み合わせて、状態の予防の点で予防ベネフィットを提供する治療剤の量を意味する。用語「予防有効量」は、総合的な予防法を改善するかまたは別の予防剤の予防有効性を増強する量を、包含し得る。
【0023】
本発明の1つ以上の態様の詳細を、本明細書に記載する。本発明の他の特徴、目的および利点は、詳細な説明、図面、実施例、および請求項から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、化合物1の形態Aの粉末X線回折(XRPD)パターンを示す。
【0025】
【
図2】
図2は、別のバッチからの形態Aの別のXRPDパターンを示す。
【0026】
【
図3】
図3は、形態Aの示差走査熱量測定(DSC)サーモグラムを示す。
【0027】
【
図4】
図4は、別のバッチからの形態AのDSCサーモグラムを示す。
【0028】
【
図5】
図5は、形態Aの熱重量(TG)サーモグラムを示す。
【0029】
【
図6】
図6は、別のバッチからの形態AのTGサーモグラムを示す。
【0030】
【
図7-1】
図7は、形態Aの固体交差分極マジックアングルスピニング炭素-13核磁気共鳴(
13C CP/MAS-NMR)スペクトルを示す。
【
図7-2】
図7は、形態Aの固体交差分極マジックアングルスピニング炭素-13核磁気共鳴(
13C CP/MAS-NMR)スペクトルを示す。
【0031】
【
図8-1】
図8は、別のバッチからの形態Aの
13C CP/MAS-NMRスペクトルを示す。
【
図8-2】
図8は、別のバッチからの形態Aの
13C CP/MAS-NMRスペクトルを示す。
【0032】
【
図9】
図9は、化合物1の形態A(すなわち、MSK-777)を生産するための例示的なプロセスを示す。
【0033】
【
図10】
図10は、化合物1(MSK-777、グラナチシンB)および化合物2(グラナチシンA)の構造(平面および立体化学的描写)を示す。
【0034】
【
図11】
図11は、化合物1の発酵からの樹脂抽出物の典型的なHPLCプロファイルを示す(例1参照)。
【0035】
【
図12-1】
図12Aは、第1バッチから調製された形態Aの生XRDデータを示す。
【
図12-2】
図12Bは、第1バッチから調製された形態Aの生XRDデータを示す。
【0036】
【
図13-1】
図13Aは、第2バッチから調製された形態Aの生XRDデータを示す。
【
図13-2】
図13Bは、第2バッチから調製された形態Aの生XRDデータを示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
特定の態様の詳細な説明
グラナチシンB(化合物1)は、Streptomyces violaceoruberによって産生される二次代謝産物の抗生物質である。化合物1は、細菌感染および増殖性疾患を含む様々な疾患の処置に、重要な可能性を示している。(例えば、WO 2011/112635を参照)。
【化1】
【0038】
固体形態
化合物1の結晶性多形体は、非晶質の化合物1と比較して、安定性および/または配合の容易さなどの改善された物理的特性を付与し、望ましい。したがって本明細書では、化合物1の結晶形態(形態Aと表示)が提供される。
【0039】
化合物1の結晶性形態Aは、非晶質化合物1よりも安定であることが見出された。非晶質化合物1は、グラナチシンBの伝統的な精製プロセスの間、安定性が低く、分解しやすい。いくつかの態様において、化合物1の結晶性形態Aは、非晶質化合物1と比較して、改善された溶解度(例えば、より高い溶解速度)を示す。
【0040】
いくつかの態様において、形態Aは、約0.01wt%~約5.0wt%の含水量を有する。いくつかの態様において、形態Aは、約2.0wt%の含水量を有する。形態Aは、実質的に非吸湿性である。
【0041】
いくつかの態様において、形態Aは、実質的に不純物を含まない。本明細書で使用する場合、不純物としては、限定はされないが、残留溶媒、塩、またはグラナチシンBの他の形態などの任意の異物を含む。いくつかの態様において、形態Aは、99%不純物非含有である。いくつかの態様において、形態Aは、97%不純物非含有である。いくつかの態様において、形態Aは、95%不純物非含有である。いくつかの態様において、形態Aは、92%不純物非含有である。いくつかの態様において、形態Aは、90%不純物非含有である。いくつかの態様において、不純物としては、塩形成性酸、残留溶媒、または化合物1の調製および/または単離に起因し得る任意の他の不純物などの、異物を含む。いくつかの態様において、形態Aは、非晶質化合物1を実質的に含まない。いくつかの態様において、形態Aは、化合物1の他の結晶形態を実質的に含まない。いくつかの態様において、形態Aは、化合物1の塩を実質的に含まない。いくつかの態様において、形態Aは、化合物1の溶媒和物を実質的に含まない。
【0042】
化合物の異なる固体形態は、典型的には、固体形態における分子の配置(例えば、結晶格子中の分子の配置)に基づいて、その物理的および化学的特性が異なる。所与の物質は、種々の固体形態を、特に種々の結晶形態を生じ得て、各形態は、異なる物理的および化学的特性、例えば異なる溶解プロファイル、熱力学的および化学的安定性、融点および/またはX線回折ピークを有する。
【0043】
結晶性形態Aは、本明細書に記載の特性の1つ以上によって特徴付けることができ、これには、限定はされないが、XRPD回折パターンおよび/またはピーク、DSCサーモグラム、TG-FTIRサーモグラム、および/またはNMRピーク、外観、融点、溶解度、および安定性が含まれる。ある態様において、結晶性形態Aは、XRPD回折パターンおよび/またはピークによって特徴付けられる。ある態様において、結晶性形態Aは、XRPD回折パターンおよび/またはピーク、および本明細書に記載の少なくとも1つの他の技術(例えば、DSCサーモグラム、DVS等温線、またはTG-FTIRサーモグラム)によって特徴付けられる。
【0044】
いくつかの態様において、結晶性形態Aは、
図1に示されるものと実質的に同様の粉末X線回折パターンを特徴とする。いくつかの態様において、結晶性形態Aは、
図2に示されるものと実質的に同様の粉末X線回折パターンを特徴とする
。
【0047】
いくつかの態様において、結晶性形態Aは、
図3に示すものと実質的に同様のDSCサーモグラムを有する。いくつかの態様において、結晶性形態Aは、
図4に示すものと実質的に同様のDSCサーモグラムを有する。いくつかの態様において、結晶性形態Aは、約190±0.2℃のピーク温度(T
max)を有する吸熱を伴うDSCサーモグラムを有することを特徴とする。いくつかの態様において、結晶性形態Aは、約140℃~約250℃の範囲の相転移を伴うDSC吸熱写真(endothermogram)を特徴とする。いくつかの態様において、結晶性形態Aは、約155℃~約225℃の範囲の相転移を伴うDSC吸熱写真を特徴とする。
【0048】
いくつかの態様において、結晶性形態Aは、
図5に示されるものと実質的に同様のTG-FTIRサーモグラムを有する。いくつかの態様において、結晶性形態Aは、
図6に示されるものと実質的に同様のTG-FTIRサーモグラムを有する。いくつかの態様において、結晶性形態Aは、結晶性形態Aの温度が0℃から約150℃まで上昇した後、約2.0wt%のH
2Oを失うことを特徴とする。この質量減少は、結晶からの水および残留溶媒の蒸発に関連する。融点未満の段階的な質量減少がないため、水和物の徴候は見られない。
【0049】
いくつかの態様において、結晶性形態Aは、約190±0.2℃の観測分解点を有する。
【0050】
いくつかの態様において、結晶性形態Aは、約25℃および約60%の相対湿度で、少なくとも約1ヶ月、少なくとも約2ヶ月、少なくとも約4ヶ月、少なくとも約6ヶ月、少なくとも約12ヶ月、少なくとも約18ヶ月、少なくとも約24ヶ月、または少なくとも約3年間、安定である。いくつかの態様において、結晶性形態Aは、実質的に同じ貯蔵後XRPDパターンを、約25℃および約60%の相対湿度で少なくとも約1ヶ月、少なくとも約2ヶ月、少なくとも約4ヶ月、少なくとも約6ヶ月、少なくとも約12ヶ月、少なくとも約18ヶ月、少なくとも約24ヶ月、または少なくとも約3年の間、有する。
【0051】
いくつかの態様において、結晶性形態Aは、約40℃および約75%の相対湿度で、少なくとも約1ヶ月、少なくとも約2ヶ月、少なくとも約4ヶ月、少なくとも約6ヶ月、少なくとも約8ヶ月、少なくとも約10ヶ月、少なくとも約12ヶ月、少なくとも約18ヶ月、または少なくとも約24ヶ月、安定である。いくつかの態様において、結晶性形態Aは、実質的に同じ貯蔵後XRPDパターンを、約40℃および約75%の相対湿度で、少なくとも約1ヶ月、少なくとも約2ヶ月、少なくとも約4ヶ月、少なくとも約6ヶ月、少なくとも約8ヶ月、少なくとも約10ヶ月、少なくとも約12ヶ月、少なくとも約18ヶ月、または少なくとも約24ヶ月の間、有する。
【0052】
医薬組成物
いくつかの態様において、本発明は、本明細書に記載の化合物1の結晶性形態Aおよび任意に薬学的に許容し得る賦形剤を含む、組成物を提供する。ある態様において、医薬組成物は、本明細書に記載の疾患、障害または状態を処置するために有用である。いくつかの態様において、疾患は細菌感染症である。いくつかの態様において、疾患は増殖性疾患である。いくつかの態様において、提供される組成物は、かかる組成物を必要とする対象への投与のために製剤化される。ある態様において、提供される組成物は、対象への経口投与のために製剤化される。ある態様において、提供される組成物は、経口剤形に製剤化される。ある態様において、提供される組成物は、対象による経口摂取のために、錠剤、粉末、丸薬、カプセルなどに製剤化される。
【0053】
適切な技術、担体、および賦形剤としては、例えばRemington: The Science and Practice of Pharmacy, 19th edition, Mack Publishing Company, Easton, PA 1995;Hoover, John E., Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, PA 1975;Liberman, H.A. and Lachman, L., Eds., Pharmaceutical Dosage Forms, Marcel Decker, New York, NY 1980;およびPharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems, 7th edition, Lippincott Williams & Wilkins, 1999などに見出されるものが含まれ、これらの全ては、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0054】
一般に、ヒト成人の処置に使用される、提供される医薬組成物の用量は、典型的には、約0.01mg~約5000mg/日の範囲である。ある態様において、ヒト成人の処置に用いられる用量は、約1mg~約1000mg/日である。ある態様において、所望の用量は、単回用量で、または同時に(または短期間にわたって)もしくは適切な間隔で、例えば1日あたり2、3、4またはそれ以上の副用量として投与される分割用量で、便利に提供される。
【0055】
任意の特定の対象のための特定の投与量および処置レジメンは、使用される特定の化合物の活性、年齢、体重、全般的健康、性別、食事、投与時間、排泄速度、薬物の組み合わせ、および処置する医師の判断および処置される特定の疾患の重篤度を含む、様々な要因に依存し得ることが理解されるであろう。組成物中に提供される化合物の量はまた、組成物中の特定の化合物にも依存し得る。
【0056】
形態Aの調製方法
本発明はまた、本明細書に記載の化合物1の結晶性形態Aを調製する方法も提供する。ある態様において、方法は、蒸発結晶化を含む。ある態様において、方法は、化合物1をクロロホルムおよびメタノールと混合して混合物を提供することを含む。ある態様において、クロロホルムは水を含まない。ある態様において、化合物1、クロロホルムおよびメタノールの溶液は、実質的に均質である。ある態様において、化合物1、クロロホルムおよびメタノールの溶液は、実質的に固体材料を含まない。いくつかの態様において、化合物1を最初にクロロホルム(100%)に溶解して、溶液を得る。次いでメタノールを溶液に添加し、クロロホルムを蒸発により混合物から徐々に除去する。蒸発プロセスの間、メタノールを溶液に徐々に添加する。最終的に結晶化溶液は、ほぼ100%のメタノールを含有する。
【0057】
他の態様において、本明細書に記載の化合物1の結晶性形態Aを調製する方法は、化合物1をメタノールおよびアセトンと混合して、混合物を生成することを含む。いくつかの態様において、この方法はさらに、塩酸塩水溶液を添加して、混合物を酸性化することを含む。いくつかの態様において、酸性化混合物は、約65vol%の水分率を有する。いくつかの態様において、化合物1の濃度は、約3~6g/Lである。いくつかの態様において、化合物1の濃度は、約4~5g/Lである。ある態様において、化合物1、メタノールおよびアセトンの混合物は、実質的に均質である。ある態様において、化合物1、メタノールおよびアセトンの混合物は、固体材料を実質的に含まない。いくつかの態様において、化合物1をアセトン(100%)に溶解して、溶液を得る。次いで、メタノールを溶液に添加し、アセトンを蒸発により混合物から徐々に除去する。蒸発プロセスの間にメタノールを溶液に徐々に加えて、目標濃度を達成する。最終的に結晶化混合物は、ほぼ100%のメタノールを含有する。
【0058】
ある態様において、化合物1の結晶性形態Aを調製する方法はさらに、混合物の温度を下げて、固体を提供することを含む。結晶性形態Aをクロロホルムおよびメタノールから調製する工程は、任意の適切な温度、例えば約-30℃~約65℃の適切な温度で行うことができる。他の範囲も可能である。ある態様において、適切な温度は、約0℃~約30℃である。ある態様において、適切な温度は、約15℃~約25℃である。ある態様において、適切な温度は、約0℃である。ある態様において、適切な温度は、約23℃(室温)である。
【0059】
結晶性形態Aをメタノールおよびアセトンから調製する工程は、任意の適切な温度、例えば、約-30℃~約65℃の適切な温度で行うことができる。他の範囲も可能である。ある態様において、適切な温度は、約0℃~約30℃である。ある態様において、適切な温度は、約0℃である。ある態様において、適切な温度は、約4℃である。ある態様において、適切な温度は、約23℃(室温)である。ある態様において、結晶性形態Aをメタノールおよびアセトンから調製する工程は、ある温度で、続いてより低い温度で、続いてさらに低い温度で実施することができる。ある態様において、結晶性形態Aをメタノールおよびアセトンから調製する方法は、酸性化した混合物を、約23℃(室温)、続いて約4℃、続いて約0℃で撹拌することを含む。
【0060】
ある態様において、化合物1の結晶性形態Aを調製する方法は、固体形態を混合物から単離することをさらに含む。
【0061】
結晶性形態Aの調製に有用な化合物1は、実質的に不純物を含まなくてもよい。ある態様において、結晶性形態Aの調製に有用な化合物1は、約90%不純物非含有である。ある態様において、結晶性形態Aの調製に有用な化合物1は、約92%不純物非含有である。ある態様において、結晶性形態Aの調製に有用な化合物1は、約95%不純物非含有である。ある態様において、結晶性形態Aの調製に有用な化合物1は、約97%不純物非含有である。ある態様において、結晶性形態Aの調製に有用な化合物1は、約99%不純物非含有である。ある態様において、結晶性形態Aの調製に有用な化合物1は、約99.5%不純物非含有である。ある態様において、結晶性形態Aの調製に有用な化合物1は、ラクトン環開環生成物を不純物として含む。
【0062】
化合物1は、化合物1、クロロホルムおよびメタノールの溶液中に、化合物1の溶解度が許す限り、任意の適切な濃度(例えば、約0.003kg/L、約0.01kg/L、約0.02kg/L、約0.03kg/L、約0.04kg/L、約0.05kg/L、約0.06kg/L、約0.08kg/L、約0.1kg/L、約0.2kg/L、約0.5kg/L、または約1kg/L)で存在することができる。ある態様において、化合物1とメタノールの溶液中の化合物1の濃度は、約10~100g/Lである。
【0063】
本発明の方法の混合物が固体を含む場合、固体は混合物から、濾過および/または遠心分離などの当技術分野で知られている方法によって単離され得る。混合物から単離された固体は、任意に、本明細書に記載されるような減圧および/または適切な温度に供され得る。ある態様において、混合物中の固体は、結晶性形態Aを含む。ある態様において、混合物中の固体は、実質的に不純物を含まない結晶性形態Aを含む。ある態様において、混合物から単離された固体は、結晶性形態Aを含む。ある態様において、混合物から単離された固体は、実質的に不純物を含まない結晶性形態Aを含む。ある態様において、混合物から単離された結晶性形態Aは、重量で少なくとも99%、少なくとも99.2%、少なくとも99.4%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、少なくとも99.9%、少なくとも99.95%、少なくとも99.99%、少なくとも99.995%、または少なくとも99.999%の、結晶性形態Aを含む。
【0064】
ある態様において、混合物の温度が低下される前に、混合物は実質的に固体材料を含まない。ある態様において、混合物は、その温度が低下された後に、不均一である。ある態様において、混合物は、混合物の温度が低下された後に、固体を含む。ある態様において、混合物は、混合物の温度が低下された後に、固体および液体を含む。
適切な条件はまた、本発明の方法の1以上の工程が実行される、適切な圧力を含んでよい。ある態様において、適切な圧力は約1気圧である。適切な圧力はまた、1気圧(すなわち、減圧)よりも高くても低くてもよい。減圧は、約10-1気圧未満、約10-2気圧未満、約10-3気圧未満、約10-4気圧未満、約10-5気圧未満、約10-6気圧未満、約10-7気圧未満、約10-8気圧未満、約10-9気圧未満、約10-10気圧未満、または約10-11気圧未満の気圧であってよい。
適切な条件はまた、本発明の方法の1以上の工程が実行される、適切な雰囲気を含んでよい。ある態様において、適切な雰囲気は、空気である。ある態様において、適切な雰囲気は、不活性雰囲気である。ある態様において、適切な雰囲気は、窒素またはアルゴン雰囲気である。
【0065】
適切な条件はまた、方法の1以上の工程が持続される、適切な持続時間を含んでよい。ある態様において、適切な持続時間は、分(例えば、約30分)、時間(例えば、約1時間、約2時間、約3時間、約6時間、または約12時間)、日(約1日または約2日)、または週間(例えば、約1週間)のオーダーである。例えば、混合物の温度を低下させる工程において、混合物の温度は、本明細書に記載される適切な時間にわたって低下され得る。
【0066】
処置方法
本発明は、本明細書に記載の化合物1の結晶性形態Aの有効量を、処置を必要とする対象に投与することを含む、迅速に分裂する細胞の増殖を阻害するまたは死滅させるために有用な、化合物および医薬組成物を提供する。いくつかの態様において、化合物1の結晶性形態Aはまた、がん、自己免疫疾患、炎症性疾患、および糖尿病性網膜症などの、異常な細胞増殖に関連する疾患、障害、または状態の処置を意図する。
【0067】
一側面において、本発明の化合物1の結晶性形態Aの有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、増殖性疾患を処置する方法が提供される。
【0068】
したがって、一側面において、本発明の化合物1の結晶性形態Aの有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、がんを処置する方法が提供される。
【0069】
別の側面において、本発明の化合物1の結晶性形態Aの有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、自己免疫疾患を処置する方法が提供される。
【0070】
さらに別の側面において、本発明の化合物1の結晶性形態Aを、それを必要とする対象に投与することを含む、炎症性疾患を処置する方法が提供される。
【0071】
「増殖性疾患」は、細胞の増加による異常な成長または進展が原因で生起する疾患を指す(Walker, Cambridge Dictionary of Biology; Cambridge University Press: Cambridge, UK, 1990)。増殖性疾患は、1)正常には静止期の細胞の病的な増殖;2)それらの正常な所在からの細胞の病的な移動(例えば、新生細胞の転移);3)マトリックスメタロプロテイナーゼなどの蛋白質分解酵素(例えば、コラゲナーゼ、ゼラチナーゼ、およびエラスターゼ)の病的な発現;または4)増殖性網膜症および腫瘍転移におけるような病的な血管新生と、関連し得る。例示的な増殖性疾患は、がん(すなわち「悪性新生物」)、良性新生物、血管新生、炎症性疾患、および自己免疫疾患を含む。
【0072】
用語「血管新生」は、新たな血管が既存の管から形成される生理的プロセスを指す。血管新生は、中胚葉細胞前駆体からの内皮細胞のde novo形成である血管発生とは別物である。発生している胚中の最初の管は血管発生によって形成され、その後は血管新生が正常または異常な発生中の大部分の血管成長を担う。血管新生は、成長および発生、さらには創傷治癒および肉芽組織の形成における不可欠なプロセスである。しかしながら、血管新生はまた、良性の状態から悪性のものへの腫瘍の移行の根本的なステップでもあり、がんの処置における血管新生阻害剤の使用に至る。血管新生は、成長因子(例えばVEGF)などの血管新生蛋白質によって化学的に刺激され得る。「病的な血管新生」は、疾患に帰結するおよび/または疾患と関連する異常な(例えば、過剰なまたは不十分な)血管新生を指す。
【0073】
用語「新生物」および「腫瘍」は本明細書において交換可能に用いられ、組織の異常な集塊を指し、集塊の成長は正常な組織の成長を上回り、正常な組織の成長と調和しない。新生物または腫瘍は以下の特徴に依存して「良性」または「悪性」であり得る:細胞分化の程度(形および機能性を含む)、成長の速度、局所浸潤、および転移。「良性新生物」は一般的に良く分化しており、悪性新生物よりも特徴的に低速の成長を有し、元部位に局在したままである。加えて、良性新生物は浸潤、侵襲、または遠隔部位に転移する素質を有しない。例示的な良性新生物は、脂肪腫、軟骨腫、アデノーマ、アクロコルドン、老人性血管腫、脂漏性角化症、黒子、および脂腺増殖症を含むが、これらに限定されない。いくつかのケースにおいて、ある「良性」腫瘍は後に悪性新生物を生じさせ得、これは腫瘍の新生物性細胞の部分集団中の追加の遺伝子変化からもたらされ得、これらの腫瘍は「前悪性新生物」と言われる。例示的な前悪性新生物は、テラトーマである。対照的に、「悪性新生物」は一般的に不良に分化しており(退形成)、進行性の浸潤、侵襲、および周辺組織の破壊を伴う特徴的に急速な成長を有する。なおその上に、悪性新生物は遠隔部位に転移する素質を一般的に有する。用語「転移」、「転移性」、または「転移する」は、原発性のまたは元の腫瘍から別の臓器または組織へのがん細胞の拡散または遊走を指し、典型的には、二次性(転移)腫瘍が存在する臓器または組織のものではなく、原発性のまたは元の腫瘍の組織型の「二次性腫瘍」または「二次性細胞集塊」の存在によって同定可能である。例えば、骨に遊走した前立腺がんは転移前立腺がんと言われ、骨組織中で増殖するがん性の前立腺がん細胞を包含する。
【0074】
用語「がん」は、制御不能に増殖しかつ正常生体組織に浸潤して破壊する能力を有する、異常細胞の発生によって特徴付けられる疾患の類を指す。例えば、Stedman’s Medical Dictionary, 25th ed.; Hensyl ed.; Williams & Wilkins:Philadelphia, 1990を参照。例示のがんとしては、これらに限定はされないが、以下が挙げられる:聴神経腫;腺癌;副腎のがん;肛門がん;血管肉腫(例えば、リンパ管肉腫、リンパ管内皮性肉腫、血管肉腫);虫垂がん;良性単一クローン性免疫グロブリン血症;胆管がん(例えば、胆管癌);膀胱がん;乳房のがん(breast cancer)(例えば、乳房の腺癌、乳房の乳頭癌、乳がん(mammary cancer)、乳房の髄様癌);脳がん(例えば、髄膜腫、神経膠芽腫、神経膠腫(例えば、星状細胞腫、乏突起神経膠腫)、髄芽腫);気管支がん;カルチノイド腫瘍;子宮頚がん(例えば、子宮頸部腺癌);絨毛癌;脊索腫;頭蓋咽頭腫;結腸直腸がん(例えば、結腸がん、直腸がん、結腸直腸腺癌);結合組織のがん;上皮癌;上衣腫;内皮性肉腫(例えば、カポジ肉腫、多発性特発性出血性肉腫);子宮内膜がん(例えば、子宮がん、子宮肉腫);食道がん(例えば、食道の腺癌、バレット腺癌);ユーイング肉腫;眼のがん(例えば、眼内黒色腫、網膜芽細胞腫);家族性過好酸球増加症;胆嚢がん;胃がん(例えば、胃腺癌);消化管間質腫瘍(GIST);胚細胞がん;頭頸部がん(例えば、頭頸部扁平上皮癌、口腔がん(例えば、口腔扁平上皮癌)、咽喉がん(例えば、喉頭がん、咽頭がん、鼻咽頭がん、口腔咽頭がん));造血がん(以下のものなどの白血病:急性リンパ芽球性白血病(ALL)(例えばB細胞ALL、T細胞ALL)、急性骨髄性白血病(AML)(例えばB細胞AML、T細胞AML)、急性混合型白血病、慢性骨髄性白血病(CML)(例えばB細胞CML、T細胞CML)、および慢性リンパ性白血病(CLL)(例えばB細胞CLL、T細胞CLL));リンパ腫、例えばホジキンリンパ腫(HL)(例えばB細胞HL、T細胞HL)および非ホジキンリンパ腫(NHL)(例えば、びまん性大細胞型リンパ腫(DLCL)などのB細胞NHL(例えばびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫)、濾胞性リンパ腫、慢性リンパ球性白血病/小リンパ球性リンパ腫(CLL/SLL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、辺縁帯B細胞リンパ腫(例えば、粘膜関連リンパ組織(MALT)リンパ腫、節性辺縁帯B細胞性リンパ腫、脾辺縁帯B細胞リンパ腫)、原発性縦隔B細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、リンパ形質細胞性リンパ腫(すなわち、ワルデンストレームマクログロブリン血症)、有毛細胞性白血病(HCL)、免疫芽球型大細胞性リンパ腫、前駆Bリンパ芽球性リンパ腫、および原発性中枢神経系(CNS)リンパ腫;およびT細胞NHL、例えば前駆Tリンパ芽球性リンパ腫/白血病、末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)(例えば、皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)(例えば、菌状息肉症、セザリー症候群)、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫、節外性ナチュラルキラーT細胞リンパ腫、腸管症型T細胞リンパ腫、皮下蜂窩織炎様T細胞リンパ腫、および未分化大細胞性リンパ腫);上に記載されている1つ以上の白血病/リンパ腫の混合;および多発性骨髄腫(MM))、重鎖病(例えば、アルファ鎖病、ガンマ鎖病、ミュー鎖病);血管芽腫;下咽頭がん;炎症性筋線維芽細胞腫瘍;免疫球性アミロイドーシス;腎臓がん(例えば、腎芽細胞腫、別名ウィルムス腫瘍、腎細胞癌);肝臓がん(例えば、肝細胞がん(HCC)、悪性肝細胞癌);肺がん(例えば、気管支癌、小細胞肺がん(SCLC)、非小細胞肺がん(NSCLC)、肺の腺癌);平滑筋肉腫(LMS);肥満細胞症(例えば、全身性肥満細胞症);筋肉のがん;骨髄異形成症候群(MDS);中皮腫;骨髄増殖性疾患(MPD)(例えば、真性多血症(PV)、本態性血小板増加症(ET)、特発性骨髄化生(AMM)、別名骨髄線維症(MF)、慢性特発性骨髄線維症、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性好中球性白血病(CNL)、好酸球増多症候群(HES));神経芽細胞腫;神経線維腫(例えば、神経線維腫症(NF)1または2型、神経鞘腫症);神経内分泌癌(例えば、胃腸すい管神経内分泌腫瘍(GEP-NET)、カルチノイド腫瘍);骨肉腫(例えば、骨のがん);卵巣がん(例えば、嚢胞腺癌、卵巣胎児性癌、卵巣腺癌);乳頭腺癌;膵臓がん(例えば、膵臓腺癌、管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、膵島細胞腫瘍);陰茎がん(例えば、陰茎と陰嚢のパジェット病);松果体腫;原始神経外胚葉性腫瘍(PNT);形質細胞新生物;腫瘍随伴症候群;上皮内新生物;前立腺がん(例えば、前立腺腺癌);直腸がん;横紋筋肉腫;唾液腺のがん;皮膚がん(例えば、扁平上皮癌(SCC)、角化棘細胞腫(KA)、黒色腫、基底細胞癌(BCC));小腸がん(例えば、虫垂がん);軟部組織肉腫(例えば、悪性線維性組織球腫(MFH)、脂肪肉腫、悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST)、軟骨肉腫、線維肉腫、粘液肉腫);皮脂腺癌;小腸がん;汗腺癌;滑膜腫;精巣がん(例えば、精上皮腫、精巣胚性癌腫);甲状腺がん(例えば、甲状腺の乳頭癌、甲状腺乳頭癌(PTC)、甲状腺髄様がん);尿道がん;膣のがん;および外陰がん(例えば、外陰部パジェット病)。
【0075】
本明細書で使用される「阻害」、「阻害すること」および「阻害する」とは、化合物が、細胞内の特定の生物学的プロセスの活性を低下、遅延、停止または防止する、ビヒクルと比較しての能力をいう。ある態様において、生物学的プロセスは、in vitroである(例えば、細胞アッセイ)。ある態様において、生物学的プロセスは、in vivoである。
【0076】
ある態様において、がんの処置のために提供される方法とは、白血病、甲状腺がん、メラノーマ、卵巣がん、肺がん、前立腺がん、腎細胞癌、子宮頸がんまたは乳がんを処置することである。
【0077】
ある態様において、白血病は、急性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病、急性リンパ芽球性白血病、または急性混合型白血病である。
【0078】
別の側面において、本明細書で提供されるのは、治療有効量の本明細書に記載の結晶性形態Aまたはその医薬組成物を対象に投与することを含む、対象における細胞増殖を阻害する方法である。
【0079】
別の側面において、本明細書で提供されるのは、生体試料中の細胞増殖を阻害する方法であって、生体試料を、治療有効量の本明細書に記載の結晶性形態Aまたはその医薬組成物と接触させることを含む、前記方法である。
【0080】
別の側面において、本明細書で提供されるのは、治療有効量の結晶性形態Aまたはその医薬組成物を対象に投与することを含む、対象における細胞のアポトーシスを誘導する方法である。
【0081】
別の側面において、本明細書で提供されるのは、生体試料中の細胞のアポトーシスを誘導する方法であって、生体試料を、治療有効量の本明細書に記載の結晶性形態Aまたはその医薬組成物と接触させることを含む、前記方法である。
【0082】
別の側面において、本発明は、処置を必要とする対象に本明細書に記載の化合物1の結晶性形態Aの有効量を投与することを含む、微生物感染の処置または予防に有用な化合物および医薬組成物を提供する。いくつかの態様において、微生物感染は細菌感染である。一側面において、本発明は、本明細書に記載の化合物1の結晶性形態Aの有効量を、処置を必要とする対象に投与することを含む、細菌増殖を阻害する方法を提供する。
【0083】
さらに別の側面において提供されるのは、他の処置に耐性であり、多剤耐性(tolerant)または耐性(resistant)であり、かつ/または他の処置の存在下でもしくはその結果として増殖せず死滅もしない病原体によって引き起こされる微生物感染を、処置または予防する方法である。かかる方法は、in vivoで(すなわち、対象への投与により)またはin vitroで(例えば、細胞培養物中の細菌との接触時に)、実施することができる。例えば、ある態様において提供されるのは、有効量の化合物1の結晶性形態Aを、微生物感染を有する対象に投与することを含む、他の処置に耐性である微生物感染を処置および/または予防する方法である。ある態様において提供されるのは、有効量の化合物1の結晶性形態Aを、感染を有する対象に投与することを含む、多剤耐性である細菌によって引き起こされる微生物感染を処置および/または予防する方法である。ある態様において、感染を引き起こす細菌は、他の処置に対して耐性である。いくつかの態様において、感染を引き起こす細菌は、多剤耐性(multi-drug tolerant)である。いくつかの態様において、感染を引き起こす細菌は、多剤耐性(multi-drug resistant)である。
【0084】
別の側面において、本明細書に提供されるのは、細菌を、本明細書に記載の結晶性形態Aまたはその医薬組成物と接触させることを含む、細菌細胞増殖を阻害する方法である。別の側面において提供されるのは、細菌を本明細書に記載の結晶性形態Aまたはその医薬組成物と接触させることを含む、細菌過敏症を誘導する方法である。
【0085】
提供される方法のいくつかの態様において、細菌を、結晶性形態Aとin vitroで接触させる。提供される方法のいくつかの態様において、細菌を、結晶性形態Aとin vivoで接触させる。
【0086】
提供される方法のいくつかの態様において、化合物1の結晶性形態Aは、本明細書で定義される第2の治療剤と共に投与される。いくつかの態様において、第2の治療剤は、抗生物質である。
【0087】
例示的な細菌感染には、限定はされないが、以下による感染が含まれる:グラム陽性細菌(例えば、Actinobacteria門、Firmicutes門、もしくはTenericutes門のもの);グラム陰性菌(例えば、Aquificae門、Deinococcus-Thermus門、Fibrobacteres/Chlorobi/Bacteroidetes (FCB)門、Fusobacteria門、Gemmatimonadest門、Ntrospirae門、Planctomycetes/Verrucomicrobia/Chlamydiae (PVC)門、Proteobacteria門、Spirochaetes門、もしくはSynergistetes門のもの);またはその他の細菌(例えば、Acidobacteria門、Chlroflexi門、Chrystiogenetes門、Cyanobacteria門、Deferrubacteres門、Dictyoglomi門、Thermodesulfobacteria門、もしくはThermotogae門のもの)。
【0088】
ある態様において、細菌感染は、グラム陽性菌による感染である。ある態様において、グラム陽性細菌は、Firmicutes門の細菌である。
【0089】
ある態様において、細菌はphylum Firmicutes門およびEnterococcus属のメンバーであり、すなわち、細菌感染はEnterococcus感染である。用語「Enterococcus種」は、Firmicutes門の乳酸菌の属を指す。それらは、多くの場合に対で生じるグラム陽性球菌である(双球菌、例えばDiplococcus pneumoniae)。Enterococciは、通性嫌気性生物である。例示的なEnterococci菌には、限定はされないが、E. avium、E. durans、E. faecalis、E. faecium、E. gallinarum、E. solitarius、E. casseliflavus、およびE. raffinosusが含まれる。ある態様において、Enterococcus感染は、E. faecalis感染である。ある態様において、Enterococcus感染は、E. faecium感染である。
【0090】
ある態様において、細菌は、Firmicutes門およびStaphylococcus属のメンバーであり、すなわち細菌感染は、Staphylococcus感染である。用語「Staphylococcus種」は、顕微鏡を通してみた場合にブドウ様クラスターとして、および血液寒天プレート上で増殖させた場合にはしばしばβ溶血を伴う大きな円形の黄金色のコロニーとして観察される、グラム陽性細菌を指す。例示的なStaphylococci菌としては、限定はされないが、以下が含まれる:S. arlettae、S. aureus、S. auricularis、S. capitis、S. caprae、S. carnous、S. chromogenes、S. cohii、S. condimenti、S. croceolyticus、S. delphini、S. devriesei、S. epidermis、S. equorum、S. felis、S. fluroettii、S. gallinarum、S. haemolyticus、S. hominis、S. hyicus、S. intermedius、S. kloosii、S. leei、S. lenus、S. lugdunesis、S. lutrae、S. lyticans、S. massiliensis、S. microti、S. muscae、S. nepalensis、S. pasteuri、S. penttenkoferi、S. piscifermentans、S. psuedointermedius、S. psudolugdensis、S. pulvereri、S. rostri、S. saccharolyticus、S. saprophyticus、S. schleiferi、S. sciuri、S. simiae、S. simulans、S. stepanovicii、S. succinus、S. vitulinus、S. warneri、およびS. xylosus。ある態様において、Staphylococcus感染はS. aureus感染である。ある態様において、Staphylococcus感染はS. epidermis感染である。
【0091】
ある態様において、細菌は、Firmicutes門およびStreptococcus属のメンバーであり、すなわち細菌感染は、Streptococcus感染である。用語「Streptococcus種」は、球状のグラム陽性細菌の属で、Firmicutes門のメンバーを意味する。Streptococcusは、乳酸菌である。Streptococcus種には、例えば、S. hemolyticus、S. mitis、S. salivarius、およびS. pneumoniaeなどの細菌が含まれる。Streptococcus種は、髄膜炎、細菌性肺炎、心内膜炎、丹毒および壊死性筋膜炎(「肉を食べる」微生物感染)などの感染症の原因となる。
【0092】
ある態様において、細菌は、Firmicutes門およびBacillus属のメンバーであり、すなわち細菌感染は、Bacillus感染である。用語「Bacillus種」は、多数の多様な棒状グラム陽性細菌であって、周鞭毛により運動性であり好気性である細菌、例えばB. anthracisまたはB. subtilisなどである。
【0093】
ある態様において、細菌は、Actinobacteria門およびファミリーMycobacteriumのメンバーであり、すなわち細菌感染は、Mycobacterium感染である。用語「Mycobacterium種」は、放線菌に関連する、グラム陽性、非運動性の多形性桿菌を指す。ヒトの結核はMycobacterium tuberculosisによって引き起こされる。MDR-TB(多剤耐性結核)は、少なくとも2つの第一選択TB薬であるイソニアジドおよびリファンピシンに耐性のある、結核菌株を記述する。
【0094】
ある態様において、細菌感染は、他の抗生物質療法に対して耐性である。例えばある態様において、細菌感染はバンコマイシン耐性(VR)である。ある態様において、細菌感染は、バンコマイシン耐性E. faecalis感染である。ある態様において、細菌感染は、バンコマイシン耐性E. faecium感染である。ある態様において、細菌感染は、メチシリン耐性(MR)である。ある態様において、細菌感染は、メチシリン耐性S. aureus(MRSA)感染である。
【0095】
ある態様において、有効量は治療有効量である。ある態様において、有効量は予防有効量である。ある態様において、対象は、少なくとも1つの細菌感染に罹患している。
【0096】
本明細書で提供される化合物1の結晶性形態Aは典型的には、投与の容易さおよび投与量の均一性のために投与量単位形態で処方される。しかし、本発明の組成物の1日総使用量は、健全な医学的判断の範囲内で主治医によって決定されることが、理解されるであろう。あらゆる特定の対象または生物に対する具体的な治療有効用量レベルは、様々な要因に依存し、これには、処置される疾患、障害、または状態および障害の重症度;使用される特定の活性成分の活性;使用される特定の組成物;対象の年齢、体重、一般的健康状態、性別、および食事;投与の時間、投与経路、および使用される特定の活性成分の排泄速度;処置期間;使用される特定の活性成分と組み合わせて、またはこれと同時に使用される薬物;および、医療分野で知られている類似の要因を含む。
【0097】
本明細書で提供される化合物1の結晶性形態Aおよび組成物は、任意の経路で、例えば経腸(例えば経口)、非経口、静脈内、筋肉内、動脈内、髄内、髄腔内、皮下、脳室内、経皮、インターダーマル(interdermal)、直腸、膣内、腹腔内、局所(散剤、軟膏剤、クリーム剤、および/または滴剤によるものなど)、粘膜、経鼻、口腔内、舌下;気管内点滴注入、気管支点滴注入、および/または吸入によって;および/または経口スプレー、鼻腔スプレーおよび/またはエアロゾルとして、投与することができる。具体的に企図される経路は、経口投与、静脈内投与(例えば、全身静脈内注射)、血液および/またはリンパ供給を介した局所投与、および/または患部への直接適用である。一般的には、投与の最も適切な経路は、薬剤の性質(例えば、胃腸管の環境でのその安定性)、および/または対象の状態(例えば、対象が経口投与を耐容できるかどうか)などを含む、種々の要因に依存する。
【0098】
有効量を達成するために必要とされる化合物1の正確な量は、例えば、対象の種、年齢、および全身状態、副作用または障害の重症度、投与の様式のアイデンティティなどに依存して、対象によって変化する。所望の投薬量は、1日3回、1日2回、1日1回、1日おき、3日毎、毎週、2週間毎、3週間ごと、または4週間ごとに、送達することができる。特定の態様において、所望の投薬量は、複数回投与(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14回またはそれ以上の投与)を用いて送達することができる。
【0099】
特定の態様において、70kgのヒト成人に1日1回以上投与するための化合物1の有効量は、単位剤形あたり、約0.0001mg~約3000mg、約0.0001mg~約2000mg、約0.0001mg~約1000mg、約0.001mg~約1000mg、約0.01mg~約1000mg、約0.1mg~約1000mg、約1mg~約1000mg、約1mg~約100mg、約10mg~約1000mg、または約100mg~約1000mgの化合物を含む。
【0100】
特定の態様において、化合物1およびその組成物は、所望の治療効果を得るために、経口または非経口的に、1日に対象の体重当たり次の量を1日1回以上送達するのに十分な投薬量で、投与することができる:約0.001mg/kg~約100mg/kg、約0.01mg/kg~約50mg/kg、好ましくは約0.1mg/kg~約40mg/kg、好ましくは約0.5mg/kg~約30mg/kg、約0.01mg/kg~約10mg/kg、約0.1mg/kg~約10mg/kg、およびさらに好ましくは約1mg/kg~約25mg/kg。
【0101】
本明細書に記載の用量範囲は、提供される医薬組成物を成人に投与するための指針を提供することが理解されよう。例えば小児または青年に投与される量は、医師または当業者が決定することができ、成人に投与される量よりも低いか、または同一であることができる。
【0102】
本明細書に記載の化合物1の結晶性形態Aまたはその組成物は、第2の治療剤と組み合わせて投与することができることも、理解されるであろう。化合物1の結晶性形態Aまたはその組成物は、第2の治療剤と組み合わせて投与して、バイオアベイラビリティを改善し、その代謝を低減および/または改変し、その排泄を阻害し、および/または身体内でのその分布を改変することができる。使用される療法は、同じ障害に対して所望の効果を達成でき、および/または異なる効果を達成できることも理解されるであろう。
【0103】
「併用療法」が使用される場合、有効量は、化合物1またはその医薬組成物の第1の量、および適切な追加の治療剤の第2の量を用いて、達成することができる。
【0104】
ある態様において、本明細書に記載の化合物1またはその薬学的組成物、および追加の治療剤は、それぞれ有効量(すなわち、それぞれが単独で投与される場合に治療上有効な量)で投与される。他の態様において、本明細書に記載の化合物1またはその医薬組成物、および追加の治療剤は、それぞれ単独では治療効果を提供しない量で投与される(治療用量未満)。さらに他の態様において、本明細書に記載の化合物1またはその医薬組成物は有効量で投与することができ、一方追加の治療剤は、治療用量未満で投与する。さらに他の態様において、本明細書に記載の化合物1またはその医薬組成物は、治療用量未満で投与することができ、一方追加の治療剤は、有効量で投与する。
【0105】
本明細書で使用する用語「組み合わせて」または「同時投与」は、1つより多くの療法(例えば、1つ以上の予防剤および/または治療剤)の使用を指すために、交換可能に使用することができる。この用語の使用は、療法(例えば、予防剤および/または治療剤)が対象に投与される順序を制限しない。
【0106】
同時投与は、化合物の第1および第2の量の投与を本質的に同時の様式で、例えば、第1および第2の量の固定比を有するカプセルまたは錠剤などの、単一の医薬組成物で、または、それぞれについて複数の別々のカプセルまたは錠剤で、投与することを包含する。さらに、かかる同時投与はまた、各化合物をいずれかの順序で逐次的に使用することも包含する。同時投与が、第1の量の本明細書に記載の化合物1またはその医薬組成物と第2の量の追加の治療剤の、別々の投与を含む場合、化合物は、所望の治療効果を有するのに十分な短時間内に投与される。例えば、所望の治療効果をもたらすことができる各投与の間の時間は、数分から数時間の範囲であることができ、力価、溶解度、バイオアベイラビリティ、血漿半減期、および動態プロファイルなどの各化合物の特性を考慮して決定することができる。例えば、本明細書に記載の化合物1またはその医薬組成物、および第2の治療剤は、互いに約24時間以内、互いに約16時間以内、互いの約8時間以内、互いに約4時間以内、互いに約1時間以内または互いに約30分以内に、投与することができる。
【0107】
より具体的には、第1の療法(例えば、本明細書に記載の化合物などの予防剤または治療剤)は、対象への第2の療法の適用の、前に(例えば、5分前、15分前、30分前、45分前、1時間前、2時間前、4時間前、6時間前、12時間前、24時間前、48時間前、72時間前、96時間前、1週間前、2週間前、3週間前、4週間前、5週間前、6週間前、8週間前、または12週間前に)、または同時に、またはその後に(例えば、5分後、15分後、30分後、45分後、1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、12時間後、24時間後、48時間後、72時間後、96時間後、1週間後、2週間後、3週間後、4週間後、5週間後、6週間後、8週間後、または12週間後に)、投与することができる。
【0108】
化合物1の結晶性形態Aまたはその組成物は、1種以上の追加の治療活性剤と同時に、その前に、またはその後に投与することができる。一般に、各薬剤は、その薬剤について決定された用量および/または時間スケジュールで投与される。この組み合わせにおいて利用される追加の治療活性剤は、単一の組成物中で一緒に投与され得るか、または異なる組成物で別々に投与され得ることが、さらに理解されるであろう。レジメンで用いる特定の組み合わせは、化合物1の結晶性形態Aと追加の治療活性剤との適合性、および/または達成されるべき所望の治療効果を考慮する。一般に、組み合わせて利用される追加の治療活性剤は、それらが個別に利用されるレベルを超えないことが予想される。いくつかの態様において、組み合わせて利用されるレベルは、個別に利用されるレベルよりも低い。
【0109】
例示的な第2の治療剤には、限定はされないが、抗生物質、抗ウイルス剤、麻酔剤、抗凝固剤、酵素阻害剤、ステロイド剤、ステロイド性または非ステロイド性抗炎症剤、抗ヒスタミン剤、免疫抑制剤、抗原、ワクチン、抗体、うっ血除去薬、鎮静剤、オピオイド、鎮痛剤(pain-relieving agent)、鎮痛剤(analgesic)、抗発熱薬、ホルモンおよびプロスタグランジンなどが含まれる。治療活性剤には、小有機分子、例えば薬物化合物(例えば、米国食品医薬品局によって承認された、米国連邦規則集(CFR)に提供されている化合物)、ペプチド、タンパク質、炭水化物、単糖、オリゴ糖、多糖、核タンパク質、ムコタンパク質、リポタンパク質、合成ポリペプチドまたはタンパク質、タンパク質に連結された小分子、糖タンパク質、ステロイド、核酸、DNA、RNA、ヌクレオチド、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、脂質、ホルモン、ビタミン、および細胞が含まれる。
【0110】
特定の態様において、追加の治療剤は、抗生物質である。例示の抗生物質としては、限定はされないが、ペニシリン(例えばペニシリン、アモキシシリン)、セファロスポリン(例えばセファレキシン)、マクロライド(例えばエリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン、トロレアンドマイシン)、フルオロキノロン(例えばシプロフロキサシン、レボフロキサシン、オフロキサシン)、スルホンアミド(例えば、コ・トリモキサゾール、トリメトプリム)、テトラサイクリン(例えば、テトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、デメクロサイクリン、メタサイクリン、サンサイクリン、ドキシサイクリン、オーレオマイシン、テラマイシン、ミノサイクリン、6-デオキシテトラサイクリン、リメサイクリン、メクロサイクリン、メタサイクリン、ロリテトラサイクリン、およびグリシルサイクリン抗生物質(例えば、チゲサイクリン))、アミノグリコシド(例えば、ゲンタマイシン、トブラマイシン、パロモマイシン)、アミノシクリトール(例えば、スペクチノマイシン)、クロラムフェニコール、スパルソマイシン、キヌプリスチン/ダルホプリシン(Syndericid(商標))が含まれる。
【0111】
いくつかの態様において、追加の治療剤は、抗増殖剤である。いくつかの態様において、抗増殖剤は、抗がん剤である。本明細書で使用する場合、抗がん剤は、生物療法抗がん剤および化学療法剤を包含する。
【0112】
例示の生物療法抗がん剤には、限定はされないが、インターフェロン、サイトカイン(例えば、腫瘍壊死因子、インターフェロンα、インターフェロンγ)、ワクチン、造血成長因子、モノクローナル血清療法、免疫賦活剤および/または免疫調節剤(例えば、IL-1、2、4、6、または12)、免疫細胞増殖因子(例えば、GM-CSF)および抗体(例えば、HERCEPTIN(トラスツズマブ)、T-DM1、AVASTIN(ベバシズマブ)、ERBITUX(セツキシマブ)、VECTIBIX(パニツムマブ)、RITUXAN(リツキシマブ)、BEXXAR(トシツモマブ))が含まれる。
【0113】
例示の化学療法剤には、限定はされないが、以下が含まれる:抗エストロゲン(例えば、タモキシフェン、ラロキシフェン、およびメゲストロール)、LHRHアゴニスト(例えばゴセレリンおよびロイプロリド)、抗アンドロゲン(例えば、フルタミドおよびビカルタミド)、光線力学療法(例えばベルテポルフィン(BPD-MA)、フタロシアニン、光増感Pc4、およびデメトキシ-ヒポクレリンA(2BA-2-DMHA))、ナイトロジェンマスタード(例えば、シクロホスファミド、イホスファミド、トロホスファミド、クロラムブシル、エストラムスチン、およびメルファラン)、ニトロソウレア(例えば、カルムスチン(BCNU)およびロムスチン(CCNU))、アルキルスルホネート(例えば、ブスルファンおよびトレオスルファン)、トリアゼン(例えば、ダカルバジン、テモゾロミド)、白金含有化合物(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン)、ビンカアルカロイド(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、およびビノレルビン)、タキソイド(例えば、パクリタキセル、またはパクリタキセル等価物、例えばナノ粒子アルブミン結合パクリタキセル(Abraxane)、ドコサヘキサエン酸結合パクリタキセル(DHA-パクリタキセル、Taxoprexin)、ポリグルタメート結合パクリタキセル(PG-パクリタキセル、パクリタキセルポリグルメックス、CT-2103、XYOTAX)、腫瘍活性化プロドラッグ(TAP)ANG1005(パクリタキセルの3つの分子に結合したAngiopep-2)、パクリタキセル-EC-1(erbB2認識ペプチドEC-1に結合したパクリタキセル)、およびグルコースコンジュゲートパクリタキセル、例えば2’-パクリタキセルメチル2-グルコピラノシルスクシネート;ドセタキセル、タキソール)、エピポドフィリン(例えば、エトポシド、リン酸エトポシド、テニポシド、トポテカン、9-アミノカンプトテシン、カンプトイリノテカン、イリノテカン、クリスナトール、マイトマイシンC)、代謝拮抗物質、DHFR阻害剤(例えば、メトトレキサート、ジクロロメトトレキサート、トリメトレキサート、エダトレキサート)、IMPデヒドロゲナーゼ阻害剤(例えば、ミコフェノール酸、チアゾフリン、リバビリン、およびEICAR)、リボヌクレオチドレダクターゼ阻害剤(例えば、ヒドロキシウレアおよびデフェロキサミン)、ウラシル類似体(例えば、5-フルオロウラシル(5-FU)、フロクスウリジン、ドキシフルリジン、ラルチトレキセド、テガフール-ウラシル、カペシタビン)、シトシン類似体(例えば、シタラビン(araC)、シトシンアラビノシドおよびフルダラビン)、プリン類似体(例えば、メルカプトプリンおよびチオグアニン)、ビタミンD3類似体(例えば、EB1089、CB1093、およびKH1060)、イソプレニル化阻害剤(例えば、ロバスタチン)、ドーパミン作動性神経毒(例えば、1-メチル-4-フェニルピリジニウムイオン)、細胞周期阻害剤(例えば、スタウロスポリン)、アクチノマイシン(例えば、アクチノマイシンD、ダクチノマイシン)、ブレオマイシン(例えば、ブレオマイシンA2、ブレオマイシンB2、ペプロマイシ)、アントラサイクリン(例えば、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ペグ化リポソームドキソルビシン、イダルビシン、エピルビシン、ピラルビシン、ゾルビシン、ミトキサントロン)、MDR阻害剤(例えばベラパミル)、Ca2+ATPアーゼ阻害剤(例えばタプシガルギン)、イマチニブ、サリドマイド、レナリドマイド、チロシンキナーゼ阻害剤(例えばアキシチニブ(AG013736)、ボスチニブ(SKI-606)、セジラニブ(RECENTINTM(商標)、AZD2171)、ダサチニブ(SPRYCELR(登録商標)、BMS-354825)、エルロチニブ(TARCEVA(登録商標))、ゲフィチニブ(IRESSA(登録商標))、イマチニブ(Gleevec(登録商標)、CGP57148B、STI-571)、ラパチニブ(TYKERB(登録商標)、TYVERB(登録商標))、レスタウルチニブ(CEP-701)、ネラチニブ(HKI-272)、ニロチニブ(TASIGNA(登録商標))、セマキサニブ(semaxinib、SU5416)、スニチニブ(SUTENT(登録商標)、SU11248)、トセラニブ(PALLADIA(登録商標))、バンデタニブ(ZACTIMA(登録商標)、ZD6474)、バタラニブ(PTK787、PTK/ZK)、トラスツズマブ(HERCEPTIN(登録商標))、ベバシズマブ(AVASTIN(登録商標))、リツキシマブ(RITUXAN(登録商標))、セツキシマブ(ERBITUX(登録商標))、パニツムマブ(VECTIBIX(登録商標))、ラニビズマブ(Lucentis(登録商標))、ニロチニブ(TASIGNA(登録商標))、ソラフェニブ(NEXAVAR(登録商標))、エベロリムス(AFINITOR(登録商標))、アレムツズマブ(CAMPATH(登録商標))、ゲムツズマブオゾガマイシン(MYLOTARG(登録商標))、テムシロリムス(TORISEL(登録商標))、ENMD-2076、PCI-32765、AC220、乳酸ドビチニブ(TKI258、CHIR-258)、BIBW 2992(TOVOK(商標))、SGX523、PF-04217903、PF-02341066、PF-299804、BMS-777607、ABT-869、MP470、BIBF 1120(VARGATEF(登録商標))、AP24534、JNJ-26483327、MGCD265、DCC-2036、BMS-690154、CEP-11981、チボザニブ(AV-951)、OSI-930、MM-121、XL-184、XL-647、および/またはXL228)、プロテアソーム阻害剤(例えば、ボルテゾミブ(VELCADE))、mTOR阻害剤(例えばラパマイシン、テムシロリムス(CCI-779)、エベロリムス(RAD-001)、リダフォロリムス、AP23573(Ariad)、AZD8055(AstraZeneca)、BEZ235(Novartis)、BGT226(Norvartis)、XL765(Sanofi Aventis)、PF-4691502(Pfizer)、GDC0980(Genetech)、SF1126(Semafoe)およびOSI-027(OSI))、オブリメルセン、ゲムシタビン、カルミノマイシン、ロイコボリン、ペメトレキセド、シクロホスファミド、デカルバジン、プロカルビジン、プレドニゾロン、デキサメタゾン、カンパテシン、プリカマイシン、アスパラギナーゼ、アミノプテリン、メトプテリン、ポルフィロマイシン、メルファラン、ロイロシジン、ロイロシン、クロラムブシル、トラベクテジン、プロカルバジン、ディスコデルモライド、カルミノマイシン、アミノプテリン、およびヘキサメチルメラミン。
【0114】
例
本明細書に記載の本発明がより完全に理解されるために、以下の実施例を示す。これらの実施例は説明目的のみのためであり、いかなる様式においても本発明を限定するものと解釈されるべきではない。
【0115】
例1.MSK-777の生産
MSK-777の生産および精製プロセスは、以下のブロックからなる:a)発酵、b)樹脂洗浄および溶出、c)濃縮、d)RP-クロマトグラフィー、e)抽出、f)濃縮、およびg)結晶化。
【0116】
MSK-777は、Streptomyces菌株Streptomyces violaceoruberの発酵によって産生される。発酵ブロスは、生成物としてスカベンジャーポリマー吸収性樹脂XAD7を含有する(現在の商品名はXAD7HPであり、以前のXAD7である)。XAD7樹脂は、形成された細菌代謝産物を捕捉する、非イオン性脂肪族アクリルポリマーである。この直接捕捉は生産速度を増加させ(フィードバック制御を抑制する)、すでに形成された代謝産物の分解の可能性を防止する。発酵後、樹脂を発酵ブロスから濾過により分離する。樹脂を水中の少量の有機溶媒で選択的に洗浄した後、有機溶媒または有機溶媒と水の混合物で、生成物を溶出する。
【0117】
発酵の主要代謝産物として、グラナチシンA(MSK777の生合成前駆体)およびMSK-777が検出される。さらに、5~10種の少量のグラナチシン群中間体(副生成物、分解生成物)およびいくつかの他の非グラナチシン代謝産物が検出される。スカベンジャー樹脂抽出物から分析した典型的な発酵プロファイルは、40~60%のグラナチシンAおよび20~40%のMSK-777からなる(
図11参照)。
【0118】
スカベンジャー樹脂上のMSK-777の極性不純物を、所望の生成物の溶出の前に、(20:80)アセトン-水混合物で洗浄する。洗浄シーケンスの後、樹脂を、アセトン-水(85:15)混合物の3つのアリコートで抽出する。合わせた溶出画分を、真空下で元の容量の20~30%に濃縮する。これは、次の逆精製(RP)クロマトグラフィーシステムへの流動負荷を促進するために必要である。クロマトグラフィー前の試料のpHは、約5.2~7.2の範囲である。RP-クロマトグラフィーは、Pharmaprep RP-18(40~63)pm材料(Merck)を用いて行う。試料を注入する前に、カラムを水中の35%MeOHで平衡化する。次にカラムに、安定相重量に対して(1~3)wt%のMSK-777を負荷する。典型的な負荷容量は、カラム容量の(2~4)倍である。カラムに負荷した後、クロマトグラフィーを、MeOHの増加量(35/45/50%MeOH)および低下するpH(0/0.1%AcH)を用いた5段階勾配で行う。純粋にプールされたMSK-777画分を合わせ、容量の1/5を用いてクロロホルムで1回抽出する。クロロホルム相を5g/LのNaHCO3で2回、0.001%HClで2回洗浄する。
【0119】
クロロホルム相を蒸発乾固する。乾燥MeOHを添加して、残留物を、約20~50g/LのMSK-777の最終濃度まで可溶化する。pHを、イソプロパノール性HClを用いて3.5~5.0に調整する。形成された懸濁液を濾過し、n-ペンタンで素早く洗浄し、室温で24時間真空乾燥する。
【0120】
例2.クロロホルム/メタノールからの形態Aの調製(第1バッチ)
例1で生産されたMSK-777を採取し、真空(<10mbar)下、45℃で18時間さらに乾燥させた。バッチは、水を含まないクロロホルム/メタノールから結晶化させた。得られた結晶は、顕微鏡下で暗赤色のプリズムとして現れる。
【0121】
例3:メタノール/アセトンからの形態Aの調製(第2バッチ)
例1で生産された5gのMSK-777を採取し、メタノール-アセトン(1:3;v:v)に溶解した。希塩酸水(pH=4~5)を、激しく混合しつつ水の比が約65vol%になるまで、溶液にゆっくり添加した。MSK-777の最終濃度は、約4~5g/Lであった。混合物を室温で2時間、続いて+4℃で4時間、さらに0℃で一晩撹拌した。結晶を濾過し、水中15%メタノールで洗浄した。結晶を最初に空気中で、続いて周囲温度で真空により、最後に45℃で真空(<10mbar)で乾燥させた。得られた結晶は、暗赤色のプリズムとして現れる。
【0122】
例4.結晶化前のMSK-777の分析および特徴付け
4.1.UVスペクトル
MSK-777のUVスペクトルは、235、280、510および527nmで広い吸収を示す。これらの吸収は、ベンゾイソクロマンキノン(BIQ)発色団を示す。可視領域(約527nm)における広い吸着は、物質の強い赤色の原因となる。
【0123】
塩基性条件下(pH>8)で、Vis吸収の深色シフト(約40nm)が観察され、わずかに酸性のフェノール性プロトンのイオン化が示される。このpH依存性の指示挙動は、BIQ発色団に特徴的であり、溶液が赤色から青色に変わるにつれて視覚的に観察される。色の変化は、酸性フェノール性プロトンの近似平均pKa値に対応するおよそpH=8.5において、変曲点を有する。
【0124】
4.2.化学的分解
MSK-777は、HPLCによって観察されるように、酸性条件下(pH<4)周囲温度で、ゆっくりした分解を示す。分解は、グリコシド結合の加水分解によって引き起こされ、MSK-777の生合成前駆体であるグラナチシンAを形成する。これに整合して、時間依存性のHPLC実験において、グラナチシンAクロマトグラフィー面積の同時の増加と、グラナチシンB領域の減少が観察される。加水分解実験およびほぼ同一のUVスペクトルは、MSK-777(グラナチシンB)とグラナチシンAが、同じコア構造および発色団を共有することを示している。したがって、グラナチシンAとMSK-777との間の構造的相違は、後者の化合物の加水分解可能な部分(糖部分)に起因する。
【0125】
4.3.低分解能質量分析
低分解能質量分析は、エレクトロスプレー(API)法でHPLC-MSを用いて行った。陰イオン化モードおよび陽イオン化モードの両方を、同時に記録した。陽イオン化可能な官能基を持たないフェノール化合物に典型的に、陰イオン化は、少数の弱い分解シグナルと共に明瞭な母イオンピーク([M-H]-)を提供する。M/z=558の質量を有する母ピークは、MSK-777(C28H30O12)の予想される分子形態に対応する。対照的に、陽イオン化は、576の質量を有するNH4
+付加物形成([M+NH4
+])によって得られた分子イオンとの複合分解パターンを示す。MSK-777からの糖部分(2-メチルテトラヒドロピラン-3-オール、m/z 114の欠損)(グラナチシンAの形成)の切断を、陽イオン化法で検出し、445の質量を有するシグナルを得た。同様に、グラナチシンA質量スペクトルは、MSK-777と比較した場合の欠損糖部分に整合した、同じ分子ピーク(質量444、分子式C22H20O10に対応)を示す。
【0126】
4.4.高分解能質量分析
高分解能質量分析は、557.16736([M-H]-)の分子量を示す。[M-H]-=C28H29O12に対する理論計算質量との差は、1.63ppmである。また、高分解能MS-MS分解生成物(2つの主要なシグナル)は、正しい予測質量を与える。この結果は、C28H30O12の理論的な元素組成を確認する。
【0127】
4.5.IR分光分析
MSK-777のFTIRスペクトルは、2つの強いシグナルを、カルボニル官能基のためにおよそ1800および1600cm-1に示す。特に、1800cm-1のシグナルは、キノンカルボニル系の特徴である。1600cm-1のシグナルは、ラクトンカルボニルから生じる。FTIRスペクトルは、MSK-777の構造を確認する。
【0128】
4.6.NMR
1組の測定値(1D-
1H、1D-sel-TOCSY、1D-
13C、2DCOSY、2D-HMBC)から収集したデータは、MSK-777中のプロトンおよび炭素が、グラナチシンBの構造に適合することを確認する。
例5.形態Aの分析および特徴付け
5.1.形態Aの2つのバッチの分析データ
【表3】
【0129】
5.2.形態AのXRD
粉末X線回折分析において、両方のバッチは、結晶性を示す鮮明で明確に分離されたシグナルを示す。両方のバッチは同一のシグナルパターンを示し、それらが同一の結晶構造を共有することを示している。ピーク位置およびその強度を、以下の表4に示す。
【表4】
【0130】
5.3.形態Aの熱分析
DSC分析は、両方の試料について、160℃での弱い吸熱遷移ピークと、続いて約190℃での融解/分解点を示す。TG分析では、温度100℃までの温度間隔において、約2%の質量減少を示す。この質量減少は、結晶からの水および残留溶媒の蒸発に関連する。水和物の徴候は見られない(融点未満で段階的な質量の減少はない)。およそ185℃を超えると、質量の急激な低下が検出され、生成物の分解が示される。
【0131】
5.4.形態Aの固相NMR分析
両方のバッチは、同じ固相13C NMRスペクトルを示す。スペクトルは、予想される結晶相の代わりに、非晶質物質を示すように見える;明確に分離された鮮明なシグナルの代わりに、広範囲の未解明のシグナルである。この結果は、試料を加圧して圧縮することからなるNMR試料の前処理の間に、最初に結晶質の材料が部分的に溶融した(すなわち非晶質になった)という観察によって、説明される。
【0132】
均等物および範囲
クレームにおいて、「a」、「an」および「the」などの冠詞は、1または1より多いことを意味し得るが、ただし、それと反する指示があるか、またはそれとは別に文脈から明らかな場合は除く。ある群の1以上のメンバー間に「または」を含むクレームまたは記載は、その群のメンバーの1つ、1つより多く、またはすべてが、所定の生成物またはプロセスに存在するか、それに用いられるか、あるいはそれとは別に関連する場合に、満たされると考えられるが、ただし、それと反する指示があるか、またはそれとは別に文脈から明らかな場合は除く。本発明は、その群の厳密に1つのメンバーが、所定の生成物またはプロセスに存在するか、それに用いられるか、またはそれとは別に関連する態様を含む。本発明は、その群のメンバーの1つより多く、またはすべてが、所定の生成物またはプロセスに存在するか、それに用いられるか、またはそれとは別に関連する態様を含む。
【0133】
さらに、本発明は、1以上の列挙されたクレームからの1以上の限定、要素、節および記述用語が別のクレーム中へ導入される、すべての変形、組み合わせ、および順列を包含する。例えば、別の請求項に従属するいずれの請求項も、同じ基本クレームに従属するいずれか他の請求項中に見出される1以上の限定を含むように修飾され得る。要素が、例えばマーカッシュ群形式において列挙されたものとして提示されている場合、要素の各下位群もまた開示されており、いずれの要素(単数または複数)も群から除去され得る。一般に、本発明または本発明の側面が、特定の要素および/または特徴を含むとして見なされる場合、本発明のある態様または本発明のある側面は、かかる要素および/または特徴からなるか、または、実質的にそれらからなると理解されるべきである。簡潔さを目的として、それらの態様は本明細書中、この通りの言葉で具体的に記載されていない。用語「含むこと(comprising)」および「含有すること(containing)」は、オープンであることを意図し、追加の要素またはステップの包含を容認することにもまた留意する。範囲が与えられた場合、エンドポイントも含まれる。その上、別段の指示がないか、またはそれとは別に文脈および当業者の理解から明らかでない場合に限り、範囲として表された値は、本発明の異なる態様において述べられた範囲内の任意の具体的な数値または下位範囲の、文脈が明確に別段の指図をしない限り、範囲の下限の単位の10分の1までを想定することができる。
【0134】
本願は種々の発行済み特許、公開特許出願、ジャーナル論文、および他の公刊物を参照し、それらの全ては参照によって本明細書に組み込まれる。組み込まれる参考文献のいずれかと本明細書との間に矛盾がある場合には、本明細書がコントロールするものとする。加えて、先行技術に含まれる本発明の任意の特定の態様は、任意の1以上の請求項から明確に除外され得る。かかる態様は当業者に知られていると考えられるので、本明細書において除外が明示的に示されていない場合であっても、それらは除外され得る。本発明の任意の特定の態様は、先行技術の存在に関するか否かにかかわらず、任意の請求項から任意の理由で除外することができる。
【0135】
当業者は、本明細書に記載される具体的な態様の多くの均等物を、せいぜい通例の実験作業を用いて、認識するかまた確認できるであろう。本明細書に記載される本発明の態様の範囲は、上の明細書に限定されることを意図せず、むしろ添付の請求項に示されている通りである。当業者は、以下の請求項において定義される本発明の趣旨または範囲から逸脱することなしに、本明細書への種々の変更および改変がなされ得ることを、理解するであろう。