(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】低分子ガティガムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 37/00 20060101AFI20231002BHJP
C09K 23/56 20220101ALN20231002BHJP
【FI】
C08B37/00 Q
C09K23/56
(21)【出願番号】P 2019069073
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2022-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2018070406
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三内 剛
(72)【発明者】
【氏名】木下 圭剛
【審査官】中村 政彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03891620(US,A)
【文献】特開2007-049908(JP,A)
【文献】特開2014-103957(JP,A)
【文献】国際公開第2013/084518(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/082570(WO,A1)
【文献】五十部 誠一郎,“I-1. 通電加熱の現状と今後の可能性”,日本水産学会誌,2012年,第78巻,第4号,p. 791
【文献】植村 邦彦 他,“食品の交流高電界殺菌技術”,日本食品科学工学会誌,2016年,第63巻,第5号,pp. 185-189
【文献】植村 邦彦 他,“交流高電界処理における電極内部の温度分布の解析”,食品総合研究所研究報告,2007年03月01日,第71巻,pp. 27-32
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 37/00
C09K 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.020×10
6
~1.10×10
6
の範囲内の重量平均分子量を有し、1.1~13の範囲内の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量の比)を有する低分子ガティガムの製造方法であって、
原料ガティガム水溶液を、連続的又は断続的に反応器に供給する工程P、
前記反応器内で、前記原料ガティガム水溶液を内部発熱させることにより、
当該原料ガティガム水溶液を、120~300℃の範囲の温度、及び0.2~30Mpaの範囲内の圧力の環境に、0.5~300秒間曝露して、当該水溶液中で前記低分子化ガティガ
ムを生成させる工程A、
及び
前記低分子化ガティガムを含む水溶液を前記反応器から連続的又は断続的に取り出す工程Q
を含む、
製造方法。
【請求項2】
前記工程Qの後に、
前記低分子化ガティガムを含む水溶液を、10~200℃/秒の冷却速度で、20秒以内に、100℃以下まで冷却する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低分子ガティガムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子であるガティガムは、優れた乳化剤であることができる。これに関して、例えば、特許文献1では、ガティガムを用いて調製された乳化組成物が提案されている。
しかし、更に優れた乳化剤の開発が求められている。
優れた乳化剤として、特許文献2には、分子量が通常のシュガービートペクチンより高いことを特徴とするシュガービートペクチンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2013/084518号
【文献】国際公開第2010/082570号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、優れた乳化剤である低分子ガティガムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討の結果、
低分子ガティガムの製造方法であって、
原料ガティガム水溶液を用意する工程、及び
前記原料ガティガム水溶液を内部発熱させることにより、低分子化ガティガム水溶液を生成させる工程Aを含む、
製造方法
によって、前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、次の態様を含む。
【0007】
項1.
低分子ガティガムの製造方法であって、
原料ガティガム水溶液を用意する工程、及び
前記原料ガティガム水溶液を内部発熱させることにより、低分子化ガティガム水溶液を生成させる工程Aを含む、
製造方法。
項2.
前記工程Aは、反応器内で実施され;
前記工程Aの前に、前記原料ガティガム水溶液を、連続的又は断続的に反応器に供給する工程P、及び前記工程Aの後に、前記低分子化ガティガム水溶液を前記反応器から連続的又は断続的に取り出す工程Qを含む、
項1に記載の製造方法。
項3.
前記内部発熱により、前記原料ガティガム水溶液が、
100℃を超える温度、及び
0.2~30Mpaの範囲内の圧力
の環境に0.1秒間以上曝露される、
項1又は2に記載の製造方法。
項4.
前記低分子ガティガムが、0.020×106~1.10×106の範囲内の重量平均分子量を有する、項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
項5.
前記低分子ガティガムが、1.1~13の範囲内の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量の比)を有する、項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
項6.
前記低分子ガティガムの、後記の乳化性測定方法で測定された乳化粒子のメジアン径(体積規準)が0.1~1.5μmの範囲内である、項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
[乳化性測定方法]
(1)中鎖トリグリセリド10質量%、12質量%のガティガム水溶液35質量%、及びイオン交換水5質量%を室温で撹拌後、グリセロール50質量%を添加して、混合物を調製し、(2)当該混合物を、高圧分散装置を用いて、45MPaで、3回乳化処理して、乳化液を得、及び(3)前記乳化液が含有する乳化粒子の粒子径を、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定し、及びそのメジアン径(体積規準)を決定する。
項7.
ガティガムの低分子化方法であって、
原料ガティガム水溶液を用意する工程、及び
前記原料ガティガム水溶液を内部発熱させる工程
を含む、方法。
項8.
ガティガムの乳化性の向上方法であって、
原料ガティガム水溶液を用意する工程、及び
前記原料ガティガム水溶液を内部発熱させる工程
を含む、方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた乳化剤である低分子ガティガムの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一態様で使用されるジュール熱発生装置の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[1]用語
本明細書中の記号及び略号は、特に限定のない限り、本明細書の文脈に沿い、本発明が属する技術分野において通常用いられる意味に理解できる。
【0011】
本明細書中、語句「含有する」は、語句「から本質的になる」、及び語句「からなる」を包含することを意図して用いられる。
【0012】
特に限定されない限り、本明細書中に記載されている工程、処理、又は操作は、室温で実施され得る。
【0013】
本明細書中、室温は、10~40℃の範囲内の温度を意味する。
【0014】
本明細書中、「由来する」なる語句は、
(1)精製されていること、
(2)単離されていること、及び
(3)改変[これは、低分子化処理、及び高分子化処理(重合)を包含する]若しくは修飾されていることを包含することを意図して用いられる。
【0015】
本明細書中、用語「乳化性」及び用語「乳化力」は、文脈により、相互互換的に使用され得る。
【0016】
[2]本発明の製造方法で得られる低分子ガティガム
本明細書中、「ガティガム」は、ガティノキ(Anogeissus latifolia Wallich)の樹液(分泌液)に由来する多糖類であり、通常、室温、又はそれ以上の温度条件下で、30質量%程度まで水に溶解する水溶性多糖類である。
【0017】
本明細書中、低分子ガティガムは、ガティガムに包含される。
【0018】
本発明の製造方法で得られる低分子ガティガムの重量平均分子量は、0.020×106~1.10×106の範囲内である必要があり、好ましくは0.020×106~0.90×106の範囲内、より好ましくは0.020×106~0.60×106の範囲内、更に好ましくは0.025×106~0.50×106の範囲内、より更に好ましくは0.030×106~0.40×106の範囲内、特に好ましくは0.030×106~0.35×106の範囲内、及び更に特に好ましくは0.035×106~0.30×106、及び殊更に好ましくは0.04×106~0.30×106の範囲内である。
【0019】
本発明の製造方法で得られる低分子ガティガムは、このような重量平均分子量を有することにより、高い乳化性(又は乳化力)を有することができる。
【0020】
本発明の製造方法で得られる低分子ガティガムの分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量の比)(Mw/Mn)は、好ましくは1.1~13の範囲内、より好ましくは1.1~10の範囲内、更に好ましくは1.1~8の範囲内、より更に好ましくは1.1~6の範囲内、及び特に好ましくは1.1~4の範囲内である。
【0021】
本発明のガティガムの分子量、及びその分布は、以下の方法で測定される。
[分子量、及び分子量分布の測定方法]
分子量、及び分子量分布は、以下の条件のGPC分析で測定される。
検出器: RI
移動相: 100mM K2SO4
流量: 1.0ml/min
温度: 40℃
カラム: TSKgel GMPWXL 30cm (ガードPWXL)
インジェクション: 100μl
プルランスタンダード: Shodex STANDARD P-82
【0022】
[2-1]本発明の製造方法で得られる低分子ガティガムの性質
[2-1-1]乳化性
本発明の製造方法で得られる低分子ガティガムは、乳化剤として機能でき、及び乳化粒子を形成できる。 乳化剤の乳化性は、これを用いて形成される乳化粒子のサイズによって評価することができ、ここで、乳化粒子のサイズが小さいほど、乳化性(又は乳化力)が高い。 本発明の製造方法で得られる低分子ガティガムは、後記の乳化性測定方法で測定された乳化粒子のメジアン径(体積規準)が、好ましくは0.1~1.5μmの範囲内、
より好ましくは0.1~1.3μmの範囲内、
更に好ましくは0.1~1.2μmの範囲内、
より更に好ましくは0.2~1.1μmの範囲内、
特に好ましくは0.2~1.0μmの範囲内、
より特に好ましくは0.2~0.9μmの範囲内、及び
更に特に好ましくは0.2~0.85μmの範囲内である。
【0023】
本発明の製造方法で得られる低分子ガティガムの乳化粒子がこのように小さなメジアン径を有することができることは、本発明の製造方法で得られる低分子ガティガムが高い乳化性(又は乳化力)を有することを意味する。
【0024】
[乳化性測定方法]
(1)中鎖トリグリセリド10質量部、12質量%のガティガム水溶液35質量部、及びイオン交換水5質量部を室温で撹拌後、グリセロール50質量%を添加して、混合物を調製すること、(2)当該混合物を、高圧分散装置を用いて、45MPaで、3回乳化処理して、乳化液を得ること、及び(3)前記乳化液が含有する乳化粒子の粒子径を、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定し、及びそのメジアン径(体積規準)を決定する。 前記高圧分散装置としては、ナノマイザー、又はその同等品が使用される。
【0025】
[2-1-2]低分子ガティガム水溶液の粘度
本発明の製造方法で得られる低分子ガティガム水溶液は、以下の粘度を有することができる。
[8質量%水溶液粘度]
本発明の製造方法で得られる低分子ガティガムは、好適に、
その8質量%水溶液(20℃)の粘度が、
好ましくは70mPa・s以下、
より好ましくは60mPa・s以下、
更に好ましくは50mPa・s以下、
より更に好ましくは40mPa・s以下、
特に好ましくは35mPa・s以下、及び
より特に好ましくは30mPa・s以下
である、
低分子ガティガムである。
当該粘度の下限は、例えば、1mPa・s、2mPa・s、3mPa・s、4mPa・s、又は5mPa・sであることができる。
【0026】
当該粘度は、100mlスクリュー瓶(内径:3.7cm)に、ガティガム試料の8質量%水溶液(20℃)を80g入れ、以下の装置、及び条件で、測定される。
<装置、及び条件>
B型粘度計(ブルックフィールド型粘度計) ローターNo.2
回転数 60rpm
測定温度:20℃
測定時間:1分
【0027】
[2-1-3]低分子ガティガム水溶液の粘度
[15重量%水溶液粘度]
本発明の製造方法で得られる低分子ガティガムは、好適に、
その15重量%水溶液(20℃)の粘度が、
好ましくは100mPa・s未満、
より好ましくは80mPa・s未満、
更に好ましくは70mPa・s未満、
より更に好ましくは60mPa・s未満、
特に好ましくは50mPa・s未満、及び
より特に好ましくは40mPa・s未満
である、
低分子ガティガムである。
【0028】
当該粘度の下限は、例えば、
10mPa・s、
20mPa・s、又は
30mPa・s
であることができる。
【0029】
当該粘度は、100mlスクリュー瓶(内径:3.7cm)に、ガティガム試料の15質量%水溶液(20℃)を80g入れて、以下の装置、及び条件で粘度を測定される。 <装置、及び条件>
B型粘度計(ブルックフィールド型粘度計) ローターNo.2
回転数 30rpm
測定温度:20℃
測定時間:1分
【0030】
[30重量%水溶液水溶液粘度]
本発明の製造方法で得られる低分子ガティガムは、好適に、
その30重量%水溶液(20℃)の粘度が、
好ましくは8000mPa・s以下、
より好ましくは5000mPa・s以下、
更に好ましくは3000mPa・s以下、
より更に好ましくは2000mPa・s以下、
特に好ましくは1500mPa・s以下、
より特に好ましくは1000mPa・s以下、及び
更に特に好ましくは800mPa・s以下、
である低分子ガティガムである。
当該粘度の下限は、例えば、10mPa・s、30mPa・s、50mPa・s、80mPa・s、又は100mPa・sであることができる。
【0031】
当該粘度は、100mlスクリュー瓶(内径:3.7cm)に、ガティガム試料の30質量%水溶液(20℃)を80g入れ、以下の装置、及び条件で測定される。
<装置、及び条件>
B型粘度計(ブルックフィールド型粘度計) ローターNo.4
回転数 30rpm
測定温度:20℃
測定時間:1分
【0032】
[2-1-3]低分子ガティガム水溶液の光学的特性
本発明の製造方法で得られる低分子ガティガム水溶液は、以下の光学的特性を有することができる。
【0033】
[水溶液の濁度]
本発明の製造方法で得られる低分子ガティガムは、その1質量%水溶液(20℃)の、濁度[1%E]が、好ましくは0.001~0.3の範囲内、
より好ましくは0.005~0.2の範囲内、
更に好ましくは0.008~0.1の範囲内、
より更に好ましくは0.01~0.08の範囲内、
特に好ましくは0.015~0.07の範囲内、及び
より特に好ましくは0.02~0.06の範囲内
である。
【0034】
(濁度の測定方法)
ガティガム試料の1質量%水溶液(20℃)を調製し、720nmの濁度(吸光度)を、分光光度計(セル:石英セル 10mm×10mm)で測定する。 測定機器:分光光度計(日本分光社、分光光度計V-660)
【0035】
[2-2]乳化液の粘度
本発明の製造方法で得られる低分子ガティガムを用いて作成した乳化液は、その粘度が好適に低く、具体的には、次の粘度測定方法で測定された粘度が、好ましくは1~500mPa・sの範囲内、
より好ましくは1~300mPa・sの範囲内、
更に好ましくは1~250mPa・sの範囲内、
より更に好ましくは1~200mPa・sの範囲内、
特に好ましくは1~150mPa・sの範囲内、及び
更に特に好ましくは1~100mPa・sの範囲内
である。
【0036】
[乳化液粘度測定方法]
100mlスクリュー瓶(内径:3.7cm)に、前記乳化性測定に記載の方法で調製した試料(乳化液)の80gを入れ、以下の装置、及び条件で粘度を測定する。
<装置、及び条件>
B型粘度計(ブルックフィールド型粘度計) ローターNo.2
回転数 30rpm
測定温度:20℃
測定時間:1分
【0037】
[2-3]乳化液の濁度
本発明の製造方法で得られる低分子ガティガムを用いて作成した乳化液は、次の濁度測定方法で測定された濁度が低く(すなわち、透明性が高く)、且つ当該透明性の安定性が高い。 当該濁度[0.1%E]は、調製時に、
好ましくは0.01~0.38の範囲内、
より好ましくは0.01~0.35の範囲内、
更に好ましくは0.01~0.3の範囲内、
より更に好ましくは0.01~0.25の範囲内、及び
特に好ましくは0.01~0.2の範囲内
である。
【0038】
[濁度測定方法]
前記乳化性測定に記載の方法で調製した試料(乳化液)の、0.1%水希釈液の720nmの濁度を、分光光度計(セル:石英セル 10mm×10mm)で測定する。
【0039】
本発明の製造方法で得られる低分子ガティガムを含有する当該乳化液の当該濁度[0.1%E]は、60℃で3日間静置後に、好ましくは0.01~0.39の範囲内、
より好ましくは0.01~0.37の範囲内、
更に好ましくは0.01~0.35の範囲内、
より更に好ましくは0.01~0.33の範囲内、
特に好ましくは0.01~0.30の範囲内、及び
更に特に好ましくは0.01~0.25の範囲内
である。
【0040】
本発明の製造方法で得られる低分子ガティガムを含有する当該乳化液の当該濁度[0.1%E]は、60℃で2週間後に、好ましくは0.01~0.39の範囲内、
より好ましくは0.01~0.37の範囲内、
更に好ましくは0.01~0.35の範囲内、
より更に好ましくは0.01~0.33の範囲内、
特に好ましくは0.01~0.30の範囲内、及び
更に特に好ましくは0.01~0.28の範囲内
である。
【0041】
[3]製造方法
本発明の低分子ガティガムの製造方法は、
低分子ガティガムの製造方法であって、
原料ガティガム水溶液を用意する工程、及び
前記原料ガティガム水溶液を内部発熱させることにより、低分子化ガティガム水溶液を生成させる工程Aを含む。
【0042】
本発明の低分子ガティガムの製造方法は、好適に、
前記工程Aは、反応器内で実施され;
前記工程Aの前に、前記原料ガティガム水溶液を、連続的又は断続的に反応器に供給する工程P、及び前記工程Aの後に、前記低分子化ガティガム水溶液を前記反応器から連続的又は断続的に取り出す工程Qを含む、
製造方法
であることができる。
当該反応器は、液体の供給口及び排出口を有する密閉容器であることができる。
【0043】
本発明の低分子ガティガムの製造方法は、好適に、
前記工程Aの前に、原料ガティガム水溶液を、連続的又は断続的に反応器に供給する工程P、及び前記工程Aの後に、
前記低分子化ガティガム水溶液を前記反応器から連続的又は断続的に取り出す工程Q
を含むことができる。
【0044】
前記原料ガティガム水溶液は、原料であるガディガム及び水を含有する。
前記原料ガティガム水溶液の濃度は、例えば、1~50質量%、好ましくは1~30質量%、より好ましくは3~30質量%、及び更に好ましくは5~25質量%であることができる。 前記原料ガティガム水溶液は、技術常識に基づき、調製され得る。
当該原料であるガディガムとしては、商業的に入手可能なガティガムを使用できる。 商業上入手可能なガティガム製品としては、例えば三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の「ガティガムSD」等が挙げられる。 市場で流通しているガティガムの重量平均分子量は、通常、1.1×106~2×106の範囲内である。 原料であるガディガムとしては、目的とする分子量のガティガムが製造可能であれば特に制限されず、その一部に低分子量のガティガムを元々含有していてもよい。 例えば、原料であるガディガムは、0.020×106を超える重量平均分子量(好ましくは0.025×106を超える重量平均分子量、より好ましくは0.030×106を超える重量平均分子量、及び更に好ましくは0.080×106を超える重量平均分子量)のガティガム分子画分を含有するガディガムであることができる。
【0045】
本発明の低分子ガティガムの製造方法では、好適に、原料ガティガム水溶液を、連続的又は断続的に反応器に供給する。 当該「反応器」は、原料ガティガム水溶液を内包して、これにジュール発熱を誘導できる容器であることができる。当該「反応器」の好適な例は、このような管を1本以上有する。当該管が2本以上である時、これらは、直列及び/又は並列に連結されていることができる。 当該「反応器」は、液体の供給口及び排出口を有し、且つ内包する液体に電圧を付加できる管であることができる。 当該反応器内で、前記原料ガティガム水溶液を、当該発熱により、100℃を超える温度、及び0.2~30Mpaの範囲内の圧力の環境に、0.1秒間以上曝露して、低分子化ガティガム水溶液を調製する。
【0046】
本明細書中、用語「内部発熱」とは、原料ガティガム水溶液それ自体が発熱することを意味することができる。 本発明は、これに限定されるものではないが、「内部発熱」における水及び/又は原料ガティガム分子の振動が、優れた低分子化ガティガムの生成に寄与している可能性がある。 「内部発熱」の例は、ジュール発熱、マイクロ発熱、及び高周波発熱を包含する。
なかでも、ジュール発熱が好ましい。
原料ガティガム水溶液にジュール発熱をさせる場合、これが前記の温度になるような条件の電界に曝露されることが好ましい。
【0047】
当該曝露により、原料ガティガム水溶液に与えられるエネルギー(当該エネルギーは熱以外のエネルギーである。)の量下限は、当該水溶液の単位質量(1kg)あたり、通常0.4kJ、
好ましくは2kJ、
より好ましくは4kJ、
更に好ましくは8kJ、
より更に好ましくは17kJ、及び
特に好ましくは21kJ
になる条件で、実施され得る。
当該曝露は、当該熱エネルギーの上限が、当該水溶液の単位質量(1kg)あたり、例えば、840J、750J、670J、590J、又は500Jになる条件で、実施され得る。 ジュール発熱の現象は、原料ガティガム水溶液に電圧を印加することにより、生じさせることができる。当該電圧の印加は、技術常識により容易に理解される通り、1組以上の電極(当該1組の電極のうちの少なくとも一方は電源に電気的に接続されている。)によって実現できる。当該電源は、例えば、直流電源、又は交流電源であることができる。当該電源は、好適に交流電源であることができる。 原料ガティガム水溶液を内部発熱させることは、それぞれの原理に基づいた、商業的に利用できる装置を使用して、実現できる。
【0048】
原料ガティガム水溶液が、自己の発熱により曝露される温度の下限は、例えば、100℃を超える温度、105℃、110℃、120℃、125℃、130℃、140℃、150℃、160℃、170℃、180℃、190℃、200℃、210℃、220℃、230℃、240℃、250℃、260℃、270℃、又は280℃であることができる。 原料ガティガムが曝露される温度の上限は、例えば、300℃、290℃、280℃、270℃、260℃、250℃、240℃、230℃、220℃、210℃、200℃、190℃、180℃、170℃、160℃、150℃、140℃、130℃、125℃、120℃、115℃、110℃、又は105℃であることができる。
【0049】
当該温度は、より高いほど、より低分子のガティガムが得られ、一方より低いほど、より高分子のガティガムが得られる。 このことに基づき、目的とする低分子ガティガムの分子量に応じて、当該温度を設定すればよい。
【0050】
原料ガティガムが曝露される温度は、
好ましくは100℃を超える温度~300℃の範囲内であり、
より好ましくは、100℃を超える温度~250℃の範囲内であり、
更に好ましくは、110~220℃の範囲内であり、
より更に好ましくは120~220℃の範囲内であり、及び
特に好ましくは、125~200℃の範囲内である。
【0051】
本明細書中、「加圧」とは、通常理解される通り、大気圧を超える圧力に対象物を曝露することを意味する。当該加圧の手段は特に限定されない。 前記した、原料ガティガム水溶液を、連続的又は断続的に反応器に供給すること、及び当該加圧は、例えば、好適には、当該容器内へ、原料ガティガム水溶液を圧入することによって、達成され得る。 本明細書においては、原料ガティガム水溶液が曝露される圧力の下限は、当該温度条件における水の蒸気圧であることができ、具体的に好ましくは、例えば、0.2MPa、0.5MPa、0.7MPa、1MPa、3MPa、5MPa、10MPa、15MPa、又は20MPaであることができる。 原料ガティガム水溶液が曝露される圧力の上限は、例えば、30MPa、27MPa、25MPa、22MPa、20MPa、17MPa、15MPa、又は10MPaであることができる。 原料ガティガム水溶液が曝露される圧力は、
0.2~30MPaの範囲内であり、
好ましくは、0.3~20MPaの範囲内であり、
より好ましくは、0.5~15MPaの範囲内であり、及び
更に好ましくは、0.5~10MPaの範囲内である。
【0052】
当該圧力は、原料ガティガム水溶液の蒸気圧を超える圧力が好ましい。
【0053】
原料ガティガムが曝露される時間の下限は、例えば、0.1秒間、0.5秒間、1秒間、2秒間、3秒間、5秒間、7秒間、10秒間、12秒間、15秒間、又は20秒間であることができる。 原料ガティガムが曝露される時間の上限は、例えば、7200秒間、3600秒間、1800秒間、600秒間、300秒間、60秒間、40秒間、30秒間、20秒間、15秒間、10秒間、又は5秒間であることができる。
【0054】
原料ガティガムが曝露される時間は、
好ましくは、0.1~1800秒間の範囲内であり、
より好ましくは、0.5~600秒間の範囲内であり、
更に好ましくは、0.5~300秒間の範囲内であり、
より更に好ましくは、0.5~100秒間の範囲内であり、
特に好ましくは、1~50秒間の範囲内であり、
より特に好ましくは1~30秒間の範囲内であり、及び
殊更に好ましくは1~10秒間の範囲内である。
【0055】
当該曝露後、当該曝露により得られた低分子化ガティガム水溶液は、好適に、
10~200℃/秒の冷却速度で、
20秒以内に、
100℃以下まで、
冷却されることができる。
当該冷却の到達温度は、
好ましくは95℃以下、
より好ましくは90℃以下、及び
更に好ましくは80℃以下
であることができる。
当該冷却の到達温度の下限は、例えば、0℃であることができる。
当該冷却速度は、
好ましくは0.1~200℃/秒、
より好ましくは1~200℃/秒、及び
更に好ましくは10~200℃/秒
であることができる。
【0056】
原料ガティガム水溶液は、本発明の効果を著しく害さない限りにおいて、媒体としての水、及び原料ガティガム以外の成分を含有してもよい。 このような成分の例は、酸を包含する。
【0057】
当該酸の例は、クエン酸(これは、無水クエン酸を包含する。)、リン酸、フィチン酸、リンゴ酸、酒石酸、塩酸、酢酸、乳酸、及びアスコルビン酸を包含する。 当該酸は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
原料ガティガム水溶液のpHは、例えば、pH7以下、pH6以下、又はpH5以下であることができる。 原料ガティガム水溶液のpHは、例えば、pH1以上、pH1.5以上、pH2以上、又はpH2.5以上であることができる。 酸を使用する場合、同程度の分子量の低分子ガティガムを得るために、酸を使用しない場合と比較して、前記曝露の温度をより低くすること、及び/又は前記曝露の時間を短くすることが、可能である。
【0058】
本発明の製造方法においては、前記曝露の段階の前において、原料ガティガムが、100℃以下の温度の環境に曝露されることにより、予熱されてもよい。 当該予熱には、原料ガティガムを加熱下で水に溶解させることを包含する。
念のために述べるに過ぎないが、当該予熱を前記曝露の条件で行う場合、これは、曝露の工程に含まれる。
【0059】
予熱を行う場合、同程度の分子量の低分子ガティガムを得るために、予熱を行わない場合と比較して、前記曝露の温度をより低くすること、及び/又は前記曝露の時間を短くすることが、可能である。
【0060】
予熱の温度は、
好ましくは、30~100℃の範囲内であり、
より好ましくは、50~100℃の範囲内であり、及び
更に好ましくは、80~100℃の範囲内である
ことができる。
【0061】
予熱の時間は、特に制限されないが、
好ましくは、2秒間~8時間の範囲内であり、
より好ましくは、5秒間~6時間の範囲内であり、及び
更に好ましくは、10秒間~5時間の範囲内である
ことができる。
【0062】
前記低分子化ガティガム水溶液を前記反応器から連続的又は断続的に取り出すことは、前記反応容器の取り出し口を、その開口度合いを連続的又は断続的に調製しながら開口することにより、達成され得る。
【0063】
加熱及び加圧時間は、当該反応容器への通液速度によって、調整可能である。
【0064】
[4]ガティガムの低分子化方法
本発明は、ガティガムの低分子化方法もまた提供する。
当該低分子化方法は、前記した、低分子化ガティガムの製造方法についての説明から理解される。
【0065】
[5]ガティガムの乳化性の向上方法
本発明は、ガティガムの乳化性の向上方法もまた提供する。
本発明の、ガティガムの乳化性の向上方法は、ガティガムを低分子化処理する工程を含む。 当該低分子化処理は、前記した、ガティガムの製造方法における低分子化処理と同様であることができる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。 以下、特に記載の無い場合、「%」は、「質量%」を意味し得る。
以下、ガティガムをGumGと略記する場合がある。
以下、分子量についてのMwは重量平均分子量を表す。
以下、分子量についてのMnは数平均分子量を表す。
【0067】
原料ガティガム液
各試験において、使用する原料ガティガム液として、ガティガムを90℃達温にて水に溶解させ、室温まで冷却した後、これに乳酸(無水)及び水を添加して、ガティガム12質量%水溶液(100メッシュでろ過)を製造した。当該原料ガティガム液、及び当該ガティガムの物性を、表1-1の比較例1に示す。
【0068】
[2]装置
図1に概要を示すジュール熱発生装置(フロンティアエンジニアリング社製)を用いた。当該装置は、直列に連結された2本のジュール発熱誘導管を有する。
図1中、ジュール発熱誘導部内の符号1、及び2はそれぞれ、ジュール発熱誘導管1、及び2を示す。 後記各試験における「対照」は、当該装置によるジュール発熱の誘導を行っていない試料である。ジュール加熱管8A(フロンティアエンジニアリング社製)を使用。
冷却2重管1.5S(6000mm)、チラー水循環5℃9000L/hにて冷却した。
【0069】
[3]試験区
試験区を後記表1に示す。
[4]試験条件及び試験方法
試験条件及び試験方法は、以下の通りである。
【0070】
ブリックスの測定
デジタル糖度(濃度)計(PR-101α、アタゴ社製)
pHの測定(pHメーター D-72 堀場製作所社製)
【0071】
分子量、及び分子量分布の測定方法GPC)
分子量、及び分子量分布の測定方法
分子量、及び分子量分布は、以下の条件のGPC分析で測定した。
検出器: RI
移動相: 100mM K2SO4
流量: 1.0ml/min
温度: 40℃
カラム: TSKgel GMPWXL 30cm (ガードPWXL)
インジェクション: 100μl
プルランスタンダード: Shodex STANDARD P-82
【0072】
粘度:
粘度測定条件
100mlスクリュー瓶 80g
測定温度 20℃
ローター NO.2
回転数 30rpm
B型粘度計
測定時間 1分
【0073】
乳化安定性試験
[乳化性の評価]
調製した乳化組成物について、以下の項目を評価した。
・D50μm、又は粒子径D50:メジアン径
・1.3μm↑又は1.3μ↑ :粒子径が1.3μm以上の粒子径の頻度
・0.1%E(720nm) :試料(乳化組成物)の0.1%水希釈液の720nmにおける濁度
【0074】
上記「D50μm」及び「1.3μm↑」は以下に示す条件で、乳化組成物の粒度分布を測定した。粒度分布測定装置:Microtrac MT3000EX-II(マイクロトラック・ベル社)測定方法 :屈折率1.81、測定範囲0.021~2000μm、体積基準
【0075】
上記「0.1%E(720nm)」は、各試料(乳化組成物)をイオン交換水で0.1%水溶液に希釈し、当該希釈液の720nmの濁度を以下に示す条件で測定した。分光光度計:分光光度計V-660DS、日本分光社製
測定条件 :石英セル、10mm×10mm、吸光度(Abs)
【0076】
[乳化保存安定性の評価]
調製した乳化組成物を30mLガラス瓶に充填し、60℃の恒温槽で保存し、保存3日後の乳化組成物について、以下の項目を評価した。・D50μm、又は粒子径D50:メジアン径、表中の数字の単位はμmである
・1.3μm↑ :粒子径が1.3μm以上の粒子径の頻度
表中の単位は(%)である
・0.1%E(720nm) :試料(乳化組成物)の0.1%水希釈液の
720nmにおける濁度
【0077】
試験処方(数値は質量部を表す。):
(部分1)
中鎖トリグリセリド[MCT(スコレー64G)]:10質量部
(部分2)
ガティガム溶液(Brix12):35質量部
イオン交換水:5質量部
(部分3)
グリセリン:50質量部
調製方法
室温にて部分1を部分2に添加し、及び攪拌混合(300mlビーカーに200g仕込。3枚小ペラ、1700rpm、3min)した。 これに部分3を添加し、及び撹拌混合し(1700rpm、3min)、下記条件で乳化した。(乳化条件) 100メッシュろ過後、ナノマイザー45MPaで3回乳化する
【0078】
前記各試験の結果を表1(表1-1~表1-3)に示す。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0079】
前記表1の条件に従って、原料ガティガム水溶液をジュール熱発生装置に通液し、内部発熱させたところ、重量平均分子量が29000~471000の範囲である低分子ガティガムを製造することができた。 また、本低分子ガティガムを用いて調製された乳化組成物は、処理前の原料ガティを用いて調製された乳化組成物に比べ、いずれも小さい乳化粒子径を示し、及び60℃で3日間保存後の乳化粒子径の変動が少なかった。
【0080】
実施例13~15
表2の条件に従って、原料ガティガム水溶液をジュール熱発生装置に通液し、低分子ガティガムを製造した。得られた低分子ガティガムを用いて、乳化安定性試験、及び乳化保存安定性試験(60℃で、3日間、及び7日間)を実施した。結果を表2に示す。
【表2】
【0081】
用いる酸の種類、温度条件等を変動させた場合においても、実施例1~12と同様に、重量平均分子量123000~219000の範囲の低分子ガティガムを製造できた。 また、得られた低分子ガティガムを用いて製造された乳化組成物は、処理前の原料ガティを用いて調製された乳化組成物に比べ、いずれも小さい乳化粒子径を示し、及び60℃で3日間、及び7日間保存後の乳化粒子径の変動が少なかった。